JP2008200684A - 軸部材のスプライン形成方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 スプライン根元部に生じるOBD拡径の拡径量および軸方向拡径範囲を小さくした精度の高いスプラインを軸部材に形成することができる軸部材のスプライン形成方法を提供する。
【解決手段】 シャフト6の外周面のスプライン形成予定部αに先端部から根元部にかけて、加工治具である金型21に前進と後退の運動を交互に繰り返す軸方向振動を付与するにスプライン9を形成する方法において、スプライン根元部9aの形成時は、金型21の前進量A1と後退量をB1の差、つまり、一回の振動による軸方向加工量(A1−B1)を、スプライン9の他部位の形成時における金型21の前進量Aと後退量Bの差、つまり、一回の振動による軸方向加工量(A−B)よりも小さくする。なお、前進量Aは後退量Bよりも大きくし、前進量A1は後退量B1よりも大きくする。
【選択図】 図1

Description

本発明は、自動車のドライブシャフトやプロペラシャフト等の軸部材に利用され、トルク伝達に関わるスプラインの塑性加工法に関するものである。
まずスプラインについて、図7に示す角度変位のみを許容する固定型等速自在継手の一つであるボールフィクス型等速自在継手(BJ)を例に挙げて説明する。
この等速自在継手100は、外側継手部材である外輪101、内側継手部材である内輪103、ボール104、ケージ105を主要部とする。内輪103、ボール104、ケージ105は、外輪101の内側に配される内部部品107を構成している。
外輪101は一端が開口しており、他端には外輪軸部113を有し、内球面にはトラック溝101aが形成されている。内輪103は中心孔102を有し、外球面にはトラック溝103aが形成されている。外輪101のトラック溝101aと内輪103のトラック溝103aとの間には複数のボール104が介在されており、このボール104はケージ105のポケット105aで保持されている。
内輪103の中心孔102には軸部材であるシャフト106が挿嵌されている。この挿嵌は、中心孔102に形成されたスプライン108にシャフト106の外周面に形成されたスプライン109を嵌合させることによりなされる。同様に、図12に示すように、外輪101の外輪軸部113の外周面に形成されたスプライン114は、車輪用軸受200の中心孔202に形成されたスプライン201に嵌合される。
さて、この図7に示す等速自在継手100において、シャフト106のスプライン109、外輪軸部113のスプライン114の形成方法には様々なものがあるが、塑性加工による形成法は、加工能率が高く、多量生産に向いていること、切削加工と違い、切りくずの発生しないこと、また、形成されたスプラインは、ひび割れなどの破損が生じにくく、強度的にも有利であること等の特徴を有するため、広く実用されている。
このスプラインの塑性加工の代表的なものとして、転造加工(棒材を回転させて、工具により局所的な塑性変形を徐々に繰り返し与え、全体の製品形状を創成していく加工法をいう。例えば、日本塑性加工会編:塑性加工技術シリーズ11がある。)やプレス加工(加工材を2つ以上の工具間に置き、強い力を加えることにより成形する加工法をいう。鋼塊の鍛造、板材の絞り、曲げ、穴抜きなどがある。)がある。
上記の方法で形成されるシャフト106のスプライン109において、このスプライン109が嵌合する、相手部材である内輪103のスプライン108に対する締代が小さすぎると、シャフト106のスプライン109と内輪103のスプライン108との嵌合部で、回転時にがたつきや異常音が発生するなどの不具合が生じる。また、逆にスプライン109のスプライン108に対する締代が大きいと、スプライン108が形成された相手部材である内輪103の強度低下の原因となる。図12に示すように、外輪軸部113のスプライン114と相手部材である車輪用軸受200のスプライン201との嵌合部でも同様であるが、上記に加え、締代が大きいと、車輪用軸受200の回転異常が生じる。(以下では、シャフト106のスプライン109を例示して説明する。)
シャフト106のスプライン109における、内輪103のスプライン108に対する締代に影響する寸法としては、図8(A)(図7に示すシャフト106の要部拡大図)と、この図8(A)におけるZ部分での断面図である図8(B)に示すように、180°対向したスプライン109の歯溝109aに、所定の径のピン120を嵌合し、その外径を測定したOPD、あるいは、図7に示すシャフト106の要部拡大側面図である図9(A)に示すように、180°対向したスプライン109の歯溝109a(図8参照)に、所定の径のボール130を嵌合し、その外径を測定したOBD、もしくは、図7に示すシャフト106に形成されたスプライン109の要部拡大縦断面図である図10に示すように、隣り合ったスプライン歯109bの同じ側の歯形で切り取られる基準円112上の円弧長さであるピッチが挙げられる。これらの寸法の大小や相互差により、スプライン109のスプライン108に対する締代が不均一になるため、これらの寸法の高精度化が求められている。なお、図8(A)中の斜線部分は、ピン120と、このピン120がスプライン109に嵌合可能な軸方向範囲を同時に示している。
さて、既説のプレス加工によるスプラインの形成法であると、図7に示すシャフト106を内周面に挿入することで、シャフト106にスプライン109を形成する加工治具の精度向上により、隣接したスプライン歯109b(図8参照)の形状のバラツキを小さくできるため、転造加工に比べ、図8(C)に示すようにシャフト106のスプライン109におけるOPDや図10(B)に示すように、スプライン109のスプライン歯109bにおけるピッチの周方向での相互差を改善して小さくすることが可能である。また、図5(A)に加工治具である金型21を示したが、この断面図である図5(B)に示すように金型21は挿入孔22を有し、内周面にスプライン21aが形成されており、このスプライン21aがシャフト106に転写されてスプライン109が形成されるため、金型21の精度向上により、スプライン109の精度向上が可能となる。
しかし、このプレス加工は、シャフト106にスプライン109を形成する際、図5(A)に示す加工治具である金型21にかかる荷重が大きく、さらに潤滑油が切れることによる摩擦力の増加からその寿命が短くなるなどの課題があった(特許文献1参照)。
これを改善するために、図11に示すように、金型21に前進と後退の運動を交互に繰り返しながら、金型21をシャフト106に先端部から反先端部に向けて徐々に外挿しつつスプライン109を成形する加工により、シャフト106の外周面のスプライン形成予定部αにスプライン109を形成する方法が知られている(特許文献2)。
さて、図11に示すシャフト106のスプライン形成方法は、金型21に、シャフト106の先端を支持部23で支持した状態で、前進と後退の運動を交互に繰り返す軸方向振動を、前進量を後退量より大きくして付与することにより、金型21をシャフト106に先端側から反先端側に向けて徐々に外挿しつつ、この金型21によりシャフト106のスプライン形成予定部αに軸部材先端側端部(先端部)から軸部材反先端側端部(以下根元部とする)に向けてスプラインを徐々に形成していく。なお、図11ではStep1〜3につれ、順に時間が経過していることを示しており、Step1、3は金型21の軸方向振動における前進時を示し、Step2は金型21の後退時を示している。また、各Stepにおいて、金型21の移動前の位置を二点鎖線で示し、後に詳述するスプライン根元部110は未形成であるため、その指し線は点線で示している。さらに、スプライン形成予定部αは形成された状態と同様に実線で示し、このスプライン形成予定部αにおいて、スプライン109が形成された部分は散点模様で示している。
特開2003− 94141号公報 特表2001−514969号公報
さて、特許文献2に開示されているプレス加工法では、シャフト106と加工治具である金型21との間で摩擦力が働き、シャフト106の外周面に形成されるスプライン109は、金型21の圧入方向に塑性流動する。このため、図9(B)に示すように、形成されたシャフト106のスプライン根元部110でOBDの拡径が発生する。なお、図中でHはスプライン根元部110におけるOBD拡径の拡径量を示し、Lはスプライン根元部110におけるOBD拡径の軸方向拡径範囲を示している。
この問題を解決するために、図11中のStep2に示すように、金型21が後退した際に、シャフト106のスプライン形成予定部αに潤滑成分等を含んだ加工油を流し込んで潤滑させる方法があり、これにより、シャフト106に形成するスプライン109が金型21の圧入方向に塑性流動するのを抑えることができる。
しかし、この場合においても、シャフト106のスプライン根元部110におけるOBDの拡径は残存が生じる。このスプライン根元部110のOBDの拡径量が大きいと、スプライン根元部110の、このスプライン根元部110を嵌合させる相手部材である内輪103(図7参照)のスプライン108に対する締代が大きくなり、スプライン根元部110を内輪103のスプライン108に嵌合させた時、内輪103の強度が低下し、破損するおそれがあった。
さらに、シャフト106のスプライン根元部110に生じるOBD拡径の軸方向拡径範囲は、図7に示す内輪103のスプライン108との嵌合には適さない。そのため、この範囲を考慮して、シャフト106に形成するスプライン109は軸方向長さを長くして設計する必要があり、製造コストが嵩むという問題があった。
上記の問題を解決するために、シャフト106のスプライン根元部110に生じるOBD拡径の拡径量および軸方向拡径範囲を小さくするために、スプライン根元部110で、スプライン109の形成前にシャフト106の軸径をあらかじめ小さくしておくことが考えられる。しかし、この場合であると、スプライン109の形成前におけるシャフト106の軸径は、図10(A)に示すスプライン109の大径寸法111に与える影響が大きく、スプライン根元部110の形成後、この部分で大径寸法111のばらつきが生じることがあるため、スプライン109の高精度化を図る手段としては適当ではない。
そこで本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、スプライン根元部に生じるOBD拡径の拡径量および軸方向拡径範囲を小さくした精度の高いスプラインを軸部材に形成することができる軸部材のスプライン形成方法を提供することを目的とする。
上記の課題を解決するための本発明に係る軸部材のスプライン形成方法は、軸端部の外周面にスプライン形成予定部を有する軸部材に加工治具を外挿し、前記加工治具に、前進と後退の運動を交互に繰り返す軸方向振動を、前進量を後退量よりも大きくして付与することにより、前記スプライン形成予定部の先端部から根元部に向けてスプラインを塑性加工する軸部材のスプライン形成方法であり、前記スプライン根元部の形成時は、前記スプラインの他部位の形成時よりも、前記加工治具に付与する軸方向振動による加工回数を多くして行うことを特徴とする。
ここで、スプライン根元部とは、スプラインの軸部材反先端側端部を意味する。加工治具は前進よりスプラインを形成し、この加工治具としては、プレス加工に用いるプレス装置の金型などを挙げることができる。また、加工治具に加える軸方向振動において、軸方向振動の前進量を後退量よりも大きくする理由としては、加工治具を軸部材に先端側から反先端側へ向けて徐々に外挿しつつ、この加工治具により、軸部材の外周面のスプライン形成予定部に先端部から根元部に向けてスプラインを徐々に形成していくためである。
加工治具に付与する軸方向振動による加工回数を多くする方法としては、スプライン根元部の形成時に、軸部材に形成するスプラインの他部位の形成時よりも加工治具に付与する軸方向振動の一定距離当りの振動回数を多くする方法と、スプライン根元部のみを繰り返し塑性加工する方法がある。
上記した、スプライン根元部の形成時に、軸部材に形成するスプラインの他部位の形成時よりも加工治具に付与する軸方向振動の一定距離当りの振動回数を多くする方法としては、軸部材のスプライン根元部の形成時に加工治具に付与する軸方向振動の前進量と後退量の差を、スプラインの他部位の形成時に加工治具に付与する軸方向振動の前進量と後退量の差よりも小さくする方法と、前進量は一定とし、後退量のみを大きくする方法とがある。
また、上記した、スプライン根元部のみを繰り返し塑性加工する方法としては、スプライン形成予定部にスプラインを形成後、加工治具を一旦後退させて、スプライン根元部のみを加工治具に軸方向振動を付与することで繰り返し塑性加工する方法がある。
上記において、加工治具を一旦後退させるとは、スプライン形成予定部に、スプライン根元部の形成終了端までスプラインを形成後、スプライン根元部の形成開始端まで加工治具を前進させることなく後退させることを意味する。
スプライン根元部の繰り返し加工は数回繰り返すのが望ましく、この繰り返し回数は、スプライン根元部の形状に悪影響を与えない程度であれば、特に限定されるものではない。
さて、上記した軸部材のスプライン形成方法により、軸部材のスプライン根元部の形成時に、スプラインの他部位の形成時よりも、加工治具に付与する軸方向振動による加工回数、つまり、軸方向振動の前進による加工回数を多くすると、スプライン根元部に生じるOBD拡径の拡径量および軸方向拡径範囲を小さくすることができる。
ここで、スプライン根元部のOBD(over ball diameter)とは、スプライン根元部の180°対向した歯溝に所定のボールを嵌合し、その外径を測定した値である。このスプライン根元部を含むスプラインのOBDは、スプラインの寸法公差(実際の寸法として許容できる最大値と最小値)に基づいて決定されるが、その寸法公差としてスプラインのOBDの公差幅(OBDにおける最大許容値と最小許容値の差)、あるいは、スプラインの180°対向した歯溝に所定のピンを嵌合し、その外径を測定した値であるOPDの公差幅(OPDにおける最大許容値と最小許容値の差)を算出し、これらの値より小さくなるように設計するのが好ましい。
なお、本発明の上記した作用は、スプライン根元部の形成時に、スプラインの他部位の形成時よりも、加工治具に付与する軸方向振動の振動回数を多くする本発明の方法又はスプライン根元部の形成時に、スプラインの他部位の形成時よりも、加工治具に付与する軸方向振動の後退量のみを大きくする本発明の方法と、スプライン根元部のみを繰り返し加工する本発明の方法とを組み合わせることにより、より顕著となる。
本発明の軸部材のスプライン形成方法は、軸部材の外周面のスプライン形成予定部にスプライン根元部の形成する際、スプラインの他部位の形成時よりも、スプラインを形成する加工治具に付与する軸方向振動での加工回数を多くする。
この場合、軸部材のスプライン根元部に生じるOBD拡径の拡径量が小さくなり、このスプライン根元部の相手部材のスプラインに対する締代を小さくできる。この結果、スプライン根元部を相手部材のスプラインに嵌合させた時に、相手部材の強度が低下するのを防止することができる。
また、本発明では、上記のように軸部材のスプライン形成予定部に形成する、スプライン根元部に生じるOBD拡径の軸方向拡径範囲を小さくするため、スプラインで、相手部材のスプラインとの嵌合に使用できる軸方向長さが長くなる。これにより、軸部材に形成するスプラインの軸方向長さを短くすることができるため、製造コストを削減することができる。
以下に本発明の実施の形態について、図1〜図5の添付図面を参照して説明する。なお、図1〜図3および図5において、スプライン根元部9a(形成開始端9a1、形成終了端9a2)において未形成の状態にある場合は、その指し線を点線で示しており、各Stepにおいて、金型21の移動前の位置を二点鎖線で示している。また、スプライン形成予定部αは形成された状態と同様に実線で示し、このスプライン形成予定部αにおいて、スプライン9が形成された部分は散点模様で示している。
本実施形態は、本発明を図4に示した角度変位のみを許容する固定型等速自在継手の一つであるボールフィクス型等速自在継手(BJ)のシャフト6のスプライン9に適用した実施形態である。
この等速自在継手10は、外側継手部材である外輪1、内側継手部材である内輪3、ボール4、ケージ5を主要部としている。内輪3、ボール4、ケージ5は、外輪1の内側に配される内部部品7を構成している。
外輪1は一端が開口しており、内球にはトラック溝1aが形成されている。内輪3は中心孔2を有し、外球面にはトラック溝3aが形成されている。外輪1のトラック溝1aと内輪3のトラック溝3aとの間には複数のボール4が介在されており、このボール4はケージ5のポケット5aで保持されている。
内輪3の中心孔2には軸部材であるシャフト6が挿嵌されている。この挿嵌は、中心孔2に形成されたスプライン8に、シャフト6の外周面に形成されたスプライン9を嵌合させることによりなされる。
このスプライン9の形成は、図5(A)に示すように、加工治具である金型21を用いたプレス加工により行い、金型21は、この断面図である図5(B)に示すように挿入孔22を有し、内周面にスプライン21aが形成されている。
スプライン9の形成についてさらに述べると、図5(A)に示すように、上記した金型21に、シャフト6の先端を支持部23で支持した状態で、前進と後退の運動を交互に繰り返す軸方向振動を、前進量を後退量より大きくして付与する。これにより、金型21をシャフト6に先端側から反先端側に向けて徐々に外挿しつつ、この金型21によりシャフト6のスプライン形成予定部αに先端部から根元部に向けてスプラインを徐々に形成していく。
さて、本発明では、上記したスプライン9の形成において、スプライン根元部9aの形成時は、スプライン9の他部位の形成時よりも金型21の軸方向振動における加工回数を多くする。
この方法として、スプライン根元部9aの形成時に、スプライン9の他部位の形成時よりも加工治具に付与する軸方向振動の一定距離当りの振動回数を多くする方法と、スプライン根元部9aのみを繰り返し加工して、スプラインの他部位の形成時よりも加工回数を多くする方法がある。
上記したスプライン根元部9aの形成時に、軸部材に形成するスプライン9の他部位の形成時よりも加工治具に付与する軸方向振動の一定距離当りの振動回数を多くする方法としては、軸部材のスプライン根元部9aの形成時に加工治具に付与する軸方向振動の前進量と後退量の差を、スプライン9の他部位の形成時に加工治具に付与する軸方向振動の前進量と後退量の差よりも小さくする方法と、前進量は一定とし、後退量のみを大きくする方法とがある。
また、上記した、スプライン根元部9aを形成する際、スプライン9の他部位の形成時よりも加工回数を多くするために、スプライン根元部9aのみを繰り返し塑性加工する方法としては、スプライン形成予定部αにスプライン9を形成後、加工治具を一旦後退させて、スプライン根元部9aのみを加工治具に軸方向振動を付与することで繰り返し塑性加工する方法がある。以下にそれぞれの実施形態について詳述する。
まず、第一の実施形態として、スプライン根元部の形成時に、軸部材に形成するスプラインの他部位の形成時よりも加工治具に付与する軸方向振動の一定距離当りの振動回数を多くする方法について、この過程を示した図1を用いて説明する。なお、この図3は、Step1〜5につれ、順に時間が経過していることを示しており、Step1、3、4は金型21の軸方向振動における前進時を示しており、Step2、5は金型21の軸方向振動における後退時を示している。
まず、図1のStep1〜3に示すように、シャフト6の外周面のスプライン形成予定部αに、スプライン9を、スプライン根元部9aの形成開始端9a1まで形成する。この形成は、加工治具である金型21に、前進と後退の運動を交互に繰り返す軸方向振動を付与することにより行う。この軸方向振動において、前進量はStep1にAで示し、後退量はStep2にBで示しており、前進量Aは後退量Bよりも大きくする。
ここで、金型21は、金型21の外挿方向側端部の軸方向位置が、Step1に示すOの位置から、Step3に示すO1の位置へ外挿方向側にずれていることから、既に述べたように、金型21をシャフト6の先端側から反先端側に向けて徐々に外挿しつつ、この金型21によりスプライン形成予定部αに先端側から根元部に向けてスプライン9を徐々に形成していく。
次に、Step4、5に示すように、スプライン形成予定部αの根元部にスプライン根元部9aを形成する。この際、金型21の軸方向振動において、前進量は、Step4に示すようにA1、後退量は、Step5に示すようにB1とし、前進量A1は後退量B1よりも大きくする。また、前進量A1と後退量B1の差、つまり、金型21の一回の振動による軸方向加工量(A1−B1)を、Step1およびStep2に示すスプライン9の他部位の形成時における金型21の前進量Aと後退量Bの差、つまり、金型21の一回の振動による軸方向加工量(A−B)よりも小さくする。さらに言えば、本実施形態では、A1をAよりも小さくし、この値を基に、上記の条件を満たす後退量B1を決定する。
上記の場合において、シャフト6のスプライン根元部9aの形成時において、金型21の一回の振動による軸方向加工量(A1−B1)が、スプライン9の他部位の形成時における金型21の一回の振動による軸方向加工量(A−B)よりも小さくすることにより、スプライン根元部9aの形成時は、スプライン9の他部位の形成時よりも金型21の一定距離当りの軸方向振動における振動回数が増し、金型21の前進による加工回数を多くすることができる。これにより、スプライン根元部9aに生じるOBD拡径の拡径量および軸方向拡径範囲を小さくすることができる。
ここで、スプライン根元部9aのOBD(over ball diameter)とは、スプライン根元部9aの180°対向した歯溝に所定のボールを嵌合し(図8参照)、その外径を測定した値である。このスプライン根元部9aを含むスプライン9のOBDは、スプライン9の寸法公差(実際の寸法として許容できる最大値と最小値)に基づいて決定する。この寸法公差としては、スプライン9のOBDの公差幅(OBDにおける最大許容値と最小許容値の差)、あるいは、スプラインの180°対向した歯溝に所定のピンを嵌合し、その外径を測定した値であるOPDの公差幅(OPDにおける最大許容値と最小許容値の差)があり、これらOBDもしくはOPDの公差幅のうち、少なくともいずれか一方の値より小さくなるようにスプライン9におけるOBDを決定するのが望ましい。
上記のように、スプライン根元部9aに生じるOBD拡径の拡径量を小さくすることで、スプライン根元部9aの、このスプライン根元部9aが嵌合する相手部材である内輪3のスプライン8に対する締代が小さくなる。そのため、スプライン根元部9aをスプライン8に嵌合させた時に、内輪3の強度が低下するのを防止することができる。
また、スプライン根元部9aに生じるOBD拡径の軸方向拡径範囲を小さくすることにより、スプライン9において、相手部材である内輪3のスプライン8との嵌合に使用できる軸方向長さを長くすることができる。この結果、スプライン9を短くすることができるため、製造コストを削減することができる。
図2に本発明の第2の実施形態として、金型21に付与する軸方向振動において、前進量はスプライン9の他部位の形成時と同じとし、後退量はスプラインの他部位の形成時よりも大きくする方法について、この過程を示した図2を用いて説明する。本実施形態では、図1に示す第1の実施形態と同じ部位、機能、形態を示す部位については同じ符号を付してその詳細な説明を省略し、加工治具である金型21で、シャフト6にスプライン9を形成する手段において、第1の実施形態と同じ点については、その詳細な説明を省略する。なお、この図2はStep1〜5につれ、順に時間が経過していることを示し、Step1、3、4は金型21の軸方向振動における前進時を示しており、Step2、5は金型21の軸方向振動における後退時を示している。
本実施形態では、まず、Step1〜3に示すように、軸部材のスプライン形成予定部αに、スプライン根元部9aの形成開始端9a1までスプライン9を形成する。この時の加工治具である金型21に付与する軸方向振動において、前進量はStep1にAで示しており、後退量はStep2にBで示している。
次に、Step4、5に示すようにスプライン根元部9aを形成するが、この際、金型21の軸方向振動において、前進量は、Step4に示すようにA2とし、この前進量A2は、スプライン9の他部位の形成時における前進量Aと同じとする。これに対し、後退量は、Step4に示すようにB2とし、この後退量B2は、Step2に示すスプライン9の他部位の形成時における後退量Bよりも大きくする。なお、金型21の前進量A2は後退量B2よりも大きくする。
この場合、スプライン根元部9aの形成時は、金型21の前進後、スプライン9の他部位の形成時よりも金型21が大きく後退する。そのため、スプライン根元部9aの形成時は、スプライン9の他部位の形成時よりも、金型21の軸方向振動による加工回数、つまり、金型21の前進による加工回数を多くすることができる。なお、この時の作用および効果については、図1に示す第1の実施形態と同じであるため、その詳細な説明を省略する。
図3に本発明の第3の実施形態として、金型21の軸方向振動により、スプライン根元部9aのみを繰り返し加工する方法について、その過程を示した図3を用いて説明する。
本実施形態では、図1に示す第1の実施形態と同じ部位、機能、形態を示す部位については同じ符号を付してその詳細な説明を省略する。なお、この図3において、Step1、3は、金型21の軸方向振動における前進時を示し、Step2、4は、金型21の軸方向振動における後退時を示している。
まず、Step1に示すように、加工治具である金型21に軸方向振動を付与し、スプライン形成予定部αに、スプライン根元部9aの形成終了端9a2までスプライン9を形成する。
次に、Step2に示すように、金型21をスプライン根元部9aの形成開始端9a1まで前進させることなく後退させ、その後、Step3、4に示すように、金型21に軸方向振動を付与し、スプライン根元部9aを繰り返し加工する。なお、繰り返し加工の際、金型21の軸方向振動は、前進量を後退量より大きくする。
この繰り返し加工は数回繰り返すことが可能であり、繰り返し回数はスプライン根元部9aの形状に悪影響を及ぼすことがないのであれば、特に限定されるものではない。
また、このスプライン根元部9aの繰り返し加工において、金型21の軸方向振動による加工回数は、スプライン9の他部位の形成時よりも多くすることが望ましい。この手段としては、図1に示す第1の実施形態および図2に示す第2の実施形態の手段を採用するのが望ましい。
なお、本実施形態の作用および効果についても、図1に示す第1の実施形態と同じであるため、その詳細な説明を省略する。また、本実施形態の作用および効果は、本実施形態を第1の実施形態又は第2の実施形態と組み合わせることにより、より顕著となる。
さて、これまで本発明の実施形態について説明したが、より精度の高いスプラインが形成されたシャフト6を提供するために、本実施形態により形成するスプライン9のOBDが、スプライン9のOPDもしくはOBDの公差幅のうち、少なくともいずれか一方より小さくするのが望ましい(スプラインのOBDおよびOPDについては、図8および図9を参照)。
また、シャフト6のスプライン形成予定部αにスプライン9を形成後、熱処理などを施して硬化することにより、強度を向上させることが考えられる。しかし、熱処理によりスプライン9は膨張してそのOBDが拡径するため、この拡径量を考慮して、スプライン9の形成を含むシャフト6の設計、加工を行う必要がある。
なお、ここで挙げた実施形態はあくまで例示であり、特許請求の範囲に記載の意味および内容において全ての変更が可能である。
以下に、図1に示す本発明の第1の実施形態を採用した、本発明の実施例について説明する。
まず、軸部材であるシャフト6が外周面に有するスプライン形成予定部αに前加工を施し、適当な形状に成形する。なお、この前加工によるスプライン形成予定部αの形状は、厳密に設計するためにスプライン9の大径寸法111(図10(A)参照)のスプライン形成後の寸法、さらには後工程の熱処理完成後の膨張による大径寸法111(図10(A)参照)の寸法変化を考慮して行う必要がある。
次に、スプライン形成予定部αの前加工が完了したシャフト6に対し、図1に示すように、加工治具である金型21に、前進と後退の運動を交互に繰り返す軸方向振動を付与することにより、シャフト6のスプライン形成予定部αにスプライン9を徐々に形成しつつ、金型21をシャフト6に先端側から徐々に外挿していく。
金型21の軸方向振動における一定距離の振動回数は、2条件に設定することとし、サンプルAでは振動回数を少なくし、サンプルBでは振動回数を多くした。さらに言えば、サンプルAの前進量と後退量の差をサンプルBの前進量と後退量の差よりも大きくした。なお、サンプルAとサンプルBのそれぞれの前進量および後退量の具体的設定条件を以下の表1に示した。
Figure 2008200684
表1の各条件で形成されるスプライン根元部9aに生じるOBD拡径の拡径量および軸方向拡径範囲を図6に示した。なお、この図6では、各条件で形成されるスプライン9のOBDを、スプライン根元部9aの形成終了端9a2をOとして示している。この図6により、サンプルAとサンプルBでは明確な違いがあることが判明した。この点について詳述する。
スプライン根元部9aに生じるOBD拡径の拡径量は、サンプルAでは、図中HAで示したように30μmであったのに対し、サンプルBでは、図中HBで示すように12μmとサンプルAの半分以下となっていた。
また、スプライン根元部9aに生じるOBD拡径の軸方向拡径範囲については、サンプルAでは、図中LAで示したように8mmであったのに対し、サンプルBでは、図中LBで示すように4mmとサンプルAの半分以下となっていた。
本実施例の結果により、プレス加工一回の金型21の前進量とスプライン根元部9aに生じるOBD拡径の軸方向拡径範囲とは一致していることが確認できた。このことから、金型21に付与する軸方向振動において、前進量を小さくするほどスプライン根元部9aに生じるOBD拡径の軸方向拡径範囲が短くなることが推測できた。
さて、ここでの実施例において、スプライン9では、そのOBDの寸法公差の規格はないが、本実施例ではOPDの交差幅(30μm)とした。
これによれば、図6に示すように、サンプルAにおいて、スプライン根元部9aに生じるOBD拡径の拡径量(30μm)は、スプライン9におけるOPDの公差幅(30μm)と一致している。しかし、スプライン9のOBDにはばらつきが生じる点を考慮すると、スプライン根元部9aで、OBDがOPDの公差幅(30μm)よりも大きくなる場合が生じ、スプライン9で規格を満足できない。これは、スプライン9のOBDが、スプライン9のOPDの公差幅(30μm)より小さいことを満足できず、スプライン根元部9aが、相手部材である内輪3のスプライン8(図1)への嵌合に使用できないことを意味する。このため、スプライン9の形成時は、相手部材との嵌合に使用できないスプライン根元部9aを考慮して、軸方向長さを長く設定する必要があり、製造コストが嵩む。
一方、サンプルBでは、スプライン根元部9aに生じるOBD拡径の拡径量(12μm)は、スプライン9におけるOPDの公差幅(30μm)の半分以下で、スプライン9のOBDのばらつきを考慮しても、スプライン根元部9aを含むスプライン9が上記の規格を満足している。これは、スプライン9のOBDが、スプライン9のOPDの公差幅(30μm)より小さいことを満足し、スプライン根元部9aを、相手部材である内輪3のスプライン8(図1)への嵌合に使用できることを意味する。このため、スプライン9の形成時は、スプライン9の軸方向長さを短くでき、製造コストを削減することができる。
なお、本実施例において、サンプルAとサンプルBの両方にスプライン9を形成後、熱処理を施したところ、サンプルAとサンプルB共に、スプライン9に生じるOBD拡径の拡径量が大きくなり、軸方向拡径範囲は変化が無いことが確認できた。
本発明の第1の実施形態を説明するフローチャート図(断面図)である。 本発明の第2の実施形態を説明するフローチャート図(断面図)である。 本発明の第3の実施形態を説明するフローチャート図(断面図)である。 本発明を固定型等速自在継手の一つであるボールフィクス型等速自在継手(BJ)に適用した断面図である。 (A)は金型21でシャフト6にスプラインを形成する方法を説明した断面図である。(B)は(A)の金型21の横断面図である。 金型21に付与する軸方向振動の振動回数を2条件に設定した実施例において、各条件でのスプライン根元部9aに生じるOBD拡径の拡径量と軸方向拡径範囲を示したグラフである。 従来の軸部材のスプライン形成方法を適用した固定型等速自在継手の一つであるボールフィクス型等速自在継手(BJ)を示した断面図である。 スプラインのOPDについて説明したもので、(A)はスプライン109に、OPDを測定するためのピン120をスプラインの歯溝に嵌合した時の状態とその嵌合範囲を示す断面図である。(B)はOPDの測定方法を示したものであり、(A)のZ部分での断面図である。(C)は、スプライン109を転造加工により形成した場合とプレス加工により形成した場合におけるOPD拡径の拡径量の変化を示すグラフである。 スプラインのOBDについて説明したもので、(A)はスプライン109に、OBDを測定するためのボール130をスプラインの歯溝に嵌合させた時の状態とOBDの測定方法を示した断面図である。(B)はスプライン109をプレス加工により形成した場合におけるOBD拡径の拡径量の変化を示すグラフである。 (A)はシャフト106に形成したスプライン109の要部拡大断面図である。(B)は、シャフト106にスプライン109を転造加工により形成した場合とプレス加工により形成した場合のピッチの変化を示したグラフである。 加工治具である金型21を用いてシャフト106にスプライン109を形成する従来の方法を説明した断面図である。 図7に示す固定型等速自在継手と車輪用軸受の嵌合状態を示す断面図である。
符号の説明
6 シャフト(軸部材)
8 スプライン(内輪)
9 スプライン(軸部材)
9a スプライン根元部(軸部材)
9a1 形成開始端(スプライン根元部)
9a2 形成終了端(スプライン根元部)
10 等速自在継手
21 金型(加工治具)
α スプライン形成予定部

Claims (4)

  1. 軸端部の外周面にスプライン形成予定部を有する軸部材に加工治具を外挿し、前記加工治具に、前進と後退の運動を交互に繰り返す軸方向振動を、前進量を後退量よりも大きくして付与することにより、前記スプライン形成予定部の先端部から根元部に向けてスプラインを塑性加工する軸部材のスプライン形成方法であって、
    前記スプライン根元部の形成は、前記スプラインの他部位の形成時よりも、前記加工治具に付与する軸方向振動による加工回数を多くして行うことを特徴とする軸部材のスプライン形成方法。
  2. 前記スプライン根元部の形成時は、前記スプラインの他部位の形成時よりも、前記加工治具に付与する軸方向振動の振動回数を多くして行うことを特徴とする請求項1に記載の軸部材のスプライン形成方法。
  3. 前記スプライン根元部の形成時は、前記スプラインの他部位の形成時よりも、前記加工治具に付与する軸方向振動の後退量のみを大きくして行うことを特徴とする請求項1又は2のいずれか一項に記載の軸部材のスプライン形成方法。
  4. 前記スプライン根元部の形成は、前記スプライン根元部を形成後、前記加工治具を一旦後退させて、スプライン根元部のみを前記加工治具に軸方向振動を付与することで繰り返し塑性加工することにより行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の軸部材のスプライン形成方法。
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