JP2009113440A - 液滴吐出ヘッドの製造方法及び液滴吐出装置の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】ダイアフラム部を構成する樹脂薄膜のリザーバ基板との接着性及び密着性を十分に確保し、樹脂薄膜が剥がれることのない液滴吐出ヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】シリコン基板の一方の面からリザーバ凹部23aをウェットエッチングにより形成する工程、リザーバ凹部の開口部よりも大きい開口を有するマスク部材を用いて、リザーバ凹部の開口外縁部から内面全体にわたって下地金属膜26とその上に樹脂薄膜25を積層する工程、シリコン基板の他方の面からリザーバ凹部の底部のシリコンをエッチングにより選択的に除去して、下地金属膜を露呈させる工程、露呈した下地金属膜を樹脂薄膜が露呈するまでエッチングにより除去して、ダイアフラム部を形成する工程、ノズル基板の製造において、下地金属膜と樹脂薄膜とからなる積層膜に接触しないようリザーバ凹部の開口外縁部を覆う凹部を形成する工程を有する。
【選択図】図6

Description

本発明は、液滴吐出ヘッドの製造方法及び液滴吐出装置の製造方法に関する。
液滴を吐出するための液滴吐出ヘッドとして、例えばインクジェット記録装置に搭載されるインクジェットヘッドが知られている。インクジェットヘッドは、一般に、インク滴を吐出するための複数のノズル孔が形成されたノズル基板と、このノズル基板に接合されノズル基板との間で、上記ノズル孔に連通する吐出室、リザーバ等のインク流路が形成されたキャビティ基板とを備え、駆動部により吐出室に圧力を加えることにより、インク滴を選択されたノズル孔より吐出するように構成されている。駆動手段としては、静電気力を利用する方式や、圧電素子による圧電方式、発熱素子を利用する方式等がある。
近年、インクジェットヘッドは、高速印字に対応するため多ノズル化が進んでおり、また高解像度化の要求から微小な駆動機構(アクチュエータ)が求められている。駆動機構が小型化され、高密度化されると、インクを吐出するノズル孔に連通する吐出室それぞれの間に設けられた隔壁が薄くなり、隔壁の剛性が低くなるため、1つのノズル孔からインクが吐出されたときにそのノズル孔に連通する吐出室と隣接する吐出室が影響を受けるという、いわゆるクロストークの問題があった。このようなクロストークの問題は、吐出室の圧力がリザーバを介して他の吐出室に加わることによっても発生する。
このようなクロストークを防止するために、従来のインクジェットヘッドでは、吐出室が形成される流路基板とは別にリザーバ基板を独立して設け、リザーバの体積を大きく確保することで、リザーバを介した圧力干渉を防止するとともに、リザーバの一部に、リザーバの圧力変動を緩衝させるためのダイアフラム部を設けるようにしていた(例えば、特許文献1参照)。
上記特許文献1のインクジェットヘッドのダイアフラム部は、シリコンを材料として構成するようにしている。しかしながら、シリコンのポアソン比は0.09と小さく、また、ヤング率も大きいため、シリコンを材料としたダイアフラム部では十分な緩衝効果を得ることは難しかった。
そこで、近年、ダイアフラム部をパリレン(パラキシリレン系樹脂の総称)という樹脂薄膜で構成し、緩衝効果を高めるようにした技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
特開2007−152621号公報(第2図) 特開2007−190772号公報(第2図)
特許文献2の技術では、リザーバ基板になるシリコン基材の一方の面からダイアフラム部になる部分を所望の深さエッチングし、そのエッチングにより形成された凹部に樹脂薄膜を成膜し、その後、シリコン基材の反対側の面からリザーバとなる部分を樹脂薄膜が露出するまでエッチングし、ダイアフラム部を形成するようにしている。このため、樹脂薄膜は、シリコン基材に対して凹部の側面にのみ直接接着した状態となっている。その結果、樹脂薄膜のシリコン基材との接着性が十分でなく、接着面積も不十分なため、シリコン基材との密着性を確保できず、繰り返し変動に対して樹脂薄膜が剥がれる可能性があった。
本発明は、上記のような課題に鑑み、ダイアフラム部を構成する樹脂薄膜のリザーバ基板との密着性を十分に確保し、樹脂薄膜が剥がれることのない液滴吐出ヘッドの製造方法及び液滴吐出装置の製造方法を提供することを目的とする。
本発明に係る液滴吐出ヘッドの第1の製造方法は、複数のノズル孔を有するノズル基板と、各ノズル孔に連通し、室内に圧力を発生させてノズル孔より液滴を吐出する複数の独立した吐出室を有するキャビティ基板と、吐出室に対して共通に連通するリザーバを有し、ノズル基板とキャビティ基板との間に設けられるリザーバ基板とを少なくとも備え、リザーバの底面に圧力変動を緩衝する樹脂薄膜を備えたダイアフラム部を設けた液滴吐出ヘッドの製造方法であって、リザーバ基板になるシリコン基板の一方の面からリザーバとなるリザーバ凹部をウェットエッチングにより形成する工程と、リザーバ凹部の開口部よりも大きい開口を有するマスク部材を用いて、リザーバ凹部の開口外縁部から内面全体にわたって下地金属膜とその上に樹脂薄膜を積層する工程と、シリコン基板の他方の面からリザーバ凹部の底部のシリコンをエッチングにより選択的に除去して、下地金属膜を露呈させる工程と、この露呈した下地金属膜を樹脂薄膜が露呈するまでエッチングにより除去して、ダイアフラム部を形成する工程とを有し、ノズル基板の製造において、リザーバ凹部の開口外縁部に形成された下地金属膜と樹脂薄膜とからなる積層膜に接触しないように、リザーバ凹部の開口外縁部を覆う凹部をさらに形成する工程を有するものである。
この第1の製造方法によれば、下地金属膜と樹脂薄膜とからなる積層膜がリザーバの開口外縁部から内面全体にわたって形成され、ダイアフラム部はリザーバの底面に外周が下地金属膜を介して固着支持された樹脂薄膜のみで構成される。したがって、ダイアフラム部の面積を大きくしても樹脂薄膜を強固に支持することができるため、可撓性に富む樹脂薄膜により高い圧力緩衝効果が得られ、かつ耐久性に優れたダイアフラム部が得られる。
また、樹脂薄膜は、リザーバの開口外縁部から内面全体にわたって成膜された下地金属膜の上に積層されているため、接着面積が増加するので接着強度及び密着性を十分に確保することができる。さらに、積層膜の端部は、リザーバの開口外縁部に固着した状態となるため、上記のマスク部材を剥離する際に、樹脂薄膜が端から剥がれるといった不具合を防ぐことができる。
一方、ノズル基板にはリザーバ凹部の開口外縁部を覆う凹部が設けられているので、リザーバ凹部の開口外縁部に形成された積層膜とノズル基板との接触を回避できるため、ノズル基板とリザーバ基板とを平面で接着することができ、接着信頼性が向上する。
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドの第2の製造方法は、複数のノズル孔を有するノズル基板と、各ノズル孔に連通し、室内に圧力を発生させてノズル孔より液滴を吐出する複数の独立した吐出室を有するキャビティ基板と、吐出室に対して共通に連通するリザーバを有し、ノズル基板とキャビティ基板との間に設けられるリザーバ基板とを少なくとも備え、リザーバの底面に圧力変動を緩衝する樹脂薄膜を備えたダイアフラム部を設けた液滴吐出ヘッドの製造方法であって、リザーバ基板になるシリコン基板の一方の面からダイアフラム部となるダイアフラム凹部を、他方の面からリザーバとなる前の一次リザーバ凹部をウェットエッチングにより形成する工程と、ダイアフラム凹部の開口部よりも大きい開口を有するマスク部材を用いて、ダイアフラム凹部の開口外縁部から内面全体にわたって下地金属膜とその上に樹脂薄膜を積層する工程と、シリコン基板の他方の面から一次リザーバ凹部をさらにウェットエッチングして、リザーバとなる二次リザーバ凹部を形成するとともに、下地金属膜を露呈させる工程と、この露呈した下地金属膜を樹脂薄膜が露呈するまでエッチングにより除去して、ダイアフラム部を形成する工程とを有し、ノズル基板の製造において、ダイアフラム凹部の開口外縁部に形成された下地金属膜と樹脂薄膜とからなる積層膜に接触しないように、リザーバ凹部の開口外縁部を覆う凹部をさらに形成する工程を有するものである。
この第2の製造方法は、第1の製造方法がダイアフラム部をリザーバ基板のキャビティ基板との接着面側に配置するのに対し、ノズル基板との接着面側に配置するものである。したがって、この第2の製造方法によれば、第1の製造方法とほぼ同様の効果が得られることに加えて、ダイアフラム凹部と、一次、二次リザーバ凹部とを同じウェットエッチングで形成することができるため、リザーバ基板の製造工程を簡素化できる利点がある。
また、樹脂薄膜は、パリレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリオレフィン、ポリイミド、またはポリサルフォンにより構成することが望ましい。
これらの樹脂材料であれば、被覆性、耐薬品性が良好なため、液滴吐出ヘッドのダイアフラム部として好適である。
本発明に係る液滴吐出装置の製造方法は、上記のいずれかの液滴吐出ヘッドの製造方法を適用して液滴吐出装置を製造するものである。
これにより、吐出特性の良好な液滴吐出ヘッドを備えた液滴吐出装置を得ることができる。
以下、本発明の製造方法を適用した液滴吐出ヘッドの実施の形態について説明する。ここでは、液滴吐出ヘッドの一例として、ノズル基板の表面に設けられたノズル孔からインク滴を吐出するフェイス吐出型のインクジェットヘッドについて説明する。なお、本発明は、以下の図に示す構造、形状に限定されるものではなく、基板の端部に設けられたノズル孔からインク滴を吐出するエッジ吐出型の液滴吐出ヘッドにも同様に適用することができる。また、アクチュエータは静電駆動方式で示してあるが、その他の駆動方式であってもよい。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係るインクジェットヘッドの概略構成を示す分解斜視図、図2は、図1に示したインクジェットヘッドの組立状態を示す縦断面図、図3(a)、(b)は、それぞれ図2のA部、B部の拡大断面図である。なお、図1及び図2では、通常使用される状態とは上下が逆に示されている。
図1、図2において、インクジェットヘッド(液滴吐出ヘッドの一例)10は、従来の一般的な静電駆動方式のインクジェットヘッドのように、ノズル基板、キャビティ基板、電極基板の3つの基板を貼り合わせた3層構造ではなく、ノズル基板1、リザーバ基板2、キャビティ基板3、電極基板4の4つの基板を、この順に貼り合わせた4層構造で構成されている。すなわち、吐出室とリザーバが別々の基板に設けられている。以下、各基板の構成について詳述する。
ノズル基板1は、例えば厚さ約50μmのシリコン基板から作製されている。ノズル基板1には多数のノズル孔11が所定のピッチで設けられている。ただし、図1には簡明のため、1列5つのノズル孔11を示してある。また、ノズル列は複数列とすることもある。
各ノズル孔11は、基板面に対し垂直にかつ同軸上に小さい穴の噴射口部分11aと、噴射口部分11aよりも径の大きい導入口部分11bとから構成されている。
さらに、ノズル基板1のリザーバ基板2との接着面側には、後述するリザーバ凹部23aの開口外縁部23cに対応して、図2の下から見て矩形状に閉じられた溝からなる凹部12が設けられている。この凹部12は、後で詳しく説明するように、リザーバ凹部23aの開口外縁部23cに形成される下地金属膜26とその上の樹脂薄膜25とからなる積層膜27のフランジ部27aがノズル基板1に接触しないように設けられるものであり、これによってノズル基板1とリザーバ基板2とを平面で接着することができる。
リザーバ基板2は、例えば厚さ約180μm、面方位が(100)のシリコン基板から作製されている。このリザーバ基板2には、リザーバ基板2を垂直に貫通し、各ノズル孔11に独立して連通する少し大きい径(導入口部分11bの径と同等もしくはそれよりも大きい径)のノズル連通孔21が設けられている。また、各ノズル連通孔21及び各ノズル孔11に対して、各供給口22を介して連通する共通のリザーバ(共通インク室)23となるリザーバ凹部23aが形成されている。
このリザーバ凹部23aは、ノズル基板1との接着面(以下、N面ともいう)側に拡大して開かれた断面ほぼ逆台形状となっている。そして、リザーバ凹部23aの底壁23bの一部には圧力緩衝作用をするダイアフラム部24が形成されている。ダイアフラム部24は、図3に示すように、樹脂薄膜25により形成されている。樹脂薄膜25は下地の金属膜26の上に形成されるが、ダイアフラム部24の下地金属膜26はエッチングにより除去され、樹脂薄膜25のみが露呈するようになっている。
ダイアフラム部24が設けられるリザーバ凹部23aの底壁23bには、リザーバ基板2とキャビティ基板3との接着面(以下、C面ともいう)まで貫通する直方体状の空間部28が形成され、この空間部28によりダイアフラム部24のたわみが可能になっている。すなわち、ダイアフラム部24は、リザーバ凹部23a底面に外周が下地金属膜26を介して固着支持された樹脂薄膜25により構成されている。また、リザーバ凹部23aの側面及び開口外縁部23cには下地金属膜26と樹脂薄膜25とからなる積層膜27が全面的に形成されている。したがって、樹脂薄膜25の接着面積は大きく密着性が高いため、樹脂薄膜25が剥がれることはない。
樹脂薄膜25としては、パリレン、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリオレフィン、ポリイミド、ポリサルフォン等を使用することができ、下地金属膜26との接着性や耐薬品性等が良好であれば特に制限はない。
下地金属膜26としては、白金、クロム、金、銅等を使用することができ、シリコン及び樹脂薄膜25との密着性が良好であれば特に制限はない。
本実施の形態1では、樹脂薄膜25にパリレンを、下地金属膜26に白金を使用している。
樹脂薄膜25及び下地金属膜26は、図2、図3に示すように、リザーバ凹部23aの開口外縁部23cからリザーバ凹部23a内面全体にわたって形成されるため、開口外縁部23cにおいては、この積層膜27が乗り上げる形態となっており、そのため積層膜27のフランジ部27aはリザーバ基板2のN面より上方に突出する状態となる。そこで、上述したようにノズル基板1のリザーバ基板2との接着面に凹部12を設けて、フランジ部27aがノズル基板1に当たらないようにフランジ部27aを凹部12によってカバーしている。これにより、ノズル基板1をリザーバ基板2に平面で均一に接着することができる。なお、凹部12はフランジ部27aを覆う閉鎖形状であれば上記のような溝に限られない。
リザーバ凹部23aの底壁23bには、ダイアフラム部24を回避した位置に、上記の供給口22と、外部からリザーバ23にインクを供給するためのインク供給孔20とが貫通形成されている。
また、リザーバ基板2のC面には、吐出室31の一部を構成する細溝状の第2の凹部29が形成されている。第2の凹部29は、キャビティ基板3を薄くすることによる吐出室31での流路抵抗の増加を防ぐために設けられているが、第2の凹部29は省略することも可能である。
リザーバ基板2を貫通するノズル連通孔21は、ノズル基板1のノズル孔11と同軸上に設けられているので、インク滴の吐出の直進性が得られ、そのため吐出特性が格段に向上するものとなる。特に、微小なインク滴を狙い通りに着弾させることができるため、色ずれ等を生じることなく微妙な階調変化を忠実に再現することができ、より鮮明で高品位の画質を実現することができる。
キャビティ基板3は、例えば厚さ約30μmのシリコン基板から作製されている。このキャビティ基板3には、ノズル連通孔21のそれぞれに独立して連通する吐出室31となる第1の凹部33が設けられている。そして、この第1の凹部33と上記の第2の凹部29とで、各吐出室31が区画形成されている。また、吐出室31(第1の凹部33)の底壁が振動板32を構成している。振動板32は、シリコンに高濃度のボロンを拡散することにより形成されるボロン拡散層により構成することができる。振動板32をボロン拡散層とすることにより、ウェットエッチングでのエッチングストップを十分に働かせることができるので、振動板32の厚さや面荒れを精度よく調整することができる。
キャビティ基板3の少なくとも下面には、例えばTEOS(Tetraethylorthosilicate Tetraethoxysilane:テトラエトキシシラン、珪酸エチル)を原料としたプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長法)によるSiO2膜からなる絶縁膜34が、例えば0.1μmの厚さで形成されている。この絶縁膜34は、インクジェットヘッド10の駆動時における絶縁破壊や短絡を防止するために設けられている。キャビティ基板3の上面には、インク保護膜(図示せず)が形成されている。また、キャビティ基板3には、リザーバ基板2のインク供給孔20に連通するインク供給孔35が設けられている。
電極基板4は、例えば厚さ約1mmのガラス基板から作製されている。なかでも、キャビティ基板3のシリコン材と熱膨張係数の近い硼珪酸系の耐熱硬質ガラスを用いるのが適している。硼珪酸系の耐熱硬質ガラスを用いることにより、電極基板4とキャビティ基板3とを陽極接合する際、両基板の熱膨張係数が近いため、電極基板4とキャビティ基板3との間に生じる応力を低減することができ、その結果、剥離等の問題を生じることなく、電極基板4とキャビティ基板3とを強固に接合することができる。
電極基板4には、キャビティ基板3の各振動板32に対向する表面の位置に、それぞれ凹部42が設けられている。各凹部42は、エッチングにより約0.3μmの深さで形成されている。そして、各凹部42の底面には、一般に、ITO(Indium Tin Oxide)からなる個別電極41が、例えば0.1μmの厚さでスパッタにより形成されている。したがって、振動板32と個別電極41との間に形成されるギャップG(空隙)は、この凹部42の深さ、個別電極41及び振動板32を覆う絶縁膜34の厚さにより決まることになる。このギャップGは、インクジェットヘッド10の吐出特性に大きく影響する。本実施の形態1の場合、ギャップGは0.2μmとなっている。このギャップGの開放端部は、エポキシ接着剤等からなる封止材43により気密に封止されている。これにより、異物や湿気等がギャップGに侵入するのを防止することができ、インクジェットヘッド10の信頼性を高く保持することができる。
なお、個別電極41の材料はITOに限定するものではなく、IZO(Indium Zinc Oxide)あるいは金、銅等の金属を用いてもよい。しかし、ITOは透明であるので振動板32の当接具合の確認が行いやすいことなどの理由から、一般にはITOが用いられている。
また、個別電極41の端子部41aは、リザーバ基板2及びキャビティ基板3の端部が開口された電極取り出し部44に露出しており、電極取り出し部44において、例えばドライバIC等の駆動制御回路5が搭載されたフレキシブル配線基板(図示せず)が、各個別電極41の端子部41aと、キャビティ基板3の端部に設けられた共通電極36とに接続されている。
電極基板4には、インクカートリッジ(図示せず)に接続されるインク供給孔45が設けられている。インク供給孔45は、キャビティ基板3に設けられたインク供給孔35、及びリザーバ基板2に設けられたインク供給孔20を通じて、リザーバ23に連通している。
ここで、上記のように構成されたインクジェットヘッド10の動作について説明する。
インクジェットヘッド10には、外部のインクカートリッジ(図示せず)内のインクがインク供給孔45、35、20を通じてリザーバ23内に供給され、さらにインクは個々の供給口22からそれぞれの吐出室31、ノズル連通孔21を経て、ノズル孔11の先端まで満たされている。また、このインクジェットヘッド10の動作を制御するためのドライバIC等の駆動制御回路5が、各個別電極41とキャビティ基板3に設けられた共通電極36との間に接続されている。
したがって、この駆動制御回路5により個別電極41に駆動信号(パルス電圧)を供給すると、個別電極41には駆動制御回路5からパルス電圧が印加され、個別電極41をプラスに帯電させ、一方、これに対応する振動板32はマイナスに帯電する。このとき、個別電極41と振動板32間に静電気力(クーロン力)が発生するため、この静電気力により振動板32は個別電極41側に引き寄せられて撓む。これによって、吐出室31の容積が増大する。次に、パルス電圧をオフにすると、上記静電気力がなくなり、振動板32はその弾性力により元に戻り、その際、吐出室31の容積が急激に減少するため、そのときの圧力により、吐出室31内のインクの一部がノズル連通孔21を通過し、インク滴となってノズル孔11から吐出される。そして、再びパルス電圧が印加され、振動板32が個別電極41側に撓むことにより、インクがリザーバ23から供給口22を通って吐出室31内に補給される。
本実施の形態1に係るインクジェットヘッド10によれば、駆動時において、吐出室31の圧力はリザーバ23にも伝達される。このとき、リザーバ23の底壁23bには、樹脂薄膜25を備えたダイアフラム部24が設けられているので、リザーバ23が正圧になると樹脂薄膜25は空間部28の下方へ撓み、逆にリザーバ23が負圧になると樹脂薄膜25は空間部28の上方へ撓むため、リザーバ23内の圧力変動を緩衝することができ、ノズル孔11間の圧力干渉を防止することができる。そのため、駆動ノズル以外の非駆動ノズルからインクが漏れ出たり、駆動ノズルから吐出に必要な吐出量が減少するといったような不具合をなくすことができる。
また、リザーバ基板2のダイアフラム部24がリザーバ23の底面に位置するので、リザーバ23の底面のほぼ全面をダイアフラムにすることによってダイアフラム部24の面積を大きくすることができ、ダイアフラム部24の圧力緩衝効果を大きくすることができる。
次に、実施の形態1に係るインクジェットヘッド10の製造方法について、図4乃至図10を用いて説明する。なお、以下において示す基板の厚さやエッチング深さ、温度、圧力等の値はあくまでも一例を示すものであり、本発明はこれらの値によって限定されるものではない。
まず、リザーバ基板2の製造方法について図4乃至図6を参照して説明する。
(a)図4(a)に示すように、面方位(100)、厚さ180μmのシリコン基板(ウエハ)200を用意し、このシリコン基板200の外面に熱酸化膜201を1.5μm形成する。
(b)次に、図4(b)に示すように、フォトリソグラフィー法により、キャビティ基板3と接着する側の面(C面)に、ノズル連通孔21、第2の凹部29、供給口22、ダイアフラム部24、インク供給孔20になる部分21a、29a、22a、24a、20aをパターニングする。このとき、C面における各部分21a、29a、22a、24a、20aの熱酸化膜201の残し膜厚が、次の関係になるようにエッチングする。
ノズル連通孔21になる部分21a=0<供給口22になる部分22a=インク供給孔20になる部分20a<第2の凹部29になる部分29a=ダイアフラム部24になる部分24a
(c)次に、図4(c)に示すように、C面のノズル連通孔21になる部分21aを、ICPで150μm程、ドライエッチングする。
(d)次に、図4(d)に示すように、熱酸化膜201を適量エッチングして、供給口22になる部分22a、インク供給孔20になる部分20aの外縁を開口させ、そののち、ICP(Inductively Couped Plasma)で15μm程、ドライエッチングする。
(e)次に、図4(e)に示すように、熱酸化膜201を適量エッチングして、第2の凹部29になる部分29a及びダイアフラム部24になる部分24aを開口させ、そののちICPで25μm程、ドライエッチングする。その際、ノズル連通孔21になる部分21aもドライエッチングされて、N面にまで貫通する。
(f)そして、熱酸化膜201を除去した後に、図4(f)に示すように、再度、熱酸化膜202を1.0μm形成し、ノズル基板1と接着する側の面(N面)に、リザーバ凹部23aになる部分230をフォトリソグラフィー法によりパターニングする。
(g)次に、図5(g)に示すように、KOHで150μm程、ウェットエッチングしてリザーバ凹部23aを形成する。ここで、インク供給孔20になる部分のシリコン部材200aは環状の外縁20aによりシリコン基板200から分離された状態になる。
(h)熱酸化膜202を除去した後に、図5(h)に示すように、再度、熱酸化膜203を0.2μm形成する。
(i)次に、図5(i)に示すように、シリコン基板200のC面を、ダイアフラム部24になる部分24aのみが開口した金属製もしくはシリコン製のマスク部材204でマスキングしてドライエッチングを行い、ダイアフラム部24になる部分24aの熱酸化膜203を除去する。
(j)次に、図5(j)に示すように、シリコン基板200のN面を、リザーバ凹部23aの開口部よりも大きい開口205aを有する金属製もしくはシリコン製のマスク部材205でマスキングして、ドライエッチングによりリザーバ凹部23aの内面と開口外縁部23cの熱酸化膜203を除去する。
(k)次に、図5(k)に示すように、シリコン基板200のN面を、上記の金属製もしくはシリコン製のマスク部材205でマスキングして、下地膜となる白金膜26aをスパッタにより0.1μm成膜する。これにより、下地の白金膜26aがリザーバ凹部23aの開口外縁部23cから内面全体にわたって形成される。
(l)次に、図6(l)に示すように、シリコン基板200のC面全体を保護フィルム206で保護するとともに、リザーバ凹部23aの開口外縁部23cよりも大きい開口207aを有する保護フィルム(マスク部材)207でシリコン基板200のN面をマスキングして、パリレン薄膜25aをプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)により下地の白金膜26aの上に2μm成膜する。これにより、下地白金膜26aとパリレン薄膜25aとからなる積層膜27がリザーバ凹部23aの開口外縁部23cから内面全体にわたって形成される。このパリレン薄膜25aは、ジパラキシリレン(ダイマー)を昇華させて熱分解することにより形成される。パリレンは、シリコン薄膜に比べて柔らかい性質があるため、当該部分を例えばシリコン薄膜で形成した場合に比べて100倍から1000倍の圧力吸収効果を発揮することができる。
(m)次に、図6(m)に示すように、N面及びC面の保護フィルム207、206を剥離する。ここで、パリレン薄膜25aは、下地膜として形成された白金膜26aの作用により、リザーバ凹部23aの表面に対して密着性高く成膜されており、さらにリザーバ凹部23aの開口外縁部23cには積層膜27のフランジ部27aが固着形成されているため、保護フィルム207を剥離する際に、積層膜27のフランジ部27aのパリレン薄膜25aが端から剥がれるといった不都合は生じない。
そして、C面側よりRIE(Reactive Ion Etching)酸素プラズマで供給口22及びインク供給孔20のパリレン薄膜25aを除去し、さらにN面側からRIE酸素プラズマでパリレン薄膜25aが除去されない程度に親水化処理する。このパリレン薄膜25aの親水化処理のためのRIE条件の一例をあげると、RFパワー200W、圧力0.2Torr、酸素流量30sccm、処理時間10秒である。
(n)次に、図6(n)に示すように、C面からSF6プラズマでダイアフラム部24の底壁23bのシリコンを下地白金膜26aが露呈するまでドライエッチングにより選択的に除去する。これにより、空間部28が形成される。なお、このドライエッチング工程では、図5(i)に示したようなマスク部材204でC面をマスキングしてエッチングする。
(o)そして最後に、図6(o)に示すように、王水(濃塩酸と濃硝酸とを3:1の体積比で混合した液体)によるウェットエッチングでパリレン薄膜25a下の下地白金膜26aを除去する。これにより、図2、図3に示したような構造のパリレン薄膜25aのみからなるダイアフラム部24が得られる。
以上により、リザーバ基板2が作製される。
また、ダイアフラム部24における空間部28を図7に示すように形成することもできる。すなわち、リザーバ凹部23aの底壁23bには、図7(m’)に示すように、予めICPドライエッチングにより凹部を形成することなく、その他の部分は図4(a)乃至図6(l)と同様に形成する。そして、図7(n’)に示すように、シリコン基板200のC面の熱酸化膜203を空間部28になる部分のみが開口した金属製もしくはシリコン製のマスク部材204でマスキングして除去した後、同じマスク部材204を用いて、下地白金膜26aが露呈するまでICPドライエッチングにより底壁23bのシリコンを除去し、空間部28を一度に形成する。最後に、図7(o’)に示すように、王水(濃塩酸と濃硝酸とを3:1の体積比で混合した液体)によるウェットエッチングでパリレン薄膜25a下の下地白金膜26aを除去すれば、図6(o)と同様にパリレン薄膜25aのみからなるダイアフラム部24を有するリザーバ基板2を作製することができる。
次に、ノズル基板1の製造工程について図8及び図9を参照して説明する。
(a)図8(a)に示すように、面方位(100)、厚さ280μmのシリコン基板(ウエハ)100に熱酸化膜101を1μm形成する。
(b)次に、図8(b)に示すように、フォトリソグラフィー法により、リザーバ基板2との接着面(以下、R面ともいう)にノズル孔11の噴射口部分11aになる部分111及び導入口部分11bになる部分112、さらに凹部12になる部分12aをパターニングする。
(c)次に、図8(c)に示すように、噴射口部分11aになる部分111をICPで60μm程度ドライエッチングする。その後、BHF(緩衝フッ酸水溶液)により熱酸化膜101を適量エッチングし、導入口部分11bになる部分112、凹部12になる部分12aを開口させ、ICPで30μm程度ドライエッチングする。これにより、導入口部分11b、凹部12が形成される。
(d)次に、図8(d)に示すように、熱酸化膜101をフッ酸水溶液により除去した後、再度、熱酸化により熱酸化膜102を全面に0.1μm成膜する。
(e)次に、図9(e)に示すように、シリコン基板100のR面に両面接着テープ103を用いて支持基板となるガラス基板104を貼り合わせる。
(f)次に、図9(f)に示すように、シリコン基板100のR面と反対側の面からバックグラインダーで研削加工を行い、噴射口部分11aの先端が開口するまでシリコン基板100を薄くする。その後、この研削加工面に撥水膜105を蒸着やディッピング等により成膜する。
(g)そして最後に、図9(g)に示すように、ガラス基板104側からUV光を照射し、ガラス基板104と両面接着テープ103とをシリコン基板100から剥離する。
以上により、ノズル孔11と凹部12とが形成されたノズル基板1が作製される。
次に、電極基板4とキャビティ基板3の製造工程について図10乃至図12を参照して説明し、インクジェットヘッドの完成までの製造工程について図13を参照して説明する。
まず、電極基板4は、以下のようにして製造される。
(a)図10(a)に示すように、硼珪酸ガラス等からなる厚さ約1mmのガラス基板(ウエハ)400に、金・クロムのエッチングマスクを使用してフッ酸によってエッチングすることにより、凹部42を形成する。なお、この凹部42は個別電極41の形状より少し大きめの溝状のものであり、個別電極41ごとに複数形成される。
そして、凹部42の内部に、スパッタとパターニングにより、ITO(Indium Tin Oxide)からなる個別電極41を形成する。
その後、ブラスト等によってインク供給孔45になる部分45aを形成することにより、電極基板4が作製される。
(b)次に、図10(b)に示すように、電極基板4と接合するE面に所要の厚さのボロンドープ層(図示せず)を形成してある厚さ約220μmのシリコン基板(ウエハ)300を用意し、このシリコン基板300のE面に、例えばTEOSを原料としたプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)によって、厚さ0.1μmの酸化膜からなる絶縁膜34を形成する。絶縁膜34の形成は、例えば、温度360℃、高周波出力250W、圧力66.7Pa(0.5Torr)、ガス流量はTEOS流量100cm3/min(100sccm)、酸素流量1000cm3/min(1000sccm)の条件で行う。また、シリコン基板300は、所要の厚さのボロンドープ層(図示せず)を有するものを用いるのが望ましい。
(c)次に、シリコン基板300(図10(b))と、個別電極41が作製された電極基板4(図10(a))とを、図10(c)に示すように、絶縁膜34を介して陽極接合する。陽極接合は、シリコン基板300と電極基板4を360℃に加熱した後、電極基板4に負極、シリコン基板300に正極を接続して、800Vの電圧を印加して陽極接合する。
(d)次に、図10(d)に示すように、陽極接合されたシリコン基板300の表面を、バックグラインダーや、ポリッシャーによって研削加工し、さらに水酸化カリウム水溶液で表面を10〜20μmエッチングして加工変質層を除去し、厚さが30μmになるまで薄くする。
(e)次に、図11(e)に示すように、薄板化されたシリコン基板300の表面に、エッチングマスクとなるTEOS酸化膜301を、プラズマCVDによって厚さ約1.0μmで形成する。
(f)そして、TEOS酸化膜301の表面上にレジスト(図示せず)をコーティングし、フォトリソグラフィーによってレジストをパターニングし、TEOS酸化膜301をエッチングすることにより、図11(f)に示すように、吐出室31の第1の凹部33、インク供給孔35、及び電極取り出し部44になる部分33a、35a、44aを開口する。そして、開口後にレジストを剥離する。
(g)次に、図11(g)に示すように、この陽極接合済みの基板を水酸化カリウム水溶液でエッチングすることにより、薄板化されたシリコン基板300に、吐出室31の第1の凹部33になる部分33aと、インク供給孔35となる貫通孔35aを形成する。このとき、電極取り出し部44になる部分44aはボロンドープ層が形成されているため、振動板32になる部分32aと同じ厚さで残留する。また、貫通孔35aにもボロンドープ層が形成されているが、インク供給孔45から侵入する水酸化カリウム水溶液にも曝露されているため、エッチング中に消滅する。
なお、このエッチング工程では、最初は、濃度35wt%の水酸化カリウム水溶液を用いて、シリコン基板300の残りの厚さが例えば5μmになるまでエッチングを行い、ついで、濃度3wt%の水酸化カリウム水溶液に切り替えてエッチングを行う。これにより、エッチングストップが十分に働くため、振動板32になる部分32aの面荒れを防ぎ、かつその厚さを0.80±0.05μmと、高精度の厚さに形成することができる。エッチングストップとは、エッチング面から発生する気泡が停止した状態と定義し、実際のウェットエッチングにおいては、気泡の発生の停止をもってエッチングがストップしたものと判断する。
(h)シリコン基板300のエッチングが終了した後に、図11(h)に示すように、フッ酸水溶液でエッチングすることにより、シリコン基板300の上面に形成されているTEOS酸化膜301を除去する。
(i)次に、シリコン基板300の第1の凹部33になる部分33aの表面に、図12(i)に示すように、プラズマCVDによりTEOS酸化膜からなるインク保護膜37を、厚さ0.1μmで形成する。
(j)その後、図12(j)に示すように、RIE(Reactive Ion Etching)等によって電極取り出し部44になる部分44aを開口する。また、振動板32と個別電極41の間のギャップGの開放端部を、エポキシ樹脂等の封止材43で気密に封止する。また、Pt(白金)等の金属電極からなる共通電極36が、スパッタにより、シリコン基板300の表面の端部に形成される。
以上により、電極基板4に接合した状態のシリコン基板300からキャビティ基板3が作製される。
(k)そして、図13(k)に示すように、このキャビティ基板3に、前述のようにノズル連通孔21、供給口22、リザーバ凹部23a、ダイアフラム部24等が作製されたリザーバ基板2を接着剤により接着する。
(l)さらに、図13(l)に示すように、予めノズル孔11及び凹部12が形成されたノズル基板1を、リザーバ基板2上に接着剤により接着する。
(m)最後に、図13(m)に示すように、ダイシングにより個々のヘッドに分離すれば、図2に示したインクジェットヘッド10の本体部が作製される。
以上のように、実施の形態1によれば、下地白金膜26aとパリレン薄膜25aとからなる積層膜27をリザーバ凹部23aの開口外縁部23cから内面全体にわたって形成し、ダイアフラム部24においては下地白金膜26aがエッチングにより除去され、これにより露呈したパリレン薄膜25a部分の外周が下地白金膜26aを介して固着支持されているため、リザーバ23での圧力変動に対する緩衝効果を十分に発揮することができる。さらに、パリレン薄膜25aは、リザーバ凹部23aの開口外縁部23cから内面全体にわたって形成されているため、例えば、特許文献2に示すように空間部28の側面にのみ形成するようにした場合に比べて、リザーバ基板2との接着面積が増加して十分な密着性及び接着強度を確保することができる。
また、パリレン薄膜25aの形成に先だって白金膜26aを下地膜として形成するようにしたので、パリレン薄膜25aとシリコン表面との密着性を高くすることができる。
パリレン薄膜25aは、微小欠陥が無く被覆性に優れ、耐熱性、耐薬品性及び耐透湿性が高い特徴を有しているため、ダイアフラム部24に用いて好適である。また、柔軟性も高いので、例えばシリコン薄膜に比べて、100倍から1000倍の圧力吸収効果を発揮することができる。
ダイアフラム部24は、パリレン薄膜25aを成膜することにより形成したので、ダイアフラム部24をウエハに一括で形成できて生産性が良い。
ダイアフラム部24の形成に際しては、リザーバ基板2のN面側をリザーバ凹部23aの開口部より大きい開口207aを有する保護フィルム(マスク部材)207でマスキングしてパリレン薄膜25aを形成し、ついで、その保護フィルム207を剥がすことにより形成するものであるので、言い換えれば、リザーバ凹部23aの内面全体に形成したパリレン薄膜25aの一部をダイアフラム部24としてそのまま利用するため、パリレン薄膜25aを部分的に除去したり、パリレン薄膜25aを部分的に形成したりする工程が不要であるため、製造工程が簡単で、歩留まりと生産性を向上させることができる。
ノズル基板1に凹部12を設けることにより、リザーバ凹部23aの開口外縁部23cに乗り上げた積層膜27のフランジ部27aとの接触を避けることができる。これにより、ノズル基板1とリザーバ基板2とを平面で均一に接着することができ、接着信頼性が向上する。
ダイアフラム部24が変形するための空間部28をリザーバ23の形成面と反対側の面をエッチングにより掘り込んで形成したものであるので、空間部28を設けるに際し、キャビティ基板3もしくはノズル基板1に加工する必要がなく、キャビティ基板3もしくはノズル基板1の設計及び加工に対する影響を与えることがない。
パリレン薄膜25aの表面を酸素プラズマで親水化処理するようにしたので、インク流路の親水性を容易に確保することができる。
ダイアフラム部24を形成する際のシリコンのドライエッチングにはSF6プラズマを用いるようにしたので、パリレン薄膜25aに与えるダメージを最小限に抑えてシリコンのドライエッチングを行うことができる。
実施の形態2.
図14は本発明の実施の形態2に係るインクジェットヘッドの概略構成を示す分解斜視図、図15は図14に示したインクジェットヘッドの組立状態を示す縦断面図である。なお、実施の形態1と同一部分には同じ符号を付し説明を省略する。
実施の形態2に係るインクジェットヘッド10は、リザーバ基板2に設けたダイアフラム部24を、実施の形態1とは逆に、ノズル基板1との接着面側(N面側)に配置する構成としたものである。
本実施の形態2では、リザーバ基板2以外のノズル基板1、キャビティ基板3及び電極基板4は、実施の形態1と同じ構成である。実施の形態2のリザーバ基板2には、ノズル基板1のノズル孔11に連通する円筒状のノズル連通孔21が同様に形成されている。また、実施の形態1では、各吐出室31の一部を構成する第2の凹部29と、リザーバ23となるリザーバ凹部23aとがリザーバ基板2において互いに反対面に形成されていたが、本実施の形態2では同一面(C面)に形成されている。そして、リザーバ基板2のC面には更に、第2の凹部29とリザーバ凹部23aとを連通する細溝状の供給口220が形成されている。また、キャビティ基板3に設けられたインク供給孔35は、リザーバ凹部23aの開口面に開口している。
リザーバ基板2のリザーバ凹部23aは、キャビティ基板3との接着面(C面)側に拡大して開かれた断面ほぼ台形状となっている。そしてリザーバ凹部23aの上部(N面側)には、ダイアフラム部24となるダイアフラム凹部24Aが断面ほぼ逆台形状に形成されている。このダイアフラム凹部24Aに、実施の形態1と同様に、下地金属膜26とその上の樹脂薄膜25とからなる積層膜27が、開口外縁部24Bから内面全体にわたって形成されている。そして、圧力変動緩衝部であるダイアフラム部24においては、下地金属膜26がエッチングにより除去され、その上の樹脂薄膜25のみでダイアフラム部24が構成されている。したがって、樹脂薄膜25は、ダイアフラム凹部24Aとリザーバ凹部23aとを隔てる隔膜となっており、これによってダイアフラム部24のたわみが可能になっている。
樹脂薄膜25には、実施の形態1と同様に、パリレンを用いており、下地金属膜26には白金を用いている。樹脂薄膜25及び下地金属膜26の材料がこれらに限られないことは前述したとおりである。
また、ノズル基板1には、実施の形態1と同様に、矩形状に閉じられた溝からなる凹部12が形成されている。このため、この凹部12により、ダイアフラム凹部24Aの開口外縁部24Bに形成された積層膜27のフランジ部27aがノズル基板1に当たらないようになっており、ノズル基板1とリザーバ基板2とを平面で接着可能にしている。
本実施の形態2に係るインクジェットヘッド10は、その駆動時において、リザーバ23のN面側に設けられたダイアフラム部24の樹脂薄膜25が大きな面積を有して上下方向に振動するので、実施の形態1と同様の効果があり、ノズル孔11間の圧力干渉を防止することができる。
次に、実施の形態2に係るインクジェットヘッドの製造のために使用するリザーバ基板の製造方法を、図16乃至図18を用いて説明する。
(a)まず、図16(a)に示すように、面方位(100)、厚さ180μmのシリコン基板(ウエハ)200を用意し、このシリコン基板200の外面に熱酸化膜201を1.0μm形成する。
(b)次に、図16(b)に示すように、フォトリソグラフィー法により、C面にノズル連通孔21になる部分21aをパターニングして開口する。
(c)次に、図16(c)に示すように、C面のノズル連通孔21になる部分21aを、ICPで貫通するまでドライエッチングする。
(d)次に、熱酸化膜201を剥離し、その後、図16(d)に示すように、再度、熱酸化膜202を形成する。そして、C面にリザーバ凹部23a、供給口220、第2の凹部29になる部分230、220a、29aと、N面にダイアフラム部24になる部分24aとをそれぞれパターニングする。ただし、エッチング深さに応じて、パターン幅(紙面の表裏方向の幅)が次の関係になるようにする。
リザーバ凹部23aになる部分230>第2の凹部29になる部分29a>供給口220になる部分220a
(e)次に、図16(e)に示すように、KOHによるウェットエッチングで、C面及びN面を20μmエッチングする。これにより、C面にリザーバ凹部23aとなる前の一次リザーバ凹部23Aが形成されるとともに、N面に所要の深さのダイアフラム凹部24Aが形成される。
(f)次に、図17(f)に示すように、ダイアフラム凹部24Aの開口部よりも大きい開口205aを有する金属製もしくはシリコン製のマスク部材205でN面をマスキングして、ドライエッチングによりN面に形成されたダイアフラム凹部24Aの開口外縁部24Bの熱酸化膜202を除去する。
(g)そして、図17(g)に示すように、ダイアフラム凹部24Aの開口外縁部24Bから内面全体にわたって下地の白金膜26aをスパッタにより0.1μm成膜する。
(h)次に、図17(h)に示すように、シリコン基板200のC面全体を保護フィルム206で保護するとともに、N面を、ダイアフラム凹部24Aの開口外縁部24Bよりも大きい開口207aを有する保護フィルム(マスク部材)207でマスキングして、プラズマCVDによりパリレン薄膜25aを2μm成膜する。パリレン薄膜25aは、真空チャンバー内でジパラキシリレン(ダイマー)を昇華させて熱分解することで表面全体に堆積させて形成する。
(i)次に、図18(i)に示すように、N面及びC面の保護フィルム207、206を剥離する。これにより、下地白金膜26aとその上のパリレン薄膜25aとからなる積層膜27がダイアフラム凹部24Aの開口外縁部24Bから内面全体にわたって形成される。また、保護フィルム207の剥離時に、積層膜27のフランジ部27aのパリレン薄膜25aが剥がれたりすることはない。そして、保護フィルム206、207を剥離した後、さらにKOHによるウェットエッチングを施すことにより、所要の開口面積と深さとを持つリザーバ凹部(二次リザーバ凹部)23aと供給口220と第2の凹部29とを形成する。その際、リザーバ凹部23aは下地の白金膜26aでエッチングストップがかかり、第2の凹部29と供給口220とは開口幅に応じた深さでエッチングがストップする。すなわち、各部の深さは次の関係となっている。
リザーバ凹部23a>第2の凹部29>供給口220
(j)次に、図18(j)に示すように、王水(濃塩酸と濃硝酸とを3:1の体積比で混合した液体)によるウェットエッチングで、ダイアフラム部24におけるパリレン薄膜25a下の下地白金膜26aを除去する。これにより、パリレン薄膜25aからなるダイアフラム部24が形成される。
(k)そして最後に、図18(k)に示すように、熱酸化膜202を全面剥離した後、高濃度オゾン水に浸漬してインク保護膜208となる酸化膜を形成する。
以上によりリザーバ基板2が作製される。
そして、上記のように作製されたリザーバ基板2を用いて、実施の形態1の図8乃至図13で説明したように製造すれば、実施の形態2に係るインクジェットヘッド10を製造することができる。
実施の形態2に係るインクジェットヘッド10は、実施の形態1とほぼ同様の効果が得られるとともに、ダイアフラム部24をノズル基板1との接着面側に設けた構造としたので、換言すれば、リザーバ23やその他の各部をリザーバ基板2において同一面側に形成した構造としたので、リザーバ基板2の全ての加工をキャビティ基板3側からの片面加工で完了させることができ、歩留まりと生産性を向上することができる。
また、ダイアフラム凹部24Aと、一次リザーバ凹部23A、二次リザーバ凹部23aとを同じウェットエッチングで形成することができるため、リザーバ基板2の製造工程を簡素化することができる。
上記の実施形態1及び2では、静電駆動方式のインクジェットヘッド及びその製造方法について述べたが、本発明は上記の実施形態に限定されるものでなく、本発明の技術思想の範囲内で種々変更することができる。例えば、静電駆動方式以外の駆動方式によるインクジェットヘッドについても、本発明を適用することができる。圧電方式の場合は、電極基板に代えて、圧電素子を各吐出室の底部に接着すればよく、バブル方式の場合は各吐出室の内部に発熱素子を設ければよい。また、上記各実施の形態に係るインクジェットヘッド10は、図19に示されるインクジェットプリンタ500の他に、吐出液体の材料を種々変更することで、液晶ディスプレイのカラーフィルタの製造、有機EL表示装置の発光部分の形成、プリント配線基板製造装置にて製造する配線基板の配線部分の形成、生体液体の吐出(プロテインチップやDNAチップの製造)など、様々な用途の液滴吐出装置に適用することができる。また、上記実施の形態1及び2のインクジェットヘッド(液滴吐出ヘッド)を備えた液滴吐出装置は、液滴吐出時に発生するノズル間の圧力干渉を防止して吐出特性が良好な液滴吐出ヘッドを備えた液滴吐出装置とすることができる。
本発明の実施の形態1に係るインクジェットヘッドの概略構成を示す分解斜視図。 図1のインクジェットヘッドの組立状態を示す断面図。 (a)は図2のA部の拡大断面図、(b)は図2のB部の拡大断面図。 実施の形態1に係るインクジェットヘッドのリザーバ基板の製造工程の断面図。 図4に続くリザーバ基板の製造工程の断面図。 図5に続くリザーバ基板の製造工程の断面図。 リザーバ基板の別の製造工程の要部を示す断面図。 ノズル基板の製造工程の断面図。 図8に続く製造工程の断面図。 電極基板とキャビティ基板の製造工程の断面図。 図10に続く製造工程の断面図。 図11に続く製造工程の断面図。 図12に続く製造工程の断面図。 本発明の実施の形態2に係るインクジェットヘッドの概略構成を示す分解斜視図。 図14のインクジェットヘッドの組立状態を示す断面図。 実施の形態2に係るインクジェットヘッドのリザーバ基板の製造工程の断面図。 図16に続くリザーバ基板の製造工程の断面図。 図17に続くリザーバ基板の製造工程の断面図。 本発明に係るインクジェットプリンタを示す斜視図。
符号の説明
1 ノズル基板、2 リザーバ基板、3 キャビティ基板、4 電極基板、5 駆動制御回路、10 インクジェットヘッド、11 ノズル孔、12 凹部、20 インク供給孔、21 ノズル連通孔、22 供給口、23 リザーバ、23a リザーバ凹部(二次リザーバ凹部)、23A 一次リザーバ凹部、23b リザーバ凹部の底壁、23c リザーバ凹部の開口外縁部、24 ダイアフラム部、24A ダイアフラム凹部、24B ダイアフラム凹部の開口外縁部、25 樹脂薄膜、25a パリレン薄膜、26 下地金属膜、26a 下地白金膜、27 積層膜、27a 積層膜のフランジ部、28 空間部、29 第2の凹部、31 吐出室、32 振動板、33 第1の凹部、34 絶縁膜、35 インク供給孔、36 共通電極、41 個別電極、42 凹部、43 封止材、44 電極取り出し部、45 インク供給孔、205 マスク部材、207 保護フィルム(マスク部材)、500 インクジェットプリンタ。

Claims (4)

  1. 複数のノズル孔を有するノズル基板と、前記各ノズル孔に連通し、室内に圧力を発生させて前記ノズル孔より液滴を吐出する複数の独立した吐出室を有するキャビティ基板と、前記吐出室に対して共通に連通するリザーバを有し、前記ノズル基板と前記キャビティ基板との間に設けられるリザーバ基板とを少なくとも備え、前記リザーバの底面に圧力変動を緩衝する樹脂薄膜を備えたダイアフラム部を設けた液滴吐出ヘッドの製造方法であって、
    前記リザーバ基板になるシリコン基板の一方の面から前記リザーバとなるリザーバ凹部をウェットエッチングにより形成する工程と、
    前記リザーバ凹部の開口部よりも大きい開口を有するマスク部材を用いて、前記リザーバ凹部の開口外縁部から内面全体にわたって下地金属膜とその上に前記樹脂薄膜を積層する工程と、
    前記シリコン基板の他方の面から前記リザーバ凹部の底部のシリコンをエッチングにより選択的に除去して、前記下地金属膜を露呈させる工程と、
    前記露呈した下地金属膜を前記樹脂薄膜が露呈するまでエッチングにより除去して、前記ダイアフラム部を形成する工程とを有し、
    前記ノズル基板の製造において、前記リザーバ凹部の開口外縁部に形成された前記下地金属膜と前記樹脂薄膜とからなる積層膜に接触しないように、前記リザーバ凹部の開口外縁部を覆う凹部をさらに形成する工程を有することを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法。
  2. 複数のノズル孔を有するノズル基板と、前記各ノズル孔に連通し、室内に圧力を発生させて前記ノズル孔より液滴を吐出する複数の独立した吐出室を有するキャビティ基板と、前記吐出室に対して共通に連通するリザーバを有し、前記ノズル基板と前記キャビティ基板との間に設けられるリザーバ基板とを少なくとも備え、前記リザーバの底面に圧力変動を緩衝する樹脂薄膜を備えたダイアフラム部を設けた液滴吐出ヘッドの製造方法であって、
    前記リザーバ基板になるシリコン基板の一方の面から前記ダイアフラム部となるダイアフラム凹部を、他方の面から前記リザーバとなる前の一次リザーバ凹部をウェットエッチングにより形成する工程と、
    前記ダイアフラム凹部の開口部よりも大きい開口を有するマスク部材を用いて、前記ダイアフラム凹部の開口外縁部から内面全体にわたって下地金属膜とその上に前記樹脂薄膜を積層する工程と、
    前記シリコン基板の他方の面から前記一次リザーバ凹部をさらにウェットエッチングして、前記リザーバとなる二次リザーバ凹部を形成するとともに、前記下地金属膜を露呈させる工程と、
    前記露呈した下地金属膜を前記樹脂薄膜が露呈するまでエッチングにより除去して、前記ダイアフラム部を形成する工程とを有し、
    前記ノズル基板の製造において、前記ダイアフラム凹部の開口外縁部に形成された前記下地金属膜と前記樹脂薄膜とからなる積層膜に接触しないように、前記リザーバ凹部の開口外縁部を覆う凹部をさらに形成する工程を有することを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法。
  3. 前記樹脂薄膜が、パリレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリオレフィン、ポリイミド、またはポリサルフォンにより構成されていることを特徴とする請求項1または2記載の液滴吐出ヘッドの製造方法。
  4. 請求項1乃至3のいずれかに記載の液滴吐出ヘッドの製造方法を適用して液滴吐出装置を製造することを特徴とする液滴吐出装置の製造方法。
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