しかし、盛土中にジオテキスタイルを上下複数段にして敷設した土留め構造体(補強土壁)では、その構造上、土留め構造体の敷設長(横断方向の長さ)が長くなるという問題があった。また、土のうを積み上げたり、複数の樹脂製ネットで形成された層の各層間に土のうを載置したりする場合では、土のうを一つ一つ作製しなければならないため、施工性が悪く、個々の土のうが独立しているため、土圧などの外部荷重に弱くて崩れる虞があるという問題があった。さらに、土のうは耐候性に劣るため、土のうを設置しただけでは、時間の経過とともに土圧などの外部荷重に耐えられなくなる虞があった。
そして、特許文献1に開示されているように、エキスパンドメタル板と樹脂ネットとを用いて単に超大型フトンカゴ形式の一体構造とした土木工作物を作製しただけでは、樹脂ネットが十分に緊張していない場合に、期待通りの強度を得られない虞があるという問題があった。また、このような土木工作物の強度がどの程度のものなのか不明確であった。
さらに、特許文献2では、上部から荷重が加わることによって、拘束土単体が横断方向にずれる虞があった。
そこで、本発明は、敷設長が短く、施工が容易であって、強度及び耐久性に優れ、設計段階で性能評価が可能な土留め構造体、及び該土留め構造体の施工方法を提供することを課題とする。
以下、本発明について説明する。なお、本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
第1の本発明は、法面(1d)に対して正面視方向に延在する鉛直面において、盛土材(3)を拘束するセル(2)を多段に有し、セルの略水平方向面を形成する部材にジオテキスタイル(12、13)を備えるとともに、セルの法面を形成する部材に壁面材(11)が用いられ、上下に配置されるセルに備えられる壁面材同士が、横断方向への動きを抑えるとともに、鉛直方向の移動は可能な連結手段(20)によって連結されている、土留め用枠体(1)と、セルに充填される盛土材と、を備えており、ジオテキスタイルが少なくとも横断方向に緊張されていることを特徴とする、土留め構造体(10)を提供することによって、上記課題を解決する。
ここに、「法面」とは、土留め構造体の敷設長方向(以下、「横断方向」ということがある。)の外側の面を意味する。すなわち、擁壁などのような片盛土タイプの土留め構造体の場合は地山側の反対側の面を意味し、橋梁などのような両盛土タイプの土留め構造体の場合は横断方向の両端側の面を意味する。
また、「法面に対して正面視方向に延在する鉛直面において、盛土材を拘束するセルを多段に有し」とは、上下多段に配置された複数のセルが一体構造をしており、それらのセルがそれぞれ、法面に対して正面視方向に延在する鉛直面において、盛土材の周囲を囲んでいることを意味する。「盛土材」とは、特に限定されるものではなく、砂や粘土などの現地発生土などを用いることができる。さらに、「セルの略水平方向面を形成する部材にジオテキスタイルを備える」とは、上記セルが略水平方向の面を含む面で囲まれることによって形成されており、その略水平方向の面を形成する部材にジオテキスタイルが含まれていることを意味する。「壁面材」とは、上記ジオテキスタイルと連結可能であるとともに、上下に積まれた壁面材同士連結することが可能であり、土留め構造体の法面を形成できる部材を意味する。このような壁面材の具体例としては、鋼製の網目状の部材を挙げることができる。「横断方向への動きを抑えるとともに、鉛直方向の移動は可能な連結手段」とは、上下に積まれた壁面材の上側の壁面材の下部と下側の壁面材の上部を重ねて連結することによって、上部から荷重を加えられると、上側の壁面材が横断方向へ動くことは抑制されるが、鉛直方向には移動できる手段を意味する。このような手段の具体例については後に詳述する。さらに、本発明において「緊張」とは、弛みをとる方向に引っ張られている状態を意味し、「ジオテキスタイルが少なくとも横断方向に緊張されている」とは、略水平方向に配設されたジオテキスタイルが緊張されている、又は、略水平方向に配設されたジオテキスタイルが緊張されるとともに、略鉛直方向に配設されたジオテキスタイルも緊張されていることを意味する。ジオテキスタイルを緊張させる方法については、後で詳述する。
上記第1の本発明の土留め構造体(10)において、壁面材(11)が、略L字型の鋼製壁面材であることが好ましい。
本発明において、「略L字型の鋼製壁面材」とは、設置状態での縦断方向(水平面及び法面に平行な方向)に対して垂直な方向の断面形状が略L字状の鋼製の壁面材を意味する。本発明の土留め構造体では、この鋼製壁面材が複数連結されることで、土留め構造体の法面全体を連続的に形成することが好ましい。このような鋼製壁面材で市販されているものとしては、例えば、三菱化学産資株式会社製のEXSパネルやEXCパネル、さらにEGパネルを挙げることができる。
上記第1の本発明の土留め構造体(10)において、土留め用枠体(1)の地山(200)側の面(1b)が、一繋がりのジオテキスタイル(12b)で形成されていることが好ましい。
ここに、「土留め用枠体の地山側の面が、一繋がりのジオテキスタイルで形成されている」とは、擁壁などのような片盛土タイプの土留め構造体の場合に、地山そって配設されるジオテキスタイルが一繋がりであることを意味し、「一繋がり」とは、地盤側から天端側まで連続した一のジオテキスタイル、又は、連結して一繋がりにされた複数のジオテキスタイルを意味する。
上記第1の本発明の土留め構造体(50)において、鋼製壁面材(53)と、ジオテキスタイル(57)と、が目合い調整パネル(60)を介して連結されていることが好ましい。
本発明において、「目合い調整パネル」とは、ジオテキスタイルの横方向ストランドとその横方向ストランドの隣の横方向ストランドとの間隔より狭い目を有する網目上の部材であって、鋼製壁面材とジオテキスタイルとの接続位置を微調整できる部材を意味する。ジオテキスタイルと鋼製壁面材で土留め構造体(セル)を作る際、ジオテキスタイルに弛みがあると、盛土時に土留め構造体(セル)の変形が大きくなってしまう。そのため、ジオテキスタイルの弛みをなるべく取り除く必要がある。本発明では、目合い調整パネルを使用することによって、そのジオテキスタイルの弛みを容易に取り除くことができる。
上記第1の本発明の土留め構造体(10)において、ジオテキスタイル(71)の、縦方向ストランド(71b)と横方向ストランド(71a)との結節点の強度が、縦方向ストランド及び横方向ストランドの強度以上であることが好ましい。
ここに、「結節点の強度」とは、横方向ストランドと縦方向ストランドの結節点(交点)付近において、横方向ストランド(又は縦方向ストランド)を固定し、縦方向ストランド(又は横方向ストランド)を引っ張ることで結節点の強度を測定し、その強度を1mあたりに換算する方法(JIS L1908)によって求められる値をいう。本発明では、一のジオテキスタイルの任意の場所にほぼ一定の張力が作用するため、結節点にも横方向ストランドや縦方向ストランドと同程度の張力が作用することになる。つまり、いくら横方向ストランド及び縦方向ストランドの強度が強くとも、結節点の強度が低いジオテキスタイルであれば、その結節点の強度と同程度の強度の横方向ストランド及び縦方向ストランドによって構成されるジオテキスタイルを用いたのと同じことになる。したがって、本発明では、結節点の強度が縦方向ストランド及び横方向ストランドの強度以上であるジオテキスタイルを用いることが好ましい。縦方向ストランドと横方向ストランドとの結節点の強度が、縦方向ストランド及び横方向ストランドの強度以上である市販のジオテキスタイルとしては、例えば、三菱化学産資株式会社製のテンサーを挙げることができる。
上記第1の本発明の土留め構造体(10)において、一のセル(2)について、セルを形成する部材の引っ張り強さをT、セルの高さをH、セルの横断方向長さをB、セルに充填された盛土材(3)の受動土圧係数をKp、セルに充填された盛土材の内部摩擦角をφとして、下記(1)式より求められる、セルに充填された盛土材の理論擬似粘着力c1に対して、セルに充填された盛土材の実際の擬似粘着力c2が下記(2)式の関係にあることが好ましい。
ここに、「粘着力」とは、土のせん断抵抗を求めるための定数であり、「擬似粘着力」とは、盛土材が土留め用枠体のセルに拘束されることで得られる粘着力である。そして、「理論擬似粘着力c1」とは、2次元モデルを用いた場合に上記(1)式より理論的に求められる擬似粘着力であり、「実際の擬似粘着力c2」は実際に実験することで求められる擬似粘着力である。盛土材には不確定要素が多いため、理論擬似粘着力c1と実際の擬似粘着力c2が等しくなるとは限らず、上記(2)式程度の関係になる。理論擬似粘着力c1の算出過程については、後に詳述する。
上記第1の本発明の土留め構造体(10)において、土留め用枠体の縦断方向の端面が、壁面材又はジオテキスタイルで覆われていても良い。
土留め用枠体の縦断方向の端面が、壁面材又はジオテキスタイルで覆われた、上記第1の本発明の土留め構造体(10)において、一のセル(2)について、セルを形成する部材の引っ張り強さをT、セルの高さをH、セルの横断方向長さをB、セルの縦断方向長さをL、セルに充填された盛土材(3)の受動土圧係数をKp、セルに充填された盛土材の内部摩擦角をφとして、下記(3)式より求められる、セルに充填された盛土材の理論擬似粘着力c3に対して、セルに充填された盛土材の実際の擬似粘着力c2が下記(4)式の関係にあることが好ましい。
ここに、「理論擬似粘着力c3」とは、3次元モデルを用いた場合に上記(3)式より理論的に求められる擬似粘着力である。盛土材には不確定要素が多いため、理論擬似粘着力c3と実際の擬似粘着力c2が等しくなるとは限らず、上記(4)式程度の関係になる。理論擬似粘着力c3の算出過程については、後に詳述する。
上記第1の本発明の土留め構造体(10、50)は、擁壁、堤防、又は橋梁として好適に用いることができる。
第2の本発明は、法面(1d)に対して正面視方向に延在する鉛直面において、盛土材を拘束するセル(2)を多段に有する土留め用枠体(1)と、セルに充填される盛土材(3)と、を備える、片盛土タイプの土留め構造体の施工方法であって、略L字型の鋼製壁面材(11f)とジオテキスタイル(12)と、を連結する工程、鋼製壁面材を地盤(100)に固定し、ジオテキスタイルのうち土留め用枠体の底面を形成する底面部(12a)を横断方向に緊張させて固定するとともに、ジオテキスタイルのうち土留め用枠体の背面を形成する背面部(12b)を地山(200)に添わせる工程、及び、鋼製壁面材とジオテキスタイルとによって形成される空間に、盛土材(3)を締固めながら充填する工程、を備える、第1工程、前工程で充填された盛土材の上に、略L字型の鋼製壁面材(11e)とジオテキスタイル(13)と、を設置する工程であって、前工程で設置された鋼製壁面材の上部と本工程で設置する鋼製壁面材の下部とを連結し、本工程で設置する鋼製壁面材と本工程で設置するジオテキスタイルとを連結するとともに、本工程で設置するジオテキスタイルが横断方向に緊張されるように、本工程で設置するジオテキスタイルと背面部とを連結させる工程、及び、前工程で設置された鋼製壁面材と、前工程で設置されたジオテキスタイルと、背面部と、によって形成される空間に、盛土材を締固めながら充填する工程、を備える、第2工程、所定高さまで第2工程を繰り返す、第3工程、並びに、天端処理を行う工程、を備えることを特徴とする、土留め構造体(10)の施工方法である。
上記第2の本発明の土留め構造体(10)の施工方法の第2工程において、ジオテキスタイル(13)と背面部(12b)とを連結させる際に、背面部を鋼製壁面材側への弛ませておき、ジオテキスタイルと背面部とを連結した後、背面部を緊張させることが好ましい。
上記第2の本発明の土留め構造体(10)の施工方法の第2工程において、前工程で設置された鋼製壁面材の上部と本工程で設置する鋼製壁面材の下部とを、横断方向への動きを抑えるとともに、鉛直方向の移動は可能な連結手段によって連結することが好ましい。
上記第2の本発明の土留め構造体(10)の施工方法の第1工程において、鋼製壁面材及びジオテキスタイルを、目合い調整パネル(60)を介して連結させても良い。
上記第2の本発明の土留め構造体(10)の施工方法において、一のセル(2)について、セルを形成する部材の引っ張り強さをT、セルの高さをH、セルの横断方向長さをB、セルに充填された盛土材(3)の受動土圧係数をKp、セルに充填された盛土材の内部摩擦角をφとして、上記(1)式より求められる、セルに充填された盛土材の理論擬似粘着力c1に対して、セルに充填された盛土材の実際の擬似粘着力c2が上記(2)式の関係にあることが好ましい。
第3の本発明は、法面(51b、51d)に対して正面視方向に延在する鉛直面において盛土材を拘束するセル(52)を多段に有する土留め用枠体(51)と、セルに充填される盛土材(3)と、を備えている、両盛土タイプの土留め構造体の施工方法であって、土留め用枠体の最下段のセル(52e)の法面を形成する略L字型の鋼製壁面材(53、54)を地盤(101)に設置するとともに、ジオテキスタイル(57)が横断方向に緊張されるように、鋼製壁面材とジオテキスタイルと、を連結させる、第4工程、前工程で設置された鋼製壁面材と、前工程で設置されたジオテキスタイルと、によって形成される空間に、盛土材を締固めつつ充填する、第5工程、前工程で充填された盛土材の上に、略L字型の鋼製壁面材(55、56)と、ジオテキスタイル(58)と、を設置する工程であって、前工程で設置された鋼製壁面材の上部と、本工程で設置する鋼製壁面材の下部と、を連結させるとともに、本工程で設置するジオテキスタイルが横断方向に緊張されるように、本工程で設置する鋼製壁面材と、本工程で設置するジオテキスタイルと、を連結する、第6工程、所定高さまで、第5工程及び第6工程を繰り返す、第7工程、並びに、天端処理を行う工程、を備えることを特徴とする、土留め構造体(50)の施工方法である。
上記第3の本発明の土留め構造体(50)の施工方法の上記第6工程において、前工程で設置された鋼製壁面材の上部と本工程で設置する鋼製壁面材の下部とを、横断方向への動きを抑えるとともに、鉛直方向の移動は可能な連結手段によって連結することが好ましい。
上記第3の本発明の土留め構造体(50)の施工方法の第4工程及び/又は第6工程において、鋼製壁面材(53)及びジオテキスタイル(57)を、目合い調整パネル(60)を介して連結させることが好ましい。
上記第3の本発明の土留め構造体(50)の施工方法において、一のセル(52)について、セルを形成する部材の引っ張り強さをT、セルの高さをH、セルの横断方向長さをB、セルに充填された盛土材(3)の受動土圧係数をKp、セルに充填された盛土材の内部摩擦角をφとして、上記(1)式より求められる、セルに充填された盛土材の理論擬似粘着力c1に対して、セルに充填された盛土材の実際の擬似粘着力c2が上記(2)式の関係にあることが好ましい。
第1の本発明によれば、上下に複数のセルを有する土留め用枠体の該セルで盛土材が拘束されることによって、大きな土のうを積み上げて一体化したかのような土留め構造体を得ることができる。かかる形態とすることによって、施工が容易であって、敷設長が短い土留め構造体を得ることができる。また、セルの略水平方向面を形成する部材にジオテキスタイルを用いることによって、耐久性に優れた土留め構造体とすることができる。さらに、上下に配置されるセルに備えられる壁面材同士が、横断方向への動きを抑えるとともに、鉛直方向の移動は可能な連結手段によって連結されることによって、上部から大きな荷重が加えられてもセルが座屈したり横断方向にずれたりすることを抑制できる。さらに、上記ジオテキスタイルを横断方向に緊張させることによって、高強度の土留め構造体とすることができる。したがって、敷設長が短く、施工が容易であって、強度及び耐久性が優れた土留め構造体を提供することができる。
さらに、土留め用枠体の法面を形成する部材にL字型の鋼製壁面材を用いることによって、施工が容易であって、盛土材を充填する際に土留め用枠体が変形することを抑制できる、土留め構造体を提供することができる。
さらに、土留め用枠体の地山側の面を、一繋がりのジオテキスタイルで形成することによって、略水平方向に配設されるジオテキスタイルを緊張させることが容易な、土留め構造体を提供することができる。
さらに、壁面材と、ジオテキスタイルとが、目合い調整パネルを介して連結されることで、ジオテキスタイルを横断方向に緊張させることが容易な、土留め構造体を提供することができる。
さらに、縦方向ストランドと横方向ストランドとの結節点の強度が、縦方向ストランド及び横方向ストランドの強度以上であるジオテキスタイルを用いることによって、ジオテキスタイルと鋼製壁面材との連結部分での強度、及びジオテキスタイル同士の連結部分での強度が強い土留め用枠体を得られる。かかる形態とすることによって、土留め用枠体の略水平方向面を形成するジオテキスタイルに、土留め用枠体のセルに充填される盛土材を拘束するための拘束力に必要なジオテキスタイルの張力が確実に伝達される、土留め用枠体を提供することができる。
さらに、土留め用枠体に備えられるセルと該セルに拘束される盛土材を、それぞれ一の土のうとみなせることによって、縦断方向に対して垂直な方向の断面において2次元的に解析することで、セルに拘束された盛土材の理論擬似粘着力c1を算出できる。この理論擬似粘着力c1を用いて、セルに拘束された盛土材の内的安定性を照査することが可能であり、設計段階で土留め構造体の性能評価をすることができる。
さらに、土留め用枠体の縦断方向の端面が、壁面材又はジオテキスタイルで覆われている形態とすることによって、縦断方向長さが短い場合にも、第1の本発明の土留め構造体土留め構造体を好適に用いることができる。
土留め用枠体の縦断方向の端面が、壁面材又はジオテキスタイルで覆われている場合には、土留め用枠体に備えられるセルと該セルに拘束される盛土材を、それぞれ一の土のうとみなせることによって、3次元的に解析することで、セルに拘束された盛土材の理論擬似粘着力c3を算出できる。この理論擬似粘着力c3を用いて、セルに拘束された盛土材の内的安定性を照査することが可能であり、設計段階で土留め構造体の性能評価をすることができる。
さらに、第1の本発明の土留め構造体を擁壁、堤防、又は橋梁に用いることで、敷設長が短く、施工が容易であって、強度及び耐久性に優れ、設計段階で性能評価が可能な、擁壁、堤防、又は橋梁を提供することができる。
第2の本発明によれば、敷設長が短く、施工が容易であって、強度及び耐久性に優れ、設計段階で性能評価が可能な、片盛土タイプの土留め構造体の施工方法を提供することができる。
さらに、第2工程において、略水平方向に配設されるジオテキスタイルと背面部とを連結させる際に、背面部を鋼製壁面材側へ弛ませておき、ジオテキスタイルと背面部とを連結した後、背面部を緊張させることによって、セルの略水平方向面の一部を形成するジオテキスタイルを横断方向に緊張させることが容易な土留め用枠体を備えた、片盛土タイプの土留め構造体の施工方法を提供することができる。
さらに、第2工程において、前工程で設置された鋼製壁面材の上部と本工程で設置する鋼製壁面材の下部とを、横断方向への動きを抑えるとともに、鉛直方向の移動は可能な連結手段によって連結することによって、上部から大きな荷重が加えられてもセルが座屈したり横断方向にずれたりすることを抑制できる、片盛土タイプの土留め構造体の施工方法を提供することができる。
第3の本発明によれば、敷設長が短く、施工が容易であって、強度及び耐久性に優れ、設計段階で性能評価が可能な、両盛土タイプの土留め構造体の施工方法を提供することができる。
さらに、第6工程において、前工程で設置された鋼製壁面材の上部と本工程で設置する鋼製壁面材の下部とを、横断方向への動きを抑えるとともに、鉛直方向の移動は可能な連結手段によって連結することによって、上部から大きな荷重が加えられてもセルが座屈したり横断方向にずれたりすることを抑制できる、両盛土タイプの土留め構造体の施工方法を提供することができる。
第2の本発明又は第3の本発明において、鋼製壁面材及びジオテキスタイルを目合い調整パネルを介して連結させることによって、略水平方向に配設されたジオテキスタイルを横断方向に緊張させることが容易な土留め用枠体を備えた、片盛土タイプ又は両盛土タイプの土留め構造体の施工方法を提供することができる。
さらに、第2の本発明又は第3の本発明において、土留め用枠体に備えられるセルと該セルに拘束される盛土材を、それぞれ一の土のうとみなせることによって、縦断方向に対して垂直な方向の断面において2次元的に解析することで、セルに拘束された盛土材の理論擬似粘着力c1を算出できる。この理論擬似粘着力c1を用いて、セルに拘束された盛土材の内的安定性を照査することが可能であり、設計段階で土留め構造体の性能評価をすることが可能な、片盛土タイプ又は両盛土タイプの土留め構造体の施工方法を提供することができる。
本発明のこのような作用及び利得は、次に説明する発明を実施するための最良の形態から明らかにされる。
以下、本発明の土留め構造体及び該土留め構造体の施工方法について、図面に示す実施形態に基づき説明するが、以下に説明するものは本発明の実施形態の一例であって、本発明はその要旨を超えない限り以下の説明になんら限定されるものではない。
図1は、本発明にかかる土留め構造体10の縦断方向に対して垂直な方向の断面を概略的に示す図である。
図1に示すように、土留め構造体10は、多段に複数のセル2、2、…(以下、区別する必要があるときは、「セル2a」、「セル2b」、「セル2c」、「セル2d」、「セル2e」、及び「セル2f」という。)を有する土留め用枠体1と、セル2、2、…に充填される盛土材3、3、…を備えている。土留め用枠体1は、底面1aが、略水平に均した地盤100に接地し、背面1bが、地山200に沿うように設置され、背面1bの反対側に法面1dを有している。
土留め用枠体1の形成について、図2〜図5を用いて具体的に説明する。
図2は、図1に示したIIの部分(土留め用枠体1の最下段部)の一部を拡大して概略的に示す図である。図2において、図1と同様の構成を採るものには、図1で用いた符号と同符号を付し、適宜説明を省略する。また、図が煩雑になるのを防ぐため、盛土材3は省略し、さらに、一部符号を省略して示している。
図2に示すように、土留め用枠体1の最下段のセル2fは、鋼製壁面材11fと、鋼製壁面材11eと、テンサー12と、テンサー13とによって形成されている。より具体的には、セル2fの底面は、鋼製壁面材11fの底部とテンサー12の一部分12a(以下、「底面部12a」という。)で形成され、セル2fの背面は、テンサー12の一部分12b(以下、「背面部12b」という。)によって形成されている。また、セル2fの法面は鋼製壁面材11fで形成され、セル2fの上面は、鋼製壁面材11eの底部とテンサー13によって形成されている。
そして、鋼製壁面材11fの内側には、緑化マット14が備えられている。かかる形態とすることによって、セル2fに盛土材3を充填する際、盛土材3がセル2fの法面側から漏れるのを防ぐことができる。
さらに、セル2fでは、鋼製壁面材11fの底部と法面側の部分が斜タイ材15によって連結されている。かかる形態とすることによって、セル2fに盛土材3を充填する際に、鋼製壁面材11fの変形を抑制することができる。斜タイ材15を鋼製壁面材11fの底部に固定するには、例えば、鋼製壁面材11fの底部に、縦断方向に複数の凸部16を設け、その凸部16に連結棒17を通して、その連結棒17に斜タイ材15の一端を引っ掛けることで、鋼製壁面材11fの底部と斜タイ材15を連結させることができる。また、斜タイ材15を鋼製壁面材11fの法面側の部分に固定するには、例えば、斜タイ材15の他端を鋼製壁面材11fの外側に突き出し、製壁面材11fの外側で縦断方向に配設された連結棒18に斜タイ材15の他端を引っ掛けることで、鋼製壁面材11fの法面側の部分と斜タイ材15を連結させることができる。
図2に示すように、鋼製壁面材11fとテンサー12は、連結材19と、連結棒17を用いて連結されている。また、鋼製壁面材11fと鋼製壁面材11eは連結具20を用いて連結されている。さらに、鋼製壁面材11eとテンサー13は、鋼製壁面材11fとテンサー12の連結方法と同様の手段で連結されている。さらにまた、テンサー13とテンサー12は、連結材21、22を用いて連結されている。これらの連結箇所での連結方法を、以下に、より具体的に説明する。
まず、鋼製壁面材11fとテンサー12の連結方法の一例について、図3を用いて説明する。図3は、図2中に示したIIIの部分での連結方法を概略的に示す図である。図3(a)〜(c)はそれぞれ、鋼製壁面材11fとテンサー12の連結過程での断面を概略的に示している。図3において、図2と同様の構成を採るものには、図2で用いた符号と同符号を付し、適宜説明を省略する。また、図が煩雑になるのを防ぐため、一部符号を省略して示している。
図3(a)は伸ばされた状態でのテンサー12の断面を示している。23、23、…は縦方向ストランドの断面を示しており、24a、24b、及び24cは横方向ストランドの断面を示している。鋼製壁面材11fとテンサー12を連結させるには、テンサー12を、図3(a)に示したような伸ばされた状態から、図3(b)に示すように、二列目の横方向ストランド24bを折り曲げて、一列目の横方向ストランド24aと三列目の横方向ストランド24cを交差させ、横方向ストランド24aと三列目の横方向ストランド24cによって形成される輪25に、連結材19を縦断方向に通す。そして、図3(c)に示すように、二列目の横方向ストランド24bによって形成された輪26と鋼製壁面材11fの凸部16に、連結棒17を縦断方向に通すことによって、鋼製壁面材11fとテンサー12を連結することができる。
本発明において、鋼製壁面材11fとテンサー12の連結方法はかかる方法に限定されるものではなく、他の公知の手段を用いて連結されても良い。ただし、上述した方法によって連結させることで、連結部の強度を強くすることができる。
また、鋼製壁面材11fとテンサー12を連結した後、テンサー12のうちセル2fの底面を形成する底面部12aは横断方向に緊張させる必要がある。底面部12aを緊張させるには、例えば、鋼製壁面材11fとテンサー12を連結した後に、底面部12aを横断方向に緊張させて地盤100に固定すれば良い。
次に、鋼製壁面材11fと鋼製壁面材11eの連結方法の一例について、図4及び図5を用いて説明する。図4は、鋼製壁面材11fと鋼製壁面材11eの連結箇所に注目した概略図である。図4(a)は鋼製壁面材11fと鋼製壁面材11eの連結箇所を法面側から見た図で、図4(b)は鋼製壁面材11fと鋼製壁面材11eの連結箇所を縦断方向から見た図である。図4では、図が煩雑になるのを防ぐため、連結方法の説明に不要な部材は省略して示している。図4において、図2と同様の構成を採るものには、図2で用いた符号と同符号を付し、適宜説明を省略する。図5は、連結具20で鋼製壁面材11fと鋼製壁面材11eを連結する過程を概略的に示す図であり、図4(b)に破線で示した箇所での断面を表す図である。
鋼製壁面材11fと鋼製壁面材11eを連結するには、最初に、図4(a)及び(b)に示すように、鋼製壁面材11fの上部と鋼製壁面材11eの下部を重ねる。そして、鋼製壁面材11fと鋼製壁面材11eが重なっている部分を連結具20で留める。より具体的説明するため、連結具20について説明する。連結具20は、図5に示すように、U字型の部材20a、留め具20b、及びナット20c、20cからなる部材である。U字部材20aの端部には、ねじが切られており、ナット20c、20cで留めることができる。留め具20bには2つ穴が開いており、その穴にU字部材20aのねじが切られた端部を通すことができる。
この連結具20を用いて、鋼製壁面材11fと鋼製壁面材11eを連結させるには、まず、図5(a)に示すように、鋼製壁面材11fと鋼製壁面材11eが重なった部分にU字部材20aを引っ掛ける。次に、図5(b)に示すように、留め具20bにU字部材20aを通す。最後に、図5(c)に示すように、U字部材20aにナット20c、20cを留めることで、鋼製壁面材11fと鋼製壁面材11eを連結することができる。かかる手段で連結することによって、セル2eの上部から荷重が加えられた場合、鋼製壁面材11eが鉛直方向に動くことは可能であるが、横断方向にずれることは抑制される。したがって、セル2e上部から大きな荷重が加えられてもセル2eが座屈したり横断方向にずれたりすることを抑制できる。
次に、テンサー13とテンサー12の連結方法について、図6を用いて説明する。図6は、図2中に示したVIの部分での連結方法を概略的に示す図である。図6(a)〜(e)はそれぞれ、テンサー13とテンサー12の連結過程での断面を概略的に示している。図6において、図2と同様の構成を採るものには、図2で用いた符号と同符号を付し、適宜説明を省略する。
テンサー13とテンサー12を連結する際には、まず、テンサー13の横方向ストランドを曲げて、図6(a)に示したような状態にする。そして、図6(b)に示すように、テンサー13の曲げた横方向ストランドをテンサー12の横方向ストランドと横方向ストランドの間に通し、連結材21を縦断方向に通す。その後、図6(c)に示すように、テンサー12がテンサー13側に引っ張られて弛んでいる状態で、テンサー13の横方向ストランドと横方向ストランドを交差させ、その横方向ストランドと横方向ストランドの間に連結材22を縦断方向に通す。最後に、図6(d)に示すように、テンサー12を緊張させる。かかる方法でテンサー13とテンサー12を連結することによって、テンサー13を横断方向に緊張させることができる。
セル2b、セル2c、セル2d、及びセル2eについては、これまでに説明したセル2fの形成方法と同様の方法で形成することができるので、説明を省略する。
図7は、図1に示したVIIの部分(土留め用枠体1の最上段部)の一部を拡大して概略的に示す図である。図7において、図1及び図2と同様の構成を採るものには、図1及び図2で用いた符号と同符号を付し、適宜説明を省略する。また、図が煩雑になるのを防ぐため、盛土材3は省略し、さらに、一部符号を省略して示している。
図7に示すように、土留め用枠体1の最上段のセル2aは、鋼製壁面材11aと、テンサー27と、テンサー12とによって形成されている。より具体的には、セル2aの下面は、鋼製壁面材11aの底部とテンサー27で形成され、セル2aの背面は、背面部12bによって形成されている。また、セル2aの法面は鋼製壁面材11aで形成され、セル2aの上面は、天端保護メッシュ28とテンサー12の一部分12c(以下、「天部12c」という。)によって形成されている。天端保護メッシュ28とは、鋼製壁面材と同様に、断面形状が略L字型でメッシュ状の部材である。そして、鋼製壁面材11aの内側には、緑化マット14が備えられている。さらに、セル2aでは、土留め構造体10の目的とする高さに応じて鋼製壁面材11aの上部を切断することがあるため、上述した斜タイ材15を備えられない場合がある。この場合は、図7に示すように、番線30を用いる。番線30の固定は、斜タイ材15と同様の方法で行うことができる。
セル2aにおいて、下面を形成するテンサー27とテンサー12の連結は、上述したテンサー13とテンサー12の連結方法と同様にして行うことができる。
セル2aの上面は、上述したように、天端保護メッシュ28と天部12cによって形成されており、天端保護メッシュ28と天部12cの連結は、上述した鋼製壁面材11fと底部12aの連結方法と同様の方法で行うことができる。
セル2aの法面を形成する鋼製壁面材11aと天端保護メッシュ28の連結には、連結部材31を用いる。連結部材31は、鋼製壁面材11aと天端保護メッシュ28が外れないように留めておけるものであれば良く、例えば、ステンレス鋼製の番線などを挙げることができる。
これまでの本発明の土留め用枠体の説明では、天端保護メッシュ28を用いた天端処理について説明してきたが、本発明の土留め用枠体の天端の処理方法はかかる方法に限定されない。具体的には、例えば、天部12cと鋼製壁面材11aを直接連結させることで天端を形成しても良い。
また、これまでの本発明の土留め構造体の説明では、片盛土タイプの土留め構造体について説明してきたが、本発明は以下に説明するような両盛土タイプの土留め構造体であっても良い。
図8は、両盛土タイプの本発明の土留め構造体50の縦断方向に対して垂直な方向の断面を概略的に示す図である。図8において、図1と同様の形成を採るものには、図1で用いた符号と同符号を付し、適宜説明を省略する。
図8に示すように、土留め構造体50は、多段に複数のセル52、52、…(以下、区別する必要があるときは、「セル52a」、「セル52b」、「セル52c」、「セル52d」、及び「セル52e」という。)を有する土留め用枠体51と、セル52、52、…に充填される盛土材3、3、…を備えている。土留め用枠体51は、底面51aが、略水平に均した地盤101に接地し、法面51b、51dを有している。
土留め用枠体51の具体的な構成について、図9及び図10を用いて説明する。
図9は、図8に示したIXの部分(土留め用枠体51の下段部)の一部を拡大して概略的に示す図である。図9において、図2及び図8と同様の構成を採るものには、図2及び図8で用いた符号と同符号を付し、適宜説明を省略する。また、図が煩雑になるのを防ぐため、盛土材3は省略し、さらに、一部符号を省略して示している。
図9に示すように、土留め用枠体51の最下段のセル52eは、鋼製壁面材53、鋼製壁面材54、鋼製壁面材55、鋼製壁面材56、テンサー57、及びテンサー58によって形成されている。より具体的には、セル52eの底面は、鋼製壁面材53及び鋼製壁面材54の底部と、テンサー57とで形成され、セル52eの法面は、鋼製壁面材53と鋼製壁面材54とによって形成されている。また、セル52eの上面は、鋼製壁面材55及び鋼製壁面材56の底部と、テンサー57とで形成されている。そして、鋼製壁面材53及び鋼製壁面材54の内側には、緑化マット14が備えられている。さらに、セル52eでは、鋼製壁面材53及び鋼製壁面材54に、それぞれ斜タイ材15が連結されている。
図9に示すように、鋼製壁面材53とテンサー57、鋼製壁面材54とテンサー57、鋼製壁面材55とテンサー58、鋼製壁面材56とテンサー58、鋼製壁面材53と鋼製壁面材55、及び鋼製壁面材54と鋼製壁面材56はそれぞれ連結されている。これらの連結箇所での連結方法を、以下に、具体的に説明する。
まず、鋼製壁面材53とテンサー57の連結方法の一例について、図10を用いて説明する。図10は、図9中に示したXの部分での連結方法を概略的に示す図である。図10(a)及び(b)はそれぞれ、鋼製壁面材53の底部の一部と、鋼製壁面材53とテンサー57を連結する際に用いる目合い調整パネル60の一部を示している。図10(a)及び(b)において、上段の図は上面図であり、下段の図は側面図である。図10において、図9と同様の構成を採るものには、図9で用いた符号と同符号を付し、適宜説明を省略する。また、図が煩雑になるのを防ぐため、一部符号を省略して示している。
鋼製壁面材53とテンサー57は、目合い調整パネル60を介して連結する。図10(a)に示すように、鋼製壁面材53の底部には、凸部59、59、…が設けられており、目合い調整パネル60にも凸部61、61、…が設けられている。鋼製壁面材53と目合い調整パネル60を連結するには、図10(b)に示すように、目合い調整パネル60と鋼製壁面材53重ね、凸部59、59、…に連結棒62を通す。そして、目合い調整パネル60とテンサー57を連結するには、上述した、鋼製壁面材11fとテンサー12の連結方法と同様に、凸部61、61、…に連結棒を通すことによってできる。このように、目合い調整パネル60を介して鋼製壁面材53とテンサー57を連結させることによって、テンサー57の横断方向の緊張度合を調整することができる。より具体的には、目合い調整パネル60と鋼製壁面材53が重なる部分の長さを長くすればテンサー57が緊張され、目合い調整パネル60と鋼製壁面材53が重なる部分の長さを短くすればテンサー57が緩む。
鋼製壁面材54とテンサー57、鋼製壁面材55とテンサー58、及び鋼製壁面材56とテンサー58の連結方法は、上記鋼製壁面材53とテンサー57の連結方法と同様である。また、鋼製壁面材53と鋼製壁面材55、及び鋼製壁面材54と鋼製壁面材56の連結方法は、上述した、鋼製壁面材11fと鋼製壁面材11eの連結方法と同様である。
土留め構造体50では、セル52eと同様に、鋼製壁面材とテンサーを用いて、セル52b、セル52c、及びセル52dを形成することができる。ただし、セル52aの上面(天端)の処理については、上述した土留め構造体10の天端処理と同様に、最上部の鋼製壁面材に天端保護メッシュを連結させて形成することができ、セル52aの両側の法面を形成する構成壁面材の上端同士をテンサーで連結させても形成することができる。
これまでの本発明の土留め構造体の説明において触れていなかった、同一方向に延設するテンサー同士の連結方法の一例について、図11を用いて説明する。図11はテンサー71とテンサー72が連結材73によって連結された箇所を概略的に示す上面図である。図11では、図が煩雑になるのを防ぐため、一部符号を省略して示している。
本発明の土留め構造体では、これまでに説明したような、略水平方向に配設されるテンサーと背面部を形成するテンサーを連結させる他に、テンサー同士を連結させて同一方向に延設する必要が生じる場合がある。具体的には、テンサーの長さは有限であるため、片盛土タイプ及び両盛土タイプの土留め構造体において、略水平方向や配設されるテンサーや、片盛土タイプの土留め構造体において背面部に用いられるテンサーの配設途中でテンサーの端部が現れる場合などである。このテンサーの端部に他のテンサーの端部を連結させるには、図11に示すように、一方のテンサー71の端部に、他方のテンサー72の端部を重ねて、下側のテンサー72の横方向ストランド72a、72a、…を上側のテンサー71の横方向ストランド71a、71a、…と縦方向ストランド71b、71bによってできる隙間71c、71c、…に通し、横方向ストランド71a、71a、…と横方向ストランド72a、72a、…の間に連結材73を通すことによって、テンサー71とテンサー72を簡単に連結させられる。このようにして連結させると、横方向ストランド71a、71a、…と縦方向ストランド71b、71b、…の結節点及び横方向ストランド72a、72a、…と縦方向ストランド72b、72b、…の結節点に負荷がかかるが、テンサーの結節点の強度は縦方向ストランドと横方向ストランドの強度と同等以上であるため、テンサー同士の連結強度が高い。
これまでの本発明の土留め構造体の説明では、縦断方向に対して垂直な方向の断面図を用いて説明してきたが、本発明の土留め構造体は、土留め用枠体の縦断方向の端面が壁面材又はテンサーで覆われた形態であってもよい。土留め用枠体の縦断方向長さが短い場合には、土留め用枠体の縦断方向の端面が壁面材又はテンサーで覆われた形態であることが好ましい。かかる形態の場合に、土留め用枠体の縦断方向の端面を形成する部材を、土留め用枠体の法面、底面、上面、背面を形成する部材とそれぞれ連結する方法は、施工中及び施工後に外れない程度の強度を有する方法でれば特に限定されない。具体的には、ポリエチレン製のロープで結び付ける方法や、上述した連結具20を用いる方法などを挙げることができる。
本発明では、これまでに説明したように、複数のセルを有する土留め用枠体の該セルで盛土材が拘束されることによって、大きな土のうを積み上げて一体化したかのような土留め構造体を得ることができる。かかる形態とすることによって、施工が容易であって、敷設長が短い土留め構造体を得ることができる。また、セルの略水平方向面を形成する部材に、結節点の強度が高いジオテキスタイルであるテンサーを用いることによって、鋼製壁面財とテンサーとの連結箇所や、上述したようにテンサー同士の連結箇所での連結強度が高く、耐久性に優れた土留め構造体とすることができる。さらに、上記テンサーを横断方向に緊張させていることによって、セルに充填される盛土材を拘束するための拘束力に必要なテンサーの張力が確実に伝達されるため、高強度の土留め構造体とすることができる。さらに、土留め用枠体に備えられるセルと該セルに拘束される盛土材を、それぞれ一の土のうとみなせることによって、設計段階で、土留め構造体の内的安定性を照査することが可能になる。以下にその具体的方法について図12及び図13を参照しつつ説明する。
図12は、土留め用枠体に備えられるセルと該セルに拘束される盛土材(以下、「土のう構造体」という。)の寸法と、その土のう構造体に加えられる力を、縦断方向に対して垂直な方向の断面について概略的に示す図である。図12では、セルの横断方向をY軸方向、セルの上下方向をZ軸方向として示している。
土のう構造体の破壊時、盛土材のZ軸方向には、最大主応力σ1fが加えられると同時に、セルを形成する部材の張力Tに起因した応力σ01=2T/Bが加えられている。また、土のう構造体の破壊時、盛土材のY軸方向には、最小主応力σ3fが加えられると同時に、張力Tに起因した応力σ03=2T/Hが加えられている。また、土のう構造体の破壊時において、土のう構造体のZ軸方向に加えられる最大主応力σ1とY軸方向に加えられる最小主応力σ3の間にはσ1=Kp・σ3の関係があることが知られている(ただし、Kpは受動土圧係数)。したがって、σ1=Kp・σ3にσ1=σ1f+2T/B、σ3=σ3f+2T/Hを代入すると、下記(5)式を得られる。
一方、盛土材の擬似粘着力をc、盛土材の内部摩擦力をφとすると、破壊基準式は下記(6)式のように表される。
そして、上記(5)式と(6)式より、下記(7)式を得られる。
上記(7)式をcについて解くことによって、下記(8)式を得る。
上記(8)式より、土のう構造体の疑似粘着力cを求めることができ、この疑似粘着力c用いて、土のう構造体の内的安定性の照査することが可能となる。
また、式(5)のσ3fはゼロとなるので、σ1f、H、B、Kpが既知の場合、張力Tが算出される。すなわち、セルの形成に使用する部材の必要強度を検討することができる。
実際の場合には、盛土材には不確定要素が多いため、上記(8)式より求められる疑似粘着力cは、理論擬似粘着力c1であり、実際の擬似粘着力c2と等しくなるとは限らず、理論擬似粘着力c1と実際の擬似粘着力c2は下記(2)式程度の関係になる。
図13は、土のう構造体を3次元的に捉え、土のう構造体の寸法と、土のう構造体に加えられる力を概略的に示す斜視図である。図13では、セルの縦断方向をX軸方向、セルの横断方向をY軸方向、セルの上下方向をZ軸方向として示している。図13では、図が煩雑になるのを防ぐため、張力Tの図示は省略している。
土留め構造体の縦断方向の長さが短い場合には、土留め構造体の縦断方向の端部を壁面材又はジオテキスタイルで覆うことがあるため、その場合、土のう構造体を図13に示すように3次元的に捉えて解析する。
土のう構造体の破壊時、その土のう構造体のZ軸方向に加えられる応力σ1は、下記(9)式によって表される。
また、土のう構造体の破壊時、その土のう構造体のY軸方向に加えられる応力σ3は、下記(10)式によって表される。
さらに、土のう構造体の破壊時、その土のう構造体のX軸方向に加えられる応力σ2は、下記(11)式によって表される。
このとき、σ2fはゼロである考えられるので、σ1=Kp・σ3の関係式と上記(9)式及び(10)式より、下記(12)式を得られる。
そして、上記(6)式と(12)式より、下記(13)式を得られる。
上記(13)式をcについて解くことによって、下記(14)式を得る。
上記(14)式より、土のう構造体の疑似粘着力cを求めることができ、この疑似粘着力c用いて、土のう構造体の内的安定性の照査することが可能となる。
また、式(13)のσ3fはゼロとなるので、σ1f、H、B、Kpが既知の場合、張力Tが算出される。すなわち、セルの形成に使用する部材の必要強度を検討することができる。
実際の場合には、盛土材には不確定要素が多いため、上記(14)式より求められる疑似粘着力cは、理論擬似粘着力c3であり、実際の擬似粘着力c2と等しくなるとは限らず、理論擬似粘着力c3と実際の擬似粘着力c2は下記(4)式程度の関係になる。
(土留め構造体10の施工方法)
土留め構造体10の施工方法について、図1〜図7を用いて説明する。
最初に、図2に示すように、土留め用枠体1の最下段のセル2fを作製する。鋼製壁面材11fを地盤に固定し、テンサー12と鋼製壁面材11fを、連結棒17と連結材19を用いて連結する。そして、底面部12aを横断方向に緊張させて固定し、背面部12bを地山200に添わせて仮止めをする。その後、テンサー12と鋼製壁面材11fによって形成された空間に、締固めながら、鋼製壁面材11fの上端付近まで盛土材3を充填していく。
次に、前工程で充填された盛土材3の上に鋼製壁面材11eとテンサー13を設置する。鋼製壁面材11fの上部と鋼製壁面材11eの下部を連結具20で固定し、鋼製壁面材11eとテンサー13を、連結棒17と連結材19を用いて連結する。さらに、テンサー13と背面部12bを、テンサー13が横断方向に緊張されるように連結する。そして、鋼製壁面材11e、テンサー13、及び背面部12bによって形成される空間に、締固めながら、鋼製壁面材11eの上端付近まで盛土材3を充填していく。
このように、鋼製壁面材とテンサーによって空間を形成し、その空間に盛土材を締固めながら充填する作業を繰り返すことによって、セル2f、セル2e、セル2d、セル2c、及びセル2bを作製することができる。
土留め構造体10の最上段のセル2aは、図7に示すように、下面、法面、及び背面は、他のセルとほぼ同様の方法で形成し、鋼製壁面材11a、テンサー27、及び背面部12bによって形成される空間に、締固めながら、鋼製壁面材11aの上端付近まで盛土材3を充填していく。そして、上面については、上述したように、天端保護メッシュ28を用いて形成する方法や、テンサー12と鋼製壁面材11aを直接連結させることによって形成することができる。
土留め構造体10の施工過程において、テンサー12と、略水平方向面を形成する他のテンサーとを連結する際は、図6に示した方法によって連結することで、テンサーを横断方向に容易に緊張させることができる。また、テンサーと鋼製壁面材とを連結する際は、図3に示した方法によって連結することで、連結部での強度を強くすることができる。さらに、上下に配設される鋼製壁面材同士の連結には、連結具20を用いることによって、上部から大きな荷重が加えられてもセルが座屈したり横断方向にずれたりすることを抑制できる。
(土留め構造体50の施工方法)
土留め構造体50の施工方法について、図8〜図10を用いて説明する。
最初に、図9に示すように、土留め用枠体51の最下段のセル52eを作製する。鋼製壁面材53、及び鋼製壁面材54を地盤に固定し、鋼製壁面材53、及び鋼製壁面材54に、テンサー57を横断方向に緊張させて連結する。その後、鋼製壁面材53、鋼製壁面材54、及びテンサー57によって形成される空間に、締固めながら、鋼製壁面材53、及び鋼製壁面材54の上端付近まで盛土材3を充填していく。
次に、前工程で充填された盛土材3の上に鋼製壁面材55、鋼製壁面材56、及びテンサー58を設置する。鋼製壁面材53の上部と鋼製壁面材55の下部を連結具20で固定するとともに、鋼製壁面材54の上部と鋼製壁面材56の下部を連結具20で固定し、鋼製壁面材55、及び鋼製壁面材56にテンサー58を横断方向に緊張させて連結する。その後、鋼製壁面材55、鋼製壁面材56、及びテンサー58によって形成される空間に、締固めながら、鋼製壁面材55、及び鋼製壁面材56の上端付近まで盛土材3を充填していく。
このように、鋼製壁面材とテンサーによって空間を形成し、その空間に盛土材を締固めながら充填する作業を繰り返すことによって、セル52e、セル52d、セル52c、セル52b、及び52aを作製することができる。ただし、天端処理については、上述した土留め構造体10の天端処理と同様に、最上部の鋼製壁面材に天端保護メッシュを連結させて形成することもできる。
土留め構造体50の施工過程において、テンサーと鋼製壁面材を連結する際は、図10に示したような目合い調整パネル60を用いることによって、テンサーを横断方向に緊張させることが容易になる。また、上下に配設される鋼製壁面材同士の連結には、連結具20を用いることによって、上部から大きな荷重が加えられてもセルが座屈したり横断方向にずれたりすることを抑制できる。
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う土留め構造体及び該土留め構造体の施工方法もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。