以下、本発明について、望ましい実施形態とともに詳述する。
本発明におけるアロイポリマーとは2種類以上のポリマーがブレンドされたものを意味し、例えば、エクストルーダーなどの溶融混練押出機にて混練して得ることができる。本発明では、ポリ乳酸が海(マトリックス)、融点130〜215℃のポリエステルが島(ドメイン)をなしているものであり、公知の紡糸方法、例えば溶融紡糸によりアロイ繊維を得ることができる。
本発明のアロイ繊維では、異なる2種類以上のポリマーが繊維軸に対し垂直な断面に海島構造を形成しており、ここでいう海島構造とは、島成分が海成分により複数に区別されている状態あるいは構造を形成しているもののことを言い、その区別された状態または島成分の断面形状に制約はない。
本発明のアロイ繊維における第1の要件としては、前述したように海島構造において、海成分がポリ乳酸によって構成されていることである。
ここで言うポリ乳酸とは、L−乳酸および/またはD−乳酸を主たる構成成分とするポリマーであるが、乳酸以外の他の共重合成分を含んでいても良い。耐熱性という観点からポリ乳酸として乳酸成分の光学純度が高いものを用いることが好ましい。ポリ乳酸の総乳酸成分の内、L体が80%以上含まれるかあるいはD体が80%以上含まれることが好ましく、L体が95%以上含まれるかあるいはD体が95%以上含まれることがさらに好ましいものである。
本発明のアロイ繊維は植物資源由来のポリ乳酸によって海成分が構成されているため、石油資源の使用量を抑制し、環境保全に寄与することができることは一般的に知られた事実であるが、アルカリ水溶液に対して易溶解性を示し、溶解除去が簡易に行えることが本発明における重要な要件として挙げられる。すなわち、アロイ繊維からナノファイバーを発生させる際に脱海処理を行うが、海成分がポリ乳酸の場合には、加水分解を受けやすい分子構造のために、アルカリ水溶液を用いることができるのである。このため、脱海処理に有機溶剤を使用あるいは処理するための特別な設備の必要がなく、一般的な液流染色機において脱海処理が可能な他に、環境に対する負荷が小さい。更に、80℃に加熱した水酸化ナトリウム2重量%水溶液中(浴比1:100)で同繊度のポリ乳酸繊維とPBT繊維を処理した場合、30分後にはPLAが99%以上減量するのに対し、PBTは1%未満の減量に留まるというように、ポリ乳酸はポリエステルとの加水分解速度の差が非常に大きい。このため、脱海処理が迅速に完了し、ナノファイバーを不必要に劣化させることなく得ることができるのである。
次に本発明における第2の要件としては、島成分ポリマーがポリエステルであることである。
本発明におけるポリエステルとは、モノマーの連結がエステル結合でなされているポリマーであり、PET、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、PBT、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリペンテンテレフタレート、ポリヘキセンテレフタレートなどの芳香族ポリエステルなどが挙げられる。これらのポリエステルは一般にナイロンと比較して、吸水性が低いものであり、この吸水性が低いことが非常に重要である。すなわち、ナノファイバーはその繊維径がnmオーダーと非常に縮小されているため、表面積が非常に大きく、吸水性による力学的特性の低下は通常の太さの繊維のそれと比較して非常に大きい。このため、アロイ繊維に脱海処理を施し、湿潤状態で使用する際には吸水性が高いと力学的特性が著しく低下し、繊維構造体としてのシート状物の伸びや裂け、切れ、また、ナノファイバーの脱落等の問題を発生することとなる。本発明のアロイ繊維から発生させたナノファイバーの場合には、例えば、ナノファイバーをシート状物に加工して、遊離砥粒を用いるような研磨加工に用いる場合においても、湿潤時の力学的特性が優れるため、シート状物の強力を保持でき、研磨時の荷重によるシート状物の伸びあるいは破れが抑制され、安定した研磨加工性を得ることができる。
また、一般に繊維断面に海島構造を有したアロイ繊維からナノファイバーを発生させるためには、脱海処理を行うが、ここで液流染色機などを使用し、脱海処理を行うと、ナノファイバーからなる繊維構造体は液中で高張力下におかれるような過酷な環境下にさらされることとなる。この際にも、湿潤時の力学的特性は重要であり、繊維構造体の伸びや破れ、また、ナノファイバーの脱落等の問題が発生しにくくなるのである。
このようにポリエステルからなるナノファイバーは湿潤時における力学的特性の低下が小さいため、特に研磨加工分野においては開発を切望されているものであるが、昨今の研磨加工における要求を満足するものとするためには紡糸性の不安定性を改善する必要があった。すなわち、アロイポリマーの紡糸では、融点の異なる2種類以上のポリマーが同じ温度で溶融吐出されるものであり、吐出を安定したものとするには紡糸温度の選定が重要なポイントとなる。紡糸温度の決定にはアロイポリマーを構成するポリマーの融点が目安となり、ポリマーの融点に対して、紡糸温度が低い場合には溶融吐出自体が困難になるか、仮に溶融吐出できたとしても紡糸パック内での流動性に支障をきたし、吐出が非常に不安定なものとなる。これを抑制するためには、もっとも融点が高いポリマーの融点+25℃とすることが紡糸温度決定の目安となる。一般にポリ乳酸の融点は170℃程度であるため、紡糸温度を決定するのはポリエステルの融点ということになる。したがって、特許文献1および2で実際使用されている融点が225℃のポリエステルの場合には特許文献1実施例に記載されるように紡糸温度は250℃以上である。これに対し、本発明における島成分ポリマーの融点は130〜215℃とするために、溶融混練や溶融紡糸時の温度設定を240℃以下とすることができるのである。
ポリ乳酸は一般に熱劣化が進みやすいポリマーであり、この紡糸温度を10℃低温化させることが力学的特性に優れたナノファイバーを得るのに重要なポイントとなる。例えば、雰囲気温度のみ240℃と250℃に変更して、窒素雰囲気下でポリ乳酸を20分間保持した場合、250℃溶融時のポリ乳酸の分子量は240℃のそれと比較して50%まで低下することとなり、溶融混練時や溶融紡糸時において加熱滞留時間が長くなれば長くなるほど熱劣化差はより顕著なものとなる。溶融混練時や溶融紡糸時にアロイ繊維の大部分を占めるポリ乳酸が熱劣化してしまうと、アロイ繊維の力学的特性が低下し、延伸や脱海工程の通過性が悪化するという問題の他に、海成分ポリマーと島成分ポリマーの粘度比が大きくなるため、紡糸線上で島成分ポリマー(ポリエステル)が紡糸ドラフトに対し効率よく伸長しないこととなる。このため、得られるナノファイバーは繊維径の縮小が不十分であり、結晶性が不十分となるため、おのずと力学的特性も低くなる。本発明の場合には前述したように紡糸温度を240℃以下とすることが可能であり、ポリ乳酸の劣化が抑制されることにより、アロイ繊維およびそこから発生するナノファイバーいずれもが優れた力学的特性を有したものになる。
本発明において島成分ポリマーを選定する目安となる融点とは、示差走査熱量測定(DSC)で観測される融解ピークのピークトップ温度を意味し、具体的な測定方法としては、例えば、以下のようにして行うことができる。すなわち、サンプルとして10mgを計量し、アルミパンに封入後、TA Instruments社製DSC2920 Modulated DSCに設置して、昇温速度16℃/分で測定を行う。そして、2nd runにおいてそのポリマーの融解ピークのピークトップ温度をそのポリマーの融点として求めたものである。
本発明におけるポリエステルでは前述したようにこの融点が130〜215℃であるが、融点が観測される、すなわち結晶性ポリエステルであることが好ましい。非晶性ポリマーはガラス転移点以上の温度ではゴム弾性が強く発現し易く、海成分ポリマーと島成分ポリマーで変形挙動のバランスが乱れるために紡糸性や延伸性が低下し易い、また結晶によるいわゆる繊維構造の固定がないために、アロイ繊維を巻き取った後も遅延収縮が発生する場合がある。更にナノファイバーとした後も非晶質であり、繊維構造が形成されていないため、力学的特性が低く、収縮特性も低下し易い。また、アルカリ水溶液は運動性の高い非晶部分から拡散し、加水分解(溶解処理)が進行するものであるが、非晶性ポリエステルの場合にはその影響を受け易いために、湿潤時の力学的特性も結晶性ポリエステルのそれと比較して、低下したものとなりやすい。一方、結晶性ポリエステルの場合には、溶融吐出されたあと、紡糸線上でドラフトを受けることにより、配向結晶化が進むことに加え、延伸によって更に高配向化することにより、結晶により固定された強固な繊維構造が形成される。よってナノファイバー化した際にも力学的特性が優れたものになる他、アルカリ水溶液による不必要な劣化がほとんど起こらないために湿潤時の力学的特性に優れたナノファイバーとなる。
融点が130〜215℃であり、結晶性のポリエステルとしては、ホモポリエステルの場合は、ポリペンテンテレフタレートやポリヘキセンテレフタレートが挙げられ、結晶性の観点からポリへキセンテレフタレートが好ましい。融点が215℃以上であるホモポリエステルに関しては、融点を降下させる目的で他のモノマーを共重合したもの(共重合ポリエステル)を用いればよい。
共重合体の融点降下は、結晶性ポリマーの一般に対するFloryの融点降下式(P.J.Flory, Principles of Polymer Chemistry, Chap. 13 (1953))によく一致することが知られており、共重合する成分としてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ビスフェノールA、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのグリコール化合物、コハク酸、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸などのジカルボン酸、グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸、カプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトンなどのラクトン類を挙げることができる。中でも製糸工程におけるポリエステルの伸長変形を阻害し難い、また、耐熱性が良いという点からイソフタル酸およびジエチルグリコールが好ましい。
共重合比率としては、ホモポリエステルの融点にもよるが、1mol%あたり1〜4℃程度が目安となるため、融点が130〜215℃とするために必要な比率で共重合することが好ましい。但し、必要量以上に共重合した場合には過度に結晶性が低下したり、溶融粘度が増加する可能性があるため、本発明のアロイ繊維におけるポリエステルの共重合比率としては、1〜50mol%が好ましい。
前述したポリエステルと共重合成分の組み合わせにより得られた共重合ポリエステルを使用すれば、湿潤時の力学的特性に優れたナノファイバーを発生させることができるが、共重合ポリエステルの中でも共重合PBTが本発明には好適に用いられる。
PETなどは融点降下を目的として多量に共重合した場合には、結晶性が低下する場合があるため、前述したように紡糸性や延伸性の低下やナノファイバーの力学的特性が低下する可能性がある。一方、PBTはPETなどとは異なり、多量に共重合した場合においても結晶性が保たれるため、紡糸工程や延伸工程中に配向結晶化伴い繊維構造が形成され、ガラス転移点以上で発現するゴム弾性が抑制されることで紡糸性や延伸性の低下がほとんどなく、アロイ繊維を巻き取ったあとの遅延収縮等の問題も発生しない。また、最も重要な点としては、脱海処理時にアルカリ水溶液による加水分解の影響をほとんど受けないことに加え、ナノファイバーには強固な繊維構造が形成されるため、乾燥時ならびに湿潤時においても力学的特性が極めて優れたものとなる。
ここで言うPBTとは、ポリブチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリマーである。島成分ポリマーとして共重合PBTを用いた場合には、耐アルカリ性が良好であるため、アルカリ水溶液(例えば水酸化ナトリウム水溶液)による脱海処理を行っても、脱海処理時におけるナノファイバーの劣化を抑制することができ、乾燥時、湿潤時いずれの場合においても優れた力学的特性を有したナノファイバーとすることができる。
PBTに共重合する成分としては前述した成分が挙げられるが、中でも製糸工程におけるPBTの伸長変形を阻害し難い、また、耐熱性が良いという点からイソフタル酸あるいはジエチルグリコールが好ましい。特に結晶性の低下を抑制するという観点からイソフタル酸がさらに好ましい。共重合比率としては、1〜50mol%の範囲が好ましい範囲であるが、PBTの結晶性を保ちつつ、溶融粘度増加を紡糸性に影響を与えない範囲として5〜40mol%がさらに好ましい範囲である。
本発明のアロイ繊維は、前述した要件を満たすことによって、優れた力学的特性を有したナノファイバーを発生させることができるが、後述する理由からより研磨加工における特性を向上させるには繊維軸に対して垂直な断面に現れる島成分平均径が500nm以下で、かつその島成分径CV%が30%以下であることが好ましい。
島成分平均径を500nmとすることは繊維構造体として使用する際に影響し、特に、繊維構造体としてハードディスクの表面研磨加工に用いる際には前述する範囲とすることが好ましい。研磨加工に用いられる砥粒は一般に300nm以下の粒子であり、研磨特性を向上させるためにはこの砥粒の均一坦持が有効である。砥粒の坦持状態は繊維構造体を形成するナノファイバーの繊維径が影響し、より均一な坦持状態となるためには砥粒と同レベルのサイズあるいはそれ以下であることが好ましいためである。このような理由から島成分平均径は300nm以下となることがさらに好ましく、本発明の島成分平均径は縮小されたものほど良いが、細すぎるとナノファイバーの力学的特性が低下するため、10nm以上が好ましい。
研磨時の押し付け圧や砥粒の担持状態の均一性を向上させるためには、島成分径が均一であることが好ましい。本発明ではこの均一性を現す指標を島成分径CV%として示している。ここで言う島成分径CV%とは、後述する方法で求めるものであり、この値が30%以下であれば、径バラツキが小さく、局所的に粗大な島成分が存在しないことを意味する。繊維径と同様に紡糸性および後加工通過性が向上するという観点から繊維径CV%の値は小さいほど好ましいが、製造可能な範囲として1%が下限値である。言うまでもないが、島成分のポリマーの平均径および繊維径CV%をかかる範囲とすれば、本発明のアロイ繊維から得たナノファイバーも同様に優れた均質性を有したものとなる。
本発明における島成分平均径および島成分径CV%は以下のように求める。すなわち、アロイ繊維の単糸の繊維軸に対して垂直な断面を透過型電子顕微鏡(TEM)あるいは走査型電子顕微鏡(SEM)で150個以上の島成分ポリマーが観察できる倍率として撮影する。この際、必要に応じて金属染色を施し、海島のコントラストをはっきりさせることができる。2次元的に撮影された該画像から同一画像内で無作為に抽出した150個の島成分ポリマーの直径を測定した。ここで繊維軸に垂直な断面に現れる島成分ポリマーは必ずしも真円であるとは限らないが、真円で無い場合にはその面積を測定し、円換算で求められる値を採用する。また、これらの値に関しては、nm単位で小数点1桁目まで測定し、小数点以下を四捨五入するものである。本発明における島成分平均径とは島ポリマー150個のそれぞれの径を測定し、その単純な数平均値を求めるものである。
本発明の島成分径CV%とは径の測定結果を基に島成分径CV%=(σALL/RALL)×100 (%)(σALL:径の標準偏差 RALL:平均径))として算出される値であり、小数点以下は四捨五入するものである。
島成分平均径および島成分径CV%に加え、ナノファイバーの品位を向上させるためには、アロイ繊維の繊維径バラツキも低下されたものである方が良く、本発明のアロイ繊維は、繊維径(繊度)の斑を示す値であるウースターノーマルU%(U%)が3.0%以下であることが好ましい。
すなわち、本発明のアロイ繊維は、脱海してナノファイバーを発生させるものであるため、U%が低いと、アロイ繊維の長手方向あるいは単繊維毎の海成分除去率が均一となり、ナノファイバー物性も均一性が増すこととなる。
U%は1.5%以下であることがさらに好ましく、かかる範囲であれば、脱海工程だけで無く、例えば、延伸工程における変形開始点の安定性がさらに向上することになるため、糸切れが多発するなどの問題が発生することなくなる。
ここで言うウースターノーマルU%とは、ツェルベガーウースター社製ウースターテスター4−CXにより、測定速度200m/分、測定時間1分で、マルチフィラメントの場合はS撚り12000/分で撚りを入れながら測定する場合にノーマルU%として測定されるものであり、これを5回繰り返し、これらの数平均値を小数点第2位で四捨五入して得られた値を意味する。前述したようにU%の値は低いものであるほど良いが、製造可能な範囲として0.1%が下限値である。
ポリ乳酸とポリエステルのアロイポリマーは通常のポリ乳酸よりも製糸条件として選択しうる範囲が狭いため、製糸条件の設定に関しては、ポリマーの特性をよく吟味することが必要となるが、後述する製造方法の具体例により、本発明のアロイ繊維を安定して得ることができる。
本発明のアロイ繊維は、ポリ乳酸に融点130〜215℃のポリエステルが微分散したアロイポリマーを得た後、溶融紡糸することにより得ることが好ましい。アロイポリマーでない単なるチップ同士のドライブレンドによる紡糸の場合には混練不足により、島成分ポリマーの分散が不十分なものとなりやすく、アロイポリマーを得た後に溶融紡糸する方法と比較して、島成分径や島成分径CV%が大きなものになりやすいためである。
本発明のアロイ繊維を得るために用いるアロイポリマーの物性としては、融点が130〜215℃のポリエステルの平均分散径が3000nm以下に微分散しており、230℃、1216sec―1における溶融粘度を200Pa・s以下であることが目安となる。ここで言う分散径とは、アロイポリマー中に分散するポリエステルの径のことであり、平均分散径とはポリエステルの分散径の単純な数平均値のことを意味する。アロイポリマーにおけるポリエステルの平均分散径は繊維軸に対して垂直な断面に現れる島成分ポリマーの平均径にも影響するため、島成分ポリマーの繊維径を縮小されたものとするには、分散径はより縮小されたものであるほうが良いが、該繊維径を500nm以下とするには、ポリエステルの平均分散径が3000nm以下であれることが好ましい。また、アロイポリマーの溶融粘度は紡糸線の安定性向上という観点から、アロイポリマーの溶融粘度は200Pa・s以下(230℃、1216sec−1)が好ましい。
ポリ乳酸および融点130〜215℃のポリエステルの粘度、ブレンド比率、混練条件によって決定される。例えば、230℃、1216sec−1の溶融粘度が200Pa・s以下のポリ乳酸および230℃、1216sec−1の溶融粘度が300Pa・s以下の融点130〜215℃のポリエステルを用いる場合には、良好な海島構造を形成しやすくなるという点から島成分ポリマーのブレンド比率が10〜50重量%であることが好ましく、図1に示すような2軸押出混練機にて、例えば、スクリュー径37mmφ、L/D=48の場合には、混練温度220〜240℃とし、吐出量5〜50kg/時、スクリュー回転数100〜400rpmとすることでアロイポリマーを安定して得ることができる。この際、スクリュー径が37mmφより拡大する場合やL/Dが48より小さくなる場合には混練を強化するという意味合いから、スクリュー回転数を増加させるか、海成分ポリマー粘度を増加させることが良い。このようにして得られるアロイポリマーには、熱分解抑制を目的として、添加剤を使用しても良い。添加剤としては、ラジカルキャッチャーとして、市販のリン系触媒失活剤やヒンダードフェノール系酸化防止剤あるいはこれらを組み合わせた剤が好適に用いられる。そもそもポリ乳酸は前述したように熱分解しやすいポリマーであるが、混練時や紡糸時に融点以上の雰囲気下にさらされるため、酢酸、アクリル酸等の有機成分を分解ガスとして発生する場合がある。これらの有機成分は、臭気として生産環境を悪化させる可能性があり、特に大吐出量で溶融吐出する場合には、生産現場以外にも臭気を漂わせることとなり、周辺環境への影響も大きいため、これらの添加剤は混練時および紡糸時の熱劣化を抑制することに加え、作業環境の悪化抑制にも有効に作用する。前述した添加剤はアロイポリマーに対して1wt%以下で添加することによりその効果を十分に発揮するものであるが、添加量が多い場合には海成分ポリマーと島成分ポリマーの粘度バランスが崩れる場合があり、アロイポリマー中の島成分の分散径が拡大する可能性がある。よって、添加量は0.5wt%以下とすることがより好ましい範囲である。
以上のようにして得られたアロイポリマーは公知の溶融紡糸方法にて紡糸することができる。しかしながら、ポリ乳酸とポリエステルのアロイポリマーは通常のポリ乳酸よりも製糸条件として選択しうる範囲が狭く、従来の課題であった長手方向の繊維径(繊度)バラツキに大きく影響を与えていた。これは、主にアロイポリマーの紡糸では良く見られる口金から吐出された際に遅延的に(口金面から離れて)バラス(ポリマー流が膨れる現象)が発生することが要因であり、このバラス自体が変動することならびにこのバラスを起点とした細化によって細化挙動が不安定になり易く、極端な場合には製糸自体が困難となる場合もある。本発明者らは湿潤時の力学的特性に優れたポリエステルナノファイバーを得るべく、前述したポリマーの組み合わせに加え、アロイ繊維の紡糸性の向上について、更に検討を重ね、強制冷却条件を制御することで紡糸性を悪化するバラスの位置ならびに細化開始点の変動を抑制することに成功し、本発明のアロイ繊維を達成するに至った。
強制冷却条件のポイントとしては、強制冷却の開始位置をバラスが最大径となる位置(以下バラス発生位置)より下流とすることが挙げられる。これは、バラス発生要因はそもそも島成分ポリマーが口金孔内で受けたせん断の履歴が吐出後に弾性的に緩和することで重力に逆らってポリマーの溜りを形成するものであるが、バラス発生位置より下流から強制冷却を開始することで、この緩和時に発生する応力を口金からバラスまでの非常に不安定な領域で担うことや高速紡糸時などの高い紡糸張力がバラスに伝播することを抑制できることとなるためである。さらにバラス発生位置よりも上流の海成分ポリマーの粘度をより低く保つことで島成分ポリマーの緩和が十分進み、バラス発生位置において島成分ポリマーの分散状態が均一になり、変形開始点の安定性向上にも効果がある。この効果を得るには、強制冷却開始位置はバラス発生位置より1〜300mm下流であることが好ましく、海成分ポリマーの粘度を増加させ、細化開始点を固定するという観点から1〜150mmが好ましい。例えば、ポリ乳酸とイソフタル酸が7〜40mol%共重合されたPBTの組み合わせのポリマーアロイを単孔吐出量0.5〜2g/minで吐出する場合には、バラス発生位置はおおむね口金面から6〜50mmまでに存在するため、強制冷却開始位置は口金面から6〜350mm下流であることが好ましく、さらに好ましくは6〜200mm下流とすることである。ここで言う、強制冷却とは、ポリマー流冷却固化を目的とし、冷却装置(チムニー)を用い、口金から吐出されたポリマー流に対して、冷却風を吹く付けることを意味する。冷却風は一方向から吹き付ける方法でも良いが、環状チムニーなどによってポリマー流郡周囲から均等に冷却風を吹く付ける方法がポリマー流郡の冷却挙動を均一化できる点から好ましい。冷却範囲は0.1〜2.0m、冷却風速は10〜30m/分、冷却風温は10〜25℃が好適に用いられる。
また、前述した強制冷却開始位置の制御に加え、バラス位置を口金面に近づけ、より不安定領域を低下させることがバラスの位置変動抑制には効果的である。具体的には、吐出線速度の低下、すなわち吐出する際のポリマーの流速を低下させることが有効である。前述した島成分ポリマーの緩和に要する時間はおおむねポリマーにより一定であるために、吐出線速度がその発生位置に大きく影響を与える。このため、吐出線速度をより低くすることによりバラス位置は口金面に近づく。吐出線速度は吐出量と口金孔径により決定されるため、吐出量にもよるが、本発明のアロイ繊維を製造するには、口金の吐出孔径は0.5mmφ以上とすることが好ましい。この際、吐出孔径を拡大すると、口金背面圧が不足し、ポリマーの分配ムラが発生する場合があるが、例えば、図3に示すような吐出孔径の上部に計量孔を具備するような口金を使用すれば問題なく安定した吐出が可能となる。例えば、ポリ乳酸とイソフタル酸が7〜40mol%共重合されたPBTの組み合わせのポリマーアロイを単孔吐出量0.5g/min以上で吐出する場合には、吐出孔径は0.6〜3.0mmφ、計量孔径は0.4〜0.6mmφとすれば良く、更に好ましくは吐出孔径0.8〜3.0mmφ、計量孔が0.4〜0.6mmφとすることである。
紡糸温度については、前述した理由からアロイポリマーを構成するポリマーのうちで最も高い融点を有したポリマーの融点+25℃程度とすることが好ましく、本発明のアロイ繊維を得るには195〜240℃が好ましい範囲である。
紡糸速度については、紡糸張力の増加に伴うバラス位置の変動を抑制するという観点から、200〜6000m/分の範囲とすることが好ましい。
本発明のアロイ繊維は細繊度化および力学的特性を向上させる目的で溶融紡糸により巻き取った後、あるいは紡糸に連続して、公知の一対以上の加熱ローラを有した延伸装置(例えば図4に示す延伸装置)によって延伸を施すこともできる。延伸温度および熱処理温度としては、ポリ乳酸が劣化しない温度とすることが好ましく、具体的には延伸温度は60〜100℃、熱処理温度としては100〜150℃とすることが好ましい。延伸倍率は未延伸糸の伸度を目安として変更する必要があり、アロイ繊維の取り扱い性および後工程での工程通過性を考えれば、延伸糸の伸度が10〜50%となるように延伸倍率を設定することが好ましい。
その断面形状は、丸断面、中空断面、三葉断面等の多葉断面、その他の異形断面についても自由に選択することが可能である。また、繊維の形態は長繊維、短繊維などのいずれにも対応可能であり、長繊維の場合にはマルチフィラメントでもモノフィラメントでも良い。
本発明のアロイ繊維あるいはその繊維構造体からナノファイバーを得るためには、海成分ポリマーがポリ乳酸であるためにアルカリ水溶液にて海成分ポリマーを除去すればよく、取扱い性を考えれば水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。処理方法としては、繊維のままあるいは繊維構造体とした後、水酸化ナトリウム水溶液に浸漬させればよい。脱海処理速度は水酸化ナトリウム水溶液の濃度と温度によって変化し、ポリマーアロイの組み合わせ、アロイ繊維の繊度および工程通過時間等により調整することが好ましいが、濃度が過剰に高すぎると島成分ポリマーまで不必要に劣化させる可能性があるため、濃度は1〜10重量%であることが好ましく、この時、水酸化ナトリウム水溶液を50〜100℃に加熱すること好ましい。かかる範囲とした水酸化ナトリウム水溶液にて10〜60分間処理すれば、海成分ポリマーは99%以上除去することができ、良好なポリエステルナノファイバーを得ることができる。また、この脱海処理には、公知の流体染色機などを利用すれば、一度に大量に処理をおこなうことができるため、生産性もよく、工業的な観点から好ましいことである。
本発明のアロイ繊維から得られるポリエステルナノファイバーは湿潤時の力学的特性が非常に優れたものであるが、脱海処理時等の湿潤時での高張力による過度の変形、裂け、切れなどによる工程通過性が悪化や研磨加工時での伸び等の問題を抑制するためには、乾燥時および湿潤時、いずれの場合でも強度1.5〜5.0cN/dtexであることが好ましく、また、後工程中の擦過などもおこるためナノファイバーの乾燥時および湿潤時いずれの場合においても伸度は10〜50%であることが好ましい。
本発明における繊維構造体とは織物、編物、スパンボンド、メルトブロー、スパンレース等の不織布の他、カップやボード等の熱圧縮成型体の様々な繊維製品のことを意味し、
本発明のアロイ繊維は、そのいかなるの形態を採ることができる。
研磨加工に用いる際にはアロイ繊維の状態で一旦不職布あるは織布とし、それを前述した脱海処理することにより、ポリエステルナノファイバーよりなる繊維構造体とする。これをテープ状にカットするなどして、研磨加工に用いる。必要があれば高分子弾性体などを含浸させることで、人工皮革とし、補強を行うとともに、硬さ調整を行い、これをテープ上にカットして用いる場合もある。また、テープ状だけではなく、パット状に仕上げ、半導体研磨やガラス研磨に用いることもできる。
本発明のアロイ繊維の製造方法に関して、その繊維径バラツキを均一にするポイントとしては、紡糸性を不安定化させる遅延的に発生するバラス位置の変動を如何に抑制するかにあるが、本発明者らはこれに関して鋭意検討した結果、強制冷却条件を前述したように制御することにより、紡糸性を悪化するバラスの位置ならびに細化開始点の変動を抑制することを見出し、さらに口金の計量孔径および吐出孔径を前述したように調整することにより、バラス位置が口金面に近づけることとの相乗効果で、本発明の繊維径(繊度)バラツキの小さいアロイ繊維を達成するに至った。この様にして得られた本発明のアロイ繊維は繊維径バラツキが抑制されたものとなるため、そこから得られるナノファイバーは、湿潤時の力学的特性に優れだけでなく、長手方向あるいは単繊維毎の脱海処理が均一に処理されるため、その特性はより優れたものとなり、湿潤状態で使用する、特に研磨加工に用いることでその効果を発揮するものである。
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また実施例で用いた評価法とその測定条件について以下に説明する。
(1)ポリマーの溶融粘度
東洋精機製キャピログラフ1Bにより、所望の速度でポリマーの溶融粘度を測定した。なお、サンプル投入から測定開始までのポリマーの貯留時間は4分とし、窒素雰囲気下で測定を行った。
(2)融点
TA Instruments社製DSC2920 Modulated DSCを用いて、2nd runでポリマーの融解を示すピークトップ温度をポリマーの融点とした。この時の昇温速度は16℃/分、サンプル量は10mgとした。
(3)アロイポリマー中のポリエステルの平均分散径
ペレット状のアロイポリマーを水酸化ナトリウム3重量%水溶液(60℃ 浴比1:100)にて海成分ポリマーを溶解除去し、水洗後(株)キーエンス社製 VE−7800型SEMでポリエステルの粒子が500個以上観察できる倍率で撮影し、この写真から露出したポリエステルを画像処理ソフト(WINROOF)を用いて円あるいは楕円として500個の平均直径を求めるものであり、これを3ヶ所以上で行い、少なくとも合計1500個以上の難溶解性ポリマーの分散径を測定することにより求めた。各島成分ポリマーの直径はnm単位で小数点1桁まで測定し、小数点以下を四捨五入する。その分散径から単純な数平均値を求めた。なお、測定には5000倍の写真を用いた。
(4)島成分平均径および島成分径CV%
アロイ繊維の超薄切片を切り出し、単繊維の繊維軸に対して垂直な断面を日立社製H−7100FA型透過型電子顕微鏡(TEM)で150個以上の島成分ポリマーが観察できる倍率として撮影する。この際、必要に応じて四酸化ルテニウム染色を施し、繊維のコントラストをはっきりさせた。2次元的に撮影された該画像から同一画像内で無作為に抽出した150個の島成分ポリマーの直径を測定した。ここで繊維軸に垂直な断面に現れる島成分ポリマーは必ずしも真円であるとは限らないが、真円で無い場合にはその面積を測定し、円換算で求められる値を採用した。また、これらの値に関しては、nm単位で小数点1桁目まで測定し、小数点以下を四捨五入することで求めた。また、150個それぞれの径を測定し、その単純な数平均値を島成分平均径として求めた。
島成分径CV%は径の測定結果を基に島成分径CV%=(σALL/RALL)×100 (%)(σALL:径の標準偏差 RALL:平均径))として算出し、小数点以下は四捨五入することで求めた。なお、測定には50000倍の写真を用いた。
(5)繊度
株式会社大栄科学精機製検尺機(HD−3)によって100mの小綛とし、その重量を100倍することにより繊度(dtex)を算出、これを5回繰り返し、その数平均値をそのサンプルの総繊度とした。総繊度をフィラメント数で除することにより、単糸繊度を算出した。これらの値は全て小数点第2位を四捨五入した。
(6)繊維のウースターノーマルU%(U%)
ツェルベガーウースター社製ウースターテスター4−CXにより、測定速度200m/分、測定時間1分で、マルチフィラメントの場合はS撚り12000/分で撚りを入れながらノーマルU%を測定した。これを5回繰り返し、これらの数平均値をそのサンプルのU%とした。
(7)ナノファイバーの力学的特性(強度、伸度、湿潤強度保持率)
アロイ繊維を丸編みとし、水酸化ナトリウム1重量%水溶液(80℃ 浴比1:100)に浸漬することで海成分ポリマーを99%以上溶解除去した後、編みを解くことでナノファイバー束を抜き出し、この1mの重量を測定し、10000倍することで繊度を算出した。これを10回繰り返し、その算術数平均をナノファイバー束の繊度とした。オリエンテック社製引張試験機 テンシロン UCT−100型を用い、試料長20cm、引張速度100%/分条件で応力−歪曲線を測定する。破断時の荷重を読みとり、その荷重を初期繊度で除することで破断強度を算出する。また、破断時の歪を読みとり、試料長で除した値を100倍することで、破断伸度を算出する。これを5回以上繰り返し、得られた結果の単純な数平均を求めることで平均強度および平均伸度とした。また、ナノファイバー束を30分間水に浸漬した後、乾燥することなく前述した方法でナノファイバー束の湿潤時の強度および伸度を測定し、下記式に従い湿潤時の強度保持率を測定した。(25℃ 70%RH環境下に取り出し、1分以内に測定。)
(湿潤時の強度保持率)=(湿潤強度)/(強度)×100 (%)
(8)シート状物の研磨特性(HD基板表面粗さ)
JIS B0601(2001年度版)に準拠して、シュミットメジャーメントシステム社(Schmitt Measurement Systems,Inc)製TMS−2000表面粗さ測定器を用いて、研磨加工後のディスク基板サンプル表面の任意の10カ所について平均粗さを測定し、10カ所の測定値を平均することにより基板表面粗さを算出した。数値が低いほど研磨特性が高いことを示す。
(9)スクラッチ点数
研磨加工後の基板5枚の両面、すなわち計10表面の全領域を測定対象として、Candela5100光学表面分析計を用いて、深さ3nm以上の溝をスクラッチとし、スクラッチ点数を測定し、10表面の測定値の平均値で評価した。数値が低いほど高性能であることを示す。
実施例1
溶融粘度67Pa・s(230℃、1216sec−1)、融点170℃のPLAと溶融粘度177Pa・s(230℃、1216sec−1)、融点210℃のイソフタル酸が10mol%共重合されたPBT(PBT−I 10mol%)を、PLAの混練比率が70重量%、PBT−Iの混練比率が30重量%となるように独立で計量して混合し、混練温度240℃、スクリュー回転数400rpm、吐出量15kg/時に設定した2軸混練機(図1 スクリュー径:37mmφ L/D:48)にて混練し、アロイポリマーを得た。このアロイポリマーの溶融粘度は79Pa・s(230℃、1216sec―1)であり、PBT−Iの平均分散径は1560nmであった。
このアロイポリマーを用い、図2に示す溶融紡糸装置を用いて、紡糸温度235℃として単孔吐出量0.83g/分・hole口金から溶融吐出した。この口金は図3に示すような吐出孔より上流側に計量孔を有したものであり、計量部孔径0.4mmφ(L/D=2.0)、吐出孔径1.0mm(L/D=2.5)の孔を有した紡糸用口金である。この時バラス発生位置は口金面から6mm下流に確認することができたため、環状チムニーを用い、口金から30mm下流から冷却範囲1.0m、冷却風速20m/分、冷却風温20℃の条件でポリマー流郡の周囲から冷却風を均等に吹き付けることで強制冷却し、紡糸速度1350m/分で巻き取った。得られた未延伸糸を引き続き、図4に示す延伸機にて第1ローラ温度84℃、第2ローラ温度135℃、延伸倍率2.2倍で延伸した。延伸中の糸切れもなく、延伸性は良好であった。
得られたアロイ繊維の単糸繊度2.8dtex、強度2.5cN/dtex、伸度41%、U%は0.9%であった。従来にはない繊維径バラツキが抑制されたアロイ繊維を得ることができた。また、アロイ繊維の繊維軸に対して垂直な断面に現れる島成分ポリマーの島成分平均径は100nmであり、島成分径CV%は15%であり、島成分ポリマーに関しても、繊維径が縮小されており、繊維径CV%の値に示されるようにアロイ繊維の横断面には拡大された島成分ポリマーは観察されず、非常に繊維径バラツキが小さいものであった。
引き続き、得られたアロイ繊維を丸編みした後、80℃に加熱した水酸化ナトリウム1重量%水溶液に60分間浸漬し、海成分ポリマーであるポリ乳酸を99%溶解除去して、ナノファイバーを得た。ナノファイバーの乾燥時と湿潤時の力学的特性を測定したところ、ナノファイバーの平均強度は2.5cN/dtexであり、かつ湿潤時の強度保持率は99%と湿潤時においても優れた力学的特性を有するナノファイバーを得ることができた。
実施例2
紡糸速度を3000m/分とし、引き続き、延伸倍率を1.2倍として延伸を行ったこと以外は全て実施例1に従い実施した。
得られたアロイ繊維は単糸繊度2.3dtex、強度1.6cN/dtex、伸度77%、U%は1.3%であり、紡糸速度が高速化した場合でも繊維径バラツキが抑制されたアロイ繊維が得られることがわかった。また、アロイ繊維の繊維軸に対して垂直な断面に現れる島成分ポリマーの繊維径は98nmであり、繊維径CV%は15%であり、実施例1の場合と同様、島成分ポリマーの繊維径は縮小されており、かつ繊維径バラツキが非常に小さいものであった。
引き続き、実施例1と同様にナノファイバーを発生させ、その力学的特性を測定したところ、ナノファイバーの平均強度は2.3cN/dtexであり、湿潤時強度保持率は99%と湿潤時でも優れた力学的特性を有するものであった。
実施例3
PLAの混練比率を60重量%、PBT−I 10molの混練比率を40重量%とし、混練を行ったこと以外は全て実施例1記載の方法に従い実施した。ちなみにバラス発生位置は口金面から10mm下流に確認することができた。
得られたアロイポリマーの溶融粘度は85Pa・s(230℃、1216sec―1)であり、PBT−Iの平均分散径は1963nmであり、このポリマーを用いて得たアロイ繊維は単糸繊度2.8dtex、強度3.5cN/dtex、伸度40%、U%は0.9%であった。また、アロイ繊維の繊維軸に対して垂直な断面に現れる島成分ポリマーの繊維径は150nmであり、繊維径CV%は17%であった。
引き続き、水酸化ナトリウム1重量%水溶液への浸漬時間を65分としたこと以外は実施例1と同様に実施し、ナノファイバーを発生させ、その力学的特性を測定したところ、ナノファイバーの平均強度は2.3cN/dtexであり、湿潤時強度保持率は99%と湿潤時でも優れた力学的特性を有するものであった。
実施例4
アロイポリマーとして、実施例3で得られたアロイポリマーを用いたこと以外は全て実施例2に従い実施した。
得られたアロイ繊維は単糸繊度2.3dtex、強度2.2cN/dtex、伸度73%、U%は1.3%であり、紡糸速度が高速化した場合でも繊維径バラツキが抑制されたアロイ繊維が得られることがわかった。また、アロイ繊維の繊維軸に対して垂直な断面に現れる島成分ポリマーの繊維径は142nmであり、繊維径CV%は21%であり、実施例1の場合と同様、島成分ポリマーの繊維径は縮小されており、かつ繊維径バラツキが非常に小さいものであった。
引き続き、実施例3と同様にナノファイバーを発生させ、その力学的特性を測定したところ、ナノファイバーの平均強度は2.0cN/dtexであり、湿潤時強度保持率は98%と湿潤時でも優れた力学的特性を有するものであった。
実施例5
PLAの混練比率を50重量%、PBT−I 10molの混練比率を50重量%とし、混練を行ったこと以外は全て実施例1記載の方法に従い実施した。ちなみにバラス発生位置は口金面から5mm下流に確認することができた。
得られたアロイポリマーの溶融粘度は91Pa・s(230℃、1216sec―1)であり、PBT−Iの平均分散径は2365nmであり、このポリマーを用いて得たアロイ繊維は単糸繊度2.8dtex、強度4.4cN/dtex、伸度40%、U%は1.4%であった。また、アロイ繊維の繊維軸に対して垂直な断面に現れる島成分ポリマーの繊維径は210nmであり、繊維径CV%は27%であった。
引き続き、水酸化ナトリウム1重量%水溶液への浸漬時間を55分としたこと以外は実施例1と同様に実施し、ナノファイバーを発生させ、その力学的特性を測定したところ、ナノファイバーの平均強度は1.8cN/dtexであり、湿潤時強度保持率は98%と湿潤時でも優れた力学的特性を有するものであった。
実施例6
PLAの混練比率を90重量%、PBT−I 10molの混練比率を10重量%とし、混練を行ったこと以外は全て実施例1記載の方法に従い実施した。ちなみにバラス発生位置は口金面から5mm下流に確認することができた。
得られたアロイポリマーの溶融粘度は71Pa・s(230℃、1216sec―1)であり、PBT−Iの平均分散径は1056nmであり、このポリマーを用いて得たアロイ繊維は単糸繊度2.8dtex、強度1.4cN/dtex、伸度40%、U%は0.6%であった。また、アロイ繊維の繊維軸に対して垂直な断面に現れる島成分ポリマーの繊維径は90nmであり、繊維径CV%は15%であった。
引き続き、水酸化ナトリウム1重量%水溶液への浸漬時間を90分としたこと以外は実施例1と同様に実施し、ナノファイバーを発生させ、その力学的特性を測定したところ、ナノファイバーの平均強度は1.7cN/dtexであり、湿潤時強度保持率は98%と湿潤時でも優れた力学的特性を有するものであった。
実施例7
アロイポリマーを得るに際にヒンダードフェノール系酸化防止剤(IRGAMOD295:チバ・ケミカル・スペシャリティ株式会社)をアロイポリマー重量に対し0.5重量%計量し、ポリ乳酸にドライブレンドすることによって添加したこと以外は全て実施例1に従い実施した。ちなみにバラス発生位置は口金面から7mm下流に存在していた。
得られたアロイポリマーの溶融粘度は84Pa・s(230℃ 1216sec−1)、PBT−I 10mol%の平均分散径は1764nmであり、このアロイポリマーを用いて、得たアロイ繊維は単糸繊度2.8dtex、強度2.4cN/dtex、伸度40%、U%は1.1%であった。また、アロイ繊維の繊維軸に対して垂直な断面に現れる島成分ポリマーの繊維径は120nmであり、繊維径CV%は20%であった。紡糸性およびアロイ繊維物性に対する添加剤の影響はほとんどなかった。また、混練時および紡糸時にはポリマーの熱分解にともなうガス発生は抑制され、熱線型半導体式ニオイセンサー(理学計器株式会社製 OD−85)によって口金面直下の臭気を測定したところ、IRGAMOD295添加なし(実施例1)と比較して30%表示値が低下し、臭気はほとんど感じられなかった。
引き続き、実施例1と同様にナノファイバーを発生させ、その力学的特性を測定したところ、ナノファイバーの平均強度は2.0cN/dtexであり、湿潤時強度保持率は98%と湿潤時でも優れた力学的特性を有するものであった。
実施例8
溶融粘度187Pa・s(230℃ 1216sec−1)、融点195℃であるイソフタル酸が35mol%共重合されたPBT(PBT−I 35mol%)を島成分ポリマーとして用い、バラス発生位置が15mm下流に確認することができたため、強制冷却開始位置は35mmとしたこと以外は全て実施例1に従い実施した。
PBT−I 35mol%のアロイポリマーの溶融粘度は90Pa・s(230℃ 1216sec−1)、PBT−I 35mol%の平均分散径は1826nmであり、このポリマーを用いて得たアロイ繊維は単糸繊度2.8dtex、強度2.4cN/dtex、伸度29%、U%は2.0%であった。また、アロイ繊維の繊維軸に対して垂直な断面に現れる島成分ポリマーの繊維径は120nmであり、繊維径CV%は20%であった。
引き続き、実施例1と同様にナノファイバーを発生させ、その力学的特性を測定したところ、ナノファイバーの平均強度は1.8cN/dtexであり、湿潤時強度保持率は98%と湿潤時でも優れた力学的特性を有するものであった。
実施例9
島成分ポリマーとして溶融粘度167Pa・s(230℃、1216sec−1)、融点210℃のジエチルグリコールが10mol%共重合されたPBT(PBT−G 10mol%)を用い、バラス発生位置が15mmに確認することができたため、強制冷却開始位置は35mmとしたこと以外は全て実施例1記載の方法で従い実施した。
得られたアロイポリマーの溶融粘度は71Pa・s(230℃ 1216sec−1)でありPBT−G 10mol%の平均分散径は1476nmであり、このポリマーを用いて得たアロイ繊維は単糸繊度2.8dtex、強度2.0cN/dtex、伸度33%、U%は1.4%であった。また、アロイ繊維の繊維軸に対して垂直な断面に現れる島成分ポリマーの繊維径は98nmであり、繊維径CV%は30%であった。
引き続き、実施例1と同様にナノファイバーを発生させ、その力学的特性を測定したところ、ナノファイバーの平均強度は1.7cN/dtexであり、湿潤時強度保持率は98%と湿潤時でも優れた力学的特性を有するものであった。
実施例10
溶融粘度137Pa・s(230℃ 1216sec−1)、融点170℃であるPLAを海成分ポリマーとして用いたこと以外は全て実施例1に従い実施した。ちなみにバラス発生位置は口金面から10mm下流に確認することができた。
得られたアロイポリマーの溶融粘度は155Pa・s(230℃ 1216sec−1)でありPBT−I 10mol%の平均分散径は1378nmであり、このポリマーを用いて得たアロイ繊維は単糸繊度2.8dtex、強度4.6cN/dtex、伸度30%、U%は2.2%であった。また、アロイ繊維の繊維軸に対して垂直な断面に現れる島成分ポリマーの繊維径は93nmであり、繊維径CV%は20%であった。
引き続き、実施例1と同様にナノファイバーを発生させ、その力学的特性を測定したところ、ナノファイバーの平均強度は2.5cN/dtexであり、湿潤時強度保持率は98%と湿潤時でも優れた力学的特性を有するものであった。
比較例1
溶融粘度180Pa・s(260℃、1216sec−1)、融点225℃のポリトリメチレンテレフタレート(PTT)を島成分ポリマーとして用い、PTT含有量を20重量%、PLAの含有量を80重量%とし、実施例1記載の方法に従いアロイポリマーを得た。
得られたアロイポリマーの溶融粘度は150Pa・s(260℃ 1216sec−1)、PTTの平均分散径は600nmであり、このアロイポリマーを用いて紡糸温度を250℃として以外は全て実施例1記載の方法で溶融紡糸を行った。バラス発生位置は口金面から10mm下流に確認することができた。引き続き実施例1と同様に2.2倍延伸を行おうとしたが、第1ローラと第2ローラ間で糸切れが多発し、安定してアロイ繊維を得ることが困難であった。このため、延伸倍率を段階的に下げていったところ、延伸倍率を1.8倍としたところで、比較的安定してサンプリングが可能であったため、この条件でアロイ繊維を得た。
得られたアロイ繊維は単糸繊度3.3dtex、強度1.6cN/dtex、伸度25%、U%は2.7%であり、アロイの伸度が低いうえに繊維径バラツキが大きいものであった。また、アロイ繊維の繊維軸に対して垂直な断面に現れる島成分ポリマーの繊維径は120nmであり、繊維径CV%は45%であり、島成分ポリマーの繊維径は比較的縮小されたものであったが、バラツキが大きいものであった。
引き続き、水酸化ナトリウム1重量%水溶液への浸漬時間を65分としたこと以外は実施例1と同様に実施し、ナノファイバーを発生させ、その力学的特性を測定したところ、ナノファイバーの平均強度は1.0cN/dtexであり、湿潤時強度保持率は98%と湿潤時の強度保持率は優れるものの、本発明と比較して、乾燥時および湿潤時のナノファイバーの力学的特性は低いものであった。
比較例2
溶融粘度190Pa・s(230℃ 1216sec−1)、融点228℃であるナイロン6(N6)を島成分ポリマーとして用い、PLAの混練比率を60重量%、N6の混練比率を40重量%とし、温度220℃に設定した2軸押出混練機にて、スクリュー回転数300rpmとしてアロイポリマーを得て、上部に計量孔を有しない吐出孔径0.3mmφ(L/D=2.5)の口金を用いたこと以外は全て実施例1(紡糸温度235℃)に従い実施した。
このアロイポリマーの溶融粘度は92Pa・s(230℃ 1216sec−1)、N6の平均分散径は600nmであり、このポリマーを用いて得たアロイ繊維は単糸繊度2.8dtex、強度2.9cN/dtex、伸度15%、U%は1.0%であった。また、アロイ繊維の繊維軸に対して垂直な断面に現れる島成分ポリマーの繊維径は100nmであり、繊維径CV%は22%であり、島成分ポリマーの繊維径は比較的縮小されたものであった。
引き続き、実施例3と同様にナノファイバーを発生させ、その力学的特性を測定したところ、ナノファイバーの平均強度は2.5cN/dtexであり、優れたものであったが、湿潤時強度保持率は20%と極めて低いものであり、本発明と比較して、湿潤時の力学的特性が大幅に低下するものであった。
本発明のアロイ繊維は融点が130〜215℃のポリエステルを用いているため、紡糸温度を245℃以下としても、PLAの熱劣化を抑制することができるため、ポリマー流動が安定する。更には紡糸時に口金孔径を拡大することにより、ポリマーアロイの紡糸を困難にする口金直下で遅延的に発生するバラスの位置変動を抑制し、初めてU%が低いアロイ繊維を得ることができる。一方、比較例の場合には融点225℃以上のポリエステルを用いているため、紡糸温度を250℃以上にすることを余儀なくされ、ポリマーを溶融吐出するまでにポリ乳酸の熱劣化が進行し、ポリマー流動の不安定性に伴い、U%が増加するばかりか、海成分ポリマーの粘度低下から、海成分ポリマーと島成分ポリマーの粘度比が大きくなり、紡糸線上で海成分ポリマーの伸長が促進されず、得られたアロイ繊維の横断面方向に現れる島成分平均径は拡大されたものであり、かつ島成分径CV%も大きいものとなる。また、比較例1に示すように、仮に本発明のように吐出孔径を拡大し、バラスの位置変動を抑制したとしてもポリマー流動の不安定性からくるU%の増加を抑制できないことは明らかである。
本発明のアロイ繊維はU%は低いためにアロイ繊維の長手方向あるいは単繊維毎の海成分ポリマーの除去率が均一となる。このため、過剰に島成分ポリマーをアルカリ水溶液で溶かすことがない。また、島成分径が均質であり、かつ縮小されたものであるため、ナノファイバー間の接触面積が大きく、それらの束は非常に優れた力学的特性を有している。また、湿潤時においてもこの特性は失われず、強度保持率においてはいずれも98%以上であり、仮に液流染色機を用いて脱海処理を行うような過酷な条件下においても、伸び、裂け、破れ等が起こりにくい。一方、比較例2においてはN6によるものであり、吸水性が大きいため、乾燥時には比較的優れた力学的特性を有するものの、湿潤時の強度保持率は20%と、大きく低下する。このため、前述した脱海処理時に条件を制約することになったり、ナノファイバーが脱落するなど、生産性にも大きく影響を与えることとなる。また、比較例1についてはポリエステルによるものであるため、確かに湿潤時の強度保持率は高い値を示すが、もともとの力学的特性が低いため、比較的マイルドな条件で脱海処理を行うことを強いられることとなる。
実施例11
実施例1で得られたアロイ繊維に捲縮を付与してカットし、繊維長51mmの原綿をし、この原綿を用いて、カード、クロスラッパー工程を経て積層ウェブを形成し、ついでこの積層ウェブに100本/cm2のニードルパンチを行い、不織布ウェブを得て、引き続きロール間クリアランス2mmに設定した圧縮ロールで、密度0.35g/cm3となるまで圧縮し、上下から針のバーブ方向を垂直にして1500本/cm2の針本数でニードルパンチし、目付650g/m2、密度0.23g/cm3の不織布を作製した。
次いで、ポリウレタン(重量平均分子量200,000)を繊維重量に対し、30重量%含浸させ、水中でポリウレタンを凝固した後、このシート状物表面をJIS#180番のサンドペーパーにて研削し、アロイ繊維からなる立毛を形成させた。
最後に、液流染色機中で80℃の水酸化ナトリウム2重量%水溶液にて揉み処理を行いつつ、40分処理し、乾燥させることで、海成分であるPLAを溶出させ、PBT−Iからなるナノファイバーを発生させた。シート状物にはナノファイバーが分散して立毛しており、また、このシート状物には布破れ等はなく、研磨加工に適したシート状物を得られていた。
また、処理後の水酸化ナトリウム水溶液を調べたが、脱落しているナノファイバーはほとんどなかった。
実施例12
実施例1で得られたアロイポリマーをスパンボンド法により、紡糸温度240℃で口金孔より紡出した後、エジェクターにより紡糸速度3500m/minで紡糸し、移動するネットコンベアー上に捕集し、圧着率16%のエンボスロールで、温度80℃、線圧20kg/cmの条件で熱圧着し、単繊維繊度2.0dtex、目付150g/m2の長繊維不織布を得た。この不職布からアロイ繊維を引き抜き、アロイ繊維横断面に存在する島成分ポリマーの繊維径を測定したところ、繊維径は150nmであり、繊維径CV%は30%であった。
引き続きこの不織布を油剤(SM7060:東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製)を繊維重量に対し2重量%付与し、4枚積層し、バーブ数1、バーブ深さ0.06mmのニードルを用いて、ニードルパンチを2000本/cm2施すことで、目付600g/m2とし、繊維重量に対して固形分で30重量%のポリウレタンを付与した後、JIS#180番のサンドペーパーにて研削し、アロイ繊維からなる立毛を形成させた。引き続き、液流染色機中で80℃の水酸化ナトリウム2重量%水溶液にて揉み処理を行いつつ、40分処理し、乾燥させることで、PBT−Iからなるナノファイバーを発生させた。シート状物にはナノファイバーが分散して立毛しており、また、このシート状物には布破れ等はなく、研磨加工に適したシート状物を得られていた。
また、処理後の水酸化ナトリウム水溶液を調べたが、脱落しているナノファイバーはほとんどなかった。
実施例13
実施例1で得られたアロイ繊維を用い、これとは別に用意した熱収縮率18%の高収縮PET(33dtex、6フィラメント)とエア混繊した。この混繊糸を経糸および緯糸
に用いて平織りを作製した後、130℃の熱水で30分間処理し、PLAを脆化させ、その後80℃の4%水酸ナトリウム水溶液にて30分間処理し、乾燥させることで、海成分であるPLAを溶出させた。高収縮PETが大きく収縮することでPLA除去に伴う空隙は埋めた織物となっていた。この織物にウォータジェットパンチング処理を行うことによって物理的刺激を与え、PBT−Iナノファイバーが表面に分散した織物を得た。この織物では表面にナノファイバーが分散して存在することで、非常に滑らかな表面形状を有しており、研磨加工に適した織物が得られていた。
比較例3
比較例1で得られたアロイ繊維を用いたこと以外は全て実施例11に従い実施した。
揉み処理を行いつつ、PLAを溶出させることで、N6からなるナノファイバーを発生させたところ、シート状物表面にはN6からなるナノファイバーが分散したものが得られていたものの、所々に布破れが見られ、かつ、処理後の水酸化ナトリウム水溶液中にはナノファイバーの脱落が多量に見られた。
比較例4
比較例2で得られたアロイ繊維を用いたこと以外は全て実施例11に従い実施した。
揉み処理を行いつつ、PLAを溶出させることで、PBTからなるナノファイバーを発生させたところ、シート状物表面にはPBTからなるナノファイバーが分散しているものの、繊維径バラツキが大きいために、所々で繊維径の大きいものに小さいものが絡みつくよう立毛する凝集が見られた。布破れは目立たないものの、処理後の水酸化ナトリウム水溶液中にはナノファイバーの脱落が確認された。
実施例11〜13および比較例3,4により得られたシート状物を40mm幅のテープとし、アルミニウム基板にNi−Pメッキ処理した後、ポリッシング加工し平均表面粗さ0.2nmに制御したディスクを用い、シート状物表面に1次粒子径1〜10nmのダイヤモンド結晶からなる遊離砥粒スラリーを滴下し、テープ走行速度を5cm/分、荷重2.0kgfの条件で20秒間研磨を実施した。
本発明のアロイ繊維により得られたシート状物については、研磨加工時の伸びもなく、かつ、ディスクの研磨面は、表面粗さが0.2nm以下、スクラッチ点数は30以下であり、非常に優れた研磨特性を示した。
一方、N6からなるナノファイバーの場合(比較例8)には部分的には表面粗さ0.2nm以下の部分も存在するが、研磨加工時に付与する荷重によってシート状物が伸び、部分的に破れることで応力にムラができ、また、摩擦によってナノファイバーが脱落し、そこに残渣が堆積することによりスクラッチが多数発生する部分が存在する等、研磨面全体ではムラの多いものであった。
また、本発明以外のポリエステルナノファイバー(比較例9〜11)においては、繊維径が十分に縮小されてなかったり、所々に凝集したナノファイバーが存在する等によって、表面粗さは0.5nm以上と本発明と比較して大きく、N6同様に摩擦によるナノファイバーの脱落が確認された。
実施例14
環状チムニーを冷却風が一方向から吹き付けるタイプのチムニーとし、冷却風速を25m/分として強制冷却を行ったこと以外は全て実施例1記載の方法に従い実施した。
得られたアロイ繊維の単糸繊度2.8dtex、強度2.5cN/dtex、伸度35%、U%は1.1%であり、実施例1と比較してU%が若干増加するものの、全く問題のないアロイ繊維が得られた。アロイ繊維の繊維軸に対して垂直な断面に現れる島成分ポリマーの島成分平均径は100nmであり、島成分径CV%は19%であり、島成分ポリマーに関しても、繊維径が縮小されており、実施例1同様に非常に繊維径バラツキが小さいものであった。引き続き、実施例1と同様にナノファイバーを発生させ、その力学的特性を測定したところ、ナノファイバーの平均強度は2.3cN/dtexであり、湿潤時強度保持率は99%と湿潤時でも優れた力学的特性を有するものであった。
実施例15
実施例3で得られたアロイポリマーを用いたこと以外は全て実施例14記載の方法に従い実施した。
得られたアロイ繊維は単糸繊度2.8dtex、強度3.2cN/dtex、伸度34%、U%は1.2%であり、実施例3と比較してU%が若干増加するものの、全く問題のないアロイ繊維が得られた。また、アロイ繊維の繊維軸に対して垂直な断面に現れる島成分ポリマーの繊維径は150nmであり、繊維径CV%は20%であった。
引き続き、実施例1と同様にナノファイバーを発生させ、その力学的特性を測定したところ、ナノファイバーの平均強度は2.1cN/dtexであり、湿潤時強度保持率は99%と湿潤時でも優れた力学的特性を有するものであった。
実施例16
溶融粘度150Pa・s(260℃、1216sec−1)、融点215℃のイソフタル酸が10mol%共重合されたPTT(PTT 10mol%)を島成分ポリマーとして用い、PTT 10mol%含有量を30重量%、PLAの含有量を70重量%としたこと以外は全て実施例1記載の方法に従い実施した。
得られたアロイポリマーの溶融粘度は73Pa・s(260℃ 1216sec−1)、PTTの平均分散径は812nmであり、バラス発生位置は口金面から10mm下流に確認することができた。
得られたアロイ繊維は単糸繊度2.8dtex、強度1.8cN/dtex、伸度25%、U%は1.5%であった。また、アロイ繊維の繊維軸に対して垂直な断面に現れる島成分ポリマーの繊維径は120nmであり、繊維径CV%は25%であり、島成分ポリマーの繊維径は比較的縮小されたものであり、バラツキも問題ないものであった。
引き続き、実施例1と同様にナノファイバーを発生させ、その力学的特性を測定したところ、ナノファイバーの平均強度は1.9cN/dtexであり、湿潤時強度保持率は98%と湿潤時の強度保持率は優れるものであった。
実施例17
溶融粘度44Pa・s(160℃、1216sec−1)、融点149℃のポリへキセンテレフタレートを島成分ポリマーとし、混練温度を190℃とし、紡糸温度195℃としたこと以外は全て実施例1記載の方法に従い、未延伸糸を得た。得られたアロイポリマーの溶融粘度は75Pa・s(200℃ 1216sec−1)、ポリペンテンテレフタレートの平均分散径は600nmであった。得られた未延伸糸を引き続き、図4に示す延伸機にて第1ローラ温度70℃、第2ローラ温度120℃、延伸倍率2.2倍で延伸した。延伸中の糸切れもなく、延伸性は良好であった。
得られたアロイ繊維は単糸繊度2.8dtex、強度2.5cN/dtex、伸度40%、U%は1.0%であった。また、アロイ繊維の繊維軸に対して垂直な断面に現れる島成分ポリマーの繊維径は220nmであり、繊維径CV%は25%であり、島成分ポリマーの繊維径は比較的縮小されたものであり、バラツキも問題ないものであった。
引き続き、実施例1と同様にナノファイバーを発生させ、その力学的特性を測定したところ、ナノファイバーの平均強度は1.3cN/dtexであり、湿潤時強度保持率は98%と湿潤時の強度保持率は優れるものであった。