ところで、例えば、高級な牛皮を用いた皮革製品にあっては、その素材(部材)の品質から、裏面に裏貼りをしていない。
また、皮革製品を取り扱う業界や皮革製品の市場においては、皮革製品の素材(構成部材又はパーツ)の裏面に、牛皮の裏面そのものが露呈している皮革製品(いわゆる一枚仕立ての皮革製品)が、高級品として取り扱われている。
これに対し、例えば、皮の裏面に裏地を縫い付けた素材(構成部材又はパーツ)を縫製して製造した皮革製品や、皮の裏面に裏地を接着剤を用いて貼着した素材(構成部材又はパーツ)を縫製して製造した皮革製品は、高級感が出ない、という問題がある。
また、皮の裏面に、例えば、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエチレン系樹脂などの熱可塑性樹脂からなる接着剤を用いて裏地を貼着した素材(構成部材又はパーツ)を縫製した皮革製品にあっては、例えば、その購入者がそのような皮革製品を使用している際に、皮と裏地とが分離するような場合があり、長期使用に対する製品の耐久性の問題がある。
また、皮の裏面に、例えば、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエチレン系樹脂などの熱可塑性樹脂からなる接着剤を用いて裏地を貼着した場合には、素材(構成部材又はパーツ)の皮及び/又は裏地にしわが形成される、といった、製造上の問題もある。
更には、バイソンその他の蛇皮や、クロコダイルその他の鰐皮や、リザード皮その他の蜥蜴皮その他の爬虫類皮や、オーストリッチ皮その他の鳥類皮は、一般に、その裏面が、ささくれ立ったような性状を有しており、物によっては、裏面から、ささくれ立った部分が、ぼろぼろと剥がれるような場合がある。
このため、爬虫類側や鳥類皮を、用途別に型抜きした後、裏貼りなどせずに、そのまま、皮革製品の素材(構成部材又はパーツ)として用い、そのような裏貼りなどをしていない素材(構成部材又はパーツ)を縫製することによって製造した皮革製品には、例えば、長期使用に対する製品の耐久性に問題がある。
このように、爬虫類側や鳥類皮を、用途別に型抜きした後、裏貼りなどせずに、そのまま、皮革製品の素材(構成部材又はパーツ)として用い、そのような裏貼りなどをしていない素材(構成部材又はパーツ)を縫製することによって製造した皮革製品には、例えば、長期使用に対する製品の耐久性に問題があるため、爬虫類皮や、鳥類皮を用いた皮革製品は、現状では、その裏面の性状から、一般に、皮の裏面に、裏地を縫製したり又は接着剤を用いて貼着したりした素材(構成部材又はパーツ)を縫製して製造したものが製品化されている。
しかしながら、需要者及び/又は取引者からは、爬虫類皮や、鳥類皮を用いた皮革製品にあっても、高級感のある、皮の裏面そのものが露呈している皮革製品(いわゆる一枚仕立てのような皮革製品)の商品化が、長年、望まれている。
本発明は、以上の問題を解決するためになされたものであって、爬虫類皮又は鳥類皮を用いた皮革製品であって、皮の裏面そのものが露呈している皮革製品(いわゆる一枚仕立ての皮革製品)と同様の高級感があり、優れた耐久性を有する皮革製品を製造する素材(構成部材又はパーツ)として、好適な、皮革シートを提供することを目的としている。
請求項1に記載の皮革シートは、爬虫類皮又は鳥類皮と、豚スエードとを備え、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面と、豚スエードの表面とが、接着剤により貼着されている。
爬虫類皮としては、例えば、クロコダイル皮その他の鰐皮や、リザート皮その他の蜥蜴皮を挙げることができ、また、鳥類皮としては、例えば、オーストリッチ皮を挙げることができる。
また、ここに、本明細書で用いる用語、「豚スエード」は、豚皮(ピッグスキン(Pig Skin))の裏面をサンドペーパー又はスエード加工機を用い、豚皮(ピッグスキン(Pig Skin))の裏面をベルベット状に起立したなめし皮を意味する。
請求項2に記載の皮革シートは、請求項1に記載の皮革シートの、接着剤が、ゴム系接着剤又は酢酸ビニルを主成分とする接着剤である。
本明細書で用いる用語、「ゴム系接着剤」とは、合成ゴム又は天然ゴムを主成分とする接着剤を意味する。
ゴム系接着剤としては、特に以下の場合に限定されることはないが、例えば、合成ゴム又は天然ゴムを乳化剤によりコロイド状の溶媒中に分散させたラテックス状の気乾型接着剤を、その好ましい例として挙げることができる。
請求項3に記載の皮革シートの製造方法は、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面に、接着剤を塗布する工程と、豚スエードの表面に、接着剤を塗布する工程と、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面と、豚スエードの表面とを、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面に塗布されたゴム系接着剤と、豚スエードの表面に塗布された接着剤とにより、貼着する工程とを備える。
尚、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面の全面に接着剤を、均一に、塗布する場合及び豚スエードの表面の全面に接着剤を、均一に、塗布する場合は、例えば、ハケ、ブラシ、ハンドローラ、スプレーガン、スプレッダなどを用いて、被着材の全面(この場合は、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面の全面及び豚スエードの表面の全面)に均一に塗布すればよい。
請求項4に記載の皮革シートの製造方法は、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面に、接着剤を塗布する工程と、豚スエードの表面に、接着剤を塗布する工程と、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面に塗布された接着剤の接着剤層の表面に薄皮が形成され、且つ、豚スエードの表面に塗布された接着剤の接着剤層の表面に薄皮が形成された時点で、直ちに、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面と、豚スエードの表面とを、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面に塗布されたゴム系接着剤と、豚スエードの表面に塗布された接着剤とにより、貼着する工程とを備える。
尚、特に以下の場合に限定されることはないが、請求項2又は請求項3に記載の皮革シートの製造方法において、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面に、接着剤を塗布する工程は、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面の全面に、接着剤を塗布するようにすることが好ましく、且つ、豚スエードの表面に、接着剤を塗布する工程は、豚スエードの表面の全面に、ゴム系接着剤を塗布することが好ましい。
請求項5に記載の皮革シートの製造方法は、請求項3又は請求項4に記載の皮革シートの製造方法で用いる、接着剤が、ゴム系接着剤又は酢酸ビニルを主成分とする接着剤である。
請求項1に記載の皮革シートは、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面に、豚スエードの表面側が接着剤により貼着されているので、この皮革シートでは、その裏面に、豚スエードの裏面側が露呈している。
従って、請求項1に記載の皮革シートを用途別に型抜きした素材(構成部材又はパーツ)を縫製することによって製造される皮革製品には、その素材(構成部材又はパーツ)の各々に、爬虫類皮又は鳥類皮と、裏地(豚スエード)とを縫製したような縫い目が見当たらず、且つ、その素材(構成部材又はパーツ)の各々の裏面には、豚スエードの裏面(ベルベット状に起立した高級感のある裏面)側が露呈している結果、需要者又は取引者に、皮の裏面そのものが露呈している皮革製品(いわゆる一枚仕立ての皮革製品)と同様の高級感を印象付けることができる。
のみならず、豚スエードの場合は、そのベルベット状に起毛した裏面から、毛羽が抜け落ちにくいので、この皮革シートを用途別に型抜きした素材(構成部材又はパーツ)を縫製することによって製造される皮革製品は、長期使用に対する製品の耐久性に優れている。
また、豚スエードの表面は、豚皮本来の細かいしわや毛穴があり、また、既に述べたとおり、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面は、ささくれ立ったような性状を有している。
その結果、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面と、豚スエードの表面とを、接着剤により貼着すると、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面のささくれ立ったような性状の部分と接着剤との接触及びぬれと、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面のささくれ立ったような性状の部分と、豚スエードの表面に存在する豚皮本来の細かいしわや毛穴との嵌合構造と、豚皮本来の細かいしわや毛穴と接着剤との接触及びぬれとの協働により、爬虫類皮又は鳥類皮と、豚スエードとが、接着剤により、接着した状態となる。
従って、本発明に係る皮革シートを用途別に型抜きした素材(構成部材又はパーツ)を縫製して製造された皮革製品は、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面と、豚スエードの表面とを、接着剤との協働により、従来の用途別に型抜きがされた皮の裏面に、不織布、織布、ウレタン樹脂やシリコーン樹脂などの発泡樹脂シート、又は、これらを組み合わせた裏地を接着剤を用いて貼着した素材(構成部材又はパーツ)を縫製することによって製造された皮革製品に比べ、爬虫類皮又は鳥類皮と豚スエードとが分離するようなことが無い。
即ち、この皮革シートを用途別に型抜きした素材(構成部材又はパーツ)を縫製することによって、皮革製品は、長期使用に耐えることができる、という長所を有している。
請求項2に記載の皮革シートでは、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面と、豚スエードの表面とを、ゴム系接着剤又は酢酸ビニルを主成分とする接着剤により貼着している。
ここに、ゴム系接着剤又は酢酸ビニルを主成分とする接着剤は、硬化後(乾燥後)において、エラストマー性(柔軟性)を有している。
したがって、例えば、本発明に係る皮革シートを用途別に型抜きした素材(構成部材又はパーツ)を縫製して製造された皮革製品は、その外部からの力が加わって、素材(構成部材又はパーツ)に曲げや捩れ等が生じても、爬虫類皮又は鳥類皮、ゴム系接着剤又は酢酸ビニルを主成分とする接着剤及び豚スエードの各々が変形可能であるため、皮と皮とを硬化後(乾燥後)において、エラストマー性(柔軟性)を有していない接着剤を用いて貼着した皮革製品に比べ、爬虫類皮又は鳥類皮と、豚スエードとが、分離しない又は分離し難いので、本発明に係る皮革シートを用途別に型抜きした素材(構成部材又はパーツ)を縫製して製造された皮革製品は、長期使用に対する製品の耐久性が優れている。
請求項3に記載の皮革シートの製造方法では、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面に、接着剤を塗布し、豚スエードの表面に、接着剤を塗布し、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面と、豚スエードの表面とを、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面に塗布された接着剤と、豚スエードの表面に塗布された接着剤とにより、貼着するようにしているので、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面又は豚スエードの表面のいずれか一方に、接着剤を塗布して、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面と、豚スエードの表面とを貼着した皮革シートに比べ、爬虫類皮又は鳥類皮及び/又は豚スエードにしわが形成され難いため、歩留まりがよく、且つ、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面と、豚スエードの表面との接着強度が高く、爬虫類皮又は鳥類皮と、豚スエードとが、分離しない又は分離し難い。
従って、請求項3に記載の皮革シートの製造方法に従って製造される皮革シートを用途別に型抜きした素材(構成部材又はパーツ)を縫製して製造された皮革製品は、長期使用に対する製品の耐久性が優れている。
また、請求項3に記載の皮革シートの製造方法に従って製造される皮革シートを用途別に型抜きした素材(構成部材又はパーツ)を縫製することによって製造される皮革製品には、その素材(構成部材又はパーツ)の各々に、爬虫類皮又は鳥類皮と、裏地(豚スエード)とを縫製したような縫い目が見当たらず、且つ、その素材(構成部材又はパーツ)の各々の裏面には、豚スエードの裏面側(ベルベット状に起立した高級感のある裏面)が露呈している結果、需要者又は取引者に、皮の裏面そのものが露呈している皮革製品(いわゆる一枚仕立ての皮革製品)と同様の高級感を印象付けることができる。
のみならず、豚スエードの場合は、そのベルベット状に起毛した裏面から、毛羽が抜け落ちにくいので、この皮革シートを用途別に型抜きした素材(構成部材又はパーツ)を縫製することによって製造される皮革製品は、長期使用に対する製品の耐久性に優れている。
また、豚スエードの表面は、豚皮本来の細かいしわや毛穴があり、また、既に述べたとおり、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面は、ささくれ立ったような性状を有している。
従って、請求項3に記載の皮革シートの製造方法に従って、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面と、豚スエードの表面とを、接着剤により貼着すると、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面のささくれ立ったような性状の部分と接着剤との接触及びぬれと、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面のささくれ立ったような性状の部分と、豚スエードの表面に存在する豚皮本来の細かいしわや毛穴との嵌合構造と、豚皮本来の細かいしわや毛穴と接着剤との接触及びぬれとの協働により、爬虫類皮又は鳥類皮と、豚スエードとが、接着剤により、接着した状態となる。
即ち、請求項3に記載の皮革シートの製造方法に従って製造される皮革シートを用途別に型抜きした素材(構成部材又はパーツ)を縫製することによって、皮革製品は、爬虫類皮又は鳥類皮とが分離し難いので、長期使用に耐えることができる、という長所を有している。
請求項4に記載の皮革シートの製造方法は、請求項3に記載の皮革シートの製造方法と同様の構成を備えているので、請求項3に記載の皮革シートの製造方法の効果と同様の効果を奏する。
ここで、被着材と被着材とを接着剤を用いて貼着する際の堆積時間(アッセンブリータイムともいう。)は、接着剤により貼り合わされる被着材と被着材との接着作業中、接着物の品質に関わる重要な因子である。
より詳しく説明すると、例えば、堆積時間(アッセンブリータイムともいう。)によって、被着材にしわが形成されたりされなかったりしたり、また、例えば、被着材と被着材との間の接着強度に影響したりする。
請求項4に記載の皮革シートの製造方法では、開放堆積時間(オープンアッセンブリータイム)を、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面に、ゴム系接着剤を塗布し、また、豚スエードの表面に、ゴム系接着剤を塗布してから、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面に塗布されたゴム系接着剤の接着剤層の表面に薄皮が形成され、且つ、豚スエードの表面に塗布されたゴム系接着剤の接着剤層の表面に薄皮が形成されるまでの期間とし、この期間の経過後(徒過後)、直ちに、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面と、前記豚スエードの表面とを、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面に塗布されたゴム系接着剤と、豚スエードの表面に塗布されたゴム系接着剤とにより、貼着するようにしている。
即ち、請求項4に記載の皮革シートの製造方法では、開放堆積時間(オープンアッセンブリータイム)を、適正な時間とすることで、爬虫類皮又は鳥類皮及び/又は豚スエードにしわが形成され難いため、歩留まりがよく、且つ、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面と、豚スエードの表面との接着強度が高く、爬虫類皮又は鳥類皮と、豚スエードとが、分離しない又は分離し難い、長期使用に対する製品の耐久性に優れた皮革製品を製造することができる、という特有の効果を奏する。
請求項5に記載の皮革シートの製造方法では、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面と、豚スエードの表面とを、ゴム系接着剤又は酢酸ビニルを主成分とする接着剤により貼着している。
ここに、ゴム系接着剤又は酢酸ビニルを主成分とする接着剤は、硬化後(乾燥後)において、エラストマー性(柔軟性)を有している。
従って、例えば、請求項5に記載の皮革シートの製造方法に従って製造される皮革シートを用途別に型抜きした素材(構成部材又はパーツ)を縫製して製造された皮革製品は、その外部からの力が加わって、素材(構成部材又はパーツ)に曲げや捩れ等が生じても、爬虫類皮又は鳥類皮、ゴム系接着剤及び豚スエードの各々が変形可能であるため、皮と皮とを硬化後において、エラストマー性を有していない接着剤を用いて貼着した皮革製品に比べ、爬虫類皮又は鳥類皮と、豚スエードとが、分離しない又は分離し難いので、請求項5に記載の皮革シートの製造方法に従って製造される皮革シートを用途別に型抜きした素材(構成部材又はパーツ)を縫製して製造された皮革製品は、長期使用に対する製品の耐久性が優れている。
以下、本発明に係る皮革シートの一例及び本発明に係る皮革シートの製造方法の一例を、図面を参照しながら、更に詳しく説明する。
図1は、本発明に係る皮革シートの一例を模式的に示す断面図である。
この皮革シート1は、爬虫類皮(又は鳥類皮)2と、豚スエード3とを備え、爬虫類皮(又は鳥類皮)の裏面S2aと、豚スエード3の表面S3aとが、接着剤により貼着されている。
爬虫類皮としては、例えば、クロコダイル皮その他の鰐皮や、リザート皮その他の蜥蜴皮を挙げることができ、また、鳥類皮としては、例えば、オーストリッチ皮を挙げることができる。
爬虫類皮(又は鳥類皮)2の表面S2aには、美しい鱗模様(鳥類皮にあっては、羽根の付け根の突起模様)がある。
また、爬虫類皮(又は鳥類皮)2の裏面S2bは、一般に、ささくれ立ったような性状を有しており、物によっては、裏面から、ささくれ立った部分が、ぼろぼろと剥がれるような場合がある。
ここに、豚スエード3は、豚皮(ピッグスキン(Pig Skin))の裏面をサンドペーパー又はスエード加工機を用い、豚皮(ピッグスキン(Pig Skin))の裏面S3bをベルベット状に起立したなめし皮を意味する。
接着剤4としては、硬化後に、柔軟性を有するものが用いられる。
より具体的に説明すると、接着剤としては、特に以下の場合に限定されることはないが、例えば、ゴム系接着剤又は酢酸ビニルを主成分とする接着剤を用いるのが好ましい。
この皮革シート1は、爬虫類皮(又は鳥類皮)2の裏面S2bに、豚スエード3の表面S3a側が接着剤4により貼着されているので、この皮革シート1では、その裏面に、豚スエード3の裏面S3b側が露呈している。
この結果、この皮革シート1は、爬虫類皮(又は鳥類皮)2の一枚仕立てのように見える。
しかも、豚スエード3は、そのベルベット状に起毛した裏面S3bから、毛羽が抜け落ちにくいので、この皮革シート1を用途別に型抜きした素材(構成部材又はパーツ)を縫製することによって製造される皮革製品は、長期使用に対する製品の耐久性に優れている。
また、豚スエード3の表面S3aは、豚皮本来の細かいしわや毛穴がある。
一方、爬虫類皮(又は鳥類皮)2の裏面S2bは、ささくれ立ったような性状を有している。
その結果、爬虫類皮(又は鳥類皮)2の裏面S2bと、豚スエード3の表面S3aとを、接着剤4により貼着すると、爬虫類皮(又は鳥類皮)2の裏面S2bのささくれ立ったような性状の部分と接着剤4との接触及びぬれと、爬虫類皮(又は鳥類皮)2の裏面S2bのささくれ立ったような性状の部分と、豚スエード3の表面S3aに存在する豚皮本来の細かいしわや毛穴との嵌合構造と、豚スエード3の表面S3aに存在する豚皮本来の細かいしわや毛穴と接着剤4との接触及びぬれとの協働により、爬虫類皮(又は鳥類皮)2と、豚スエード3とが、接着剤4により、接着した状態となる。
従って、この皮革シート1を用途別に型抜きした素材(構成部材又はパーツ)を縫製することによって、皮革製品は、爬虫類皮又は鳥類皮と豚スエード3とが分離し難いので、長期使用に耐えることができる、という長所を有している。
以下、実験例に基づいて、本発明に係る皮革シート及び本発明に係る皮革シートの製造方法について説明する。
(実験例1)
爬虫類皮として、クロコダイル皮を準備した。
また、クロコダイル皮の裏地として、豚スエードを準備した。
次に、クロコダイル皮と、豚スエードとを(貼着)する接着する接着剤を調整した。
この接着剤の組成を表1に示す。
但し、接着剤に含まれる、クロロプレンゴム、フェノール樹脂、金属酸化物、トルエンシクロヘキサン、ノルマルヘキサン及び塩化メチレンの各々は、接着剤中、クロロプレンゴムの含有量(重量%)、フェノール樹脂の含有量(重量%)、金属酸化物の含有量(重量%)、トルエンシクロヘキサンの含有量(重量%)、ノルマルヘキサンの含有量(重量%)及び塩化メチレンの含有量(重量%)の各々が、クロロプレンゴムの含有量(重量%)+フェノール樹脂の含有量(重量%)+金属酸化物の含有量(重量%)+トルエンシクロヘキサンの含有量(重量%)+ノルマルヘキサンの含有量(重量%)+塩化メチレンの含有量(重量%)=100重量%の関係を満たすように配合した。
また、金属酸化物としては、酸化マグネシウム(MgO)又は酸化亜鉛(ZnO)、並びに、これらの混合物を使用した。
この接着剤の性状を表2に示す。
次に、クロコダイル皮の裏面の全面に、表1にその組成を且つ表2にその性状を示す接着剤を均一に塗布した。
また、豚スエードのベルベット状に起立した高級感のある裏面と反対側の面(以下、「豚スエードの表面」は、豚スエードのベルベット状に起立した高級感のある裏面と反対側の面を意味する。)の全面に、表1にその組成を且つ表2にその性状を示す接着剤を均一に塗布した。
尚、クロコダイル皮の全面に、均一に、ゴム系接着剤を塗布したり、また、豚スエードの表面の全面に、均一に、ゴム系接着剤を塗布したりする際には、例えば、ハケ、ブラシ、ハンドローラ、スプレーガン、スプレッダなどを用いてクロコダイル皮の裏面の全面及び豚スエードの表面の全面に均一に塗布する。
この実験例1では、ハケを用いて、クロコダイル皮の裏面の全面に、表1にその組成を且つ表2にその性状を示す接着剤を均一に塗布し、また、豚スエードの表面の全面に、表1にその組成を且つ表2にその性状を示す接着剤を均一に塗布した。
尚、豚スエードの表面に接着剤を塗布する前に、必要により、例えば、ブラシ等を用い、ゴミの除去をしたり、豚スエードの表面の油脂分や、染料等を除去するために、溶剤脱脂をしたり、更に、サンドペーパーがけをしたりする。
また、クロコダイル皮の裏面に接着剤を塗布する前に、必要により、例えば、ブラシ等を用い、ゴミの除去をする。
また、クロコダイル皮の裏面が、接着剤を吸い込みやすい場合には、例えば、表1にその組成を且つ表2にその性状を示す接着剤を二度塗りしたり、又は、クロコダイル皮の裏面が、接着剤を吸い込む分を予め見越し、豚スエードの表面に塗布する接着剤の量より、やや多めに接着剤を塗布するようにする。
次に、裏面に接着剤を塗布したクロコダイル皮、及び、表面に接着剤を塗布した豚スエードの各々を、塗面を開けたまま、しばらく放置し、表1にその組成を且つ表2にその性状を示す接着剤の溶剤(トルエン、シクロヘキサン、ノルマルヘキサン)を揮発(蒸発)させる。
この開放堆積時間(オープンアッセンブリータイム)は、クロコダイル皮の裏面に、表1にその組成を且つ表2にその性状を示す接着剤を塗布し、また、豚スエードの表面に、表1にその組成を且つ表2にその性状を示す接着剤を塗布してから、クロコダイル皮の裏面に塗布された、表1にその組成を且つ表2にその性状を示す接着剤の接着剤層の表面に薄皮が形成され、且つ、豚スエードの表面に塗布された、表1にその組成を且つ表2にその性状を示す系接着剤の接着剤層の表面に薄皮が形成されるまでの期間とする。
次に、この開放堆積時間(オープンアッセンブリータイム)の経過後(徒過後)、直ちに、クロコダイル皮の裏面と、豚スエードの表面とを、クロコダイル皮の裏面に塗布された、表1にその組成を且つ表2にその性状を示す接着剤と、豚スエードの表面に塗布された、表1にその組成を且つ表2にその性状を示す接着剤とにより、貼着する。
尚、クロコダイル皮の裏面に塗布された、表1にその組成を且つ表2にその性状を示す接着剤の接着剤層の表面に薄皮が形成され、且つ、豚スエードの表面に塗布された、表1にその組成を且つ表2にその性状を示す系接着剤の接着剤層の表面に薄皮が形成される時点は、例えば、クロコダイル皮の裏面に塗布された、表1にその組成を且つ表2にその性状を示す接着剤の接着剤層の表面や、豚スエードの表面に塗布された、表1にその組成を且つ表2にその性状を示す接着剤の接着剤層の表面に、例えば、作業者が、手指に、ゴム手袋を着用し、ゴム手袋を着用した指を押し当てた際に、ゴム手袋を着用した指に接着剤が糸引きすることがなく、各々の接着剤層に、押し当てた指の押し跡がつく時点が目安になる。
次に、クロコダイル皮と豚スエードとを、接着剤が塗布された面同士(貼り合わせ面)を重ね合わせて圧締できる状態で、所定時間(接着剤が乾燥するまで)、堆積しておくことにより、クロコダイル皮の裏面に、豚スエードの表面側が、表1にその組成を且つ表2にその性状を示す接着剤により貼着された皮革シートを作製した。
この圧締は、例えば、クロコダイル皮と豚スエードとを接着剤を塗布した面同士(貼り合わせ面)を重ね合わせたものを、手で押さえても良いし、ハンドローラで圧延してもよいし、重し、砂袋、仮釘、かすがい、ゴム輪、ひも、クサビ、粘着テープ、バネ板(支持棒)、らせん治具、プレス装置などを用いて緊結又は支持するようにすればよい。
実験例1では、クロコダイル皮と豚スエードとを接着剤を塗布した面同士(貼り合わせ面)を重ね合わせたものの圧締は、クロコダイル皮と豚スエードとを接着剤を塗布した面同士(貼り合わせ面)を重ね合わせたものを手で押さえるようにして行った。
(実験例2)
クロコダイル皮をリザード皮に代える以外は、実験例1と同様の工程で、リザード皮の裏面に、豚スエードの表面側が、表1にその組成を且つ表2にその性状を示す接着剤により貼着された皮革シートを作製した。
(実験例3)
クロコダイル皮をオーストリッチ皮に代える以外は、実験例1と同様の工程で、オーストリッチ皮の裏面に、豚スエードの表面側が、表1にその組成を且つ表2にその性状を示す接着剤により貼着された皮革シートを作製した。
(実験例4)
接着剤を、下記表3に示す性状の接着剤に代える以外は、実験例1と同様の工程で、クロコダイル皮の裏面に、豚スエードの表面側が、表3にその性状を示す接着剤により貼着された皮革シートを作製した。
(実験例5)
表1にその組成を且つ表2にその性状を示す接着剤の主成であるクロロプレンゴムを天然ゴムに代える以外は、同様の組成及び性状を有する接着剤を用いる以外は、実験例1と同様の工程で、オーストリッチ皮の裏面に、豚スエードの表面側が、表1にその組成を且つ表2にその性状を示す接着剤により貼着された皮革シートを作製した。
(比較例1)
クロコダイル皮を牛皮に代える以外は、実験例1と同様の工程で、牛皮の裏面に、豚スエードの表面側が、表1にその組成を且つ表2にその性状を示す接着剤により貼着された皮革シートを作製した。
(比較例2)
クロコダイル皮の裏面の全面のみに、表1にその組成を且つ表2にその性状を示す接着剤を均一に塗布する以外は、実験例1と同様にして、クロコダイル皮の裏面に、豚スエードの表面側が、表1にその組成を且つ表2にその性状を示す接着剤により貼着された皮革シートを作製した。
(比較例3)
豚スエードの裏面の全面のみに、表1にその組成を且つ表2にその性状を示す接着剤を均一に塗布する以外は、実験例1と同様にして、クロコダイル皮の裏面に、豚スエードの表面側が、表1にその組成を且つ表2にその性状を示す接着剤により貼着された皮革シートを作製した。
(参考例1)
接着剤として、ボンド(登録商標)17Zは、を使用する以外は、実験例1と同様にして、クロコダイル皮の裏面に、豚スエードの表面側が、ボンド(登録商標)17Zにより貼着された皮革シートを作製した。
(参考例2)
接着剤として、ボンド(登録商標)Gクリヤーを使用する以外は、実験例1と同様にして、クロコダイル皮の裏面に、豚スエードの表面側が、ボンド(登録商標)Gクリヤーにより貼着された皮革シートを作製した。
次に、以上のようにして作製した、実験例1、実験例2、実験例3、実験例4、実験例5、比較例1、比較例2、比較例3、参考例1及び参考例2の各々の皮革シートの接着強さについて検討した。
まず、実験例1、実験例2、実験例3、実験例4、実験例5、比較例1、比較例2、比較例3、参考例1及び参考例2の各々の皮革シートについて、T形はく離試験(JIS K 6854−3(1999)接着剤−はく離接着強さ試験方法−第3部を参照。)を行った。
その結果、実験例1、実験例2、実験例3、実験例4及び実験例5の各々は、はく離強さが、50N/25mm以上であったのに対し、参考例1及び参考例2の各々は、はく離強さが、50N/25mm±1であった。
一方、比較例1、比較例2及び比較例3の各々は、はく離強さが、50N/25未満であった。
また、実験例1、実験例2、実験例3、実験例4、実験例5、比較例1、比較例2、比較例3、参考例1及び参考例2の各々の皮革シートについて、曲げ接着強さ試験(JIS K 6856(1999)接着剤の曲げ強さ試験方法)を行った。
その結果、実験例1、実験例2、実験例3、実験例4及び実験例5の各々は、被接着材と被接着材との間のはく離が観察されなかったのに対し、参考例1、参考例2、比較例1、比較例2及び比較例3の各々には、被接着材と被接着材との間のはく離が観察された。
上記した実験例1、実験例2、実験例3、実験例4及び実験例5の各々から明らかなように本発明に係る皮革シートでは、いずれも、その裏面に、豚スエードの裏面側が露呈している。
従って、これらの皮革シートを用途別に型抜きした素材(構成部材又はパーツ)を縫製することによって製造される皮革製品には、その素材(構成部材又はパーツ)の各々に、爬虫類皮又は鳥類皮と、裏地(豚スエード)とを縫製したような縫い目が見当たらず、且つ、その素材(構成部材又はパーツ)の各々の裏面には、豚スエードの裏面側(ベルベット状に起立した高級感のある裏面)が露呈している結果、需要者又は取引者に、皮の裏面そのものが露呈している皮革製品(いわゆる一枚仕立ての皮革製品)と同様の高級感を印象付けることができる。
のみならず、豚スエードの場合は、そのベルベット状に起毛した裏面から、毛羽が抜け落ちにくいので、この皮革シートを用途別に型抜きした素材(構成部材又はパーツ)を縫製することによって製造される皮革製品は、長期使用に対する製品の耐久性に優れている。
また、豚スエードの表面は、豚皮本来の細かいしわや毛穴があり、また、既に述べたとおり、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面は、ささくれ立ったような性状を有している。
その結果、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面と、豚スエードの表面とを、接着剤により貼着すると、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面のささくれ立ったような性状の部分と接着剤との接触及びぬれと、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面のささくれ立ったような性状の部分と、豚スエードの表面に存在する豚皮本来の細かいしわや毛穴との嵌合構造と、豚皮本来の細かいしわや毛穴と接着剤との接触及びぬれとの協働により、爬虫類皮又は鳥類皮と、豚スエードとが、接着剤により、接着した状態となる。
従って、本発明に係る皮革シートを用途別に型抜きした素材(構成部材又はパーツ)を縫製して製造された皮革製品は、爬虫類皮又は鳥類皮と豚スエードとが分離するようなことが無い。
即ち、この皮革シートを用途別に型抜きした素材(構成部材又はパーツ)を縫製することによって、皮革製品は、長期使用に耐えることができる、という長所を有している。
また、本発明に係る皮革シートでは、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面と、豚スエードの表面とを、ゴム系接着剤(より特定的に説明すると、表1にその組成を且つ表2にその性状を示す接着剤)又は酢酸ビニルを主成分とする接着剤(より特定的に説明すると、表3に示す性状の接着剤)により貼着している。
ゴム系接着剤又は酢酸ビニルを主成分とする接着剤は、硬化後(乾燥後)において、エラストマー性(柔軟性)を有している。
したがって、例えば、本発明に係る皮革シートを用途別に型抜きした素材(構成部材又はパーツ)を縫製して製造された皮革製品は、その外部からの力が加わって、素材(構成部材又はパーツ)に曲げや捩れ等が生じても、爬虫類皮又は鳥類皮、ゴム系接着剤又は酢酸ビニルを主成分とする接着剤及び豚スエードの各々が変形可能であるため、皮と皮とを硬化後(乾燥後)において、エラストマー性(柔軟性)を有していない接着剤を用いて貼着した皮革製品に比べ、爬虫類皮又は鳥類皮と、豚スエードとが、分離しない又は分離し難いので、本発明に係る皮革シートを用途別に型抜きした素材(構成部材又はパーツ)を縫製して製造された皮革製品は、長期使用に対する製品の耐久性が優れている。
また、本発明に係る皮革シートの製造方法では、開放堆積時間(オープンアッセンブリータイム)を、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面に、ゴム系接着剤を塗布し、また、豚スエードの表面に、ゴム系接着剤を塗布してから、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面に塗布されたゴム系接着剤の接着剤層の表面に薄皮が形成され、且つ、豚スエードの表面に塗布されたゴム系接着剤の接着剤層の表面に薄皮が形成されるまでの期間とし、この期間の経過後(徒過後)、直ちに、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面と、前記豚スエードの表面とを、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面に塗布されたゴム系接着剤と、豚スエードの表面に塗布されたゴム系接着剤とにより、貼着するようにしている。
即ち、本発明に係る皮革シートの製造方法では、開放堆積時間(オープンアッセンブリータイム)を、適正な時間とすることで、爬虫類皮又は鳥類皮と、豚スエードとの間の接着剤が、貼り合わせ時に、貼り合わせ面から噴出したり、合時に、爬虫類皮又は鳥類皮及び/又は豚スエードにしわが形成されたりし難いため、歩留まりがよく、且つ、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面と、豚スエードの表面との接着強度が高く、爬虫類皮又は鳥類皮と、豚スエードとが、分離しない又は分離し難い、長期使用に対する製品の耐久性に優れた皮革製品を製造することができる、という特有の効果を奏する。
尚、爬虫類皮又は鳥類皮2の裏面S2bと、豚スエード3の表面S3とが、接着剤4により貼着する工程(閉鎖堆積工程)は、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面に、ゴム系接着剤を塗布し、また、豚スエードの表面に、ゴム系接着剤を塗布してから、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面に塗布されたゴム系接着剤の接着剤層の表面に薄皮が形成され、且つ、豚スエードの表面に塗布されたゴム系接着剤の接着剤層の表面に薄皮が形成されるまでの期間とし、この期間の経過後(徒過後)、直ちに、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面と、前記豚スエードの表面とを、爬虫類皮又は鳥類皮の裏面に塗布されたゴム系接着剤と、豚スエードの表面に塗布されたゴム系接着剤とにより、貼着したものを、減圧室(チャンバー)内に収容し、減圧下(例えば、0.7気圧以上0.9気圧以下)で行うのが好ましい。
接着剤の柔軟性を確保するために、接着剤中に、繊維(例えば、直径が、15μm以上70μm以下で、長さが、20mm以上200mm以下の繊維)を接着強度を阻害しない範囲の量(例えば、1重量%以上5重量%以下の範囲の量)で分散するようにしてもよい。