JP2009211791A - 磁気記録媒体の製造方法及び製造装置 - Google Patents

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弘士 金井
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俊典 大野
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Abstract

【課題】保護膜中に含まれる金属コンタミネーションを低減する垂直磁気記録媒体の製造方法を提供する。
【解決手段】垂直磁気記録媒体10は、非磁性基板1の上に密着層2、軟磁性層3、中間層4、Ru中間層5、グラニュラー磁気記録層6、Co合金キャップ層7、DLC保護膜8を有する。Co合金キャップ層7まで積層した基板1を保護膜形成室21に搬入する(ステップ102)。保護膜形成室21は、RF電源から高周波電力が印加されるRF電極22を備えている。この電極22に灰分5ppm以下、且つかさ密度1.8g/cm以上の一体物のグラファイト材を使用する。保護膜形成室21に炭化水素ガスを導入し(ステップ104)、プラズマを誘引して保護膜8を形成する(ステップ108)。保護膜形成後、基板1を取り出し、保護膜形成室21に酸素ガスを導入し、酸素プラズマによるアッシングを行い、電極22に堆積した硬質DLC膜を除去する。
【選択図】図1

Description

本発明は、磁気記録媒体の製造方法及び製造装置に係り、特に、保護膜中に含まれる金属コンタミネーションを低減する磁気記録媒体の製造方法及び製造装置に関する。
大型コンピュータ、ワークステーション、パーソナルコンピュータ等の記憶装置に用いられる磁気ディスク装置は年々その重要性が高まり、大容量小型化へと発展を遂げている。磁気ディスク装置の大容量小型化には高密度化が不可欠である。その為近年、従来の面内磁気記録方式に比べて高密度化が可能な垂直磁気記録方式による製品実用化が進んでいる。垂直磁気記録方式に用いる磁気記録媒体として、ガラス基板やアルミニウムにニッケルリンメッキを施した剛性の非磁性基板上に密着層、軟磁性層、中間層、グラニュラー磁性層、キャップ層といった層構成が用いられることがある。
従来から、スパッタリングによる成膜技術を用いて作製される磁気記録媒体には、磁気記録媒体の磁性膜を磁気ヘッドによる摺動から保護する目的でダイヤモンドライクカーボン(DLC)保護膜が設けられている。そして、その保護膜の膜厚は5nm以下まで薄膜化されている。また、磁気ヘッドと磁気記録媒体の摩擦を低減する目的で保護膜の上にはフルオロカーボン系液体潤滑材を用いるのが一般的である。
DLC保護膜は炭化水素ガスを用いた高周波プラズマによる化学的気相成長法(RF−CVD)法により、炭化水素ラジカルと炭化水素イオンを基板に堆積させることによって成膜される。その際、電極材にはAl系またはSUS系のメタル材を用いるのが一般的である。高周波プラズマでは、電極に自己バイアス電圧と呼ばれる負の直流電圧が発生する。この自己バイアス電圧によりプラズマ中のイオンが加速されることで電極材がスパッタリングされ、且つ電極にはイオン衝撃により硬質DLC膜が堆積する。硬質DLC膜は内部応力が高く、堆積量が増えると剥離により発塵を生じ、製品不良の原因となる。これを防ぐ為に、磁気記録媒体の製造工程では、堆積した硬質DLC膜を除去するために、酸素プラズマによるアッシングを定期的に行い、保護膜形成室のクリーニングを行っている。また、メタル電極材が露出した状態で保護膜形成を行うと、保護膜中にメタル電極材を構成する金属元素が混入し、製品不良の原因となる。これを防止する為に、磁気記録媒体の製造工程においては、予め電極をカーボン膜で被覆する予備成膜を行っている。
特許文献1には、保護膜作製チャンバーのパーティクル発生を防止する方法として、保護膜作製チャンバーの露出面に堆積したカーボン膜を、酸素プラズマにより除去する方法が開示されている。また、放電用電極が金属部と、金属部の表面にコーティングや蒸着法により形成されたカーボン層とで構成されることが記載されている。
特開2002-133650号公報
保護膜中に金属コンタミネーションが存在すると、潤滑剤が保護膜に付着する際に金属粒子の周囲に凝集し、局所的に潤滑剤が厚く付着してしまう。そして、厚く付着した潤滑剤の上を磁気ヘッドが通過すると、磁気ヘッドに潤滑剤が付着してしまい、磁気ヘッドの浮上性の劣化及び磁気再生出力低下などを引き起こし、不良が増加するという問題がある。電極材に上述のようなメタル材を使用している場合、従来の保護膜形成手法では電極材を構成する金属元素が保護膜中へコンタミネーションとして混入する可能性が高い。
この保護膜中の金属コンタミネーションを低減する為に、特許文献1に記載された方法を適用することが考えられる。しかし、特許文献1に記載された方法では以下の問題がある。
第一に、金属電極に予めコーティングや蒸着法によりカーボングラファイトやパイロリティックカーボン等のカーボン層を形成した電極を使用しおり、カーボン層と金属部の熱伝導率が異なることから、保護膜形成を連続して処理する場合には発熱によりプラズマが不安定となる。そして、チャンバー内に露出した電極のカーボン層が灰化することにより発塵が生じてしまう。したがって、磁気記録媒体の連続作製は困難であるという問題がある。
第二に、酸素プラズマにより電極をクリーニングする際に、電極表層のカーボン層が燃焼してしまい、金属面が露出するという問題がある。
第三に、保護膜形成を連続して処理する際に、酸素プラズマによるクリーニングで完全に削り取られない程度の十分な厚みのカーボン層を電極の表層に形成しても、酸素プラズマによるクリーニング条件が適正でない場合、少なくとも以下の問題が発生する。酸素プラズマによる電極クリーニングが過多であると電極自体が燃焼して寸法が減少し、形成される保護膜の膜厚分布の偏りが大きくなってしまう。そして、その偏りが大きくなりすぎてしまうと、磁気記録媒体の保護膜としての性能を満足出来なくなるという問題がある。一方、酸素プラズマによる電極クリーニングが不十分であるか、またはクリーニングを行わないと、電極に堆積した硬質DLC膜が剥離することで発塵が生じ、前記の問題が生じてしまう。
したがって、カーボングラファイトやパイロリティックカーボンを保護膜形成工程の電極として用いる場合、酸素プラズマによる電極クリーニング条件は、電極自体の燃焼による寸法減少が生じず、且つ保護膜の連続形成により電極に堆積した硬質DLC膜を除去し、剥離による発塵が生じない条件を設定する必要がある。すなわち、電極に保護膜形成工程などで堆積した硬質DLC膜のみを除去する条件とする必要がある。
また、チャンバー内に露出する電極に使用されるカーボン材のグレードに特に制約を設けない場合は、少なくとも以下の問題が発生する。
第一に、ある一定以上の純度のカーボン材を使用しないと、カーボン材に含まれる灰分が保護膜中に混入し、製品不良の原因となる。
第二に、ある一定以上の密度のカーボン材を電極材として使用しないと、所望の到達圧力を得るまでに多大な時間を要する。また、開気孔がガス分子を捕捉することで部材交換後に成膜レートが変動する為、ダミー基板を処理する必要があり生産効率が低下する。
本発明の磁気記録媒体の製造方法は、少なくとも基板上に磁性膜と保護膜を有する磁気記録媒体の製造方法であって、
前記磁性膜が形成された基板を保護膜形成室に導入する工程と、
保護膜形成室に炭化水素ガスを導入する工程と、
グラファイト材により形成された電極に電力を印加して前記炭化水素ガスをプラズマ化する工程と、
前記基板に電圧を印加して保護膜を成膜する工程と、を有する。
前記グラファイト材は、かさ密度が1.8g/cm3以上及び/又は灰分が5ppm以下であることが望ましい。
前記炭化水素ガスを導入する工程において、炭化水素ガスに加えて水素ガス又は窒素ガス又は水素と窒素の混合ガスを導入することが望ましい。
さらに、前記工程に加え、保護膜形成室に酸素ガスを導入する工程と、電極に電力を印加し、酸素ガスをプラズマ化し130kJから230kJの電力量で電極をクリーニングする工程と、を有する。
前記保護膜形成室を少なくとも2室有し、一方の保護膜形成室で保護膜を形成する工程を実施している場合、他方の保護膜形成室では、クリーニングする工程を実施する。
本発明の磁気記録媒体の製造装置は、少なくとも基板上に磁性膜と保護膜を有する磁気記録媒体の製造装置であって、
保護膜形成室にガスを導入するガス導入口と、
前記保護膜形成室からガスを排気するガス排気口と、
前記ガス導入口から導入されるガスをプラズマ化するための第一の電極と、
前記磁気記録媒体に電圧を印加する電圧印加手段とを有し、
前記第一の電極はグラファイト材により形成される。
前記グラファイト材は、かさ密度が1.8g/cm3以上及び/又は灰分が5ppm以下であることが望ましい。
前記保護膜形成室を少なくとも2つ有することが望ましい。
本発明によれば、磁気記録媒体の製造において、保護膜中に含まれる金属コンタミネーションを低減することができる。また、保護膜中に含まれる金属コンタミネーションに起因する磁気ヘッド浮上性の劣化及び磁気再生出力低下が少ない磁気記録媒体を得ることができる。
以下、図面を参照して本発明の一実施例を詳細に説明する。
まず、本実施例において製造される磁気記録媒体について図を用いて説明する。図2は本実施例において製造される磁気記録媒体の一例であり、垂直磁気記録媒体の断面を模式的に示す断面図である。図2を参照して垂直磁気記録媒体10の層構成を説明する。垂直磁気記録媒体10は、非磁性基板1の両面に、密着層2、軟磁性層3、シード層4、Ru中間層5、グラニュラー磁気記録層6、Co合金キャップ層7、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)保護膜8が形成されてなり、保護膜8の上に、潤滑膜9が形成されることが望ましい。グラニュラー磁気記録層6とCo合金キャップ層7とで磁性膜が構成されている。また、軟磁性層3は、下部軟磁性層3a、反強磁性結合誘発層3b、上部軟磁性層3cが積層されて構成されている。なお、非磁性基板1の上下で、層構成が対称であるので、図2では、上側の層のみを示している。
次に、上記の垂直磁気記録媒体の製造装置の概略を図3を用いて説明する。図3は垂直磁気記録媒体の製造装置を示した図である。尚、非磁性基板上に磁性膜を形成するまでの工程は、以下に示すような製造方法に従って行う。
まず、ガラス基板1(外径48mm、内径12mm、厚さ0.5mm)の洗浄を十分に行い、これを約1.3×10−5Pa以下まで排気された基板ロード室に導入する。その後密着層形成室に搬送し、Ar雰囲気約0.8Paの条件下で、DCマグネトロンスパッタリング法により、Al−50.0at%Ti密着層2を5nm形成する。次に下部軟磁性層形成室に搬送し、Ar雰囲気約0.8Paの条件下で、DCマグネトロンスパッタリング法により、Fe−30〜40at%Co−5〜15at%Ta−3〜13at%Zrの下部軟磁性層3aを35nm形成する。次に反強磁性結合誘発層形成室に搬送し、Ar雰囲気約0.8Paの条件下で、DCマグネトロンスパッタリング法により、Ru層3bを0.5nm形成する。次に上部軟磁性層形成室に搬送し、Ar雰囲気約0.8Paの条件下で、DCマグネトロンスパッタリング法により、Fe−30〜40at%Co−5〜15at%Ta−3〜13at%Zrの上部軟磁性層3cを35nm形成する。
続いて基板1を基板冷却室に搬送し、スパッタリングによる熱の影響で上昇した基板温度を60゜Cまで低下した後、中間層形成室に搬送し、Ar雰囲気約0.8Paの条件下で、DCマグネトロンスパッタリング法により、Cr−40〜60at%Ti層を2.5nm形成し、この上にNi−5〜10at%W層を9nm積層して、中間層4を形成する。次にRu中間層形成室に搬送し、Ar雰囲気約0.8Paの条件下で、DCマグネトロンスパッタリング法により、Ru中間層5を20nm形成する。次に磁気記録層形成室に搬送し、Ar雰囲気約0.9Paの条件下で、DCマグネトロンスパッタリング法により、90mol%(Co−10〜20at%Cr−10〜20at%Pt)10mol%SiOグラニュラー磁気記録層6を20nm形成する。次にCo合金キャップ層形成室に搬送し、Ar雰囲気約0.8Paの条件下で、Co−20〜30at%Cr−5〜15at%PtのCo合金キャップ層7を10nm形成する。この磁性膜まで形成した基板を用い、以下に述べる本発明に関わる金属コンタミネーションが少ないDLC保護膜8を形成した。なお、磁性膜までの形成工程は、上記工程に限定されるものではない。
前記基板1としては、ソーダライムガラスの他に、化学強化したアルミノシリケート、Ni−Pを無電解めっきしたAl−Mg合金基板、シリコン,硼珪酸ガラス等からなるセラミクス、または、ガラスグレージングを施したセラミックス等からなる非磁性の剛体基板を用いることができる。
密着層2は、ソーダライムガラスからのアルカリ金属の電気化学溶出を防ぐ為、またガラスと軟磁性層との密着性を向上するために設けてあるもので、厚さは任意である。また、特に用いる必要がなければ省略することもできる。
基板冷却工程は、上部軟磁性層3cの形成後ではなく、上部軟磁性層3cの形成前、あるいはグラニュラー磁気記録層6の形成前に実施することもでき、さらにこれらを複数組み合わせることも可能である。
次に図4を用いて垂直磁気記録媒体のDLC保護膜を形成する保護膜形成室の概要及びその保護膜形成室を用いてDLC保護膜を形成する製造工程を説明する。図4は垂直磁気記録媒体のDLC保護膜を形成する保護膜形成室の概要図である。
保護膜形成室21は、13.56MHzの高周波(Radio Frequency(RF))電源から整合回路(M.B)を経て高周波の電力が印加されるRF電極22を備えている。そして、電極22は基板1の両サイドに左右対称に設けてあり、両面同時に成膜できる構造となっている。この電極22は、灰分5ppm以下、かさ密度1.8g/cm以上の一体物のグラファイト材により形成されている。なお、本実施例においては、電極22に灰分5ppm以下、且つかさ密度1.8g/cm以上の一体物のグラファイト材を使用したが、灰分5ppm以下の一体物のグラファイト材、あるいはかさ密度1.8g/cm以上の一体物のグラファイト材を用いることもできる。金属部とその上にグラファイト材を形成した構成ではなく、一体物のグラファイト材を電極22として使用することにより、成膜後の保護膜に金属コンタミネーションが含まれる可能性を低減できる。また、保護膜形成を連続して処理した場合にもプラズマが不安定となりづらく、電極22のグラファイト材が灰化しにくくなる。
保護膜形成室21はさらに保護膜形成室内にガスを導入するガス導入口24や、保護膜形成室内からガスやその他の気体を排気するターボモレキュラポンプ23が設置されるガス排気口を備えている。さらに、基板にバイアス電圧を印加する電極25などの電圧印加手段も備えている。ここで、電圧印加手段は、電極25に限られるものではない。
以下、図4と図1に示されるフローチャートを用いて保護膜成膜工程を説明する。基板1上に磁性膜を成膜した後(ステップ100)、基板1を真空槽内から出すことなく、図4に示す保護膜形成室21に搬入する(ステップ102)。保護膜形成室21はターボモレキュラポンプ23で排気しながら、保護膜形成室上方のガス導入口24から炭化水素ガス(エチレンガス(C))をマスフローコントローラを介して100〜250sccm(Standard Cubic centimeter per minutes)、同時に水素(H)ガスをマスフローコントローラを介して100〜200sccm、同時に窒素(N)ガスをマスフローコントローラを介して50〜200sccm導入する(ステップ104)。上記実施例においては、保護膜形成室21への導入ガスとして、炭化水素ガスと水素ガスと窒素ガスの混合ガスを用いたが、これに限られることはなく、炭化水素ガスのみ、炭化水素ガスと水素ガスの混合ガス、炭化水素ガスと窒素ガスの混合ガスでも良い。炭化水素ガスのみあるいは炭化水素ガスと水素ガスを用いた場合は、水素を含む炭素膜が形成され、炭化水素ガスと窒素ガスを用いた場合は、水素と窒素を含む炭素膜が形成される。また、炭化水素ガスとしては、エチレンガス(C)の他に、アセチレンガス、メタンガス及びエタンガスが好適であり、また、これらの混合ガスでも良い。
ガスを導入しはじめてから、0.5sec後に電極22にRF電力を2000W印加して、混合ガスを放電によりプラズマ化する。そして、硬質DLC保護膜を形成する為に、基板にバイアス電圧を印加する。基板にバイアス電圧を印加する際には、電位がグランド及び電極22から絶縁されたNi合金からなる基板バイアス印加電極25を基板端面に接触させることで-250Vを印加する。このとき、電極22の自己バイアス電圧は−1150〜−1350V、基板側へのバイアス電流は基板把持具分も含めてトータル0.35〜0.90Aである。このRF-CVDを用いプラズマを保持する時間を調節することで、炭素を主成分とし水素と窒素を含有するDLC保護膜8を4.0nm形成する(ステップ106、108)。このとき保護膜形成室21の圧力はバラトロンゲージの読み値で2.5〜3.0Paであった。この後、保護膜8が形成された磁気ディスクを保護膜形成室21から排出する(ステップ110)。
また、保護膜形成室21は、電極22に堆積した硬質DLC膜の剥離による発塵を防止する為に定期的に酸素プラズマによるアッシングを行い、電極22のクリーニングを行う機能を備えている。ここで、アッシングとは酸素プラズマにより電極22に堆積したDLC膜等を除去することである。
以下、図4と図5に示されるフローチャートを用いてクリーニング工程を説明する。電極22のクリーニングの際には、保護膜形成室21に磁性膜を成膜した基板1が無い状態とする。本装置は、図4に示される保護膜形成室21を2室有しており、2室の内1室が保護膜形成を行っている間、他方は電極22のクリーニングを行うようになっている。その為、電極22のクリーニングによる生産効率低下は生じない。その際、保護膜形成50回毎に保護膜形成室21を切替えるようにする。なお、本実施例では保護膜形成室21を2室としているがこれに限られるものではない。電極22のクリーニングをするために、保護膜形成室21をターボモレキュラポンプ23で排気しながら、保護膜形成室上方のガス導入口24から酸素ガス(O)をマスフローコントローラを介して500sccm導入する(ステップ500)。ガスを導入してから0.5sec後に電極22にRF電力を1000〜1800W印加して、酸素ガスを放電によりプラズマ化する。このとき、電極22の自己バイアス電圧は−750〜−1550Vである。酸素プラズマ中の酸素ラジカルや酸素イオンにより、電極22に堆積した硬質DLC膜はアッシングされて除去される(ステップ502)。
なお、プラズマ保持時間及びRF電力を変化させることで、アッシング量を変化させることが可能である。グラファイト材から成る電極の場合、アッシング過多になると電極自体が燃焼することで寸法減少が生じ、これにより保護膜膜厚の面内分布の差が大きくなる。そして、面内の保護膜膜厚の最大値と最小値の差が0.3nm以上であると磁気記録媒体としての耐食性が満足出来なくなる事が経験的に分かっている。従って、電極22のクリーニング条件は、次の二条件を満足する必要がある。
第一の条件は、電極自体の燃焼による寸法減少が生じないという条件であり、第二の条件は、電極22に堆積した硬質DLC膜の剥離による発塵が生じないという条件である。すなわち、電極22に堆積した硬質DLC膜のみを除去する条件とする必要がある。
そこで上記二条件を満たすため、上記クリーニング工程により電極22に電力を印加して誘引した酸素プラズマの電力量が45〜300kJでクリーニングした数種類のサンプルを用い比較した。
前記グラファイト材電極を上記工程によりクリーニングした際の、成膜枚数に対する磁気記録媒体表面のパーティクル数を評価した。測定には、光学式ディスク表面検査装置を用い、光散乱測定モードによって、磁気記録媒体上のパーティクルを計数した。この評価結果を図6に示す。すなわち、100k枚を成膜した後の成膜時のパーティクル数は、酸素プラズマの電力量を130〜300kJとしてクリーニングした場合に、パーティクルが9個以下と良好な結果が得られた。
次に、成膜枚数に対する保護膜の面内の最大膜厚と最小膜厚の差を評価した。測定は、n&k法によって、保護膜膜厚を算出した。この評価結果を図7に示す。すなわち、面内の最大膜厚と最小膜厚の差は100k枚の成膜に対して、酸素プラズマの電力量を45〜230kJとしてクリーニングした場合には0.3nm以下と良好な結果が得られた。
次に、成膜枚数に対する電極形状の変化を評価した。測定にはデジタルノギスを用い、電極の数箇所を計測した。それぞれの計測箇所における新品部材の寸法を100%とし、一番変化率の大きい計測箇所のみプロットした。この評価結果を図8に示す。この結果より、酸素プラズマの電力量を45〜230kJとしてクリーニングを行った場合には、初期の電極形状保持率が98%以上であるという結果が得られた。
上記の結果から、前述の二条件を満足する前記グラファイト材電極22のクリーニング条件は、酸素ガスを500sccm導入し、ガスを導入してから0.5sec後に電極22にRF電力を印加してプラズマを誘引し、酸素プラズマの電力量を130〜230kJとして電極クリーニングをすることである。以下、実施例ではこの条件で電極クリーニングを行った。
前記グラファイト材電極22による保護膜中への金属コンタミネーション低減効果を検証する為に、上記方法で作製したサンプルの保護膜中の金属コンタミネーションを以下の手法で測定した。保護膜中の金属コンタミネーションの測定には、セクタ形二次イオン質量分析装置を用い、ICP−AES(Inductively coupled plasma−Atomic Emission Spectrometry)により定量した。測定元素は不純物として含まれる代表的な元素であるMg、Al、Feとした。Mgは、保護膜形成室21の電極として従来使用していたメタル電極材の構成元素である。Al、Feはメタル電極材の構成元素であると同時にカーボン材に灰分として含まれる元素である。
セクタ型二次イオン質量分析装置は、簡便に測定可能であるという利点があるが、測定結果はバックグラウンド強度に対する強度比(noise ratio)として数値化するに過ぎず不純物の定量は困難である。本分析によるnoise ratioが概ね1.5以下であると磁気記録媒体の製造工程において、不純物起因の不良が生じない事が経験的に分かっている。
前記セクタ形二次イオン質量分析装置の結果を定量する為、以下に示す3種類のマスターディスクを作製しICP−AESにより評価を行った。このマスターディスクは、不純物を意図的に添加しnoise ratioが25.0程度のサンプル(サンプル1)、noise ratioが検出閾値である1.5程度のサンプル(サンプル2)、前記セクタ型二次イオン質量分析装置において不純物が含まれていないとされるnoise ratioが1.5以下のサンプル(サンプル3)である。その結果、サンプル1の金属元素の含有量は5000ppm、サンプル2の金属元素の含有量は300ppm、サンプル3の金属元素の含有量は180ppmであった。つまり、金属元素の含有量が300ppm以下であると磁気記録媒体の製造工程において、不純物起因の不良が生じないと言える。
図9に電極22の材質による保護膜中に混入した金属コンタミネーションの結果を示す。電極22の材質を、本実施例のグラファイト材、比較例として灰分10ppmのグラファイト材及びメタル材とした。なお、図中のエラーバーは100k枚成膜時における測定結果の最大値および最小値を示している。図9の結果より、保護膜中の金属コンタミネーションは保護膜形成室の電極材がメタル材及びカーボン材(灰分10ppm)の場合には、noise ratioが1.5(ICP−AESで、300ppm)以上であり且つバラツキが大きいのに対して、本実施例のグラファイト材を保護膜形成室の電極に使用する事で、安定してnoise ratioを1.5以下とすることができる。
次に、成膜後の磁気記録媒体表面のパーティクル数を評価した。測定には、光学式ディスク表面検査装置を用い、光散乱測定モードよって、磁気記録媒体上のパーティクルを計数した。この評価結果を図10に示す。すなわち、成膜後のパーティクル数は本実施例のグラファイト材を保護膜形成室の電極に使用する事で、100k枚の成膜に対してパーティクルの増加を抑制でき、さらに成膜開始直後の成膜後のパーティクルがメタル材の15個、カーボン材(灰分10ppm)の9個に比べて5個に減少する結果が得られた。
次に、新品電極部材を装置に取付けた際の真空排気特性を評価した。真空排気特性とは、大気圧からの真空引き時間に対する保護膜形成室の圧力であり、短時間で圧力が低くなった方を真空排気特性が良いとされる。この評価結果を図11に示す。図11の評価結果より、真空排気特性は本実施例のグラファイト材はメタル材と同等の真空排気特性を有している事が分かる。
次に、新品電極部材を装置に取付けた後、保護膜成膜を行い、成膜枚数に対する成膜レートを評価した。この評価結果を図12に示す。すなわち、成膜レートは本実施例のグラファイト材を保護膜形成室の電極22に使用する事で、100k枚の成膜に対して変動を抑制出来ている事が分かる。
上述した手法によって作製した垂直磁気記録媒体のDLC保護膜8の上に、フルオロカーボン系の潤滑膜9を形成した。この厚みはフーリエトランスファー赤外分光分析装置(FT−IR)で定量し1.2nm形成した。これらフルオロカーボン系の潤滑膜9を設けた垂直磁気記録媒体を用い、以下に示す磁気ヘッド浮上性試験および記録再生試験を行った。
垂直磁気記録媒体の磁気ヘッド浮上性試験として、磁気記録媒体の浮上欠陥検査を行った。磁気ヘッドにはピエゾ素子を搭載してあり、磁気記録媒体との接触により発生するAE(Acoustic Emission)信号をピエゾ素子で検出する。信号のRMS(root mean square)電圧の測定値と信号の出力がある閾値を超えた場合に磁気記録媒体との接触と判定し、欠陥とした。この評価結果を図13に示す。すなわち、磁気ヘッド浮上性試験は保護膜形成室の電極材がメタル材及びカーボン材(灰分10ppm)の場合には、100k枚の成膜により成膜開始直後に比べて歩留まりが10〜11%低下するのに対して、本実施例のグラファイト材を保護膜形成室の電極に使用する事で、成膜枚数の増加に依存して歩留まりが低下することなく、100k枚の成膜枚数において歩留まりが90〜95%で安定している結果が得られた。
記録再生試験として、R/Wヘッドを用いて、磁気再生出力の極端な減少または増加をモニターし、磁気欠陥として登録する方法を用いた。製品仕様として、決められたエラー登録数を超えた磁気記録媒体を不合格とした。この評価結果を図14に示す。すなわち、記録再生試験は保護膜形成室の電極材がメタル材及びカーボン材(灰分10ppm)の場合には、100k枚の成膜により成膜開始直後に比べて歩留まりが10〜12%低下するのに対して、本実施例のグラファイト材を保護膜形成室の電極に使用する事で、成膜枚数の増加に依存して歩留まりが低下することなく、100k枚の成膜枚数において歩留まりが90〜95%で安定している結果が得られた。
以上説明したように上記実施例によれば、保護膜形成工程において、電極材に灰分5ppm以下、かさ密度1.8g/cm以上で一体物のグラファイト材から成る電極を用いることで、成膜後のパーティクル及び保護膜中に混入する金属コンタミネーションを低減する事が出来る。その結果、保護膜中に含まれる金属コンタミネーションに起因する磁気ヘッド浮上性の劣化及び磁気再生出力低下が少ない垂直磁気記録媒体を得ることができる。
本発明の実施例による保護膜成膜工程のフローチャートである。 本発明に係る垂直磁気記録媒体の層構成を示す断面図である。 本発明の実施例による垂直磁気記録媒体の製造装置の概略構成図である。 本発明の実施例による保護層形成室の概略構成図である。 本発明の実施例によるクリーニング工程のフローチャートである。 電極クリーニング条件による成膜枚数に対する媒体表面のパーティクル数を示す図である。 電極クリーニング条件による成膜枚数に対する保護膜の膜厚分布を示す図である。 電極クリーニング条件による成膜枚数に対する電極形状の測定結果を示す図である。 保護膜中に含有される金属コンタミネーションの測定結果を示す図である。 成膜後の媒体表面のパーティクル数の測定結果を示す図である。 電極部材交換後の保護膜成膜室における排気特性を示す図である。 電極部材交換後の成膜枚数に対する成膜レートの測定結果を示す図である。 成膜枚数に対する磁気ヘッド浮上性歩留まりを示す図である。 成膜枚数に対する記録再生試験歩留まりを示す図である。
符号の説明
1…非磁性基板、
2…密着層、
3…軟磁性層、
3a…下部軟磁性層、
3b…反強磁性結合誘発層、
3c…上部軟磁性層、
4…中間層、
5…Ru中間層、
6…グラニュラー磁気記録層、
7…Co合金キャップ層、
8…DLC保護膜、
9…潤滑膜、
10…垂直磁気記録媒体、
21…保護膜形成室、
22…グラファイト材電極、
23…ターボモレキュラポンプ、
24…ガス導入口。
25…基板バイアス印加電極。

Claims (8)

  1. 少なくとも基板上に磁性膜と保護膜を有する磁気記録媒体の製造方法であって、
    前記磁性膜が形成された基板を保護膜形成室に導入する工程と、
    保護膜形成室に炭化水素ガスを導入する工程と、
    グラファイト材により形成された電極に電力を印加して前記炭化水素ガスをプラズマ化する工程と、
    前記基板に電圧を印加して保護膜を成膜する工程と、
    を有する磁気記録媒体の製造方法。
  2. 前記グラファイト材は、かさ密度が1.8g/cm3以上及び/又は灰分が5ppm以下である、請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
  3. 前記炭化水素ガスを導入する工程において、
    前記炭化水素ガスに加えて水素ガス又は窒素ガス又は水素と窒素の混合ガスを導入する、請求項2に記載の磁気記録媒体の製造方法。
  4. さらに、保護膜形成室に酸素ガスを導入する工程と、
    前記電極に電力を印加し、前記酸素ガスをプラズマ化し130kJから230kJの電力量で前記電極をクリーニングする工程と、
    を有する請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
  5. 前記保護膜形成室を少なくとも2室有し、
    一方の保護膜形成室で保護膜を形成する工程を実施している場合、
    他方の保護膜形成室では、クリーニングする工程を実施する、
    請求項4に記載の磁気記録媒体の製造方法。
  6. 少なくとも基板上に磁性膜と保護膜を有する磁気記録媒体の製造装置であって、
    保護膜形成室にガスを導入するガス導入口と、
    前記保護膜形成室からガスを排気するガス排気口と、
    前記ガス導入口から導入されるガスをプラズマ化するための第一の電極と、
    前記磁気記録媒体に電圧を印加する電圧印加手段とを有し、
    前記第一の電極はグラファイト材により形成される、磁気記録媒体の製造装置。
  7. 前記グラファイト材は、かさ密度が1.8g/cm3以上及び/又は灰分が5ppm以下である、請求項6に記載の磁気記録媒体の製造装置。
  8. 前記保護膜形成室を少なくとも2つ有する、請求項7に記載の磁気記録媒体の製造装置。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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JPWO2013005726A1 (ja) * 2011-07-01 2015-02-23 太陽化学工業株式会社 プライマー組成物、該組成物から成るプライマー層を含む構造体、及び該構造体の製造方法
TWI823989B (zh) * 2018-08-20 2023-12-01 日商山陽特殊製鋼股份有限公司 磁氣記錄媒體之軟磁性層用濺鍍靶材及磁氣記錄媒體

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