JP2008255421A - 溶鋼の加熱方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】真空脱ガス装置の真空槽の形状を適切に調整することにより、加熱効率を損なわずに耐火物の寿命向上を達成することのできる溶鋼の加熱方法を提供する。
【解決手段】二本の浸漬管と真空槽からなる真空脱ガス装置にて、溶鋼にAlを添加した後、真空槽内溶鋼表面に酸素ガスを吹き付けて、酸素ガスとAlとを反応させて溶鋼を加熱する処理において、真空槽内溶鋼深さdと真空槽内径Dとの比(d/D)の値が0.03以上0.13以下であることを特徴とする溶鋼の加熱方法である。上記の方法において、溶鋼量V(t)と溶鋼の環流速度Q(t/min)との比(V/Q)の値が1.7min以上2.7min以下であり、かつ上吹き酸素ガスの流量が0.08Nm3/min/t以上0.16Nm3/min/t以下であることが好ましい。
【選択図】図2
【解決手段】二本の浸漬管と真空槽からなる真空脱ガス装置にて、溶鋼にAlを添加した後、真空槽内溶鋼表面に酸素ガスを吹き付けて、酸素ガスとAlとを反応させて溶鋼を加熱する処理において、真空槽内溶鋼深さdと真空槽内径Dとの比(d/D)の値が0.03以上0.13以下であることを特徴とする溶鋼の加熱方法である。上記の方法において、溶鋼量V(t)と溶鋼の環流速度Q(t/min)との比(V/Q)の値が1.7min以上2.7min以下であり、かつ上吹き酸素ガスの流量が0.08Nm3/min/t以上0.16Nm3/min/t以下であることが好ましい。
【選択図】図2
Description
本発明は、二本の浸漬管および真空槽を備えたRH真空脱ガス装置を用いて溶鋼に酸素ガスを吹き付けて溶鋼の加熱を行うに際して、加熱効率を低下させることなく、真空槽の耐火物の寿命向上を図ることのできる加熱方法に関する。
二次精錬の主な目的として、溶鋼温度の調整がある。転炉などから取鍋へ出鋼された溶鋼は、二次精錬にて成分調整や脱ガスなどの処理が施され、さらに、二次精錬の次行程である鋳造に適正な温度に調整するという重要な処理が施される。
溶鋼の温度が鋳造に適正な温度よりも高い場合には、時間延長や冷鉄材の投入などにより溶鋼の温度を容易に低下させることができる。しかし、溶鋼の温度が鋳造に適正な温度よりも低い場合には、溶鋼の温度を上昇させなければならない。
溶鋼の温度を上昇させるには、電極加熱や誘導加熱などの加熱方法を用いることができるが、経済的な理由から、RHなどの真空脱ガス装置を用いて溶鋼に酸素ガスを吹き付ける方法が一般に採用されている。真空脱ガス装置内の溶鋼に酸素ガスを吹き付けて溶鋼の温度を上昇させる処理方法の内容は次のとおりである。
溶鋼にAlまたはSiなどの金属を添加し、真空脱ガス装置の真空槽内の溶鋼に酸素ガスを吹き付ける。この酸素ガスは溶鋼中のAlと反応し、酸化熱を発生する。この酸化熱を用いて溶鋼の温度を上昇させる。この処理方法は、操業が容易であることや温度調整の精度が高いことから、よく利用されている。
この溶鋼加熱方法は、従来、幾多の改善がなされ、清浄度向上や効率向上が図られてきた。例えば、特許文献1には、溶鋼中Al濃度と還流量との積として算出される真空槽内に流入するAl量を、ノズルからの送酸量と酸素効率との積により除した値が所定の範囲となるように制御することにより、スラグ中のMnOおよびFeOの生成を抑制し、溶鋼の清浄性を悪化させることなく、RH脱ガス設備で溶鋼を昇熱する方法が開示されている。
しかし、上記の文献で開示された加熱方法には、真空槽内の耐火物の損耗が進行しやすいという問題があった。この問題を解決すべく、下記の技術が開示されている。
すなわち、特許文献2には、側壁がマグネシア−炭素質不焼成煉瓦であり、敷および還流管が炭素質原料を含まないかあるいは炭素質原料の割合が耐火骨材に占める割合で1質量%未満としたキャスタブル耐火物とした真空脱ガス炉の内張構造が開示されており、特許文献3には、真空脱ガス槽を構成する下部槽の内張耐火物のうち少なくとも溶鋼接触部をC含有量が5質量%未満のマグネシアカーボン煉瓦とし、残余の部分をC含有量が5〜9質量%のマグネシアカーボン煉瓦とする真空脱ガス槽の構造が開示されている。さらに、特許文献4には、RH脱ガス設備で酸素含有ガスを昇降自在な鉛直ランスを介して溶鋼面に上吹きするに当たり、鉛直ランスの中心軸を環流管内径の領域内に位置させて酸素含有ガスを噴射させることにより真空槽の耐火物の損耗を防止する酸素上吹き方法が開示されている。
しかし、上記の技術では耐火物の十分な寿命向上を図ることができず、さらなる改善方法が必要とされてきた。
そこで、本発明者らは先に特許文献5において、加熱処理の進行に応じて雰囲気圧力を適切に制御する溶鋼の加熱方法を提案した。そして、同文献で提案した方法において、加熱効率を損なうことなく耐火物の寿命を向上させることが可能であることを示すとともに、同方法によって大幅な改善効果が得られることを示した。特に、この方法は気−液反応を制御することにより目的を達成するものであり、装置改造を行うことなく、処理条件の制御のみにより技術改善を図ることができる。
前記の従来技術には、下記の問題があった。すなわち、(1)溶鋼にAlやSiなどの金属を添加し、真空槽内の溶鋼に酸素ガスを吹き付けることによる溶鋼の昇熱方法では、真空槽内の耐火物の損耗が進行しやすい。(2)この耐火物の損耗を防止すべく、真空槽内の耐火物の改善および上吹き方法の改善が行われてきたが、耐火物の十分な寿命向上を図るには至っていない。(3)本発明者らが特許文献5において提案した溶鋼の加熱方法は優れた方法であるが、さらに、加熱処理の進行にともなう雰囲気圧力の制御を行わずに、真空槽の形状を適正化することにより溶鋼の加熱効率を確保し、耐火物の寿命向上を図る方法が必要とされた。
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、その課題は、加熱処理の進行にともなう真空槽内圧力などの条件の経時的な制御を必要とせずに、真空脱ガス装置の装置形状を適切に調整することにより、加熱効率を損なうことなく耐火物の寿命向上を図ることのできる溶鋼の加熱方法を提供することにある。
つまり、特許文献5にて提案した方法が装置改造を行うことが困難な場合や、工場の製造鋼種が多い場合に適した昇熱技術であるのに対して、本発明は装置改造が可能で、製造鋼種が比較的少ない場合に適した昇熱技術の提供を目的としている。上述のとおり、本発明は、先の特許文献5に開示された方法とは別の観点から、加熱効率を損なうことなく耐火物の寿命向上を図るものである。
本発明は、RH脱ガス装置の真空槽内圧力などの処理条件の経時的な制御を必要とせずに、真空脱ガス装置の装置形状を適切に調整することにより、加熱効率を損なうことなく耐火物の寿命向上を図る溶鋼の加熱方法である。すなわち、本発明の要旨は、下記の(1)および(2)に示される溶鋼の加熱方法にある。
(1)二本の浸漬管と真空槽を備えた真空脱ガス装置にて、溶鋼にAlを添加した後、真空槽内溶鋼表面に酸素ガスを吹き付けて、酸素ガスとAlとを反応させて溶鋼を加熱する処理方法において、真空槽内溶鋼深さdと真空槽内径Dとの比(d/D)の値が0.03以上0.13以下であることを特徴とする溶鋼の加熱方法(以下、「第1発明」とも記す)。
(2)溶鋼量V(トン(t))と溶鋼の環流速度Q(t/min)との比(V/Q)の値が1.7min以上2.7min以下であり、かつ上吹き酸素ガスの流量が0.08Nm3/min/t以上0.16Nm3/min/t以下であることを特徴とする前記(1)に記載の溶鋼の加熱方法(以下、「第2発明」とも記す)。
本発明者は、加熱効率を損なうことなく耐火物の寿命向上を図ることのできる溶鋼の加熱方法を研究し、下記の1.および2.に示される知見を得て、本発明を完成させた。
1.溶鋼加熱時の耐火物の溶損機構
RH脱ガス装置の真空槽内の溶鋼表面に酸素ガスを吹き付けることにより溶鋼を昇熱する場合の耐火物損耗機構は以下のように考えられる。
RH脱ガス装置の真空槽内の溶鋼表面に酸素ガスを吹き付けることにより溶鋼を昇熱する場合の耐火物損耗機構は以下のように考えられる。
溶鋼表面に吹き付けられた酸素ガスは溶鋼へ吸収され、主として溶鋼中のAlと反応する。吹き付けられた酸素が全て溶鋼中Alと反応すれば、アルミナ(Al2O3)のみが生成する。しかし、Alと反応し得なかった酸素は溶鋼と反応し、FeOXを形成する。このFeOXが耐火物と接触すると、耐火物の主成分であるMgOと反応し、その融点を1600℃以下にまで低下させる。一般に、溶鋼の加熱中には真空槽内の溶鋼温度は1600℃以上となるため、耐火物は容易に溶損する。
溶鋼への酸素ガスの吸収:(1/2)O2(g)→ [O] ・・・(1)
吸収された酸素の反応: 3[O]+2[Al]→ Al2O3 ・・(2)
Fe+X[O]→ FeOX ・・・(3)
ここで、[O]および[Al]は、それぞれ、溶鋼中の酸素および溶鋼中のAlを意味する。
吸収された酸素の反応: 3[O]+2[Al]→ Al2O3 ・・(2)
Fe+X[O]→ FeOX ・・・(3)
ここで、[O]および[Al]は、それぞれ、溶鋼中の酸素および溶鋼中のAlを意味する。
前記特許文献5では、上記(3)式により表される反応を極力抑制し、(2)式により表される反応を推進させる方法として、真空槽内の雰囲気圧力を制御する方法を提案した。
2.FeOX含有スラグの排出促進による溶損の抑制
前記特許文献5の方法に対して、本発明では、上記(8)式の反応により生成したFeOX含有スラグを真空槽から効率よく排出することにより、耐火物の溶損を抑制する方法を検討した。真空槽内において生成するFeOX含有スラグを真空槽内から取鍋へ排出するには、環流ガスの流量を増加させ、溶鋼の流動速度を増加させる方法が考えられる。しかし、FeOX含有スラグを真空槽内から取鍋へ排出するために必要な環流ガスの流量が不明であることに加え、環流ガスの流量を過度に増加させても、その効果は飽和することが知られている。
前記特許文献5の方法に対して、本発明では、上記(8)式の反応により生成したFeOX含有スラグを真空槽から効率よく排出することにより、耐火物の溶損を抑制する方法を検討した。真空槽内において生成するFeOX含有スラグを真空槽内から取鍋へ排出するには、環流ガスの流量を増加させ、溶鋼の流動速度を増加させる方法が考えられる。しかし、FeOX含有スラグを真空槽内から取鍋へ排出するために必要な環流ガスの流量が不明であることに加え、環流ガスの流量を過度に増加させても、その効果は飽和することが知られている。
2−1 スラグ排出促進のための真空槽の適正形状
水モデルを用いた試験を行って、真空槽内からのスラグの排出を促進させる条件を調査した。試験には、浸漬管径:100mm、水量(真空槽内溶鋼量に相当):150リットル(l)、真空槽の内径:340mmのRH水モデルを用いた。真空槽内に所定量の樹脂ビーズ(粒子)を添加し、ビーズ添加後からビーズ排出までの所要時間を測定した。具体的には、環流Heガス流量の水準を変化させ、各水準において、真空槽内水深と真空槽内粒子の排出所要時間との関係を測定した。測定結果は、真空槽内水深dと真空槽内径Dとの比(d/D)と、真空槽内粒子の排出所要時間との関係として整理した。
水モデルを用いた試験を行って、真空槽内からのスラグの排出を促進させる条件を調査した。試験には、浸漬管径:100mm、水量(真空槽内溶鋼量に相当):150リットル(l)、真空槽の内径:340mmのRH水モデルを用いた。真空槽内に所定量の樹脂ビーズ(粒子)を添加し、ビーズ添加後からビーズ排出までの所要時間を測定した。具体的には、環流Heガス流量の水準を変化させ、各水準において、真空槽内水深と真空槽内粒子の排出所要時間との関係を測定した。測定結果は、真空槽内水深dと真空槽内径Dとの比(d/D)と、真空槽内粒子の排出所要時間との関係として整理した。
図1は、環流ガス流量の水準を変化させ、真空槽内水深dと真空槽内径Dとの比(d/D)と、真空槽内粒子の排出所要時間との関係を調査した結果を示す図である。同図の結果から、環流ガス流量を5Nl/minから7Nl/minに増加すると、排出所要時間は短くなるものの、それほど大きな効果は得られていない。これに対して、浴表面と排出所要時間の関係では、比(d/D)の値が増大するほど排出所要時間は長くなり、比(d/D)の値が0.13を超えて高くなると、急激に排出所要時間が長くなることがわかる。一方、比(d/D)の値が小さいと排出所要時間は短くなるが、比(d/D)の値が0.03未満では、排出所要時間にばらつきが生じている。
つまり、真空槽内スラグの排出は、環流ガス流量の影響よりも真空槽内浴深の影響が大きいこと、さらに、スラグの排出を効率よく図るための真空槽内浴深には適正な範囲があることがわかる。
この理由は、目視観察から以下のように推察される。すなわち、真空槽内の樹脂ビーズ(実プロセスではスラグに相当)は水(実プロセスでは溶鋼に相当)よりも比重が小さいため、真空槽内の液面上に浮遊する。一方、真空槽から内容物が排出されるための排出口は、真空槽の底部に設けられた下降管口である。したがって、真空槽からスラグが排出されるためには、浴表面上から底部までを浴の流動によって移動する必要がある。
真空槽底部の下降管口には鉛直下向きの強い流れが生成しており、スラグが排出されるにはこの流れの影響を受ける必要がある。真空槽内浴深が深いと、浴表面は、上記の底部の鉛直下向き流れの影響を受けにくくなるため、排出所要時間が長くなる。一方、浴深が浅いと、浴表面は、上記の鉛直下向き流れの影響を受けやすくなるため、排出が促進される。しかし、浴深が過度に浅くなると、排出所要間が不安定となる。これは、真空槽内浴深が浅くなりすぎると、真空槽内の流れが十分に発達しないため、安定した流動が発生しないことに起因する。
上記の結果から、真空槽内で生成したスラグを取鍋内に効率よく排出するには、真空槽内水深dと真空槽内径Dとの比(d/D)の値を0.03以上0.13以下の範囲とする必要がある。
2−2 耐火物寿命向上に及ぼす比(d/D)の効果の確認
さらに、溶鋼を用いて、真空槽耐火物の寿命に及ぼす真空槽形状の影響を調査確認した。試験には250トン(t)の溶鋼を用い、浸漬管径が600mmのRH脱ガス装置を用いた。上吹き酸素ガス流量は0.14Nm3/min/tとし、真空槽内径を一定として、真空槽内浴深dを変化させた。
さらに、溶鋼を用いて、真空槽耐火物の寿命に及ぼす真空槽形状の影響を調査確認した。試験には250トン(t)の溶鋼を用い、浸漬管径が600mmのRH脱ガス装置を用いた。上吹き酸素ガス流量は0.14Nm3/min/tとし、真空槽内径を一定として、真空槽内浴深dを変化させた。
図2は、真空槽内水深dと真空槽内径Dとの比(d/D)と、耐火物寿命指数との関係を示す図である。同図において、耐火物の寿命は、比(d/D)が0.15の場合の耐火物の平均寿命を1.0とし、指数化して表示した。同図の結果から、スラグ排出所要時間が短い、比(d/D)の値が0.03以上0.13以下の範囲において、寿命の向上が確認された。この結果は、前記の水モデルを用いた試験結果から得られた比(d/D)の適正範囲と一致する。
2−3 溶鋼量Vと溶鋼の環流速度Qとの比(V/Q)の好ましい範囲
上記の溶鋼試験から得られた知見に基づき、溶鋼量V(t)と溶鋼の環流速度Q(t/min)との比(V/Q)の値が1.7min以上2.7min以下であり、かつ上吹き酸素ガスの流量が0.08Nm3/min/t以上0.16Nm3/min/t以下であることが好ましい理由について下記に説明する。
上記の溶鋼試験から得られた知見に基づき、溶鋼量V(t)と溶鋼の環流速度Q(t/min)との比(V/Q)の値が1.7min以上2.7min以下であり、かつ上吹き酸素ガスの流量が0.08Nm3/min/t以上0.16Nm3/min/t以下であることが好ましい理由について下記に説明する。
前記図1にて示されたとおり、環流ガス流量の影響は小さいものの、その流量が過度に小さくなると、真空槽内の流れが弱くなり、排出所要時間が長くなる。このため、一般的に十分な混合流動が得られる条件、すなわち、比(V/Q)の値が2.7min以下であることが好ましい。一方、比(V/Q)の値が1.7min未満となると、環流速度が大きくなりすぎ、効果が飽和することから、比(V/Q)の値は1.7min以上とすることが好ましい。
また、スラグの生成速度がスラグの排出速度を上回ると、真空槽内のスラグ量が十分に減少しなくなる。そのため、より高い効果を得るには、上記の溶鋼量V(t)と環流速度Q(t/min)との比(V/Q)の範囲内において、酸素ガスの流量を0.16Nm3/min/t以下とすることが好ましい。一方、酸素ガスの流量が0.08Nm3/min/t未満となると、溶鋼の加熱処理時間が長くなるため、酸素ガスの流量は0.08Nm3/min/t以上とすることが好ましい。なお、上記の検討において、環流速度にはKuwabaraの式(非特許文献1)を用いた。
上記に述べた理由により、酸素上吹き時に真空槽内に生成するFeOXスラグを効率よく取鍋へ排出するには、(1)真空槽内溶鋼深さdと真空槽内径Dとの比(d/D)の値を0.03以上0.13以下とする必要があり、さらにその効果を高めるには、溶鋼の環流速度Q(t/min)と溶鋼量V(t)との比(V/Q)の値を1.7min以上2.7min以下とし、かつ上吹き酸素ガスの流量を0.08Nm3/min/t以上0.16Nm3/min/t以下とすることが好ましい。
前記の第1発明および第2発明は、上記の知見および検討結果に基づいて完成されたものである。
本発明によれば、RH脱ガス装置を用いた溶鋼の加熱処理において、溶鋼加熱の進行にともなう真空槽内圧力の経時的制御を要することなく、真空槽内溶鋼深さdと真空槽内径Dとの比(d/D)の値を適正範囲に調整することにより、加熱効率を確保しながら耐火物の寿命向上を図ることができる。したがって、本発明の方法は、RH脱ガス装置を用いた溶鋼の二次精錬工程において、装置改造が可能で、製造鋼種が比較的少ない場合の溶鋼の最適な加熱方法として利用価値の高い技術である。
本発明の実施形態を、転炉精錬、RH脱ガス処理および連続鋳造からなるプロセスを例にとり以下に詳細に説明する。転炉にて脱炭処理を行った後、取鍋に出鋼された溶鋼は、RH脱ガス装置へ移送されて、RH脱ガス装置を用いた処理(以下、「RH処理」とも記す)を施された後、連続鋳造機により鋳造される。RH処理としては、溶鋼の加熱の他、溶鋼の成分調整、溶鋼の脱ガスなどの処理が行われ、本発明の方法を適用する溶鋼の加熱処理は、成分組成の調整や脱ガスなどの処理の前後のいずれで行ってもよい。以下に、本発明の好ましい実施形態について説明する。
(1)真空槽内浴深の制御
本発明は前記のとおり、真空槽内の浴深を制御する。この場合、酸素上吹きを行うときの真空槽内雰囲気圧力の設定値に応じて、真空槽内の湯面高さと取鍋内の湯面高さとの差ΔHは一義的に決定される。一義的に決定されるΔHに対して、真空槽内の浴深を制御する方法には下記の二通りの方法がある。すなわち、第一の方法は、真空槽浸漬管の取鍋内溶鋼への浸漬深さを調整する方法であり、第二の方法は、真空槽内の槽底煉瓦の厚さを変更する方法である。本発明の場合には、上記第二の方法を採用することが好ましい。
本発明は前記のとおり、真空槽内の浴深を制御する。この場合、酸素上吹きを行うときの真空槽内雰囲気圧力の設定値に応じて、真空槽内の湯面高さと取鍋内の湯面高さとの差ΔHは一義的に決定される。一義的に決定されるΔHに対して、真空槽内の浴深を制御する方法には下記の二通りの方法がある。すなわち、第一の方法は、真空槽浸漬管の取鍋内溶鋼への浸漬深さを調整する方法であり、第二の方法は、真空槽内の槽底煉瓦の厚さを変更する方法である。本発明の場合には、上記第二の方法を採用することが好ましい。
第一の方法の場合には、上昇浸漬管(上昇管)に設けられた環流ガス吹き込み羽口と真空槽内湯面との距離ΔLが小さくなる。ΔLが小さくなると、羽口から吹き込まれた気泡の上昇距離が短くなるため、環流ガスによる環流速度が若干低下する場合がある。これに対して、第二の方法では、ΔLは変化しないため、環流速度に及ぼす真空槽内浴深の影響は生じないからである。
上記のとおり第二の方法を採用することが好ましいが、第一または第二のいずれかの方法により、比(d/D)の値を前記第1発明で規定する0.03以上0.13以内に制御する。その後、溶鋼にAlを添加し、上吹きランスを介して真空槽内の溶鋼に酸素ガスを吹き付け、溶鋼を加熱する。
なお、溶鋼の環流速度は、浸漬管径に応じて調整が可能な環流ガス流量を調整することにより制御することが可能である。したがって、この環流速度および上吹き酸素ガス流量を前記第2発明で規定する範囲内に制御すれば、さらに安定した顕著な効果が得られ、好ましい。
(2)真空槽内雰囲気圧力
酸素上吹きを行う真空槽内の雰囲気圧力は2.6MPa以上13.3MPa以下とすることが好ましい。真空槽内雰囲気圧力が2.6MPa未満では、酸素上吹き時における溶鋼の飛散が多くなり、一方、同雰囲気圧力が13.3MPaを超えて高くなると、溶鋼の環流速度が遅くなり、混合が不安定となって好ましくないからである。
酸素上吹きを行う真空槽内の雰囲気圧力は2.6MPa以上13.3MPa以下とすることが好ましい。真空槽内雰囲気圧力が2.6MPa未満では、酸素上吹き時における溶鋼の飛散が多くなり、一方、同雰囲気圧力が13.3MPaを超えて高くなると、溶鋼の環流速度が遅くなり、混合が不安定となって好ましくないからである。
なお、雰囲気圧力によってΔHが変化するため、真空槽内の溶鋼深さdが変化する。雰囲気圧力が変化すると、ΔHが変動するので、これにともなって比(d/D)の値を前記第1発明で規定する範囲内に制御しなければならない。したがって、酸素上吹き中において雰囲気圧力は変化させないことが好ましく、特に、前記第二の方法により溶鋼深さdを制御する場合には、酸素上吹き中の雰囲気圧力の変化は好ましくない。
(3)酸素上吹き、溶鋼中Al含有率など
酸素上吹きを行うランスノズルの形状は特に限定されない。例えば、中細末広がりのラバールノズル、ストレートノズル、先細ノズルなどを使用することができる。ランス先端と真空槽内の溶鋼湯面との鉛直距離は0.5m以上3m以下が好ましい。同鉛直距離が0.5m未満では、飛散した溶鋼によるノズルの溶損が発生しやすく、一方、同鉛直距離が3mを超えて大きいと、真空槽内の溶鋼湯面におけるジェットの動圧が低くなり、昇熱反応が不安定になる場合がある。
酸素上吹きを行うランスノズルの形状は特に限定されない。例えば、中細末広がりのラバールノズル、ストレートノズル、先細ノズルなどを使用することができる。ランス先端と真空槽内の溶鋼湯面との鉛直距離は0.5m以上3m以下が好ましい。同鉛直距離が0.5m未満では、飛散した溶鋼によるノズルの溶損が発生しやすく、一方、同鉛直距離が3mを超えて大きいと、真空槽内の溶鋼湯面におけるジェットの動圧が低くなり、昇熱反応が不安定になる場合がある。
本発明の方法は、予め溶鋼中にAlを添加した後に、酸素上吹きを開始することが好ましい。この理由は、溶鋼中Al含有率が低い状態で酸素上吹きを開始すると、FeOX含有スラグの生成速度が増大し、FeOX含有スラグの排出速度とのバランスが崩れ、真空槽内のスラグ量が一時的にせよ増加するからである。
本発明の方法は、真空槽内スラグの排出を狙いとするものであるため、特に溶鋼の成分組成の影響は受けないが、溶鋼中Al含有率は0.001質量%以上であることが好ましい。Al含有率が0.001質量%未満になると、FeOX含有スラグの生成速度が急速に高まるからである。
浸漬管の直径は300mm以上であることが好ましい。直径が300mm未満であると、取鍋底部に発生する鉛直下向き流れの領域が狭くなり、FeOX含有スラグの排出がやや遅くなる場合があるからである。
本発明の溶鋼の加熱方法の効果を確認するため、下記の試験を行い、その効果を確認した。
溶鋼250トン(t)を転炉にて脱炭した後、取鍋へ出鋼し、RH脱ガス装置へ移送して、RH処理を開始した。RH脱ガス装置は浸漬管径が600mmで、真空槽の内径が2200mmのものを使用し、用いた溶鋼の主な成分組成は、質量%で、C:0.07%、Si:0.2%、Mn:0.3%、Al:0.04%である。RH処理においては、溶鋼の加熱処理を行った後、真空槽内の雰囲気圧力を下げて溶鋼の環流を行い、脱ガスと成分組成の調整を同時に行って処理を完了した。溶鋼加熱時の真空槽内圧力は6.7kPaとし、成分組成調整および脱ガス処理時の真空槽内圧力は0.27kPaとした。
溶鋼にAlを所定量添加した後、ストレートノズルを用い、真空槽内の溶鋼表面から2mの高さから酸素ガスを0.14Nm3/min/tの流量で上吹きした。上吹き酸素の総量は0.2Nm3/t〜0.6Nm3/tの範囲とした。
真空槽内の溶鋼深さdは、真空槽の槽底耐火物の厚さを変化させることにより調整し、真空槽内溶鋼深さdと真空槽内径Dとの比(d/D)の値を0.029、0.045、0.070、0.090および0.180とした。また、一部の試験では、酸素ガス流量および溶鋼環流速度Qを変化させた。
表1に、試験条件として、真空槽内溶鋼深さdと真空槽内径Dとの比(d/D)、溶鋼量Vと溶鋼の環流速度Qとの比(V/Q)および上吹き酸素ガス流量、ならびに試験結果である耐火物寿命指数、ならびに請求項1および2で規定する条件の満足性を示した。 同表において、耐火物寿命指数は、試験番号8における耐火物寿命を1.0として指数化した寿命を表している。
試験番号1〜6は、本発明の第1発明で規定する条件を満足する本発明例についての試験であり、試験番号7〜11は、第1発明で規定する条件を満たさない比較例についての試験である。
本発明例である試験番号1〜6では、比較例である試験番号8の場合に比較して耐火物寿命は28%以上長くなり、良好な結果が得られた。特に、本発明例の中で第2発明で規定する条件をも満足する試験番号1〜3は、試験番号8に比較して耐火物寿命が35%以上長くなり、極めて良好な結果を示した。
これに対して、比較例である試験番号7〜11では、本発明例である試験番号1〜6に比較して耐火物寿命が短く、劣った結果となった。とりわけ、第1発明で規定する条件および第2発明で規定する条件のいずれをも満たさない試験番号9〜11では、耐火物寿命が一段と短い劣った結果となった。
以上の結果から、第1発明で規定する条件を満足することにより耐火物寿命は改善し、さらに第2発明で規定する条件をも満足することにより、さらに一層寿命が改善することが明らかとなった。一方、第1発明で規定する条件を満足しない場合には、耐火物寿命の改善が難しく、加えて第2発明で規定する条件をも満足しない場合には、耐火物寿命の改善は一層困難であることが実証された。
本発明によれば、RH脱ガス装置の真空槽内圧力の経時的制御を必要とせず、真空槽内溶鋼深さdと真空槽内径Dとの比(d/D)の値を適正範囲に調整することにより、加熱効率を損なうことなく耐火物の寿命向上を図ることができる。したがって、本発明の方法は、RH脱ガス装置を用いた溶鋼の二次精錬工程において、装置改造が可能で、製造鋼種が比較的少ない場合の溶鋼の加熱方法として、広範に適用できる技術である。
Claims (2)
- 二本の浸漬管と真空槽を備えた真空脱ガス装置にて、溶鋼にAlを添加した後、真空槽内溶鋼表面に酸素ガスを吹き付けて、酸素ガスとAlとを反応させて溶鋼を加熱する処理方法において、真空槽内溶鋼深さdと真空槽内径Dとの比(d/D)の値が0.03以上0.13以下であることを特徴とする溶鋼の加熱方法。
- 溶鋼量V(トン(t))と溶鋼の環流速度Q(t/min)との比(V/Q)の値が1.7min以上2.7min以下であり、かつ上吹き酸素ガスの流量が0.08Nm3/min/t以上0.16Nm3/min/t以下であることを特徴とする請求項1に記載の溶鋼の加熱方法。
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