JP2009019197A - 脂肪酸エステルの製造法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 反応終期においても触媒活性を維持して反応速度の低下を抑制し、更にグリセリンと低級アルコールが反応して副生するメトキシプロパンジオール等の副生物の増加を抑制して、高効率・高収率で脂肪酸アルキルエステルを製造する方法の提供
【解決手段】 油脂と炭素数1〜5の低級アルコールを反応原料として、固体触媒を用いて脂肪酸アルキルエステルを製造する方法であって、油脂の転化率が50モル%以上の反応系中の反応原料及び反応生成物が一液相となる状態、あるいは油脂の転化率が最も大きい段での反応系中の反応原料及び反応生成物が一液相となる状態で反応を行う、脂肪酸アルキルエステルの製造法。
【選択図】 なし

Description

本発明は、固体触媒を用いて油脂と低級アルコールから脂肪酸アルキルエステルを製造する方法に関する。
トリグリセリドが主成分である油脂と低級アルコールとをエステル交換し、脂肪酸アルキルエステルを製造する方法として種々の方法が知られている。この反応においては、例えば、特許文献1ではアルカリ触媒を用いて、多段反応で生成したグリセリンを分離しながら反応を追い詰めている。しかし、均一触媒を用いているため、エステル交換反応後に、触媒を中和/除去する工程が必要となり、グリセリン精製工程も煩雑となる。
この問題を解決するために特許文献2には固体酸触媒を使用して脂肪酸アルキルエステルを製造する方法が報告されている。しかし、特許文献2には低級アルコールが気化する条件、またグリセリンが相分離する条件での反応が実施例に示されており、反応速度の減少抑制や、固体酸触媒を用いたことによる新たな課題である副生成物の抑制について依然として課題があった。
特開昭56−65097号公報 国際公開第05/021697号パンフレット
本発明の課題は、反応終期においても触媒活性を維持して反応速度の低下を抑制し、更にグリセリンと低級アルコールが反応して副生するメトキシプロパンジオール等の副生物の増加を抑制して、高効率・高収率で脂肪酸アルキルエステルを製造する方法を提供することにある。
本発明は、油脂と炭素数1〜5の低級アルコールを反応原料として、固体触媒を用いて脂肪酸アルキルエステルを製造する方法であって、油脂の転化率が50モル%以上の反応系中の反応原料及び反応生成物が一液相となる状態で反応を行う、脂肪酸アルキルエステルの製造法を提供する。
また、本発明は、油脂と炭素数1〜5の低級アルコールを反応原料として、固体触媒を用いて多段で脂肪酸アルキルエステルを製造する方法であって、油脂の転化率が最も大きい段での反応系中の反応原料及び反応生成物が一液相となる状態で反応を行う、脂肪酸アルキルエステルの製造法を提供する。
また、本発明は、次の工程1及び2を含む脂肪アルコールの製造方法を提供する。
工程1:固体触媒を用い、油脂と炭素数1〜5の低級アルコールを反応原料として、油脂の転化率が50モル%以上の反応系中の反応原料及び反応生成物が一液相となる状態、あるいは油脂の転化率が最も大きい段での反応系中の反応原料及び反応生成物が一液相となる状態で反応を行い、次いで得られた反応物から低級アルコールを分離し、さらに油水分離して脂肪酸アルキルエステルを含む油相を得る工程。
工程2:工程1で得られた脂肪酸アルキルエステルを含む油相と水素を反応させて、脂肪アルコールを得る工程。
なお、本発明において、反応系中の反応原料及び反応生成物が一液相となる状態とは、グリセリンの相分離がなく、反応原料である油脂及び炭素数1〜5の低級アルコール、反応生成物である脂肪酸アルキルエステル及びグリセリンが一液相で存在している状態をいう。
本発明の製造法によると、グリセリンが相分離しないためにグリセリンの触媒活性点への吸着被毒を抑制することができ、その結果、特に反応終期においても触媒活性を維持し反応速度の低下を抑制することができ、触媒使用量を抑制することができる。また、グリセリンが相分離しないために触媒表面のグリセリン濃度が上昇せず、グリセリンと低級アルコールが反応して副生する副生物の増加を抑制することができる。更に、低級アルコールの気化がないため液相中の低級アルコール濃度を大きくでき、反応速度の低下を抑制することができる。
[脂肪酸アルキルエステルの製造法(工程1)]
本発明に用いられる油脂としては、天然の植物性油脂及び動物性油脂が挙げられる。植物性油脂としては、椰子油、パーム油、パーム核油等が挙げられ、動物性油脂としては、牛脂、豚脂、魚油等が挙げられる。油脂中にはその他、脂肪酸、炭水化物、糖類、たんぱく質などが含まれていても良い。使用する油脂の酸価(mg-水酸化カリウム/g-油脂)としては、特に限定されるものではない。しかし、触媒の劣化を抑制する観点から、好ましくは15以下、更に好ましくは9以下、より好ましくは6以下の酸価の油脂を使用することが望ましい。
本発明に用いられる炭素数1〜5の低級アルコールとしては具体的には、メタノール、エタノール、プロパノールなどが挙げられる。特に、低コストと回収の容易さからメタノールが好ましい。
本発明で用いられる固体触媒としては、粉末触媒あるいはその成型体、またはイオン交換樹脂を用いることができるが、高い反応温度で使用できる粉末触媒やあるいはその成型体が好ましい。これら触媒としては、固体酸触媒が好ましく、下記で定義される強酸点を0.2mmol/g-cat以下、かつ下記で定義される弱酸点を0.3mmol/g-cat以上有する弱酸性固体酸触媒がより好ましい。
弱酸点:TPD(Temperature Programmed Desorption:アンモニア吸着脱離法)において、100〜250℃の範囲でNH3の脱離を起こす点。
強酸点:TPDにおいて、250℃より高い温度でNH3の脱離を起こす点。
これらの弱酸性固体酸触媒の中で好ましい一群として、下記構造(A)、構造(B)及び金属原子(C)を有する固体酸触媒の成形体が挙げられる。
構造(A):無機リン酸が有するOH基の少なくとも一つから水素原子が除かれた構造
構造(B):一般式(1)又は(2)で表される有機リン酸が有するOH基の少なくとも一つから水素原子が除かれた構造
Figure 2009019197
(式中、−R1及び−R2は、それぞれ−R、−OR、−OH、−Hから選ばれる基を示し、−R1及び−R2の少なくとも一方は、−R又は−ORである。但し、Rは炭素数1〜22の有機基である。)
金属原子(C):アルミニウム、ガリウム、鉄から選ばれる一種以上の金属原子
上記構造(A)において、無機リン酸として、オルトリン酸、メタリン酸やピロリン酸等の縮合リン酸等が挙げられ、性能の点から、オルトリン酸が好ましい。また構造(B)において、一般式(1)又は(2)で表される有機リン酸として、ホスホン酸、ホスホン酸モノエステル、ホスフィン酸、リン酸モノエステル、リン酸ジエステル、亜リン酸モノエステル、亜リン酸ジエステルなどが挙げられ、これらの混合物でもよく、好ましくはホスホン酸である。
有機リン酸中の有機基Rとしては、メチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、iso−ブチル、tert−ブチル、n−ヘキシル、2−エチルヘキシル、オクチル、ドデシル、オクタデシル等のアルキル基、フェニル、3−メチルフェニル等のアリール基が好ましく、またそれらの基に、アミノ基、アルコキシ基、カルボニル基、アルコキシカルボニル基、カルボン酸基、クロロ基等のハロゲン基、ホスホン酸基、スルホン酸基等が結合した基も用いられる。
金属原子(C)としては、性能及び/又はコストの点から、アルミニウムが好ましい。尚、選択性その他性能を改良する目的で、アルミニウム、ガリウム、鉄以外の金属原子を少量有してもよい。また触媒中に含まれる金属原子(C)の全てが、必ずしも、構造(A)或いは構造(B)と結合している必要はなく、金属原子(C)の一部分が金属酸化物或いは金属水酸化物等の形で存在しても構わない。
本発明に用いられる弱酸性固体酸触媒の好ましい他の一群として、オルトリン酸アルミニウムを含有する不均一系触媒の成形体が挙げられ、特に細孔直径が6〜100nmである細孔容量が0.46ml/g以上であって、かつ0.40mmol/g以上の酸量を有するものが好ましい。
本発明に用いられる弱酸性固体酸触媒の調製法として、沈殿法や金属酸化物或いは水酸化物へ無機リン酸及び有機リン酸を含浸する方法、無機リン酸アルミニウムゲル中の無機リン酸基を有機リン酸基へ置換する方法等が用いられ、沈殿法が好ましい。
また、本発明に用いられる固体触媒を調製する際に、高表面積の担体を共存させ、担持触媒を得る事も可能である。担体として、シリカ、アルミナ、シリカアルミナ、チタニア、ジルコニア、ケイソウ土、活性炭等を用いる事ができる。担体を過剰に用いると、活性成分の含有量が低下し、活性を低下させるため、触媒中の担体の占める割合は、90重量%以下が好ましい。
本発明の反応形式は、攪拌機を有する槽型反応器及び触媒を充填した固定床反応器のいずれでも良いが、触媒分離を必要としない点から固定床反応器が好ましい。
本発明における反応方式は、メタノール等の低級アルコールを液状で接触させる、液(低級アルコール)−液(油脂)−固(触媒)からなる反応である。更に、一段反応では油脂の転化率が50モル%以上の反応系中の反応原料及び反応生成物が一液相となる状態で反応を行い、多段反応では油脂の転化率が最も大きい段での反応系中の反応原料及び反応生成物が一液相となる状態で反応を行う。
なお、本発明において、油脂の転化率は、以下の式により求めた値である。
油脂の転化率(モル%)=(原料グリセリドの当量−未反応グリセリドの当量)/(原料グリセリドの当量)×100
なおグリセリドの当量とはグリセリドの持つ脂肪酸基の総モル数を示す。
反応系中の反応原料及び反応生成物が一液相となる状態で反応を行うには、反応を追い詰めてもグリセリンが相分離しないような条件、具体的には油脂に対する低級アルコールのモル比、反応温度、反応圧力を設定する。即ち、グリセリンが相分離しないためには油脂に対する低級アルコールのモル比を大きく、反応温度を高くする必要がある。しかし、油脂に対する低級アルコールのモル比や反応温度が高い場合には、低級アルコールが気化し易くなるので、反応圧力は、反応温度における低級アルコールの蒸気圧以上で反応を行うことが好ましい。
本発明において、油脂に対する低級アルコールのモル比(油脂を全てトリグリセリド換算)は、良好な反応速度を得る観点から7以上が好ましく、8以上がより好ましい。また低級アルコールの回収量を抑えて経済的に反応を行う観点から150以下が好ましく、90以下がより好ましく、45以下が更に好ましい。更に、必要に応じて希釈剤を用いて油脂を希釈しても良い。希釈剤としては、キシレン、トルエン、ヘキサン、テトラヒドロフラン、アセトン、エーテル、脂肪酸アルキルエステル等が挙げられ、これらに限定されるものではない。
一液相となる転化率は50モル%以上が好ましく、60モル%以上がより好ましく、70モル%以上が更に好ましく、80モル%以上が特に好ましい。転化率を上げていくにつれ、グリセリン濃度が増え、相分離し易くなるが、反応を追い込む高転化率で、均一液相系で反応させることで、本発明の効果がより期待される。
反応温度は、十分な触媒活性を得て反応速度を高め、所望の反応率を得るため、またグリセリンを相分離させないため、100℃以上が好ましく、130℃以上がより好ましく、150℃以上が更に好ましく、160℃以上が特に好ましい。また、副生成物であるメトキシプロパンジオール等のグリセリンと低級アルコールとのエーテル体の生成を抑制し、グリセリンの精製工程が複雑になるのを防ぐ観点から、220℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましい。
反応圧力は、反応原料及び反応生成物が一液相となるように、反応温度における低級アルコールの蒸気圧から設定することが必要であり、反応温度における低級アルコールの蒸気圧以上であることが好ましく、0.1〜10MPa-G(ここでGはゲージ圧力を意味する)がより好ましく、0.5〜8MPa-Gが更に好ましく、1.5〜8MPa-Gが特に好ましい。
反応時間は、反応条件(反応形式、触媒量、温度など)によって異なるが、槽型反応器を用いた反応では、通常2〜10時間で良い。また、固定床反応器を用いた連続反応では、油脂基準の液空間速度(LHSV)は、反応器の単位体積あたりの生産性を高め、経済的に反応を行う観点から、0.02/hr以上が好ましく、0.1/hr以上がより好ましい。また、十分な反応率を得る観点から、2.0/hr以下が好ましく、1.0/hr以下がより好ましい。
以上のようにして得られる反応生成物には、目的とする脂肪酸アルキルエステル及びグリセリン等が含有されている。反応器からは反応原料と反応生成物の混合物が得られ、この混合物を必要に応じて常法により蒸発又は蒸留操作を行うことで低級アルコールを分離し、更に静置分離、遠心分離等により油水分離して、グリセリンを含む水相と脂肪酸アルキルエステルを含む油相を得ることができる。この様にして得られる脂肪酸アルキルエステルの酸価は、特に限定されるものではない。しかし、後に水素化して脂肪アルコールを製造する場合など、次の工程での触媒の劣化を抑制する観点から、好ましくは1以下、更に好ましくは0.7以下、より好ましくは0.5以下まで脂肪酸アルキルエステルの酸価を低減する事が望ましい。本発明の脂肪酸アルキルエステルの製造法は、この様な低酸価の脂肪酸アルキルエステルを製造する場合にも好適な製造法である。
本発明においては、反応器、好ましくは固体触媒を充填した固定床反応器を多段に設け、上流段の反応器と下流段の反応器の間に、上流段の反応器から得られる油脂を含む反応物より低級アルコールを分離し、次いで得られた液成分をさらに油水分離してグリセリンを除去する工程を有することが好ましい。ここで上流側とは多段に設けられた反応器のうち、原料である油脂が最初に供給される反応器により近い側をいう。多段反応を行う場合、各段毎に反応の「始め」と「終わり」をもって終始とする。また、多段で反応を行う場合は、少なくとも各段での転化率が最も大きい段での反応を反応原料及び反応生成物が一液相となる条件下に反応を行う。これは、グリセリン含有量が最も高い段を均一液相で行うことを意味し、最も本発明の効果が奏される為である。もちろん、全ての段で反応を均一液相で行っても良い。
[脂肪アルコールの製造法(工程2)]
本発明の脂肪アルコールの製造法は、上記のような本発明の製造法により得られた脂肪酸アルキルエステルを含む油相を用い、水素化反応させて、脂肪アルコールを得る方法である。
尚、脂肪アルコールとは、油脂から誘導されるアルコールを意味する。
本方法において、水素化触媒としては、一般に知られている銅系触媒、あるいはパラジウムや白金等の貴金属系触媒などを使用することができる。銅系触媒としては、銅−クロム、銅−亜鉛、銅−鉄−アルミニウム、銅−シリカ等の触媒を挙げることができる。
水素化反応は、水素化触媒の存在下、液相懸濁床方式あるいは固定床方式等、一般に使用される何れの反応方式によっても行うことができる。
液相懸濁床方式で水素化反応を行う場合、水素化触媒の量は、反応温度あるいは反応圧力に応じて、実用的な反応収率が得られる範囲内において任意に選択できるが、脂肪酸アルキルエステルに対し、0.1〜20重量%が好ましい。反応温度は、好ましくは160〜350℃、更に好ましくは200〜280℃である。反応圧力は、好ましくは0.1〜35MPa、更に好ましくは3〜30MPaである。
固定床方式で連続的に水素化反応を行う場合、水素化触媒は、円柱状、ペレット状あるいは球状等に成形されたものを使用することが好ましい。反応温度は、好ましくは130〜300℃、更に好ましくは150〜270℃であり、反応圧力は、好ましくは0.1〜30MPaである。LHSVは、生産性及び反応性を考慮し、反応条件に応じて任意に決定することができる。
工程1に記載した製造法によって効率的に脂肪酸アルキルエステルを製造することができる為、次いでその脂肪酸アルキルエステルを水素化することで、脂肪アルコールも効率的に製造することができる。また、工程1で得られる脂肪酸アルキルエステルが低酸価であることも、脂肪アルコールを製造する上で好ましい。
触媒製造例1
エチルホスホン酸9.9gと、85%オルトリン酸27.7g、硝酸アルミニウム(9水和物)112.5gを水1000gに溶解させた。室温(25℃)にて、この混合溶液にアンモニア水溶液を滴下し、pHを5まで上昇させた。途中、ゲル状の白色沈殿が生成した。沈殿をろ過し、水洗後、110℃で15時間乾燥し、60メッシュ以下に粉砕した。粉砕した触媒に対して、アルミナゾルを10%添加し、1.5mmφの押出成形を行った。これを250℃で3時間焼成して、固体酸触媒の成形触媒(以下、触媒1という)を得た。得られた触媒の弱酸点は1mmol/g、強酸点は検出限界以下であった。
実施例1
500mLオートクレーブに、酸価0.2mg-水酸化カリウム/g-油脂(以下、単位は同じ)の精製パーム核油200.0gとメタノール92.9g(油脂を全てトリグリセリド換算で10モル倍)を仕込み、触媒1をバスケットに10.0g入れ、900rpmで攪拌しながら、170℃で5時間反応を行った。反応圧力は2MPa-Gであった。反応開始から0,0.5,1,2,3,4,5時間後にサンプリングを行い、水を加えてグリセリン層と油層を分離して、下記方法で分析を行った。
<油層分析方法>
サンプリング液をジーエルサイエンス社製のTMS化剤(商品名:TMSI−H)で約10分間TMS化処理した後、ガスクロマトグラフ分析をおこなった。
ガスクロマトグラフ条件
ガスクロマトグラフ:ヒューレットパッカード社製 HP6890
昇温プログラム:60℃(2min)→10℃/min→350℃(15min)
スプリットモード(比15:1)、スプリット流量60mL/min、
He圧力144kPa
カラム:フロンティア・ラボ 株式会社製 Ultra−Alloy−1(HT)、
長さ15m、膜厚0.15μm、内径0.25mm
注入口温度:300℃
検出器(FID)温度:350℃、水素30mL/min、
エアー300mL/min、メークアップ28mL/min
<グリセリン層分析方法>
ガスクロマトグラフ条件
ガスクロマトグラフ:ヒューレットパッカード社製 HP5890
昇温プログラム:40℃(2min)→10℃/min→180℃(20min)
スプリットモード:He圧力144kPa
カラム:J&W 社製 DB−WAX、長さ30m、膜厚0.25μm、
内径0.25mm
注入口温度:250℃
検出器(FID)温度:250℃
以下の実施例及び比較例においても同様の条件で分析をおこなった。
図1に反応時間と油層中の残存率−平衡残存率の値との関係を示す。図1から明らかなように、油層中の残存率−平衡残存率の値は経時で減少していき、5時間後には15.3モル%となった。このときの油脂の転化率は79.9モル%、脂肪酸メチルエステルの酸価0.5である。ここで、残存率とは(未反応グリセリドの当量)/(原料グリセリドの当量)×100で表される。平衡残存率とは反応平衡時における残存率である。つまり、モル数が大きい場合の方が反応平衡上、転化率は向上し、平衡残存率は小さくなるが、残存率−平衡残存率の減少速度を比較することで平衡値に依存しない反応速度を議論できる。なお実施例1における平衡残存率は4.8モル%である。
図2及び図3(図2の拡大図)に反応中のメチルエステル−グリセリン−メタノールの相図を示す。本例では反応中、終始グリセリンは相分離せず、一液相であった。なお、グリセリンが相分離しているか否かは目視により観察した。
比較例1
500mLオートクレーブに、酸価0.2の精製パーム核油200.0gとメタノール55.8g(油脂を全てトリグリセリド換算で6モル倍)を仕込み、触媒1をバスケットに10.0g入れ900rpmで攪拌しながら、170℃で5時間反応を行った。反応圧力は2MPa-Gであった。実施例1と同様にサンプリングを行い、水を加えてグリセリン層と油層を分離して油層分析を行った。
図1に反応時間と油層中の残存率−平衡残存率の値との関係を示す。図1から明らかなように、油層中の残存率−平衡残存率の値は経時で減少していくが、2時間後から減少速度は低下し、5時間後には19.8モル%となった。なお比較例1における平衡残存率は12.8モル%である。このときの油脂の転化率は67.3モル%、脂肪酸メチルエステルの酸価0.4である。
図2及び図3(図2の拡大図)に反応中のメチルエステル−グリセリン−メタノールの相図を示す。本例では反応約2時間後からグリセリンが相分離し始めた。このようにグリセリンが相分離してしまう場合は、相分離したグリセリンが触媒表面に吸着することで触媒活性が低下し、反応速度が減少することがわかる。
実施例2
温度測定用に内径6mmの管を軸方向に有する、内径35.5mmφ、長さ800mmHの反応管を2本直列につなぎ、触媒1をそれぞれ500ccずつ充填した。油脂としては酸価0.3の精製椰子油を用い、これと液状メタノールを反応器上部より供給し、反応温度170℃、LHSV0.2、反応圧力3.0 MPa-Gで反応を行った。メタノールは油脂に対し20モル倍(油脂を全てトリグリセリド換算)でフィードした。本例では反応中、終始グリセリンの相分離は起こらなかった。反応終了後、水を加えてグリセリン層と油層を分離して分析を行ったところ、油層中のメチルエステルは95.3重量%、酸価0.2で、グリセリン層中の副生物メトキシプロパンジオール(MPD)は2.3重量%、油脂の転化率は96.2モル%であった。
比較例2
メタノールを油脂に対し6モル倍(油脂を全てトリグリセリド換算)でフィードした以外は実施例2と同様にして反応を行った。本例では比較例1と同様に反応が進行するにつれグリセリンが相分離した。反応終了後、水を加えてグリセリン層と油層を分離して分析を行ったところ、油層中のメチルエステルは71.9重量%、酸価0.3で、グリセリン層中の副生物メトキシプロパンジオール(MPD)は2.9重量%、油脂の転化率は74.1モル%であった。本例では実施例2より油脂の転化率が低いにもかかわらずMPDの生成量は大きくなった。
実施例3
メタノールを油脂に対し10モル倍(油脂を全てトリグリセリド換算)でフィードした以外は実施例2と同様にして反応を行った。本例では反応中、終始グリセリンの相分離は起こらなかった。反応終了後、水を加えてグリセリン層と油層を分離して分析を行ったところ、油層中のメチルエステルは88.8重量%、酸価0.3で、グリセリン層中の副生物メトキシプロパンジオール(MPD)は2.8重量%、油脂の転化率は90.5モル%であった。
比較例3
反応圧力を1.0 MPa-Gとする以外は実施例3と同様にして反応を行った。本例ではメタノールが一部気化した。反応終了後、水を加えてグリセリン層と油層を分離して分析を行ったところ、油層中のメチルエステルは58.7重量%、酸価0.1で、グリセリン層中の副生物メトキシプロパンジオール(MPD)は3.7重量%、油脂の転化率は60.7モル%であった。
実施例2〜3及び比較例2〜3の反応条件及び結果を表1にまとめて示す。
Figure 2009019197
実施例4
内径237.2mmφの反応管に触媒1を45000cc充填した。油脂としては酸価5.8の精製椰子油を用い、これと液状メタノールを反応器上部より供給し、反応温度170℃、LHSV0.4、反応圧力3.0 MPa-Gで反応を行った。メタノールは油脂(油脂を全てトリグリセリド換算)に対し10モル倍でフィードした。反応中は終始グリセリンの相分離は起こらなかった。反応終了液は蒸発器にフィードし、圧力0.1MPa-G、150℃でメタノールを蒸発させた。油相中のメタノール含有量は1.1重量%であった。その後、液体サンプルを静置分離にて50℃で油相と水相とに分離した。得られた油相中のメチルエステルは79重量%、酸価0.5で、グリセリン濃度は0.3重量%であった。その油相180gと油脂(油脂を全てトリグリセリド換算)に対し10モル倍の液状メタノールとを9gの触媒1を用いてオートクレーブにて再反応させた。温度は170℃、圧力1.6MPa-G、反応時間は6時間とした。反応中は、終始グリセリンの相分離は起こらなかった。得られた反応物を油水分離して分析した結果、油相中のメチルエステルは97重量%、副生物であるメトキシプロパンジオール(MPD)生成率は2重量%対グリセリン生成量であった。
実施例5
実施例4で得られた油相を更に同じ反応器を用いて反応を進め、脂肪酸メチルエステルを99.4重量%含む油相を得た。得られた油相に水2重量%を添加して30分攪拌した後、1時間静置させて油相と水相に分離し、更に精留することにより脂肪酸メチルエステルを得た。次に得られた脂肪酸メチルエステルを、259mLのチタニア担持銅−亜鉛触媒(組成:Cu=35%、Zn=1.8%、TiO2担体50%、形状3.2mmφ×3.2mm円柱状)をカラムに充填した固定床反応装置を用いて水素化反応を行い、脂肪アルコールを得た。水素化反応条件は圧力19.6MPa-G、温度220℃とした。また、脂肪酸メチルエステルのフィード量は187mL/h、水素流量を414NL/hとした。
実施例1及び比較例1における反応時間と油層中の残存率−平衡残存率の値との関係を示す図である。 実施例1及び比較例1における反応中のメチルエステル−グリセリン−メタノールの相図である。 図2の拡大図である。

Claims (7)

  1. 油脂と炭素数1〜5の低級アルコールを反応原料として、固体触媒を用いて脂肪酸アルキルエステルを製造する方法であって、油脂の転化率が50モル%以上の反応系中の反応原料及び反応生成物が一液相となる状態で反応を行う、脂肪酸アルキルエステルの製造法。
  2. 油脂と炭素数1〜5の低級アルコールを反応原料として、固体触媒を用いて多段で脂肪酸アルキルエステルを製造する方法であって、油脂の転化率が最も大きい段での反応系中の反応原料及び反応生成物が一液相となる状態で反応を行う、脂肪酸アルキルエステルの製造法。
  3. 油脂に対する低級アルコールのモル比が7〜150である、請求項1又は2記載の脂肪酸アルキルエステルの製造法。
  4. 反応温度が100〜220℃である、請求項1〜3いずれかに記載の脂肪酸アルキルエステルの製造法。
  5. 反応圧力が、反応温度における低級アルコールの蒸気圧以上である、請求項1〜4いずれかに記載の脂肪酸アルキルエステルの製造法。
  6. 上流段の反応器と下流段の反応器の間に、上流段の反応器から得られる油脂を含む反応物より低級アルコールを分離し、次いで得られた液成分をさらに油水分離してグリセリンを除去する工程を有する請求項2〜5いずれかに記載の脂肪酸アルキルエステルの製造法。
  7. 次の工程1及び2を含む脂肪アルコールの製造方法。
    工程1:固体触媒を用い、油脂と炭素数1〜5の低級アルコールを反応原料として、油脂の転化率が50モル%以上の反応系中の反応原料及び反応生成物が一液相となる状態、あるいは油脂の転化率が最も大きい段での反応系中の反応原料及び反応生成物が一液相となる状態で反応を行い、次いで得られた反応物から低級アルコールを分離し、さらに油水分離して脂肪酸アルキルエステルを含む油相を得る工程。
    工程2:工程1で得られた脂肪酸アルキルエステルを含む油相と水素を反応させて、脂肪アルコールを得る工程。
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