(1)エンジンの全体構成
図1及び図2は、本発明の実施形態に係るターボ過給エンジンを示している。本実施形態に係るエンジンは、走行用の動力源として車両に搭載される4サイクルの火花点火式多気筒エンジンである。具体的に、エンジンは、列状に並ぶ4つの気筒2A〜2Dを有する直列4気筒型のエンジン本体1と、エンジン本体1に空気を導入するための吸気通路10と、エンジン本体1で生成された排気ガスを排出するための排気通路30とを備えている。
エンジン本体1の各気筒2A〜2Dには、それぞれピストン(図示省略)が往復摺動可能に挿入されており、各ピストンの上方に燃焼室3が区画形成されている。燃焼室3では、後述するインジェクタ9から噴射される燃料と空気との混合気が燃焼し、その燃焼によって生成された排気ガスは、各気筒2A〜2Dの排気行程において、燃焼室3から排気通路30へと排出される。
エンジン本体1の上部(シリンダヘッド)には、吸気通路10から供給される空気を各気筒2A〜2Dの燃焼室に導入するための吸気ポート4と、吸気ポート4を開閉する吸気弁6と、各気筒2A〜2Dの燃焼室で生成された排気ガスを排気通路30に導出するための排気ポート5と、排気ポート5を開閉する排気弁7とが設けられている。
吸気弁6及び排気弁7は、それぞれ、カムシャフトやカム等を含む動弁機構(図示省略)により、エンジン本体1のクランク軸の回転に連動して開閉駆動される。吸気弁6及び排気弁7用の各動弁機構には、それぞれVVT16が組み込まれている。VVT16は、可変バルブタイミング機構(Variable Valve Timing Mechanism)の略称であり、吸気弁6及び排気弁7の開閉タイミングを可変的に設定するためのバルブ可変機構である。
エンジン本体1の上部(シリンダヘッド)には、燃焼室3に向けて燃料(ガソリンを含有する燃料)を噴射するインジェクタ9と、インジェクタ9から噴射された燃料と空気との混合気に火花放電による着火エネルギーを供給する点火プラグ8とが、各気筒2A〜2Dにつきそれぞれ1組ずつ設けられている。
点火プラグ8は、図外の点火回路からの給電に応じて各気筒2A〜2Dの混合気に対し順に着火エネルギーを供給する。本実施形態のような直列4気筒エンジンでは、第1気筒2A→第3気筒2C→第4気筒2D→第2気筒2Bの順に、180°CAずつずれたタイミングで点火が行われて、この順に排気行程等が実施される(後述する図10も参照)。なお、「°CA」とは、エンジンの出力軸であるクランク軸の回転角(クランク角)を表す。
吸気通路10は、各気筒2A〜2Dの吸気ポート4と連通する4つの独立吸気通路11と、各独立吸気通路11の上流側(吸入空気の流れ方向の上流側)に共通に設けられたサージタンク12と、サージタンク12の上流側に設けられた単管状の吸気管13とを有している。吸気管13には、吸入空気量を調節するための開閉可能なスロットル弁14と、後述するターボ過給機20により圧縮された空気を冷却するためのインタークーラ15とが設けられている。
排気通路30は、図1〜図3に示すように、各気筒2A〜2Dの排気ポート5と連通する複数の独立排気通路31,32,33と、各独立排気通路31,32,33の下流端部(排気ガスの流れ方向下流側の端部)が集合した排気集合部34と、排気集合部34の下流側に設けられた単管状の排気管35とを有している。排気管35には、三元触媒等の触媒が内蔵された触媒コンバータ36やサイレンサー(図示省略)等が設けられる。
前記のように、本実施形態では4つの気筒2A,2B,2C,2Dに対し3つの独立排気通路31,32,33が用意されている。これは、中央の独立排気通路32が、2番気筒2B及び3番気筒2Cに対し共通に使用可能なようにY字状に分岐した形状とされているからである。すなわち、独立排気通路32は、2番気筒2B及び3番気筒2Cの各排気ポート5から延びる2つの分岐通路部32a,32bと、各分岐通路部32a,32bが合流することで形成された単一の共通通路部32cとを有している。一方、1番気筒2A及び4番気筒2Dの各排気ポート5に接続される独立排気通路31,33については、分岐のない単管状に形成されている。以下では、単管状の独立排気通路31,33を、それぞれ「第1独立排気通路31」及び「第3独立排気通路33」といい、二股状に分岐した独立排気通路32を「第2独立排気通路32」ということがある。
ここで、本実施形態のような4サイクル4気筒エンジンでは、1番気筒2A→3番気筒2C→4番気筒2D→2番気筒2Bの順に点火が行われるので、二股状に形成された第2独立排気通路32の上流端部が接続される2番気筒2B及び3番気筒2Cは、排気順序(排気行程が実施される順序)が連続しない関係にある。このため、前記のように2番気筒2B及び3番気筒2Cに共通の独立排気通路32を接続した場合でも、これら両気筒2B,2Cからの排気ガスが同時に第2独立排気通路32に流れることはない。
単管状に形成された第1、第3独立排気通路31,33は、その間に位置する第2独立排気通路32の共通通路部32cに徐々に近接するように、気筒列方向の中央側を指向して延びている。そして、第1、第3独立排気通路31,33の各下流端部と第2独立排気通路32の下流端部(共通通路部32cの下流端部)とが、所定の角度(比較的浅い角度が望ましい)をもって合流することにより、各独立排気通路31〜33の下流側に前記排気集合部34が形成されている。
単管状の第1独立排気通路31及び第3独立排気通路33は、2番気筒2Bと3番気筒2Cとの間を通る中心線を挟んで対称の形状を有している。このため、第1独立排気通路31及び第3独立排気通路33は、互いに同一の通路長及び容積を有している。一方、二股状の第2独立排気通路32は、その分岐通路部32a,32b及び共通通路部32cの各通路長の合計が、第1、第2独立排気通路31,32のそれぞれの通路長と同一となるように形成されており、第1、第2独立排気通路31,32と同一の容積を有している。
図2及び図3に示すように、第1、第3独立排気通路31,33の各下流部と、第2独立排気通路32の下流部(共通通路部32c)とは、排気ガスの流れ方向に沿って延びる隔壁37によってそれぞれ2分されている。すなわち、第1、第3独立排気通路31,33の下流部、及び第2独立排気通路32の共通通路部32cは、それぞれ、隔壁37によって区画された2つの流路38,39を有している。
第1〜第3独立排気通路31,32,33内の各隔壁37は、独立排気通路31,32,33の途中部から下流端部(排気集合部34との接続部)までの範囲に亘って設けられている。言い換えると、各独立排気通路31,32,33は、流路38,39に2分された状態のまま(途中でその分割状態が解消されることなく)、排気集合部34に接続されている。
排気通路30には、その第1〜第3独立排気通路31,32,33内を通る排気ガスの流通面積を変更するための排気絞り弁40が設けられている。この排気絞り弁40は、第1〜第3独立排気通路31,32,33の各下流部に備わる前記流路38,39のうちの一方(本実施形態では図3の上側に位置する流路39)を開閉可能に遮断することにより、各独立排気通路31,32,33内の流通面積を変更する。なお、以下では、排気絞り弁40により開閉される流路39を「可変流路39」といい、もう一方の流路38を「常用流路38」という。
排気絞り弁40は、その詳細な図示は省略するが、第1〜第3独立排気通路31,32,33内のそれぞれの可変流路39を遮断するように設けられた3つの弁体と、各弁体同士を連結するシャフトと、シャフトを回転駆動する駆動源(電気モータ等)とを有している。このような構造の排気絞り弁40は、前記駆動源によるシャフト及び弁体の回転駆動に伴って、各独立排気通路31,32,33内の可変流路39を同時に開閉することが可能である。
本実施形態のエンジンには、エンジン本体1から排出される排気ガスのエネルギーにより駆動されるターボ過給機20が装備されている。
ターボ過給機20は、排気通路30の排気集合部34の直下流(排気集合部34と排気管35との間)に設けられたタービンハウジング21と、タービンハウジング21内に配設されたタービン22と、吸気管13内に配設されたコンプレッサ23と、これらタービン22及びコンプレッサ23を互いに連結する連結軸24とを有している。エンジンの運転中、エンジン本体1の各気筒2A〜2Dから排気ガスが排出されると、その排気ガスが独立排気通路31,32,33等を通じてターボ過給機20のタービンハウジング21内に流入することにより、タービン22が排気ガスのエネルギーを受けて高速で回転する。また、タービン22と連結軸24を介して連結されたコンプレッサ23がタービン22と同じ回転速度で駆動されることにより、吸気管13を通過する吸入空気が加圧されて、エンジン本体1の各気筒2A〜2Dへと圧送される。
排気通路30には、ターボ過給機20のタービン22をバイパスするためのバイパス通路42が、タービンハウジング21とその下流側の排気管35とを互いに連結するように設けられており、このバイパス通路42の途中部には、ウェストゲート弁43が開閉可能に設けられている。ウェストゲート弁43が開弁されると、エンジン本体1から排出された排気ガスの少なくとも一部がバイパス通路42を通過するので、タービン22に流入する排気ガスの量が減り、タービン22の駆動力が抑制される。
排気通路30の排気集合部34と吸気通路10のサージタンク12とは、高圧EGR通路51を介して互いに連結されている。つまり、高圧EGR通路51は、タービン22より上流の排気通路30と、コンプレッサ23より下流の吸気通路10とを連通している。この高圧EGR通路51は、エンジン本体1から排出された排気ガスの一部を吸気系に戻す、いわゆる排気還流(Exhaust Gas Recirculation)を行うための通路である。高圧EGR通路51には、EGRガス(吸気系に戻される排気ガス)を冷却するための高圧EGRクーラ52と、高圧EGR通路51を通過するEGRガス(第1のEGRガス)の流量を調節するための開閉可能な高圧EGR弁(第1のEGR弁)53とが設けられている。これらの高圧EGR通路51、高圧EGRクーラ52、及び高圧EGR弁53を含んで、高圧EGR装置50が構成されている。高圧EGR装置50は、本発明の第1のEGR装置に相当する。以下では、高圧EGR装置50を用いて行うEGRを「高圧EGR」と称する。
本実施形態に係るエンジンは、前記高圧EGR装置50に加えて、低圧EGR装置60を備えている。すなわち、触媒コンバータ36より下流の排気管35とコンプレッサ23より上流の吸気管13とは、低圧EGR通路61を介して互いに連結されている。つまり、低圧EGR通路61は、タービン22より下流の排気通路30と、コンプレッサ23より上流の吸気通路10とを連通している。この低圧EGR通路61は、高圧EGR通路51と同様、排気還流を行うための通路である。低圧EGR通路61には、EGRガスを冷却するための低圧EGRクーラ62と、低圧EGR通路61を通過するEGRガス(第2のEGRガス)の流量を調節するための開閉可能な低圧EGR弁(第2のEGR弁)63とが設けられている。これらの低圧EGR通路61、低圧EGRクーラ62、及び低圧EGR弁63を含んで、低圧EGR装置60が構成されている。低圧EGR装置60は、本発明の第2のEGR装置に相当する。以下では、低圧EGR装置60を用いて行うEGRを「低圧EGR」と称する。
(2)制御系
次に、図4を用いて、エンジンの制御系について説明する。本実施形態のエンジンは、その各部がECU(エンジン制御ユニット)70によって統括的に制御される。ECU70は、周知のとおり、CPU、ROM、RAM等から構成されるマイクロプロセッサであり、本発明のEGR制御手段、吸排気弁制御手段、及びウェストゲート弁制御手段に相当する。
ECU70には、各種センサからの情報が入力される。例えば、エンジン又は車両には、エンジンの回転速度、つまりエンジン本体1のクランク軸の回転速度を検出するためのエンジン速度センサSN1と、エンジンの冷却水の温度を検出するためのエンジン水温センサSN2と、吸気管13を通過する吸入空気の流量を検出するためのエアフローセンサSN3と、ドライバーにより操作される図外のアクセルペダルの開度(アクセル開度)を検出するためのアクセル開度センサSN4とが設けられており、これらの各センサで検出された情報が電気信号としてECU70に逐次入力されるようになっている。
ECU70は、前記各センサ(SN1〜SN4等)からの入力信号に基づいて種々の演算等を実行しつつ、エンジンの各部を制御する。すなわち、ECU70は、点火プラグ8、インジェクタ9、吸排気弁用のVVT16,16、スロットル弁14、排気絞り弁40、ウェストゲート弁43、高圧EGR弁53、及び低圧EGR弁63と電気的に接続されており、前記演算の結果等に基づいて、これらの機器にそれぞれ駆動用の制御信号を出力する。
(3)運転領域に応じた制御
次に、ECU70が行うエンジン制御の具体例について、図5の制御マップを参照しつつ説明する。
図5において、WOTは、エンジンの全負荷ライン(アクセル全開のときのエンジントルク)を表している。本実施形態では、エンジンにターボ過給機20が備わっているので、エンジンの全負荷ラインWOTは、自然吸気のとき(過給なしのとき)のエンジントルクの上限である自然吸気ライン(図示せず)よりも高く設定されている。
全負荷ラインWOT上に存在するポイントICは、いわゆるインターセプトポイントである。このインターセプトポイントICでは、ターボ過給機20のコンプレッサ23による過給圧が、エンジンや過給機20を保護する観点から予め定められた上限値に達するので、インターセプトポイントICより高回転側では、前記過給圧が上限値を超えて上昇するのを防止するための過給圧制御が実行される。なお、以下では、インターセプトポイントICに対応するエンジン回転速度Niを「インターセプト回転速度Ni」と称する。
図5のマップによると、インターセプト回転速度Niよりも所定速度低い回転速度No(以下「中間回転速度No」と称する)が設定され、エンジンの運転領域において、前記中間回転速度Noよりも低回転側の速度域における高負荷側(トルクの高い側)に第1領域R1が設定されている。一方、中間回転速度Noよりも高回転側の速度域における高負荷側に第2領域R2が設定されている。そして、これらの第1、第2領域R1,R2を除いた残余の領域に第3領域R3が設定されている。
なお、第2領域R2内に第4領域R4が設定されている。この第4領域R4は、第2領域R2内において最も高回転かつ高負荷側の領域である。以下、特に断らない限り、第2領域R2というときは、この第4領域R4を含めていう。
エンジンの運転中、ECU70は、エンジン速度センサSN1、エアフローセンサSN3、及びアクセル開度センサSN4等から得られる情報に基づいて、エンジンが図5の制御マップにおけるどの領域で運転されているかを逐次判断し、その判断結果に応じて、各領域毎に、吸気弁6、排気弁7、排気絞り弁40、ウェストゲート弁43、高圧EGR弁47、及び低圧EGR弁53を制御する。
詳しくは後述するが、本実施形態においては、ECU70は、この図5に示す制御マップの全領域R1,R2,R3,R4において、高圧EGR弁47及び低圧EGR弁53を制御することにより、EGRを行う。
次に、本実施形態において図5に示す制御マップが設定された経緯を説明する。
まず、図6において、実線(高圧EGR)は、エンジンの運転領域の全域で高圧EGRを行ったときのエンジンの全負荷ラインを表し、鎖線(EGR無し)は、EGRを行わなかったときのエンジンの全負荷ラインを表す。なお、図6には、高圧EGRを行ったときのインターセプトポイントIC及びインターセプト回転速度Niが併せて示されている。図示したように、高圧EGRを行ったときは、行わなかったときに比べて、高速域でトルクが向上し、低速域でトルクが低下している。
高速域でトルクが向上する理由は、高圧EGRでは、EGRガス(第1のEGRガス)がタービン22より上流の排気通路30から抜き出され、コンプレッサ23より下流の吸気通路10に還流されるので、タービン22より上流の排気圧が低減され、コンプレッサ23より下流の吸気圧が上昇して、ポンピングロスが減少すること、低温のEGRガスが燃焼室に導入されることによって燃焼温度が低下し、ノッキングが抑制されて点火時期が進角できること、排気ガス温度の低下により空気量が増量すること等である。なお、ノッキングが抑制されることにより、点火時期の進角が可能になり、相対的に少ない燃料でも十分なトルクが得られて、燃費の改善も図られる。
低速域でトルクが低下する理由は、EGRにより新気量が低下すること、新気量の低下及びタービン22より上流の排気圧の低下により過給圧が低下すること等である。
また、図7において、破線(低圧EGR)は、エンジンの運転領域の全域で低圧EGRを行ったときのエンジンの全負荷ラインを表し、実線(高圧EGR)は、エンジンの運転領域の全域で高圧EGRを行ったときのエンジンの全負荷ラインを表す。なお、図7には、低圧EGRを行ったときのインターセプトポイントα及びインターセプト回転速度No(前記中間回転速度Noに等しい)が併せて示されている。図示したように、低圧EGRを行ったときは、高圧EGRを行ったときに比べて、低速域でトルクが向上している。つまり、低圧EGRを行ったときのエンジンの全負荷ラインは、高圧EGRを行ったときのエンジンの全負荷ラインにおける前記低速域でのトルクの低下を補填することができる。それは、次のような理由による。
図8は、ターボ過給機のコンプレッサの特性を示す性能曲線のグラフであり、低圧EGRの作用を説明するためのものである。
図8において、縦軸はコンプレッサの圧力比、横軸はコンプレッサの吐出流量である。この図8のグラフにおいて、各ラインSL、RL、CLは、それぞれ、サージライン、回転限界ライン、チョークラインを表しており、これらのラインで囲まれた領域がコンプレッサの運転可能領域である。また、この運転可能領域内に図示された等高線のような曲線群は、コンプレッサの効率が等しい運転ポイントを結んだ等効率線であり、領域の中央側に位置する曲線ほど効率が高くなることを表している。
図8では、ある特定の条件でエンジンを運転したときのコンプレッサの運転ポイントの変化を作動ラインとして表している。なお、作動ラインは、その途中から圧力比が頭打ちになっている(横向きの直線に移行している)が、これは、エンジンや過給機を保護する観点から設けられた上限値に過給圧が達したために過給圧制御(例えばウェストゲート弁を開く等する制御)が実行されたことを示している。これについては後述する。
いま、EGR無しで、コンプレッサの吐出流量及びコンプレッサの圧力比がポイントP1にあるとする。このコンプレッサの運転ポイントP1は、前記流量及び前記圧力比が比較的小さいポイントである。このとき、エンジンの運転状態は低速高負荷域、すなわち図5の第1領域R1にある。
この状態で低圧EGRを行うと、低圧EGRではEGRガス(第2のEGRガス)はコンプレッサ23より上流の吸気通路10に還流されるので、コンプレッサ23の仕事量が増え、コンプレッサ23の吐出流量が増大する(図中、吐出流量の増分を符号ΔQで示した)。そのため、過給圧ひいてはコンプレッサ23の圧力比が上り、エンジンの運転状態が同じでも、コンプレッサ23の運転ポイントは当初のポイントP1から作動ライン上の別のポイントP2に移動する。このポイントP2は、当初のポイントP1よりも吐出流量及び圧力比が増大したポイントである。しかも、低圧EGRではEGRガス(第2のEGRガス)はタービン22より下流の排気通路30から抜き出されるので、タービン22の駆動力は低下しない。したがって、前記ポイントP2は、図8から明らかなように、当初のポイントP1よりもコンプレッサ効率の向上したところに位置する。そのため、過給効率が改善し、過給量が効率よく高められる。以上により、低圧EGRを行うことにより低速高負荷域(図5の第1領域R1)のトルクが向上する。
なお、図8において、ポイントP3は、過給圧が上限値を超えて上昇するのを防止するための過給圧制御が開始されるポイントである。このポイントP3よりも流量が大きくなると、例えばウェストゲート弁43が開かれて、タービン22より上流の排気圧が低減され、過給圧が上限値を超えないように一定に維持される。その場合、過給圧を一定に維持するための排気圧の低減量は少なくて済むので、前記ポイントP3よりも流量が大きい側では、過給圧に対する排気圧の増分が次第に大きくなっていく。このことは、ポンピングロスの増大を招き、燃費性能の悪化につながる。したがって、低圧EGRは、低速域のトルク向上作用を有するものの、前記ポイントP3よりも流量が小さい側(図中、符号ArLoで示した側)で行うことが好ましい。
ここで、図6に、インターセプトポイントICを起点として高速側かつ低トルク側に延びるラインX5を示した。このラインX5は、エンジンの運転領域の全域で高圧EGRを行ったときに、これより高速側で過給圧制御が実行されることを示すラインである。したがって、以下では、このラインを「高圧EGR時の過給圧制御開始ラインX5」と称する。同様に、図7に、インターセプトポイントαを起点として高速側かつ低トルク側に延びるラインX4を示した。このラインX4は、エンジンの運転領域の全域で低圧EGRを行ったときに、これより高速側で過給圧制御が実行されることを示すラインである。したがって、以下では、このラインを「低圧EGR時の過給圧制御開始ラインX4」と称する。そして、図8を参照して説明したように、低圧EGRは、過給圧制御が開始されるポイントP3よりも流量が小さい側ArLoで行うことが好ましい。このことを図7の低圧EGR時の過給圧制御開始ラインX4に当てはめて考えると、低圧EGR時の過給圧制御開始ラインX4より高速側の領域では低圧EGRを行わないことが好ましいということができる。
以上を総合し、本実施形態においては、図6に実線で示した高圧EGRを行ったときのエンジンの全負荷ラインと、図7に破線で示した低圧EGRを行ったときのエンジンの全負荷ラインとを重ね合わせることにより、図5に示す制御マップを設定したものである。
ここで、本実施形態では、高圧EGRを行ったときの全負荷ラインと低圧EGRを行ったときの全負荷ラインとの交点は、低圧EGRを行ったときのインターセプトポイントαと一致している。
その結果、図5に示したWOTのうち、前記インターセプトポイントαより低速側のラインY1は、図7に示した低圧EGRのときの全負荷ラインのうちの前記インターセプトポイントαより低速側のラインX1に相当し、図5に示したWOTのうち、前記インターセプトポイントαより高速側のラインY2は、図6に示した高圧EGRのときの全負荷ラインのうちの前記交点より高速側のラインX2に相当する。
また、図5に示した第1領域R1と第3領域R3との境界ラインY3は、図6に示した高圧EGRのときの全負荷ラインのうちの前記交点より低速側のラインX3に相当し、図5に示した第2領域R2と第3領域R3との境界ラインY4は、図7に示した低圧EGR時の過給圧制御開始ラインX4に相当し、図5に示したラインY5は、図6に示した高圧EGR時の過給圧制御開始ラインX5に相当する。
以下、各領域毎にECU70が行う制御の内容を分説する。
[i]第1領域R1
第1領域R1は、図5に示す制御マップが設定された経緯から分かるように、高圧EGRではトルクが確保できず、低圧EGRでトルクが確保できる領域である。したがって、この第1領域R1での運転時、ECU70は次のような制御を実行する。
・高圧EGR弁53を閉じ、低圧EGR弁63を開く。
・排気絞り弁40を閉じる(独立排気絞り制御の実行)。
・吸排気弁6,7のバルブオーバーラップ期間を形成又は拡大する。
・ウェストゲート弁43を閉じる。
第1領域R1では、高圧EGRが停止され、低圧EGRが行われる。すなわち、低圧EGR装置60による第2のEGRガスの流量が高圧EGR装置50による第1のEGRガスの流量よりも多くなる。より具体的には、EGRガスは全て低圧EGR装置60による第2のEGRガスとなり、高圧EGR装置50による第1のEGRガスの流量はゼロとなる。そのため、図8を参照して説明したように、トルクが必要な高負荷域において、低速側の第1領域R1で、過給効率が改善し、トルクが向上する。
また、第1領域R1では、排気絞り弁40を閉じる独立排気絞り制御(排気絞り弁40を閉じて独立排気通路31,32,33内の流通面積を減少させる制御)が実行されることにより、第1〜第3独立排気通路31,32,33内のそれぞれの可変流路39が遮断される。このことは、各独立排気通路31,32,33内の流通面積が実質的に減少したことを意味する。すると、エンジン本体1の各気筒2A〜2Dから排出された排気ガスは、各独立排気通路31,32,33内の常用流路38のみを通って、高い流速を保ったまま排気集合部34及びタービン22へと流入する。
また、第1領域R1では、ウェストゲート弁43が閉じられることにより、各気筒2A〜2Dから排出された排気ガスは、全てターボ過給機20のタービン22に流入し、コンプレッサ23による過給が十分行われる。
また、第1領域R1では、吸気弁6及び排気弁7用の各VVT16が駆動されることにより、吸気弁6及び排気弁7の双方が開くバルブオーバーラップ期間が形成又は拡大される。すなわち、図9及び図10に示すように、各気筒2A〜2Dの排気行程の後半から吸気行程の前半にかけた比較的長い期間OLに亘って、吸気弁6及び排気弁7の双方が開かれるように、吸排気弁6,7の開閉タイミングが設定される。前記期間、すなわちバルブオーバーラップ期間OLは、この第1領域R1において、吸気ポート4内の圧力(吸気圧)が排気ポート5内の圧力(排気圧)よりも高くなる時期と重なり合う。なお、図10には、排気弁7のリフトカーブをEX、吸気弁6のリフトカーブをINとして表記している。
このように、過給圧が排気圧以上に高まる第1領域R1でバルブオーバーラップ期間OLが形成又は拡大されることにより、このバルブオーバーラップ期間OLの間は、燃焼室3を介して吸気ポート4から排気ポート5へと吹き抜ける吸気の流れ(吹き抜け流)が形成される。この吹き抜け流は、燃焼室3に残っている既燃ガス(残留ガス)を排気ポート5へ押し出す、つまり掃気を促進する役割を果たす。
[ii]第2領域R2
第2領域R2(第4領域を含めていう)は、図5に示す制御マップが設定された経緯から分かるように、ポンピングロスの増大を招くため、低圧EGRを行わないことが好ましい領域である。したがって、この第2領域R2での運転時、ECU70は次のような制御を実行する。
・低圧EGR弁63を閉じ、高圧EGR弁53を開く。
・排気絞り弁40を開く(独立排気絞り制御の非実行)。
・ウェストゲート弁43を閉じる(第4領域R4では開く)。
第2領域R2では、低圧EGRが停止され、高圧EGRが行われる。すなわち、高圧EGR装置50による第1のEGRガスの流量が低圧EGR装置60による第2のEGRガスの流量よりも多くなる。より具体的には、EGRガスは全て高圧EGR装置50による第1のEGRガスとなり、低圧EGR装置60による第2のEGRガスの流量はゼロとなる。そのため、図8を参照して説明したように、低圧EGRを行うと発生するポンピングロスの増大が回避され、代わりに、タービン22より上流の排気通路30から抜き出された第1のEGRガスがコンプレッサ23より下流の吸気通路10に還流されるので、ポンピングロスが減少する。
また、第2領域R2で高圧EGR装置50による第1のEGRガスの流量が低圧EGR装置60による第2のEGRガスの流量よりも多くなることにより、図6を参照して説明したように、トルクが必要な高負荷域において、高速側の第2領域R2で、ポンピングロスの減少、ノッキングの抑制、排気ガス温度の低下等により、トルクが向上する。また、ノッキングが抑制されることにより、点火時期の進角が可能になり、相対的に少ない燃料でも十分なトルクが得られて、燃費の改善も図られる。
また、第2領域R2では、エンジン回転速度が比較的高く排気ガスの流量が多いため、これに対応すべく排気絞り弁40が開かれて、第1〜第3独立排気通路31,32,33内のそれぞれの可変流路39が開放される。これにより、各気筒2A〜2Dからの排気ガスは、各独立排気通路31,32,33内の常用流路38及び可変流路39の双方を通ってスムーズに下流側へと排出される。
また、第4領域R4以外の第2領域R2では、ウェストゲート弁43が閉じられることにより、各気筒2A〜2Dから排出された排気ガスは、全てターボ過給機20のタービン22に流入し、コンプレッサ23による過給が十分行われる。
一方、第4領域R4では、ウェストゲート弁43が開かれることにより過給圧制御が実行され、コンプレッサ23による過給圧がエンジンやターボ過給機20を保護する観点から設けられた上限値を超えて上昇することが防止される。
[iii]第3領域R3
第3領域R3は、図5に示す制御マップが設定された経緯から分かるように、高圧EGR及び低圧EGRのいずれも行うことができる領域である。したがって、この第3領域R3での運転時、ECU70は次のような制御を実行する。
・高圧EGR弁53及び低圧EGR弁63の双方を開く。
・排気絞り弁40を開く(独立排気絞り制御の非実行)。
・ウェストゲート弁43を閉じる。
すなわち、第3領域R3では、低圧EGR及び高圧EGRの双方が行われる。これにより、トルクが少なくて済む部分負荷域において、高圧EGR及び低圧EGRの特徴(レスポンスやEGRガスの温度等)を考慮し、状況に応じて、着火性の確保、排気ガス温度及び排気圧の過度の上昇の抑制、燃焼性の向上と燃費の向上との同時達成等を図ることができる。
なお、ECU70は、第3領域R3において、第1領域R1に近い領域ほど低圧EGR装置60による第2のEGRガスの流量が高圧EGR装置50による第1のEGRガスの流量よりも多くなり、第2領域R2に近い領域ほど高圧EGR装置50による第1のEGRガスの流量が低圧EGR装置60による第2のEGRガスの流量よりも多くなるように、高圧EGR弁53及び低圧EGR弁63を制御する。図5において、第3領域R3に示した破線及び矢印は、この制御の内容を模式的に示したものである。
また、第3領域R3では、排気絞り弁40が開かれて、第1〜第3独立排気通路31,32,33内のそれぞれの可変流路39が開放される。これにより、各気筒2A〜2Dからの排気ガスは、各独立排気通路31,32,33内の常用流路38及び可変流路39の双方を通ってスムーズに下流側へと排出される。
また、第3領域R3では、ウェストゲート弁43が閉じられることにより、各気筒2A〜2Dから排出された排気ガスは、全てターボ過給機20のタービン22に流入し、コンプレッサ23による過給が十分行われる。
(4)作用等
本実施形態に係るエンジンは、排気通路30を通過する排気ガスのエネルギーにより駆動されるタービン22と、タービン22により駆動されて吸気通路10内の空気を加圧するコンプレッサ23とを含むターボ過給機20を備えたターボ過給エンジンであって、次のような特徴的構成を有している。
まず、タービン22より上流の排気通路30とコンプレッサ23より下流の吸気通路10とを連通する高圧EGR通路51と、高圧EGR通路51を通過する第1のEGRガスの流量を調節する高圧EGR弁53とを含む第1のEGR装置50が備えられている。
また、タービン22より下流の排気通路30とコンプレッサ23より上流の吸気通路10とを連通する低圧EGR通路61と、低圧EGR通路61を通過する第2のEGRガスの流量を調節する低圧EGR弁63とを含む第2のEGR装置60が備えられている。
また、エンジンの運転領域において、低速高負荷側の第1領域R1では第2のEGRガスの流量が第1のEGRガスの流量よりも多くなり、高速高負荷側の第2領域R2では第1のEGRガスの流量が第2のEGRガスの流量よりも多くなるように、高圧EGR弁53及び低圧EGR弁63を制御するECU70が備えられている。
この構成によれば、トルクが必要な高負荷域において、低速側の第1領域R1では、低圧EGR装置60による第2のEGRガスの流量が高圧EGR装置50による第1のEGRガスの流量よりも多くされる。より具体的には、本実施形態では、高圧EGR装置50による第1のEGRガスの流量がゼロとされ、吸気通路10には全て低圧EGR装置60による第2のEGRガスが還流される。これにより、低速高負荷域で過給効率が改善し、トルクが向上する。すなわち、図8を参照して説明したように、低圧EGR装置60による第2のEGRガスは、コンプレッサ23より上流の吸気通路10に還流されるので、コンプレッサ23の仕事量が増え、コンプレッサ23の吐出流量が増大する。そのため、過給圧ひいてはコンプレッサ23の圧力比が上り、エンジンの運転状態が同じでも、コンプレッサ23の運転ポイントは当初ポイントP1からコンプレッサ23の吐出流量及び圧力比が増大したポイントP2に移動する。しかも、低圧EGR装置60による第2のEGRガスは、タービン22より下流の排気通路30から抜き出されるので、タービン22の駆動力は低下しない。したがって、コンプレッサ23の運転ポイントP2はコンプレッサ効率の向上したところに位置し、過給効率が改善し、過給量が効率よく高められる。以上により、低速高負荷側の第1領域R1で第2のEGRガスの流量を相対的に多くすることにより、過給効率が改善し、トルクが向上する。
また、前記構成によれば、トルクが必要な高負荷域において、高速側の第2領域R2では、高圧EGR装置50による第1のEGRガスの流量が低圧EGR装置60による第2のEGRガスの流量よりも多くされる。より具体的には、本実施形態では、低圧EGR装置60による第2のEGRガスの流量がゼロとされ、吸気通路10には全て高圧EGR装置50による第1のEGRガスが還流される。これにより、高速高負荷域でトルクが向上する。すなわち、図6を参照して説明したように、高圧EGR装置50による第1のEGRガスは、タービン22より上流の排気通路30から抜き出され、コンプレッサ23より下流の吸気通路10に還流されるので、タービン22より上流の排気圧が低減され、コンプレッサ23より下流の吸気圧が上昇する。その結果、ポンピングロスが減少するので、高速高負荷側の第2領域R2で第1のEGRガスの流量を相対的に多くすることにより、トルクが向上する。さらに、低温のEGRガスが燃焼室に導入されることによって燃焼温度が低下し、ノッキングが抑制されて点火時期が進角できること、排気ガス温度の低下により空気量が増量すること等によっても、高速高負荷側の第2領域R2でトルクが向上する。なお、ノッキングが抑制されることにより、点火時期の進角が可能になり、相対的に少ない燃料でも十分なトルクが得られて、燃費の改善も図られる。
以上により、本実施形態によれば、トルクが必要な高負荷域で高圧EGR装置50と低圧EGR装置60とがトルク向上の観点から良好に使い分けられたターボ過給エンジンが提供される。
特に、本実施形態では、ECU70は、第1領域R1では低圧EGR弁63を開弁すると共に高圧EGR弁53を閉弁し、第2領域R2では高圧EGR弁53を開弁すると共に低圧EGR弁63を閉弁する。
この構成によれば、低速高負荷側の第1領域R1では低圧EGR装置60による第2のEGRガスのみ吸気通路10に還流し、高速高負荷側の第2領域R2では高圧EGR装置50による第1のEGRガスのみ吸気通路10に還流するため、両領域R1,R2において前述のトルク向上作用がより一層大きくなる。
次に、本実施形態では、ECU70は、エンジンの運転領域において、第1領域R1及び第2領域R2を除く第3領域R3では、高圧EGR装置50及び低圧EGR装置60の双方を用いてEGRを行う。
この構成によれば、エンジンの運転領域において、トルクが少なくて済む低〜中負荷側の第3領域R3、すなわち部分負荷域では、高圧EGR装置50及び低圧EGR装置60の双方を用いてEGRが行われる。例えば、高圧EGR装置50を用いてEGRが行われたときは、第1のEGRガスは、エンジン本体に近い部位で排気通路30から抜き出され吸気通路10に還流されるので、比較的高温の状態で燃焼室3に導入される。そのため、高圧EGR装置50を用いてEGRを行うことにより、着火性を確保することができる。一方、低圧EGR装置60を用いてEGRが行われたときは、第2のEGRガスは、エンジン本体から遠い部位で排気通路30から抜き出され吸気通路10に還流されるので、比較的低温の状態で燃焼室3に導入される。そのため、低圧EGR装置60を用いてEGRを行うことにより、排気ガス温度及び排気圧の過度の上昇を抑制することができる。そして、これらを組み合わせて行うことにより、燃焼性の向上と、ポンピングロス低減による燃費の向上とを図ることができる。高圧EGR装置50によるEGRガスの流量と低圧EGR装置60によるEGRガスの流量との比率は、高圧EGR及び低圧EGRの特徴(レスポンスやEGRガスの温度等)を考慮し、状況に応じて、決定すればよい。
次に、本実施形態では、ECU70は、第3領域R3では、低速高負荷側の第1領域R1に近い領域ほど低圧EGR装置60による第2のEGRガスの流量が高圧EGR装置50による第1のEGRガスの流量よりも多くなり、高速高負荷側の第2領域R2に近い領域ほど高圧EGR装置50による第1のEGRガスの流量が低圧EGR装置60による第2のEGRガスの流量よりも多くなるように、高圧EGR弁53及び低圧EGR弁63を制御する。
この構成によれば、第3領域R3内でエンジンの運転状態が第1領域R1又は第2領域R2に近づくとき及びエンジンの運転状態が第3領域R3から第1領域R1又は第2領域R2に移行するとき等の過渡時のEGR制御の応答性が向上する。
次に、本実施形態では、ECU70は、第1領域R1において、吸気ポート4内の圧力が排気ポート5内の圧力よりも高くなる時期に吸気弁6及び排気弁7の双方が開くバルブオーバーラップ期間OLが形成又は拡大されるように、気筒2A〜2Dの吸気ポート4を開閉する吸気弁6及び排気ポート5を開閉する排気弁7を制御する。
この構成によれば、低速高負荷側の第1領域R1で、バルブオーバーラップ期間OL中に、吸気側から排気側へ燃焼室3を吹き抜ける吸気の吹き抜け流が発生する。そのため、気筒2A〜2D内の残留ガスを取り除く掃気効果が得られ、ノッキングが抑制されて点火時期が進角できる。その結果、第1領域R1における前述のトルク向上作用がさらに増長される。また、ノッキングが抑制されることにより、点火時期の進角が可能になり、相対的に少ない燃料でも十分なトルクが得られて、燃費の改善も図られる。次に、この点につきさらに詳しく説明する。
すなわち、本実施形態では、排気ガスの流量が所定値以下となる運転領域(第1領域R1、第2領域R2)で、低圧EGR弁63が開かれ、タービン22を通過した後の排気ガスの一部がEGRガスとしてコンプレッサ23上流の吸気通路10に戻される。すると、コンプレッサ23には、EGRガスと新気とが混じった吸気が流入するので、コンプレッサ23が圧送する吸気の流量が増大する。このことは、コンプレッサ23の圧力比の上昇、つまり過給圧の上昇につながるので、それほど負荷が高くない条件でも、過給圧を排気圧以上の値まで上昇させることが可能になる。
そして、高負荷の第1領域R1で吸排気弁6,7のバルブオーバーラップ期間OLが形成又は拡大されるので、過給圧が排気圧以上に高まっていることとの相乗効果により、各気筒2A〜2Dの吸気ポート4から排気ポート5へと吸気が吹き抜ける吹き抜け流が十分な強さで生成される(図2の矢印Wi,We参照)。このような吹き抜け流は、各気筒2A〜2D内の残留ガスを取り除く掃気効果を発揮するので、各気筒2A〜2Dでは、高負荷域での運転であるにも拘らず、ノッキングが起き難い環境がつくり出される。このことは、点火時期を進角することを可能にするので、相対的に少ない燃料でも十分な出力が得られるようになり、燃費の改善につながる。
特に、本実施形態では、エンジンの排気通路30が、1つの気筒(2A又は2D)の排気ポート5に上流端部が接続された第1、第3独立排気通路31,33と、排気順序が連続しない複数の気筒(2B及び2C)の各排気ポート5に上流端部が接続された第2独立排気通路32と、これらの各独立排気通路31,32,33の下流端部同士が1つに集合した排気集合部34と、独立排気通路31,32,33内を通る排気ガスの流通面積を可変的に設定する排気絞り弁40とを有している。そして、ECU70は、第1領域R1での運転時に、吸排気弁6,7のバルブオーバーラップ期間OLを形成又は拡大することに加えて、排気絞り弁40を閉じて独立排気通路31,32,33内の流通面積を減少させる独立排気絞り制御を実行する。このような構成によれば、排気ガスのブローダウン(排気弁7の開弁直後に生じる高圧、高速の排気の流れ)に伴って生じるいわゆるエゼクタ効果により、より確実に残留ガスの掃気を図ることができる。なお、エゼクタ効果とは、高速の噴流の周囲に発生する負圧を利用して被駆動流体を吸引する作用のことである。
図9は、ある特定の気筒のクランク角を横軸にとり、各気筒2A〜2Dから排出された排気ガスの圧力(排気集合部34での測定値)を縦軸にとったグラフである。このグラフにおいて、横軸のBDC,TDC,BDC…は、それぞれ前記特定気筒の下死点及び上死点を示しており、BDCからTDC又はTDCからBDCまでの間隔はクランク角にして180°CAである。本実施形態に係るエンジンは、4気筒エンジンであり、気筒2A〜2D間の点火間隔が180°CAであるため、これに合わせて、各気筒2A〜2Dの排気弁7を開いた直後に発生する排気ガスのブローダウンも180°CA毎に発生する。このため、前記特定気筒のBDC,TDC,BDC…と前記ブローダウンの発生位置とは、概ね一致している。
図9のグラフにおいて、前記特定気筒が排気上死点(TDC)の近傍にあるとき、この特定気筒の次に排気行程を迎える後続気筒からは、ブローダウンによって高速の排気ガスが噴出される(図2の矢印We0参照)。このブローダウンガスは、排気集合部34に流入したときにその周囲に強い負圧を発生させる。特に、第1領域R1では、独立排気通路31,32,33内の流通面積を減少させる独立排気絞り制御が実行されるので、各気筒2A〜2Dから排出されるブローダウンガスの流速がより速められ、より強い負圧が生成される。この強い負圧は、独立排気通路(31,32,33のいずれか)を遡って前記特定気筒の排気ポート5に作用し、排気ポート5の圧力を下げるので(図9に破線で示した波形を参照)、その排気ポート5を通じて排気ガスを吸い出そうとする(エゼクタ効果)。
しかもこのとき、第1領域R1では、このような強いエゼクタ効果が得られる上に、前述したように、吸排気弁6,7のバルブオーバーラップ期間OLが形成又は拡大されているので、各気筒2A〜2Dのバルブオーバーラップ期間OL中、吸気ポート4の圧力(つまり過給圧)と排気ポート5の圧力との間には、図9に示すような大きな落差ΔHが生まれる。この圧力差ΔHは、吸気ポート4から排気ポート5へと吸気が吹き抜ける吹き抜け流(図2の矢印Wi,We参照)を強め、残留ガスの掃気をより一層促進させる。
さらに、第1領域R1では、独立排気絞り制御に伴い、ブローダウンによる排気圧力のピーク値(ブローダウンピーク)がより高められる。これは、独立排気絞り制御を実行することで、各独立排気通路31,32,33内の可変流路39が遮断されて排気ガスの流通面積が縮小し、排気ガスが短期間に集中的に流れるようになったからである。そして、このことは、過給圧を高める効果を発揮する(動圧過給効果)。
ここで、1回の排気行程当たりの有効な排気時間(ブローダウン期間)は、排気弁7の開弁直後に現れる排気圧力のピーク値(ブローダウンピーク)が高いほど、短くなる。一方で、動圧過給による効果は、ブローダウンピークに対して二次曲線的な特性を有することが知られている。そのため、本実施形態のように、独立排気絞り制御によってブローダウンピークを高めた場合には、独立排気絞り制御を実行しなかった場合と比べて、ブローダウン期間の短縮による目減り分を差し引いても、タービン22が排気ガスから受け取る平均的な駆動力が増大することになる。本実施形態では、このような動圧過給効果によってターボ過給機20の過給能力をより高めることができるので、負荷の高い第1領域R1で低圧EGRを実行しながらも、高い過給圧により十分な新気量を確保して、エンジントルクを高めることができる。
次に、本実施形態では、ECU70は、第2領域R2においてさらに高速高負荷側に設定された第4領域R4でターボ過給機20のウェストゲート弁43を開く。
この構成によれば、高速高負荷側の第2領域R2内のさらに高速高負荷側に第4領域R4が設定され、この第4領域R4でウェストゲート弁43が開かれることによりタービン22の駆動力が低下する。そのため、例えば、ターボ過給機20のコンプレッサ23による過給圧がエンジンや過給機20を保護する観点から設けられた上限値を超えて上昇するのを防止する過給圧制御が第4領域R4において実行される。
なお、前記実施形態では、第1領域R1での低圧EGR装置60による第2のEGRガスの流量と高圧EGR装置50による第1のEGRガスの流量との比率を100:0にしたが、第2のEGRガスの流量が第1のEGRガスの流量よりも多い限り、これに限定されない。同様に、前記実施形態では、第2領域R2での高圧EGR装置50による第1のEGRガスの流量と低圧EGR装置60による第2のEGRガスの流量との比率を100:0にしたが、第1のEGRガスの流量が第2のEGRガスの流量よりも多い限り、これに限定されない。
また、前記実施形態では、第1〜第3独立排気通路31,32,33とタービンハウジング21との間に別体の排気集合部34を設けたが、別体の排気集合部34を省略して、各独立排気通路31,32,33の下流端部をタービンハウジング21に直接接続するようにしてもよい。この場合は、タービンハウジング21の上流部(タービン22よりも上流側に位置する部分)が、排気集合部として機能することになる。
また、前記実施形態では、2番気筒2B及び3番気筒2Cに二股状に分岐した第2独立排気通路32を接続するとともに、1番気筒2A又は4番気筒2Dに単管状の第1、第3独立排気通路31,33を接続することにより、4つの気筒2A〜2Dに対し3つの独立排気通路31,32,33を設けるようにしたが、第1、第3独立排気通路31,33と同様の単管状の排気通路を全ての気筒2A〜2Dに接続することにより、気筒2A〜2Dと同数の4つの独立排気通路を設けるようにしてもよい。
また、前記実施形態では、吸気弁6及び排気弁7用の各動弁機構に、バルブ開閉タイミングを変更するためのVVT16をそれぞれ設けたが、バルブオーバーラップ期間OLを運転条件に応じて変更できればよく、吸気弁6及び排気弁7のいずれか一方の動弁機構にのみVVT16を設けてもよい。
また、前記実施形態では、低圧EGR通路61を排気通路30の触媒コンバータ36の下流に接続したが、タービン22の下流である限り、前記触媒コンバータ36の上流に接続してもよい。
また、前記実施形態では、第1領域R1において掃気効果を高めるために、エゼクタ効果とバルブオーバーラップを利用したり、さらに独立排気絞り制御を実行したが、これに限らず、例えば、エキゾーストマニホルドからタービンハウジングへの流路が2つに分割されて多気筒からの排気エネルギーの干渉が低減されたツインスクロールターボとバルブオーバーラップを利用したり、あるいは連続可変バルブリフト装置(CVVL:Continuously Variable Valve Lifting Mechanism)とバルブオーバーラップを利用することによっても掃気効果を高めることが可能である。