本発明に係るイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂の取得方法の好適な実施形態について、以下に説明する。
<イオン交換基含有ポリアリーレン樹脂>
本発明に係るイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂は、主鎖に芳香環を有する芳香族炭化水素系高分子であって、カチオン交換基を導入してなる芳香族炭化水素系高分子であり、より具体的には、スルホン酸基(−SO3 H)、ホスホン酸基(−PO3 H2 )、リン酸基(−OPO3 H2 )、スルホニルイミド基(−SO2 −NH−SO2 −)、カルボキシル基(−COOH)および水酸基等からなる群より選ばれる少なくとも1種のイオン交換基を導入してなる芳香族炭化水素系高分子である。
ここで、「芳香族炭化水素系高分子」とは、芳香族基同士が互いに直接結合しているか、芳香族基同士が適切な原子または原子団を介して結合しているか、或いは上記両結合の組み合わせからなる高分子である。
イオン交換基含有ポリアリーレン樹脂としては、イオン交換基としてスルホン酸基を含有するイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂がより好ましく、スルホン酸基以外のイオン交換基のイオン交換容量よりも、スルホン酸基のイオン交換容量の方が大きいイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂がさらに好ましい。
ここで、「イオン交換容量」とは、イオン交換基含有ポリアリーレン樹脂の単位質量当たりのイオン交換数を表す。本発明に用いられるイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂のイオン交換容量は、通常、0.5meq/g〜4meq/gの範囲内が好ましく、1meq/g〜3meq/gの範囲内がより好ましい。
本発明に用いられるイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂としては、主鎖に芳香環を有し、さらに芳香環を有する側鎖を有するイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂がより好ましく、主鎖の芳香環か側鎖の芳香環のうち、少なくとも一つが該芳香環に直接結合したイオン交換基を有する形態であるイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂がさらに好ましい。なかでも、主鎖の芳香環に直接結合したイオン交換基を有する形態であるイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂が特に好ましい。
また、イオン交換基含有ポリアリーレン樹脂としては、イオン交換基を有するセグメントとイオン交換基を実質的に有さないセグメントとを有し、共重合様式がブロック共重合またはグラフト共重合であるイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂が特に好ましい。
ここで、「イオン交換基を有するセグメント」とは、該セグメントを構成する繰り返し単位1個当たりに、イオン交換基が平均0.5個以上含まれているセグメントであることを意味する。そして、繰り返し単位1個当たりに、イオン交換基が平均1.0個以上含まれているセグメントがより好ましい。
一方、「イオン交換基を実質的に有しないセグメント」とは、該セグメントを構成する繰り返し単位1個当たりに含まれるイオン交換基が、平均0.5個未満であるセグメントであることを意味する。そして、繰り返し単位1個当たりに含まれるイオン交換基が、平均0.1個以下であるセグメントがより好ましく、平均0.05個以下であるセグメントがさらに好ましい。
典型的には、本発明に用いられるイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂は、イオン交換基を有するセグメントとイオン交換基を実質的に有さないセグメントとが、共有結合で結ばれた形態のブロック共重合体であるか、主鎖にイオン交換基を有するセグメントを有し、分岐鎖(側鎖)にイオン交換基を実質的に有さないセグメントを有するグラフト共重合体であるか、分岐鎖(側鎖)にイオン交換基を有するセグメントを有し、主鎖にイオン交換基を実質的に有さないセグメントを有するグラフト共重合体である。
さらに、イオン交換基含有ポリアリーレン樹脂は、元素重量含有比で表したときに、ハロゲン原子が15重量%以下であるイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂がより好ましい。
より具体的には、本発明に用いられるイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂は、イオン交換基を有するセグメントとして、下記一般式(1a),(2a),(3a),(4a)(以下、「一般式(1a)〜(4a)」と略記することがある)で表されるセグメントのうちの何れか1種以上と、イオン交換基を実質的に有さないセグメントとして、下記一般式(1b),(2b),(3b),(4b)(以下、「一般式(1b)〜(4b)」と略記することがある)で表されるセグメントのうちの何れか1種以上とを含むイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂が挙げられる。
上記一般式(1a)〜(4a)におけるAr1 〜Ar9 は、2価の芳香族基を表す。2価の芳香族基としては、例えば、1,3−フェニレン、1,4−フェニレン等の2価の単環性芳香族基、1,3−ナフタレンジイル、1,4−ナフタレンジイル、1,5−ナフタレンジイル、1,6−ナフタレンジイル、1,7−ナフタレンジイル、2,6−ナフタレンジイル、2,7−ナフタレンジイル等の2価の縮環系芳香族基、ピリジンジイル、キノキサリンジイル、チオフェンジイル等の2価のヘテロ芳香族基等が挙げられる。このうち、2価の単環性芳香族基がより好ましい。
また、上記Ar1 〜Ar9 は、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜18のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜18のアリールオキシ基、または、置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基で置換されていてもよい。
そして、一般式(1a)のセグメントを構成する構造単位におけるAr1 および/またはAr2 、一般式(2a)のセグメントを構成する構造単位におけるAr3 〜Ar6 のうちの一つ以上、一般式(3a)のセグメントを構成する構造単位におけるAr7 および/またはAr8 、一般式(4a)のセグメントを構成する構造単位におけるAr9 には、主鎖を構成する芳香環に少なくとも一つのイオン交換基を有している。イオン交換基としては、上述のようにカチオン交換基がより好ましく、スルホン酸基がさらに好ましい。
また、一般式(1a)〜(4a)におけるX,X’,X”は、互いに独立して−O−または−S−を表し、Yは、直接結合(−)または置換基を有していてもよいメチレン基を表し、Z,Z’は、互いに独立して−CO−または−SO2 −を表す。一般式(1a)〜(4a)におけるmは、繰り返しを表す自然数であり、pは、0,1または2を表し、q,rは、互いに独立して1,2または3を表す。
上記一般式(1b)〜(4b)におけるAr11〜Ar19は、2価の芳香族基を表す。2価の芳香族基としては、例えば、1,3−フェニレン、1,4−フェニレン等の2価の単環性芳香族基、1,3−ナフタレンジイル、1,4−ナフタレンジイル、1,5−ナフタレンジイル、1,6−ナフタレンジイル、1,7−ナフタレンジイル、2,6−ナフタレンジイル、2,7−ナフタレンジイル等の2価の縮環系芳香族基、ピリジンジイル、キノキサリンジイル、チオフェンジイル等の2価のヘテロ芳香族基等が挙げられる。このうち、2価の単環性芳香族基がより好ましい。
また、上記Ar11〜Ar19は置換基を有していてもよく、この置換基の具体的な例示は、前記Ar1 〜Ar9 における例示と同様である。
また、一般式(1b)〜(4b)におけるX,X’,X”,Y,Z,Z’は、前記一般式(1a)〜(4a)におけるX,X’,X”,Y,Z,Z’と同様である。一般式(1b)〜(4b)におけるnは、繰り返しを表す自然数であり、p’は、0,1または2を表し、q’,r’は、互いに独立して1,2または3を表す。
本発明に用いられるイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂としては、ミクロ相分離構造を有するイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂が得られる範囲であれば、ブロック共重合体、グラフト共重合体の何れか、或いはこれら共重合体を組み合わせて使用することができる。但し、製造上の容易さを勘案すると、ブロック共重合体がより好ましい。より好ましいブロック共重合体に係るセグメントの組み合わせとしては、下記表に示すものが挙げられ、これら組み合わせのなかでも、<イ>,<ウ>,<エ>,<キ>または<ク>の組み合わせがより好ましく、<キ>または<ク>の組み合わせが特に好ましい。
また、上記のブロック共重合体としては、イオン交換基を有するセグメントである一般式(1a)〜(4a)に係る構造単位の繰り返し数m、および、イオン交換基を実質的に有さないセグメントである一般式(1b)〜(4b)に係る構造単位の繰り返し数nは、ともに5以上の整数であることが好ましく、5〜1,000の範囲内であることがより好ましく、10〜500の範囲内であることがさらに好ましい。
具体的に、好適なブロック共重合体を例示すると、以下の式(1)〜(26)で示されるものが挙げられる。
尚、上記式(1)〜(26)において、「block」との表記は、括弧内の繰り返し単位からなるブロックをそれぞれ有するブロック共重合体であることを意味する。また、係るブロック同士は、直接結合している形態でもよく、適当な原子または原子団で連結している形態でもよい。上記式(1)〜(26)におけるm,nは、繰り返しを表す自然数である。
より好ましいイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂としては、例えば前記式(2),(7),(8),(16),(18),(22)〜(25)等が挙げられ、特に好ましいイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂としては、式(16),(18),(22),(23),(25)等が挙げられる。
当該イオン交換基含有ポリアリーレン樹脂の分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(以下、「GPC」と呼ぶ)分析によって求められる、ポリスチレン換算の数平均分子量で表して、5,000〜1,000,000であることがより好ましく、15,000〜400,000であることが特に好ましい。
また、当該イオン交換基含有ポリアリーレン樹脂としては、例えば特開2005−126684号公報または特開2005−139432号公報に記載されている方法に準拠した方法で得られるブロック共重合体や、特開2007−177197号公報に記載されている方法に準拠した方法で得られるブロック共重合体等が挙げられる。
<イオン交換基含有ポリアリーレン溶液>
本発明において、「イオン交換基含有ポリアリーレン溶液」とは、前記イオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を溶媒に溶解してなる溶液である。ここで、上記「溶媒」とは、単位質量当たり、1質量%以上、より好ましくは5〜50質量%の範囲内でイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を溶解することができ、かつ、貧溶媒に相溶する有機溶媒を指す。尚、貧溶媒については後述する。
上記溶媒としては、例えば、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の非プロトン性極性溶媒が挙げられる。尚、これら非プロトン性極性溶媒は、必要に応じて、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル類、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素系溶媒等、他の溶媒を混合して使用することもできる。
<貧溶媒>
本発明において「貧溶媒」とは、イオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を実質的に溶解しない溶媒を指す。当該貧溶媒としては、水を主として含有する溶媒が好ましく、例えば、水、塩酸、酸メタノール(塩酸とメタノールとの混合溶媒)が挙げられる。そして、貧溶媒が水である場合には、係る水は、金属イオンが含まれていないものが好ましい。通常、イオン交換水、純水あるいは超純水から、25℃における抵抗率が17MΩ・cm以上となる水を選択して用いればよい。このような抵抗率を示す水は、市販の純水製造装置を用いれば、容易に入手することができる。
<析出工程>
イオン交換基含有ポリアリーレン樹脂の取得方法における析出工程とは、イオン交換基含有ポリアリーレン溶液を、貧溶媒の液面からの高さが0.5m以上となるように設置された、孔径が1mm以上,4mm以下のノズルから、上記貧溶媒に滴下する方法である。上記滴下は、連続的に行ってもよく、間欠的に行ってもよい。つまり、本発明に係る取得方法によれば、イオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を連続式で析出させることができ、また、バッチ式で析出させることができる。
上記ノズルから貧溶媒に滴下されるイオン交換基含有ポリアリーレン溶液の滴下流量は、0.1g/s以上,5.0g/s以下であることがより好ましい。
<回収工程>
イオン交換基含有ポリアリーレン樹脂の取得方法における回収工程とは、前記析出工程において、該貧溶媒中に析出したイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を回収する回収工程であり、具体的には、濾過、遠心分離等の方法により、貧溶媒からイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を回収する方法である。回収工程においては、通常、貧溶媒にはイオン交換基含有ポリアリーレン溶液に含まれる溶媒が含まれ、当該溶媒はイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂と分離される。
より好ましくは、貧溶媒とイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂とを分離するときには、貧溶媒と該貧溶媒中に析出したイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂との混合物から、網を被せた挿入管を用いて貧溶媒を抜き出せばよい。このとき、貧溶媒を供給しながら、上記挿入管を用いて貧溶媒を抜き出すことにより、イオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を連続的に取得することができる。
<洗浄工程>
本発明に係る取得方法においては、回収工程で回収されたイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂に貧溶媒、好ましくは水を加えて、イオン交換基含有ポリアリーレン樹脂と貧溶媒とを混合した後、得られた混合物から、貧溶媒を分離するイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂の洗浄工程をさらに含んでいてもよい。係る洗浄工程の具体的な操作は、前記回収工程の操作と同様に行えばよい。
<取得装置>
イオン交換基含有ポリアリーレン溶液から、当該イオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を取得するのに好適な取得装置の一例を、図1を参照しながら説明する。尚、本発明の取得方法を行うのに好適な取得装置は、図1に記載された取得装置に限定されるものではない。
本発明に係る取得方法を行うのに好適な取得装置は、図1に示すように、析出・洗浄槽1と濾過器2と受器3とを主に備えている。これら析出・洗浄槽1,濾過器2,受器3を含む取得装置全体は、例えば、ステンレスで形成されており、イオン交換基含有ポリアリーレン樹脂との直接的な接触を避けると共に耐酸性(耐蝕性)を備えるために、貧溶媒と接触する内面側にグラスライニング加工が施されている。尚、取得装置におけるイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂と接触する箇所は、金属が露出していないことが望ましい。
析出・洗浄槽1には、ノズル板11、貧溶媒供給管12、挿入管13、攪拌機14、ジャケット15が取り付けられている。また、析出・洗浄槽1の底部には、析出・洗浄されたイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を取り出す配管が設けられている。当該配管にはバルブdが設けられている。さらに、析出・洗浄槽1の上部には、気化した貧溶媒や溶媒を凝縮させる凝縮器(図示しない)が取り付けられている。
析出・洗浄槽1は、貧溶媒10にイオン交換基含有ポリアリーレン溶液を滴下することによって当該イオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を析出させると共に、析出したイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を貧溶媒10で洗浄する構成になっている。尚、析出・洗浄槽1は、内容積が30,000L程度のものまで製作可能である。
析出・洗浄槽1に貧溶媒を供給する貧溶媒供給管12は、析出・洗浄槽1の上蓋における液供給口に接続されている。貧溶媒供給管12には、貧溶媒が貯蔵されている貯蔵タンク(図示しない)から、バルブbが設けられた配管を通じて貧溶媒が供給されると共に、析出・洗浄槽1内部を加圧するために窒素ガス等の不活性ガスが、バルブcが設けられた配管を通じて供給されるようになっている。また、貧溶媒供給管12には、析出・洗浄槽1内部の圧力(ゲージ圧)を測定する圧力計12aが設けられている。尚、上記貯蔵タンクには、当該貯蔵タンク内部を加圧するために、窒素ガス等の不活性ガスが、バルブが設けられた配管を通じて供給されるようになっている。
攪拌機14は、析出・洗浄槽1内部の貧溶媒10を攪拌するようになっている。析出・洗浄槽1を覆うように設けられたジャケット15は、例えば内部に加熱装置を有しており、析出・洗浄槽1内部の温度を調節するようになっている。
ノズル板11は、例えば、耐酸性(耐蝕性)を有するポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂からなり、析出・洗浄槽1にイオン交換基含有ポリアリーレン溶液を滴下するようになっている。ノズル板11には、孔径が1mm以上,4mm以下、より好ましくは2mm以上,3mm以下のノズルが複数形成されている。そして、ノズル板11は、析出・洗浄槽1内部の貧溶媒10の液面10aからの高さhが0.5m以上となるように、析出・洗浄槽1の上部に設置されている。高さhの具体的な高さ制限は無いが、工業的には反応容器内で滴下されることから、通常、5m以下に設定される。ノズルの個数は、特に限定されるものではないが、イオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を工業的に(大量に)取得するためには、複数であることが望ましい。また、ノズル板11の形状は、容易に加工することができる形状であることが望ましい。
具体的には、例えば、液面10aから析出・洗浄槽1の上蓋までの距離が上記高さhとほぼ等しい場合には、析出・洗浄槽1の上蓋における液供給口の上部にノズル板11が設置されている。また、例えば、液面10aから析出・洗浄槽1の上蓋までの距離が上記高さhよりも短い場合には、析出・洗浄槽1の上蓋における液供給口の上部に適切な長さの直管が接続され、この直管の上端部にノズル板11が設置されている。一方、例えば、液面10aから析出・洗浄槽1の上蓋までの距離が上記高さhよりも長い場合には、析出・洗浄槽1の上蓋における液供給口から適切な長さの直管が挿入され、この直管の下端部にノズル板11が設置されている。尚、図1では、液面10aから析出・洗浄槽1の上蓋までの距離が上記高さhとほぼ等しい場合を例示している。
上記ノズル板11には、イオン交換基含有ポリアリーレン溶液を供給する供給槽4から、バルブaが設けられた配管を通じて当該イオン交換基含有ポリアリーレン溶液が供給されるようになっている。上記供給槽4は、例えば、イオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を溶媒に溶解してなる溶液を貯蔵している貯蔵タンクであってもよく、イオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を調製するための反応容器であってもよい。また、供給槽4には、当該供給槽4内部を加圧するために、窒素ガス等の不活性ガスが、バルブ(図示しない)が設けられた配管を通じて供給されるようになっている。尚、上記ノズル板11の構造については後述する。
挿入管13は、析出・洗浄槽1内の貧溶媒10を、析出したイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂と分離(固液分離)しながら抜き出すようになっている。挿入管13は、析出・洗浄槽1の上蓋における液排出口から挿入されており、その下端部が、貧溶媒10の液面10aよりも下方に位置するように設置されている。つまり、挿入管13は、その下端部を含む一部分が、貧溶媒10の液面10a下に没するように設置されている。また、挿入管13には、窒素ガス等の不活性ガスが、バルブ(図示しない)が設けられた配管を通じて供給されるようになっている。
そして、析出・洗浄時には、析出・洗浄槽1内の貧溶媒10の量が一定となるように、挿入管13を介して単位時間当たりに抜き出される貧溶媒の量は、貧溶媒供給管12から単位時間当たりに供給される貧溶媒の量とほぼ等しくなるように調節される。挿入管13を介して抜き出された貧溶媒、即ち、イオン交換基含有ポリアリーレン溶液に含まれていた溶媒が溶解した(相溶した)貧溶媒は、バルブe・fが設けられた配管を通じて受器3に移送され、貯蔵されるようになっている。尚、挿入管13の構造については後述する。
受器3は、挿入管13を介して抜き出された貧溶媒を貯蔵するようになっている。受器3の上部には、ガス抜き用のバルブgが設けられており、下部には、貧溶媒を排出する排出口(図示しない)が設けられている。尚、受器3から排出された貧溶媒は、所定の処理が施された後、再利用されるか、廃棄される。
濾過器2には、析出・洗浄槽1から、バルブd・iが設けられた配管を通じて取り出されたイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂が供給される。濾過器2は、析出・洗浄されたイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を貧溶媒と分離(固液分離)するようになっている。濾過器2の底部には、分離した貧溶媒、即ち、イオン交換基含有ポリアリーレン溶液に含まれていた溶媒が溶解した(相溶した)貧溶媒を排出するバルブkを備えた配管が設けられている。また、濾過器2の側面部には、分離したイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を取り出す取出口2aが設けられている。濾過器2から取り出されたイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂は、必要に応じてさらに洗浄された後、乾燥される。
さらに、濾過器2の上部には、窒素ガス等の不活性ガスを供給するバルブmを備えた配管と、ガス抜き用のバルブnと、濾過器2内部の圧力(ゲージ圧)を測定する圧力計2bとが設けられている。尚、析出・洗浄槽1と濾過器2とを接続している配管には、ガス抜き用のバルブjが設けられている。また、濾過器2から排出された貧溶媒は、所定の処理が施された後、再利用されるか、廃棄される。
濾過器2は、固液分離することができる構成であればよく、従って、例えば、フィルタを備えた一般的な濾過器であってもよく、遠心分離機であってもよいが、加圧式ドリュックフィルターが好適である。
本発明に係る取得方法を実施するのに好適な前記ノズル板11の構造の一例を、図2(a)・(b)を参照しながら説明する。
貧溶媒の液面から析出・洗浄槽の上蓋までの距離が前記高さhとほぼ等しいか、短い場合には、図2(a)に示すように、円板状の構造のノズル板11aを用いることが好ましい。当該ノズル板11aは、例えば厚さ3mmに形成されており、その中央部に、例えば、孔径が2mmのノズル21が、ピッチ5mmで矩形状に複数形成されている。また、周縁部には、複数のネジ孔22が形成されている。但し、ノズル21の孔径やノズル同士のピッチ,配置等は上記例示の数値に限定されるものではない。また、ノズル21の形状(孔の形状)は、円形が好適であるが、特に限定されるものではない。
そして、ノズル板11aは、析出・洗浄槽1の上蓋における液供給口に形成されているフランジ、若しくは、高さを調節するために、液供給口に接続された直管に形成されているフランジと、供給槽からイオン交換基含有ポリアリーレン溶液を供給するための配管に形成されているフランジとの間に挿入されてネジ止めされることによって固定されることにより、析出・洗浄槽の上部に設置される。それゆえ、ノズル板11aの直径は、上記フランジの直径と等しい。
一方、貧溶媒の液面から析出・洗浄槽の上蓋までの距離が前記高さhよりも長い場合には、図2(b)に示すように、所謂シャワーヘッド型と称される円筒状の構造のノズル板11bを用いることが好ましい。当該ノズル板11bの底面部を構成する例えば厚さ3mmの円板には、孔径が2mmのノズル21が、ピッチ5mmで同心円状に複数形成されている。但し、ノズル21の孔径やノズル同士のピッチ,配置等は上記例示の数値に限定されるものではない。また、ノズル21の形状(孔の形状)は、円形が好適であるが、特に限定されるものではない。
ノズル板11bの上面部には、析出・洗浄槽の上蓋における液供給口から挿入された直管23に螺着することができるように、雌ネジ部25aが形成されている。また、上記直管23は、上端部に、複数のネジ孔22が形成されたフランジ部23aを有すると共に、下端部に、ノズル板11bを螺着することができるように、雌ネジ部25aに対応する雄ネジ部25bが形成されている。直管23は、析出・洗浄槽1の上蓋における液供給口に形成されているフランジと、供給槽からイオン交換基含有ポリアリーレン溶液を供給するための配管に形成されているフランジとの間に、上記フランジ部23aが挿入されてネジ止めされることによって固定されるようになっている。
そして、ノズル板11bは、析出・洗浄槽の上蓋における液供給口から挿入された直管23に、析出・洗浄槽の内側から螺着されることにより、析出・洗浄槽の上部に設置される。それゆえ、直管23の直径は、上記液供給口の直径よりも小さい。尚、ノズル板11bの螺着は、例えば、析出・洗浄槽の上蓋に設けられたハンドホールから手を差し入れることによって行うことができる。
本発明に係る取得方法を実施するのに好適な前記挿入管13の構造の一例を、図3を参照しながら説明する。
図3に示すように、挿入管13は、析出・洗浄槽1の上蓋における液排出口から挿入される直管部30を有している。直管部30は、例えば、ステンレスで形成されており、耐酸性(耐蝕性)を備えるために、全体(表面側および内面側)にグラスライニング加工が施されている。直管部30の内部は、貧溶媒が通過する液通過部と、窒素ガス等の不活性ガスが通過する気体通過部とが設けられた二重管構造となっている。そして、直管部30には、気体通過部と連通する複数の噴出穴30aが形成されており、この噴出穴30aから不活性ガスが析出・洗浄槽1内部に向かって噴出するようになっている。
直管部30の上端部には、複数のネジ孔が形成されたフランジ部31が形成されており、その下方には、複数のネジ孔が形成されたフランジ部32が形成されている。そして、挿入管13は、抜き出した貧溶媒を受器3に移送するための配管に形成されているフランジと、上記フランジ部31とがネジ止めされると共に、析出・洗浄槽1の上蓋における液供給口に形成されているフランジと、上記フランジ部32とがネジ止めされることによって固定されるようになっている。
直管部30の下端部には、分離(固液分離)しながら貧溶媒を抜き出すための複数の抜出穴33を有する抜出部34が形成されている。抜出部34は、例えば、ステンレスで形成されており、耐酸性(耐蝕性)を備えるために、全体(表面側および内面側)にグラスライニング加工が施されている。上記抜出穴33は、上記液通過部と連通しており、分離(濾過)面積ができるだけ大きくなるように、例えば開口率(抜出穴の開口面積/抜出部の表面積)が30%となるように形成されている。抜出穴33の孔径は、例えば5mmとすればよいが、当該孔径や抜出穴同士のピッチ,配置、抜出穴の個数等は、抜出部34の長さ(大きさ)等に応じて適宜設定すればよい。また、抜出部34の長さ(大きさ)は、析出・洗浄槽1の容量、単位時間当たりの貧溶媒の抜き出し量、析出・洗浄条件等に応じて適宜設定すればよいが、単位時間当たりの貧溶媒の置換率が30%以下になるように設定することが好ましく、また、比較的短い(小さい)方が貧溶媒の置換率を良好にすることができ、イオン交換基含有ポリアリーレン樹脂の洗浄性が向上するので好ましい。
そして、挿入管13の直管部30は、析出・洗浄槽1内の貧溶媒量が少ない場合にも対応するため、また、洗浄後、イオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を濾過器2に取り出すときに析出・洗浄槽1内の貧溶媒を少なくするため、析出・洗浄槽1内の下方に抜出部34が位置するように、その長さが設定されていることが好ましい。
そして、挿入管13におけるフランジ部32よりも下方部分、つまり、フランジ部32,直管部30および抜出部34には、析出したイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂と貧溶媒とを分離(固液分離)するために、濾材である有底筒状の網(図示しない)が、全体を覆うようにして設けられている。即ち、フランジ部32,直管部30および抜出部34には、有底筒状の網が被せられており、これら部材は上記網によって覆われている。
上記網は、耐酸性(耐蝕性)を有するテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体等のフッ素系樹脂からなり、その開口端部(筒の開口部分)が、析出・洗浄槽1の上蓋における液供給口に形成されているフランジと、上記フランジ部32との間に挿入されることによって、固定されるようになっている。網目の大きさは、析出したイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂による目詰まりを起こさず、かつ、イオン交換基含有ポリアリーレン樹脂が通り抜けないように、最大径が、通常、1mmであることが好ましく、100μm〜900μmの範囲内であることがより好ましい。
挿入管13は、直管部30や抜出部34と網とが密着して、挿入管13における貧溶媒の抜き出し効率(固液分離効率)が低下した場合には、直管部30に形成された噴出穴30aから不活性ガスを噴出させることによって、直管部30や抜出部34と網との間に隙間を設けることができる。従って、挿入管13は、上記抜き出し効率(固液分離効率)を維持することができる。
<滴下条件>
本発明に係るイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂の取得方法においては、イオン交換基含有ポリアリーレン溶液の65℃における粘度を4,000mPa・S以下、かつ、該溶液に含まれるイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂の濃度を5質量%以上に調節した後、当該溶液を、滴下流量が0.1g/s以上,5.0g/s以下となるように、上記貧溶媒に滴下する。
より好適には、本発明に係るイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂の取得方法においては、イオン交換基含有ポリアリーレン溶液の65℃における粘度を4,000mPa・S以下、かつ、該溶液に含まれるイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂の濃度を5質量%以上に調節した後、当該溶液を、貧溶媒の液面からの高さが0.5m以上となるように設置された、孔径が1mm以上,4mm以下のノズルから、滴下流量が0.1g/s以上,5.0g/s以下となるように、上記貧溶媒に滴下する。
イオン交換基含有ポリアリーレン樹脂の形状、即ち、貧溶媒中で析出した段階での形状は、イオン交換基含有ポリアリーレン溶液の粘度および濃度と、貧溶媒の液面からノズルまでの高さhと、ノズルの孔径と、ノズルから滴下するイオン交換基含有ポリアリーレン溶液の滴下流量(単位時間当たりの滴下流量)とを調節することにより、制御することができる。
イオン交換基含有ポリアリーレン溶液は、65℃における粘度が4,000mPa・S以下、より好ましくは3,000mPa・S以下、かつ、濃度が5質量%以上、より好ましくは7質量%以上に調節されていることが望ましい。上記粘度は、濃度と、イオン交換基含有ポリアリーレン樹脂の分子量と、温度とに依存する。従って、粘度を下げるには、具体的には、濃度を薄くするか、温度を高くする必要がある。粘度が低いほど、前記高さhを低くすることができる。上記濃度は、共重合の反応条件を変更することにより、調節することができる。濃度が高いほど、強固なイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂が析出するので、その取り扱い性が向上する。濃度が5質量%未満であると、軟弱なイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂が析出するので、洗浄時の攪拌等によって破砕されて細かくなり、洗浄時のロスが多くなったり、固液分離ができなくなったりする。従って、イオン交換基含有ポリアリーレン溶液の粘度は、共重合の反応条件を変更することによって高濃度の溶液を得た後、温度によって制御することが好ましい。
より具体的には、イオン交換基含有ポリアリーレン溶液の温度は、当該溶液の粘度にもよるが、20〜65℃の範囲内に調節されていることが好ましい。
また、滴下流量は、0.1g/s以上,5.0g/s以下となるように調節されていることが好ましい。
貧溶媒の温度は25(室温)〜100℃の範囲で設定すればよいが、30〜80℃がより好ましく、30〜65℃がさらに好ましい。析出・洗浄槽1内部の圧力は、減圧,常圧,加圧の何れでもよいが、滴下操作が容易になるので常圧(約1気圧)であることがより好ましい。これら条件は、イオン交換基含有ポリアリーレン樹脂の組成や溶媒の種類に応じて適宜設定すればよい。尚、滴下時の貧溶媒の量は、イオン交換基含有ポリアリーレン溶液に含まれる溶媒が充分に溶解することができる量以上であればよい。
本発明に係るイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂は、貧溶媒中におけるイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂の形状が、断面の長径1mm〜5mm、より好ましくは2〜4mmであり、断面の長径と長さとの比が1:1〜1:100の範囲内である粒状または糸状である。ここで、「断面の長径」とは、糸状のイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂の横断面における最も長い径を指す。イオン交換基含有ポリアリーレン樹脂の粒径や長さが上記下限値よりも小さい場合には、挿入管13に被せられた網の目を通過して当該イオン交換基含有ポリアリーレン樹脂が受器3側に流出するので、洗浄時のロスが多くなる。また、洗浄が進行してpHが上昇するに従い、イオン交換基含有ポリアリーレン樹脂が膨潤してゲル状となるので、挿入管13や配管が詰まり、固液分離ができなくなってしまう。一方、イオン交換基含有ポリアリーレン樹脂の粒径や長さが上記上限値よりも大きい場合には、その内部の液置換(洗浄)が充分に行われなくなるので、洗浄効率が低下する。つまり、イオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を充分に洗浄することができない。
<上記取得装置を用いた取得方法の一例>
上記取得装置を用いた取得方法の一例を、以下に説明する。尚、バルブの開閉操作等、基本的な(一般的な)操作については、その説明を省略する。
先ず、析出・洗浄槽1に貧溶媒10を仕込む。そして、上記貧溶媒10の液面10aからの高さhが所定の高さとなるように、ノズル板11を設置する。勿論、ノズル板11を設置した後、上記高さhが所定の高さとなるように、析出・洗浄槽1に貧溶媒10を仕込んでもよい。
一方、供給槽4に、イオン交換基含有ポリアリーレン溶液を仕込み、所定の温度に保つ。そして、供給槽4内部を不活性ガスで所定の圧力に加圧することによって、ノズルから滴下されるイオン交換基含有ポリアリーレン溶液が所定の滴下流量となるように調節する。さらに、貯蔵タンクに、析出したイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を洗浄するのに充分な量の貧溶媒を仕込むと共に、貯蔵タンク内部を不活性ガスで所定の圧力に加圧する。
次いで、貧溶媒を攪拌しながら、バルブaを開放して供給槽4から析出・洗浄槽1にノズルを通してイオン交換基含有ポリアリーレン溶液を滴下する。このとき、ノズルから糸状に連続的に滴下されたイオン交換基含有ポリアリーレン溶液は、落下中に表面張力によって分割され(切れて)、粒子状または短い糸状となる。
そして、上記滴下を所定の時間かけて行い、滴下終了後、さらに攪拌を続けてイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を充分に析出させる(イオン交換基含有ポリアリーレン溶液に含まれている溶媒を貧溶媒に溶解させる)。貧溶媒中におけるイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂の形状は、断面の長径1mm〜5mm、より好ましくは2〜4mmであり、断面の長径と長さとの比が1:1〜1:100の範囲内である粒状または糸状である。ここで、「断面の長径」とは、糸状のイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂の横断面における最も長い径を指す。
攪拌終了後、析出・洗浄槽1内部を不活性ガスで所定の圧力に加圧して、析出・洗浄槽1から挿入管13を通じて貧溶媒(イオン交換基含有ポリアリーレン溶液に含まれていた溶媒が溶解した貧溶媒)を抜き出し、受器3に貯蔵する。即ち、滴下後、貧溶媒と該貧溶媒中に析出したイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂との混合物から、例えば網目の大きさ(最大径)が1mm未満の網を被せた挿入管13を用いて貧溶媒を抜き出すことにより、析出したイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂と貧溶媒とを分離する。勿論、上記滴下時に、貯蔵タンクから析出・洗浄槽1に貧溶媒を供給しながら、挿入管13を通じて貧溶媒を抜き出す操作を行ってもよい。つまり、滴下時に、貧溶媒をオーバーフローさせてもよい。
その後、貯蔵タンクから析出・洗浄槽1に貧溶媒を供給し、所定の時間、攪拌してイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を洗浄し、攪拌終了後、析出・洗浄槽1内部を不活性ガスで所定の圧力に加圧して、析出・洗浄槽1から挿入管13を通じて貧溶媒を抜き出し、受器3に貯蔵する洗浄操作を数回繰り返す。洗浄によって、イオン交換基含有ポリアリーレン樹脂から溶媒が除去されると共に、スルホン酸基に結合している金属イオンが除去(脱塩)される。また、イオン交換基含有ポリアリーレン樹脂に含まれている未反応モノマーやオリゴマー、触媒等の不純物も併せて除去される。洗浄が終了したか否かは、抜き出した貧溶媒の導電率、或いは、貧溶媒中の溶媒量や金属イオン(脱塩)量を測定することによって判定すればよい。尚、滴下時の貧溶媒と、洗浄時の貧溶媒とは、互いに同一の(同組成の)貧溶媒であってもよく、互いに異なる貧溶媒であってもよい。
洗浄終了後、析出・洗浄されたイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を析出・洗浄槽1から濾過器2に加圧移送し、貧溶媒と分離(固液分離)する。
尚、濾過器2から取り出したイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂は、所定の条件で乾燥させればよい。乾燥されたイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂は、例えば、必要に応じて添加剤等が添加された後、溶融押出成形が行われることにより、例えば高分子電解質膜として使用される。
<取得装置の他の一例>
イオン交換基含有ポリアリーレン溶液から、当該イオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を取り出すのに好適な取得装置の他の一例を、図5を参照しながら説明する。尚、以下の説明においては、上述した取得装置(図1に示す取得装置)の構成と同一の機能を有する構成には、同一の符号を付記して、その説明を省略する。
本発明に係る取得方法を行うのに好適な他の取得装置は、図5に示すように、析出・洗浄槽1に代えて、析出槽1’と洗浄槽1”とを備えている。当該取得装置は、イオン交換基含有ポリアリーレン溶液から当該イオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を連続的に取り出すのに好適な装置である。
析出槽1’には、ノズル板11、貧溶媒供給管12、攪拌機14、ジャケット15が取り付けられている。また、析出槽1’の底部には、貧溶媒と該貧溶媒中に析出したイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂との混合物10’を連続的に取り出して、洗浄槽1”に供給する配管40が設けられている。当該配管にはバルブd’が設けられている。さらに、析出槽1’の上部には、気化した貧溶媒や溶媒を凝縮させる凝縮器(図示しない)が取り付けられている。
析出槽1’は、貧溶媒10にイオン交換基含有ポリアリーレン溶液を滴下することによって当該イオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を析出させる構成になっている。尚、析出槽1’は、内容積が30,000L程度のものまで製作可能である。
そして、析出時には、析出槽1’内の貧溶媒10の量が一定となるように、配管40を介して単位時間当たりに抜き出される混合物10’の量は、供給槽4から単位時間当たりに供給されるイオン交換基含有ポリアリーレン溶液の量と、貧溶媒供給管12から単位時間当たりに供給される貧溶媒の量との合計量とほぼ等しくなるように調節される。
洗浄槽1”には、配管40、貧溶媒供給管12、挿入管13、攪拌機14、ジャケット15が取り付けられている。上記配管40は、析出槽1’から取り出された、貧溶媒と該貧溶媒中に析出したイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂との混合物10’を、洗浄槽1”に連続的に供給する。また、洗浄槽1”の底部には、洗浄されたイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を取り出す配管が設けられている。さらに、洗浄槽1”の上部には、気化した貧溶媒や溶媒を凝縮させる凝縮器(図示しない)が取り付けられている。
洗浄槽1”は、混合物10’に含まれる析出したイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を貧溶媒10で洗浄する構成になっている。尚、洗浄槽1”は、内容積が30,000L程度のものまで製作可能である。
挿入管13は、洗浄槽1”内の混合物10’に含まれる貧溶媒(イオン交換基含有ポリアリーレン溶液に含まれていた溶媒が溶解した貧溶媒)を、析出したイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂と分離(固液分離)しながら抜き出すようになっている。挿入管13は、洗浄槽1”の上蓋における液排出口から挿入されており、その下端部が、混合物10’の液面10’aよりも下方に位置するように設置されている。つまり、挿入管13は、その下端部を含む一部分が、混合物10’の液面10’a下に没するように設置されている。
そして、洗浄時には、洗浄槽1”内の混合物10’の量が一定となるように、挿入管13を介して単位時間当たりに抜き出される貧溶媒の量と、洗浄槽1”の底部からバルブdを介して単位時間当たりに取り出されるイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂の量との合計量は、配管40から単位時間当たりに供給される混合物10’の量とほぼ等しくなるように調節される。
<上記他の一例の取得装置を用いた取得方法の他の一例>
上記他の一例の取得装置を用いた取得方法の他の一例を、以下に説明する。尚、上述した取得方法の操作と同一の操作の説明は、重複するので省略する。
先ず、析出槽1’に貧溶媒10を仕込む。また、供給槽4に、イオン交換基含有ポリアリーレン溶液を仕込み、所定の温度に保つ。そして、供給槽4内部を不活性ガスで所定の圧力に加圧することによって、ノズルから滴下されるイオン交換基含有ポリアリーレン溶液が所定の滴下流量となるように調節する。また、析出槽1’に接続されている貯蔵タンクに、イオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を連続的に析出させるのに充分な量の貧溶媒を仕込むと共に、貯蔵タンク内部を不活性ガスで所定の圧力に加圧する。一方、洗浄槽1”に接続されている貯蔵タンクに、析出したイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を連続的に洗浄するのに充分な量の貧溶媒を仕込むと共に、貯蔵タンク内部を不活性ガスで所定の圧力に加圧する。尚、上記両貯蔵タンクは、上述の通り充分な量の貧溶媒を仕込むことができる構成となっていてもよく、外部から貧溶媒が適宜供給(補給)される構成となっていてもよい。
次いで、析出槽1’内の貧溶媒を攪拌しながら、バルブaを開放して供給槽4から析出・洗浄槽1にノズルを通してイオン交換基含有ポリアリーレン溶液を滴下すると共に、貧溶媒供給管12から貧溶媒を供給する。そして、上記滴下を行い、イオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を充分に析出させ(イオン交換基含有ポリアリーレン溶液に含まれている溶媒を貧溶媒に溶解させ)ながら、配管40を通じて混合物10’を析出槽1’から連続的に取り出して、洗浄槽1”に供給する。貧溶媒中におけるイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂の形状は、断面の長径1mm〜5mm、より好ましくは2〜4mmであり、断面の長径と長さとの比が1:1〜1:100の範囲内である粒状または糸状である。
一方、洗浄槽1”では、配管40を通じて供給された混合物10’を攪拌しながら、貧溶媒供給管12から貧溶媒を供給する。そして、上記供給を行い、イオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を充分に洗浄しながら、洗浄槽1”から挿入管13を通じて貧溶媒(イオン交換基含有ポリアリーレン溶液に含まれていた溶媒が溶解した貧溶媒)を連続的に抜き出し、受器3に貯蔵する。即ち、貧溶媒と該貧溶媒中に析出したイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂との混合物から、挿入管13を用いて貧溶媒を抜き出すことにより、析出したイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂と貧溶媒とを分離する。つまり、貯蔵タンクから洗浄槽1”に貧溶媒を供給しながら、挿入管13を通じて貧溶媒を抜き出すオーバーフローを行う。また、上記操作と平行して、洗浄されたイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を、バルブd・iが設けられた配管を通じて洗浄槽1”から濾過器2に取り出し、貧溶媒と分離(固液分離)する。
(滴下条件)
図4に示す試験装置を用いて、滴下条件と、析出したイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂の形状との関係について検討した。
先ず、図4に示すように、スタンド上に設置した電磁式のスターラーの上に、樹脂製の受器Aを乗せ、この受器Aに水300gと攪拌子とを入れた。また、スタンドの上部に、その底部に吐出用のノズルを有する有底円筒状の容器Bを設置し、この容器Bにイオン交換基含有ポリアリーレン溶液を入れた。
上記イオン交換基含有ポリアリーレン溶液として、共重合様式が前記式(16)で表される、式中のmが約100,イオン交換容量が2.4meq/g,ポリスチレン換算の数平均分子量が387,000のイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を、N−メチル−2−ピロリドンに溶解した溶液を用いた。
そして、上記容器Bには、イオン交換基含有ポリアリーレン溶液の温度を調節するためのジャケットを取り付けると共に、内部を加圧するために窒素ガスを供給する配管と、圧力計とを取り付けた。そして、温水を循環供給するためのポンプを備えた温水槽を設置し、上記ジャケットと温水槽とをシリコーン製のチューブで接続した。
また、イオン交換基含有ポリアリーレン溶液の滴下流量は、容器Bに供給する窒素ガスの圧力で調節するため、予め、上記滴下流量と吐出圧力との関係を示す検量線を求めた。
その後、受器A内の水を攪拌しながら、受器B内部を所定の滴下流量に応じた圧力に加圧し、吐出用のノズルを開にして、イオン交換基含有ポリアリーレン溶液を滴下した。そして、上記滴下流量およびイオン交換基含有ポリアリーレン溶液の粘度等を適宜変更することにより、本発明において好適な形状のイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂が析出する高さ、即ち、容器Bのノズル先端から、イオン交換基含有ポリアリーレン溶液が落下中に表面張力によって分割される(切れる)までに必要な距離Hを求めると共に、そのとき析出したイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂の形状を観察した。尚、上記の距離Hは、イオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を工業的に(大量に)取得する場合に用いる取得装置における高さhとほぼ等しい値であると見なすことができる。
滴下条件を種々変更して距離H等を求めた結果を表1〜3に示す。評価は、析出したイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂の形状が、直径1〜4mmの粒子状である場合を「◎」,直径1〜4mmの粒子状と、断面の長径と長さとの比が1:1〜1:100の範囲内である粒状または糸状とが混在した状態である場合を「○」,長さが100mm以下の糸状と、長さが100mmを超える糸状とが混在した状態である場合を「△」,全て、長さが100mmを超える糸状である場合を「×」とした。本発明において好適な滴下条件は、「◎」および「○」である。
上記表1の結果から、滴下流量が大きくなるに従い、イオン交換基含有ポリアリーレン溶液が落下中に表面張力によって分割される(切れる)までに必要な距離Hを長くすればよいことが判る。また、上記表1,2の結果から、粘度を小さくすると、上記距離Hを短くすればよいことが判る。従って、粘度を小さくすることによって滴下流量を大きくすることができるので、取得装置における高さhに制限がある場合には、粘度を小さくすることでイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂の取得能力を向上させることができることが判る。
また、上記表3の結果から、滴下流量が等しい場合には、ノズル径(ノズルの直径)が大きくなるに従い、上記距離Hを短くしてもよいことが判る。一方、ノズル径が1mmよりも小さい場合には、イオン交換基含有ポリアリーレン溶液が表面張力によって分割され難く(切れ難く)なるので、析出したイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂の形状が、長さが100mmを超える糸状になり易いことが判る。
(実施例)
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に記載された取得方法に限定されるものではない。
(実施例1)
図1に示す取得装置に相当する装置を用いて、イオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を取得した。
先ず、析出・洗浄槽に、6モル/L塩酸436kgを仕込んだ。そして、上記塩酸の液面からの高さが2.1mとなるように、ノズル板を設置した。当該ノズル板として、外径サイズが40A(JIS規格)で厚さ5mmのフッ素樹脂板を用い、直径2mmのノズルを21個形成した。また、析出・洗浄槽に、50メッシュのフッ素系樹脂製の網を被せた挿入管を取り付けた。
供給槽に、イオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を7.4質量%含む溶液10kgを仕込み、温度を30℃に保った。30℃における上記溶液の粘度は3,300mPa・Sであった。尚、上記溶液として、前記滴下条件を検討するときに用いたものと同じイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を7.4質量%含む溶液を用いた。
そして、供給槽内部を窒素ガスで80kPaに加圧して、ノズルから滴下されるイオン交換基含有ポリアリーレン溶液の滴下流量が12kg/hr(ノズル1個当たり0.16g/s)となるように調節した。さらに、貯蔵タンクに、洗浄するのに充分な量の酸メタノールを仕込んだ。
次いで、塩酸を攪拌しながら、供給槽から析出・洗浄槽にノズルを通してイオン交換基含有ポリアリーレン溶液を滴下した。すると、当該イオン交換基含有ポリアリーレン溶液は塩酸と接触した後、直ちに固化した。つまり、イオン交換基含有ポリアリーレン樹脂が析出した。析出したイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂の形状は、直径が2mm以下の粒子状であった。そして、上記滴下を50分間かけて行い、滴下終了後、さらに1時間攪拌を続けた。
攪拌終了後、析出・洗浄槽内部を窒素ガスで50kPaに加圧して、析出・洗浄槽から挿入管を通じて塩酸(イオン交換基含有ポリアリーレン溶液に含まれていた溶媒が溶解した塩酸)を抜き出し、受器に貯蔵した。
その後、貯蔵タンクから析出・洗浄槽に酸メタノールを供給し、1時間攪拌してイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を洗浄した。攪拌終了後、析出・洗浄槽内部を窒素ガスで50kPaに加圧して、析出・洗浄槽から挿入管を通じて酸メタノールを抜き出し、受器に貯蔵した。この洗浄操作を数回繰り返した後、貯蔵タンクに水を仕込み、貯蔵タンクから析出・洗浄槽に水を供給し、1時間攪拌してイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を水洗した。
洗浄終了後、析出・洗浄されたイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を析出・洗浄槽から濾過器に加圧移送し、水と分離(固液分離)した。上記イオン交換基含有ポリアリーレン樹脂は、析出した段階での形状が2mm以下の粒子状であったので、洗浄や加圧移送等の操作を容易に行うことができた。
そして、水を切ったイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を濾過器から取り出し、90℃で48時間乾燥した。尚、乾燥後のイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を分析したところ、金属含有量は20ppm以下であった。
(実施例2)
実施例1と同じ装置および溶液を用いて、供給槽内部を窒素ガスで150kPaに加圧して、ノズルから滴下されるイオン交換基含有ポリアリーレン溶液の滴下流量が24kg/hr(ノズル1個当たり0.32g/s)となるように調節した以外は、実施例1と同様の滴下を行った。
析出したイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂の形状は、直径が2mmで長さが2〜20mm程度の粒状と糸状とが混在した状態であった。従って、洗浄や加圧移送等の操作を容易に行うことができた。
その後、実施例1と同様の操作を行った。乾燥後のイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を分析したところ、金属含有量は20ppm以下であった。
(実施例3)
実施例1と同じ装置および溶液を用いて、イオン交換基含有ポリアリーレン溶液の温度を60℃に保って、ノズルから滴下されるイオン交換基含有ポリアリーレン溶液の滴下流量が21kg/hr(ノズル1個当たり0.28g/s)となるように調節した以外は、実施例1と同様の滴下を行った。60℃における上記溶液の粘度は1,700mPa・Sであった。
析出したイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂の形状は、直径が2mmで長さが2〜20mm程度の粒状と糸状とが混在した状態であった。従って、洗浄や加圧移送等の操作を容易に行うことができた。
その後、実施例1と同様の操作を行った。乾燥後のイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を分析したところ、金属含有量は20ppm以下であった。
(実施例4)
実施例1と同様の装置および溶液を用いて同様の滴下を行い、イオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を取得した。但し、下記の条件変更を行った。即ち、6モル/L塩酸の仕込み量を438kgとした。そして、上記塩酸の液面からの高さが1.2mとなるように、所謂シャワーヘッド型のノズル板を設置した。当該ノズル板として、フッ素樹脂板を用い、直径4mmのノズルを8個形成した。また、供給槽に、イオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を6.3質量%含む溶液140kgを仕込み、温度を65℃に保った。65℃における上記溶液の粘度は340mPa・Sであった。さらに、供給槽内部を窒素ガスで40kPaに加圧して、ノズルから滴下されるイオン交換基含有ポリアリーレン溶液の滴下流量が135kg/hr(ノズル1個当たり4.69g/s)となるように調節した。
析出したイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂の形状は、直径が2mmで長さが30〜50mmの糸状であった。従って、洗浄や加圧移送等の操作を容易に行うことができた。
その後、実施例1と同様の操作を行った。乾燥後のイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を分析したところ、金属含有量は20ppm以下であった。
(参考例1)
図1に示す取得装置に相当する装置において、ノズル板11の代りにスプレーノズルを用いると共に、実施例1で用いた析出・洗浄槽の大きさと比較して凡そ100分の1の大きさのガラス容器を用いた以外は、実施例1と同様の装置および溶液を用いて、イオン交換基含有ポリアリーレン樹脂の取得を参考例として試みた。しかしながら、析出・洗浄槽であるガラス容器の内容物は一様なゲルとなり、例えば、反応溶液から取り出した後の取り扱いや洗浄等の操作が容易になるなどの、良好な形状を有するイオン交換基含有ポリアリーレン樹脂を取り出すことはできなかった。