以下、図面を参照して本発明の好適な実施の形態について説明する。
[内燃機関の潤滑装置(第1の形態)の構成]
図1は、本発明の実施形態に係る内燃機関の油圧を制御する油圧制御機構を備えた内燃機関の潤滑装置(第1の形態)の構成を示す。なお、図1では、実線矢印がオイルの流れを示し、一点鎖線矢印がガスの流れを示し、破線矢印が信号の入出力を示している。
まず、本実施形態に係る内燃機関の潤滑装置(第1の形態)100が適用される内燃機関50の構成について説明する。
なお、本実施形態では、内燃機関50の潤滑装置100が搭載される車両には、車室内の空調を制御する室内空調装置(例えば、暖房装置)、エンジンの暖機によって暖機され且つ当該暖機を通じてエンジンの排気ガス中に含まれる有害物質を浄化する各種の触媒、エンジン負荷の上昇を促進する負荷上昇装置(ビスカスヒータや水加熱ヒータなど)、オイルクーラ、スタータモータ、バッテリーなど各種の電気機器及び装置などが搭載される。なお、本実施形態では、便宜上、これらの各種の電気機器及び装置の図示は省略する。
内燃機関(以下、「エンジン」とも称する)50は、後述するECU(Engine Control Unit)30によって制御され、主に、シリンダ(気筒)11及びシリンダヘッド12を備える。エンジン50としては、例えばディーゼルエンジンやガソリンエンジンなどが挙げられる。
シリンダ11は、シリンダヘッド12の下方に配置されている。シリンダ11の内部などには、エンジン50の各部を冷却するための冷却水が流通するウォータージャケット13が設けられている。ウォータージャケット13内を流通する冷却水の温度(以下、単に「水温」とも称する)は、シリンダ11に取り付けられた水温センサ41によって検出される。シリンダ11の内側には、ピストン14が当該シリンダ11に沿って往復運動可能な状態で配置されている。ピストン14とシリンダ11とシリンダヘッド12の間には燃焼室17が形成されている。
シリンダヘッド12には、主に、吸気通路18、吸気弁19、排気通路20、排気弁21、燃料噴射弁22及びグロープラグ23が設けられている。吸気通路18には外部から導入された空気(吸気)が通過し、その通過した空気は燃焼室17へ供給される。吸気弁19は、ECU30によって開閉制御されることにより、吸気通路18と燃焼室17との連通/遮断を行う。燃焼室17には、燃料噴射弁22によって噴射された燃料が供給される。燃料噴射弁22は、ECU30から供給される信号s2に基づいて、燃料の噴射量(以下、「燃料噴射量」とも称する)や燃料の噴射時期などの制御が行われる。
グロープラグ23は、エンジン50の始動時や標高の高い高地での走行など燃焼室17内において燃焼状態が悪化するような場合に、混合気の燃焼を促進するべく燃焼室(気筒)17内を加熱するために用いられる。グロープラグ23の先端部の内部には電熱線(図示略)が設けられており、その先端部は燃焼室17内に露出するように配置されている。グロープラグ23は、図示しないバッテリーに電気的に接続されている。グロープラグ23は、ECU30から供給される信号s3に基づいて作動(オン)又は停止(オフ)の制御が行われる。ECU30によりグロープラグ23の動作がオフとされた場合には、バッテリーを通じて電力が供給されず、グロープラグ23の先端部の内部に設けられた電熱線は発熱しない。一方、ECU30によりグロープラグ23の動作がオンとされた場合には、バッテリーを通じて電力が供給され、グロープラグ23の先端部の内部に設けられた電熱線が発熱する。これにより、燃焼室17内が加熱され、燃焼室17内における混合気の燃焼が促進される。このような、燃焼室17内の混合気の燃焼によってピストン14がシリンダ11に沿って往復運動し、この往復運動がコンロッド15を介してクランク軸(図示略)に伝達され、クランク軸が回転する。また、燃焼室17内の混合気の燃焼によって生じた排気は排気通路20へ排出される。排気弁21は、ECU30によって開閉制御されることにより、排気通路20と燃焼室17の連通/遮断を行う。
次に、内燃機関の潤滑装置100の構成について説明する。
内燃機関の潤滑装置100は、オイルパン(オイルタンク)1と、オイル通路2と、オイルポンプ3と、オイルジェットチェック弁4と、オイルジェット5と、オイルポンプ供給圧可変リリーフ弁(オイル圧可変リリーフ弁)6と、ECU30と、を備える。
オイルパン1は潤滑油としてのオイル7を貯留する。オイル通路2は、オイルパン1から内燃機関の潤滑部50a及びオイルジェット5にかけて連通している。オイル通路2は、メインオイル通路2aと、分岐オイル通路2bと、バイパスオイル通路2cと、を有する。メインオイル通路2aの上流側にはオイルポンプ3が配置されていると共に、メインオイル通路2aの下流側にはオイルジェット5が配置されている。また、メインオイル通路2aにおいてオイルポンプ3とオイルジェット5の間にはオイルジェットチェック弁4が配置されている。オイルポンプ3は、エンジン50のクランクシャフトの回転に伴って作動し、オイルパン1内に貯留されたオイル7を吸引して、その吸引したオイル7をオイル通路2を通じて内燃機関の潤滑部50aなどへ供給する。なお、本発明では、オイルポンプ3は、ECU30から出力される信号(一点鎖線にて示される信号)s5に基づいてオイル通路2に向けて供給するオイル7の圧力を変化させることができる構成としてもよい。オイルジェットチェック弁4は、オイル通路2内のオイル7の圧力(以下、単に「油圧」とも称する)が所定の圧力値Qb(以下、「開弁圧Qb」とも称する)より大きくなると閉状態から開状態に変化してメインオイル通路2aからオイルジェット5側へオイル7を供給すると共に、オイル通路2内の油圧が所定の圧力値Qb以下になると開状態から閉状態に変化してメインオイル通路2aからオイルジェット5側へのオイル7の流れを停止する。
オイルジェット5は、オイルジェットチェック弁4が開状態になるとメインオイル通路2aを通じて供給されたオイル7をピストン14に向けて噴射する。これにより、ピストン14が冷却される。ピストン14を冷却したオイル7は、ピストン14がシリンダ11内に沿って往復運動することによってクランクケース(図示略)側へ掻き落され、さらにオイルパン1内に戻される。分岐オイル通路2bは、メインオイル通路2aの途中からエンジンの潤滑部50aに向けて分岐する通路である。ここで、エンジンの潤滑部50aには、ピストン14の動きに連動して動作するエンジンの各摺動部、例えば図示しないクランクシャフトや、可変バルブや、ピストン14及びその周辺部品などが含まれる。メインオイル通路2aを通じて分岐オイル通路2bに供給されたオイル7は、さらにエンジンの潤滑部50aへと供給され、エンジンの潤滑部50aの潤滑に供される。エンジンの潤滑部50aの潤滑に供されたオイル7は、図示しないオイル通路を通じてオイルパン1内へと戻される。
バイパスオイル通路2cは、メインオイル通路2aにおいてオイルポンプ3と並列に設けられている。具体的には、バイパスオイル通路2cは、メインオイル通路2aにおいてオイルポンプ3の上流側とオイルポンプ3の下流側とに連通している。具体的には、バイパスオイル通路2cの一端は、オイルパン1とオイルポンプ3との間に位置するメインオイル通路2aに接続されている。一方、バイパスオイル通路2cの他端は、オイルポンプ3とオイルジェットチェック弁4との間であって、且つ分岐オイル通路2bとメインオイル通路2aとの接続部分より上流側に位置するメインオイル通路2aに接続されている。バイパスオイル通路2cには、オイルポンプ供給圧可変リリーフ弁6が配置されている。
オイルポンプ供給圧可変リリーフ弁6は、後述するECU30のオイルポンプ供給圧可変リリーフ弁制御手段から供給される信号s1に基づいて開閉の制御が行われ、エンジン50の運転状態に応じて開く割合を変化させる。
ECU30は、図示しないCPU(Central Processing Unit)と、図示しないROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)などの記憶手段(図示略)と、を備える。ECU30は、例えば水温センサ41により検出された水温を取得し、油温センサ42により検出されたオイル7の温度(油温)を取得し、油圧センサ(オイル圧力計測手段)43により計測されたオイル7の圧力(油圧)を取得し、エンジン回転数(内燃機関回転数)検出手段44を通じてエンジン回転数を取得し、エンジン負荷(内燃機関負荷)検出手段45を通じてエンジン負荷(例えば、エンジントルク)を取得し、シフトアップ検出手段46を通じて車両の加速過程におけるシフトアップの状態を取得し、室内空調装置(例えば、暖房装置)47を通じてその作動(オン)及び停止(オフ)の状態を取得し、失火状態検出手段48を通じてエンジン50の失火状態を取得し、アクセル開度センサ49を通じてアクセル開度を取得し、これに基づいてエンジン50に対する制御を行う。なお、本発明では、上記の各種のセンサ及び検出手段などによる各種データの取得方法は既知の各種方法を採用することができる。
特に、本発明では、ECU30は、オイル圧可変リリーフ弁制御手段、オイルジェット開閉弁制御手段、燃料噴射量制御手段、微小噴射量学習手段、負荷上昇促進装置制御手段などとして機能する。
オイル圧可変リリーフ弁制御手段は、オイルポンプ供給圧可変リリーフ弁6の開閉を制御する。具体的には、オイル圧可変リリーフ弁制御手段は、オイルポンプ供給圧可変リリーフ弁6を開き側に制御することでメインオイル通路2aからバイパスオイル通路2cへ流れ込むオイル7の量を増やしてオイル7の圧力(油圧)を低くする又は下げると共に、オイルポンプ供給圧可変リリーフ弁6を閉じ側に制御することでメインオイル通路2aからバイパスオイル通路2cへ流れ込むオイル7の量を少なくしてオイル7の圧力(油圧)を高くする又は上げる。
例えば、オイル圧可変リリーフ弁制御手段は、エンジン50の運転状態によりオイル通路2内の油圧を低くする又は下げる必要がある場合には、オイルポンプ供給圧可変リリーフ弁6に信号s1を出力して、オイルポンプ供給圧可変リリーフ弁6を開き側に制御する。これにより、メインオイル通路2a内を流れているオイル7の一部は、バイパスオイル通路2cへと流れ込み、さらにオイルポンプ3の上流側のメインオイル通路2aへと戻される。これにより、オイル通路2の油圧を低くする又は下げることができる。一方、オイル圧可変リリーフ弁制御手段は、エンジン50の運転状態によりオイル通路2内の油圧を高くする又は上げる必要がある場合には、オイルポンプ供給圧可変リリーフ弁6に信号s1を出力して、オイルポンプ供給圧可変リリーフ弁6を閉じ側に制御する。これにより、メインオイル通路2a内を流れているオイル7の一部がオイルポンプ供給圧可変リリーフ弁6の下流に位置するバイパスオイル通路2cへと流れ込むことを阻止又は遮断される。これにより、オイル通路2内の油圧を高くする又は上げることができる。
また、オイル圧可変リリーフ弁制御手段は、エンジン50の運転状態によりピストン14の冷却が必要な場合には、オイルポンプ供給圧可変リリーフ弁6に信号s1を出力して、オイルポンプ供給圧可変リリーフ弁6を閉じ側に制御してオイル通路内2の油圧をオイルジェットチェック弁4の開弁圧Qbより大きくする。これにより、オイルジェットチェック弁4が開状態となり、メインオイル通路2a内のオイル7がオイルジェット5に流れ込む。これにより、オイルジェット5からピストン14に向けてオイル7が噴射される。よって、そのオイル7によりピストン14が冷却される。
燃料噴射量制御手段は、燃料噴射弁22に信号s2を出力することにより、燃料噴射弁22から燃焼室(気筒)内17への燃料噴射量を制御する。微小噴射量学習手段は、燃料噴射弁22から燃焼室17内に対して微少噴射量の燃料を噴射した際のエンジン50の回転変動に基づいて微少噴射量学習を行う。なお、微小噴射量学習の意義については後述する。負荷上昇促進装置制御手段は、負荷上昇促進装置の作動及び停止を制御する。
[内燃機関の潤滑装置(第2の形態)の構成]
図2は、本発明の実施形態に係る内燃機関の油圧を制御する油圧制御機構を備えた内燃機関の潤滑装置(第2の形態)200の構成を示す。なお、以下では、上記した内燃機関の潤滑装置(第1の形態)100と同一の要素については同一の符号を付し、その説明は省略する。
内燃機関の潤滑装置(第2の形態)200は、上記した内燃機関の潤滑装置(第1の形態)100の構成に対して、さらに、メインオイル通路2aにおいてオイルジェットチェック弁4の上流側に設けられたオイルジェット開閉弁8と、オイルジェット開閉弁8の開閉を制御する、ECU30の機能としてのオイルジェット開閉弁制御手段と、を更に備える。
オイルジェット開閉弁制御手段は、オイルジェット開閉弁8(図2を参照)に信号s4を出力することにより、オイルジェット開閉弁8の開閉状態を制御する。具体的には、オイルジェット開閉弁制御手段によってオイルジェット開閉弁8が開状態とされることにより、メインオイル通路2a内を流れているオイル7がオイルジェット5側へと流れ込む。一方、オイルジェット開閉弁制御手段によってオイルジェット開閉弁8が閉状態とされることにより、メインオイル通路2a内を流れているオイル7がオイルジェット5側へと流れ込むことを阻止又は遮断される。
この構成によれば、エンジン50の運転状態に応じて、オイル圧可変リリーフ弁制御手段を通じてオイルポンプ供給圧可変リリーフ弁6を閉じ側に制御することでオイル通路2内の油圧を高めつつ、オイルジェット開閉弁8を閉状態とすることでオイルジェット5によるピストン14へのオイル7の噴射を停止することができる。
以下、上記した内燃機関の潤滑装置100、200による油圧制御を含む各種の制御方法について説明する。なお、以下の各種の制御方法は、特に明示がない限り、内燃機関の潤滑装置100又は200により実施される。そこで、以下では、特に明示する場合には内燃機関の潤滑装置200などと表記し、そうでない場合には、単に内燃機関の潤滑装置と表記する。
{内燃機関の潤滑装置による油圧制御(第1の制御)}
次に、本実施形態に係る内燃機関の潤滑装置による油圧制御方法(第1の制御方法)の説明に先立ち、従来の内燃機関の油圧制御方法及びその課題について述べる。
図3(a)は、一般的なエンジンに係る油圧制御マップを示す。このマップは、エンジン負荷とエンジン回転数とオイル通路内のオイルの圧力(油圧)とにより規定され、エンジン負荷の大きさに拘わらずエンジン回転数の増加に伴ってオイル通路内の油圧が高く設定される。図3(a)において、縦軸は、エンジン負荷(エンジントルク)(Nm)を示し、横軸はエンジン回転数(rpm)を示す。また、図3(a)において、破線L1はエンジン負荷とエンジン回転数により規定される全負荷出力線を示し、実線L2はオイル通路2内の油圧の等高線を示し、一点鎖線領域A1は全負荷出力線L1における高負荷領域(全負荷律速の油圧となる領域)を示す。
通常のエンジンでは、低負荷領域(図3(a)のハッチングで示す領域)A4にある場合でも、オイルジェットからピストンに向けてオイルが噴射されるためピストンを不要に冷却させ、これにより燃費の悪化を招いているといった課題がある。
また、通常のエンジンでは、図3(a)に示すように、オイル通路内の油圧は、エンジン回転数に応じて決まる。即ち、通常のエンジンでは、オイル通路内の油圧は、図3(a)の矢印に示すように、エンジン回転数の増加に伴って高く設定される。ここで、オイル通路内の油圧は、エンジン負荷が大きくなるほど高くする必要がある。しかしながら、通常のエンジンでは、上記のようにオイル通路内の油圧をエンジン負荷の大きさに応じて増減させることができない。このため、通常のエンジンでは、図3(a)の破線領域A2及び二点鎖線領域A3(エンジン回転数が高回転側における低負荷から中負荷に至る領域)ではオイル通路内の油圧が過剰となり、これによりオイルポンプ3の仕事量の増大などを招き、燃費を悪化させているといった課題がある。
また、低燃費化などを目的とする低圧縮比のディーゼルエンジン(以下、「低圧縮比型ディーゼルエンジン」と称する)の場合、圧縮行程における上死点での燃焼室内の温度が低い。このため、低圧縮比型ディーゼルエンジンは、低負荷領域において、自己着火しづらく、これによってHCが大量に排出されてしまうといった課題がある。
そこで、第1の制御方法では、オイル圧可変リリーフ弁制御手段は、エンジン50の運転状態に応じてオイルポンプ供給圧可変リリーフ弁6の開く割合を変化(「0%」を全閉状態とし、「100%」を全開状態としたときに、0〜100%の範囲内で変化)させてオイル通路2内の油圧を適切に制御する。なお、第1の制御方法は、内燃機関の潤滑装置100により実行される。以下、その具体的な油圧制御方法の例について図3(b)を参照して説明する。
図3(b)は、本制御方法における油圧制御マップの一例を示す。このマップは、エンジン負荷及びエンジン回転数並びにオイル通路2内の油圧により規定され、エンジン負荷検出手段45及びエンジン回転数検出手段44により検出されたエンジン負荷及びエンジン回転数が大きくなるに従いオイル通路2内の油圧を高く設定する。図3(b)において、縦軸は、エンジン負荷(エンジントルク)(Nm)を示し、横軸はエンジン回転数(rpm)を示す。また、図3(b)において、破線L1はエンジン負荷とエンジン回転数により規定される全負荷出力線を示し、実線L2はオイル通路2内の油圧の等高線を示す。
即ち、第1の制御方法では、まず、ECU30は、エンジン負荷検出手段45及びエンジン回転数検出手段44よりエンジン負荷及びエンジン回転数をそれぞれ取得する。次に、オイル圧可変リリーフ弁制御手段は、図3(b)に示す油圧制御マップに従って、オイルポンプ供給圧可変リリーフ弁6の開く割合を変化させる。具体的には、オイル圧可変リリーフ弁制御手段は、図3(b)に示すようにエンジン回転数及びエンジン負荷が低い状態からエンジン回転数及びエンジン負荷が高い状態になるに従って、オイルポンプ供給圧可変リリーフ弁6を閉じ側に制御することにより、メインオイル通路2aからバイパスオイル通路2cへ流れ込むオイル7の量を少なくしてオイル通路2内の油圧を高くする。
これにより、低負荷から中負荷に至る領域においてオイル通路2内の油圧が過剰となることを抑制できる。よって、低負荷から中負荷に至る領域においてオイルポンプ3の仕事量などを低減できるのに伴って、燃費が悪化することを低減できる。その結果、従来のように低負荷から中負荷にかけてオイル通路2内の油圧を過剰に高くしていたロスがなくなり、低負荷領域から高負荷領域までの略全域で燃費の悪化を改善することができる。
特に、オイル圧可変リリーフ弁制御手段は、図3(b)のハッチングで示す低負荷領域A4では、オイル通路2内の油圧がオイルジェットチェック弁4の開弁圧Qb以下となるようにオイルポンプ供給圧可変リリーフ弁6を開き側に制御することで、オイルジェット5からピストン14に向けてオイル7の噴射を行うことを停止する。これにより、低負荷領域A4において、オイル通路2内の油圧が過剰になることを抑制できると共に不要にピストン14を冷却させてしまうことを抑制できる。その結果、燃焼室内の冷却損失を低減できるため、低負荷領域から高負荷領域までの略全域で燃費の悪化を改善することができる。
また、第1の制御方法において、本実施形態のエンジン50として低圧縮比型ディーゼルエンジンを適用する場合には、低負荷領域において燃焼室17内の冷却損失を低減できるので、自己着火性を向上させることができ、これに伴ってHCの排出量を低減することができる。
{油圧上昇過程における負荷(噴射量)制限制御(第2の制御)}
次に、図4及び図5を参照して、本実施形態による油圧上昇過程における負荷(噴射量)制限制御方法(第2の制御方法)について説明する。
図4(a)は、図3(b)に対応する油圧制御マップの一例を示す。図4(b)は、燃料噴射量(エンジン負荷又はエンジントルク)制限マップの一例を示す。このマップは、エンジン負荷、エンジン回転数及びオイル通路2内の油圧により規定され、エンジン負荷、エンジン回転数及びオイル通路2内の油圧が大きくなるに従い燃料噴射弁22から燃焼室17内への燃料噴射量を段階的(本例では2段階)に所定の噴射量制限値ラインL11、L12に制限する。ここで、L11は油圧P11(Pa)用の燃料噴射量(全負荷)制限値ラインであり、L12は油圧P12(Pa){>P11(Pa)}用の燃料噴射量(全負荷)制限値ラインである。図5(a)は、急激なエンジン負荷の上昇があった場合における、オイル通路2内の油圧(Pa)と時間との関係を示すグラフを示し、図5(b)は、急激なエンジン負荷の上昇があった場合における、燃料の噴射量(mm3/st)と時間との関係を示すグラフを示す。図5(a)及び(b)において、時刻t1〜時刻t2における実線グラフL14、L16は、第2の制御方法を実行している場合のグラフを示す。
いま、ある運転状態から急激なエンジン負荷の上昇があった場合、例えば、図4(a)の破線矢印に示すようにエンジン負荷が低負荷領域(四角印)から高負荷領域(丸印)に急激に遷移したような場合について考える。ここで、急激なエンジン負荷の上昇があった場合とは、例えば運転者がある運転状態からアクセルを急に踏み込むなどして車両の加速を行った場合などに相当する。この場合、オイル通路2内の油圧は、それに追従して上昇する必要がある。しかしながら、エンジン負荷の上昇と比べてオイル通路2内の油圧の上昇には時間が掛かってしまうという課題がある。
即ち、図5(b)に示すように、いま噴射量がQ1の定常状態にある場合において、時刻t1で急激なエンジン負荷の上昇があった場合(目標噴射量Q2(>Q1)とする燃料噴射制御があった場合)には、図5(b)の一点鎖線グラフL13に示すように、時刻t1において直ちに噴射量Q1から目標噴射量Q2へ到達し、さらに時刻t1以降は目標噴射量Q2に維持される。このとき、定常状態にあるオイル通路2内の油圧P1は、かかる噴射量の変化に追従して、図5(a)の一点鎖線グラフL15のように時刻t1において直ちに目標油圧P2に到達することができず、実際は、図5(a)の実線グラフL16で示されるように時刻t1から応答遅れ時間t2をもって目標油圧(必要油圧)P2(>P1)に到達し、さらに時刻t1以降は目標油圧P2に維持される。
このようなエンジン負荷の急激な上昇に対して、オイル通路2内における油圧の上昇が間に合わない場合には、クランク軸受けなどエンジンの潤滑部50aに対してのオイル7の供給が不十分となり、エンジンの潤滑部50においてオイル7の油膜切れ(不足)による磨耗、焼き付きなどが生じてしまうといった課題がある。
そこで、第2の制御方法では、オイル通路2内の油圧の上昇には時間が掛かるということを考慮して、エンジン負荷の上昇に対するオイル通路2内の油圧の変化に対して、燃料噴射弁22からの燃料噴射量(エンジン負荷又はエンジントルク)に制限をかける。具体的には、まず、ECU30は、油圧センサ43を通じてオイル通路2内の油圧を計測する。なお、本発明では、これに限らず、ECU30は、例えば油温センサ42により検出されたオイル7の温度(油温)を検出し、オイル7の温度とオイル7の圧力とにより規定されるマップを参照して、その検出した油温からオイル通路2内の油圧を予測することとしてもよい。
次に、燃料噴射量制御手段は、図4(b)に示す噴射量制限マップを参照して、燃料噴射弁22から燃焼室17内への燃料噴射量を、検出されたオイル通路2内の油圧に応じた所定の噴射量制限値ラインL11又はL12に沿って制御(制限)する。
即ち、燃料噴射量制御手段は、上記した方法により計測又は予測したオイル通路2内の油圧がP11(Pa)であった場合には、エンジン負荷の上昇に伴って要求される噴射量とするのではなく、油圧P11(Pa)用の噴射量制限値ラインL11に基づいた噴射量となるように、燃料噴射弁22からの燃料の噴射量を制限(制御)する。また、この状態からオイル通路2内の油圧が上昇し、現時点において計測又は予測したオイル通路2内の油圧がP12(Pa)であった場合には、燃料噴射量制御手段は、上記同様に油圧P12(Pa)用の噴射量制限値ラインL12に基づいた燃料の噴射量となるように、燃料噴射弁22からの燃料の噴射量を制限(制御)する。これにより、オイル通路2内の油圧の変化(上昇)に応じて、燃料噴射弁22から噴射される燃料の噴射量を変化(上昇)させることができる。
例えば、図5(a)及び(b)において、時刻t1〜時刻t2における実線グラフL14、L16を着目して分かるように、本制御方法を行うことにより、オイル通路2内の油圧が上昇するにしたがって、燃料噴射弁22から噴射される燃料の噴射量が上昇するように制御(制限)されている。これにより、例えばエンジン負荷が急激に上昇したような場合に、燃料噴射弁22からの燃料噴射量の増加に対して制限がかかるため、オイル通路2内の油圧の上昇が間に合わないといった事態を回避できる。よって、エンジンの潤滑部50aに対して必要な量のオイル7を供給することが可能となり、エンジンの潤滑部50aの油切れなどによる磨耗、焼き付きなどの発生を防止することができる。
なお、本例では、噴射量制限マップにおいて2段階の全負荷制限ラインL11及びL12を用意することにした。これに限らず、本発明では、急激なエンジン負荷の上昇があった場合に燃料噴射量制御手段を通じてより緻密な噴射量制御を行うべく、上記した燃料噴射量制限マップにおいて、多段階の燃料噴射量(全負荷)制限値ラインを用意することにしてもよい。
{油圧上昇過程における負荷(噴射量)制限制御の一時軽減制御(第3の制御)}
次に、図6を参照して、本実施形態による油圧上昇過程における負荷(噴射量)制限制御の一時軽減制御方法(第3の制御方法)について説明する。なお、以下では、上記した各制御方法と同一の要素については同一の符号を付し、その説明は適宜省略する。
図6(a)は、図5(a)に対応する、オイル通路2内の油圧(Pa)と時間との関係を示すグラフである。図6(b)は、図5(b)に対応する、第3の制御方法の燃料の噴射量(mm3/st)と時間との関係を示すグラフである。図6(c)は、第3の制御方法の加速度(G)と時間との関係を示すグラフを示す。図6(b)及び図6(c)において、時刻t11〜時刻t12における太い実線グラフL18、L19は、第3の制御方法を実行している場合のグラフを示す。また、図6(c)において、時刻t11〜時刻t13における一点鎖線グラフL17は、第3の制御方法を実行していない場合のグラフを示す。
いま、低負荷領域などの運転状態から急激なエンジン負荷の上昇があった場合について考える。図6(b)の時刻t11において、定常状態にある噴射量Q11から目標噴射量Q13とする燃料噴射制御があった場合には、定常状態にある噴射量Q1は、図6(b)の一点鎖線グラフL13に示すように時刻t11において直ちに目標噴射量Q13に到達し、さらに時刻t11以降は目標噴射量Q13に維持される。また、これに追従して、定常状態にある車両の加速度G11(G)も、図6(c)の一点鎖線グラフL17に示すように時刻t11において直ちに目標加速度G12(G)に到達し、さらに時刻t11以降は目標加速度G13に維持される。このため、搭乗者は、エンジン負荷の上昇に見合った加速フィーリングを体感することができる。
しかしながら、低負荷領域などの運転状態から急激なエンジン負荷の上昇があった場合に、エンジンの潤滑部50aの油切れなどによる磨耗、焼き付きなどの発生を防止するために第2の制御方法を実行した場合には、オイル通路2内の油圧の上昇に応じて、燃料噴射量が所定の噴射量制限値ラインに沿って制御(制限)されるため、車両の加速レスポンスが悪化してしまうといった課題が生じ得る。
そこで、第3の制御方法では、このような加速レスポンスの悪化を低減するために、燃料噴射量制御手段は、オイル通路2内における油圧の上昇過程において、上記の第2の制御方法を通じて燃料噴射量を所定の噴射量制限値ラインに沿って制御(制限)することを一時的に解除する。以下、その具体的な例について説明する。
ある運転状態から急激なエンジン負荷の上昇があった場合には、いわゆるスクイーズ効果により、エンジンの各摺動部同士(例えば、ピストン14とシリンダ11)の間において一瞬だけ油圧が発生する。ここで、図7を参照して、スクイーズ効果について簡単に説明する。
図7は、エンジンの各摺動部の要部断面図を示す。図7には、エンジンの摺動部50xと、当該エンジンの摺動部50xと一定の間隔をおいて配置されたエンジンの被摺動部50yと、それらの間に形成されたオイル7の油膜などが示されている。この構成において、ある運転状態から急激なエンジン負荷の上昇があった場合に、エンジンの被摺動部50xに対してエンジンの摺動部50yに近づく方向(図中の白抜き矢印方向)に力が加わった場合、その力に起因して、エンジンの被摺動部50xとエンジンの摺動部50yとの間には図中の破線領域に示すように油圧が発生し、エンジンの被摺動部50xとエンジンの摺動部50yとの間に存在するオイル7が実線矢印方向に移動する。このような作用は、一般的にスクイーズ効果と呼ばれている。
このようなスクイーズ効果によりエンジンの各摺動部同士の間において瞬間的に油圧が発生している場合には、その瞬間だけ、ある油圧における所定の噴射量制限値ラインよりも燃焼室17内へ多めに燃料を噴射しても、オイル7の油膜切れ(不足)による磨耗、焼き付きなどの問題が生じない。
そこで、第3の制御方法では、燃料噴射量制御手段は、ある運転状態から急激なエンジン負荷の上昇があった場合には、スクイーズ効果中トルク制限マップに基づいて、ある時点における油圧の大きさからスクイーズ効果中トルク制限値ライン(燃料噴射量及び燃料噴射時期)を算出し、その算出したスクイーズ効果中トルク制限値ラインの範囲内で燃料噴射弁22を通じて燃焼室17内への燃料噴射を実施する。
ここで、スクイーズ効果中トルク制限マップは、エンジン回転数、燃料噴射量及びオイル通路2内の油圧により規定され、エンジン負荷上昇過程においてスクイーズ効果があった場合に、ある時点における油圧の大きさからスクイーズ効果中トルク制限値ライン(燃料噴射量及び燃料噴射時期を含み、対応する第2の制御方法に係る噴射量制限マップの所定の噴射量制限値ラインより大きい)を算出するためのマップである。
いま、図6(a)の時刻t11において、例えば急激なエンジン負荷の上昇があり、瞬間的にスクイーズ効果による油圧上昇(図6(a)では図示を省略)があった場合には、燃料噴射弁22からの燃料噴射量が、燃料噴射量制御手段によって、図6(b)に示すように、時刻t11〜時刻t12の期間だけ、定常状態にある噴射量Q11からスクイーズ効果中トルク制限値Q12(<目標燃料噴射量Q13)まで上昇するように制御(制限)されている。これに伴い、車両の加速度は、図6(c)に示すように、時刻t11〜時刻t12の期間だけ、定常的な加速度G11からスクイーズ効果中トルク制限値Q12に対応する加速度G12(<目標加速度G13)まで上昇するように制御される。これにより、ある運転状態から急激なエンジン負荷の上昇があった場合に、加速レスポンスが悪化することを改善できる。よって、搭乗者は、エンジン負荷の上昇に見合った加速フィーリングを体感することができる。
なお、第3の制御方法の実施を終了した時刻t12以降は上記した第2の制御方法を継続して実施することが望ましい。これにより、エンジンの潤滑部50aに対して必要な量のオイル7を供給することが可能となり、エンジンの潤滑部50aの油切れなどによる磨耗、焼き付きなどの発生を防止することができる。
{加速過程におけるシフトアップ時の油圧減禁止制御(第4の制御)}
次に、本実施形態による車両の加速過程におけるシフトアップ時の油圧減禁止制御方法(第4の制御方法)について説明する。
車両の加速過程においては上記した第2の制御方法との関係で次のような課題がある。即ち、車両の加速過程ではエンジン負荷が上昇するため、これに伴ってオイル通路2内の油圧を上げる必要がある。そのため、エンジンの潤滑部50aの油切れなどによる磨耗、焼き付きなどの発生を防止するために第2の制御方法を実施した場合には、エンジン負荷の急激な上昇に対して、燃料噴射弁22からの燃料噴射量の増加に対して制限がかかるため、車両の加速レスポンスが悪化してしまうといった課題が生じる。
また、マニュアルトランスミッション(MT)やマルチモード・マニュアル・トランスミッション(MMT)などの変速機構により変速を行う車両では、次のような課題がある。即ち、このような変速機構を有する車両において、加速過程におけるシフトアップ時にはドライバーによって一瞬だけアクセルが戻される。これにより、エンジン負荷やエンジン回転数が一時的に下がるため、上記した第1の制御方法を実施することで、オイル圧可変リリーフ弁制御手段を通じてオイル通路2内の油圧が下がるようにオイルポンプ供給圧可変リリーフ弁6が制御される。つまり、図4(b)の油圧制御マップに従い、オイル通路2内の油圧は高い領域から低い領域へと移行するように制御されることになる。そうすると、その後の加速時においてオイル通路2内の油圧が上昇するまでに、上記した第2の制御方法により燃料噴射量の制限が行われるため燃料噴射量を直ちに上げることができず、車両の加速がシフトアップの度毎に鈍ってしまうといった課題がある。
ところで、車両の加速過程におけるシフトアップの直後には、車両の加速によってエンジン負荷及びエンジン回転数が上昇するために、上記の第1の制御方法によりオイル通路2内の油圧を上げることが予測される。そこで、第4の制御方法では、オイル圧可変リリーフ弁制御手段は、車両の加速過程においてシフトアップ検出手段46によりシフトアップがあったことが検出された時に、オイル圧可変リリーフ弁6の開き側への制御を禁止してオイル通路3内の油圧を下げることを禁止する。これにより、車両の加速過程におけるシフトアップ時に、オイル通路2内の油圧がそのシフトアップ直前の高い状態に維持され、車両の加速レスポンスを向上させることができる。その結果、シフトアップの度毎に車両の加速が悪化してしまうことを防止できる。
次に、図8を参照して、第4の制御処理の一例について説明する。図8は、第4の制御処理の一例に係るフローチャートを示す。この処理はECU30により繰り返し実行される。
まず、ECU30は、車両の加速過程におけるシフトアップ時にドライバーによって踏み込まれていたアクセルペダルが一瞬戻されたか否かについて判定する(ステップS1)。ここで、車両が加速過程にあるか否かについては、ECU30がアクセルペダルの位置(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサ49から出力されるアクセル開度に基づいて判定する。例えば、ドライバーによりアクセルペダルが完全に踏み込まれた状態をアクセル開度が100%とし、また、ドライバーによりアクセルペダルが完全に戻された(又は離された)状態をアクセル開度が0%であるとした場合に、アクセル開度センサ49から得られるアクセル開度が50%以上に対応する場合には、ECU30は車両が加速過程にあるものと判定する。また、シフトアップ時にアクセルペダルが一瞬戻されたか否かについては、ECU30は、例えばシフトアップ検出手段46を通じてシフトアップ有りの出力があった場合にはアクセルペダルが一瞬戻されたものと判定する一方、シフトアップ無しの出力があった場合にはアクセルペダルが戻されていないものと判定する。
ステップS1での判定がNoである場合にはステップS1に戻る。一方、ステップS1での判定がYesである場合には、オイル圧可変リリーフ弁制御手段は、オイル圧可変リリーフ弁6の開き側への制御を禁止して所定の期間、例えば5秒間だけオイル通路2内の油圧を減らすことを禁止する(ステップS2)。これにより、シフトアップの直後に、上記した第2の制御方法によって燃料噴射量制限の実施が行われることを回避できるので、車両の加速レスポンスを向上させることができる。
{冷間時における燃料カット時のオイルジェット制御(第5の制御)}
次に、本実施形態による内燃機関の冷間時における燃料カット時のオイルジェット制御方法(第5の制御方法)について説明する。なお、第5の制御方法は、内燃機関の潤滑装置100により実行される。
エンジン50の冷間時には次のような課題がある。即ち、エンジン負荷が低負荷となるエンジン50の冷間時には、HCの排出を抑制するため、上記した第1の制御方法によりオイルジェット5からピストン14に向けてオイル7の噴射が停止される。そうすると、オイル通路2内を流れるオイル7は、エンジン50において最も温度の高くなるピストン14によって加熱されなくなるので、エンジン50の冷間時にオイル7を迅速に暖めることができなくなる。このため、オイル7の粘度が高い状態が続くことよってエンジンの各摺動部におけるフリクションの増大を招き、燃費が悪化してしまうといった課題がある。
このような課題に対して、第5の制御方法では、オイル圧可変リリーフ弁制御手段は、エンジン50の冷間時における燃焼室17内への燃料カット時(例えば車両の減速過程における燃料カット時を含む)に、オイル圧可変リリーフ弁6を閉じ側に制御することでオイル通路2内の油圧をオイルジェットチェック弁4の開弁圧Qbより大きくして、オイルジェット5からピストン14に向けてオイル7の噴射を行う。
これにより、エンジン50において最も温度の高くなるピストン14に対しオイル7が噴きかけられ、オイル7の加熱を促進することができる。よって、エンジン50の冷間時における燃料カット時(例えば車両の減速過程における燃料カット時を含む)にオイル7を迅速に暖めることができる。また、このとき、オイルジェット5からピストン14に向けてオイル7を噴射するために、オイル通路2内の油圧が高くなるように制御(オイルジェットチェック弁4にかかる圧力が開弁圧Qbより大きくなるように制御)されるので、エンジン負荷が増大してエンジンブレーキの効きが良くなり、車両の減速をより促進することができる。また、このようにオイル通路2内の油圧を高くすることにより、ピストン14が冷え切っていたような場合であってもオイルポンプ3の作動により発生する熱によってオイル7を暖め続けることができる。なお、オイル通路2内の油圧を高くすることによってオイルポンプ3の負荷(仕事量)が増大するが、燃料カットを実行している最中なので燃費の悪化を招くことはない。
次に、図9を参照して、第5の制御処理の一例について説明する。図9は、第5の制御処理の一例に係るフローチャートを示す。この処理はECU30により繰り返し実行される。
まず、ECU30は、エンジン50が冷間状態にあるか否かについて判定する(ステップS11)。具体的には、ECU30は、水温センサ41を通じて水温を検出し(又は油温センサ42を通じてオイル7の温度(油温)を検出し)、その検出した水温(又は油温)が、例えば80℃より小さい場合にはエンジン50が冷間状態にあるものと判定する。
ステップS11での判定がNoである場合にはステップS11に戻る。一方、ステップS11での判定がYesである場合には、ステップS12へ進む。ステップS12では、ECU30は、燃料噴射弁22への出力信号s2に基づいて燃料カットを実行しているか否かについて判定する。ステップS12での判定がNoである場合には、ステップS12に戻る。一方、ステップS12での判定がYesである場合には、ステップS13に進む。このステップS13では、オイル圧可変リリーフ弁制御手段は、オイル圧可変リリーフ弁6を閉じ側に制御することでオイル通路2内の油圧をオイルジェットチェック弁4の開弁圧Qbより大きくして、オイルジェット5からピストン14に向けてオイル7の噴射を行う。これにより、オイル7がピストン14によって加熱されるので、オイル7の温度上昇が促進される。よって、エンジン50の冷間時における燃料カット時(例えば車両の減速過程における燃料カット時を含む)にオイル7を迅速に暖めることができる。
なお、本発明では、ステップS13において、オイルジェット5からピストン14に向けてオイル7を噴射するのではなく、オイルジェットチェック弁4の開弁圧Qbを超えない範囲でオイル通路2内の油圧を高くするようにしてもよい。これにより、ピストン14が冷え切っていたような場合であってもオイルポンプ3の作動により発生する熱によってオイル7を暖め続けることができる。よって、エンジン50の冷間時における燃料カット時(例えば車両の減速過程における燃料カット時を含む)にオイル7を迅速に暖めることが可能となる。
{微小噴射量学習時のオイルジェット制御(第6の制御)}
次に、本実施形態による微小噴射量学習時のオイルジェット制御方法(第6の制御方法)について説明する。
シフトアップ時などの燃料カット時においては、燃料噴射弁より微小量の燃料を燃焼室内に噴射することが行われる。この場合、微少量の燃料を燃焼させるとその噴射量に応じたエンジンの微小な回転変動(シフトアップ時の場合は回転上昇)が生じる。微小噴射量学習とは、この際に所定の微小噴射量と回転変動との関係に基づいて行われる学習である。つまり、微小噴射量学習とは、燃料噴射弁(インジェクタ)の個体差などの影響を受けることなく、微小量の燃料を安定して噴射できるようにするために、その噴射量を校正するための学習である。
このような微小噴射量学習時には、燃料噴射弁22より燃焼室17内に向けて極微小量の燃料が噴射されるので、燃焼室17内の燃焼温度が十分に高くなっていないと失火が引き起され、これに伴って誤学習してしまうといった課題がある。よって、このような課題に対処するには、微少噴射量学習時において、燃焼室17内の温度を下げないようにすることが必要である。
そこで、第6の制御方法において内燃機関の潤滑装置100を適用する場合、第6の制御方法では、オイル圧可変リリーフ弁制御手段は、上記した微小噴射量学習手段による微小噴射量学習時に、オイル圧可変リリーフ弁6を開き側に制御することでオイル通路2内の油圧をオイルジェットチェック弁4の開弁圧Qb以下として、オイルジェット5からピストン14に向けてオイル7の噴射を行うことを禁止する。なお、内燃機関の潤滑装置200の場合には、オイル圧可変リリーフ弁制御手段は、オイル通路2内の油圧を下げることなく、オイルジェット開閉弁8を閉状態(オフ状態)に制御することでオイルジェット5からピストン14に向けてオイル7の噴射を行うことを禁止する。
これにより、微小噴射量学習時において、ピストン14がオイル7によって不要に冷却されることを防止できるので、燃焼室17内の温度が低下してしまうことを防止できる。よって、微小噴射量学習時に微小量の燃料を安定して燃焼させることができる。その結果、燃焼が不安定になる(例えば失火が生じる)ことに起因して誤学習が生じるといったことを回避できる。また、微小量の燃料を安定して燃焼させることが可能となるので、微小噴射量学習範囲(例えば、標高、吸気温度、水温、コモンレール圧力など)を拡大することが可能となる。
次に、図10を参照して、第6の制御処理の一例について説明する。図10は、第6の制御処理の一例に係るフローチャートを示す。この処理はECU30により繰り返し実行される。
まず、ECU30は、燃料噴射弁22に対する出力信号s2に基づいて、例えばシフトアップ時などにおける燃料カットが実行されているか否かについて判定する(ステップS21)。燃料カットが実行されていない場合には(ステップS21;No)、ステップS21へ戻る。一方、燃料カットが実行されている場合には(ステップS21;Yes)、ステップS22へ進み、ECU30は、エンジン50の運転状態に基づき微小噴射量学習を開始するための準備条件が整ったか(OK)であるか否かについて判定する(ステップS22)。ステップS22での判定がNoである場合には、ステップS22に戻る。一方、ステップS22での判定がYesである場合には、ECU30は、ステップS23へ進む。
ステップS23において、内燃機関の潤滑装置100を適用する場合には、オイル圧可変リリーフ弁制御手段は、オイル圧可変リリーフ弁6を開き側に制御することでオイル通路2内の油圧をオイルジェットチェック弁4の開弁圧Qb以下として、オイルジェット5からピストン14に向けてオイル7の噴射を行うことを禁止する。一方、ステップS23において、内燃機関の潤滑装置200を適用する場合には、オイル圧可変リリーフ弁制御手段は、オイル通路2内の油圧を下げることなく、オイルジェット開閉弁8を閉状態(オフ状態)に制御することでオイルジェット5からピストン14に向けてオイル7の噴射を行うことを禁止する。これにより、微小噴射量学習時において、ピストン14がオイル7によって不要に冷却されることを防止できる。よって、微小噴射量学習時に燃焼室17内の温度が低下してしまうことを防止できる。
次に、ECU30は、燃料噴射弁22に出力信号s2を出力して、燃料噴射弁22を通じて燃焼室17内に対し微小量の燃料を噴射して微小噴射量学習を実行する(ステップS24)。上記のように微小噴射量学習時に燃焼室17内の温度が低下してしまうことを防止できるので、ステップS24において微小量の燃料を安定して燃焼させることができる。その結果、燃焼が不安定になる(例えば失火が生じる)ことに起因して誤学習が生じるといったことを回避できる。
{車室内の暖房性能向上制御(第7の制御)}
次に、本実施形態による車室内を空調する室内空調装置の暖房性能を向上させるための制御方法(第7の制御方法)について説明する。
例えば外気温度が0℃より小さくなる極寒の状況下では、エンジン始動直後に直ちに車室内の暖房を効かせることが望ましい。しかし、室内空調装置の一例としての暖房装置による車室内への暖房はエンジンの冷却水の熱を利用して行っているので、暖房を効かせるとそれだけ冷却水の熱が車室内を暖めるために用いられ、冷却水の温度(水温)が上昇しづらくなる。よって、このような極寒の状況下では、暖房装置による車室内への暖房を迅速に効かせることが難しいといった課題がある。
一方で、低圧縮比のディーゼルエンジンは、上記したように圧縮行程における上死点での筒内温度が低いので、冷却水の温度が低い時には自己着火しづらく、HCが大量に排出され易い。このため、一般的には、グロープラグを作動させて筒内温度を高くすることにより、自己着火性能を向上させて、HCの排出量を抑えている。しかし、グロープラグは使用する程その寿命が低下するので、グロープラグの寿命をできるだけ延ばすためには、グロープラグの作動を開始してから所定の期間経過後にグロープラグの作動を停止しなければならない。よって、グロープラグの作動が停止するまでにHCの排出量が問題とならないレベルまでエンジンの暖機がされていなければならない。
そこで、第7の制御方法では、オイル圧可変リリーフ弁制御手段は、例えば極寒の状況下において、室内空調装置47を作動(例えば暖房装置を作動)している時には、オイル圧可変リリーフ弁6を閉じ側に制御することでオイル通路2内の油圧をオイルジェットチェック弁4の開弁圧Qbより大きくして、オイルジェット5からピストン14に向けてオイル7の噴射を行う。
これにより、エンジン50において最も温度の高くなるピストン14に対しオイル7が噴きかけられることになるので、オイル7の加熱が促進される。そして、加熱されたオイル7は、オイルクーラを通じて冷却水との間で熱交換されるため、冷却水の温度上昇を促進することができる。よって、極寒の状況下において、エンジンの始動直後などに、エンジンの冷却水の熱を利用して暖房を効かせる室内空調装置47による車室内への暖房を迅速に効かせることが可能となる。
加えて、第7の制御方法では、オイル圧可変リリーフ弁制御手段は、例えば極寒の状況下において、室内空調装置(例えば暖房装置)47を作動している時には、オイル圧可変リリーフ弁6を閉じ側に制御することでオイル通路2内の油圧を上げてエンジン負荷を上昇させると共に、燃料噴射制御手段は燃料噴射弁22から燃焼室17内への燃料噴射量を増やす。
これによれば、オイルジェット5によりピストン14に向けてオイル7が噴射されることにより、燃焼室17内の温度が下がりHCが排出され易くなるが、この制御方法を追加することによりエンジン負荷を上昇させて、燃焼室17への燃料噴射量が増やされるので、燃焼室17の温度が高くなりHCの排出量を大幅に減らすことができる。よって、グロープラグの作動が開始してから停止するまでに、かかる制御を実施すれば、グロープラグの寿命の低下を防止しつつ、HCの排出量を低減することができる。
次に、図11を参照して、第7の制御処理の一例について説明する。図11は、第7の制御処理の一例に係るフローチャートを示す。この処理はECU30により繰り返し実行される。
まず、ECU30は、極寒の環境下にてエンジン始動を実施するか否か、また、現在の冷却水の温度が低いか否か、また、室内空調装置(例えば暖房装置)47から得られる作動及び停止の信号に基づき室内空調装置47が作動中であるか否かについて夫々判定する(ステップS31)。ここで、極寒の環境下にてエンジン始動を実施するか否かの判定において、ECU30は、例えばエンジン50の始動時に水温センサ41から得られる水温が0℃より小さい場合には極寒の環境下にてエンジン始動を実施するものと判定し、そうでなければ極寒の環境下にてエンジン始動を実施しないものと判定する。また、現在の冷却水の温度が低いか否かの判定において、ECU30は、例えば水温センサ41から得られる水温が60℃より小さい場合には水温が低いものと判定し、そうでなければ水温が低くないものと判定する。
ステップS31での判定がNoである場合にはステップS31に戻る。例えば、極寒の環境下にてエンジン始動を実施する場合でも、現時点における冷却水の温度が上昇しているような場合には、上記した課題は生じ難いので、この場合にはステップS31に戻る。一方、ステップS31での判定がYesである場合には、ステップS32に進む。
このステップS32では、オイル圧可変リリーフ弁制御手段は、オイルポンプ供給圧可変リリーフ弁6を閉じ側に制御することでオイル通路2内の油圧をオイルジェットチェック弁4の開弁圧Qbより大きくしてオイルジェット5からピストン14に向けてオイル7の噴射を行う。これにより、極寒の状況下において、エンジンの始動直後などに、エンジンの冷却水の熱を利用して暖房を効かせる室内空調装置(例えば暖房装置)47による車室内への暖房を迅速に効かせることができ、室内空調装置47の暖房性能の向上を図ることができる。加えて、このステップS32では、オイル圧可変リリーフ弁制御手段は、オイルポンプ供給圧可変リリーフ弁6を閉じ側に制御して、オイル通路2内の油圧を高くする。これにより、エンジン負荷が上昇するため、燃料噴射制御手段は燃料噴射弁22から燃焼室17内への燃料噴射量を増やす。これにより、燃焼室17の温度上昇が促進され、HCの排出量を大幅に減らすことができる。
{車室内の暖房性能向上制御及び暖機補助制御(第8の制御)}
次に、本実施形態による暖機補助制御による車室内の暖房性能をより向上させるための制御方法(第8の制御方法)について説明する。
例えば、標高の高い高地、低水温、低外気温度など厳しい環境条件が複合したような場合には、上記した第7の制御方法による効果が十分に得られず、HCの排出量が増加し、室内空調装置(例えば暖房装置)47による車室内への暖房効果が不十分になる虞がある。
そこで、第8の制御方法では、室内空調装置(例えば暖房装置)47の作動時において、負荷上昇促進装置制御手段は、負荷上昇促進装置を作動させてエンジン負荷を上昇させると共に、燃料噴射量制御手段は、燃料噴射弁22から燃焼室17内への燃料噴射量を増やす。
ここで、負荷上昇促進装置としては、例えば、吸気ヒータ、グロープラグ、ライト、スパーチャージャー、エアーコンプレッサ、ビスカスヒータ、水加熱ヒータなどが挙げられる。なお、ビスカスヒータとは、室内空調装置(例えば暖房装置)47による車室内への暖房を補助する補機であり、オイル7を掻き混ぜた熱で冷却水を加熱する作用を果たす。また、水加熱ヒータとは、冷却水を加熱するヒータである。これらの電気機器や装置を積極的に作動させることにより、エンジン負荷を上昇させることができる。
これによれば、上記の第7の制御方法を実施した場合にはオイルジェット5によりピストン14に向けてオイル7が噴射されて燃焼室17内の温度が下がりHCが排出され易くなるが、上記の第8の制御方法により負荷上昇促進装置を積極的に作動させることによりエンジン負荷を上昇させて、燃焼室17への燃料噴射量が増やされるので、燃焼室17の温度が高くなりHCの排出量を大幅に減らすことができる。また、燃焼室17の温度が高くなるので、冷却水が加熱され、エンジン50の暖機を補助(促進)することができる。
このようにエンジン50の暖機が補助(促進)されるので、上記したような厳しい環境条件が複合するような下でも、室内空調装置(例えば暖房装置)47による車室内への暖房をより迅速に効かせることが可能となる。
次に、図12を参照して、第8の制御処理の一例について説明する。図12は、第8の制御処理の一例に係るフローチャートを示す。この処理はECU30により繰り返し実行される。なお、本制御処理において、ステップS41は第7の制御処理におけるステップS31と同一の処理であるため、その説明は省略する。
ステップS41での判定がYesである場合には、ステップS42に進む。このステップS42では、上記した第7の制御処理と同様に、オイル圧可変リリーフ弁制御手段は、オイルポンプ供給圧可変リリーフ弁6を閉じ側に制御することでオイル通路2内の油圧をオイルジェットチェック弁4の開弁圧Qbより大きくしてオイルジェット5からピストン14に向けてオイル7の噴射を行うと共に、オイルポンプ供給圧可変リリーフ弁6を閉じ側に制御してオイル通路2内の油圧を高くする。これにより、上記した第7の制御処理において説明したように、室内空調装置47の暖房性能の向上及びHCの排出量の低減を図ることができる。これに加えて、このステップS42では、負荷上昇促進装置制御手段は、負荷上昇促進装置を作動させてエンジン負荷を上昇させる。これに応じて、燃料噴射量制御手段により、燃料噴射弁22から燃焼室17内への燃料噴射量が増やされる。よって、燃焼室17の温度が高くなってエンジン50の暖機を補助(促進)することができ、室内空調装置47の暖房性能をより向上させることができる。
{排気温度上昇制御(第9の制御)}
次に、本実施形態による排気温度上昇の制御方法(第9の制御方法)について説明する。
周知のように、エンジンから排出される排気ガス中には、窒素酸化物(NOx)、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)などの有害物質が含まれる。これらの有害物質が大気中に排出されると大気汚染を招くため、近年の車両では、有害物質を浄化するための触媒が排気通路上に設けられることが多い。エンジンの低温状態での始動時には、触媒の温度が低くて活性化状態にないため有害物質が浄化されにくく、これらの有害物質が大気中に排出され易くなる。このような有害物質の排出を抑制するためには、エンジンの低温状態での始動時に触媒を早期に暖機してその活性化を促すことが必要である。
また、ディーゼル車では、排気ガス中にPM(粒子状物質)、NOxなどの有害物質が含まれる。このため、近年のディーゼル車では、これらの有害物質による大気汚染防止のために、触媒の一例としてのDPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルター)や、NOx還元触媒が排気通路上に設けられる。ここで、DPFは、PMを捕集し、担持した触媒の反応によりPMを燃焼させて浄化する装置である。DPFでは、その内部に溜め込む事が可能なPMの量に限界があるので、そのPMによる目詰まりを防止するためにPM再生(PMの燃焼)が行われる。一方、NOx還元触媒は、NOxを吸蔵してそれを浄化する装置である。NOx還元触媒では、燃料中に含まれる硫黄分によって被毒され、その浄化性能が低下するため、それを再生するための硫黄(S)再生が行われる。上述したようなDPFによるPM再生時やNOx還元触媒によるPM再生時には、PM再生やS再生を促進する為に、それらの触媒を早期に暖機する必要がある。
そこで、第9の制御方法では、オイル圧可変リリーフ弁制御手段は、内燃機関の暖機時に触媒の早期暖機が必要な場合には、オイル圧可変リリーフ弁を閉じ側に制御することでオイル通路2内の油圧を上げる。ここで、触媒にはDPFやNOx還元触媒など各種の触媒が含まれる。また、触媒の早期暖機が必要な場合とは、例えば、エンジンの冷間始動時や、DPFによるPM再生時や、NOx還元触媒によるPM再生時など有害物質が大気中に排出され易くなる場合が挙げられる。
これによれば、オイル通路2内の油圧を上げることで、エンジン50のフリクションを増加させることができる。そのため、同じ軸出力(エンジンの軸出力)の時の燃料噴射量が上がるため、燃焼室17内の冷却損失を低減、つまりエンジン50の暖機を促進することができ、排気ガスの温度を上昇させることができる。その結果、エンジンの冷間始動時などにおいて、排気ガスの温度上昇による、触媒の早期暖機を行うことができる。
なお、内燃機関の潤滑装置100において第9の制御方法を実施するに際しては、オイル圧可変リリーフ弁制御手段は、オイルジェットチェック弁4の開弁圧Qbを超えない範囲でオイル通路2内の油圧を上げることが望ましい。この理由は、オイル通路2内の油圧をオイルジェットチェック弁4の開弁圧Qbより大きくしてしまうと、オイルジェット5からピストン14に向けてオイル7が噴射されて燃焼室17内の温度が低下し、これにより排気ガスの温度が低下して触媒の早期暖機を妨げることになるからである。
これに対して、内燃機関の潤滑装置200において第9の制御方法を実施する場合には、上記した制限はない、即ちオイルジェットチェック弁4の開弁圧Qbを超えない範囲でオイル通路2内の油圧を上げる必要はない。この理由は、オイル通路2内の油圧をオイルジェットチェック弁4の開弁圧Qbより大きくした場合であっても、オイルジェット開閉弁制御手段を通じてオイルジェット開閉弁8を閉状態とすることによりオイルジェット5からピストン14に向けてオイル7が噴射されてしまうことを停止することができるからである。むしろ、内燃機関の潤滑装置200の場合には、上記した第9の制御方法に加えて、さらにオイルジェット開閉弁制御手段を通じてオイルジェット開閉弁8を閉状態に制御してオイルジェット5の作動を停止することが望ましい。これにより、燃焼室17内の温度をより早く高めることができる。よって、排気ガスの温度上昇をより促進することができ、エンジンの冷間始動時などにおいて、より迅速に触媒の暖機を行うことが可能となる。
次に、図13を参照して、第9の制御処理の一例について説明する。図13は、第9の制御処理の一例に係るフローチャートを示す。この処理はECU30により繰り返し実行される。
まず、ECU30は、触媒の早期暖機が必要であるか否か判定する(ステップS51)。例えば、このステップS51において、エンジン50の冷間始動時や、DPFによるPM再生時や、NOx還元触媒によるPM再生時などの場合は、ECU30は触媒の早期暖機が必要であるものと判定し、そうでなければECU30は触媒の早期暖機が必要でないものと判定する。
この判定において、触媒の早期暖機が必要でない場合には(ステップS51;No)、ステップS51に戻る。一方、触媒の早期暖機が必要である場合には(ステップS51;Yes)、ステップS52に進む。ステップS52では、オイル圧可変リリーフ弁制御手段は、オイルポンプ供給圧可変リリーフ弁6を閉じ側に制御して、オイル通路2内の油圧を上げる。これにより、上述したように、エンジンの冷間始動時などにおいて、排気ガスの温度上昇による、触媒の早期暖機を行うことができる。また、内燃機関の潤滑装置200の場合には、ステップS52において、オイル圧可変リリーフ弁制御手段は、オイルポンプ供給圧可変リリーフ弁6を閉じ側に制御して、オイル通路2内の油圧を上げると共に、オイルジェット開閉弁制御手段は、オイルジェット開閉弁8を閉状態に制御してオイルジェット5からピストン14に向けてオイル7の噴射を行うことを停止する。これにより、上述したように、排気ガスの温度上昇をより促進することができ、エンジンの冷間始動時などにおいて、より迅速に触媒の暖機を行うことが可能となる。
{低温始動時の油圧制御(第10の制御)}
次に、本実施形態によるエンジンの低温状態での始動(クランキング)時における油圧制御方法(第10の制御方法)について説明する。
極寒の状況下など外気温度が低い環境下ではオイルの粘度が低下するため、エンジンの潤滑部のフリクションが増加する。また、このようにオイルの粘度が低下するとオイル通路内の油圧が高くなり、これによってもエンジンの潤滑部のフリクションが増加する。また、エンジンの潤滑部のフリクションが増加すると、エンジンを始動するためのスタータモータの負荷が増大すると共に、エンジン始動時のクランキング回転数が低下する。
ここで、図14は、エンジン始動時のクランキング回転数とエンジンの始動(完爆)時間との関係を示す。図14において、横軸はクランキング回転数(rpm)を示し、縦軸はエンジンの始動(完爆)時間(秒)を示す。図14に示すように、クランキング回転数が低くなるほどエンジンの始動時間は長くなる。よって、上記のようにクランキング回転数が低下すると、これに伴ってエンジンの始動時間が長くなってしまい、エンジン始動性の悪化をきたすといった課題がある。
また、極寒の状況下など外気温度が低い環境下ではバッテリーの温度が低くなるため、バッテリーの電圧が下がる。バッテリーの電圧が下がることにより、スタータモータを駆動するためのバッテリーの負荷(電力の供給量)が増えると共にスタータモータを十分に機能させることが難しくなり、エンジン始動時のクランキング回転数が低くなる。よって、エンジンの始動時間が長くなり、これによってもエンジンの始動性が悪化してしまうといった課題がある。
また、低圧縮比のディーゼルエンジンでは、上記したように圧縮行程における上死点での温度が低い。このため、外気温度が低い場合には、自己着火性が悪くなってエンジン始動時のクランキング回転数が低くなり、エンジン始動性の悪化がより顕著となる。
そこで、第10の制御方法では、オイル圧可変リリーフ弁制御手段は、エンジン50の低温状態での始動(クランキング)時には、オイル圧可変リリーフ弁6を開き側に制御することでオイル通路2内の油圧を下げる。これにより、エンジンの潤滑部50aのフリクションを低減することができ、エンジン始動時のクランキング回転数を上げることができる。よって、エンジン50の低温状態での始動性を向上させることができる。
また、オイル通路2内の油圧を下げることによって、スタータモータにかかる負荷を低減することができる。これにより、エンジンの種類によってはスタータモータのサイズを小さくすることができる結果、そのコスト及び重量を減らすことができる。また、スタータモータの重量を減らすことができるので、その分エンジンの負荷を減らすことができ、燃費を向上させることが可能となる。
また、オイル通路2内の油圧を下げることによって、スタータモータを駆動するためのバッテリーの負荷(電力の供給量)を低減することができる。これにより、車両又はエンジンの種類によってはバッテリーのサイズを小さくすることができる結果、そのコスト及び重量を減らすことができる。また、バッテリーの重量を減らすことができるので、その分エンジンの負荷を減らすことができ、燃費を向上させることが可能となる。
次に、図15を参照して、第10の制御処理の一例について説明する。図15は、第10の制御処理の一例に係るフローチャートを示す。この処理はECU30により繰り返し実行される。
まず、ECU30は、極寒の状況などによりエンジン50の水温が低いか否かについて判定すると共に、エンジン50の始動(クランキング)時であるか否かについて判定する(ステップS61)。このステップS61において、ECU30は、例えば水温センサ41から得られる水温が−10℃より小さい場合には水温が低いものと判定し、そうでない場合には水温が低くないものと判定する。また、ECU30は、例えばドライバーによりエンジンのキースイッチがON(オン)にされた場合にはエンジン50の始動(クランキング)時であるものと判定し、そうでない場合にはエンジン50の始動(クランキング)時でないものと判定する。
ステップS61での判定がNOである場合にはステップS61へ戻る。一方、ステップS61での判定がYesである場合には、ステップS62へ進み、オイル圧可変リリーフ弁制御手段は、オイルポンプ供給圧可変リリーフ弁6を開き側に制御して、オイル通路2内の油圧を下げる。これにより、エンジンの潤滑部50aのフリクションを低減することができ、エンジン始動時のクランキング回転数を上げることができる。よって、エンジンの冷間始動時における始動性を向上させることができる。
{エンジン始動時のオイルジェット制御(第11の制御)}
次に、本実施形態によるエンジン始動時のオイルジェット制御方法(第11の制御方法)について説明する。
エンジン始動時は、前回のエンジンの作動時にエンジンの潤滑部に付着して残ったオイルでエンジンの潤滑部の潤滑を行っている。しかし、エンジンを長期間に亘って作動させていないと、エンジンの潤滑部に付着して残っているオイルの量は自然と少なくなる。これは、エンジンの潤滑部に付着して残っていたオイルの一部がオイルパンに滴下したり、蒸発したりしてしまうからである。よって、このような状態で上記した第10の制御方法を実施すると、エンジン始動時にオイル通路内の油圧が低いことに起因してオイルジェットを作動させることができず、オイルジェットからシリンダボア、ピストンピンなどへのオイルの供給が遅れ、それらの部位の磨耗が引き起される虞がある。
そこで、第11の制御方法では、オイル圧可変リリーフ弁制御手段は、前回のエンジン50の停止時から所定の期間(例えば、10日を超える期間)以上経過している場合のエンジン50の始動時に、オイル圧可変リリーフ弁6を閉じ側に制御することでオイル通路2内の油圧をオイルジェットチェック弁4の開弁圧Qbより大きくして、例えば所定の期間(例えば、10秒間)だけオイルジェット5からピストン14に向けてオイル7の噴射を行う。
これにより、オイルジェット5からピストン14の各部やシリンダボアなどに向けてオイル7が例えば所定の期間だけ噴射される。よって、ピストン14の各部やボアなどに対して潤滑に必要な十分な量のオイル7を供給することができる。その結果、前回のエンジン停止時から所定の期間以上経過している状況下でエンジンを始動する場合に、ピストン14の各部やシリンダボアなどの磨耗が引き起されることを回避できる。
また、極寒の状況下など外気温度が低い場合であって、且つ前回のエンジン停止時から所定の期間以上経過している場合にエンジンの始動を行う場合には、上記した第10の制御方法及び第11の制御方法のどちらを優先的に行えばよいか問題となる。もし、第11の制御方法に対して第10の制御方法を優先させた場合には、オイル通路2内の油圧が低いことに起因して、オイルジェット5が作動しないことがあり、この場合には、ピストン14の各部やシリンダボアなどに対して潤滑に必要な十分な量のオイル7を供給することができず、ピストン14の各部やシリンダボアなどの磨耗が引き起される虞がある。
そこで、上記した条件の下では、第10の制御方法に対して第11の制御方法を優先的に実施する。即ち、エンジン始動時において、外気温度が低く且つ前回のエンジン停止時から所定の期間以上経過している場合には、オイル通路2内の油圧を低くする制御に先立ち、オイルジェット5を所定の期間だけ作動させ、その後にオイル通路2内の油圧を低くする制御を実施する。
これによれば、オイル通路2内の油圧を低くする制御に先立ち、オイルジェット5を所定の期間だけ作動させることにより、ピストン14の各部やボアなどに対して潤滑に必要な十分な量のオイル7を供給することができる。よって、ピストン14の各部やボアなどの磨耗が引き起されることを回避できる。また、オイルジェット5を所定の期間だけ作動させた後には、オイル通路2内の油圧を低くする制御が実施されるので、エンジンの潤滑部50aのフリクションを低減することができ、エンジン始動時のクランキング回転数を上げることができる。よって、エンジン50の低温状態での始動性を向上させることができる。
次に、図16を参照して、第11の制御処理の一例について説明する。図16は、第11の制御処理の一例に係るフローチャートを示す。この処理はECU30により繰り返し実行される。
まず、ECU30は、極寒の状況などによりエンジン50の水温が低いか否かについて判定する(ステップS71)。ここで、エンジン50の水温が低いか否かの判定は、上記した第10の制御処理のステップS61と同様の方法により行う。
この判定処理において、エンジン50の水温が低くない場合には(ステップS71;No)、ステップS71に戻る。一方、エンジン50の水温が低い場合には(ステップS71;Yes)、ステップS72に進む。このステップS72では、ECU30は、前回のエンジン停止時から所定の期間(例えば、10日)以上経過しているか否かについて判定すると共に、エンジン50の始動時であるか否かについて判定する。ここで、前回のエンジン停止時から所定の期間(例えば、10日)以上経過しているか否かの判定は、ECU30が、その内部回路等に設けられたタイマを使用して行う。また、エンジン50が始動時であるか否かの判定は、上記した第10の制御処理のステップS61と同様の方法により行う。
エンジン始動時に、前回のエンジン停止時から所定の期間(例えば、10日)以上経過していない場合には(ステップS72;No)、ステップS72に戻る。一方、エンジン始動時に、前回のエンジン停止時から所定の期間(例えば、10日)以上経過している場合には(ステップS72;Yes)、ステップS73に進み、オイル圧可変リリーフ弁制御手段は、オイル圧可変リリーフ弁6を閉じ側に制御することでオイル通路2内の油圧をオイルジェットチェック弁4の開弁圧Qbより大きくして、例えば所定の期間(例えば、10秒間)だけオイルジェット5からピストン14に向けてオイル7の噴射を行う。これにより、オイルジェット5からピストン14の各部やシリンダボアなどに向けてオイル7が例えば所定の期間だけ噴射される。よって、ピストン14の各部やシリンダボアなどに対して潤滑に必要な十分な量のオイル7を供給することができる。その結果、前回のエンジン停止時から所定の期間以上経過している状況下でエンジンを始動する場合に、ピストン14の各部やシリンダボアなどの磨耗が引き起されることを回避できる。
次に、オイル圧可変リリーフ弁制御手段は、オイルポンプ供給圧可変リリーフ弁6を開き側に制御し、オイル通路2内の油圧を下げる(ステップS74)。これにより、エンジンの潤滑部50aのフリクションを低減することができ、エンジン始動時のクランキング回転数を上げることができる。よって、エンジン50の低温状態での始動性を向上させることができる。
{低温始動直後の油圧制御(第12の制御)}
次に、本実施形態によるエンジンの低温状態での始動直後の油圧制御方法(第12の制御方法)について説明する。
まず、第12の制御方法の説明に先立ち、図17を参照して、極寒の状況下など低温状態におけるエンジン始動直後の課題について説明する。
図17(a)は、全炭化水素(THC)の濃度(ppmC)と時間(秒)との関係を示すグラフである。図17(a)において、縦軸はTHCの濃度(ppmC)を示し、横軸は時間(秒)を示す。図17(b)は、エンジン回転数(rpm)と時間(秒)との関係を示すグラフである。図17(b)において、縦軸はエンジン回転数(rpm)を示し、横軸は時間(秒)を示す。図17(c)は、燃料の噴射量(mm3/st)と時間(秒)との関係を示すグラフである。図17(c)において、縦軸は燃料の噴射量(mm3/st)を示し、横軸は時間(秒)を示す。また、図17(a)〜(c)において、例えば時刻t21から時刻t22までの期間は約10秒程度とされ、時刻t22から時刻t23までの期間は約20秒程度とされる。
極寒の状況下でのエンジン50の始動直後(時刻t21以降におけるスタータモータOFFの直後)は、燃焼室内、シリンダボア、シリンダヘッドなどが冷えているため、燃焼室内での燃焼が不安定であり、失火し易い状態にある。ここで、図17(a)の破線領域A10及び図17(c)の破線領域A11は、それぞれエンジン始動直後において、燃料噴射量が多いために燃焼室内の温度が低く、失火し易い状態にある期間を示している。なお、THCは、図17(a)に示すように燃料噴射時期等に対して時間的な遅れがある。とりわけ、ディーゼルエンジンの場合、このような状況下では自己着火性等が悪くなりがちであり、失火などが起こり易くなる。さらに、低圧縮比のディーゼルエンジンの場合は、圧縮行程の上死点における燃焼室内の温度が低い為、このような状況下では自己着火性がより一層悪くなりがちであり、失火がより起こり易い。
また、極寒の状況下でのエンジンの始動直後は、オイルの温度が低い為にオイルの粘度が高く、エンジンの潤滑部のフリクションが非常に大きい。また、オイルの粘度が高くなるとオイル通路内の油圧が高くなり、エンジンの潤滑部のフリクションが大きくなって、図17(c)の破線領域A11に示すように燃料噴射量が多くなる。また、燃料噴射量が多くなると、それだけ燃料の蒸発量が多くなるので、その蒸発する際に発生する蒸発潜熱(気化熱)も大きくなる。これにより、シリンダやピストンなどから奪われる熱量が増し、燃焼室内が必要以上に冷やされてしまう。このため、燃焼室内における燃料の着火性の悪化を招き、これに起因して不完全燃焼が引き起される。このため、HC(白煙)の排出量が多くなってしまうといった課題がある。
そこで、第12の制御方法では、オイル圧可変リリーフ弁制御手段は、エンジン50の始動後に失火状態検出手段48によって失火状態が検出された場合には、オイル圧可変リリーフ弁6を開き側に制御することでオイル通路2内の油圧を下げる。これにより、エンジンの潤滑部50aのフリクションを低減することができる。よって、エンジン50の始動直後に燃料噴射量を少なくすることができ、これに伴って、上記した蒸発潜熱を減らすことができ、燃焼室17内の温度を高めることができる。
これに加えて、第12の制御方法では、オイル圧可変リリーフ弁制御手段は、エンジン50の始動後に失火状態検出手段48によって失火状態が検出された場合には、オイル圧可変リリーフ弁6を開き側に制御することでオイルジェットチェック弁4の開弁圧Qb以下として、オイルジェット5からピストン14に向けてオイル7の噴射を行うことを停止する。これにより、ピストン14がオイル7によって冷却されることを回避できるので、燃焼室17の温度を高めることができる。よって、燃料の着火性を向上させることができる。その結果、不完全燃焼の発生が抑制されるため、外気温度が低い状況下などにおいてエンジン50の始動直後にHC(白煙)の排出を抑制することができる。
次に、図18を参照して、第12の制御処理の一例について説明する。図18は、第12の制御処理の一例に係るフローチャートを示す。この処理はECU30により繰り返し実行される。
まず、ECU30は、エンジン50の水温が低いか否かについて判定すると共に、エンジン50の始動直後か否かについて判定する(ステップS81)。このステップS81において、ECU30は、例えば水温センサ41から得られる水温が0℃より小さい場合にはエンジン50の水温が低いものと判定し、そうでない場合にはエンジン50の水温が低くないものと判定する。また、ECU30は、スタータモータがON状態(動作)からOFF状態(停止)になった場合にはエンジン始動直後であるものと判定し、そうでない場合にはエンジン始動直後でないものと判定する。
ステップS81での判定がNoである場合にはステップS81に戻る。一方、ステップS81での判定がYesである場合には、ステップS82に進み、オイル圧可変リリーフ弁制御手段は、所定の期間τだけ、次の制御を行う。即ち、オイル圧可変リリーフ弁制御手段は、オイル圧可変リリーフ弁6を開き側に制御することでオイル通路2内の油圧を下げると共に、さらにオイル圧可変リリーフ弁6を開き側に制御することでオイルジェットチェック弁4の開弁圧Qb以下として、オイルジェット5からピストン14に向けてオイル7の噴射を行うことを停止する。ここで、所定の期間τは、ECU30が、水温(℃)とオイルジェット停止期間τ(秒)とにより規定されるマップに基づいて決定する。例えば、図19は、そのマップの一例を示す。ECU30は、図19に示すマップに基づいて、エンジン50の水温がAc1〜Ac2の範囲において水温が低くなるほど所定の期間τを長く設定し、水温がAc1より小さい場合には所定の期間τ1に設定する。このステップS82を実行することにより、外気温度が低い状況下でのエンジン50の始動直後において、失火を防止することができると共にHC(白煙)の排出を抑制することができる。
{グロープラグ切れ際の低負荷HC対策制御(第13の制御)}
次に、本実施形態によるグロープラグの切れ際(停止際)の低負荷状態におけるHC対策制御方法(第13の制御方法)について説明する。なお、第13の制御方法は、内燃機関の潤滑装置200により実行される。
まず、図20を参照して、グロープラグの切れ際(停止際)における課題について説明する。
図20(a)は、エンジンのフリクション(Nm)と水温(℃)との関係を示すグラフである。図20(a)において、縦軸に示す無負荷(ノーロード)時の燃料の噴射量(mm3/st)はエンジンのフリクション(Nm)に比例(∝)していることを示している。図20(a)において、矢印Y1の区間(低水温からAc11(℃)となるまでの区間)は、極寒など環境条件が厳しい場合にグロープラグがON状態(作動状態)とされる区間を示し、水温がAc11(℃)より高くなる状況下(矢印Y2)では、グロープラグの寿命を延ばす観点からグロープラグがOFF状態(停止状態)とされることを示す。
図20(b)は、全炭化水素(THC)の濃度(ppmC)と水温(℃)とグロープラグのON/OFF動作との関係を示すグラフである。図20(b)において、縦軸はTHCの濃度(ppmC)を示し、横軸はエンジン50の水温(℃)を示す。図20(b)において、基準線L30は、HCによる白煙、臭いの許容レベルを示す。つまり、基準線L30より小さい場合には、HCによる白煙、臭いがそれほど問題とならずに許容され、基準線L30を越える場合はHCによる白煙、臭いが問題となり許容されない。また、図20(b)において、グラフg1はグロープラグがON状態(作動状態)である場合を示し、グラフg2はグロープラグのOFF(停止)時に第13の制御方法を実施した場合を示し、グラフg3は厳しい環境条件により低水温からAc11(℃)となるまでの区間においてグロープラグがON状態(作動状態)であり、水温がAc11(℃)より高くなる状況下ではグロープラグがOFF状態(停止状態)である場合を示す。なお、本実施形態において水冷式のオイルクーラを用いている場合には、図20(a)及び(b)に示す横軸の水温(℃)は油温(℃)と略等しくなる。
図20(c)は、全炭化水素(THC)の濃度(ppmC)と燃料の噴射量(mm3/st)との関係を示すグラフである。図20(c)において、縦軸はTHCの濃度(ppmC)を示し、横軸は燃料の噴射量(mm3/st)を示す。また、図20(c)において、基準線L31は、HCの白煙、臭いの許容レベルを示す。つまり、基準線L31より小さい場合には、HCによる白煙、臭いがそれほど問題とならずに許容され、基準線L31を越える場合はHCによる白煙、臭いが問題となり許容されない。また、図20(c)において、グラフg4はオイルジェットがOFF状態(停止状態)である場合を示し、グラフg5はオイルジェットがON状態(作動状態)である場合を示す。また、図20(c)において、グラフg5上の点P1は、図20(b)のグラフg3の破線領域A20の部分に対応している。
さて、極寒など外気温度が低い状況下では、グロープラグ作動停止の直後(図20(b)のグラフg3の破線領域A20付近)において、HCによる白煙、臭いが最も酷くなってしまうといった課題がある。
また、図20(c)において、グラフg5上の点P1の状態からオイル通路2内の油圧を下げてオイルジェットの作動を停止した場合には、点P1の状態から点P2の状態に遷移、即ち燃料の噴射量(エンジン負荷)が下がって、HCの排出量が増加してしまうといった課題がある。なお、図20(c)において、グラフg5上の点P1の状態からオイル通路2内の油圧を下げずにオイルジェットの作動を停止した場合には、点P1の状態から点P3の状態に遷移、即ち燃料の噴射量(エンジン負荷)を下げずに、HCの排出量を減らすことができる。
また、グロープラグは使用するほどその寿命が下がってしまうので、グロープラグの寿命をできるだけ延ばす為に、グロープラグの作動を開始してから所定の期間経過後にグロープラグを停止させなければならない。グロープラグの作動を停止させるまでの間にHCの排出レベルが問題のない状態になっていないと、高濃度のHCを排出してしまうといった課題がある。
そこで、第13の制御方法では、グロープラグ23の停止時において、オイルジェット開閉弁制御手段はオイルジェット開閉弁8を閉状態とすることでオイルジェット5からピストン14に向けてオイル7の噴射を行うことを停止すると共に、オイルジェット開閉弁制御手段は、オイル圧可変リリーフ弁6を閉じ側に制御することでオイル通路2内の油圧を上げる。
これにより、エンジン負荷が大きくなって燃料噴射量が増加し、燃焼室17内の温度を高くすることができる。その結果、図20(b)のグラフg2に示されるように、極寒など外気温度が低い状況下であって、グロープラグ23の停止直後にHCの排出量を低減することができ、これに伴ってHCによる白煙、臭いの排出を低減できる。
次に、図21及び図22を参照して、第13の制御処理の一例について説明する。
図21は、第13の制御処理の一例に係るフローチャートを示す。この処理はECU30により繰り返し実行される。
図22は、エンジン負荷とエンジン回転数とエンジン水温とにより規定されるエンジン水温−制御実施範囲マップの一例を示す。図22において、縦軸は、エンジン負荷(エンジントルク)(Nm)を示し、横軸はエンジン回転数(rpm)を示す。また、図22において、破線L1はエンジン負荷とエンジン回転数により規定される全負荷出力線を示す。また、図22において、領域A30は、エンジン水温が10℃より小さく且つエンジン負荷及びエンジン回転数が低負荷低回転数となる領域を示し、領域A31は、エンジン水温が10〜20℃の範囲内にあり且つエンジン負荷及びエンジン回転数が低負荷低回転数(<領域A30の低負荷低回転数)となる領域を示し、領域A32は、エンジン水温が20〜30℃の範囲内にあり且つエンジン負荷及びエンジン回転数が低負荷低回転数(<領域A31の低負荷低回転数)となる領域を示し、領域(丸印)A33は、エンジン水温が30℃より大きく且つエンジン負荷及びエンジン回転数が低負荷低回転数(<領域A32の低負荷低回転数)となる領域を示す。
まず、ECU30は、グロープラグ23が停止状態(オフ状態)にあるか否かについて判定すると共に、エンジン水温、エンジン負荷及びエンジン回転数が、図22のエンジン水温−制御実施範囲マップにおいて、以後のステップS92を実施するための所定の制御実施範囲内にあるか否かについて判定する(ステップS91)。
この判定処理において、ECU30は、グロープラグ23に出力する信号s3をOFF信号とする場合にはグロープラグ23が停止状態にあるものと判定する。また、ECU30は、図22のエンジン水温−制御実施範囲マップを参照して、エンジン水温、エンジン負荷及びエンジン回転数が領域A30〜A32にある場合には、燃焼室17内の温度が低くHCが排出され易い状況であり、以後のステップS92の処理(制御)を実施する範囲内にあるものと判定し、そうでない場合、即ち領域A33並びに領域A30〜A32以外の領域にある場合には、燃焼室17内の温度が高くHCが排出され難い状況であり、以後のステップS92の処理(制御)を実施する範囲内にないものと判定する。
この処理での判定において、グロープラグ23が停止状態になく、かつ、所定の制御実施範囲内にない場合には(ステップS91;No)、ステップS91に戻る。一方、グロープラグ23が停止状態にあり、かつ、所定の制御実施範囲内にある場合(領域A30〜A32にある場合)には(ステップS91;Yes)、ステップS92に進む。
このステップS92では、オイルジェット開閉弁制御手段はオイルジェット開閉弁8を閉状態とすることでオイルジェット5からピストン14に向けてオイル7の噴射を行うことを停止すると共に、オイルジェット開閉弁制御手段は、オイル圧可変リリーフ弁6を閉じ側に制御することでオイル通路2内の油圧を上げる。
これにより、エンジン負荷が大きくなって燃料噴射量が増加し、燃焼室17内の温度を高くすることができる。その結果、グロープラグ23の停止直後のHCが排出され易い運転領域(即ち領域A30〜A32)において、HCの排出量を低減することができ、これに伴ってHCによる白煙、臭いの排出を低減できる。
{グロープラグ切れ際の準備制御(第14の制御)}
次に、本実施形態によるグロープラグの切れ際(停止際)の準備制御方法(第14の制御方法)について説明する。なお、第14の制御方法は、内燃機関の潤滑装置200により実行される。
上記した第13の制御方法によれば、グロープラグ23の作動を停止した後にオイルジェット5の作動を停止する。これにより、オイルジェット5からピストン14に向けてオイル7の噴射が停止されるので、燃焼室17内の温度を上昇させることができる。ところが、上記した第13の制御方法において、オイルジェット5の作動を停止してから燃焼室17内の温度が上がるまでの間は、燃焼室17内の温度が低いことによって、失火が生じ易く、HCも排出されてしまうといった課題がある。
そこで、第14の制御方法では、上記した第13の制御方法によってグロープラグ23の作動が停止される前に、オイルジェット5の作動を停止する。具体的には、オイル圧可変リリーフ弁制御手段は、グロープラグ23の停止前からグロープラグ23の停止時にかけて、オイル圧可変リリーフ弁6を開き側に制御することでオイル通路2内の油圧をオイルジェットチェック弁4の開弁圧Qb以下として、オイルジェット5からピストン14に向けてオイル7の噴射を行うことを停止する。
これにより、グロープラグ23の停止前からグロープラグ23の停止時にかけてオイルジェット5からピストン14に向けてオイル7の噴射が停止され、その間に予め燃焼室17内の温度を高くしておくことができる。その結果、グロープラグ23の作動を停止した後において、失火が引き起され難くなると共にHCの排出を低減することができる。
次に、図23及び図24を参照して、第14の制御処理の一例について説明する。図23は、第14の制御処理の一例に係るフローチャートを示す。この処理はECU30により繰り返し実行される。
図24は、エンジン負荷とエンジン回転数とエンジン水温とにより規定されるエンジン水温−制御実施範囲マップの一例を示す。図24において、縦軸は、エンジン負荷(エンジントルク)(Nm)を示し、横軸はエンジン回転数(rpm)を示す。また、図24において、破線L1はエンジン負荷とエンジン回転数により規定される全負荷出力線を示す。また、図24において、領域A40は、エンジン水温が5℃より小さく且つエンジン負荷及びエンジン回転数が低負荷低回転数となる領域を示し、領域A41は、エンジン水温が5〜15℃の範囲内にあり且つエンジン負荷及びエンジン回転数が低負荷低回転数(<領域A40の低負荷低回転数)となる領域を示し、領域A42は、エンジン水温が15〜25℃の範囲内にあり且つエンジン負荷及びエンジン回転数が低負荷低回転数(<領域41の低負荷低回転数)となる領域を示し、領域(丸印)A43は、エンジン水温が25℃より大きく且つエンジン負荷及びエンジン回転数が低負荷低回転数(<領域A42の低負荷低回転数)となる領域を示す。
まず、ECU30は、グロープラグ23が停止前(例えばグロープラグ23の停止前からグロープラグ23の停止時までの期間が10秒)にあるか否かについて判定すると共に、エンジン水温、エンジン負荷及びエンジン回転数が、図24のエンジン水温−制御実施範囲マップにおいて、以後のステップS102を実施するための所定の制御実施範囲内にあるか否かについて判定する(ステップS101)。
この判定処理において、ECU30は、グロープラグ23に出力する信号s3をON信号とする場合にはグロープラグ23が停止前であるものと判定する。また、ECU30は、図24のエンジン水温−制御実施範囲マップを参照して、エンジン水温、エンジン負荷及びエンジン回転数が領域A40〜A42にある場合には、燃焼室17内の温度が低いために失火し易く、またHCが排出され易い状況であり、以後のステップS102の処理(制御)を実施する範囲内にあるものと判定し、そうでない場合、即ち領域A43並びに領域A40〜A42以外の領域にある場合には、燃焼室17内の温度が高いために失火し難く、またHCが排出され難い状況であり、以後のステップS102の処理(制御)を実施する範囲内にないものと判定する。
この処理での判定において、グロープラグ23が停止前でなく、かつ、所定の制御実施範囲内にない場合には(ステップS101;No)、ステップS101に戻る。一方、グロープラグ23が停止前であり、かつ、所定の制御実施範囲内にある場合(領域A40〜A42にある場合)には(ステップS101;Yes)、ステップS102に進む。
このステップS102では、オイル圧可変リリーフ弁制御手段は、オイル圧可変リリーフ弁6を開き側に制御することでオイル通路2内の油圧をオイルジェットチェック弁4の開弁圧Qb以下として、オイルジェット5からピストン14に向けてオイル7の噴射を行うことを停止する。これにより、グロープラグ23の停止前(例えばグロープラグ23の停止前からグロープラグ23の停止時までの期間が10秒)において予め燃焼室17内の温度を高くしておくことができる。その結果、グロープラグ23の作動を停止した後において、失火が引き起され難くなると共にHCの排出を低減することができる。次に、ECU30は、上記した第13の制御処理を実行する(ステップS103)。
{暖機を急ぐ必要がない場合の燃費向上制御(第15の制御)}
次に、本実施形態によるエンジンの暖機を急ぐ必要がない場合において燃費を向上させる制御方法(第15の制御方法)について説明する。
ここまでの発明を整理してまとめた図表を図25に示す。但し、図25では、第1の制御方法〜第16の制御方法に係る発明のうちその一部に係る発明の内容は割愛している。
上記した第7及び第8の制御方法では、図25にも示すように、エンジン50の暖機促進を図るために、オイル通路2内の油圧を高くして、エンジン負荷を上昇させて燃料噴射弁22から燃焼室17内への燃料噴射量を増やすようにしている。また、上記した第7又は第8の制御方法では、HCの排出を低減するために、オイルジェット5からピストン14に向けてオイル7を噴射してオイル7を加熱し、さらに加熱したオイル7と冷却水との間で熱交換を行うことにより、又はビスカスヒータや水加熱ヒータなどを使用することにより、グロープラグ23の停止時におけるエンジン水温をできる限り上げてようにしている。
しかしながら、上記した第7及び第8の制御方法は他の制御方法と比べて長時間使用するため、次のような課題が生じ得る。即ち、上記した第7及び第8の制御方法において、グロープラグ23の停止時においてエンジン水温が低く、これによりHCが排出されてしまう厳しい条件とは、(A)エンジンの低負荷状態を長時間維持させている(例えば、アイドリング状態を長時間持続している状態であるアイドル放置などが概ね該当する)場合と、(B)暖房装置の作動によりエンジン水温が下げられる場合とを共に満たす条件である。これ以外の条件、例えば車両が普通に走り出してしまうような条件であればエンジン負荷は下がってエンジンの暖機は向上するのでHCの排出が問題となることはない。しかしながら、このような場合にも、上記した第7、第8の制御方法を実施させた場合には、エンジン負荷の不要な増加に伴って燃費の悪化を招いてしまうといった課題がある。
そこで、第15の制御方法では、オイル圧可変リリーフ弁制御手段は、エンジン負荷検出手段45により取得したエンジン負荷が図2(b)の油圧制御マップにおいて低負荷領域A4にある場合において、エンジン50の暖機を急ぐ必要がない場合には、オイル圧可変リリーフ弁6を開き側に制御することでオイル通路2内の油圧を下げる。ここで、エンジン50の暖機を急ぐ必要がない場合とは、例えば暖房装置を作動させていない場合や、アイドル放置を実施していない場合などが挙げられる。これにより、エンジン負荷を下げることができるので、燃焼室17内への燃料噴射量を減らすことができる結果、エンジン50の低温時において燃費を向上させることができる。
なお、第15の制御方法を実施するに際しては、上記した第1の制御方法〜後述する第17の制御方法までの優先順位を踏まえて実施することが望ましい。具体的には、上記した第1の制御方法〜後述する第17の制御方法までの実施の優先順位は、第1の制御方法が最も高く、その次に第7及び第8の制御方法が高く、その次に第15の制御方法が高く、その次に本実施形態に係るその他の制御方法となる。
次に、図26及び図27を参照して、第15の制御処理の一例について説明する。
図26は、第15の制御処理の一例に係るフローチャートを示す。この処理はECU30により繰り返し実行される。
図27は、第15の制御処理に係る、エンジン負荷とエンジン回転数とにより規定された油圧制御マップの一例を示す。図27において、縦軸は、エンジン負荷(Nm){又は噴射量(mm3/st)}を示し、横軸はエンジン回転数(rpm)を示す。また、図27において、破線L1はエンジン負荷とエンジン回転数により規定される全負荷出力線を示し、ハッチングで示す領域A4は、エンジン50の運転領域が低負荷となる領域を示す。
まず、ECU30は、エンジン50の暖機を急ぐ必要がない場合か否かについて判定すると共に、エンジン負荷が図27にハッチングで示す低負荷領域A4にあるか否かについて判定する(ステップS111)。この判定処理において、エンジン50の暖機を急ぐ必要がない場合とは、上述したように、例えば暖房装置を停止している場合や、アイドル放置をしていない場合などが挙げられる。即ち、ECU30は、室内空調装置(例えば暖房装置)の作動が停止状態(OFF状態)である場合、或いはエンジン始動時からのアイドリング時間の割合が例えば50%以下である場合には、エンジン50の暖機を急ぐ必要がない場合であるものと判定する。
ステップS111での判定がNoである場合にはステップS111に戻る。一方、ステップS111での判定がYesである場合には、ステップS112に進み、オイル圧可変リリーフ弁制御手段は、エンジン負荷検出手段45により取得したエンジン負荷が図27の油圧制御マップにおいて低負荷領域A4にある場合において、エンジン50の暖機を急ぐ必要がない場合には、オイル圧可変リリーフ弁6を開き側に制御することでオイル通路2内の油圧を下げる。これにより、エンジン負荷を下げることができるので、燃焼室17内への燃料噴射量を減らすことができる。その結果、エンジン50の暖機を急ぐ必要がない場合であって、且つエンジン負荷が低負荷領域(エンジン水温が低い領域)にある場合において燃費の向上を図ることができる。
{下り坂走行時等における暖機性向上制御(第16の制御)}
次に、本実施形態による下り坂走行時等におけるエンジンの暖機性向上制御(第16の制御方法)について説明する。
アイドリングを長期に亘って続けるアイドル放置の状況下では、エンジン負荷及びエンジン回転数が共に低いのでエンジンの暖機が不十分となりやすい。このようなアイドル放置でない状況下でもエンジンの暖機が不十分となる場合がある。例えば、上記した第15の制御方法を実施してしまうと、オイル通路内の油圧を下げられたことに起因してエンジン負荷が下がり、暖機が不十分となってしまうといった課題がある。
また、山頂から平地に向かって長い下り坂を走行するような状況下では燃料カットが続く為、エンジンの暖機が不十分となり易いといった課題がある。
また、このような燃料カット時には、燃焼室内を予熱するために用いられるグロープラグをオフ(停止)にすることで、グロープラグの寿命をできる限り延ばすことが考えられる。こうした場合、燃料カット時にグロープラグをオフさせた時間分だけ、その時間をエンジン始動時からのグロープラグのオン(作動)時間を延ばすことに充てられるといった利点がある。しかし、上記したグロープラグの使用の仕方によればグロープラグのオン/オフを繰り返すことになり、グロープラグのオン時に生じる突入電流の回数の増加に伴ってグロープラグの寿命が却って短くなってしまうことになる。よって、上記したようなグロープラグの使用方法を採用することは得策ではない。
仮に、このようなグロープラグの使用方法を採用したとしても、下り坂の途中にある平坦路などにおいてエンジンが極軽負荷となる状況が突然訪れるので、この場合、冷え切った燃焼室内に向けて少量の燃料噴射が行われるので、燃焼が不安定となり易く、そのために失火が非常に起こり易くなる。そこで、このような状況となることを回避するためにもグロープラグはオンにしておく必要がある。この場合は、グロープラグの長寿命化の観点より、グロープラグはエンジン始動時から所定の期間経過後に停止されることとなる(但し、グロープラグを消耗部品として交換する場合はこの限りでない)。
そこで、第16の制御方法では、グロープラグ23の作動時においてエンジン50の暖機が必要となる場合には、オイル圧可変リリーフ弁制御手段は、オイル圧可変リリーフ弁6を閉じ側に制御することでオイル通路2内の油圧をオイルジェットチェック弁4の開弁圧Qbより大きくして、オイルジェット5からピストン14に向けてオイル7の噴射を行うことを停止し、且つ、オイル圧可変リリーフ弁6を閉じ側に制御することでオイル通路2内の油圧を上げ、且つ、負荷上昇促進装置制御手段は、上記した負荷上昇促進装置を作動させてエンジン負荷を上昇させると共に、燃料噴射量制御手段は、燃料噴射弁22から燃焼室17内への燃料噴射量を増やす。ここで、エンジン50の暖機が必要となる場合とは、例えば山頂から平地に向かって長い下り坂を走行する状況下において燃料カットが行われる場合やアイドル放置をしていない場合などが挙げられる。
これによれば、エンジン50の暖機が必要となる場合にグロープラグ23によって燃焼室17内が加熱される。これにより、燃焼室17内の温度を高くすることができる。また、第16の制御方法では、オイルジェット5からエンジン50において最も温度の高くなるピストン14に向けてオイル7の噴射が行われるので、オイル7の加熱が促進され、燃焼室17内の温度を高くすることができる。さらに、第16の制御方法では、オイル通路2内の油圧を上げることにより、且つ負荷上昇促進装置を作動させてエンジン負荷を上昇させることにより、燃料噴射量制御手段を通じて燃料噴射弁22から燃焼室17内への燃料噴射量が増やされる。よって、その燃料噴射量に応じた燃焼による熱量の増加に伴って燃焼室17の温度が高くなる。ここで、負荷上昇促進装置がビスカスヒータや水加熱ヒータなどの場合には、冷却水が加熱されて、その冷却水からの熱がエンジン60に伝達され、燃焼室17内の温度を高くすることができる。
以上のようにして燃焼室17の温度が高くなることによって、エンジン50の暖機が促進される。その結果、グロープラグ23の作動時においてエンジン50の暖機が必要となる場合に、失火が起き難くなり、さらにグロープラグ23の作動を停止させた後において排出されやすくなるHCの排出を低減することができる。
なお、第16の制御方法を実施するに際しては、上記した第1の制御方法〜後述する第17の制御方法までの優先順位を踏まえて実施することが望ましい。具体的には、上記した第1の制御方法〜後述する第17の制御方法までの実施の優先順位は、第1の制御方法が最も高く、その次に第7及び第8の制御方法が高く、その次に第15の制御方法が高く、その次に本実施形態に係るその他の制御方法となる。
次に、図28を参照して、第16の制御処理の一例について説明する。図28は、第16の制御処理の一例に係るフローチャートを示す。この処理はECU30により繰り返し実行される。
まず、ECU30は、エンジン50の暖機が必要な状況であるか否かについて判定すると共に、グロープラグ23が作動中か否かについて判定する(ステップS121)。具体的には、ECU30は、燃料カット時間の割合が例えば50%より大きい場合、或いは、当該燃料カット時間の割合が例えば50%より大きく且つアイドル時間の割合が例えば80%より大きい場合には、エンジン50の暖機が必要な状況であるものと判定し、そうでない場合にはエンジン50の暖機が必要な状況にないものと判定する。また、この判定処理において、ECU30は、グロープラグ23へ出力する信号s3がON信号(作動信号)である場合には、グロープラグ23が作動中であるものと判定する。
この判定処理において、エンジン50の暖機が必要な状況にない場合には(ステップS121;No)、ステップS121へ戻る。一方、エンジン50の暖機が必要な状況にある場合には、ステップS122へ進む。
このステップS122では、オイル圧可変リリーフ弁制御手段は、オイル圧可変リリーフ弁6を閉じ側に制御することでオイル通路2内の油圧を一定の時間間隔をおいて又は大きくして、オイルジェット5からピストン14に向けてオイル7の噴射を行い、且つ、オイル圧可変リリーフ弁6を閉じ側に制御することでオイル通路2内の油圧を上げ、且つ、負荷上昇促進装置制御手段は、上記した負荷上昇促進装置を作動させてエンジン負荷を上昇させると共に、燃料噴射量制御手段は、燃料噴射弁22から燃焼室17内への燃料噴射量を増やす。これにより、上記した第16の制御方法による作用効果を得ることができる。
{長時間オイルジェット停止時のピストン周辺部の保護制御(第17の制御)}
次に、本実施形態による長時間オイルジェットの作動を停止した時のピストン周辺部の保護制御方法(第17の制御方法)について説明する。
ピストンとクランク軸とを接続するコンロッドでは、その大端部(ピストンピン側の端部)から小端部(クランク軸側の端部)にかけてオイルを供給するためのオイル通路が設けられている構成もあれば、そのようなオイル通路が設けられていない構成もある。大端部から小端部にかけてオイル通路が設けられていない構成を有するコンロッドでは、例えばエンジンの温度が低い低負荷領域などにおいてオイルジェットからピストンに向けてのオイル噴射が長期間行われていないと、ピストンピンなどのピストン周辺の摺動部へのオイルの供給が不足して、その摺動部の温度が上昇して焼き付きが生じてしまう虞がある。
そこで、第17の制御方法では、オイル圧可変リリーフ弁制御手段は、オイルジェット5によるピストン14へのオイル7の噴射が所定の期間以上停止(長時間停止)されている場合には、オイル圧可変リリーフ弁6を一定の時間間隔をおいて又は間欠的に閉じ側に制御することでオイル通路2内の油圧をオイルジェットチェック弁4の開弁圧Qbより大きくして、オイルジェット5からピストン14に向けてオイル7の噴射を一定の時間間隔をおいて又は間欠的に行う。この第17の制御方法は、オイルジェット5の作動を禁止するエンジン50の低負荷領域であっても実施することが好ましい。
これにより、ピストン14及びピストン周辺の摺動部などがオイル7によって潤滑される。よって、オイルジェット5の作動を禁止するエンジン50の低負荷領域などにおいて、ピストン14及びピストン周辺の摺動部などの焼き付きが生じることを防止でき、エンジン摺動部品としての信頼性の向上を図ることができる。
また、第17の制御方法によれば、ピストン14及びピストン周辺の摺動部などがオイル7によって潤滑されることにより、エンジンの潤滑部50aのフリクションを低減することができるので、燃費を向上させることができる。また、第17の制御方法によれば、オイルジェット5からピストン14に向けたオイル7の噴射が一定の時間間隔をおいて又は間欠的に行われるので、オイルジェット5の作動を禁止するエンジン50の低負荷領域において燃焼室17内を不要に冷却することを防止でき、HCの排出を低減することができる。
次に、図29及び図30を参照して、第17の制御処理の一例について説明する。
図29は、第17の制御処理の一例に係るフローチャートを示す。この処理はECU30により繰り返し実行される。
図30は、第17の制御処理に係る、エンジン負荷とエンジン回転数とオイルジェット噴射時間間隔との関係を示すオイルジェット噴射制御マップの一例を示す。図30において、縦軸はエンジン負荷(Nm)を示し、横軸はエンジン回転数(rpm)を示す。また、図30において、破線L1はエンジン負荷とエンジン回転数により規定される全負荷出力線を示し、ハッチングで示す領域A4は、エンジン50の運転領域が低負荷となる領域を示す。
まず、ECU30は、図30に示すオイルジェット噴射制御マップと、エンジン負荷検出手段45及びエンジン回転数検出手段44から得られるエンジン負荷及びエンジン回転数とに基づいて、エンジン50の運転領域が図30に示す低負荷領域A4にあるか否かについて判定する(ステップS131)。
この判定処理において、エンジン50の運転領域が低負荷領域A4にない場合には(ステップS131;No)、ステップS131に戻る。一方、エンジン50の運転領域が低負荷領域A4にある場合には(ステップS131;Yes)、ステップS132に進む。 このステップS132では、ECU30は、図30に示すマップを参照して、ステップS131において得られたエンジン回転数及びエンジン負荷からオイルジェット5の噴射間隔期間を決定する(ステップS132)。ここで、オイルジェット5の噴射間隔期間とは、オイルジェット5からピストン14に向けてオイル7を噴射するときの時間間隔である。例えば、オイルジェット5の噴射間隔期間が5分であれば、5分おきにオイルジェット5からピストン14に向けてオイル7が噴射される。
具体的には、このステップS132では、ECU30は、図30の低負荷領域A4における矢印に示されるようにエンジン負荷及びエンジン回転数が増加するに従いオイルジェット5の噴射間隔期間が短くなるように決定する。これは、オイルジェット5から噴射されるオイル7によってピストン14を過度に冷却させないようにして燃焼状態を良好にする為である。例えば、図30の低負荷領域A4において、エンジン負荷及びエンジン回転数が最も小さくなる領域では、ECU30はオイルジェット5の噴射間隔期間を例えば約30分とし、また、エンジン負荷及びエンジン回転数が最も大きくなる領域では、ECU30はオイルジェット5の噴射間隔期間を例えば約5分とする。なお、図30の低負荷領域A4における曲線L55は、オイルジェット5の噴射間隔期間の等高線を示す。
次に、ECU30は、その内部回路に設けられたタイマを作動して前回のオイルジェット5の停止時からの経過時間を計測し、計測した前回のオイルジェット5の停止時からの経過時間が、ステップS132において決定されたオイルジェット5の噴射間隔期間より大きいか否かについて判定する(ステップS133)。
ステップS133での判定がNoである場合には、前回のオイルジェット5の停止時からの経過時間がオイルジェット5の噴射間隔期間より大きくないのでステップS133に戻る。一方、ステップS133での判定がYesである場合には、ステップS134に進む。このステップS134では、オイル圧可変リリーフ弁制御手段は、所定の期間(例えば2秒間)だけ、オイル圧可変リリーフ弁6を閉じ側に制御することでオイル通路2内の油圧をオイルジェットチェック弁4の開弁圧Qbより大きくして、オイルジェット5からピストン14に向けてオイル7の噴射を所定の期間(例えば2秒間)だけ行う。これにより、ピストン14及びピストン周辺の摺動部などがオイル7によって潤滑される。よって、エンジン50の低負荷領域において、ピストン14及びピストン周辺の摺動部などの焼き付き防止などを図ることができる。