JP2009007728A - アミノ基含有繊維およびその製造方法ならびに該繊維を含む繊維構造物 - Google Patents

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Abstract

【課題】アクリル系繊維は該繊維中のニトリル基の反応性を利用し、様々な処理を施すことが可能である。かかる特徴を利用し、アニオン交換繊維や吸湿性繊維などが開発されている。しかし、これらの繊維は、反応時間が長い、製造工程が多い、繊維が着色する、性能が十分でないなどさまざまな解決すべき課題を有するものである。本発明の目的は、効率的に製造でき、十分な性能を有するアミノ基含有繊維およびその製造方法ならびに該繊維を含む繊維構造物を提供することにある。
【解決手段】アクリル系繊維を1分子中の全アミノ基数が3以上であり、かつ、1級アミノ基数が2以上であって、アミノ基間をアルキレン基で結合した構造を有するアミノ基含有有機化合物で処理することによって繊維中に架橋構造とアミノ基を同時に導入して得られるアミノ基含有繊維。
【選択図】なし

Description

本発明は、アミノ基含有繊維に関する。詳細には、アクリル系繊維とアミノ基含有有機化合物とを反応させることで、架橋構造とアミノ基を同時に導入して得られるアミノ基含有繊維に関する。
アクリル系繊維は該繊維中のニトリル基の反応性を利用し、様々な処理を施すことが可能である。かかる特徴を利用し、アニオン交換繊維や吸湿性繊維などが開発されている。しかし、これらの繊維は、それぞれ解決すべき課題を有するものである。
例えば、アニオン交換繊維としては、ポリアクリロニトリル繊維をヒドラジンおよび水酸化ナトリウムで前処理した後にヒドラジンあるいはアルキレンアミンで処理して得られるアニオン交換繊維(特許文献1)、あるいは、特定の温度で熱処理して得られたアクリル繊維を、その後にポリエチレンポリアミンやポリエチレンイミンで5〜10時間処理した酸及び又はアルデヒド吸着性繊維(特許文献2)などが知られている。しかし、これらの文献ではアミノ化率を上げるために、前処理として、ヒドラジン架橋およびカルボキシル基の導入、あるいは、長時間のアミノ化処理を行っており、コスト的に不利である。
また、特許文献3では、ヒドラジンで高ニトリル系重合体を処理し、架橋構造とアミン構造を同時に導入することが好ましい旨開示されているが、該処理では、窒素含有官能基は多量に導入できるものの、アルキル基やアルキレン基などの電子供与的性質を有する基と結合したアミノ基は導入されず、一般的な弱塩基性陰イオン交換樹脂よりも塩基性が弱くなり、架橋構造についても、その長さが短く、密となるので、実用上満足できるアニオン交換能は得られない。
一方、吸湿性繊維としては、アクリル系繊維に対して、ヒドラジン系化合物による架橋導入およびアルカリ性金属水酸化物などによる加水分解を施して得られる、アクリレート系繊維がよく知られている(特許文献4、5)。これらのアクリレート系繊維は、飽和吸湿率が高い、あるいは、雰囲気相対湿度により飽和吸湿率が大きく変化するなどの有用な吸湿特性を有しているものである。しかしながら、これらの繊維を得るためには、架橋工程および加水分解工程という少なくとも2つの工程が必要である上、繊維の色相が濃いピンク色から濃い茶色を呈する為、白さを重視する衣料用途などへの展開が制限されるものである。
色相については、特許文献6では、ヒドラジン系化合物による架橋処理の後に酸処理Aを行うこと、アルカリによる加水分解処理の後に酸処理Bを行うこと、を開示し相当に白度を改善したアクリレート系繊維を得ている。また、特許文献7では、加水分解を実質的に無酸素雰囲気下で実施することにより白度を改善している。しかし、かかる技術においては、依然として上述の架橋、加水分解の2工程が必要である上、さらに多数の処理工程が必要となり、コスト的に不利である。
特開昭63−75041号公報 特開2000−64175号公報 特開平10−156179号公報 特開平5−132858号公報 特開2000−314082号公報 特開平9−158040号公報 特開2000−303353号公報
本発明者は、かかる事情に鑑み、鋭意検討を進めた結果、アクリル系繊維を特定のアミノ基含有有機化合物で処理することによって繊維中に架橋構造とアミノ基を同時かつ効率的に導入でき、得られた繊維が優れた性能を有することを見出し本発明に到達した。本発明の目的は、アクリル系繊維を改質して得られる優れた機能を有する繊維および該繊維の効率的な製造方法ならびに該繊維を含む機能性繊維構造物を提供することにある。
本発明の上記目的は、以下の手段により達成される。すなわち、
[1]アクリル系繊維を1分子中の全アミノ基数が3以上であり、かつ、1級アミノ基数が2以上であって、アミノ基間をアルキレン基で結合した構造を有するアミノ基含有有機化合物で処理することによって繊維中に架橋構造とアミノ基を同時に導入して得られるアミノ基含有繊維。
[2]アミノ基含有有機化合物が、アミノ基間を炭素数が3以上のアルキレン基で結合した構造を有するものであることを特徴とする[1]に記載のアミノ基含有繊維。
[3]アミノ基量が0.5mmol/g以上であることを特徴とする[1]または[2]に記載のアミノ基含有繊維。
[4]20℃65%RHにおける飽和吸湿率が15質量%以上であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載のアミノ基含有繊維。
[5]20℃95%RHおよび20℃50%RHにおける飽和吸湿率の差が50パーセントポイント以上であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載のアミノ基含有繊維。
[6]アクリル系繊維に1分子中の全アミノ基数が3以上であり、かつ、1級アミノ基数が2以上であって、アミノ基間をアルキレン基で結合した構造を有するアミノ基含有有機化合物を反応させることによって繊維中に架橋構造とアミノ基を同時に導入することを特徴とするアミノ基含有繊維の製造方法。
[7]アミノ基含有有機化合物が、アミノ基間を炭素数が3以上のアルキレン基で結合した構造を有するものであることを特徴とする[6]に記載のアミノ基含有繊維の製造方法。
[8][1]〜[5]に記載のアミノ基含有繊維を含むアニオン交換繊維構造物。
[9][1]〜[5]に記載のアミノ基含有繊維を含む吸湿性繊維構造物。
[10][1]〜[5]に記載のアミノ基含有繊維を含む抗菌性繊維構造物。
[11][1]〜[5]に記載のアミノ基含有繊維を含む抗かび性繊維構造物。
本発明によれば、1工程でアクリル系繊維に架橋構造とアミノ基を導入できるため、工程が簡略化でき、製造コストの低減、廃棄物の減少などが期待できる。また、得られる繊維は、導入されたアミノ基がアルキレン基に結合しているため良好な塩基性を示すものであり、従来技術のように改めて加水分解を行わなくても高い飽和吸湿率および飽和吸湿率差を発現するものであって、しかも着色の少ない繊維である。かかる本発明のアミノ基含有繊維は酸性ガス除去、水の脱塩、アニオン交換、吸湿、調湿、抗菌、抗かびなど、衣料分野も含め、様々な用途へ展開することができ、製品価格の低下などに寄与できるものである。
以下、本発明を詳述する。本発明のアミノ基含有繊維は、アクリル系繊維を1分子中の全アミノ基数が3以上であり、かつ、1級アミノ基数が2以上であって、アミノ基間をアルキレン基で結合した構造を有するアミノ基含有有機化合物で処理することによって繊維中に架橋構造とアミノ基を同時に導入したものである。ここで、架橋構造は、親水性の高いアミノ基含有繊維が水に溶解して繊維の形状が変化したり、強度が低下したりすることを抑制する効果があり、また、アミノ基はアニオン交換性能、吸湿性能、抗菌性能、抗かび性能などの機能に寄与する。
本発明に採用するアクリル系繊維としてはアクリロニトリル(以下ANという)系重合体により形成された繊維であればよく、AN系重合体としては、AN単独重合体あるいはANと他の単量体との共重合体のいずれでも採用しうる。
また、本発明において、アミノ基はアクリル系繊維を形成するAN系重合体のニトリル基とアミノ基含有有機化合物の反応により導入されるので、ANの共重合量が少なすぎる場合、導入されるアミノ基量が少なくなり、十分な性能を発現させることができない。このため、AN共重合量としては、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上のとき良好な結果を得られやすい。
AN系重合体としてANと他の単量体との共重合体を採用する場合、AN以外の共重合成分としてはメタリルスルホン酸、p−スチレンスルホン酸等のスルホン酸基含有単量体及びその塩、(メタ)アクリル酸、イタコン酸等のカルボン酸基含有単量体及びその塩、スチレン、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド等の単量体など、ANと共重合可能な単量体であれば特に限定されない。ただし、高いアニオン交換性能が求められる場合には、酸性基を有する単量体の量は少ないほうが望ましい。
また、本発明に採用するアクリル系繊維の製造手段は特に制限がなく、基本的には公知の方法をそのまま適用して製造すればよい。形態としては、短繊維、トウ、糸、編織物、不織布等いずれの形態のものでもよく、また、製造工程中途品、廃繊維などでも採用できる。
特に、湿式または乾/湿式紡糸により得られる、乾燥緻密化、湿熱緩和処理等の熱処理の施されていない比較的粗な構造、具体的には、乾燥繊維質量基準で表した含有又は付着水分量の百分率である水膨潤度が30〜150%のアクリル系繊維を使用した場合には、反応液中での繊維の分散性や繊維中へのアミノ基含有有機化合物の浸透性などが高くなるので、反応が均一且つ速やかに進むという利点がある。
本発明に採用するアミノ基含有有機化合物は、1分子中の全アミノ基数が3以上であり、かつ、1級アミノ基数が2以上であって、アミノ基間をアルキレン基で結合した構造を有するものである必要がある。かかるアミノ基含有有機化合物を用いることで、架橋構造とアミノ基を1工程で同時に導入することが可能となる。すなわち、該化合物中の1級アミノ基が、アクリル系繊維を構成するAN系重合体中のニトリル基と反応し、AN系重合体間に該化合物を介した架橋構造が形成される。そして、架橋反応で消費されなかった残りのアミノ基はそのまま該アクリル系繊維に固定化されることとなり、優れたアニオン交換性能や吸湿性能などが発現されるようになるのである。
ここで、アミノ基含有有機化合物において、全アミノ基数が3未満であると架橋反応に全てのアミノ基が消費され、十分なアニオン交換性能や吸湿性能が得られにくくなり、1級アミノ基数が2未満であると架橋構造が導入されにくくなる。また、アミノ基間をアルキレン基で結合した構造でない場合、アミノ基への電子供与が少なく、塩基性が不十分となって、十分なアニオン交換性能が得られない。
かかるアミノ基含有有機化合物の具体例としては、3,3’−イミノビス(プロピルアミン)、N−メチル−3,3’−イミノビス(プロピルアミン)、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)−1,3−プロピレンジアミン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)−1,3−ブチレンジアミン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)−1,4−ブチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンヘキサミン、ポリビニルアミンなどのポリアミン類などが挙げられる。
なかでも、3,3’−イミノビス(プロピルアミン)、N−メチル−3,3’−イミノビス(プロピルアミン)、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)−1,3−プロピレンジアミン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)−1,3−ブチレンジアミン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)−1,4−ブチレンジアミンなどのアミノ基間を炭素数が3以上のアルキレン基で結合した構造を有するアミノ基含有有機化合物はアクリル系繊維との反応速度が速く、100℃以下の処理温度でも短時間で反応できるので、必ずしも圧力容器を使用しなくてもよく、コスト的に有利で好ましい。さらに、かかる構造を有するアミノ基含有有機化合物の場合、反応後の繊維を着色の少ないものにできる。なお、ここで言う炭素数とは、アミノ基を直接結ぶ炭素の数のことであって、分岐鎖や置換基などの炭素の数は含まない。
本発明のアミノ基含有繊維のアミノ基量、すなわち、アニオン交換容量としては、好ましくは0.5mmol/g以上、より好ましくは、1.0mmol/g以上である。0.5mmol/g以上であれば、アニオン交換繊維として実用的なレベルである。また、原料となるアクリル系繊維の組成や架橋構造量にもよるが、後述する飽和吸湿率を発現させるにはアミノ基量を1.0mmol/g以上、飽和吸湿率差を発現させるにはアミノ基量を1.5mmol/g以上とすることが望ましい。
本発明のアミノ基含有繊維は、従来のカルボキシル基を利用するアクリレート系繊維に匹敵する飽和吸湿率を発現することができ、広範囲にわたって飽和吸湿率を調節することが可能である。吸湿性繊維として使用する場合であれば、飽和吸湿率として20℃65%RHの雰囲気下において、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上とすることが望ましい。
また、本発明のアミノ基含有繊維は相対湿度によって飽和吸湿率が大きく変化することが大きな特徴の一つである。すなわち、本発明のアミノ基含有繊維においては、雰囲気湿度が高いときは吸湿し、雰囲気湿度が低いときは放湿するという調湿性を発現させることが可能である。調湿材として使用する場合、20℃95%RH雰囲気下と20℃50%RH雰囲気下での飽和吸湿率の差が50パーセントポイント以上とすることが望ましい。
また、架橋構造の量については、得られる繊維の引張強度として0.4cN/dtex以上、引張伸度として15%以上となるようにすることが実用面においては望ましい。
上記のアミノ基量は、採用するアミノ基含有有機化合物の種類、すなわち、該化合物のアミノ基数および導入量により調節することができる。また、架橋構造量はアミノ基量に比例して増加する傾向となる。しかし、採用するアミノ基含有有機化合物の種類を選択することにより、架橋構造量とアミノ基量のバランスを調節することも可能である。例えば、1分子中に多くの2級あるいは3級アミノ基を有する化合物を用いれば、アミノ基量を多くしつつ、架橋構造を少なくすることができる。反対に、1分子中のアミノ基の数が少ない化合物を用いれば、アミノ基量を少なくしつつ、架橋構造を多くすることもできる。
アミノ基含有有機化合物でアクリル系繊維を処理する方法としては、特に制限されるものではないが、アミノ基含有有機化合物の水溶液を用意し、アクリル系繊維を該水溶液に浸漬、もしくは、アクリル系繊維に該水溶液を噴霧、もしくは塗布し処理する方法が挙げられる。
アミノ基含有有機化合物でアクリル系繊維を処理する条件としては、特に制限はなく、採用するアミノ基含有有機化合物とアクリル系繊維との反応性や所望のアミノ基量および架橋構造量、すなわちアニオン交換性能、飽和吸湿率、飽和吸湿率差、繊維物性などを勘案し、適宜選定することができる。例えば、上述したアクリル系繊維をアミノ基含有有機化合物水溶液に浸漬する方法の場合であれば、アミノ基含有有機化合物水溶液の濃度を、アクリル系繊維に対し10質量%以上となるようにした場合、上述した0.5mmol/g以上のアミノ基量が得られやすい。
また、反応温度としては、使用するアミノ基含有有機化合物の種類によって程度の差はあるが、低すぎる場合には、反応速度が遅くなって長時間の反応時間が必要となり、高すぎる場合には、アミノ基含有有機化合物の分解が懸念される。そのため、好ましくは50〜150℃、さらに好ましくは80℃〜150℃で反応させた場合好ましい結果を得る場合が多い。反応時間については、反応温度等にもよるが通常30分〜48時間ぐらいで目的とする量の架橋構造とアミノ基を導入することができる。特に、本発明に採用するアミノ基含有有機化合物において、アミノ基間を炭素数が3以上のアルキレン基で結合した構造を有するものの場合、30分〜4時間程度で目的とする量の架橋構造とアミノ基を導入することができる。
上述してきた本発明のアミノ基含有繊維は、アニオン交換性能や吸湿性能あるいはを有するだけでなく、これらの性能を応用した酸性ガス除去、調湿、抗菌性、抗かび性などの機能も発現するものである。特に抗菌性および抗かび性については、本発明のアミノ基含有繊維の原料であるアクリル系繊維や3,3’−イミノビス(プロピルアミン)やN−メチル−3,3’−イミノビス(プロピルアミン)などのアミノ基含有有機化合物はそれぞれ単独の状態では弱い抗菌性や抗かび性しか発現しないにもかかわらず、本発明のアミノ基含有繊維とすることで優れた抗菌性および抗かび性を得ることができる。
本発明の繊維構造物に、本発明のアミノ基含有繊維を含有させる方法としては、上述のようにして得られたアミノ基含有繊維を用いて繊維構造物を形成する方法や、本発明のアミノ基含有繊維の原料となるアクリル系繊維を用いて作成した繊維構造物に上述したような処理を施して、該繊維構造物中のアクリル系繊維に架橋構造とアミノ基を導入する方法などを挙げることができる。
また、本発明の繊維構造物の外観形態としては、糸、ヤーン、フィラメント、織物、編物、不織布、紙状物、シート状物、積層体、綿状体などがあり、さらにはそれらに外被を設けた物が挙げられる。これらの繊維構造物において、本発明のアミノ基含有繊維を単独で使用してもよいが、他の機能性繊維や活性炭繊維、あるいは、一般的な天然繊維や合成繊維などと組み合わせて使用することも可能である。
かかる本発明のアミノ基含有繊維を含有する繊維構造物は、アニオン交換繊維構造物、吸湿性繊維構造物、抗菌性繊維構造物、抗かび性繊維構造物などとして利用することができる。具体的には、アニオン交換性能を利用した、水の軟化、水及び海水の脱塩、あるいは、ケミカルフィルター、たばこフィルター、浄水器用吸着材、濾過用繊維、原子力発電所用イオン交換濾過材、消臭材などとして使用できる。また、吸湿性能を利用した、結露防止素材、吸放湿素材(衣服、建材、壁紙、中綿等)、環境の調湿、調温素材、あるいは押入れ、地下室、床下、浴室等の乾燥素材や、水分を非常に嫌う電子材料等の被覆素材の一部などとして使用できる。さらには、抗菌性や抗かび性能を利用した靴下、インソール、靴の内張り材、タオル、バスマット、エアコン用フィルター、加湿器用蒸散板、壁紙などとして使用することができる。
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。本発明は、これらの実施例の記載によってその範囲を何等限定されるものではない。実施例中の部及び百分率は、断りのない限り質量基準で示す。なお、アミノ基量、飽和吸湿率、飽和吸湿率差、引張強度、引張伸度は、以下の方法により求めた。
(1)アミノ基量(アニオン交換容量)
充分乾燥した試料約0.5gを精秤し(X[g])、イオン交換が充分行われる量の0.1N−塩酸標準液(Z[ml])が入ったビーカーに浸漬する。試料をろ過し、ろ液にフェノールフタレイン溶液を指示薬として添加する。このろ液を0.1N−水酸化ナトリウム標準水溶液で滴定し、残留塩酸を定量した。その時の0.1N−水酸化ナトリウム標準水溶液の滴定量をY[ml]、塩酸標準液のファクターをf〔HCl〕、水酸化ナトリウム標準液のファクターをf〔NaOH〕として、次式により、アミノ基量を算出した。

アミノ基量[mmol/g]=(0.1×Z×f〔HCl〕−0.1×Y×f〔NaOH〕)/ X
(2)飽和吸湿率および飽和吸湿率差
充分乾燥した試料約5gを精秤する(W1[g])。該試料を20℃、所定の相対湿度(50%RH、65%RH及び95%RH)下で24時間静置する。このようにして吸湿させた試料の質量を測定する(W2[g])。以上の測定結果から、次式によって各相対湿度における飽和吸湿率を算出した。

飽和吸湿率[%]=(W2−W1)/W1×100

なお、飽和吸湿率差は、以上のようにして求めた20℃50%RHの飽和吸湿率と20℃95%RHの飽和吸湿率の差である。
(3)引張強度
JIS L 1015 7.7引張強さ及び伸び率 7.7.1標準時試験に従い、引張強さとして算出された値を、引張強度[cN/dtex]とした。
(4)引張伸度
JIS L 1015 7.7引張強さ及び伸び率 7.7.1標準時試験に従い、伸び率として算出された値を、引張伸度[%]とした。
(アクリル系繊維Aの作製)
AN88%、酢酸ビニル12%からなるAN系重合体(30℃ジメチルホルムアミド中での極限粘度[η]:1.2)10部を48%のロダンソーダ水溶液90部に溶解した紡糸原液を定法に従って紡糸、水洗、延伸、乾燥、湿熱処理等を施して、0.9dtexのアクリル系繊維Aを得た。
(アクリル系繊維Bの作製)
モノマー組成をAN90%、アクリル酸メチル10%とする以外は、アクリル系繊維Aと同じ方法で、0.9dtexのアクリル系繊維Bを得た。
(実施例1)
アクリル系繊維A10部を、該繊維に対して300%のメチルイミノビスプロピルアミンを含む水溶液200部に浸漬し、処理温度85℃、処理時間2時間で処理、水洗、乾燥し、実施例1のアニオン交換繊維を得た。該繊維の評価結果を表1に示す。
(実施例2〜16、比較例1〜8)
実施例1において、表1〜3に示す原料および条件に変更し、各実施例の繊維を作成し、評価を行った。評価結果を表1〜3に示す。
Figure 2009007728
Figure 2009007728
Figure 2009007728
実施例1〜16では、良好な吸湿性能および繊維物性を有するアミノ基含有繊維が得られた。特に、アミノ基含有有機化合物としてアミノ基間を炭素数が3以上のアルキレン基で結合した構造を有するものを採用した実施例1〜7および12においては、実施例8〜11および15に比べて短い反応時間でも十分な量のアミノ基が導入された。
これに対して、比較例においては、いずれもアミノ基量が少なく、吸湿性能が低くなった。これは、比較例1〜4では、使用したアミノ基含有有機化合物がアミノ基間を炭素数が3以上のアルキレン基で結合した構造を有するものではないため、また、比較例5では処理温度が低いため、反応速度が遅くなり、設定した反応時間内では十分に反応が進まなかったものと考えられる。また、比較例6ではアミノ基含有有機化合物の添加量が少ないため、アミノ基量が不十分となったと考えられる。比較例7ではアミノ基含有有機化合物のアミノ基数が2であるため、架橋反応でほとんどのアミノ基が消費され、性能が不十分となったと考えられる。比較例8では、アミノ基含有有機化合物のアミノ基数が1であるため、架橋構造が形成されず、繊維物性についても不十分なものとなったと考えられる。
(実施例17)
ポリプロピレン繊維10%とアクリル系繊維A90%で、目付け65g/mの不織布を得た。該不織布11部を、不織布中のアクリル繊維Aに対して300%のメチルイミノビスプロピルアミンを含む水溶液200部に浸漬し、処理温度115℃、処理時間2時間で処理、水洗、乾燥し、アミノ基含有繊維を含む不織布を得た。得られた不織布のアミノ基量は2.2mmol/gであった。
(実施例18〜20)
実施例2で得たアミノ基含有繊維について酢酸ガスの吸着試験を行った。まず、表4に示した量の乾燥した該繊維を20℃、65%RH雰囲気下に10時間以上静置して調温、調湿する。この繊維をテドラー(登録商標)バッグに入れ、密閉して空気を抜いた後、20℃、65%RHの空気1.5リットルを満たす。次いで、バッグ内に初期濃度100体積ppmとなるように酢酸ガスを注入し、20℃で3時間静置した後、ガス検知管(測定範囲1〜100体積ppm)を使って残留している酢酸ガス濃度を測定した。結果を表4に示す。本発明に係るアミノ基含有繊維は、酢酸ガスに対して優れた除去性能を有することを確認できた。
Figure 2009007728
(実施例21〜25)
実施例14および16で得たアミノ基含有繊維をそれぞれ単独で用いて作成した目付け320g/mの不織布2種類ならびに実施例13で得たアミノ基含有繊維とポリエステル繊維(東洋紡績(株)製 EE7)を混率50/50、30/70および10/90として作成した320g/mの不織布3種類に対して、JIS Z 2911 プラスチック製品の試験 方法Bに準拠してかび抵抗性試験を行った。表5に示すように、本発明に係るアミノ基含有繊維を含有する繊維構造物が優れた抗かび性能を有することを確認できた。なお、かび抵抗性は以下の基準によって判断した。
<かびの生育の経時変化>
−:かびの生育を認めない
±:かびの生育は肉眼では認められないが、顕微鏡下では認められる
+〜+++:肉眼で順次かびの生育が著しい
<かび抵抗性表示>
0:肉眼および顕微鏡下でかびの生育は認められない
1:かびの生育は肉眼では認められないが、顕微鏡下では認められる
2:かびの生育は試料面積の25%以内
3:かびの生育は試料面積の25〜50%
4:かびの生育は試料面積の50〜100%
5:菌糸の発育は激しく、試料全体を覆っている
Figure 2009007728
(実施例26)
実施例13で得たアミノ基含有繊維に対して、JIS L1902 定量試験(菌液吸収法)に準拠して、大腸菌および黄色ブドウ球菌を用いて抗菌性試験を行った。生菌数の測定は混釈平板培養法で実施し、無加工布としては標準布を使用し、下記数式により静菌活性値および殺菌活性値を求めた。
静菌活性値=logB−logC
殺菌活性値=logA−logC
ここで、A=無加工布の接種直後に回収した菌数、B=無加工布の18時間培養後に回収した菌数、C=試料の18時間培養後に回収した菌数、である。
その結果、実施例13で得たアミノ基含有繊維は、大腸菌に対して静菌活性値「>4.7」、殺菌活性値「>1.5」、黄色ブドウ球菌に対して静菌活性値「>4.1」、殺菌活性値「>1.5」を有するものであった。社団法人繊維評価技術協議会の繊維製品認証基準では、抗菌防臭加工は静菌活性値「>2.2」、制菌加工(一般用途)は殺菌活性値「≧0」とされており、本発明に係るアミノ基含有繊維が優れた抗菌性能を有することを確認できた。

Claims (11)

  1. アクリル系繊維を1分子中の全アミノ基数が3以上であり、かつ、1級アミノ基数が2以上であって、アミノ基間をアルキレン基で結合した構造を有するアミノ基含有有機化合物で処理することによって繊維中に架橋構造とアミノ基を同時に導入して得られるアミノ基含有繊維。
  2. アミノ基含有有機化合物が、アミノ基間を炭素数が3以上のアルキレン基で結合した構造を有するものであることを特徴とする請求項1に記載のアミノ基含有繊維。
  3. アミノ基量が0.5mmol/g以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のアミノ基含有繊維。
  4. 20℃65%RHにおける飽和吸湿率が15質量%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアミノ基含有繊維。
  5. 20℃95%RHおよび20℃50%RHにおける飽和吸湿率の差が50パーセントポイント以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のアミノ基含有繊維。
  6. アクリル系繊維に1分子中の全アミノ基数が3以上であり、かつ、1級アミノ基数が2以上であって、アミノ基間をアルキレン基で結合した構造を有するアミノ基含有有機化合物を反応させることによって繊維中に架橋構造とアミノ基を同時に導入することを特徴とするアミノ基含有繊維の製造方法。
  7. アミノ基含有有機化合物が、アミノ基間を炭素数が3以上のアルキレン基で結合した構造を有するものであることを特徴とする請求項6に記載のアミノ基含有繊維の製造方法。
  8. 請求項1〜5に記載のアミノ基含有繊維を含むアニオン交換繊維構造物。
  9. 請求項1〜5に記載のアミノ基含有繊維を含む吸湿性繊維構造物。
  10. 請求項1〜5に記載のアミノ基含有繊維を含む抗菌性繊維構造物。
  11. 請求項1〜5に記載のアミノ基含有繊維を含む抗かび性繊維構造物。
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