以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の形態について説明する。
図1は、図1の実施の形態に係る過給機付エンジンシステム(以下エンジンと略称する)の概略構成図である。また図2は、図1の部分側断面図である。
過給機付エンジンシステムは直列4気筒4サイクルのエンジン1を備えている。
エンジン1のシリンダブロック2には第1〜第4気筒3a、3b、3c、3d(これらを総称するときは気筒3という)が一水平線上に配設されている。各気筒3の構成は共通で、図2に示すように燃焼室4の上部には吸気Wiを吸入するための吸気ポート6と排気Weを排出するための排気ポート8とが設けられている。吸気ポート6にはこれを開閉する吸気バルブ7が、排気ポート8にはこれを開閉する排気バルブ9が、それぞれ設けられている。さらに図略のシリンダヘッドには、燃焼室4の頂部に火花を発生させる点火プラグ5が設けられている。その他、燃料噴射弁10(図2参照)を含む図略の燃料供給手段が適宜位置に設けられている。
エンジン1の運転状態を検出するために、エンジン1には、クランク角度センサSN1、エンジン水温センサSN2、エアフローセンサSN3、吸気温度センサSN4が設けられている。また、このエンジン1を搭載した車両の運転状態を検出するために、車両には、アクセル開度センサSN5、車速センサSN6等が設けられている。
また本実施形態のエンジン1は、一般的な4気筒エンジンと同様、各気筒3が、クランク角180度(以下180°CAと表記する)ごとに順次点火時期を迎えるように互いに各行程をずらして運転されている。点火順序はいわゆる#1→#3→#4→#2(#xは第x気筒であることを示す)である。表1に、各気筒3の行程の遷移を示し、図3にタイミングチャートを示す。
表1並びに図3を参照して、各行は第1気筒3a〜第4気筒3d、各列は180°CA毎の行程の遷移を示す。表1に示すように、例えば第1気筒3aが膨張行程にあるとき、第2気筒3bは排気行程、第3気筒3cは圧縮行程、第4気筒3dは吸気行程にある。
なお図2は、第1気筒3aが膨張行程から排気行程への移行期(下死点付近)にある状態を示している。このとき、排気バルブ9が開いて排気Weが燃焼室4から排気ポート8へ排出され始める(ブローダウン)。
また表1並びに図3に示すように、第1気筒3aがブローダウンを開始しているときに第2気筒3bは、排気行程から吸気行程への移行期(上死点付近)にある。この移行期において、図示のように吸気バルブ7と排気バルブ9とが共に開弁している期間、いわゆるオーバーラップ期間が設けられている。
各気筒3の排気ポート8には、排気マニホールド16の上流側を形成する4つの独立排気通路16a、16b、16c、16dが接続されている。
図2に示すように、排気マニホールド16の独立排気通路16a〜16dの上流端には図略のシリンダヘッドに固定されるフランジ16eが設けられ、このフランジ16eを介して排気マニホールド16の独立排気通路16a〜16dは、第1〜第4気筒3a〜3dの排気ポート8にそれぞれ接続されている。各独立排気通路16a〜16dは、全長にわたってφ36mmの円と同面積の開口面積S1に設定されている。
図4は図1の実施の形態に係る要部を示す外観斜視図である。図5は図1の実施の形態に係る要部を拡大して示す外観斜視図である。
図1、図4、図5に示すように、第1排気通路16aおよび第4排気通路16dは、その全長にわたって独立状態を維持するが、第2排気通路16bと第3排気通路16cとは、その下流側で集合され、補助集合排気通路16bcとなっている。従って排気マニホールド16の下流端付近では3つの独立排気通路(第1排気通路16a、補助集合排気通路16bc、第4排気通路16d)が形成されている。第1、第4排気通路16a、16dおよび補助集合排気通路16bcは、第1排気通路16aと第4排気通路16dとが補助集合排気通路16bcを両側から挟むように浅い角度で(略平行が好ましい)並列配置されており、全体として排気マニホールド16を構成する。以下、特に記す場合を除き、独立排気通路とは下流側の3つの独立排気通路を指すものとする。
第1排気通路16aと第4排気通路16d、および第2排気通路16bと第3排気通路16cとはそれぞれ互いに対称形状となっている。従って、第1排気通路長さLaと第4排気通路長さLdとは略等しくなっている。また、補助集合排気通路16bcの長さを含めた第2排気通路16bの長さを第2排気通路長さLb、補助集合排気通路16bcの長さを含めた第3排気通路16cの長さを第3排気通路長さLcとした場合、第2、第3排気通路長さLb、Lcは、それぞれ第1排気通路長さLaと略等しくなるように構成されている。
さらに本実施形態において、第1排気通路長さLaは200mm乃至はそれ以下となるように構成されている。また第1通路容積Vaと第4通路容積Vdとは略等しい。さらに、補助集合排気通路16bcの体積を含めた第2排気通路16bの体積を第2排気通路容積Vb、補助集合排気通路16bcの体積を含めた第3排気通路16cの体積を第3排気通路容積Vcとした場合、第2、第3排気通路容積Vb、Vcは、それぞれ第1排気通路容積Vaと略等しくなるように構成されている。
排気マニホールド16の下流側には、取付フレーム17が設けられており、図5に示すように、この取付フレーム17が各独立排気通路16a、16bc、16dの出口17a、17bc、17dを区画している。各出口17a、17bc、17dは、上流側の独立排気通路16a、16bc、16dと同様に、φ36mmの円形断面積と同面積の開口面積S1に設定されている。
排気マニホールド16は、取付フレーム17を介して可変排気バルブ30のハウジング31に接続されている。
可変排気バルブ30は、上記3つの独立排気通路16a、16bc、16dの独立状態を維持しつつ、各出口17a、17bc、17dの有効開口面積S2を変更するバルブである。ここで有効開口面積S2とは、排気Weが各出口17a、17bc、17dを流通することのできる出口17a、17bc、17d毎の開口面積をいい、以下の説明では、この有効開口面積S2と等しい円の直径を有効開口径D2という。詳しくは後述するように、可変排気バルブ30は、エゼクタ効果による過給性能の向上等を図るために設けられている。ここでエゼクタ効果とは、ノズルから噴射した駆動流体の速度エネルギーの一部を圧力エネルギーに変換し、当該圧力エネルギーにより被吸引流体を吸引排出することをいう。このエゼクタ効果によって、本実施形態においては、詳しくは後述するように、比較的低速低負荷運転領域であっても、排気ターボ過給機50の入力流量(排気ターボ過給機50に供給される単位時間当たりの排気の量)を増加するとともに、ブローダウンピークの高まりによって、動圧過給効果や掃気性の向上を促進することができるようになっている。
図6は、図1の実施形態に係る可変排気バルブ30の概略構成を示す斜視図であり、(A)は閉弁時、(B)は開弁時の状態を示すものである。
図4および図6を参照して、可変排気バルブ30は、排気マニホールド16と排気ターボ過給機50との間に介在するハウジング31と、ハウジング31内に収容され、排気マニホールド16の出口17a、17bc、17dの有効開口面積S2を変更するフラップ35と、フラップ35が排気Weの流れる方向と交差する軸周りで揺動するようにハウジング31に軸支されたフラップ軸37と、フラップ軸37を回転させるモータ等のアクチュエータ38と、フラップ軸37を介してフラップ35を開弁方向に付勢するリターンスプリング39とを備えている。
ハウジング31の上流端には、取付フレーム17が固定されており、これによって、ハウジング31には、排気マニホールド16の第1独立排気通路16a、第4独立排気通路16d、並びに補助集合排気通路16bcの各出口17a、17bc、17dが並列された状態で接続されている。
ハウジング31の下流端側には、フランジ31aが設けられ、このフランジ31aを介して排気ターボ過給機50のハウジング51と接合されている。ハウジング31は、排気ターボ過給機50のレイアウトの都合上、途中で下方に曲げられている。排気ターボ過給機50の設置位置によってはこのような曲げは不要である。また異なる曲げ角であってもよい。
ハウジング31内のフランジ31aよりも上流側には、各独立排気通路16a、16bc、16dからの排気Weが合流する集合部31cが区画されている。この集合部31cの上流側には、当該ハウジング31内を流れる排気Weの主流に直交して上方に膨出する膨出部31bが形成されており、フラップ35は、フラップ軸37の軸周りに回動することによって膨出部31b内に進退可能な状態で収容されている。
図6を参照して、フラップ35は、軽量化のために内部が空洞になっている中空体であり、その外周には、フラップ軸37を扇の要とする扇形の扇状面36を有する。フラップ35が膨出部31bから下方に突出するように回動すると、扇状面36は、ハウジング31に接続された排気マニホールド16の各出口17a、17bc、17dに対向し、排気マニホールド16から排出された排気Weの流量を絞る位置に変位する(図6(A)参照)。他方、フラップ35が膨出部31b内に入り込む位置に回動すると、扇状面36は、各出口17a、17bc、17dを開く位置に変位する(図6(B)参照)。
本実施形態では、可変排気バルブ30が全閉位置にある場合でも、僅かな排気We(例えば、全排気流の20%)が集合部31cに流れるように構成されている。
本実施形態では、排気Weの主流において、フラップ軸37よりも上流側で扇状面36が各出口17a、17bc、17dの有効開口面積S2を調整するように構成されている。また、フラップ軸37の水平線を通る直径が、可及的に集合部31cの内側に臨むように配置されている。従って、排気Weが扇状面36に当接することによってフラップ35に作用するフラップ軸37回りのトルクは、排気流を遮る板状のベーンがその回動軸よりも上流側にある構成に比べて小さくなり、ブローダウンによって排気流速Qeが大きい運転状況でも、振動しにくくなっている。
ハウジング31の膨出部31bの側部には、ウエストゲート用開口31eが形成されている。ウエストゲート用開口31eは、フラップ35が図6(B)に示す所定の開閉位置から全開位置に至る範囲で各出口17a、17bc、17dと連通する。ウエストゲート用開口31eは、ハウジング31の側部に形成された図略のウエストゲートバルブ機構によって開閉制御されるようになっている。なお、ウエストゲートバルブ機構自身は、周知の構成をそのまま流用することができるので、その詳細について説明は省略する。
図1、図2、並びに図4に示すように、ウエストゲート用開口31eは、排出通路61を介して、排気ターボ過給機50をバイパスし、主排気通路60の触媒63の上流側に接続されている。より詳細に説明すると、本実施形態において、触媒63は、排気ターボ過給機50の直下に配置され、排気ターボ過給機50に接続された主排気通路60は、当該排気ターボ過給機50と触媒63との間に湾曲部60aを形成している。そして、この湾曲部60aの円弧方向外周側に排出通路61の下流端が接続されることによって、ウエストゲート通路としての排出通路61の下流端は、主排気通路60に接続されている。なお本実施形態において、排出通路61には、クーラ64が設けられている。また、本実施形態では、触媒63の温度状態を検出するために、排気温度センサSN7が適所に設けられ、排気Weの温度によって触媒63の温度状態を検出することができるようになっている。本実施形態において、触媒63は、3成分触媒コンバータ(TWC)である。3成分触媒コンバータは、エンジン からの排気ガス中の炭化水素、一酸化炭素、窒素酸化物を効率的に除去するものであり、その活性温度は、例えば200℃〜250℃である。
次に、可変排気バルブ30のハウジング31(集合部31c)の下流側には、排気ターボ過給機50が接続されている。図1にも示すように、排気ターボ過給機50は、可変排気バルブ30と主排気通路60との間に接続されて、排気マニホールド16からの排気Weを主排気通路60に導くハウジング51と、このハウジング51内の主排気通路60上流端に配置されたタービンスクロール54と、吸気通路80に設けられたコンプレッサスクロール52と、このコンプレッサスクロール52と連結されるシャフト53とを備えたものであり、排気Weでタービンスクロール54を回転させることによりコンプレッサスクロール52を駆動し、吸気Wiを圧縮して吸気圧を上昇させる装置である。なお本実施形態の排気ターボ過給機50は、主に高速運転領域においてトルク増大作用の強い大型ターボである。
本実施形態においては、排気ターボ過給機50の回転速度を検出するための回転速度センサSN8が設けられている(図1参照)。
次に、エンジン1の吸気通路80には、スロットルバルブ81が設けられており、このスロットルバルブ81によって吸気流量が調整されるようになっている。
スロットルバルブ81と排気ターボ過給機50のコンプレッサスクロール52との間には、インタークーラ82が配設されており、このインタークーラ82とスロットルバルブ81との間には、電動過給機83が設けられている。この電動過給機83は、電気モータにより直接駆動されるインペラ等で構成されている。さらに吸気通路80には、インタークーラ82の下流側から電動過給機83をバイパスしてスロットルバルブ81の上流側に連通するバイパス通路84が設けられている。このバイパス通路84には、図略のアクチュエータにより駆動されてこのバイパス通路84の空気流通量を調節する吸気制御バルブ85が設けられている。
また図1に示すように、エンジン1には可変バルブタイミング機構12が設けられている。本実施形態の可変バルブタイミング機構12は、吸気バルブ7および排気バルブ9の開弁期間を維持したまま、バルブ開閉弁時期を平行移動圧に前後させる、いわゆるVVT(Variable Valve Timing)である。VVTの方式としては、バルブタイミングを連続的に変化させるものでも、2以上の段階的に変化させるものでもよい。
なお本実施形態の可変バルブタイミング機構12は、吸気側の吸気VVT12i(吸気バルブタイミング変更手段)と排気側の排気VVT12e(排気バルブタイミング変更手段)とを備え、吸気バルブ7と排気バルブ9の双方においてバルブタイミングを変化させることができるように構成されている。
エンジン1の動作は、エンジン制御ユニット(ECU:Engine Control Unit)20によって電気的に制御される。エンジン制御ユニット20は、CPU、メモリ、カウンタタイマー群、インターフェース並びにこれらのユニットを接続するバス等を有するマイクロプロセッサで構成された制御ユニットである。
図1で説明したように、エンジン制御ユニット20には、入力要素として、クランク角度センサSN1、エンジン水温センサSN2、エアフローセンサSN3、吸気温度センサSN4、アクセル開度センサSN5、車速センサSN6、排気温度センサSN7、回転速度センサSN8等の各種検出手段が接続されている。他方、制御要素として、燃料噴射弁10を含む図略の燃料供給手段、スロットルバルブ81のアクチュエータ(図示せず)、可変バルブタイミング機構12に設けられた電磁弁(図示せず)、可変排気バルブ30のアクチュエータ38、電動過給機83、吸気制御バルブ85のアクチュエータ(図示せず)等が接続されている。
かかる構成により、エンジン制御ユニット20は、燃料供給量、スロットル開度或いは点火時期といった燃焼制御を実行する燃焼制御手段として機能する。この燃焼制御手段としてのエンジン制御ユニット20は、可変バルブタイミング機構12の駆動制御を行う。加えて、エンジン制御ユニット20は、可変排気バルブ30を駆動制御する可変排気バルブ制御手段としても機能する。
図7は、図1の実施の形態に係る運転状態に応じた制御を行うための運転領域の設定例を示す特性図である。図7において、横軸はエンジン回転速度Ne(rpm)、縦軸は要求トルクτ(N・m)を示す。また、特性WOTは最大負荷トルク(エンジン全開運転領域)を示す。特性NAを境に高負荷側の過給運転領域R10、R11、R20、R21と、低負荷側の自然吸気運転領域R12、R22が設定されている。
図7を参照して、本実施形態において、各運転領域R10〜R22のうち、低速側の過給運転領域R10および自然吸気運転領域R12では、独立排気絞りモードが実行されるように設定されている。独立排気絞りモードとは、可変排気バルブ制御手段としてのエンジン制御ユニット20が可変排気バルブ30を駆動し、独立排気通路16a、16bc、16dの各出口17a、17bc、17dの有効開口面積S2を最大面積時(可変排気バルブ30が全開のときの開口面積)よりも縮小させる制御であり、具体的にはエンジン制御ユニット20が可変排気バルブ30のアクチュエータ38に開度信号を送り、アクチュエータ38がフラップ軸37を回転駆動してフラップ35の回転角度を調節する制御である。独立排気絞りモードでは、運転領域に応じて、可変排気バルブ30を全閉にしたり、要求負荷が大きくなるほど有効開口面積S2を絞るように変更したりすることができるように構成されている。本実施形態では、所定の低回転速度(例えば、2000rpm)以下の過給運転領域R11では、負荷が高くなるほど、有効開口面積S2を低減する調整制御が実行される。また、運転領域R20、R21、R22では、有効開口面積S2が全開に設定される。
次に、運転領域が低速側の過給運転領域R10または過給運転領域R11(図示の例では、2000rpm以下の過給運転領域)である場合、エンジン制御ユニット20は、いわゆる後燃えモードでオーバーラップ量と燃料噴射量を制御する。この後燃えモードとは、未燃燃料がエンジン1から排出されて排気ターボ過給機50の上流側で燃焼されるように、少なくとも空燃比を可燃範囲内で理論空燃比よりもリッチにし、オーバーラップ量を予め設定された範囲以上に拡大する運転モードをいう。
図8は、本実施形態に係る後燃え現象を説明するためのグラフである。図8において、横軸はクランク角度で示すオーバーラップ量(オーバラップ期間)OL、縦軸は出力(KPa)を示す。
図8を参照して、独立排気絞りモードでの運転中において、オーバーラップ量OLを増加すると、最初は、オーバーラップ量OLの増加に伴って掃気される既燃ガスが増加するので、掃気による充填効率が向上し、出力が向上するが、オーバーラップ量OLがある量以上になると、気筒に残る新気の充填量がオーバーラップによる吹き抜け量と比例しなくなり、出力は横ばいになる(トルク停留範囲)。ところが、出力が横ばいになったトルク停留範囲を超えてオーバーラップ量OLを増加し続けると、今度は、未燃燃料が排気通路に排出され、排出された未燃燃料が排気ターボ過給機の上流側で燃焼することによって、後燃え現象が生じることが見出されたのである。
このような後燃え現象が生じると、排気通路内での燃焼によって過給圧が高まるため、過給性能が大幅に向上し、エンジン1の出力向上や燃費低減が顕著になる。また、排気温度も高くなるので、触媒63の活性化に寄与することも可能となる。そのため、本実施形態では、エンジン1の運転状態に応じて、積極的に後燃え現象を利用し、出力向上や排気浄化性能の向上を図ることとしているのである。
図9は、オーバーラップ量OLとエンジン回転速度Neとの関係を示すグラフである。図9において、横軸はエンジン回転速度Ne(rpm)、縦軸は、クランク角度で示すオーバーラップ量OLである。
本件発明者が鋭意研究した結果、後燃え現象が生じるために必要なオーバーラップ量OLは、エンジン回転速度Neが大きくなるほど、小さくなり、例えば1500rpmの場合には、90°CA以上であれば、後燃え現象が生じることが明らかになった。従って、図7に示した運転領域において、過給運転領域R10、R11で後燃えモードに切り換えられた場合、エンジン制御ユニット20は、開弁期間IN、EXのオーバーラップ量OLを90°CA以上に設定し、エンジン1を制御する。
次に、後燃えモードにおける吸気バルブ7と排気バルブ9のオーバーラップは、排気バルブ9を遅閉じにして、排気上死点の前後に設定することが好ましい。
図10は、排気特性図であり、(A)は独立排気絞りモード(可変排気バルブが全閉の場合)、(B)は通常の運転モード(可変排気バルブが全開の場合)である。図10において、横軸は第1気筒3aのクランク角度θ(deg:上死点を0°CAとする)であり、縦軸は排気圧力(KPa)と開弁期間(mm)を示す。また、吸気バルブ7と排気バルブ9の開弁期間をそれぞれIN、EXで示す。
図10(A)を参照して、独立排気絞りモードでのブローダウン特性は、エゼクタ効果による排気の吸い出し効果によって、他の気筒のブローダウンピークの影響を殆ど受けることはない。そのため、出力向上の観点から排気バルブ9の閉弁タイミングを遅角し、排気上死点の前後で開弁期間EX、INをオーバーラップさせることが好ましい。
他方、図10(B)に示すように、可変排気バルブが全閉の場合の排気圧力は、他の気筒のブローダウンピークの影響を受けてしまうので、開弁期間EX、INが排気上死点以降にオーバーラップすると、排気圧力が過給圧を上回ってしまい、掃気ができなくなるおそれがある。
そこで、本実施形態では、図7に示す過給運転領域R20でのみ比較的大きなオーバーラップ量OL(例えば65°CA)を採用し、運転領域R12、R21、R22では、可及的にオーバーラップ量OLを小さく(例えば、0°CA〜40°CAに)設定するようにしている。運転領域R12、R20〜R22で吸気開弁期間INと排気開弁期間EXをオーバーラップさせる場合、そのオーバーラップ量OLは、エンジン回転速度Neが高いほど排気バルブ9の閉弁時期を遅らせ、吸気バルブ7の開弁時期を進めることによって拡大される(排気VVT12eか吸気VVT12iの何れか一方で行ってもよい)。具体的なオーバーラップ量OLは、エンジン1毎に、実験等に基づいて適切な値を定め、マップ化してエンジン制御ユニット20のメモリに記憶されており、運転状況に応じて記憶されたマップからオーバーラップ量OLを読み出すことにより制御することとしている。
次に後燃えモードでは、燃料噴射量を調整して、空燃比が可燃範囲でリッチ(A/Fが例えば14.0〜12.7)に設定される。この空燃比の設定により、ブローダウンによって未燃燃料が排気バルブ9から排気通路に排気マニホールド16の各独立排気通路16a〜16dに排出された際に燃焼し、排気ターボ過給機50の過給圧を好適に上昇することが可能となる。
また、エンジン制御ユニット20は、通常は、吸気Wiが電動過給機83をバイパスする電動過給バイパスモードでエンジン1を運転制御するとともに、所定の運転状態では、電動過給機83を稼動する電動過給モードでエンジン1を運転制御できるように構成されている。電動過給バイパスモードでは、図1に示した電動過給機83が停止するとともに、バイパス通路84の吸気制御バルブ85が全開になり、インタークーラ82を通過した吸気Wiが電動過給機83をバイパスしてエンジン1に供給されるようになっている。また、電動過給モードでは、図1に示した電動過給機83が稼動するとともに、バイパス通路84の吸気制御バルブ85が全閉になり、インタークーラ82を通過した吸気Wiが電動過給機83に過給されてエンジン1に供給されるようになっている。
一般に、可変バルブタイミング機構12は、油圧を切り換えることによって、吸気バルブ7と排気バルブ9の開タイミングを切り換えるように構成されていることから、開タイミングのオーバーラップ量OLを切り換える際に図8に示したトルク停留範囲を通過することを余儀なくされる場合がある。そのため、本実施形態では、目標トルクを得るためにバルブタイミングを切り換えた際、開弁期間IN、EXのオーバーラップ量OLが、トルク停留範囲を通過する運転状態のときは、電動過給機83を駆動して過給性能をアシストするようにしているのである。このように本実施形態では、エンジン制御ユニット20が、電動過給制御手段として機能するように構成されている。
なお、エンジン1の冷間時は、触媒63が活性温度に達していない場合も多く、運転状況によっては、触媒63が活性温度に昇温するまでに相当の時間を有する場合もある。そこで、本実施形態では、触媒63に関連する温度状態が活性温度付近に設定される所定の設定温度Tst未満である場合には、次に説明するフローチャートから明らかなように、運転領域に拘わらず、独立排気絞りモードで可変排気バルブ30を運転するとともに、エンジン1の燃焼条件を後燃えモードで設定するようにしている。触媒63に関連する温度状態は、触媒63の温度そのものであっても、代用特性(例えば、排気温度)であってもよい。
次に、本実施形態に係るエンジンシステムの制御例について説明する。
図11および図12は、本発明の実施の一形態におけるエンジンシステムの制御例を示すフローチャートである。
まず、図11を参照して、エンジン制御ユニット20は、まず、初期動作として、フラグやメモリの初期化を実行する(ステップST1)。ここで、本実施形態では、ステップST1の初期動作によって、電動過給バイパスモードが選定され、電動過給機83のバイパス通路84に設けられた吸気制御バルブ85は、全開にセットされ、インタークーラ82を通過した吸気Wiがバイパス通路84によって電動過給機83をバイパスしてエンジン1に供給されるようになっている。
ステップST1に示した初期動作の後、エンジン制御ユニット20は、入力要素から入力された各検出信号を読み取り(ステップST2)、読み取った検出信号の値に基づいて、エンジン1の要求トルクを演算する(ステップST3)。要求トルクを演算した後、エンジン制御ユニット20は、ステップST2で読み取った検出信号(具体的には、排気温度センサSN7の検出値)に基づいて、触媒63の温度が、当該触媒63の活性温度に基づいて定められた所定の設定温度Tstに達しているか否かを判定する(ステップST4)。仮に触媒63が設定温度Tstに達していない場合には、当該触媒温度の昇温を促進するために、ステップST6以降のフローに移行する。この結果、冷間時等、触媒温度が低い運転状態では、後燃え現象による触媒63の昇温促進を図ることが可能になる。
他方、触媒温度が活性温度に達している場合には、目標となる運転領域が低速側の過給運転領域R10であるか否かを判定する(ステップST5)。
仮に目標となる運転領域が過給運転領域R10である場合、エンジン制御ユニット20は、可変排気バルブ30を全閉(独立排気絞りモード)に設定する(ステップST6)。これとともに、エンジン1の制御モードを後燃えモードに設定し、開弁期間IN、EXのオーバーラップ量OLと空燃比を上述した設定条件に設定する(ステップST7)。この結果、排気流によるエゼクタ効果を生じせしめ、排気ターボ過給機50の入力流量(排気ターボ過給機50に供給される単位時間当たりの排気Weの量)を増量し、タービンスクロール54の駆動力を増大させて、過給圧を向上させることができる。また、被吸出し流体である排気Weが吸出され、掃気が促進されるので、当該気筒3の排気抵抗が低減される。さらに、ブローダウンガスの圧力を高めて動圧過給性能を向上することができる。
図2を参照して、より詳細に説明すると、上述のように図2の状態では、第1気筒3aが排気Weバルブ開弁直後、第2気筒3bがオーバーラップ期間となっている。第1排気通路16aに導かれた排気We(ブローダウンガス)は可変排気バルブ30で絞られる。絞られたブローダウンガスは流速が増大し、圧力が低下する。この絞られたブローダウンガスがエゼクタ効果をもたらす駆動流体として機能し、補助集合排気通路16bc(および第2排気通路16b)を流れる被吸出し流体としての排気Weを吸出し、集合部31cに導入する。なお、第2気筒3bの排気バルブ9が閉じた後(オーバーラップ期間後)であっても、駆動流体のエゼクタ効果が存続している場合には、第2排気通路16bおよび補助集合排気通路16bcに残存する排気Weを吸出すことができ、掃気を促進することができる。図2では第1気筒3aがブローダウン状態にある場合を示しているが、表1、図3から明らかなように、他の場合も同様である。本実施形態では、3本の独立排気通路16a、16bc、16dの各出口17a、17bc、17dが取付フレーム17付近において略平行に並列配置され、ハウジング31に流入後も集合部31cに至るまで各出口17a、17bc、17dの並列配置が維持されるので、高いエゼクタ効果が得られる。
次いで、ステップST7の制御によって、吸気バルブ7の開弁期間INと排気バルブ9の開弁期間EXとがオーバーラップするとともに、そのオーバーラップ量OLが、少なくとも90°CA以上に設定されるので、空燃比が14以上のリッチに設定されていることと相俟って、筒内の未燃燃料が高速の排気流に乗って排気ターボ過給機50に向かって排出され、タービンスクロール54の手前で燃焼する(後燃え現象)。この後燃え現象によって、排気温度が高まるとともに、タービンスクロール54を駆動する過給圧が大幅に上昇するので、冷間時においても、高い過給性能を発揮することができ、エンジン1の出力向上に寄与する。さらに後燃え現象による排気温度の上昇によって、触媒63も加温されるので、冷間時等においては、比較的短い稼動時間で活性温度に達し、高い排気浄化性能を発揮することが可能になる。
次に、ステップST5の判定において、目標とする運転領域が過給運転領域ではない場合、エンジン制御ユニット20は、さらに、目標となる運転領域が、独立排気絞りモードで運転される過給運転領域R11であるか否かを判定する(ステップST8)。
仮に運転領域が過給運転領域R11である場合には、エンジン制御ユニット20は、目標負荷に応じて、可変排気バルブ30の開度を設定し(ステップST9)、ステップST7に移行して後燃えモードを実行する。この結果、図7の過給運転領域R11においても、後燃え現象による過給性能の向上を図ることが可能になる。
さらに、ステップST8の判定において、目標とする運転領域が過給運転領域R11ではない場合、エンジン制御ユニット20は、さらに、目標となる運転領域が独立排気絞りモードで運転される自然吸気運転領域R12であるか否かを判定する(ステップST10)。
仮に運転領域が自然吸気運転領域R12である場合には、エンジン制御ユニット20は、可変排気バルブ30を全閉に設定する(ステップST11)。これにより、エゼクタ効果による動圧過給効果の向上や過給入力流量の増加を図ることができ、過給性能が高まるので、掃気性が向上することと相俟って、エンジン1の出力向上や燃費の低減を図ることが可能になる。この運転状態では、当該運転領域のエンジン回転速度や目標負荷に応じて、オーバーラップ量OLや空燃比が制御される(ステップST12)。
さらに、ステップST10の判定において、目標とする運転領域が自然吸気運転領域R12ではない場合、エンジン制御ユニット20は、可変排気バルブ30を全開に設定し(ステップST14)、その後、ステップST12以降に移行して、当該運転領域のエンジン回転速度や目標負荷に応じて、オーバーラップ量OLや空燃比を制御するように構成されている。
次に、ステップST7またはステップST12の処理を実行した後の制御について図12を参照しながら説明する。
図12に示すように、ステップST7またはステップST12の処理を実行した後、エンジン制御ユニット20は、可変バルブタイミング機構12の設定変更に伴って、開弁期間IN、EXのオーバーラップ量OLが図8に示したトルク停留範囲を通過する運転状態にあるか否かを判定し(ステップST15)、トルク停留範囲を通過する場合には、さらに、トルク不足が生じているか否かを判定する(ステップST16)。トルク不足は、例えば、予め設定した時間内にエンジン回転速度Neが想定される速度を下回っているか否かを判定することによって判断される。
トルク不足が生じているとステップST16で判断した場合、エンジン制御ユニット20は、電動過給モードでエンジン1を運転制御する(ステップST17)。これにより、電動過給機83が稼動するとともに、バイパス通路84の吸気制御バルブ85が全閉になり、インタークーラ82を通過した吸気Wiが電動過給機83に過給されてエンジン1に供給される。
電動過給モードで電動過給機83を駆動した後は、ステップST2に戻って上述した制御を繰り返す。
他方、ステップST15において、トルク停留範囲を通過していないと判定した場合、またはステップST16において、トルク不足が生じていないと判定した場合、エンジン制御ユニット20は、電動過給機83の運転モードを電動過給バイパスモードに設定する(ステップST18)。これにより、電動過給機83が停止し、バイパス通路84の吸気制御バルブ85が全開になり、インタークーラ82を通過した吸気Wiが電動過給機83をバイパスしてエンジン1に供給される。
次いでエンジン制御ユニット20は、トルクオーバーが生じているか否かを判定する(ステップST19)。仮に値が1である場合、すなわち、触媒63が所定の設定温度Tst未満である場合、エンジン制御ユニット20は、トルク抑制制御サブルーチンST20を実行し、値が1でない場合には、ステップST2に戻って上述した制御を繰り返す。
図13は、図11のステップST20に示したトルク抑制制御サブルーチンのフローチャートである。
図13を参照して、トルク抑制制御サブルーチンST20が実行される場合、エンジン制御ユニット20は、点火リタードST201を実行し(ステップST201)、その後、依然、トルクオーバーが生じているか否かを判定する(ステップST202)。点火リタードによって、筒内での燃焼が緩慢になり、膨張行程での運動エネルギーが低減されるとともに、排気温度も低下するので、過給圧が低下する。仮に点火リタードによってもトルクオーバーが生じている場合、エンジン制御ユニット20は、さらにスロットルバルブ81の開度(スロットル開度)を低減し(ステップST203)、その後、依然、トルクオーバーが生じているか否かを判定する(ステップST204)。スロットル開度を低減することによって、筒内の充填量が低減され、トルクが低下する。また、ブローダウンも下がり、過給圧も低減される。仮にスロットル開度を低減してもトルクオーバーが生じている場合、エンジン制御ユニット20は、さらに可変バルブタイミング機構12を駆動制御し、オーバーラップ量OLを低減し(ステップST205)、その後、依然、トルクオーバーが生じているか否かを判定する(ステップST206)。オーバーラップ量OLが低減されることにより、掃気が抑制され、トルクが低下する。また、ブローダウンも下がり、過給圧も低減される。
ステップST201、ST203、ST205の処理を実行した結果、トルクオーバーが解消した場合には、元のルーチンに復帰する。他方、ステップST205の処理を実行しても、依然、トルクオーバーが解消しない場合には、再度、ステップST203以下の処理を実行する。
以上説明したように本実施形態では、所定のエンジン低速運転領域R10〜R12では、独立排気通路16a〜16dの出口17a〜17dの有効開口面積S2を最大値よりも縮小する独立排気絞りモードに可変排気バルブ30が切り換わることによって、排気マニホールド16の出口17a〜17dにおいてエゼクタ効果を得ることができる。このエゼクタ効果によって、比較的低速低負荷運転領域であっても、排気ターボ過給機50の入力流量(排気ターボ過給機50に供給される単位時間当たりの排気の量)を増加することができる。また、エゼクタ効果によるブローダウンピークの高まりによって、動圧過給効果や掃気性の向上を促進することができる。
加えて、独立排気絞りモードで可変排気バルブ30が作動するエンジン低速運転領域R10〜R12のうち、過給運転領域R10、R11でエンジン1が運転される場合には、未燃燃料が排気ターボ過給機50の上流側で燃焼されるように混合気の燃焼条件が設定されるので、この設定によっていわゆる後燃え現象が生じる。後燃え現象が生じると、排気の圧力が高まるので、その分、過給圧が上昇し、過給性能を大幅にアップすることができる。従って、比較的大型の排気ターボ過給機50を採用した場合であっても、エンジン1の低速運転領域で大きな過給性能を得ることができるようになる。
さらに、所定の冷間時には、可変排気バルブ30が独立排気絞りモードで運転されるとともに、未燃燃料が排気ターボ過給機50の上流側、すなわち、触媒63の上流側で燃焼されるように混合気の燃焼条件が設定されるので、この設定によっても後燃え現象が生じる。この後燃え現象によって、排気温度が大幅に上昇するので、冷間時においても触媒63を所期の活性温度に迅速に昇温することができ、排気浄化性能を飛躍的に高めることができる。
また本実施形態では、エンジン1の吸気通路80に設けられた電動過給機83と、後燃えモードでエンジン1の混合気の燃焼が制御される際のオーバーラップ量OLが所定のトルク停留範囲にある場合には、電動過給機83を作動制御する電動過給制御手段(エンジン制御ユニット20)とを備えている。このため本実施形態では、後燃え現象が生じないオーバーラップ量OLで吸気バルブ7および排気バルブ9が作動している場合には、電動過給機83が作動し、過給圧を上昇して出力の不足分を補うことができる。図8に示したように、独立排気絞りモードでの運転中においてオーバーラップ量OLを増加すると、掃気性が向上するオーバーラップ量OLと後燃え現象によって過給性能が向上するオーバーラップ量OLとの間に、掃気性が飽和し、且つ後燃え現象が生じるに至らないトルク停留範囲が生じる場合がある。そこで、本実施形態では、そのようなトルク停留範囲で吸気バルブ7および排気バルブ9が作動している間には、電動過給機83によって過給能力を補って、広い運転領域で高い出力を維持することができるようにしているのである。しかも、電動過給機83が作動する運転領域は、図8に示した上述のトルク停留範囲だけでよいので、電動過給機83の稼働率を必要最小限に低減することができる。
また本実施形態では、燃焼制御手段は、後燃えモードにおいて、オーバーラップ量OLをクランク角度で少なくとも90°以上に制御するものである。このため本実施形態では、後燃えモードで運転されるべき運転状態において、高い確率で後燃え現象を生じ、過給性能を高めて出力の向上を図ることができる。
また本実施形態では、エンジン制御ユニット20は、独立排気絞りモードで可変排気バルブ30を運転するとともに、後燃えモードでエンジン1の混合気の燃焼を制御したときにおいて、エンジン1を目標トルクに制御するトルク制御機能を有するものである。このため本実施形態では、目標トルクに応じて後燃えモードを採用した場合において、エンジン1のトルクの過不足を是正しつつ、好適な出力性能ないし燃費の低減を図ることができる。すなわち、本実施形態においては、運転状態に拘わらず、冷間時には後燃え現象を積極利用して排気温度を上昇しているので、運転領域によっては、目標トルクに対して出力が過剰となる場合も想定される。他方、独立排気絞りモードでの運転中において、オーバーラップ量OLを増加すると、最初は、オーバーラップ量OLの増加に伴って掃気される既燃ガスが増加するので、掃気による充填効率が向上し、出力が向上するが、オーバーラップ量OLがある値以上になると、気筒3に残る新気の充填量がオーバーラップによる吹き抜け量と比例しなくなり、出力が横ばいになるトルク停留範囲が生じる場合もある。そこで、本実施形態では、目標トルクと出力とを比較し、出力の過不足を是正することによって好適な出力性能ないし燃費の低減を図るようにしているのである。
このように本実施形態では、所定の運転領域R10、R11では、後燃えモードでエンジン1の混合気の燃焼が制御されるので、当該運転領域R10、R11で実行される独立排気絞りモードによる掃気の向上や過給入力流量の増加等による過給性能の向上効果と相俟って、後燃え現象による過給性能の向上により、一層、燃費の低下や出力の向上を図ることができる。また、所定の冷間時においては、後燃えモードでエンジン1の混合気の燃焼が制御されることによって、排気の昇温を促進し、触媒63を速やかに活性温度に高めることもできる。
従って、本発明によれば、可及的に電動過給機83等の稼働率を低減しつつ、広いエンジン1運転領域にわたって高い過給性能を発揮することができ、しかも触媒63の加温をも促進することができるという顕著な効果を奏する。
次に、本実施形態におけるさらなる技術的特徴について説明する。
(1)動圧過給による過給能力の向上
本実施形態においては、上述のような独立排気通路16a〜16dを採用しているので、動圧過給効果を奏することができる。動圧過給は、排気のブローダウンを利用して排気ターボ過給機50の過給能力を高めるものである。よく知られているように、1排気行程当たりの有効な排気時間(以下、「ブローダウン期間」という)は、排気Weバルブ開弁直後の排気流速Qeのピーク値(以下、「ブローダウンピーク」という)が大きいほど、短くなる。しかし、動圧過給の特性(流速で定まる圧力比)は、二次曲線的な特性を有する。そのため、ブローダウンピークが高い場合には、ブローダウン期間の短縮による目減り分を差引いても、ブローダウンピークが低い場合よりも時間平均したタービン駆動力が増大する。
図14は排気ブローダウン特性図(実測値)である。横軸に第1気筒3aのクランク角度θ(deg:上死点を0°CAとする)、縦軸に排気流速Qe(kg/s)を示す。ブローダウンは各気筒3の排気行程毎に180°CA周期で発生する。図示の例は、180°CAから360°CAの間に第1気筒3aにおいて発生しているブローダウンを示している。
特性C12は本実施形態の特性である。一方特性C102は、本実施形態よりも通路容積の大きい標準的な排気マニホールドで得られた特性である。特性C12の方が特性C102に対してブローダウンピークが大きく、その分、ブローダウン期間が短くなっている。このため特性C12のものは特性C102のものに比べ、動圧過給効果が高くなる。実測値では、特性C12のものは特性C102のものに対して単位時間当たりのタービンスクロール回転数が43%増大した。
またブローダウン期間が短縮されることによって、ブローダウンピーク後の排気圧力が低下し、排気抵抗が下がるとともに残留ガスが減って、吸気の充填量と耐ノック性が改善されるという効果もある。
特性C12のような大きな排気ブローダウンピークを得るための最も効果的な手段は、排気マニホールド16の容積を小さくすることである。そのためには図5に示す第1通路容積Va(≒第2通路容積Vb≒第3通路容積Vc≒第4通路容積Vd)を小さくすればよい。そして、有効開口面積を小さくすると排気抵抗が増大して好ましくないことを鑑みれば、第1通路容積Vaを小さくするには、第1排気通路16aの長さを可及的に短くすればよいということになる。具体的には第1排気通路16aの長さLa(図4参照)を、第1排気通路16aの開口面積と同じ円の開口径D1(図2参照)の6倍以下とすることが好ましい。本実施形態では上述のように開口径D1=φ36mm、長さLa≦200mmであるから、この条件を満たし、効果的な動圧過給が期待できる。
(2)エゼクタ効果
上述したように、本実施形態においては、各独立排気通路16a、16bc、16dと可変排気バルブ30とを用いた独立排気絞りモードによって、大きなエゼクタ効果を得ることができる。
本実施形態に係るエゼクタ効果による利点は、主に次の4点が挙げられる。
第1に、排気ターボ過給機50の入力流量(排気ターボ過給機50に供給される単位時間当たりの排気Weの量)の増量である。排気Weバルブ開弁直後の入力流量は、通常のブローダウン時の排気流量に、エゼクタ効果によって吸出された排気流量が付加される結果、タービンスクロール54の駆動力が増大し、過給圧を向上させることができる。従って、部分負荷運転領域において、従来、背圧の低減を図るために排気ターボ過給機への排気の流通を回避していたような運転領域であっても、高い過給性能を発揮することができる。
第2に、排気Weの掃気促進である。エゼクタ効果によって被吸出し流体である排気Weが吸出され、掃気が促進されるので当該気筒3の排気抵抗が低減される。また掃気の促進によってオーバーラップ期間での吸気が促進されるので、吸気量を増大させ、エンジントルクを増大させることができる。
第3に、動圧過給の促進である。上述のように、排気マニホールド16の容積を小さくすることで動圧過給の効果が得られるが、エゼクタ効果によって以下説明するようにその効果をさらに促進することができる。
可変排気バルブ30がない、又はあっても全開の場合であって、エゼクタ効果が期待できない場合、ブローダウンガスは集合部31cを介して他の排気通路に回り込む(逆流する)。これはその排気通路の容積が見かけ上増えたように作用する。これに対し可変排気バルブ30によるエゼクタ効果があると、ブローダウンガスは駆動流体として他の排気通路から被駆動流体である排気Weを吸出す。つまり他の排気通路に回り込むことがない。これは、動圧過給においては排気通路容積を削減したような作用をもたらす。
このように、全体の排気通路容積(排気マニホールド容積)が同じであれば、可変排気バルブ30によるエゼクタ効果を有する本実施形態は、エゼクタ効果のないものに比べ、より動圧過給を促進することができるのである。
第4に、オーバーラップ量OLの拡大による後燃え現象の積極利用である。
オーバーラップ量OLを大きく設定しても、吸気負圧によって排気が逆流するおそれが少なくなるので、自然吸気運転領域R12においても、比較的大きなオーバーラップ量OLを確保し、一層、掃気の促進に寄与することができる。そればかりでなく、低速での過給運転領域R10、R11において、未燃燃料を後燃えさせるような大きなオーバーラップ量OL(クランク角度で90°CA以上)を確保することも可能になる。このため、上述のような後燃えモードによる運転を可能にし、燃費の低減や出力向上に一層寄与することが可能になる。
また上述のように、排気マニホールド16の第1通路容積Va〜第4通路容積Vdは、互いに略等しい。仮にこれらの独立排気通路の容積に互いに大きな差があると、エゼクタ効果による掃気促進効果も気筒間で大きくばらついてしまう。そうすると、掃気性に依存する耐ノッキング性能にも差が生じ、結果的に最も耐ノッキング性能の低い気筒3に合わせた設定が余儀なくされ、他の気筒3で耐ノッキング性能を向上してもそれが無駄になる。また、エゼクタ効果による上記吸気量増大効果にも気筒間ばらつきが生じてしまう。
本実施形態の構成によれば、第1通路容積Va〜第4通路容積Vdが互いに略等しいので、これらの問題がなく、エゼクタ効果の利点をより効果的に得ることができる。
ところで、一般的な過給機付エンジンにおいて、第1排気通路16aの長さLaと第4排気通路16dの長さLdとが略等しくなるように自然にレイアウトすれば、集合部31cを中央寄りに配置した本実施形態のような略対称のレイアウトとなる。そうすると第2排気通路16bと第3排気通路16cは、これらが互いに独立していれば、その長さが上記長さLaや長さLdに比べて短くなるのが自然である。これを無理に長さLaに揃えるためには不自然に迂回させる等のレイアウトが必要となる。これは排気抵抗の増大を招いたり、そのレイアウトを成立させるために長さLaや長さLdの短縮が妨げられたりして好ましくない。
本実施形態によれば、その小容積となりがちな第2排気通路16bと第3排気通路16cとを集合した補助集合排気通路16bcを設けているので、この補助集合排気通路16bcの長さを含む第2排気通路長さLbや第3排気通路長さLcを容易に第1排気通路長さLaや第4排気通路長さLdと略等しくし、結果として、第1通路容積Va〜第4通路容積Vdを互いに略等しく設定することができるのである。
なお、第2排気通路16bと第3排気通路16cとは、これらを集合させても相互の独立性が保たれている。表1並びに図3に示したように、第2気筒3bと第3気筒3cとは点火順序が隣り合っていないので、排気バルブ9が下死点前から開き始め、上死点後に閉じることを考慮に入れても第2気筒3bの排気バルブ9と第3気筒3cの排気バルブ9とが共に開いている期間はない。従って相互に排気干渉を起こすことがなく、第2気筒3bの排気行程においては補助集合排気通路16bcを擬似的に第2排気通路16bの延長とみなすことができ、第3気筒3cの排気行程においては補助集合排気通路16bcを擬似的に第3排気通路16cの延長とみなすことができるのである。
このように本実施形態では、4気筒エンジンでありながら、3つの独立排気通路で相互の独立関係を実現している。こうすることによりレイアウトのコンパクト化が図られ、ハウジング31や排気ターボ過給機50との接続部を小型化することができる。
以上、本実施形態の主要な技術的特徴である動圧過給効果、並びにエゼクト効果について説明したが、これらは密接に関連し、協働して過給性能を高め、さらには燃費の低減や出力の向上に寄与している。
図15は、独立排気絞りモードで運転される運転領域R10〜R12における充填効率ηcを示すグラフである。図15において、横軸はエンジン回転速度Ne(rpm)、縦軸は充填効率ηc(%)を示す。特性C13は動圧過給と独立排気絞りモードとが併用された本実施形態の特性である。特性C103は比較対象のために示す特性であり、従来の一般的な排気マニホールド(可変排気バルブ30なし)を用いた場合の特性である。特性C13の充填効率ηcは特性C103に対して約20〜30ポイント増大している。これは動圧過給と可変排気バルブ30を用いた独立排気絞りモードとによる過給圧増大の効果である。
図16は、過給運転領域R10〜R12におけるエンジンの正味平均有効圧(BMEP)を示すグラフである。図16において、横軸はエンジン回転速度Ne(rpm)、縦軸は正味平均有効圧(kPa)を示す。特性C14は動圧過給と独立排気絞りモードとが併用された本実施形態の特性(図15の特性C13に対応する特性)である。特性C104は比較対象のために示す特性であり、図15の特性C103に対応する特性である。特性C14の正味平均有効圧は特性C104に対して約200〜400kPa増大している。これは動圧過給と可変排気バルブ30を用いた独立排気絞りモードとによって充填効率が増大(図15)した効果であって、すなわちエンジントルクが増大したことを示している。
次に、上記エゼクタ効果をより顕著に奏するために本実施形態で採用されている更なる技術について説明する。
図17は本実施形態における排気通路の有効開口比Rdと体積効率ηvとの関係を示すグラフである。横軸の上段は有効開口径D2(mm)を示す。
横軸の下段は有効開口比Rd(%)を示す。有効開口比Rdとは、各出口17a、17bc、17dの有効開口径D2に対する各開口径D1の面積比率である。すなわちRd=(D2/D1)2×100(%)、或いはRd=(S2/S1)×100(%)である。
図17に示す特性C15はエンジン回転速度Ne=1500rpmにおける特性、C16は同2000rpmにおける特性を示す。これらの特性から明らかなように、有効開口径D2=22〜28mmの範囲(有効開口比Rd:37〜61%の範囲)において体積効率ηvの特段に高い好適な範囲が存在する。これは、この好適範囲において特に顕著なエゼクタ効果が得られることを示している。従って、有効開口径D2をこの好適範囲に設定することにより、より高い過給効果が得られ、エンジントルクの一層の増大を図ることができる。
また、図7に示した過給運転領域R10、R11において、運転モードを後燃えモードとすることによって、動圧過給効果やエゼクタ効果と相俟って過給性能を高めることができるとともに、冷間時の排気浄化性能にも寄与することが可能になる。
(3)後燃え効果
図18は、本実施形態に係る過給機付エンジンシステムの後燃え現象による温度変化を示す説明図であり、(A)は、排気温度の測定箇所を示す概略構成図、(B)は測定結果を示す棒グラフである。
図18(A)に示すように、独立排気通路16a〜16dの排気温度P1、排気ターボ過給機50のタービンスクロール54前の排気温度P2、排気ターボ過給機50のタービンスクロール54後の排気温度P3、および触媒63前の排気温度P4を、掃気によるトルク上昇範囲にある小オーバーラップ作動時と、後燃え現象が生じる大オーバーラップ作動時とでそれぞれ測定した。
図18(B)に示すように、小オーバーラップ作動時では、排気ターボ過給機50後の排気温度P3、P4が比較的低くなるのに対し、大オーバーラップ作動時では、掃気効果によって、独立排気通路16a〜16dの排気温度P1が下がるものの、後燃え現象によって排気温度P3、P4が過給前の排気温度P2よりも上昇し、触媒63の昇温に極めて有効であることが確認された。
上述のような後燃え現象をより確実に制御するために、可変排気バルブ30と触媒63(好ましくは排気ターボ過給機50)との間に、排気Weを攪拌する排気攪拌手段を設けていることが好ましい。
図19は、本実施形態に係る排気攪拌手段の一例としての可変排気バルブ30のハウジング31の構造図であり、(A)は一部を破断して示す斜視図、(B)は底面図である。
図19に示すように、ハウジング31の内部は、可変排気バルブ30が常時開く内周側流路PH1と、可変排気バルブ30の開度に応じて開閉される外周側流路PH2とが、仕切板33によって仕切られているとともに、常開の内周側流路PH1は、独立排気通路16a、16bc、16dに対応して、一対の仕切板34により、幅方向に等分されている。各仕切板33、34は、排気流の下流側に行くにつれて起伏が深くなるローブ形状の起伏部33a、34aが形成されており、内周側流路PH1を追加する排気Weは、この起伏部33a、34aのローブ形状によって乱され、排気Weに含まれる未燃燃料と酸素とが攪拌されやすくなっている。
このように可変排気バルブ30と触媒63(好ましくは排気ターボ過給機50)との間に、排気Weを攪拌する排気攪拌手段としての起伏部33a、34aを設けている場合には、後燃えモードでエンジン1が運転される際、排気ガス中の酸素と未燃燃料とが起伏部33a、34aによって攪拌されるので、後燃え現象をより確実に触媒63の前で生じることができ、触媒63の昇温を確実なものとすることができる。特に、図19の各仕切板33、34に起伏部33a、34aを設けて排気攪拌手段としているので、後燃え現象を排気ターボ過給機50の前でも生じることができる。この結果、触媒63の昇温に加えて、過給圧を後燃え現象による圧力上昇によって高めることも可能になり、より高い過給性能を発揮することも可能になる。
また図19に示すように、排気攪拌手段として、集合部31cを仕切る仕切板33、34に形成され、排気流の下流側に行くにつれて起伏が大きくなるローブ形状の起伏部33a、34aを採用している場合には、比較的製造容易で簡素な構成で排気通路内に乱れを形成し、排気に含まれる未燃燃料と酸素の混合を積極的に促進することができる。
上述した実施形態は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、第1排気通路16a等の長さLa、容積Va、径D1、D2等の設定値は、上記各値に限定するものではない。これらはエンジンの大きさや排気量によって適宜好適な値としてよい。
また、可変バルブタイミング機構12によるバルブタイミング変更制御は、後燃えモードでの運転制御を除き、実行することの利点は多いが必ずしも必要ではなく、これがなくても本発明の基本的な効果を充分得ることができる。
また、可変排気バルブ30のフラップ35に代えて、位相によって流路を切り換えるロータを採用してもよい。
また、電動過給機としては、図1に示したように排気ターボ過給機50と別構成の電動過給機83(いわゆるe−Boost)の他、排気ターボ過給機50のタービンスクロール54をモータで駆動する形式のもの(いわゆるe−Turbo)を採用してもよい。
さらに、排気Weを攪拌する排気攪拌手段としては、図19に示した起伏部33a、34aの他、図20に示すネット状部材41、或いは図21に示す円柱形状の保炎部材42等を適宜組み合わせて採用することが可能である。
このように上述した実施の形態は、本発明の好ましい具体例を例示したものに過ぎず、本発明は上述した実施形態に限定されない。本発明の特許請求の範囲内で種々の変更が可能であることはいうまでもない。