JP2009029939A - 有機無機複合材料、光学部品およびそれらの製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】無機微粒子が樹脂マトリックス中に均一に分散され、耐湿性が良好で、優れた透明性と高い屈折率を有する有機無機複合材料を提供する。
【解決手段】少なくとも高分子鎖末端または側鎖にカルボキシル基を有する熱可塑性樹脂と、数平均分子量が50〜10000の少なくとも一つのカルボキシル基を有する分散剤と、数平均粒子サイズが1〜15nmの無機微粒子とを含み、該熱可塑性樹脂中に該無機微粒子が分散していることを特徴とする有機無機複合材料。
【選択図】なし

Description

本発明は、高屈折性、透明性、耐湿性に優れる有機無機複合材料、ならびに、これを含んで構成されるレンズ基材(例えば、眼鏡レンズ、光学機器用レンズ、オプトエレクトロニクス用レンズ、レーザー用レンズ、ピックアップ用レンズ、車載カメラ用レンズ、携帯カメラ用レンズ、デジタルカメラ用レンズ、OHP用レンズ等)等の光学部品に関する。
近年、光学材料の研究が盛んに行われており、特にレンズ材料の分野においては高屈折性、低分散性(すなわち高いアッベ数)、耐熱性、透明性、易成形性、軽量性、耐湿性、耐薬品性・耐溶剤性等に優れた材料の開発が強く望まれている。
プラスチックレンズは、ガラスなどの無機材料に比べ軽量で割れにくく、様々な形状に加工できるため、眼鏡レンズのみならず近年では携帯カメラ用レンズやピックアップレンズ等の光学材料にも急速に普及しつつある。
それに伴い、レンズを薄肉化するために素材自体を高屈折率化することが求められるようになっており、例えば、硫黄原子をポリマー中に導入する技術(特許文献1、特許文献2参照)や、ハロゲン原子や芳香環をポリマー中に導入する技術(特許文献3参照)等が活発に研究されてきた。しかし、十分に屈折率が大きくて良好な透明性を有しており、ガラスの代替となるようなプラスチック材料は未だ開発されるに至っていない。
屈折率を有機物のみで上げることは難しいため、高屈折率を有する無機物を樹脂マトリックス中に分散させることによって高屈折率材料をつくる試みがなされている(特許文献4、5参照)。また、レイリー散乱による透過光の減衰を低減するためには、粒子サイズが15nm以下の無機微粒子を樹脂マトリクス中に均一に分散させることが好ましい。しかし、粒子サイズが15nm以下の一次粒子は非常に凝集しやすいために、樹脂マトリクス中に、均一に分散させることは極めて難しい。またレンズの厚みに相当する光路長における透過光の減衰を考慮すると、無機微粒子の添加量を制限せざるを得ない。このため、樹脂の透明性を低下させずに微粒子を高濃度で樹脂マトリクス中に分散することはこれまでできなかった。
また、親水的な無機微粒子の添加により有機無機複合材料の成形体の耐湿性が悪化するという問題があった。
特開2002−131502号公報 特開平10−298287号公報 特開2004−244444号公報 特開昭61−291650号公報 特開2003−73559号公報
このように、高屈折性、透明性、および耐湿性を併せ持つ有機無機複合材料、およびそれを含んで構成されるレンズ等の光学部品は未だ見出されておらず、その開発が望まれていた。
本発明は上記実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、無機微粒子が樹脂マトリックス中に均一に分散していて、優れた透明性と高い屈折率、耐湿性を有する有機無機複合材料、ならびに、これを用いたレンズ基材等の光学部品を提供することにある。
本発明者らは上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、高分子鎖の末端または側鎖にカルボキシル基を有する熱可塑性樹脂と、特定構造を有するカルボキシル基含有分散剤と、数平均粒子サイズが1〜15nmの無機微粒子を原料とする有機無機複合材料が、無機微粒子の均一分散効果により、高屈折性と優れた透明性と耐湿性を有することを見出し、本発明の完成に至った。すなわち、課題を解決する手段として、以下の本発明を提供するに至った。
[1] 少なくとも高分子鎖末端または側鎖にカルボキシル基を有する熱可塑性樹脂と、数平均分子量が50〜10000の少なくとも一つのカルボキシル基を有する分散剤と、数平均粒子サイズが1〜15nmの無機微粒子とを含み、該熱可塑性樹脂中に該無機微粒子が分散していることを特徴とする有機無機複合材料。
[2] 前記分散剤が、数平均分子量100〜500であり、少なくとも一つ以上の芳香族性基を有することを特徴とする[1]に記載の有機無機複合材料。
[3] 前記分散剤が芳香族環に直接結合したカルボキシル基を有することを特徴とする[1]または[2]のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
[4] 前記分散剤が下記一般式(1)で表される化合物群から少なくとも一種選ばれることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
Figure 2009029939
[一般式(1)中、R1およびR2はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換もしくは無置換のアルキル基、または置換もしくは無置換のアルコキシ基、または置換もしくは無置換のアリール基を表す。]
[5] 前記一般式(1)のR1が、炭素数1〜7の置換もしくは無置換のアルキル基、または、炭素数1〜7の置換もしくは無置換のアルコキシ基であることを特徴とする[4]に記載の有機無機複合材料。
[6] 前記熱可塑性樹脂中のカルボキシル基数が高分子鎖1本あたり平均0.1〜20であることを特徴とする[1]〜[5]のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
[7] 前記熱可塑性樹脂がカルボキシル基を含むビニルモノマーを重合単位として含むランダム共重合体であることを特徴とする[1]〜[6]のいずれか一項に記載の有機無機複合材料成形物。
[8] 前記熱可塑性樹脂が、高分子末端の少なくとも1箇所にカルボキシル基を有する熱可塑性樹脂であることを特徴とする[1]〜[6]のいずれか一項に記載の有機無機複合材料成形物。
[9] 前記熱可塑性樹脂がカルボキシル基含有セグメントおよび疎水性セグメントで構成されるブロック共重合体であることを特徴とする[1]〜[6]のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
[10] 前記無機微粒子の波長589nmにおける屈折率が1.90〜3.00であることを特徴とする[1]〜[9]のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
[11] 前記無機微粒子が、ジルコニア、酸化亜鉛、酸化錫およびチタニアからなる群より選ばれるいずれか一種であることを特徴とする[1]〜[10]のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
[12] 波長589nmにおける屈折率が1.63以上、かつ、波長589nmにおける厚さ1mm換算の光線透過率が80%以上であることを特徴とする[1]〜[11]のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
[13] [1]〜[12]のいずれか一項に記載の有機無機複合材料を含んで構成される光学部品。
[14] 光学部品がレンズ基材であることを特徴とする[13]に記載の光学部品。
[15] 数平均粒子サイズが1〜15nmの無機微粒子を、数平均分子量が50〜10000の少なくとも一つのカルボキシル基を有する分散剤の存在下で、少なくとも高分子鎖末端または側鎖にカルボキシル基を有する熱可塑性樹脂中に分散する工程を含むことを特徴とする有機無機複合材料の製造方法。
[16] 前記分散剤が下記一般式(1)で表される化合物群から少なくとも一種選ばれることを特徴とする[15]に記載の有機無機複合材料の製造方法。
Figure 2009029939
[一般式(1)中、R1およびR2はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換もしくは無置換のアルキル基、または置換もしくは無置換のアルコキシ基、または置換もしくは無置換のアリール基を表す。]
[17] 数平均粒子サイズが1〜15nmの無機微粒子を、数平均分子量が50〜10000の少なくとも一つのカルボキシル基を有する分散剤の存在下で、少なくとも高分子鎖末端または側鎖にカルボキシル基を有する熱可塑性樹脂中に分散して有機無機複合材料を調製する工程と、該有機無機複合材料を金型を用いて成形する工程を含むことを特徴とする光学部品の製造方法。
[18] 前記分散剤が下記一般式(1)で表される化合物群から少なくとも一種選ばれることを特徴とする[17]に記載の光学部品の製造方法。
Figure 2009029939
[一般式(1)中、R1およびR2はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換もしくは無置換のアルキル基、または置換もしくは無置換のアルコキシ基、または置換もしくは無置換のアリール基を表す。]
本発明によれば、高屈折性と優れた透明性と、耐湿性を併せ持つ有機無機複合材料、およびそれを含んで構成される、高透明性と高屈折性とを併せ持つ光学部品が提供できる。
以下において、本発明の有機無機複合材料とその製造方法、およびそれを含んで構成される光学部品について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
[無機微粒子]
本発明の有機無機複合材料には、数平均粒子サイズが1〜15nmの無機微粒子を用いる。無機微粒子の数平均粒子サイズは、小さすぎると該微粒子を構成する物質固有の特性が変化する場合があり、逆に大きすぎるとレイリー散乱の影響が顕著となり、有機無機複合材料の透明性が極端に低下する場合がある。従って、本発明における無機微粒子の数平均粒子サイズは1〜15nmにすることが必要であり、好ましくは2〜13nmであり、より好ましくは3〜10nmである。
本発明で用いられる無機微粒子としては、例えば、酸化物微粒子、硫化物微粒子、セレン化物微粒子、テルル化物微粒子等が挙げられる。より具体的には、チタニア微粒子、酸化亜鉛微粒子、ジルコニア微粒子、酸化錫微粒子、硫化亜鉛微粒子等を挙げることができ、好ましくは、チタニア微粒子、ジルコニア微粒子、硫化亜鉛微粒子であり、より好ましくはチタニア微粒子、ジルコニア微粒子であるが、これらに限定されるものではない。本発明では、1種類の無機微粒子を用いてもよいし、複数種の無機微粒子を併用してもよい。
本発明で用いられる無機微粒子の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知のいずれの方法を採用してもよい。ハロゲン化金属やアルコキシ金属を原料に用い、水を含有する反応系において加水分解することにより、所望の酸化物微粒子を得ることができる。
例えばチタニア微粒子の合成原料としては、硫酸チタニルが例示される。チタニウムテトライソプロポキサイド等の金属アルコキシド類も、原料として好適に使用可能である。合成法としては、ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジクス第37巻4603〜4608頁あるいは(1998年)ラングミュア第16巻第1号241〜246頁(2000年)に記載の公知の方法を用いることができる。特にゾル生成法により酸化物微粒子を合成する場合においては、例えば硫酸チタニルを原料として用いるチタニア微粒子の合成のように、水酸化物等の前駆体を経由し次いで酸やアルカリによりこれを脱水縮合または解膠してヒドロゾルを生成させる手順も可能である。かかる前駆体を経由する手順では、該前駆体を、濾過や遠心分離等の任意の方法で単離精製することが最終製品の純度の点で好適である。該ヒドロゾルにドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(略称DBS)やジアルキルスルホスクシネートモノナトリウム塩(三洋化成工業(株)製、商標名はエレミノールJS−2)等の適当な界面活性剤を加えて、ゾル粒子を非水溶化させて単離してもよい。例えば、色材,57巻6号,305〜308(1984)に記載の公知の方法を用いることができる。
また、水中で加水分解させる方法以外の方法として、有機溶媒中で無機微粒子を作成する方法を採用することもできる。
この方法に用いられる溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、ジクロロメタン、クロロホルム、トルエン、酢酸エチル、シクロヘキサノン、アニソール等が例として挙げられる。これらは、1種類を単独で使用してもよく、また複数種を混合して使用してもよい。
本発明に用いられる無機微粒子の波長589nmにおける屈折率は、1.90〜3.00であることが好ましく、1.90〜2.70であることがより好ましく、2.00〜2.70であることがさらに好ましい。屈折率が1.90以上である無機微粒子を用いれば屈折率が1.65より大きい有機無機複合材料を作成しやすくなり、屈折率が3.00以下の無機微粒子を用いれば透過率が80%以上の有機無機複合材料を作成しやすい傾向がある。なお、本発明における屈折率は、アッベ屈折計(アタゴ社DR−M4)にて波長589nmの光について25℃で測定した値である。
[熱可塑性樹脂]
<構造的特徴>
本発明で用いる熱可塑性樹脂は、少なくとも高分子鎖末端または側鎖にカルボキシル基を有することを特徴とし、樹脂中のカルボキシル基数は高分子鎖1本あたり平均0.1〜20であることが好ましく、0.3〜18であることがより好ましく、0.5〜15であることがさらに好ましい。樹脂中のカルボキシル基数は高分子鎖1本あたり平均0.1以上であれば無機微粒子との相溶性向上効果を発現しやすく、20以下であれば有機無機複合材料にしたときに熱可塑性を維持しやすい傾向がある。
本発明において用いられる熱可塑性樹脂は、少なくとも高分子鎖末端、または側鎖にカルボキシル基を有する熱可塑性樹脂である。このような熱可塑性樹脂としては、
(1)側鎖にカルボキシル基をランダムに有する熱可塑性樹脂
(2)高分子末端の少なくとも1箇所に、カルボキシル基を有する熱可塑性樹脂
(3)カルボキシル基含有セグメントおよび疎水性セグメントで構成されるブロック共重合体が好ましい例として挙げられるが、無機微粒子の安定分散性の観点から、(3)ブロック共重合体がより好ましい。
以下、これらの熱可塑性樹脂(1)〜(3)について、詳細に説明する。
<熱可塑性樹脂(1)>
本発明で用いられる熱可塑性樹脂(1)は、側鎖にカルボキシル基を有するランダム共重合体である。ポリマーの種類としては、ビニルモノマーの重合によって得られるビニルポリマー、ポリエーテル、開環メタセシス重合ポリマーおよび縮合ポリマー(ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホンなど)など従来公知のポリマーのいずれからでも選択可能であるが、ビニルポリマー、開環メタセシス重合ポリマー、ポリカーボネート、ポリエステルが好ましく、製造適性の点からビニルポリマーがより好ましい。
前記カルボキシル基含有繰り返し単位を形成するビニルモノマーとしては、例えば、以下のものが挙げられるが、本発明で採用することができるモノマーはこれらの具体例に限定されるものではない。なお、以下においてnは1以上の整数を表す。
Figure 2009029939
本発明においてカルボキシル基を含むビニルモノマーと共重合可能な他の種類のモノマーとしては、Polymer Handbook 2nd ed.,J.Brandrup,Wiley lnterscience (1975) Chapter 2 Page 1〜483に記載のものを用いることができる。
具体的には、例えば、スチレン誘導体、1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン、ビニルカルバゾール、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、アクリルアミド類、メタクリルアミド類、アリル化合物、ビニルエーテル類、ビニルエステル類、イタコン酸ジアルキル類、前記フマール酸のジアルキルエステル類またはモノアルキルエステル類等から選ばれる付加重合性不飽和結合を1個有する化合物等を挙げることができる。
前記スチレン誘導体としては、スチレン、2,4,6−トリブロモスチレン、2−フェニルスチレン等が挙げられる。
前記アクリル酸エステル類としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸tert−ブチル、クロロエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、トリメチロールプロパンモノアクリレート、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、メトキシベンジルアクリレート、フルフリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート等が挙げられる。
前記メタクリル酸エステル類としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、クロロエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、トリメチロールプロパンモノメタクリレート、ベンジルメタクリレート、メトキシベンジルメタクリレート、フルフリルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート等が挙げられる。
前記アクリルアミド類としては、アクリルアミド、N−アルキルアクリルアミド(アルキル基としては炭素数1〜3のもの、例えばメチル基、エチル基、プロピル基)、N,N−ジアルキルアクリルアミド(アルキル基としては炭素数1〜6のもの)、N−ヒドロキシエチル−N−メチルアクリルアミド、N−2−アセトアミドエチル−N−アセチルアクリルアミド等が挙げられる。
前記メタクリルアミド類としては、メタクリルアミド、N−アルキルメタクリルアミド(アルキル基としては炭素数1〜3のもの、例えばメチル基、エチル基、プロピル基)、N,N−ジアルキルメタクリルアミド(アルキル基としては炭素数1〜6のもの)、N−ヒドロキシエチル−N−メチルメタクリルアミド、N−2−アセトアミドエチル−N−アセチルメタクリルアミド等が挙げられる。
前記アリル化合物としては、アリルエステル類(例えば酢酸アリル、カプロン酸アリル、カプリル酸アリル、ラウリン酸アリル、パルミチン酸アリル、ステアリン酸アリル、安息香酸アリル、アセト酢酸アリル、乳酸アリルなど)、アリルオキシエタノール等が挙げられる。
前記ビニルエーテル類としては、アルキルビニルエーテル(アルキル基としては炭素数1〜10のもの、例えば、ヘキシルビニルエーテル、オクチルビニルエーテル、デシルビニルエーテル、エチルヘキシルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテル、エトキシエチルビニルエーテル、クロロエチルビニルエーテル、1−メチル−2,2−ジメチルプロピルビニルエーテル、2−エチルブチルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ジエチレングリコールビニルエーテル、ジメチルアミノエチルビニルエーテル、ジエチルアミノエチルビニルエーテル、ブチルアミノエチルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、テトラヒドロフルフリルビニルエーテル等が挙げられる。
前記ビニルエステル類としては、ビニルブチレート、ビニルイソブチレート、ビニルトリメチルアセテート、ビニルジエチルアセテート、ビニルバレート、ビニルカプロエート、ビニルクロロアセテート、ビニルジクロロアセテート、ビニルメトキシアセテート、ビニルブトキシアセテート、ビニルラクテート、ビニル−β−フェニルブチレート、ビニルシクロヘキシルカルボキシレート等が挙げられる。
前記イタコン酸ジアルキル類としては、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸ジブチル等が挙げられ、前記フマール酸のジアルキルエステル類またはモノアルキルエステル類としては、ジブチルフマレート等が挙げられる。
その他、クロトン酸、イタコン酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、マレイロニトリルなど等も挙げることができる。
具体例としては、例えば、以下のものが挙げられるが、本発明で採用することができるモノマーはこれらの具体例に限定されるものではない。なお、以下においてnは1以上の整数を表す。
Figure 2009029939
以下に、本発明で使用することができる熱可塑性樹脂(1)の好ましい具体例を挙げるが、本発明で用いることができる熱可塑性樹脂はこれらに限定されるものではない。
Figure 2009029939
これらの熱可塑性樹脂(1)は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。また、熱可塑性樹脂(2)および/または(3)と併用してもよい。
<熱可塑性樹脂(2)>
本発明で用いられる熱可塑性樹脂(2)は、カルボキシル基を高分子末端の少なくとも1箇所に有する。ここで、カルボキシル基は、高分子鎖の片末端のみに存在しても、両末端に存在してもよいが、高分子鎖の片末端のみに存在することが好ましい。また、カルボキシル基は末端に複数存在していてもよい。ここでいう末端とは、高分子鎖を構成する繰り返し単位と繰り返し単位で挟まれている構造を除く部分を意味する。
本発明に用いられる熱可塑性樹脂(2)の基本骨格には特に制限はなく、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリスチレン、ポリビニルカルバゾール、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリイミド、ポリエーテル、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリチオエーテル、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマーなど公知の樹脂骨格を採用することができる。好ましくはビニル重合体、ポリアリレート、および芳香族含有ポリカーボネートであり、より好ましくはビニル重合体である。これらの具体例は、上記熱可塑性樹脂(1)で述べたものと同様である。
高分子鎖末端に前記官能基を導入する方法としては、特に制限はなく、例えば、新高分子実験学4 高分子の合成・反応(3)高分子の反応と分解(高分子学会編)」第3章「末端反応性ポリマー」に記載のように、重合時に導入してもよいし、重合後、一旦単離したポリマーの末端官能基変換または主鎖分解をしてもよい。官能基および/または保護された官能基をもつ開始剤、停止剤、連鎖移動剤などを用いて重合し高分子を得る方法や、例えばビスフェノールAから得られるポリカーボネートのフェノール末端部を、官能基を含有する反応剤で修飾する方法などの高分子反応を用いることもできる。例えば、「新高分子実験学2 高分子の合成・反応(1)付加系高分子の合成(高分子学会編)」110項〜112項に記載の硫黄含有連鎖移動剤を用いた連載移動法ビニル系モノマーのラジカル重合;「新高分子実験学2、高分子の合成・反応(1)付加系高分子の合成(高分子学会編)」255項〜256項に記載の官能基含有開始剤および/または官能基含有停止剤を用いるリビングカチオン重合;「Macromolecules,36巻」7020項〜7026項(2003年)に記載の硫黄含有連鎖移動剤を用いた開環メタセシス重合などを挙げることができる。
本発明の熱可塑性樹脂は、下記一般式(2)で表される熱可塑性樹脂を含む。
Figure 2009029939
(一般式(2)中、Aは、カルボキシル基を含む置換基を表し、L1、L2、Xは連結基を表し、Polyはビニルモノマーの重合体を表し、lは1〜10の整数を表し、mは1〜10の整数を表す。)
前記置換基Aとして、例えば以下の構造を挙げることができる。
Figure 2009029939
一般式(2)中、Xは連結基を表し、好ましくは2〜20価、より好ましくは2〜10価の連結基である。具体的には例えば以下の構造を挙げることができる。
Figure 2009029939
一般式(2)中、L1、L2はXと硫黄原子とを結合する単結合、もしくは2価の連結基である。2価の連結基の具体例としては例えば以下の構造を挙げることができる。
Figure 2009029939
一般式(2)中、Polyはビニルモノマーの重合体を表す。該ビニルモノマーとしては、例えばPolymer Handbook 2nd ed., J. Brandrup, Wiley lnterscience (1975) Chapter 2 Page 1〜483に記載のものを挙げることができる。具体的には、例えば、スチレン誘導体、1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン、ビニルカルバゾール、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、アクリルアミド類、メタクリルアミド類、アリル化合物、ビニルエーテル類、ビニルエステル類、イタコン酸ジアルキル類、前記フマール酸のジアルキルエステル類またはモノアルキルエステル類等から選ばれる付加重合性不飽和結合を1個有する化合物等を挙げることができる。
前記スチレン誘導体としては、スチレン、2,4,6−トリブロモスチレン、2−フェニルスチレン等が挙げられる。
前記アクリル酸エステル類としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸tert−ブチル、クロロエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、トリメチロールプロパンモノアクリレート、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、メトキシベンジルアクリレート、フルフリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、アクリル酸2-フェニルフェニル等が挙げられる。
前記メタクリル酸エステル類としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、クロロエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、トリメチロールプロパンモノメタクリレート、ベンジルメタクリレート、メトキシベンジルメタクリレート、フルフリルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、メタクリル酸2-フェニルフェニル等が挙げられる。
前記アクリルアミド類としては、アクリルアミド、N−アルキルアクリルアミド(アルキル基としては炭素数1〜3のもの、例えばメチル基、エチル基、プロピル基)、N,N−ジアルキルアクリルアミド(アルキル基としては炭素数1〜6のもの)、N−ヒドロキシエチル−N−メチルアクリルアミド、N−2−アセトアミドエチル−N−アセチルアクリルアミド等が挙げられる。
前記メタクリルアミド類としては、メタクリルアミド、N−アルキルメタクリルアミド(アルキル基としては炭素数1〜3のもの、例えばメチル基、エチル基、プロピル基)、N,N−ジアルキルメタクリルアミド(アルキル基としては炭素数1〜6のもの)、N−ヒドロキシエチル−N−メチルメタクリルアミド、N−2−アセトアミドエチル−N−アセチルメタクリルアミド等が挙げられる。
前記アリル化合物としては、アリルエステル類(例えば酢酸アリル、カプロン酸アリル、カプリル酸アリル、ラウリン酸アリル、パルミチン酸アリル、ステアリン酸アリル、安息香酸アリル、アセト酢酸アリル、乳酸アリルなど)、アリルオキシエタノール等が挙げられる。
前記ビニルエーテル類としては、アルキルビニルエーテル(アルキル基としては炭素数1〜10のもの、例えば、ヘキシルビニルエーテル、オクチルビニルエーテル、デシルビニルエーテル、エチルヘキシルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテル、エトキシエチルビニルエーテル、クロロエチルビニルエーテル、1−メチル−2,2−ジメチルプロピルビニルエーテル、2−エチルブチルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ジエチレングリコールビニルエーテル、ジメチルアミノエチルビニルエーテル、ジエチルアミノエチルビニルエーテル、ブチルアミノエチルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、テトラヒドロフルフリルビニルエーテル等が挙げられる。
前記ビニルエステル類としては、ビニルブチレート、ビニルイソブチレート、ビニルトリメチルアセテート、ビニルジエチルアセテート、ビニルバレート、ビニルカプロエート、ビニルクロロアセテート、ビニルジクロロアセテート、ビニルメトキシアセテート、ビニルブトキシアセテート、ビニルラクテート、ビニル−β−フェニルブチレート、ビニルシクロヘキシルカルボキシレート等が挙げられる。
前記イタコン酸ジアルキル類としては、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸ジブチル等が挙げられ、前記フマール酸のジアルキルエステル類またはモノアルキルエステル類としては、ジブチルフマレート等が挙げられる。
その他、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、マレイロニトリル、マレイミド(N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド)等も挙げることができる。
前記Polyで表されるビニルモノマー重合体は単独重合体でも、2種類以上のモノマーからなる共重合体でもよい。
一般式(2)中、lは1〜10の整数を表し、好ましくは1〜5の整数である。mは1〜10の整数を表し、好ましくは1〜5の整数である。
一般式(2)で表される熱可塑性樹脂は、例えば、新高分子実験学4 高分子の合成・反応(1)付加系高分子の合成(高分子学会編)」第1章、109項〜112項に記載のように、下記一般式(3)で表されるチオール誘導体とビニルモノマーの共存下、ラジカル重合を行うことにより合成することができる。
Figure 2009029939
(一般式(3)中、A、L1、L2、X、Poly、l、mは一般式(2)のそれらと同義である。)
一般式(3)で表されるチオール誘導体は、多価チオール化合物の求核置換反応、求核付加反応、ラジカル付加反応など公知の方法で容易に合成できる。該チオール誘導体はクロマトグラフィーなどの手法で単離精製して次工程に用いても良いし、反応混合物のまま次工程に用いてもよい。反応混合物のl、mは混合物の平均値となり、これは1H NMRなどで容易に導くことができる。
以下に本発明で使用することができる熱可塑性樹脂(2)の好ましい具体例(例示化合物Q−1〜Q−10)を挙げるが、本発明で用いることができる熱可塑性樹脂はこれらに限定されるものではない。
Figure 2009029939
Figure 2009029939
Figure 2009029939
これらの熱可塑性樹脂(2)は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの熱可塑性樹脂は、他の共重合成分を含んでもよい。
<熱可塑性樹脂(3)>
本発明において、ブロック共重合体とはカルボキシル基含有セグメントAと疎水性セグメントBから構成されるブロック共重合体である。前記カルボキシル基含有セグメントAとは、繰り返し単位中に少なくとも一つ以上のカルボキシル基を有するセグメントであり、前記疎水性セグメントBとは、セグメントBのみからなるポリマーが水またはメタノールに溶解しない特性を有するセグメントである。前記ブロック共重合体の型としては、AB型、B1AB2型(2つの疎水性セグメントB1とB2とは同じでも異なっていてもよい)およびA1BA2型(2つのカルボキシル基含有セグメントA1とA2とは同じでも異なっていてもよい)が挙げられ、分散特性が良好な点から、AB型あるいはB1AB2型のブロック共重合体が好ましく、製造適性の点から、AB型あるいはBAB型(B1AB2型の2つの疎水性セグメントが同じ型)がより好ましく、AB型が特に好ましい。
前記カルボキシル基含有セグメントおよび前記疎水性セグメントは、各々、ビニルモノマーの重合によって得られるビニルポリマー、ポリエーテル、開環メタセシス重合ポリマーおよび縮合ポリマー(ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホンなど)など従来公知のポリマーのいずれからでも選択可能であるが、ビニルポリマー、開環メタセシス重合ポリマー、ポリカーボネート、ポリエステルが好ましく、製造適性の点からビニルポリマーがより好ましい。
前記カルボキシル基含有セグメントAを形成するビニルモノマーAとしては、例えば、以下のものが挙げられるが、本発明で採用することができるモノマーはこれらの具体例に限定されるものではない。なお、以下においてnは1以上の整数を表す。
Figure 2009029939
前記疎水性セグメントBを形成するビニルモノマーBとしては、例えば、以下のものが挙げられる。アクリル酸エステル類やメタクリル酸エステル類(エステル基は置換または無置換の脂肪族エステル基、置換または無置換の芳香族エステル基であり、例えば、メチル基、フェニル基、ナフチル基など);アクリルアミド類、メタクリルアミド類、具体的には、N−モノ置換アクリルアミド、N−ジ置換アクリルアミド、N−モノ置換メタクリルアミド、N−ジ置換メタクリルアミド(モノ置換体およびジ置換体の置換基は、置換または無置換の脂肪族基、置換または無置換の芳香族基であり、前記置換基としては、例えば、メチル基、フェニル基、ナフチル基など);オレフィン類、具体的には、ジシクロペンタジエン、ノルボルネン誘導体、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、イソプレン、クロロプレン、ブタジエン、2,3−ジメチルブタジエン、ビニルカルバゾールなど;スチレン類、具体的には、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、クロロメチルスチレン、メトキシスチレン、アセトキシスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、ブロモスチレン、トリブロモスチレン、ビニル安息香酸メチルエステルなど;ビニルエーテル類、具体的には、メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテルなど;その他のモノマーとして、クロトン酸ブチル、クロトン酸ヘキシル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジブチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジブチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジメチル、フマル酸ジブチル、メチルビニルケトン、フェニルビニルケトン、メトキシエチルビニルケトン、N−ビニルオキサゾリドン、N−ビニルピロリドン、ビニリデンクロライド、メチレンマロンニトリル、ビニリデン、ジフェニル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェート、ジブチル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジオクチル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェートなどが挙げられる。
中でも、エステル基が無置換の脂肪族基、置換または無置換芳香族基であるアクリル酸エステル類およびメタクリル酸エステル類;置換基が無置換の脂肪族基、置換または無置換芳香族基であるN−モノ置換アクリルアミド、N−ジ置換アクリルアミド、N−モノ置換メタクリルアミドおよびN−ジ置換メタクリルアミド;スチレン類;が好ましく、エステル基が置換または無置換芳香族基であるアクリル酸エステル類およびメタクリル酸エステル類;スチレン類;がより好ましい。
前記疎水性セグメントBを形成するビニルモノマーBとしては、例えば、以下のものが挙げられるが、本発明で採用することができるモノマーはこれらの具体例に限定されるものではない。
Figure 2009029939
前記ビニルモノマーAおよび前記ビニルモノマーBは各々、1種類であっても、2種類以上を用いてもよい。前記ビニルモノマーAおよび前記ビニルモノマーBは、種々の目的(例えば、酸含量調節やガラス転移点(Tg)の調節、有機溶剤や水への溶解性調節、分散物安定性の調節)に応じて選択される。
前記ブロック共重合体の分子量(Mn)は1000〜100000であるのが好ましく、2000〜90000であるのがより好ましく、3000〜80000であるのが特に好ましい。分子量が1000以上であれば安定な分散物を得やすくなる傾向があり、100000以下であれば有機溶剤への溶解性が良くなり、溶解した溶液の粘度が低いため分散しやすくなる傾向がある。
前記ブロック共重合体の具体例を以下に列挙する。尚、本発明に用いられるブロック共重合体は、これらの具体例に何ら限定されるものではない。
Figure 2009029939
前記ブロック共重合体は、必要に応じてカルボキシル基などを保護したり、ポリマーに官能基を導入する手法を用いてリビングラジカル重合およびリビングイオン重合を利用して合成することができる。また、末端官能基ポリマーからのラジカル重合および末端官能基ポリマー同士の連結によって合成することができる。中でも、分子量制御やブロック共重合体の収率の点から、リビングラジカル重合およびリビングイオン重合を利用するのが好ましい。前記ブロック共重合体の製造方法については、例えば、「高分子の合成と反応(1)(高分子学会編、共立出版(株)発行(1992))」、「精密重合(日本化学会編、学会出版センター発行(1993))」、「高分子の合成・反応(1)(高分子学会編、共立出版(株)発行(1995))」、「テレケリックポリマー:合成と性質、応用(R.Jerome他、Prog.Polym.Sci.Vol16.837-906頁(1991))」、「光によるブロック,グラフト共重合体の合成(Y.Yagch他、Prog.Polym.Sci.Vol15.551-601頁(1990))」、米国特許5085698号明細書などに記載されている。
これらの樹脂は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。また、ブロック共重合体ではない樹脂と混合して使用しても良い。ブロック共重合体ではない樹脂の種類に特に制限はないが、上記で挙げた光学物性、熱物性、分子量を満たすものが好ましい。
<熱可塑性樹脂の好ましい物性等>
本発明で用いられる熱可塑性樹脂は、波長589nmにおける屈折率が1.50より大きいことが好ましく、1.55より大きいことがより好ましく、1.60より大きいことがさらに好ましい。
本発明で用いられる熱可塑性樹脂は、波長589nmにおける光線透過率が75%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、85%以上であることがさらに好ましい。
本発明で用いられる熱可塑性樹脂は、ガラス転移温度が80℃〜400℃であることが好ましく、100℃〜380℃であることがより好ましい。ガラス転移温度が80℃以上の樹脂を用いれば十分な耐熱性を有する光学部品が得られやすくなり、また、ガラス転移温度が400℃以下の樹脂を用いれば成形加工が行いやすくなる傾向がある。
本発明に用いられる熱可塑性樹脂は、数平均分子量が1,000〜100,000であることが好ましく、2,000〜90,000であることがより好ましく、3,000〜80,000であることがさらに好ましく、5,000〜70,000であることが特に好ましい。数平均分子量が1,000以上であれば実用的な力学強度を有する有機無機複合材料が得られやすく、100,000以下であれば成形加工を行いやすい傾向がある。また、本発明に用いられる熱可塑性樹脂を構成するポリマーは、付加系ポリマー、縮合系ポリマーのいずれであってもよく、ポリマーの種類に制限はない。
本発明では、硫黄を含有する熱可塑性樹脂を用いてもよい。例えば、ジチアン構造を有するポリマーの例としては、特開平11−202101号、特開2002−131502号、特開2005−29608号各公報などに記載のものが挙げられる。また、ウレタン構造を有する樹脂の例としては、特開2001−342252号、特開2001−106761号各公報などに記載のものが挙げられる。フェニレンスルフィド構造を有する樹脂の例としては、特開平7−316295号、特開平8−92367号、特開平8−104751号、特開平8−100065号各公報などに記載のものが挙げられる。
これら以外の屈折率1.65以上の樹脂の例としては、特開平5−178929号、特開2002−201262号各公報などに記載のものが挙げられる。
[分散剤]
本発明に使用する前記無機微粒子は、前記樹脂を主体とする樹脂マトリックスへの相溶性を有する有機化合物(本発明では「分散剤」と称する)を配位あるいは修飾すると、該樹脂マトリックスへの微粒子の分散性が向上し、本発明の有機無機複合材料の透明性や機械的強度が向上する場合がある。分散剤の効果は、微粒子同士の凝集が抑制される効果や、上記樹脂マトリックスへの相溶性が向上する効果等の組み合わせによるものと考えられる。
本発明で用いる分散剤は、数平均分子量が50〜10000であり、少なくとも一つのカルボキシル基を有することを特徴とする。分子量の好ましい範囲は100〜5000であり、さらに好ましくは100〜500である。分散剤の分子量が大きすぎると、有機無機複合材料の屈折率を上げることが難しくなる場合があり、分子量が小さすぎると乾燥工程等で、蒸発などにより有機無機複合材料中に存在できなくなる場合がある。
本発明で用いる分散剤は、少なくとも一つの芳香族性基を有する化合物であることが好ましく、芳香族環に直接結合したカルボキシル基を有する化合物であることがより好ましく、下記一般式(1)で表される化合物であることがさらに好ましい。以下において、一般式(1)で表される化合物について詳細に説明する。
Figure 2009029939
一般式(1)中、R1およびR2はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、または置換もしくは無置換のアリール基を表す。
1およびR2として、選択しうるハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を挙げることができ、フッ素原子、塩素原子が好ましい。アルキル基の炭素数は、1〜20が好ましく、1〜15がより好ましく、1〜10がさらに好ましく、1〜7がなお好ましく、2〜6がさらになお好ましく、3〜6が特に好ましい。アルコキシ基の炭素数は、1〜20が好ましく、1〜15がより好ましく、1〜10がさらに好ましく、1〜7がなお好ましく、2〜6がさらになお好ましく、3〜6が特に好ましい。アリール基の炭素数は、6〜18が好ましく、6〜16がより好ましく、6〜12がさらに好ましい。アルキル基、アルコキシ基およびアリール基はそれぞれ置換されていてもよく、置換基としては、これらのアルキル基、アルコキシ基、アリール基のほかに、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)を挙げることができる。例えば置換アルキル基の具体例として、アラルキル基を挙げることができる。アラルキル基の炭素数は7〜18が好ましく、7〜16がより好ましく、7〜14がさらに好ましい。特にR1は、炭素数1〜7のアルキル基またはアルコキシ基が好ましく、炭素数2〜6のアルキル基またはアルコキシ基がより好ましく、炭素数3〜6のアルキル基またはアルコキシ基が特に好ましい。
より好ましいR1は水素原子、フッ素原子、エチル基、エトキシ基、プロピル基、プロポキシ基、ブチル基、ブトキシ基、ペンチル基、ペントキシ基、ヘキシル基、ヘキシルオキシ基、オクチル基、オクチルオキシ基、ベンジル基、フェニル基、プロピルフェニル基、フェノキシ基であり、さらに好ましくはプロピル基、プロポキシ基、ブチル基、ブトキシ基、ペンチル基、ペントキシ基、ヘキシル基、ヘキシルオキシ基、オクチル基、オクチルオキシ基、ベンジル基、プロピルフェニル基であり、特に好ましくはプロピル基、プロポキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチル基、オクチルオキシ基である。より好ましいR2は水素原子、フッ素原子、塩素原子、メチル基、エチル基、ベンジル基、フェニル基、フェノキシ基であり、さらに好ましくは水素原子、フッ素原子、メチル基、フェニル基、フェノキシ基であり、特に好ましくは水素原子、フッ素原子、フェノキシ基である。
一般式(1)の4つのR2はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。4つのR2が同一である化合物として、すべてのR2が水素原子である化合物を好ましく例示することができる。また、一般式(1)の複数のR2は互いに結合して一般式(1)のベンゼン環と縮合環を形成してもよい。さらにR1とR2が互いに結合して一般式(1)のベンゼン環と縮合環を形成してもよい。形成される縮合環として、例えばナフタレン環を挙げることができる。
本発明で用いる分散剤として、一般式(1)で表される化合物の他に下記の一般式(1’)で表される化合物も挙げることができる。
Figure 2009029939
一般式(1’)中、R11およびR12はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、または置換もしくは無置換のアリール基を表す。R21およびR22はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。nは1以上の整数を表す。
一般式(1’)におけるR11およびR12の詳細と好ましい範囲は、一般式(1)において前記したR1およびR2の詳細と好ましい範囲と同じである。
一般式(1’)におけるR21およびR22が採りうる置換基は、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルコキシ基、置換または無置換のアリール基、ハロゲン原子を挙げることができる。アルキル基、アルコキシ基、アリール基が採りうる置換基としては、アルキル基、置換または無置換のアルコキシ基、置換または無置換のアリール基、ハロゲン原子を挙げることができる。R21およびR22が採りうるアルキル基およびアルコキシ基の炭素数は、1〜20が好ましく、1〜15がより好ましく、1〜10がさらに好ましく、1〜6が特に好ましい。R21およびR22が採りうるアリール基の炭素数は、6〜18が好ましく、6〜16がより好ましく、6〜12がさらに好ましい。R21およびR22が採りうるハロゲン原子として、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が好ましい。R21およびR22として好ましくは、水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアリール基であり、より好ましくは水素原子、無置換のアルキル基、無置換のアリール基であり、さらに好ましくはメチレン基、エチレン基、フェニルメチレン基、ジフェニルメチレン基、フェニルエチレン基、ジフェニルエチレン基であり、特に好ましくはメチレン基、エチレン基、フェニルメチレン基、ジフェニルメチレン基である。nが2以上であるとき、複数のR21およびR22は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
一般式(1’)におけるnは、好ましくは1〜6の整数であり。より好ましくは1〜3の整数であり、さらに好ましくは1または2の整数であり、特に好ましくは1である。
本発明で用いることができる分散剤としては、例えば、以下のものが挙げられるが、本発明で採用することができる分散剤はこれらの具体例に限定されるものではない。
Figure 2009029939
Figure 2009029939
これらの分散剤は、1種類を単独で用いてもよく、また複数種を併用してもよい。
[有機無機複合材料とその製造方法]
本発明の有機無機複合材料は、少なくとも高分子鎖末端、または側鎖にカルボキシル基を有する熱可塑性樹脂と、数平均分子量が50〜10000の少なくとも一つのカルボキシル基を有する分散剤と、数平均粒子サイズが1〜15nmの無機微粒子からなり、該熱可塑性樹脂中に数平均粒子サイズが1〜15nmの無機微粒子が分散していることを特徴とする。本発明の有機無機複合材料の製造方法は特に限定されるものではない。具体的には、熱可塑性樹脂と無機微粒子をそれぞれ独立に合成して、両者を混合させる方法、予め合成した無機微粒子の存在下で熱可塑性樹脂を合成する方法、予め合成した熱可塑性樹脂の存在下で無機微粒子を合成する方法、熱可塑性樹脂と無機微粒子の両者を同時に合成する方法等を挙げることができ、これらのいずれの方法で製造してもよい。また、分散剤を加える方法も限定されない。具体的には、樹脂と分散剤を混合した後に、無機微粒子を混合する方法、無機微粒子と分散剤を混合した後に、樹脂を混合する方法、樹脂と無機微粒子を混合した後に、分散剤を混合する方法が挙げることができ、これらのいずれの方法で作製してもよい。
例えば、熱可塑性樹脂と無機微粒子をそれぞれ独立に合成して両者を混合させる方法を採用する場合は、無機微粒子を一気に樹脂溶液と混合してもよいし、徐々に樹脂溶液に滴下してもよい。また、攪拌混合に際しては、可塑剤を存在させておいてもよい。このような可塑剤は、予め樹脂溶液や無機微粒子分散液に添加しておいてもよいし、樹脂溶液と無機微粒子分散液の混合時に添加してもよい。
本発明の有機無機複合材料における無機微粒子の含有量は、1〜90質量%であることが好ましく、5〜80質量%であることがより好ましく、10〜70質量%であることがさらに好ましい。無機微粒子含量が1質量%以上であれば屈折率向上効果が得られやすく、90質量%以下であれば有機無機複合材料の機械強度の低下を防ぎやすい傾向にある。
本発明の有機無機複合材料は、波長589nmにおける屈折率が1.63以上であることが好ましく、1.65以上であることがより好ましく、1.67以上であることがさらに好ましい。波長589nmにおける屈折率が1.63以上であればより好ましい性質を有するレンズ等の光学部品を提供しやすい。
本発明の有機無機複合材料は、波長589nmにおける光線透過率が80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。波長589nmにおける光線透過率が80%以上であればより好ましい性質を有するレンズ等の光学部品を提供し得やすい。なお本発明における光線透過率は、樹脂を成形して厚さ1.0mmの基板を作成し、紫外可視吸収スペクトル測定用装置UV−3100(島津製作所)で測定した値である。
本発明の有機無機複合材料では、樹脂と無機微粒子と分散剤とを必須の構成成分とするが、この他に必要に応じて別種の樹脂、分散剤、可塑剤、離型剤、帯電防止剤等の添加剤を含んでいても良い。
本発明の有機無機複合材料は成形体への埃の付着などを防ぐ目的から帯電しにくいことが望ましい。帯電圧は−2〜15kVであることが好ましく、−1.5〜7.5kVであることがより好ましく、−1.0〜7.0kVであることが特に好ましい。帯電圧を調節するために、帯電防止剤を添加することができるが、本願の有機無機複合材料では、光学特性改良の目的で添加した無機微粒子自体が別の効果である帯電防止効果にも寄与する場合がある。帯電防止剤を添加する場合には、アニオン性帯電防止剤、カチオン性帯防止剤、ノ二オン性帯電防止剤、両性イオン性帯電防止剤、高分子帯電防止剤、あるいは帯電性微粒子などが挙げられ、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらの例としては、特開2007−4131号公報、特開2003−201396号公報に記載された化合物を挙げることができる。
帯電防止剤の添加量はまちまちであるが、全固形分の0.001〜50質量%であることが好ましく、より好ましくは0.01〜30質量%であり、特に好ましくは0.1〜10質量%である。
本発明の有機無機複合材料は、200℃で2時間保持した際の揮発成分が2質量%以下であることが好ましく、より好ましくは、230℃で2時間保持した際の揮発成分が2質量%以下であることであり、特に好ましくは250℃で2時間保持した際の揮発成分が2質量%以下であることである。
本発明の有機無機複合材料の飽和吸水率は、2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%であることが特に好ましい。
[可塑剤]
本発明の有機無機複合材料を構成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度が高い場合、成形が必ずしも容易ではないことがある。このため、成形温度を下げるために、本発明の有機無機複合材料に可塑剤を含有させてもよい。本発明で使用する可塑剤としては、一般式(4)で表される構造を有するものが好ましい。
Figure 2009029939
[一般式(4)中、B1およびB2はそれぞれ独立に炭素数6〜18のアルキル基またはアリールアルキル基、mは0または1、Xは
Figure 2009029939
のうちのいずれかであり、R21およびR22はそれぞれ独立に水素原子または炭素数4以下のアルキル基を示す。)
また、一般式(4)で表される化合物において、B1,B2は炭素数6〜18の範囲内において任意のアルキル基またはアリールアルキル基を選ぶことができる。炭素数が6未満では、分子量が低すぎてポリマーの溶融温度で沸騰し、気泡を生じたりする場合がある。また、炭素数が18を超えると、ポリマーとの相溶性が悪くなるので添加効果が不十分である場合がある。
1,B2の基としては、具体的には、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ドデシル基、n−テトラデシル基、n−ヘキサデシル基、n−オクタデシル基等の直鎖アルキル基や、2−ヘキシルデシル基、メチル分岐オクタデシル基等の分岐アルキル基、またはベンジル基、2−フェニルエチル基等のアリールアルキル基が挙げられる。一般式(4)で表される化合物の具体例としては次に示すものが挙げられ、中でもW−1(花王株式会社製の商品名〔KP−L155〕)が好ましい。ただし、本発明で用いることができる可塑剤はこれらの化合物に限定されない。
Figure 2009029939
[その他の成分]
上記成分以外に、成形性を改良する目的で変性シリコーンオイル等の公知の離型剤を添加したり、耐光性や熱劣化を改良したりする目的で、ヒンダードフェノール系、アミン系、リン系、チオエーテル系等の公知の劣化防止剤を適宜添加しても良く、これらを配合する場合には有機無機複合材料の全固形分に対して0.1〜5質量%程度が好ましい。
[成形法]
本発明における有機無機複合材料の成形法としては、射出成形、押出成形、圧縮成形、キャスト成形等、一般の熱可塑性樹脂材料の成形法を採用することができるが、本発明では特に、粉体化した固形分を射出成形、圧縮成形等の公知の手法によって成形することが好ましい。またこの際、本発明の粉状の有機無機複合材料を直接加熱溶融あるいは圧縮などによりレンズ等の成形体に加工することもできるが、いったん押し出し法などの手法で、一定の重さ、形状を有するプリフォーム(前駆体)を作成した後、該プリフォームを圧縮成形で変形させてレンズ等の光学部品を作成することもできる。この場合目的の形状を効率的に作成するために、プリフォームに適当な曲率をもたせることもできる。
上記有機無機複合材料をマスターバッチとして他の樹脂に混合して用いても良い。
[光学部品]
本発明の有機無機複合材料を成形して透明成形体を得ることにより、本発明の光学部品を製造することができる。本発明の光学部品は、有機無機複合材料の説明で前記した屈折率、光学特性を示すものが有用である。光学部品の製造に際しては、金型を用いて成形することが好ましい。金型は、通常の光学部品の成形に用いられるものを適宜選択して採用することができる。
本発明は、最大0.1mm以上の厚みを有する高屈折率の光学部品に対して特に有用であり、好ましくは0.1〜5mmの厚みを有する光学部品への適用であり、特に好ましくは1〜3mmの厚みを有する光学部品への適用である。これらの厚い成形体は溶液キャスト法での製造では、溶剤が抜けにくく通常容易ではないが、本発明の有機無機複合材料を用いることにより、成形が容易で非球面などの複雑な形状も容易に付与することができ、無機微粒子の高い屈折率特性を利用しながら良好な透明性を有する光学部品とすることができる。
本発明の有機無機複合材料を利用した光学部品は、本発明の有機無機複合材料の優れた光学特性を利用した光学部品であれば特に限定はないが、例えば、レンズ基材や、特に光を透過する光学部品(いわゆるパッシブ光学部品)に使用することも可能である。かかる光学部品を備えた機能装置としては、各種ディスプレイ装置(液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ等)、各種プロジェクタ装置(OHP、液晶プロジェクタ等)、光ファイバー通信装置(光導波路、光増幅器等)、カメラやビデオ等の撮影装置等が例示される。かかる光学機能装置における前記パッシブ光学部品としては、レンズ、プリズム、プリズムシート、パネル、フィルム、光導波路、光ディスク、LEDの封止剤等が例示される。これら例示の光学部品のうち、本発明の光学部品はレンズとして特に好ましく用いることができる。かかるパッシブ光学部品には、必要に応じて任意の被覆層、例えば摩擦や摩耗による塗布面の機械的損傷を防止する保護層、無機粒子や基材等の劣化原因となる望ましくない波長の光線を吸収する光線吸収層、水分や酸素ガス等の反応性低分子の透過を抑制あるいは防止する透過遮蔽層、防眩層、反射防止層、低屈折率層等や、任意の付加機能層を設けて多層構造としてもよい。かかる任意の被覆層の具体例としては、無機酸化物コーティング層からなる透明導電膜やガスバリア膜、有機物コーティング層からなるガスバリア膜やハードコート等が挙げられ、そのコーティング法としては真空蒸着法、CVD法、スパッタリング法、ディップコート法、スピンコート法等公知のコーティング法を用いることができる。
本発明の有機無機複合材料を用いた光学部品は、特にレンズ基材に好適である。本発明の有機無機複合材料を用いて製造されたレンズ基材は、屈折率の温度依存性が少なく、光線透過性、軽量性を併せ持ち、光学特性に優れている。また、有機無機複合材料を構成するモノマーの種類や分散させる無機微粒子の量を適宜調節することにより、レンズ基材の屈折率や屈折率温度依存性を任意に調節することが可能である。
本発明における「レンズ基材」とは、レンズ機能を発揮することができる単一部材を意味する。レンズ基材の表面や周囲には、レンズの使用環境や用途に応じて膜や部材を設けることができる。例えば、レンズ基材の表面には、保護膜、反射防止膜、ハードコート膜等を形成することができる。また、レンズ基材の周囲を基材保持枠などに嵌入して固定することもできる。ただし、これらの膜や枠などは、本発明でいうレンズ基材に付加される部材であり、本発明でいうレンズ基材そのものとは区別される。
本発明におけるレンズ基材をレンズとして利用するに際しては、本発明のレンズ基材そのものを単独でレンズとして用いてもよいし、前記のように膜や枠などを付加してレンズとして用いてもよい。本発明のレンズ基材を用いたレンズの種類や形状は、特に制限されない。本発明のレンズ基材は、例えば、眼鏡レンズ、光学機器用レンズ、オプトエレクトロニクス用レンズ、レーザー用レンズ、ピックアップ用レンズ、撮像レンズ(車載カメラ用レンズ、携帯カメラ用レンズ、デジタルカメラ用レンズ等;ズームレンズや、正/負のパワーレンズなど各種公知の撮像レンズを含む)、OHP用レンズ、マイクロレンズアレイ等)に使用される。
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
[分析および評価方法]
(1)透過型電子顕微鏡(TEM)観察
日立製作所(株)社製H−9000UHR型透過型電子顕微鏡(加速電圧200kV、観察時の真空度約7.6×10-9Pa)にて行った。
(2)光線透過率測定
測定する樹脂を成形して厚さ1.0mmの基板を作成し、紫外可視吸収スペクトル測定用装置UV−3100(島津製作所製)で波長589nmの光について測定した。
(3)屈折率測定
アッベ屈折計(アタゴ社製DR−M4)にて、波長589nmの光について行った。
(4)耐湿性
成形体を60℃・相対湿度90%の環境下に168時間保持した後、目視にて変化のない場合を○、若干のクラックが入った場合を△、全面にクラックが入った場合を×とした。
[材料の調製]
(1)チタニア微粒子の合成
0.1モル/Lの硫酸チタニル水溶液を攪拌しながら、同容量の1.5モル/Lの炭酸ナトリウム水溶液を室温で10分かけて滴下した。こうして得た白色の超微粒子の懸濁液を、3500rpmで遠心分離し、上澄み液のデカンテーションによる除去および水洗の工程を繰り返すことにより精製した。こうして得た白色沈殿を0.3モル/Lの希塩酸中に攪拌分散しながら50℃で約1時間加熱して、透明感のある酸性ヒドロゾルを得た。この酸性ヒドロゾルを氷冷し、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩の水溶液を加えたところ白色沈殿を生じたので、次いでトルエンで抽出し、乾燥後濃縮した。この濃縮残渣のXRDとTEMより、アナタース型チタニア微粒子(数平均粒子サイズは約5nm)の生成を確認した。
(2)ジルコニア微粒子の合成
50g/Lの濃度のオキシ塩化ジルコニウム溶液を48%水酸化ナトリウム水溶液で中和し、水和ジルコニウム懸濁液を得た。この懸濁液をろ過した後、イオン交換水で洗浄し、水和ジルコニウムケーキを得た。このケーキを、イオン交換水で溶媒としてジルコニア換算で濃度15質量%に調整して、オートクレーブに入れ、圧力150気圧、150℃で24時間水熱処理してジルコニア微粒子懸濁液を得た。TEMより数平均粒子サイズが5nmのジルコニア微粒子の生成を確認した。
(3)ジルコニア微粒子トルエン分散液の調製
前記(2)で合成したジルコニア微粒子懸濁液と東京化成製のp−プロピル安息香酸(D−3)を溶解させたトルエン溶液を混合し、50℃で8時間攪拌した後、トルエン溶液を抽出し、ジルコニア微粒子トルエン分散液を作製した。
他の分散剤を用いる場合にも、同様の方法により調製できる。
(4)樹脂の合成
P−3の合成:
還流冷却器、ガス導入コックを付した300ml三口フラスコに、アルドリッチ社製2−カルボキシエチルアクリレート(A−3)0.50gを添加し、2回窒素置換した後、スチレン(B−1)49.5g、酢酸エチル21.4g、さらに開始剤として和光純薬工業株式会社製V−601 0.5gを添加し、さらに2回窒素置換した後、窒素気流下80℃で3時間加熱した。室温に戻した後、酢酸エチル30mlを添加後、10分間攪拌し、メタノール2Lに投入し、再沈殿した。沈殿を濾取した後、大量のメタノールで洗浄し、60℃で3時間真空乾燥することによりP−3を得た(収率48%、数平均分子量19,000、重量平均分子量34,000)。
Q−1の合成:
チオール誘導体Cの合成;
還流冷却器およびガス導入コックを付した300mlの三口フラスコに、ジペンタエリスリトールヘキサ(3−メルカプトプロピオネート)39.2g(50mmol)、イタコン酸32.5g(250mmol)、1−メトキシ−2−プロパノール127.3gを仕込み、窒素気流下、90℃に加熱した。ジメチル2,2−アゾビスイソブチレート288mgを1−メトキシ−2−プロパノール20gに溶解し添加した。90℃で2時間反応させた後、さらにジメチル2,2−アゾビスイソブチレート288mgを1−メトキシ−2−プロパノール20gに溶解し添加した。90℃で2時間反応させて後、100℃に昇温しさらに1時間反応させ、チオール誘導体Aの30質量%溶液を得た。反応液を1H NMRで解析し、l/m=5/1であることを確認した。
Figure 2009029939
例示化合物Q−1の合成;
還流冷却器およびガス導入コックを付した300mlの三口フラスコに、チオール誘導体Cの30質量%1−メトキシ−2−プロパノール溶液4.78g(1mmol)、2−フェニルフェノキシアクリレート44.9g(0.20mol)、THF20mlを仕込み、窒素気流下80℃に加熱した。ジメチル2,2−アゾビスイソブチレート92mgをTHF1mlに溶解して添加した。80℃で2時間反応させた後、ジメチル2,2−アゾビスイソブチレート46mgをTHF20mlに溶解して添加した。さらに80℃で2時間反応させた後、酢酸エチルで適度に希釈し、大量のメタノールに投入し沈殿させた。沈殿を濾取した後、大量のメタノールで洗浄し、50℃で12時間真空乾燥して例示化合物Q−1を得た(収率84%)。数平均分子量36,800、重量平均分子量59.000。
R−1の合成:
還流冷却器、ガス導入コックを付した300ml三口フラスコに、tert−ブチルアクリレート12.8g、2−ブロモプロピオン酸メチルエステル0.56g、臭化銅(I)0.24g、N,N,N’,N’,N”,N”―ペンタメチルジエチレンテトラミン0.29g、メチルエチルケトン4mlからなる混合液を調製し、窒素置換した。油浴温度80℃で3時間攪拌し、スチレン91.0g、メチルエチルケトン35mlの混合液を窒素気流下添加した。油浴温度90℃で20時間攪拌し、室温に戻してからアセトン100ml、アルミナ30gを加え30分攪拌した。この反応液をろ過し、濾液を過剰のメタノールに滴下した。生じる沈殿を濾取、メタノール洗浄、乾燥し、ブロック共重合体R−1’を74g得た。
ブロック共重合体R−1’70gをトルエン300gに溶解し、p−トルエンスルホン酸7.0gを加え、油浴温度130℃で6時間撹拌し、室温に戻してから過剰のメタノールに滴下した。生じた沈殿を濾取、メタノール洗浄、乾燥し、ブロック共重合体R−1を66g得た(数平均分子量30,000、重量平均分子量33,300)。
他の例示したポリマーについても、同様の方法で調製できる。
(5)有機無機複合材料の調製
(3)で合成したジルコニア微粒子のトルエン分散液を樹脂P−1のトルエン溶液に5分かけて滴下し、これを1時間攪拌した後、溶媒を除去することにより、有機無機複合材料を粉体として得た。
他の有機無機複合材料についても、同様の方法で調製した。
[加熱成形による光学部品の製造]
実施例1〜13と比較例1〜5の各レンズを下記の手順で製造した。使用した無機微粒子の種類と無機成分としての使用量は表4に示す通りとした。但し、比較例1では、無機微粒子を添加せず、比較例2では、分散剤を使用せず、比較例3では分散剤として、プロピオン酸を用い、比較例4および5ではアルドリッチ社製のポリスチレンを用いた。
製造した各有機無機複合材料を220℃で加熱成形し、厚さ1mmのレンズ用成形体を作成した。このとき金型からの離型性を評価した。成形体を切削し、断面をTEMで観察して、無機微粒子が熱可塑性樹脂中に均一に分散しているか否かを確認した。さらに光線透過率測定と屈折率測定を行った。これらの結果は以下の表4に記載した。その後、レンズ用成形体をレンズの形状に成形して、光学部品であるレンズを得た。
Figure 2009029939
表4から明らかなように、本発明により屈折率が1.65より大きくて透明性が良好であり、耐湿性のある光学部品が得られた(実施例1〜13)。また、実施例1〜13は、いずれも金型からの離形性に優れており、耐電圧が−1.0〜7.0kVの範囲内であり、ガラス転移温度が130〜380℃の範囲内であり、250℃で2時間保持した際の揮発成分が2質量%以下であり、飽和吸水率は0.5質量%であった。一方、比較例1では、無機微粒子の添加がないために、屈折率が十分に高い光学部品が得られず、比較例2では耐湿性が不十分であり、比較例3では、分散剤の屈折率が低いために、有機無機複合材料の屈折率も低下し、耐湿性も低く、比較例4および5では、樹脂としてポリスチレンを用いた場合には、分散性が低いため、無機微粒子を均一に分散することができず、微粒子が凝集しており、光線透過率が低いため、アッベ屈折率計での屈折率測定を行なえなかった。
本発明の光学部品は、高屈折性、光線透過性、軽量性および、耐湿性を併せ持つ有機無機複合材料を含むものである。本発明によれば、屈折率を任意に調節した光学部品を比較的容易に提供することができる。このため、本発明は、高屈折レンズ等の広範な光学部品の提供に有用であり、産業上の利用可能性が高い。

Claims (18)

  1. 少なくとも高分子鎖末端または側鎖にカルボキシル基を有する熱可塑性樹脂と、数平均分子量が50〜10000の少なくとも一つのカルボキシル基を有する分散剤と、数平均粒子サイズが1〜15nmの無機微粒子とを含み、該熱可塑性樹脂中に該無機微粒子が分散していることを特徴とする有機無機複合材料。
  2. 前記分散剤が、数平均分子量100〜500であり、少なくとも一つ以上の芳香族性基を有することを特徴とする請求項1に記載の有機無機複合材料。
  3. 前記分散剤が芳香族環に直接結合したカルボキシル基を有することを特徴とする請求項1または2に記載の有機無機複合材料。
  4. 前記分散剤が下記一般式(1)で表される化合物群から少なくとも一種選ばれることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
    Figure 2009029939
    [一般式(1)中、R1およびR2はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換もしくは無置換のアルキル基、または置換もしくは無置換のアルコキシ基、または置換もしくは無置換のアリール基を表す。]
  5. 前記一般式(1)のR1が、炭素数1〜7の置換もしくは無置換のアルキル基、または、炭素数1〜7の置換もしくは無置換のアルコキシ基であることを特徴とする請求項4に記載の有機無機複合材料。
  6. 前記熱可塑性樹脂中のカルボキシル基数が高分子鎖1本あたり平均0.1〜20であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
  7. 前記熱可塑性樹脂がカルボキシル基を含むビニルモノマーを重合単位として含むランダム共重合体であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の有機無機複合材料成形物。
  8. 前記熱可塑性樹脂が、高分子末端の少なくとも1箇所にカルボキシル基を有する熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の有機無機複合材料成形物。
  9. 前記熱可塑性樹脂がカルボキシル基含有セグメントおよび疎水性セグメントで構成されるブロック共重合体であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
  10. 前記無機微粒子の波長589nmにおける屈折率が1.90〜3.00であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
  11. 前記無機微粒子が、ジルコニア、酸化亜鉛、酸化錫およびチタニアからなる群より選ばれるいずれか一種であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
  12. 波長589nmにおける屈折率が1.63以上、かつ、波長589nmにおける厚さ1mm換算の光線透過率が80%以上であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
  13. 請求項1〜12のいずれか一項に記載の有機無機複合材料を含んで構成される光学部品。
  14. 光学部品がレンズ基材であることを特徴とする請求項13に記載の光学部品。
  15. 数平均粒子サイズが1〜15nmの無機微粒子を、数平均分子量が50〜10000の少なくとも一つのカルボキシル基を有する分散剤の存在下で、少なくとも高分子鎖末端または側鎖にカルボキシル基を有する熱可塑性樹脂中に分散する工程を含むことを特徴とする有機無機複合材料の製造方法。
  16. 前記分散剤が下記一般式(1)で表される化合物群から少なくとも一種選ばれることを特徴とする請求項15に記載の有機無機複合材料の製造方法。
    Figure 2009029939
    [一般式(1)中、R1およびR2はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換もしくは無置換のアルキル基、または置換もしくは無置換のアルコキシ基、または置換もしくは無置換のアリール基を表す。]
  17. 数平均粒子サイズが1〜15nmの無機微粒子を、数平均分子量が50〜10000の少なくとも一つのカルボキシル基を有する分散剤の存在下で、少なくとも高分子鎖末端または側鎖にカルボキシル基を有する熱可塑性樹脂中に分散して有機無機複合材料を調製する工程と、該有機無機複合材料を金型を用いて成形する工程を含むことを特徴とする光学部品の製造方法。
  18. 前記分散剤が下記一般式(1)で表される化合物群から少なくとも一種選ばれることを特徴とする請求項17に記載の光学部品の製造方法。
    Figure 2009029939
    [一般式(1)中、R1およびR2はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換もしくは無置換のアルキル基、または置換もしくは無置換のアルコキシ基、または置換もしくは無置換のアリール基を表す。]
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