ところで、ターボ過給機付き火花点火式エンジンは、高負荷領域においては、大きな過給効果により圧縮端温度及び圧縮端圧力が高まることで、過早着火やノッキングといった異常燃焼を招き易い条件となる。高負荷領域において、エンジン回転数が比較的低い低速域では、クランク角変化に対する実時間がかなり長いため、例えば圧縮上死点以降に気筒内に燃料を噴射しても、混合気形成が可能となり得る。低速域では、燃料噴射時期の調整を通じて異常燃焼を回避することが可能である。また、エンジン回転数が比較的高い高速域では、クランク角変化に対する実時間が逆に短いため、例えば圧縮行程中に燃料を噴射しても、未燃混合気の反応時間は短くなるから、異常燃焼は発生し難い。これに対し、エンジン回転数が中程度である中速域においては、低速域のように圧縮上死点以降において燃料を噴射したのでは混合気の形成が間に合わないため、少なくとも圧縮行程中には燃料を噴射しなければならない。一方で、高速域と比較して、クランク角変化に対する実時間が長くなることで、未燃混合気の反応時間が相対的に長くなる。従って、異常燃焼を回避するために、圧縮上死点付近で燃料を噴射するターボ過給機付き火花点火式エンジンにおいて、中速域でかつ高負荷領域は、異常燃焼が最も発生し易くなり得る。そこで、例えば、特許文献1に記載されている技術と同じように、点火時期を遅らせることによって異常燃焼を回避する対策が考えられるが、点火時期を遅らせることは、トルクの減少を招く。このことは、高いトルクが要求される中速域の高負荷領域においてトルクを向上させることができなくなるという不都合がある。
特に、特許文献1に記載されているように、幾何学的圧縮比を高く設定した高圧縮比エンジンにおいては、高圧縮比と過給効果とが組み合わさって圧縮端温度及び圧縮端圧力がさらに高くなるから、中速域の高負荷領域においては異常燃焼をさらに招き易くなる。点火時期を遅らせることによってこれを回避しようとすれば、その点火時期を圧縮上死点以降で大幅に遅角しなければならなくなり、トルクが大きく低下してしまうことになる。
ここに開示する技術は係る点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ターボ過給機付き火花点火式エンジンにおいて、その運転状態が中速域でかつ高負荷領域にあるときに、異常燃焼を回避して、トルク向上を図ることにある。
ここに開示する技術は、エンジンの運転状態が中速域でかつ高負荷領域にあるときに、掃気を行うことで、異常燃焼を回避するようにした。掃気は、前述したように、吸気弁と排気弁との双方が開弁するオーバーラップ期間を設けて気筒内の既燃ガスを排気側に押し出し、それによって、気筒内の温度を低下させる。また、押し出された既燃ガスに代わり、相対的に温度の低い新気が気筒内に導入される。こうして圧縮開始時の気筒内の温度が低くなって圧縮端温度が低くなる。このことは、中速域でかつ高負荷領域にあるときの異常燃焼の回避に有利になる。
ここで、吸気弁の開弁期間と排気弁の開弁期間とが重なるオーバーラップ期間を設けて掃気を行うには、吸気側の過給圧が排気側の排気圧よりも高くなければならない。しかしながら、ターボ過給機は、低速域での過給能力を高めることを考慮して、低排気流量でもタービンの回転数を上昇させて高い過給圧が得られるように、タービン容量を比較的小さくすることが一般的である。これにより、コンプレッサの作動ラインは、例えば図5に示すコンプレッサの性能曲線において破線L2で示されるように、低流量側で圧力比が高くなるような傾きの大きい曲線となる。尚、この作動ラインは、コンプレッサ単体の効率としては、最も効率の高いところ(図5における等効率線の尾根の近傍)からは、ずれることになる。
このような構成のターボ過給機は、中速域から高速域においては、エンジンやターボ過給機を保護する観点から、エンジンの排気側において、タービンをバイパスするウエストゲート弁を開き、それによって過給圧を上限値で一定にするが(図5における破線L2において水平に延びる箇所参照)、この状態では、吸気側の過給圧が排気圧(正確には、平均排気圧)よりも低くなってしまう。つまり、エンジンの運転状態が中速域にあるときには、オーバーラップ期間を設けたとしても、過給圧が排気圧よりも低いことに起因して、十分な掃気を行うことができない。
そこで、ここに開示する技術は、ターボ過給機の特性を、低速域での過給性能を考慮した一般的な特性とは異ならせた上で、エンジンの運転状態が中速域にあるときに、過給圧が排気圧よりも高くなる状態にし、そのことと、吸排気弁のオーバーラップ期間を設けることとを組み合わせることで、エンジンの運転状態が中速域にあるときの掃気を可能にした。
具体的に、ここに開示するターボ過給機付き火花点火式エンジンは、少なくとも1の気筒と、前記気筒内に吸気を導入するために開閉するよう構成された吸気弁と、前記気筒内から排気を排出するために開閉するよう構成された排気弁と、前記吸気弁及び前記排気弁それぞれの開閉時期を設定するように構成された動弁機構と、を有するエンジン本体と、前記エンジン本体の吸気側に配置されかつ、所定過給圧の吸気を前記気筒に供給するためのコンプレッサ及び、前記エンジン本体の排気側に配置されかつ、前記気筒から排出された排気のエネルギによって前記コンプレッサを駆動するタービンを有するよう構成された、一つのターボ過給機と、を備える。
そして、前記ターボ過給機は、前記エンジン本体の全運転領域において、前記コンプレッサの作動ラインが当該コンプレッサの最高効率を含む所定範囲内となるように、前記タービンの容量を設定しており、それによって、前記ターボ過給機のウエストゲート弁は、前記エンジン本体の運転状態が中速域でかつ高負荷領域にあるときには、所定開度以下に設定され、前記動弁機構は、前記エンジン本体の運転状態が前記中速域でかつ前記高負荷領域にあるときには、充填効率が所定以下となるように前記吸気弁の閉弁時期を設定すると共に、前記吸気弁の開弁期間と前記排気弁の開弁期間とが所定期間だけ重なるように、前記吸気弁及び前記排気弁の開閉時期を設定し、前記エンジン本体の運転状態が前記中速域よりも低速の低速域でかつ前記高負荷領域にあるときには、前記吸気弁の閉弁時期を、充填効率が増えるように、前記中速域よりも遅角させ、前記エンジン本体の運転状態が前記中速域よりも高速の高速域でかつ前記高負荷領域にあるときには、前記吸気弁の閉弁時期を、充填効率が増えるように、前記低速域よりも遅角させる。
ここで、「中速域」は、エンジンの運転領域を、エンジンの回転数の高低について、低速、中速及び高速の3つに区分した場合の中速域としてもよい。また、この「中速域」には、前記の中速域と、高速域の一部とを含む、としてもよい。
また、「高負荷領域」は、エンジンの運転領域を、エンジンの負荷の高低について、低負荷、中負荷及び高負荷の3つに区分した場合の高負荷領域としてもよい。また、例えば全開負荷を含む所定の領域を、高負荷領域としてもよい。
さらに、「吸気弁及び排気弁の開閉時期」は、例えば所定量のリフト時点(例えば0.3mmリフト時点)を、開弁時期又は閉弁時期と定義してもよい。
加えて 「動弁機構」は、クランク軸の回転に同期して、一定の時期に、吸気弁及び排気弁を開閉する機構としてもよいし、例えば、吸気弁及び排気弁の少なくとも一方について、その開閉時期を変更可能な可変機構として構成してもよい。動弁機構は、吸気弁及び/又は排気弁の開閉時期の位相を調整するバルブ位相可変機構(Variable Value Timing:VVT)としてもよい。また、動弁機構は、吸気弁及び/又は排気弁のリフト量を変更するバルブリフト可変機構(Variable Value Lift:VVL)としてもよい。バルブリフト可変機構は、カムプロファイルの異なる2種類のカムを有し、その2種類のカムを切り替えることによって、吸気弁及び/又は排気弁のリフト量を変更する構成としてもよい。また、バルブリフト可変機構は、吸気弁及び/又は排気弁のリフト量の連続的に変更する機構(Continuously Variable Value Lift:CVVL)としてもよい。動弁機構は、VVT及びVVLを組み合わせてもよい。また、吸気弁の動弁機構と、排気弁の動弁機構とは、同じ構成してもよいし、異なる構成にしてもよい。
前記の構成によると、ターボ過給機は、エンジン本体の運転領域において、コンプレッサの作動ラインが、当該コンプレッサの最高効率を含む所定範囲内となるように、タービンの容量を設定している。言い換えると、タービン容量は比較的大となるように設定されている。この所定範囲内は、一例として、但しこれに限定されないが、最高効率に対して10%の範囲内としてもよい。このように設定したターボ過給機の特性は、前述した低速域での過給性能を考慮した、従来において一般的なターボ過給機の特性とは異なり、低速域での過給性能は相対的に低くなり得る。また、タービン容量を大きくすることは、中速域での排気圧を低くし得る。尚、タービン容量の設定は、例えばA/R(つまり、A(ノズル最挟部断面積)と、R(タービン軸中心からノズル最挟部断面中心までの距離))の設定によって行ってもよい。
また、前記の構成では、吸気弁及び排気弁の開閉時期を設定する動弁機構が、エンジン本体の運転状態が中速域でかつ高負荷領域にあるときに、充填効率が所定以下となるように、吸気弁の閉弁時期を設定する。所定以下の低い充填効率は、排気流量を低下させ、排気圧を低くする。一方で、前述の通り、ターボ過給機におけるコンプレッサの作動ラインが最高効率付近に設定されていることで、排気エネルギが低くても、比較的高い過給圧が得られる。その結果、エンジン本体の運転状態が中速域でかつ高負荷領域にあるときに、過給圧が排気圧よりも高い状態になり得る。言い換えると、ターボ過給機は、エンジン本体の運転状態が中速域でかつ高負荷領域にあり、充填効率が所定以下となるように設定したときに、過給圧が排気圧よりも高くなるような特性を有している。
その上で、動弁機構は、吸気弁の開弁期間と排気弁の開弁期間とが所定期間だけ重なるように、つまりオーバーラップ期間を設けるように、吸気弁及び排気弁の開閉時期を設定する。前述したように過給圧が排気圧よりも高い状態にしているため、吸排気弁のオーバーラップ期間において、気筒内の既燃ガスが排気側に押し出されて掃気が行われる。その結果、気筒内の温度低下と共に、相対的に低温の新気が気筒内に導入されるから、圧縮端温度が下がって異常燃焼が回避される。こうして異常燃焼が回避されるから、点火時期をできるだけ進角することが可能になり、エンジンの運転状態が中速域でかつ高負荷領域にあるときのトルクの向上が図られる。オーバーラップ期間は、具体的には、吸気弁の開弁時期を、例えば排気上死点前35〜40°CAに設定し、また、排気弁の閉弁時期を、例えば排気上死点後35〜40°CAに設定し、それによって、70〜80°CAに設定してもよい。
ここで、前記動弁機構は、充填効率が所定以下となるように、吸気弁の閉弁時期を吸気下死点よりも所定量だけ遅角した時期に設定してもよい。しかしながら、エンジン本体の運転状態が中速域にあるため、吸気の慣性効果が強く、充填効率を所定以下にしようとすれば、吸気弁の閉弁時期を、吸気下死点後の大幅に遅い時期に設定しなければならなくなる。
そこで、前記動弁機構は、前記充填効率が所定以下となるように、前記吸気弁の閉弁時期を吸気下死点よりも所定量だけ進角した時期に設定する、ことが好ましい。こうすることで、中速域において、所定以下の充填効率を容易に実現し得る。吸気弁の閉弁時期は、例えば吸気下死点前25〜30°CAに設定してもよい。
前記動弁機構は、前記排気弁の開弁期間が前記吸気弁の開弁期間よりも長くなるように、前記吸気弁及び前記排気弁の開閉時期を設定する、としてもよい。前述の通り、吸気弁及び排気弁の開弁期間が重なるオーバーラップ期間を設けることから、吸気弁の閉弁時期を吸気下死点よりも所定量だけ進角させたときには特に、吸気弁の開弁期間が相対的に短くかつ、排気弁の開弁期間が相対的に長くなる。
前記動弁機構は、前記エンジン本体の運転状態が、前記中速域よりも高速域でかつ前記高負荷領域にあるときには、前記吸気弁の閉弁時期を、前記中速域でかつ高負荷域にあるときよりも遅角した時期に設定する、としてもよい。
エンジン本体の運転状態が高速域にあるときには、中速域にあるときと比較して、クランク角変化に対する実時間が短くなるため、気筒内の未燃混合気の反応可能時間が短くなり、過早着火やノッキングといった異常燃焼は起こり難くなる。
一方で、エンジン本体の運転状態が高速域でかつ高負荷領域にあるときには、充填効率をさらに高めることが、トルク向上には有利になる。
そこで、動弁機構は、エンジン本体の運転状態が、異常燃焼の起こり難い、高速域でかつ高負荷領域にあるときには、吸気弁の閉弁時期を、中速域でかつ高負荷域にあるときよりも遅角した時期に設定する。このことにより、過給効果を含んで高い充填効率が実現し、トルクが向上する。
前記気筒の幾何学的圧縮比は、13以上に設定され、前記動弁機構は、前記エンジン本体の運転状態が前記中速域でかつ前記高負荷領域にあるときには、前記吸気弁の閉弁時期によって規定した前記気筒の有効圧縮比を、前記幾何学的圧縮比よりも低く設定する、としてもよい。
すなわち、前述した構成は、エンジン本体の幾何学的圧縮比が高く、それに伴い、エンジン本体の運転状態が中速域でかつ高負荷領域にあるときの有効圧縮比も比較的高くなって、高い圧縮端温度及び圧縮端圧力になり得る火花点火式エンジンにおいて、異常燃焼を回避してトルクの向上が図られる点で、有効である。
前記エンジン本体は、いわゆるガソリン車両に搭載することは勿論のこと、前記エンジン本体は、走行用の電動モータを備えたハイブリッド車両に搭載されている、としてもよい。
前述の通り、ターボ過給機の特性を、低速域での過給性能を考慮した一般的な特性とは異ならせていることに起因して、このターボ過給機付き火花点火式エンジンは、低速域では過給効果が得られ難くなり、低速域でのトルク低下を招く場合がある。しかしながら、このエンジン本体を、走行用の電動モータを備えたハイブリッド車両に搭載した場合には、低速域においては電動モータを駆動することによって必要なトルクを確保することが可能である。尚、前記エンジン本体をガソリン車両に搭載したときには、低速域における低い過給性能を補う別途の構成を追加してもよい。
以上説明したように、前記のターボ過給機付き火花点火式エンジンは、エンジン本体の運転状態が中速域でかつ高負荷領域にあるときに、吸気弁の閉弁時期の設定によって充填効率を低くすることに伴い、過給圧が排気圧よりも高くなるようなターボ過給機の特性とし、その上で、吸気弁の開弁期間と排気弁の開弁期間とが重なるように、吸気弁及び排気弁の開閉時期を設定することで、掃気を確実に行って異常燃焼を回避し、その結果、トルクの向上が図られる。
以下、実施形態に係るエンジンシステムを図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は例示である。図1、2において、1はエンジン(エンジン本体)であって、この例では、第1〜第4の4つの気筒C1〜C4を有する直列4気筒の火花点火式エンジンとされている。尚、以下の説明において、各気筒を区別する必要のないときは、気筒を単に符合Cを用いて示す場合もある。2はシリンダブロック、3はシリンダヘッド、4はピストンであり、これらシリンダブロック2とシリンダヘッド3とピストン4とによって燃焼室5が形成されている。燃焼室5には、シリンダヘッド3に形成された吸気ポート6及び排気ポート7が開口し、燃焼室5の略中心部には点火プラグ8が配設されている。吸気ポート6は吸気弁9により開閉され、排気ポート7は排気弁10により開閉される。
シリンダヘッド3にはまた、気筒C毎に、気筒C内に燃料を直接噴射するインジェクタ11が取り付けられている。インジェクタ11は、この例では、シリンダヘッド3の吸気側に取り付けられており、燃焼室5の中央付近に向かって、燃料を直接噴射するように構成されている。
尚、点火プラグ8や、インジェクタ11の配置は、適宜変更することが可能である。
吸気弁9及び排気弁10を駆動する動弁機構12は、吸気側及び排気側のそれぞれにVVT(VariableValve Timing)を備えている。VVTは、吸気弁9及び排気弁10の開弁期間を維持したまま、バルブタイミング(バルブ開閉時期)を平行移動的に前後させる。VVTは、液圧式、電磁式又は機械式の公知の構造を適宜採用すればよく、その詳細な構造についての図示は省略する。
吸気弁9及び排気弁10を駆動する動弁機構12の内、少なくとも吸気弁9の動弁機構12はまた、吸気弁9のリフト量を大小2種類に切り替える、例えば油圧作動式の可変機構(以下、VVL(VariableValve Lift)と称する)を備えている。VVLは、その構成の詳細な図示は省略するが、吸気弁9のリフト量を相対的に大きくする第1カムと、吸気弁9のリフト量を相対的に小さくする第2カムとの、カムプロファイルの異なる2種類のカム、及び、その第1及び第2カムのいずれか一方のカムの作動状態を選択的に吸気弁9に伝達するロストモーション機構を含んで構成されている。このようなVVLに代えて、吸気弁9の動弁機構12は、そのリフト量を連続的に変更することが可能なリフト量可変機構(CVVL(Continuously Variable Valve Lift))を備えるようにしてもよい。CVVLは、公知の種々の構造を適宜採用することが可能であり、その詳細な構造についての図示は省略する。吸気弁9は、VVT及びVVLによって、図6に例示するように、その開弁時期及び閉弁時期、並びに、リフト量(及び開弁期間)、をそれぞれ変更することが可能である(図6の実線、一点鎖線及び二点鎖線参照)。
吸気弁9及び排気弁10の動弁機構12を制御することによって、図6に例示するように、吸気弁9の開弁時期を排気上死点前とする一方で(同図の実線参照)、排気弁10の閉弁時期を排気上死点後として(同図の破線参照)、吸気弁9の開弁期間の一部と排気弁10の開弁期間の一部とが重なり、それによって、排気上死点付近で吸気弁9及び排気弁10が共に開弁するオーバーラップ期間(O/L)を設定することが可能である。
尚、排気弁10においても、リフト量を可変にする可変機構(VVL)を備えてもよい。排気弁10のVVLは特に、吸気弁9とは異なり、カム山を一つ有する第1カムとカム山を2つ有する第2カムとの、カムプロファイルの異なる2種類のカム、及び、その第1及び第2カムのいずれか一方のカムの作動状態を選択的に排気弁に伝達するロストモーション機構を含んで構成してもよい。この構成では、第1カムの作動状態を排気弁10に伝達しているときには、排気弁10は、排気行程中において一度だけ開弁される通常モードで作動するのに対し、第2カムの作動状態を排気弁10に伝達しているときには、排気弁10が、排気行程中において開弁すると共に、吸気行程中においても開弁するような、いわゆる排気の二度開きを行う特殊モードで作動する。特殊モードは、気筒C内に既燃ガスを残留させる内部EGR制御に利用することができる。内部EGR制御は、後述するCI燃焼時に行う場合がある。
吸気ポート6は、吸気マニホールドによって形成される独立分岐吸気通路21を介してサージタンク22に接続されている。サージタンク22には、1本の共通吸気通路23が接続されている。この共通吸気通路23には、その上流側から下流側へ順次、エアクリーナ24,スロットル弁25,ターボ過給機26のコンプレッサ26A、インタークーラ27が配設されている。
エンジン1の他側面には、排気通路30の一部を構成する排気マニホールド31が取り付けられる。この排気マニホールド31は、互いに独立した第1〜第3の独立通路部31A、31B、31Cを有している。第1独立通路部31Aが第1気筒C1の排気ポート7に連通し、第2独立通路部31Bが、第2及び第3気筒C2、C3の排気ポート7に連通し、第3独立通路部31Cが、第4気筒C4の排気ポート7に連通する。
排気マニホールド31の出口端にはハウジング32が接続されている。ハウジング32は、その上流側においては、排気マニホールド31の独立通路部31A、31B、31Cにそれぞれ連通する独立通路部32A、32B、32Cを形成すると共に、後述する可変絞り弁320を有する絞り部として機能し、それよりも下流側においては、各独立通路部32A、32B、32Cからの排気が合流する集合部32Dを形成する。ここで、可変絞り弁320は、3つの独立通路部32A、32B、32Cの各通路断面積を、その独立状態を維持しつつ変更するバルブである。可変絞り弁320を含むハウジング32の詳細構造は、後述する。
排気通路30の下流側には、ターボ過給機26のハウジングが接続されている。ハウジング内には、ターボ過給機26のタービン26Bが配設されている。タービン26Bは、コンプレッサ26Aに対して連結軸26Cによって連結されており、排気ガスのエネルギを受けてタービン26Bが回転駆動することによって、コンプレッサ26Aが回転駆動して、過給が行われる。
排気通路30にはまた、タービン26Bをバイパスするバイパス通路34が接続されている。このバイパス通路34には、当該バイパス通路34を流れる排気流量を調整するためのウエストゲート弁341が介設されている。
排気通路30におけるタービン26Bの下流側には、図1に示すように、排気ガス中の有害成分を浄化する触媒33が接続されている。この触媒33は、ケースと、そのケース内の流路に配置した、例えば三元触媒とを備えて構成されている。
ここで、エンジンシステムの排気側の構成について、主に図3を参照しながら、さらに詳細に説明する。図3は、気筒列の方向に視た排気マニホールド31及びハウジング32の部分の一部破断の側面図である。
排気マニホールド31の上流端にはフランジ311が設けられ、排気マニホールド31は、このフランジ311を介してエンジン1のシリンダヘッド3に固定される。前述の通り、排気マニホールド31は、第1〜第3の独立通路部31A、31B、31Cを有し、それぞれの上流端は、シリンダヘッド3の側面に開口する3つの排気ポート7それぞれに接続されると共に、その下流端である排気マニホールド31の出口には、詳細な図示は省略するが、3つの開口が気筒列方向に並んで形成されている。つまり、第1独立通路部31Aの第1開口部、第2独立通路部31Bの第2開口部、及び、第3独立通路部31Cの第3開口部が、この順に一直線上に配置されている(図2も参照)。
排気マニホールド31の出口端に接続されるハウジング32の上流側には、排気の流れに沿って(平行に)立設する仕切板321が、その立設方向に直交する気筒列の方向(図における紙面に直交する方向)に所定の間隔だけ離間して、2枚設けられている。2枚の仕切板321の内の一方は、排気マニホールド31の出口端との合わせ部において第1開口部と第2開口部とを仕切る壁面と連続するように立設されてハウジング32内を仕切り、他方は、第2開口部と第3開口部とを仕切る壁面と連続するように立設されてハウジング32内を仕切る。これにより、ハウジング32内の上流側において、仕切板321に沿って排気が流れる区間では、2枚の仕切板321によって各独立通路部31A、31B、31Cの独立状態及び並列状態が維持されており、ハウジングにおけるこの部分が、複数の気筒Cの排気側にそれぞれ連通する複数の独立通路部32A、32B、32Cを構成することになる。
前述した可変絞り弁320は、ハウジング32の上流側に配設されており、具体的には、排気の流れに交差する方向に設けられ、ハウジング32に支持されたフラップ軸322と、フラップ軸322まわりに旋回可能とされた弁体としてのフラップ323と、後述するECU100からの制御信号(可変絞り弁320の開度指令)に基づいてフラップ軸322を回転させるアクチュエータ(図示省略)と、フラップ323を開弁方向に付勢するリターンスプリング(図示省略)とを含む。フラップ323は、フラップ軸322に沿って視てフラップ軸322を扇の要とする扇形断面の扇状面を有する。
ハウジング32には上方に膨出する膨出部324が形成されており、膨出部324の内側にフラップ323が格納された状態(図3(a)に示す状態)が、可変絞り弁320の開弁(全開)状態である。可変絞り弁320が全開のときには、排気マニホールド31の出口からハウジング32内に導入された排気はフラップ323(可変絞り弁320)で絞られることなく、下流側の集合部32Dに導かれる。
一方、フラップ323がフラップ軸322を中心に回転駆動され、膨出部324よりも内側に最も侵入した状態(図3(b)に示す状態)が可変絞り弁320の閉弁(全閉)状態である。フラップ323は、アクチュエータによって全閉状態と全開状態との間で適宜開度調節される。
可変絞り弁320が全閉のときには、図3(b)に示すように、フラップ323の扇状面が流路の一部を遮るので排気通路断面積が縮小される。従って、排気マニホールド31の出口からハウジング32内に導入された排気は可変絞り弁320によって絞られた後、集合部32Dに導かれる。ここで、各仕切板321の各後縁は、可変絞り弁320が閉弁状態にあるときのフラップ323の扇状面に沿うように成形されている。従って、排気がフラップ323で絞られる際には、排気通路の独立状態及び並列状態が維持された状態で絞られる。
集合部32Dは、ハウジング32内において仕切板321の後縁よりも下流側に形成される部分である。ハウジング32の下流端側にはフランジが設けられて、ターボ過給機26のハウジングが接続されている。
図1に戻り、符号100は、エンジンシステムの動作を電気的に制御するECU(Engine Control Unit)である。ECU100は、CPU、メモリ、カウンタタイマー群、インターフェース並びにこれらのユニットを接続するバス等を有するマイクロプロセッサで構成された制御ユニットである。ECU100は、インジェクタ11の制御を通じた燃料供給量、スロットル弁25の制御を通じたスロットル開度、及び、点火プラグ8の制御を通じた点火時期といった一般的な燃焼制御に加え、動弁機構12(VVT及びVVL)の駆動制御、ウエストゲート弁341の開度調整制御、及び、可変絞り弁320の開度調整制御を行う。
このエンジン1は、熱効率向上の観点から、幾何学的圧縮比が13以上に設定されている。さらに、幾何学的圧縮比を18以上の高圧縮比に設定することによって、例えば低負荷領域においては、圧縮着火燃焼(Compression Ignition:CI)を行うことが可能になり、熱効率のさらなる向上が図られる。この例では、幾何学的圧縮比は18に設定されており、このエンジン1は、低負荷領域においてはCI燃焼を行う。一方、エンジン1の負荷が高まるに従って、CI燃焼では燃焼が急峻になりすぎて、例えば燃焼騒音等の問題を引き起こすことになる。そこで、このエンジン1では、前記の低負荷領域よりも負荷の高い高負荷領域においては、火花点火燃焼(Spark Ignition:SI)を行う。このように、ここに例示するターボ過給機付き高圧縮比エンジン1は、負荷の高低に応じて燃焼形態を切り替えるように構成されている。但し、ここに開示する技術は、このようなCI燃焼を行うエンジンに適用することには限定されない。
(高負荷領域におけるエンジン制御)
次に、高負荷領域におけるエンジン制御について、図を参照しながら説明する。前述したように、このターボ過給機付き火花点火式エンジン1は、高負荷領域においてはSI燃焼を行うが、幾何学的圧縮比が18と非常に高い上に、ターボ過給機26による過給が行われるため、過早着火やノッキングといった異常燃焼を招き易い条件となる。高負荷領域においても、エンジン回転数が比較的低い低速域では、クランク角変化に対する実時間がかなり長いため、例えば圧縮上死点以降に気筒内に燃料を噴射しても、混合気形成が可能となり得る。そこで、詳細な説明は省略するが、このエンジンシステムでは、図4に示すエンジン1の運転領域において、低速・高負荷領域では少なくとも、燃料噴射時期及び点火時期の調整を通じて異常燃焼を回避する。また、エンジン回転数が比較的高い高速域では、クランク角変化に対する実時間が逆に短いため、例えば圧縮行程中に、気筒C内に燃料を噴射しても、未燃混合気の反応時間は短くなるから、異常燃焼は発生し難い。これに対し、エンジン回転数が中程度である中速域においては、低速域のように圧縮上死点以降において燃料を噴射したのでは混合気の形成が間に合わないため、少なくとも圧縮行程中には燃料を噴射しなければならない。一方で、高速域と比較して、クランク角変化に対する実時間が長くなることで、未燃混合気の反応時間が相対的に長くなる。従って、図4に示すエンジン1の運転領域において、特に中速域から高速域の一部を含む速度域でかつ、全開負荷を含む高負荷領域においては(ここでは、この領域を「中速・高負荷領域」と呼ぶ)、異常燃焼が最も発生し易くなり得る。異常燃焼の回避には点火時期を遅らせることが有効であるが、このターボ過給機付きの高圧縮比エンジン1において異常燃焼を回避しようとすれば、点火時期を大幅に遅角させなければならず。高いトルクが要求される中速・高負荷領域において、トルクを大きく低下させてしまうという不都合がある。
そこで、このエンジンシステムでは、中速・高負荷領域において掃気を行うことにより、異常燃焼を回避しつつ、トルクの向上を図るようにしている。具体的には、ターボ過給機26の特性を、従来において一般的な特性とは異ならせた上で、吸気弁9及び排気弁10のバルブタイミングの調整を行うことによって、中速・高負荷領域における掃気を可能にしている。以下、ターボ過給機26の構成、及び、吸気弁9及び排気弁10の制御について、順に説明をする。
(ターボ過給機の構成)
このエンジン1のターボ過給機26は、比較的大型のタービン26Bとコンプレッサ26Aとを組み合わせたものが用いられる。それは、次のような理由による。
従来、特に低速域からの加速時にトルクの応答性を高める観点から、コンプレッサに対してタービンのサイズを小型化し、排気ガスの流量が少ない低速域でも高い圧力比が得られるようにすることが多かった。タービンは、ある程度の量の排気ガスがないと高速で回転できないが、小型のタービンであれば、排気ガスの流量が少なくても高速で回転できるので、低速域でのコンプレッサの圧力比を高める(つまり低速域での過給能力を高める)ことができる。
図5は、コンプレッサの特性を示す性能曲線のグラフであり、その縦軸はコンプレッサの圧力比、横軸はコンプレッサの吐出流量である。このグラフにおいて、各ラインSL、RL、CLは、それぞれ、サージライン、回転限界ライン、チョークラインを表しており、これらのラインで囲まれた領域がコンプレッサの運転可能領域である。また、この運転可能領域内に図示された等高線のような曲線群は、コンプレッサの効率が等しい運転ポイントを結んだ等効率線であり、領域の中央側に位置する曲線ほど効率が高くなることを表している。
従来から多用されてきたように、タービンとして比較的小型のものを用いた場合には、エンジンの低速域においてタービンの回転速度が上昇し、これに伴いコンプレッサの圧力比も比較的鋭く上昇する。このように、少ない流量でも高い圧力比が得られるので、コンプレッサの作動ラインは、図5の曲線L2のような傾きの大きい曲線となる。これにより、エンジンの低速域でも比較的高い過給圧が得られるので、低速域のエンジンのトルクが上昇し、低速域からの加速レスポンスが向上する。なお、曲線L2では、その途中から圧力比が頭打ちになっている(横向きの直線に移行している)が、これは、エンジンやターボ過給機を保護する観点から設けられた上限値に過給圧が達したために、ウエストゲート弁341を開く等の過給圧制御が実行されたことを示している。
このように、タービンを小型化することは、エンジンの低速域でのトルクを補強する上では有利であるが、その反面、エンジンの高速域では、タービンを通過するときの排気ガスの流通抵抗が高くなり易く、ポンピングロスが増大するという欠点がある。また、コンプレッサのサージラインSLの近傍が多用されることとなるため、コンプレッサ単体でみると、決して効率の良い使い方とはいえない。
また、前述の中速・高負荷域においては、ウエストゲート弁341を開く等によって、過給圧が制限される結果、過給圧が排気圧(正確には、平均排気圧)よりも低くなる。この状態では、オーバーラップ期間を設けて掃気を行おうとしても、十分な掃気ができないことになる。
そこで、このターボ過給機26では、タービン26Bとして比較的大型のものを用いている。これによって、コンプレッサ26Aの作動ラインが、このコンプレッサ26Aの最高効率(等高線の尾根)を含む所定範囲内となるように、より具体的には、図5に二点鎖線で示す、最高効率に対して10%の範囲内になるように、設定されている(図5の曲線L1参照)。このことは、例えば低速域からの加速時には、コンプレッサ26Aの効率の高いところが多用され、コンプレッサ単独の使用条件としては好ましいことになる。また、エンジン回転速度がある程度上昇して以降は、タービン26Bの回転上昇に応じて大きな圧力比が得られ、充分なトルクを確保することができる。しかも、排気ガスの流量が多いときの流通抵抗(排気ガスがタービン26Bを通過するときの抵抗)はタービンが小型であるときよりも小さいので、エンジン高速域におけるポンピングロスを低減して燃費を向上させることができるという利点がある。尚、ターボ過給機26の特性は、いわゆるA/Rの調整によって変更が可能である。
ただし、低速域からの加速初期のような排気ガスの流量が少ない状況では、タービン26Bの回転速度がなかなか上昇せず、コンプレッサ26Aの圧力比は緩やかにしか上昇しない。このことは、エンジン低速域でのトルクが充分に増大せず、低速域からの加速レスポンスが悪くなることを意味する。このように、タービン26Bを大型化した構成は、高速域でのトルクの確保や燃費の面で有利である一方、低速域でのトルクが充分に出せないという問題がある。
そこで、このような問題に対処すべく、このエンジンシステムでは、低速域においては、可変絞り弁320を閉弁する制御を実行し、動圧掃気によって充填効率を高める。つまり、ECU100は、図3(b)に示すように、可変絞り弁320を全閉にする。これにより、ハウジング32内の各独立通路部32A〜32Cは、その開口面積が小さくされた絞り状態にされる。
排気行程にある気筒から、排気ポート7及び排気マニホールド31を経て、ハウジング32の集合部32Dへと向かう排気ガスは、全閉にされた可変絞り弁320で流速が高められた上で、集合部32Dを経てタービン26Bへ供給される。特に、排気弁10が開弁された直後に発生する勢いの強い排気ガス(ブローダウンガス)が、より流速が高められた状態でタービン26Bに供給される。
また、前記の絞り部において排気ガスの流速が高められることによって、エゼクタ効果(吸い出し効果)が発揮されて、ある独立通路を流れる排気ガスが、他の独立通路へ向かって流れるような(つまり、膨張するような)事態が防止されると共に、エゼクタ効果によって他の独立通路中の残留排気ガスも合わせてタービン26Bへ供給される。こうして、ターボ過給機26が効率よく作動し、過給圧の上昇に有利になる。
さらに、エゼクタ効果によって、吸気行程にある気筒の掃気効果が高まって、この分、充填効率が向上する。つまり、このエンジン1においては、第1気筒C1、第3気筒C3、第4気筒C4、第2気筒C2の順に点火順序が設定されており、例えば第1気筒C1が、膨張行程から排気行程への移行期(下死点付近)にあって、排気弁10が開いて排気が燃焼室5から排気ポート7へ排出され始めたときに(つまりブローダウン時に)、第2気筒C2は排気行程から吸気行程への移行期(上死点付近)にある。この移行期において、動弁機構12の制御により、吸気弁9と排気弁10とが共に開弁しているオーバーラップ期間が設けられている。具体的に、図4に示す低速・高負荷域での吸気弁9のリフト量は、図6において一点鎖線で示すように、相対的に大に設定されると共に、吸気弁9及び排気弁10の双方が開弁するオーバーラップ期間(O/L)が長くなるように設定される。つまり、図7に示すように、吸気弁9の開弁時期は、排気上死点前の所定時期に設定される一方、排気弁10の閉弁時期は、排気上死点後の所定時期に設定される。
こうして、第1気筒C1のブローダウン時に、オーバーラップ期間が設けられている第2気筒C2内の既燃ガスが、エゼクタ効果により吸い出される結果、第2気筒C2の充填効率は向上するようになる。尚、排気行程と吸気行程との関係が成立する気筒関係は、次のようになる。すなわち、第1気筒C1(排気行程)と第2気筒C2(吸気行程)、第2気筒C2(排気行程)と第4気筒C4(吸気行程)、第3気筒C3(排気行程)と第1気筒C1(吸気行程)、第4気筒C4(排気行程)と第3気筒C3(吸気行程)である。
さらに、図7に示すように、吸気弁9の閉弁時期を、吸気下死点後に設定することで、吸入空気量が増加する。これは排気エネルギを上昇させることになるため、このこともまた、ターボ過給機26の作動効率に寄与し、過給圧を上昇させる上で有利になる。
こうして、低速域において、可変絞り弁320を全閉にすることによって、掃気を十分に行うことが可能になって、トルクの向上に有利になる。尚、エンジン1の中速域及び高速域においては、ECU100は、可変絞り弁320を全開にする(図3(a)参照)。これによって、多量の排気ガスを効率よく排出させることが可能になる。
尚、低速域におけるターボ過給機26の低い過給性能を補う構成としては、前述した可変絞り部320を備える構成の他にも、様々な構成を採用することが可能である。例えばタービンとコンプレッサとを連結する連結軸を電動モータによって回転駆動可能に構成した電動ターボ過給機を採用してもよい。低速域においては、電動モータを駆動することにより、ターボ過給機を強制的に駆動して、所望の過給性能を確保することが可能になる。また、前記のターボ過給機26に加えて、エンジン1によって駆動されるスーパーチャージャーをさらに備えるようにしてもよい。このスーパーチャージャーは、主に、低速域における過給性能を確保するために駆動してもよい。さらに、タービン容量が比較的大きい前記のターボ過給機26に加えて、タービン容量が相対的に小さい小型ターボ過給機を、前記のターボ過給機26に対して直列に設けてもよい。小型ターボ過給機は、低速域における過給性能の確保に有利になる。
(吸排気弁の制御)
次に、吸気弁9及び排気弁10の制御について、図を参照しながら説明する。図6は、前述した吸気弁9及び排気弁10のリフトカーブを例示している。図7は、前述したように低速・高負荷域の吸気弁9(実線)及び排気弁10(破線)の開弁時期及び閉弁時期をそれぞれ示すダイアグラムであり、図8は、中速・高負荷領域での吸気弁9(実線)及び排気弁10(破線)の開弁時期及び閉弁時期をそれぞれ示すダイアグラムである。
先ず、低速・高負荷域では、前述の通り、吸気弁9のリフト量は、VVLの制御を通じて相対的に大となるように設定される(図6の一点鎖線参照)と共に、VVTの制御を通じて開弁時期が排気上死点前の所定時期でかつ閉弁時期が吸気下死点後の所定時期に設定される。これによって、排気弁10との開弁期間が重なるオーバーラップ期間を比較的長く設定する。これは、前述したように、低速域における掃気を行うためである。また、吸気弁9のリフト量が大に設定されると共に、その閉弁時期が吸気下死点付近に設定されることで吸入空気量は増大する。これは、前述したように、低速・高負荷域における掃気を有効に行いかつ、充填効率を高めるためである。
これに対し、中速・高負荷域では、図6に実線で示すように、吸気弁9のリフト量は、VVLの制御を通じて相対的に小となるように設定される。これに伴い、吸気弁9の開弁期間は相対的に短くなる。また、吸気弁9の開弁時期は、VVTの制御を通じて、低速域と同様に、排気上死点前の所定時期に設定されるものの、前述の通り、開弁期間が短いため、閉弁時期が吸気下死点前の所定時期に設定される(図8も参照)。これによって、吸気弁9と排気弁10との開弁期間が重なるオーバーラップ期間を比較的長く設定する一方で、吸入空気量は少なくなる。ここで、中速・高負荷域における吸気弁9の開弁時期は、具体的には、排気上死点前35〜40°CAに設定してもよい。また、排気弁10の閉弁時期は、具体的には、排気上死点後35〜40°CAに設定してもよい。また、オーバーラップ期間(O/L)は、70〜80°CAとしてもよい。
一方、中速・高負荷域における吸気弁9の閉弁時期は、具体的に、吸気下死点前25〜30°CAに設定してもよい。これによって充填効率を所定以下にすると共に、幾何学的圧縮比が18に設定されたエンジン1において、有効圧縮比を10以上に設定する。
尚、中速・高負荷域における排気弁10の開弁時期は、図8に示すように、下死点前に設定されており、これにより、排気弁10の開弁期間は、吸気弁9の開弁期間よりも長くなっている(図7に示すように、低速・高負荷域では、排気弁10の開弁期間は、吸気弁9の開弁期間とほぼ同じである)。
このように、オーバーラップ期間を設けることは、低速域と同様に、中速・高負荷域において掃気を行うためである。また、吸気弁9を、いわゆる早閉じにして充填効率を所定以下にすることは、排気量を低減し、それによって排気圧を低下させるためである。尚、吸気弁9を、吸気下死点以降に閉弁する、いわゆる遅閉じにすることでも、充填効率を所定以下にすることが可能ではあるものの、エンジン1の回転数が比較的高い中速域では、吸気の慣性効果が強く、充填効率を所定以下にしようとすれば、吸気弁9の閉弁時期を、吸気下死点後の大幅に遅い時期に設定しなければならないという不都合がある。そのため、吸気弁9は早閉じにすることが好ましい。
ここで、図9は、ターボ過給機26の特性を示している。図9に一点鎖線(コンプレッサ)及び二点鎖線(タービン)で示すように、従来において一般的な、比較的小容量のタービンを備えたターボ過給機においては、中速域から高速域においては、前述の通り、ウエストゲート弁が開いて過給圧を制限することに伴い、過給圧よりも排気圧の方が高くなってしまう(言い換えると、過給圧の方が排気圧よりも高い領域は、ウエストゲート弁が閉じている低速域に限定される)。
これに対し、このエンジンシステムでは、タービン容量が大きいことで、中速域における排気圧は低くなる上に、吸気弁9の早閉じによって、中速域において、排気圧を低下させており(図6の下向きの矢印参照)、これによってウエストゲート弁341は、中速域において、全閉又は所定開度以下、つまり、閉じ気味に設定されている(図9の「W/G閉」の矢印を参照。尚、ここでの「閉」は、ウエストゲート弁341を全閉にすることのみを意味するのではなく、ウエストゲート弁341を若干開けることも含んでいる)。その上、ターボ過給機26におけるコンプレッサ26Aの作動ラインは、最高効率付近に設定されていることにより(図5参照)、中速・高負荷域において排気圧を低下させても、過給圧を高めることが可能になる。その結果、図6において実線(コンプレッサ)及び太実線(タービン)で示すように、エンジン1の中速域・高負荷域において、過給圧を排気圧よりも高く設定することが可能になる。
こうして、「過給圧>排気圧」の状態となることで、吸気弁9と排気弁10とのオーバーラップ期間に、排気側に既燃ガスを押し出すことが可能になり、中速・高負荷域において、掃気を確実に行うことが実現する。掃気によって気筒C内の温度が低下すると共に、相対的に低温の新気が気筒C内に導入されるから、圧縮開始時の気筒C内の温度を低くすることが可能になる。そうして、圧縮端温度及び圧縮端圧力が低くなるため、インジェクタ11によって圧縮行程中に、気筒C内に燃料噴射を行っても、異常燃焼の発生が抑制乃至回避される。従って、点火プラグ8による点火時期を大幅に遅角させる必要がなくなって、中速・高負荷領域におけるトルクの向上が可能になる。
このエンジンシステムではさらに、中速・高負荷域において、排気の圧力脈動の谷のタイミングが、オーバーラップ期間に一致するように、排気弁10の開弁時期を設定しており、これによって、掃気をより確実に行うようにしている。
つまり、前述したように、中速・高負荷域では、吸気弁9の早閉じによって充填効率を所定以下に設定しており、これによって排気圧(正確には、平均排気圧)を低くしている。その結果、ウエストゲート弁341は全閉又は所定開度以下に設定される(図9参照)。ウエストゲート弁341が閉じ気味であるため、図10に示すように、排気の圧力脈動の振幅ΔHpは、相対的に大きくなる。尚、図10の破線は、従来において一般的な特性のターボ過給機付きエンジンにおいて、中速・高負荷域においてウエストゲート弁341を全開にした状態での、排気の圧力脈動の例を示している。従来構成においては、排気圧を低減させる制御は行わないため、平均排気圧が比較的高くなる上に、ウエストゲート弁341が全開であるため、排気の圧力脈動の振幅が小さくなっている。
また、前述の通り、平均排気圧を低くしている一方で、ターボ過給機26の特性により、過給圧は高くなるため、排気の圧力脈動の振幅ΔHpが大きくなることと相まって、圧力脈動の谷の圧力が、過給圧よりも大きく低下する。このエンジンシステムでは、図10に示すように、排気弁10の開弁時期を適切に設定することにより、排気脈動の谷のタイミングが、オーバーラップ期間(O/L)と一致するようにしている。これにより、吸気弁9及び排気弁10が共に開弁しているときに過給圧が排気圧(正確には、排気の圧力脈動の谷の圧力)よりも高くなるから、掃気が確実に行われるようになる。
こうして、このエンジンシステムでは、ターボ過給機26の特性によって、中速・高負荷域において、「過給圧>平均排気圧」を実現し、さらに、排気脈動の谷のタイミングをオーバーラップ期間に一致させることを組み合わせることにより、掃気を確実にかつ、十分に行うことが可能になる。その結果、このエンジンシステムでは、中速・高負荷域における異常燃焼を、より一層確実に回避して、トルクのより一層の向上が図られる。尚、排気脈動の谷のタイミングをオーバーラップ期間に一致させることは、中速・高負荷域において掃気を行う上での必須の構成ではない。このエンジンシステムでは、ターボ過給機26の特性と、充填効率を低くすることとによって、中速・高負荷域において、少なくとも「過給圧>平均排気圧」を実現しているから、掃気が可能である。
また、前述した中速・高負荷域よりもエンジン回転数が高い高速・高負荷域では、図6に二点鎖線で示すように、吸気弁9のリフト量は、VVLの制御を通じて相対的に大に切り替えられ、さらに、VVTの制御を通じて、開弁及び閉弁時期を、中速・高負荷域での開弁及び閉弁時期よりも遅角させる。これは、前述したように、高速・高負荷域は異常燃焼が生じ難い一方で、トルクの向上に鑑みれば、充填効率を高めることが望ましいためである。そこで、高速・高負荷域では、吸気弁9のリフト量を相対的に大きくすると共に、その閉弁時期を吸気下死点以降の所定時期に設定する。このことで、中速・高負荷域とは異なり、過給効果も含みつつ十分に高い充填効率が実現し、トルクの向上が図られる。
前記のエンジンシステムは、走行用の電動モータを備えたハイブリッド車両に搭載することも可能である。前述の通り、ターボ過給機26は、低速域における過給性能が低いものの、ハイブリッド車両においては、低速域において電動モータを駆動することが可能であるため、低い過給性能を補うことが可能になる。