以下では、上述した本願発明の内容を明確にするために、次のような順序に従って実施例を説明する。
A.装置構成:
A−1.液体噴射装置の構成:
A−2.インク吐出ヘッドの構造:
A−3.クリーニング動作の概要:
B.本実施例のインク取込部:
B−1.インク取込部の構造:
B−2.印字可能な状態を保つ原理:
C.変形例:
C−1.第1の変形例:
C−2.第2の変形例:
C−3.第3の変形例:
C−4.第4の変形例:
A.装置構成 :
A−1.液体噴射装置の構成 :
図1は、いわゆるインクジェットプリンタを例に用いて本実施例の液体噴射装置の大まかな構成を示した説明図である。図示されているように、インクジェットプリンタ10は、主走査方向に往復動しながら印刷媒体2上にインクドットを形成するキャリッジ20と、キャリッジ20を往復動させる駆動機構30と、印刷媒体2の紙送りを行うためのプラテンローラ40と、正常に印刷可能なようにメンテナンスを行うメンテナンス機構50などから構成されている。キャリッジ20には、インクを収容したインクカートリッジ26や、インクカートリッジ26が装着されるキャリッジケース22、キャリッジケース22の底面側(印刷媒体2に向いた側)に搭載されてインク滴を吐出するインク吐出ヘッド24などが設けられており、インクカートリッジ26内のインクがインク吐出ヘッド24からインク滴として吐出されて、印刷媒体2上にインクドットが形成されるようになっている。
キャリッジ20を往復動させる駆動機構30は、主走査方向に延設されたガイドレール38と、内側に複数の歯形が形成されたタイミングベルト32と、タイミングベルト32の歯形と噛み合う駆動プーリ34と、駆動プーリ34を駆動するためのステップモータ36などから構成されている。タイミングベルト32は一箇所でキャリッジケース22に固定されており、タイミングベルト32を駆動することによって、ガイドレール38に沿ってキャリッジケース22を移動させることができる。また、タイミングベルト32と駆動プーリ34とは歯形によって互いに噛み合っているので、ステップモータ36で駆動プーリ34を駆動すると、駆動量に応じて精度良くキャリッジケース22を移動させることが可能となっている。
印刷媒体2の紙送りを行うプラテンローラ40は、図示しない駆動モータやギア機構によって駆動されて、印刷媒体2を副走査方向に所定量ずつ紙送りすることが可能である。また、メンテナンス機構50は、ホームポジションと呼ばれる印字領域外に設けられており、インク吐出ヘッド24の表面を払拭するワイパーブレード52や、インク吐出ヘッド24に押しつけられてインク吐出ヘッド24との間に密閉空間を形成するキャップ部54、キャップ部54の密閉空間に接続された吸引ポンプ56などから構成されている。印刷を行わないときには、キャリッジ20をホームポジションまで移動させて、ワイパーブレード52でインク吐出ヘッド24の表面を払拭するとともに、キャップ部54を押しつけてインク吐出ヘッド24の表面に密閉空間を形成することによって、インクの乾きを防止する。そして、必要に応じて(あるいは定期的に)吸引ポンプ56を作動させて密閉空間を負圧にすることにより、インク吐出ヘッド24からインクを吸い出す動作(クリーニング動作)を行う。詳細には後述するが、必要に応じて(あるいは定期的に)クリーニング動作を行うことにより、正常な印字状態を保つことが可能となる。
A−2.インク吐出ヘッドの構造 :
図2は、キャリッジ20に搭載されたインク吐出ヘッド24の構造を示す分解斜視図である。図示されるようにインク吐出ヘッド24は、硬質樹脂によって形成された基台240の下面側に、回路基板242と、硬質樹脂製のヘッドベース244と、流路ユニット246と、ステンレス製の薄板によって形成されたヘッドカバー248とが、取付ネジ249によって共締めされて構成されている。尚、図示が煩雑となることを避けるために、図2では、シール用の部材については表示を省略している。
このうちの流路ユニット246には、複数本の微細なインク流路が形成されており、流路ユニット246の下面側にはインク滴を吐出する微細なノズルが、インク流路毎に設けられている。また、それぞれのインク流路には、インクを加圧してノズルからインク滴を吐出するための圧力室も形成されている。流路ユニット246の詳細な構造については後ほど別図を用いて後述するが、圧力室の上面側は弾性変形可能に構成されており、圧電素子を用いて圧力室の上面側を変形させることによって、圧力室内のインクを加圧するようになっている。
回路基板242には圧電素子アセンブリ242pが組み込まれており、この圧電素子アセンブリ242pの先端には、圧力室を変形させてインクを加圧するための圧電素子が取り付けられている。周知のように圧電素子は、電圧を加えると高い応答速度で伸縮する特性を有しており、この特性を利用することで、圧力室内のインクを高い応答速度で加圧して微細なインク滴を吐出することが可能となっている。圧電素子アセンブリ242pの詳細な構造については、別図を用いて後述する。また、回路基板242には、圧電素子を駆動する電気回路や、回路を構成する各種の電子部品なども搭載されている。
ヘッドベース244には、細長い貫通穴244gが設けられており、回路基板242とヘッドベース244とを組み付けると、回路基板242に組み付けられた圧電素子アセンブリ242pが、この貫通穴244gに収容されて、圧電素子アセンブリ242pの先端に設けられた圧電素子が、流路ユニット246の圧力室の上面に当接するようになっている。また、ヘッドベース244に設けられた貫通穴244gは、圧電素子が圧力室の上面の適切な位置に適切な角度で当接するように圧電素子アセンブリ242pを位置決めする機能も有している。
基台240には、インクカートリッジ26からインクを取り込むためのインク取込部241が設けられている。インクカートリッジ26をキャリッジケース22に装着すると、カートリッジ内のインクがインク取込部241から取り込めるようになっている。基台240の内部には、インク取込部241から下面に貫通するインクの通路が設けられており、インク取込部241から流入したインクは、この通路を通って基台240の下面側の開口部から流出する。
基台240の直ぐ下方に組み付けられる回路基板242には、基台240内のインクの通路が下面側で開口する位置に、インク通過穴242hが設けられている。また、この回路基板242の直ぐ下方に組み付けられるヘッドベース244にも、インクが通過するインク通路244hが設けられている。このため、インクカートリッジ26を基台240に装着すると、インクカートリッジ26の内部のインクがインク取込部241から取り込まれて、基台240内部に設けられたインクの通路を通過した後、インク通過穴242h、インク通路244hを通って、流路ユニット246に供給されるようになっている。
図3は、インク取込部241から取り込まれたインクが、基台240およびヘッドベース244を経由して、流路ユニット246に供給される様子を概念的に示した説明図である。図中に示した太い実線は、基台240内を通過するインクの流路を概念的に表している。また、太い一点鎖線は、ヘッドベース244内を通過するインクの流路を概念的に表している。このように、インク取込部241から取り込まれたインクは、それぞれのインク通路を通って流路ユニット246に供給され、流路ユニット246内で、各ノズルに分配される。以下では、流路ユニット246の構造と、流路ユニット246内で各ノズルにインクが供給される様子について説明する。
図4は、流路ユニット246の構造を示した分解組立図である。流路ユニット246は、シリコン製のキャビティ246sの上面側および下面側に、それぞれ弾性フィルム製のシート246uと、ステンレス製のノズルプレート246nとを、エポキシ樹脂系の接着剤で積層した構造となっている。キャビティ246sには、大きな共通インク室246gと、ノズル毎に設けられた微細な圧力室、更に共通インク室246gとそれぞれの圧力室とを繋ぐ溝などが、エッチング加工によって形成されている。そして、上面側および下面側にシート246uとノズルプレート246nとを積層することで、共通インク室246gからノズル毎の圧力室へとインクを供給するインク通路が形成されるようになっている。
シート246uは、ステンレス製の薄い金属泊に、弾性フィルムをラミネート加工で接着することによって形成されている。図4では、ステンレス製の薄膜の部分を、斜線を付すことによって表示している。また、シート246uには、ヘッドベース244からインクが供給される箇所に連通孔246hが設けられており、ヘッドベース244を通過したインクは、連通孔246hからキャビティ246sの共通インク室246gに流入した後、共通インク室246gから、それぞれの圧力室に供給されるようになっている。また、ノズルプレート246nには、各圧力室に対応する位置に1つずつノズル穴が形成されており、このノズル穴からインク滴が吐出される。
図5は、流路ユニット246内で共通インク室246gから、それぞれの圧力室246pにインクが供給される通路の形状を示した説明図である。図5(a)には、共通インク室246gおよび圧力室246pの部分で流路ユニット246の断面を取った拡大図が示されている。また、図5(b)には、流路ユニット246内に圧力室246pが形成されている様子が、斜視図によって示されている。図示されているように、圧力室246pは、共通インク室246gと連通しており、共通インク室246gに供給されたインクは、圧力室246pに流入するようになっている。また、圧力室246pの上流側(共通インク室246gに接続している側)には突起246tが設けられており、この部分でインクの流路が一旦、狭められて流路抵抗の高い部分が設けられている。更に、圧力室246pの底面(ノズルプレート246n)には、インク滴を吐出するためのノズル246zが、各圧力室246pに1つずつ設けられている。
以上に説明したように、本実施例のインクジェットプリンタ10では、キャリッジケース22にインクカートリッジ26を装着すると、インクカートリッジ26内のインクが、インク取込部241を介してインク吐出ヘッド24内に取り込まれ、基台240およびヘッドベース244を通過して、流路ユニット246内の共通インク室246gに流入する。そして、共通インク室246gから圧力室246pに流入して、それぞれの圧力室246pがインクで満たされるようになっている。このように圧力室246pがインクで満たされた状態で、圧力室246pの上面側を押圧すると、圧力室246p内のインクが加圧されて、ノズル246zからインク滴として吐出される。
本実施例のインクジェットプリンタ10では、圧電素子アセンブリ242pに組み込まれた圧電素子を用いて圧力室246pの上面を押圧しており、この圧電素子アセンブリ242pは、図2に示したように、回路基板242に搭載されている。このように、圧力室246pが形成されている流路ユニット246と、圧電素子が組み込まれている回路基板242とが別部品として構成されていることから、流路ユニット246および圧電素子アセンブリ242pは、ヘッドベース244によって互いに位置決めされた状態で組み付けられるようになっている。しかし、それでも、圧電素子が押圧する位置が、設計上の押圧位置から若干ずれてしまうことも生じ得る。そこで、シート246uには、圧力室246pのほぼ中央にある設計上の押圧位置に、ステンレス製の金属薄膜が設けられている。尚、この金属薄膜の部分は、島246iと呼ばれることがある。前述したように、シート246u自体は弾性フィルムによって形成されているが、島246iの部分は弾性フィルムよりも固いので、圧電素子の押圧位置が多少ずれたとしても、島246i全体で圧力室246pを押圧することになる。その結果、位置ずれによる圧力室246pの変形量の違い、延いてはインク吐出量の違いを吸収することが可能となっている。
尚、以上の説明では、圧力室246p内のインクを加圧する手法として、圧電素子を用いて圧力室246pを変形させる手法を用いた場合について説明した。しかし、圧力室246p内のインクを加圧することが可能であれば、どのような方法を用いても良く、例えば、圧力室内の一部に発熱体を組み込んでおき、発熱体を発熱させることによって、圧力室内のインクを加圧することも可能である。
最後に、インクを収容したインクカートリッジ26について簡単に説明しておく。図6は、本実施例のインクジェットプリンタ10で用いられるインクカートリッジ26の外観形状を示した斜視図である。図示されるように、インクカートリッジ26は略長方形に形成された箱形の容器であり、底面には、取付孔26hが設けられている。工場からの出荷時には、取付孔26hはフィルムによって封止されており、カートリッジ内のインクが外気に触れないようになっている。そして、インクカートリッジ26をキャリッジケース22に装着すると、取付孔26hを封止していたフィルムを破って、インク取込部241と取付孔26hとが接続され、インクカートリッジ26内のインクがインク吐出ヘッド24側に供給されるようになっている。また、インクカートリッジ26のインクが空になった場合には、インクカートリッジ26ごと、新たなものに交換すればよい。
もっとも、インクカートリッジ26を交換する際に、インク取込部241から空気が混入することがある。また、印刷時にキャリッジ20が往復動することによる振動などにより、インクカートリッジ26の装着後にも、少しずつ空気が混入することがある。そして、図2ないし図5を用いて説明したように、インク吐出ヘッド24の内部は極めて微細な構造となっているので、例えば、気泡で共通インク室246g内が塞がれてしまうと、それより先の圧力室246pにはインクが供給されず、インク滴が吐出できなくなってしまうという不具合が発生する。あるいは、圧力室246pに気泡が発生すると、圧電素子で押圧しても気泡が縮むだけでインクは加圧されず、その圧力室246pのノズルNzからはインク滴が吐出できなくなってしまうという不具合が発生する。そこで、こうした問題の発生を回避するために、定期的に、あるいは必要に応じて、インクと一緒に気泡をノズルNzから強制的に排出させるクリーニング動作が行われる。
A−3.クリーニング動作の概要 :
クリーニング動作は、キャリッジ20をホームポジションまで移動させた状態で行われる。図1を用いて説明したように、印刷を行わないときには、印字領域の外側に設けられたホームポジションにキャリッジ20を退避させておき、ホームポジションに設けられたキャップ部54でインク吐出ヘッド24のノズル面を封止して、インクの乾きを防止するようになっている。また、印字領域とホームポジションとの間にはワイパーブレード52が設けられており、キャリッジ20をホームポジションに退避させる際には、インク吐出ヘッド24のノズル面に付着した異物や余分なインクなどを、ワイパーブレード52で拭い取るようになっている。
図7は、インク吐出ヘッド24のノズル面をキャップ部54で封止した状態を概念的に表した説明図である。キャップ部54は、図示しないアクチュエータによって上下方向に移動可能に構成されており、キャリッジ20をホームポジションに退避させた後、キャップ部54をノズル面に押しつけると、インク吐出ヘッド24のノズル面とキャップ部54との間に密閉された空間が形成される。これにより、インクの乾きを防止することが可能となっている。
また、キャップ部54の下方には吸引ポンプ56が設けられており、吸引ポンプ56の吸い込み口がキャップ部54の内側に開口している。このため、キャップ部54を押しつけた状態で吸引ポンプ56を作動させると、インク吐出ヘッド24のノズル面とキャップ部54との間に形成された空間が負圧となり、ノズル246zからインクが吸い出されて、通常の印刷では生じないような速いインクの流れが発生する。インクに混入した気泡がインク通路の何処かに引っ掛かっている場合でも、このインクの流れに押し流されるようにして、ノズル246zから排出することが可能となる。クリーニング動作では、このようにして、インクを勢いよく吸い出すことにより、インク取込部241からノズル246zまでのインク通路に混入している気泡をインクとともに排出する。
こうしたクリーニング動作を定期的に行うことによって印刷可能な状態を保つことが可能であるが、その一方で、クリーニング動作は多量のインクを消費する為、クリーニング動作を行う頻度はできるだけ低い方が好ましい。すなわち、多少の気泡が混入した程度では印刷に支障がでないようにすることで、クリーニング動作を頻繁に行う必要がないようにすることが望ましい。そこで、本実施例のインクジェットプリンタでは、こうしたことを実現するために、インク取込部を次のような構造としている。
B.本実施例のインク取込部 :
B−1.インク取込部の構造 :
図8は、本実施例のインク取込部241の構造を示す説明図である。図8(a)には、インク取込部241の中心軸上で取った断面図が示されている。また、図8(b)には、インク取込部241が斜視図によって示されている。図示されているようにインク取込部241の外観は、大まかには円柱の下側が円錐形に拡大したような形状をしている。
インク取込部241の上端には、インクカートリッジ26からインクを取り込むための小さなインク取込口241iが設けられており、そこから続くインク取込部241の内側には、暫くの間、断面積がほぼ同一の直管部241sが形成され、次いで、断面積が次第に拡大する拡径部241eが形成されている。そして、図8(a)に示すように、インク取込部241は、拡径部241eの開口した端面で、フィルタ240fを介して基台240に取り付けられている。尚、このフィルタ240fは、インクカートリッジ26から供給されるインク中の異物を取り除くために設けられており、前述したように、流路ユニット246の内部は非常に微細なインク通路が形成されていることから、この通路を詰まらせるような異物は全て除去することができるように、フィルタ240fは、たいへんに目の細かいフィルタが用いられている。
また、図8(b)に示されている様に、円筒状に形成された気泡捕捉部材241bがフィルタ240fに設置されている。尚、図8(c)は、図8(a)中のA−A位置で断面を取った断面図が示されている。図示されているように、気泡捕捉部材241bは、直管部241sの下方に設けられているので、直管部241sを下方に向かって流れてきた気泡を、気泡捕捉部材241bの内側に捕捉することが可能となっている。本実施例のインク取込部241では、このようにして気泡を捕捉することで、気泡がインク内に混入したとしても、印字可能な状態を保つことを可能としている。
B−2.印字可能な状態を保つ原理 :
以下では、気泡捕捉部材によって印字可能な状態を保つことが可能となる原理を説明するが、そのための準備として、まず、気泡捕捉部材を持たない通常のインク取込部の場合において、混入した気泡によって印字不能となる様子を説明する。
図9は、気泡捕捉部材を持たない通常のインク取込部900において、混入した気泡が原因で印字不能となる様子を概念的に示した説明図である。図9(a)には、印刷を開始する前の状態において、インク取込部の上端部に気泡が溜まっている様子が示されている。気泡がインク中に混入する要因は、前述した様に、インクカートリッジを取り替える際の混入や、キャリッジが移動する際の振動による混入、あるいは、インク取込部の部材を気体分子が透過して進入することによる混入など、様々な要因が存在している。こうした要因によってインク内に混入する気泡は、通常、比較的小さな気泡である。しかし、インク中に混入した気泡は、気泡に働く浮力によってインク取込部の上端部分に集まり、時間の経過と共に気泡同士が合体し、やがて大きな気泡へと成長していく。したがって、図9(a)の様に、インク取込部の上端に大きな気泡が発生し得る。
図9(b)は、図9(a)の状態から印刷を開始したときのインク取込部の内部の様子を示した説明図である。図中に示した矢印はインクの流れを表している。印刷を開始すると、ノズル246zからインク滴が吐出されるのに伴って、吐出されたインク量に相当するゆっくりとしたインクの流れがインク取込口の内部に生じる。直管部241sから拡径部241eに入ってインク通路の断面積が次第に大きくなると、それに合わせて、インクの流れはほぼ断面に一様に広がり、断面の拡大とともに流速が低下した状態でフィルタ240fを通過していく。インク取込部の上端に溜まった気泡は、このインクの流れに乗って、フィルタ240fに向かってゆっくりと移動していき、やがて、フィルタ240fに到達する。しかし、気泡はフィルタ240fを通過することはできず、フィルタ240上に留まっている。これは、次の様な理由によると考えられている。
気泡の表面は、空気を主成分とする気体と、液体であるインクとが接触した不連続な状態となっている。このような不連続面は、界面と呼ばれている。液体の分子にとっては、界面で気体と接触している状態よりは、同じ液体分子に取り囲まれている状態の方が安定であり、従って、液体は、できるだけ安定な部分が大きくなるように、還元すれば、界面の表面積が小さくなるように変形する。その結果、何らかの外力を受けない限りは、インク中の気泡は球形となる。このような現象は、界面に一種のエネルギ(表面エネルギ)が蓄えられており、気泡は表面エネルギができるだけ小さくなる形状をとると考えることもできる。また、外力が作用する気泡は変形するが、変形による気泡の表面積が増加したことによる表面エネルギの増加は、外力から受けた仕事に対応している。
ここで、前述したように、フィルタ240fは、流路ユニット246内に形成された微細なインクの通路に異物が詰まることの無いように、極めて細かい目のフィルタが用いられている。従って、気泡がフィルタ240fを通過するためには、細かい目を通過し得る程度の大きさ(代表的には20μm前後)まで小さくならなければならず、このことは、気泡の表面エネルギを大幅に増加させなければならないことを意味している。しかし、印刷中はインクの流れが遅いので、気泡をフィルタ240fに押しつける力も小さく、このため気泡がフィルタ240fを通過することはない。
この様に、気泡はフィルタ240fを通過することはできないのであるが、インクの流れによって気泡はフィルタ240fに押し付けられるため、気泡はフィルタ240f上を覆うように広がっていく。図9(c)は、こうして気泡がフィルタ240fを完全に覆った様子を示している。図9(c)の状態のように、フィルタ240fが気泡によって完全に覆われてしまうと、インクがフィルタ240fを通過することができなくなる。その結果、吐出ノズル246zへインクが供給されなくなり、結果として、印刷不能となってしまう。
以上に説明した様に、通常のインク取込口900では、気泡によってフィルタが覆われてしまうことでインクの流れが遮断され、印刷不能となってしまう。これに対し、本実施例のインク取込口241では、気泡捕捉部材によって気泡を捕捉することで、印刷可能な状態を保つことを可能としている。
図10は、本実施例のインク取込口241において、印刷可能な状態が保たれる様子を示した説明図である。前述した様に、印刷前の状態では、図10(a)に示される様に、インク取込口の上端部分に気泡が溜まっている。この状態から印刷を開始すると、図10(b)に示される様に、気泡はインクの流れに乗って、直管部241sをゆっくりと降下してくる。すると、直管部241sの下方には気泡捕捉部材241bが備えられているので、気泡は、気泡捕捉部材241bの内部に捕捉される。(図10(c)参照)。
捕捉された気泡は、周囲を気泡捕捉部材241bに取り囲まれているので、インクの流れに押し付けられてフィルタ240f上に広がってしまうことがない。これにより、気泡捕捉部材241bの周囲にインクの経路(図10(c)中「経路」と表記)が確保されるので、インクの供給が止まってしまうことがなく、印字可能な状態を維持することが可能となる。
この様に、本実施例のインク取込部241では、インクの流れに乗って移動してくる気泡を捕捉してフィルタ上の一部分に閉じ込めておくことによって、フィルタ全面を気泡が覆ってしまうことを回避し、インクの流路を確保している。こうすれば、クリーニング動作をしなくとも印刷可能な状態を維持することが可能となる。また、気泡が成長して気泡捕捉部材で捕捉しきれない大きさになった場合であっても、気泡捕捉部材から溢れ出す気泡が少量の間は、依然としてインク経路を確保することができ、印刷可能な状態が保たれる。もちろん、気泡がさらに大きく成長すれば、いずれはクリーニング動作が必要となるが、それまでの間はクリーニング動作を行う必要がないので、結果として、クリーニング動作を行う頻度を大幅に下げることが可能となっている。
また、印刷時には、キャリッジ20が高速で移動するのに伴って、振動によって気泡捕捉部材241bから気泡が飛び出してしまう事態も考えられ得る。しかし、その場合でも、大部分の気泡は、インクの流れによって押し付けられて気泡捕捉部材241bの中に捕捉されたままの状態で保たれている。この為、印刷中にキャリッジ20が高速で移動する場合であっても、印字可能な状態を確実に保つことが可能となっている。
尚、本実施例では、インク取込部241とインクカートリッジ26とが直接接続されているものとして説明したが、インク取込部241にインクカートリッジ26が直接接続されていなくてもよく、例えば、インク取込部241に液体搬送チューブを接続し、その先にインクカートリッジを接続するものとしてもよい。あるいは、印刷装置10の外部に大容量のインクタンクを用意しておき、そこから液体搬送チューブを介してインク取込部241へとインクを導くものとしてもよい。こうした場合であっても、チューブの取り付け時に混入する気泡や、チューブの接続部から混入してくる気泡を気泡捕捉部材241bで捕捉することによって、印字可能な状態を保つことが可能となっている。
以上に説明した様に、本実施例のインク取込部241では、気泡を捕捉することによって印刷可能な状態を保つことを可能としているが、こうした効果に加えて、クリーニング動作の際に、気泡を効率良く排出することも可能となっている。
図11は、本実施例のインク取込部241において、クリーニング動作によって気泡が排出される様子を概念的に示した説明図である。先に説明した様に、クリーニング動作中はインクが勢い良く流れるので、直管部241sから拡径部241eに入った部分で、インクの流れが通路断面積の拡大に追従することができず、この為、図11に示される様に、気泡捕捉部材241bの内側は、気泡捕捉部材241bの外側よりもインクの流速が速くなっている。直管部241sの気泡は、この流速の速いインクの流れによって気泡捕捉部材241bに捕捉され、フィルタ240fに強く押し付けられる。この様に、本実施例のインク取込部では、インク流速の速い領域に気泡を捕捉しておくことによって気泡を強い力でフィルタに押し付けることができるので、フィルタ上に気泡が残ってしまうことがなく、気泡をほぼ完全に排出することが可能となっている。
参考として、気泡捕捉部材241bが設けられていない通常のインク取込部900でクリーニング動作を行った場合について、簡単に説明しておく。図12には、通常のインク取込部900におけるクリーニング動作の際の気泡の挙動が示されている。図12(a)に示される様に、インクの流れによってフィルタ240fに押し付けられた気泡は、フィルタ上に広がる。そして、インク流速の速い領域では、一部の気泡はフィルタ240fに強く押し付けられフィルタ240fを通過するが、一部の気泡は周辺の流速の遅い領域に移動する。そして、流速の遅い領域では、気泡をフィルタ240fに押し付ける力が弱いので、気泡が排出されずに残ってしまう(図12(b)参照)。
この様に、クリーニング動作を行っても気泡が残ってしまう通常のインク取込部900に対し、本実施例のインク取込部241では、前述した様に、ほぼ完全に気泡を排出することが可能になっている。このため、1回クリーニング動作を行っておけば、再び気泡が大きく成長するまでのかなりの長い期間クリーニング動作を行う必要が無いので、クリーニング動作の頻度を少なくすることが可能となっている。
C.変形例 :
上述した本実施例のインク取込部241には、種々の変形例が存在している。以下では、これら変形例について簡単に説明する。
C−1.第1の変形例 :
上述した実施例では、気泡捕捉部材241bは、円筒型の形状であるもとのとして説明した。しかし、図13(a)に図示されている様に、直管部に向かって口を広げたすり鉢形状のものであってもよい。こうすると、直管部から降下してきた気泡が多少横に逸れても口の中に納まるので、気泡をより確実に捕捉することが可能となる。また、クリーニング動作時には、図13(b)に示される様に、インクの流れが周辺に広がるのを抑制し、気泡をより強い力でフィルタに押し付けることができるので、より効率的に気泡を排出することが可能となる。
C−2.第2の変形例 :
上述した実施例では、気泡捕捉部材241bは、フィルタ240fの上に接着あるいは溶着などにより固定されているものとして説明した。しかし、気泡捕捉部材241bを嵌め込みリブとして形成し、インク取込部の本体241aに嵌め込んで固定するものとしてもよい。
図14は、気泡捕捉部材241bが嵌め込みリブとして形成された第2の変形例のインク取込部241を概念的に示した説明図である。図示した例では、インク取込部本体241aに、嵌め込みリブとして形成された気泡捕捉部材241bを嵌め込んだ後、フィルタ240fを介して、基台240に取り付けている。図14(a)には、気泡捕捉部材241bをインク取込部241に組み付けた後、基台240に取り付ける様子が概念的に示されている。また、図14(b)には、嵌め込みリブとして形成された気泡捕捉部材241bの外観形状が例示されている。
このように、気泡捕捉部材241bをインク取込部241に嵌め込んで固定するものとすれば、直管部241aに対して気泡捕捉部材241bを精度良く配置することができる。これによって、直管部241aから降下してくる気泡をより確実に捕捉することが可能となる。また、気泡捕捉部材241bはインク取込部本体241aによって支えられるため、クリーニング動作による急激なインクの流れや、キャリッジ20の移動に伴う振動が発生したとしても、気泡捕捉部材241bが外れ落ちてしまうことはない。更に、リブが組み込まれることによってインク取込部241の強度が確保されるので、基台240に組み込む際やインクカートリッジ26の着脱の際にインク取込部241を破損してしまう事態を未然に回避することが可能となる。
C−3.第3の変形例 :
また、上述した各種の実施例では、インク取込部241は、フィルタ240fのほぼ中央位置に取り付けられているものとして説明した。しかし、インク取込部241はフィルタ240fに対して偏心させて取り付けてもよい。
図15は、フィルタ240fに対して偏心させた状態でインク取込部241が取り付けられている様子を示した説明図である。図15(a)には、インク取込部241の対称面で取った断面形状が示されており、図15(b)には、図15(a)中のB−B位置で取った断面形状が示されている。このように、フィルタ240fに対してインク取込部241が偏心した状態で取り付けられている場合であっても、直管部241sの下方に気泡捕捉部材241bを設けておけば、直管部241sを降下してくる気泡を捕捉してインクの経路を確保することが可能となる。
また、この様な偏心した形状の場合、クリーニング動作時には、偏心方向と反対側にインク流速の遅い領域が広い範囲に亘って形成される。そして、仮に気泡捕捉部材241bがなければ、クリーニング動作の際に気泡がこの領域に逃げ込んでしまい、排出されずに残ってしまう。これに対して、インク取込部241内に気泡捕捉部材241bを設けておけば、気泡がインク流速の遅い領域に移動することを防ぐことができるので、クリーニング動作によって効率よく気泡を排出することが可能となる。
C−4.第4の変形例 :
上述した実施例では、円筒状の気泡捕捉部材によって気泡を捕捉するものとして説明した。しかし、気泡を捕捉してインク経路を確保できるのであれば、気泡捕捉部材は円筒形状に限られず、様々な形状を取ることが可能である。
図16は、板状の気泡捕捉部材241bが設置された変形例のインク取込部241を示した説明図である。図16(a)には、インク取込部241の対称面で取った断面形状が示されており、図16(b)には、図16(a)中のC−C位置で取った断面形状が示されている。図示されているように、このインク取込部241では、板状の気泡捕捉部材241bによって拡径部241eが2つに分けられている。この場合、直管部241sを降下してくる気泡は、図中の左側に捕捉される。すると、図中右側にインクの経路が確保されるので、印刷可能な状態を維持することが可能となる。また、このインク取込部241では、気泡を捕捉する部分を広く取ることができるので、気泡が大きく成長した場合であっても、インクの経路を確保することが可能となっている。
また、上述した実施例では、気泡捕捉部材の内側に気泡を捕捉するものとして説明したが、気泡捕捉部材の外側に気泡を捕捉するものとしてもよい。図17には、こうした変形例のインク取込部241が例示されている。図示されている様に、気泡捕捉部材241bは直管部241aからずれた位置に設置されているので、気泡は、気泡捕捉部材241bの外側とインク取込部本体241aとの間に捕捉される(図17(b)参照)。そして、気泡捕捉部材241bの内側にはインクの経路が確保される。こうすれば、気泡がフィルタをほぼ覆ってしまう様な大きさに成長した場合であっても、気泡捕捉部材241bの内側にはインク経路が確保されるので、印刷可能な状態を維持することが可能となる。
以上、本実施例の印刷装置について説明したが、本発明は上記すべての実施例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。