(実施形態1)
以下、本発明のエンジンの冷却装置にかかる第1実施形態について説明する。図1は、上記エンジンの冷却装置が適用されたエンジン本体1の外観を示す斜視図である。本図に示されるエンジン本体1は、内部に複数のシリンダーを有するシリンダーブロック2と、このシリンダーブロック2の上部に取り付けられるとともに、内部に吸・排気ポート等を有するシリンダーヘッド3と、このシリンダーヘッド3の上面を覆うシリンダーヘッドカバー4とを備えている。なお、当実施形態におけるエンジン本体1は、4つの気筒(シリンダー)が一列に配置されたいわゆる直列4気筒型エンジンとして構成されている。
図2は上記シリンダーヘッド3単体の上面図、図3はシリンダーヘッド3単体の側面図、図4は図2のIV−IV線に沿った断面図、図5は図3のV−V線に沿った断面図である。これらの図に示すように、シリンダーヘッド3には、吸気弁5および排気弁7が1気筒あたり2つずつ設けられており、これら吸・排気弁5,7が、その上方に設けられた軸受部9に支持される2本のカムシャフト(図示省略)でそれぞれ駆動されることにより、吸気ポート23および排気ポート25がそれぞれ開閉されるようになっている。なお、図4および図5において符号19は点火プラグの取付孔である。
上記シリンダーブロック2およびシリンダーヘッド3の内部には、冷却水等の冷却液が流通する冷却ジャケットがそれぞれ設けられており、このうち、シリンダーヘッド3の内部の冷却ジャケットは、図4および図5に示すように、メインジャケット部13およびサブジャケット部15を有している。
具体的に、上記メインジャケット部13は、シリンダーブロック2側の冷却ジャケットと連通して気筒列方向(点火プラグの取付孔19の並び方向)に延びるように設置され、その一部が、各燃焼室の頂部を構成するシリンダートップ部11の上方で、かつ1気筒あたり2つ設けられた上記各排気ポート25,25の間に位置するように設けられている。なお、図5に示される断面には、メインジャケット部13のうち、上記各排気ポート25,25の間に位置する部分が表れており、これら各部は、上記メインジャケット部13の主要部として気筒列方向に延びる図外のメインジャケット主要部に連通している。一方、上記サブジャケット部15は、上記メインジャケット部13から離間した位置に区画形成されており、上記シリンダートップ部11の排気ポート25側の側方部において気筒列方向に延びるように設置されている。
また、上記メインジャケット部13とサブジャケット部15との間には、これら両ジャケット部13,15どうしを連通するとともに、上記メインジャケット部13の内壁のうち上記2つの排気ポート25,25の間に位置しかつ上記シリンダートップ部11に近接する部分である熱影響部13aを指向するように延びる指向性通路17が設置されている。
すなわち、上記熱影響部13a(図4では黒塗りで示す)は、シリンダートップ部11の上壁部のうち上記2つの排気ポート25,25の間に位置するためにエンジンの高負荷域で特に高温になり易いいわゆるバルブブリッジ部に最も近接する部分であるため、このバルブブリッジ部からなる高温部H(図4では網掛けで示す)を集中的に冷却すべく、上記指向性通路17が設けられている。より具体的には、エンジンの負荷が高まったときに、上記サブジャケット部15内の冷却液が上記指向性通路17を介してメインジャケット部13に流れ込むことにより、図4の矢印に示すように、上記メインジャケット部13の熱影響部13aに集中的に冷却液が導入され、これによって上記高温部Hが効率よく冷却されるようになっている。なお、このようにして冷却液を熱影響部13aに向けて流入させるための具体的構成については、後に詳述する。
また、図4に示すように、上記指向性通路17の内部には、軸方向に摺動可能な筒状のノズル部材70が設けられている。
図6および図7は、上記ノズル部材70の具体的構成を示す断面図である。これらの図に示すように、上記ノズル部材70の内部には、このノズル部材70を軸方向に貫通する貫通路72が設けられており、図7の白抜き矢印に示すように、上記サブジャケット部15内の冷却液が、上記貫通路72を通って反対側のメインジャケット部13に流入するようになっている。また、ノズル部材70の軸方向中間部には、その周壁を貫通する開口部70bが設けられている。なお、以下では、メインジャケット部13が位置する図中右側をノズル部材70の前側、その反対側をノズル部材70の後側として説明を進めることにする。
上記指向性通路17は、比較的小さい内径をもって前後方向に延びる小径部59と、この小径部59よりも大きい内径をもって前後方向に延びる大径部58とを前側および後側に有した段付きの通路によって構成されている。図6に示すように、上記大径部58の壁面と上記ノズル部材70の外周面との間には所定の隙間が形成されており、この隙間部と上記ノズル部材70の貫通路72とが上記開口部70bを介して連通されている。そして、後述するように、サブジャケット部15の圧力が高くなると、その圧力に応じて上記ノズル部材70が前進する一方、その前進量が所定量に達して図7に示すように、上記開口部70bが上記小径部59の壁面によって塞がれると、上記ノズル部材70の前進が停止するようになっている。
また、上記指向性通路17の大径部58および小径部59の間には段部55が形成されており、この段部55と、上記ノズル部材70の底部70aとの間には、上記ノズル部材70を指向性通路17の入口側(つまりサブジャケット部15側)に向かって付勢する付勢手段74が設けられている。
上記構成において、後述するサブ冷却回路29の制御弁47(図8)が開いているためにサブジャケット部15内の冷却液の圧力が低い状態では、上記付勢手段74の付勢力によりノズル部材70が図6に示される後退位置に保持される一方、上記制御弁47が絞り操作されてサブジャケット部15内の冷却液が高められると、このサブジャケット部15側の水圧と上記メインジャケット部13側の水圧との圧力差に応じ、上記ノズル部材70を前方側(つまりメインジャケット部13側)に押し出す押出力F3(図7)が発生し、この押出力F3が、上記付勢手段74による付勢力等に抗して上記ノズル部材70を前方に移動させる。そして、その前進量が所定量に達して図7に示すように、上記ノズル部材70の開口部70bが上記小径部59の壁面により塞がれると、上記ノズル部材70と大径部58との隙間に冷却液が閉じ込められてその圧力が高まることにより、上記ノズル部材70の前進が停止することになる。
図8は、上記シリンダーブロック2やシリンダーヘッド3に冷却液を供給する冷却回路27の全体構成を示すブロック図である。本図に示すように、冷却回路27は、シリンダーブロック2内の冷却ジャケット31を介してシリンダーヘッド3内のメインジャケット部13に冷却液を供給するメイン冷却回路28と、上記シリンダーヘッド3内のサブジャケット部15に冷却液を供給するサブ冷却回路29とを有している。なお、図8では、サブ冷却回路29に専用に用いられる部材を破線で示し、それ以外の部材(つまりメイン冷却回路28に専用に用いられる部材または両回路28,29に共通の部材)を実線で示している。
上記メイン冷却回路28は、熱交換器や冷却ファン等からなるラジエータ32から導出された冷却液をシリンダーブロック2内の冷却ジャケット31に導入するための入口側配管33と、冷却液を循環させる駆動源としてこの入口側配管33の下流側に設けられた電動式のウォーターポンプ等からなる電動ポンプ34(本発明にかかるポンプ手段に相当)と、上記冷却ジャケット31やメインジャケット部13等を通ってシリンダーヘッド3の外部に導出された冷却液を上記ラジエータ32に戻すための出口側配管36と、上記シリンダーヘッド3の外部に導出された冷却液をラジエータ32を介することなく直接電動ポンプ34に戻すためのバイパス配管37とを有している。なお、図8において符号41は、冷却液を貯留するためのリザーバであり、符号42は冷却液の圧力を調節するための圧力調節弁である。
上記バイパス配管37は、排気ガスの再循環(EGR)を行うためのEGR通路上に設けられたEGRバルブ38、エンジン本体1の吸気量を調節するスロットルバルブ等からなるスロットルボディ39、および車室内の空調用に設けられた空調用ヒータ40の設置部をそれぞれ通過するように配設されている。
また、上記入口側配管33の下流側には、電気ヒータが組み込まれたいわゆるエレキサーモスタットからなるサーモスタット35(本発明にかかる温度調節手段に相当)が設けられている。このサーモスタット35は、冷却液の温度があらかじめ設定された所定温度未満であるときに、上記入口側配管33を閉じることにより、ラジエータ32で冷却された比較的低温の冷却液が上記シリンダーブロック2内に導入されるのを阻止するように構成されている。
以上のように構成されたメイン冷却回路28において、電動ポンプ34が作動すると、この電動ポンプ34から、シリンダーブロック2内の冷却ジャケット31や、シリンダーヘッド3内のメインジャケット部13に冷却液が導入され、その後、出口側配管36またはバイパス配管37のいずれかを通ってシリンダーヘッド3の外部に上記冷却液が導出される。このうち、出口側配管36側に分岐した冷却液は、ラジエータ32に導入されてそこで冷却された後、入口側配管33等を介して再び上記電動ポンプ34に戻される一方、バイパス配管37側に分岐した冷却液は、上記ラジエータ32を介することなく上記電動ポンプ34に直接戻される。なお、このとき、上記バイパス配管37を通る冷却液の熱は、上記EGRバルブ38、スロットルボディ39、および空調用ヒータ40を温めるために利用される。
このようにして冷却液が循環している間、上記サーモスタット35は、このサーモスタット35の設置部を通過する冷却液の温度があらかじめ設定された所定温度以上であるか否かに応じて、冷却液の循環経路を以下のように切り替えるように構成されている。
すなわち、冷却液の温度が設定温度未満であるエンジン冷間時には、サーモスタット35が閉じることにより、上記ラジエータ32から入口側配管33を介して供給される相対的に温度の低い冷却液が遮断され、上記シリンダーブロック2内には、上記シリンダーヘッド3からバイパス配管37を介して戻ってくる冷却液のみが導入される。これにより、冷却液の温度が設定温度に達するまで、シリンダーブロック2およびシリンダーヘッド3の内部を繰り返し冷却液が循環して温められる。一方、冷却液の温度が設定温度以上になった場合には、上記サーモスタット35が開くことにより、上記ラジエータ32から入口側配管33を介して供給される比較的低温の冷却液が上記シリンダーブロック2内に流れ込み、シリンダーブロック2およびシリンダーヘッド3内の冷却液の温度が上記設定温度以上に上昇することが防止されるようになっている。
上記サブ冷却回路29は、上記メイン冷却回路28と共通の電動ポンプ34から導出された冷却液をシリンダーヘッド3内のサブジャケット部15に導入するための入口側配管45と、上記サブジャケット部15からシリンダーヘッド3の外部に導出された冷却液を上記ラジエータ32に戻すための出口側配管48と、この出口側配管48の途中部に設けられた流量調節弁等からなる制御弁47とを有している。そして、このようなサブ冷却回路29において、上記電動ポンプ34が作動すると、この電動ポンプ34から入口側配管45を通じて上記シリンダーヘッド3内のサブジャケット部15に冷却液が導入され、その後、出口側配管48やラジエータ32等を介して上記冷却液が上記電動ポンプ34に戻されるようになっている。
また、上記サブ冷却回路29では、その出口側配管48に設けられた上記制御弁47が、エンジンの負荷状況に応じて開閉操作されることにより、上記サブジャケット部15を含む制御弁47の上流側の圧力(背圧)が調節され、これに応じて上記サブジャケット部15と上記メインジャケット部13との間の冷却液の流通が制御されるように構成されている。
具体的に、スロットル開度が小さいエンジンの低負荷域では、上記制御弁47の開度が全開もしくはこれに近い開度に維持されることにより、上記サブジャケット15内の冷却液の圧力が、メインジャケット部13内の冷却液の圧力と略バランスするような値に維持され、これら両ジャケット部13,15間での冷却液の流通がほとんど生じないようになっている。一方、スロットル全開時等のエンジンの高負荷域では、上記制御弁47が閉方向に操作されて上記出口側配管48の流路が絞られることにより、その上流側に位置する上記サブジャケット部15の圧力がメインジャケット部13よりも高められ、これに応じて上記サブジャケット部15内の冷却液が指向性通路17を介してメインジャケット部13に流入する。
ここで、図9に示すように、エンジンの高負荷域で絞り操作される上記制御弁47の開度Sは、エンジンの回転数(rpm)が高いほどより低い開度まで絞り操作される。これは、エンジンの高負荷域(スロットル開度が高い状態)の中でも、エンジンの回転数が高いためにその燃焼熱量がより大きい場合には、上記制御弁47をより低開度に設定して上記サブジャケット部15からメインジャケット部13に勢いよく冷却液を流入させることで、シリンダーヘッド3の高温部Hをより効率よく冷却するためである。
また、図9に示すように、上記のような制御弁47の絞り操作は、エンジンの回転数が高いほどより広いスロットル開度Kの範囲で行われる。すなわち、エンジンの回転数が低い場合には、スロットル開度Kが全開(100%)付近の開度K0にまで増大操作されない限り、上記制御弁47の絞り操作は行われないが、エンジンの回転数が高い場合には、スロットル開度Kが中程度の開度K0”以上に増大操作されれば、上記制御弁47の絞り操作が行われる。そして、その絞り後の開度Sは、上記開度K0”以上のより大きい開度にスロットル開度Kが増大操作されれば、これに応じてより低い開度まで絞られる。なお、エンジンの回転数が中程度である場合には、上記開度K0およびK0”の中間値K0’以上にスロットル開度Kが増大操作されたときに、上記制御弁47の絞り操作が行われることになる。
以上のように構成された冷却回路27には、上記電動ポンプ34やサーモスタット35等の動作を制御する図外の制御ユニットが設けられている。そして、この制御ユニットによる制御に基づき、上記冷却回路27は、エンジンの負荷状況に応じて例えば以下のような動作を実行するように構成されている。
図10は、上記冷却回路27の制御動作の一例を示すタイムチャートである。ここでは、図10(a)に示すように、ある時刻t1を境に、運転者がアクセルペダルを踏み込む等により、スロットル開度K(%)が低開度K1(例えば0〜20%程度)から高開度K2(例えば100%もしくはその近傍)に増大操作された場合について説明する。すなわち、本図では、時刻t1より前がエンジンの低負荷域、時刻t1以後がエンジンの高負荷域となる。
上記のように時刻t1でスロットル開度がK2まで増大操作されてエンジンが高負荷域に遷移すると、これに応じて図10(b)に示すように、エンジンの燃焼熱量J(cal)が所定量増大する。このとき、当該燃焼熱によってシリンダーヘッド3の温度が過度に上昇するのを防止すべく、図10(c)に示すように、上記冷却回路27内を循環する冷却液の流量Q(m3/h)がQ1からQ2に増大される。すなわち、上記冷却回路27における電動ポンプ34の出力をアップしてその吐出量を所定量増大させる制御が実行されることにより、上記冷却液の流量Q(つまりメイン冷却回路28とサブ冷却回路29のトータルの流量)がQ1からQ2に増大される。
さらに、これに合わせて図10(d)に示すように、上記電動ポンプ34からシリンダーブロック2やシリンダーヘッド3に供給される冷却液の温度T(℃)が、上記時刻t1より前の時点(低負荷域)における比較的高めの温度T1(例えば130℃程度)から、これよりも低い温度T2(例えば80℃程度)に下げられる。
すなわち、時刻t1より前の低負荷域では、上記冷却回路27におけるサーモスタット35の設定温度がT1に設定されることにより、メイン冷却回路28の液温がこの温度T1に維持されるが、上記時刻t1で高負荷域に遷移すると、この時点でサーモスタット35の電熱線が強制的に通電され、サーモスタット35が常に開いた状態となる。これにより、ラジエータ32で冷却された比較的低温の冷却液が電動ポンプ34に戻されるため、この電動ポンプ34からシリンダーブロック2やシリンダーヘッド3に供給される冷却液の温度Tが温度T2まで徐々に低下することになる。
ところで、上記構成によれば、エンジンの低負荷域での冷却液の液温が、図10(d)に示したように比較的高めに設定されているが、これは、熱的にまだ余裕のあるエンジンの低負荷域において、冷却液の温度を必要以上に下げないようにすることで、冷却損失を低減して燃費の改善等を図るためである。
ただし、このように低負荷域での冷却液の温度を高くすると、低負荷域から急激に高負荷域に移行した際に、図10(f)に示すように、シリンダーヘッド3における2つの排気ポート25,25の間の部分の温度Td(℃)、つまり、シリンダートップ部11の上壁部のうち各排気ポート25,25の間に位置する高温部H(図4)の温度Td(℃)が過度に上昇し、ノッキング(エンジンノック)の発生やトルクの低下等を招くおそれがある。
すなわち、上記電動ポンプ34から供給される冷却液の温度Tは、図10(d)のように徐々に低下するものであり、これを瞬時に目標温度(T2)まで低下させることはできないため、上記のような制御だけでは、図10(f)の一点鎖線に示すように、上記高温部Hの温度Tdが信頼性基準値Ta(エンジンの燃焼状態を良好に維持することが可能な上限温度)を超えてしまい、ノッキングの発生やトルクの低下等の問題が生じ易くなる。
そこで、当実施形態では、図10(e)に示すように、エンジンが低負荷域から高負荷域に遷移した上記時刻t1の時点で、上記サブ冷却回路29の制御弁47を閉方向に操作し、その開度S(%)を、全開付近の開度S1からそれより小さい開度S2に絞ることにより、上記サブジャケット部15内の冷却液の圧力をメインジャケット部13よりも高め、これに応じて図4の矢印に示すように、上記サブジャケット部15内の冷却液を、上記指向性通路17を介してメインジャケット部13に流入させるようにしている。これにより、メインジャケット部13に集中的に冷却液が導入され、このメインジャケット部13に近接するシリンダーヘッド3の高温部H、すなわち、シリンダーヘッド3の各排気ポート25,25の間に位置するためにエンジンの高負荷域で特に高温になり易い上記高温部Hが効率よく冷却される。この結果、図10(e)の実線に示すように、上記シリンダーヘッド3の高温部Hの温度(排気ポート間温度)Tdが、時刻t1以後の高負荷域においても上記信頼性基準値Ta以下に抑制されることになる。なお、上記時刻t1で絞り操作される上記サブ冷却回路29の制御弁47の開度は、図9に示したように、エンジンの回転数が高いほど小さく、エンジンの回転数が低いほど大きく設定されることになる。
しかもこのとき、上記指向性通路17が、図4に示したように、メインジャケット部13の熱影響部13aを指向して延びるように設置されていることから、上記サブジャケット部15からこの指向性通路17を介してメインジャケット部13に流入する冷却液は、上記熱影響部13a、つまり、メインジャケット部13の内壁のうちシリンダーヘッド3の高温部Hに最も近接する部分に正確に到達する。これにより、シリンダーヘッド3の高温部Hがより効率よく冷却され、その温度上昇がより効果的に抑制される。さらには、上記のようにしてサブジャケット部15から流入してくる冷却液の圧力に応じ、ノズル部材70が図7に示すように前方に移動してその先端部が上記メインジャケット部13の熱影響部13aに接近することにより、上記サブジャケット部15から流入してくる冷却液が、上記ノズル部材70を通じて確実に上記熱影響部13aに到達するため、熱的に厳しい上記高温部Hの冷却効率がさらに向上するという利点がある。
なお、上記高負荷域への遷移の際には、上記ラジエータ32の冷却ファン(電動ファン)が強制的に高回転に制御されることにより、冷却性能がさらに高められるようになっている。
ところで、上記構成において、制御弁47が時刻t1で絞り操作されてからしばらく時間が経過すると、サブ冷却回路29における冷却液の流通抵抗が増大して上記サブジャケット部15に導入される冷却液の流量が減少し、このサブジャケット部15内の冷却液の圧力が減少するため、サブジャケット部15からメインジャケット部13に冷却液が流入する上記のような現象が起きなくなると考えられるが、当実施形態では、上記時刻t1からしばらく時間が経過したときに、図10(d)に示したように、上記冷却回路27を循環する冷却液が相対的に低い温度T2まで低下するように構成されているため、上記のようなメインジャケット部13への冷却液の流入が起きなくなったとしても、その時点でシリンダーヘッド3に対する冷却能力が大きく低下することはなく、上記シリンダーヘッド3の温度上昇を抑制する効果は引き続き十分なレベルに維持されることになる。
上記のように1気筒あたり2つの排気ポート25,25を有し、複数の気筒が列状に配置されたエンジンのシリンダーヘッド3等に冷却回路27を介して冷却液を供給するエンジンの冷却装置において、上記シリンダーヘッド3の内部に、シリンダートップ部11(各燃焼室の頂部)の上方でかつ上記2つの排気ポート25,25の間に位置する部分を含んで気筒列方向に延びるメインジャケット部13と、このメインジャケット部13から離間した排気ポート25側の位置に区画形成されて気筒列方向に延びるサブジャケット部15とを設け、かつ上記メインジャケット部13とサブジャケット部15との間に、これら両ジャケット部13,15どうしを各気筒ごとに連通するとともに、上記メインジャケット部13の内壁のうち上記2つの排気ポート25,25の間に位置しかつ燃焼室に近接する部分である熱影響部13aを指向するように延びる指向性通路17を設け、少なくともスロットル全開時を含むエンジンの高負荷域で、上記冷却回路27に設けられた制御弁47を開閉操作して上記サブジャケット部15内の冷却液の圧力をメインジャケット部13よりも高めることにより、上記サブジャケット部15内の冷却液を上記指向性通路17からメインジャケット部13の熱影響部13aに向けて流入させるようにした上記第1実施形態の構成によれば、シリンダーヘッド3の高温部Hに対する集中冷却をエンジンの負荷状況に応じて選択的に実行できるため、エンジン負荷に応じた適正な冷却状態をつくり出してエンジン性能を効果的に向上させることができるという利点がある。
すなわち、上記構成によれば、エンジンのシリンダーヘッド3に、シリンダートップ部11の上方でかつ2つの排気ポート25,25の間に位置する部分を含んで気筒列方向に延びるメインジャケット部13と、このメインジャケット部13から離間した位置に区画形成されたサブジャケット部15とを設けるとともに、これら両ジャケット部13,15どうしを指向性通路17を介して連通し、さらにエンジン負荷が高まるスロットル全開時等に、冷却回路27の制御弁47を開閉操作して上記サブジャケット部15内の冷却液の圧力を高めることにより、当該冷却液を上記指向性通路17からメインジャケット部13に流入させるようにしたため、エンジンの高負荷域で特に高温になり易い上記シリンダーヘッド3の高温部H(つまりシリンダートップ部11の上壁部のうち各排気ポート25,25の間に位置する部分)を迅速かつ集中的に冷却してシリンダーヘッド3の温度上昇を効果的に抑制することができ、このシリンダーヘッド3の温度上昇に起因したノッキングの発生やトルクの低下等を効果的に防止することができる。一方、エンジンの低負荷域では、上記制御弁47を逆方向に操作して上記のようなメインジャケット部13への冷却液の流入を停止する等により、シリンダーヘッド3が必要以上に冷却されるのを防止してエンジンの冷却損失を低減し、その燃費を効果的に改善できる等の利点がある。なお、この低負荷域で、メインジャケット部13からサブジャケット部15に冷却液の一部が流れても、そのことによる特段の支障がなければ、この形態を否定するものではない。
しかも、上記構成では、指向性通路17が、上記メインジャケット部13の内壁のうち燃焼室に近接する部分である熱影響部13aを指向して延びるように設置されているため、上記サブジャケット部15からメインジャケット部13に指向性通路17を介して流入する冷却液を、図4の矢印に示すように上記熱影響部13aに確実に到達させることができ、この熱影響部13aを介して上記各排気ポート25,25の間の高温部Hをより効果的に冷却することができる。
なお、上記冷却回路27において、冷却液を循環させる駆動源としての電動ポンプ34とは別に、サブジャケット部15に冷却液を圧送する専用のポンプ(サブポンプ)を設け、エンジンが高負荷域に遷移したときに、このサブポンプの出力を増大させて上記サブジャケット部15内の冷却液の圧力を高めることにより、当該冷却液を上記指向性通路17からメインジャケット部13に流入させることも可能である。しかしながら、このように構成した場合には、冷却液を圧送するポンプが2つ必要になるため、上記冷却回路27の部品コストがある程度上昇することが避けられなくなる。これに対し、上記構成のように、冷却回路27に制御弁47を設け、この制御弁47を開閉操作することにより、上記のような冷却液の流入を生じさせるようにした場合には、冷却回路27の構造をより簡素化でき、その部品コストを効果的に低減できるという利点がある。
また、上記第1実施形態のように、メインジャケット部13に冷却液を供給するメイン冷却回路28と、サブジャケット部15に冷却液を供給するサブ冷却回路29とを有する冷却回路27のうち、上記サブ冷却回路29におけるサブジャケット部15の下流側に上記制御弁47を設け、エンジンが高負荷域に遷移したときに、上記制御弁47の開度を閉方向に操作することにより、上記サブジャケット部15を含む制御弁47の上流側の圧力(背圧)を高め、これに応じて上記サブジャケット部15内の冷却液をメインジャケット部13に流入させるようにした場合には、サブジャケット部15の下流側に設けられた上記制御弁47の開度を閉方向に操作するだけの簡単な構成で、上記サブジャケット部15内の冷却液の圧力を効果的に高めて当該冷却液をメインジャケット部13に容易に流入させることができる。一方、エンジンの負荷が低く、上記のような冷却液の流入が必要ないときには、上記制御弁47の開度を比較的高開度に維持することにより、上記サブジャケット部15とメインジャケット部13との間で冷却液の圧力を容易にバランスさせることができるため、エンジン負荷が低いにもかからず上記のような冷却液の流入が生じてシリンダーヘッド3が必要以上に冷却されること等を効果的に防止できるという利点がある。
また、上記第1実施形態のように、エンジンの高負荷域で閉方向に操作される上記制御弁47の開度が、エンジンの回転数が高いほど低く設定されるように構成されている場合には、エンジン負荷が高く、しかもエンジンの回転数が高いためにより大きな燃焼熱が発生する状況下で、上記制御弁47をより低い開度まで絞って上記サブジャケット部15からメインジャケット部13により勢いよく冷却液を流入させることができるため、エンジンの発生熱量に応じた適正な冷却能力でシリンダーヘッド3を効率よく冷却できるという利点がある。
また、上記第1実施形態では、冷却回路27内を循環する冷却液の温度を調節するサーモスタット35と、上記冷却液を圧送する電動ポンプ34とが、エンジンの高負荷域で上記冷却回路27の流量を増大させかつその温度を低下させるように制御されるため、エンジンが高負荷域に遷移したときに、エンジン全体に対する冷却能力を向上させつつ、上記のようにサブジャケット部15からメインジャケット部13に冷却液を流入させることにより、シリンダーヘッド3をより効果的に冷却できるという利点がある。
また、上記第1実施形態では、指向性通路17の内部に軸方向に摺動可能な筒状のノズル部材70が設けられ、エンジンが高負荷域に遷移したときに、上記ノズル部材70の先端部が上記指向性通路17からメインジャケット部13の熱影響部13aに向かって突出するように構成されているため、上記サブジャケット部15から流入してくる冷却液を上記ノズル部材70を通じて確実にメインジャケット部13の熱影響部13aに到達させることができ、シリンダーヘッド3の冷却効率をより効果的に向上させることができるという利点がある。
すなわち、エンジンが高負荷域に遷移したときに、ノズル部材70の先端部がメインジャケット部13側に突出して熱影響部13aに接近し、この熱影響部13aに接近したノズル部材70の先端部を通じて、上記サブジャケット部15内の冷却液がメインジャケット部13に流入するように構成されているため、この流入した冷却液が、メインジャケット部13内の冷却液と混じり合うことなく直接的に上記熱影響部13aに到達し、この熱影響部13aを介してシリンダーヘッド3がより効果的に冷却されるという利点がある。
また、上記第1実施形態では、エンジンの低負荷域での冷却液の温度(図10(d)における温度T1)を、高負荷域での温度(図10(d)における温度T2)に比して高く維持するようにしたため、エンジンの発生熱量がそれほど大きくない低負荷域において、エンジンの冷却損失をできる限り小さくして燃費を効果的に改善できるとともに、エンジンの高負荷域では、冷却液の温度を低くしてエンジンを適正温度に維持することにより、ノッキングの発生やトルクの低下等を効果的に防止できるという利点がある。
なお、上記第1実施形態では、図9に示したように、上記制御弁47の絞り操作が実行される際のスロットル開度Kの範囲を、エンジンの回転数が高いほど広く設定することにより、エンジンの回転数が高い場合には、スロットル開度Kが中程度の開度K0”以上に増大操作されれば、上記制御弁47が絞り操作されるように構成したが、エンジン回転数が高くかつスロットル開度Kが中程度の開度である場合には、上記制御弁47を絞る操作、つまり、サブジャケット部15からメインジャケット部13に冷却液を流入させてシリンダーブロック3の高温部Hを集中冷却する操作を行なわなくても、上記制御弁47を開いて冷却液の通水抵抗を低減し、これに応じて冷却液のトータルの流量を増大させることで、シリンダーヘッド3を適正に冷却できるということも考えられる。そして、このような場合には、上記制御弁47の開度制御を、例えば図11に示すようなグラフに基づき行うことも可能である。
すなわち、この図11では、エンジン回転数が高くかつスロットル開度Kが中程度の開度である場合(エンジンが高回転中負荷域にある場合)には、制御弁47を開方向に操作し(図11のA部)、これに応じて冷却回路27内を循環する冷却液の通水抵抗を低減することにより、シリンダーヘッド3の温度上昇を抑制するようにしている。この構成によれば、冷却回路27で生じる機械的なロスを効果的に低減しつつ、シリンダーヘッド3を適正に冷却できるという利点がある。
また、上記構成によれば、エンジンが高回転中負荷域にある状態からスロットル開度Kが増大操作されてエンジンが高負荷域に遷移したときに、上記のように制御弁47を開方向に操作してサブ冷却回路29の流量を一旦増大させてから、上記制御弁47を閉方向に操作(絞り操作)してその流量を抑制することになるため、この制御弁47の下流側に位置する上記サブジャケット部15の圧力を、上記制御弁47の絞り操作に応じてより効果的に高められるという利点がある。この結果、エンジンが高負荷域に遷移したときに、上記サブジャケット部15からメインジャケット部13により勢いよく冷却液を流入させることができ、シリンダーヘッド3の冷却効率をより効果的に向上させることができる。
(実施形態2)
図12は、本発明のエンジンの冷却装置の第2実施形態を示す図である。本図に示すように、この第2実施形態のエンジンの冷却装置では、メインジャケット部13とサブジャケット部15とを連通する指向性通路17の内壁に、その軸方向に沿って螺旋状に延びる突起60が設けられている。
この構成によれば、エンジンが高負荷域に遷移したときに、サブジャケット部15から指向性通路17を介してメインジャケット部13へと流入する冷却液の流れが、上記螺旋状の突起60に沿って案内されることにより、図中の矢印に示すように、上記冷却液が旋回流となってメインジャケット部13内に流入するため、この流入する冷却液の推進力を効果的に増大させることができる。したがって、サブ冷却回路29(図8)により上記サブジャケット部15内に供給される冷却液を、上記指向性通路17を介してより確実にメインジャケット部13の熱影響部13aに到達させることができ、エンジンの高負荷域におけるシリンダーヘッド3の冷却効率をより効果的に向上させることができる。
また、上記のようにサブジャケット部15からメインジャケット部13に旋回流として流入する冷却液により、上記メインジャケット部13内の冷却液が十分に撹拌されるため、この冷却液中の温度の偏りが低減され、上記シリンダーヘッド3の冷却効率がさらに効向上するという利点がある。
なお、上記第2実施形態では、指向性通路17の内壁に螺旋状の突起60を設けたが、このような突起60に代えて、螺旋状の溝を設けることでも、上記と同様の旋回流を発生させることができる。
(実施形態3)
図13および図14は、本発明のエンジンの冷却装置の第3実施形態を示す図である。本図に示すように、この第3実施形態のエンジンの冷却装置では、メインジャケット部13とサブジャケット部15とを連通する指向性通路17の内部に、その出口側の流路を絞るための絞り弁18が設けられている。
上記絞り弁18は、指向性通路17の内壁に沿って軸方向に摺動自在に保持された筒状の本体部51と、この本体部51のメインジャケット部13側の端部に突設された支持棒52と、この支持棒52の先端に設けられた弁体53とを有している。なお、以下では、弁体53が設けられている側(メインジャケット部13側)を絞り弁18の前側、その反対側(サブジャケット部15側)を絞り弁18の後側として説明を進めることにする。
上記本体部51の内部には、前後方向に延びて本体部51を貫通する貫通路54が設けられており、この貫通路54を通って上記指向性通路17内の冷却液が流通するようになっている。具体的に、この貫通路54内にその入口側端部54aから流入した冷却液は、途中で二股に分岐して上記支持棒52の上下に位置する2つの出口側端部54bから流出した後に、上記弁体53と指向性通路17の内壁との隙間を通ってメインジャケット部13に導入される。また、上記本体部51の軸方向中間部には、その周壁を貫通する開口部51bが設けられている。
上記指向性通路17は、上記第1実施形態と同様に、大径部58と小径部59とを有した段付きの通路により構成されている。図13に示すように、上記大径部58の壁面と上記絞り弁18の本体部51の外周面との間には所定の隙間が形成されており、この隙間部と上記本体部51の貫通路54とが上記開口部51bを介して連通されている。そして、後述するように、サブジャケット部15の圧力が高くなると、その圧力に応じて上記絞り弁18が前進する一方、その前進量が所定量に達して図14に示すように、上記開口部51bが上記小径部59の壁面によって塞がれると、上記絞り弁18の前進が停止するようになっている。
上記指向性通路17の段部55と、上記本体部51の底部70aとの間には、前後方向に延びるコイルバネ等からなる付勢手段57が設けられており、この付勢手段57の付勢力により、上記絞り弁18が指向性通路17の入口側(つまりサブジャケット部15側)に向かって付勢されるように構成されている。
また、上記指向性通路17の出口側(メインジャケット部13側)の端部には、前窄まり状に形成されたノズル部56が設けられており、このノズル部56と上記弁体53との隙間が、弁体53が前方に移動するにつれて狭まるように構成されている。
上記構成において、サブ冷却回路29の制御弁47(図8)が開いているエンジンの低負荷域では、サブジャケット部15内の冷却液の圧力が低いため、上記付勢手段57の付勢力により、絞り弁18が図13に示される後退位置に保持される一方、エンジンが高負荷域に遷移して上記制御弁47が絞り操作され、サブジャケット部15内の冷却液の圧力が高められると、このサブジャケット部15側の水圧と上記メインジャケット部13側の水圧との圧力差に応じ、上記絞り弁18を前方側(つまりメインジャケット部13側)に押し出す押出力F1(図14)が発生し、この押出力F1が、上記付勢手段57による付勢力等に抗して上記絞り弁18を前方に移動させる。そして、その前進量が所定量に達して図14に示すように、上記本体部51の開口部51bが上記小径部59の壁面により塞がれると、上記本体部51と大径部58との隙間に冷却液が閉じ込められてその圧力が高まることにより、上記絞り弁18の前進が停止することになる。
上記のようにして絞り弁18が図14に示される前進位置に移動すると、弁体53がノズル部56の壁面に接近することにより、両者の隙間が狭められる。そして、このように指向性通路17の出口側流路が絞られた状態で、図中の白抜き矢印に示すように、サブジャケット部15内の冷却液が上記本体部51の貫通路54を通ってその前方側に流れ出すと、当該冷却液は、上記弁体53とノズル部56との間の狭小な隙間を通過することにより、その流速が相対的に高められた状態で上記メインジャケット部13に流入することになる。
以上のように、上記第3実施形態では、指向性通路17に絞り弁18が設けられ、エンジンが高負荷域に遷移してサブ冷却回路29の制御弁47が絞り操作され、サブジャケット部15内の圧力が高められたときに、上記絞り弁18が前方に移動して上記指向性通路17の出口側流路が絞られるように構成されているため、これによって出口側流路が狭められた上記指向性通路17を介して、上記サブジャケット部15からメインジャケット部13に冷却液を流入させることにより、このメインジャケット部13内に流入する冷却液の流速を効果的に速めることができる。したがって、上記サブジャケット部15内の冷却液を、メインジャケット部13の熱影響部13aに向けて勢いよく流入させることができ、上記シリンダーヘッド3の高温部Hをより効率よく冷却できるという利点がある。
(実施形態4)
図15は、本発明のエンジンの冷却装置の第4実施形態を示す図である。本図に示すように、この第4実施形態のエンジンの冷却装置では、メインジャケット部13の内壁のうち上記各排気ポート25,25の間に位置する熱影響部13aに、その壁面から起立する複数の冷却フィン80が一体的に設けられている。
上記熱影響部13aの上方側には、上記複数の冷却フィン80を上から覆う板状の閉止部材82が設けられており、この閉止部材82は、上記熱影響部13aの壁面から突設された取付片84に一端部が枢支されるとともに、他端部が付勢手段86により下方側(熱影響部13a側)に付勢されている。すなわち、上記付勢部材82は、上記取付片84の枢支軸83を支点に回動可能に取り付けられているとともに、上記付勢手段86の下向きの付勢力により、通常時において上記各冷却フィン80の上面を覆う図15の状態に保持されるように構成されている。
上記構成において、エンジンの高負荷域でサブ冷却回路29の制御弁47(図8)が絞り操作され、これに応じて上記サブジャケット部15内の冷却液が指向性通路17を介してメインジャケット部13に流入すると、この流入した冷却液の作用により、上記閉止部材82の他端部(付勢手段86側の端部)に上向きの力が働くため、図16に示すように、上記閉止部材82が付勢手段86の付勢力に抗して上方に回動変位し、この閉止部材82の他端部と上記冷却フィン80との間に隙間が生じる。すると、図中の矢印に示すように、上記指向性通路17から流入してきた冷却液が、上記隙間を通じて上記冷却フィン80の設置部に導入され、この冷却フィン80を介して上記熱影響部13aが効率よく冷却されるようになっている。
すなわち、上記構成では、メインジャケット部13の熱影響部13aに、全体として大きな表面積を有する複数の冷却フィン80が設けられることにより、より広い冷却面積(放熱面積)が確保されるようになっているため、この冷却フィン80の設置部に上記サブジャケット部15内の冷却液を導入することにより、上記冷却フィン80およびこれと一体の上記熱影響部13aを効率よく冷却することができ、シリンダーヘッド3の冷却効率を効果的に向上させることができる。
一方、上記サブジャケット部15からメインジャケット部13への冷却液の流入がない(またはその流入量が少ない)エンジンの低負荷域では、付勢手段86の付勢力により上記閉止部材82が冷却フィン80の上面を覆う図15の状態に引き戻されるため、この冷却フィン80からの放熱量を抑制することができ、エンジンの低負荷域でシリンダーヘッド3が過度に冷却されて燃費が悪化すること等を効果的に防止できるという利点がある。
(実施形態5)
図17は、本発明のエンジンの冷却装置の第5実施形態を示す図である。本図に示すように、この第5実施形態のエンジンの冷却装置では、メインジャケット部13の熱影響部13aの上側、すなわち2つの排気ポート25,25の間に、一時的に熱を溜めることにより上記熱影響部13aの昇温を抑制することが可能な蓄熱手段90が設けられている。なお、以下では、図中右側を蓄熱手段90の前側、図中左側を蓄熱手段90の後側として説明を行う。
上記蓄熱手段90は、多数の蓄熱カプセル91が内部に封入された筒型のメッシュ状部材からなる保持部材92と、この保持部材92の内部において回動可能に支持された仕切部材94とを有している。上記蓄熱カプセル91は、図18に示すように、例えばLiNO3等からなる球状の蓄熱材91aが樹脂製の表皮材91bにより包まれることで構成されており、このような蓄熱カプセル91が存在する状態で、周囲の温度が特定温度まで上昇すると、上記蓄熱材91aが融解して周囲の熱を吸収する一方、上記特定温度より低い温度まで周囲温度が低下すると、上記蓄熱材91aが上記吸収した熱を放出しつつ凝固するように構成されている。
上記仕切部材94は、上記保持部材92の内部に設けられた回動軸95を中心に回動可能に取り付けられている。そして、この仕切部材94が上記保持部材92の幅方向に延びるように設置された図17の状態で、上記保持部材92の後方部と仕切部材94とに囲まれた領域に上記多数の蓄熱カプセル91が閉じ込められている。なお、上記回動軸95は、上記保持部材92の幅方向中心よりも上方側にオフセットした位置に設けられているため、上記指向性通路17を通じてメインジャケット部13の内部に冷却液が流入し、この冷却液により上記仕切部材94の後面部が前向きに押動された場合には、上記仕切部材94に対し、これを図中左回りに回動させるモーメントが作用するようになっている。
また、上記仕切部材94には、この仕切部材94が上記回動軸95を中心に回動する際の速度を制御するダンパー機構96が取り付けられている。
図19に示すように、上記ダンパー機構96は、仕切部材94の上端部を前方側(図中右側)に向けて付勢する付勢手段97と、上記仕切部材94が閉止状態にあるときにこの仕切部材94の回動軸95の近傍に保持された錘100とを有している。上記付勢手段97は、引張状態で設置された前後方向に延びるコイルバネ等からなり、その前後端部が、上記仕切部材94の上端部に設置された取付片99と、上記保持部材92の上部内壁に設置された取付片98とにそれぞれ固定されることにより、上記取付片99を介して仕切部材94の上端部を前方側に引き寄せる方向に付勢するように構成されている。一方、上記錘100は、所定の重量を有する中実部材等からなり、上記仕切部材94が閉止状態にあるときに、この仕切部材94の上下方向中央部付近(回動軸95の近傍部)から前方側に突設された突片101の上面に載置された状態で保持されるようになっている。
また、上記保持部材92の下部内壁には、上記仕切部材94の下端部が係止される係止片102が設けられており、この係止片102により、上記付勢手段97の付勢力に応じ上記仕切部材94が図中右回りに回動して開放状態に変位することが規制されるように構成されている。
上記構成において、仕切部材94が図19に示される閉止状態にあるときには、上記錘100が仕切部材94の回動軸95の近傍に位置することから、この錘100は、上記仕切部材94の慣性モーメントの増大にほとんど寄与しない。このため、上記付勢手段97による付勢力に対向し得る回転力が上記仕切部材94に作用すれば、上記仕切部材94は比較的速い速度で開方向に回動変位することになる(図20参照)。
一方、上記仕切部材94が図20に示される開放状態にあるときには、上記錘100が仕切部材94の表面に沿って自重により下方にスライド変位し、上記回動軸95から離間した位置(取付片99の一面側)に上記錘100が保持されるため、この錘100の存在により、上記仕切部材94の慣性モーメントが大きく増大する。これにより、上記仕切部材94を図20の開放状態から図19の閉止状態に復帰させる際には、この慣性モーメントの増大分が大きな回転抵抗となるため、上記仕切部材94は、上述した開方向への回動時よりも遅い速度で、図19の閉止状態に回動変位することになる。このように、仕切部材94は、閉方向に回動する際の速度の方が、開方向に回動する際の速度よりも遅くなる、いわゆるヒステリシス特性を有するように構成されている。
上記構成において、エンジンの高負荷域でサブ冷却回路29の制御弁47(図8)が絞り操作され、これに応じて上記サブジャケット部15内の冷却液が指向性通路17を介してメインジャケット部13に流入すると、この流入する冷却液の作用により、上記仕切部材94が回動軸95を中心として開方向に回転駆動される(図21参照)。このとき、上記のようなヒステリシス特性を有する仕切部材94が、比較的速い速度で開方向に回動することから、上記保持部材92の後方部に閉じ込められていた多数の蓄熱カプセル91は、速やかに保持部材92内を拡散する。この結果、図21に示すように、上記メインジャケット部13の熱影響部13aの上方に上記蓄熱カプセル91がまんべんなく存在する状態となり、この蓄熱カプセル91により、上記熱影響部13aに加わる熱が効率よく吸収されることになる。
一方、エンジンが低負荷域に遷移して、制御弁47が開かれる等により上記メインジャケット部13内への冷却液の流入が中止されると、上記仕切部材94を開方向に回動させる力が作用しなくなるため、上記仕切部材94は、付勢手段97の付勢力により閉方向に引き戻され、再び図17の閉止状態に復帰する。このとき、上記のようなヒステリシス特性を有する仕切部材94が、比較的遅い速度で閉方向に回動するため、この仕切部材94の回動変位が完了するまでの間、保持部材92内を拡散していた上記蓄熱カプセル91は、自重により上記仕切部材94の下方側に確実に移動し、この仕切部材94と上記保持部材92の後方部とに囲まれた領域に再び閉じ込められる。そしてその後は、上記メインジャケット部13内の冷却液の温度が低下するにつれて、上記蓄熱カプセル91に吸収されていた熱が外部に放出されることになる。
以上のように、この第5実施形態によれば、メインジャケット部13の熱影響部13aの近傍に、熱を一時的に溜めることが可能な蓄熱カプセル91を有する蓄熱手段90を設けたため、エンジンが高負荷域に遷移したときに、上記熱影響部13aから効果的に熱を吸収してシリンダーヘッド3を効率よく冷却できるという利点がある。
(実施形態6)
図22は、本発明のエンジンの冷却装置の第6実施形態を示すブロック図である。本図に示すように、この第6実施形態のエンジンの冷却装置では、サブジャケット部15に冷却液を供給するサブ冷却回路29’が、サブジャケット部15の下流側で閉止プラグ等からなる閉止部材49により閉止されているとともに、上記サブジャケット部15よりも上流側に位置する入口側配管45の途中部に、上述した第1実施形態の場合と同様の制御弁47が設置されている。
このようなサブ冷却回路29’を有する冷却回路27において、エンジンが低負荷域にあるときには、上記制御弁47の開度が比較的低開度に維持されるように構成されている。そして、このように制御弁47の開度が低開度に維持されることにより、上記サブジャケット部15に供給される冷却液の量が抑制され、このサブジャケット部15内の冷却液の圧力が高まって当該冷却液がメインジャケット部13に流入することが抑制されるようになっている。
一方、エンジンが高負荷域に遷移したときには、上記制御弁47が開方向に操作されることにより、上記サブジャケット部15の圧力がメインジャケット部13よりも高められ、これに応じて上記サブジャケット部15内の冷却液が、上記指向性通路17を介してメインジャケット部13に流入するように構成されている。
以上のような構成によれば、サブジャケット部15よりも上流側に設けられた制御弁47を開くことにより、上記サブジャケット部15内の冷却液の圧力を速やかに高めることができるため、エンジンが高負荷域に遷移したときに、上記サブジャケット部15内の冷却液を直ちにメインジャケット部13に流入させてシリンダーヘッド3を迅速かつ効果的に冷却できるという利点がある。
なお、以上説明した各実施形態では、サブジャケット部15に冷却液を供給するサブ冷却回路29のうち、上記サブジャケット部15の上流側または下流側に位置する部分に制御弁47を設け、エンジンが高負荷域に遷移したときに、この制御弁47の開度を閉方向または開方向に操作することにより、上記サブジャケット部15からメインジャケット部13に冷却液を流入させるようにしたが、上記サブ冷却回路29以外の箇所に上記制御弁47を設けることも可能である。例えば、メイン冷却回路28のうちメインジャケット部13の上流側に上記制御弁47を設け、エンジンの高負荷域でこの制御弁47の開度を閉方向に操作することにより、その下流側に位置する上記メインジャケット部13の圧力を低下させるようにすれば、これに応じて上記サブジャケット部15からメインジャケット部13に冷却液を流入させることが可能である。