JP2008214543A - 炭素繊維複合材及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】熱伝導性が高く、ピッチ系炭素短繊維が高充填された炭素繊維複合材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】構造と形状が適切に制御されたピッチ系炭素短繊維フィラーを樹脂マトリクスに高濃度で分散させることで、熱伝導率の高い炭素繊維複合体を作製する。また、それらを用いた電子部品、電波遮蔽体を提供する。
【選択図】なし

Description

本発明は、炭素繊維複合材及びその製造方法に関わる。さらに詳しくは、構造並びに繊維長の制御されたピッチ系炭素短繊維を原料に用いた炭素繊維複合材及びその製造方法に関わる。
高性能の炭素繊維はポリアクリロニトリル(PAN)を原料とするPAN系炭素繊維と、一連のピッチ類を原料とするピッチ系炭素繊維に分類できる。そして炭素繊維は強度・弾性率が通常の合成高分子に比較して著しく高いという特徴を利用し、航空・宇宙用途、建築・土木用途、スポーツ・レジャー用途などに広く用いられている。
近年、省エネルギーに代表されるエネルギーの効率的使用方法が注目されている一方で、高速化されたCPUや電子回路のジュール熱による発熱が問題になっている。これらを解決するためには、熱を効率的に処理するという、所謂サーマルマネジメントを達成する必要がある。
炭素繊維は、通常の合成高分子に比較しての熱伝導率が高いが、さらなる熱伝導の向上が検討されている。ところが、市販されているPAN系炭素繊維の熱伝導率は通常200W/(m・K)よりも小さくサーマルマネジメントの観点からは必ずしも好適であるとは言い難い。これに対して、ピッチ系炭素繊維は黒鉛化性が高いためにPAN系炭素繊維に比べて高熱伝導率を達成しやすいと認識されている。
一般に、熱伝導性充填剤として、酸化アルミニウムや窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、炭化ケイ素、石英、水酸化アルミニウムなどの金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属水酸化物などを充填したものが知られており、等方性材料である。また、金属材料系の充填材は比重が高く複合材としたときに重量が大きくなってしまう。その一方で、炭素系材料であるカーボンブラック等の球形材料は、添加量が高くなると、所謂粉落ちが発生し、特に電子機器においては、その導電性が機器に悪影響を与える。さらに、これらの材料は所謂煤の加工品であり、熱伝導率は高いとは言いがたい。これに対して、炭素繊維は比重が小さく金属材料系の充填材と同じ体積で添加した場合の複合材の重量を軽くできるというメリットがあるのみならず、その形状に異方性がある繊維状であることより、粉落ちが起こり難いというメリットもある。
次にサーマルマネジメントに用いる複合材の特徴について考察する。炭素繊維の高い熱伝導率を効果的に利用するためには、何らかのマトリクスを介在させた状態において炭素繊維がネットワークを形成していることが好ましい。ネットワークが三次元的に形成されている場合には、成形体の面内方向のみならず厚み方向に対しても炭素繊維の高い熱伝導が達成され、例えば放熱板の用途には非常に効果的であると考えられる。このような理想的な成形体を作製するには、熱伝導率が発現する熱伝導パスを上手く形成する必要がある。
また、熱伝導に着目した場合、それを達成するためには、高濃度の炭素繊維を樹脂中に分散させる必要がある。
複合材の熱伝導を高めることを主眼にした先行事例として、特許文献1には、一方向に引揃えた炭素繊維に黒鉛粉末と熱硬化性樹脂を含浸した機械的強度の高い熱伝導性成形品が開示されている。しかし、一方向に引揃えた炭素繊維での成形では、応用製品として考えられる複雑形状に追随させることは難しい。また、連続的な成形法も特殊な手法となってしまう。簡便に少量の炭素繊維の持つ熱伝導性をうまく発揮させるには、炭素繊維の形状を工夫することが望ましいと考えられる。
また、特許文献2においては、炭素繊維の物性の向上で熱伝導度等の物性を向上させることが開示されているが、成形体の使い易さや熱物性の明確な性能向上に関しては不明である。
特開平5−17593号公報 特開平2−242919号公報
上記のように、炭素繊維の高熱伝導率化という観点では開発が進みつつある。しかし、サーマルマネジメントの観点からは複合材としての熱伝導性が高くなっていることが必要とされてきた。また、熱伝導性を高くするためには、大量の熱伝導物質を添加する必要がある。
そこで、複合材の熱伝導性を最大限に発揮できるような炭素繊維の出現が強く望まれていた。また、特殊な技術ではなく汎用性の高い方法で、複合材の熱伝導性を向上させることが望まれていた。
本発明者らは、炭素繊維複合材の熱伝導率を向上せしめるためには、大量のピッチ系炭素短繊維フィラーが添加されることが必要であることを鑑み、特に添加するピッチ系炭素短繊維フィラーの繊維長が樹脂への添加量を強く左右することを見出した。その結果、形状異方性のあるピッチ系炭素短繊維フィラーを樹脂に対して高濃度で添加でき、その結果、熱伝導パスが形成され高い熱伝導性を有する炭素繊維複合材が得られることを見出し本願発明に到達した。
即ち、本発明の目的は、
真密度が1.5〜2.2g/ccの範囲であり、繊維軸方向の熱伝導率が300W/(m・K)以上であり、灰分が0.15重量%以下で、六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズが30nm以上であり、六角網面の重なり方向に由来する結晶子サイズが10nm以上である平均繊維長が20〜100μm未満のピッチ系炭素短繊維フィラーを30〜50体積%の範囲と、樹脂マトリクスを50〜70体積%の範囲で含む炭素繊維複合材であり、当該ピッチ系炭素短繊維フィラーの平均繊維径が5〜20μmであり、平均繊維径に対する繊維径分散の比の百分率が5〜20%であり、当該マトリクス樹脂が熱化塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれかよりなり、当該熱可塑性樹脂が、ポリカーボネイト類、ポリエチレンテレフタレート類、ポリエチレン2,6ナフタレート類、ナイロン類、ポリプロピレン類、ポリエチレン類、ポリエポキシエーテルケトン類、ポリフェニレンスルフィド類の群より選ばれる少なくとも一種の樹脂または、当該熱硬化性樹脂が、エポキシ類、アクリル類、ウレタン類、シリコーン類、フェノール類の群より選ばれる少なくとも一種の樹脂であり、平板状に成形した状態における熱伝導率が2W/(m・K)以上である。
そして、炭素繊維複合材を、射出成形法、プレス成形法、カレンダー成形法、ロール成形法、押出成形法、注型成形法、ブロー成形法の群より選ばれる少なくとも一種以上の手法の組み合わせによって作製する炭素繊維複合材の製造方法及び、その製造方法で作製した炭素繊維複合材を主たる材料とする電子部品用放熱板、電波遮蔽板、熱交換器である。
本発明の炭素繊維複合材は、ピッチ系炭素短繊維フィラーの繊維長と繊維構造を制御することにより種々の樹脂に対して分散性良く高濃度で添加にて製造されるものである。製造された炭素繊維複合材は、熱伝導性に優れるともに、様々な加工方法にて製造ができ、種々の熱対策分野への応用が可能となる。
次に、本発明の実施の形態について順次説明していく。
本願発明で用いられるピッチ系炭素短繊維フィラーの原料としては、例えば、ナフタレンやフェナントレンといった縮合多環炭化水素化合物、石油系ピッチや石炭系ピッチといった縮合複素環化合物等が挙げられる。その中でもナフタレンやフェナントレンといった縮合多環炭化水素化合物が好ましく、特に光学的異方性ピッチ、すなわちメソフェーズピッチが好ましい。これらは、一種を単独で用いても、二種以上を適宜組合せて用いてもよいが、メソフェーズピッチを単独で用いることがピッチ系炭素短繊維フィラーの結晶配向を制御し熱伝導性を向上させる上で特に望ましい。
原料ピッチの軟化点はメトラー法により求めることができ、260℃以上355℃以下が好ましい。軟化点が260℃より低いと、不融化の際に繊維同士の融着や大きな熱収縮が発生する。また、355℃より高いとピッチの熱分解が生じ糸状になりにくくなる。
原料ピッチは公知の方法によって紡糸することができる。連続糸或いはメルトブロー法による短繊維が一般的である。本願発明では生産性が高いという観点よりメルトブロー法で紡糸を行うことを主眼においている。メルトブロー法により紡糸されたピッチは、3次元ランダムマット状とし、その後不融化、焼成によって3次元ランダムマット状炭素繊維となる。これを粉砕し、黒鉛化することでピッチ系炭素短繊維フィラーとしている。以下各工程について説明する。
本願発明においては、ピッチ系炭素短繊維フィラーの原料となるピッチ繊維の紡糸ノズルの形状については特に制約はないが、ノズル孔の長さに対する孔径の比が2よりも小さいものが好ましく用いられ、更に好ましくは0.2よりも小さいものが用いられる。紡糸時のノズルの温度についても特に制約はなく、安定した紡糸状態が維持できる温度、即ち、紡糸ピッチの粘度が2〜25Pa・S(20〜250Poise)、好ましくは8〜17Pa・S(80〜170Poise)になる温度であればよい。
ノズル孔から出糸されたピッチ繊維は、100〜350℃に加温された毎分100〜10000mの線速度のガスを細化点近傍に吹き付けることによって短繊維化され、ピッチ繊維となる。吹き付けるガスは空気、窒素、アルゴンを用いることができるが、コストパフォーマンスの点から空気が望ましい。
ピッチ繊維は、金網ベルト上に捕集され連続的なマット状になり、さらにクロスラップされることで3次元ランダムマット状となる。
3次元ランダムマットとは、クロスラップされていることに加え、ピッチ繊維が三次元的に交絡しているマットをいう。この交絡は、ノズルから、金網ベルトに到達する間にチムニと呼ばれる筒において達成される。線状の繊維が立体的に交絡するために、通常一次元的な挙動しか示さない繊維の特性が立体においても反映されるようになる。
このようにして得られたピッチ繊維よりなる3次元ランダムマットは、公知の方法で不融化し、最終的に2000〜3500℃で焼成される。
不融化は、空気、或いはオゾン、二酸化窒素、窒素、酸素、ヨウ素、臭素を空気に添加したガスを用いて200〜350℃で達成される。安全性、利便性を考慮すると空気中で実施することが望ましい。
不融化されたピッチ繊維は、真空中、或いは窒素、アルゴン、クリプトン等の不活性ガス中で形状を維持できる程度に焼成される。低温焼成は常圧で、且つコストの安い窒素中で実施される。焼成の温度は500〜1200℃程度で実施される。これは、形状を維持できる最低限の温度での焼成により、次いで実施する粉砕工程を容易に遂行させるためである。
焼成を行った3次元ランダムマットは、公知の方法により粉砕を行う。粉砕には回転ローター式、衝突粉砕式、ジェットミル、ボールミル、ターボミル等の粉砕機を用いることができる。また平均繊維長を制御するために適切なサイズのメッシュを置き、分級しても良い。さらに、複数の方式の粉砕を適宜組合せることができる。
このように粉砕を行った炭素短繊維は、次いで黒鉛化を行う。黒鉛化温度は、炭素繊維としての熱伝導率を高くするためには、2300〜3500℃にすることが好ましい。より好ましくは2500〜3500℃である。焼成の際に黒鉛性のルツボに入れ処理すると、外部からの物理的、化学的作用を遮断でき好ましい。黒鉛製のルツボは上記の原料となる炭素短繊維を、所望の量入れることが出来るものであるならば大きさ、形状に制約はないが、黒鉛化中、または冷却中に炉内の酸化性のガス、または炭素蒸気との反応による炭素短繊維の損傷を防ぐために、フタ付きの気密性の高いものが好適に利用できる。黒鉛化は、アチソン炉等にて非酸化性雰囲気下で実施される。
本願発明で用いるピッチ系炭素短繊維フィラーは、六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズが30nm以上であることが望ましい。六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズは公知の方法によって求めることができ、X線回折法にて得られる炭素結晶の(110)面からの回折線によって求めることができる。結晶子サイズが重要になるのは、熱伝導が主としてフォノンによって担われており、フォノンを発生するのが結晶であることに由来している。より望ましくは、40nm以上であり、さらに望ましくは50nm以上である。同様に、六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズが10nm以上である。より望ましくは20nm以上であり、さらに望ましくは40nm以上である。六角網面の成長方向での結晶子サイズもフォノンのロスを低減させるために大きいことが求められる。
本願発明に用いるピッチ系炭素短繊維フィラーの真密度は、1.5〜2.2g/ccの密度を有する。より望ましい範囲は、1.9〜2.2g/ccであり、密度が高い方が樹脂への分散性が高いと考えられる。
ピッチ系炭素短繊維フィラーの平均繊維径は5〜20μmであることが好ましい。5μm未満の場合には、ピッチ繊維の形状が保持できなくなることがあり生産性が悪い。平均繊維径が20μmを超えると、不融化工程でのムラが大きくなり部分的に融着が起こったりするところが発生する。より望ましくは6〜15μmであり、さらに望ましくは7〜12μmである。平均繊維径の平均値に対する平均繊維径の分散値の百分率として求められるCV値は、5〜20%であることが望ましい。より望ましくは7〜17%の範囲である。CV値が20%を超えると不融化でトラブルを起こす繊維径20μmを超えるの繊維が増え生産性の観点より望ましくない。また、5%以下の揺らぎでピッチ繊維を作製は困難である。
ここで、CV値とは、[数1]で示される分散の平均に対する百分率である。
Figure 2008214543
本発明に用いるピッチ系炭素短繊維フィラーの長さは、20〜100μm未満である。繊維長が20μmを下回ると熱伝導パスの構築が困難になり、100μm以上になると高充填させることが困難になる。より望ましくは20〜70μmの範囲である。そして、ピッチ系炭素短繊維フィラーの添加量は樹脂に対して30〜50体積%の範囲である。30体積%未満では、成形されてなる炭素繊維複合材の熱伝導率が小さい。また、50体積%以上では、一部成形は可能であるものの、特殊な方法が必要になり、汎用性に欠けてしまう。
本発明に用いるピッチ系炭素短繊維フィラーは灰分が0.15重量%以下である。より望ましくは0.1重量%以下である。灰分は残留不純物を意味し、より少ないものが、純度が高く、熱伝導性が高いピッチ系炭素短繊維フィラーとなる。
本発明に用いるピッチ系炭素短繊維フィラーの熱伝導率は、電気比抵抗より求めることができ、繊維軸方向の熱伝導率は300W/(m・K)以上であり、より好ましくは、400W/(m・K)以上である。
本発明においてピッチ系炭素短繊維フィラーは、表面処理したのちサイジング剤をフィラーに対し0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜2.5重量%添着させてもよい。サイジング剤としては通常用いられる任意のものが使用でき、具体的にはエポキシ化合物、水溶性ポリアミド化合物、飽和ポリエステル、不飽和ポリエステル、酢酸ビニル、水、アルコール、グリコールを単独又はこれらの混合物で用いることができる。このような表面処理は、嵩真密度を高くすることを鑑みると有効である。ただ、過剰のサイジング剤の添着は、熱抵抗となるため、必要とされる物性に応じてこれを実施することができる。
さらに、ピッチ系炭素短繊維フィラーは、電解酸化などによる酸化処理やカップリング剤やサイジング剤で処理することで、表面を改質させたものを用いることもできる。また、無電解メッキ法、電解メッキ法、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングなどの物理的蒸着法、化学的蒸着法、塗装、浸漬、微細粒子を機械的に固着させるメカノケミカル法などの方法によって金属やセラミックスを表面に被覆させることもできる。
本願発明の炭素繊維複合材には、樹脂マトリックスとして熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれかを用いることができる。熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネイト類、ポリエチレンテレフタレート類、ポリエチレン2,6ナフタレート類、ナイロン類、ポリプロピレン類、ポリエチレン類、ポリエポキシエーテルケトン類、ポリフェニレンスルフィド類の群より選ばれる少なくとも一種から選定することができる。
より具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体等のエチレン−α−オレフィン共重合体、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリアセタール、フッ素樹脂(ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等)、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、スチレン−アクリロニトリル共重合体、ABS樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂、変性PPE樹脂、脂肪族ポリアミド類、芳香族ポリアミド類、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリメタクリル酸類(ポリメタクリル酸メチル等のポリメタクリル酸エステル)、ポリアクリル酸類、ポリカーボネイト、ポリフェニレンスルフィド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルニトリル、ポリエーテルケトン、ポリケトン、液晶ポリマー、アイオノマー等が挙げられる。そして、マトリクスとしては、これらから一種を単独で用いても、二種以上を適宜組合せて用いてもよく、二種以上の高分子材料からなるポリマーアロイを使用してもよい。
また、熱硬化性樹脂としては、エポキシ類、アクリル類、ウレタン類、シリコーン類、フェノール類、イミド類、熱硬化型変性PPE類、熱硬化型PPE類等が挙げられ、これらから一種を単独で用いても、二種以上を適宜組合せて用いても良い。
ここで、ピッチ系炭素短繊維フィラーは炭素繊維複合材の全体積を基準として30〜50体積%含み、樹脂マトリクスは同じく炭素繊維複合材の全体積を基準として50〜70体積%の範囲で含むことが必要である。ピッチ系炭素短繊維フィラーの割合が30体積%未満であると、十分な熱伝導率を得ることができない。一方、50体積%を超えると、複合材の機械的強度が低くなる。また樹脂的マトリックスとしては、炭素繊維複合材において、炭素繊維が上記の範囲にあるようにすればよい。なお、本発明の目的とする効果を達成するのであれば、炭素繊維複合材に20体積%以下で他の成分を含有させてもよい。
本発明の炭素繊維複合材は、ピッチ系炭素短繊維フィラーと樹脂マトリクスとを混合して作製するが、混合の際には、ニーダー、ミキサー、ブレンダー、ロール、押出機、ミリング機、自公転式の撹拌機などの混合装置又は混練装置が好適に用いられる。そして、複合成形体は、射出成形法、プレス成形法、カレンダー成形法、ロール成形法、押出製刑法、注型成形法、ブロー成形法等の成形方法にて、成形することが可能である。成形条件は、手法と樹脂マトリクスに強く依存し、熱可塑性樹脂の場合は、当該樹脂の溶融粘度より温度を上げた状態で成形を実施する。樹脂マトリクスが熱硬化性樹脂の場合は、適切な型において、当該樹脂の硬化温度を付与するといった方法を挙げることができる。
本発明の炭素繊維複合体を平板状に成形し、熱伝導率を測定すると2W/(m・K)以上の熱伝導率を示す。なお、2W/(m・K)の熱伝導率は、樹脂マトリクスに比較すると約一桁高い熱伝導率である。
本発明の熱伝導性成形体の熱伝導率は公知の方法によって測定することができるが、その中でも、プローブ法、ホットディスク法、レーザーフラッシュ法が好ましく、特にプローブ法が簡易的で好ましい。一般に炭素繊維そのものの熱伝導度は数百W/(m・K)であるが、成形体にすると、欠陥の発生・空気の混入・予期せぬ空隙の発生により、熱伝導率は急激に低減する。よって、熱伝導性成形体としての熱伝導率は実質的に1W/(m・K)を超えることが困難であるとされてきた。しかし、本発明では構造並びに平均繊維長を制御したピッチ系炭素短繊維フィラーを適切な量と適切な分散を達成することでこれを解決した。
本発明の炭素繊維複合体は、その熱伝導率の高さを利用することで、電子部品用放熱板として用いることができる。また、ピッチ系炭素短繊維フィラーの添加量を多くすることで、高い熱伝導度が得られるため、電子部品においても、比較的耐熱性が要求される自動車や大電流を必要とする産業用パワーモジュールのコネクタ等に好適に用いることができる。より具体的には、放熱板、半導体パッケージ用部品、ヒートシンク、ヒートスプレッダー、ダイパッド、プリント配線基板、冷却ファン用部品、筐体等に用いることができる。さらに、ピッチ系炭素短繊維フィラーの電波遮蔽性を利用し、特にGHz帯の電波遮蔽用部材として好適に用いることができる。
以下に実施例を示すが、本願発明はこれらに制限されるものではない。
なお、本実施例における各値は、以下の方法に従って求めた。
(1)ピッチ系炭素短繊維フィラーの平均繊維径は、黒鉛化を経た炭素短繊維の直径を光学顕微鏡下でスケールを用いて測定した。
(2)ピッチ系炭素短繊維フィラーの平均繊維長は、黒鉛化を経た炭素短繊維の長さを光学顕微鏡下でスケールを用いて測定した。
(3)熱伝導性成形体の熱伝導率は、京都電子製QTM−500を用いプローブ法で求めた。
(4)ピッチ系炭素短繊維フィラーの結晶子サイズは、X線回折に現れる(110)面、(002)面からの反射を学振法に準拠した測定で求めた。
(5)ピッチ系炭素短繊維フィラーの密度は、ガス置換法で求めた。
(6)ピッチ系炭素短繊維フィラーの灰分は、白金坩堝中に一定重量で仕込んだ検体を空気中で十分に燃焼させ残留した灰分の重量を測定することで求めた。
(7)ピッチ系炭素短繊維フィラーの熱伝導率は、粉砕工程以外を同じ条件で作製した、黒鉛化後のピッチ系炭素繊維の比抵抗を測定し、特開平11−117143号公報に開示されている熱伝導率と電気比抵抗との関係を表す下記式[数2]より求めた。
[数2]
K=1272.4/ER−49.4
ここで、Kは黒鉛化後のピッチ系炭素短繊維の熱伝導率W/(m・K)、ERは同じピッチ系炭素短繊維の電気比抵抗μΩmを表す。
[実施例1]
縮合多環炭化水素化合物よりなるピッチを主原料とした。光学的異方性割合は100%、軟化点が270℃であった。直径0.2mmφの孔のキャップを使用し、スリットから加熱空気を毎分5500mの線速度で噴出させて、溶融ピッチを牽引して平均繊維径11.0μmのピッチ繊維を作製した。紡出された繊維をベルト上に捕集してマットとし、さらにクロスラッピングで目付320g/mのピッチ繊維からなる3次元ランダムマットとした。
この3次元ランダムマットを空気中で170℃から350℃まで平均昇温速度6℃/分で昇温して不融化を行った。不融化した3次元ランダムマットを800℃で焼成した。焼成後の3次元ランダムマットを粉砕し炭素短繊維とし、3000℃で黒鉛化した。ピッチ系炭素短繊維フィラーの平均繊維径は8.3μm、平均繊維径に対する繊維径分散の比は12%であった。平均繊維長は50μmであった。六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズは70nmであった。六角網面の重なり方向に由来する結晶子サイズは45nmであった。密度は2.21g/ccであった。灰分は0.1重量%以下であった。電気比抵抗は1.9μΩmであり、熱伝導率は620W/(m・K)であった。
樹脂マトリクスとして、東レダウコーニング社製のSE1740を用いた。ピッチ系炭素短繊維フィラーとシリコーン樹脂成分の主剤とをパドル型縦型混練装置で攪拌し、さらに硬化剤を添加し50体積%の炭素短繊維を含有する混合物を作成した。
キャリアフィルムとして、120μmのPCフィルムを用い、1.5mmの押出スリットから混合物をコーターでキャリアフィルム上に押出した。次いで120μmのPCフィルムをカバーフィルムとして貼合した。次いでクリアランスが1mmのロールを通過させ、さらにクリアランスが0.5mmのロールを通過させ圧縮工程とした。その後、硬化ゾーンとして熱風型の乾燥機で130℃60分の熱処理し、熱硬化工程とした。
このようにして作製された板状炭素繊維複合体の熱伝導率は2.3W/(m・K)であった。
[実施例2]
粉砕工程を除く他の工程を実施例1と同じとし、粉砕工程で平均繊維長を長くするようなメッシュを使用し炭素短繊維を作製した。平均繊維長は70μmであった。
樹脂マトリクスとして、ポリカーボネイトを用い、ニーダーで45体積%のピッチ系炭素短繊維フィラーとの混合物を作製した。この混合物を射出成形機で2mm厚の成形板に成形した。
このようにして作製された炭素繊維複合体の熱伝導率は、2.1W/(m・K)であった。
[比較例1]
粉砕工程を除く他の工程を実施例1と同じとし、粉砕工程で平均繊維長を短くするようなメッシュを使用し炭素短繊維を作製した。平均繊維長は200μmであった。
樹脂マトリクスとして実施例1と同じシリコーン樹脂を用いたが、30体積%の添加を超えたところで、十分な混練ができなくなり、シート化ができるものの、凹凸の無い板状に加工することができなかった。
[比較例2]
粉砕工程を除く他の工程を実施例1と同じとし、粉砕工程で平均繊維長を短くするようなメッシュを使用し炭素短繊維を作製した。平均繊維長は10μmであった。
樹脂マトリクスとして、ポリカーボネイトを用い、ニーダーで50体積%のピッチ系炭素短繊維フィラーとの混合物を作製した。この混合物を射出成形機で2mm厚の成形板に成形した。
このようにして作製された炭素繊維複合体の熱伝導率は、1.5W/(m・K)であった。
[実施例3]
実施例2で作製した、平板状の複合成形体の上に70℃に加熱した分銅を乗せ、熱伝導性シートとした。熱伝導性は、ピッチ系炭素短繊維フィラーを添加しないポリカーボネイトに比べて高かった。放熱部材として機能していることがわかった。
[実施例4]
実施例2で作製した、平板状の複合成形体の電波遮蔽性は、ピッチ系炭素短繊維フィラーを添加しないポリカーボネイトに比べて高かった。放熱部材として機能していることがわかった。

Claims (9)

  1. 真密度が1.5〜2.2g/ccの範囲であり、繊維軸方向の熱伝導率が300W/(m・K)以上であり、灰分が0.15重量%以下で、六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズが30nm以上であり、六角網面の重なり方向に由来する結晶子サイズが10nm以上である平均繊維長が20〜100μm未満のピッチ系炭素短繊維フィラーを30〜50体積%の範囲と、樹脂マトリクスを50〜70体積%の範囲で含む炭素繊維複合材。
  2. 当該ピッチ系炭素短繊維フィラーの平均繊維径が5〜20μmであり、平均繊維径に対する繊維径分散の比の百分率が5〜20%である請求項1記載の炭素繊維複合材。
  3. 当該樹脂マトリクスが熱化塑性樹脂及び/または熱硬化性樹脂よりなる請求項1または2に記載の炭素繊維複合材。
  4. 当該熱可塑性樹脂が、ポリカーボネイト類、ポリエチレンテレフタレート類、ポリエチレン2,6ナフタレート類、ナイロン類、ポリプロピレン類、ポリエチレン類、ポリエポキシエーテルケトン類、ポリフェニレンスルフィド類の群より選ばれる少なくとも一種の樹脂である、請求項3に記載の炭素繊維複合材。
  5. 当該熱硬化性樹脂が、エポキシ類、アクリル類、ウレタン類、シリコーン類、フェノール類の群より選ばれる少なくとも一種の樹脂である、請求項3に記載の炭素繊維複合材。
  6. 平板状に成形した状態における熱伝導率が2W/(m・K)以上である、請求項1〜5のいずれかに記載の炭素繊維複合材。
  7. 請求項1〜6のいずれかに記載の炭素繊維複合材を、射出成形法、プレス成形法、カレンダー成形法、ロール成形法、押出成形法、注型成形法、ブロー成形法の群より選ばれる少なくとも一種以上の手法の組み合わせによって作製する炭素繊維複合材の製造方法。
  8. 請求項7に記載の製造方法によって得られた炭素繊維複合材を主たる材料とする電子部品用放熱板。
  9. 請求項7に記載の製造方法によって得られた炭素繊維複合材を主たる材料とする電波遮蔽板。
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