JP2008222642A - 歯科用前処理剤組成物 - Google Patents

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Abstract

【課題】塗布する際に適度な流動性を有すると共に、取扱性に優れた歯科用前処理剤組成物の提供。
【解決手段】酸水溶液100質量部に対し、2質量部以上10質量部以下の(A)シリカ、および0.001質量部以上1質量部以下の(B)非イオン性水溶性高分子を含む歯科用前処理剤組成物で、前記(B)非イオン性水溶性高分子がポリオキシアルキレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンのいずれか少なくとも1種である。
【選択図】なし

Description

本発明は、歯科用前処理剤組成物に関し、より詳しくは、生体歯牙組織と、金属材料、有機高分子材料、セラミックス材料等の修復物とを接着する際に、あるいは動揺歯固定法等において歯牙組織同士を接着する際に、予め歯牙組織の修復面を前処理するために使用される歯科用前処理剤に関する。
歯科治療の分野において、生体歯牙組織の修復のため、歯牙組織と修復材料との接着が重要となる。現在、一般的な歯科用修復材料としては、コンポジットレジン等に代表される直接修復材料、または金属もしくはセラミックス等に代表される間接修復材料が用いられている。しかし、これらの修復材料自体には接着性がないため、これまでに、歯牙組織と修復材料とを接着するための種々の技術が提案されてきた。
従来より、歯牙組織に修復材料を接着させる際に、当該歯牙組織の修復面をリン酸、カルボン酸あるいはクエン酸等の水溶液(酸水溶液)によりエッチングして脱灰することによって、微細な凹凸を形成する方法が知られている。かかる方法を用いると、歯牙組織と修復材料との接着界面の面積を著しく増大させることができ、歯牙組織に修復材料を強固に接着することができる。また、動揺歯固定法や矯正治療においては、非切削歯面のエッチングによる塑造化のみならず、被着面に付着した唾液や歯垢等の汚れを除去するために酸水溶液が使用されている。しかし、エッチングや清掃に用いる酸水溶液の粘性が低いことに起因し、歯牙組織における治療部分のみに限定して酸水溶液を塗布することが困難であった。すなわち、酸水溶液を歯牙組織の修復面に塗布しても、治療部分の周辺にまで酸水溶液が広がってしまう。このため、健全な歯牙や歯髄または歯肉までも侵襲してしまい、場合によっては患者に対して不要な痛みを与えてしまうという問題がある。
このような問題を解消するために、種々の歯科用前処理剤が開発されてきており、その一例として、酸水溶液にカルボキシメチルセルロースナトリウム塩および/または高分散性シリカを加えてペースト状とした歯科用エッチング剤が知られている(例えば、特許文献1参照)。かかる歯科用エッチング剤は、酸水溶液のみのものに比べて粘性が高く、塗布すべき箇所の周囲にまでエッチング剤が広がりにくい。
また、5〜80質量%のリン酸またはカルボン酸水溶液100質量部に対して、k値(粘性特性値)が15〜60のポリビニルピロリドン5〜100質量部を溶解して増粘効果を高めた歯科前処理剤も知られている(例えば、特許文献2参照)。かかる歯科用エッチング剤も、高い増粘効果が期待できる。
特開昭53−36994号公報(特許請求の範囲) 特開昭59−128330号公報(特許請求の範囲)
しかしながら、上述の特許文献1に開示される歯科用エッチング剤には、次のような問題がある。酸水溶液中にカルボキシメチルセルロースナトリウム塩および/または高分散性シリカを添加することによって、酸水溶液の流動性が抑えられ、ある程度、粘性を向上させることはできる。しかし、イオン性高分子のカルボキシメチルセルロースナトリウム塩は、酸水溶液中における溶解性が低いため、増粘効果が不十分となりやすいという問題がある。一方、酸水溶液中に高分散性シリカのみを添加すると、攪拌直後の増粘の程度と静置後十分な時間の経過後の増粘の程度が異なってしまうため、例えば、攪拌時に適正な粘度になるように調製した歯科用エッチング剤が、静置した後に、硬くなってしまい容器から出し難くなる、或いは歯牙への塗布性が不良となる問題がある。
また、特許文献2に開示される歯科前処理剤には、次のような問題がある。酸水溶液に対して水溶性高分子であるポリビニルピロリドンを加えることによって、攪拌時と静置時における粘度の変化を小さくできる。しかし、ポリビニルピロリドンの添加のみでは、粘度の制御が極めて難しい。ポリビニルピロリドンの添加量が少ないと、歯科前処理剤が治療部位から垂れてしまう一方で、その添加量を垂れない程度まで多くすると歯科用前処理剤が糸を引くようになる。
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、塗布する際に適度な流動性を有すると共に、取扱性に優れた歯科用前処理剤組成物を提供することにある。
上記目的を達成するため、本発明は、酸水溶液100質量部に対し、2質量部以上10以下質量部の(A)シリカ、および0.001質量部以上1質量部以下の(B)非イオン性水溶性高分子を含む歯科用前処理剤組成物としている。
このような組成とすると、塗布する際に適度な流動性を有すると共に、取扱性に優れた歯科用前処理剤が得られる。すなわち、酸水溶液に対してシリカおよび非イオン性水溶性高分子を適量に加えることによって、シリカあるいは非イオン性水溶性高分子のみを加える場合と比べて、粘性が低いという問題と、静置後に組成物が硬くなり過ぎる問題を解決できる。その結果、静置状態からすぐに使用でき、かつ治療部分のみに限定して効果的に塗布可能な歯科用前処理剤組成物を提供することができる。
また、別の本発明は、先の発明における(B)非イオン性水溶性高分子がポリオキシアルキレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンのいずれか少なくとも1種である歯科用前処理剤組成物としている。このため、ポリオキシアルキレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンのいずれか少なくとも1種の非イオン性水溶性高分子を用いることによって、当該歯科用前処理剤組成物は、経時的に増粘効果が低減せず、保存安定性が良好となる。
本発明によれば、攪拌後および長期保管後にも適当な粘度を有する歯科用前処理剤組成物、即ち、塗布する際に適度な流動性を有すると共に、取扱性に優れた歯科用前処理剤組成物を提供することが可能となる。よって、歯科治療分野に与える効果は大きい。
以下に、本発明に係る歯科用前処理剤組成物の好適な実施の形態について詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に説明する好適な実施の形態に何ら限定されるものではない。
本発明の実施の形態に係る歯科用前処理剤組成物は、酸水溶液、シリカおよび非イオン性水溶性高分子を含んでいる。
酸水溶液に用いられる酸としては、従来から歯科用酸処理剤に用いられているものを使用することができる。例えば、リン酸またはカルボン酸を好適に使用できる。リン酸またはカルボン酸以外に、硝酸、硫酸、またはフッ酸等の無機酸、あるいはクエン酸、乳酸、リンゴ酸、マロン酸、マレイン酸、シュウ酸、酒石酸、酢酸、モノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸またはギ酸等の有機酸を用いても良い。また、これらの酸は、単独あるいは2種以上を組み合わせて使用しても良い。また、酸水溶液に用いられる水としては、蒸留、濾過、イオン交換等によって、有害な不純物を含まないものを用いることが好ましい。
本発明の実施の形態に係る歯科用前処理剤組成物に使用する酸水溶液の酸の濃度は、特に限定されない。高い清掃効果またはエッチング効果が得られることから、酸濃度の好ましい範囲は1質量%以上90質量%以下の範囲であり、同じ理由からより好ましくは5質量%以上80質量%以下の範囲である。歯牙組織に修復材料を接着させる際における、当該歯牙組織の修復面のエッチング剤として使用する場合であれば、酸濃度は、20重量%以上80重量%以下の範囲であるのが特に好ましく、30重量%以上50重量%以下の範囲であるのが最も好ましい。他方、被着面に付着した唾液や歯垢等の汚れを除去する清掃剤として使用するのであれば、酸濃度は、5重量%以上50重量%以下の範囲であるのが特に好ましい。
本発明の実施の形態に係る歯科用前処理剤組成物に使用するシリカは、結晶性シリカおよび非晶質シリカが制限なく使用できる。結晶性シリカは天然物として入手できる。非晶質シリカの合成方法としては、乾式法、エアロゲル法、または湿式法が例示できる。乾式法は、1000℃以上の高温下で気化させた四塩化ケイ素を空気中で燃焼させる燃焼法や、一酸化ケイ素蒸気を空気中で酸化する加熱法が例示できる。エアロゲル法は、珪酸ソーダと鉱酸を反応させてシリカゲルを得、ゲル中の水を有機溶媒で置換して得られたオルガノゾルを加圧加熱処理する方法である。湿式法は、珪酸ソーダを酸で直接分解する直接法や、珪酸ソーダを塩類と反応させて得られた珪酸塩を鉱酸や炭酸ガスで分解する間接法が例示できる。当該シリカの形状、一次粒子径や二次粒子径、粒度分布等は特に限定されない。なお、BETにより測定される比表面積が60m/g以上、好適には80m/g以上500m/g以下のシリカを用いることがより好ましい。本発明においてシリカは、特に、乾式法で調製したシリカを使用した場合には、高い増粘効果が得られやすいので好適である。
本発明の実施の形態に係る歯科用前処理剤組成物におけるシリカの含有量は、酸水溶液100質量部に対して2質量部以上10質量部以下の範囲である。かかる範囲とすると、垂れがなくまた良好な塗布性を有す、適当な粘度の歯科用前処理剤組成物を得ることができる。また、静置しても歯科用前処理剤組成物が硬くなりすぎないので、取扱性に優れた歯科用前処理剤組成物が得られる。特に好ましいシリカの含有量は、4質量部以上8質量部以下の範囲である。
本発明の実施の形態に係る歯科用前処理剤組成物に用いられる非イオン性水溶性高分子としては、水性溶媒中において、解離基を有しない高分子であって、酸水溶液に溶解可能な高分子であれば、従来公知のいかなる非イオン性水溶性高分子を用いても良い。
このような非イオン性水溶性高分子を例示すると、セルロース低級アルキルエーテル化合物、ビニル化合物、多糖類およびその誘導体、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、またはポリオキシアルキレングリコール等、いかなる非イオン性水溶性高分子を採用しても良いが、保存安定性に優れるポリオキシアルキレングリコールあるいはビニル化合物の方が好ましい。セルロース低級アルキルエーテル化合物としては、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等が挙げられる。また、ビニル化合物としては、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、メチルビニルエーテル、ビニルオキサゾリドン、ビニルメチルオキサゾリドン、N-ビニルサクシンイミド、N-ビニルホルムアミド、N-ビニル-N-メチルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニル-N-メチルアセトアミド等が挙げられる。また、多糖類およびその誘導体としては、プルラン、でんぷん等が挙げられる。また、ポリアクリルアミドとしては、ポリグルコシルオキシエチルメタクリレート等が挙げられる。またポリオキシアルキレングリコールとしては、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレングリコールとポリオキシプロピレングリコールのブロックコポリマー等が挙げられる。特に、保存安定性および易取扱性の観点から、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールまたはポリオキシアルキレングリコールを用いることが好ましい。ただし、上述の非イオン性水溶性高分子は一例に過ぎず、他の非イオン性水溶性高分子を採用しても良い。
非イオン性水溶性高分子の重量平均分子量や分子量分布も特に限定されない。重量平均分子量が大きいほど増粘効果は高くなるので、重量平均分子量は500以上が好ましく、特に好ましくは1500以上である。重量平均分子量が大きすぎると酸水溶液への溶解に時間がかかるので、重量平均分子量は150万以下が好ましく、特には80万以下が好ましい。なお、非イオン性水溶性高分子は、一種類の非イオン性水溶性高分子でも、二種類以上の非イオン性水溶性高分子を混合して使用しても良い。
特に、保存安定性および易取扱性の観点から、非イオン性水溶性高分子として、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールまたはポリオキシアルキレングリコールを用いることが好ましい。これらの内、ポリオキシアルキレングリコールは、歯科用前処理剤組成物中に塗布部位の識別を容易とするために色素類を添加した場合に、該色素類が歯牙表面または歯肉等に吸着し着色してしまうのを低減する効果がある。かかる理由から、非イオン性水溶性高分子として、ポリオキシアルキレングリコールを用いるのがより好ましい。ただし、上述の非イオン性水溶性高分子は、1種あるいは2種以上を組み合わせて使用しても良い。
本発明の実施の形態に係る歯科用前処理剤組成物における非イオン性水溶性高分子の含有量は、酸水溶液100質量部に対して0.001質量部以上1質量部以下の範囲である。非イオン性水溶性高分子の含有量を0.001質量部以上とすると、歯科用前処理剤組成物の増粘効果を高めることができる。また、非イオン性水溶性高分子の含有量を1質量部以下とすると、歯科用前処理剤組成物の静置後も粘度が高くなりすぎず、また使用時に糸を引かないようにすることができる。特に好ましい非イオン性水溶性高分子の含有量は、0.003質量部以上0.8質量部以下の範囲である。したがって、酸水溶液100質量部に対して、好ましいシリカおよび非イオン性水溶性高分子の含有量の範囲は、それぞれ、4質量部以上8質量部以下および0.003質量部以上0.8質量部以下である。
本発明の実施の形態に係る歯科用前処理剤組成物の混合方法は、特に限定されるものではなく、公知の歯科用前処理剤組成物の混合方法を採用することができる。一般的には、酸水溶液中に所定量のシリカおよび非イオン性水溶性高分子を同時に添加したり、所定量のシリカおよび非イオン性水溶性高分子を別々に酸水溶液中に加えた後に各酸水溶液を混合するようにしても良い。シリカおよび非イオン性水溶性高分子の含有量は、使用される酸の種類および酸水溶液中の酸の濃度により適宜に選択するのが好ましい。
本発明の実施の形態に係る歯科用前処理剤組成物には、本発明の効果に悪影響を及ぼさない限り、他の添加剤を配合しても良い。例えば、各種天然色素類やタール色素類等の着色剤、蛍光剤または香味剤を添加しても良い。また、抗菌性を付与する目的で、塩化ベンザルコニウム、セチルピリジニウムクロライド等の抗菌性物質を添加しても良い。
本発明の実施の形態に係る歯科用前処理剤組成物の包装は、種々の方法で行われる。例えば、歯科用前処理剤組成物をシリンジ、点眼瓶、またはチューブ等の容器に包装できる。また、歯科用前処理剤組成物を使用時に混合できるように、固体および液体の配合物を別々に包装しても良い。なお、歯科用前処理剤組成物の包装は、上述したもの以外であっても良い。
次に、本発明の実施の形態に係る歯科用前処理剤組成物の使用方法について説明する。
まず、患者の歯牙の欠損部分や非切削歯牙の表面等の被着面に、歯科用前処理剤組成物をブラシやスポンジで塗布または直接、供給する(シリンジ包装の場合)。数秒ないし数分間作用させた後、処理面を洗浄し乾燥する。次に、その部分に接着剤またはコンポジットレジン等の修復材料を塗布あるいは充填する。
本発明の実施の形態に係る歯科用前処理剤組成物は、歯牙のエナメル質のみならず、エナメル質の下層に存在する象牙質、セメント質等に適用しても良い。さらに、金属製、セラミックス製、コンポジットレジン製等の歯牙修復材料に対しても使用することができる。本発明の実施の形態に係る歯科用前処理剤組成物を用いることによって、治療部分のみを清掃またはエッチングし、その後、効果的に歯牙の修復を行うことができる。
次に、本発明の各実施例によって、本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の各実施例に限定されるものではない。
各実施例および各比較例で使用した材料および評価方法について、以下に説明する。
1.歯科用前処理剤組成物の調製に使用した材料
(A)シリカ
QS−09:BETにより測定した比表面積が90m/gのシリカ(株式会社トクヤマ製)、QS−102:BETにより測定した比表面積が200m/gのシリカ(株式会社トクヤマ製)、QS−40:BETにより測定した比表面積が380m/gのシリカ(株式会社トクヤマ製)を用いた。なお、いずれのシリカも乾式法で作製したものである。
(B)非イオン性水溶性高分子
PEG1000(重量平均分子量:1000)、PEG2500(重量平均分子量:2500)、PEG10000(重量平均分子量:10000)、PEG35000(重量平均分子量:35000)、PEG500000(重量平均分子量:500000)の5種のポリエチレングリコールを用いた。また、PVP;ポリビニルピロリドン(重量平均分子量630000)、PVA;ポリビニルアルコール(重量平均分子量16000、ケン化度98%)、HPC;ヒドロキシプロピルセルロース(2質量%水溶液の粘度が8cpsのもの)、CMC−Na;カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(重量平均分子量105000)を用いた。
(C)酸水溶液
35質量%のリン酸水溶液(リン酸35質量部+水65質量部)を用いた。
2.歯科用前処理剤組成物の垂れ性の測定方法
(製造直後)
上記シリカ、非イオン性水溶性高分子および160ppmの食用青色1号(ブリリアントブルーFCF)を含む酸水溶液を混合して得られた歯科用前処理剤2gを容量10mlのガラス製容器内に採取し、ガラス容器を1分間強く振って十分に攪拌を行った。次に、攪拌後直ちに、歯科用前処理剤採取時のガラス板上の添加位置を一定としつつ、ガラス板上に0.05gの歯科用前処理剤を採取した。当該歯科用前処理剤は、表面張力の作用により、自然に広がった。その後、当該ガラス板を37℃、湿度100%の恒温恒湿箱中に垂直に立てた状態で固定した。垂直にしてから20秒間放置後に、ガラス板を水平にして、歯科用前処理剤が重力方向に垂れた距離(mm)を測定した。
(50℃、4週間放置)
上記と同様にして調製した歯科用前処理剤を、ガラス瓶に密封し、50℃、4週間放置した後、同様の手順で歯科用前処理剤組成物の垂れ性を測定した。
3.静置後の吐出性の測定方法
上記シリカ、非イオン性水溶性高分子および160ppmの食用青色1号(ブリリアントブルーFCF)を含む酸水溶液を混合して得られた歯科用前処理剤を容量5mlのシリンジ(テルモ株式会社製)を用いて吸引し採取した。シリンジの吐出部に蓋をした状態で、4℃、48時間放置した。その後、シリンジの吐出部に市販の吐出用チップ SUPER etch tips(株式会社SDI製、スーパーエッチ用チップ)を装着し、シリンジの押し子を押してシリンジ内の歯科用前処理剤を押し出した際に要する力を下記のような4段階にて評価した。
◎:軽い力で押し出すことができ、吐出性が良い。
○:吐出に若干力を要すが、吐出性は問題ない。
△:吐出に力を要し、吐出性が不十分。
×:吐出が困難であり、吐出性が悪い。
4.歯牙表面への色残りの評価
抜去した未切削、未清掃の人歯エナメル質表面に、スポンジを使用し実施例および比較例の歯科用前処理剤を塗布し、10秒間放置した。放置後、歯科用の水銃を使用し5秒間、水を吹き付けて水洗した。水洗後、歯を水中に12時間放置後の色素(青色1号)の歯牙表面への色残りを下記のような2段階で判定した。
○:色残りはなく良好。
×:色残りが多く不良。
(実施例1)
160ppmの食用青色1号(ブリリアントブルーFCF)を含む35質量%のリン酸水溶液100質量部に対して、6.0質量部のシリカ(QS−102)および0.01質量部のポリエチレングリコール(PEG35000)を添加し、よくかき混ぜてペースト状の歯科用前処理剤組成物を得た。各評価結果を表1に示した。
(実施例2〜10、実施例11〜22、比較例1〜3、比較例4〜7)
実施例1の方法に基づいて、各実施例および各比較例の配合組成を含有する歯科用前処理剤組成物を調製した。実施例2〜10および比較例1〜3の各配合組成および各評価結果を表1に、実施例11〜22および比較例4〜7の各配合組成および各評価結果を表2に、それぞれ示す。
Figure 2008222642
Figure 2008222642
表1および表2に示すように、実施例1〜22の組成を有する歯科用前処理剤は、良好な増粘性および易取扱性を有することがわかった。すなわち、リン酸水溶液に対して、適切な量のシリカおよび非イオン性水溶性高分子を添加することによって、シリカあるいは非イオン性水溶性高分子のみを加える場合と比べて、粘性が低いことによって歯科用前処理剤組成が垂れるという問題、および静置後に組成物が硬くなり過ぎることによって吐出性が悪くなるという問題を解決できた。したがって、本実施例における歯科用前処理剤組成物は、治療部分のみに歯科用前処理剤を塗布することができ、歯科治療分野において、長時間静置した後でもすぐに使用可能な取扱性に優れるのものであることがわかった。加えて、用いられた非イオン性水溶性高分子の内、ポリエチレングリコールは、歯科用前処理剤組成物中に塗布部位の識別を容易とするために食用青色1号(ブリリアントブルーFCF)を添加した場合に、該色素類が歯牙表面へ色残りしない効果がある。
一方、表1に示すように、比較例1〜3の各組成を有する歯科用前処理剤組成物は、上述の各実施例の条件にて得られた歯科用前処理剤組成物と比べて、静置後の取扱性と流動性とが両立しないものであった。すなわち、比較例1の場合には、リン酸水溶液100質量部に対して、6質量部のシリカおよび0.01質量部のカルボキシメチルセルロースナトリウム塩(CMCNa)を添加すると、イオン性高分子であるカルボキシメチルセルロースナトリウム塩は、酸水溶液中における溶解性が低いため、静置後吐出性は良好であるものの、使用時に垂れやすいものしか得られなかった。比較例2および比較例3の場合には、リン酸水溶液100質量部に対して、0.01質量部のポリエチレングリコールのみおよび6質量部のシリカのみをそれぞれ添加したが、比較例1と同様の特性を有するものしか得られなかった。したがって、実際の治療の現場において、比較例1〜3の歯科用前処理剤組成物は、それを塗布した治療部位から垂れやすいものであると考えられる。
また、表2に示すように、比較例4〜7の各組成を有する歯科用前処理剤組成物も、上述の各実施例の条件にて得られた歯科用前処理剤組成物と比べて、静置後の取扱性と流動性とが両立しないものであった。すなわち、比較例4の場合には、リン酸水溶液100質量部に対して、1質量部のシリカと0.01質量部のポリエチレングリコールを添加することによって、静置後吐出性が良いが、使用時に垂れるものとなった。一方、比較例5の場合には、リン酸水溶液100質量部に対して、11質量部のシリカと0.01質量部のポリエチレングリコールを添加することによって、使用時に垂れないものの、静置した後に、組成物が硬くなり過ぎて取扱性に劣ることがわかった。また、比較例6の場合には、リン酸水溶液100質量部に対して、6質量部のシリカと0.0005質量部のポリエチレングリコールを添加することによって、比較例4と同様、静置後吐出性が良いが、使用時に垂れるものとなった。比較例7の場合には、リン酸水溶液100質量部に対して、8質量部のシリカと2.0質量部のポリエチレングリコールを添加することによって、比較例5と同様、使用時に垂れないものの、静置した後に、組成物が硬くなり過ぎて取扱性に劣ることがわかった。なお、比較例7において、比較例5と比べてわずかに静置後吐出性が良いのは、シリカの添加量が多すぎなかったためと考えられる。
本発明は、歯科用前処理剤組成物を製造する産業および歯科治療の分野において利用することができる。

Claims (2)

  1. 酸水溶液100質量部に対し、2質量部以上10質量部以下の(A)シリカ、および0.001質量部以上1質量部以下の(B)非イオン性水溶性高分子を含むことを特徴とする歯科用前処理剤組成物。
  2. 前記(B)非イオン性水溶性高分子がポリオキシアルキレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンのいずれか少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の歯科用前処理剤組成物。
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