JP2009293150A - シート状物 - Google Patents

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Abstract

【課題】耐久性を損なうことなく柔軟な風合いを有するシート状物を提供する。
【解決手段】平均単繊維直径0.3〜7μmの極細繊維の繊維束が絡合してなる不織布とその内部空間に存在するポリウレタンを主成分とした弾性樹脂バインダーとから構成され、前記ポリウレタンが分子末端に下記一般式(1)で示される構造を有するシート状物。
Figure 2009293150

(式中Rは、酸素原子と直接結合している炭素原子が2級炭素、または3級炭素であって、総炭素数が3〜15の脂肪族炭化水素基または脂環族炭化水素基である。)
【選択図】なし

Description

本発明は、シート状物に関する。
繊維からなる基材にポリウレタン樹脂を含浸したシート状物の表面をサンドペーパーなどを用いて研削し、繊維を起毛させることによって、スエードやヌバックライクの立毛調皮革様シート状物を得ることは広く知られている。
かかるポリウレタン樹脂としては、使用しているポリオールの種類によってポリエーテル系、ポリエステル系、ポリカーボネート系等の種類が知られている。
例えば特許文献1には、ポリテトラメチレングリコール、有機ジイソシアネート、グリコール鎖伸長剤を用いたポリエーテル系ポリウレタン樹脂が開示されており、これでは、紫外線や熱によって容易に劣化するために、使用の過程で表面繊維のモモケや脱落、または毛玉が生じてしまい長期の使用に耐え得ないという問題があった。
また、ポリエステル系のポリウレタン樹脂も皮革様シート状物によく用いられるポリウレタン樹脂ではあるが、紫外線などによる耐光性は良好であるもののエステル結合が加水分解によって劣化するために、長期の使用において表面繊維のモモケや毛玉が発生するといった同様の問題があった。
また特許文献2には、ポリカーボネート系ポリオールと脂環式ポリイソシアネートと芳香族ポリイソシアネートを反応して得られるポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が開示されている。しかしこのポリウレタンを皮革様シート状物に用いた場合は、シート状物の風合いがプラスチック様で粗硬なものとなる。特に表面をサンドペーパーなどによって繊維を起毛させた場合は、ポリウレタンが硬すぎることによって、表面の立毛が短い粗悪な表面となってしまい、優美な立毛を有する良好な品位を得ることが極めて困難であった。
立毛品位と耐光性や耐加水分解性などの耐久性を両立させることを目的として、特許文献3には、ポリカーボネート系ポリオールと、ポリエーテル系またはポリエステル系ポリオールとを共重合したポリウレタンを皮革様シート状物に用いることが開示されている。当該技術によれば、立毛品位と耐久性を共に満足する立毛調皮革様シート状物であるが、近年のシート状物の用途展開の広がりから、より高いレベルでの立毛品位と耐久性の両立が要求されるようになってきた。
特開昭59−192779号公報 特開平3−244619号公報 特開2002−30579号公報
本発明は、耐久性を損なうことなく柔軟な風合いを有するシート状物を提供することを目的とする。
すなわち本発明は、平均単繊維直径0.3〜7μmの極細繊維の繊維束が絡合してなる不織布とその内部空間に存在するポリウレタンを主成分とした弾性樹脂バインダーとから構成されるシート状物であって、前記ポリウレタンが分子末端に下記一般式(1)で示される構造を有することを特徴とするシート状物である。
Figure 2009293150
ここに、式中Rは、酸素原子と直接結合している炭素原子が2級炭素、または3級炭素であって、総炭素数が3〜15の脂肪族炭化水素基または脂環族炭化水素基である。
本発明によれば、耐久性を損なうことなく柔軟な風合いを有するシート状物を提供することができる。
本発明のシート状物は、極細繊維の繊維束が絡合してなる不織布と、その内部空間に存在するポリウレタンを主成分とした弾性樹脂バインダーとからなる。
極細繊維の素材としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリ乳酸などのポリエステル、6−ナイロン、66−ナイロンなどのポリアミド、アクリルなどの溶融紡糸可能な熱可塑性樹脂を用いることができる。中でも、強度、寸法安定性、耐光性の観点からポリエステルを用いることが好ましい。また、不織布は異なる素材の繊維が混合して構成されていてもよい。
極細繊維の平均単繊維直径としては、0.3〜7μmとすることが重要である。7μm以下、好ましくは6μm以下、より好ましくは5μm以下とすることで、優れた柔軟性や立毛品位のシート状物を得ることができる。一方、0.3μm以上、好ましくは0.7μm以上、より好ましくは1μm以上とすることで、染色後の発色性やサンドペーパーなどによる研削など立毛処理時の束状繊維の分散性、さばけ易さに優れる。
極細繊維の断面形状としては、丸断面でよいが、楕円、扁平、三角などの多角形、扇形、十字型などの異形断面のものを採用してもよい。
本発明のシート状物における不織布は、極細繊維の繊維束が絡合してなることが重要である。極細繊維が束状に絡合していることによって、シートの強度を得ることができる。
かかる態様の不織布は、極細繊維発生型繊維同士をあらかじめ絡合した後に繊維の極細化を行うことによって、得ることができる。
本発明のシート状物を構成する不織布は、短繊維不織布、長繊維不織布のいずれでもよいが、風合いや品位を重視する場合には、短繊維不織布が好ましい。また、不織布の内部には、強度を向上させるなどの目的で、織物や編物を挿入してもよい。
本発明のシート状物は、ポリウレタンを主成分とした弾性樹脂バインダーを含んでなる。
かかるポリウレタンは、ポリマージオールと有機ジイソシアネートと鎖伸長剤との反応により得られるポリウレタンプレポリマーの末端イソシアネート基を、反応停止剤を適用して反応を停止させた構造であることが好ましい。
ポリマージオールとしては、ポリカーボネート系ジオール、ポリエステル系ジオール、ポリエーテル系ジオール、シリコーン系ジオール、フッ素系ジオールを採用することができ、これらを組み合わせた共重合体を用いてもよい。中でも耐加水分解性の観点からは、ポリカーボネート系ジオール、ポリエーテル系ジオールを用いることが好ましく、耐光性、耐熱性の観点からは、ポリカーボネート系ジオール、ポリエステル系ジオールが好ましい。耐加水分解性と耐熱性、耐光性のすべてのバランスの観点からはポリカーボネート系ジオールとポリエステル系ジオールがより好ましく、特に好ましくはポリカーボネート系ジオールである。
ポリカーボネート系ジオールは、アルキレングリコールと炭酸エステルのエステル交換反応、あるいはホスゲンまたはクロル蟻酸エステルとアルキレングリコールとの反応などによって製造することができる。
アルキレングリコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、などの直鎖アルキレングリコールや、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオールなどの分岐アルキレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオールなどの脂環族ジオール、ビスフェノールAなどの芳香族ジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。それぞれ単独のアルキレングリコールから得られるポリカーボネート系ジオールでも2種類以上のアルキレングリコールから得られる共重合ポリカーボネート系ジオールのいずれでも良い。
また、アルキレングリコールのアルキレン部分は分岐構造があると、分岐部分のアルキル基に光や熱劣化で発生するラジカルが生成しやすくなり、ポリウレタンの光・熱劣化の原因となることから、アルキレングリコールのアルキレン部分は直鎖であることがより好ましい。さらに、アルキレングリコールのアルキレン部分は直鎖構造であると、ポリウレタンの結晶性が向上するため、ポリウレタンの柔軟性は硬化する傾向にあることから、直鎖構造であっても非晶性となる1,4−ブタンジオールと1,5−ペンタンジオールからなるポリカーボネート系ジオール、または1,5−ペンタンジオールと1,6−ヘキサンジオールからなるポリカーボネート系ジオールであることが特に好ましい。
ポリエステル系ジオールとしては、各種低分子量ポリオールと多塩基酸とを縮合させて得られるポリエステルジオールを挙げることができる。
低分子量ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,8−オクタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、シクロヘキサン−1,4−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノールから選ばれる一種又は二種以上を使用することができる。また、ビスフェノールAに各種アルキレンオキサイドを付加させた付加物も使用可能である。
また、多塩基酸としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、アジピン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸から選ばれる一種又は二種以上が挙げられる。
ポリマージオールの数平均分子量としては、500〜3000が好ましい。数平均分子量を500以上、より好ましくは1500以上とすることで、風合いが硬くなるのを防ぎ、3000以下、より好ましくは2500以下とすることで、ポリウレタンとしての強度を維持することができる。
有機ジイソシアネートは、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の脂肪族系、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート等の芳香族系が挙げられ、またこれらを組み合わせて用いてもよい。中でも、ポリウレタンの引張強力等の物理特性が良好となることから、ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族系が好ましい。
鎖伸長剤としては、エチレンジアミン、メチレンビスアニリン等のアミン系、エチレングリコール等のジオール系を用いることができる。また、ポリイソシアネートと水を反応させて得られるポリアミンを鎖伸長剤として用いてもよい。
反応停止剤としては、下述するRに水酸基を直結させたものを用いる。かかる水酸基は、ポリウレタンプレポリマーの少なくとも片末端と反応して反応を停止するものである。
すなわち、本発明のシート状物において弾性樹脂バインダーの主成分として用いるポリウレタンは、分子末端に下記一般式(1)で示される構造を有することが重要である。
Figure 2009293150
ここに、式中Rは酸素原子と直接結合している炭素原子が2級炭素、または3級炭素であって、総炭素数が3〜15の脂肪族炭化水素基、または脂環族炭化水素基である。
かかる分子末端構造を有することで、高耐久を損なうことなく柔軟な風合いを有するシート状物を得ることができる。その理由としては、次のようなことが考えられる。すなわち、Rが、酸素原子と直接結合している炭素原子から分岐構造を有することで、Rの嵩高性が上がり、さらにRの総炭素数が3以上であることにより、嵩高性は大幅に向上する。ポリウレタン分子末端の嵩高性が向上すると、ポリウレタンの結晶化を抑制するため、ポリマージオールの本質的な特徴を損なうことなく、ポリウレタンの柔軟化効果が得られる。
Rが、酸素原子と直接結合している炭素原子から分岐せずに直鎖構造であると、嵩高性は低く、ポリウレタンの結晶性を阻害することはできない。また、Rの総炭素数が2以下であると、炭素結合による分岐構造を有さないこととなり、嵩高性は低い。嵩高性の点から、Rの総炭素数は3以上とすることが重要であり、好ましくは5以上である。
一方、Rの総炭素数を16以下、好ましくは13以下とすることで、R部分の剛直性がポリウレタンの柔軟性を却って阻害するのを防ぐことができる。
さらに、Rは脂肪族炭化水素基または脂環族炭化水素基である。Rが芳香族炭化水素基であると、Rの剛直性が強く、ポリウレタンの柔軟性を却って阻害する。適度な嵩高性と剛直に過ぎないこととのバランスからは、脂肪族炭Rは脂環族炭化水素基であることがより好ましい。
上述のRに水酸基を直結させた反応停止剤の具体的な化合物としては例えば、
酸素原子と直接結合している炭素原子が2級炭素であるものとしては、2−プロパノール、2−ブタノール、2−プロパノール、3−プロパノール等の脂肪族炭化水素系アルコールや、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノール等の脂環式アルコールが挙げられる。
また、酸素原子と直接結合している炭素原子が3級炭素である化合物としては、t−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール等の脂肪族炭化水素系アルコールや、ヒドロキシアダマンタン等の脂環式アルコールが挙げられる。
中でも、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノールは、十分な嵩高性によるポリウレタンの柔軟化の点からも、さらに当該化合物自体が光安定剤の効果を有することによりポリウレタンの耐光性が飛躍的に向上する点からも、特に好ましい。
ポリウレタンの重量平均分子量としては、10万以上30万以下が好ましい。重量平均分子量を10万以上、より好ましくは15万以上とすることにより、シート状物の耐摩耗性が良好となる。また、30万以下、より好ましくは25万以下とすることで、ポリウレタン溶液の粘度の増大を抑えて不織布への含浸を行いやすくすることができる。
ポリウレタンは、ゲル化点が2.5ml以上6ml以下であることが好ましい。ゲル化点は、ポリウレタンDMF溶液を用いてポリウレタンを湿式凝固させる際の水分許容度を示すものであり、一般的にはゲル化点が低いものは凝固速度が速く、ゲル化点が高いものは凝固速度が遅い傾向にある。ゲル化点を6ml以下、より好ましくは5ml以下とすることで、不織布内に含浸した際、適度な発泡を生じさせることができる。発泡が生じないと、ポリウレタンは硬いものとなり、柔軟性が損なわれ、また、サンドペーパー等によるポリウレタンの研削を行いにくく表面の立毛が短い品位の粗悪なものとなる傾向にある。一方、ゲル化点を2.5ml以上、より好ましくは3ml以上とすることで、ポリウレタン樹脂を湿式凝固させる際に凝固速度が速すぎてポリウレタンの発泡が大きな粗雑なものとなるのを防ぐことができる。粗雑な発泡は、サンドペーパーによりシート状物の表面を研削した場合に表面の立毛の長さに斑が生じた非常に立毛品位の粗悪なものとなる傾向にあり、またポリウレタン膜が薄いものとなるため、繊維間を固定するバインダーとしての効果が小さく、表面立毛をブラシなどによって擦過した場合、繊維の脱落が多い傾向にある。
ゲル化点は、主にポリマージオールの種類で調整が可能である。例えば、ポリマージオール中のカーボネート結合やエステル結合は親水性であるため、これらの結合の含有量を少なくすればゲル化点は低下し、含有量を多くすれば上昇する。ポリマージオール中のカーボネート結合やエステル結合の含有量はアルキレンジオールのアルキレン部分の炭素数で制御でき、長鎖であればカーボネート結合やエステル結合の含有量は少なくなり、短鎖であればカーボネート結合やエステル結合の含有量は多くなる。また、ポリウレタンの合成に用いる有機ジイソシアネート、鎖伸長剤の種類や量によっても調整が可能である。
弾性樹脂バインダーには、ポリウレタンの他に、バインダーとしての性能や風合いを損なわない範囲でポリエステル系、ポリアミド系、ポリオレフィン系などのエラストマー樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂などが含まれていてもよい。また、各種の添加剤、例えばカーボンブラックなどの顔料、リン系、ハロゲン系、シリコーン系、無機系などの難燃剤、フェノール系、イオウ系、リン系などの酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系、シアノアクリレート系、オキザリックアシッドアニリド系などの紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系、ベンゾエート系などの光安定剤、ポリカルボジイミドなどの耐加水分解安定剤、可塑剤、帯電防止剤、界面活性剤、柔軟剤、撥水剤、凝固調整剤、染料などを含有していてもよい。
シート状物に対する弾性樹脂バインダーの比率としては、10〜50質量%が好ましい。10質量%以上、より好ましくは15質量%以上とすることで、シート強度を得て、かつ繊維の脱落を防ぐことができる。また50質量%以下、より好ましくは40質量%以下とすることで、風合いが硬くなるのを防ぎ、目的とする良好な立毛品位を得ることが出来る。
本発明のシート状物において弾性樹脂バインダーは、極細繊維の繊維束が絡合してなる不織布の内部空間に存在するものであるが、極細繊維の繊維束内部には実質的に存在しないことが好ましい。そうすることで、繊維束内部の空隙によってシート状物の良好な風合いを得ることができる。また、サンドペーパーなどによる研削により、所望の立毛長による良好な品位を得ることができる。かかる態様は、後述する製造方法の例における(A)や(B)により達成することができる。
また、弾性樹脂バインダーは、極細繊維の繊維束の最外周に位置する単繊維と部分的に接合していることが、繊維の脱落、モモケが少なく、かつ良好な風合いが得られるためより好ましい。この形態は、後述する(B)の方法によって得ることができる。すなわち、ポリビニルアルコールが極細繊維束の外周の大半を保護しているため、繊維束内部へのポリウレタンの侵入を防ぎ、部分的にポリビニルアルコールの保護がない繊維束の外周部にはポリウレタンが接着することになる。
本発明のシート状物は、最終的にはその少なくとも片面に極細繊維の立毛を有する立毛調シート状物としてもよい。
また、本発明のシート状物は染色されたものであってもよい。
次に本発明のシート状物の製造方法の例を示す。
極細繊維の繊維束が絡合してなる不織布を得る手段としては、極細繊維発生型繊維を用いることが好ましい。極細繊維発生型繊維としては、溶剤溶解性の異なる2成分の熱可塑性樹脂を海成分・島成分とし、海成分を溶剤などを用いて溶解除去することによって島成分を極細繊維とする海島型繊維や、2成分の熱可塑性樹脂を繊維断面に放射状または多層状に交互に配置し、各成分を剥離分割することによって極細繊維に割繊する剥離型複合繊維などを採用することができる。なかでも、海島型繊維は、海成分を除去することによって島成分間、すなわち繊維束の内部の極細繊維間に適度な空隙を付与することができるので、シート状物の柔軟性や風合いの観点からも好ましい。
海島型繊維には、海島型複合用口金を用い海・島の2成分を相互配列して紡糸する海島型複合繊維や、海・島の2成分を混合して紡糸する混合紡糸繊維などがあるが、均一な繊度の極細繊維が得られる点、また十分な長さの極細繊維が得られシート状物の強度にも資する点から、海島型複合繊維がより好ましい。
海島型繊維の海成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナトリウムスルホイソフタル酸やポリエチレングリコールなどを共重合した共重合ポリエステル、ポリ乳酸などを用いることができる。
海成分を溶解する溶剤としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンの場合にはトルエンやトリクロロエチレンなどの有機溶剤、共重合ポリエステル、ポリ乳酸の場合には水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液を用いることができる。また脱海処理は、溶剤中に海島型複合繊維を浸漬し、窄液することによって行うことができる。
繊維を絡合させ不織布を得る方法としては、ニードルパンチやウォータージェットパンチを採用することができる。
ポリウレタンを主成分とした弾性樹脂バインダーは、ポリウレタンをジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの溶剤により溶液として不織布に含浸させることができる。
前述のような、不織布の内部空間には存在するが極細繊維の繊維束内部には実質的に存在しない形態を得る方法としては、次の(A)または(B)のような方法を採用することができる。
(A)極細繊維発生型の海島型繊維が絡合した不織布に、ポリウレタンの溶液を含浸し、水もしくは有機溶媒水溶液中で凝固させた後、海島型複合繊維の海成分を、ポリウレタンは溶解しない溶剤で溶解除去する方法。
(B)極細繊維発生型の海島型繊維が絡合した不織布に、鹸化度が好ましくは80%以上のポリビニルアルコールを付与して繊維の周囲の大部分を保護した後に、海島型繊維の海成分を、ポリビニルアルコールは溶解しない溶剤で溶解除去し、次いでポリウレタンの溶液を含浸し、水もしくは有機溶媒水溶液中で凝固させた後、ポリビニルアルコールを除去する方法。
シート表面に立毛を形成するための起毛処理は、サンドペーパーやロールサンダーなどを用いて研削する方法などにより施すことができる。起毛処理の前にシリコーンエマルジョンなどの滑剤を付与してもよい。
また、起毛処理の前に帯電防止剤を付与することは、研削によってシート状物から発生した研削粉がサンドペーパー上に堆積しにくくするうえで好ましい。
また、シート状物は、起毛処理を行う前に、シート厚み方向に半裁ないしは数枚に分割して得てもよい。
[評価方法]
(1)ゲル化点
ポリウレタン1質量%、水分0.03質量%以下のN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)溶液100gを攪拌しながら、この溶液中に蒸留水を滴下し、25±1℃の温度条件でポリウレタンの凝固が開始しはじめて微白濁した時の水滴下量の値をゲル化点とした。
また、この測定方法は、ポリウレタンDMF溶液が透明であることを前提としているが、ポリウレタンDMF溶液があらかじめ微白濁している場合は、ポリウレタンの凝固が開始し始めて白濁程度が変化した時の水滴下量をゲル化点とした。
(2)平均単繊維直径
不織布、またはシート状物表面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて倍率2000倍で撮影し、円形または円形に近い楕円形の繊維をランダムに100本選び、繊維直径を測定して平均値を計算することで算出した。
(3)柔軟性
JIS L 1096:1999 8.19.1 A法(45°カンチレバー法)に則り測定した。タテ方向及びヨコ方向のそれぞれについて、幅2cm×長さ約15cmの試験片を5枚ずつ採取し、カンチレバー形試験機の上に試験片の短辺をスケール基線に合わせて置いた。次に、試験片をカンチレバー形試験機の斜面の方向に緩やかに滑らせて、試験片の一端の中央点が前記斜面と接したときの他端の位置をスケールによって読んだ。試験片が移動した長さ(mm)を、試験片の表裏について測り、タテ方向及びヨコ方向のそれぞれについて平均値を算出した。
(4)外観品位
得られたシート状物の表面品位は目視による官能評価にて下記のように評価した。
◎:立毛長・繊維の分散状態共に非常に良好である。
○:立毛長・繊維の分散状態共に良好である。
×:立毛がほとんど認められない。
(5)耐加水分解性
得られたシート状物に対し、ダバイ・エスペック社製恒温恒湿槽を用いて、温度70℃、相対湿度95%の雰囲気中に10週間放置する強制劣化処理を施した後、マーチンデール摩耗試験機としてJames H.Heal&Co.製のModel 406を、標準摩耗布として同社製のABRASTIVE CLOTH SM25を用い、12kPa相当の荷重をかけ、摩耗回数20,000回の条件で摩擦させた後の試料の外観を目視にて観察し、評価した。評価基準は、試料の外観が摩擦前と全く変化が無かったものを5級、毛玉が多数発生したものを1級とし、その間を0.5級ずつに区切った。
(6)耐光性
シート状物に対し、150W/mキセノンランプ使用のスガ試験機器社製のキセノンウェザーメーターを用いて、波長300〜400nmの光を144時間光照射する強制劣化処理を施した後、マーチンデール摩耗試験機としてJames H.Heal&Co.製のModel 406を、標準摩耗布として同社製のABRASTIVE CLOTH SM25を用い、12kPa相当の荷重をかけ、摩耗回数20,000回の条件で摩擦させた後の試料の外観を目視にて観察し、評価した。評価基準は、試料の外観が摩擦前と全く変化が無かったものを5級、毛玉が多数発生したものを1級とし、その間を0.5級ずつに区切った。
[化学物質の表記]
C5C6PC:1,5−ペンタンジオールと1,6−ヘキサンジオールから誘導される数平均分子量2000の共重合ポリカーボネートジオール
PMPC :3−メチルペンタンから誘導される数平均分子量2000のポリカーボネートジオール
PNA :数平均分子量2000のポリネオペンチルアジペート
MDI :4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート
MBA :メチレンビスアニリン
EG :エチレングリコール
PMP :1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノール
DMF :N,N−ジメチルホルムアミド 。
[実施例1〜4,比較例1]
(ポリウレタン溶液)
各実施例・比較例において、それぞれ表1に示すポリマージオールとジイソシアネートとをポリマージオール:ジイソシアネートのモル比率が1:3となるようにDMFを溶媒として冷却管付き四つ口セパラブルコルベンに仕込み、窒素雰囲気下で40〜60℃にて攪拌反応させ、さらに表1に示す鎖伸長剤を、DMFにて希釈した状態で50〜60℃にて滴下反応させた後、DMFで徐々に希釈し、約10時間後に固形分25質量%のポリウレタン溶液を得た。さらにDMFにて、固形分濃度12質量%に希釈し、ポリウレタン溶液とした。
(不織布)
海成分としてポリスチレン、島成分としてポリエチレンテレフタレートを用い、島数16島、孔数156の海島型複合用口金を用いて、海成分55質量%、島成分45質量%の複合比率にて海島型複合繊維を紡糸し、延伸、捲縮加工、カットして不織布の原綿を得た。
得られた原綿を、クロスラッパーを用いてウエブとし、ニードルパンチ処理により不織布とした。
この海島型複合繊維からなる不織布を、鹸化度87%のポリビニルアルコール10%水溶液に含浸した後、乾燥した。ポリビニルアルコールの不織布に対する付量は40質量%であった。その後、トリクロロエチレン中で海成分であるポリスチレンを抽出除去し、乾燥を行って、平均単繊維直径3μmの極細繊維からなる繊維束が絡合した不織布を得た。
(シート状物)
上記の極細繊維からなる不織布を、固形分濃度12質量%の上記ポリウレタン溶液に浸漬し、絞りロールにてポリウレタン溶液の付着量を調節した後、30℃のDMF濃度30%の水溶液中でポリウレタンを凝固せしめた。その後、90℃の熱水に浸漬してポリビニルアルコール及びDMFを除去し、乾燥後、ポリウレタン含有量が40重量%のシート状物を得た。
(立毛調シート状物)
得られたシート状物の片面を150メッシュ、次いで240メッシュのエンドレスサンドペーパーを用いた研削によって起毛処理を行い、分散染料にて染色を施して立毛調シート状物を得た。
得られたシート状物の内部の厚み方向断面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察したところ、実施例1〜4、比較例1のいずれのシート状物においてもポリウレタンは極細繊維束の内部には実質的に存在しておらず、極細繊維束の最外周に位置する単繊維と部分的に接合していることが確認できた。
実施例1〜4で得られた立毛調シート状物は柔軟で外観品位に優れ、耐加水分解性、耐光性ともに良好であった。
一方、比較例1で得られた立毛調シート状物は耐加水分解性、耐光性は良好であったが、外観品位は立毛長がほとんどなく、柔軟性は硬いものであった。
評価結果を表2に示す。
Figure 2009293150
Figure 2009293150
本発明のシート状物、特に、シートの少なくとも片面に極細繊維を起毛させて得られる立毛調シート状物は、家具、椅子、壁装や、自動車、電車、航空機などの車輛室内における座席、天井、内装などの表皮材として非常に優美な外観を有する内装材として好適に用いることができる。

Claims (4)

  1. 平均単繊維直径0.3〜7μmの極細繊維の繊維束が絡合してなる不織布とその内部空間に存在するポリウレタンを主成分とした弾性樹脂バインダーとから構成されるシート状物であって、前記ポリウレタンが分子末端に下記一般式(1)で示される構造を有することを特徴とするシート状物。
    Figure 2009293150
    (式中Rは、酸素原子と直接結合している炭素原子が2級炭素、または3級炭素であって、総炭素数が3〜15の脂肪族炭化水素基または脂環族炭化水素基である。)
  2. 前記ポリウレタンを構成するポリオールがポリカーボネート系または/およびポリエステル系である、請求項1に記載のシート状物。
  3. 前記ポリオールがポリカーボネート系ポリオールであって、その分子構造のアルキル部分が直鎖構造である、請求項2に記載のシート状物。
  4. 前記一般式(1)中のRが脂環族炭化水素である、請求項1〜3のいずれかに記載のシート状物。
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