以下、圧縮着火式エンジンの制御ロジックを設計する方法に関する実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の説明は、エンジン、及び、制御ロジックの設計方法の一例である。
図1は、圧縮着火式のエンジンの構成を例示する図である。図2は、エンジンの燃焼室の構成を例示する図である。図3は、燃焼室及び吸気系の構成を例示する図である。尚、図1における吸気側は紙面左側であり、排気側は紙面右側である。図2及び図3における吸気側は紙面右側であり、排気側は紙面左側である。図4は、エンジンの制御装置の構成を例示するブロック図である。
エンジン1は、燃焼室17が吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程を繰り返すことにより運転する4ストロークエンジンである。エンジン1は、四輪の自動車に搭載されている。エンジン1が運転することによって、自動車は走行する。エンジン1の燃料は、この構成例においてはガソリンである。燃料は、少なくともガソリンを含む液体燃料であればよい。燃料は、例えばバイオエタノール等を含むガソリンであってもよい。
(エンジンの構成)
エンジン1は、シリンダブロック12と、その上に載置されるシリンダヘッド13とを備えている。シリンダブロック12の内部に複数のシリンダ11が形成されている。図1及び図2では、一つのシリンダ11のみを示す。エンジン1は、多気筒エンジンである。
各シリンダ11内には、ピストン3が摺動自在に内挿されている。ピストン3は、コネクティングロッド14を介してクランクシャフト15に連結されている。ピストン3は、シリンダ11及びシリンダヘッド13と共に燃焼室17を区画する。尚、「燃焼室」は広義で用いる場合がある。つまり、「燃焼室」は、ピストン3の位置に関わらず、ピストン3、シリンダ11及びシリンダヘッド13によって形成される空間を意味する場合がある。
シリンダヘッド13の下面、つまり、燃焼室17の天井面は、図2の下図に示すように、傾斜面1311と、傾斜面1312とによって構成されている。傾斜面1311は、吸気側から、後述するインジェクタ6の噴射軸心X2に向かって上り勾配となっている。傾斜面1312は、排気側から噴射軸心X2に向かって上り勾配となっている。燃焼室17の天井面は、いわゆるペントルーフ形状である。
ピストン3の上面は燃焼室17の天井面に向かって隆起している。ピストン3の上面には、キャビティ31が形成されている。キャビティ31は、ピストン3の上面から凹陥している。キャビティ31は、この構成例では、浅皿形状を有している。キャビティ31の中心は、シリンダ11の中心軸X1よりも排気側にずれている。
エンジン1の幾何学的圧縮比εは、10≦ε<30を満足するように、好ましくは10≦ε<21を満足するように設定されている。後述するようにエンジン1は、一部の運転領域において、SI燃焼とCI燃焼とを組み合わせたSPCCI燃焼を行う。SPCCI燃焼は、SI燃焼による発熱と圧力上昇とを利用して、CI燃焼をコントロールする。エンジン1は、圧縮着火式エンジンである。しかし、このエンジン1は、ピストン3が圧縮上死点に至った時の燃焼室17の温度(つまり、圧縮端温度)を高くする必要がない。エンジン1は、幾何学的圧縮比を、比較的低く設定することが可能である。幾何学的圧縮比を低くすると、冷却損失の低減、及び、機械損失の低減に有利になる。エンジン1の幾何学的圧縮比は、レギュラー仕様(燃料のオクタン価が91程度の低オクタン価燃料)においては、14〜17とし、ハイオク仕様(燃料のオクタン価が96程度の高オクタン価燃料)においては、15〜18としてもよい。
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、吸気ポート18が形成されている。吸気ポート18は、図3に示すように、第1吸気ポート181及び第2吸気ポート182を有している。吸気ポート18は、燃焼室17に連通している。吸気ポート18は、詳細な図示は省略するが、いわゆるタンブルポートである。つまり、吸気ポート18は、燃焼室17の中にタンブル流が形成されるような形状を有している。
吸気ポート18には、吸気弁21が配設されている。吸気弁21は、燃焼室17と吸気ポート18との間を開閉する。吸気弁21は動弁機構によって、所定のタイミングで開閉する。動弁機構は、バルブタイミング及び/又はバルブリフトを可変にする可変動弁機構とすればよい。この構成例では、図4に示すように、可変動弁機構は、吸気電動S−VT(Sequential-Valve Timing)23を有している。吸気電動S−VT23は、吸気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更する。吸気弁21の開弁タイミング及び閉弁タイミングは、連続的に変化する。尚、吸気動弁機構は、電動S−VTに代えて、油圧式のS−VTを有していてもよい。
シリンダヘッド13にはまた、シリンダ11毎に、排気ポート19が形成されている。排気ポート19も、図3に示すように、第1排気ポート191及び第2排気ポート192を有している。排気ポート19は、燃焼室17に連通している。
排気ポート19には、排気弁22が配設されている。排気弁22は、燃焼室17と排気ポート19との間を開閉する。排気弁22は動弁機構によって、所定のタイミングで開閉する。この動弁機構は、バルブタイミング及び/又はバルブリフトを可変にする可変動弁機構とすればよい。この構成例では、図4に示すように、可変動弁機構は、排気電動S−VT24を有している。排気電動S−VT24は、排気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更する。排気弁22の開弁タイミング及び閉弁タイミングは、連続的に変化する。尚、排気動弁機構は、電動S−VTに代えて、油圧式のS−VTを有していてもよい。
吸気電動S−VT23及び排気電動S−VT24は、吸気弁21と排気弁22との両方が開弁するオーバーラップ期間の長さを調節する。オーバーラップ期間の長さを長くすると、燃焼室17の中の残留ガスを掃気することができる。また、オーバーラップ期間の長さを調節することによって、内部EGR(Exhaust Gas Recirculation)ガスを燃焼室17の中に導入することができる。内部EGRシステムは、吸気電動S−VT23及び排気電動S−VT24によって構成されている。尚、内部EGRシステムは、S−VTによって構成されるとは限らない。
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、インジェクタ6が取り付けられている。インジェクタ6は、燃焼室17の中に燃料を直接噴射する。インジェクタ6は、燃料噴射部の一例である。インジェクタ6は、傾斜面1311と傾斜面1312とが交差するペントルーフの谷部に配設されている。図2に示すように、インジェクタ6の噴射軸心X2は、シリンダ11の中心軸X1よりも排気側に位置している。インジェクタ6の噴射軸心X2は、中心軸X1に平行である。インジェクタ6の噴射軸心X2とキャビティ31の中心とは一致している。インジェクタ6は、キャビティ31に対向している。尚、インジェクタ6の噴射軸心X2は、シリンダ11の中心軸X1と一致していてもよい。その構成の場合に、インジェクタ6の噴射軸心X2と、キャビティ31の中心とは一致していてもよい。
インジェクタ6は、詳細な図示は省略するが、複数の噴口を有する多噴口型の燃料噴射弁によって構成されている。インジェクタ6は、図2に二点鎖線で示すように、燃料噴霧が、燃焼室17の中央から放射状に広がるように燃料を噴射する。インジェクタ6は、本構成例においては、十個の噴孔を有しており、噴孔は、周方向に等角度に配置されている。
インジェクタ6には、燃料供給システム61が接続されている。燃料供給システム61は、燃料を貯留するよう構成された燃料タンク63と、燃料タンク63とインジェクタ6とを互いに連結する燃料供給路62とを備えている。燃料供給路62には、燃料ポンプ65とコモンレール64とが介設している。燃料ポンプ65は、コモンレール64に燃料を圧送する。燃料ポンプ65は、この構成例においては、クランクシャフト15によって駆動されるプランジャー式のポンプである。コモンレール64は、燃料ポンプ65から圧送された燃料を、高い燃料圧力で蓄える。インジェクタ6が開弁すると、コモンレール64に蓄えられていた燃料が、インジェクタ6の噴口から燃焼室17の中に噴射される。燃料供給システム61は、30MPa以上の高い圧力の燃料を、インジェクタ6に供給することが可能である。インジェクタ6に供給する燃料の圧力は、エンジン1の運転状態に応じて変更してもよい。尚、燃料供給システム61の構成は、前記の構成に限定されない。
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、点火プラグ25が取り付けられている。点火プラグ25は、燃焼室17の中の混合気に強制的に点火をする。点火プラグ25は、この構成例では、シリンダ11の中心軸X1よりも吸気側に配設されている。点火プラグ25は、2つの吸気ポート18の間に位置している。点火プラグ25は、上方から下方に向かって、燃焼室17の中央に近づく方向に傾いて、シリンダヘッド13に取り付けられている。点火プラグ25の電極は、図2に示すように、燃焼室17の中に臨んでかつ、燃焼室17の天井面の付近に位置している。尚、点火プラグ25を、シリンダ11の中心軸X1よりも排気側に配置してもよい。また、点火プラグ25をシリンダ11の中心軸X1上に配置してもよい。
エンジン1の一側面には吸気通路40が接続されている。吸気通路40は、各シリンダ11の吸気ポート18に連通している。燃焼室17に導入するガスは、吸気通路40を流れる。吸気通路40の上流端部には、エアクリーナー41が配設されている。エアクリーナー41は、新気を濾過する。吸気通路40の下流端近傍には、サージタンク42が配設されている。サージタンク42よりも下流の吸気通路40は、シリンダ11毎に分岐する独立通路を構成している。独立通路の下流端が、各シリンダ11の吸気ポート18に接続されている。
吸気通路40におけるエアクリーナー41とサージタンク42との間には、スロットル弁43が配設されている。スロットル弁43は、弁の開度を調節することによって、燃焼室17の中への新気の導入量を調節する。
吸気通路40にはまた、スロットル弁43の下流に、過給機44が配設されている。過給機44は、燃焼室17に導入するガスを過給する。この構成例において、過給機44は、エンジン1によって駆動される機械式の過給機である。機械式の過給機44は、ルーツ式、リショルム式、ベーン式、又は遠心式であってもよい。
過給機44とエンジン1との間には、電磁クラッチ45が介設している。電磁クラッチ45は、過給機44とエンジン1との間で、エンジン1から過給機44へ駆動力を伝達したり、駆動力の伝達を遮断したりする。後述するように、ECU10が電磁クラッチ45の遮断及び接続を切り替えることによって、過給機44はオンとオフとが切り替わる。
吸気通路40における過給機44の下流には、インタークーラー46が配設されている。インタークーラー46は、過給機44において圧縮されたガスを冷却する。インタークーラー46は、例えば水冷式又は油冷式に構成してもよい。
吸気通路40には、バイパス通路47が接続されている。バイパス通路47は、過給機44及びインタークーラー46をバイパスするよう、吸気通路40における過給機44の上流部とインタークーラー46の下流部とを互いに接続する。バイパス通路47には、エアバイパス弁48が配設されている。エアバイパス弁48は、バイパス通路47を流れるガスの流量を調節する。
ECU10は、過給機44をオフにしたとき(つまり、電磁クラッチ45を遮断したとき)に、エアバイパス弁48を全開にする。吸気通路40を流れるガスは、過給機44をバイパスして、エンジン1の燃焼室17に導入される。エンジン1は、非過給、つまり自然吸気の状態で運転する。
過給機44をオンにすると、エンジン1は過給状態で運転する。ECU10は、過給機44をオンにしたとき(つまり、電磁クラッチ45を接続したとき)に、エアバイパス弁48の開度を調節する。過給機44を通過したガスの一部は、バイパス通路47を通って過給機44の上流に逆流する。ECU10がエアバイパス弁48の開度を調節すると、燃焼室17に導入するガスの過給圧が変わる。尚、過給時とは、サージタンク42内の圧力が大気圧を超える時をいい、非過給時とは、サージタンク42内の圧力が大気圧以下になる時をいう、と定義してもよい。
この構成例においては、過給機44とバイパス通路47とエアバイパス弁48とによって、過給システム49が構成されている。
エンジン1は、燃焼室17内にスワール流を発生させるスワール発生部を有している。スワール発生部は、図3に示すように、吸気通路40に取り付けられたスワールコントロール弁56を有している。スワールコントロール弁56は、第1吸気ポート181につながるプライマリ通路401と、第2吸気ポート182につながるセカンダリ通路402との内の、セカンダリ通路402に配設されている。スワールコントロール弁56は、セカンダリ通路402の断面を絞ることができる開度調節弁である。スワールコントロール弁56の開度が小さいと、第1吸気ポート181から燃焼室17に流入する吸気流量が相対的に多くかつ、第2吸気ポート182から燃焼室17に流入する吸気流量が相対的に少ないから、燃焼室17内のスワール流が強くなる。スワールコントロール弁56の開度が大きいと、第1吸気ポート181及び第2吸気ポート182のそれぞれから燃焼室17に流入する吸気流量が、略均等になるから、燃焼室17内のスワール流が弱くなる。スワールコントロール弁56を全開にすると、スワール流が発生しない。尚、スワール流は、白抜きの矢印で示すように、図3における反時計回り方向に周回する(図2の白抜きの矢印も参照)。
エンジン1の他側面には、排気通路50が接続されている。排気通路50は、各シリンダ11の排気ポート19に連通している。排気通路50は、燃焼室17から排出された排気ガスが流れる通路である。排気通路50の上流部分は、詳細な図示は省略するが、シリンダ11毎に分岐する独立通路を構成している。独立通路の上流端が、各シリンダ11の排気ポート19に接続されている。
排気通路50には、複数の触媒コンバーターを有する排気ガス浄化システムが配設されている。上流の触媒コンバーターは、図示は省略するが、エンジンルーム内に配設されている。上流の触媒コンバーターは、三元触媒511と、GPF(Gasoline Particulate Filter)512とを有している。下流の触媒コンバーターは、エンジンルーム外に配設されている。下流の触媒コンバーターは、三元触媒513を有している。尚、排気ガス浄化システムは、図例の構成に限定されるものではない。例えば、GPFは省略してもよい。また、触媒コンバーターは、三元触媒を有するものに限定されない。さらに、三元触媒及びGPFの並び順は、適宜変更してもよい。
吸気通路40と排気通路50との間には、外部EGRシステムを構成するEGR通路52が接続されている。EGR通路52は、排気ガスの一部を吸気通路40に還流させるための通路である。EGR通路52の上流端は、排気通路50における上流の触媒コンバーターと下流の触媒コンバーターとの間に接続されている。EGR通路52の下流端は、吸気通路40における過給機44の上流部に接続されている。EGR通路52を流れるEGRガスは、バイパス通路47のエアバイパス弁48を通らずに、吸気通路40における過給機44の上流部に入る。
EGR通路52には、水冷式のEGRクーラー53が配設されている。EGRクーラー53は、排気ガスを冷却する。EGR通路52にはまた、EGR弁54が配設されている。EGR弁54は、EGR通路52を流れる排気ガスの流量を調節する。EGR弁54の開度を調節することによって、冷却した排気ガス、つまり外部EGRガスの還流量を調節することができる。
この構成例において、EGRシステム55は、外部EGRシステムと、内部EGRシステムとによって構成されている。外部EGRシステムは、内部EGRシステムよりも低温の排気ガスを、燃焼室17に供給することができる。
圧縮着火式エンジンの制御装置は、エンジン1を運転するためのECU(Engine Control Unit)10を備えている。ECU10は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラーであって、図4に示すように、プログラムを実行する中央演算処理装置(Central Processing Unit:CPU)101と、例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)により構成されてプログラム及びデータを格納するメモリ102と、電気信号の入出力をする入出力バス103と、を備えている。ECU10は、制御部の一例である。
ECU10には、図1及び図4に示すように、各種のセンサSW1〜SW17が接続されている。センサSW1〜SW17は、信号をECU10に出力する。センサには、以下のセンサが含まれる。
エアフローセンサSW1:吸気通路40におけるエアクリーナー41の下流に配置されかつ、吸気通路40を流れる新気の流量を計測する
第1吸気温度センサSW2:吸気通路40におけるエアクリーナー41の下流に配置されかつ、吸気通路40を流れる新気の温度を計測する
第1圧力センサSW3:吸気通路40におけるEGR通路52の接続位置よりも下流でかつ、過給機44の上流に配置されかつ、過給機44に流入するガスの圧力を計測する
第2吸気温度センサSW4:吸気通路40における過給機44の下流でかつ、バイパス通路47の接続位置よりも上流に配置されかつ、過給機44から流出したガスの温度を計測する
第2圧力センサSW5:サージタンク42に取り付けられかつ、過給機44の下流のガスの圧力を計測する
指圧センサSW6:各シリンダ11に対応してシリンダヘッド13に取り付けられかつ、各燃焼室17内の圧力を計測する
排気温度センサSW7:排気通路50に配置されかつ、燃焼室17から排出した排気ガスの温度を計測する
リニアO2センサSW8:排気通路50における上流の触媒コンバーターよりも上流に配置されかつ、排気ガス中の酸素濃度を計測する
ラムダO2センサSW9:上流の触媒コンバーターにおける三元触媒511の下流に配置されかつ、排気ガス中の酸素濃度を計測する
水温センサSW10:エンジン1に取り付けられかつ、冷却水の温度を計測する
クランク角センサSW11:エンジン1に取り付けられかつ、クランクシャフト15の回転角を計測する
アクセル開度センサSW12:アクセルペダル機構に取り付けられかつ、アクセルペダルの操作量に対応したアクセル開度を計測する
吸気カム角センサSW13:エンジン1に取り付けられかつ、吸気カムシャフトの回転角を計測する
排気カム角センサSW14:エンジン1に取り付けられかつ、排気カムシャフトの回転角を計測する
EGR差圧センサSW15:EGR通路52に配置されかつ、EGR弁54の上流及び下流の差圧を計測する
燃圧センサSW16:燃料供給システム61のコモンレール64に取り付けられかつ、インジェクタ6に供給する燃料の圧力を計測する
第3吸気温度センサSW17:サージタンク42に取り付けられかつ、サージタンク42内のガスの温度、換言すると燃焼室17に導入される吸気の温度を計測する。
ECU10は、これらのセンサSW1〜SW17の信号に基づいて、エンジン1の運転状態を判断すると共に、予め定められている制御ロジックに従って、各デバイスの制御量を演算する。制御ロジックは、メモリ102に記憶されている。制御ロジックは、メモリ102に記憶しているマップを用いて、目標量及び/又は制御量を演算することを含む。
ECU10は、演算をした制御量に係る電気信号を、インジェクタ6、点火プラグ25、吸気電動S−VT23、排気電動S−VT24、燃料供給システム61、スロットル弁43、EGR弁54、過給機44の電磁クラッチ45、エアバイパス弁48、及び、スワールコントロール弁56に出力する。
例えば、ECU10は、アクセル開度センサSW12の信号とマップとに基づいて、エンジン1の目標トルクを設定すると共に、目標過給圧を決定する。そして、ECU10は、目標過給圧と、第1圧力センサSW3及び第2圧力センサSW5の信号から得られる過給機44の前後差圧とに基づいて、エアバイパス弁48の開度を調節するフィードバック制御を行うことにより、過給圧が目標過給圧となるようにする。
また、ECU10は、エンジン1の運転状態とマップとに基づいて目標EGR率(つまり、燃焼室17の中の全ガスに対するEGRガスの比率)を設定する。そして、ECU10は、目標EGR率とアクセル開度センサSW12の信号に基づく吸入空気量とに基づき目標EGRガス量を決定すると共に、EGR差圧センサSW15の信号から得られるEGR弁54の前後差圧に基づいてEGR弁54の開度を調節するフィードバック制御を行うことにより、燃焼室17の中に導入する外部EGRガス量が目標EGRガス量となるようにする。
さらに、ECU10は、所定の制御条件が成立しているときに空燃比フィードバック制御を実行する。具体的にECU10は、リニアO2センサSW8、及び、ラムダO2センサSW9が計測した排気中の酸素濃度に基づいて、混合気の空燃比が所望の値となるように、インジェクタ6の燃料噴射量を調節する。
尚、その他のECU10によるエンジン1の制御の詳細は、後述する。
(SPCCI燃焼のコンセプト)
エンジン1は、燃費の向上及び排出ガス性能の向上を主目的として、所定の運転状態のときに、圧縮自己着火による燃焼を行う。自己着火による燃焼は、圧縮開始前の燃焼室17の中の温度がばらつくと、自己着火のタイミングが大きく変化する。そこで、エンジン1は、SI燃焼とCI燃焼とを組み合わせたSPCCI燃焼を行う。
SPCCI燃焼は、点火プラグ25が、燃焼室17の中の混合気に強制的に点火をすることによって、混合気が火炎伝播によりSI燃焼をすると共に、SI燃焼の発熱により燃焼室17の中の温度が高くなりかつ、火炎伝播により燃焼室17の中の圧力が上昇することによって、未燃混合気が自己着火によるCI燃焼をする形態である。
SI燃焼の発熱量を調節することによって、圧縮開始前の燃焼室17の中の温度のばらつきを吸収することができる。ECU10が点火タイミングを調節することによって、混合気を目標のタイミングで自己着火させることができる。
SPCCI燃焼において、SI燃焼時の熱発生は、CI燃焼時の熱発生よりも穏やかである。SPCCI燃焼における熱発生率の波形は、図5に例示するように、立ち上がりの傾きが、CI燃焼の波形における立ち上がりの傾きよりも小さくなる。また、燃焼室17の中における圧力変動(dp/dθ)も、SI燃焼時は、CI燃焼時よりも穏やかになる。
SI燃焼の開始後、未燃混合気が自己着火すると、自己着火のタイミングで、熱発生率の波形の傾きが、小から大へと変化する場合がある。熱発生率の波形は、CI燃焼が開始するタイミングで、変曲点Xを有する場合がある。
CI燃焼の開始後は、SI燃焼とCI燃焼とが並行して行われる。CI燃焼は、SI燃焼よりも熱発生が大きいため、熱発生率は相対的に大きくなる。しかし、CI燃焼は、圧縮上死点後に行われるため、熱発生率の波形の傾きが大きくなりすぎることが回避される。CI燃焼時の圧力変動(dp/dθ)も、比較的穏やかになる。
圧力変動(dp/dθ)は、燃焼騒音を表す指標として用いることができる。前述の通りSPCCI燃焼は、圧力変動(dp/dθ)を小さくすることができるため、燃焼騒音が大きくなりすぎることを回避することが可能になる。エンジン1の燃焼騒音は、許容レベル以下に抑えられる。
CI燃焼が終了することによって、SPCCI燃焼が終了する。CI燃焼は、SI燃焼に比べて、燃焼期間が短い。SPCCI燃焼は、SI燃焼よりも、燃焼終了時期が早まる。
SPCCI燃焼の熱発生率波形は、SI燃焼によって形成された第1熱発生率部QSIと、CI燃焼によって形成された第2熱発生率部QCIと、が、この順番に連続するように形成されている。
ここで、SPCCI燃焼の特性を示すパラメータとして、SI率を定義する。SI率は、SPCCI燃焼により発生した全熱量に対し、SI燃焼により発生した熱量の割合に関係する指標と定義する。SI率は、燃焼形態の相違する二つの燃焼によって発生する熱量比率である。SI率が高いと、SI燃焼の割合が高く、SI率が低いと、CI燃焼の割合が高い。SI率は、CI燃焼により発生した熱量に対するSI燃焼により発生した熱量の比率と定義してもよい。つまり、図5に示す波形801においてSI率=(SI燃焼の面積:QSI)/(CI燃焼の面積:QCI)である。
エンジン1は、SPCCI燃焼を行うときに、燃焼室17内に強いスワール流を発生させる。強いスワール流とは、例えば4以上のスワール比を有する流れと定義してもよい。スワール比は、吸気流横方向角速度をバルブリフト毎に測定して積分した値を、エンジン角速度で除した値と定義することができる。吸気流横方向角速度は、図示を省略するが、公知のリグ試験装置を用いた測定に基づいて、求めることができる。
燃焼室17内に強いスワール流を発生させると、燃焼室17の外周部は強いスワール流れとなる一方、中央部のスワール流は相対的に弱くなる。中央部と外周部との境界における速度勾配に起因する渦流によって、中央部は、乱流エネルギが高くなる。点火プラグ25が中央部の混合気に点火をすると、SI燃焼は高い乱流エネルギによって、燃焼速度が高くなる。
SI燃焼の火炎は、燃焼室17内の強いスワール流れに乗って、周方向に伝播する。CI燃焼は、燃焼室17における外周部から中央部においてCI燃焼が行われる。
燃焼室17の中に強いスワール流を発生させると、CI燃焼の開始までにSI燃焼を十分に行うことができる。燃焼騒音の発生を抑制することができると共に、サイクル間におけるトルクのばらつきを抑制することができる。
(エンジンの運転領域)
図6及び図7は、エンジン1の制御に係るマップを例示している。マップは、ECU10のメモリ102に記憶されている。マップは、三種類のマップ501、マップ502、マップ503を含んでいる。ECU10は、燃焼室17の壁温及び吸気の温度それぞれの高低に応じて、三種類のマップ501、502、503の中から選択したマップを、エンジン1の制御に用いる。尚、三種類のマップ501、502、503の選択についての詳細は、後述する。
第一マップ501は、エンジン1の温間時のマップである。第二マップ502は、エンジン1の半暖機時のマップである。第三マップ503は、エンジン1の冷間時のマップである。
各マップ501、502、503は、エンジン1の負荷及び回転数によって規定されている。第一マップ501は、負荷の高低及び回転数の高低に対し、大別して三つの領域に分かれる。具体的に、三つの領域は、アイドル運転を含みかつ、低回転及び中回転の領域に広がる低負荷領域A1、低負荷領域A1よりも負荷が高い中高負荷領域A2、A3、A4、及び、低負荷領域A1、中高負荷領域A2、A3、A4よりも回転数の高い高回転領域A5である。中高負荷領域A2、A3、A4はまた、中負荷領域A2と、中負荷領域A2よりも負荷が高い高負荷中回転領域A3と、高負荷中回転領域A3よりも回転数の低い高負荷低回転領域A4とに分かれる。
第二マップ502は、大別して二つの領域に分かれる。具体的に、二つの領域は、低中回転領域B1、B2、B3、及び、低中回転領域B1、B2、B3よりも回転数の高い高回転領域B4である。低中回転領域B1、B2、B3はまた、前記低負荷領域A1及び中負荷領域A2に相当する低中負荷領域B1と、高負荷中回転領域B2と、高負荷低回転領域B3とに分かれる。
第三マップ503は、複数の領域に分かれておらず、一つの領域C1のみを有している。
ここで、低回転領域、中回転領域、及び、高回転領域はそれぞれ、エンジン1の全運転領域を回転数方向に、低回転領域、中回転領域及び高回転領域の略三等分にしたときの、低回転領域、中回転領域、及び、高回転領域としてもよい。図6及び図7の例では、回転数N1未満を低回転、回転数N2以上を高回転、回転数N1以上N2未満を中回転としている。回転数N1は、例えば1200rpm程度、回転数N2は、例えば4000rpm程度としてもよい。
また、低負荷領域は、軽負荷の運転状態を含む領域、高負荷領域は、全開負荷の運転状態を含む領域、中負荷は、低負荷領域と高負荷領域との間の領域としてもよい。また、低負荷領域、中負荷領域、及び、高負荷領域はそれぞれ、エンジン1の全運転領域を負荷方向に、低負荷領域、中負荷領域及び高負荷領域の略三等分にしたときの、低負荷領域、中負荷領域、及び、高負荷領域としてもよい。
図6のマップ501、502、503はそれぞれ、各領域における混合気の状態及び燃焼形態を示している。図7のマップ504は、第一マップ501に相当し、当該マップにおける、各領域における混合気の状態及び燃焼形態と、各領域におけるスワールコントロール弁56の開度と、過給機44の駆動領域及び非駆動領域と、を示している。エンジン1は、低負荷領域A1、中負荷領域A2、高負荷中回転領域A3、及び、高負荷低回転領域A4、並びに、低中負荷領域B1、高負荷中回転領域B2、及び、高負荷低回転領域B3において、SPCCI燃焼を行う。エンジン1はまた、それ以外の領域、具体的には、高回転領域A5、高回転領域B4、及び、領域C1においては、SI燃焼を行う。
(各領域におけるエンジンの運転)
以下、図7のマップ504の各領域におけるエンジン1の運転について、図8に示す燃料噴射時期及び点火時期を参照しながら詳細に説明をする。図8の横軸は、クランク角である。尚、図8における符号601、602、603、604、605及び606はそれぞれ、図7のマップ504における符号601、602、603、604、605及び606によって示すエンジン1の運転状態に対応する。
(低負荷領域)
エンジン1が低負荷領域A1において運転しているときに、エンジン1は、SPCCI燃焼を行う。
図8の符号601は、エンジン1が低負荷領域A1における運転状態601にて運転しているときの燃料噴射時期(符号6011、6012)及び点火時期(符号6013)、並びに、燃焼波形(つまり、クランク角に対する熱発生率の変化を示す波形、符号6014)を示している。符号602は、エンジン1が低負荷領域A1における運転状態602にて運転しているときの燃料噴射時期(符号6021、6022)及び点火時期(符号6023)、並びに、燃焼波形(符号6024)を示し、符号603は、エンジン1が低負荷領域A1における運転状態603にて運転しているときの燃料噴射時期(符号6031、6032)及び点火時期(符号6033)、並びに、燃焼波形(符号6034)を示している。運転状態601、602、603は、エンジン1の回転数が同じでかつ、負荷が相違する。運転状態601が、最も負荷が低く(つまり、軽負荷)、運転状態602が、次に負荷が低く(つまり、低負荷)、運転状態603が、この中では負荷が最も高い。
エンジン1の燃費性能を向上させるために、EGRシステム55は、燃焼室17の中にEGRガスを導入する。具体的に、吸気電動S−VT23及び排気電動S−VT24は、排気上死点付近において、吸気弁21及び排気弁22の両方を開弁するポジティブオーバーラップ期間を設ける。燃焼室17から吸気ポート18及び排気ポート19に排出した排気ガスの一部は、燃焼室17の中に再導入される。燃焼室17の中に熱い排気ガスを導入するため、燃焼室17の中の温度が高くなる。SPCCI燃焼の安定化に有利になる。尚、吸気電動S−VT23及び排気電動S−VT24は、吸気弁21及び排気弁22の両方を閉弁するネガティブオーバーラップ期間を設けてもよい。
また、スワール発生部は、燃焼室17の中に、強いスワール流を形成する。スワール比は、例えば4以上である。スワールコントロール弁56は、全閉又は閉じ側の所定の開度である。前述したように、吸気ポート18はタンブルポートであるため、燃焼室17の中には、タンブル成分とスワール成分とを有する斜めスワール流が形成される。
インジェクタ6は、吸気行程中に、燃料を複数回、燃焼室17の中に噴射する(符号6011、6012、6021、6022、6031、6032)。複数回の燃料噴射と、燃焼室17の中のスワール流とによって、混合気は成層化する。
燃焼室17の中央部における混合気の燃料濃度は、外周部の燃料濃度よりも濃い。具体的に、中央部の混合気のA/Fは、20以上30以下であり、外周部の混合気のA/Fは、35以上である。尚、空燃比の値は、点火時における空燃比の値であり、以下の説明においても同じである。点火プラグ25に近い混合気のA/Fを20以上30以下にすることにより、SI燃焼時のRawNOxの発生を抑制することができる。また、外周部の混合気のA/Fを35以上にすることで、CI燃焼が安定化する。
混合気の空燃比(A/F)は、燃焼室17の全体において理論空燃比よりもリーンである(つまり、空気過剰率λ>1)。より詳細に、燃焼室17の全体において混合気のA/Fは30以上である。こうすることで、RawNOxの発生を抑制することができ、排出ガス性能を向上させることができる。
エンジン1の負荷が低いとき(つまり、運転状態601のとき)に、インジェクタ6は、吸気行程の前半に、第一噴射6011を行い、吸気行程の後半に、第二噴射6012を行う。吸気行程の前半は、吸気行程を前半と後半とに二等分したときの前半、吸気行程の後半は、吸気行程を二等分したときの後半としてもよい。また、第一噴射6011と第二噴射6012との噴射量比は、例えば9:1としてもよい。
エンジン1の負荷が高い運転状態602のときに、インジェクタ6は、吸気行程の後半に行う第二噴射6022を、運転状態601の第二噴射6012よりも進角したタイミングで開始する。第二噴射6022を進角することによって、燃焼室17内の混合気は均質に近づく。第一噴射6021と第二噴射6022との噴射量比は、例えば7:3〜8:2としてもよい。
エンジン1の負荷がさらに高い運転状態603のときに、インジェクタ6は、吸気行程の後半に行う第二噴射6032を、運転状態602の第二噴射6022よりもさらに進角したタイミングで開始する。第二噴射6032をさらに進角することによって、燃焼室17内の混合気は均質にさらに近づく。第一噴射6031と第二噴射6032との噴射量比は、例えば6:4としてもよい。
燃料噴射の終了後、圧縮上死点前の所定のタイミングで、点火プラグ25は、燃焼室17の中央部の混合気に点火をする(符号6013、6023、6033)。点火タイミングは、圧縮行程の終期としてもよい。圧縮行程の終期は、圧縮行程を、初期、中期、及び終期に三等分したときの終期としてもよい。
前述したように、中央部の混合気は燃料濃度が相対的に高いため、着火性が向上すると共に、火炎伝播によるSI燃焼が安定化する。SI燃焼が安定化することによって、適切なタイミングで、CI燃焼が開始する。SPCCI燃焼において、CI燃焼のコントロール性が向上する。燃焼騒音の発生が抑制される。また、混合気のA/Fを理論空燃比よりもリーンにしてSPCCI燃焼を行うことによって、エンジン1の燃費性能を、大幅に向上させることができる。尚、低負荷領域A1は、後述するレイヤ3に対応する。レイヤ3は、軽負荷運転領域まで広がっていると共に、最低負荷運転状態を含んでいる。
(中高負荷領域)
エンジン1が中高負荷領域において運転しているときも、エンジン1は、低負荷領域と同様に、SPCCI燃焼を行う。
図8の符号604は、エンジン1が中高負荷領域の中でも、中負荷領域A2における運転状態604にて運転しているときの燃料噴射時期(符号6041、6042)及び点火時期(符号6043)、並びに、燃焼波形(符号6044)を示している。符号605は、エンジン1が高負荷低回転領域A4における運転状態605にて運転しているときの燃料噴射時期(符号6051)及び点火時期(符号6052)、並びに、燃焼波形(符号6053)を示している。
EGRシステム55は、燃焼室17の中にEGRガスを導入する。具体的に、吸気電動S−VT23及び排気電動S−VT24は、排気上死点付近において、吸気弁21及び排気弁22の両方を開弁するポジティブオーバーラップ期間を設ける。内部EGRガスが、燃焼室17の中に導入される。また、EGRシステム55は、EGR通路52を通じて、EGRクーラー53によって冷却した排気ガスを、燃焼室17の中に導入する。つまり、内部EGRガスに比べて温度が低い外部EGRガスを、燃焼室17の中に導入する。外部EGRガスは、燃焼室17の中の温度を、適切な温度に調節する。EGRシステム55は、エンジン1の負荷が高まるに従いEGRガスの量を減らす。EGRシステム55は、全開負荷において、内部EGRガス及び外部EGRガスを含むEGRガスを、ゼロにしてもよい。
また、中高負荷領域A2及び高負荷中回転領域A3において、スワールコントロール弁56は、全閉又は閉じ側の所定の開度である。燃焼室17の中には、スワール比が4以上の、強いスワール流が形成される。一方、高負荷低回転領域A4において、スワールコントロール弁56は開である。
混合気の空燃比(A/F)は、燃焼室17の全体において理論空燃比(A/F≒14.7)である。三元触媒511、513が、燃焼室17から排出された排出ガスを浄化することによって、エンジン1の排出ガス性能は良好になる。混合気のA/Fは、三元触媒の浄化ウインドウの中に収まるようにすればよい。混合気の空気過剰率λは、1.0±0.2としてもよい。尚、エンジン1が、全開負荷(つまり、最高負荷)を含む高負荷中回転領域A3において運転しているときには、混合気のA/Fは、燃焼室17の全体において理論空燃比又は理論空燃比よりもリッチにしてもよい(つまり、混合気の空気過剰率λは、λ≦1)。
燃焼室17内にEGRガスを導入しているため、燃焼室17の中の全ガスと燃料との重量比であるG/Fは理論空燃比よりもリーンになる。混合気のG/Fは18以上にしてもよい。こうすることで、いわゆるノッキングの発生を回避することができる。G/Fは18以上30以下において設定してもよい。また、G/Fは18以上50以下において設定してもよい。
エンジン1が運転状態604で運転するときに、インジェクタ6は、吸気行程中に、複数回の燃料噴射(符号6041、6042)を行う。インジェクタ6は、第一噴射6041を吸気行程の前半に行い、第二噴射6042を吸気行程の後半に行ってもよい。
また、エンジン1が運転状態605で運転するときに、インジェクタ6は、吸気行程において燃料を噴射する(符号6051)。
点火プラグ25は、燃料の噴射後、圧縮上死点付近の所定のタイミングで混合気に点火をする(符号6043、6052)。エンジン1が運転状態604で運転しているときに、点火プラグ25は、圧縮上死点前に点火を行ってもよい(符号6043)。エンジン1が運転状態605で運転しているときに、点火プラグ25は、圧縮上死点後に点火を行ってもよい(符号6052)。
混合気のA/Fを理論空燃比にしてSPCCI燃焼を行うことによって、三元触媒511、513を利用して、燃焼室17から排出された排出ガスを浄化することができる。また、EGRガスを燃焼室17に導入して混合気を希釈化することによって、エンジン1の燃費性能が向上する。尚、中高負荷領域A2、A3、A4は、後述するレイヤ2に対応する。レイヤ2は、高負荷領域まで広がっていると共に、最高負荷運転状態を含んでいる。
(過給機の動作)
ここで、図7のマップ504に示すように、低負荷領域A1の一部、及び、中高負荷領域A2の一部においては、過給機44はオフである(S/C OFF参照)。詳細には、低負荷領域A1における低回転側の領域において、過給機44はオフである。低負荷領域A1における高回転側の領域においては、エンジン1の回転数が高くなることに対応して必要な吸気充填量を確保するために、過給機44はオンである。また、中高負荷領域A2における低負荷低回転側の一部の領域において、過給機44はオフである。中高負荷領域A2における高負荷側の領域においては、燃料噴射量が増えることに対応して必要な吸気充填量を確保するために、過給機44はオンである。また、中高負荷領域A2における高回転側の領域においても過給機44はオンである。
尚、高負荷中回転領域A3、高負荷低回転領域A4、及び、高回転領域A5の各領域においては、その全域において過給機44がオンである(S/C ON参照)。
(高回転領域)
エンジン1の回転数が高いと、クランク角が1°変化するのに要する時間が短くなる。燃焼室17内において混合気を成層化することが困難になる。エンジン1の回転数が高くなると、SPCCI燃焼を行うことが困難になる。
そこで、エンジン1が高回転領域A5において運転しているときに、エンジン1は、SPCCI燃焼ではなく、SI燃焼を行う。尚、高回転領域A5は、低負荷から高負荷まで負荷方向の全域に広がっている。
図8の符号606は、エンジン1が高回転領域A5における負荷の高い運転状態606にて運転しているときの燃料噴射時期(符号6061)及び点火時期(符号6062)、並びに、燃焼波形(符号6063)を示している。
EGRシステム55は、燃焼室17の中にEGRガスを導入する。EGRシステム55は、負荷が高まるに従いEGRガスの量を減らす。EGRシステム55は、全開負荷では、EGRガスをゼロにしてもよい。
スワールコントロール弁56は、全開である。燃焼室17内にはスワール流が発生せず、タンブル流のみが発生する。スワールコントロール弁56を全開にすることによって、充填効率を高めることができると共に、ポンプ損失を低減することが可能になる。
混合気の空燃比(A/F)は、基本的には、燃焼室17の全体において理論空燃比(A/F≒14.7)である。混合気の空気過剰率λは、1.0±0.2とすればよい。尚、エンジン1が全開負荷の付近において運転しているときには、混合気の空気過剰率λは1未満であってもよい。
インジェクタ6は、吸気行程中に燃料噴射を開始する。インジェクタ6は、燃料を一括で噴射する(符号6061)。吸気行程中に燃料噴射を開始することによって、燃焼室17の中に、均質又は略均質な混合気が形成される。また、燃料の気化時間を長く確保することができるため、未燃損失の低減を図ることもできる。
点火プラグ25は、燃料の噴射終了後、圧縮上死点前の適宜のタイミングで、混合気に点火を行う(符号6062)。
(マップのレイヤ構造)
図6に示すエンジン1のマップ501、502、503は、図9に示すように、レイヤ1、レイヤ2及びレイヤ3の三つのレイヤの組み合わせによって構成されている。
レイヤ1は、ベースとなるレイヤである。レイヤ1は、エンジン1の運転領域の全体に広がる。レイヤ1は、第三マップ503の全体に相当する。
レイヤ2は、レイヤ1の上に重なるレイヤである。レイヤ2は、エンジン1の運転領域の一部に相当する。具体的にレイヤ2は、第二マップ502の低中回転領域B1、B2、B3に相当する。
レイヤ3は、レイヤ2の上に重なるレイヤである。レイヤ3は、第一マップ501の低負荷領域A1に相当する。
レイヤ1、レイヤ2及びレイヤ3は、燃焼室17の壁温及び吸気の温度それぞれの高低に応じて選択される。
燃焼室17の壁温が第1所定壁温(例えば80℃)以上でかつ、吸気温が第1所定吸気温(例えば50℃)以上のときには、レイヤ1とレイヤ2とレイヤ3とが選択され、これらレイヤ1、レイヤ2及びレイヤ3を重ねることにより第一マップ501が構成される。第一マップ501における低負荷領域A1は、そこにおいて最上位のレイヤ3が有効になり、中高負荷領域A2、A3、A4は、そこにおいて最上位のレイヤ2が有効になり、高回転領域A5は、レイヤ1が有効になる。
燃焼室17の壁温が第1所定壁温未満、第2所定壁温(例えば30℃)以上でかつ、吸気温が第1所定吸気温未満、第2所定吸気温(例えば25℃)以上のときには、レイヤ1とレイヤ2とが選択される。これらレイヤ1及びレイヤ2を重ねることにより第二マップ502が構成される。第二マップ502における低中回転領域B1、B2、B3は、そこにおいて最上位のレイヤ2が有効になり、高回転領域B4は、レイヤ1が有効になる。
燃焼室17の壁温が第2所定壁温未満でかつ、吸気温が第2所定吸気温未満のときには、レイヤ1のみが選択されて、第三マップ503が構成される。
尚、燃焼室17の壁温は、例えば、水温センサSW10によって計測されるエンジン1の冷却水の温度によって代用してもよい。また、冷却水の温度や、その他の計測結果に基づいて、燃焼室17の壁温を推定してもよい。また、吸気温は、例えば、サージタンク42内の温度を計測する第3吸気温度センサSW17によって計測することができる。また、各種の計測結果に基づいて、燃焼室17の中に導入される吸気温を推定してもよい。
前述したようにSPCCI燃焼は、燃焼室17内に強いスワール流を発生させて行う。SI燃焼は、燃焼室17の壁に沿って火炎が伝播するため、SI燃焼の火炎伝播は、壁温の影響を受ける。壁温が低いと、SI燃焼の火炎が冷やされてしまい、圧縮着火のタイミングが遅れてしまう。
SPCCI燃焼におけるCI燃焼は、燃焼室17の外周部から中央部において行われるため、燃焼室17の中央部の温度の影響を受ける。中央部の温度が低いと、CI燃焼が不安定になってしまう。燃焼室17の中央部の温度は、燃焼室17に導入される吸気の温度に依存する。つまり、吸気温度が高いときに、燃焼室17の中央部の温度は高くなり、吸気温度が低いときに、中央部の温度は低くなる。
燃焼室17の壁温が第2所定壁温未満でかつ、吸気温度が第2所定吸気温未満のときには、SPCCI燃焼を安定して行うことができない。そこで、SI燃焼を実行するレイヤ1のみが選択され、ECU10は、第三マップ503に基づいて、エンジン1を運転する。全ての運転領域において、エンジン1がSI燃焼を行うことにより、燃焼安定性を確保することができる。
燃焼室17の壁温が第2所定壁温以上及び吸気温度が第2所定吸気温以上のときには、略理論空燃比(つまり、λ≒1)の混合気を、安定してSPCCI燃焼させることができる。そこで、レイヤ1に加えて、レイヤ2が選択され、ECU10は、第二マップ502に基づいて、エンジン1を運転する。エンジン1が、一部の運転領域においてSPCCI燃焼を行うことにより、エンジン1の燃費性能が向上する。
燃焼室17の壁温が第1所定壁温以上及び吸気温度が第1所定吸気温以上のときには、理論空燃比よりもリーンな混合気を、安定してSPCCI燃焼させることができる。そこで、レイヤ1及びレイヤ2に加えて、レイヤ3が選択され、ECU10は、第一マップ501に基づいて、エンジン1を運転する。エンジン1が、一部の運転領域においてリーン混合気をSPCCI燃焼させることにより、エンジン1の燃費性能が、さらに向上する。
次に、図10のフローチャートを参照しながら、ECU10が実行するマップのレイヤ選択に関係する制御例について説明をする。先ず、スタート後のステップS1において、ECU10は、各センサSW1〜SW17の信号を読み込む。ECU10は、続くステップS2において、燃焼室17の壁温が30℃以上でかつ、吸気温が25℃以上か否かを判断する。ステップS2の判定がYESのときには、プロセスはステップS3に進み、NOのときには、プロセスはステップS5に進む。ECU10は、ステップS5においてレイヤ1のみを選択する。ECU10は、第三マップ503に基づいてエンジン1を運転する。プロセスはその後、リターンする。
ステップS3において、ECU10は、燃焼室17の壁温が80℃以上でかつ、吸気温が50℃以上か否かを判断する。ステップS3の判定がYESのときには、プロセスはステップS4に進み、NOのときには、プロセスはステップS6に進む。
ECU10は、ステップS6においてレイヤ1とレイヤ2とを選択する。ECU10は、第二マップ502に基づいて、エンジン1を運転する。プロセスはその後、リターンする。
ECU10は、ステップS4においてレイヤ1とレイヤ2とレイヤ3とを選択する。ECU10は、第一マップに基づいて、エンジン1を運転する。プロセスはその後、リターンする。
(吸気弁及び排気弁のバルブタイミング)
図11は、レイヤ2について設定されている制御ロジックに従い、ECU10が吸気電動S−VT23を制御したときの吸気弁21の開弁タイミングIVOの変化の一例を示している。図11の上図(つまり、グラフ1101)は、エンジン1の負荷の高低(横軸)に対する吸気弁21の開弁タイミングIVOの変化(横軸)を示している。実線はエンジン1の回転数が相対的に低い第1回転数のとき、破線はエンジン1の回転数が相対的に高い第2回転数のとき(第1回転数<第2回転数)に対応する。
図11の下図(つまり、グラフ1102)は、エンジン1の回転数の高低(横軸)に対する吸気弁21の開弁タイミングIVOの変化(縦軸)を示している。実線は、エンジン1の負荷が相対的に低い第1負荷のとき、破線はエンジン1の負荷が相対的に高い第2負荷のとき(第1負荷<第2負荷)に対応する。
グラフ1101及びグラフ1102において、吸気弁21の開弁タイミングIVOは上にいくほど進角し、吸気弁21及び排気弁22の両方が開弁するポジティブオーバーラップ期間が長くなる。よって、燃焼室17の中に導入されるEGRガスの量が増える。
レイヤ2においてエンジン1は、混合気のA/Fを理論空燃比又は略理論空燃比にすると共に、G/Fを理論空燃比よりもリーンにして運転する。エンジン1の負荷が低いと、燃料供給量が少ない。グラフ1101に示すように、エンジン1の負荷が低いときに、ECU10は、吸気弁21の開弁タイミングIVOを遅角側のタイミングに設定する。燃焼室17の中に導入するEGRガスの量が制限され、燃焼安定性が確保される。
エンジン1の負荷が高くなると、燃料供給量が増えるため、燃焼安定性が高まる。ECU10は、吸気弁21の開弁タイミングを進角側のタイミングに設定する。燃焼室17の中に導入するEGRガスの量を増やすことによって、エンジン1のポンプ損失を下げることができる。
エンジン1の負荷がさらに高くなると、燃焼室17の中の温度がさらに高くなる。燃焼室17の中の温度が高くなりすぎないように、内部EGRガスの量を減らし、外部EGRガスの量を増やす。そのために、ECU10は、吸気弁21の開弁タイミングを、再び、遅角側のタイミングに設定する。
エンジン1の負荷がさらに高くなって過給機44が過給を行うようになると、ECU10は、吸気弁21の開弁タイミングを、再び、進角側のタイミングに設定する。吸気弁21及び排気弁22の両方を開弁するポジティブオーバーラップ期間が設けられるため、燃焼室17の中の残留ガスを掃気することができる。
尚、エンジン1の回転数が高いときと低いときとのそれぞれにおいて、吸気弁21の開弁タイミングが変化する傾向は、ほぼ同じである。
グラフ1102に示すように、エンジン1の回転数が低いときには、燃焼室17内の流動が弱くなる。燃焼安定性が低下してしまうため、燃焼室17の中に導入するEGRガスの量を制限する。ECU10は、吸気弁21の開弁タイミングを、遅角側のタイミングに設定する。
エンジン1の回転数が高くなると、燃焼室17内の流動が強くなるため、燃焼室17の中に導入するEGRガスの量を増やすことができる。ECU10は、吸気弁21の開弁タイミングを、進角側のタイミングに設定する。
エンジン1の回転数がさらに高くなると、ECU10は、吸気弁21の開弁タイミングを、エンジン1の回転数に応じた遅角側のタイミングに設定する。これにより、燃焼室17内に導入されるガス量を最大化する。
図12は、レイヤ3について設定されている制御ロジックに従い、ECU10が吸気電動S−VT23及び排気電動S−VT24を制御したときの吸気弁21の開弁タイミングIVO、排気弁22の閉弁タイミングEVC、及び、吸気弁21及び排気弁22のオーバーラップ期間O/Lの変化の一例を示している。
図12の上図(つまり、グラフ1201)は、エンジン1の負荷の高低(横軸)に対する吸気弁21の開弁タイミングIVOの変化(横軸)を示している。実線はエンジン1の回転数が相対的に低い第3回転数のとき、破線はエンジン1の回転数が相対的に高い第4回転数(第3回転数<第4回転数)のときに対応する。
図12の中図(つまり、グラフ1202)は、エンジン1の負荷の高低(横軸)に対する排気弁22の閉弁タイミングEVCの変化(横軸)を示している。実線はエンジン1の回転数が第3回転数のとき、破線はエンジン1の回転数が第4回転数のときに対応する。
図12の下図(つまり、グラフ1203)は、エンジン1の負荷の高低(横軸)に対する吸気弁21と排気弁22とのオーバーラップ期間O/Lの変化(横軸)を示している。実線はエンジン1の回転数が第3回転数のとき、破線はエンジン1の回転数が第4回転数のときに対応する。
レイヤ3においてエンジン1は、A/Fが理論空燃比よりもリーンな混合気をSPCCI燃焼させて運転する。エンジン1の負荷が低いときには、燃料供給量が少ない。混合気のA/Fが低くなりすぎないように、ECU10は、燃焼室17内に導入するガス量を制限する。グラフ1201に示すように、ECU10は、吸気弁21の開弁タイミングIVOを、排気上死点よりも遅角側のタイミングに設定する。吸気弁21の閉弁タイミングは、吸気下死点以降の、いわゆる遅閉じになる。また、エンジン1の負荷が低いときに、ECU10は、燃焼室17内に導入する内部EGRガス量を制限する。グラフ1202に示すように、ECU10は、排気弁22の閉弁タイミングEVCを、進角側のタイミングに設定する。排気弁22の閉弁タイミングEVCは、排気上死点に近づく。
エンジン1の負荷が高くなると、燃料供給量が増えるため、ECU10は、燃焼室17内に導入するガス量を制限しない。また、理論空燃比よりもリーンな混合気のSPCCI燃焼を安定させるために、ECU10は、燃焼室17内に導入する内部EGRガス量を増やす。ECU10は、吸気弁21の開弁タイミングIVOを、排気上死点よりも進角側のタイミングに設定する。また、ECU10は、排気弁22の閉弁タイミングEVCを、排気上死点よりも遅角側のタイミングに設定する。その結果、グラフ1203に示すように、エンジン1の負荷が高くなると、吸気弁21と排気弁22との両方が開弁するオーバーラップ期間は長くなる。
エンジン1の負荷がさらに高くなると、燃焼室17内の温度が高くなり過ぎないように、ECU10は、燃焼室17内に導入する内部EGRガス量を減らす。ECU10は、排気弁22の閉弁タイミングEVCを、排気上死点に近づける。吸気弁21と排気弁22とのオーバーラップ期間は短くなる。また、ECU10は、エンジン1の負荷が高いときでかつ、エンジン1の回転数が高いときには、回転数が低いときよりも、吸気弁21の開弁タイミングを遅角側のタイミングに設定する。燃焼室17内に導入するガス量は最大になる。
尚、図12に一点鎖線で囲んだ低負荷領域において、エンジン1は、燃費性能の向上を目的とした減筒運転を行うようにしてもよい。減筒運転を行うときには、燃焼室17内に導入するガス量及び内部EGRガス量は制限されない。ECU10は、グラフ1201、1202に二点鎖線で示すように、吸気弁21の開弁タイミングを、進角側のタイミングに設定すると共に、排気弁22の閉弁タイミングを、遅角側のタイミングに設定してもよい。
(エンジンの制御ロジック)
図13は、エンジン1の制御ロジックを示すフローチャートである。ECU10は、メモリ102に記憶している制御ロジックに従いエンジン1を運転する。具体的にECU10は、各センサSW1〜SW17の信号に基づいて、エンジン1の運転状態を判断すると共に、燃焼室17の中の燃焼が、運転状態に応じたSI率の燃焼となるよう、燃焼室17の中の状態量の調節、噴射量の調節、噴射タイミングの調節、及び、点火タイミングの調節を行うための演算を行う。
ECU10は先ず、ステップS131において、各センサSW1〜SW17の信号を読み込む。次いで、ECU10は、ステップS132において、各センサSW1〜SW17の信号に基づいてエンジン1の運転状態を判断すると共に、目標SI率(つまり、目標熱量比率)を設定する。目標SI率は、エンジン1の運転状態に応じて設定される。
図14は、目標SI率の設定例を模式的に示している。ECU10は、エンジン1の負荷が低いときには、目標SI率を低く設定し、エンジン1の負荷が高いときには、目標SI率を高く設定する。エンジン1の負荷が低いときには、SPCCI燃焼におけるCI燃焼の割合を高めることによって、燃焼騒音の抑制と燃費性能の向上とが両立する。エンジン1の負荷が高いときには、SPCCI燃焼におけるSI燃焼の割合を高めることによって、燃焼騒音の抑制に有利になる。
図13のフローに戻り、ECU10は、続くステップS133において、メモリ102に記憶している燃焼モデルに基づいて、設定した目標SI率を実現するための目標筒内状態量を設定する。具体的にECU10は、燃焼室17の中の目標温度及び目標圧力、並びに、目標状態量を設定する。ECU10は、ステップS134において、目標筒内状態量を実現するために必要な、EGR弁54の開度、スロットル弁43の開度、エアバイパス弁48の開度、スワールコントロール弁56の開度、並びに、吸気電動S−VT23及び排気電動S−VT24の位相角(つまり、吸気弁21のバルブタイミング、及び、排気弁22のバルブタイミング)を設定する。ECU10は、これらのデバイスの制御量を、メモリ102に記憶しているマップに基づいて設定する。ECU10は、設定した制御量に基づいて、EGR弁54、スロットル弁43、エアバイパス弁48、スワールコントロール弁(SCV)56、並びに、吸気電動S−VT23及び排気電動S−VT24に信号を出力する。ECU10の信号に基づいて各デバイスが動作をすることによって、燃焼室17の中の状態量が目標状態量になる。
ECU10はさらに、設定した各デバイスの制御量に基づいて、燃焼室17の中の状態量の予測値、及び、推定値をそれぞれ算出する。状態量予測値は、吸気弁21が閉弁する前の燃焼室17の中の状態量を予測した値である。状態量予測値は、後述するように、吸気行程における燃料の噴射量の設定に用いる。状態量推定値は、吸気弁21が閉弁した後の燃焼室17の中の状態量を推定した値である。状態量推定値は、後述するように、圧縮行程における燃料の噴射量の設定、及び、点火タイミングの設定に用いる。状態量推定値はまた、実際の燃焼状態との比較による状態量誤差の計算にも用いる。
ECU10は、ステップS135において、状態量予測値に基づいて、吸気行程中における燃料の噴射量を設定する。吸気行程中に分割噴射を行うときには、各噴射の噴射量を設定する。尚、吸気行程中に燃料の噴射を行わないときは、燃料の噴射量はゼロである。ステップS136において、ECU10は、インジェクタ6が所定の噴射タイミングで、燃焼室17の中に燃料を噴射するよう、インジェクタ6に信号を出力する。
ECU10は、ステップS137において、状態量推定値と、吸気行程中の燃料の噴射結果と、に基づいて、圧縮行程中における燃料の噴射量を設定する。尚、圧縮行程中に燃料の噴射を行わないときは、燃料の噴射量はゼロである。ECU10は、ステップS138において、予め設定されているマップに基づく噴射タイミングで、インジェクタ6が燃焼室17の中に燃料を噴射するよう、インジェクタ6に信号を出力する。
ECU10は、ステップS139において、状態量推定値と、圧縮行程中の燃料の噴射結果と、に基づいて、点火タイミングを設定する。ECU10は、ステップS1310において、設定した点火タイミングで、点火プラグ25が燃焼室17の中の混合気に点火をするよう、点火プラグ25に信号を出力する。
点火プラグ25が混合気に点火をすることにより、燃焼室17の中でSI燃焼又はSPCCI燃焼が行われる。ステップS1311において、ECU10は、指圧センサSW6が計測した燃焼室17の中の圧力の変化を読み込み、それに基づいて、燃焼室17の中の混合気の燃焼状態を判断する。ECU10はまた、ステップS1312において、燃焼状態の計測結果と、ステップS134において推定をした状態量推定値とを比較し、状態量推定値と、実際の状態量との誤差を計算する。計算した誤差は、今回以降のサイクルにおいて、ステップS134の推定に利用される。ECU10は、状態量誤差が無くなるように、スロットル弁43、EGR弁54、スワールコントロール弁56、及び/又は、エアバイパス弁48の開度、並びに、吸気電動S−VT23及び排気電動S−VT24の位相角を調節する。それによって、燃焼室17に導入される新気及びEGRガス量が調節される。
ECU10はまた、状態量推定値に基づき燃焼室17の中の温度が目標温度よりも低くなると予想したときには、点火タイミングを進角することが可能になるよう、ステップS138において、圧縮行程中の噴射タイミングを、マップに基づく噴射タイミングよりも進角させる。一方、ECU10は、状態量推定値に基づき燃焼室17の中の温度が目標温度よりも高くなると予想したときには、点火タイミングを遅角することが可能になるよう、ステップS138において、圧縮行程中の噴射タイミングを、マップに基づく噴射タイミングよりも遅角させる。
つまり、燃焼室17の中の温度が低いと、火花点火によってSI燃焼が開始した後、未燃混合気が自己着火するタイミングθCI(図5参照)が遅れてしまい、SI率が、目標のSI率からずれてしまう。この場合、未燃燃料の増大や、排出ガス性能の低下を招く。
そこで、燃焼室17の中の温度が目標温度よりも低くなると予想したときには、ECU10は、噴射タイミングを進角すると共に、ステップS1310において点火タイミングを進角する。SI燃焼の開始が早まることによってSI燃焼により十分な熱発生が可能になるから、燃焼室17の中の温度が低いときに、未燃混合気の自己着火のタイミングθCIが遅れることを防止することができる。その結果、SI率は、目標のSI率に近づく。
また、燃焼室17の中の温度が高いと、火花点火によってSI燃焼が開始して直ぐに、未燃混合気が自己着火してしまい、SI率が、目標のSI率からずれてしまう。この場合、燃焼騒音が増大してしまう。
そこで、燃焼室17の中の温度が目標温度よりも高くなると予想したときには、ECU10は、噴射タイミングを遅角すると共に、ステップS1310において点火タイミングを遅角する。SI燃焼の開始が遅くなるから、燃焼室17の中の温度が高いときに、未燃混合気の自己着火のタイミングθCIが早くなることを防止することができる。その結果、SI率は、目標のSI率に近づく。
このエンジン1の制御ロジックは、スロットル弁43、EGR弁54、エアバイパス弁48、スワールコントロール弁56、吸気電動S−VT23、及び排気電動S−VT24を含む状態量設定デバイスによって、SI率を調節するよう構成されている。燃焼室17の中の状態量を調節することによって、SI率の大まかな調節が可能である。エンジン1の制御ロジックはまた、燃料の噴射タイミング及び点火タイミングを調節することによって、SI率を調節するよう構成されている。噴射タイミング及び点火タイミングの調節によって、例えば気筒間差の補正を行ったり、自己着火タイミングの微調節を行ったりすることができる。SI率の調節を二段階に行うことによって、エンジン1は、運転状態に対応する狙いのSPCCI燃焼を正確に実現することができる。
ECU10はまた、燃焼による実際のSI率が、目標SI率になるよう、少なくともEGRシステム55及び点火プラグ25に信号を出力する。また、前述の通り、ECU10は、エンジン1の負荷が高いときには、低いときよりも目標SI率を高くするから、ECU10は、エンジン1の負荷が高いときには、低いときよりもSI率が高くなるよう、少なくともEGRシステム55及び点火プラグ25に信号を出力することになる。
尚、ECU10が行うエンジン1の制御は、前述した燃焼モデルに基づく制御ロジックに限定されない。
(エンジンの制御ロジックの設計方法)
前述したSPCCI燃焼を実行するエンジン1の制御ロジックを設計する際には、各デバイスの制御量に関係するパラメータを設定する。例えば点火プラグ25であれば、エンジン1の運転状態に対応した点火エネルギ及び点火タイミングを、設定する。吸気電動S−VT23であれば、エンジン1の運転状態に対応した吸気弁21のバルブタイミングを設定する。以下、エンジン1の制御ロジックの設計方法における、吸気弁21のバルブタイミングの設定について、図面を参照しながら説明をする。
(1)吸気弁の閉弁タイミングに係る設計方法
SPCCI燃焼を実行するエンジン1において、燃焼騒音を抑制すると共に、安定したSPCCI燃焼を実現するためには、CI燃焼が開始するタイミング(θCI:図5参照)における燃焼室17内の温度を適切な温度に調節する必要があることを、本願発明者らは見出した。つまり、燃焼室17内の温度が低いとCI燃焼の着火性が低下する。燃焼室17内の温度が高いと燃焼騒音が大きくなる。
CI燃焼が開始するタイミングθCIにおける燃焼室17内の温度は、主に、エンジン1の有効圧縮比に関係する。エンジン1の有効圧縮比は、幾何学的圧縮比εと、吸気弁21の閉弁タイミングIVCとにより定まる。本願発明者らは、SPCCI燃焼を行うエンジンを実用化するために、SPCCI燃焼が生じ得る幾何学的圧縮比εの範囲において、適切なIVCの範囲が存在することを新たに見出した。ここに開示する技術は、SPCCI燃焼という特有の燃焼形態を行うエンジンを実用化するためには、幾何学的圧縮比εと吸気弁21の閉弁タイミングIVCとの間に、所定の関係が必要であることを見出した点に新しさがある。また、後述する、幾何学的圧縮比εと吸気弁21の閉弁タイミングIVCとの間の関係式にも、新しさがある。
さらに、ここに開示する技術は、SPCCI燃焼を行うエンジン1の制御ロジックを設計するときに、幾何学的圧縮比εと吸気弁21の閉弁タイミングIVCとの間の関係に基づいて、吸気弁21の閉弁タイミングIVCを設定する点にも新しさがある。
エンジン1は、混合気のA/Fを理論空燃比又は理論空燃比よりもリッチにしかつ、G/Fを理論空燃比よりもリーンにしてSPCCI燃焼を行うとき(レイヤ2)と、混合気のA/Fを理論空燃比よりもリーンにしてSPCCI燃焼を行うとき(レイヤ3)と、を切り換える。レイヤ2における幾何学的圧縮比εと吸気弁21の閉弁タイミングIVCとの関係は、レイヤ3における幾何学的圧縮比εと吸気弁21の閉弁タイミングIVCとの関係とは異なる。
(1−1)レイヤ2における幾何学的圧縮比と吸気弁の閉弁タイミングとの関係
図15は、SPCCI燃焼の特性を示している。具体的に図15は、エンジン1が、レイヤ2と同様に、A/Fが理論空燃比でかつ、G/Fが理論空燃比よりもリーンの混合気をSPCCI燃焼するときの、EGR率(横軸)に対するSPCCI燃焼の成立範囲を示している。同図における縦軸は、燃焼重心に相当するクランク角度であり、燃焼重心は、図における上にいくほど進角する。
SPCCI燃焼が成立する範囲は、同図においてハッチングを付した範囲によって示される。SPCCI燃焼が成立する範囲は、「進角限界」の線と、「遅角限界」の線とによって挟まれている。「進角限界」の線は、燃焼重心がこの線よりも進角すると異常燃焼になるため、SPCCI燃焼が成立しないことを意味している。また、「遅角限界」の線は、燃焼重心がこの線よりも遅角すると、自己着火しなくなるため、SPCCI燃焼が成立しないことを意味している。
同図における一点鎖線は、MBT(Minimum advance for Best Torque)に相当する燃焼の燃焼重心を示している。ここでは、MBTに相当する燃焼の燃焼重心を、単にMBTと呼ぶ。MBTは、EGR率が高くなるほど進角する。
燃費性能の向上の観点から、SPCCI燃焼の燃焼重心は、MBTに近づけることが好ましい。EGR率が高くなると、SPCCI燃焼が成立する範囲も進角するが、「進角限界」の線と「遅角限界」の線との間隔が狭くなり、SPCCI燃焼が成立する範囲は狭くなる。
エンジン1の負荷が低いとき(「軽負荷」のとき)には、SPCCI燃焼の成立する範囲が進角側であるため、図15の両端矢印で示すように、ある程度の幅でEGR率を調節すると共に、燃焼重心を進角側及び遅角側に調節することにより、MBTに相当するSPCCI燃焼を実現することができる。
エンジン1の負荷が高くなると、燃料供給量が増えることに対応して、燃焼室17内に導入する空気量を増やさなければならない。空気量が増えることに対してEGR率を高くしようとすると、EGRガスも大量に燃焼室17内に導入しなければならない。しかしながら、過給機44の過給能力の限界のため、空気及びEGRガスの両方を、燃焼室17内に大量に導入することは難しい。そのため、エンジン1の負荷が高くなると、SPCCI燃焼が成立する範囲は、遅角側になる。エンジン1の負荷が高いときに、SPCCI燃焼の燃焼重心をMBTに最も近づけようとすると、図15の点YにおいてSPCCI燃焼を行わなければならない。点Yは、A/Fを理論空燃比にした混合気をSPCCI燃焼させることができる上限負荷でのエンジン1の運転状態に相当する。エンジン1が上限負荷で運転しているときには、EGR率の調節や燃焼重心の調節により、MBTに相当するSPCCI燃焼を実現することが難しい。
エンジン1は、レイヤ2において低負荷から高負荷までの広い運転領域に亘って運転する。レイヤ2に関しては、エンジン1が上限負荷で運転している状態が、SPCCI燃焼が成立する限界の運転状態に相当する。レイヤ2に関し、CI燃焼が開始するタイミング(θCI)における燃焼室17の温度が所定の温度となるような、εとIVCとの関係を定めるにあたっては、エンジン1が上限負荷で運転しているときの、燃焼室17内の温度に基づいて定める必要がある。
エンジン1が上限負荷で運転しているときの、燃焼室17内の温度を知るために、本願発明者らは、実際のエンジン1においてSPCCI燃焼を行い、そのエンジン1から取得した計測値を利用することにした。具体的に、本願発明者らは、エンジン1がレイヤ2における上限負荷で運転しているときの各種パラメータを計測すると共に、計測したパラメータから、θCIにおける燃焼室17内の実際の温度を推定した。本願発明者らは、推定した複数の温度の平均値を基準温度Tth1と定めた。θCIにおける燃焼室17の温度が基準温度Tth1であれば、レイヤ2においてSPCCI燃焼を実現することができる。
ここで、SPCCI燃焼は、前述したように、点火タイミングの調節によって、θCIを調節することができる。しかしながら、エンジン1がレイヤ2における上限負荷で運転しているときに、θCIにおける燃焼室17内の温度が、基準温度Tth1を超えるようになると、点火タイミングを調節しても、θCIを調節することができなくなる。一方、θCIにおける燃焼室17内の温度が、基準温度Tth1以下であれば、点火タイミングを調節する(具体的には点火タイミングを進角する)ことにより、θCIにおける燃焼室17内の温度を基準温度Tth1まで高めて、SPCCI燃焼を実現することができる。
よって、レイヤ2においてSPCCI燃焼を実現するためには、θCIにおける燃焼室17の温度が基準温度Tth1を超えないような、εとIVCとの関係が要求される。
そこで、図16に概念的に示すように、本願発明者らは、幾何学的圧縮比εと、吸気弁21の閉弁タイミングIVCとの二つのパラメータからなるマトリックスにおいて、εと、IVCとのそれぞれについて値を変更しながら、エンジン1のモデルを用いて、θCI時の燃焼室17の温度の推定演算を行った。基準温度Tth1以下となるεとIVCとの組み合わせは、レイヤ2においてSPCCI燃焼を実現することができる。図16に示すように、幾何学的圧縮比εが高くかつ、吸気弁21の閉弁タイミングIVCが吸気下死点に近づくと、CI燃焼時の燃焼室17の温度は、基準温度Tth1を超えてしまう。
尚、図16は、IVCを吸気下死点以降に設定したマトリックスである。図示は省略するが、本願発明者らは、IVCを吸気下死点以前に設定したマトリックスについても同様に、θCI時の燃焼室17の温度の推定演算を行うことによって、基準温度Tth1以下となるεとIVCとの組み合わせを得た。
図17の上図のグラフ1701は、εとIVCとの組み合わせに基づいて算出した近似式(I)(II)を示している。グラフ1701の横軸は、幾何学的圧縮比ε、縦軸は吸気弁21の閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)である。図示は省略しているが、本願発明者らは、グラフ1701の平面上に、基準温度Tth1以下となるεとIVCとの組み合わせをプロットし、それらのプロット点に基づいて近似式(I)(II)を決定している。
グラフ1701は、エンジン1の回転数が2000rpmであるときに相当する。近似式(I)及び(II)はそれぞれ、
近似式(I) IVC=−0.4288ε2+31.518ε−379.88
近似式(II) IVC=1.9163ε2−89.935ε+974.94
である。
グラフ1701において、近似式(I)及び(II)並びにε=17よりも左側のεとIVCとの組み合わせは、CI燃焼時の燃焼室17の温度が基準温度Tth1以下となる。この組み合わせは、A/Fが理論空燃比でかつ、G/Fが理論空燃比よりもリーンな混合気をSPCCI燃焼させることが可能である。
前述したεとIVCとの関係は、レイヤ2における燃焼室17の上限温度に基づく関係である。
一方、レイヤ2において、エンジン1が軽負荷で運転しているときにも、燃焼室17の温度が所定の温度となるように、εとIVCとの関係を定めなければならない。
SPCCI燃焼を行う燃焼室17の温度は、圧縮行程でのピストン3の圧縮仕事による圧力上昇と、SI燃焼の発熱から生じる圧力上昇との二つの圧力上昇の結果である。ピストン3の圧縮仕事は有効圧縮比により定まる。有効圧縮比が低すぎるとピストン3の圧縮仕事による圧力上昇が小さい。SPCCI燃焼における火炎伝播が進んでSI燃焼の発熱により生じる圧力上昇が相当高まらないと、筒内温度を着火温度まで高めることができない。結果、圧縮自己着火する混合気量が少なく、多くの混合気が火炎伝播で燃焼するので、燃焼期間が長く燃費効率が低下する。SPCCI燃焼において安定してCI燃焼を起こして燃費効率を最大化するためには、有効圧縮比を、ある値以上に保つ必要がある。よって、εとIVCとの関係を定めなければならない。
本願発明者らは、前記と同様に、実際のエンジン1が軽負荷で運転しているときの各種パラメータを計測すると共に、計測したパラメータから、θCIにおける燃焼室17内の実際の温度を推定した。本願発明者らは、推定した複数の温度の平均値を基準温度Tth2と定めた。
エンジン1が軽負荷で運転しているときに、θCIにおける燃焼室17内の温度が基準温度Tth2以上であれば、点火タイミングを遅らせることによって、SPCCI燃焼を実現することができる。しかしながら、θCIにおける燃焼室17の温度が基準温度Tth2よりも低いと、温度が低すぎるため、点火タイミングを進めても、SPCCI燃焼を実現することができない。
よって、レイヤ2においてSPCCI燃焼を実現するためには、θCIにおける燃焼室17の温度が基準温度Tth2以上となるような、εとIVCとの関係が要求される。
本願発明者らは、図16に示すマトリックスと同様に、幾何学的圧縮比εと、吸気弁21の閉弁タイミングIVCとの二つのパラメータからなるマトリックスにおいて、εと、IVCとのそれぞれについて値を変更しながら、エンジン1のモデルを用いて、CI燃焼時の燃焼室17の温度の推定演算を行った。このマトリックスにおいては、基準温度Tth2以上となるεとIVCとの組み合わせは、レイヤ2においてSPCCI燃焼を実現することができる。
図17のグラフ1701には、基準温度Tth2以上となるεとIVCとの組み合わせに基づいて算出した近似式(III)及び(IV)も示している。近似式(III)及び(IV)はそれぞれ、
近似式(III) IVC=−0.4234ε2+22.926ε−167.84
近似式(IV) IVC=0.4234ε2−22.926ε+207.84
である。
グラフ1701において、近似式(III)及び(IV)よりも右側のεとIVCとの組み合わせは、CI燃焼時の燃焼室17の温度が基準温度Tth2以上となる。この組み合わせは、A/Fが理論空燃比でかつ、G/Fが理論空燃比よりもリーンな混合気をSPCCI燃焼させることが可能になる。
図17からわかるように、εとIVCとの関係は、IVC=約20deg. aBDCを中心に、上下方向に、略対称である。IVC=20deg. aBDCは、エンジン1の回転数が2000rpmのときに、燃焼室17内に導入されるガス量が最大となる閉弁タイミング(つまり、ベストIVC)に相当する。また、IVC=120deg. aBDCは、吸気弁21の閉弁タイミングIVCの遅角限界、IVC=−80deg. aBDCは、吸気弁21の閉弁タイミングIVCの進角限界である。
図17において近似式(I)(II)(III)(IV)に囲まれた範囲内のεとIVCとの組み合わせは、レイヤ2において、SPCCI燃焼を行うエンジン1を実用化することができる組み合わせである。言い換えると、この範囲外のεとIVCとの組み合わせは、レイヤ2においてSPCCI燃焼を行うエンジン1を実用化することができない。
設計者は、レイヤ2においてエンジン1が運転するときの、吸気弁21の閉弁タイミングIVCを定めるときに、図17における斜線を付したε−IVC成立範囲内においてIVCを定めなければならない。
具体的に、設計者は、幾何学的圧縮比εを10≦ε<17に定めると、
0.4234ε2−22.926ε+207.84≦IVC≦−0.4234ε2+22.926ε−167.84 …(1)
を満足するように、閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
また、設計者は、幾何学的圧縮比εを17≦ε<20に定めると、
−0.4288ε2+31.518ε−379.88≦IVC≦−0.4234ε2+22.926ε−167.84 …(2)
又は、
0.4234ε2−22.926ε+207.84≦IVC≦1.9163ε2−89.935ε+974.94 …(3)
を満足するように、閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
さらに、設計者は、幾何学的圧縮比εを20≦ε≦30に定めると、
−0.4288ε2+31.518ε−379.88≦IVC≦120 …(4)
又は、
−80≦IVC≦1.9163ε2−89.935ε+974.94 …(5)
を満足するように、閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
前記関係式(1)〜(5)に基づいて、吸気弁21の閉弁タイミングIVCを設定することによって、A/Fが理論空燃比又は理論空燃比よりもリッチでかつ、G/Fが理論空燃比よりもリーンな混合気をSPCCI燃焼させることが実現する。尚、閉弁タイミングIVCは、レイヤ2における、エンジン1の負荷及び回転数によって定まる各々の運転状態について設定される。図17の実線で示す例は、前述したように、エンジン1の回転数が2000rpmのときのε−IVC成立範囲である。エンジン1の回転数が変わるとε−IVC成立範囲も変わる。エンジン1の回転数が高くなると、ベストIVCは遅角する。
具体的に、エンジン1の回転数が3000rpmのときには、ベストIVCは約22deg. aBDCである。エンジン1の回転数が3000rpmのときのε−IVC成立範囲は、図17に破線で示すように、エンジン1の回転数が2000rpmのときのε−IVC成立範囲に対して、約2deg.分だけ、遅角側に平行移動する。
よって、設計者は、幾何学的圧縮比εを10≦ε<17に定めると、エンジン1の回転数が3000rpmのときには、
0.4234ε2−22.926ε+209.84≦IVC≦−0.4234ε2+22.926ε−165.84 …(1−1)
を満足するように、閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
また、設計者は、幾何学的圧縮比εを17≦ε<20に定めると、エンジン1の回転数が3000rpmのときには、
−0.4288ε2+31.518ε−377.88≦IVC≦−0.4234ε2+22.926ε−165.84 …(2−1)
又は、
0.4234ε2−22.926ε+209.84≦IVC≦1.9163ε2−89.935ε+976.94 …(3−1)
を満足するように、閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
さらに、設計者は、幾何学的圧縮比εを20≦ε≦30に定めると、
−0.4288ε2+31.518ε−377.88≦IVC≦120 …(4−1)
又は、
−80≦IVC≦1.9163ε2−87.935ε+976.94 …(5−1)
を満足するように、閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
また、エンジン1の回転数が4000rpmのときには、ベストIVCは約28deg. aBDCである。エンジン1の回転数が4000rpmのときのε−IVC成立範囲は、図17に一点鎖線で示すように、エンジン1の回転数が2000rpmのときのε−IVC成立範囲に対して、約8deg.分だけ、遅角側に平行移動する。
よって、設計者は、幾何学的圧縮比εを10≦ε<17に定めると、エンジン1の回転数が4000rpmのときには、
0.4234ε2−22.926ε+215.84≦IVC≦−0.4234ε2+22.926ε−159.84 …(1−2)
を満足するように、閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
また、設計者は、幾何学的圧縮比εを17≦ε<20に定めると、エンジン1の回転数が4000rpmのときには、
−0.4288ε2+31.518ε−371.88≦IVC≦−0.4234ε2+22.926ε−159.84 …(2−2)
又は、
0.4234ε2−22.926ε+215.84≦IVC≦1.9163ε2−89.935ε+982.94 …(3−2)
を満足するように、閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
さらに、設計者は、幾何学的圧縮比εを20≦ε≦30に定めると、
−0.4288ε2+31.518ε−371.88≦IVC≦120 …(4−2)
又は、
−80≦IVC≦1.9163ε2−89.935ε+982.94 …(5−2)
を満足するように、閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
エンジン1の回転数NE(rpm)に係る補正項Cを、
C=3.3×10−10NE3−1.0×10−6NE3+7.0×10−4NE
と定めると、レイヤ2におけるεとIVCとの関係式は、次のように表すことができる。
幾何学的圧縮比εが10≦ε<17であれば、
0.4234ε2−22.926ε+207.84+C≦IVC≦−0.4234ε2+22.926ε−167.84+C …(1−3)
何学的圧縮比εが17≦ε<20であれば、
−0.4288ε2+31.518ε−379.88+C≦IVC≦−0.4234ε2+22.926ε−167.84+C …(2−3)
又は、
0.4234ε2−22.926ε+207.84+C≦IVC≦1.9163ε2−89.935ε+974.94+C …(3−3)
幾何学的圧縮比εが20≦ε≦30であれば、
−0.4288ε2+31.518ε−379.88+C≦IVC≦120 …(4−3)
又は、
−80≦IVC≦1.9163ε2−89.935ε+974.94+C …(5−3)
設計者は、エンジン1の回転数毎に定めたε−IVC成立範囲に基づいて、閉弁タイミングIVCを定める。その結果、設計者は、図11に例示するような、レイヤ2における吸気弁21のバルブタイミングを設定することができる。
(1−2)オクタン価の相違によるε−IVC成立範囲の変化
図17のグラフ1701は、燃料が高オクタン価燃料であるとき(オクタン価が96程度)のεとIVCとの関係である。下図に示すグラフ1702は、燃料が低オクタン価燃料であるとき(オクタン価が91程度)のεとIVCとの関係である。本願発明者らの検討によると、低オクタン価燃料であるときには、ε−IVC成立範囲が、高オクタン価燃料のε−IVC成立範囲に対して1.3圧縮比分、低圧縮比の方にシフトすることがわかった。
よって、設計者は、低オクタン価燃料のエンジン1において、閉弁タイミングIVCを定める場合、幾何学的圧縮比εを10≦ε<15.7に定めると、エンジン1の回転数が2000rpmのときには、
0.4234ε2−21.826ε+178.75≦IVC≦−0.4234ε2+21.826ε−138.75 …(6)
を満足するように、閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
また、設計者は、低オクタン価燃料のエンジン1において、幾何学的圧縮比εを15.7≦ε<18.7に定めると、エンジン1の回転数が2000rpmのときには、
−0.5603ε2+34.859ε−377.22≦IVC≦−0.4234ε2+21.826ε−138.75 …(7)
又は、
0.4234ε2−21.826ε+178.75≦IVC≦1.9211ε2−85.076ε+862.01 …(8)
を満足するように、閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
さらに、設計者は、低オクタン価燃料のエンジン1において、幾何学的圧縮比εを18.7≦ε≦30に定めると、エンジン1の回転数が2000rpmのときには、
−0.5603ε2+34.859ε−377.22≦IVC≦120 …(9)
又は、
−80≦IVC≦1.9211ε2−85.076ε+862.01 …(10)
を満足するように、閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
図17のグラフ1702にクロスハッチングを付した範囲は、高オクタン価燃料のε−IVC成立範囲と、低オクタン価燃料のε−IVC成立範囲とが重なる範囲である。設計者は、二つの成立範囲が重なる範囲内においてIVCを定めると、高オクタン価燃料を用いるエンジン1、及び、低オクタン価燃料を用いるエンジン1の両方に適合する制御ロジックを設定することができる。燃料のオクタン価が仕向け地ごとに異なっていても、設計者は、エンジンの制御ロジックを一括して設計することができる。一括設計は、設計工数を少なくする利点がある。
尚、図示は省略するが、低オクタン価燃料のエンジン1においても、エンジン1の回転数が高くなると、ε−IVC成立範囲が遅角側に平行移動する。設計者は、低オクタン価燃料のエンジン1において、幾何学的圧縮比εを10≦ε<15.7に定めると、エンジン1の回転数が3000rpmのときには、
0.4234ε2−21.826ε+180.75≦IVC≦−0.4234ε2+21.826ε−136.75 …(6−1)
を満足するように、閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
また、設計者は、低オクタン価燃料のエンジン1において、幾何学的圧縮比εを15.7≦ε<18.7に定めると、エンジン1の回転数が3000rpmのときには、
−0.5603ε2+34.859ε−375.22≦IVC≦−0.4234ε2+21.826ε−136.75 …(7−1)
又は、
0.4234ε2−21.826ε+180.75≦IVC≦1.9211ε2−85.076ε+864.01 …(8−1)
を満足するように、閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
さらに、設計者は、低オクタン価燃料のエンジン1において、幾何学的圧縮比εを18.7≦ε≦30に定めると、エンジン1の回転数が3000rpmのときには、
−0.5603ε2+34.859ε−375.22≦IVC≦120 …(9−1)
又は、
−80≦IVC≦1.9211ε2−85.076ε+864.01 …(10−1)
を満足するように、閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
また、設計者は、低オクタン価燃料のエンジン1において、幾何学的圧縮比εを10≦ε<15.7に定めると、エンジン1の回転数が4000rpmのときには、
0.4234ε2−21.826ε+186.75≦IVC≦−0.4234ε2+21.826ε−130.75 …(6−2)
を満足するように、閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
また、設計者は、低オクタン価燃料のエンジン1において、幾何学的圧縮比εを15.7≦ε<18.7に定めると、エンジン1の回転数が4000rpmのときには、
−0.5603ε2+34.859ε−369.22≦IVC≦−0.4234ε2+21.826ε−130.75 …(7−2)
又は、
0.4234ε2−21.826ε+186.75≦IVC≦1.9211ε2−85.076ε+870.01 …(8−2)
を満足するように、閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
さらに、設計者は、低オクタン価燃料のエンジン1において、幾何学的圧縮比εを18.7≦ε≦30に定めると、エンジン1の回転数が4000rpmのときには、
−0.5603ε2+34.859ε−369.22≦IVC≦120 …(9−2)
又は、
−80≦IVC≦1.9211ε2−77.076ε+870.01 …(10−2)
を満足するように、閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
前記と同様に、エンジン1の回転数NE(rpm)に係る補正項Cを用いると、低オクタン価燃料のエンジン1において、レイヤ2におけるεとIVCとの関係式は、次のように表すことができる。
幾何学的圧縮比εが10≦ε<15.7であれば、
0.4234ε2−21.826ε+178.75+C≦IVC≦−0.4234ε2+21.826ε−138.75+C …(6−3)
幾何学的圧縮比εが15.7≦ε<18.7であれば、
−0.5603ε2+34.859ε−377.22+C≦IVC≦−0.4234ε2+21.826ε−138.75+C …(7−3)
又は、
0.4234ε2−21.826ε+178.75+C≦IVC≦1.9211ε2−85.076ε+862.01+C …(8−3)
幾何学的圧縮比εが18.7≦ε≦30であれば、
−0.5603ε2+34.859ε−377.22+C≦IVC≦120 …(9−3)
又は、
−80≦IVC≦1.9211ε2−85.076ε+862.01+C …(10−3)
(1−3)レイヤ3における幾何学的圧縮比と吸気弁の閉弁タイミングとの関係
図18は、エンジン1が、レイヤ3と同様に、A/Fを理論空燃比よりもリーンな混合気をSPCCI燃焼させるときの、SPCCI燃焼の特性を示している。具体的に図18は、G/F(横軸)に対しSPCCI燃焼が安定する範囲を示している。同図における縦軸は、燃焼重心に相当するクランク角であり、燃焼重心は、図における上にいくほど進角する。
SPCCI燃焼が安定する範囲は、同図において曲線で囲まれた範囲である。エンジン1の負荷が低いときには、図18における左上にSPCCI燃焼が安定する範囲が位置する。エンジン1の負荷が高くなると、SPCCI燃焼が安定する範囲が、図18における下方に移動する。
図18にはまた、RawNOxの排出を抑制することができる範囲を示している。RawNOxの排出を抑制することができる範囲は、図18における右下に位置している。この範囲は、図18において三角形状を有している。A/Fが理論空燃比よりもリーンであると、三元触媒によってRawNOxを浄化することができない。レイヤ3においてエンジン1は、SPCCI燃焼の安定性を確保することと、RawNOxの排出を抑制することとの両方を満足させなければならない。
同図からわかるように、エンジン1の負荷が高いと、燃焼安定性が確保される範囲と、RawNOxの排出を抑制することができる範囲とが重なる面積は大きくなる。一方、エンジン1の負荷が低いと、燃焼安定性が確保される範囲と、RawNOxの排出を抑制することができる範囲とが重なる面積は小さくなる。
レイヤ3に関しては、エンジン1が軽負荷で運転している状態が、SPCCI燃焼が成立する限界の運転状態に相当する。レイヤ3に関し、CI燃焼が開始するタイミング(θCI)における燃焼室17の温度が所定の温度となるような、εとIVCとの関係を定めるにあたっては、エンジン1が軽負荷で運転しているときの燃焼室17内の温度に基づいて定める必要がある。
本願発明者らは、前記と同様に、実際のエンジン1において、レイヤ3における軽負荷で運転しているときの各種パラメータを計測すると共に、計測したパラメータから、θCIにおける燃焼室17内の実際の温度を推定した。そして、推定した複数の温度の平均値を基準温度Tth3と定めた。θCIにおける燃焼室17の温度が基準温度Tth3であれば、レイヤ3においてSPCCI燃焼を実現することができる。この基準温度Tth3は下限温度に相当する。エンジン1が軽負荷で運転しているときには、θCIにおける燃焼室17内の温度が基準温度Tth3以上であれば、点火タイミングを遅らせることによってSPCCI燃焼を実現することができる。しかしながら、θCIにおける燃焼室17内の温度が基準温度Tth3未満であると、点火タイミングを進めてもSPCCI燃焼を実現することができない。
よって、レイヤ3において安定的なSPCCI燃焼を実現するためには、θCIにおける燃焼室17内の温度が基準温度Tth3以上となるような、εとIVCとの関係が要求される。
そこで、図19に概念的に示すように、本願発明者らは、幾何学的圧縮比ε毎(ε1、ε2、・・・)の、吸気弁21の閉弁タイミングIVCと、吸気弁21及び排気弁22のオーバーラップ期間O/Lとのマトリックスにおいて、IVCとO/Lとのそれぞれについて値を変更しながら、エンジン1のモデルを用いて、CI燃焼時の燃焼室17の温度の推定演算を行った(符号1901)。符号1901のマトリックスにハッチングを付したように、基準温度Tth3以上となるIVCとO/Lとの組み合わせは、レイヤ3においてSPCCI燃焼を実現することができる。
また、RawNOxの排出を抑制するためには、混合気のG/Fは所定値以上にしなければならない。図19に符号1902で示すように、本願発明者らは、閉弁タイミングIVCとオーバーラップ期間O/Lとの二つのパラメータからなるマトリックスにおいて、IVCとO/Lとのそれぞれについて値を変更しながら、エンジン1のモデルを用いて、G/Fの推定演算を行った。符号1902のマトリックスに斜線を付したように、G/Fが所定値以上となるIVCとO/Lとの組み合わせは、RawNOxの排出を抑制することができる。
そして、本願発明者らは、符号1901に示す、基準温度Tth3以上となるIVCとO/Lとの組み合わせと、符号1902に示す、G/Fが所定値以上となるIVCとO/Lとの組み合わせとを重ねることによって、SPCCI燃焼の安定性と、RawNOxの排出の抑制との両方を実現することができるεとIVCとのとの関係を定めた。つまり、符号1903のマトリックスにおいて、クロスハッチングを付した範囲は、SPCCI燃焼の安定性と、NOx排出の抑制との両方を実現することができるεとIVCとの組み合わせである。
尚、図示は省略するが、本願発明者らは、吸気弁21の閉弁タイミングを吸気下死点以前に設定したマトリックスについても同様に、CI燃焼時の燃焼室17の温度の推定演算及びG/Fの推定演算を行うことによって、基準温度Tth3以上となるIVCとO/Lとの組み合わせ、及び、G/Fが所定以上となるIVCとO/Lとの組み合わせを得た。
図20は、εとIVCとの組み合わせから算出した近似式(V)及び(VI)を示している。図20の横軸は、幾何学的圧縮比ε、縦軸は吸気弁21の閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)である。
図20の上図2001は、エンジン1の回転数が2000rpmであるときに相当する。近似式(V)及び(VI)はそれぞれ、
近似式(V) IVC=−0.9949ε2+41.736ε−361.16
近似式(VI) IVC=0.9949ε2−41.736ε+401.16
である。
図20において、近似式(V)及び(VI)よりも右側のεとIVCとの組み合わせは、CI燃焼時の燃焼室17の温度が基準温度Tth3以上となり、A/Fが理論空燃比よりもリーンな混合気のSPCCI燃焼が実現する。
前述したεとIVCとの関係は、レイヤ3において、エンジン1が軽負荷で運転するときに、SPCCI燃焼を実現することのできる、燃焼室17の下限温度に基づく関係である。
一方、レイヤ2及びレイヤ3に関わらず、燃焼室17内の温度が高すぎると、SI燃焼の開始前にCI燃焼が開始してしまい、SPCCI燃焼を行うことができない。
ここで、SPCCI燃焼の燃焼コンセプトは、前述したように、点火プラグ25が混合気に点火をすると、点火プラグ25周りの混合気がSI燃焼を開始し、その後、周囲の混合気がCI燃焼する。本願発明者らがこれまでに行った実験等の検討から、混合気の自己着火は、自己着火する混合気の周囲温度が所定の基準温度Tth4を超えると発生し、このときの基準温度Tth4は、燃焼室17内全体の平均温度とは必ずしも一致しないことがわかった。この知見から、圧縮上死点における燃焼室17内の平均温度が基準温度Tth4に達してしまうと、SI燃焼が開始する前にCI燃焼が開始してしまうと考えられ、この場合、SPCCI燃焼を行うことができない。
そこで、本願発明者らは、図19の符号1901のマトリックスと同様に、幾何学的圧縮比ε毎(ε1、ε2、・・・)の、吸気弁21の閉弁タイミングIVCと、吸気弁21及び排気弁22のオーバーラップ期間O/Lとのマトリックスにおいて、閉弁タイミングIVCとオーバーラップ期間O/Lとのそれぞれについて値を変更しながら、エンジン1のモデルを用いて、圧縮上死点時の燃焼室17の温度の推定演算を行った。圧縮上死点時の燃焼室17内の温度が、基準温度Tth4を超えるIVCとO/Lとの組み合わせは、SPCCI燃焼を実現することができず、基準温度Tth4以下のIVCとO/Lとの組み合わせは、SPCCI燃焼を実現することができる。
図20は、圧縮上死点時の燃焼室17内の温度が基準温度Tth4以下となるεとIVCとの組み合わせから算出した近似式(VII)及び(VIII)を示している。近似式(VII)及び(VIII)はそれぞれ、
近似式(VII) IVC=−4.7481ε2+266.75ε−3671.2
及び
近似式(VIII) IVC=4.7481ε2−266.75ε+3711.2
である。
図20において、近似式(VII)及び(VIII)よりも左側のεとIVCとの組み合わせは、SI燃焼の前にCI燃焼が開始してしまうことを回避することができ、SPCCI燃焼が実現する。
図20からわかるように、レイヤ3においても、εとIVCとの関係は、IVC=約20deg. aBDCを中心に、上下方向に、略対称である。また、IVC=75deg. aBDCは、レイヤ3においてエンジン1が運転するときに燃焼室17内へ導入するガス量を考慮して設定した吸気弁21の閉弁タイミングの遅角限界であり、IVC=−35deg. aBDCも同様に、燃焼室17内へ導入するガス量を考慮して設定した吸気弁21の閉弁タイミングの進角限界である。
設計者は、レイヤ3においてエンジン1が運転するときの、吸気弁21の閉弁タイミングIVCを定めるときに、図20における近似式(V)(VI)(VII)(VIII)に囲まれたε−IVC成立範囲(図20において斜線を付した範囲)内において、IVCを定めなければならない。
具体的に設計者は、幾何学的圧縮比εを10≦ε<20に定めると、エンジン1の回転数が2000rpmのときに、
0.9949ε2−41.736ε+401.16≦IVC≦−0.9949ε2+41.736ε−361.16 …(11)
を満足するように、閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
設計者はまた、幾何学的圧縮比εを20≦ε<25に定めると、エンジン1の回転数が2000rpmのときに、
−35≦IVC≦75 …(12)
を満足するように、閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
さらに、設計者は、幾何学的圧縮比εを25≦ε≦30に定めると、エンジン1の回転数が2000rpmのときに、
−4.7481ε2+266.75ε−3671.2≦IVC≦75 …(13)
又は、
−35≦IVC≦4.7481ε2−266.75ε+3711.2 …(14)
を満足するように、閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
前記関係式(11)〜(14)に基づいて、吸気弁21の閉弁タイミングIVCを設定することによって、A/Fが理論空燃比よりもリーンな混合気をSPCCI燃焼させることが実現する。尚、閉弁タイミングIVCは、レイヤ3におけるエンジン1の負荷及び回転数によって定まる各々の運転状態について設定される。
図20の実線で示す例は、前述したように、エンジン1の回転数が2000rpmのときのε−IVC成立範囲である。エンジン1の回転数が変わると、ε−IVC成立範囲も変わる。エンジン1の回転数が高くなると、ε−IVC成立範囲が遅角側に平行移動する点は、図20においても同じである。よって、設計者は、幾何学的圧縮比εを10≦ε<20に定めると、エンジン1の回転数が3000rpmのとき(破線参照)には、
0.9949ε2−41.736ε+403.16≦IVC≦−0.9949ε2+41.736ε−359.16 …(11−1)
を満足するように、閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
設計者はまた、幾何学的圧縮比εを20≦ε<25に定めると、エンジン1の回転数が3000rpmのときには、
−33≦IVC≦77 …(12−1)
を満足するように、閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
さらに、設計者は、幾何学的圧縮比εを25≦ε≦30に定めると、エンジン1の回転数が3000rpmのときに、
−4.7481ε2+266.75ε−3669.2≦IVC≦77 …(13−1)
又は、
−33≦IVC≦4.7481ε2−266.75ε+3713.2 …(14−1)
を満足するように、閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
設計者はまた、幾何学的圧縮比εを10≦ε<20に定めると、エンジン1の回転数が4000rpmのとき(一点鎖線参照)には、
0.9949ε2−41.736ε+409.16≦IVC≦−0.9949ε2+41.736ε−353.16 …(11−2)
を満足するように、閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
設計者はまた、幾何学的圧縮比εを20≦ε<25に定めると、エンジン1の回転数が4000rpmのときには、
−27≦IVC≦83 …(12−2)
を満足するように、閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
さらに、設計者は、幾何学的圧縮比εを25≦ε≦30に定めると、エンジン1の回転数が4000rpmのときに、
−4.7481ε2+266.75ε−3663.2≦IVC≦83 …(13−2)
又は、
−27≦IVC≦4.7481ε2−266.75ε+3719.2 …(14−2)
を満足するように、閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
前記と同様に、エンジン1の回転数NE(rpm)に係る補正項Cを用いると、レイヤ3におけるεとIVCとの関係式は、次のように表すことができる。
幾何学的圧縮比εが10≦ε<20であれば、
0.9949ε2−41.736ε+401.16+C≦IVC≦−0.9949ε2+41.736ε−361.16+C …(11−3)
幾何学的圧縮比εが20≦ε<25であれば、
−35+C≦IVC≦75+C …(12−3)
幾何学的圧縮比εが25≦ε≦30であれば、
−4.7481ε2+266.75ε−3671.2+C≦IVC≦75+C …(13−3)
又は、
−35+C≦IVC≦4.7481ε2−266.75ε+3711.2+C …(14−3)
設計者は、エンジン1の回転数毎に定めたε−IVC成立範囲に基づいて、閉弁タイミングIVCを定める。その結果、設計者は、図12に例示するような、レイヤ3における吸気弁21のバルブタイミングを設定することができる。
また、図20の下図2002は、燃料が低オクタン価燃料であるときのεとIVCとの関係である。
設計者は、低オクタン価燃料のエンジン1において、閉弁タイミングIVCを定める場合、幾何学的圧縮比εを10≦ε<18.7に定めると、エンジン1の回転数が2000rpmのときに、
0.9949ε2−39.149ε+348.59≦IVC≦−0.9949ε2+39.149ε−308.59 …(15)
を満足するように、閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
また、設計者は、低オクタン価燃料のエンジン1において、幾何学的圧縮比εを18.7≦ε<23.7に定めると、エンジン1の回転数が2000rpmのときに、
−35≦IVC≦75 …(16)
を満足するように、閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
さらに、設計者は、低オクタン価燃料のエンジン1において、幾何学的圧縮比εを23.7≦ε≦30に定めると、エンジン1の回転数が2000rpmのときに、
−3.1298ε2+172.48ε−2300≦IVC≦75 …(17)
又は、
−35≦IVC≦3.1298ε2−172.48ε+2340 …(18)
を満足するように、閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
図20の下図2002にクロスハッチングを付した範囲は、高オクタン価燃料のε−IVC成立範囲と、低オクタン価燃料のε−IVC成立範囲とが重なる範囲である。前記と同様に、設計者は、二つの成立範囲が重なる範囲内においてIVCを定めると、高オクタン価燃料を用いるエンジン1、及び、低オクタン価燃料を用いるエンジン1の両方に適合する制御ロジックを設定することができる。
尚、図示は省略するが、低オクタン価燃料のエンジン1においても、エンジン1の回転数が高くなると、ε−IVC成立範囲が遅角側に平行移動する。設計者は、低オクタン価燃料のエンジン1において、幾何学的圧縮比εを10≦ε<18.7に定めると、エンジン1の回転数が3000rpmのときには、
0.9949ε2−39.149ε+350.59≦IVC≦−0.9949ε2+39.149ε−306.59 …(15−1)
を満足するように、閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
また、設計者は、低オクタン価燃料のエンジン1において、幾何学的圧縮比εを18.7≦ε<23.7に定めると、エンジン1の回転数が3000rpmのときに、
−33≦IVC≦77 …(16−1)
を満足するように、閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
さらに、設計者は、低オクタン価燃料のエンジン1において、幾何学的圧縮比εを23.7≦ε≦30に定めると、エンジン1の回転数が3000rpmのときに、
−3.1298ε2+172.48ε−2298≦IVC≦77 …(17−1)
又は、
−33≦IVC≦3.1298ε2−172.48ε+2342 …(18−1)
を満足するように、閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
設計者は、低オクタン価燃料のエンジン1において、幾何学的圧縮比εを10≦ε<18.7に定めると、エンジン1の回転数が4000rpmのときには、
0.9949ε2−39.149ε+356.59≦IVC≦−0.9949ε2+39.149ε−300.59 …(15−2)
を満足するように、閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
また、設計者は、低オクタン価燃料のエンジン1において、幾何学的圧縮比εを18.7≦ε<23.7に定めると、エンジン1の回転数が4000rpmのときに、
−27≦IVC≦83 …(16−2)
を満足するように、閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
さらに、設計者は、低オクタン価燃料のエンジン1において、幾何学的圧縮比εを23.7≦ε≦30に定めると、エンジン1の回転数が4000rpmのときに、
−3.1298ε2+172.48ε−2292≦IVC≦83 …(17−2)
又は、
−27≦IVC≦3.1298ε2−172.48ε+2348 …(18−2)
を満足するように、閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
前記と同様に、エンジン1の回転数NE(rpm)に係る補正項Cを用いると、低オクタン価燃料のエンジン1において、レイヤ3におけるεとIVCとの関係式は、次のように表すことができる。
幾何学的圧縮比εが10≦ε<18.7であれば、
0.9949ε2−39.149ε+348.59+C≦IVC≦−0.9949ε2+39.149ε−308.59+C …(15−3)
幾何学的圧縮比εが18.7≦ε<23.7であれば、
−35+C≦IVC≦75+C …(16−3)
幾何学的圧縮比εが23.7≦ε≦30であれば、
−3.1298ε2+172.48ε−2300+C≦IVC≦75+C …(17−3)
又は、
−35+C≦IVC≦3.1298ε2−172.48ε+2340+C …(18−3)
(1−4)レイヤ2及び3における幾何学的圧縮比と吸気弁の閉弁タイミングとの関係
図21は、レイヤ2とレイヤ3との双方においてSPCCI燃焼が可能となる、幾何学的圧縮比εと吸気弁21の閉弁タイミングIVCとの関係を示している。この関係式は、図17のε−IVC成立範囲と、図20のε−IVC成立範囲とから得られる。
ECU10がエンジン1の温度等に応じてレイヤ3の選択を行うと、エンジン1の低負荷の運転領域は、レイヤ2からレイヤ3へ切り替わる。レイヤ2とレイヤ3との双方においてSPCCI燃焼が可能となるように、吸気弁21の閉弁タイミングIVCを設定しておくと、エンジン1のマップがレイヤ2からレイヤ3へ切り替わったときでも、SPCCI燃焼を継続して実行することが可能になる。
図21の上図2101は、燃料が高オクタン価燃料であるときのεとIVCとの関係である。下図2102は、燃料が低オクタン価燃料であるときのεとIVCとの関係である。
設計者は、高オクタン価燃料のエンジン1において、幾何学的圧縮比εを10≦ε<17に定めると、エンジン1の回転数が2000rpmのときには、
0.9949ε2−41.736ε+401.16≦IVC≦−0.9949ε2+41.736ε−361.16 …(19)
を満足するように、閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
設計者は、高オクタン価燃料のエンジン1において、幾何学的圧縮比εを17≦ε≦30に定めると、エンジン1の回転数が2000rpmのときには、
−0.4288ε2+31.518ε−379.88≦IVC≦−0.9949ε2+41.736ε−361.16 …(20)
又は
0.9949ε2−41.736ε+401.16≦IVC≦1.9163ε2−89.935ε+974.94 …(21)
を満足するように、閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
前記関係式(19)〜(21)に基づいて、吸気弁21の閉弁タイミングIVCを設定することによって、A/Fが理論空燃比よりもリーンな混合気をSPCCI燃焼させることができると共に、A/Fが理論空燃比又は理論空燃比よりもリッチでかつ、G/Fが理論空燃比よりもリーンな混合気をSPCCI燃焼させることができる。
尚、閉弁タイミングIVCは、レイヤ2及びレイヤ3におけるエンジン1の負荷及び回転数によって定まる各々の運転状態について設定される。
破線で示すように、設計者は、高オクタン価燃料のエンジン1において、幾何学的圧縮比εを10≦ε<17に定めると、エンジン1の回転数が3000rpmのときには、
0.9949ε2−41.736ε+403.16≦IVC≦−0.9949ε2+41.736ε−359.16 …(19−1)
を満足するように、閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
設計者は、高オクタン価燃料のエンジン1において、幾何学的圧縮比εを17≦ε≦30に定めると、エンジン1の回転数が3000rpmのときには、
−0.4288ε2+31.518ε−377.88≦IVC≦−0.9949ε2+41.736ε−359.16 …(20−1)
又は
0.9949ε2−41.736ε+403.16≦IVC≦1.9163ε2−89.935ε+976.94 …(21−1)
を満足するように、閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
同じく、一点鎖線で示すように、設計者はまた、高オクタン価燃料のエンジン1において、幾何学的圧縮比εを10≦ε<17に定めると、エンジン1の回転数が4000rpmのときには、
0.9949ε2−41.736ε+409.16≦IVC≦−0.9949ε2+41.736ε−353.16 …(19−2)
を満足するように、閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
設計者は、高オクタン価燃料のエンジン1において、幾何学的圧縮比εを17≦ε≦30に定めると、エンジン1の回転数が4000rpmのときには、
−0.4288ε2+31.518ε−371.88≦IVC≦−0.9949ε2+41.736ε−353.16 …(20−2)
又は
0.9949ε2−41.736ε+409.16≦IVC≦1.9163ε2−89.935ε+982.94 …(21−2)
を満足するように、閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
前記と同様に、エンジン1の回転数NE(rpm)に係る補正項Cを用いると、レイヤ2及びレイヤ3におけるεとIVCとの関係式は、次のように表すことができる。
幾何学的圧縮比εが10≦ε<17であれば、
0.9949ε2−41.736ε+401.16+C≦IVC≦−0.9949ε2+41.736ε−361.16+C …(19−3)
幾何学的圧縮比εが17≦ε≦30であれば、
−0.4288ε2+31.518ε−379.88+C≦IVC≦−0.9949ε2+41.736ε−361.16+C …(20−3)
又は
0.9949ε2−41.736ε+401.16+C≦IVC≦1.9163ε2−89.935ε+974.94+C …(21−3)
ここで、幾何学的圧縮比εを17未満に定めると、設計者は関係式(19−3)に基づいてIVCを定めることができる。IVCの選択範囲が広いため、設計自由度が高くなる。
また、図21の下図2102に示すように、設計者は、低オクタン価燃料のエンジン1において、幾何学的圧縮比εを10≦ε<15.7に定めると、エンジン1の回転数が2000rpmのときには、
0.9949ε2−39.149ε+348.59≦IVC≦−0.9949ε2+39.149ε−308.59 …(22)
を満足するように、前記閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
また、設計者は、低オクタン価燃料のエンジン1において、幾何学的圧縮比εを15.7≦ε≦30に定めると、エンジン1の回転数が2000rpmのときには、
−0.5603ε2+34.859ε−377.22≦IVC≦−0.9949ε2+39.149ε−308.59 …(23)
又は、
0.9949ε2−39.149ε+348.59≦IVC≦1.9211ε2−85.076ε+862.01 …(24)
を満足するように、前記閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
図示は省略するが、設計者は、低オクタン価燃料のエンジン1において、幾何学的圧縮比εを10≦ε<15.7に定めると、エンジン1の回転数が3000rpmのときには、
0.9949ε2−39.149ε+350.59≦IVC≦−0.9949ε2+39.149ε−306.59 …(22−1)
を満足するように、前記閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
また、設計者は、低オクタン価燃料のエンジン1において、幾何学的圧縮比εを15.7≦ε≦30に定めると、エンジン1の回転数が3000rpmのときには、
−0.5603ε2+34.859ε−375.22≦IVC≦−0.9949ε2+39.149ε−306.59 …(23−1)
又は、
0.9949ε2−39.149ε+350.59≦IVC≦1.9211ε2−85.076ε+864.01 …(24−1)
を満足するように、前記閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
同じく図示は省略するが、設計者は、低オクタン価燃料のエンジン1において、幾何学的圧縮比εを10≦ε<15.7に定めると、エンジン1の回転数が4000rpmのときには、
0.9949ε2−39.149ε+356.59≦IVC≦−0.9949ε2+39.149ε−300.59 …(22−2)
を満足するように、前記閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
また、設計者は、低オクタン価燃料のエンジン1において、幾何学的圧縮比εを15.7≦ε≦30に定めると、エンジン1の回転数が4000rpmのときには、
−0.5603ε2+34.859ε−369.22≦IVC≦−0.9949ε2+39.149ε−300.59 …(23−2)
又は、
0.9949ε2−39.149ε+356.59≦IVC≦1.9211ε2−85.076ε+870.01 …(24−2)
を満足するように、前記閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
前記と同様に、エンジン1の回転数NE(rpm)に係る補正項Cを用いると、低オクタン価燃料のエンジン1において、レイヤ2及びレイヤ3におけるεとIVCとの関係式は、次のように表すことができる。
幾何学的圧縮比εを10≦ε<15.7であれば、
0.9949ε2−39.149ε+348.59+C≦IVC≦−0.9949ε2+39.149ε−308.59+C …(22−3)
幾何学的圧縮比εが15.7≦ε≦30であれば、
−0.5603ε2+34.859ε−377.22+C≦IVC≦−0.9949ε2+39.149ε−308.59+C …(23−3)
又は、
0.9949ε2−39.149ε+348.59+C≦IVC≦1.9211ε2−85.076ε+862.01+C …(24−3)
尚、図示は省略するが、設計者は、図21の上図2101のε−IVC成立範囲と、下図2102のε−IVC成立範囲とが重なった範囲において、IVCを定めてもよい。前記と同様に、設計者は、二つの成立範囲が重なる範囲内においてIVCを定めると、高オクタン価燃料を用いるエンジン1、及び、低オクタン価燃料を用いるエンジン1の両方に適合する制御ロジックを設定することができる。
(1−5)制御ロジックの設計方法の手順
次に、図22に示すフローチャートを参照しながら、SPCCI燃焼を行うエンジン1の制御ロジックを設計する方法の手順について説明をする。設計者は、コンピュータを用いて、各ステップを実行することが可能である。コンピュータは、図17、20、及び、21に例示した、ε−IVC成立範囲に関する情報を記憶している。
先ずスタート後のステップS221において、設計者は、幾何学的圧縮比εを設定する。設計者は、設定した幾何学的圧縮比εの値を、コンピュータに入力してもよい。
続くステップS222において、設計者は、吸気弁21の開弁角、及び、排気弁22の開弁角をそれぞれ設定する。これは、吸気弁21のカム形状、及び、排気弁22のカム形状を定めることに相当する。設計者は、設定した吸気弁21の開弁角、及び、排気弁22の開弁角の値を、コンピュータに入力してもよい。ステップS221及びステップS222において、エンジン1のハード構成を設定することができる。
ステップS223において、設計者は、エンジン1の負荷及び回転数からなる運転状態を設定し、続くステップS224において、設計者は、コンピュータに記憶されているε−IVC成立範囲(図17、20及び21)に基づいて、IVCを選択する。
そして、ステップS225において、コンピュータが、ステップS224において設定されたIVCに基づいて、SPCCI燃焼が実現可能な否かを判断する。ステップS225の判定がYESであれば、プロセスはステップS226に移行し、設計者は、ステップS223において設定した運転状態においてSPCCI燃焼を実行するように、エンジン1の制御ロジックを定める。一方、ステップS225の判定がNOであれば、プロセスはステップS227に移行し、設計者は、ステップS223において設定した運転状態においてSI燃焼を実行するように、エンジン1の制御ロジックを定める。尚、ステップS227において設計者は、SI燃焼を行うことを考慮して、吸気弁21の閉弁タイミングIVCを、改めて設定してもよい。
以上説明したように、ここに開示する圧縮着火式エンジンの制御ロジックを設計する方法は、エンジンの幾何学的圧縮比εと、吸気弁21の閉弁タイミングIVCとの関係を定めている。設計者は、当該関係を満足する範囲内で、吸気弁21の閉弁タイミングIVCを定めることができる。設計者は、エンジン1の制御ロジックを、従来に比べて少ない工数で設計することができる。
(2)過給圧に係る制御ロジックの設計方法
前述の如く、幾何学的圧縮比εと吸気弁21の閉弁タイミングIVCとの間の関係に基づいて、吸気弁21の閉弁タイミングIVCを設定することができる。
本願発明者らは、さらに鋭意検討を重ねた結果、レイヤ2においてG/FリーンなSPCCI燃焼を行うエンジン1を実用化するためには、エンジン1の過給圧Pと、吸気弁21の閉弁タイミングIVCとの間に、別の関係が必要であることをさらに見出した。そして、前記の設計方法を利用した上で、この別の関係に基づいた設計方法を見出した。
(2−1)レイヤ2における過給圧と吸気弁の閉弁タイミングとの関係
前記のように、レイヤ2においてエンジン1は、混合気のA/Fを理論空燃比又は略理論空燃比にすると共に、G/Fを理論空燃比よりもリーンにして運転する。ここで、G/Fは、燃焼室17の中に供給するガス量を通じて制御可能であり、このガス量を制御するための制御因子としては、前記のオーバーラップ期間O/Vに加えてさらに、過給機44による過給圧Pが挙げられる。
例えば、最高負荷運転状態を含んだ高負荷運転状態においてエンジン1を運転するときには、燃料供給量が多いため、より多量のガスを燃焼室17の中に供給することが求められる。そのため、レイヤ2においてG/Fをリーンに保つためには、過給圧P(特に、過給機44の目標過給圧)を所定以上の大きさに設定することが必要となり得る。つまり、レイヤ2においては、過給圧Pの大きさに下限値を定めることができる。また、過給機44により過給されたガスのうち、吸気通路40から燃焼室17へ送りこまれる実際のガス量は、吸気弁21の閉弁タイミングIVCにも依存する。
したがって、レイヤ2においてG/Fをリーンに保つための条件として、過給圧Pの下限値と、閉弁タイミングIVCとの間の関係を定めることができる。
そこで、本願発明者らは、過給圧Pと閉弁タイミングIVCとの二つのパラメータのそれぞれについて値を変更しながら、空気の慣性効果も考慮したエンジン1のモデルを用いてG/Fの推定演算を行った。そして、G/Fが所定値以上となる過給圧Pの下限値と、閉弁タイミングIVCとの組み合わせを得た。
図23は、Pの下限値とIVCとの組み合わせから算出した近似式(A)を示している。図23の横軸は、横軸は吸気弁21の閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)であり、縦軸はエンジン1の過給圧P(kPa)である。また、図23において、“E-n”(nは整数)とは“10−n”を示す。例えば、“8E-11IVC6”なる記載は、“8×10−11×IVC6”を意味する。
図23の上図は、エンジン1の回転数が2000rpm以上であるときに相当する。近似式(A)は、図23の実線に相当しており、
近似式(A) P=8.0×10-11IVC6−1.0×10-8IVC5+3.0×10-7IVC4−4.0×10-6IVC3+0.0068IVC2−0.3209IVC+116.63
である。
図23において、近似式(A)よりも上側のPとIVCとの組み合わせは、G/Fが所定値以上となり、これをリーンに保ちつつ、SPCCI燃焼を実現することができる。
図23からわかるように、PとIVCとの関係は、IVC=20deg. aBDCを中心に、左右方向に、略対称である。IVC=20deg. aBDCは、燃焼室17内に導入されるガス量が最大となる閉弁タイミング(ベストIVC)に相当する。
つまり、IVC=20deg. aBDCにおいては、過給圧Pを相対的に低く設定したとしても、燃焼室17の中に多量のガスを供給することができる。よって、過給圧Pは、IVC=20deg. aBDCにて最小となっている。また、G/Fを所定値以上に保つためには、この最小値から離れるにつれて、過給圧Pを相対的に高く設定することが求められる。したがって、IVCが20deg. aBDCから離間しているときには、近接しているときに比して、過給圧Pは大きくする必要がある。
尚、閉弁タイミングIVCは、レイヤ2における、エンジン1の負荷及び回転数によって定まる各々の運転状態について設定される。図23の例は、前述したように、エンジン1の回転数が2000rpmのときのP−IVC成立範囲である。エンジン1の回転数が変わるとP−IVC成立範囲も変わる。設計者は、エンジン1の回転数毎に定めたP−IVC成立範囲に基づいて、閉弁タイミングIVCを定める。
前述した過給圧Pは、レイヤ2における過給機44の目標過給圧としてもよい。
また一般に、過給機44が設定し得る過給圧Pには、そのハード構成に起因した上限(いわゆる過給機限界)が存在するものと考えられる。よって、レイヤ2において、過給圧Pの大きさに上限値を定めることができる。
図23には、Pの上限値を示す近似式(B)も図示されている。近似式(B)は、図23の符号Plに相当しており、図例では、
近似式(B) P=150
である。
図23において、近似式(B)よりも下側のPとIVCとの組み合わせは、過給機限界を超えない範囲で、過給圧Pを設定することできる。また、近似式(B)に示す過給機限界は、過給機44のハード構成に応じて増減するところ、少なくとも、近似式(A)における過給圧Pの最小値を上回るように設定すればよい。
また、近似式(B)に基づくPの上限値とは別に、燃費性能を考慮したPの上限値(第2の上限値)を設けてもよい。これにより、過度の過給圧に起因した仕事のロスを抑制することができ、エンジンの燃費性能を向上する上で有利になる。図示は省略するが、この第2の上限値は、例えば、
P=250
に設定することができる。上式に示すように、この第2の上限値は、近似式(B)に示す上限値よりも大きく設定することができる。
またそもそも、レイヤ2においてSPCCI燃焼を実現するためには、θCIにおける燃焼室17の温度が基準温度Tth2以上となるような、εとIVCとの関係が要求される。そうした要求は、例えば、図17において近似式(III)及び(IV)よりも右側のεとIVCとの組み合わせが満足する。
つまり、レイヤ2においてSPCCI燃焼を実現するためには、IVCが所定の範囲内に収まる必要がある。つまり、IVCに対し、上限値と下限値とを定めることができる。
そこで、本願発明者らは、G/Fの推定演算を行う際に、幾何学的圧縮比εの値に応じたIVCの上限値と下限値とを設定した。
図23には、IVCの上限値を示す近似式(C)、及び、IVC下限値を示す近似式(D)も図示されている。近似式(C)は、図17における近似式(III)に基づき決定され、図23の符号Irに相当している。一方、近似式(D)は、図17における近似式(IV)に基づき決定され、図23の符号Ilに相当している。図例では、近似式(C)及び近似式(D)は、それぞれ、
近似式(C) IVC=90
近似式(D) IVC=−50
である。
図23において、近似式(C)よりも左側かつ、近似式(D)よりも右側となるPとIVCとの組み合わせは、SPCCI燃焼を安定的に実現することができる。
尚、図23の上図における近似式(C)及び(D)は、図17から見て取れるように、幾何学的圧縮比εを16付近に設定した場合に相当する。これよりもεを小さく設定した場合は、図23の下図に示すように、IVCの上限値及び下限値は、双方とも、IVC=20deg. aBDCに近接することになる。また、近似式(C)及び(D)は、前述の如く、燃料のオクタン価に応じて増減する。
なお、図23の下図は、簡単のため、近似式(A)については上図と同じにしたが、実際には、幾何学的圧縮比εの大きさに応じて、近似式(A)の詳細は変わり得る。
図23において近似式(A)(B)(C)(D)に囲まれた範囲内のPとIVCとの組み合わせは、レイヤ2においてG/Fを所定値以上に保ちつつ、SPCCI燃焼を実現することができる組み合わせである。言い換えると、この範囲外のPとIVCとの組み合わせは、レイヤ2において、G/FリーンなSPCCI燃焼を実現することができない。
設計者は、レイヤ2においてエンジン1が運転するときの、吸気弁21の閉弁タイミングIVCを定めるときに、図23における斜線を付したP−IVC成立範囲内においてIVCを定めなければならない。
具体的に、図23の上図に示す構成例において、設計者は、過給圧P(kPa)が、
P≧8.0×10-11IVC6−1.0×10-8IVC5+3.0×10-7IVC4−4.0×10-6IVC3+0.0068IVC2−0.3209IVC+116.63 …(25)
を満足するように、閉弁タイミングIVC(deg.aBDC)を定める。
また、設計者は、過給圧P(kPa)が、
P≦150 …(26)
を満足するように、閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
また、設計者は、
−50≦IVC≦90 …(27)
を満足するように、閉弁タイミングIVC(deg. aBDC)を定める。
(2−2)制御ロジックの設計方法の手順
次に、図24に示すフローチャートを参照しながら、SPCCI燃焼を行うエンジン1の制御ロジックを設計する方法の手順について説明をする。設計者は、コンピュータを用いて、各ステップを実行することが可能である。コンピュータは、図23に例示した、P−IVC成立範囲に関する情報を記憶している。
先ずスタート後のステップS241において、設計者は、幾何学的圧縮比εを設定する。設計者は、設定した幾何学的圧縮比εの値を、コンピュータに入力してもよい。
続くステップS242において、設計者は、吸気弁21の開弁角、及び、排気弁22の開弁角をそれぞれ設定する。これは、吸気弁21のカム形状、及び、排気弁22のカム形状を定めることに相当する。設計者は、設定した吸気弁21の開弁角、及び、排気弁22の開弁角の値を、コンピュータに入力してもよい。ステップS241及びステップS242において、エンジン1のハード構成を設定することができる。
ステップS243において、設計者は、エンジン1の負荷及び回転数からなる運転状態を設定し、続くステップS244において、設計者は、ステップS243にて設定された運転状態に基づいて、過給圧Pとしての目標過給圧を設定する。
続くステップS245において、設計者は、コンピュータに記憶されているP−IVC成立範囲(図23)に基づいて、IVCを選択する。
そして、ステップS246において、コンピュータが、ステップS245において設定されたIVCに基づいて、SPCCI燃焼が実現可能な否かを判断する。ステップS245の判定がYESであれば、プロセスはステップS246に移行し、設計者は、ステップS243において設定した運転状態においてSPCCI燃焼を実行するように、エンジン1の制御ロジックを定める。一方、ステップS245の判定がNOであれば、プロセスはステップS247に移行し、設計者は、ステップS243において設定した運転状態においてSI燃焼を実行するように、エンジン1の制御ロジックを定める。尚、ステップS247において設計者は、SI燃焼を行うことを考慮して、吸気弁21の閉弁タイミングIVCを、改めて設定してもよい。
以上説明したように、ここに開示する圧縮着火式エンジンの制御ロジックを設計する方法は、エンジン1の過給圧Pと、吸気弁21の閉弁タイミングIVCとの関係を定めている。設計者は、当該関係を満足する範囲内で、吸気弁21の閉弁タイミングIVCを定めることができる。設計者は、エンジン1の制御ロジックを、従来に比べて少ない工数で設計することができる。
(他の実施形態)
尚、ここに開示する技術は、前述した構成のエンジン1に適用することに限定されない。エンジン1は、様々な構成を採用することが可能である。
例えば、エンジン1は、機械式過給機44に代えて、ターボ過給機を備えるようにしてもよい。