以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るブレーキ制御装置10を示す系統図である。同図に示されるブレーキ制御装置10は、車両用の電子制御式ブレーキシステムを構成しており、運転者によるブレーキ操作部材としてのブレーキペダル12への操作に応じて車両の4輪のブレーキを独立かつ最適に設定するものである。また、本実施形態に係るブレーキ制御装置10が搭載された車両は、4つの車輪のうちの操舵輪を操舵する図示されない操舵装置や、これら4つの車輪のうちの駆動輪を駆動する図示されない内燃機関やモータ等の走行駆動源等を備えるものである。
本実施形態に係るブレーキ制御装置10は、例えば、走行駆動源として電動モータと内燃機関とを備えるハイブリッド車両に搭載される。このようなハイブリッド車両においては、車両の運動エネルギを電気エネルギに回生することによって車両を制動する回生制動と、ブレーキ制御装置10による液圧制動とのそれぞれを車両の制動に用いることができる。本実施形態における車両は、これらの回生制動と液圧制動とを併用して所望の制動力を発生させるブレーキ回生協調制御を実行することができる。
制動力付与機構としてのディスクブレーキユニット21FR,21FL、21RRおよび21RLは、車両の右前輪、左前輪、右後輪、および左後輪のそれぞれに制動力を付与する。各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLは、それぞれブレーキディスク22とブレーキキャリパに内蔵されたホイールシリンダ20FR〜20RLを含む。そして、各ホイールシリンダ20FR〜20RLは、それぞれ異なる流体通路を介してブレーキアクチュエータ80に接続されている。なお以下では適宜、ホイールシリンダ20FR〜20RLを総称して「ホイールシリンダ20」という。
ブレーキ制御装置10においては後述の右マスタカット弁27FRおよび左マスタカット弁27FL、増圧弁40FR〜40RL、減圧弁42FR〜42RL、オイルポンプ34、アキュムレータ50等を含んでブレーキアクチュエータ80が構成されている。ホイールシリンダ20にブレーキアクチュエータ80からブレーキフルードが供給されると、車輪と共に回転するブレーキディスク22に摩擦部材としてのブレーキパッドが押し付けられる。これにより、各車輪に制動力が付与される。
なお、本実施形態においてはディスクブレーキユニット21FR〜21RLを用いているが、例えばドラムブレーキ等のホイールシリンダ20を含む他の制動力付与機構を用いてもよい。あるいは、流体力により摩擦部材の押圧力を制御するのではなく、例えば電動モータ等の電動の駆動機構を用いて摩擦部材の車輪への押圧力を制御する制動力付与機構を用いることもできる。
ブレーキペダル12は、運転者による踏み込み操作に応じて作動液としてのブレーキフルードを送り出すマスタシリンダ14に接続されている。ブレーキペダル12には、その踏み込みストロークを検出するためのストロークセンサ46が設けられている。ストロークセンサ46は2系統のセンサすなわち出力系統が並列に設けられている。ストロークセンサ46のこれら2つの出力系統は、踏み込みストロークをそれぞれ独立かつ並列的に計測して出力する。複数の出力系統を備えることにより、いずれかの出力系統が故障したとしても踏み込みストロークを測定することができるのでフェイルセーフ性を高める上で有効である。また複数の出力系統からの出力を加味して(例えば平均して)ストロークセンサ46の出力とすることにより、一般に信頼性の高い出力を得ることができる。
ストロークセンサ46としては例えば、踏み込みストロークの変動による磁場変化を電気信号に変換して検出するホール素子を搭載する非接触形式のセンサを用いてもよい。この種のセンサは非接触センサとしてはコスト及び信頼性に比較的優れているという点で好ましい。各出力系統においては検出素子の検出値を増幅器で増幅して計測値として出力する。ホール素子を検出素子とする場合には、検出された電圧値が増幅器により増幅され計測値として出力される。各出力系統から並列的に出力された計測値は、例えばECU200にそれぞれ入力され、ECU200は入力された計測値を利用してストローク量を演算する。演算されたストローク量は例えば目標減速度の演算に用いられる。なおストロークセンサ46は、3つ以上の出力系統を並列に備えていてもよい。
マスタシリンダ14の一方の出力ポートには、運転者によるブレーキペダル12の操作力に応じた反力を創出するストロークシミュレータ24が接続されている。マスタシリンダ14とストロークシミュレータ24とを接続する流路の中途には、シミュレータカット弁23が設けられている。シミュレータカット弁23は、非通電時に閉状態にあり、運転者によるブレーキペダル12の操作が検出された際に開状態に切り換えられる常閉型の電磁開閉弁である。なお、シミュレータカット弁23を設置することは必須ではなく、ストロークシミュレータ24がシミュレータカット弁23を介することなくマスタシリンダ14に直接接続されていてもよい。
マスタシリンダ14の一方の出力ポートにはさらに右前輪用のブレーキ油圧制御管16が接続されており、ブレーキ油圧制御管16は、図示されない右前輪に対して制動力を付与する右前輪用のホイールシリンダ20FRに接続されている。また、マスタシリンダ14の他方の出力ポートには、左前輪用のブレーキ油圧制御管18が接続されており、ブレーキ油圧制御管18は、図示されない左前輪に対して制動力を付与する左前輪用のホイールシリンダ20FLに接続されている。
右前輪用のブレーキ油圧制御管16の中途には、右マスタカット弁27FRが設けられており、左前輪用のブレーキ油圧制御管18の中途には、左マスタカット弁27FLが設けられている。なお、以下では適宜、右マスタカット弁27FRおよび左マスタカット弁27FLを総称して、マスタカット弁27という。
マスタカット弁27は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により閉弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされたマスタカット弁27は、マスタシリンダ14と前輪側のホイールシリンダ20FR及び20FLとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに規定の制御電流が通電されてマスタカット弁27が閉弁されるとブレーキフルードの流通は遮断される。
また、右前輪用のブレーキ油圧制御管16の中途には、右前輪側のマスタシリンダ圧を検出する右マスタ圧力センサ48FRが設けられており、左前輪用のブレーキ油圧制御管18の途中には、左前輪側のマスタシリンダ圧を計測する左マスタ圧力センサ48FLが設けられている。ブレーキ制御装置10では、運転者によってブレーキペダル12が踏み込まれた際、ストロークセンサ46によりその踏み込み操作量が検出されるが、これらの右マスタ圧力センサ48FRおよび左マスタ圧力センサ48FLによって検出されるマスタシリンダ圧からもブレーキペダル12の踏み込み操作力(踏力)を求めることができる。このように、ストロークセンサ46の故障を想定して、マスタシリンダ圧を2つの圧力センサ48FRおよび48FLによって監視することは、フェイルセーフの観点からみて好ましい。なお、以下では適宜、右マスタ圧力センサ48FRおよび左マスタ圧力センサ48FLを総称して、マスタシリンダ圧センサ48という。
また、マスタシリンダ14には、ブレーキフルードを貯留するためのリザーバタンク26が接続されている。リザーバタンク26には、油圧給排管28の一端が接続されており、この油圧給排管28の他端には、モータ32により駆動されるオイルポンプ34の吸込口が接続されている。オイルポンプ34の吐出口は、高圧管30に接続されており、この高圧管30には、アキュムレータ50とリリーフバルブ53とが接続されている。本実施形態では、オイルポンプ34として、モータ32によってそれぞれ往復移動させられる2体以上のピストン(図示せず)を備えた往復動ポンプが採用される。また、アキュムレータ50としては、ブレーキフルードの圧力エネルギを窒素等の封入ガスの圧力エネルギに変換して蓄えるものが採用される。なお、モータ32、オイルポンプ34、及びアキュムレータ50は、ブレーキアクチュエータ80とは別体のパワーサプライユニットとして構成されてブレーキアクチュエータ80の外部に設けられていてもよい。
アキュムレータ50は、オイルポンプ34によって例えば14〜22MPa程度にまで昇圧されたブレーキフルードを蓄える。また、リリーフバルブ53の弁出口は、油圧給排管28に接続されており、アキュムレータ50におけるブレーキフルードの圧力が異常に高まって例えば25MPa程度になると、リリーフバルブ53が開弁し、高圧のブレーキフルードは油圧給排管28へと戻される。更に、高圧管30には、アキュムレータ50の出口圧力、すなわち、アキュムレータ50におけるブレーキフルードの圧力を検出するアキュムレータ圧センサ51が設けられている。
そして、高圧管30は、増圧弁40FR,40FL,40RR,40RLを介して右前輪用のホイールシリンダ20FR、左前輪用のホイールシリンダ20FL、右後輪用のホイールシリンダ20RRおよび左後輪用のホイールシリンダ20RLに接続されている。以下適宜、増圧弁40FR〜40RLを総称して「増圧弁40」という。増圧弁40は、リニアソレノイドおよびスプリングを有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型の電磁流量制御弁(リニア弁)である。増圧弁40は、上流側のアキュムレータ圧と下流側のホイールシリンダ圧との差圧が当該弁を開弁させようとする力として作用するように設置されている。増圧弁40は、それぞれのソレノイドに供給される電流に比例して弁の開度が調整される。増圧弁40を通じて上流圧すなわちアキュムレータ圧が供給されホイールシリンダ20は増圧される。
また、右前輪用のホイールシリンダ20FRと左前輪用のホイールシリンダ20FLとは、それぞれ前輪側の減圧弁42FRまたは42FLを介して油圧給排管28に接続されている。減圧弁42FRおよび42FLは、必要に応じてホイールシリンダ20FR,20FLの減圧に利用される常閉型の電磁流量制御弁(リニア弁)である。減圧弁42FRおよび42FLは、それぞれリニアソレノイドおよびスプリングを有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされ、それぞれのソレノイドに供給される電流に比例して弁の開度が調整される。減圧弁42FRおよび42FLは、上流側のホイールシリンダ圧と下流側のリザーバ圧(大気圧)との差圧が当該弁を開弁させようとする力として作用するように設置されている。
一方、右後輪用のホイールシリンダ20RRと左後輪用のホイールシリンダ20RLとは、常開型の電磁流量制御弁である減圧弁42RRまたは42RLを介して油圧給排管28に接続されている。後輪側の減圧弁42RRまたは42RLは、それぞれリニアソレノイドおよびスプリングを有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に開とされ、それぞれのソレノイドに供給される電流に比例して弁の開度が調整される。また、電流の大きさがホイールシリンダ圧に応じて定まる所定の電流値を超えた場合には閉弁される。減圧弁42RRおよび42RLは、上流側のホイールシリンダ圧と下流側のリザーバ圧(大気圧)との差圧が当該弁を開弁させようとする力として作用するように設置されている。以下、適宜、減圧弁42FR〜42RLを総称して「減圧弁42」という。
また、右前輪用、左前輪用、右後輪用および左後輪用のホイールシリンダ20FR〜20RL付近には、それぞれ対応するホイールシリンダ20に作用するブレーキフルードの圧力であるホイールシリンダ圧を検出するホイールシリンダ圧センサ44FR,44FL,44RRおよび44RLが設けられている。以下、適宜、ホイールシリンダ圧センサ44FR〜44RLを総称して「ホイールシリンダ圧センサ44」という。
ブレーキアクチュエータ80は、本実施形態における制御部またはストローク演算部としての電子制御ユニット(以下「ECU」という)200によって制御される。ECU200は、各種演算処理を実行するCPU、各種制御プログラムを格納するROM、データ格納やプログラム実行のためのワークエリアとして利用されるRAM、入出力インターフェース、メモリ等を備えるものである。
上述のように構成されたブレーキ制御装置10は、例えばブレーキ回生協調制御を実行することができる。ブレーキ制御装置10は制動要求を受けて制動を開始する。制動要求は、例えば運転者がブレーキペダル12を操作した場合など、車両に制動力を付与すべきときに生起される。制動要求を受けてECU200はブレーキペダル12の踏み込みストロークとマスタシリンダ圧とから目標減速度すなわち要求制動力を演算する。ECU200は、要求制動力から回生による制動力を減じることによりブレーキ制御装置10により発生させるべき制動力である要求液圧制動力を算出する。ここで、回生による制動力は、上位のハイブリッドECU(図示せず)からブレーキ制御装置10に供給される。そして、ECU200は、算出した要求液圧制動力に基づいて各ホイールシリンダ20FR〜20RLの目標液圧を算出する。ECU200は、ホイールシリンダ圧が目標液圧となるように、フィードバック制御により増圧弁40や減圧弁42に供給する制御電流の値を決定する。ECU200は、目標減速度及び目標液圧の演算と各制御弁の制御とを制動中に所定周期で繰り返し実行する。
その結果、ブレーキ制御装置10においては、ブレーキフルードがアキュムレータ50から増圧弁40を介して各ホイールシリンダ20に供給され、車輪に所望の制動力が付与される。また、各ホイールシリンダ20からブレーキフルードが減圧弁42を介して必要に応じて排出され、車輪に付与される制動力が調整される。このようにしていわゆるブレーキバイワイヤ方式の制動力制御が行われる。
一方、このとき右マスタカット弁27FRおよび左マスタカット弁27FLは通常は閉状態とされる。ブレーキ回生協調制御中は、マスタカット弁27の上下流間には、回生制動力の大きさに対応する差圧が作用する。運転者によるブレーキペダル12の踏み込みによりマスタシリンダ14から送出されたブレーキフルードは、ストロークシミュレータ24に流入する。これにより適切なペダル反力が生成される。
ところで、ストロークセンサ46の各出力系統は、検出素子の検出値の大きさに応じて切り替えて使用される複数の増幅器(アンプ)を内蔵している。計測対象であるストロークの範囲が比較的広いからである。各出力系統内部での検出値の増幅は、検出値の大きさに応じてこれら複数の増幅器を使い分けて行われる。例えば3つのアンプが用いられる。このため、運転者のペダル操作に伴って検出素子の検出値が変動する際にはストロークセンサ46の内部で増幅器の切替が生じることになる。
基本的にはストロークセンサ46の各出力系統での計測値と実際のストローク量とは線形の関係を有しており、ECU200は例えば予め記憶しているマップ等に基づいてセンサ計測値を適宜換算してストローク量を演算する。しかし、増幅器が切り替わる時には実際のストローク変化とは無関係に出力値が飛ぶことがある。このような非線形の出力変化は当該増幅器の仕様の範囲内に限られるものの、実際のストローク変化とは独立の見かけ上のストローク変化を生じさせてしまう。その結果、ストロークを利用して演算される目標減速度に影響が生じることとなり、不必要な減速度変動やブレーキアクチュエータ80における作動音を発生させてしまうことになる。特にブレーキ操作量の変化速度が小さい場合、例えばブレーキペダルがゆっくりと踏み込まれていく場合には、実際のストローク変化速度は小さいはずであるので、ストロークセンサ46の見かけ上の出力変化による影響が相対的に目立ってしまう。
この出力変化すなわち増幅器の切替は、常に同一の出力値において生じるわけではなく、ある程度のばらつきを有する。また、例えば温度等の環境条件の変化にも影響を受ける。複数の出力系統それぞれでも異なるタイミングで切替が生じる。
そこで、本実施形態においては、ECU200は、ストロークセンサ46の複数の出力系統から互いに異なる計測値が出力された場合に、計測値の変化速度の大きさがより小さい出力系統からの出力を重視してストロークを演算する。好ましくは、ECU200は、各出力系統の計測値のうち変化速度の大きさが最も小さい出力系統の計測値を利用してストロークを演算する。この場合、ECU200は、計測値のうち変化速度の大きさが最も小さい出力系統以外の出力系統の計測値はストロークの演算に利用しないようにしてもよい。例えば、ストロークセンサ46が出力系統を2つ有する場合には、計測値の変化速度が小さいほうの出力系統の計測値を利用し、計測値の変化速度が大きいほうの出力系統の計測値は利用せずにストロークが演算されてもよい。なおここで、計測値の変化速度とは計測値の時間変化率と言い換えることもできる。
図2は、本実施形態に係るストロークの演算処理を説明するためのフローチャートである。図2に示される処理は、例えばブレーキバイワイヤ方式の制動力制御が行われる間、所定の周期で繰り返しECU200により実行される。本処理が開始されると、まずECU200は、ストロークセンサ46の各出力系統の計測値の入力を受ける(S10)。本実施形態ではストロークセンサ46は各々が検出素子としてのホール素子を備える2つのストローク計測系を有しており、これら2つの計測系はそれぞれ独立に計測を行ってECU200に計測値を出力する。ストロークセンサ46の出力は例えば、計測すべきストローク量に対応する電気信号であり、例えば電圧値である。
計測値の入力を受けると、ECU200は、計測値がアンプ切替範囲内にあるか否かを判定する(S12)。つまり、計測値が、ストロークセンサ46の各ストローク計測系が有する複数のアンプの切替が生じ得る範囲内にあるか否かを判定する。例えば、計測された電圧値がアンプの切替が生じ得る電圧範囲にあるか否かを判定する。このアンプ切替範囲は、例えば各アンプの仕様により規定される範囲であってもよいし、経験的または実験的に設定される範囲であってもよい。ストロークセンサ46の複数のストローク計測系のうちいずれか1つの出力でもアンプ切替範囲内にある場合には、ECU200は、計測値がアンプ切替範囲内にあると判定する。すべてのストローク計測系の出力がアンプ切替範囲外にある場合には、ECU200は、計測値はアンプ切替範囲内にないと判定する。計測値のうちいずれか1つでもアンプ切替範囲にある場合には、アンプの切替が発生してブレーキ制御に影響が生じる可能性があるからである。
計測値がアンプ切替範囲内にあると判定された場合には(S12のYes)、ECU200は、各計測値の変化速度を演算する(S14)。計測値変化速度ΔSTiは例えば次式のようにECU200に今回入力された計測値と前回値との差で与えられる。
ΔSTi=STi(今回値)−STi(前回値)
ここで、STi(i=1,2,・・・,n)は、各ストローク計測系の計測値を表す。整数nはストロークセンサ46が備えるストローク計測系の数を表す。複数(例えば2つ)の出力系統のそれぞれについて計測値変化速度ΔSTiが演算される。なお、計測値変化速度ΔSTiとしては上式の右辺は正確には演算周期または計測周期で除されるべきであるが、次に述べるように本実施例では結局各出力系統の計測値変化速度ΔSTiの大小関係を知ることができれば充分であるので、今回値と前回値の差を計測値変化速度ΔSTiとして用いてよい。
次にECU200は、得られた計測値変化速度ΔSTiの大小関係を比較する(S16)。ストローク計測系が2つである場合には、得られた2つの計測値変化速度つまりΔST1及びΔST2の大小関係を比較する。ストローク計測系が3つ以上である場合には、ECU200は、例えば各計測値につき大小関係の順位付けを行う。
大小関係の比較結果に基づいて、ECU200は、各ストローク計測系の計測値の補正を行う(S18)。例えば、ECU200は、次式のように計測値変化速度ΔSTiのうち最小の値を前回値に加えたものを今回の計測値とする補正をする。
STi(今回値)=STi(前回値)+ΔSTmin
ここで、ΔSTminは計測値変化速度ΔSTiのうち最小の値を表している。例えばストローク計測系が2つである場合に第2のストローク計測系の計測値変化速度ΔST2のほうが小さい場合には、第1及び第2のストローク計測系の計測値はそれぞれ次のように補正される。
ST1(今回値)=ST1(前回値)+ΔST2
ST2(今回値)=ST2(前回値)+ΔST2
この場合、第1のストローク計測系の計測値ST1は第2のストローク計測系の計測値変化速度ΔST2により補正されているが、第2のストローク計測系の計測値ST2はECU200に当初入力された計測値と同じ値となる。このようにして得られた補正済計測値はECU200に記憶され、次回の処理において前回値として使用される。
なお、ストローク計測系が3つ以上である場合には、同様に計測値変化速度ΔSTiのうち最小の値を使用して補正を行ってもよい。または例えば、計測値変化速度ΔSTiのうち相対的に値が小さいものに対して相対的に大きな重みを与えて計測値変化速度ΔSTiの重み付け平均値を算出し、この重み付け平均値を使用して計測値の補正をしてもよい。あるいは、アンプ切替による出力変化が生じていなければ各出力系統の計測値及び計測値変化速度は基本的に同じ値をとるはずであるから、各計測値または計測値変化速度で多数決を取り、多数となった計測値変化速度を使用して補正してもよい。このようにしてもアンプ切替による出力変化の影響を排除することも可能である。
ECU200は、補正済の計測値を用いてストローク量を演算する(S20)。ECU200は、例えば、補正により変化のなかった計測値のみを用いてストローク量を演算する。上述の例で言えば第2のストローク計測系の計測値ST2を用いてストローク量を演算する。補正により変化のなかった計測値にはアンプ切替による出力変化が生じていないと考えられるからである。あるいは、ECU200は、補正済の各計測値の平均値を用いてストローク量を演算してもよい。
一方、計測値がアンプ切替範囲内にないと判定された場合には(S12のNo)、ECU200は、入力された計測値をそのまま用いてストローク量を演算する(S20)。この場合、ECU200は、例えば各計測値の平均値を用いてストローク量を演算する。演算されたストローク量は、目標減速度等の演算に使用される。
なお、ECU200は、各ストローク計測系から計測値の入力を受けたときに、各計測値の差が所定の閾値内に収まっているか否かを判定してもよい。各計測値の差が所定の閾値内に収まっていると判定された場合には、ECU200は、入力された計測値をそのまま用いてストローク量を演算する。各計測値の差が所定の閾値を超えると判定された場合には、ECU200は、計測値補正処理を行う。ここでの閾値は、例えば、複数のストローク計測系の計測値の誤差に基づいて設定される。各ストローク計測系の計測値の差が誤差程度である場合には、いずれのストローク計測系においてもアンプ切替が生じていないと考えられるからである。
以上のように、本実施形態によれば、ストロークセンサ46内蔵アンプの切替およびそれに伴う出力変化が想定される場合に、計測値の変化速度の小さいストローク計測系からの出力を重視してストローク量を演算している。例えば計測値変化速度のうち最小の値を使用して各計測値を補正することにより、アンプ切替に伴う出力変化の影響を低減するようにしている。特に、計測値変化速度が最小であるストローク計測系においてアンプ切替が生じていなければ、アンプ切替に伴う出力変化の影響は排除できることになる。このため、実際のストローク変化とは無関係のストロークセンサ特性による見かけ上のストローク変化の影響を取り除いて良好なブレーキ制御性を実現することができる。具体的には、目標減速度及びそれに起因する実減速度の不要な変動や作動音の発生を抑えることができる。
次に図3を参照して本実施形態の一変形例を説明する。図3は、本実施形態の一変形例に係るストロークの演算処理を説明するためのフローチャートである。この変形例は、運転者のペダル操作速度が小さいときに上述の計測値補正を行い、ペダル操作速度が大きいときには補正をしないという点で、上述の実施例とは異なる。以下の説明では、上述の実施例と共通の点については適宜説明を省略し、異なる点を中心に説明する。なお、上述の実施例に関連して述べた変形例や代替手段等は以下に説明する変形例においても適用可能である。
まずECU200は、ストロークセンサ46の各出力系統による計測値の入力を受ける(S10)。計測値の入力を受けると、ECU200は、運転者のブレーキペダル操作速度つまりストローク変化速度が基準値よりも小さいか否かを判定する(S22)。ブレーキペダル操作速度が基準値よりも大きいと判定された場合には(S22のNo)、ECU200は、入力された計測値をそのまま用いてストローク量を演算する(S20)。ここでブレーキペダル操作速度としては、例えばマスタシリンダ圧の変化速度を利用することができる。マスタシリンダ圧の変化速度は、マスタシリンダ圧センサ48の出力から得ることができる。また基準値は、上述の見かけ上のストローク変化による影響の大きさ等を考慮して適宜実験等により定めればよい。
ブレーキペダル操作速度が基準値よりも小さいと判定された場合には(S22のYes)、ECU200は、上述の実施例と同様に計測値補正処理を行う。まずECU200は、入力された計測値がアンプ切替範囲内にあるか否かを判定する(S12)。計測値がアンプ切替範囲内にあると判定された場合には(S12のYes)、計測値補正処理が行われる(S24)。この計測値補正処理は、例えば上述のS14乃至S18における処理と同様である。そしてECU200は、補正済の計測値を用いてストローク量を演算する(S20)。一方、計測値がアンプ切替範囲内にないと判定された場合には(S12のNo)、ECU200は、入力された計測値をそのまま用いてストローク量を演算する(S20)。
この変形例によれば、運転者のペダル操作速度が小さいときに限り計測値補正がなされ、ペダル操作速度が大きいときには補正が行われない。ペダル操作速度が大きいときには目標減速度も大きく変動することになるので、ストロークセンサ内部特性に起因する見かけ上の出力変化の影響は相対的に小さくなる。よって、このような場合には補正処理を省略することにより不要な処理が行われないようして処理の効率化を図ることができる。
また、ペダル操作速度が大きいときにはフェイルセーフの観点から運転者の要求に対応する大きな目標減速度を確実に発生させることが望ましい。このような場合に、計測値変化速度が小さい出力系統の計測値を重視するストローク量演算をしないことにより、異常等により小さい値となっている計測値変化速度が重視されないようにすることができる。したがって、ペダル操作速度が小さい場合には補正処理がなされることにより良好なブレーキ制御性及びブレーキフィーリングを得ることができる。一方、ペダル操作速度が大きい場合には補正処理がなされずに複数系統の計測値がストローク量及び目標減速度の演算に直接用いられる。これにより、補正処理による不必要なストローク変化速度の低減が回避され、フェイルセーフ性を高めることができる。
また、上述の各実施例において、各計測値に対して以下に説明するガード処理を付加してもよい。つまり、ECU200は、補正後の各計測値が所定の上限及び下限により定まるガード範囲内にあるか否かを検定し、計測値が当該範囲内に含まれる場合にのみ有効な計測値としてストローク演算に用いるようにしてもよい。
特に、運転者のブレーキ操作速度が基準を超えるか否かをブレーキアクチュエータ内部の作動液圧変動から(例えば上述のようにマスタシリンダ圧から)判定する場合には、ブレーキ操作当初は作動液圧の立ち上がりが比較的緩やかであるために操作速度が大きいことを判別しづらい傾向にある。そこで、補正済計測値がガード範囲内にあるか否かを検定することを併用し、特にブレーキ操作速度が大きい場合に補正がなされて却って不適正な計測値を得ることを回避する。そうすれば、ブレーキ操作速度が大きい場合にこれを検知できなかったとしても、不適正な補正がなされることを防ぐことが可能となる。
ガード範囲の上限値Gmax及び下限値Gminは例えば次のように設定される。
Gmax=STi(入力値)+ΔSTmax
Gmin=STi(入力値)+ΔSTmin
ここで、ΔSTmax及びΔSTminはそれぞれストロークセンサ内蔵アンプの切替時に想定される最大及び最小の出力変化量である。一般にΔSTmaxは正の値であり、ΔSTminは負の値である。ΔSTmax及びΔSTminは、例えばストロークセンサ46に内蔵されるアンプの仕様として規定される値であってもよいし、経験的または実験的に設定される値であってもよい。ストロークセンサ46の各出力系統のSTiは、補正前の計測値つまり各出力系統からECU200に入力された計測値である。
よって、ガード範囲は、ストロークセンサ46の各出力系統の計測値STiとアンプ切替時の最大想定出力変化量ΔSTmaxとの和を上限値Gmaxとし、計測値STiとアンプ切替時の最小想定出力変化量ΔSTminとの和を下限値Gminとして定義される範囲である。最小想定出力変化量ΔSTminは負の値であるので、下限値Gminは計測値STiよりも小さい。このように、ガード範囲は計測値STiを包含し、想定される最大または最小の出力変化量をカバーするように設定されている。よって、仮に補正済の計測値がこのガード範囲を超える場合には、その補正値は実際には生じ得ない値となっていると言える。よって、補正済計測値がガード範囲を超えるか否かを検定することにより、不適正な補正値がストローク演算に利用されることを防ぐことが可能となる。なお、ガード範囲の設定は、想定出力変化量以外の値に基づいて行うことも可能である。
このガード処理は、例えば上述の図2または図3を参照して説明した実施例においては、計測値の補正後かつストローク量の演算前にECU200が実行する。ECU200は、補正済の計測値がガード範囲に含まれるか否かを判定する。ECU200は、各出力系統の計測値ごとにこのガード処理を行う。補正済計測値がガード範囲に含まれると判定された場合には、ECU200は、補正済計測値を利用してストローク量を演算する。一方、補正済計測値がガード範囲には含まれないと判定された場合には、ECU200は、補正済計測値に代えて、補正前の計測値つまり各出力系統から入力された計測値を利用してストローク量を演算する。
また、本実施形態の更なる変形例として、ECU200は、計測値の変化速度の大きさがより小さい出力系統からの出力を重視してストローク量を演算することに代えて、計測値にフィルタをかけることにより計測値の変化速度を低減させるようにしてもよい。例えば所定閾値以下の低い周波数信号を通過させるローパスフィルタをかけるようにしてもよい。この場合、各出力系統での計測値変化速度の比較をしなくてもよいので、出力系統が1つである場合にも適用することができる。または、ECU200は、計測値にフィルタをかけた上で、計測値の変化速度の大きさがより小さい出力系統からの出力を重視してストローク量を演算するようにしてもよい。
この場合、ECU200は、計測値が例えば上述のアンプ切替範囲にある場合にフィルタをかけるようにしてもよい。すなわち、ECU200は、増幅器の切替が生じ得る範囲に計測値が含まれているときにストロークセンサからの出力にフィルタを作用させるようにしてもよい。このようにすれば、増幅器の切替が生じ得ない範囲に計測値がある場合に、フィルタにより信号をなまらせることなく計測値をそのままECU200に入力させて、運転者のブレーキ操作に対する高い制御応答性を実現することができる。
10 ブレーキ制御装置、 20 ホイールシリンダ、 27 マスタカット弁、 40 増圧弁、 42 減圧弁、 44 ホイールシリンダ圧センサ、 46 ストロークセンサ、 48 マスタシリンダ圧センサ、 51 アキュムレータ圧センサ、 80 ブレーキアクチュエータ、 200 ECU。