JP2009235447A - 電装・補機用軸受部品、電装・補機用転がり軸受および電装・補機 - Google Patents

電装・補機用軸受部品、電装・補機用転がり軸受および電装・補機 Download PDF

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Abstract

【課題】水素脆性剥離の発生を抑制し、かつ寸法安定性を向上させることが可能な電装・補機用転がり軸受、電装・補機用軸受部品および耐久性に優れた電装・補機を提供する。
【解決手段】オルタネータ用軸受を構成する外輪11、内輪12および玉13は、0.7〜1.2%の炭素と、0.1〜1.1%の珪素と、0.25〜1.5%のマンガンとを含有し、残部鉄および不純物からなる鋼から構成されている。そして、外輪転走面11A、内輪転走面12Aおよび玉転走面13Aを含む領域には、外輪窒素富化層11B、内輪窒素富化層12Bおよび玉窒素富化層13Bがそれぞれ形成されている。さらに、外輪窒素富化層11B、内輪窒素富化層12Bおよび玉窒素富化層13Bは、ベイナイト組織を含み、残留オーステナイト量が5体積%以下に抑制されている。
【選択図】図3

Description

本発明は電装・補機用軸受部品、電装・補機用転がり軸受および電装・補機に関し、より特定的には、自動車などの電装・補機において、回転駆動される回転部材を、当該回転部材に隣接して配置される部材に対して回転自在に支持する電装・補機用転がり軸受、これを構成する電装・補機用軸受部品および当該電装・補機用転がり軸受を備えた電装・補機に関するものである。
自動車のオルタネータ、ファンカップリング、プーリ(アイドラプーリ、テンションプーリなど)のような電装・補機に用いられる転がり軸受(電装・補機用転がり軸受)には、エンジンの回転に対応した急激な加減速や振動が作用する。また、エンジンの近傍に配置される電装・補機用転がり軸受は、100℃以上200℃以下程度の温度域である準高温環境下で使用されることとなる。このような苛酷な条件下で用いられる結果、電装・補機用転がり軸受においては、使用中に転走面に早期に剥離が発生し、当該剥離の起点付近に白層と呼ばれる組織が観察される場合がある。
一方、白層が発生した転がり軸受を構成する軸受部品としての軌道輪や転動体においては、当該軸受部品を構成する鋼中の水素含有量が明確に増加している。このことから、上述の白層の発生を伴った剥離による軸受の損傷には、水素が関与していると考えられる。本明細書、要約書、特許請求の範囲においては、上述の白層を伴った特異な剥離を水素脆性剥離と呼ぶ。
上述の急激な加減速や振動が作用するとともに、準高温環境下で使用されるため、電装・補機用転がり軸受においては、グリースなどの潤滑剤の劣化が進む。その結果、電装・補機用転がり軸受においては、軌道輪などの軌道部材と玉などの転動体との間に金属接触が生じ、軌道部材および転動体の表面に微小摩耗が生じる。この微小摩耗により生じた化学的に活性な金属新生面を触媒として潤滑剤が分解される。そして、これにより発生した水素が軸受部品を構成する鋼中に侵入することにより、上記水素脆性剥離は発生すると考えられる。
これに対し、クロムを多量に添加することにより耐熱性を向上させた鋼を電装・補機用軸受部品の素材として採用し、準高温環境における硬度低下を抑制することで、水素脆性剥離を抑制する提案がなされている。しかし、クロムを多量に添加した鋼からなる軸受部品は、加工や熱処理が難しく、製造コストが大幅に上昇するという問題がある。さらに、近年、クロムなどの金属の価格が高騰している。このような状況を考慮すると、電装・補機用軸受部品を構成する鋼としては、クロムなどの合金元素の添加量が抑制された鋼が採用されることが好ましい。
また、自動車などの電装・補機の高性能化に伴い、電装・補機用転がり軸受に対しては寸法精度の向上、特に使用中の寸法変化量の低減が求められている。そのため、これを構成する電装・補機用軸受部品に対しても、寸法安定性の向上が要求されている。
合金元素の添加量が抑制された鋼の準高温環境における硬度低下を抑制し、かつ寸法安定性を向上させる方法として、鋼の組織をベイナイト化する方法が知られている。ベイナイト組織は準高温環境において安定であるため、ベイナイト組織を含む機械部品は、準高温環境における硬度の低下が抑制されるとともに寸法安定性が向上する。このベイナイト組織は、上記準高温環境における硬度低下の抑制、寸法安定性の向上の他にも優れた特性を有しており、これを利用した機械部品が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
特開2001−50282号公報
しかしながら、上記ベイナイト組織は、準高温環境における硬度低下が小さいものの、焼入硬化により形成されるマルテンサイト組織に比べて硬度レベルが低いため、電装・補機用軸受部品への適用は難しいという問題があった。
そこで、本発明の目的は、準高温環境における硬度低下の抑制および硬度レベルの向上を達成することにより、水素脆性剥離の発生を抑制し、かつ寸法安定性を向上させることが可能な電装・補機用転がり軸受、これを構成する電装・補機用軸受部品および当該電装・補機用転がり軸受を備えることにより耐久性に優れた電装・補機を提供することである。
本発明の一の局面における電装・補機用軸受部品は、電装・補機において、回転駆動される回転部材を、当該回転部材に隣接して配置される部材に対して回転自在に支持する電装・補機用転がり軸受を構成する電装・補機用軸受部品である。この電装・補機用軸受部品は、0.7質量%以上1.2質量%以下の炭素と、0.1質量%以上1.1質量%以下の珪素と、0.25質量%以上1.5質量%以下のマンガンとを含有し、残部鉄および不純物からなる鋼から構成されている。表面を含む領域には、内部よりも窒素濃度が高い層である窒素富化層が形成されている。そして、窒素富化層は、ベイナイト組織を含み、残留オーステナイト量が5体積%以下に抑制されている。
上述のように、鋼をベイナイト変態させることにより形成されるベイナイト組織は、焼入硬化により形成されるマルテンサイト組織に比べて硬度レベルが低い。したがって、当該ベイナイト組織を電装・補機用軸受部品に適用するためには、ベイナイト組織の硬度レベルを向上させる必要がある。
一方、鋼の表面処理方法として、鋼をA点以上の温度において窒化することにより表面付近に窒素を侵入させた窒素富化層(鉄中に窒素を侵入させて固溶体を形成させた層)を形成する方法が知られている。ここで、鋼に窒化処理を実施した場合、鋼への窒素の侵入に起因して、硬度レベルの上昇だけでなく、鋼の組織中に含まれる残留オーステナイト量が多くなるという効果が生じる。残留オーステナイトを組織中に含む機械部品においては、使用中に当該残留オーステナイトがマルテンサイトに変態し、機械部品の表面に圧縮応力が生成する場合がある。この場合、機械部品の表層部における亀裂の発生および伝播が抑制され、機械部品の耐久性が向上するという効果を奏する。しかしながら、残留オーステナイトのマルテンサイトへの変態は体積変化を伴うため、窒化が実施された機械部品は寸法安定性が低下するという問題を生じる。そのため、窒化による鋼の表面処理は、残留オーステナイトを積極的に利用可能な機械部品、すなわち寸法安定性よりもむしろ圧縮応力の生成等の効果が重視される機械部品を構成する鋼の熱処理に適用されている。その結果、寸法安定性が重視される電装・補機用軸受部品にベイナイト組織を採用した場合、硬度レベルを向上させる手段として、窒素富化層の形成は採用されなかった。
このような従来技術の問題点に鑑み、本発明者は、電装・補機用軸受部品の準高温環境における硬度低下の抑制および寸法安定性の向上とともに、硬度レベルの向上を達成可能な構成について詳細に検討した。その結果、電装・補機用軸受部品に窒素富化層を形成した上で、残留オーステナイト量が5体積%以下となるようにベイナイト変態させることにより、十分な硬度レベルを電装・補機用軸受部品に付与しつつ準高温環境における硬度低下を抑制して、水素脆性剥離を抑制するとともに、寸法安定性の向上をも達成できることを見出した。
本発明の一の局面における電装・補機用軸受部品においては、適切な成分組成の鋼からなる電装・補機用軸受部品の表面を含む領域に窒素富化層が形成され、当該窒素富化層はベイナイト組織を含んでいる。すなわち、当該電装・補機用軸受部品においては、表層部に形成されたベイナイト組織の窒素濃度が高められている。上述のように、ベイナイト組織は電装・補機用軸受部品が使用される環境である準高温環境において安定である。そのため、本発明の一の局面における電装・補機用軸受部品においては、準高温環境における硬度の低下が抑制されている。また、当該ベイナイト組織の窒素濃度が高められていることにより、ベイナイト組織の硬度レベルが向上している。さらに、窒素富化層の残留オーステナイト量が5体積%以下に抑制されることにより、寸法安定性が向上している。その結果、本発明の一の局面における電装・補機用軸受部品によれば、準高温環境における硬度低下の抑制および硬度レベルの向上を達成することにより、水素脆性剥離の発生を抑制し、かつ寸法安定性を向上させることが可能な電装・補機用軸受部品を提供することができる。以下、鋼の成分範囲を上記の範囲に限定した理由について説明する。
炭素:0.7質量%以上1.2質量%以下
電装・補機用軸受部品を構成する鋼において、炭素が0.7質量%未満では、硬度や剛性が不十分となるおそれがある。一方、炭素が1.2質量%を超えると、鋼中に大型の鉄の炭化物が形成され、電装・補機用軸受部品の耐久性に悪影響を与えるおそれがある。したがって、炭素は0.7質量%以上1.2質量%以下とする必要がある。
珪素:0.1質量%以上1.1質量%以下
電装・補機用軸受部品を構成する鋼において、珪素が0.1質量%未満では、耐久性が低下するおそれがある。一方、珪素が1.1質量%を超えると、素材の硬度が上昇し、冷間加工性が低下するという問題が発生し得る。したがって、珪素は0.1質量%以上1.1質量%以下とする必要がある。
マンガン:0.25質量%以上1.5質量%以下
電装・補機用軸受部品を構成する鋼において、マンガンが0.25質量%未満では、耐久性が低下するおそれがある。一方、マンガンが1.5質量%を超えると、素材の硬度が上昇し冷間加工性が低下するという問題が発生し得る。したがって、マンガンは0.25質量%以上1.5質量%以下とする必要がある。
本発明の他の局面における電装・補機用軸受部品は、電装・補機において、回転駆動される回転部材を、当該回転部材に隣接して配置される部材に対して回転自在に支持する電装・補機用転がり軸受を構成する電装・補機用軸受部品である。この電装・補機用軸受部品は、0.7質量%以上1.2質量%以下の炭素と、0.1質量%以上1.1質量%以下の珪素と、0.25質量%以上1.5質量%以下のマンガンとを含有し、さらに2.0質量%以下のクロム、0.5質量%以下のモリブデンおよび0.5質量%以下のニッケルからなる群から選択される少なくとも一種以上の元素を含み、残部鉄および不純物からなる鋼から構成されている。表面を含む領域には、内部よりも窒素濃度が高い層である窒素富化層が形成されている。そして、窒素富化層は、ベイナイト組織を含み、残留オーステナイト量が5体積%以下に抑制されている。
本発明の他の局面における電装・補機用軸受部品は、基本的には上記本発明の一の局面における電装・補機用軸受部品と同様の構成を有し、同様の作用効果を奏する。しかし、本発明の他の局面における電装・補機用軸受部品では、電装・補機用軸受部品の使用環境等を考慮し、電装・補機用軸受部品を構成する鋼が、さらに2.0質量%以下のクロム、0.5質量%以下のモリブデンおよび0.5質量%以下のニッケルからなる群から選択される少なくとも一種以上の元素を含む点で、上記本発明の一の局面における電装・補機用軸受部品とは異なっている。
本発明の他の局面における電装・補機用軸受部品によれば、電装・補機用軸受部品を構成する鋼が、2.0質量%以下のクロム、0.5質量%以下のモリブデンおよび0.5質量%以下のニッケルからなる群から選択される少なくとも一種以上の元素を含むことにより、合金元素の添加量を抑制しつつ、硬度レベルをさらに向上させるとともに、準高温環境における硬度低下を一層抑制することができる。これにより、より苛酷な環境において使用可能な電装・補機用軸受部品を提供することができる。なお、硬度レベルの向上および準高温環境における硬度低下の抑制をより確実なものとするためには、クロム含有量は0.8質量%以上、モリブデン含有量は0.1質量%以上、ニッケルは0.1質量%以上とすることが望ましい。
ここで、上記一の局面および他の局面における電装・補機用軸受部品においては、窒素富化層の残留オーステナイト量は2体積%以下であることが好ましい。これにより、電装・補機用軸受部品の寸法安定性が一層向上する。また、一般に、電装・補機用軸受部品においては、当該部品の表層部、具体的には表面を含む厚み0.15mm程度の領域の強度が重要になる場合が多い。そのため、上記一の局面および他の局面における電装・補機用軸受部品においては、窒素富化層の厚みは0.15mm以上であることが好ましい。さらに、上記窒素富化層は、硬度レベルを向上させる観点から、ベイナイト組織と、マルテンサイト組織と、5体積%以下の残留オーステナイトからなっていることが好ましく、寸法安定性を向上させる観点から、ベイナイト組織が80%体積以上を占めていることが好ましい。
上記電装・補機用軸受部品において好ましくは、窒素富化層は、0.8質量%以上1.2質量%以下の炭素と、0.1質量%以上0.8質量%以下の窒素とを含んでいる。
炭素の含有量は、鋼の硬度に大きな影響を及ぼす。そして、電装・補機用軸受部品を構成する鋼の硬度は、当該部品の耐久性を支配する重要な要因の1つである。鋼中の炭素含有量が0.8質量%未満では、電装・補機用軸受部品の使用環境によっては表層部の硬度が不十分となるおそれがある。そのため、窒素富化層における炭素含有量は0.8質量%以上であることが好ましい。また、鋼中の炭素含有量が1.2質量%を超えると、鋼中に大型の鉄の炭化物が形成され、電装・補機用軸受部品の耐久性に悪影響を与えるおそれがある。そのため、窒素富化層における炭素含有量は、1.2質量%以下であることが好ましい。
一方、窒素富化層における窒素含有量が0.1質量%未満では、ベイナイト組織の硬度レベルを向上させる効果が小さくなる。そのため、窒素富化層における窒素含有量は0.1質量%以上であることが好ましい。また、鋼中の窒素含有量が0.8質量%を超えると、鋼中にボイドが形成され、当該鋼からなる電装・補機用軸受部品の耐久性を低下させるおそれがある。そのため、窒素富化層における窒素含有量は、0.8質量%以下とすることが好ましい。
本発明に従った電装・補機用転がり軸受は、軌道部材と、軌道部材に接触し、円環状の軌道上に配置される複数の転動体とを備えている。そして、軌道部材および転動体の少なくともいずれか一方は、上記本発明の電装・補機用軸受部品である。上記電装・補機用軸受部品を軌道部材および転動体の少なくともいずれか一方として備えていることにより、本発明の電装・補機用転がり軸受によれば、水素脆性剥離の発生を抑制し、かつ寸法安定性を向上させることが可能な電装・補機用転がり軸受を提供することができる。
本発明に従った電装・補機は、上記本発明の電装・補機用転がり軸受を備えている。水素脆性剥離の発生を抑制し、かつ寸法安定性を向上させることが可能な本発明の電装・補機用転がり軸受を備えていることにより、本発明の電装・補機によれば、耐久性に優れた電装・補機を提供することができる。
以上の説明から明らかなように、本発明の電装・補機用軸受部品、電装・補機用転がり軸受および電装・補機によれば、準高温環境における硬度低下の抑制および硬度レベルの向上を達成することにより、水素脆性剥離の発生を抑制し、かつ寸法安定性を向上させることが可能な電装・補機用転がり軸受、これを構成する電装・補機用軸受部品および当該電装・補機用転がり軸受を備えることにより耐久性に優れた電装・補機を提供することができる。
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰り返さない。
(実施の形態1)
図1は、本発明の一実施の形態である実施の形態1における自動車の電装・補機用転がり軸受としてのグリース封入深溝玉軸受(オルタネータ用転がり軸受)を備えたオルタネータの構成を示す概略図である。図1を参照して、実施の形態1におけるグリース封入深溝玉軸受を備えたオルタネータの構成について説明する。
図1を参照して、オルタネータ90は、円盤状の形状を有し、ロータコイル91Aが巻きつけられたロータ91と、ロータ91を取り囲むように配置されたハウジング94と、ロータ91の中央部を貫通し、かつハウジング94の壁面を貫通するロータ軸92と、ハウジング94の内部においてロータ91の外周面に対向するようにハウジング94に対して固定されて配置されたステータ93とを備えている。また、ステータ93には、たとえばロータ91の外周面に沿った周面上の120°ずつ離れた3箇所にステータコイル93Aがそれぞれ巻きつけられている。そして、ロータ軸92の外周面92Aと、外周面92Aの一部に対向して配置される部材であるハウジング94との間には、本発明の電装・補機用転がり軸受としての1対のグリース封入深溝玉軸受1が配置されている。つまり、グリース封入深溝玉軸受1は、電装・補機であるオルタネータ90において、回転駆動される回転部材としてのロータ軸92を、ロータ軸92の外周面側に隣接して配置される部材であるハウジング94に対して回転自在に支持する電装・補機用転がり軸受である。
これにより、ロータ軸92は、ハウジング94に対して軸まわりに回転自在に保持され、ロータ91は、ロータ軸92と一体に回転可能に構成されている。さらに、オルタネータ90は、ハウジング94の外部において、ロータ軸92に接続され、ロータ軸92と一体に回転可能に構成された円環状の形状を有するオルタネータプーリ99を備えている。そして、オルタネータプーリ99の外周面には、図示しない動力伝達用のベルトが掛けられるための溝部99Aが形成されている。
次に、オルタネータ90の動作について説明する。溝部99Aの形成されたオルタネータプーリ99の外周面には、エンジンなどの動力源からの動力によって回転するベルト(図示しない)が掛けられる。当該ベルトが回転することにより、オルタネータプーリ99は、ハウジング94に対してグリース封入深溝玉軸受1により支持されたロータ軸92と一体に、ロータ軸92の軸まわりに回転する。そして、ロータ91は、ロータ軸92と一体に、ロータ軸92の軸まわりに回転する。このとき、ロータ91は、ロータ91の外周面に対向し、ハウジング94に固定されて配置されたステータ93に対して相対的に回転する。その結果、ロータコイル91Aとステータコイル93Aとの間の電磁誘導作用により、ステータコイル93Aに起電力が発生する。
すなわち、実施の形態1における電装・補機用転がり軸受としてのグリース封入深溝玉軸受1は、ロータ91を回転させることによって、ロータ91の外周側に対向して配置されるステータ93のステータコイル93Aに起電力を発生させるオルタネータにおいて、ロータ91を貫通し、ロータ91と一体に回転するロータ軸92をロータ軸92の外周面に対向して配置される部材であるハウジング94に対して回転自在に支持するオルタネータ用転がり軸受である。
つまり、グリース封入深溝玉軸受1は、自動車のエンジンで発生した動力を利用して動作するオルタネータ90において、当該動力により回転駆動されるロータ軸92を、ロータ軸92に隣接して配置されるハウジング94に対して回転自在に支持する電装・補機用転がり軸受である。
次に、上記グリース封入深溝玉軸受1について説明する。図2は、実施の形態1における電装・補機用転がり軸受としてのグリース封入深溝玉軸受の構成を示す概略断面図である。また、図3は、図2の要部を拡大して示した概略部分断面図である。
図2および図3を参照して、グリース封入深溝玉軸受1は、電装・補機用軸受部品である第1軌道部材としての外輪11と、電装・補機用軸受部品である第2軌道部材としての内輪12と、電装・補機用軸受部品である複数の転動体としての玉13と、保持器14と、シール部材15とを備えている。外輪11には、円環状の第1転走面しての外輪転走面11Aが形成されている。内輪12には、外輪転走面11Aに対向する円環状の第2転走面としての内輪転走面12Aが形成されている。また、複数の玉13には、転動体転走面としての玉転走面13A(玉13の表面)が形成されている。そして、当該玉13は、外輪転走面11Aおよび内輪転走面12Aの各々に玉転走面13Aにおいて接触し、円環状の保持器14により周方向に所定のピッチで配置されることにより円環状の軌道上に転動自在に保持されている。
1対のシール部材15は、外輪11および内輪12に挟まれる空間、より具体的には外輪転走面11Aおよび内輪転走面12Aに挟まれる空間である軌道空間を閉じるように、外輪11と内輪12との間において、外輪11および内輪12の幅方向の両端部のそれぞれに配置されている。以上の構成により、グリース封入深溝玉軸受1の外輪11および内輪12は、互いに相対的に回転可能となっている。また、上記軌道空間には、グリース組成物16が封入されている。
さらに、図2および図3を参照して、電装・補機用軸受部品としての外輪11、内輪12および玉13は、0.7質量%以上1.2質量%以下の炭素と、0.1質量%以上1.1質量%以下の珪素と、0.25質量%以上1.5質量%以下のマンガンとを含有し、残部鉄および不純物からなる鋼から構成されている。そして、図3を参照して、外輪11、内輪12および玉13の表面である外輪転走面11A、内輪転走面12Aおよび玉転走面13Aを含む領域には、内部11C,12C,13Cよりも窒素濃度が高い層である外輪窒素富化層11B、内輪窒素富化層12Bおよび玉窒素富化層13Bがそれぞれ形成されている。さらに、外輪窒素富化層11B、内輪窒素富化層12Bおよび玉窒素富化層13Bは、ベイナイト組織を含み、残留オーステナイト量が5体積%以下に抑制されている。ここで、上記不純物は、鋼の原料に由来するもの、あるいは製造工程において混入するものなどの不可避的不純物を含む。
本実施の形態における電装・補機用軸受部品である外輪11、内輪12および玉13においては、上記適切な成分組成を有する鋼からなるとともに、表面に形成された外輪転走面11A、内輪転走面12Aおよび玉転走面13Aを含む領域に、それぞれ外輪窒素富化層11B、内輪窒素富化層12Bおよび玉窒素富化層13Bが形成されている。そして、外輪窒素富化層11B、内輪窒素富化層12Bおよび玉窒素富化層13Bは、ベイナイト組織を含んでいる。すなわち、外輪11、内輪12および玉13においては、表層部に形成されたベイナイト組織の窒素濃度が、外輪窒素富化層11B、内輪窒素富化層12Bおよび玉窒素富化層13Bにより高められている。そのため、外輪11、内輪12および玉13においては、準高温環境における表層部の硬度の低下が抑制されるとともに、硬度レベルが向上している。さらに、外輪窒素富化層11B、内輪窒素富化層12Bおよび玉窒素富化層13Bの残留オーステナイト量が5体積%以下に抑制されることにより、寸法安定性が向上している。その結果、外輪11、内輪12および玉13は、準高温環境における硬度低下の抑制および硬度レベルの向上を達成することにより、水素脆性剥離の発生を抑制し、かつ寸法安定性を向上させることが可能な電装・補機用軸受部品となっている。
また、本実施の形態の電装・補機用転がり軸受としてのグリース封入深溝玉軸受1は、水素脆性剥離の発生を抑制し、かつ寸法安定性を向上させることが可能な電装・補機用転がり軸受となっている。さらに、本実施の形態の電装・補機としてのオルタネータ90は、上記グリース封入深溝玉軸受1を備えることにより、耐久性に優れたオルタネータとなっている。
ここで、上記外輪11、内輪12および玉13は、上記鋼に代えて、0.7質量%以上1.2質量%以下の炭素と、0.1質量%以上1.1質量%以下の珪素と、0.25質量%以上1.5質量%以下のマンガンとを含有し、さらに2.0質量%以下のクロム、0.5質量%以下のモリブデンおよび0.5質量%以下のニッケルからなる群から選択される少なくとも一種以上の元素を含み、残部鉄および不純物からなる鋼から構成されていてもよい。これにより、合金元素の添加量を抑制しつつ、硬度レベルをさらに向上させるとともに、準高温環境における硬度低下を一層抑制することで、より苛酷な環境において使用可能な電装・補機用軸受部品を提供ことができる。
さらに、外輪窒素富化層11B、内輪窒素富化層12Bおよび玉窒素富化層13Bは、0.8質量%以上1.2質量%以下の炭素と、0.1質量%以上0.8質量%以下の窒素とを含んでいることが好ましい。これにより、表層部、特に外輪転走面11A、内輪転走面12Aおよび玉転走面13Aにおける硬度を十分に確保しつつ、過剰な炭素による大型の炭化物の形成や過剰な窒素によるボイドの形成を抑制し、外輪11、内輪12および玉13の耐久性を向上させることができる。
次に、本実施の形態における電装・補機用軸受部品、電装・補機用転がり軸受およびこれを備えた電装・補機の製造方法について説明する。図4は、実施の形態1における電装・補機用軸受部品、電装・補機用転がり軸受およびこれを備えた電装・補機の製造方法の概略を示す図である。
図4を参照して、本実施の形態における電装・補機用軸受部品、電装・補機用転がり軸受およびこれを備えた電装・補機の製造方法では、まず、工程(S100)として、鋼材準備工程が実施される。具体的には、この工程(S100)では、0.7質量%以上1.2質量%以下の炭素と、0.1質量%以上1.1質量%以下の珪素と、0.25質量%以上1.5質量%以下のマンガンとを含有し、さらに2.0質量%以下のクロム、0.5質量%以下のモリブデンおよび0.5質量%以下のニッケルからなる群から選択される少なくとも一種以上の元素を含み、残部鉄および不純物からなる鋼、たとえばJIS規格SUJ2、SUJ3、SUJ5などの高炭素クロム軸受鋼からなる棒鋼、鋼線などが準備される。なお、工程(S100)においては、0.7質量%以上1.2質量%以下の炭素と、0.1質量%以上1.1質量%以下の珪素と、0.25質量%以上1.5質量%以下のマンガンとを含有し、残部鉄および不純物からなる鋼からなる棒鋼、鋼線などが準備されてもよい。
次に、工程(S200)として、成形工程が実施される。具体的には、工程(S200)では、工程(S100)において準備された鋼材に対して、切断、鍛造、旋削などの加工が実施されることにより、当該鋼材が電装・補機用軸受部品としての外輪11、内輪12、玉13などの概略形状に成形される。この工程(S100)および(S200)は、鋼からなり、電装・補機用軸受部品の概略形状に成形された鋼部材を準備する鋼部材準備工程を構成する。
次に、工程(S300)として実施される窒化工程、および工程(S400)として実施されるベイナイト変態工程を含む熱処理工程が実施される。この熱処理工程の詳細については後述する。
次に、工程(S500)として、熱処理工程が実施された鋼部材に対して、仕上げ加工などが施される仕上げ工程が実施される。具体的には、たとえば、熱処理工程が実施された鋼部材の外輪転走面11A、内輪転走面12A、玉転走面13Aなどに対する研磨加工が実施される。これにより、本実施の形態における電装・補機用軸受部品は完成し、本実施の形態における電装・補機用軸受部品の製造方法は完了する。
さらに、工程(S600)として、電装・補機用転がり軸受および電装補機が組立てられる組立て工程が実施される。具体的には、上述の工程により製造された本実施の形態における電装・補機用軸受部品である、外輪11、内輪12、玉13と保持器14とが組合わされて、グリース封入深溝玉軸受1が組立てられる。これにより、本実施の形態における電装・補機用転がり軸受が完成する。さらに、当該グリース封入深溝玉軸受1が、ロータ軸92をハウジング94に対して回転自在に支持可能な位置に組み込むことにより、本実施の形態における電装・補機としてのオルタネータ90が完成する。
次に、上記熱処理工程の詳細について説明する。図5は、本実施の形態における電装・補機用軸受部品の製造方法に含まれる熱処理工程の詳細を説明するための図である。図5において、横方向は時間を示しており右に行くほど時間が経過していることを示している。また、図5において、縦方向は温度を示しており上に行くほど温度が高いことを示している。
図4を参照して、本実施の形態における熱処理工程においては、まず、被処理物としての鋼部材が窒化処理される窒化工程(工程(S300))が実施される。具体的には、図5を参照して、たとえば鋼部材が一酸化炭素と水素とを含む浸炭ガスとアンモニアガスとの混合雰囲気中でA変態点以上の温度である温度Tに加熱され、時間tの間保持されることにより、鋼部材の表層部における脱炭が抑制されつつ、あるいは鋼部材の表層部に炭素が侵入しつつ、鋼部材の表層部に窒素が侵入する。これにより、鋼部材の表面を含む領域に、当該表面を含む領域以外の領域である内部領域に比べて窒素濃度の高い窒化層が形成される。この窒化層は、上記本実施の形態における外輪窒素富化層11B、内輪窒素富化層12B、玉窒素富化層13Bに相当する。
次に、図5を参照して、窒化処理が終了した鋼部材が、A点以上の温度から窒素富化層のM点以上M点よりも50℃高い温度以下の温度である温度Tに冷却される冷却工程が実施される。具体的には、窒化処理が実施された鋼部材が、たとえばソルト浴に浸漬され、温度Tに冷却される。この冷却工程における鋼部材の冷却は、鋼部材がパーライト変態しない冷却速度で実施される。鋼部材がパーライト変態しない冷却速度は、たとえば鋼部材を構成する鋼のCCT(Continuous Cooling Transformation;連続冷却変態)線図を考慮して決定することができる。
次に、図5を参照して、鋼部材が温度Tに保持されるベイナイト変態工程(工程(S400))が実施される。具体的には、工程(S400)では、冷却工程において温度Tに冷却された鋼部材が、温度Tに時間tの間保持されることにより、当該鋼部材に形成された窒素富化層(外輪窒素富化層11B、内輪窒素富化層12B、玉窒素富化層13B)がベイナイト変態し、ベイナイト組織が形成される。その後、鋼部材が窒素富化層のM点以下の温度に、たとえば空冷されることにより、本実施の形態における熱処理工程は完了する。ここで、温度T、Tおよび時間t、tは、鋼部材の組成や当該熱処理工程が適用される電装・補機用軸受部品の使用環境等に合わせて決定することができるが、たとえば温度Tは800℃以上950℃以下、Tは180℃以上250℃以下、時間tは0.5時間以上6時間以下、時間tは0.5時間以上6時間以下とすることができる。
以上の熱処理工程を含む製造方法により、上記実施の形態におけるグリース封入深溝玉軸受1を構成する外輪11、内輪12、玉13を製造することができる。
ここで、A点とは鋼を加熱した場合に、鋼の組織がフェライトからオーステナイトに変態を開始する温度に相当する点をいう。また、M点とはオーステナイト化した鋼が冷却される際に、マルテンサイト化を開始する温度に相当する点をいう。
また、窒素富化層をベイナイト変態させる工程において鋼が保持される上記温度(以下、ベイナイト変態温度という)がM点よりも50℃高い温度を超えると、鋼の硬度が低くなり、電装・補機用軸受部品として使用した場合の耐久性が低下するおそれがある。そのため、ベイナイト変態温度はM点よりも50℃高い温度以下とする必要があり、30℃高い温度以下とすることが望ましい。一方、鋼がM点以下の温度に冷却されると、当該鋼はマルテンサイト変態する。そのため、ベイナイト変態温度はM点よりも高いことが必要であるが、温度制御の精度等を考慮し、M点よりも10℃高い温度以上とすることが好ましい。
さらに、窒素富化層の残留オーステナイト量が5体積%以下となるように窒素富化層をベイナイト変態させるためには、A点以上の温度に加熱した鋼をベイナイト変態温度に十分な時間保持する必要がある。当該保持時間は、ベイナイト変態温度および鋼の成分組成などの条件により変化するため、当該条件に合わせて設定する必要があるが、上記成分組成の鋼において、残留オーステナイト量を5体積%以下とするためには、60分間以上とすることが好ましく、120分間以上とすることにより、残留オーステナイト量を、より好ましい範囲である2体積%以下に低減することができる。また、ベイナイト変態温度に鋼が保持される際、当該鋼の温度は、上記温度の範囲において変動してもよいが、残留オーステナイト量を容易に制御したい場合、一定の温度とすることが望ましい。さらに、窒素富化層が形成された後、A点からベイナイト変態温度までの冷却速度は、強度の低いパーライトの生成を抑制する観点から、パーライト変態を抑制可能な冷却速度とすることが好ましく、具体的にはA点から500℃までの冷却速度を200℃/秒以上とすることが好ましい。
また、上記窒素富化層を形成する工程において鋼に対して実施される窒化は、鋼からの炭素の離脱(脱炭)を抑制しつつ窒素を侵入させる窒素富化処理であってもよいし、鋼に対して窒素とともに炭素を侵入させる浸炭窒化処理であってもよい。より具体的には、非処理物である鋼の炭素含有量が所望の表面硬度を確保するために十分な場合、たとえば鋼の炭素含有量が1質量%以上である場合、脱炭を抑制しつつ窒素を侵入させる窒素富化処理とし、鋼の炭素含有量が1質量%未満である場合、窒素富化と同時に浸炭を実施する浸炭窒化処理を採用することができる。
(実施の形態2)
図6は、本発明の一実施の形態である実施の形態2における電装・補機用転がり軸受としてのグリース封入深溝玉軸受(プーリ用転がり軸受)を備えたプーリを示す概略図である。図6を参照して、実施の形態2におけるグリース封入深溝玉軸受を備えたプーリの構成について説明する。
図6を参照して、自動車の補機駆動ベルトのテンションプーリまたは/およびアイドラプーリとして使用されるプーリ110は、動力伝達用のベルトである補機駆動ベルト(図示しない)が接触するための外周面111Aを有し、かつ中央部にシャフト119が貫通するための貫通穴の形成された円環状の形状を有するプーリ本体111と、貫通穴の内周面111Bに接触して嵌め込まれた電装・補機用転がり軸受としてのグリース封入深溝玉軸受1(プーリ用転がり軸受としての単列深溝玉軸受)とを備えている。
より具体的には、プーリ本体111は、内周面に貫通穴を有する円筒状の内周円筒部111Cと、内周円筒部111Cの幅方向(軸方向)における一方の端部から径方向外側に延びるフランジ部111Dと、フランジ部111Dから幅方向(軸方向)に延びる外周円筒部111Eと、内周円筒部111Cの幅方向(軸方向)における他方の端部から径方向内側に延びる鍔部111Fとを含んでいる。また、グリース封入深溝玉軸受1は、図2および図3に基づいて説明したオルタネータ用転がり軸受であるグリース封入深溝玉軸受1と同様の構成を有している。そして、外輪11がプーリ本体111の内周円筒部111Cおよび鍔部111Fに接触するように嵌め込まれている。
ここで、グリース封入深溝玉軸受1の内輪12の内周面に接触するように、シャフト119が嵌め込まれていることにより、シャフト119とプーリ本体111とは軸まわりに相対的に回転可能となっており、プーリ本体111の外周面111Aに接触する図示しない補機駆動ベルトは、回転可能となっている。これにより、プーリ110は、補機駆動ベルトが掛けられる軸同士の距離が固定されているような場合に、当該補機駆動ベルトに外周面111Aにおいて接触し、補機駆動ベルトに張力を付与するテンショナーとしての機能と、障害物となるエンジンルーム内の各種装置との接触の回避等の目的で、補機駆動ベルトの走行方向を変えるためのアイドラーとしての機能との一方または両方を果たすことができる。
すなわち、実施の形態2におけるグリース封入深溝玉軸受1は、図6を参照して、動力を伝達するための図示しないベルトが掛けられて回転するプーリ本体111の内部を貫通するプーリ軸としてのシャフト119と、プーリ本体111との間に配置され、プーリ本体111をシャフト119に対して回転自在に支持するプーリ用転がり軸受である。
つまり、グリース封入深溝玉軸受1は、自動車のエンジンで発生した動力を利用して動作するプーリ110において、当該動力により回転駆動されるプーリ本体111を、プーリ本体111に隣接して(プーリ本体111を貫通して)配置されるシャフト119に対して回転自在に支持する電装・補機用転がり軸受である。
ここで、本実施の形態の外輪11、内輪12および玉13は、図2および図3に基づいて説明したオルタネータ用転がり軸受であるグリース封入深溝玉軸受1の外輪11、内輪12および玉13と同様の構成を有しているため、準高温環境における硬度低下の抑制および硬度レベルの向上を達成することにより、水素脆性剥離の発生を抑制し、かつ寸法安定性を向上させることが可能な電装・補機用軸受部品となっている。
また、本実施の形態の電装・補機用転がり軸受としてのグリース封入深溝玉軸受1は、水素脆性剥離の発生を抑制し、かつ寸法安定性を向上させることが可能な電装・補機用転がり軸受となっている。さらに、本実施の形態の電装・補機としてのプーリ110は、上記グリース封入深溝玉軸受1を備えることにより、耐久性に優れたプーリとなっている。
なお、本実施の形態のグリース封入深溝玉軸受1は、実施の形態1において説明したオルタネータ用転がり軸受としてのグリース封入深溝玉軸受1と同様の製造方法により製造することができる。また、本実施の形態におけるプーリ110は、グリース封入深溝玉軸受1を、プーリ軸としてのシャフト119と、プーリ本体111との間に組み込むことにより、製造することができる。
(実施の形態3)
図7は、本発明の一実施の形態である実施の形態3における電装・補機用転がり軸受としてのグリース封入深溝玉軸受(ファンカップリング用転がり軸受)を備えたファンカップリングを示す概略図である。また、図8は、実施の形態3におけるグリース封入深溝玉軸受を備えたファンカップリングの動作を説明するための概略図である。図7および図8を参照して、実施の形態3におけるグリース封入深溝玉軸受を備えたファンカップリングについて説明する。
図7を参照して、ファンカップリング120は、自動車のラジエータに風を送ることにより、ラジエータ内の冷却水の温度を低下させるためのファン132と、当該ファン132を駆動するための部材であり、エンジンの動力により回転するロータ131との間に介在し、ファンの回転数を制御するカップリング(継ぎ手)である。
このファンカップリング120は、外周面に翼部が形成された円環状のファン132において、当該ファン132の回転軸を含む部位に形成された貫通穴の内周面に、外周面において接触するように嵌め込まれた円盤状のケース121と、図示しないエンジンの動力によりファン132の回転軸と共通の軸周りに回転駆動され、かつケース121の側壁に形成された貫通穴121Aを貫通するロータ131の外周面に内輪12が嵌め込まれるとともに、外輪11がケース121の貫通穴121Aの内周面に嵌め込まれたグリース封入深溝玉軸受1(ファンカップリング用転がり軸受)とを備えている。これにより、グリース封入深溝玉軸受1の外輪はケース121と一体に、内輪はロータ131と一体に回転可能に構成されている。また、グリース封入深溝玉軸受1は、図2および図3に基づいて説明したオルタネータ用転がり軸受であるグリース封入深溝玉軸受1と同様の構成を有している。
ケース121の内部には、シリコーン油などの粘性流体が充填されたオイル室122と、オイル室122に隣接する撹拌室123とが形成されている。撹拌室123には、外周面にフィン129Aが形成された円盤状のドライブディスク129が配置されている。ドライブディスク129は、中心を含む部位に貫通穴が形成されており、当該貫通穴の内周面においてロータ131の外周面に接触するように、ロータ131に嵌め込まれている。これにより、ドライブディスク129は、ロータ131と一体に、ファン132およびロータ131と共通の回転軸において、軸周りに回転可能に構成されている。
オイル室122と撹拌室123との間には、仕切板124が配置されており、仕切板124には、オイル室122と撹拌室123とを連通する貫通穴であるポート125が形成されている。さらに、オイル室122には、一端において仕切板124に取り付けられ、他端においてポート125に重なるように構成された板状のスプリング126が配置されている。さらに、ケース121の前面側(仕切板124からみてオイル室122側の外壁の外側)には、板状のバイメタル127が取り付けられている。さらに、棒状のピストン128は、一端がバイメタル127の中央部に連結され、他端がケース121の外壁を貫通し、オイル室122内においてスプリング126に接触するように配置されている。また、ケース121および仕切板124には、撹拌室123のドライブディスク129の外周面に対向する領域とオイル室122とを連通する流通穴130が形成されている。
次に、ファンカップリング120の動作について、図7および図8を参照して説明する。図示しないエンジンが始動すると、エンジンの動力によりロータ131が軸周りに回転する。このとき、ロータ131に嵌め込まれたグリース封入深溝玉軸受1の内輪12およびドライブディスク129は、ロータ131と一体に回転する。
ここで、エンジンの始動からの経過時間が短い場合など、図示しないラジエータを通過した空気の温度が設定温度、たとえば60℃以下である場合、ラジエータを通過した空気に曝されるバイメタル127は、図7に示すように平坦な形状を維持する。そのため、スプリング126は、ピストン128により仕切板124に向けて押圧され、スプリング126により、ポート125は閉じられた状態となる。したがって、オイル室122内に充填されたシリコーン油などの粘性流体は、ポート125を通じて撹拌室123に流入することはできない。また、撹拌室123内に粘性流体がある場合、ドライブディスク129の回転による遠心力を受けて、当該粘性流体は流通穴130を通じてオイル室122に流入する。
その結果、ドライブディスク129は、グリース封入深溝玉軸受1によりケース121に対して回転自在に支持され、ドライブディスク129が流通穴130を通じて粘性流体をオイル室122に流入させる際のわずかなせん断応力をケース121に及ぼすことを除いて、ケース121に対して空転状態となる。そのため、ロータ131の回転は、ケース121に対して僅かに伝達されるのみとなり、ファン132は低い回転速度で回転する。
一方、エンジンの温度が上昇し、図示しないラジエータを通過した空気の温度が設定温度、たとえば60℃を超えた場合、ラジエータを通過した空気に曝されるバイメタル127は、図8に示すように、仕切板124からみてオイル室122側の向きに凸形状となるように変形する。そのため、ピストン128によるスプリング126の押圧力が小さくなり、ポート125が開放される。そして、オイル室122内に充填されたシリコーン油などの粘性流体は、ポート125を通じて撹拌室123に流入する。その結果、ドライブディスク129の回転が粘性流体を介してケース121に対して効率的に伝達され、ファン132は高い回転速度で回転する。
このようにして、エンジンの温度が低い場合には、ファンカップリング120は、ファン132の回転速度を低く制御することにより、エンジンの温度を適正な温度にまで上昇させる機能を果たす。一方、エンジンの温度が高い場合には、ファンカップリング120は、ファン132の回転速度が高くなるようにファンの回転を制御することによりラジエータを冷却し、エンジンの温度が適正範囲を超えて高くなることを回避する機能を果たす。
ここで、本実施の形態におけるグリース封入深溝玉軸受1の外輪11、内輪12および玉13は、図2および図3に基づいて説明したオルタネータ用転がり軸受であるグリース封入深溝玉軸受1の外輪11、内輪12および玉13と同様の構成を有しているため、準高温環境における硬度低下の抑制および硬度レベルの向上を達成することにより、水素脆性剥離の発生を抑制し、かつ寸法安定性を向上させることが可能な電装・補機用軸受部品となっている。
また、本実施の形態の電装・補機用転がり軸受としてのグリース封入深溝玉軸受1は、水素脆性剥離の発生を抑制し、かつ寸法安定性を向上させることが可能な電装・補機用転がり軸受となっている。さらに、本実施の形態の電装・補機としてのファンカップリング120は、上記グリース封入深溝玉軸受1を備えることにより、耐久性に優れたファンカップリングとなっている。
なお、本実施の形態のグリース封入深溝玉軸受1は、実施の形態1において説明したオルタネータ用転がり軸受としてのグリース封入深溝玉軸受1と同様の製造方法により製造することができる。また、本実施の形態におけるファンカップリング120は、ロータ131の外周面に内輪12を嵌め込むとともに、ケース121の貫通穴121Aの内周面に外輪11を嵌め込むように、グリース封入深溝玉軸受1を組み込むことにより、製造することができる。
上記実施の形態1〜3においては、本発明の電装・補機用転がり軸受の一例として、オルタネータ、プーリおよびファンカップリングにおいて使用される玉軸受(深溝玉軸受)について説明したが、本発明の電装・補機用転がり軸受はこれらに限られない。たとえば、本発明の電装・補機用転がり軸受は、スラスト玉軸受またはスラストころ軸受であってもよいし、ラジアルころ軸受であってもよい。
また、本発明の電装・補機用軸受部品を構成する鋼としては、具体的には、JIS規格SUJ2、SUJ3、SUJ5などの高炭素クロム軸受鋼、JIS規格SK95、SK85などの炭素工具鋼、JIS規格SKS81、SKS94などの合金工具鋼などの鋼、あるいはこれらの鋼に対してニッケルを0.5質量%以下の範囲で添加したもの、これらの鋼からクロムを除去したものなどが挙げられ、特に高炭素クロム軸受鋼を採用することが好ましい。
以下、本発明の実施例1について説明する。上記実施の形態1における熱処理工程により熱処理を行なったサンプルを作製し、当該サンプルの材料特性および耐久性を調査する実験を行なった。実験の手順は以下のとおりである。
まず、サンプルの作製方法について説明する。サンプルの作製においては、まず、0.7質量%以上1.2質量%以下の炭素と、0.1質量%以上1.1質量%以下の珪素と、0.25質量%以上1.5質量%以下のマンガンとを含有し、さらに2.0質量%以下のクロムを含み、残部鉄および不純物からなる鋼であるJIS規格SUJ2からなる鋼材を準備し、後述する各試験項目に応じたサンプルの形状に対応する鋼部材に成形した。その後、当該鋼部材に対して以下の4通りの熱処理を実施した上で、仕上げ加工を実施することによりサンプルを作製した。熱処理は、本発明の電装・補機用軸受部品と同様の構成を有するサンプルを作製する実施例の熱処理と、本発明の範囲外のサンプルを作製する比較例A〜Cの熱処理とを実施した。
(実施例)
図5に基づいて説明した実施の形態1における熱処理工程により当該鋼部材を熱処理した。ここで、図5を参照して、窒化工程は、雰囲気のカーボンポテンシャル(C)値を1.05、未分解アンモニアの濃度を0.25体積%に制御したRXガスおよびアンモニアの混合ガス雰囲気の炉内に鋼部材を挿入して加熱することにより行なった。ここで、温度Tは850℃、時間tは90分間とした。その後ベイナイト変態工程は、窒化処理が実施された鋼部材を焼入ソルト浴中に浸漬し、一定温度で保持することにより実施した。このとき、温度Tは250℃、時間tは4時間とした。これにより、鋼部材の表面における窒素濃度は0.4質量%程度、窒素の侵入深さは0.4mm程度となり、窒素が侵入した表層部はベイナイト組織となっていた。この鋼部材に仕上げ加工を実施することにより、サンプルを完成させた(窒化+ベイナイト変態;実施例)。
(比較例A)
上記実施例と同様にJIS規格SUJ2の鋼材から鋼部材を作製し、同様の条件で窒化工程を実施した。その後、当該鋼部材を100℃に保持された焼入油中に浸漬し、A点以上の温度からM点以下の温度に冷却することにより、焼入を実施した。さらに、当該鋼部材を180℃に加熱して120分間保持することにより焼戻を実施した後、250℃に加熱して120分間保持することにより高温焼戻を実施した。これにより、上記実施例と同様に、鋼部材の表面における窒素濃度は0.4質量%程度、窒素の侵入深さは0.4mm程度となっていた。この鋼部材に仕上げ加工を実施することにより、サンプルを完成させた(窒化+焼入+高温焼戻;比較例A)。
(比較例B)
上記実施例と同様にJIS規格SUJ2の鋼材から鋼部材を作製した。そして、C値が0.85に調整されたRXガス雰囲気の炉内に当該鋼部材を挿入して850℃に加熱し、30分間保持した。このとき、RXガスにはアンモニアガスを添加しなかったため、鋼部材には窒素は侵入していない。その後、実施例と同様に250℃に保持した焼入ソルト浴中に浸漬して4時間保持することにより、鋼部材の表層部をベイナイト変態させた。この鋼部材に仕上げ加工を実施することにより、サンプルを完成させた(ベイナイト変態;比較例B)。
(比較例C)
上記実施例と同様にJIS規格SUJ2の鋼材から鋼部材を作製した。そして、C値が0.85に調整されたRXガス雰囲気の炉内に当該鋼部材を挿入して850℃に加熱し、30分間保持した。その後、当該鋼部材を100℃に保持された焼入油中に浸漬し、A点以上の温度からM点以下の温度に冷却することにより、焼入を実施した。さらに、当該鋼部材を180℃に加熱して120分間保持することにより焼戻を実施した後、250℃に加熱して120分間保持することにより高温焼戻を実施した。この鋼部材に仕上げ加工を実施することにより、サンプルを完成させた(焼入+高温焼戻;比較例C)。
次に、材料特性および耐久性の調査方法について説明する。材料特性および耐久性の調査は、(1)硬度、(2)残留オーステナイト量、(3)寸法安定性、(4)割れ強度、(5)割れ疲労強度、(6)試験片の転動疲労寿命、(7)玉軸受の転動疲労寿命(清浄油)、(8)玉軸受の転動疲労寿命(異物混入油)、(9)玉軸受の転動疲労寿命(準高温清浄油)、(10)シャルピー衝撃値、(11)破壊靱性値(KIC)、(12)玉軸受の転動疲労寿命(加振環境下)、(13)玉軸受の転動疲労寿命(急加減速環境下)の13項目について実施した。以下、各項目の調査方法について説明する。
(1)硬度
直径φ12mm、長さL22mmの円筒型の試験片(以下φ12試験片という)およびJIS規格6206型番玉軸受の内輪および外輪を作製し、その硬度を測定した。測定位置は、φ12試験片、玉軸受の内輪および外輪ともに、その端面とし、当該測定位置をロックウェル硬度計により測定した。
(2)残留オーステナイト量
(1)と同様のφ12試験片および6206型番玉軸受の内輪および外輪の作製において、仕上げ加工を省略し、その端面から深さ0.15mmの位置(仕上げ加工後の表面に相当する位置)における残留オーステナイト量を測定した。残留オーステナイト量の測定は、マルテンサイト(211)面に対応するX線の回折強度と、オーステナイト(200)面に対応するX線の回折強度とに基づき算出した。
(3)寸法安定性
JIS規格6206型番玉軸受の外輪を作製し、当初の外径と、230℃に加熱し、2時間保持した後の外径との比を算出することにより評価した。
(4)割れ強度
外径φ24mm、内径φ18.5mm、厚みt7mmのリング状の試験片を作製し、アムスラー型試験機により当該試験片を径方向に圧縮し、破壊した時点における応力値を割れ強度として記録した。そして、比較例Aに対する強度の比を割れ強度比として評価した。
(5)割れ疲労強度
(4)と同様の外径φ24mm、内径φ18.5mm、厚みt7mmのリング状の試験片を作製し、油圧加振機(島津製作所製 サーボパルサー)により、径方向に50Hzの繰返し速度で内周面に800〜1500MPaの応力が負荷される条件で試験片に繰返し応力を負荷した。そして、試験片が破壊した応力の繰り返し数と荷重とを記録し、これを複数回実施した上で、試験結果を統計的に処理し、試験片が10回の応力負荷の繰り返しで破壊すると予測される応力値(10回強度)を算出した。そして、これを比較例Cの10回強度との比で評価した。
(6)試験片の転動疲労寿命
φ12試験片の転動疲労寿命試験は、点接触転動寿命試験機を用いて行なわれた。図9は、点接触転動寿命試験機の主要部の構成を示す概略正面図である。また、図10は、点接触転動寿命試験機の主要部の構成を示す概略側面図である。図9および図10を参照して、点接触転動寿命試験機について説明する。
図9および図10を参照して、点接触転動寿命試験機80は、駆動ローラ82と、案内ローラ83と、鋼球84とを備えている。そして、φ12試験片81は、駆動ローラ82によって駆動され、鋼球84と接触して回転する。鋼球84は、案内ローラ83にガイドされて、φ12試験片81との間で高い面圧を及ぼし合いながら転動する。以上のように点接触転動寿命試験機80を運転し、5個のφ12試験片81を用いて、各φ12試験片81について2箇所ずつ試験を実施することにより試験回数を10回とし、φ12試験片81に剥離が発生するまでの荷重の負荷回数(寿命)を調査した。鋼球84の直径は19.05mm、鋼球84とφ12試験片81との接触応力Pmaxは5.88GPa、応力の負荷速度は46240回/分、潤滑油はタービン油VG68とした。得られた寿命を統計的に解析し、累積破損確率が10%となる転動疲労寿命(L10寿命)を算出した。そして、比較例Cの転動疲労寿命に対する比で転動疲労寿命を評価した。
(7)玉軸受の転動疲労寿命(清浄油)
JIS規格6206型番の玉軸受を作製し、荷重:6.86kN、潤滑:タービン油VG68の循環給油、温度60℃の条件下で、外輪を固定し、内輪を3000rpmの回転速度で回転させた。潤滑油には異物を混入しない清浄油を用いた。そして、剥離が発生するまでの荷重の負荷回数(寿命)を調査して統計的に解析し、L10寿命を算出した。そして、比較例CのL10寿命に対する比で転動疲労寿命を評価した。
(8)玉軸受の転動疲労寿命(異物混入油)
潤滑を、硬さ800HV、粒径100〜180μmのJIS規格のSKH材(高速度工具鋼)の粉末を1L(リットル)あたり0.4g混入させた。タービン油VG68の油浴潤滑とする点を除き、(7)と同様の条件下でJIS規格6206型番の玉軸受のL10寿命を調査した。そして、比較例CのL10寿命に対する比で転動疲労寿命を評価した。
(9)玉軸受の転動疲労寿命(準高温清浄油)
潤滑を高温用エーテル油により行なう点、内輪の回転速度を2000rpmとする点および試験温度を200℃とする点を除き、(7)と同様の条件下でJIS規格6206型番の玉軸受のL10寿命を調査した。そして、比較例CのL10寿命に対する比で転動疲労寿命を評価した。
(10)シャルピー衝撃値
JIS規格Z2242に従い、ノッチ深さ2mm、ノッチ底半径1mmのUノッチを形成した試験片を用いてシャルピー衝撃試験を実施した。そして、比較例Cの衝撃値に対する比でシャルピー衝撃値を評価した。
(11)破壊靱性値(KIC
JIS規格G0564に従い、平面ひずみ破壊靱性試験を実施した。破壊靱性値(KIC)は以下の式により算出した。
Figure 2009235447
そして、比較例Aの破壊靱性値に対する比で破壊靱性値を評価した。
(12)玉軸受の転動疲労寿命(加振環境下)
JIS規格6303型番の玉軸受を作製し、図1に示すオルタネータ90のフロント側に組み込み、荷重:2kN、潤滑:Li石鹸増ちょう剤を添加した鉱油系油、常温の条件下で、外輪を固定し、内輪を12000rpmの回転速度で回転させた。回転中、軸受に対して、オルタネータの軸方向に20〜40Gの振動加速度を連続して与えた。潤滑油には異物を混入しない清浄油を用いた。軸受の玉は、実施例、比較例ともに浸炭窒化後、焼入焼戻を施したSUJ2製のものを採用した。また、試験数は2個とした。そして、剥離が発生するまでの時間を記録することにより、加振環境下での転動疲労寿命を評価した。
(13)玉軸受の転動疲労寿命(急加減速環境下)
JIS規格6301型番の玉軸受を作製し、これを図6のプーリ110に組み込み、荷重:2.16kN、潤滑:Li石鹸増ちょう剤を添加した鉱油系油、常温の条件下で、内輪を固定し、外輪を回転させた。軸受には、外輪の回転数を0rpm(停止)から8700rpmまで1.0秒で増加させ、8700rpmで1.0秒間保持した後、0rpm(停止)まで1.0秒で減少させることを繰り返す、急加減速を与えた。潤滑油には異物を混入しない清浄油を用いた。軸受の玉は、実施例、比較例ともに浸炭窒化後、焼入焼戻を施したSUJ2製のものを採用した。また、試験数は2個とした。そして、剥離が発生するまでの時間を記録することにより、急加減速環境下での転動疲労寿命を評価した。
次に、試験結果について説明する。上記(1)〜(13)の試験結果を表1に示す。
Figure 2009235447
(1)硬度
表1を参照して、実施例および比較例Aの硬度はいずれも61HRC以上となっており、電装・補機用軸受部品としても十分に使用可能な硬度レベルとなっている。一方、比較例BおよびCの硬度はいずれも59HRC以下となっており、実施例および比較例Aに比べて明確に低硬度となっている。また、実施例および比較例Bの測定結果から、窒素を侵入させることにより、ベイナイト組織の硬度レベルが明確に向上することが確認される。
(2)残留オーステナイト量
表1に示すように、実施例および比較例A〜Cのいずれにおいても、残留オーステナイト量は1%未満となっている。これは、実施例および比較例A〜Cのいずれにおいても、ベイナイト変態あるいは高温焼戻が250℃という高温で実施されているため、残留オーステナイトの分解がほぼ完了しているためであると考えられる。
(3)寸法安定性
表1に示すように、実施例および比較例A〜Cのいずれにおいても、寸法変化量は0に近い値となっている。このことから、実施例および比較例A〜Cと同様の構成を有する電装・補機用軸受部品は、準高温環境において使用された場合でも、十分な寸法安定性が確保されているといえる。
(4)割れ強度
表1を参照して、割れ強度は高いほうから、比較例B、実施例、比較例C、比較例Aの順となっており、かつ比較例Aが実施例および他の比較例に比べて明確に低くなっている。また、窒化処理を行なった場合、鋼の静的な割れ強度は低下する傾向が確認される。しかし、上記結果から、窒化処理を実施した場合でも、その後に鋼をベイナイト変態させることにより、割れ強度を大幅に改善できることが分かった。
(5)割れ疲労強度
表1を参照して、窒化処理を行なったものは、窒化処理を行なわなかったものに比べて割れ疲労強度が高くなる傾向にあり、かつベイナイト変態処理を行なったものは焼入後に高温焼戻を行なったものに比べて割れ疲労強度が高くなる傾向にある。そして、窒化処理とベイナイト変態処理とを組み合わせた実施例の割れ強度が最も高くなっており、特に窒化処理を実施しなかった比較例BおよびCに比べて格段に高い割れ疲労強度が得られている。
(6)試験片の転動疲労寿命
表1を参照して、窒化処理を行なったものは、窒化処理を行なわなかったものに比べて転動疲労寿命が向上する傾向にあり、かつベイナイト変態処理を行なったものは焼入後に高温焼戻を行なったものに比べて転動疲労寿命が向上する傾向にある。そして、窒化処理とベイナイト変態処理とを組み合わせた実施例の転動疲労寿命が最も長くなっており、窒化処理を実施することなく焼入を実施し、高温焼戻を行なった比較例Cの3倍を超える転動疲労寿命となっていた。
(7)玉軸受の転動疲労寿命(清浄油)
表1を参照して、玉軸受による転動寿命試験においても、上記(6)と同様の傾向が確認された。そして、窒化処理とベイナイト変態処理とを組み合わせた実施例の転動疲労寿命は、窒化処理を実施することなく焼入を実施し、高温焼戻を行なった比較例Cの2.7倍となっていた。
(8)玉軸受の転動疲労寿命(異物混入油)
表1を参照して、硬質の異物が侵入する環境下においても、上記(6)および(7)と同様の傾向が確認された。そして、窒化処理とベイナイト変態処理とを組み合わせた実施例の転動疲労寿命は、窒化処理を実施することなく焼入を実施し、高温焼戻を行なった比較例Cの2.8倍となっていた。
(9)玉軸受の転動疲労寿命(準高温清浄油)
表1を参照して、準高温環境下においても、上記(6)〜(8)と同様の傾向が確認された。そして、窒化処理とベイナイト変態処理とを組み合わせた実施例の転動疲労寿命は、窒化処理を実施することなく焼入を実施し、高温焼戻を行なった比較例Cの2.1倍となっていた。
(10)シャルピー衝撃値
表1を参照して、ベイナイト変態処理を行なったものは、焼入後に高温焼戻を行なったものに比べて衝撃値が高くなる傾向が確認された。
(11)破壊靱性値(KIC
表1を参照して、窒化処理を行なった場合、鋼の静的な割れ強度はやや低下する傾向があるが、これは、窒化処理を行なうことにより、硬度が上昇していることも一因となっていると考えられる。そして、実施例は、比較例Aの1.2倍の靭性値を有していた。
(12)玉軸受の転動疲労寿命(加振環境下)
表1を参照して、振動の作用する環境下においても、上記(6)〜(9)と同様の傾向が確認された。そして、窒化処理とベイナイト変態処理とを組み合わせた実施例の転動疲労寿命は、窒化処理を実施することなく焼入を実施し、高温焼戻を行なった比較例Cの2.5倍程度となっていた。
(13)玉軸受の転動疲労寿命(急加減速環境下)
表1を参照して、急激な加減速が作用する環境下においても、上記(6)〜(9)および(12)と同様の傾向が確認された。そして、窒化処理とベイナイト変態処理とを組み合わせた実施例の転動疲労寿命は、窒化処理を実施することなく焼入を実施し、高温焼戻を行なった比較例Cの2倍程度となっていた。
以上の実験結果より、本発明の実施例によれば、寸法安定性および靭性を確保しつつ、常温環境だけでなく準高温環境、異物混入環境、振動が作用する環境および急激な加減速が作用する環境においても耐久性に優れた電装・補機用軸受部品を提供できることが確認された。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
本発明の電装・補機用軸受部品、電装・補機用転がり軸受および電装・補機は、自動車などの電装・補機において、回転駆動される回転部材を、当該回転部材に隣接して配置される部材に対して回転自在に支持する電装・補機用転がり軸受、これを構成する電装・補機用軸受部品および当該電装・補機用転がり軸受を備えた電装・補機に、特に有利に適用され得る。
実施の形態1におけるグリース封入深溝玉軸受を備えたオルタネータの構成を示す概略図である。 実施の形態1におけるグリース封入深溝玉軸受の構成を示す概略断面図である。 図2の要部を拡大して示した概略部分断面図である。 実施の形態1における電装・補機用軸受部品、電装・補機用転がり軸受およびこれを備えた電装・補機の製造方法の概略を示す図である。 電装・補機用軸受部品の製造方法に含まれる熱処理工程の詳細を説明するための図である。 実施の形態2におけるグリース封入深溝玉軸受を備えたプーリを示す概略図である。 実施の形態3におけるグリース封入深溝玉軸受を備えたファンカップリングを示す概略図である。 実施の形態3におけるグリース封入深溝玉軸受を備えたファンカップリングの動作を説明するための概略図である。 点接触転動寿命試験機の主要部の構成を示す概略正面図である。 点接触転動寿命試験機の主要部の構成を示す概略側面図である。
符号の説明
1 グリース封入深溝玉軸受、11 外輪、11A 外輪転走面、11B 外輪窒素富化層、11C,12C,13C 内部、12 内輪、12A 内輪転走面、12B 内輪窒素富化層、13 玉、13A 玉転走面、13B 玉窒素富化層、14 保持器、15 シール部材、16 グリース組成物、80 点接触転動寿命試験機、81 φ12試験片、82 駆動ローラ、83 案内ローラ、84 鋼球、90 オルタネータ、91 ロータ、91A ロータコイル、92 ロータ軸、92A 外周面、93 ステータ、93A ステータコイル、94 ハウジング、99 オルタネータプーリ、99A 溝部、110 プーリ、111 プーリ本体、111A 外周面、111B 内周面、111C 内周円筒部、111D フランジ部、111E 外周円筒部、111F 鍔部、119 シャフト、120 ファンカップリング、121 ケース、121A 貫通穴、122 オイル室、123 撹拌室、124 仕切板、125 ポート、126 スプリング、127 バイメタル、128 ピストン、129 ドライブディスク、129A フィン、130 流通穴、131 ロータ、132 ファン。

Claims (5)

  1. 電装・補機において、回転駆動される回転部材を、前記回転部材に隣接して配置される部材に対して回転自在に支持する電装・補機用転がり軸受を構成する電装・補機用軸受部品であって、
    0.7質量%以上1.2質量%以下の炭素と、0.1質量%以上1.1質量%以下の珪素と、0.25質量%以上1.5質量%以下のマンガンとを含有し、残部鉄および不純物からなる鋼から構成され、
    表面を含む領域には、内部よりも窒素濃度が高い層である窒素富化層が形成され、
    前記窒素富化層は、ベイナイト組織を含み、残留オーステナイト量が5体積%以下に抑制されている、電装・補機用軸受部品。
  2. 電装・補機において、回転駆動される回転部材を、前記回転部材に隣接して配置される部材に対して回転自在に支持する電装・補機用転がり軸受を構成する電装・補機用軸受部品であって、
    0.7質量%以上1.2質量%以下の炭素と、0.1質量%以上1.1質量%以下の珪素と、0.25質量%以上1.5質量%以下のマンガンとを含有し、さらに2.0質量%以下のクロム、0.5質量%以下のモリブデンおよび0.5質量%以下のニッケルからなる群から選択される少なくとも一種以上の元素を含み、残部鉄および不純物からなる鋼から構成され、
    表面を含む領域には、内部よりも窒素濃度が高い層である窒素富化層が形成され、
    前記窒素富化層は、ベイナイト組織を含み、残留オーステナイト量が5体積%以下に抑制されている、電装・補機用軸受部品。
  3. 前記窒素富化層は、0.8質量%以上1.2質量%以下の炭素と、0.1質量%以上0.8質量%以下の窒素とを含んでいる、請求項1または2に記載の電装・補機用軸受部品。
  4. 軌道部材と、
    前記軌道部材に接触し、円環状の軌道上に配置される複数の転動体とを備え、
    前記軌道部材および前記転動体の少なくともいずれか一方は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電装・補機用軸受部品である、電装・補機用転がり軸受。
  5. 請求項4に記載の電装・補機用転がり軸受を備えた、電装・補機。
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