JP2009293130A - ペロブスカイト型酸化物、強誘電体膜、強誘電体素子、及び液体吐出装置 - Google Patents

ペロブスカイト型酸化物、強誘電体膜、強誘電体素子、及び液体吐出装置 Download PDF

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Abstract

【課題】PZT系のペロブスカイト型酸化物において、Aサイトに1モル%超の置換イオン及びBサイトに10モル%以上の置換イオンを添加され、且つAサイト欠陥が少ないものとする。
【解決手段】本発明のペロブスカイト型酸化物は、下記式(P)で表されることを特徴とするものである。
(Pb1−x+δ)(ZrTi1−y1−z・・・(P)
(式中、Pb及びAはAサイト元素であり、AはPb以外の少なくとも1種の元素である。Zr,Ti及びMはBサイト元素であり、MはNb,Ta,V,Sb,Mo及びWからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素である。0.01<x≦0.4、0<y≦0.7、0.1≦z≦0.4。δ=0及びw=3が標準であるが、これらの値はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準値からずれてもよい。)
【選択図】なし

Description

本発明は、PZT系のペロブスカイト型酸化物、これを含む強誘電体膜、この強誘電体膜を用いた強誘電体素子及び液体吐出装置に関するものである。
電界印加強度の増減に伴って伸縮する圧電性を有する圧電体と、圧電体に対して電界を印加する電極とを備えた圧電素子が、インクジェット式記録ヘッドに搭載される圧電アクチュエータ等の用途に使用されている。インクジェット式記録ヘッドにおいて、高精細且つ高速な印刷を実現するためには圧電素子の高密度化が必要である。そのため、圧電素子の薄型化が検討されており、それに使用される圧電体の形態としては、加工精度の関係から、薄膜が好ましい。
また、高精細な印刷には、更にインクとして高粘度なインクを使用する必要がある。高粘度のインクを吐出可能とするためには、圧電素子にはより高い圧電性能が要求される。従って、膜厚の薄い圧電体膜を備え、且つ圧電性の良好な圧電素子が求められている。
圧電材料としては、ジルコンチタン酸鉛(PZT)等のペロブスカイト型酸化物が広く用いられている。かかる圧電材料は電界無印加時において自発分極性を有する強誘電体である。
従来、PZT等の圧電体は、バルクの貼り付けやスクリーン印刷法によって作成されていた。しかしながら、バルクの貼り付けでは圧電体の厚みを20μm以下にすることが難しく、またスクリーン印刷法では、10μm程度までは薄膜化が可能であるが、充分な圧電性能を得るには1000℃以上のアニールが必要である。圧電素子において、基板としては加工性の良好なSi基板が好ましいが、Si基板は800℃以上の加熱によりPZT中のPbと反応してしまうため、800℃以上の焼成が必要な製法ではSi基板を用いることができない。
一方、PZT系の圧電体において、被置換イオンの価数よりも高い価数を有する各種ドナイオンを添加したPZTでは、真性PZTよりも強誘電性能等の特性が向上することが1960年代より知られている。AサイトのPb2+を置換するドナイオンとして、Bi3+,及びLa3+等の各種ランタノイドのカチオンが知られている。BサイトのZr4+及び/又はTi4+を置換するドナイオンとして、V5+,Nb5+,Ta5+,Sb5+,Mo6+,及びW6+等が知られている。
強誘電体は古くは、所望組成の構成元素を含む複数種の酸化物粉末を混合し、得られた混合粉末を成型及び焼成する、あるいは所望組成の構成元素を含む複数種の酸化物粉末を有機バインダに分散させたものを基板に塗布し焼成するなどの方法により製造されていた。かかる方法では、強誘電体は600℃以上、通常1000℃以上の焼成工程を経て、製造されていた。かかる方法では、高温の熱平衡状態で製造を行うため、本来価数が合わない添加物を高濃度ドープすることはできなかった。
非特許文献1には、PZTバルクセラミックスに対する各種ドナイオンの添加についての研究が記載されている。図14に、非特許文献1のFig.14を示す。この図は、ドナイオンの添加量と誘電率との関係を示す図である。この図には、1.0モル%程度(図では0.5wt%程度に相当)で最も特性が良くなり、それ以上添加すると特性が低下することが示されている。これは、価数が合わないが故に固溶しないドナイオンが粒界等に偏析して、特性を低下させるためであると考えられる。
特許文献1には、非特許文献1よりも高濃度のドナイオンをドープした強誘電体が開示されている。特許文献1に開示された強誘電体膜は、Aサイトに0モル%超100モル%未満のBiをドープし、Bサイトに5モル%以上40モル%以下のNb又はTaをドープしたPZT系の強誘電体膜である(特許文献1の請求項1)。この強誘電体膜はゾルゲル法によって成膜されている。ゾルゲル法は熱平衡プロセスであるので、ドナイオンの高濃度ドープにはより焼成温度を高くする必要がある。特許文献1では、結晶化温度を上げずに焼結を促進するために、焼結助剤としてSiを添加することが必須となっている(段落[0108]等参照)。
特開2006−96647号公報
S.Takahashi, Ferroelectrics(1981) Vol.41 p.143
特許文献1に記載の強誘電体では、結晶化温度を上げずに焼結を促進して熱平衡状態を得るために、焼結助剤としてSi,Geを添加することが必須となっている。特許文献1では、実施例において焼結助剤を添加した系であっても、800℃以上ではないものの650−700℃程度の加熱を必要としており、そのため基板としてはPt基板を使用している。従って、Si基板を用いる場合には、焼結助剤を添加する必要があると考えられる。かかる焼結助剤を添加すると強誘電特性が低下するため、ドナイオン添加の効果を充分に引き出すことができない。
また、PZT系の強誘電体膜においては、PZTのPbが昇華しやすいために膜表面においてPb欠損を生じやすい。Aサイトに欠損を生じると強誘電体性能が低下する傾向にあるため、Aサイト欠損は少ない方が好ましいとされている。特許文献1ではゾルゲル法による強誘電体膜の成膜が記載されている。ゾルゲル法では、このPb欠損が起こりやすいことが知られている。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、Aサイトに1モル%超の置換イオン及びBサイトに10モル%以上の置換イオンが添加されており、Aサイト欠陥が少ない圧電性能等の強誘電性能に優れたPZT系のペロブスカイト型酸化物を提供することを目的とするものである。
本発明はまた、Aサイトに1モル%超の置換イオンが添加され且つBサイトに10モル%以上の置換イオンが添加された、圧電性能等の強誘電性能に優れたPZT系のペロブスカイト型酸化物を含み、Si基板上に焼結助剤を用いることなく成膜可能なPZT系の強誘電体膜を提供することを目的とするものである。
本発明のペロブスカイト型酸化物は、下記式(P)で表されることを特徴とするものである。
(Pb1−x+δ)(ZrTi1−y1−z・・・(P)
(式中、Pb及びAはAサイト元素であり、AはPb以外の少なくとも1種の元素である。Zr,Ti及びMはBサイト元素であり、MはNb,Ta,V,Sb,Mo及びWからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素である。
0.01<x≦0.4
0<y≦0.7
0.1≦z≦0.4
δ=0及びw=3が標準であるが、これらの値はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準値からずれてもよい。)
本発明のペロブスカイト型酸化物において、前記式(P)中のxが、0.01<x<zの範囲内にあることが好ましい。
また、前記式(P)中のAサイト元素Aのイオン半径は1.0Åより大きいことが好ましい。
本明細書において、「イオン半径」は、いわゆるShannonのイオン半径を意味している(R. D. Shannon, Acta Crystallogr A32,751 (1976)を参照)。「平均イオン半径」は、格子サイト中のイオンのモル分率をC、イオン半径をRとしたときに、ΣCiRiで表される量である。
本発明のペロブスカイト型酸化物としては、Aサイト元素Aが、イオン価数が2価又は3価の元素が挙げられる。このペロブスカイト型酸化物において、Aサイト元素Aは、Ca,Sr,Ba,Eu,Bi,Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb及びLuからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素であることが好ましく、Biであることがより好ましい。
また、本発明のペロブスカイト型酸化物としては、Bサイト元素MはNbであることが好ましい。
本発明では、0<δ≦0.2であるAサイト元素がリッチな組成のペロブスカイト型酸化物を提供することができる。
本発明では、Si,Geを実質的に含まないペロブスカイト型酸化物を提供することができる。「Si,Geを実質的に含まない」とは、ペロブスカイト型酸化物の表面(例えば、ペロブスカイト型酸化物膜である場合は膜表面)からの蛍光X線測定により検出される各元素の濃度が、Siの場合は0.1wt%未満,Geの場合は0.01%未満であることと定義する。
本発明の強誘電体膜は、上記の本発明のペロブスカイト型酸化物を含むことを特徴とするものである。
本発明では、3.0μm以上の膜厚を有する強誘電体膜を提供することができる。
本発明の強誘電体膜は、非熱平衡プロセスにより成膜することができる。本発明の強誘電体膜の好適な成膜方法としては、スパッタ法が挙げられる。
本発明では、多数の柱状結晶からなる膜構造を有する強誘電体膜を提供することができる。この場合、強誘電体膜の前記柱状結晶の結晶成長方向に対して下方の表面に下部電極を形成し、該下部電極と反対側の表面に上部電極を形成して前記強誘電体膜に電圧を印加することにより測定される前記強誘電体膜の圧電定数が、下記式を充足することが好ましい。
d31(+)/d31(−)>0.5
(式中、d31(+)は前記上部電極に正電圧を印加した時に得られる前記圧電体膜の圧電定数、d31(−)は前記上部電極に負電圧を印加した時に得られる前記圧電体膜の圧電定数である。)
本発明の強誘電体素子は、上記の本発明の強誘電体膜と、該強誘電体膜に対して電界を印加する電極とを備えたことを特徴とするものである。
本発明の液体吐出装置は、上記の本発明の強誘電体素子からなる圧電素子と、該圧電素子に一体的にまたは別体として設けられた液体吐出部材とを備え、該液体吐出部材は、液体が貯留される液体貯留室と、該液体貯留室から外部に前記液体が吐出される液体吐出口とを有するものであることを特徴とするものである。
本発明は、PZT系のペロブスカイト型酸化物において、焼結助剤を添加することなく、Aサイトに1モル%超の置換イオンが添加され且つBサイトに10モル%以上の置換イオンを添加することを実現したものである。本発明のペロブスカイト型酸化物は、Aサイトに1モル%超40モル%以下、Bサイトに10モル%以上40モル%以下の高濃度のドナイオンが添加されたものであるので、強誘電性能(圧電性能)に優れている。本発明のペロブスカイト型酸化物では、焼結助剤を添加することなく、Aサイト及びBサイトにかかる高濃度のドナイオンを添加できるので、焼結助剤による強誘電性能の低下が抑制され、ドナイオンの添加による強誘電性能の向上が最大限引き出される。
また、本発明において、Aサイトの置換イオンは、強誘電性能を向上させるだけではなく、PZTの焼結時等に生じやすいPb欠損を補完してAサイト欠損を低減させることができる。従って、本発明によれば、Aサイト欠損による強誘電体性能の低下を抑制することができる。
また、上記本発明のペロブスカイト型酸化物を含む強誘電体膜は、例えば非熱平衡プロセスにより成膜可能であるので、SiとPbとが反応する温度より低い温度での成膜が可能である。従って、本発明によれば、Aサイトに1モル%超の置換イオンが添加され且つBサイトに10モル%以上の置換イオンが添加された、強誘電性能に優れたPZT系のペロブスカイト型酸化物を含む強誘電体膜を、Si基板上に焼結助剤を用いることなく成膜することができる。
スパッタリング装置の概略断面図 成膜中の様子を模式的に示す図 プラズマ電位Vs及びフローティング電位Vfの測定方法を示す説明図 シールドを備えたスパッタリング装置の概略断面図 図3中のシールド及びその近傍の拡大図 第2実施形態の製造方法における基板―ターゲット間距離と成膜速度との関係を示す図 非平衡プロセスにてPZT系強誘電体膜を成膜した時の、成膜温度Ts及びVs−Vfと、得られる膜特性との関係を示した図 非平衡プロセスにてPZT系強誘電体膜を成膜した時の、成膜温度Ts及び基板−ターゲット間距離Dと、得られる膜特性との関係を示した図 非平衡プロセスにてPZT系強誘電体膜を成膜した時の、成膜温度Ts及びVsと、得られる膜特性との関係を示した図 本発明に係る実施形態の圧電素子(強誘電体素子)及びインクジェット式記録ヘッド(液体吐出装置)の構造を示す断面図 図9のインクジェット式記録ヘッドを備えたインクジェット式記録装置の構成例を示す図 図10のインクジェット式記録装置の部分上面図 実施例1のBi,Nb−PZT膜及び比較例1のNb−PZT膜のPEヒステリシス曲線 図12のBi,Nb−PZT膜及びNb−PZT膜に電圧を印加した時の印加電圧と変位を示す図 非特許文献1のFig.14
「ペロブスカイト型酸化物、強誘電体膜」
本発明者は、スパッタ法等の非熱平衡プロセスにより成膜を行うことにより、焼結助剤を添加することなく、ジルコンチタン酸鉛(PZT)のAサイトに1モル%超、且つBサイトに10モル%以上の置換イオンを添加できることを見出した。本発明者は具体的には、PZTのAサイトに1モル%超40モル%以下、Bサイトに10モル%以上40モル%以下の置換イオンを添加できることを見出した。
すなわち、本発明のペロブスカイト型酸化物は、下記式(P)で表されることを特徴とするものである。
(Pb1−x+δ)(ZrTi1−y1−z・・・(P)
(式中、Pb及びAはAサイト元素であり、AはPb以外の少なくとも1種の元素である。Zr,Ti及びMはBサイト元素であり、MはNb,Ta,V,Sb,Mo及びWからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素である。
0.01<x≦0.4
0<y≦0.7
0.1≦z≦0.4
δ=0及びw=3が標準であるが、これらの値はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準値からずれてもよい。)
本発明の強誘電体膜は、上記の本発明のペロブスカイト型酸化物を含むことを特徴とするものである。
本発明では、上記の本発明のペロブスカイト型酸化物を主成分とする強誘電体膜を提供することができる。本明細書において、「主成分」は80質量%以上の成分と定義する。
特許文献1では、焼結助剤としてSi,Geを添加することが必須であるが、本発明ではSi,Geを実質的に含まないペロブスカイト型酸化物を提供することができる。焼結助剤としてはSnも知られているが、本発明ではSnを実質的に含まないペロブスカイト型酸化物を提供することもできる。
焼結助剤を用いる他、各サイトの被置換イオンよりもイオン価数の大きいドナイオンを置換イオンとして高濃度添加する場合は、アクセプタイオンであるSc又はIn等を共ドープしているものもあるが、本発明ではかかるアクセプタイオンを実質的に含まないペロブスカイト型酸化物を提供することができる。
焼結助剤やアクセプタイオンによって強誘電性能が低下することが知られている。本発明では焼結助剤やアクセプタイオンを必須としないので、焼結助剤やアクセプタイオンによる強誘電性能の低下が抑制され、ドナイオンの添加による強誘電性能の向上が最大限引き出される。なお、本発明では、焼結助剤やアクセプタイオンを必須としないが、特性に支障のない限り、これらを添加することは差し支えない。
本発明のペロブスカイト型酸化物は、Aサイトに1モル%超40モル%以下の置換イオンが添加されたものであるので、真性PZTあるいはPZTのBサイトに置換イオンが添加されたものに比較して、Pb量が少なく、環境に対する負荷が少なく、好ましい。
本発明者は、PZTのBサイトにのみドナイオンを添加したPZT膜では、バイポーラ分極-電界曲線(PE曲線)が正電界側に偏った非対称ヒステリシスを示すのに対して、Aサイトにも置換イオンを添加した本発明のペロブスカイト型酸化物を含む強誘電体膜では、置換イオンによりPb欠損が補完され、PE曲線のヒステリシスの非対称性が緩和されて、対称ヒステリシスに近くなることを見出している。PEヒステリシスが非対称であることは、負電界側の抗電界Ec1の絶対値と正電界側の抗電界Ec2とが異なること(|Ec1|≠Ec2)により定義される。
通常、強誘電体膜は、下部電極と強誘電体膜と上部電極とが順次積み重ねられた強誘電体素子の形態で使用され、下部電極と上部電極とのうち、一方の電極を印加電圧が0Vに固定されるグランド電極とし、他方の電極を印加電圧が変動されるアドレス電極として、駆動される。駆動しやすいことから、通常は下部電極をグランド電極とし、上部電極をアドレス電極として、駆動が行われる。「強誘電体膜に負電界が印加されている状態」とは、アドレス電極に負電圧を印加した状態を意味する。同様に、「強誘電体膜に正電界が印加されている状態」とは、アドレス電極に正電圧を印加した状態を意味する。
正電界側に偏った非対称PEヒステリシスを有する強誘電体膜では、正電界を印加した場合は抗電界Ec1が大きいため分極されにくく、負電界を印加した場合は抗電界Ec2の絶対値が小さいため分極されやすい。
負電界を印加するには、上部電極の駆動ドライバICを負電圧用にする必要があるが、負電圧用は汎用されておらず、ICの開発コストがかかってしまう。下部電極をパターニングしてアドレス電極とし上部電極をグランド電極とすれば、汎用の正電圧用の駆動ドライバICを用いることができるが、製造プロセスが複雑になり、好ましくない。
また、かかる強誘電体膜に逆分極処理を施すことにより、正電界印加により強誘電性を出やすくすることができるが、逆分極処理を施すと強誘電性が低下することが知られており、できるだけ逆分極処理を施さずに駆動できることが好ましい。
本発明の強誘電体膜では、上記したようにPE曲線が対称ヒステリシスに近くなるため、駆動の観点から、好ましい。
強誘電性能のひとつである圧電特性は、通常圧電定数d31で評価することができるが、PEヒステリシスが非対称で正電界側に偏っていると、正電界印加時に分極されにくいため、圧電定数d31(+)が負電界印加時の圧電定数d31(−)より小さくなる傾向があり、然るに正電界印加では圧電特性が出にくく、負電界印加で圧電特性が出やすい。
例えば、特願2006−263978等に記載されているように、本出願人は、BサイトにNbを添加したPZT膜において、d31=250pm/Vを達成している。上記したように、Bサイトにのみドナイオンを添加したPZT膜では、PEヒステリシスが正電界側に偏っているため、ここで得られたd31の値は負電界駆動により得られるd31(−)値であり、d31(+)は100pm/Vを下回る値である(実施例1の図12、表1を参照。)。
インクジェット式記録ヘッド等に用いる圧電素子の用途では、高精度にインクを吐出するためには、d31値は100pm/Vを上回る値であることが好ましいとされている。従って、PEヒステリシスの非対称性を改善して、d31(+)において100pm/Vを上回る値を達成することが好ましい。BサイトにNbをドープしたPZT膜において得られる圧電定数の値を考慮すると、d31(+)/d31(−)>0.5であれば、d31(+)値が100pm/Vを超える値とすることができる。必要とされる圧電特性は用途に応じて異なるが、逆分極処理を施さずに正電界駆動を行うためには、駆動効率の観点からもd31(+)/d31(−)>0.5であることが好ましいと考えられる。
本発明のペロブスカイト型酸化物において、式(P)中のAサイト元素Aは、イオン半径が1.0Åより大きい元素であることが好ましく、1.1Åより大きい元素であることがより好ましい。
また、Aサイト元素Aのイオン価数は、Pb欠損を補完する観点では、2価又は3価であることが好ましく、更にドナイオン添加による強誘電性能の向上効果が得られることから3価であることがより好ましい。上記イオン半径を有し、2価又は3価のイオン価数を有するAサイト元素Aとしては、Ca,Sr,Ba,Eu,Bi,Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb及びLuからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素が挙げられ、Biであることが好ましい。ドナイオン添加の観点では、4価のイオン価数を有するCeやPr等も用いることができる。
Aサイト元素Aのイオン価数は、1価であってもよい。イオン価数が1価である場合は、価数が足りないためその効果は小さいものの、Pb欠損を補完する効果が得られる。イオン価数が1価の元素としては、Na,K,Rb,Cs,Ag等が挙げられる。
本発明者は、Aサイト元素Aが上記イオン半径を有するものであれば、PZTの焼結時等に生じやすいPb欠損を補完してAサイト欠損を低減させ、PE曲線が対称ヒステリシスに近く、かつ、強誘電性能に優れた強誘電体膜が得られることを見出している。
特許文献1では、単純マトリクス型強誘電体メモリとして好適な角形性の良好なヒステリシスを有する強誘電体膜を目的としており、AサイトにBiをドープすることにより酸素欠損が低減されて、PEヒステリシスの角形性を損なう原因の一部である電流リークやインプリント(ヒステリシスの変形度)等が低減されることが記載されている(段落[0040]等参照)。
特許文献1では、Aサイトの置換元素であるBiとBサイトの置換元素であるNb又はTaとの添加量の比を1:1としている(実施例等を参照)。特許文献1にはBiのAサイト元素中の濃度が20%以下であればペロブスカイト単相となり、30%以上であればビスマス層状ペロブスカイト型構造を有するBiNbOが共存していることが記載されているが、本発明者はAサイトの置換元素であるBiとBサイトの置換元素であるNb又はTaとの添加量の比を1:1とした場合に得られる強誘電体膜は、BiのAサイト元素中の濃度が20%以下であっても圧電特性が低下することを確認している(後記比較例1を参照)。BiNbOのような層状ペロブスカイト化合物は、メモリ用途等の残留分極値を利用する用途には適しているが、圧電特性は一般的に高くないことが知られていることから、上記の濃度範囲であってもX線回折により検出できないほど微量ではあるもののBiNbOが共存していると考えられる。従って、特許文献1はビスマス層状ペロブスカイト型構造を有するBiNbOを共存させるという思想に基づいていると考えられる。
特許文献1にはまた、BiとNb又はTaとの添加量が増大するにつれて、PEヒステリシスの角形性が向上し、PEヒステリシスが良好となることが記載されている(段落[0114]等参照)。上記したように特許文献1は単純マトリクス型強誘電体メモリとして好適な強誘電体膜を対象としているのでPEヒステリシスにおいてはその角形性が重要であり、角形性が良好であればヒステリシスが非対称性であってもそれほど問題ないため、ヒステリシスの非対称性については一切記載されていない。
本発明では、主に圧電特性の良好なペロブスカイト型酸化物を対象としていることから、上記したように、正電界印加時においても良好な圧電特性を有するようにPEヒステリシスは正電界側に偏っていないことが好ましい。正電界印加による駆動を考慮すれば、PEヒステリシスが負電界側に偏った非対称ヒステリシスとなることは差し支えない。
本発明において、圧電特性を低下させずにPEヒステリシスの対称性の良好とするには、Aサイト元素中のAの濃度は、Bサイト元素中のMの濃度よりも低いことが好ましく、1モル%超であることが好ましい。
また、式(P)中、TiとZrの組成を示すyの値は、0<y≦0.7であればよいが、正方晶相と菱面体相との相転移点であるモルフォトロピック相境界(MPB)組成の近傍となる値であればより高い強誘電性能が得られ、好ましい。すなわち、0.45<y≦0.7であることが好ましく、0.47<y<0.57であることがより好ましい。
式(P)中、xが大きいとパイロクロア相が発生して特性が低下する。xは例えば0.01<x≦0.4であることが好ましい。またzが大きいと、後記する実施例で記載してあるように、xによって向上した特性が低下する。従って、zは例えば0.1≦z≦0.4であり、x<zであることが好ましい。
また、Bサイト元素Mは、強誘電性能の観点からNbであることが好ましい。
特許文献1に記載のゾルゲル法ではPb欠損が起こりやすく、Pb欠損が起こると強誘電体性能が低下する傾向にあるが、本発明によれば、上記式(P)中のδがδ≧0であるAサイト元素の欠損のない組成のペロブスカイト型酸化物を提供することができ、δ>0であるAサイト元素がリッチな組成のペロブスカイト型酸化物を提供することも可能である。本発明者は具体的には、上記式(P)中のδが0<δ≦0.2であるAサイト元素がリッチな組成のペロブスカイト型酸化物を提供することができることを見出している。なお、本発明では、このようにδ≧0であるAサイト元素の欠損のない組成のペロブスカイト型酸化物を提供することができるが、特性に支障のない限り、Aサイト欠損があっても構わない。
本発明では、多数の柱状結晶からなる膜構造を有する強誘電体膜を提供することができる。特許文献1に記載のゾルゲル法では、かかる柱状結晶膜構造は得られない。基板面に対して非平行に延びる多数の柱状結晶からなる膜構造では、結晶方位の揃った配向膜が得られる。かかる膜構造では、高い圧電性能が得られ、好ましい。
圧電歪には、
(1)自発分極軸のベクトル成分と電界印加方向とが一致したときに、電界印加強度の増減によって電界印加方向に伸縮する通常の電界誘起圧電歪、
(2)電界印加強度の増減によって分極軸が可逆的に非180°回転することで生じる圧電歪、
(3)電界印加強度の増減によって結晶を相転移させ、相転移による体積変化を利用する圧電歪、
(4)電界印加により相転移する特性を有する材料を用い、自発分極軸方向とは異なる方向に結晶配向性を有する強誘電体相を含む結晶配向構造とすることで、より大きな歪が得られるエンジニアードドメイン効果を利用する圧電歪(エンジニアードドメイン効果を利用する場合には、相転移が起こる条件で駆動してもよいし、相転移が起こらない範囲で駆動してもよい)などが挙げられる。
上記の圧電歪(1)〜(4)を単独で又は組み合わせて利用することで、所望の圧電歪が得られる。また、上記の圧電歪(1)〜(4)はいずれも、それぞれの歪発生の原理に応じた結晶配向構造とすることで、より大きな圧電歪が得られる。したがって、高い圧電性能を得るには、強誘電体膜は結晶配向性を有することが好ましい。例えば、MPB組成のPZT系強誘電体膜であれば、(100)配向の柱状結晶膜が得られる。
柱状結晶の成長方向は基板面に対して非平行であればよく、略垂直方向でも斜め方向でも構わない。
強誘電体膜をなす多数の柱状結晶の平均柱径は特に制限なく、30nm以上1μm以下が好ましい。柱状結晶の平均柱径が過小では、強誘電体として充分な結晶成長が起こらない、所望の強誘電性能(圧電性能)が得られないなどの恐れがある。柱状結晶の平均柱径が過大では、パターニング後の形状精度が低下するなどの恐れがある。
本発明では、式(P)で表される本発明のペロブスカイト型酸化物を含み、3.0μm以上の膜厚を有する強誘電体膜を提供することができる。特許文献1に記載のゾルゲル法では、膜厚を厚くするとクラックが入るため、1μm以下の薄膜しか成膜することができない。圧電素子の用途では、かかる膜厚の強誘電体膜では充分な変位が得られないことから、強誘電体膜の膜厚は3.0μm以上であることが好ましい。
以上説明したように、本発明は、PZT系のペロブスカイト型酸化物において、焼結助剤を添加することなく、Aサイトに1モル%超の置換イオンが添加され且つBサイトに10モル%以上の置換イオンを添加することを実現したものである。本発明のペロブスカイト型酸化物は、Aサイトに1モル%超40モル%以下、Bサイトに10モル%以上40モル%以下の高濃度のドナイオンが添加されたものであるので、強誘電性能(圧電性能)に優れている。本発明のペロブスカイト型酸化物では、焼結助剤を添加することなく、Aサイト及びBサイトにかかる高濃度のドナイオンを添加できるので、焼結助剤による強誘電性能の低下が抑制され、ドナイオンの添加による強誘電性能の向上が最大限引き出される。
また、本発明において、Aサイトの置換イオンは、強誘電性能を向上させるだけではなく、PZTの焼結時等に生じやすいPb欠損を補完してAサイト欠損を低減させることができる。従って、本発明によれば、Aサイト欠損による強誘電体性能の低下を抑制することができる。
「強誘電体膜の製造方法の第1実施形態」
上記式(P)で表される本発明のペロブスカイト型酸化物を含む本発明の強誘電体膜は、非熱平衡プロセスにより成膜することができる。本発明の強誘電体膜の好適な成膜方法としては、スパッタ法、プラズマCVD法、焼成急冷クエンチ法、アニールクエンチ法、及び溶射急冷法等が挙げられる。本発明の成膜方法としては、スパッタ法が特に好ましい。
ゾルゲル法等の熱平衡プロセスでは、本来価数が合わない添加物を高濃度ドープすることが難しく、焼結助剤あるいはアクセプタイオンを用いるなどの工夫が必要であるが、非熱平衡プロセスではかかる工夫なしに、ドナイオンを高濃度ドープすることができる。
また、非熱平衡プロセスでは、SiとPbとが反応する温度以下の比較的低い成膜温度にて成膜することができるため、加工性の良好なSi基板上への成膜が可能であり、好ましい。
スパッタ法において、成膜される膜の特性を左右するファクターとしては、成膜温度、基板の種類、基板に先に成膜された膜があれば下地の組成、基板の表面エネルギー、成膜圧力、雰囲気ガス中の酸素量、投入電力、基板−ターゲット間距離、プラズマ中の電子温度及び電子密度、プラズマ中の活性種密度及び活性種の寿命等が考えられる。
本発明者は多々ある成膜ファクターの中で、成膜される膜の特性への影響の大きなファクターを検討し、良質な膜を成膜可能となる成膜条件を見出した(本発明者が先に出願している特願2006-263978号,特願2006−263979号,特願2006-263980号(本件出願時において未公開)を参照。)
具体的には、成膜温度Tsと、Vs−Vf(Vsは成膜時のプラズマ中のプラズマ電位、Vfはフローティング電位)、Vs、及び基板−ターゲット間距離Dのいずれかとを好適化することにより、良質な膜を成膜できることを見出している。すなわち、成膜温度Tsを横軸にし、Vs−Vf,Vs,及び基板−ターゲット間距離Dのいずれか縦軸にして、膜の特性をプロットすると、ある範囲内において良質な膜を成膜できることを見出した(後記図6〜8)。図6〜8において、パイロクロア相がメインの膜は「×」、同一条件で成膜した複数のサンプル間で膜特性にばらつきのあるものや配向性が崩れ始めたものは「▲」、良好な結晶配向性を有するペロブスカイト結晶が安定的に得られる場合は「●」で示してある。本実施形態では、成膜温度Tsと、Vs−Vfとを好適化した場合(特願2006-263978号)の成膜方法について説明する。
図1A及び図1Bを参照して、スパッタリング装置の構成例と成膜の様子について説明する。ここでは、RF電源を用いるRFスパッタリング装置を例として説明するが、DC電源を用いるDCスパッタリング装置を用いることもできる。図1Aは装置全体の概略断面図、図1Bは成膜中の様子を模式的に示す図である。
図1Aに示すように、スパッタリング装置1は、内部に、成膜基板Bを保持すると共に成膜基板Bを所定温度に加熱することができる静電チャック等の基板ホルダ11と、プラズマを発生させるプラズマ電極(カソード電極)12とが備えられた真空容器10から概略構成されている。
基板ホルダ11とプラズマ電極12とは互いに対向するように離間配置され、プラズマ電極12上にターゲットTが装着されるようになっている。プラズマ電極12はRF電源13に接続されている。
真空容器10には、真空容器10内に成膜に必要なガスGを導入するガス導入管14と、真空容器10内のガスの排気Vを行うガス排出管15とが取り付けられている。ガスGとしては、Ar、又はAr/O混合ガス等が使用される。
図1Bに模式的に示すように、プラズマ電極12の放電により真空容器10内に導入されたガスGがプラズマ化され、Arイオン等のプラスイオンIpが生成する。生成したプラスイオンIpはターゲットTをスパッタする。プラスイオンIpにスパッタされたターゲットTの構成元素Tpは、ターゲットTから放出され中性あるいはイオン化された状態で基板Bに蒸着される。この蒸着を所定時間実施することで、所定厚の膜が成膜される。図中、符号Pがプラズマ空間を示している。
本発明の強誘電体膜をスパッタ法により成膜する場合、成膜温度Ts(℃)と、成膜時のプラズマ中のプラズマ電位Vs(V)とフローティング電位Vf(V)との差であるVs−Vf(V)とが、下記式(1)及び(2)を充足する成膜条件で成膜を行うことが好ましく、下記式(1)〜(3)を充足する成膜条件で成膜を行うことが特に好ましい。
Ts(℃)≧400・・・(1)、
−0.2Ts+100<Vs−Vf(V)<−0.2Ts+130・・・(2)、
10≦Vs−Vf(V)≦35・・・(3)
プラズマ空間Pの電位はプラズマ電位Vs(V)となる。通常、基板Bは絶縁体であり、かつ、電気的にアースから絶縁されている。したがって、基板Bはフローティング状態にあり、その電位はフローティング電位Vf(V)となる。ターゲットTと基板Bとの間にあるターゲットの構成元素Tpは、プラズマ空間Pの電位と基板Bの電位との電位差Vs−Vfの加速電圧分の運動エネルギーを持って、成膜中の基板Bに衝突すると考えられる。
プラズマ電位Vs及びフローティング電位Vfは、ラングミュアプローブを用いて測定することができる。プラズマP中にラングミュアプローブの先端を挿入し、プローブに印加する電圧を変化させると、例えば図2に示すような電流電圧特性が得られる(小沼光晴著、「プラズマと成膜の基礎」p.90、日刊工業新聞社発行)。この図では電流が0となるプローブ電位がフローティング電位Vfである。この状態は、プローブ表面へのイオン電流と電子電流の流入量が等しくなる点である。絶縁状態にある金属の表面や基板表面はこの電位になっている。プローブ電圧をフローティング電位Vfより高くしていくと、イオン電流は次第に減少し、プローブに到達するのは電子電流だけとなる。この境界の電圧がプラズマ電位Vsである。
Vs−Vfは、基板とターゲットとの間にアースを設置するなどして、変えることができる。
Vs−Vfが基板Bに衝突するターゲットTの構成元素Tpの運動エネルギーに相関することを述べた。下記式に示すように、一般に運動エネルギーEは温度Tの関数で表されるので、基板Bに対して、Vs−Vfは温度と同様の効果を持つと考えられる。
E=1/2mv=3/2kT
(式中、mは質量、vは速度、kは定数、Tは絶対温度である。)
Vs−Vfは、温度と同様の効果以外にも、表面マイグレーションの促進効果、弱結合部分のエッチング効果などの効果を持つと考えられる。
本発明者は、PZT系強誘電体膜を成膜する場合、上記式(1)を充足しないTs(℃)<400の成膜条件では、成膜温度が低すぎてペロブスカイト結晶が良好に成長せず、パイロクロア相がメインの膜が成膜されることを見出している(図6を参照)。
本発明者はさらに、PZT系強誘電体膜を成膜する場合、上記式(1)を充足するTs(℃)≧400の条件では、成膜温度TsとVs−Vfが上記式(2)を充足する範囲で成膜条件を決定することで、パイロクロア相の少ないペロブスカイト結晶を安定的に成長させることができ、しかもPb抜けを安定的に抑制することができ、結晶構造及び膜組成が良好な良質な強誘電体膜を安定的に成膜することができることを見出している(図6を参照)。
PZT系強誘電体膜のスパッタ成膜において、高温成膜するとPb抜けが起こりやすくなることが知られている。本発明者は、Pb抜けが、成膜温度以外にVs−Vfにも依存することを見出している。PZTの構成元素であるPb,Zr,及びTiの中で、Pbが最もスパッタ率が大きく、スパッタされやすい。例えば、「真空ハンドブック」((株)アルバック編、オーム社発行)の表8.1.7には、Arイオン300evの条件におけるスパッタ率は、Pb=0.75、Zr=0.48,Ti=0.65であることが記載されている。スパッタされやすいということは、スパッタされた原子が基板面に付着した後に、再スパッタされやすいということである。プラズマ電位と基板の電位との差が大きい程、すなわち、Vs−Vfの差が大きい程、再スパッタの率が高くなり、Pb抜けが生じやすくなると考えられる。
成膜温度TsとVs−Vfがいずれも過小の条件では、ペロブスカイト結晶を良好に成長させることができない傾向にある。また、成膜温度TsとVs−Vfのうち少なくとも一方が過大の条件では、Pb抜けが生じやすくなる傾向にある。
すなわち、上記式(1)を充足するTs(℃)≧400の条件では、成膜温度Tsが相対的に低い条件のときには、ペロブスカイト結晶を良好に成長させるためにVs−Vfを相対的に高くする必要があり、成膜温度Tsが相対的に高い条件のときには、Pb抜けを抑制するためにVs−Vfを相対的に低くする必要がある。これを表したのが上記式(2)である。
本発明者はまた、PZT系強誘電体膜を成膜する場合、上記式(1)〜(3)を充足する範囲で成膜条件を決定することで、圧電定数の高い強誘電体膜が得られることを見出している。
本発明者は、例えば、成膜温度Ts(℃)=約420の条件では、Vs−Vf(V)=約42とすることで、Pb抜けのないペロブスカイト結晶を成長させることができるが、得られる膜の圧電定数d31は100pm/V程度と低いことを見出している。この条件では、Vs−Vf、すなわち基板に衝突するターゲットの構成元素Tpのエネルギーが高すぎるために、膜に欠陥が生じやすく、圧電定数が低下すると考えられる。本発明者は、上記式(1)〜(3)を充足する範囲で成膜条件を決定することで、圧電定数d31≧130pm/Vの強誘電体膜を成膜できることを見出している。
本実施形態において、上記の成膜条件となるようにプラズマ空間電位を調整できればスパッタリング装置は特に制限されないが、本発明者が先に出願している特願2006-263981号(本件出願時において未公開)に記載のスパッタリング装置を用いることにより、簡易な方法でプラズマ空間電位を調整することができる。このスパッタリング装置は、ターゲットを保持するターゲットホルダの成膜基板側の外周を取囲むシールドを備え、シールドの存在によって、プラズマ空間の電位状態を調整することができる。
以下に、図3及び図1Bを参照して、スパッタリング装置の構成例と成膜の様子について説明する。ここでは、RF電源(高周波電源)を用いるRFスパッタリング装置を例として説明するが、DC電源を用いるDCスパッタリング装置を用いることもできる。図3は本実施形態の成膜装置の概略断面図である。図4は、図3中のシールド及びその近傍の拡大図である。
図3に示すように、スパッタリング装置200は、内部に、基板(成膜用基板)Bを保持すると共に基板Bを所定温度に加熱することができる静電チャック等の基板ホルダ11と、プラズマを発生させるプラズマ電極(カソード電極)12とが備えられた真空容器210から概略構成されている。なお、このプラズマ電極12は、ターゲットTを保持するターゲットホルダに相当する。
基板ホルダ11とプラズマ電極12とは互いに対向するように離間配置され、プラズマ電極12上に成膜する膜の組成に応じた組成のターゲットTが装着されるようになっている。プラズマ電極12は高周波電源13に接続されている。なお、プラズマ電極12とRF電源13をプラズマ生成部という。本実施形態には、ターゲットTの成膜基板側の外周を取囲むシールド250が備えられている。なお、この構成は、ターゲットTを保持するプラズマ電極12すなわちターゲットホルダの成膜基板側の外周を取囲むシールド250が備えられているということもできる。
真空容器210には、真空容器210内に成膜に必要なガス(成膜ガス)Gを導入するガス導入管214と、真空容器210内のガスの排気Vを行うガス排出管15とが取り付けられている。また、ガスGを導入するガス導入口214は、ガス排出管15と反対側に、シールド250と同じ位の高さに設けられている。
ガスGとしては、Ar、又はAr/O混合ガス等が使用される。図1Bに模式的に示すように、プラズマ電極12の放電により真空容器210内に導入されたガスGがプラズマ化され、Arイオン等のプラスイオンIpが生成する。生成したプラスイオンIpはターゲットTをスパッタする。プラスイオンIpにスパッタされたターゲットTの構成元素Tpは、ターゲットから放出され中性あるいはイオン化された状態で基板Bに蒸着される。図中、符号Pがプラズマ空間を示している。
図3の真空容器210は、ターゲットTの成膜基板側の外周を取囲むシールド250が、真空容器210内に配置されている点を特徴とする。このシールド250は、真空容器210の底面210aに、プラズマ電極12を囲むように立設されたアースシールドすなわち接地部材202上に、ターゲットTの成膜基板側の外周を取り囲むように配置されている。接地部材202は、プラズマ電極12から側方或いは下方に向けて真空容器210に放電しないようにするためのものである。
シールド250は、一例として図3および図4に示すような複数の円環状金属板すなわちリング(フィン、シールド層)250aから構成されている。これらのリング250aは、図示する例では4枚使用されており、各リング250aの間に導電性のスペーサ250bが配置されている。スペーサ250bは、リング250aの円周方向に間隔をおいて複数個配置され、スペーサ250b同士の間にガスGが流れ易くなるように間隙204を形成している。スペーサ250bは、この観点から接地部材202とその直上に載置されるリング250aとの間にも配置されることが望ましい。
上記構成では、シールド250は接地部材202に導通されてアースされている。リング250aおよびスペーサ250bの材質は特に制限なく、SUS(ステンレス)等が好ましい。
シールド250の外周側に、複数のリング250aを電気的に導通させる導通部材(図示略)を取り付ける構成としてもよい。シールド250のリング250a同士は、導電性のスペーサ250bにより導通されており、それだけでもアースを取ることができるが、外周側に別途導通部材を取り付けることで、複数のリング250aのアースを取りやすくなる。
前述の如く、シールド250は、ターゲットTの成膜基板側の外周を取り囲むように配置されているので、ターゲットTの成膜基板側の外周にシールド250によって接地電位が形成される。
成膜装置200では、上記構成のシールド250によって、プラズマ条件を調整および好適化することができ、プラズマ電位Vs(V)とフローティング電位Vf(V)との差であるVs−Vf(V)を調整および好適化することができる。この理由は、以下のように考えられる。
基板Bに成膜するために、プラズマ電極12にRF電源13の電圧を印加すると、プラズマがターゲットTの上方に生成されるとともに、シールド250とターゲットTの間にも放電が生じる。この放電によって、プラズマが、シールド250内に閉じ込められて、プラズマ電位Vsが低下し、プラズマ電位Vs(V)とフローティング電位Vf(V)との差であるVs−Vf(V)が低下すると考えられる。プラズマ電位Vs(V)とフローティング電位Vf(V)との差であるVs−Vf(V)が低下すると、ターゲットTから放出されたターゲットTの構成元素Tpが基板Bに衝突するエネルギーが減少する。プラズマ電位Vs(V)とフローティング電位Vf(V)との差であるVs−Vf(V)を好適化することによって、ターゲットTの構成元素Tpの粒子エネルギーを好適化することができ、良質な膜を成膜することができる。
リング250aの枚数が多くなり、シールド250全体の高さが高くなる程、プラズマ電位Vs(V)とフローティング電位Vf(V)との差であるVs−Vf(V)が低下する傾向にある。これは、シールド250全体の高さが高くなる程、シールド250とターゲットT間の放電が強くなり、プラズマ電位Vs(V)とフローティング電位Vf(V)との差であるVs−Vf(V)が低下するためと考えられる。
特定の成膜温度において、最も成膜条件のよいVs−Vf(V)が決まってくる。この最も好ましい電位差を得るために、成膜温度を変えずに、リング250aの枚数を増減して所望の電位差になるように調整することができる。リング250aは、単にスペーサ250bを介して、シールド層として積み重ねているので、リング250aを取り外して枚数を変更することができる。
シールド250の最下端のリング250aは、ターゲットTの外周から離隔しているが、このターゲットTとシールド250との間の離隔した直線距離は、ゼロであると、放電が生じなくなり、遠すぎるとシールドの効果が少なくなるため効率よく効果を得るためには1mmから30mm程度離隔していることが望ましい。
ターゲットTから放出されたターゲットTの構成元素Tpは、基板Bに付着するとともに、ターゲットTの周囲にあるシールド250のリング250aにも付着する。最も付着する量が多いのは、リング250aのターゲットTに面した内周のエッジ251とその近傍である。この状態を図4に示してある。図4に示すように、リング250aの内周のエッジ251と、その近傍のリング250aの上面および下面には構成元素Tpの粒子(蒸着粒子)が付着して膜253が形成される。この膜253が、各リング250aの全面に形成されると、シールド250の接地電位としての機能が損なわれるので、できるだけ膜253が付着しにくいようにシールド250を構成することが好ましい。
成膜装置200では、シールド250を、間隙204を空けて上下方向に配置された複数のリング250aにより構成しているので、ターゲットから放出された構成元素からなる蒸着粒子が、シールド250全体に付着して、その電位状態が変わることが防止される。従って、シールド250は、繰り返し成膜を行っても安定的に機能し、プラズマ電位Vsとフローティング電位Vfとの差Vs-Vfが安定して維持される。
特に、シールド層である各リング250aの、積層方向と直交するシールドの壁材の厚みLと、積層方向に互いに隣接するリング250a間の距離すなわちシールド層間の距離Sが、LSの関係にあることが望ましい。この関係は、リング250a間の距離Sに対して、厚みLを所定の範囲内に広げることにより、膜253がリング250a全体に付着しにくいようにする効果がある。すなわち、蒸着粒子から見てリング250aの奥行きを広くすることにより、構成元素Tpが間隙204の外周側まで進入しにくくなり、シールド250が短期間で機能しなくなるということを防止できる。
間隙204にはその他の効果も期待できる。すなわち、間隙204が成膜ガスGの通路としての役割を果たすので、成膜ガスGがシールド250の間隙204を通過してターゲットT近傍のプラズマ空間内に到達しやすく、ターゲットT近傍でプラズマ化されたガスイオンがターゲットに容易に到達でき、ターゲットの構成元素Tpを効果的に放出させることができる。その結果、所望の特性を有する良質な膜を安定的に成膜することができると考えられる。
間隙があるシールド250も電位的には間隙のないシールドと同じように内周側に等電位の壁を形成するので、間隙があるシールドのVs−Vfの調整効果は間隙のないシールドと同等レベルである。
成膜装置200では、シールド250の高さを調整することによって、Vs−Vfを制御することができる。Vs−Vfは、ターゲット投入電力や成膜圧力等を変えることでも調整できる。しかしながら、ターゲット投入電力や成膜圧力等を変えてVs−Vfを制御する場合には、成膜速度等の他のパラメータまで変わってしまい、所望の膜質が得られなくなることがある。本発明者がある条件で実験したところ、ターゲット投入電力を700Wから300Wに変えると、Vs−Vfを38eVから25eVに低減できることができるが、成膜速度が4μm/hから2μm/hに低下してしまった。本実施形態の装置200では、成膜速度等の他のパラメータを変えることなく、Vs−Vfを調整することができるので、成膜条件を好適化しやすく、良質な膜を安定的に成膜することができる。
以上述べたように、本発明のペロブスカイト型酸化物を含む強誘電体膜は、非熱平衡プロセスにより成膜可能であるので、SiとPbとが反応する温度以下での成膜が可能である。従って、本発明によれば、Aサイトに1モル%超の置換イオンが添加され且つBサイトに10モル%以上の置換イオンが添加された、強誘電性能に優れた上記本発明の強誘電体膜を、Si基板上に焼結助剤を用いることなく成膜することができる。
「強誘電体膜の製造方法の第2実施形態」
本実施形態では、図1A及び図1Bに示される第1実施形態と同様のスパッタリング装置を用い、成膜温度Tsと基板BとターゲットTとの離間距離(基板―ターゲット間距離)D(mm)とを好適化して上記本発明の強誘電体膜を製造した場合について説明する(本発明者が先に出願している特願2006−263979号(本件出願時において未公開)を参照。)。本実施形態の製造方法では、成膜温度Ts(℃)と基板―ターゲット間距離D(mm)とが下記式(4)及び(5)を充足する条件、又は(6)及び(7)を充足する成膜条件で成膜することが好ましい。
400≦Ts(℃)≦500・・・(4)、
30≦D(mm)≦80・・・(5)、
500≦Ts(℃)≦600・・・(6)、
30≦D(mm)≦100・・・(7)
本発明者は、PZT系強誘電体膜を成膜する場合、上記式(4)を充足しないTs(℃)<400の成膜条件では、成膜温度が低すぎてペロブスカイト結晶が良好に成長せず、パイロクロア相がメインの膜が成膜されることを見出している。
本発明者はさらに、PZT系強誘電体膜を成膜する場合、上記式(4)を充足する400≦Ts(℃)≦500の条件では、基板−ターゲット間距離D(mm)が上記式(5)を充足する範囲で、また上記式(6)を充足する500≦Ts(℃)≦600の条件では、基板−ターゲット間距離D(mm)が上記式(7)を充足する範囲で成膜条件を決定することで、パイロクロア相の少ないペロブスカイト結晶を安定的に成長させることができ、しかもPb抜けを安定的に抑制することができ、結晶構造及び膜組成が良好な良質な圧電膜を安定的に成膜することができることを見出している(図7を参照)。
本実施形態においては、成膜温度Tsが過小であり、かつ基板−ターゲット間距離Dが過大の条件では、ペロブスカイト結晶を良好に成長させることができない傾向にある。また、成膜温度Tsが過大であり、かつ基板−ターゲット間距離Dが過小の条件では、Pb抜けが生じやすくなる傾向にある。
すなわち、上記式(4)を充足する400≦Ts(℃)≦500の条件では、成膜温度Tsが相対的に低い条件のときには、ペロブスカイト結晶を良好に成長させるために基板−ターゲット間距離Dを相対的に短くする必要があり、成膜温度Tsが相対的に高い条件のときには、Pb抜けを抑制するために基板−ターゲット間距離Dを相対的に長くする必要がある。これを表したのが、上記式(5)である。上記(6)式を充足する500≦Ts(℃)≦600においては、成膜温度が比較的高温領域であるため、基板−ターゲット間距離Dの範囲は上限値が大きくなるが、傾向は同様である。
成膜速度は、製造効率上速い方が好ましく、0.5μm/h以上が好ましく、1.0μm/h以上がより好ましい。図5に示されるように、基板−ターゲット間距離Dが短い方が成膜速度が速くなる。図5は、スパッタリング装置1を用いてPZT膜を成膜した場合の、成膜速度と基板−ターゲット間距離Dとの関係を示した図である。図5において、成膜温度Ts=525℃、ターゲット投入電力(rf電力)=2.5W/cmである。本発明によれば、成膜速度が1.0μm/h以上の高速成膜条件においても良質の膜を成膜することが可能である。
基板−ターゲット間距離Dによっては、成膜速度が0.5μm/h未満となる場合があり得る。かかる場合には、ターゲット投入電力等を、成膜速度が0.5μm/h以上となるように、調整することが好ましい。
基板−ターゲット間距離Dは短い方が成膜速度が速いため好ましく、400≦Ts(℃)≦500の範囲では80mm以下、500≦Ts(℃)≦600の範囲では100mm以下が好ましいが、30mm未満ではプラズマ状態が不安定となるため、膜質の良好な成膜ができない恐れがある。より膜質の高い圧電膜を安定的成膜するためには、400≦Ts(℃)≦500の範囲、及び500≦Ts(℃)≦600の範囲のいずれにおいても、基板−ターゲット間距離Dは、50≦D(mm)≦70であることが好ましい。
本発明者は、上記のように、上記式(4)及び(5)を充足する範囲、又は(6)及び(7)を充足する範囲で成膜条件を決定することで、良質な圧電膜を製造効率良く、すなわち、速い成膜速度で、かつ安定的に成膜できることを見出している。
本実施形態においても、本発明のペロブスカイト型酸化物を含む強誘電体膜を、非熱平衡プロセスにより成膜可能であるので、第1実施形態と同様の効果を奏する。
「強誘電体膜の製造方法の第3実施形態」
本実施形態では、図1A及び図1Bに示される第1実施形態と同様のスパッタリング装置を用い、成膜温度Tsと成膜時のプラズマ中のプラズマ電位Vs(V)とを好適化して上記本発明の強誘電体膜を製造する(本発明者が先に出願している特願2006−263980号(本件出願時において未公開)を参照。)。本実施形態の製造方法では、成膜温度Ts(℃)と、成膜時のプラズマ中のプラズマ電位Vs(V)とが、下記式(8)及び(9)を充足する成膜条件又は、(10)及び(11)を充足する成膜条件で成膜を行うことが好ましい◎
400≦Ts(℃)≦475・・・・(8)、
20≦Vs(V)≦50・・・・・・(9)、
475≦Ts(℃)≦600・・・(10)、
Vs(V)≦40・・・・・・・・(11)
本実施形態において、基板とターゲットとの間にアースを設置するなどして、変えることができる。また、Vs−Vfと同様、Vsも基板Bに対して、温度と同様の効果及び表面マイグレーションの促進効果、弱結合部分のエッチング効果などの効果を持つと考えられる。
本発明者はさらに、上記一般式(P)で表されるペロブスカイト型酸化物からなる圧電膜を成膜する場合、上記式(8)を充足する400≦Ts(℃)≦475の条件では、成膜温度TsとVsが上記式(9)を充足する範囲で、また上記式(10)を充足する475≦Ts(℃)≦600の条件では、成膜温度TsとVsが上記式(11)を充足する範囲で成膜条件を決定することで、パイロクロア相の少ないペロブスカイト結晶を安定的に成長させることができ、しかもPb抜けを安定的に抑制することができることを見いだしている。
また本発明者は、より良好な結晶構造及び膜組成を有する圧電膜を安定的に成膜するには、下記式(12)及び(13)を充足する範囲で成膜条件を決定することが好ましく、下記式(14)及び(15)、又は(16)及び(17)を充足する範囲で成膜条件を決定することが特に好ましいことを見いだしている(図8を参照)。
420≦Ts(℃)≦575・・・(12)、
−0.15Ts+111<Vs(V)<−0.2Ts+114・・・(13)、
420≦Ts(℃)≦460・・・(14)、
30≦Vs(V)≦48・・・・・・(15)、
475≦Ts(℃)≦575・・・(16)、
10≦Vs(V)≦38・・・・・・(17)
図8からわかるように、成膜温度TsとVsがいずれも過小の条件では、ペロブスカイト結晶を良好に成長させることができない傾向にある。また、成膜温度TsとVsのうち少なくとも一方が過大の条件では、Pb抜けが生じやすくなる傾向にある。
また、本実施形態において、基板/ターゲット間距離は特に制限なく、30〜80mmの範囲であることが好ましい。基板/ターゲット間距離は、近い方が成膜速度が速いので、効率の点で好ましいが、近すぎるとプラズマの放電が不安定となり、良質な成膜を行うことが難しい。
本発明者は、上記一般式(P)で表されるペロブスカイト型酸化物からなる圧電膜を成膜する場合、下記式(8)及び(18)、又は(10)及び(19)を充足する範囲で成膜条件を決定することで、圧電定数の高い圧電膜が得られることを見出している。
400≦Ts(℃)≦475・・・(8)、
35≦Vs(V)≦45・・・・・・(18)、
475≦Ts(℃)≦600・・・(10)、
10≦Vs(V)≦35・・・・・・(19)
本発明者は、上記一般式(P)で表されるペロブスカイト型酸化物からなる圧電膜を成膜する場合、成膜温度Ts(℃)=約420の条件では、Vs(V)=約48とすることで、Pb抜けのないペロブスカイト結晶を成長させることができるが、得られる膜の圧電定数d31は100pm/V程度と低いことを見出している。この条件では、Vs、すなわち基板に衝突するターゲットTの構成元素Tpのエネルギーが高すぎるために、膜に欠陥が生じやすく、圧電定数が低下すると考えられる。本発明者は、上記式(8)及び(18)、又は(10)及び(19)を充足する範囲で成膜条件を決定することで、圧電定数d31≧130pm/Vの圧電膜を成膜できることを見出している。
本実施形態においても、本発明のペロブスカイト型酸化物を含む強誘電体膜を、非熱平衡プロセスにより成膜可能であるので、第1実施形態と同様の効果を奏する。
「強誘電体素子(圧電素子)、インクジェット式記録ヘッド」
図9を参照して、本発明に係る実施形態の圧電素子(強誘電体素子)、及びこれを備えたインクジェット式記録ヘッド(液体吐出装置)の構造について説明する。図9はインクジェット式記録ヘッドの要部断面図である。視認しやすくするため、構成要素の縮尺は実際のものとは適宜異ならせてある。
本実施形態の圧電素子(強誘電体素子)2は、基板20上に、下部電極30と強誘電体膜(圧電体膜)40と上部電極50とが順次積層された素子であり、強誘電体膜40に対して、下部電極30と上部電極50とにより厚み方向に電界が印加されるようになっている。強誘電体膜40は上記式(P)で表される本発明のペロブスカイト型酸化物を含む本発明の強誘電体膜である。
下部電極30は基板20の略全面に形成されており、この上に図示手前側から奥側に延びるライン状の凸部41がストライプ状に配列したパターンの強誘電体膜40が形成され、各凸部41の上に上部電極50が形成されている。
強誘電体膜40のパターンは図示するものに限定されず、適宜設計される。また、強誘電体膜40は連続膜でも構わない。但し、強誘電体膜40は、連続膜ではなく、互いに分離した複数の凸部41からなるパターンで形成することで、個々の凸部41の伸縮がスムーズに起こるので、より大きな変位量が得られ、好ましい。
基板20としては特に制限なく、シリコン、ガラス、ステンレス(SUS)、イットリウム安定化ジルコニア(YSZ)、アルミナ、サファイヤ、シリコンカーバイド等の基板が挙げられる。基板20としては、シリコン基板の表面にSiO酸化膜が形成されたSOI基板等の積層基板を用いてもよい。
下部電極30の主成分としては特に制限なく、Au,Pt,Ir,IrO,RuO,LaNiO,及びSrRuO等の金属又は金属酸化物、及びこれらの組合せが挙げられる。
上部電極50の主成分としては特に制限なく、下部電極30で例示した材料、Al,Ta,Cr,及びCu等の一般的に半導体プロセスで用いられている電極材料、及びこれらの組合せが挙げられる。
下部電極30と上部電極50の厚みは特に制限なく、例えば200nm程度である。強誘電体膜40の膜厚は特に制限なく、通常1μm以上であり、例えば1〜5μmである。強誘電体膜40の膜厚は3μm以上が好ましい。
インクジェット式記録ヘッド(液体吐出装置)3は、概略、上記構成の圧電素子2の基板20の下面に、振動板60を介して、インクが貯留されるインク室(液体貯留室)71及びインク室71から外部にインクが吐出されるインク吐出口(液体吐出口)72を有するインクノズル(液体貯留吐出部材)70が取り付けられたものである。インク室71は、強誘電体膜40の凸部41の数及びパターンに対応して、複数設けられている。
インクジェット式記録ヘッド3では、圧電素子2の凸部41に印加する電界強度を凸部41ごとに増減させてこれを伸縮させ、これによってインク室71からのインクの吐出や吐出量の制御が行われる。
基板20とは独立した部材の振動板60及びインクノズル70を取り付ける代わりに、基板20の一部を振動板60及びインクノズル70に加工してもよい。例えば、基板20がSOI基板等の積層基板からなる場合には、基板20を裏面側からエッチングしてインク室71を形成し、基板自体の加工により振動板60及びインクノズル70とを形成することができる。
本実施形態の圧電素子2及びインクジェット式記録ヘッド3は、以上のように構成されている。
「インクジェット式記録装置」
図10及び図11を参照して、上記実施形態のインクジェット式記録ヘッド3を備えたインクジェット式記録装置の構成例について説明する。図10は装置全体図であり、図11は部分上面図である。
図示するインクジェット式記録装置100は、インクの色ごとに設けられた複数のインクジェット式記録ヘッド(以下、単に「ヘッド」という)3K,3C,3M,3Yを有する印字部102と、各ヘッド3K,3C,3M,3Yに供給するインクを貯蔵しておくインク貯蔵/装填部114と、記録紙116を供給する給紙部118と、記録紙116のカールを除去するデカール処理部120と、印字部102のノズル面(インク吐出面)に対向して配置され、記録紙116の平面性を保持しながら記録紙116を搬送する吸着ベルト搬送部122と、印字部102による印字結果を読み取る印字検出部124と、印画済みの記録紙(プリント物)を外部に排紙する排紙部126とから概略構成されている。
印字部102をなすヘッド3K,3C,3M,3Yが、各々上記実施形態のインクジェット式記録ヘッド3である。
デカール処理部120では、巻き癖方向と逆方向に加熱ドラム130により記録紙116に熱が与えられて、デカール処理が実施される。
ロール紙を使用する装置では、図10のように、デカール処理部120の後段に裁断用のカッター128が設けられ、このカッターによってロール紙は所望のサイズにカットされる。カッター128は、記録紙116の搬送路幅以上の長さを有する固定刃128Aと、該固定刃128Aに沿って移動する丸刃128Bとから構成されており、印字裏面側に固定刃128Aが設けられ、搬送路を挟んで印字面側に丸刃128Bが配置される。カット紙を使用する装置では、カッター128は不要である。
デカール処理され、カットされた記録紙116は、吸着ベルト搬送部122へと送られる。吸着ベルト搬送部122は、ローラ131、132間に無端状のベルト133が巻き掛けられた構造を有し、少なくとも印字部102のノズル面及び印字検出部124のセンサ面に対向する部分が水平面(フラット面)となるよう構成されている。
ベルト133は、記録紙116の幅よりも広い幅寸法を有しており、ベルト面には多数の吸引孔(図示略)が形成されている。ローラ131、132間に掛け渡されたベルト133の内側において印字部102のノズル面及び印字検出部124のセンサ面に対向する位置には吸着チャンバ134が設けられており、この吸着チャンバ134をファン135で吸引して負圧にすることによってベルト133上の記録紙116が吸着保持される。
ベルト133が巻かれているローラ131、132の少なくとも一方にモータ(図示略)の動力が伝達されることにより、ベルト133は図10上の時計回り方向に駆動され、ベルト133上に保持された記録紙116は図10の左から右へと搬送される。
縁無しプリント等を印字するとベルト133上にもインクが付着するので、ベルト133の外側の所定位置(印字領域以外の適当な位置)にベルト清掃部136が設けられている。
吸着ベルト搬送部122により形成される用紙搬送路上において印字部102の上流側に、加熱ファン140が設けられている。加熱ファン140は、印字前の記録紙116に加熱空気を吹き付け、記録紙116を加熱する。印字直前に記録紙116を加熱しておくことにより、インクが着弾後に乾きやすくなる。
印字部102は、最大紙幅に対応する長さを有するライン型ヘッドを紙送り方向と直交方向(主走査方向)に配置した、いわゆるフルライン型のヘッドとなっている(図11を参照)。各印字ヘッド3K,3C,3M,3Yは、インクジェット式記録装置100が対象とする最大サイズの記録紙116の少なくとも一辺を超える長さにわたってインク吐出口(ノズル)が複数配列されたライン型ヘッドで構成されている。
記録紙116の送り方向に沿って上流側から、黒(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の順に各色インクに対応したヘッド3K,3C,3M,3Yが配置されている。記録紙116を搬送しつつ各ヘッド3K,3C,3M,3Yからそれぞれ色インクを吐出することにより、記録紙116上にカラー画像が記録される。
印字検出部124は、印字部102の打滴結果を撮像するラインセンサ等からなり、ラインセンサによって読み取った打滴画像からノズルの目詰まり等の吐出不良を検出する。
印字検出部124の後段には、印字された画像面を乾燥させる加熱ファン等からなる後乾燥部142が設けられている。印字後のインクが乾燥するまでは印字面と接触することは避けた方が好ましいので、熱風を吹き付ける方式が好ましい。
後乾燥部142の後段には、画像表面の光沢度を制御するために、加熱・加圧部144が設けられている。加熱・加圧部144では、画像面を加熱しながら、所定の表面凹凸形状を有する加圧ローラ145で画像面を加圧し、画像面に凹凸形状を転写する。
こうして得られたプリント物は、排紙部126から排出される。本来プリントすべき本画像(目的の画像を印刷したもの)とテスト印字とは分けて排出することが好ましい。このインクジェット式記録装置100では、本画像のプリント物と、テスト印字のプリント物とを選別してそれぞれの排出部126A、126Bへと送るために排紙経路を切り替える選別手段(図示略)が設けられている。
大きめの用紙に本画像とテスト印字とを同時に並列にプリントする場合には、カッター148を設けて、テスト印字の部分を切り離す構成とすればよい。
インクジェット記記録装置100は、以上のように構成されている。
(設計変更)
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、適宜設計変更可能である。
本発明に係る実施例について説明する。
(実施例1)
6インチのSOI基板上に、スパッタ法にて、10nm厚のTi密着層と150nm厚のIr下部電極が順次積層された電極付き基板を用意した。
次いで真空度0.5Pa、Ar/O混合雰囲気(O体積分率1.0%)、成膜温度525℃の条件下で、ターゲット組成を変えて、Bi添加量(Aサイト中のモル濃度)の異なる5種のBi,Nb共ドープPZT強誘電体膜の成膜を実施した。以降、Bi,Nb共ドープPZT強誘電体膜は「Bi,Nb−PZT膜」と略記する。
このとき、基板を浮遊状態にして、ターゲットと基板との間ではない基板から離れたところにアースを配して成膜した。成膜時のプラズマ電位Vsとフローティング電位(基板近傍(=基板から約10mm)の電位)Vfを測定したところ、Vs−Vf(V)=約12であった。投入電力は500W、基板ターゲット間距離を60mm、いずれのターゲットも、Zr:Tiモル比=52:48とした。
得られた膜の組成を誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma:ICP)分析により求めたところ、Nb添加量はいずれも12%(z=0.12),Bi添加量xはx=0.02,0.04,0.08,0.10であり、膜厚はいずれも4μmであった。
次いで、上記各Bi,Nb−PZT膜上にPt上部電極をスパッタリング法にて100nm厚で形成し、リフトオフによりパターニングし、更にSOI基板の裏面側をドライエッチングして500μm角のインク室を形成し、基板自体の加工により6μm厚の振動板とインク室及びインク吐出口を有するインクノズルとを形成して、本発明のインクジェット式記録ヘッドを得た。
各強誘電体膜の変位をレーザドップラー振動計にて測定し、圧電定数d31をANSYSにて計算した(共振点から求めたヤング率は50MPaとした)。その結果を表1に示す。表1において、d31(+)とは、上部電極に正電圧を印加した際の圧電定数、d31(−)とは、上部電極に負電圧を印加した際の圧電定数を示している(印加電圧±20V)。
表1には、Bi添加によりd31(+)/d31(−)がほぼ1となっていることが示されている。Biが添加されたいずれの場合においても、正電界駆動の圧電定数d31(+)は100pm/V以上であり、良好な圧電特性を示すことが確認された。
得られた強誘電体膜に対して電圧を印加して、バイポーラ分極−電界特性(PEヒステリシス特性)を測定した。測定を周波数5Hzの条件で最大印加電圧をV=150kV/cmに設定して実施したところ、いずれのBi,Nb−PZT膜においても、PEヒステリシス曲線の非対称性が改善されていることが確認された。一例として、図12に、表1において最も高いd31(+)値を示したx=0.04のBi,Nb−PZT膜のPEヒステリシス特性を図12に示す。
(比較例1)
Bi添加量をx=0とした以外は実施例1と同様にしてNb―PZT膜を備えたインクジェット式記録ヘッドを作成し、実施例1と同様の評価を行った。その結果を図12及び表1に示す。
図12には、Nb−PZT膜のバイポーラ電界曲線が正電界側に大きく偏っており、非対称であることが示されている。また表1には、Biを添加していないNb−PZT膜においては、d31(−)は250pm/Vと非常に高い値を示しているが、d31(+)は90pm/Vと低い値となることが示されている。上記したように、インクジェット式記録ヘッド用途の圧電膜では、良好に安定してインクを吐出するためには、d31が100pm/V以上必要とされていることから、Nb−PZT膜では、正電界駆動では充分な変位が得られないことがわかった。
(比較例2)
Bi添加量をx=0.12(Bi:Nb=1:1)とした以外は実施例1と同様にしてBi,Nb―PZT膜を備えたインクジェット式記録ヘッドを作成し、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。
表1に示されるように、x=0.12(Bi:Nb=1:1)とした系では、Bi添加によりPEヒステリシスの非対称性は改善されたものの、圧電定数はd31(−)及びd31(+)ともに90pm/Vと低い値であった。
(評価)
図12より、Bi添加によりPEヒステリシスの非対称性が改善されることが確認された。また表1より、Bi添加によりd31(+)/d31(−)の値もほぼ1とすることができ、更にx=0.04とした系では、d31(+)=190pm/Vと非常に高い正電界駆動の圧電定数を実現することができた。
図13は、図12に示されるNb−PZT膜とBi,Nb―PZT膜を備えたインクジェット式記録ヘッドに対して実際に電圧を印加した時の変位の変化を示したものである。測定では、いずれの場合も、正電界から印加を開始し、ある電圧まで印加した後に徐々に電圧を下げて行き、負電界をある電圧まで印加した後電界を徐々に上げて0Vとなるまで測定した。
図13に示されるように、Nb−PZT膜の方は、負電界側は、良好な変位特性をしめしているが、正電界をかけていくと負の変位を示し、印加電圧が20V付近でようやく分極が反転して正の変位を生じており、更に、電界を正電界から0に戻す過程においてももう一度分極が反転して戻ってしまっている。図13には、このNb−PZT膜は圧電素子の実用駆動電圧である30V未満の範囲においては、正電界駆動では充分な変位を得ることができないことが示されている。
一方、Bi.Nb−PZT膜の方は、正電界をかけていくとNb−PZTと同様にはじめは負の変位を示すが、印加電圧が12V付近で分極が反転して正の変位を生じており、更に、電界を正電界から0に戻す過程においても分極が反転していない。従って、図13から、このBi,Nb−PZT膜は、圧電素子の実用駆動電圧の範囲において充分な変位を得るものであることが確認された。
更に、添加したBiとNbの添加量を1:1とした系では、圧電特性が低下していることも確認された。これは先に述べたようにBiNbOの共存によるものと考えられる。従って、Bi添加量がNb添加量より少なくすることにより、圧電特性を低下させることなく、正電圧駆動においても100pm/V以上の圧電定数を得られると考えられる。
(実施例2)
Aサイト元素の置換イオンをLa,Nd,Ba,Srとした以外は実施例1と同様にしてLa,Nb共ドープPZT強誘電体膜(La,Nb−PZT膜)、Nd,Nb共ドープPZT強誘電体膜(Nd,Nb−PZT膜)、Ba,Nb共ドープPZT強誘電体膜(Ba,Nb−PZT膜)、Sr,Nb共ドープPZT強誘電体膜(Sr,Nb−PZT強誘電体膜)を備えたインクジェット式記録ヘッドを作製した。各Aサイト元素の添加量xは0.04とした。
得られた4種類のインクジェット式記録ヘッドを用いて、実施例1と同様に各強誘電体膜の圧電定数を測定した結果を表2に示す。表2に示されるように、どの強誘電体膜においても、圧電定数は正電圧駆動と負電圧駆動での差はほとんど見られず、100pm/V以上の圧電定数を得られることが確認された。
Figure 2009293130
Figure 2009293130
本発明の強誘電体膜は、インクジェット式記録ヘッド,磁気記録再生ヘッド,MEMS(Micro Electro-Mechanical Systems)デバイス,マイクロポンプ,超音波探触子等に搭載される圧電アクチュエータ、及び強誘電体メモリ等の強誘電体素子に好ましく利用できる。
2 圧電素子(強誘電体素子)
3、3K,3C,3M,3Y インクジェット式記録ヘッド(液体吐出装置)
20 基板
30、50 電極
40 強誘電体膜(圧電体膜)
70 インクノズル(液体貯留吐出部材)
71 インク室(液体貯留室)
72 インク吐出口(液体吐出口)
100 インクジェット式記録装置

Claims (12)

  1. 下記式(P)で表されることを特徴とするペロブスカイト型酸化物。
    (Pb1−x+δ)(ZrTi1−y1−zNb・・・(P)
    (式中、Pb及びAはAサイト元素であり、AはBi,La,Nd,Ba,及びSrからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素である。Zr,Ti及びNbはBサイト元素である。
    0.01<x≦0.4。
    0<y≦0.7。
    0.1≦z≦0.4。
    0.01<x<z。
    δ=0及びw=3が標準であるが、これらの値はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準値からずれてもよい。)
  2. 前記式(P)中のAサイト元素AがBiであることを特徴とする請求項に記載のペロブスカイト型酸化物。
  3. 前記式(P)中のδが、0<δ≦0.2の範囲内にあることを特徴とする請求項1又は2に記載のペロブスカイト型酸化物。
  4. Si,Geを実質的に含まないことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のペロブスカイト型酸化物。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載のペロブスカイト型酸化物を含むことを特徴とする強誘電体膜。
  6. 3.0μm以上の膜厚を有することを特徴とする請求項5に記載の強誘電体膜。
  7. 非熱平衡プロセスにより成膜されたものであることを特徴とする請求項5又は6に記載の強誘電体膜。
  8. スパッタ法により成膜されたものであることを特徴とする請求項7に記載の強誘電体膜。
  9. 多数の柱状結晶からなる膜構造を有することを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載の強誘電体膜。
  10. 請求項9に記載の強誘電体膜であって、該強誘電体膜の前記柱状結晶の結晶成長方向に対して下方の表面に下部電極を形成し、該下部電極と反対側の表面に上部電極を形成して前記強誘電体膜に電圧を印加することにより測定される前記強誘電体膜の圧電定数が、下記式を充足することを特徴とする強誘電体膜。
    d31(+)/d31(−)>0.5
    (式中、d31(+)は前記上部電極にプラス電圧を印加した時に得られる前記圧電体膜の圧電定数、d31(−)は前記上部電極にマイナス電圧を印加した時に得られる前記圧電体膜の圧電定数である。)
  11. 請求項5〜10のいずれかに記載の強誘電体膜と、該強誘電体膜に対して電界を印加する電極とを備えたことを特徴とする強誘電体素子。
  12. 請求項11に記載の強誘電体素子からなる圧電素子と、該圧電素子に一体的にまたは別体として設けられた液体吐出部材とを備え、
    該液体吐出部材は、液体が貯留される液体貯留室と、該液体貯留室から外部に前記液体が吐出される液体吐出口とを有するものであることを特徴とする液体吐出装置。
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