JP2009058016A - 流体軸受装置用スリーブおよびこれを備えた流体軸受装置、スピンドルモータ、情報記録再生処理装置並びに流体軸受装置用スリーブの製造方法 - Google Patents

流体軸受装置用スリーブおよびこれを備えた流体軸受装置、スピンドルモータ、情報記録再生処理装置並びに流体軸受装置用スリーブの製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】適切に封孔処理するためのコストを低減することが可能な流体軸受装置用スリーブ、およびこれを備えた流体軸受装置、スピンドルモータ、情報記録再生処理装置並びに流体軸受装置用スリーブの製造方法を提供する。
【解決手段】流体軸受装置用スリーブ42は、内層部50と、表層部51と、を備えている。内層部50は、焼結用金属粉末を焼結して形成されている。表層部51は、内層部50の表面に形成され、三酸化二鉄(Fe23)を含んでいる。すなわち、多孔質である流体軸受装置用スリーブ42の表面に三酸化二鉄(Fe23)層51bを含む表層部51を形成し封孔処理を行っている。
【選択図】図3

Description

本発明は、情報記録再生処理装置等に使用される流体軸受装置用スリーブ、特に焼結金属製スリーブおよびこれを備えた流体軸受装置、スピンドルモータ、情報記録再生処理装置並びに流体軸受装置用スリーブの製造方法に関する。ここで言う情報記録再生処理装置とは、ハードディスク装置や光ディスク装置のような記録媒体を駆動する装置をいい、また、CPU冷却ファン等を有する情報処理装置であるパソコン等も含まれる。
近年、回転するディスクを用いた記録再生装置等はそのメモリー容量が増大し、またデータの転送速度が高速化しているため、これらに使用される記録再生装置の軸受は常にディスク負荷を高精度に回転させるため、高い性能と信頼性が要求されている。そこで、これら回転装置には、高速回転に適した流体軸受装置が用いられている。流体軸受装置は、軸とスリーブとの間に潤滑流体である、例えば、オイルを介在させ、動圧発生溝によって回転時にポンピング圧力を発生し、これにより軸がスリーブに対して非接触で相対回転するため、機械的な摩擦が無く高速回転に適している。
そして、一般的に、流体軸受装置のスリーブは、鉄合金や銅合金等の金属材料から切削加工等により製造されるが、さらなる製造コストの低減を目的として、例えば、銅合金等の金属粉末を成形し焼結した焼結金属製スリーブが提案されている。しかし、焼結金属は金属粉末の集合体であるため多孔質であり、内部に多数の気孔(金属粉末の間に形成される小さな空間)を有している。また、気孔には、「組織気孔」と呼ばれる焼結体の内部の気孔と、「表面気孔」と呼ばれる焼結体の表面に開口している気孔とがあり、通常の焼結金属では表面気孔と組織気孔とが連通している。このため、潤滑油が気孔を通って焼結金属の内部を通り抜け、例えば、軸受部で発生する支持圧を低下させてしまう。
このような問題を解決するために、気孔を封孔する様々な技術が提案されている。
例えば、特許文献1は、焼結金属体の多孔質素材に400〜600℃の雰囲気温度で水蒸気処理を施すことにより、四三酸化鉄(Fe34)皮膜を形成する流体動圧軸受の製造方法が開示されている。これによれば、燒結金属体の表面を適切に封孔処理することが可能となる。
特開2007−57068号公報
しかしながら、上記従来の流体動圧軸受の製造方法では、以下に示すような問題点を有している。
すなわち、流体動圧軸受の製造方法において、焼結金属体の表面に四三酸化鉄(Fe34)皮膜を形成させるには、水蒸気処理における炉内の酸素量や、水蒸気処理後の大気開放時における温度を厳密に管理する必要ある。このため、工程管理に対する負担が大きくコストが高くなるという問題がある。
本発明は、上記従来の課題を解決するもので、適切に封孔処理するためのコストを低減することが可能な流体軸受装置用スリーブ、およびこれを備えた流体軸受装置、スピンドルモータ、情報記録再生処理装置並びに流体軸受装置用スリーブの製造方法を提供することを目的とする。
第1の発明に係る流体軸受装置用スリーブは、内層部と、表層部と、を備えている。内層部は、焼結用金属粉末を焼結して形成されている。表層部は、内層部の表面に形成され、Fe23を含んでいる。
ここでは、焼結用金属粉末によって形成される流体軸受装置用スリーブの表面に三酸化二鉄(三二酸化鉄)(Fe23)を含む表層部を形成し封孔処理を行っている。
ここで、焼結用金属粉末を焼結して成形された焼結金属は、金属粉末の集合体であるため多孔質であり、内部に多数の気孔を有している。このため、潤滑油が気孔を通って焼結金属の内部を通り抜け、例えば、軸受部で発生する支持圧を低下させてしまうことがある。そこで、このような気孔を塞ぐための封孔処理が行われている。
従来、このような封孔処理として、焼結金属体を400〜600℃の雰囲気温度内において水蒸気処理を施し、多孔質な燒結金属体の表面に四酸化三鉄(四三酸化鉄)(Fe34)層を形成していた。ところが、酸化鉄の一つである四酸化三鉄(Fe34)は、化学的に不安定である。このため、焼結金属体の表面に四酸化三鉄(Fe34)層を形成させるためには、水蒸気処理における炉内の酸素量を極限まで下げなければならず、炉内における厳密な開閉シール処理、炉内の真空減圧処理、十分な窒素パージ処理が必要とされる。また、水蒸気処理後の大気開放においても、化学的に不安定な四酸化三鉄(Fe34)層を形成させるためには、大気開放時の温度を厳密に管理する必要がある。このため、水蒸気処理された焼結金属体を炉内の温度が200℃以下に下がるまで、長時間放置しなければならない。この結果、工程管理に対する負担が大きくコストが高くなる。
そこで、本発明の流体軸受装置用スリーブにおいては、焼結用金属粉末によって形成される流体軸受装置用スリーブの表面に、四酸化三鉄(Fe34)よりも化学的に安定的な三酸化二鉄(Fe23)を含む表層部を形成する封孔処理を行っている。
これにより、表面に三酸化二鉄(Fe23)を含む表層部を形成するにあたっては、従来の四酸化三鉄(Fe34)層による封孔処理のように、水蒸気処理における炉内の酸素量を極限まで下げる必要がなくなるので、工程管理にかかる負担を低減することが可能となる。また、水蒸気処理後の大気開放温度を、四酸化三鉄(Fe34)層による封孔処理に比べて高い温度に設定することできるので、水蒸気処理におけるタクトを短くすることが可能となる。
この結果、流体軸受装置用スリーブの多孔質表面を適切に封孔処理するためのコストを低減することが可能となる。
第2の発明に係る流体軸受装置用スリーブは、第1の発明に係る流体軸受装置用スリーブであって、表層部は、内層部側に形成されるFe34層と、表面側に形成されるFe2O3層と、を有している。
ここでは、表層部における内層部側にはFe34層が形成され、表面側にはFe23層が形成されている。
なお、ここでいうFe34層は、大部分が四酸化三鉄(Fe34)によって形成されている層を言い、四酸化三鉄(Fe34)のみ(構成比率が100%)で形成されていなくてもよい。また、Fe23層についても同様であり、三酸化二鉄(Fe23)のみで形成されていなくてもよい。また、内層部側のFe34層と表面側のFe23層との間には、例えば、Fe34とFe23とで形成される混合層等があってもよい。
ここで、酸化鉄の一つである四酸化三鉄(Fe34)と三酸化二鉄(Fe23)とでは、三酸化二鉄(Fe23)の方が、より化学的に安定している。
これにより、流体軸受装置用スリーブを流体軸受装置として組み立てた後の酸化を防止することが可能である。
第3の発明に係る流体軸受装置用スリーブは、第2の発明に係る流体軸受装置用スリーブであって、Fe23層の厚みは、表層部の厚みの50%以下である。
ここでは、流体軸受装置用スリーブの表面を形成するFe23層の厚みが表層部の厚みの50%以下となるように形成されている。
ここで、三酸化二鉄(Fe23)は、一般的にもろい性質を有している。このため、層が厚いと一部が脱落して、その粒子がさらに摩耗を促進することとなる。
これにより、三酸化二鉄(Fe23)特有のもろさを解消し、流体軸受装置用スリーブ表面の耐摩耗性を確保することが可能となる。
第4の発明に係る流体軸受装置用スリーブは、第2または第3の発明に係る流体軸受装置用スリーブであって、Fe23層の厚みは、2μm以下である。
ここでは、流体軸受装置用スリーブの表面を形成するFe23層の厚みが表層部の厚みが2μm以下となるように形成されている。
ここで、三酸化二鉄(Fe23)は、一般的にもろい性質を有している。このため、層が厚いと一部が脱落して、その粒子がさらに摩耗を促進することとなる。
これにより、三酸化二鉄(Fe23)特有のもろさを解消し、流体軸受装置用スリーブ表面の耐摩耗性を確保することが可能となる。
第5の発明に係る流体軸受装置は、第1から第4の発明のいずれか1つに係る流体軸受装置用スリーブを含んでいる。
ここでは、流体軸受装置が、適切に封孔処理するためのコストを低減することが可能な流体軸受装置用スリーブを備えている。
ここで、コスト低減を目的に焼結金属によって成形された流体軸受装置用スリーブを使用する場合、適切な封孔処理が施されていないと、前述したように、軸受部で発生する支持圧を低下させることとなる。このため、流体軸受装置に求められている高い性能と信頼性の要求に応えることができない。
そこで、本発明の流体軸受装置においては、上述の流体軸受装置用スリーブを使用している。
これにより、コスト低減を目的に焼結金属によって成形された流体軸受装置用スリーブを使用する場合であっても、高い性能と信頼性とを有する流体軸受装置を提供することが可能となり、さらに製造にかかるコストを低減させることが可能となる。
第6の発明に係るスピンドルモータは、第5の発明に係る流体軸受装置を備えている。
ここでは、スピンドルモータが、上述の高い性能と信頼性とを有する流体軸受装置を備えている。
これにより、コスト低減を目的に焼結金属によって成形された流体軸受装置用スリーブを使用する場合であっても、高い性能と信頼性とを有するスピンドルモータを提供することが可能となり、さらに製造にかかるコストを低減させることが可能となる。
第7の発明に係る情報記録再生処理装置は、第6の発明に係るスピンドルモータを備えている。
ここでは、情報記録再生処理装置が、上述の高い性能と信頼性とを有するスピンドルモータを備えている。
これにより、コスト低減を目的に焼結金属によって成形された流体軸受装置用スリーブを使用する場合であっても、高い性能と信頼性とを有する情報記録再生処理装置を提供することが可能となり、さらに製造にかかるコストを低減させることが可能となる。
第8の発明に係る流体軸受装置用スリーブの製造方法は、第1の工程と第2の工程とを備えている。第1の工程は、焼結用金属粉末を成形し焼結した焼結成形体を炉内において水蒸気処理する。第2の工程は、前記水蒸気処理後において、炉内の酸素分圧および炉内を酸素を含んだ気体雰囲気中に開放する際の温度の少なくとも一方を制御する。
ここでは、一般的な水蒸気処理である第1の工程の後、水蒸気処理を行う炉内の酸素分圧および炉内を酸素を含んだ気体雰囲気中に開放する際の温度の少なくとも一方を制御する第2の工程を備えている。
なお、ここで言う温度は、第1の工程において水蒸気処理された焼結成形体の温度を言うが、この焼結成形体の温度を調整するために炉内の温度を制御して、焼結成形体の温度を間接的に制御してもよい。また、第2の工程において炉内を開放する際は、大気に開放してもよいし、酸素分圧をコントロールした気体(不活性ガス等)に開放してもよい。
ここで、焼結用金属粉末を焼結して成形された焼結金属は、金属粉末の集合体であるため多孔質であり、内部に多数の気孔を有している。このため、潤滑油が気孔を通って焼結金属の内部を通り抜け、例えば、軸受部で発生する支持圧を低下させてしまうことがある。そこで、焼結金属製の流体軸受装置用スリーブを製造する際には、このような気孔を塞ぐための封孔処理が行われている。
従来、このような流体軸受装置用スリーブの製造方法においては、封孔処理の工程の一つとして、焼結金属体を400〜600℃の雰囲気温度内において水蒸気処理を施すことによって、四酸化三鉄(四三酸化鉄)(Fe34)層を形成する工程を備えている。ところが、酸化鉄の一つである四酸化三鉄(Fe34)は、化学的に不安定であるため、水蒸気処理における炉内の酸素量を極限まで下げなければならない。このため、炉内における厳密な開閉シール処理、炉内の真空減圧処理、十分な窒素パージ処理する工程が必要とされる。また、水蒸気処理後の大気開放時の工程においては温度を厳密に管理する必要があり、水蒸気処理された焼結金属体を炉内の温度が200℃以下に下がるまで、長時間放置しなければならない。このため、水蒸気処理におけるタクトが長くなる。この結果、工程管理に対する負担が大きくコストが高くなる。
そこで、本発明の流体軸受装置用スリーブの製造方法においては、焼結された成形体を炉内において水蒸気処理する第1の工程の後に、炉内の酸素分圧および炉内を酸素を含んだ気体雰囲気中に開放する際の温度の少なくとも一方を制御する第2の工程を備えている。
これにより、焼結用金属粉末から成形される成形体の表面に、三酸化二鉄(Fe23)を含む表層部を形成することができる。そして、この場合、第1の工程において表面に三酸化二鉄(Fe23)を含まないようにするための上記工程(炉内における厳密な開閉シール処理、炉内の真空減圧処理、十分な窒素パージ処理)が必要でなくなる。このため、新たに第2の工程を追加したとしても、第1の工程において厳密に管理することの負担と比べれば、工程管理にかかる負担をはるかに低減することができる。また、第1の工程の後、例えば、大気に開放する場合、水蒸気処理された焼結成形体の温度を、四酸化三鉄(Fe34)層による封孔処理に比べて高い温度に設定することできる。このため、水蒸気処理された焼結成形体を所定の温度にまで冷却する時間を短縮することができるので、流体軸受装置用スリーブの製造におけるタクトを短くすることが可能となる。
この結果、流体軸受装置用スリーブを適切に封孔処理するためのコストを低減することが可能となる。
第9の発明に係る流体軸受装置用スリーブの製造方法は、第8の発明に係る流体軸受装置用スリーブの製造方法であって、第2の工程における酸素分圧の制御は、所定の条件に基づいて酸素を他の気体と置換するパージを行う。なお、ここでいうパージとは、一部の酸素を他の気体と置換することをいい、例えば、酸素を窒素と置換する窒素パージ等がある。また、所定の条件とは、例えば、約550℃でスチーム処理した後、スチーム処理炉内の酸素分圧が、1×10-14を下回らないようにする等の条件をいう。
ここでは、例えば、約550℃でスチーム処理した後、スチーム処理炉内の酸素分圧が、1×10-14を下回らないようにするために、窒素パージの流量、時間、温度等を調整している。
これにより、四酸化三鉄(Fe34)の表面部分を確実に三酸化二鉄(Fe23)の層に変化させ、三酸化二鉄(Fe23)の層を確実に形成することが可能となる。
第10の発明に係る流体軸受装置用スリーブの製造方法は、第8または第9の発明に係る流体軸受装置用スリーブの製造方法であって、第2の工程において炉内を酸素を含んだ気体雰囲気中に開放する際の焼結成形体の温度は300℃以上である。
ここでは、第2の工程において、炉内を開放する際の水蒸気処理された焼結成形体の温度が300℃以上となるように制御している。
ここで、炉内を開放する際に水蒸気処理された成形体の温度が200℃以上あれば、理論的に四酸化三鉄(Fe34)の表面に、三酸化二鉄(Fe23)の層を形成することができる。
本発明では、炉内を開放する際に水蒸気処理された成形体の温度を300℃以上に制御することにより、四酸化三鉄(Fe34)の表面部分をより効果的に確実に三酸化二鉄(Fe23)の層に変化させ、三酸化二鉄(Fe23)の層を確実に形成することが可能となる。
第11の発明に係る流体軸受装置用スリーブの製造方法は、第8から第10の発明のいずれか1つに係る流体軸受装置用スリーブの製造方法であって、第2の工程における炉内の開放の後、炉内または焼結成形体の温度と冷却時間とを制御する第3の工程をさらに備えている。
ここでは、炉内または焼結成形体の温度と冷却時間とを制御する第3の工程をさらに備えている。
これにより、四酸化三鉄(Fe34)の表面に、様々な表層厚の三酸化二鉄(Fe23)の層を安定的に形成することが可能となる。
本発明に係る流体軸受装置用スリーブおよび流体軸受装置用スリーブの製造方法によれば、流体軸受装置用スリーブを適切に封孔処理するためのコストを低減することが可能となる。
本発明の一実施形態に係る流体軸受装置用スリーブ(以下、スリーブと示す)42を含むスピンドルモータ1について、図1〜図6を用いて説明すれば以下の通りである。
[スピンドルモータ1全体の構成]
図1に、本実施形態としてのスリーブ42を採用した流体軸受装置4を備えたスピンドルモータ1の縦断面概略図を示す。図1に示すO−Oは、スピンドルモータ1の回転軸線である。なお、本実施形態の説明では、便宜上、図面の上下方向を「軸方向上側」、「軸方向下側」等と表現するが、スピンドルモータ1の実際の取り付け状態を限定するものではない。
スピンドルモータ1は、主に、ベースプレート2と、ロータ3と、流体軸受装置4とを備えている。
ベースプレート2は、スピンドルモータ1の静止側の部分を構成しており、例えば、記録ディスク装置のハウジング(図示せず)に固定されている。ベースプレート2は、ブラケット部21を有し、ステータ22が装着されている。ブラケット部21は、内周側に軸方向上側に延びる筒状部21aを有している。ステータ22は、磁気回路を構成するためのもので、筒状部21aの外周側に固定されている。筒状部21aの内周側には、後述する流体軸受装置4が固定されている。
ロータ3は、磁気回路部で発生する回転力により回転駆動される部分であり、ロータハブ31と、ディスク載置部32と、バックヨーク33と、ロータマグネット34とを有している。ロータハブ31は、ロータ3の主要部を構成する部分であり、後述するシャフト41と締結されている。ディスク載置部32は、記録ディスク(図示せず)を載置するためのものであり、ロータハブ31の外周側かつ軸方向下側に配置されている。本実施形態では、ロータハブ31とディスク載置部32とは一体成形されている。
バックヨーク33は、ロータハブ31の軸方向下側かつディスク載置部32の内周側に固定される筒状の部材である。ロータマグネット34は、バックヨーク33の内周側に固定されており、前述のステータ22と半径方向に対向して配置されている。なお、小型モータにおいては、ロータハブが磁性体の場合、バックヨークを一体に形成することが多い。ロータマグネット34とステータ22とにより、ロータを回転駆動するための磁気回路部が構成されている。すなわち、ステータ22のコイルに通電することでロータマグネット34に回転力が発生し、ロータ3が回転駆動される。ロータ3は、ベースプレート2に対して流体軸受装置4により回転自在に支持されている。
[流体軸受装置4の構成]
図2に流体軸受装置4の縦断面概略図を示す。流体軸受装置4は、ベースプレート2に対してロータ3を回転自在に支持するためのもので、スリーブ42と、シャフト41と、スラストプレート44と、スラストフランジ43とを有している。
スリーブ42は、流体軸受装置4の静止側の部材であり、ベースプレート2の筒状部21a(図1参照)の内周側に挿嵌された筒状の焼結金属製部材である。スリーブ42は、さらにスリーブ本体42aと、少なくとも1つの(ここでは複数の)第1動圧発生用溝71a、71bと、筒状突出部42bと、固定部42dと、シール部42eとを有している。スリーブ本体42aは、スリーブ42の主要部を構成する筒状の部分である。第1動圧発生用溝71a、71bは、スリーブ本体42aの内周面に成形され円周方向に均等に配置された溝であり、例えば、ヘリングボーン形状を有している。筒状突出部42bは、スリーブ本体42aの端部から軸方向に突出する環状の部分である。固定部42dは、筒状突出部42bの端部からさらに軸方向に突出する環状の部分である。固定部42dは、例えば、後述するスラストプレート44の外周部と接着もしくはカシメ加工されている。シール部42eは、スリーブ本体42aの軸方向上側端部の内周側に形成されているキャピラリーシール部である。
シャフト41は、流体軸受装置4の回転側の部材であり、スリーブ42の内周側に配置された円柱状の部材である。また、シャフト41は凹部41aを有している。凹部41aは、シャフト41の外周面に形成された環状の凹み部分であり、前述の第1動圧発生用溝71a、71bの軸方向間に相当する位置に配置されている。なお、凹部41aは、スリーブ側42に形成されることもある。
スラストフランジ43は、流体軸受装置4の回転側の部材であり、シャフト41の端部に固定されている。スラストフランジ43は、スリーブ42の筒状突出部42bの内周側に配置されている(スラストフランジ43は、シャフト41と一体に加工されることもある)。具体的には、スラストフランジ43は、スリーブ42とスラストプレート44との間に形成された空間に微小隙間を介して配置されている。スラストフランジ43は、スラストプレート44と軸方向に対向する面に第2動圧発生用溝72aを有している。また、スラストフランジ43は、スリーブ本体42aと軸方向に対向する面に第3動圧発生用溝73aを有している。なお、第2動圧発生用溝72aは、スラストプレート44に成形されていてもよいし、第3動圧発生用溝73aは、スリーブ42の端部に成形されていてもよい。
以上に述べたように、この流体軸受装置4では、第1動圧発生用溝71a、71bを有するスリーブ42、シャフト41およびその間に介在する作動流体としての潤滑油46により、ロータ3を半径方向に支持するラジアル軸受部71が構成されている。ここで作動流体としては、潤滑油の他に高流動性グリスやイオン性液体も使用することができる。また、第2動圧発生用溝72aを有するスラストフランジ43、スラストプレート44およびその間に介在する潤滑油46により、ロータ3を軸方向に支持するメインスラスト軸受部72が構成されている。さらに、第3動圧発生用溝73aを有するスラストフランジ43、スリーブ42およびその間に介在する潤滑油46により、サブスラスト軸受部73が構成されている。そして、各部材が相対回転することで、各軸受部においてシャフト41の半径方向および軸方向の支持力が発生する。したがって、スリーブ42は流体軸受装置4にとって非常に重要な部材であると言える。
[スリーブ42の詳細]
前述のように、本発明の一実施形態に係るスリーブ42は焼結金属製である。燒結金属製スリーブは、製造コストの低減を目的として、金属材料からの切削加工等に代えて製造される。ここでは、焼結金属の特性についてより詳細に説明する。
焼結金属は、内部に多数の気孔(金属粉末の間に形成される小さな空間)を有している。気孔には、「組織気孔」と呼ばれる焼結体の内部の気孔と、「表面気孔」と呼ばれる焼結体の表面に開口している気孔とがある。一般的に焼結金属製スリーブでは、表面気孔と組織気孔とが連通しているため、潤滑油が気孔を通って焼結金属の内部を通り抜けることができる。このため、図1,2に示すような、流体軸受装置4のスリーブ42を焼結金属製とした場合、潤滑油46がスリーブ42内部に染み込む。そして、潤滑油46が気孔を通ってスリーブ42内部を通り抜けて、ラジアル軸受部71で発生した支持圧がスリーブ42の外周側へ抜ける。この結果、例えば、ラジアル軸受部71で発生する支持圧が低下し、ラジアル軸受部71の剛性が低下してしまう。
そこで、本発明のスリーブ42においては、潤滑油46の染み込み量を少なくするために、気孔を封じる封孔処理を焼結金属に施している。
ここで、封孔処理の内容について、図3に示すスリーブ42の縦断面概略図(左半分)を用いて説明する。
スリーブ42は、主に、内層部50と、表層部51とから構成されている。
内層部50は、焼結用金属粉末を成形して焼結した筒状の部分である。
表層部51は、緻密で安定的な酸化皮膜であり、内層部50の表面を覆っている。また、表層部51は、内層部50のすぐ表面に四酸化三鉄(Fe34)で形成されるFe34層51a(四酸化三鉄(Fe34)が50%以上含まれる層)と、Fe34層51aの表面、すなわち、スリーブ42の表面に三酸化二鉄(Fe23)で形成されるFe23層51b(三酸化二鉄(Fe23)が50%以上含まれる層)とを有している。なお、Fe34層51aと、Fe23層51bとの間には、四酸化三鉄(Fe34)と三酸化二鉄(Fe23)との両者が混合する混合層が形成される場合もある。また、Fe34層51aの下層には、酸化鉄(FeO)によるFeO層が形成される場合もある。そして、表層部51は、多孔質な焼結製スリーブ42の空孔を適切に封孔する。本実施形態のスリーブ42においては、表層部51の厚みが1.0μmであり、その内訳は、Fe34層51aが約0.7μm、Fe23層51bが約0.3μmである。
これにより、スリーブ42の表面を適切に封孔することができ、上述した気孔を通ってラジアル軸受部71の支持圧が抜けるのを防止できるとともに、製造コストをより確実に低減することができる。
[スリーブ42の製造方法]
以下に、本発明の一実施形態に係るスリーブ42およびその製造方法の詳細について説明する。図4に本実施形態としてのスリーブ42の製造方法のフロー図を示す。図4に示すように、本製造方法は、ステップS1〜ステップS7を含んでいる。なお、ステップS1〜ステップS4は、焼結成形体の製作を概略的に示したものであり、以下に示す以外の方法で焼結成形体を製作しても構わない。
ステップS1では、例えば、鉄を含む金属粉末を成形用の型に充填する。
ステップS2では、例えば、成形用の上型と下型とを用いてステップS1において充填された金属粉末材料を圧縮し、成形体を成形する。
ステップS3では、ステップS2において圧縮された成形体を高温で焼結する。
ステップS4では、成形体を冷間プレス加工(サイジング)して、成形体の表面気孔を改善する。これにより、酸化皮膜で封孔できないような大きさの表面気孔を小さくすることができるので、より確実に表面封孔することが可能となる。
このようにして製作された金属粉末を成形し焼結された成形体のスリーブに、本願発明の一実施形態である封孔処理を施す。
ステップS5(第1の工程)では、ステップS3において焼結された成形体にスチーム(水蒸気)処理が施される。具体的には、成形体をスチーム処理炉内に格納し、例えば、約500℃の高温水蒸気に約30分から2時間程度接触させて、成形体の表面を高温酸化させる。これにより、下記反応式(1)に示すように、成形体の表面側から順に酸化されていき、成形体の表面に四酸化三鉄(Fe34)を含んだ表層部51を形成することができる。
3Fe+4H2O→Fe34+4H2・・・(1)
ステップS6(第2の工程)では、ステップS5においてスチーム処理された成形体を第1の所定の温度まで冷却してから大気開放する。このとき、スチーム処理炉内における成形体の温度が300℃を下回らないように管理する。これにより、四酸化三鉄(Fe34)を含む表層部51と大気中の酸素とを新たに反応させることが可能となり、表層部51の表面には、下記反応式(2)に示すように、三酸化二鉄(Fe23)のFe23層が形成される。
4Fe34+O2→6Fe23・・・(2)
この結果、ステップS5において形成された四酸化三鉄(Fe34)のFe34層51aの表面部分が変化して、新たに酸化された三酸化二鉄(Fe23)のFe23層が形成される。本実施形態においては、開放する雰囲気を大気としたが、これ以外の、例えば、酸素を含んだ気体(窒素等の不活性ガス)であってもよい。
ステップS7(第3の工程)では、ステップS6の大気開放後のスチーム処理炉内における成形体の温度が第2の所定の温度(約200℃)となるまでの冷却時間を制御する。これにより、安定したFe23層を形成することが可能となる。本実施形態においては、第2の所定の温度を200℃としているが、これに限るものではない。また、必ずしも成形体をスチーム処理炉内に放置する必要はなく、スチーム処理炉の外に出して、成形体の温度を制御してもよい。そして、この時間は、1〜5分程度であるがこれに限るものではない。なお、第3の工程はなくても、第2の工程だけで三酸化二鉄(Fe23)層を形成してもよいが、同じ層厚を形成するのに時間がかかる。
以上に示したような条件でスリーブ42を製造することにより、スリーブ42の表面に層厚が約0.7μmのFe34層51aと、層厚が約0.3μmのFe23層51bとにより構成される表層部51を形成することができる。
ここで、本実施形態におけるスチーム処理と、従来の四酸化三鉄(Fe34)のみで形成されるFe34層を形成するスチーム処理(以下、従来のスチーム処理と示す)とを、それぞれ図5(a),図5(b)を用いて比較する。
スチーム処理をするにあたっては、まず最初に、水蒸気を接触させる前に窒素パージによって酸素分圧を低減する。これにより、加熱時に成形体の表面が必要以上に酸化することを防止する。なお、この処理は、両製造方法に共通する処理である。なお、パージ処理には、窒素の代わりに他の不活性ガスを使用することも可能である。
次に、スチーム処理炉内が十分に加熱できたところで(本実施形態においては、約500℃)、成形体を高温水蒸気に約30分から2時間程度接触させる。これにより、高温の状態で成形体の表面を酸化(下記反応式(1)参照)させることができる。
3Fe+4H2O→Fe34+4H2・・・(1)
なお、この処理も両製造方法に共通する処理である。
次に、成形体に高温蒸気を接触させた後における残存酸素を管理する。具体的には、窒素パージを所定時間、所定流量行うことによって、スチーム処理炉内の酸素分圧をコントロールする。
次に、スチーム処理炉を大気に開放する。ここで、従来のスリーブの製造方法においては、大気中の酸素と新たな酸化反応が起こらないように、スチーム処理炉内の温度を、例えば、200℃等にまで十分に下げてから大気に開放する必要があった。このため、成形体に高温水蒸気を接触させた後、十分な時間の経過が必要となり、図5(b)に示すDに該当する箇所(第2の所定の温度)まで大気開放することができなかった。一方、本発明の実施形態における製造方法においては、成形体の表面に形成された四酸化三鉄(Fe34)を含む表層部と大気中の酸素と新たな酸化反応(下記反応式(2)参照)を確実に起こさせるために、炉内の酸素分圧を従来よりも大きくし、その後、スチーム処理炉内の温度が、例えば、300℃等の温度(第1の所定の温度)で大気に開放する。
4Fe34+O2→6Fe23・・・(2)
これにより、四酸化三鉄(Fe34)を含む表層部51と大気中の酸素とが反応し、表層部51の表面部分のFe34層が新たに酸化されてFe23層が形成される。この結果、成形体に高温蒸気を接触させた後、図5(a)に示すCに該当する箇所(第1の所定の温度)で大気開放することが可能となり、従来の製造方法と比べて、その処理時間を短くすることが可能となる。
以上に示したように、スチーム処理炉を大気に開放するまでの時間を従来の製造方法と比べて大幅に短縮することができ、スチーム処理におけるタクトを短くすることができる。この結果、スリーブ42を適切に封孔処理するためのコストを低減することが可能となる。
(実施例1)
ここでは、Fe23層51bが形成されたスリーブ42の耐摩耗性を確認するための実験を行った。具体的には、図6(a)に示すように、回転するシャフト81に対して、Fe23層が形成されたV断面形状の試験片80を押しつけ、その場合のFe23層の摩耗量(摩耗深さ/幅)について計測を行った。
この結果、Fe23層51bの層厚とFe23層の摩耗量との関係を示す図6(b)の結果を得ることができた。これによれば、スリーブ42の表面を形成するFe23層の層厚が2μmより厚いと、急激に摩耗量が増えることが確認できた。
なお、Fe23層の層厚が2μmより厚いと急激に摩耗量が増えることは、以下の理由によるものと推測する。
1つ目は、Fe23層は、一般的にもろい性質を有しているので、Fe23層の層厚が2μmを超えたぐらいから剥離/脱落が始まり、その剥離/脱落した破片がFe23層と接触するようになりFe23層の摩耗をさらに増大させる。
2つ目は、Fe23層は、一般的にその層厚を厚くすると表面粗さが荒くなる性質を有している。このため、試験片の表面は点接触、すなわち、応力が大きな状態で接触するようになるので、Fe23層は摩耗されやすくなる。そして、発生した摩耗粉がFe23層と接触するようになり、Fe23層の摩耗を増大させる。
以上のことから、スリーブ42の表面に形成されるFe23層の層厚は、2μm以下であることが望ましい。なお、本実施形態のスリーブ42の製造方法においては、膜厚が0.3μmのFe23層が形成されるので、十分な耐摩耗性を有していることが確認できた。
[スピンドルモータ1の特徴]
(1)
本実施形態のスピンドルモータ1においては、スリーブ42の表面に三酸化二鉄(Fe23)を含む表層部51を形成し封孔処理を行っている。
これにより、四酸化三鉄(Fe34)のみで形成される封孔処理に比べて、スチーム処理後の大気開放温度を高く設定することできるので、スチーム処理におけるタクトを短くすることが可能となる。この結果、スリーブ42を適切に封孔処理するためのコストを低減することを可能としている。
(2)
本実施形態のスピンドルモータ1においては、表層部51を、内層部50側に四酸化三鉄(Fe34)によって形成されるFe34層51aと、表面側に三酸化二鉄(Fe23)によって形成されるFe23層51bとの少なくとも2層を含む構造としている。
これにより、スリーブ42の多孔質表面を適切に封孔し、より安定な表面にすることを可能としている。また、スリーブ42を流体軸受装置4として組み立てた後の酸化を防止することを可能としている。
(3)
本実施形態のスピンドルモータ1においては、表層部51の厚みが1.0μmであり、その内訳は、Fe34層51aが約0.7μm、Fe23層51bが約0.3μmである。このため、Fe23層51bの厚みは、表層部51の厚みの50%以下である。
これにより、三酸化二鉄(Fe23)特有のもろさを解消し、スリーブ42表面の耐摩耗性を確保することを可能としている。
(4)
本実施形態のスピンドルモータ1においては、Fe34層51aが2.0μm以下である。
これにより、三酸化二鉄(Fe23)特有のもろさを解消し、スリーブ42表面の耐摩耗性を確保することを可能としている。
[スリーブ42の製造方法の特徴]
(1)
本実施形態のスリーブ42の製造方法においては、図4に示すように、ステップS5におけるスチーム処理の後、スチーム処理炉を大気開放する温度を制御するステップS6を備えている。
これにより、焼結用金属粉末から成形される成形体の表面に、三酸化二鉄(Fe23)のFe23層51bを含む表層部51を形成することができる。そして、この場合、表層部51を四酸化三鉄(Fe34)のFe34層のみで形成することに比べ、ステップS5の後の大気開放温度を高い温度に設定することできるので、ステップS5〜ステップS7におけるタクトを短くすることが可能となる。この結果、スリーブ42を適切に封孔処理するためのコストを低減することを可能としている。
(2)
本実施形態のスリーブ42の製造方法においては、ステップS6においてスチーム処理炉を開放する際、スチーム処理炉内における成形体の温度が300℃以上となるようにしている。
これにより、四酸化三鉄(Fe34)のFe34層51aの表面に、三酸化二鉄(Fe23)のFe23層51bをより効果的に形成することを可能としている。
(3)
本実施形態のスリーブ42の製造方法においては、図4に示すように、ステップS6におけるスチーム処理炉の開放の後、スチーム処理炉内における成形体の温度が第2の所定の温度になるまでの冷却時間を制御するステップS7をさらに備えている。
これにより、四酸化三鉄(Fe34)のFe34層51aの表面に、三酸化二鉄(Fe23)のFe23層51bを安定的に形成することを可能としている。
[他の実施形態]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
(A)
上記実施形態のスリーブ42の製造方法では、ステップS5におけるスチーム処理の後、スチーム処理炉を大気開放する際の成形体の温度を制御する例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、ステップS5におけるスチーム処理の後のステップS6として、スチーム処理炉の酸素分圧(残存酸素)を制御しても、上記の実施形態に係るスリーブ42の製造方法と同様の効果を得ることができる。
具体的には、例えば、約550℃でスチーム処理した後、スチーム処理炉内の酸素分圧が、1×10-14を下回らないように制御する。これにより、成形体の表面には酸化鉄の一つである三酸化二鉄(Fe23)を含んだ表層部51を形成することができる。
ここで、従来の四酸化三鉄(Fe34)のみで形成されるFe34層を形成するスチーム処理と比較する。
ステップS6におけるスチーム処理炉の酸素分圧制御は、本実施形態においては、図5(a)に示されるA、従来の製造方法においては、図5(b)に示されるBに該当する。
そして、酸素分圧の制御は、具体的には、スチーム処理炉内において所定時間、所定流量の窒素パージを行う。ここで、従来のスリーブの製造方法においては、残存酸素を極力少なくするために、図5(b)のBに該当する箇所において、窒素パージを十分に行い、酸素分圧(残存酸素量)を厳密に管理する必要がある。具体的には、酸素分圧を1×10-14より少なくなるように厳密に管理する。そして、これらの環境を実現するにあたっては、厳密なシール処理や真空ポンプ等による減圧処理等が必要である。一方、本発明の実施形態における製造方法においては、図5(a)のAに該当する箇所において、酸素分圧が1×10-14より少なくならないように管理すればよい。そして、一般的なスチーム処理炉内においては、残存酸素に対する厳密な管理をしなくても、その環境を満たすことができる。このように、本発明の製造方法は、従来の製造方法に比べて、スチーム処理後のスチーム処理炉内における残存酸素の管理負担を大幅に低減することができる。
ここで、ステップS6において、成形体の温度が約550℃のときスチーム処理炉の酸素分圧を1×10-14より大きくなるように制御する妥当性について検証する。
図7は、酸化物の自由エネルギー・温度図であり、俗にエリンガムダイアグラムと呼ばれている。横軸に温度、縦軸に生成ギブスエネルギーをとって、様々な酸化物について、各温度における標準生成エネルギーをプロットしたグラフである。そして、このダイアグラムから、金属酸化物を金属に還元するために、どのような還元剤をどの程度の温度で作用させればよいかを知ることができる。また、ある酸素分圧下において、金属が酸化されずに存在できるかを知ることができる。
ステップS5において、上述したように約550℃でスチーム処理しているので、4Fe34+O2=6Fe23の反応における約550℃の状態を確認すると、図7に示すとおり、酸素分圧を1×10-14を閾値として、Fe34の方向(還元)に反応が進みやすいのか、Fe23の方向(酸化)に進みやすいのかを確認することができる。これによれば、約550℃の状態における4Fe34+O2=6Fe23の反応は、酸素分圧が1×10-14以上あれば、Fe23を生成する方向に進みやすいことが確認できる。この結果、Fe23のFe23層51bを形成するためにステップS6において、成形体の温度が約550℃の状態でスチーム処理炉の酸素分圧を1×10-14より大きくなるように制御することは妥当であることが確認できた。
なお、図7に示されるエリンガムダイアグラムによれば、成形体の温度が約550度よりも低いときは、制御すべき酸素分圧が1×10-14よりも小さな値となり、成形体の温度が約550度よりも低いときは、制御すべき酸素分圧が1×10-14よりも大きな値となることが分かる。
(B)
上記実施形態のスリーブ42の製造方法では、ステップS4のスチーム処理において、500℃雰囲気温度内で高温水蒸気に約30分から2時間程度接触させる例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、580℃雰囲気温度内で高温水蒸気に2時間接触させてもよい。この場合、スリーブの表面に層厚が3.0μmのFe34層と、層厚が2.0μmのFe23層とにより構成される表層部を形成することができる。つまり、スチーム処理の温度と時間とを制御することにより、様々な表層厚の表層部を形成することが可能である。
このように、本実施形態の製造方法は、スチーム処理炉内の雰囲気温度とスチーム処理時間とを限定するものではない。そして、スチーム処理炉内の雰囲気温度とスチーム処理時間とを制御することによって、Fe34層の層厚と、Fe23層の層厚とが変化するが、Fe23層の層厚は、2.0μ以下、もしくは、表層部全体の50%以下とすることが耐摩耗性の観点から望ましい。
(C)
上記実施形態のスリーブ42の製造方法では、ステップS5におけるスチーム処理の後、スチーム処理炉を大気開放する際の成形体の温度を制御する例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、ステップS5におけるスチーム処理の後、スチーム処理炉の酸素分圧(残存酸素)を制御し、さらに、スチーム処理炉を大気開放する際の成形体の温度を制御してもよい。
この場合、スリーブの表面に酸化皮膜である表層部を形成する工程は、図8に示すように、金属粉末を成形用の型に充填(ステップS101)、金属粉末を圧縮して成形(ステップS102)、成形体を高温にて焼結(ステップS103)、冷間プレス加工による表面気孔の改善(ステップS104)、成形体を高温水蒸気に接触(ステップS105)、スチーム処理炉の酸素分圧を制御(ステップS106)、第1の所定の温度でスチーム処理炉を大気開放(ステップS107)、大気開放後の温度と冷却時間とを制御(ステップS108)といった順番で行われる。
(D)
上記実施形態のスリーブ42の製造方法では、ステップS7において、大気開放後の成形体の温度と冷却時間とを制御する例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
ステップS7は、任意の層厚を形成するための工程であり必須の工程ではない。ステップS7を省略しても、内層部のすぐ表面に四酸化三鉄(Fe34)のFe34層と、Fe34層の表面に三酸化二鉄(Fe23)のFe23層とを形成することができる。
(E)
上記実施形態のスリーブ42の製造方法では、ステップS6およびステップS7において、成形体の温度を直接制御する例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、スチーム処理炉内の温度を制御して、成形体の温度を間接的に制御してもよい。
(F)
上記実施形態のスピンドルモータ1においては、図1に示すような流体軸受装置4に本発明の一実施形態に係るスリーブ42を適用した例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、図9に示すような流体軸受装置100に本発明の一実施形態に係るスリーブ103を適用しても、上記実施形態のスピンドルモータ1と同様の効果を得ることができる。以下、流体軸受装置100について説明する。
流体軸受装置100は、図9に示すように、軸101、フランジ102、スリーブ103、オイル104、上カバー105、下カバー106、ロータ107、ベース108を備えている。
軸101は、フランジ102を一体的に有している。そして、軸101は、スリーブ103の軸受穴103Aに相対的に回転自在に挿入されている。フランジ102は、スリーブ103の下面に対向して配置されている。軸101の外周面またはスリーブ103の内周面の少なくともいずれか一方には、動圧発生溝103Bが設けられている。また、スリーブ下面103Cまたはフランジ102のスリーブ下面103Cとの対向面の少なくともいずれか一方には、動圧発生溝102Aが設けられている。上カバー105と下カバー106とは、スリーブ103またはロータ107に固着されている。各動圧発生溝103B、102Aの付近の軸受隙間は、少なくとも潤滑油104で充満されている。ロータ107には、ディスク109が固定されている。ベース108には、軸101が固定されている。ロータ107には、図示しないロータ磁石が取り付けられている。ベース108には、ロータ磁石に対向する位置に図示しないモータステータが固定されている。スピンドルモータは、ディスク状記録媒体を回転駆動するものに使用されるモータであるが、ファンをつけてファンモータとして使用することも可能である。実際にパソコンに使用されるCPU冷却ファンとして使用されることもある。
(G)
上記実施形態では、本発明の一実施形態係るスリーブ42をスピンドルモータ1に対して適用した例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、図10に示すように、上記構成を有するスピンドルモータ1を搭載しており、記録ヘッド200aによって記録ディスク201に記録された情報を再生したり、記録ディスク201に対して情報を記録したりする情報記録再生処理装置200に対して本発明を適用することもできる。
これにより、コスト低減を目的に焼結金属によって成形されたスリーブ42を使用する場合であっても、高い性能と信頼性とを有する情報記録再生処理装置200を提供することが可能となり、さらに製造にかかるコストを低減させることが可能となる。
本発明の流体軸受装置用スリーブならびに流体軸受装置用スリーブの製造方法によれば、適切に封孔処理された流体軸受装置用スリーブを製造するためのコストを低減することが可能であり、また、軸受剛性の低下を防止することが可能であることから、高い性能と信頼性が要求されているスピンドルモータ、情報記録再生処理装置への適用が特に有用である。
本発明の一実施形態に係るスリーブを含むスピンドルモータの断面図。 図1のスピンドルモータに含まれる流体軸受装置の拡大断面図。 図2の流体軸受装置に含まれるスリーブの断面図。 本発明の一実施形態に係るスリーブの製造方法を示したフローチャート。 (a)は,本発明の一実施形態におけるスリーブの製造方法における各ステップの温度と時間の関係を示したグラフ、(b)は,従来のスリーブの製造方法における各ステップの温度と時間の関係を示したグラフ。 (a)は,本発明の一実施形態に係るスリーブの耐摩耗性を確認するための試験概要図、(b)は,Fe23層の層厚とFe23層の摩耗量との関係を示すグラフ。 本発明の他の実施形態に係るスリーブの製造方法を示したフローチャート。 本発明の他の実施形態に係るスリーブの製造方法を示したフローチャート。 本発明の他の実施形態に係るスリーブを含むスピンドルモータの断面図。 本発明の他の実施形態に係る流体軸受装置を含む情報記録再生処理装置の構成を示す断面図。
符号の説明
1 スピンドルモータ
2 ベースプレート
3 ロータ
4 流体軸受装置
21 ブラケット部
21a 筒状部
22 ステータ
31 ロータハブ
32 ディスク載置部
33 バックヨーク
34 ロータマグネット
41 シャフト
41a 凹部
42 スリーブ
42a スリーブ本体
42b 筒状突出部
42d 固定部
42e シール部
43 スラストフランジ
44 スラストプレート
46 潤滑油
50 内層部
51 表層部
51a Fe34
51b Fe23
71 ラジアル軸受部
71a 第1動圧発生用溝
72 メインスラスト軸受部
72a 第2動圧発生用溝
73 サブスラスト軸受部
73a 第3動圧発生用溝
80 試験片
81 シャフト
100 流体軸受装置
101 軸
102 フランジ
102A 動圧発生溝
103 スリーブ
103A 軸受穴
103B 動圧発生溝
103C スリーブ下面
104 潤滑油
105 上カバー
106 下カバー
107 ロータ
108 ベース
109 ディスク
200 情報記録再生処理装置
200a 記録ヘッド
201 記録ディスク

Claims (11)

  1. 焼結用金属粉末を焼結して形成される内層部と、
    前記内層部の表面に形成されるFe23を含む表層部と、
    を備えている流体軸受装置用スリーブ。
  2. 前記表層部は、前記内層部側に形成されるFe34層と、表面側に形成されるFe23層と、を有している、
    請求項1に記載の流体軸受装置用スリーブ。
  3. 前記Fe23層の厚みは、前記表層部の厚みの50%以下である、
    請求項2に記載の流体軸受装置用スリーブ。
  4. 前記Fe23層の厚みは、2μm以下である、
    請求項2または3に記載の流体軸受装置用スリーブ。
  5. 請求項1から4のいずれか1項に記載の流体軸受装置用スリーブを含んでいる、流体軸受装置。
  6. 請求項5に記載の流体軸受装置を備えている、スピンドルモータ。
  7. 請求項6に記載のスピンドルモータを備えている、情報記録再生処理装置。
  8. 焼結用金属粉末を成形し焼結した焼結成形体を炉内において水蒸気処理する第1の工程と、
    前記第1の工程後において、前記炉内の酸素分圧および前記炉内を酸素を含んだ気体雰囲気中に開放する際の温度の少なくとも一方を制御する第2の工程と、
    を備えている、流体軸受装置用スリーブの製造方法。
  9. 前記第2の工程における酸素分圧の制御は、所定の条件に基づいて酸素を他の気体と置換するパージを行う、
    請求項8に記載の流体軸受装置用スリーブの製造方法。
  10. 前記第2の工程において、前記炉内を酸素を含んだ気体雰囲気中に開放する際の前記焼結成形体の温度は300℃以上である、
    請求項8または9に記載の流体軸受装置用スリーブの製造方法。
  11. 前記第2の工程における前記炉内の開放の後、前記炉内または前記焼結成形体の温度と冷却時間とを制御する第3の工程をさらに備えている、
    請求項8から10のいずれか1項に記載の流体軸受装置用スリーブの製造方法。
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