(一実施形態)
本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
以下、予混合圧縮着火式エンジンの制御装置の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の説明は、エンジンの制御装置の一例である。図1はエンジンの構成を例示する図である。図2は燃焼室の構成を例示する図であり、図2の上図は燃焼室の平面視相当図、下部はII−II線における断面図である。図3は燃焼室及び吸気系の構成を例示する図である。尚、図1における吸気側は紙面左側であり、排気側は紙面右側である。図2及び図3における吸気側は紙面右側であり、排気側は紙面左側である。図4はエンジンの制御装置の構成を例示するブロック図である。
エンジン1は、燃焼室17が吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程を繰り返すことにより運転する4ストロークエンジンである。エンジン1は、四輪の自動車に搭載される。エンジン1が運転することによって、自動車は走行する。エンジン1の燃料は、この構成例においてはガソリンである。燃料は、バイオエタノール等を含むガソリンであってもよい。エンジン1の燃料は、少なくともガソリンを含む液体燃料であれば、どのような燃料であってもよい。
(エンジンの構成)
エンジン1は、シリンダブロック12と、その上に載置され固持されるシリンダヘッド13とを備えている。シリンダブロック12の内部には、複数のシリンダ11が形成されている。図1及び図2では、1つのシリンダ11のみを示す。エンジン1は、多気筒エンジンである。
各シリンダ11内には、ピストン3が摺動自在に内挿されている。ピストン3は、コネクティングロッド14を介してクランクシャフト15と連結されている。ピストン3は、シリンダ11及びシリンダヘッド13と共に燃焼室17を区画する。尚、「燃焼室」は、ピストン3が圧縮上死点に至ったときの空間の意味に限定されない。「燃焼室」の語は広義で用いる場合がある。すなわち、「燃焼室」は、ピストン3の位置に関わらず、ピストン3、シリンダ11及びシリンダヘッド13によって形成される空間を意味する場合がある。
ピストン3の上面は平坦面である。ピストン3の上面には、キャビティ31が形成されている。キャビティ31は、ピストン3の上面から凹陥している。キャビティ31は、後述するインジェクタ6と対向する。
キャビティ31は、凸部311を有している。凸部311は、シリンダ11の中心軸X1から排気側にややずれた位置に設けられている。凸部311は、略円錐状である。凸部311は、キャビティ31の底部から、シリンダ11の中心軸X1に平行な軸X2に沿って上向きに伸びている。凸部311の上端は、キャビティ31の周縁部の上面とほぼ同一の高さである。
キャビティ31の周側面は、該キャビティ31の底面からキャビティ31の開口に向かって軸X2に対して傾いている。キャビティ31の内径は、キャビティ31の底部からキャビティ31の開口に向かって次第に拡大する。
キャビティ31は、底部313を有している。底部313における吸気側の領域は、後述する点火プラグ25と対向している。該底部313は、図2の上図に示すように、平面視で所定の大きさとなるように、水平方向に広がっている。
また、シリンダヘッド13の下面、すなわち、燃焼室17の天井面は、図2の下図に示すように、吸気側の傾斜面1311と、排気側の傾斜面1312とによって構成されている。傾斜面1311は、吸気側から軸X2に向かって上り勾配となっている。一方、傾斜面1312は、排気側から軸X2に向かって上り勾配となっている。燃焼室17の天井面は、いわゆるペントルーフ形状である。
尚、燃焼室17の形状は、図2に例示する形状に限定されない。例えば、キャビティ31の形状、ピストン3の上面の形状、及び燃焼室17の天井面の形状等は、適宜変更することが可能である。
また、キャビティ31は、シリンダ11の中心軸X1に対して対称な形状にしてもよい。傾斜面1311と傾斜面1312とは、シリンダ11の中心軸X1に対して対称な形状にしてもよい。
エンジン1の幾何学的圧縮比は、13以上且つ20以下に設定されている。後述するように、エンジン1は、一部の運転領域において、SI燃焼とCI燃焼とを組み合わせたSPCCI燃焼動作を行う。SPCCI燃焼は、SI燃焼による発熱と圧力上昇とを利用して、CI燃焼動作を行う。このエンジン1は、混合気の自着火のためにピストン3が圧縮上死点に至った時の燃焼室17の温度(すなわち、圧縮端温度)を高くする必要がない。すなわち、エンジン1は、CI燃焼動作を行うものの、その幾何学的圧縮比の値は、比較的に低く設定されている。幾何学的圧縮比の値を低くすることによって、冷却損失の低減、及び機械損失の低減に有利となる。エンジン1の幾何学的圧縮比の値は、レギュラ仕様(燃料のオクタン価が91程度)においては14〜17とし、ハイオク仕様(燃料のオクタン価が96程度)においては15〜18としてもよい。
シリンダヘッド13には、シリンダ11ごとに、吸気ポート18が形成されている。吸気ポート18は、図3に示すように、第1吸気ポート181及び第2吸気ポート182の、2つの吸気ポートを有している。第1吸気ポート181及び第2吸気ポート182は、クランクシャフト15の軸方向、すなわち、エンジン1のフロント−リヤ方向に並んでいる。吸気ポート18は、燃焼室17と連通している。吸気ポート18は、詳細な図示は省略するが、いわゆるタンブルポートである。すなわち、吸気ポート18は、燃焼室17の中にタンブル流が形成される形状を有している。
吸気ポート18には、吸気弁21が配設されている。吸気弁21は、燃焼室17と吸気ポート18との間を開閉する。吸気弁21は動弁機構によって、所定のタイミングで開閉する。この動弁機構は、バルブタイミング及び/又はバルブリフトを可変にする可変動弁機構とすることができる。この構成例では、図1及び図4に示すように、可変動弁機構は、吸気電動S−VT(Sequential-Valve Timing)23を有している。吸気電動S−VT23は、吸気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更するように構成されている。これにより、吸気弁21の開弁時期及び閉弁時期は連続的に変化する。尚、吸気弁21の動弁機構は、電動S−VTに代えて、液圧式のS−VTを有していてもよい。
また、シリンダヘッド13には、シリンダ11ごとに、排気ポート19が形成されている。排気ポート19も、図3に示すように、第1排気ポート191及び第2排気ポート192の、2つの排気ポートを有している。第1排気ポート191及び第2排気ポート192は、エンジン1のフロント−リヤ方向に並んでいる。排気ポート19は、燃焼室17と連通している。排気ポート19には、排気弁22が配設されている。排気弁22は、燃焼室17と排気ポート19との間を開閉する。排気弁22は動弁機構によって、所定のタイミングで開閉する。この動弁機構は、バルブタイミング及び/又はバルブリフトを可変にする可変動弁機構とすることができる。この構成例では、図1及び図4に示すように、可変動弁機構は、排気電動S−VT24を有している。排気電動S−VT24は、排気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更するように構成されている。これにより、排気弁22の開弁時期及び閉弁時期は連続的に変化する。尚、排気弁22の動弁機構は、電動S−VTに代えて、液圧式のS−VTを有していてもよい。
このエンジン1は、吸気電動S−VT23及び排気電動S−VT24によって、吸気弁21の開弁時期と排気弁22の閉弁時期とに係るオーバラップ期間の長さを調整する。これにより、燃焼室17の中に熱い既燃ガスを閉じ込めることができる。すなわち、内部EGR(Exhaust Gas Recirculation)ガスを燃焼室17の中に導入することが可能となる。また、オーバラップ期間の長さを調整することによって、燃焼室17の中の残留ガスを掃気することが可能となる。
シリンダヘッド13には、シリンダ11ごとに、インジェクタ6が取り付けられている。インジェクタ6は、燃焼室17の中に燃料を直接に噴射するように構成されている。インジェクタ6は、吸気側の傾斜面1311と排気側の傾斜面1312とが交差するペントルーフの谷部において、燃焼室17内に臨んで配設されている。インジェクタ6は、図2に示すように、その噴射軸心が、シリンダの中心軸X1に平行に配設されている。インジェクタ6の噴射軸心は、軸X2と一致しており、インジェクタ6の噴射軸心と、キャビティ31の凸部311の位置とは一致している。インジェクタ6は、キャビティ31と対向している。尚、インジェクタ6の噴射軸心は、シリンダ11の中心軸X1と一致していてもよい。この場合も、インジェクタ6の噴射軸心と、キャビティ31の凸部311の位置とは一致していることが望ましい。
インジェクタ6は、詳細な図示は省略するが、複数の噴口を有する多噴口型の燃料噴射弁によって構成されている。インジェクタ6は、図2に二点鎖線からなる複数の領域で示すように、燃料噴霧が、燃焼室17の中央から放射状に広がり、且つ、燃焼室17の天井部から斜め下向きに広がるように燃料を噴射する。インジェクタ6は、本構成例においては、10個の噴口を有しており、各噴口は、それぞれ周方向に等角度に配置されている。尚、噴口の数は8個であってもよい。噴口の軸は、図2の上図に示すように、後述する点火プラグ25に対して、周方向に位置がずれている。すなわち、点火プラグ25は、隣り合う2つの噴口の軸に挟まれている。これにより、インジェクタ6から噴射された燃料の噴霧が、点火プラグ25に直接に当たって電極を濡らしてしまうことが回避される。
インジェクタ6には、燃料供給システム61が接続されている。燃料供給システム61は、燃料を貯留するよう構成された燃料タンク63と、該燃料タンク63とインジェクタ6とを互いに連結する燃料供給路62とを備えている。燃料供給路62には、燃料ポンプ65とコモンレール64とが介設している。燃料ポンプ65は、コモンレール64に燃料を圧送する。燃料ポンプ65は、本構成例においては、例えば、電動式のポンプであり、燃料タンク63の内部に配設されている。また、燃料ポンプ65は、燃料ポンプコントローラ651と接続されている。コモンレール64は、燃料ポンプ65から圧送された燃料を、高い燃料圧力で蓄えるように構成されている。コモンレール64には、高圧燃圧センサSW16と、燃料温度センサSW161とが配設されている。インジェクタ6が開弁すると、コモンレール64に蓄えられていた燃料が、インジェクタ6の各噴口から燃焼室17の中にそれぞれ噴射される。燃料供給システム61は、30MPa以上の高い圧力の燃料をインジェクタ6に供給可能となるように構成されている。燃料供給システム61の最高燃料圧力は、例えば120MPa程度に設定してもよい。インジェクタ6に供給する燃料の圧力は、エンジン1の運転状態に応じて変更してもよい。尚、燃料供給システム61の構成は、前記の構成に限定されない。
また、燃料供給路62におけるコモンレール64と燃料ポンプ65との間には、高圧燃料ポンプ641と、その上流に低圧燃圧センサSW20とが配設されている。高圧燃料ポンプ641には、燃料温度センサSW21が配設されている。
シリンダヘッド13には、シリンダ11ごとに、点火プラグ25が取り付けられている。点火プラグ25は、燃焼室17の中の混合気に強制的に点火をする。点火プラグ25は、本構成例では、図2にも示すように、シリンダ11の中心軸X1を挟んだ吸気側に配設されている。点火プラグ25は、インジェクタ6と隣接している。点火プラグ25は、2つの吸気ポート18の間に位置している。点火プラグ25は、上方から下方に向かって、燃焼室17の中央に近づく方向に傾くように、シリンダヘッド13に取り付けられている。点火プラグ25の電極は、燃焼室17に臨み、且つ燃焼室17の天井面の付近に位置している。
シリンダヘッド13には、各シリンダ11の中心軸X1に対して点火プラグ25と反対側(すなわち排気側)に、燃焼室17内の圧力を検知する指圧センサSW6がそれぞれ配設されている。
エンジン1の一側面には吸気通路40が接続されている。吸気通路40は、各シリンダ11の吸気ポート18と連通している。吸気通路40は、各燃焼室17に導入するガスが流れる通路である。吸気通路40の上流端部には、新気を濾過するエアクリーナ41が配設されている。吸気通路40の下流端近傍には、サージタンク(不図示)が配設されている。サージタンクよりも下流の吸気通路40は、シリンダ11ごとに分岐する独立通路を構成している。独立通路の下流端が、各シリンダ11の吸気ポート18と接続されている。
吸気通路40におけるエアクリーナ41とサージタンクとの間には、スロットル弁43が配設されている。スロットル弁43は、弁の開度を調節することによって、燃焼室17の中への新気の導入量を調整するように構成されている。
吸気通路40には、また、スロットル弁43の下流に、過給機44が配設されている。過給機44は、燃焼室17に導入するガスを過給するように構成されている。本構成例においては、過給機44は、エンジン1によって駆動される機械式の過給機である。機械式の過給機44は、例えばルーツ式としてもよい。機械式の過給機44の構成はどのような構成であってもよい。機械式の過給機44は、例えば、リショルム式、ベーン式、又は遠心式であってもよい。
過給機44とエンジン1との間には、電磁クラッチ45が介設されている。電磁クラッチ45は、過給機44とエンジン1との間で、エンジン1から過給機44へ駆動力を伝達したり、駆動力の伝達を遮断したりする。後述するように、ECU10が電磁クラッチ45の遮断及び接続を切り替えることによって、過給機44はオンとオフとが切り替わる。エンジン1は、過給機44が燃焼室17に導入するガスを過給することと、過給機44が燃焼室17に導入するガスを過給しないこととを切り替えることができるように構成されている。
吸気通路40における過給機44の下流には、インタークーラ46が配設されている。インタークーラ46は、過給機44において圧縮されたガスを冷却するように構成されている。インタークーラ46は、例えば水冷式に構成すればよい。
吸気通路40には、バイパス通路47が接続されている。バイパス通路47は、過給機44及びインタークーラ46をバイパスするように、吸気通路40における過給機44の上流部とインタークーラ46の下流部とを互いに接続する。バイパス通路47には、エアバイパス弁48が配設されている。エアバイパス弁48は、バイパス通路47を流れるガスの流量を調節する。
過給機44をオフにしたとき、すなわち、電磁クラッチ45を遮断したときには、エアバイパス弁48を全開にする。これにより、吸気通路40を流れるガスは、過給機44をバイパスして、エンジン1の燃焼室17に導入される。この場合のエンジン1は、非過給、すなわち自然吸気の状態で運転する。
過給機44をオンにしたとき、すなわち、電磁クラッチ45を接続したときには、過給機44を通過したガスの一部は、バイパス通路47を通って過給機44の上流に逆流する。エアバイパス弁48の開度を調整することによって、この逆流量を調整することができるので、燃焼室17に導入するガスの過給圧を調整することができる。本構成例においては、過給機44とバイパス通路47とエアバイパス弁48とによって、過給システム49が構成されている。
エンジン1は、燃焼室17内にスワール流を発生させるスワール発生部を有している。スワール発生部の一例は、図3に示すような、吸気通路40に取り付けられたスワールコントロール弁56である。スワールコントロール弁56は、第1吸気ポート181とつながるプライマリ通路401と、第2吸気ポート182とつながるセカンダリ通路402のうち、セカンダリ通路402に配設されている。スワールコントロール弁56は、セカンダリ通路402の断面を絞ることができる開度調整弁である。スワールコントロール弁56の開度が小さい場合には、エンジン1の前後方向に並んだ第1吸気ポート181及び第2吸気ポート182のうち、第1吸気ポート181から燃焼室17に流入する吸気流量が相対的に増え、一方、第2吸気ポート182から燃焼室17に流入する吸気流量が相対的に減るので、燃焼室17内のスワール流が強くなる。スワールコントロール弁56の開度が大きい場合には、第1吸気ポート181及び第2吸気ポート182のそれぞれから燃焼室17に流入する吸気流量が略均等となるので、燃焼室17内のスワール流が弱くなる。スワールコントロール弁56を全開にすると、スワール流は発生しない。尚、スワール流は、矢印で示すように、図3における反時計方向に周回する(図2の白抜きの矢印も参照。)。
尚、スワール発生部は、吸気通路40にスワールコントロール弁56を取り付ける代わりに、又はスワールコントロール弁56を取り付けることに加えて、2つの吸気弁21の開弁期間をずらし、一方の吸気弁21のみから燃焼室17の中に吸気を導入することができる構成を採用してもよい。2つの吸気弁21のうちの一方の吸気弁21のみが開弁することによって、燃焼室17の中に吸気が不均等に導入されるため、燃焼室17の中にスワール流を発生させることができる。さらに、スワール発生部は、吸気ポート18の形状を工夫することによって、燃焼室17の中にスワール流を発生させるように構成してもよい。
エンジン1の他側面には、排気通路50が接続されている。排気通路50は、各シリンダ11の排気ポート19とそれぞれ連通している。排気通路50は、燃焼室17から排出された排気が流れる通路である。排気通路50の上流部分は、詳細な図示は省略するが、シリンダ11ごとに分岐する独立通路を構成している。独立通路の上流端が、各シリンダ11の排気ポート19と接続されている。
排気通路50には、複数の触媒コンバータを有する排気浄化システムが配設されている。上流の触媒コンバータは、図示は省略するが、エンジンルーム内に配設されている。上流の触媒コンバータは、三元触媒511と、GPF(Gasoline Particulate Filter)512とを有している。下流の触媒コンバータは、エンジンルーム外に配設されている。下流の触媒コンバータは、三元触媒513を有している。尚、排気浄化システムは、図例の構成には限定されない。
吸気通路40と排気通路50との間には、外部EGRシステムを構成するEGR通路52が接続されている。EGR通路52は、既燃ガスの一部を吸気通路40に還流するための通路である。EGR通路52の上流端は、排気通路50における上流の触媒コンバータと下流の触媒コンバータとの間に接続されている。EGR通路52の下流端は、吸気通路40における過給機44の上流側と接続されている。
EGR通路52には、水冷式のEGRクーラ53が配設されている。EGRクーラ53は、既燃ガスを冷却するように構成されている。EGR通路52には、また、EGR弁54が配設されている。EGR弁54は、EGR通路52を流れる既燃ガスの流量を調整するように構成されている。EGR弁54の開度を調整することによって、冷却した既燃ガス、すなわち外部EGRガスの還流量を調節することができる。
本構成例において、EGRシステム55は、EGR通路52及びEGR弁54を含んで構成されている外部EGRシステムと、前述した吸気電動S−VT23及び排気電動S−VT24を含んで構成されている内部EGRシステムとによって構成されている。
圧縮自己着火式エンジンの制御装置は、エンジン1を運転するためのECU(Engine Control Unit)10を備えている。ECU10は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラであって、図4に示すように、プログラムを実行する中央演算処理装置(Central Processing Unit:CPU)101と、例えばRAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)により構成されてプログラム及びデータを格納するメモリ102と、電気信号の入出力をする入出力バス103とを備えている。ECU10は、制御部の一例である。
ECU10には、図1及び図4に示すように、各種のセンサ、例えば、SW1〜SW17、SW20〜SW24、SW31、SW51、SW101、SW102及びSW161が接続されている。以上の各センサは、検知信号をECU10に出力する。センサには、例えば、下記の複数のセンサが含まれる。
すなわち、吸気通路40におけるエアクリーナ41の下流に配置され、吸気通路40を流れる新気の流量を検知するエアフローセンサSW1、及び新気の温度を検知する第1吸気温度センサSW2、吸気通路40におけるEGR通路52の接続位置よりも下流で、過給機44の上流側に配置され、且つ、過給機44に流入するガスの圧力を検知する吸気圧センサSW3及び当該ガスの温度を検知する第2吸気温度センサSW31、吸気通路40における過給機44の下流で、インタークーラ46の上流側に配置され、且つ、過給機44から流出したガスの温度を検知する第3吸気温度センサSW4、インタークーラ46の下流のサージタンクに取り付けられ、過給機44の下流のガスの圧力を検知するブースト圧センサSW5及びそのガスの温度を検知する第4吸気温度センサSW51、各シリンダ11に対応してシリンダヘッド13にそれぞれ取り付けられ、各燃焼室17内の圧力を検知する指圧センサSW6、排気通路50に配置され、燃焼室17から排出した排気ガスの温度を検知する排気温度センサSW7、排気通路50における上流の触媒コンバータよりも上流に配置され、排気中の酸素濃度を検知するリニアO2センサSW8、上流の触媒コンバータにおける三元触媒511の下流側に配置され、三元触媒511通過後の排気中の酸素濃度を検知するラムダO2センサSW9、シリンダヘッド13に取り付けられ、冷却水の温度を検知する第1水温センサSW10(右上図を参照)、シリンダヘッド13のメインラジエタに向かう排出口付近に取り付けられ、冷却水の温度を検知する第2水温センサSW101、メインラジエタのウォータポンプW/Pに向かう排出口付近に取り付けられ、冷却水の温度を検知する第3水温センサSW102、エンジン1に取り付けられ、クランクシャフト15の回転角を検知するクランク角センサSW11、アクセルペダル機構に取り付けられ、該アクセルペダルの操作量に対応したアクセル開度を検知するアクセル開度センサSW12、エンジン1に取り付けられ、吸気カムシャフトの回転角を検知する吸気カム角センサSW13、エンジン1に取り付けられ、排気カムシャフトの回転角を検知する排気カム角センサSW14、EGR通路52に配置され、EGR弁54の上流及び下流の差圧を検知するEGR差圧センサSW15、燃料供給システム61のコモンレール64に取り付けられ、インジェクタ6に供給する燃料の圧力を検知する燃圧センサSW16及び該燃料の温度を検知する燃料温度センサSW161、並びにスロットル弁43の駆動モータに取り付けられ、該スロットル弁43の開度を検知するスロットル開度センサSW17である。
また、燃料供給路62における高圧燃料ポンプ641と燃料ポンプ65との間に取り付けられた低圧燃圧センサSW20、該高圧燃料ポンプ641に取り付けられた燃料温度センサSW21、GPF512に取り付けられたGPF圧力センサSW23、及びシリンダブロック22に取り付けられた油圧センサSW23、及びオイルパンの底部に取り付けられたオイルレベルセンサSW24である。
ECU10は、これらの検知信号に基づいて、エンジン1の運転状態を判断すると共に、各デバイスの制御量を計算する。ECU100は、計算をした制御量に係る制御信号を、インジェクタ6、点火プラグ25、吸気電動S−VT23、排気電動S−VT24、燃料供給システム61、スロットル弁43、EGR弁54、過給機44の電磁クラッチ45、エアバイパス弁48、及びスワールコントロール弁56にそれぞれ出力する。例えば、ECU10は、吸気圧センサSW3及びブースト圧センサSW5の検知信号から得られる過給機44の前後差圧に基づいてエアバイパス弁48の開度を調整することにより、過給圧を調節する。また、ECU10は、EGR差圧センサSW15の検知信号から得られるEGR弁54の前後差圧に基づいてEGR弁54の開度を調整することにより、燃焼室17の中に導入する外部EGRガス量を調節する。ECU10によるエンジン1の制御の詳細は、後述する。
(エンジンの運転領域)
図5は、エンジン1の運転領域マップ501、502を例示している。エンジン1の運転領域マップ501、502は、負荷及び回転数によって定められており、負荷の高低及び回転数の高低に対し、5つの領域に分けられている。具体的には、この5つの領域は、アイドル運転を含み、且つ、低回転及び中回転の領域に広がる低負荷領域(1)−1、低負荷領域よりも負荷が高く、且つ、低回転及び中回転の領域に広がる中負荷領域(1)−2、該中負荷領域(1)−2よりも負荷が高い領域で、且つ、全開負荷を含む高負荷領域の中回転領域(2)、高負荷領域において中回転領域(2)よりも回転数が低い低回転領域(3)、並びに低負荷領域(1)−1、中負荷領域(1)−2、高負荷中回転領域(2)、及び高負荷低回転領域(3)よりも回転数が高い高回転領域(4)である。ここで、低回転領域、中回転領域及び高回転領域は、それぞれ、エンジン1の全運転領域を回転数方向に、低回転領域、中回転領域及び高回転領域の略3等分にしたときの、低回転領域、中回転領域、及び高回転領域とすればよい。図6の例では、回転数N1未満を低回転、回転数N2以上を高回転、回転数N1以上且つN2未満を中回転としている。回転数N1は、例えば1200rpm程度、回転数N2は、例えば4000rpm程度としてもよい。また、高負荷中回転領域(2)は、燃焼圧力が900kPa以上となる領域としてもよい。図5においては、理解容易のために、エンジン1の運転領域マップ501、502を2つに分けて描いている。マップ501は、各領域における混合気の状態及び燃焼形態と、過給機44の駆動領域及び非駆動領域とを示している。マップ502は、各領域におけるスワールコントロール弁56の開度を示している。尚、図6における二点鎖線は、エンジン1のロード−ロードライン(Road-Load Line)を示している。
エンジン1は、燃費の向上及び排出ガス性能の向上を主目的として、低負荷領域(1)−1、中負荷領域(1)−2、及び高負荷中回転領域(2)において、圧縮自己着火による燃焼動作(SPCCI燃焼)を行う。
SPCCI燃焼は、点火プラグ25が、燃焼室17の中の混合気に強制的に点火をすることによって、混合気が火炎伝播によりSI燃焼をすると共に、SI燃焼の発熱により燃焼室17の中の温度が高くなり、且つ、火炎伝播により燃焼室17の中の圧力が上昇することによって、未燃混合気が自己着火によるCI燃焼をする形態である。
SI燃焼の発熱量を調整することによって、圧縮開始前の燃焼室17の中の温度のばらつきを吸収することができる。圧縮開始前の燃焼室17の中の温度がばらついていても、例えば、点火タイミングの調整によってSI燃焼の開始タイミングを調整すれば、混合気を目標のタイミングで自己着火させることができる。
SPCCI燃焼において、SI燃焼時の熱発生は、CI燃焼時の熱発生よりも穏やかである。SPCCI燃焼における熱発生率の波形は、図6の符号6014、6024、6034、及び6063に例示するように、立ち上がりの傾きが相対的に小さくなる。また、燃焼室17の中における圧力変動(dp/dθ)も、SI燃焼時は、CI燃焼時よりも穏やかになる。言い換えると、SPCCI燃焼の熱発生率波形は、SI燃焼によって形成された相対的に立ち上がりの傾きが小さい第1熱発生率部と、CI燃焼によって形成された相対的に立ち上がりの傾きが大きい第2熱発生率部とが、この順番に連続するよう形成されている。
SI燃焼によって、燃焼室17の中の温度及び圧力が高まると、未燃混合気が自己着火する。図6に示す熱発生率の波形6014、6024、6034、及び6063の例では、自己着火のタイミングで、波形の傾きが、小から大へと変化している。つまり、熱発生率の波形は、CI燃焼が開始するタイミングで、変曲点を有している。
CI燃焼の開始後は、SI燃焼とCI燃焼とが並行して行われる。CI燃焼は、SI燃焼よりも熱発生が大きいため、熱発生率は相対的に大きくなる。但し、CI燃焼は、圧縮上死点後に行われるため、ピストン3がモータリングによって下降している。CI燃焼による、熱発生率の波形6014、6024、6034、及び6063の傾きが大きくなりすぎることが回避される。CI燃焼時のdp/dθも比較的に穏やかになる。
dp/dθは、燃焼騒音を表す指標として用いることができるが、前述の通りSPCCI燃焼は、dp/dθを小さくすることができるため、燃焼騒音が大きくなりすぎることを回避することが可能になる。燃焼騒音は、許容レベル以下に抑えることができる。
CI燃焼が終了することによって、SPCCI燃焼が終了する。CI燃焼は、SI燃焼と比べて、燃焼期間が短い。SPCCI燃焼は、SI燃焼よりも、燃焼終了時期が早まる。言い換えると、SPCCI燃焼は、膨張行程中の燃焼終了時期を、圧縮上死点に近づけることが可能である。SPCCI燃焼は、SI燃焼よりも、エンジン1の燃費性能の向上に有利である。
また、SPCCI燃焼では、SI燃焼(第1熱発生率部)の熱発生量をエンジンの運転状態に応じて変化させることにより、CI燃焼(第2熱発生率部)の開始時期がエンジンの運転状態に応じて設定される目標CI燃焼開始時期となるように、燃焼制御手段(EGR、VVT、吸気量制御手段)を制御する。
エンジン1は、また、他の領域、すなわち、高負荷低回転領域(3)及び高回転領域(4)においては、火花点火によるSI燃焼動作を行う。以下、各領域におけるエンジン1の運転について、図6に示す燃料噴射時期及び点火時期を参照しながら詳細に説明をする。
図6は図5の運転領域マップ501、502の各領域における燃焼噴射時期及び点火時期を表している。図6の符号601、602、603、604、605、及び606は、図5の運転状態601、602、602、603、604、605、及び606にそれぞれ対応する。運転状態606は、高負荷中回転領域(2)において、回転数が高い運転状態に相当する。
(低負荷領域(1)−1)
エンジン1が低負荷領域(1)−1において運転している際に、エンジン1は、前述したように、CI燃焼動作を行う。自己着火による燃焼は、圧縮開始前の燃焼室17の中の温度がばらつくと、自己着火のタイミングが大きく変化する。そこで、エンジン1は、低負荷領域(1)−1において、SI燃焼とCI燃焼とを組み合わせたSPCCI燃焼動作を行う。
エンジン1が、低負荷領域(1)−1の運転状態601で運転する際に、インジェクタ6は、圧縮行程中において燃料を複数回に分けて、燃焼室17の中に噴射する(符号6015、6016を参照)。燃料の分割噴射と、燃焼室17の中の強いスワール流とによって、燃焼室17の中央部と外周部とにおいて混合気が成層化する。
エンジン1が低負荷領域(1)−1において運転するときに、スワール比の値は4以上となるように制御する。ここで、スワール比を定義すると、「スワール比」は、吸気流横方向角速度をバルブリフトごとに測定して積分した値を、エンジン角速度で除した値である。吸気流横方向角速度は、図7に示すリグ試験装置を用いた測定に基づいて求めることができる。すなわち、図7に示す装置は、基台にシリンダヘッド13を上下反転にして載置し、吸気ポート18を図外の吸気供給装置に接続する一方、そのシリンダヘッド13の上にシリンダ36を載置すると共に、その上端にハニカム状ロータ37を有するインパルスメータ38を接続して構成されている。インパルスメータ38の下面は、シリンダヘッド13とシリンダブロックとの合わせ面から1.75D(ここで、Dはシリンダボア径)の位置に合わせてある。吸気供給に応じてシリンダ36内に生じるスワール(図7のシリンダ36内の矢印を参照。)によって、ハニカム状ロータ37に作用するトルクをインパルスメータ38によって計測し、それに基づいて、吸気流横方向角速度を求めることができる。
図8は、このエンジン1におけるスワールコントロール弁56の開度と、スワール比の値との関係を示している。図8は、スワールコントロール弁56の開度を、セカンダリ通路402の全開断面に対する開口比率によって表している(図3を参照。)。スワールコントロール弁56が全閉のときに、セカンダリ通路402の開口比率は0%となり、スワールコントロール弁56の開度が大きくなると、セカンダリ通路402の開口比率が0%よりも大きくなる。スワールコントロール弁56が全開のときに、セカンダリ通路402の開口比率は100%となる。図8に例示するように、このエンジン1は、スワールコントロール弁56を全閉にすると、スワール比の値は6程度となる。エンジン1が低負荷領域(1)−1において運転するときに、スワール比の値は4以上且つ6以下とすればよい。すなわち、スワールコントロール弁56の開度は、開口比率が0〜15%となる範囲で調整すればよい。
燃料噴射の終了後、圧縮上死点前の所定のタイミングで、点火プラグ25は、燃焼室17の中央部の混合気に点火をする(符号6013を参照)。中央部の混合気は燃料濃度が相対的に高いため、着火性が向上すると共に、火炎伝播によるSI燃焼が安定化する。SI燃焼が安定化することにより、CI燃焼が適切なタイミングで開始する(燃焼波形6014を参照)。SPCCI燃焼において、CI燃焼のコントロール性が向上する。その結果、エンジン1が低負荷領域(1)−1において運転する際には、燃焼騒音の発生の抑制と、燃焼期間の短縮による燃費性能の向上とを両立することができる。
低負荷領域(1)−1において、エンジン1は、混合気を理論空燃比よりもリーンの状態でSPCCI燃焼動作を行うため、低負荷領域(1)−1は、「SPCCIλ>1領域」と呼ぶことができる。
(中負荷領域(1)−2)
エンジン1が中負荷領域(1)−2において運転している際にも、低負荷領域(1)−1と同様に、エンジン1は、SPCCI燃焼動作を行う。
エンジン1が、中負荷領域(1)−2において運転状態602で運転する際に、インジェクタ6は、吸気行程中の燃料噴射(符号6025を参照)と、圧縮行程中の燃料噴射(符号6026を参照)とを行う。吸気行程中に第1噴射6025を行うことにより、燃焼室17の中に燃料を略均等に分布させることができる。圧縮行程中に第2噴射6026を行うことにより、中負荷領域(1)−2内において負荷が高いときに、燃焼室17内の温度を燃料の気化潜熱により低下させてノッキング等の異常燃焼を防止することができる。第1噴射6025の噴射量と第2噴射6026の噴射量との割合は一例として、95:5としてもよい。
インジェクタ6が、吸気行程中の第1噴射6025と圧縮行程中の第2噴射6026とを行うことによって、燃焼室17の中には、全体として空気過剰率λが1.0±0.2になった混合気が形成される。混合気の燃料濃度が略均質であるため、未燃損失の低減による燃費の向上、及びスモークの発生回避による排出ガス性能の向上を図ることができる。空気過剰率λは、好ましくは、1.0〜1.2である。
圧縮上死点の前の所定のタイミングで、点火プラグ25が混合気に点火をすることによって(符号6023を参照)、混合気は火炎伝播により燃焼する。火炎伝播による燃焼が開始した後、未燃混合気が目標タイミングで自己着火して、CI燃焼する(燃焼波形6024を参照)。
中負荷領域(1)−2において、エンジン1は、混合気を理論空燃比にしてSPCCI燃焼動作を行うため、中負荷領域(1)−2は、「SPCCIλ=1領域」と呼ぶことができる。
ここで、図5のマップ501に示すように、低負荷領域(1)−1の一部、及び中負荷領域(1)−2の一部においては、過給機44がオフにされる(図中の「S/C OFF」の記載を参照。)。詳細には、低負荷領域(1)−1における低回転側の領域においては、過給機44がオフにされる。低負荷領域(1)−1における高回転側の領域においては、エンジン1の回転数が高くなることに対応して必要な吸気充填量を確保するために、過給機44がオンにされて過給圧を高くする。また、中負荷領域(1)−2における低負荷低回転側の領域においては、過給機44がオフにされ、中負荷領域(1)−2における高負荷側の領域においては、燃料噴射量が増えることに対応して必要な吸気充填量を確保するために、過給機44がオンにされる。また、高回転側の領域においても、エンジン1の回転数が高くなることに対応して必要な吸気充填量を確保するために、過給機44がオンにされる。
尚、高負荷中回転領域(2)、高負荷低回転領域(3)、及び高回転領域(4)の各領域においては、その全域に亘って過給機44がオンとなる。
(高負荷中回転領域(2))
エンジン1が高負荷中回転領域(2)において運転している際にも、低負荷領域(1)−1及び中負荷領域(1)−2と同様に、エンジン1は、SPCCI燃焼動作を行う。
エンジン1が、高負荷中回転領域(2)における低回転側の運転状態603で運転する際に、インジェクタ6は、吸気行程において燃料を噴射する(符号6035を参照)と共に、圧縮行程の終期に燃料を噴射する(符号6036を参照)。
吸気行程に開始する前段噴射6035は、吸気行程の前半に燃料噴射を開始してもよい。吸気行程の前半は、吸気行程を前半と後半とに2等分したときの前半としてもよい。具体的に、前段噴射は上死点前280°CAで燃料噴射を開始してもよい。
前段噴射6035の噴射開始を吸気行程の前半にすると、燃料噴霧がキャビティ31の開口縁部に当たることによって、一部の燃料は燃焼室17のスキッシュエリア171に入り、残りの燃料はキャビティ31の内部に入る。スワール流は、燃焼室17の外周部において強く、中央部において弱くなっている。そのため、スキッシュエリア171に入った一部の燃料はスワール流に入り、キャビティ31の内部に入った残りの燃料は、スワール流の内側に入る。スワール流に入った燃料は、吸気行程から圧縮行程の間、スワール流の中に留まり、燃焼室17の外周部においてCI燃焼用の混合気を形成する。スワール流の内側に入った燃料も、吸気行程から圧縮行程の間、スワール流の内側に留まり、燃焼室17の中央部においてSI燃焼用の混合気を形成する。
エンジン1が高負荷中回転領域(2)において運転する際には、例えば図9に示すように、点火プラグ25が配置されている中央部の混合気は、好ましくは空気過剰率λが1以下であり、外周部の混合気は、空気過剰率λが1以下、好ましくは1未満である。中央部の混合気の空燃比(A/F)は、例えば13以上、理論空燃比(14.7)以下としてもよい。中央部の混合気の空燃比は、理論空燃比よりもリーンであってもよい。また、外周部の混合気の空燃比は、例えば11以上で理論空燃比以下、好ましくは11以上且つ12以下としてもよい。燃焼室17の全体の混合気の空燃比は、12.5以上且つ理論空燃比以下、好ましくは12.5以上且つ13以下としてもよい。
圧縮行程の終期に行う後段噴射6036は、例えば上死点前10°CAで燃料噴射を開始してもよい。上死点の直前で後段噴射を行うことにより、燃料の気化潜熱によって燃焼室内の温度を低下させることができる。前段噴射6035によって噴射された燃料は、圧縮行程の間に低温酸化反応が進み、上死点前において高温酸化反応に移行するようになる。このとき、上死点の直前で後段噴射6036を行い、燃焼室内の温度を低下させることにより、低温酸化反応から高温酸化反応へ移行することを抑制することができ、過早着火の発生を抑制することができる。尚、前段噴射6035の噴射量と後段噴射6036の噴射量との割合は、一例として、95:5としてもよい。
点火プラグ25は、圧縮上死点付近において、燃焼室17の中央部の混合気に点火をする(符号6037を参照)。点火プラグ25は、例えば、圧縮上死点以降に点火を行う。点火プラグ25は燃焼室17の中央部に配置されているため、点火プラグ25の点火によって、中央部の混合気が火炎伝播によるSI燃焼を開始する。SI燃焼の火炎は、燃焼室17内の強いスワール流れに乗って周方向に伝播する。燃焼室17の外周部における周方向の所定の位置において、未燃混合気が圧縮着火をし、CI燃焼が開始する(燃焼波形6034を参照)。
これに対し、エンジン1が高負荷中回転領域(2)における高回転側の運転状態606で運転する際には、インジェクタ6は、吸気行程において燃料噴射を開始する(符号6061を参照)。
吸気行程に開始する前段噴射6061は、運転状態603の前段噴射6035と同様に、吸気行程の前半に燃料噴射を開始してもよい。具体的には、前段噴射6061は、上死点前280°CAで燃料噴射を開始してもよい。前段噴射6061の終了は、吸気行程を超えて圧縮行程中になる場合がある。前段噴射6061の噴射開始を吸気行程の前半にすることによって、燃焼室17の外周部においてCI燃焼用の混合気を形成すると共に、燃焼室17の中央部においてSI燃焼用の混合気を形成することができる。回転数が高いことから、異常燃焼が発生し難いため、後段噴射を省略することができる。
点火プラグ25は、圧縮上死点付近において、燃焼室17の中央部の混合気に点火をする(符号6062を参照)。点火プラグ25は、例えば、圧縮上死点以降に点火を行う。これにより、SPCCI燃焼が行われる(燃焼波形6063を参照)。
図10は、高負荷中回転領域(2)における燃焼のコンセプトを表している。燃焼室17内に強いスワール流を発生させると、図10に白抜きの矢印で示すように、燃焼室17の外周部には強いスワール流が生じる。一方、中央部のスワール流は相対的に弱くはなるものの、中央部と外周部との境界における速度勾配に起因する渦流によって、中央部は、乱流エネルギが高くなる。
前述したように、点火プラグ25が中央部の混合気に点火をすると、SI燃焼は高い乱流エネルギにより、燃焼速度が高くなって安定化すると共に、SI燃焼の火炎は、図13に黒太矢印で示すように、混合気が燃焼室17の壁面及びその近傍に沿うと共に、該燃焼室17内の強いスワール流に乗って周方向に伝播する。燃焼室17の中を、吸気−リヤ側部分、リヤ−排気側部分、排気−フロント側部分、及びフロント−吸気側部分の4つの部分に区分けすると、点火プラグ25は、吸気−排気方向については、吸気側に配置されていると共に、スワール流は、図10における反時計回り方向である。従って、SI燃焼の火炎は、吸気−リヤ側部分から、リヤ−排気側部分及び排気−フロント側部分を介して、フロント−吸気側部分へと至る。SI燃焼の発熱及び火炎伝播による圧力上昇により、図10に破線の矢印で示すように、吸気−フロント側部分の外周部において未燃混合気が圧縮着火をし、CI燃焼が開始する。この燃焼開始前のCI燃焼領域は、他の既燃領域と比べて温度が低い領域である。
このSPCCI燃焼のコンセプトでは、燃焼室17の中において混合気を成層化することと、燃焼室17の中に強いスワール流を発生させることとによって、CI燃焼の開始までにSI燃焼を十分に行うことができる。その結果、SIノックの発生が抑制されるので、燃焼騒音が抑制される。同時に、燃焼温度が高くなり過ぎることがなく、さらに、NOxの生成も抑制される。また、サイクル間におけるトルクのばらつきを抑制することができる。
また、燃焼室17の外周部の温度が低いため、CI燃焼が緩やかとなり、燃焼騒音の発生を抑制することができる。さらに、CI燃焼によって燃焼期間が短くなるため、高負荷領域においてトルクの向上、及び熱効率の向上が図られる。ところで、SIノックは、燃焼室内における燃焼時のエンドガスの自己着火による高圧の圧力波であり、約7kHz〜8kHzの高周波である。一方、CIノックは、エンジン1の本体の構成部材である、ピストン3、コネクティングロッド14及びクランクシャフト15等の作動時の共振音であり、共振モードによって、約1.3kHz、約1.7kHz、約2.5kHz及び約3.5kHzにピークがあることを確認している。
このように、本エンジン1は、負荷が高い領域においてSPCCI燃焼動作を行うことにより、燃焼騒音を回避しながら、燃費性能を向上させることができる。
ここで、図11は、高負荷中回転領域(2)において、スワールコントロール弁(SCV)の開度を変更したときの、SPCCI燃焼の複数の燃焼波形を比較している。燃焼波形は、クランク角(CA)に対する熱発生率の変化を示している。スワールコントロール弁56の開度は、図9と同様に、セカンダリ通路402の全開断面に対する開口比率によって表している。
先ず、図11に破線で示すように、スワールコントロール弁56の開度を全開にすると(すなわち、開口比率が100%)、燃焼室17内においてスワール流が発生しない。点火プラグ25が混合気に点火した後、火炎伝播による燃焼が開始するが、SI燃焼の立ち上がりは緩やかになる。スワール流が発生しないとCI燃焼が発生せず、SI燃焼のみとなる。その結果、燃焼重心が圧縮上死点から離れてしまうと共に、燃焼期間が長くなる。
スワールコントロール弁56の開度を、全閉(すなわち、開口比率が0%)、5%、10%としたときには、燃焼波形において、SI燃焼の立ち上がりが、スワールコントロール弁56の全開時よりも急峻となる。SI燃焼の燃焼速度が高くなる。また、スワール流を発生させると、SI燃焼の開始後、CI燃焼が発生する。SPCCI燃焼を行うことによって、燃焼重心が圧縮上死点から近づくと共に、燃焼期間が短くなる。
スワールコントロール弁56の開度を15%としたときには、燃焼波形において、SI燃焼の立ち上がりが緩やかになる。その後、CI燃焼が発生するものの、燃焼期間は、比較的に長くなってしまう。
図11から、スワールコントロール弁56の開度は15%未満にすることが、燃焼重心を圧縮上死点に近づけ、且つ、燃焼期間を短くする上で有効である。また、図8に示すように、スワールコントロール弁56の開度を15%未満とすれば、スワール比の値は4以上となる。従って、エンジン1が高負荷中回転領域(2)において運転している際には、スワールコントロール弁56の開度を15%未満(すなわち、0〜15%)とし、スワール比の値を4以上(すなわち、4〜6程度)とすることによって、SPCCI燃焼を適切に行うことができるようになる。
高負荷中回転領域(2)においては、エンジン1は、混合気を理論空燃比よりもリッチな状態でSPCCI燃焼動作を行うため、高負荷中回転領域(2)は、「SPCCIλ≦1領域」と呼ぶことができる。
(高負荷低回転領域(3))
エンジン1の回転数が低い場合には、クランク角が1°だけ変化するのに要する時間が長くなる。高負荷低回転領域(3)において、高負荷中回転領域(2)と同様に、例えば、吸気行程及び圧縮行程の前半に、燃焼室17内に燃料を噴射すると、燃料の反応が進み過ぎてしまい、過早着火を招くおそれがある。エンジン1が高負荷低回転領域(3)において運転している際には、前述したSPCCI燃焼動作を行うことが困難となる。
そこで、エンジン1が高負荷低回転領域(3)において運転しているときに、エンジン1は、SPCCI燃焼動作ではなく、SI燃焼動作を行うようにする。
エンジン1が高負荷低回転領域(3)における運転状態604で運転する際に、インジェクタ6は、吸気行程中と、圧縮行程終期から膨張行程初期までのリタード期間とのそれぞれのタイミングで、燃焼室17の中に燃料を噴射する(符号6044、6045を参照)。このように、2回に分けて燃料を噴射することにより、リタード期間内に噴射する燃料量を少なくすることができる。吸気行程中に燃料を噴射することにより(符号6044を参照)、混合気の形成時間を十分に確保することができる。また、リタード期間に燃料を噴射することにより(符号6045を参照)、点火直前に燃焼室17の中の流動を高めることができるので、SI燃焼の安定化に有利となる。この燃料噴射の形態は、エンジン1の幾何学的圧縮比の値が低いときに特に有効である。
点火プラグ25は、燃料を噴射した後、圧縮上死点付近のタイミングで、混合気に点火する(符号6042を参照)。点火プラグ25は、例えば、圧縮上死点後に点火を行ってもよい。混合気は、膨張行程においてSI燃焼をする。SI燃焼が膨張行程において開始するため、CI燃焼は開始しない(燃焼波形6043を参照)。
高負荷低回転領域(3)においてエンジン1は、燃料を圧縮行程終期から膨張行程初期までのリタード期間に噴射をしてSI燃焼動作を行うため、高負荷低回転領域(3)は、「リタード−SI領域」と呼ぶことができる。
(高回転領域(4))
エンジン1の回転数が高いと、クランク角が1°だけ変化するのに要する時間が短くなる。このため、例えば、高負荷領域における高回転領域において、圧縮行程中に分割噴射を行うことによって、燃焼室17内において混合気の成層化をすることは困難となる。すなわち、エンジン1の回転数が高くなると、前述したSPCCI燃焼動作を行うことが困難となる。このため、エンジン1が高回転領域(4)において運転している際には、エンジン1は、SPCCI燃焼動作ではなく、SI燃焼動作を行う。尚、高回転領域(4)は、低負荷から高負荷まで負荷方向の全域に広がっている。
図6の符号605は、エンジン1が高回転領域(4)の、負荷が高い領域において運転しているときの燃料噴射時期(符号6051を参照)及び点火時期(符号6052を参照)、並びに燃焼波形(符号6053を参照)のそれぞれの一例を示している。
EGRシステム55は、エンジン1の運転状態が高回転領域(4)にあるときに、燃焼室17の中にEGRガスを導入する。エンジン1は、負荷が高まるに従いEGRガスの量を減らす。全開負荷では、EGRガスを0とすればよい。
エンジン1は、高回転領域(4)において運転する際には、スワールコントロール弁(SCV)56を全開にする。燃焼室17内にはスワール流が発生せず、タンブル流のみが発生する。スワールコントロール弁56を全開にすることにより、高回転領域(4)において充填効率を高めることができると共に、ポンプ損失を低減することが可能となる。
エンジン1が高回転領域(4)において運転するときに、混合気の空燃比(A/F)の値は、基本的には、燃焼室17の全体において理論空燃比(A/F=14.7)である。すなわち、混合気の空気過剰率λは、1.0±0.2とすればよい。尚、高回転領域(4)内の、全開負荷を含む高負荷領域においては、混合気の空気過剰率λを1未満にしてもよい。
エンジン1が高回転領域(4)において運転する際には、インジェクタ6は、吸気行程中に燃料噴射を開始する。インジェクタ6は、燃料を一括で噴射する。尚、図6の符号6051は、エンジン1の負荷が高く、燃料噴射量が多いときにおける燃料の噴射状態を例示しており、燃料の噴射量に応じて、燃料の噴射期間は変化する。吸気行程中に燃料噴射を開始することによって、燃焼室17の中に、均質又は略均質な混合気を形成することが可能となる。また、エンジン1の回転数が高いときに、燃料の気化時間をできるだけ長く確保することができるため、未燃損失の低減及び煤の発生の抑制をも図ることができる。
点火プラグ25は、燃料の噴射終了後、圧縮上死点前の適宜のタイミングで混合気に点火を行う(符号6052を参照)。
高回転領域(4)においてエンジン1は、燃料噴射を吸気行程中に開始してSI燃焼動作を行うため、高回転領域(4)は、「吸気−SI領域」と呼ぶことができる。
(エンジンの制御プロセス)
次に、図12のフローチャートを参照しながら、ECU10が実行するエンジン1の運転制御について説明をする。先ず、スタート後のステップS1において、ECU10は、各センサSW1〜SW17、SW20〜SW24、SW31、SW51、SW101、SW102及びSW161の各信号を読み込む。ECU10は、続くステップS2において、エンジン1の運転領域を判断する。
ECU10は、ステップS3において、エンジン1が「SPCCIλ>1領域」(すなわち、低負荷領域(1)−1)で運転するか否かを判断する。ステップS3の判定が、YESのときには、プロセスはステップS8に進み、NOのときには、プロセスはステップS4に進む。
ECU10は、ステップS4において、エンジン1が「SPCCIλ=1領域」(すなわち、中負荷領域(1)−2)で運転するか否かを判断する。ステップS4の判定が、YESのときには、プロセスはステップS9に進み、NOのときには、プロセスはステップS5に進む。
ECU10は、ステップS5において、エンジン1が「SPCCIλ<1領域」(すなわち、高負荷中回転領域(2)で運転するか否かを判断する。ステップS5の判定が、YESのときには、プロセスはステップS10に進み、NOのときには、プロセスはステップS6に進む。
ECU10は、ステップS6において、エンジン1が「リタードSI領域」(すなわち、高負荷低回転領域(3)で運転するか否かを判断する。ステップS6の判定が、YESのときには、プロセスはステップS11に進み、NOのときには、プロセスはステップS7に進む。
ECU10は、ステップS7において、エンジン1の運転領域が「吸気SI領域」(すなわち、高回転領域(4)であるか否かを判断する。ステップS7の判定が、YESのときには、プロセスはステップS12に進み、NOのときには、プロセスはステップS1に戻る。
ステップS8において、ECU10は、スワールコントロール弁(SCV)56に、弁を閉じるよう制御信号を出力する。また、ECU10は、図6の符号601に示すように、圧縮行程に、前段噴射及び後段噴射を行うように、インジェクタ6に制御信号を出力する。強いスワール流が発生した燃焼室17の中に、成層化した混合気を形成することができる。その後のステップS13において、ECU10は、圧縮上死点前の所定のタイミングで点火を行うように、点火プラグ25に制御信号を出力する。これにより、エンジン1は、SPCCI燃焼動作を行う。
ステップS9において、ECU10は、スワールコントロール弁56に、弁を閉じるよう制御信号を出力する。また、ECU10は、図6の符号602に示すように、圧縮行程において、吸気行程に前段噴射、及び圧縮行程に後段噴射を行うように、インジェクタ6に制御信号を出力する。強いスワール流が発生した燃焼室17の中にλ=1の混合気を形成することができる。ECU10は、その後のステップS13において、圧縮上死点前の所定のタイミングで点火を行うように、点火プラグ25に制御信号を出力する。これにより、エンジン1は、SPCCI燃焼動作を行う。
ステップS10において、ECU10は、スワールコントロール弁56に、弁を閉じるよう制御信号を出力する。また、ECU10は、圧縮行程において燃料を分割噴射するように(図6の符号603を参照)、又は吸気行程において燃料を一括噴射するように(図6の符号606を参照)、インジェクタ6に制御信号を出力する。強いスワール流が発生した燃焼室17の中に、成層化した混合気を形成することができる。ECU10は、その後のステップS13において、圧縮上死点後の所定のタイミングで点火を行うように、点火プラグ25に制御信号を出力する。これにより、エンジン1は、SPCCI燃焼動作を行う。
ステップS11において、ECU10は、スワールコントロール弁56に、弁が半開となるよう制御信号を出力する。また、ステップS13において、ECU10は、図6の符号604に示すように、吸気行程中と、圧縮行程終期から膨張行程初期までのリタード期間中とに燃焼室17の中に燃料を噴射するように、インジェクタ6に制御信号を出力する。ECU10は、燃料の噴射終了後で且つ圧縮上死点後の所定のタイミングで点火を行うように、点火プラグ25に制御信号を出力する。これにより、エンジン1はSI燃焼動作を行う。
ステップS12において、ECU10は、スワールコントロール弁56に、弁を開けるように制御信号を出力する。また、ECU10は、吸気行程において燃料噴射を行うように、インジェクタ6に制御信号を出力する。燃焼室17の中に、均質又は略均質な混合気を形成することができる。その後のステップS13において、ECU10は、圧縮上死点前の所定のタイミングで点火を行うように、点火プラグ25に制御信号を出力する。これにより、エンジン1はSI燃焼動作を行う。
(他の実施形態)
尚、ここに開示する技術は、前述した構成のエンジン1に適用することに限定されない。エンジン1の構成は、様々な構成を採用することが可能である。
また、エンジン1は、機械式過給機44に代えて、ターボ過給機を備えるようにしてもよい。