JP2008303436A - 固体高分子形燃料電池セパレータ用フェライト系ステンレス鋼およびそれを用いた固体高分子形燃料電池 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】Cを0.03質量%以下,Nを0.03質量%以下,C+Nを0.03質量%以下,Crを16.0〜45質量%含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、表面に析出したσ相の面積率を1%以上とする。
【選択図】図1
Description
(a) 発電温度が80℃程度であり、格段に低い温度で発電できる、
(b) 燃料電池本体の軽量化,小型化が可能である、
(c) 短時間で立上げができ、燃料効率,出力密度が高い、
等の利点を有している。このため、固体高分子形燃料電池は、電気自動車の搭載用電源,家庭用あるいは業務用の定置型発電機,携帯用の小型発電機として利用するべく、今日もっとも注目されている燃料電池である。
なお膜−電極接合体1は、MEA(すなわち Membrance-Electrode Assembly )と呼ばれており、高分子膜とその膜の表裏面に白金系触媒を担持したカーボンブラック等の電極材料を一体化したものであり、厚さは数10μm〜数100μmである。ガス拡散層2,3は、膜−電極接合体1と一体化される場合も多い。
セパレータ4,5には、
(A) 単セル間を隔てる隔壁
としての役割に加え、
(B) 発生した電子を運ぶ導電体、
(C) O2 (すなわち空気)とH2 が流れる空気流路,水素流路、
(D) 生成した水やガスを排出する排出路
としての機能が求められる。さらに固体高分子型燃料電池を実用に供するためには、耐久性や電気伝導性に優れたセパレータ4,5を使用する必要がある。
現在までに、セパレータ4,5としてグラファイトを用いた固体高分子型燃料電池が実用化されている。このグラファイトからなるセパレータ4,5は、接触抵抗が比較的低く、しかも腐食しないという利点がある。しかしながら衝撃によって破損しやすいので、小型化が困難であり、しかも空気流路6,水素流路7を形成するための加工コストが高いという欠点がある。グラファイトからなるセパレータ4,5が有するこれらの欠点は、固体高分子型燃料電池の普及を妨げる原因になっている。
たとえば特開平8-180883号公報には、スタンレス鋼またはチタン合金等の不動態皮膜を形成しやすい金属をセパレータとして用いる技術が開示されている。しかし不動態皮膜の形成は、接触抵抗の上昇を招くことになり、発電効率の低下につながる。このため、これらの金属素材は、グラファイト素材と比べて接触抵抗が大きく、しかも耐食性が劣る等の改善すべき問題点が指摘されていた。
また特開2000-277133号公報には、フェライト系ステンレス鋼基材にカーボン粉末を分散させて、電気伝導性を改善(すなわち接触抵抗を低下)したセパレータを得る方法が開示されている。しかしながらカーボン粉末を用いた場合も、セパレータの表面処理には相応のコストがかかることから、依然としてコストの問題が残っている。 また、表面処理を施したセパレータは、組立て時にキズ等が生じた場合に、耐食性が著しく低下するという問題点も指摘されている。
すなわち本発明は、Cを0.03質量%以下,Nを0.03質量%以下,C+Nを0.03質量%以下,Crを16.0〜45質量%含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、表面に析出したσ相の面積率が1%以上である固体高分子形燃料電池セパレータ用フェライト系ステンレス鋼(以下、セパレータ用フェライト系ステンレス鋼という)である。
また本発明は、固体高分子膜,電極,ガス拡散層およびセパレータを有し、そのセパレータが前記したセパレータ用フェライト系ステンレス鋼からなる固体高分子形燃料電池である。
C:0.03質量%以下,N:0.03質量%以下,C+N:0.03質量%以下
CおよびNは、いずれもセパレータ用フェライト系ステンレス鋼中のCrと化合物(すなわちCr炭窒化物)を形成して粒界に析出し、耐食性の低下をもたらす。このため、C,Nの含有量は小さいほど好ましく、C:0.03質量%以下,N:0.03質量%以下であれば、耐食性の低下を抑制できる。またC+N(すなわちCとNの合計)が0.03質量%を超えると、セパレータ用フェライト系ステンレス鋼をセパレータの形状にプレス加工する際に割れを生じることが多い。C+Nが0.03質量%以下では、耐食性の低下を抑制できる。したがって、Cは0.03質量%以下,Nは0.03質量%以下,C+Nは0.03質量%以下とする。好ましくは、C:0.015質量%以下,N:0.015質量%以下,C+N:0.02質量%以下である。
Crは、ステンレス鋼としての基本的な耐食性を確保するために必要な元素であるとともに、σ相を形成する元素である。Cr含有量が16.0質量%未満では、σ相の析出に長時間を要する。一方、45質量%を超えると、セパレータ用フェライト系ステンレス鋼を製造する際にσ相が析出するので、ステンレス鋼板の製造およびセパレータの形状に成形するためのプレス加工が困難になる。したがって、Crは16.0〜45質量%の範囲内とする。好ましくは18〜40質量%,より好ましくは20〜35質量%である。
Ti:2質量%以下,Nb:2質量%以下,Zr:2質量%以下,V:2質量%以下
これらの元素は、セパレータ用フェライト系ステンレス鋼中のC,Nを炭窒化物として固定し、プレス成形性を改善するのに有効な元素である。本発明では、この効果に加えて、σ相の析出を促進するために添加する。ただし、Ti,Nb,Zr,Vをそれぞれ2質量%を超えて添加すると、セパレータ用フェライト系ステンレス鋼が著しく脆化して生産が困難になる。したがってTi,Nb,Zr,Vを添加する場合は、Ti:2質量%以下,Nb:2質量%以下,Zr:2質量%以下,V:2質量%以下が好ましい。一方、これらの元素の含有量が0.1質量%未満では、プレス成形性を改善する効果,σ相の析出を促進する効果が得られない。そのため、Ti:0.1〜2質量%,Nb:0.1〜2質量%,Zr:0.1〜2質量%,V:0.1〜2質量%が一層好ましい。
MoおよびWは、セパレータ用フェライト系ステンレス鋼中の耐食性を改善するのに有効な元素である。本発明では、これらの効果に加えて、σ相の析出を促進するために添加する。ただし、Mo,Wをそれぞれ7質量%を超えて添加すると、セパレータ用フェライト系ステンレス鋼が著しく脆化して生産が困難になる。したがってMo,Wを添加する場合は、Mo:7質量%以下,W:7質量%以下が好ましい。一方、これらの元素の含有量が0.2質量%未満では、σ相の析出を促進する効果が得られない。そのため、Mo:0.2〜7質量%,W:0.2〜7質量%が一層好ましい。
Siは、製鋼工程における脱酸のために有効な元素であり、その目的で添加されるが、過度に含有させるとセパレータ用フェライト系ステンレス鋼の硬質化と延性低下を招く。したがって、Siの含有量は3質量%以下が好ましい。同時に、Siはσ相の析出を促進する元素であるが、0.05質量%未満ではこの効果は得られない。そのため、Siは0.05〜3質量%の範囲内が一層好ましい。より好ましくは0.1〜1.5質量%の範囲内である。
Mnは、Sと結合して固溶Sを低減することによってSの粒界偏析を抑制し、熱間圧延時の割れを防止するのに有効な元素である。ただし過度に含有させるとセパレータ用フェライト系ステンレス鋼の硬質化と延性低下を招く。したがって、Mnの含有量は2質量%以下が好ましい。同時に、Mnはσ相の析出を促進する元素であるが、0.05質量%未満ではこの効果は得られない。そのため、Mnは0.05〜2質量%の範囲内が一層好ましい。より好ましくは0.1〜2質量%の範囲内である。
Alは、製鋼工程における脱酸に有効であると同時に、σ相の析出を促進する元素である。しかしAl含有量が0.5質量%を超えて含有すると、かえってσ相の析出が遅れる。したがって、Alは0.5質量%以下が好ましい。一方、0.001質量%未満では、脱酸の効果が得られない。そのため、Alは0.001〜0.5質量%の範囲内が一層好ましい。
Niは、セパレータ用フェライト系ステンレス鋼の耐食性を向上する元素である。さらにσ相の析出を促進する効果も有する。ただし過度に含有させると、特にCr含有量が低い場合に、高温でオーステナイト相を生成するので、セパレータ用フェライト系ステンレス鋼の成形性を劣化させる惧れがある。したがって、Niは4質量%以下が好ましい。一方、0.1質量%未満では、σ相の析出を促進する効果が得られない。そのため、Niは0.1〜4質量%の範囲内が一層好ましい。
次に、本発明のセパレータ用フェライト系ステンレス鋼に析出するσ相について説明する。
次に、本発明のセパレータ用フェライト系ステンレス鋼の製造方法について説明する。
σ相は、600〜1000℃の温度領域で析出するが、通常の熱間圧延と焼鈍,その後の冷却過程での析出は僅かである。セパレータ用フェライト系ステンレス鋼の表面に十分な量のσ相を析出させるためには、熱間圧延,冷間圧延の工程あるいはその後の加工の工程で所定の時効熱処理を施す必要がある。
σ相の析出量や析出速度は、セパレータ用フェライト系ステンレス鋼の成分や時効熱処理の時間,温度に応じて変化する。したがって、予め実験データや操業実績を解析して適宜設定する。ただし本発明者らの研究によれば、650〜900℃で5〜100時間の時効熱処理を施すと、面積率1%以上のσ相が析出する。
次に、図2に示すように2枚の試験片8を両面から同じ大きさの3枚のカーボンペーパ9(東レ製TGP-H-120)で交互に挟み、さらに銅板に金めっきを施した電極10を接触させ、単位面積当たり20kgf/cm2 (=1.96MPa)の圧力をかけて2枚のセパレータ間の抵抗を測定し、接触面積を乗じ、さらに接触面数(=2)で除した値を接触抵抗値とした。得られた接触抵抗値を表2に示す。なお、測定は位置を変えて4ケ所で行ない、その平均値を示す。また参考例として、表面に厚さ0.1μmの金めっきを施したSUS304製セパレータ(全厚さ0.3mm)およびグラファイト製セパレータ(全厚さ5mm)についても同様に測定した。
各セパレータ用フェライト系ステンレス鋼から切り出した6枚の試験片をセパレータの形状に加工し、時効熱処理と酸洗を施した。高分子膜,電極,ガス拡散層が一体化された有効面積50cm2 の膜−電極接合体(すなわちMEA,エレクトロケム社製FC50-MEA)を用いて図1に示す形状の単セルを作成した。空気流路6,水素流路7の溝は、高さ0.5mm,幅2mmの矩形として17列設けた。
σ相が面積率1%以上析出したセパレータについては、5サイクル後と200サイクル後の出力電圧が、金めっきステンレス製セパレータやグラファイト製セパレータと同等であった。一方、σ相の面積率が1%未満のセパレータでは、200サイクル後の発電特性が著しく劣化した。また、Cr,C,C+Nの含有量が本発明の範囲を外れるセパレータは、耐食性に劣るので、200サイクル後の発電特性が著しく劣化した。
以上に説明したように、本発明によれば、従来から使用されている金めっきステンレス製セパレータやグラファイト製セパレータと同等に接触抵抗が低くかつ耐食性に優れたセパレータを得ることができる。従来の固体高分子形燃料電池は耐久性を考慮して高価なグラファイト製セパレータを使用していたが、本発明のセパレータ用フェライト系ステンレス鋼から製作した安価なセパレータを用いることによって、固体高分子形燃料電池の製造コストを削減できる。
2 ガス拡散層
3 ガス拡散層
4 セパレータ
5 セパレータ
6 空気流路
7 水素流路
8 試験片
9 カーボンペーパ
10 電極
Claims (3)
- Cを0.03質量%以下、Nを0.03質量%以下、C+Nを0.03質量%以下、Crを16.0〜45質量%含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、表面に析出したσ相の面積率が1%以上であることを特徴とする固体高分子形燃料電池セパレータ用フェライト系ステンレス鋼。
- 前記組成に加えて、Tiを2質量%以下、Nbを2質量%以下、Zrを2質量%以下、Vを2質量%以下、Moを7質量%以下、Wを7質量%以下、Niを4質量%以下、Siを3質量%以下、Mnを3質量%以下およびAlを0.5質量%以下の中から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の固体高分子形燃料電池セパレータ用フェライト系ステンレス鋼。
- 固体高分子膜、電極、ガス拡散層およびセパレータを有し、前記セパレータが請求項1または2に記載の固体高分子形燃料電池セパレータ用フェライト系ステンレス鋼からなることを特徴とする固体高分子形燃料電池。
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