JP2008290136A - 低炭素高硫黄鋼の連続鋳造方法 - Google Patents

低炭素高硫黄鋼の連続鋳造方法 Download PDF

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博之 斧田
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Abstract

【課題】炭素含有量C[wt%]を0.02〜0.07とし、硫黄含有量Ssteel[wt%]を0.015〜0.02とする、低炭素高硫黄鋼を、鋳型内の凝固シェル界面の溶鋼流速Vsh[cm/sec]が40〜80となるように鋳型内電磁攪拌を行い、鋳造速度Vc[m/min]を1.6以上とし、モールドパウダを使用して連続鋳造するに際し、熱電対ハンチングを抑制できる、低炭素高硫黄鋼の連続鋳造方法を提供する。
【解決手段】モールドパウダの硫黄含有量Smold[wt%]を0.005〜0.02とする。
【選択図】図10

Description

本発明は、低炭素高硫黄鋼の連続鋳造方法に係り、詳しくは、熱電対ハンチングを抑制する技術に関する。
一般的な鋼の連造鋳造においては、例えば、(i)鋳型と凝固シェルの潤滑性確保、(ii)凝固シェルから鋳型への抜熱速度の調整、(iii)溶鋼中で浮上した介在物の吸着、(iv)溶鋼の酸化防止、(v)溶鋼の保温、の(i)〜(v)を主な目的としてモールドパウダが使用される。このモールドパウダの代表的な成分はCaOとSiO2であり、これにAl2O3やMgO、F、Li2Oなどが適宜に添加されることで粘度や凝固温度が適宜に調整される。そして、このモールドパウダは、鋳型内の湯面に添加することで滓化溶融して溶融モールドパウダの層を形成すると共に、鋳型と凝固シェルとの間に流入するようになっている。
ところで、昨今、鋳型内において凝固シェルの内壁面に捕捉される介在物や気泡を洗い流すための所謂鋳型内電磁攪拌を導入していたところ、低炭素高硫黄鋼(炭素含有量C[wt%]:0.02〜0.07、硫黄含有量Ssteel[wt%]:0.015〜0.02)を連続鋳造すると、以下のような問題が発生することが判った。
ここで、図1及び図2を参照されたい。図1は、一般的な鋳型の一部切欠き斜視図である。図2は、図1に示される鋳型の上端から250[mm]における水平断面図である。図1に示されるように、一般的な鋳型1は、一対の対向する広面側の銅板としての広面側銅板1k・1kと、該広面側銅板1k・1k間に配され、一対で対向する、狭面側の銅板としての狭面側銅板1y・1yと、から構成される。本図において符号Wは鋳型幅[mm]を、符号Dは鋳型厚み[mm]を、符号Hは鋳型高さ[mm]を示す。
そして、本願出願人が所有する鋳型1には、図2に示されるように、両広面側銅板1k・1kに夫々6個ずつ、両狭面側銅板1y・1yに夫々1個ずつ、略示の熱電対1n・1n・・・が埋設されている。各熱電対1n・1n・・・に添えた数字(以下、参照数字と称する。)は、複数の熱電対1n・1n・・・のうち何れかを特定するためのものである。熱電対1n(1)〜1n(6)、1n(8)〜1n(13)は、広面側銅板1k内に埋設したものであって、詳しくは、鋳型厚み方向においては該広面側銅板1kの溶鋼に接する面としての内壁面から外方へ約10[mm]に、鋳型幅方向においては等間隔に、埋設したものである。同様に、熱電対1n(7)及び1n(14)は、狭面側銅板1y・1y内に埋設したものであって、詳しくは、鋳型厚み方向においては中央に、鋳型幅方向においては該狭面側銅板1y・1yの溶鋼に接する面としての内壁面から外方へ約10[mm]に、埋設したものである。参照数字と埋設位置との対応関係は、図を参照されたい。なお、鋳型の上端から350[mm]における水平断面と、鋳型の上端から450[mm]における水平断面と、にも上記同様に熱電対1n・1n・・・が複数埋設されており、これらの熱電対1n・1n・・・は、同様に、1n(15)〜1n(28)、1n(29)〜1n(42)と称することとする(参照数字と鋳型1との相対位置の関係は図2に倣う。)。
図3を参照されたい。本図には、上述した鋳型1を用いて、炭素含有量C[wt%]を0.04とし、硫黄含有量Ssteel[wt%]を0.006とする、低炭素低硫黄鋼を、鋳型内の凝固シェル界面の溶鋼流速Vsh[cm/sec]が40〜80となるように鋳型内電磁攪拌を行い、鋳造速度Vc[m/min]を2.0とし、モールドパウダを使用して連続鋳造したときの代表的な熱電対1n(8)〜1n(11)の出力結果を例示する。本図によれば、低炭素低硫黄鋼を連続鋳造する場合は、代表的な熱電対1n(8)〜1n(11)の出力結果の変動幅は、概ね、問題ないレベルだと思われる。
一方で、上述した低炭素高硫黄鋼を同一の鋳造条件で連続鋳造してみたところ、図示しないが、図3と比較して、代表的な熱電対1n(8)〜1n(11)の出力結果の変動幅は、著しく大きく、その変動幅は、グラフ上で一見して、概ね30[℃]を上回っていた。
ここで、上述した熱電対1n・1n・・・の出力結果の変動の程度を定量的に評価する指標として、「熱電対出力変動度ΔT[℃]」を以下の通り定義する。即ち、連続鋳造の定常期における任意の時刻を起点とし50[sec]間、上記の熱電対1n(1)〜1n(42)の出力結果をすべて記録し、各熱電対1n(1)〜1n(42)ごとに出力結果の変動幅としての最大変動幅p-pを求め、各最大変動幅p-pのうち最も大きな最大変動幅p-pを熱電対出力変動度ΔT[℃]とする。次に、図4を参照されたい。図4は、熱電対出力変動度ΔT[℃]と、縦割発生頻度TW[個/m2]と、の関係を示す図である。本図によれば、縦割発生頻度TW[個/m2]に着目すると、熱電対出力変動度ΔT[℃]が15である破線の前後において顕著な差異が認められる。従って、本明細書中、熱電対1n・1n・・・の変動の程度は、熱電対出力変動度ΔT[℃]が15未満か15以上かで評価することとし、熱電対出力変動度ΔT[℃]が15未満の場合を「○(良好)」(以下、「熱電対ハンチング小」とも称する。)とし、同じく15以上の場合を「×(不良)」(以下、「熱電対ハンチング大」とも称する。)とすることとする。なお、縦割発生頻度TW[個/m2]とは、熱電対出力変動度ΔT[℃]を算出する基礎となるデータを各熱電対1n(1)〜1n(42)が出力した時点で鋳型1内にあった凝固シェルに対応する鋳片を後述する水平経路部において概ね8〜12.5[m]で切断して得られる1次切断スラブの反基準面(反基準面とは、該水平経路部において上側の面を意味する。)を冷間目視で観察し、鋳造方向に5[mm]以上延在する割れの個数を数え、この割れの個数を、上記反基準面の面積で除して得られる値である。グラフ上で、一のプロットは、一の反基準面に対応する。
本願発明の発明者は、上述した低炭素高硫黄鋼を連続鋳造したときでも、図3に示されるように熱電対1n・1n・・・の出力結果の変動幅を小さくしようと、試しに、鋳造速度Vc[m/min]を2.0→1.6と変更してみた。この設定後における上述した代表的な熱電対1n(8)〜1n(11)の出力結果を図5に例示する。ただし、図5に示される結果に係る鋼種は、炭素含有量C[wt%]を0.04とし硫黄含有量Ssteel[wt%]を0.015とするものである。本図によれば、せっかく生産性を犠牲にしてまで鋳造速度Vc[m/min]を低下させたのに、代表的な熱電対1n(8)〜1n(11)の出力結果の変動幅は、十分には改善されなかったことが判る。
次に、上述した問題がどのような鋼種を連続鋳造するときに発生するのかを調査するために、鋼種成分を多様に設定して上記同様の調査を実施した。図6を参照されたい。図6は、鋼種成分と、熱電対出力変動度ΔT[℃]についての評価結果と、の関係を示す図である。本図において、「○」は該当鋼種を連続鋳造した際、「熱電対ハンチング小」であったことを意味し、「×」は該当鋼種を連続鋳造した際、「熱電対ハンチング大」であったことを意味する。なお、鋳造速度Vc[m/min]は、概ね、1.6〜2.0とした。本図によれば、低炭素高硫黄鋼(炭素含有量C[wt%]:0.02〜0.07、硫黄含有量Ssteel[wt%]:0.015〜0.02)以外の鋼種では、そもそも、上述した問題が一切、発生しないことが判る。
次に、(i)なぜ、硫黄含有量Ssteel[wt%]が0.015以上である鋼種に限って上述した問題が発生するのか、(ii)溶鋼流速Vsh[cm/sec]は、上述した問題にどのように影響するのか、を凝固シミュレータを用いて詳細に調査したので、その結果を報告する。
先ず、凝固シミュレータの概要を説明する。凝固シミュレータ装置とは、鋳型の中に溶鋼を注湯し、冷却凝固した凝固シェルを該鋳型下方に引き抜くことに代え、静止した溶鋼の中に銅製円柱を浸漬し、該銅製円柱を所定時間だけ軸回りに回転させ、該所定時間後に該銅製円柱を溶鋼中から引き上げることで、凝固シェルの成長の様子などを調査するためのものである。
上記調査(i)については、上記凝固シミュレータ装置の操作条件を以下の通りとした。即ち、硫黄含有量Ssteel[wt%]が0.005又は0.01、0.015、0.022、0.042、0.073のうち何れか一となるように誘導加熱炉で鋼を溶かし、この溶鋼の温度[℃]が概ね、1560〜1570となるように該溶鋼の温度を調整する。次に、上記の銅製円柱(φ[mm]=100)を回転速度[rad/s]を8.2(ω=2π/T=2π/(1/1.3)≒8.2)として回転させながら、その下端が該溶鋼の湯面から220[mm]の深さに至るまで該溶鋼内に垂直に浸漬する。上記浸漬の深さに到達したらすぐさま該銅製円柱を引き上げ、その後、上記銅製円柱の回転を停止させる。以上が凝固シミュレータ装置の操作条件であり、この操作の結果、上記の銅製円柱の外周面に凝固形成される凝固シェルの厚みを、マイクロメーター(例えば、SHAN社製「H103-025」など)を用いて詳細に測定した。なお、銅製円柱の外周面に凝固形成される凝固シェルのうちマイクロメーターを用いて測定する範囲は、銅製円柱の下端を基点として引抜方向(上方)へ向かって60〜220[mm]の範囲とする。更に言えば、測定地点は、周方向においては等ピッチで3箇所とし、軸方向においては上記範囲内で等ピッチ(5[mm]ピッチ)で33箇所とする。ここで、図7を参照されたい。図7は、硫黄含有量Ssteel[wt%]と、凝固定数K[mm/min1/2]と、の関係を示すグラフである。本図には、上記複数の測定結果の平均値が丸印のプロットで示され、上記複数の測定結果の最大値と最小値とが短い横線で示される。なお、上記マイクロメーターを用いて測定した凝固シェルの厚みと、凝固定数K[mm/min1/2]と、の関係は周知の通りであるから、その説明は割愛する。本図によれば、(i1)凝固シェルの厚みの平均値に対しては硫黄含有量Ssteel[wt%]は殆ど影響しないが、(i2)凝固シェルの厚みの最小値に対しては硫黄含有量Ssteel[wt%]は強く影響し、(i3)硫黄含有量Ssteel[wt%]を0.015以上とすると凝固シェルの厚みの最小値が著しく低くなっていることが判る。これら(i1)〜(i3)のことから、硫黄含有量Ssteel[wt%]が0.015以上である鋼種に限って上述した問題が発生するのは、凝固シェルの厚みが著しく不均一となるから(顕著な肉薄部が部分的に発生するから)だと言及できる。
上記調査(ii)については、上記凝固シミュレータ装置の操作条件を以下の通りとした。即ち、硫黄含有量Ssteel[wt%]を0.004(このとき、炭素含有量C[wt%]:0.05)又は0.02(このとき、炭素含有量C[wt%]:0.05)とする溶鋼を断熱性に優れた中空円筒容器内に注湯し、この溶鋼の温度[℃]が概ね、1560〜1570となるように該溶鋼の温度を調整する。次に、上記の銅製円柱(φ[mm]=100)を回転速度[rad/s]を0又は1.3[Hz]×2π(40[cm/sec]に対応)、2.5[Hz]×2π(80[cm/sec]に対応)、3.8[Hz]×2π(120[cm/sec]に対応)、5.0[Hz]×2π(160[cm/sec]に対応)、6.5[Hz]×2π(200[cm/sec]に対応)のうち何れか一として回転させながら、その下端が該溶鋼の湯面から220[mm]の深さに至るまで該溶鋼内に垂直に浸漬する。上記浸漬の深さに到達したらすぐさま該銅製円柱を引き上げ、その後、上記銅製円柱の回転を停止させる。以上が凝固シミュレータ装置の操作条件であり、この操作の結果、上記の銅製円柱の外周面に凝固形成される凝固シェルの厚みを、マイクロメーターを用いて詳細に測定した。なお、銅製円柱の外周面に凝固形成される凝固シェルのうちマイクロメーターを用いて測定する範囲は、銅製円柱の下端を基点として引抜方向(上方)へ向かって60〜220[mm]の範囲とし、測定する地点は、周方向においては等ピッチで3箇所とし、軸方向においては上記範囲内で等ピッチ(5[mm]ピッチ)で33箇所とする。ここで、図8を参照されたい。図8は、溶鋼流速Vsh[cm/sec]と、凝固定数K[mm/min1/2]と、の関係を示すグラフである。本図には、上記複数の測定結果が、その範囲をもって示される。なお、上記回転速度[rad/s]と、溶鋼流速Vsh[cm/sec]と、の関係は周知の通りであるから、その説明は割愛する。本図によれば、(ii1)低炭素低硫黄鋼においては、凝固シェルの厚みに対して溶鋼流速Vsh[cm/sec]は殆ど影響しないが、(ii2)低炭素高硫黄鋼においては、凝固シェルの厚みに対して溶鋼流速Vsh[cm/sec]は強く影響し、(iii3)溶鋼流速Vsh[cm/sec]を40以上とすると凝固シェルの厚みが著しくバラつくことが判る(凝固シェルの厚みの下限が著しく低下している。)。これら(ii1)〜(ii3)のことから、溶鋼流速Vsh[cm/sec]を40以上とすると、凝固シェルの厚みが不均一となり易く、上述した問題が発生する傾向にあることが判る。
一例として、上記の銅製円柱の外周面に形成された凝固シェルの断面の写真を図9に示すから参照されたい。本図には、上記の銅製円柱の外周面に形成された凝固シェルのうち特に厚みの薄かった部位を選出して示した。本図によれば、細線楕円で特定するように、凝固シェルの厚みが薄い部位では、凝固シェルと銅製円柱との間にギャップが生成されていることが判る。思うに、何らかの原因でこのギャップが形成されることで抜熱が阻害され、その結果、本図において明瞭に現れる凝固シェルの成長の著しい遅れが発生したものではないかと考えられる。抜熱が一時的に阻害されれば熱電対の出力も呼応してハンチングするであろうことから、つまりは、凝固シェルの不均一凝固と、熱電対ハンチングと、は相互に密接に関連するものと言うことができる。
本発明は斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、炭素含有量C[wt%]を0.02〜0.07とし、硫黄含有量Ssteel[wt%]を0.015〜0.02とする、低炭素高硫黄鋼を、鋳型内の凝固シェル界面の溶鋼流速Vsh[cm/sec]が40〜80となるように鋳型内電磁攪拌を行い、鋳造速度Vc[m/min]を1.6以上とし、モールドパウダを使用して連続鋳造するに際し、熱電対ハンチングを抑制することにある。上述したように、熱電対ハンチングは凝固シェルの不均一凝固と密接に関連する点、及び、熱電対ハンチングは縦割と密接に関連する点、の二点を踏まえ、上記の目的は、「炭素含有量C[wt%]を0.02〜0.07とし、硫黄含有量Ssteel[wt%]を0.015〜0.02とする、低炭素高硫黄鋼を、鋳型内の凝固シェル界面の溶鋼流速Vsh[cm/sec]が40〜80となるように鋳型内電磁攪拌を行い、鋳造速度Vc[m/min]を1.6以上とし、モールドパウダを使用して連続鋳造するに際し、凝固シェルの不均一凝固及び鋳片の縦割れを抑制すること」と換言できよう。
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、この課題を解決するための手段として、短絡的に考えれば、例えば、図8に示されるように溶鋼流速Vsh[cm/sec]を低減させることが挙げられるが、これは、鋳片の品質が劣化するという別の問題が発生するし、そもそも、上記の目的と矛盾することがすぐに理解されよう。
そもそも鋳造の対象たる鋼種は異なるが、連続鋳造に関連する技術として、例えば、特許文献1や特許文献2が挙げられる。
特許文献1(特開2004-358485号公報)は、極低炭素鋼(炭素含有量C[wt%]:0.002〜0.003、硫黄含有量Ssteel[wt%]:〜0.010)や中炭素鋼(炭素含有量C[wt%]:0.1〜0.12、硫黄含有量Ssteel[wt%]:0.01)の連続鋳造に供されるモールドフラックスについて有用な技術を開示している。何れの鋼種も、一般的な、低硫黄鋼である。特許文献2(特開2003-170254号公報)は、極低炭素鋼(炭素含有量C[wt%]:〜0.01、硫黄含有量Ssteel[wt%]:〜0.010)の連続鋳造に供されるモールドパウダについて有用な技術を開示している。この極低炭素鋼は、一般的な、低硫黄鋼である。何れの着想も大変興味深い。
課題を解決するための手段及び効果
次に、上記の課題を解決するための手段とその効果を説明する。
本発明の観点によれば、炭素含有量C[wt%]を0.02〜0.07とし、硫黄含有量Ssteel[wt%]を0.015〜0.02とする、低炭素高硫黄鋼を、鋳型内の凝固シェル界面の溶鋼流速Vsh[cm/sec]が40〜80となるように鋳型内電磁攪拌を行い、鋳造速度Vc[m/min]を1.6以上とし、モールドパウダを使用して連続鋳造する、低炭素高硫黄鋼の連続鋳造は、以下のような方法で行われる。即ち、前記モールドパウダの硫黄含有量Smold[wt%]を0.005〜0.02とする。これによれば、当該連続鋳造に際し、熱電対ハンチングを抑制できる。
上記発明の技術的な意義について詳細に説明する。ここで、図10を参照されたい。図10は、鋳型内壁面と、モールドパウダと、溶鋼と、の関係を示す模式図である。本願発明の発明者は、上記の課題を解決するために、溶融モールドパウダの流動の改善に着目してみた。
従来より、溶鋼の硫黄含有量Ssteel[wt%]が大きいと、凝固シェルと溶融モールドパウダとの界面の界面張力が低下し、本図において鎖線で示されるように、メニスカス近傍における凝固シェルの曲率半径が小さくなることが知られている。これに伴い、溶融モールドパウダが鋳型内壁面と凝固シェルとの間へ流入するその流入口が狭くなり、その結果、該溶融モールドパウダの流入が不均一となり易く、熱電対ハンチングが大きくなると考えられる。そして、本願発明の発明者は、鋭意研究の末、溶融モールドパウダの硫黄含有量Smold[wt%]を低減させれば、上述した界面張力の低下が回避されて上記の流入口が十分に確保され、その結果、溶融モールドパウダの流入を均一とできることを見出し、上記の発明を完成するに至った。
なお、周知の通り、上記の特許文献1や特許文献2において開示される一般的な低S鋼の連続鋳造においては、モールドパウダの硫黄含有量Smold[wt%]は、厳しく管理されていた。これは、折角、溶鋼の硫黄含有量Ssteel[wt%]を多大なコストをかけて低減したのに、モールドパウダ中のS成分が溶鋼中に還元され、該硫黄含有量Ssteel[wt%]が上昇してしまうのを確実に回避するためとされる。一方、本願発明の対象たる高S鋼では、このような問題が生じ得ないから、モールドパウダの硫黄含有量Smold[wt%]は、あえて管理しようとする理由が存在していなかったのは容易に理解されよう。
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態を説明する。図11は、連続鋳造機の概略図である。先ず、本図に基づいて、本実施形態に係る低炭素高硫黄鋼の連続鋳造に供される連続鋳造機100の構成と作動を一例として簡単に説明する。
連続鋳造機100は、注湯される溶鋼を冷却して所定形状の凝固シェルを形成するための鋳型1と、図略のタンディッシュに保持される溶鋼を鋳型1へ所定流量で滑らかに注湯するための浸漬ノズル2と、鋳型1の直下から鋳造経路Qに沿って複数で並設されるロール対3・3・・・と、を備える。本実施形態において前記の鋳造経路Qは、その上流側から順に、略鉛直方向に延びる垂直経路部と、この垂直経路部に接続され、円弧状に延びる円弧経路部と、更にその下流側に設けられ、水平方向に延びる水平経路部と、前記の円弧経路部及び水平経路部とを滑らかに接続するための矯正経路部と、から成る。
また、前記のロール対3・3・・・の夫々は、鋳造対象としての鋳片を、両広面でもって挟持する一対のロール3a・3aから構成される。この一対のロール3a・3aのロール面間の最短距離としてのロールギャップ[mm]は適宜の手段により調節可能に構成される。
また、前記の鋳造経路Qの上流には、鋳型1内で形成され、該鋳型1から引き抜かれる凝固シェルに対して所定の流量で冷却水を噴霧する冷却スプレー4・4・・・が適宜に設けられる。一般に、前記の鋳型1が1次冷却帯と称されるのに対して、この意味で、冷却スプレー4・4・・・が配される経路部は2次冷却帯と称される。
鋳型1から引き抜かれ、鋳造経路Qに沿って搬送される凝固シェルは、自然放熱や、上記冷却スプレー4・4・・・などにより更に冷却されて収縮する。従って、上記のロール対3・3・・・のロールギャップ[mm]は、一般に、鋳造経路Qの下流側へ進むに連れて緩やかに狭くなるように設定される。
以上の構成で、スラブ鋳片の連続鋳造を開始するときは、鋳型1へ溶鋼を注湯する前に予め図略のダミーバーを前記の鋳造経路Q内に挿入しておき、浸漬ノズル2を介して鋳型1へ溶鋼を所定流量で注湯し始めると共に上記ダミーバーを下流側へ所定速度で引き抜く。そして、このダミーバーは、所定のメニスカス距離に到達したときに、適宜の手段により回収する。これで、スラブ鋳片が連続的に鋳造されるようになる。
次に、上記の連続鋳造機100の一般的な操業条件を簡単に紹介する。
・鋳型幅W[mm]は、800〜2100とする。
・鋳型厚みD[mm]は、200〜320とする。
・鋳型高さH[mm]は、800〜1000とする。
・鋳造速度Vc[m/min]は、0.8〜2.2とする。
・溶鋼過熱度ΔT[℃]は、10〜45とする。
・比水量Wt[L/kgSteel]は、0.1〜0.5とする。
・溶鋼流速Vsh[cm/sec]は、40〜80とする。
・溶鋼成分は、当事者間の協定に基づく。代表的な成分は、CやSi、Mn、P、Sである。これに、CrやCuなどが適宜に添加される。その他の不可避の不純物を含む。
ここで、各用語を簡単に説明する。
・鋳型幅W[mm]及び鋳型厚みD[mm]は、鋳型1の上端で観念される。
・鋳造速度Vc[m/min]は、鋳片の引抜速度であって、前記複数のロール対3・3・・・のうち最上流に配されるロール対3の周速度で観念される。
・溶鋼過熱度ΔT[℃]は、鋳型1内へ注湯される溶鋼の温度の指標である。詳細は、本明細書の末尾に記載する。
・メニスカス距離M[m]は、鋳型1内の溶鋼の湯面(メニスカス)を起点とし、鋳造経路Qに沿って観念する距離[m]を意味する。
・比水量Wt[L/kgSteel]は、鋼1kgに対して用いられる冷却水の容積を意味する。この冷却水は、1〜35のメニスカス距離[m]で観念される上記の2次冷却帯で鋳片に対して噴射/噴霧される。
・溶鋼流速Vsh[cm/sec]は、鋳型内の凝固シェル界面の溶鋼流速である。詳細は、本明細書の末尾に記載する。
次に、本実施形態に係る連続鋳造機100の具体的な操業条件を説明する。
・対象鋼種:低炭素高硫黄鋼(炭素含有量C[wt%]:0.02〜0.07、硫黄含有量Ssteel[wt%]:0.015〜0.02)
・溶鋼流速Vsh[cm/sec]:40〜80
・鋳造速度Vc[m/min]:1.6以上
・モールドパウダ:低硫黄モールドパウダ(硫黄含有量Smold[wt%]:0.005〜0.02)
[試験1]上記実施形態に関する確認試験
以下、本実施形態に係る低炭素高硫黄鋼の連続鋳造方法の技術的効果を確認するための試験に関して説明する。上述した各数値範囲などは、下記の確認試験により合理的に裏付けられている。
[試験1.1]指標
先ず、各確認試験の評価に供される指標に関して説明する。
[試験1.1.1]熱電対出力変動度ΔT[℃]
熱電対出力変動度ΔT[℃]の評価基準は前述した通りであるから、その説明は割愛する。
[試験1.1.2]ストリーク
後記する表1中、「ストリーク」とは、以下の基準で評価するものである。即ち、前述した1次切断スラブの表面(ここで、表面とは、鋳片の広面の反基準面を意味する。)を冷間目視で観察し、鋳造方向に50[mm]以上延在するミミズ腫れ状の疵の有無を確認し、この疵が一切視認されなかった場合に限って該確認試験を「○(良好)」と評価し、それ以外の場合は該確認試験を「×(不良)」と評価する。
[試験1.2]共通試験方法
次に、各確認試験に共通する試験方法について説明する。後記する表1を併せて参照されたい。以下、表1中、試験No.1で示される確認試験の試験方法について説明する(特記ない限り、上述した連続鋳造の操業に倣う。)。
試験No.1で示される確認試験は、あるチャージ分(1チャージ250[ton])の連続鋳造に1対1の関係で対応する。
試験No.1に対応する取鍋に収容されている溶鋼の成分を、タンディッシュへ注湯する前に予め確認しておく。その成分値を表1に記載する。
連続鋳造する際に使用するモールドパウダの成分乃至物性は、該モールドパウダの使用に前後して確認しておく。その成分値乃至物性値を表1に記載する。
前述した1次切断スラブに基づいて鋳型内の凝固シェル界面の溶鋼流速Vsh[cm/sec]を調査し、その調査結果たる溶鋼流速Vsh[cm/sec]を表1に記載する。
熱電対出力変動度ΔT[℃]及びストリークに関する評価は前述した通りであるから、ここでは割愛する。
列タイトル「総合」の列には、熱電対出力変動度ΔT[℃]及びストリークに関する評価が同時に良好だった場合に限り「○(良好)」を、それ以外のすべてを「×(不良)」を、記入する。
[試験1.3]共通試験条件
次に、各確認試験に共通する試験条件について説明する。
・鋳型幅W[mm]は、概ね、900〜1800とする。
・鋳型厚みD[mm]は、230とする。
・鋳型高さH[mm]は、900とする。
[試験1.4]個別試験条件及びその試験結果
次に、各確認試験の個別の試験条件とその試験結果を下記表1に示す。下記表1において、列タイトル「T.C. wt%」は、モールドパウダ中の炭素成分のトータル量(所謂トータル炭素)を意味する。列タイトル「C/S」は、モールドパウダの塩基度を意味する。列タイトル「Smold wt%」は、モールドパウダ中のS濃度を意味する。列タイトル「Tc ℃」は、モールドパウダの凝固温度を意味する。
以上説明したように上記実施形態において、炭素含有量C[wt%]を0.02〜0.07とし、硫黄含有量Ssteel[wt%]を0.015〜0.02とする、低炭素高硫黄鋼を、鋳型内の凝固シェル界面の溶鋼流速Vsh[cm/sec]が40〜80となるように鋳型内電磁攪拌を行い、鋳造速度Vc[m/min]を1.6以上とし、モールドパウダを使用して連続鋳造する、低炭素高硫黄鋼の連続鋳造は、以下のような方法で行われる。即ち、モールドパウダの硫黄含有量Smold[wt%]を0.005〜0.02とする。これによれば、当該連続鋳造に際し、熱電対ハンチングを抑制できる(上記表1中、列タイトル「ΔT ℃」の列を参照されたい。)
上記実施形態に係る低炭素高硫黄鋼の連続鋳造の技術的な意義の容易な理解を図るべく、前に触れた図6と比較するかたちで、図12を参照されたい。図12は、図6に類似する図である。本図は、上記の表1に基づいて作成されたものである。図12によれば、図6に示される熱電対ハンチングの観点で良好ではなかった鋼種において、熱電対ハンチングの観点で良好とすることができたことが理解されよう。
同様に、図13を参照されたい。図13は、硫黄含有量Smold[wt%]と、熱電対出力変動度ΔT[℃]と、の関係を示す図である。本図は、上記の表1に基づいて作成されたものである。本図によれば、硫黄含有量Smold[wt%]を0.02以下とすれば、熱電対ハンチングを十分に抑制できることが判る。
次に、図14を参照されたい。図14は、図13の一部拡大図である。本図も、図13と同様、上記の表1に基づいて作成されたものである。本図によれば、確かに、硫黄含有量Smold[wt%]を0.02以下とすれば、熱電対ハンチングを十分に抑制できるが、該硫黄含有量Smold[wt%]を0.001とすると、熱電対ハンチングが大きくなったことが判る。ここで、再度、上記の表1を参照されたい。上記の表1によれば、このとき、ストリークに関する評価が不良となっていることが理解されよう。これは、思うに、モールドパウダの硫黄含有量Smold[wt%]を極端に低く設定したため、凝固シェルと溶融モールドパウダとの界面の界面張力が過大となったことで、溶融モールドパウダが鋳型内壁面と凝固シェルとの間へ流入するその流入口が過度に広くなり、その結果、該溶融モールドパウダの流入量が過剰となったことが原因ではないだろうか(宮坂直樹、他5名、「連鋳片の割れ疵に関する研究」、材料とプロセス、1978年、p.209)。従って、ストリークに関する評価について言及するならば、上記実施形態に係る低炭素高硫黄鋼の連続鋳造は、硫黄含有量Smold[wt%]の下限が好適に設定されており、それ故、ストリークを効果的に抑制できると言える。
以下、参考資料である。
<溶鋼流速Vsh[cm/sec]>
定義:鋳型内の凝固シェル界面の溶鋼流速Vsh[cm/sec]
溶鋼流速Vsh[cm/sec]の導出方法は、特開2006-136901号公報に基づき、以下の通りとする。溶鋼流速を導出するために、鋳片表面から厚み方向における偏析度Keの推移について調査した。このときのサンプル採取状況を図15(a)に示す。偏析度Keの測定に当たっては、(鋳造方向の偏析のバラツキを平均化するために、)鋳片表面から厚み方向(深さ方向)に幅:2mm、深さ:2mmで、鋳造方向に長さ200mmとなるスリット状試験片を所定間隔(最小ピッチ2mm)で採取し、各試験片における炭素濃度の最大値[Cmax](質量%)を測定し、それらの比([Cmax]/[C])で求めた。その結果、鋳片表面から深さ30mmまでの表層部において、負の偏析が生じており、それより内部では正の偏析状態となっている。溶鋼流動に換算すると40cm/sec〜80cm/secであった。このようにして求めたKe値から、文献[綾田ら:鉄と鋼67(1981)8, P.1278~1286]の式(4)から、溶鋼流速は20〜60cm/secであることを確認した。なお、本式はC:0.13〜0.64%で成立するが、C:0.13以下でも曲線が水平に近づくため(図15(b)参照)、ほぼ成立すると見なして良い。理屈は、文献参照。
・マッシーゾーン内の濃化溶鋼が流動し、デンドライト樹間内の濃化溶鋼がバルク溶鋼と置き換わるため、
・マッシーゾーン幅が最大洗浄固相率に影響を与える
・C量によりマッシーゾーンの幅が変化。
・C量によりマッシーゾーンの幅が広くなる。
・マッシーゾーンの幅が狭い→負偏析度が増加
<溶鋼過熱度ΔT[℃]>
定義:鋳型内へ注湯される溶鋼の温度の指標である。
(1)『測定時刻』は、「タンディッシュ内の溶鋼の流動が定常状態に至った時刻、より詳しくは、転炉から該タンディッシュへ溶鋼を搬送するための取鍋内に収容されている溶鋼の1/4〜1/3程度が該タンディッシュへ注湯された時刻」とする。
(2)『測定地点』は、以下の通りとする。即ち、「水平位置」はタンディッシュの底面に備え付けられる浸漬ノズルの軸心とし、「鉛直位置」はタンディッシュ内に保持されている溶鋼の湯面を基準として深さ100mmとする。
(3)『測定器具』は、消耗型熱電対を用いる構成とする。上記の通り、深さ100mmの地点に消耗型熱電対を浸漬させることから、適宜に用意した棒の先端に消耗型熱電対を取着した構成が適する。
(4)上記の『測定時刻』及び『測定地点』、『測定器具』に準じて測定した溶鋼の温度から、溶鋼の溶鋼成分により唯一に求められる液相線温度と、を比較する。そして上述した溶鋼過熱度ΔT[℃]は、前者から後者を引いた残りとして求めることとする。
(5)なお、種々の観点から、上記溶鋼過熱度ΔT[℃]は、10〜45が好ましい。
<定常期>
定義:一つのチャージ中の溶鋼の概ね1/4〜3/4の溶鋼が凝固した時期を意味する。
(付記)
硫黄含有量Smold[wt%]が高い場合(例えば0.4程度)に縦割れが増加するという知見は以前からあるが(江見俊彦、他4名、「厚板用連続鋳造用スラブの表面欠陥に及ぼすパウダーの性状」、鉄と鋼、1974年、第7号、p.243〜251)、上記実施形態に係る連続鋳造は、硫黄含有量Smold[wt%]が桁違いに低いモールドパウダを選択するものであって、更に言えば、縦割れの原因となる不均一凝固が問題となっている。
一般的な鋳型の一部切欠き斜視図 図1に示される鋳型の上端から250[mm]における水平断面図 熱電対の出力結果 熱電対出力変動度ΔT[℃]と、縦割発生頻度TW[個/m2]と、の関係を示す図 図3に類似する図 鋼種成分と、熱電対出力変動度ΔT[℃]についての評価結果と、の関係を示す図 硫黄含有量Ssteel[wt%]と、凝固定数K[mm/min1/2]と、の関係を示すグラフ 溶鋼流速Vsh[cm/sec]と、凝固定数K[mm/min1/2]と、の関係を示すグラフ 凝固シェルの断面の写真 鋳型内壁面と、モールドパウダと、溶鋼と、の関係を示す模式図 連続鋳造機の概略図 図6に類似する図 硫黄含有量Smold[wt%]と、熱電対出力変動度ΔT[℃]と、の関係を示す図 図13の一部拡大図 溶鋼流速Vsh[cm/sec]の説明図
符号の説明
1 鋳型
100 連続鋳造機
Ssteel 溶鋼の硫黄含有量[wt%]
Smold モールドパウダの硫黄含有量[wt%]

Claims (1)

  1. 炭素含有量C[wt%]を0.02〜0.07とし、硫黄含有量Ssteel[wt%]を0.015〜0.02とする、低炭素高硫黄鋼を、鋳型内の凝固シェル界面の溶鋼流速Vsh[cm/sec]が40〜80となるように鋳型内電磁攪拌を行い、鋳造速度Vc[m/min]を1.6以上とし、モールドパウダを使用して連続鋳造する、低炭素高硫黄鋼の連続鋳造方法において、
    前記モールドパウダの硫黄含有量Smold[wt%]を0.005〜0.02とする、
    ことを特徴とする低炭素高硫黄鋼の連続鋳造方法
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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CN102211160A (zh) * 2011-05-13 2011-10-12 攀钢集团有限公司 含硫易切削齿轮钢的连铸方法

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