本発明に係る車輌の制動装置についての実施例1を図1から図3に基づいて説明する。
最初に、本実施例1の制動装置の構成について図1に基づき説明する。
本実施例1の制動装置は、車輪10FL,10FR,10RL,10RRに対して摩擦等で機械的な制動力を発生させる機械制動力発生手段と、その制動動作についての制御を行う制動制御手段(以下、「ブレーキECU」という。)1と、を備えている。そのブレーキECU1は、図示しないCPU(中央演算処理装置),所定の制動制御プログラム等を予め記憶しているROM(Read Only Memory),そのCPUの演算結果を一時記憶するRAM(Random Access Memory),予め用意された情報等を記憶するバックアップRAM等で構成されている。
例えば、本実施例1の機械制動力発生手段としては、油圧(ブレーキ液の液圧)の力により夫々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRに機械的な制動トルクを付与して機械制動力を発生させる一般的に知られた所謂油圧ブレーキを例示する。これが為、以下においては、この機械制動力発生手段を「油圧制動力発生手段」といい、この油圧制動力発生手段によって発生させられた機械制動力を「油圧制動力」という。
具体的に、ここで例示する油圧制動力発生手段は、夫々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRに配設したキャリパーやブレーキパッド、ディスクロータ等からなる油圧制動手段21FL,21FR,21RL,21RRと、これら各油圧制動手段21FL,21FR,21RL,21RRのキャリパーに対して各々に油圧(即ち、作動流体としてのブレーキ液)を供給する油圧配管22FL,22FR,22RL,22RRと、を備えている。つまり、この油圧制動力発生手段は、油圧の力でブレーキパッドをディスクロータに押し付け、その間に発生した摩擦によって制動力を働かせるものである。
更に、この油圧制動力発生手段には、運転者により操作されるブレーキペダル23と、このブレーキペダル23に入力された運転者のブレーキ操作に伴う操作圧力(ペダル踏力)を所定の倍力比で倍化させる制動倍力手段(ブレーキブースタ)24と、この制動倍力手段24により倍化されたペダル踏力をブレーキ液の液圧(以下、「マスタシリンダ圧」という。)へと変換するマスタシリンダ25と、ブレーキ液を貯留するリザーバタンク26と、が備えられている。
ここでは、運転者によるブレーキペダル23の操作量の検出を行い、その検出信号をブレーキECU1に送信するブレーキペダル操作量検出手段27が例えばブレーキペダル23に設けられている。例えば、その操作量にはブレーキペダル23の踏み込み量やペダル踏力があり、これが為、ブレーキペダル操作量検出手段27としては、ペダルストロークセンサやペダル踏力センサが用意される。また、マスタシリンダ25とリザーバタンク26の間は、ブレーキペダル23の踏み込みが解除されたときに連通状態となるよう構成されている。
ここで、そのマスタシリンダ25の内部には図示しない2つの油圧室が設けられており、その夫々の油圧室に上記のマスタシリンダ圧が発生している。そして、本実施例1の油圧制動力発生手段には、その夫々の油圧室に各々接続させた第1及び第2の油圧配管28,29が設けられている。
また、この油圧制動力発生手段には、ブレーキECU1の制御指令に従って、その第1及び第2の油圧配管28,29内の油圧(マスタシリンダ圧)をそのまま又は調圧して上述した油圧配管22FL,22FR,22RL,22RRに伝える作動流体圧力調節手段(以下、「ブレーキアクチュエータ」という。)30が備えられている。以下、このブレーキアクチュエータ30について詳述する。
例えば、本実施例1のブレーキアクチュエータ30は、右前輪10FR及び左後輪10RL用の第1油圧制御回路と、右後輪10RR及び左前輪10FL用の第2油圧制御回路と、を備えたものとして例示する。ここでは、その第1油圧制御回路を第1油圧配管28に接続させる一方、第2油圧制御回路を第2油圧配管29に接続させる。
また、このブレーキアクチュエータ30には、自身への供給油圧(つまり、マスタシリンダ圧)の検出を行うマスタシリンダ圧センサ31と、第1及び第2の油圧制御回路の夫々のブレーキ液の流量調節手段としてのマスタカット弁32,33と、を設けている。
そのマスタシリンダ圧センサ31は、第1又は第2の油圧配管28,29の内の何れか一方に配備され、その検出信号をブレーキECU1へと送信する。一方、その各マスタカット弁32,33は、通常は開弁状態にある所謂ノーマルオープン式の流量調整用電磁弁であって、ブレーキECU1による通電に伴って弁開度の制御が実行されるものである。ここでは、そのマスタシリンダ圧センサ31を第1油圧配管28に配設するものとして例示し、これが為、その第1油圧配管28におけるマスタシリンダ圧センサ31の下流にマスタカット弁32を配設する。尚、この実施例1にて示す下流とは、ペダル操作時のブレーキ液の流動方向(つまり、油圧制動手段21FL,21FR,21RL,21RRへと向かう方向)における下流側のことを表すものとする。
ここで、このブレーキアクチュエータ30においては、第1油圧配管28がマスタカット弁32を介して連結通路34に接続される一方、第2油圧配管29がマスタカット弁33を介して連結通路35に接続される。そして、第1油圧制御回路の連結通路34には、そこから分岐させるが如く2本の分岐通路36,37を接続し、第2油圧制御回路の連結通路35には、そこから分岐させるが如く2本の分岐通路38,39を接続する。第1油圧制御回路においては、その各々の分岐通路36,37を夫々に右前輪10FRの油圧配管22FRと左後輪10RLの油圧配管22RLに接続する。一方、第2油圧制御回路においては、その各々の分岐通路38,39を夫々に右後輪10RRの油圧配管22RRと左前輪10FLの油圧配管22FLに接続する。
また、その各分岐通路36,37,38,39には、夫々に保持弁40,41,42,43が配備されており、更に、これら各保持弁40,41,42,43よりも下流側に油圧排出通路44,45,46,47が夫々に分岐通路36,37,38,39から分岐させるが如く接続されている。そして、その各油圧排出通路44,45,46,47には、夫々に減圧弁48,49,50,51が配備されている。
その夫々の保持弁40,41,42,43は、通常は開弁状態にある所謂ノーマルオープン式の流量調整用電磁弁であって、ブレーキECU1による通電に伴って弁開度の制御が実行されるものである。一方、各減圧弁48,49,50,51は、通常は閉弁状態にある所謂ノーマルクローズ式の流量調整用電磁弁であって、ブレーキECU1による通電に伴って弁開度の制御が実行されるものである。
また、ここでは、第1油圧制御回路の夫々の油圧排出通路44,45を一纏めにする油圧排出集合通路52と、第2油圧制御回路の夫々の油圧排出通路46,47を一纏めにする油圧排出集合通路53と、が用意されており、その夫々の油圧排出集合通路52,53が補助リザーバ54,55に接続されている。
更に、第1油圧制御回路においては、連結通路34と各分岐通路36,37との分岐点から分岐して油圧排出集合通路52に接続されるポンプ通路56を配設する。これと同様に、第2油圧制御回路においては、連結通路35と各分岐通路38,39との分岐点から分岐して油圧排出集合通路53に接続されるポンプ通路57を配設する。
その夫々のポンプ通路56,57には、電動機58によって駆動される油圧ポンプ(加圧手段)59,60を各々配備している。これら各油圧ポンプ59,60は、夫々にマスタカット弁32,33側の分岐点に向けてブレーキ液を吐出させるものであり、夫々に分岐通路36,37と分岐通路38,39にブレーキ液を供給する。つまり、第1油圧制御回路の油圧ポンプ59は、右前輪10FRの油圧制動手段21FRと左後輪10RLの油圧制動手段21RLの夫々のキャリパーへの油圧を増加させ、これらが発生させる制動力を増加させる。一方、第2油圧制御回路の油圧ポンプ60は、右後輪10RRの油圧制動手段21RRと左前輪10FLの油圧制動手段21FLの夫々のキャリパーへの油圧を増加させ、これらが発生させる制動力を増加させる。尚、その電動機58は、図示しないバッテリからの電力供給により駆動する。
また、その各ポンプ通路56,57には、油圧ポンプ59,60によるブレーキ液の夫々の吐出方向の順番で、逆止弁61,62とブレーキ液中の塵埃等を取り除くフィルタ63,64とオリフィス65,66が各々配設されている。これら逆止弁61,62は、夫々に油圧ポンプ59,60から吐出されたブレーキ液を逆流させない為のものである。
また、このブレーキアクチュエータ30には、第1及び第2の油圧配管28,29から各々分岐して補助リザーバ54,55に夫々接続される吸入通路67,68が配設されており、更に、その夫々の吸入通路67,68の補助リザーバ54,55側にリザーバカット逆止弁69,70が配設されている。
尚、ここで例示したブレーキアクチュエータ30は油圧制御回路を右前輪10FR及び左後輪10RL用と右後輪10RR及び左前輪10FL用とで分けた所謂クロス配管としたが、その油圧制御回路については、前輪10FL,10FRと後輪10RL,10RRとで分けた所謂前後配管にしてもよい。
このように構成した本実施例1の油圧制動力発生手段は、その動作について上述したが如くブレーキECU1によって制御される。
具体的に、そのブレーキECU1には、ブレーキペダル操作量検出手段27により検出されたブレーキペダル操作量(ブレーキペダル23の踏み込み量やペダル踏力)と、マスタシリンダ圧センサ31により検出されたマスタシリンダ圧と、が入力される。つまり、ブレーキECU1には、運転者がブレーキペダル23の操作によって制動要求を行ったときに検出されたブレーキペダル操作量と、その操作に伴い発生したマスタシリンダ圧と、が入力される。
このブレーキECU1においては、そのブレーキペダル操作量に基づいて運転者の要求制動力Fdriverが演算される。例えば、その要求制動力Fdriverについては、この技術分野において周知の演算手法によって求める。そして、このブレーキECU1は、その要求制動力Fdriverが車輪10FL,10FR,10RL,10RRに働くように油圧制動力発生手段を制御する。
ここで、油圧ポンプ59,60を駆動させずとも要求制動力Fdriverを発生させることができるのであれば、ブレーキECU1は、ブレーキペダル操作量とマスタシリンダ圧に基づいて、マスタカット弁32,33と保持弁40,41,42,43と減圧弁48,49,50,51を各車輪10FL,10FR,10RL,10RRで要求制動力Fdriverが働くように制御する。その際、ブレーキECU1は、電動機58を停止させ、油圧ポンプ59,60が駆動しないようにする。例えば、油圧を増圧させる増圧モードの場合には、マスタカット弁32,33と保持弁40,41,42,43を開弁させる一方、減圧弁48,49,50,51を閉弁させる。また、油圧を保持させる保持モードの場合には、マスタカット弁32,33と保持弁40,41,42,43と減圧弁48,49,50,51を閉弁させる。また、油圧を減圧させる減圧モードの場合には、マスタカット弁32,33と保持弁40,41,42,43を閉弁させる一方、減圧弁48,49,50,51を開弁させる。つまり、ここでは、そのマスタカット弁32,33、保持弁40,41,42,43、減圧弁48,49,50,51、及びこれらを繋ぐ分岐通路36,37等の通路が、運転者のブレーキペダル23の操作に伴い発生したブレーキ液の液圧(マスタシリンダ圧)を要求制動力Fdriverに従って調圧する作動流体調圧部として機能する。
本実施例1においては、そのようにして油圧ポンプ59,60を駆動させずに発生させた油圧制動力について「基準制動力(第1制動力)Fbase」という。そして、ここでは、油圧制動力発生手段の中でもその基準制動力Fbaseを発生させる為の構成を「基準制動力発生手段(第1制動力発生手段)」という。具体的に、その基準制動力発生手段とは、上述した油圧制動力発生手段の構成から油圧ポンプ59,60に係る構成を除いたものを指す。つまり、この基準制動力発生手段は、油圧制動力発生手段の構成から電動機58やポンプ通路56,57上の油圧ポンプ59,60等の部品を除いたものである。
一方、この油圧制動力発生手段においては、基準制動力Fbaseを最大限の大きさで発生させたとしても、その基準制動力Fbaseが要求制動力Fdriverに満たない場合がある。即ち、基準制動力Fbaseのみでは要求制動力Fdriverを発生させることができない場合がある。これが為、この場合のブレーキECU1は、ブレーキペダル操作量とマスタシリンダ圧に基づいて、マスタカット弁32,33と保持弁40,41,42,43と減圧弁48,49,50,51のみならず電動機58も駆動制御し、各車輪10FL,10FR,10RL,10RRで要求制動力Fdriverが働くようにする。具体的に、ブレーキECU1は、マスタカット弁32,33と保持弁40,41,42,43を開弁させる一方、減圧弁48,49,50,51を閉弁させ、その不足分に相当する油圧制動力(以下、「差圧制動力(第2制動力)Fpump」という。)が発生するように電動機58を駆動させる。つまり、ここでは、その不足分に応じた油圧ポンプ59,60の加圧量(即ち、吐出量や吐出圧)でブレーキ液が加圧されるように電動機58を駆動させ、その加圧量に相当する差圧制動力Fpumpを夫々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRに働かせる。これにより、ここでは、基準制動力発生手段だけで制動力を発生させるときよりも油圧が増圧するので、夫々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRに要求制動力Fdriverを作用させることができる。
ここで、その差圧制動力Fpumpについては、下記の式1に基づき求めることができる。その式1の「Fbase-max」は、基準制動力の最大値であり、本ブレーキシステム固有の値として予め明らかにしておくことが可能である。
Fpump=Fdriver−Fbase-max … (1)
また、ここでは、その差圧制動力Fpumpと基準となる電動機58のデューティ出力(以下、「電動機基準出力」という。)D0との対応関係が図示しないマップデータとして予め用意されている。従って、ブレーキECU1は、差圧制動力Fpumpが判明した際にこれに対応する電動機基準出力D0をマップデータ(図示略)から読み込み、その電動機基準出力D0を駆動指令値として電動機58に送る。
本実施例1においては、油圧制動力発生手段の中でもその差圧制動力Fpumpを発生させる為の構成を「差圧制動力発生手段(第2制動力発生手段)」という。この差圧制動力発生手段は、上述した基準制動力発生手段とは逆で、油圧制動力発生手段の構成の内の油圧ポンプ59,60に係る構成を指す。
ところで、機関冷間始動時等の状況下においては、油圧制動力発生手段の夫々の油路や油圧室内等に存在しているブレーキ液の温度が低くなっていることがある。そして、ブレーキ液は低温になると粘度が高くなるので、この場合には、電動機58の出力が同じであれば油圧ポンプ59,60の吐出機能を低下させてしまう。これが為、かかる状況下においては、油圧ポンプ59,60を駆動して上記の式1の演算式に基づき要求された差圧制動力Fpumpを発生させようとしても、その吐出性能の悪化に伴って差圧制動力Fpumpを発生させることができず、要求制動力Fdriverを夫々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRに働かせることができない。特に、かかる事象は、ブレーキ液の温度低下が著しい寒冷地等において顕著に表れる。
そこで、本実施例1においては、ブレーキ液温度Tbが所定温度T0より低くても上記の要求された差圧制動力Fpumpを発生させることができるように構成する。その所定温度T0とは、油圧ポンプ59,60の吐出性能を悪化させることのない最低のブレーキ液温度Tbのことであり、ブレーキ液の規格(即ち、DOT規格等)に応じて予め設定しておく。つまり、この所定温度T0は、ブレーキ液の粘性が変化したとしても油圧ポンプ59,60の加圧量を低下させることのない最低のブレーキ液温度Tbを設定する。ここでは、ブレーキ液温度Tbがその所定温度T0より低い状態を低温状態といい、その所定温度T0以上になっている状態を常温状態という。
具体的に、本実施例1においては、低温状態ならば常温状態のときよりも油圧ポンプ59,60の加圧量を増大させるようにブレーキECU1を構成しておく。つまり、このブレーキECU1には、ブレーキ液温度Tbが所定温度T0よりも低い場合、この場合の油圧ポンプ59,60の加圧量をブレーキ液温度Tbが所定温度T0以上のときに設定される加圧量よりも増大させるよう油圧ポンプ59,60を駆動させる。例えば、ここでは、上記の所定温度T0に対するブレーキ液の温度差に応じて(即ち、ブレーキ液温度Tbがその所定温度T0よりも低くなっていくほどに)加圧量を増大させていく。
ここで、本実施例2の制動装置においては、そのような低温状態における油圧ポンプ59,60の加圧量の増大制御を行う為にブレーキ液温度Tbの観察が必要になる。例えば、そのブレーキ液温度Tbについては、マスタシリンダ25やリザーバタンク26、油路等に図示しない温度センサを配備し、これとブレーキECU1とで構成されたブレーキ液温度検出手段(作動流体の温度取得手段)を設けて直接測ってもよい。しかしながら、そのような温度検出手段は部品点数の増加や原価の高騰を招いてしまうので、ここでは、これを使用せずにブレーキ液温度Tbを観察することが望ましい。これが為、本実施例2においては、その作動流体の温度取得手段としてブレーキ液温度Tbの推定を行うブレーキ液温度推定手段(作動流体の温度推定手段)を用意する。
例えば、ブレーキ液温度Tbは、車輌の外気温の影響を受ける。つまり、一般には、外気温が高ければブレーキ液温度Tbも高くなっている。従って、そのブレーキ液温度推定手段としては、外気温の検出を行う外気温センサ81とその検出信号に基づき演算処理を行うブレーキECU1とで構成することができる。この場合、外気温とブレーキ液温度Tbとの対応関係を予め実験やシミュレーションで求め、この対応関係を表したマップデータ(図示略)として用意しておく。これが為、ブレーキECU1は、外気温に応じたブレーキ液温度Tbの情報をそのマップデータから読み取り、これに基づいて現時点におけるブレーキ液温度Tbを推定する。そのマップデータにおいては、外気温が低いほどブレーキ液温度Tbも低くなっている。
また、ブレーキ液温度Tbは、図示しない内燃機関等の原動機を始動させてから時間が経つにつれて又は走行距離が延びるにつれて上昇していく。つまり、原動機が始動してから所定時間経過後又は所定距離走行後には、原動機の発熱量が高くなり、その熱の影響を受けてエンジンコンパートメント内の温度が上昇し、これに伴いブレーキ液温度Tbが上がっていく。従って、ブレーキ液温度推定手段としては、原動機始動後の経過時間を利用したもの、原動機始動後の走行距離を利用したものが考えられる。例えば、このブレーキ液温度推定手段は、原動機が始動してからの経過時間が所定時間を超えるまで又は原動機が始動してからの走行距離が所定距離を超えるまで、ブレーキ液温度Tbが上述した所定温度T0よりも低いと推定する。尚、この場合は、エンジンコンパートメント内に油圧制動力発生手段の主要構成部品(少なくともマスタシリンダ25)が配備されていることを前提とする。
先ず、その経過時間を利用したブレーキ液温度推定手段について説明する。このブレーキ液温度推定手段は、原動機の始動を示すイグニッションオン信号82又はスタータ信号83とこれが入力されるブレーキECU1とで構成することができる。かかる構成におけるブレーキECU1には、イグニッションオン信号82又はスタータ信号83が入力された際に時間の計測を始めさせ、その経過時間が所定時間を超えるまでは低温状態と判断させる。この場合、その原動機始動後の経過時間とブレーキ液温度Tbとの対応関係を予め実験やシミュレーションで求め、上述した所定温度T0に達した際の経過時間を上記の所定時間として設定しておく。また、この場合には、その実験やシミュレーションの結果に基づいて、その対応関係を表したマップデータ(図示略)を用意しておく。これが為、この場合のブレーキECU1は、経過時間に応じたブレーキ液温度Tbの情報をそのマップデータから読み取り、これに基づいて現時点におけるブレーキ液温度Tbを推定する。そのマップデータにおいては、経過時間が短いほどブレーキ液温度Tbが低くなっている。
次に、走行距離を利用したブレーキ液温度推定手段について説明する。このブレーキ液温度推定手段は、イグニッションオン信号82又はスタータ信号83と、車輪10FL,10FR,10RL,10RRの回転速度(即ち、車輪速度)の検出を行う車輪速センサ84FL,84FR,84RL,84RRと、これらの信号が入力されるブレーキECU1と、で構成することができる。その車輪速度については、各車輪10FL,10FR,10RL,10RRの内の少なくとも1本の情報を用いればよい。かかる構成におけるブレーキECU1には、イグニッションオン信号82又はスタータ信号83が入力された際に車輪速度の情報に基づき走行距離を演算させ始め、その走行距離が所定距離を超えるまでは低温状態と判断させる。この場合、その原動機始動後の走行距離とブレーキ液温度Tbとの対応関係を予め実験やシミュレーションで求め、上述した所定温度T0に達した際の走行距離を上記の所定時間として設定しておく。また、この場合には、その実験やシミュレーションの結果に基づいて、その対応関係を表したマップデータ(図示略)を用意しておく。これが為、この場合のブレーキECU1は、走行距離に応じたブレーキ液温度Tbの情報をそのマップデータから読み取り、これに基づいて現時点におけるブレーキ液温度Tbを推定する。そのマップデータにおいては、走行距離が短いほどブレーキ液温度Tbが低くなっている。
更に、ブレーキ液温度Tbは、同じ日時であっても車輌を使用する地域毎に異なり、また、同じ地域であっても大きくは季節毎に異なる。これが為、自車位置や日時が判ればブレーキ液温度Tbの推定が可能になる。従って、この場合のブレーキ液温度推定手段としては、自車位置情報85と日時情報86とこれらの入力されるブレーキECU1とで構成することができる。この場合、自車位置情報85と日時情報86とブレーキ液温度Tbとの対応関係を予め実験やシミュレーションで求め、この対応関係を表したマップデータ(図示略)として用意しておく。これが為、ブレーキECU1は、自車位置情報85と日時情報86に応じたブレーキ液温度Tbの情報をそのマップデータから読み取り、これに基づいて現時点におけるブレーキ液温度Tbを推定する。そのマップデータにおいては、寒冷地であればあるほど、また、外気温の低い時間帯であればあるほど、ブレーキ液温度Tbが低くなっている。
ここで、その自車位置情報85としては、例えば所謂カーナビゲーションシステムの情報を利用すればよい。つまり、ここでは、そのカーナビゲーションシステムの地図情報と自車位置検索機能を利用すれば自車位置情報85を知ることができる。また、その日時情報86としては、通常、車輌に搭載されている時計機能を利用すればよい。
上記においては様々な形態のブレーキ液温度推定手段について例示したが、本実施例1においては、その夫々のブレーキ液温度推定手段の内の少なくとも1種類を利用する。
一方、その中でも外気温を利用したブレーキ液温度推定手段や自車位置情報85と日時情報86を利用したブレーキ液温度推定手段については、その推定演算を行った時点でのブレーキ液温度Tbを観ることはできるが、その後の温度変化を観ることが難しく、低温状態から常温状態への移行を判断し難い。つまり、ブレーキ液温度Tbは、外気温に変化が無くとも、また、外気温の大きく異なる地域や日時へと瞬時に車輌が移ることはあり得ないので、原動機の発する熱の影響を受けて(即ち、エンジンコンパートメント内の温度上昇の影響を受けて)上昇していく。このことから、かかる外気温を利用したブレーキ液温度推定手段や自車位置情報85と日時情報86を利用したブレーキ液温度推定手段を用いる場合には、上述した経過時間又は走行距離を利用したブレーキ液温度推定手段との併用を図ることが望ましい。
以下に、本実施例1の制動装置の制御動作の一例について図2のフローチャートに基づき説明する。
先ず、本実施例1のブレーキECU1は、上述したブレーキ液温度推定手段を利用してブレーキ液温度Tbの推定を行う(ステップST5)。そして、このブレーキECU1は、運転者からの制動要求があったか否かについて判定する(ステップST10)。例えば、その制動要求の有無の判断は、ブレーキペダル23の動きに連動して作動する図示しないストップランプスイッチのスイッチオン信号やブレーキペダル操作量検出手段27の検出信号の入力有無に基づいて行う。つまり、ブレーキECU1は、そのスイッチオン信号や検出信号の内の少なくとも1つが入力されたときに運転者からの制動要求ありと判定する。
このブレーキECU1は、制動要求なしと判定した場合、本処理を一旦終えてステップST5に戻る。一方、制動要求ありと判定された場合、ブレーキECU1は、上記ステップST5で推定したブレーキ液温度Tbに応じて補正係数αを求める(ステップST15)。
その補正係数αとは、油圧ポンプ59,60の駆動によって差圧制動力Fpumpを発生させる為の電動機基準出力D0に対する補正係数である。つまり、この補正係数αは、低温状態で電動機58のデューティ出力を増大させ、これにより油圧ポンプ59,60の加圧量を増大させる為の補正値である。例えば、この補正係数αは、ブレーキ液温度Tbをパラメータとした図3に示すマップデータから求める。このマップデータにおいては、ブレーキ液温度Tbが所定温度T0より低ければ、その温度差が拡がるほどに補正係数αが「1」よりも大きくなっていく。つまり、ブレーキ液温度Tbが低温であればあるほどに大きな値の補正係数αが設定される。一方、このマップデータにおいては、ブレーキ液温度Tbが所定温度T0以上のときに補正係数αが「1」に設定される。つまり、常温状態のときには、電動機58のデューティ出力を増大させる必要がないので、電動機基準出力D0で電動機58を駆動させるようになっている。尚、そのマップデータは、一例であり、必ずしも低温状態にてブレーキ液温度Tbと補正係数αが比例関係にあるとは限らない。
本実施例1のブレーキECU1は、補正係数αの演算処理を終えた後、運転者による要求制動力Fdriverをブレーキペダル操作量検出手段27から検出したブレーキペダル23の操作量に基づいて求める(ステップST20)。尚、この要求制動力Fdriverの演算処理は、上記ステップST10の後に又は上記ステップST15と同時に実行してもよい。
続いて、このブレーキECU1は、その要求制動力Fdriverと基準制動力の最大値Fbase-maxを上記式1に代入して差圧制動力Fpumpを求め(ステップST25)、この差圧制動力Fpumpが「0」以下か否かの判定を行う(ステップST30)。つまり、このステップST30では、基準制動力Fbaseだけで要求制動力Fdriverを発生させることができるのか、それとも油圧ポンプ59,60を駆動して差圧制動力Fpumpも加えなければ要求制動力Fdriverを発生させることができないのかについての判定を行っている。
ブレーキECU1は、そのステップST30で差圧制動力Fpumpが「0」よりも大きいと判定し、油圧ポンプ59,60を駆動させる必要があると判断した場合、その差圧制動力Fpumpに対応する電動機基準出力D0を上述したマップデータから導き出す(ステップST35)。
そして、ブレーキECU1は、その電動機基準出力D0と上記ステップST15の補正係数αとに基づいて電動機58のデューティ出力の補正値(以下、「電動機補正出力」という。)D1を求める(ステップST40)。この電動機補正出力D1については、下記の式2から導き出す。従って、ここでは、低温状態にあれば「D1>D0」となり、常温状態にあれば「D1=D0」となる。
D1=D0×α … (2)
しかる後、このブレーキECU1は、夫々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRに要求制動力Fdriverが働くようにブレーキアクチュエータ30の駆動制御を実行する(ステップST45)。
このステップST45においては、マスタカット弁32,33と保持弁40,41,42,43を開弁させると共に減圧弁48,49,50,51を閉弁させ、更に電動機58を電動機補正出力D1で駆動させる。これにより、上述した第1制動力発生手段からはマスタシリンダ圧に応じた基準制動力の最大値Fbase-maxが発生させられると共に、第2制動力発生手段からは上記ステップST25で求めた油圧ポンプ59,60による差圧制動力Fpumpが発生させられ、夫々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRには、低温状態であるか常温状態であるかに拘わらず、上記ステップST20で設定した要求制動力Fdriverが働くようになる。尚、その要求制動力Fdriverで保持する場合には、マスタカット弁32,33と保持弁40,41,42,43と減圧弁48,49,50,51を閉弁させると共に、電動機58を停止させればよい。
一方、上記ステップST30で差圧制動力Fpumpが「0」以下と判定し、基準制動力Fbaseだけで要求制動力Fdriverを発生させることができると判断した場合、ブレーキECU1は、夫々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRに要求制動力Fdriverが働くようブレーキアクチュエータ30の駆動制御を実行する(ステップST50)。この場合、ブレーキECU1は、その要求制動力Fdriverに応じて上述した増圧モード、保持モード又は減圧モードの内の何れのモードなのかについて判断し、そのモードに適したマスタカット弁32,33と保持弁40,41,42,43と減圧弁48,49,50,51の制御を行う。尚、その際には、電動機58を駆動させない。
以上示した如く、本実施例1の車輌の制動装置は、油圧ポンプ59,60によるブレーキ液の加圧が必要無ければ第1制動力発生手段によって要求制動力Fdriverを夫々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRに働かせることができる。
一方、油圧ポンプ59,60の吐出性能(加圧性能)はブレーキ液温度Tbに影響されるが、本実施例1の車輌の制動装置は、油圧ポンプ59,60によるブレーキ液の加圧が必要であれば、ブレーキ液温度Tbの高低に応じて加圧量(吐出量や吐出圧)を調節することで、必要とされる差圧制動力Fpumpを発生させ、要求制動力Fdriverを夫々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRに働かせることができる。その際、この制動装置は、ブレーキ液温度Tbが所定温度T0より低く且つ制動要求が行われたときで、更に電動機58によるブレーキ液の加圧が必要とされるときにのみ電動機58のデューティ出力を常温状態のときよりも増大させ、要求制動力Fdriverが満たされるように油圧ポンプ59,60の加圧量(吐出量や吐出圧)を増加させる。つまり、この制動装置は、ブレーキ液が低温で粘度が高く、これにより油圧ポンプ59,60の吐出性能を悪化させてしまう状況下においても、必要とされる要求制動力Fdriverを夫々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRに働かせることができる。
更に、この制動装置は、ブレーキ液温度Tbの高低に拘わらず、制動要求が行われていないとき及び制動要求が行われていても油圧ポンプ59,60によるブレーキ液の加圧が必要とされないときに電動機58を駆動させなくともよい。また、この制動装置は、油圧ポンプ59,60によるブレーキ液の加圧が必要とされているときでも常温状態にあれば、電動機58の駆動量(つまり、デューティ出力)を低温状態のときよりも低く抑えることができる。これが為、この制動装置は、その電動機58の駆動に要する消費電力を必要最小限に抑えることができ、また、電動機58及び油圧ポンプ59,60の駆動に伴う車輌の騒音や振動を低減することができる。即ち、この制動装置においては、制動要求され且つ油圧ポンプ59,60によるブレーキ液の加圧が必要とされるときにのみ電動機58を駆動させ、更にその中でも常温状態になっていれば電動機58の駆動量を低温状態のときよりも小さくしているので、その駆動の為の電力消費量が低く抑えられると共に、車輌の騒音性能や振動性能(つまり、音振性能)を向上させることができる。従って、例えば、かかる車輌が内燃機関等の原動機と電動機を夫々駆動源にする所謂ハイブリッド車輌の場合には、バッテリの残存蓄電量不足に伴う原動機の駆動頻度を少なくすることが可能となり、原動機駆動用の燃料の消費量を減少させることができる。また、車輌が電気自動車の場合には、バッテリの残存蓄電量不足による航続距離の低下を防ぐことができる。
また更に、油圧ポンプ59,60(電動機58)を駆動させた際にはマスタシリンダ圧が変化するので、例えば運転者がペダル踏力(換言すれば、ペダル踏み込み量)を一定に保っているにも拘わらず、ブレーキペダル23は、そのマスタシリンダ圧の変化によって運転者側に押し戻されてしまう又はマスタシリンダ25側に引き込まれてしまう可能性がある。つまり、電動機58を油圧ポンプ59,60の駆動源として使用した場合には、マスタシリンダ25の油圧室が加圧されてブレーキペダル23の押し戻しが発生する可能性がある。一方、その電動機58を発電機として使用した場合には、マスタシリンダ25の油圧室が減圧されてブレーキペダル23の引き込みが発生する可能性がある。このように、ここでの電動機58の駆動は、運転者のブレーキペダル23の操作感を悪化させてしまう虞がある。しかしながら、本実施例1の制動装置は、油圧ポンプ59,60によるブレーキ液の加圧が必要とされるときを除いて電動機58を駆動させないので、そのとき以外でのブレーキペダル23の押し戻し現象や引き込み現象を回避することができ、ブレーキペダル23の操作感の悪化を最小限に抑えることができる。
ところで、上述した本実施例1においては補正係数αを用いて電動機補正出力D1の演算を行っているが、その電動機補正出力D1は、以下に示すような補正項α1を用いて求めてもよい。つまり、電動機補正出力D1を求める為には、電動機基準出力D0に乗算させる補正係数αを使ってよく、その電動機基準出力D0に加算させる補正項α1を用いてもよい。その補正項α1とは、油圧ポンプ59,60の駆動によって差圧制動力Fpumpを発生させる為の電動機基準出力D0に対する補正項であり、補正係数αと同様に、低温状態で電動機58のデューティ出力を増大させ、これにより油圧ポンプ59,60の加圧量を増大させる為の補正値である。例えば、この補正項α1についても、補正係数αと同様にブレーキ液温度Tbをパラメータとした図示しないマップデータから求めればよい。このマップデータにおいては、ブレーキ液温度Tbが所定温度T0より低ければ、その温度差が拡がるほどに補正項α1が「0」よりも大きくなっていく。つまり、ブレーキ液温度Tbが低温であればあるほどに大きな値の補正項α1が設定される。一方、このマップデータにおいては、ブレーキ液温度Tbが所定温度T0以上のときに補正項α1が「0」に設定される。つまり、常温状態のときには、電動機58のデューティ出力を増大させる必要がないので、ここでも電動機基準出力D0で電動機58を駆動させるようになっている。
そのような補正項α1を用いた場合の制動装置の制御動作については、上述した図2のフローチャートのとき(つまり、補正係数αを用いたとき)と略同じである。つまり、この場合には、その図2のステップST15において補正係数αの替わりに補正項α1を求め、更に、その補正項α1を用いてステップST40で電動機補正出力D1を求める点が相違する。この場合のステップST40においては、下記の式3から電動機補正出力D1を導き出す。
D1=D0+α1 … (3)
ここでも、低温状態にあれば「D1>D0」となり、常温状態にあれば「D1=D0」となる。従って、ここでは、その補正項α1を用いたとしても、補正係数αを用いたときと同様の効果を奏することができる。
次に、本発明に係る車輌の制動装置についての実施例2を図4及び図5に基づいて説明する。
前述した実施例1においては、低温状態であると常温状態であるとに拘わらず補正係数α(又は補正項α1)を求める。従って、この実施例1の制動装置では、本来であれば補正の必要の無い常温状態であっても、電動機58を駆動させる為に必ず電動機補正出力D1(=電動機基準出力D0)を求めなければならない。一方、低温状態は長期に渡って続くものではなく、一般的には走行時間が長くなるにつれて常温状態へと移行していく。これが為、実施例1の制動装置においては、走行中の大半の時間を占めている常温状態のときであっても補正係数α(又は補正項α1)と電動機補正出力D1の演算を行わなければならず、演算処理の複雑化や演算処理時間の長期化を招いてしまう可能性がある。
そこで、本実施例2においては、常温状態と判断された際の演算処理の簡素化を図るべく構成する。具体的には、常温状態と判断された場合に、上記の補正係数α(又は補正項α1)及び電動機補正出力D1の演算を必要とせずに常温時の制動制御が実行されるように構成する。
以下に、本実施例2の制動装置の制御動作の一例について図4のフローチャートに基づき説明する。
尚、その制御動作の多くは前述した実施例1のものと同じであるので、以下においては、その相違点について説明する。つまり、本実施例2のブレーキECU1は、ステップST10で制動要求ありと判定した場合に、ステップST5で推定したブレーキ液温度Tbが実施例1で示した所定温度T0よりも低くなっているのか否かについての判定を行う(ステップST12)。
そして、そのステップST12でブレーキ液温度Tbが所定温度T0よりも低くなっており低温状態であると判断された場合、このブレーキECU1は、ステップST15へと進んで、以降、実施例1と同様の演算処理を実行する。尚、本実施例2においては、ステップST15で求められる補正係数α(又は補正項α1)は低温状態のときのもののみであり、これに伴いステップST40で低温状態のときの電動機補正出力D1(>D0)だけが求められる。これが為、本実施例2のステップST45では、実施例1にて行った常温状態においてのブレーキアクチュエータ30の駆動制御が実行されない。
一方、このブレーキECU1は、上記ステップST12でブレーキ液温度Tbが所定温度T0以上になっており常温状態であると判断した場合、常温時の制動制御を実行する(ステップST55)。
この常温時の制動制御は、図5のフローチャートに示す如く、先ずブレーキECU1がステップST20と同様にして運転者による要求制動力Fdriverを求める(ステップST55A)。
そして、このブレーキECU1は、ステップST25,ST30と同様にして、差圧制動力Fpumpを求め(ステップST55B)、この差圧制動力Fpumpが「0」以下か否かの判定を行う(ステップST55C)。
ブレーキECU1は、そのステップST55Cで差圧制動力Fpumpが「0」よりも大きいので油圧ポンプ59,60を駆動させる必要があると判断した場合、その差圧制動力Fpumpに対応する電動機基準出力D0をステップST35と同様にして求める(ステップST55D)。
しかる後、このブレーキECU1は、夫々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRに要求制動力Fdriverが働くようにブレーキアクチュエータ30の駆動制御を実行する(ステップST55E)。
このステップST55Eにおいては、マスタカット弁32,33と保持弁40,41,42,43を開弁させると共に減圧弁48,49,50,51を閉弁させ、更に電動機58を電動機基準出力D0で駆動させる。これにより、第1制動力発生手段からはマスタシリンダ圧に応じた基準制動力の最大値Fbase-maxが発生させられると共に、第2制動力発生手段からは上記ステップST55Bで求めた油圧ポンプ59,60による差圧制動力Fpumpが発生させられ、夫々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRには、上記ステップST55Aで設定した要求制動力Fdriverが働くようになる。尚、その要求制動力Fdriverで保持する場合には、ここでもマスタカット弁32,33と保持弁40,41,42,43と減圧弁48,49,50,51を閉弁させると共に、電動機58を停止させればよい。
一方、上記ステップST55Cで差圧制動力Fpumpが「0」以下なので油圧ポンプ59,60を駆動させる必要がないと判断した場合、ブレーキECU1は、夫々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRに要求制動力Fdriverが働くようステップST50と同様にしてブレーキアクチュエータ30の駆動制御を実行する(ステップST55F)。つまり、このステップST55Fにおいては、その要求制動力Fdriverに応じて増圧モード、保持モード又は減圧モードの内の何れのモードなのかについて判断し、そのモードに適したマスタカット弁32,33と保持弁40,41,42,43と減圧弁48,49,50,51の制御を行うと共に、電動機58を駆動させない。
以上示した如く、本実施例2の車輌の制動装置においても、実施例1と同様に、ブレーキ液温度Tbが所定温度T0より低く且つ制動要求が行われたときにのみ電動機58のデューティ出力を常温状態のときよりも増大させ、要求制動力Fdriverが満たされるように油圧ポンプ59,60の加圧量(吐出量や吐出圧)を増加させる。従って、この本実施例2の制動装置は、実施例1と同様の効果を奏することができる。
更に、本実施例2の制動装置は、常温状態において補正係数α(又は補正項α1)及び電動機補正出力D1を求めずに電動機58を駆動させるので、演算処理の複雑化や演算処理時間の長期化を防ぐことができる。
ところで、上述した各実施例1,2においては運転者がブレーキペダル23を操作したときについてのみ示しているが、本発明は、必ずしもかかる運転者による制動時に限定するものではない。例えば、車輌の挙動制御等のようにブレーキECU1自身が制動力の発生を必要とすると判断したときに行う制動時に適用してもよく、これによっても上記と同様の効果を奏することができる。