JP2009014074A - 噛合いクラッチ - Google Patents

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Yoshitsugu Tsuchiya
嘉嗣 土屋
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【課題】第1部材と第2部材を共に焼結金属で形成し、その第1部材と第2部材各々の端面に設けた凸部と凹部を互いに噛合わせる噛合いクラッチを、初期なじみ性や相手攻撃性の悪化を招かない方法で噛合い部を強化してより厳しい条件下での使用に耐えられるものにすること課題としている。
【解決手段】端面に凸部5を設ける第1部材2と、端面に前記凸部と噛合わせる凹部6を設ける第2部材3を共に樹脂を含浸させた金属の焼結生材で形成して、焼結生材と同等のマイクロビッカース硬さを維持しながらロックウエル硬さを向上させて第1部材2と第2部材3の圧縮耐力を向上させた。
【選択図】図1

Description

この発明は、焼結金属によって構成される噛合いクラッチに関する。
周知の噛合いクラッチの中に、対をなす2個の部材の端面に凸部とその凸部を噛合わせる凹部を対応して設け、どちらか一方の部材をスプリングなどの付勢手段で他方の部材に押し付け、両部材間の伝達トルクが所定値を超えるまでは前記付勢手段の力で前記凸部と凹部の噛合い状態が維持され、伝達トルクが所定値を超えた後は噛合いが外れて両部材間でのトルク伝達が遮断されるようにしたものがある。
この種の噛合いクラッチは、例えば、下記特許文献1が開示している電動式の車両用ミラー格納ユニットにも利用されている(同文献の図7のクラッチギヤとクラッチホルダを参照)。
その特許文献1が開示しているクラッチギヤは、ウオームに噛合わせるギヤ(歯車の斜歯)と噛合いクラッチを構成する歯溝とを併設したものになっており、構造が複雑なため、機械加工して製造すると製造コストが高くつく。そこで、このような機械部品は、量産性に優れる粉末冶金法で製造することが多くなっており、特許文献1が開示しているミラー格納ユニット用のクラッチギヤやクラッチホルダも、焼結金属で形成されたものが既に実用に供されている。
なお、互いに噛み合わせる凸部と凹部を端面に備える焼結金属製の部材、例えば、特許文献1が開示しているクラッチギヤやクラッチホルダには、粉末成形の過程において凸部や凹部を設置した箇所とその他の箇所との間に不可避の密度差が生じて密度が低くなった部分の強度(圧縮耐力)が低下する。ここで言う不可避の密度差は、分割できない金型で各部の軸方向寸法に差が生じた圧粉体を成形したときに圧縮比の違いによって生じるものである。
特開2006−298097号公報
車両用ミラー格納ユニットなどに採用されている従来の焼結金属製の噛合いクラッチは、従来の条件で使用する限り特に問題はなかったが、より厳しい条件下での使用に耐えるものではなかった。
使用条件が厳しくなってクラッチの噛合い部にかかる荷重が大きくなると、他の部分に比べて密度が低くなっている噛合い用の凸部などが荷重に負けて著しく塑性変形し、実用上満足できる耐久性を確保することができなかった。
その対策として、スチーム処理や熱処理、窒化などによって噛合い部を強化することを検討したが、スチーム処理や熱処理などによる表面硬化処理を施すと凸部の表面などの硬度が高くなり過ぎ、そのために、噛合いクラッチに必要な初期なじみ性が悪化し、相手攻撃性が過大になって耐久性の向上につながらない。
そこで、この発明は、第1部材と第2部材を共に焼結金属で形成し、その第1部材と第2部材各々の端面に設けた凸部と凹部を互いに噛合わせる噛合いクラッチを、初期なじみ性や相手攻撃性の悪化を招かない方法で噛合い部を強化してより厳しい条件下での使用に耐えられるものにすること課題としている。
上記の課題を解決するため、この発明においては、第1部材の端面に設けた凸部を第2部材の端面に設けた凹部に噛合わせるようにした噛合いクラッチの前記第1部材と第2部材を、共に樹脂を含浸させた金属の焼結生材で形成した。ここで言う焼結生材は、焼結したままの熱処理などによる硬化処理を行っていない金属であり、硬化処理を行ったものよりも柔らかい。
この発明は、第1部材と第2部材の各部における焼結生材の密度に差が生じている噛合いクラッチに適用すると、密度が低くなっている部分に対する単位体積当たりの樹脂含浸量が、密度が高くなっている部分の樹脂含浸量よりも多くなって強度が低くなっている凸部などの強化が効果的になされる。第1部材の端面に凸部を設けた噛合いクラッチは、凸部の密度が凸部以外の部分の密度よりも低くなっており、この噛合いクラッチにこの発明を適用すると前記凸部の樹脂含浸量が凸部以外の部分の樹脂含浸量よりも多くなって凸部が強化される。
なお、噛合いクラッチは、第1部材と第2部材間でのトルク伝達が遮断されるときに第1部材の凸部と第2部材の凹部が擦れ合って熱を持つことが考えられるので、第1部材と第2部材に含浸させる樹脂は、熱硬化性樹脂がよい。
焼結金属で形成された歯車などの噛合い部品や摺動部品においては、強化品が要求される場合、スチーム処理、焼入れ、窒化などによる表面の硬化処理を行ってその要求に応える方法が一般的に採られるが、焼結金属で形成された噛合いクラッチにその技術を応用すると、上述したように初期なじみ性と相手攻撃性の悪化が起こる。
これに対し、この発明の噛合いクラッチは、凸部を有する第1部材と、凹部を有する第2部材を共に樹脂を含浸させた金属の焼結生材で形成しており、第1部材と第2部材の内部の焼結空孔が含浸樹脂で埋められて密度が低くなっている部分も圧縮耐力が向上し、押圧力が働く状態で噛合わせて使用しても塑性変形が減少する。
また、第1部材と第2部材を焼結生材で形成したので、互いに噛合う凸部と凹部の表面が焼入れなどで硬化処理したものに比べると適度に柔らかく、そのために、初期なじみ性と相手攻撃性については従来品と同等の性能が得られ、このために、高負荷条件で使用したときの耐久性が従来品よりも向上する。
以下、この発明の噛合いクラッチの実施の形態を添付図面の図1〜図3に基づいて説明する。例示の噛合いクラッチ1は、電動式車両用ミラー格納ユニットに利用されるものであって、互いに噛合わせる第1部材2と第2部材3を備えている。図示の第1部材2はクラッチホルダ、第2部材3はクラッチギヤである。
第2部材(クラッチギヤ)3は、中心の穴に通すシャフトによって回転可能、かつ、軸方向スライド可能に支持される。また、シャフトの外周に相対回転不可に外嵌される第1部材(クラッチホルダ)2にスプリングで付勢して押し当てられ、この第2部材3のギヤ部4に駆動用モータの回転を伝達するウオームが噛合わされる。なお、ここで述べたシャフト、スプリング、モータ及びウオームはいずれも図を省略した。
第1部材2と第2部材3の対向した端面には、噛合い用の凸部5とその凸部に対応させた凹部6が形成され、その凸部5と凹部6が互いに噛合わされ、その噛合い状態が第1部材2を第2部材3に対して押し付けたスプリングの力によって保持され、第2部材3の回転が第1部材2経由でシャフトに伝達されてシャフトが回転する。また、第2部材3から第1部材2に伝達されるトルクが所定値を越えると第1部材2が付勢力を加えたスプリングを押し縮めて軸方向にスライドして第2部材3から離反し、その作用で凸部5と凹部6の噛合が解けて第2部材3から第1部材2へのトルク伝達が遮断される。
第1部材2と第2部材3は、両者とも焼結金属で形成されている。この第1部材2と第2部材3は、原料の粉末を金型で加圧成形して所望形状の圧粉体を形成し、その圧粉体を焼結して製造される。必要に応じて焼結後にサイジングを行うこともあるが、スチーム処理や熱処理による表面硬化処理はなされておらず、両者とも焼結生材の状態を保っている。
その焼結生材に、アクリル酸エステルなどの熱硬化性樹脂(図示せず)を含浸させ、内部の焼結空孔を含浸樹脂で埋めて完成品にしている。熱硬化性樹脂は、フェノール樹脂やエポキシ樹脂なども採用でき、アクリル酸エステルに限定されない。
第1部材2に設けた凸部5は、粉末成形時の圧縮比が凸部の無い部分に比べて小さくなることが原因で焼結生材の状態での密度が凸部の無い部分の密度と比較して低くなっているが、樹脂含浸によって焼結空孔が埋められると樹脂を含浸する前に比べてロックウエル硬さが向上し、それにより圧縮耐力が向上して凸部の塑性変形が減少する。
一方、樹脂を含浸しても焼結生材の組織的な変化は起こらないため、第1部材2の各部のマイクロビッカース硬さは樹脂含浸後も変わらず、このために、噛合い部の初期なじみ性と相手攻撃性については、樹脂含浸を行っていない従来品と同等の性能が確保される。
第2部材3に設けた凹部6も、焼結空孔への樹脂の含浸によって樹脂含浸前に比べてロックウエル硬さが向上し、マイクロビッカース硬さは樹脂含浸後も樹脂含浸前と同等の硬さが維持されて初期なじみ性及び相手攻撃性の悪化を抑えながらの圧縮耐力向上が図られる。
−実施例1−
以下に、この発明の効果を確認するために行った評価試験の結果を示す。評価試験は、粉末成形−焼結−樹脂含浸−ショットピーニング処理の工程を経て製造されたFe−2wt%Cu−0.8wt%C−潤滑剤の組成の密度を異ならせたサンプル材No.1〜No.3を用いて、樹脂含浸前後の密度、ロックウエル硬さ、マイクロビッカース硬さ、及び0.2%圧縮耐力を調べた。
サンプル材の製造は、粉末を所定の密度になるまで加圧圧縮し、次いで、得られた圧粉体をベルト式焼結炉で1130℃に加熱して焼結し、その後、液状樹脂の含浸、加熱乾燥を2回繰り返し、最後に、表面に付着した樹脂をショットピーニング処理で剥ぎ落とす手順で行った。その試験の結果を表1〜表4に示す。また、表4の結果をグラフ化して図4に示す。
Figure 2009014074

Figure 2009014074
Figure 2009014074
Figure 2009014074
表1からわかるように、樹脂を含浸させると焼結体の密度が若干高まる。そのために空洞状態の焼結空孔が減少して表2に示すようにロックウエル硬さが向上し、表4、及び図4に示すように、焼結体の圧縮耐力が向上する。
さらに、樹脂を含浸しても組織変化は起こらないためマイクロビッカース硬さは変わらず、初期なじみ性と相手攻撃性は表面の硬化処理がなされていない従来品と同等の性能が確保される。
なお、焼結体は密度が低くなるほど焼結空孔が増加して強度が低下するので、この発明の噛合いクラッチは、第1部材と第2部材の密度が低くなるほど効果が大きくなる。
−実施例2−
次に、実施例1で用いたものと同一組成の材料で図1、図2に示した第1部材(クラッチホルダ)2を作製し、このクラッチホルダの端面に形成された凸部5と凸部以外の部分について焼結体のときの密度と、樹脂含浸後の密度を調べて比較した。その結果を表5に示す。
Figure 2009014074
表5の密度差は、含浸樹脂の量と考えてよい。この結果からわかるように、凸部の樹脂含浸量が凸部以外の部分の樹脂含浸量よりも多くなって凸部の強度が補われ、これにより、凸部の圧縮耐力が向上してその凸部の塑性変形が減少する。
この発明の噛合いクラッチの使用の一例を示す分解斜視図 図1の噛合いクラッチを図1とは反対側から見て示す分解斜視図 図1の噛合いクラッチの凸部と凹部の噛合い状態を示す断面図 評価用サンプルの0.2%圧縮耐力の測定結果をグラフ化して示す図
符号の説明
1 噛合いクラッチ
2 第1部材(クラッチホルダ)
3 第2部材(クラッチギヤ)
4 ギヤ部
5 凸部
6 凹部

Claims (3)

  1. 第1部材(2)の端面に設けた凸部(5)を第2部材(3)の端面に設けた凹部(6)に噛合わせるようにした噛合いクラッチであって、前記第1部材(2)と第2部材(3)が共に樹脂を含浸させた金属の焼結生材で形成されていることを特徴とする噛合いクラッチ。
  2. 第1部材(2)の端面に設けた凸部(5)の単位体積当たりの樹脂含浸量が、凸部以外の部分の樹脂含浸量よりも多くなっている請求項1に記載の噛合いクラッチ。
  3. 前記樹脂として熱硬化性樹脂を用いた請求項1又は2に記載の噛合いクラッチ。
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