JP2008195903A - 摺動構造 - Google Patents

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Abstract

【課題】非晶質炭素被膜と有機モリブデン化合物との化学的反応による非晶質炭素被膜の摩耗を抑制することができる摺動構造を提供する。
【解決手段】少なくとも一方の摺動面に水素元素を含む非晶質炭素被膜11が形成されている一対の摺動部材10A,20Aと、該一対の摺動部材10A,20Aの間に存在し、有機モリブデン化合物を少なくとも含む潤滑油30Aと、を少なくとも備えた摺動構造であって、前記潤滑油30Aは、摺動時に前記有機モリブデン化合物から生成される三酸化モリブデンに対して、前記非晶質炭素被膜よりも反応性の高い粉末32を含有している。
【選択図】図2

Description

本発明は、摺動面に非晶質炭素被膜が形成された一対の摺動部材を含む摺動構造に係り、特に、該一対の摺動部材間に有機モリブデン化合物を含有した潤滑剤を含む摺動構造に関する。
従来から、自動車において、エンジン、トランスミッションなど様々な機器に摺動部材が用いられている。そこでは、摺動部材の摺動抵抗を低減してエネルギ損失を減らし、地球環境の保護のための今後の燃費規制に対応すべく、様々な研究開発が進められている。例えば、このような研究開発の1つに、摺動部材の耐摩耗性を向上させると共に低摩擦特性を得るために、その摺動面にコーティングを行う技術がある。近年、このコーティング材料として、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)などの非晶質炭素材料が注目されている。該非晶質炭素材料が形成された被膜(非晶質炭素被膜)は、炭素を主成分とする硬質の被膜であり、該硬質の被膜の炭素は固体潤滑剤としても作用するので、低い摺動抵抗と高い耐摩耗性とを両立できる被膜である。
一方、前記摺動部材を摺動するにあたって、摺動部材の摺動面に供給される潤滑油、グリースは、摺動部材の摺動特性に大きな影響を与えるため、摺動部材の材質、表面粗さ、その使用環境等を考慮して、最適な摺動構造となるように潤滑油・グリースを選定することは非常に重要である。
例えば、このような一例として、基材の表面にDLC被膜(非晶質炭素被膜)を形成した一対の摺動部材と、該一対の摺動部材の摺動面に、ジジチオリン酸モリブデン又はジチオカルバミン酸モリブデン等の有機モリブデン化合物を金属系摩擦調整剤として含有した潤滑油と、を備えた摺動構造が提案されている(特許文献1参照)。
前記摺動構造によれば、摺動時に、前記有機モリブデン化合物は、摺動面間において二硫化モリブデンとなる。該二硫化モリブデンは固体潤滑剤として作用するので、摺動部材の摺動特性を向上させることができる。
特開2005−060416号公報
ところで、前記非晶質炭素被膜を化学気相成長法(CVD)により成膜した場合には、物理的蒸着法(PVD)により成膜したものに比べて、表面にドロップレット等が生成されないため、非晶質炭素被膜の表面粗度を低くすることができ、摺動部材の摩擦係数及び相手部材に対する相手攻撃性を低減することができる。しかし、前記CVDにより非晶質炭素被膜を成膜した場合には、非晶質炭素被膜に水素元素が含有することがあり、このような場合には、前記摺動部材を摺動するに従って、非晶質炭素被膜のアモルファス構造と前記潤滑油中の有機モリブデン化合物とが化学的に反応し、非晶質炭素被膜の摩耗が進行することがある。
具体的には、図14に示すように、有機モリブデン化合物の一部が、摺動部材間の摩擦熱により熱分解し、酸化触媒である三酸化モリブデン(MoO)が生成される。該三酸化モリブデンは非晶質炭素被膜中の水素元素を被膜から脱離し、非晶質炭素被膜を劣化させることがある。このようにして、該水素元素が脱離した炭素が活性点となり、活性点となった炭素は、三酸化モリブデンと化学的に反応して被膜から脱離し、一酸化炭素または二酸化炭素のガスとなる。さらに、該反応による炭素の脱離により、脱離した炭素と結合していた炭素も活性点となって、三酸化モリブデンと化学的に反応して被膜から脱離し、一酸化炭素または二酸化炭素のガスとなる。このようにして、非晶質炭素被膜の表面において、前記化学的な反応が重畳的に繰返されることにより、非晶質炭素被膜の摩耗が進行すると考えられる。
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、水素元素を含有した非晶質炭素被膜に有機モリブデン化合物を含む潤滑油を使用した場合であっても、非晶質炭素被膜と有機モリブデン化合物との化学的な反応による非晶質炭素被膜の摩耗を抑制することができる摺動構造を提供することにある。
本発明者らは、上記の課題を解決すべく多くの実験と研究を行うことにより、(1)有機モリブデン化合物の熱分解反応により三酸化モリブデンが生成される点、及び(2)生成された三酸化モリブデンが非晶質炭素被膜と化学的に反応する点、に着眼した。そして、発明者らは、前記(1)または(2)のいずれかの現象が生じないように、潤滑剤に所定の添加剤を加える(又は摺動部材の表面に添加元素を加える)ことにより、非晶質炭素被膜からの水素元素の脱離を抑え、非晶質炭素被膜が摩耗する化学反応を抑制することができるとの知見を得た。
本発明は、本発明者らが得た上記の新たな知見に基づくものであり、本発明は、少なくとも一方の摺動面に非晶質炭素被膜が形成されている一対の摺動部材と、該一対の摺動部材の間に存在し、有機モリブデン化合物を少なくとも含む潤滑油と、を少なくとも備えた摺動構造であって、前記潤滑油は、摺動時に前記有機モリブデン化合物から生成される三酸化モリブデンに対して、前記非晶質炭素被膜よりも反応性の高い粉末を含有していることを特徴としている。
本発明によれば、前記一対の摺動部材の摺動面間に存在する潤滑油が、摺動部材の摺動時に前記有機モリブデン化合物から生成される三酸化モリブデンに対して、前記非晶質炭素被膜よりも反応性の高い粉末を含むことにより、三酸化モリブデンと非晶質炭素被膜との反応を抑制することができる。すなわち、有機モリブデン化合物により生成された三酸化モリブデンが、摺動部材の摺動時に、水素元素を含有した非晶質炭素被膜(非晶質炭素)と反応するよりも、前記粉末と優先的に反応する。この結果、三酸化モリブデンによる非晶質炭素被膜の水素元素の脱離現象が抑制され、化学的な反応に起因した非晶質炭素被膜の摩耗が抑制される。
前記粉末としては、例えば、硫黄粉末、マグネシウム粉末、チタン粉末、カルシウム粉末、又はこれらの粉末に含まれる元素を酸化させた粉末、炭素粉末等を挙げることができるが、より好ましい態様としては、本発明に係る摺動構造は、潤滑油に含まれる前記粉末が、非晶質炭素材料からなる炭素粉末であり、該炭素粉末のラマン分光スペクトルにおけるGバンドに対するDバンドの面積強度比は、非晶質炭素被膜のGバンドに対するDバンドの面積強度よりも、大きい。
ここで、本発明でいう「ラマン分光スペクトル」とは、一般的なラマン分光装置を用いて、レーザー光などの単色光を物体(非晶質炭素被膜)に照射した際に、入射光とは異なる波長であるラマン散乱光のスペクトルであり、一般的に物体の構造は、このラマン散乱光の入射光との振動数の差(ラマンシフト)と、散乱光スペクトル(強度)とから特定することができる。
そして、非晶質炭素被膜の構造解析をラマン分光スペクトルにより分析した場合、非晶質炭素被膜は、決まった結晶構造を持たず、ラマンシフトが1350cm−1付近及び1550cm−1付近に、ラマン分光スペクトルのピークが現れることが一般的である。本発明でいう「Gバンド」とは、このラマンシフトが1550cm−1付近のピークであり、非晶質炭素被膜のグラファイト構造に起因したバンド(後述する実施例1−1の図1の線b参照)を示し、本発明に係る「Dバンド」とは、1350cm−1付近のピークであり、非晶質炭素被膜のアモルファス構造に起因したバンド(後述する実施例1−1の図1の線c参照)を示している。そして、Gバンドの面積強度に対するDバンドの面積強度の割合、すなわち面積強度比D/G(後述する実施例1−1の図1の線bを囲む斜線部の面積に対する線cを囲む斜線部の面積の面積比)は、非晶質炭素被膜中に含まれるアモルファス構造の比率を示すことになる。
本発明によれば、前記非晶質炭素被膜と炭素粉末のラマン分光スペクトルにおけるGバンドに対するDバンドの面積強度比(D/G)が、前記関係を満たすこと、すなわち、非晶質炭素被膜に比べ炭素粉末のアモルファス構造の比率を大きくすることにより、有機モリブデン化合物により生成された三酸化モリブデンが、摺動部材の摺動時に、非晶質炭素被膜よりも前記炭素粉末と優先的に化学反応する。この結果、三酸化モリブデンによる非晶質炭素被膜の水素元素の脱離反応を抑え、化学的な反応に起因した非晶質炭素被膜の摩耗が抑制される。
本発明に係る摺動構造は、前記非晶質炭素被膜の面積強度比が1.0〜2.0の範囲にあり、前記炭素粉末の面積強度の比が2.0〜3.0の範囲にあることがより好ましい。本発明によれば、非晶質炭素被膜と炭素粉末の前記面積強度比(D/G)を前記の範囲とすることにより、非晶質炭素被膜の摩耗をより確実に低減することができる。すなわち、非晶質炭素被膜の面積強度比が2.0よりも大きい場合には、非晶質炭素被膜中のアモルファス構造の割合が多くなり、非晶質炭素被膜の機械的な摩耗が促進され、非晶質炭素被膜の面積強度比が、1.0よりも小さい場合には、摺動部材の摩擦係数が増加する可能性があると考えられる。また、炭素粉末の面積強度比が2.0よりも小さい場合には、粉末中のアモルファス構造の割合が少なくなり、炭素粉末により非晶質炭素被膜が機械的に摩耗するおそれがあると考えられる。
なお、前記非晶質炭素被膜は、いわゆるDLC(ダイヤモンドライクカーボン)からなる被膜(DLC被膜)であり、該非晶質炭素被膜は、スパッタリング、真空蒸着、イオン化蒸着、イオンプレーティング、などを利用した物理的蒸着法(PVD)により成膜してもよく、プラズマ処理などを利用した化学気相成長法(CVD)により、成膜してもよく、これらの方法を組み合わせた方法により成膜してもよい。
また、前記非晶質炭素被膜には、前記抑制元素以外にも、Si、Cr、Mo、Fe、Wなどの添加元素を含有させてもよく、前記面積強度比(D/G)を満たすのであれば、成膜方法は特に限定されるものではない。例えば、前記炭素粉末は、グラファイトダーゲットと炭化水素系ガスを用いたスパッタリングにより製粉することができ、バイアス電圧、炭化水素系ガスの種類及び濃度を変更することにより、所望の粉末の粒径及び面積強度比(D/G)を得ることができる。
本発明に係る摺動構造は、前記炭素粉末が、潤滑油に500ppm〜1000ppm含まれていることがより好ましい。本発明によれば、潤滑油に対する炭素粉末の含有量を前記範囲とすることにより、非晶質炭素被膜の摩耗量を低減することができる。すなわち、炭素粉末が潤滑油に対して500ppmよりも少ない場合には、非晶質炭素被膜に対する炭素粉末の量が充分ではないため、非晶質炭素被膜の摩耗量は増加する傾向にある。また、炭素粉末が潤滑油に対して1000ppmよりも多い場合には、炭素粉末により、非晶質炭素被膜を摩耗させるおそれがある。
さらに、本発明に係る摺動構造は、一方の摺動部材の摺動面に水素元素を含む非晶質炭素被膜が形成された一対の摺動部材と、該一対の摺動部材の間に存在する有機モリブデン化合物を少なくとも含む潤滑油と、を少なくとも備えた、摺動構造であって、前記一対の摺動部材のうち少なくとも一方の摺動面は、前記有機モリブデン化合物からの三酸化モリブデンの生成を抑制するための抑制元素を含むことを特徴とする。
本発明によれば、前記抑制元素を摺動面に含むことにより、摺動部材の摺動時において、摺動面間に存在する潤滑油に含有する有機モリブデン化合物が、三酸化モリブデンに分解する(三酸化モリブデンが生成される)反応を抑制することができる。この結果、三酸化モリブデンと非晶質炭素被膜との反応が抑えられ、該反応に起因した非晶質炭素被膜の摩耗が抑制される。
また、本発明に係る摺動構造は、前記抑制元素が、硫黄、マグネシウム、チタン、又はカルシウムのうち少なくとも一種の元素である。本発明によれば、これらの元素の少なくとも1つの元素を抑制元素として、摺動部材の少なくとも摺動面に含有させることにより、有機モリブデン化合物からの三酸化モリブデンの生成を抑制することができる。前記抑制元素は、摺動部材の基材の製造時に前記添加元素を添加してもよく、非晶質炭素被膜の成膜時又は成膜後に抑制元素を添加してもよい。
例えば、他方の摺動部材に非晶質炭素被膜を形成していない場合には、鉄系材料からなる他方の摺動部材を準備し、該摺動部材の摺動面に浸硫処理を行うことにより、摺動面に硫黄を含有させることができる。また、別の態様としては、化成処理を利用した、鉄系材料からなる摺動部材の摺動面にリン酸塩皮膜処理を行うことにより、摺動面にマグネシウムを含有させることができる。このような処理を行うことにより、摺動部材の摺動面に、安価かつ容易に硫黄元素またはマグネシウム元素を含有させることができる。
本発明に係る摺動構造は、非晶質炭素被膜が形成されていない他方の摺動部材が、鉄系材料からなる摺動部材であり、該摺動部材には、前記抑制元素を含有した皮膜が形成されており、該皮膜の厚みは、1〜4μmの範囲にあることがより好ましい。
本発明によれば、他方の摺動部材を鉄系材料とすることにより、前記浸硫処理又はリン酸塩皮膜処理を利用して、他方の摺動部材の表面に硫黄元素またはマグネシウム元素を含有した処理皮膜を容易に形成することができる。さらに、有機モリブデン化合物から生成された二硫化モリブデンは、鉄系材料と馴染み性が良いので、鉄系材料の摩耗ばかりでなく非晶質炭素被膜の摩耗も抑制することができる。また、皮膜の厚みが前記範囲にあることにより、より効率よく非晶質炭素被膜の化学的な反応による摩耗を抑制することができる。すなわち、前記皮膜厚みが1μmよりも薄い場合には、摺動時に形成された皮膜が摩滅してしまうおそれがあり、前記皮膜厚みが4μmよりも厚い場合であっても、非晶質炭素被膜の摩耗をそれ以上低減させることはできない。
また、別の態様としては、本発明に係る摺動構造は、前記一方の摺動部材の前記非晶質炭素被膜の表層に、前記抑制元素を5〜20原子%添加した添加層が形成されていることがより好ましい。本発明によれば、抑制元素の添加量を前記範囲とすることにより、さらに効率良く非晶質炭素被膜の化学的な反応による摩耗を抑制することができる。前記抑制元素の添加量を5原子%よりも少なくした場合には、非晶質炭素被膜の摩耗が促進されやすく、20原子%よりも多くしたとしても、それ以上の効果は期待できず、経済的ではない。また、より好ましい前記添加元素の添加量は10〜20原子%である。また、一方の摺動部材の摺動面に、前記添加層を含む非晶質炭素被膜が形成できるのであれば、本発明に係る摺動構造は、もう一方(他方)の摺動部材の摺動面に非晶質炭素被膜を形成してもよい。
また、本発明に係る非晶質炭素被膜は、前述したように、スパッタリング、真空蒸着、イオン化蒸着、イオンプレーティング、などを利用した物理的蒸着法(PVD)により成膜してもよく、プラズマ処理などを利用した化学気相成長法(CVD)により成膜してもよく、非晶質炭素被膜に前記抑制元素を含有させる方法としては、例えば、スパッタリング法、イオン注入法、アークイオンプレーティング法などが挙げられ、前記非晶質炭素被膜の成膜とともに抑制元素を含有したり、成膜後の非晶質炭素被膜の表面に抑制元素を注入したり、非晶質炭素被膜の表層に前記範囲の抑制元素を添加できるのであれば、特に限定されるものではない。また、前記非晶質炭素被膜には、前記抑制元素以外にも、Si、Cr、Mo、Fe、Wなどの添加元素を含有させてもよく、このような元素を添加することにより、被膜の表面硬さを調整することもできる。
また、本発明に係る摺動構造は、前記添加層の厚みが、1〜3μmの範囲にあることがより好ましい。本発明によれば、前記範囲とすることにより、非晶質炭素被膜の摩耗量を低減することができる。すなわち、添加層の厚みが1μm未満である場合には、添加層が初期馴染み等によりすぐに摩滅してしまい、非晶質炭素被膜の摩耗が促進されてしまう。また、添加層の厚みを3μmより厚くした場合であっても、非晶質炭素被膜の摩耗量をそれ以上低減させることは期待できない。
さらに、本発明に係る摺動構造は、前記添加層の表面硬さがビッカース硬さでHv1000以下であることがより好ましい。本発明によれば、前記表面硬さの範囲である場合には、摺動時の添加層の摩耗により、添加層に含有した抑制元素を潤滑油中に介在させることができる。また、表面硬さがHv1000よりも大きい場合には、摺動時に添加層が摩耗し難く、抑制元素を潤滑油中に介在させ難い。その結果、三酸化モリブデンが生成されやすくなる。
前記有機モリブデン化合物としては、モリブデン−アミン錯体、モリブデン−コハク酸イミド錯体、有機酸のモリブデン塩、アルコールのモリブデン塩、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン(Mo−DTC)またはジチオリン酸モリブデン(Mo−DTP)などを挙げることができ、より好ましい態様としては、本発明に係る有機モリブデン化合物は、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン(Mo−DTC)またはジチオリン酸モリブデン(Mo−DTP)である。
本発明によれば、有機モリブデン化合物として、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン(Mo−DTC)またはジチオリン酸モリブデン(Mo−DTP)を用いることにより、三酸化モリブデンが、最終的には、二硫化モリブデン(MoS)となり、固体潤滑剤として二硫化モリブデンの層が形成されることになり、摺動部材の摩耗を抑制することができる。
特に、汎用性、コスト面等を考慮すると、潤滑油に含有させる有機モリブデン化合物は、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン(Mo−DTC)がより好ましく、生成方法により分子中のアルキル基の構造は異なる。例えば、アルキルジチオカルバミン酸モリブデンの具体例としては、例えば、ジブチルジチオカルバミン酸硫化モリブデン、ジペンチルジチオカルバミン酸硫化モリブデン、ジヘキシルジチオカルバミン酸硫化モリブデン、ジヘプチルジチオカルバミン酸硫化モリブデン、ジオクチルジチオカルバミン酸硫化モリブデン、ジノニルジチオカルバミン酸硫化モリブデン、ジデシルジチオカルバミン酸硫化モリブデン、ジウンデシルジチオカルバミン酸硫化モリブデン、ジドデシルジチオカルバミン酸モリブデン、ジトリデシルジチオカルバミン酸モリブデン等を挙げることができる。
また、潤滑油のベース油は、前述したような添加剤を含むのであれば鉱油、合成油などが挙げられ、特に限定されるものではない。また、このような潤滑油は、前記化学反応が抑制されないのであれば、酸化防止剤、摩耗防止剤、極圧剤、摩擦調整剤、金属不活性剤、清浄剤、防錆剤、泡消剤などを適宜追加することができる。なお、潤滑油の変わりに、例えば、有機モリブデン化合物を含む基油にさらに増稠剤を分散させたグリースであっても同様の効果が得られる。
また、この潤滑油の給油機構としては、循環潤滑機構、ミスト潤滑機構、又は、オイルバスによる油浴潤滑機構など等が挙げられ、摺動時に摺動部材間に、潤滑油を給油することができるのであれば、特に限定されるものではない。
本発明によれば、水素元素を含む非晶質炭素被膜が形成された摺動面に、有機モリブデン化合物を含む潤滑油を使用した場合であっても、非晶質炭素被膜の水素元素と有機モリブデン化合物との化学的反応に起因した非晶質炭素被膜の摩耗を抑制することができる。
以下に、本発明を実施例により説明する。
[実施例1−1〜実施例1−4]
(摺動部材)
以下に、本発明に係る摺動構造における一対の摺動部材として、ブロック試験片とリング試験片とを製作した。
ブロック試験片:図2に示すように、硬質炭素被膜11を形成する基材12として、表面粗さを中心線平均粗さRa0.05μmにした15.7×10.0×6.3mmのステンレス鋼(SUS440C:JIS規格)を準備し、この基材の15.7×6.3mmの表面に、図1に示すように、ラマン分光スペクトルにおけるGバンド(図1の線b)に対するDバンド(図1の線c)の面積強度比(線cを囲む斜線部の面積と線bを囲む斜線部の面積との比)が1.1となるように、スパッタリング装置(神戸製鋼所製)を用いて、非晶質炭素被膜を成膜し、ブロック試験片10Aを製造した。
具体的には、基材の表面に対向するように、純度99.99%の炭素材料からなるターゲット(グラファイトターゲット)を配置し、該ターゲットと基材との間に、アルゴンガス(不活性ガス)と、メタンガス(炭化水素系ガス)とからなる処理ガスを、処理ガス中のメタンガスの体積率が5%となるよう調整して流した。そして、この処理ガスを流した状態で、成膜温度(具体的には基材の温度)を200℃に保持して、ターゲットと基材との間に100Vに調整したバイアス電圧をかけながら、プラズマを発生させて、基板の表面にターゲットのスパッタ粒子をスパッタリングすることにより、膜厚(層厚)が1μm、表面粗さが中心線平均粗さRa0.05μm、表面硬さがビッカース硬さHv2000となる水素元素を含む非晶質炭素被膜を成膜した。尚、図1の線bと図cとに示すラマン散乱による強度と、図1の線dに示すレイリー散乱による強度と、を合わせた強度が、図1の線aに示す入射光に対する散乱光の全体の強度となる。
リング試験片:直径35.0mm、厚さ8.7mm、表面粗さRa0.25μmの材質SAE4620からなるリング試験片20Aを製作した。
(潤滑油)
図2に示すように、ベース油(エンジン油5W−30)に対して、モリブデン元素の量が700ppmとなるように、アルキルジチオカルバミン酸モリブデン:Mo−DTC(ADEKA製 サクラルーブ100:ジヘキシルジチオカルバミン酸硫化モリブデンに相当)を含有した潤滑油31を生成した。さらに、実施例1−1〜1−4に相当する非晶質炭素材料からなる粉末として、ラマン分光スペクトルにおけるGバンドに対するDバンドとの面積強度比が順次1.64、1.87、2.39、2.77となるように、スパッタリングとプラズマCVDを併用させた方法により炭素粉末32を製造し、該炭素粉末32を前記潤滑油31に含有させた。なお、これら全ての炭素粉末32の面積強度比は、非晶質炭素被膜11の面積強度比よりも低い。
(摩耗試験)
図3に示すように、ブロック試験片10Aと、リング試験片20Aとの間に、前記したMo−DTCを含む潤滑油31に非晶質炭素材料からなる炭素粉末32をさらに含有させた潤滑油30Aを介在させるようにして、摩耗試験を行った。具体的には、上に示すブロック試験片10A、リング試験片20A、及び潤滑油30Aを組合せて、ブロックオンリング試験(LFW−1試験)を行った。より詳細には、リング試験片20Aの一部に潤滑油30Aが浸かるように、油浴槽40Aに前記潤滑油30Aを投入し、油温を80℃に保持した状態でリング試験片20Aを160rpm(周速0.3m/s)で回転させて試験片表面に油膜を形成させた。そして、リング試験片20Aの外周面にブロック試験片10Aを接触させて荷重30kgf(320MPa)を負荷しながら、30分間の連続試験を行った。そして、試験修了後のブロック試験片10Aの摩耗量として摩耗深さを測定した。この結果を図4,図5に示す。
[実施例2−1〜2−3]
実施例1と同じ基材を製作後、この基材表面に、ラマン分光スペクトルにおけるDバンドとGバンドとの面積強度比が1.67となるように、成膜用の炭化水素系ガスの濃度及び流量、プラズマの印加電圧、基材温度等を調整して硬質炭素被膜を成膜して、ブロック試験片を製作した。また、リング試験片は、実施例1−1と同じものを準備した。実施例1−1と同様の潤滑剤を準備した。実施例1−1と実施例2−1〜2−3の潤滑油の相違点は、炭素粉末のラマン分光スペクトルにおけるGバンドに対するDバンドとの面積強度比が順次1.87、2.39、2.77となるようにした点である。そして、実施例1−1と同じように摩耗試験を行って、ブロック試験片の摩耗深さを測定した。この結果を図4,図5に示す。なお、実施例2−2については、摺動時間の経過に伴う潤滑油中の三酸化モリブデンの生成量を、リング試験片表面をXPS(X線電子分光分析)により測定した。この結果を図6に示す。
[比較例1−1,1−2]
実施例1−1と同じ基材を製作後、実施例1−1と同じようにして、この基材表面に、ラマン分光スペクトルにおけるDバンドとGバンドとの面積強度比が2.23となるように、成膜用の炭化水素系ガスの濃度及び流量、プラズマの印加電圧、基材温度等を調整して、非晶質炭素被膜を成膜した。また、リング試験片は実施例1−1と同じものを準備した。実施例1−1の如く潤滑剤を準備した。実施例1−1と比較例1−1,1−2の潤滑油の相違点は、炭素粉末のラマン分光スペクトルにおけるGバンドに対するDバンドとの面積強度比が順次1.64、1.87となるようにした点であり、非晶質炭素被膜の面積強度比よりも小さくした点である。そして、実施例1−1と同じ条件で、摩耗試験を行い、試験終了後のブロック試験片の摩耗深さを測定した。この結果を図4,図5に示す。
[比較例2−1〜2−4]
実施例1−1と同じ基材を製作後、実施例1−1と同じようにして、この基材表面に、ラマン分光スペクトルにおけるDバンドとGバンドとの面積強度比が2.77となるように、非晶質炭素被膜を成膜した。また、リング試験片は実施例1−1と同じものを準備した。実施例1−1と同様の潤滑剤を準備した。実施例1−1と比較例2−1〜2−4の潤滑油の相違点は、炭素粉末のラマン分光スペクトルにおけるGバンドに対するDバンドとの面積強度比が順次1.64、1.87、2.39、2.77となるようにした点であり、炭素粉末の面積強度比を非晶質炭素被膜の面積強度比以下にした点である。そして、実施例1−1と同様にして、実施例1−1と同じように、摩耗試験を行い、試験終了後のブロック試験片の摩耗深さを測定した。この結果を図4,図5に示す。
[比較例3]
実施例2−2と同じようにして、ブロック試験片とリング試験片とを製作した。実施例2−2と相違する点は、潤滑油中に、非晶質炭素材料からなる炭素粉末を含有しなかった点である。そして、実施例2−2と同じように、摩耗試験を行い、摺動時間に伴う潤滑油中の三酸化モリブデンの生成量を測定した。この結果を図6に示す。
[結果1]
図4に示すように、実施例1−1〜実施例1−4及び実施例2−1〜2−3の摩耗深さの方が、比較例1−1,比較例1−2,及び比較例2−1〜2−4のものに比べて、小さかった。
[結果2]
図5に示すように、特に、実施例1−3及び実施例1−4の摩耗深さの方が、実施例1−1及び実施例1−2のものに比べて小さかった。また、実施例2−2及び実施例2−3の摩耗深さの方が、実施例2−1のものに比べて小さかった。
[結果3]
図6に示すように、実施例2−2の三酸化モリブデンの生成量は、比較例3のものに比べて、摺動時間にかかわらず少なかった。
[評価1]
結果1が得られた理由としては、該炭素粉末のラマン分光スペクトルにおけるGバンドに対するDバンドの面積強度比を、非晶質炭素被膜の面積強度比よりも、大きくしたからであると考えられる。すなわち、非晶質炭素被膜に比べ炭素粉末のアモルファス構造の比率を大きくすることにより、三酸化モリブデンが、摺動部材の摺動時に、非晶質炭素被膜よりも、前記粉末と優先的に反応したからであると考えられる。この結果、三酸化モリブデンと非晶質炭素被膜との化学的な反応に起因した、非晶質炭素被膜の摩耗が抑制されたと考えられる。
また、結果2より、非晶質炭素被膜の耐摩耗性を向上させるためには、非晶質炭素被膜の面積強度比が1.0〜2.0の範囲にあり、前記炭素粉末の面積強度比が2.0〜3.0の範囲にあることがより好ましいと考えられる。
さらに、結果3が得られた理由としては、潤滑油に前記炭素粉末を含有させたことにより、アルキルジチオカルバミン酸モリブデンからの三酸化モリブデンの生成が抑制されたからであると考えられる。この点も加味して、非晶質炭素被膜の化学的な反応に起因した摩耗が抑制されたと考えられる。
[実施例3]
実施例2−1と同じブロック試験片とリング試験片と、これに給油する潤滑油を準備した。実施例2−1と異なる点は、潤滑油に含む炭素粉末の量を、図7に示すように、500ppm〜1000ppmにした点である。そして、実施例2−1と同様の摩耗試験を行った。この結果を図7に示す。
[比較例4,5]
実施例3と同じように、ブロック試験片とリング試験片と、これに給油する潤滑油を準備した。実施例3と異なる点は、比較例4は図7に示すような条件となるように潤滑油に含む炭素粉末の量を500ppmよりも少なくした点であり、比較例5は図7に示すような条件で潤滑油に含む炭素粉末の量を1000ppmよりも多くした点である。
[結果4]
実施例3の摩耗深さは、比較例4及び5の摩耗深さに比べて、小さかった。
[評価2]
結果4から、潤滑油には、前記炭素粉末が、500ppm〜1000ppm含まれていることがより好ましいと考えられる。また、炭素粉末が潤滑油に対して500ppmよりも少ない場合には、非晶質炭素被膜に対する炭素粉末の量が充分ではないため、非晶質炭素被膜の摩耗量は増加したと考えられ、炭素粉末が潤滑油に対して1000ppmよりも多い場合には、過剰に含有した炭素粉末により、非晶質炭素被膜が摩耗した可能性が高い。
[実施例4]
図8に示すように、実施例1−1と同じようにして、基材12の表面に非晶質炭素被膜11を形成したブロック試験片10Aを製作した。また、リング試験片20Bとして、実施例1と同じ基材21を準備し、該基材11を炉内に設置し、ロータリーポンプで炉内を減圧した後に、窒素ガス及び硫化水素ガスを導入し、さらに炉内の圧力条件を670Paで基材11の表面にグロー放電をさせた。なお、処理温度は、773K〜873Kの範囲にした。そして、処理時間を変化させることにより、図9に示す厚さの条件となるように、浸硫窒化処理皮膜22を形成した。また、潤滑油として、実施例1−1と同様のベース油にアルキルジチオカルバミン酸モリブデンを含有した、炭素粉末を含まない潤滑油30Bを準備した。そして、実施例1−1と同様の条件で、図8に示すように、ブロック試験片10Aと、リング試験片20Bとの間に、有機モリブデン化合物を含む潤滑油30Bを介在させるようにして、摩耗試験を行った。この結果を図9に示す。
[比較例6]
実施例4と同じように、ブロック試験片、リング試験片、及び潤滑油を準備した。実施例4と相違する点は、リング試験片の表面に浸硫窒化処理皮膜を形成していない(浸硫窒化処理皮膜の厚さが0μm)点である。そして、実施例4と同じ条件で摩耗試験を行った。この結果を図9に示す。
[結果5]
実施例4のブロック試験片の摩耗深さは、比較例6のものに比べて小さかった。また、被膜厚さが4μm以上であっても、ブロック試験片の摩耗深さは、それほど変化はなかった。
[評価3]
結果5から、浸硫窒化処理皮膜を形成することにより、非晶質炭素被膜の摩耗は抑制されたと考えられる。これは、硫黄元素を摺動面に含むことにより、摺動部材の摺動時において、アルキルジチオカルバミン酸モリブデンからの三酸化モリブデンの生成が抑制されたと考えられる。この結果、三酸化モリブデンと非晶質炭素被膜との反応を抑制し、三酸化モリブデンの化学反応に起因した非晶質炭素被膜の摩耗が抑制されたと考えられる。また、このような反応を抑制する元素としては、マグネシウム、チタン、及びカルシウムが考えられる。
また、皮膜を1μm以上にすることにより、より効率よく非晶質炭素被膜の化学的な反応による摩耗を抑制することができる。すなわち、前記皮膜厚みが1μmよりも薄い場合には、摺動時に皮膜が摩滅してしまうおそれがあり、前記皮膜厚みが4μmよりも厚い場合であっても、非晶質炭素被膜の摩耗をそれ以上低減させることはできないと考えられる。
[実施例5]
プレート試験片:図10に示すように、非晶質炭素被膜11を形成する基材12として、表面粗さを中心線平均粗さRa0.05μmにした58×38×3.9mmのステンレス鋼(SUS440C:JIS規格)を準備し、この基材12の58×38mmの表面に実施例1−1と同じようにして、水素元素を含む硬質炭素被膜11を成膜し、プレート試験片10Cを製作した。さらに、成膜された非晶質炭素被膜11に対して、イオン注入法により、硫黄元素をドープし、ドープ時の加熱温度及び処理時間を変更することにより、図12に示す層厚さの条件(1〜5μm)となるように、硫黄元素が20原子%添加された添加層13を形成し、プレート試験片10Cを製作した。
円筒試験片:直径6mm、厚さ12m、表面粗さをRa0.25μmのクロムモリブデン鋼(SCM420浸炭焼入れ:JIS規格)の円筒試験片20Cを製作した。
潤滑油:実施例1−1と同様のベース油にアルキルジチオカルバミン酸モリブデンを含有した、炭素粉末を含まない潤滑油30Bを準備した。
摩擦試験:図11に示すように、プレート試験片10Cのうち非晶質炭素被膜11が形成された摺動面に円筒試験片20Cを500Nの荷重条件で押し当てて、振幅幅4.6mm、振動数50Hzの条件で60分間、円筒試験片を摺動させると共に、油温度80℃にした前記潤滑油30Bが、図10に示すようにプレート試験片10Cと円筒試験片20Cとの間に介在するように、給油した。そして、試験修了後のプレート試験片10Cの摩耗量として摩耗深さを測定した。この結果を図12に示す。
[比較例7]
実施例7と同じように、プレート試験片及び円筒試験片を製作し、潤滑油を準備した。実施例7と異なる点は、プレート試験片の非晶質炭素被膜の表面に添加層を設けなかった点である。そして、実施例7と同条件の摩耗試験を行い、プレート試験片の摩耗深さを測定した。この結果を図12に示す。
[結果6]
図12に示すように、実施例5の摩耗深さは、比較例7のものよりも小さかった。また、実施例5のうち、添加層厚みが3μmを超えた場合であっても、プレート試験片の摩耗深さは、それほど変化はなかった。
[評価4]
結果6から、硫黄を含む添加層を非晶質炭素被膜の表層に形成することにより、非晶質炭素被膜の摩耗は抑制されたと考えられる。これは、評価3に示したのと同様に、硫黄元素を摺動面に含むことにより、摺動部材の摺動時において、アルキルジチオカルバミン酸モリブデンからの三酸化モリブデンの生成が抑制されたからであると考えられる。
また、添加層厚みを1μm以上にすることにより、より効率よく非晶質炭素被膜の化学的な反応による摩耗を抑制することができる。すなわち、添加層の厚みが1μmよりも小さい場合には、添加層が初期馴染み等によりすぐに摩滅してしまうと考えられる。また、添加層厚みを3μmより厚くした場合であっても、非晶質炭素被膜の摩耗量をそれ以上低減することは期待できないと考えられる。
[実施例6]
実施例5と同じように、プレート試験片、円筒試験片、及び潤滑油を準備した。実施例6が実施例5と相違する点は、非晶質炭素被膜の添加層の硫黄元素の含有量を、図13に示す添加元素の濃度条件(5原子%以上)となるように、硫黄元素をドープするための加熱温度と処理時間とを変更した点である。そして、実施例7と同条件の摩耗試験を行い、プレート試験片の摩耗深さを測定した。この結果を図13に示す。
[比較例8]
実施例6と同じように、プレート試験片及び円筒試験片を製作し、潤滑油を準備した。実施例6と異なる点は、プレート試験片の非晶質炭素被膜の表面に添加層を設けなかった点である。そして、実施例7と同条件の摩耗試験を行い、プレート試験片の摩耗深さを測定した。この結果を図13に示す。
[結果7]
図13に示すように、実施例6の摩耗深さは、比較例8のものよりも小さかった。また、実施例6のうち、添加元素の添加量が20原子%を超えた場合であっても、プレート試験片の摩耗深さは、それほど変化はなかった。
[評価5]
結果7から、添加元素の添加量を5原子%以上にすることにより、より効率よく非晶質炭素被膜の化学的な反応による摩耗を抑制することができる。すなわち、添加層の厚みが5原子%よりも小さい場合には、非晶質炭素被膜の摩耗が促進され、20原子%よりも多くしたとしても、それ以上の効果は期待できないと考えられる。また、図13の非晶質炭素被膜の摩耗深さから、前記添加元素の添加量は10〜20原子%であることがさらに好ましい。
本発明に係る摺動構造は、ピストンリングとシリンダを組み合わせたエンジンの摺動部、カムとカムフォロアを組み合わせたカムリフタの摺動部など、摺動する頻度が高く、耐摩耗、及び、低摩擦が要求されるような環境において使用することが好ましい。
実施例1−1におけるラマンスペクトルのDバンドとGバンドを測定した結果を示した図。 実施例1−1の摺動構造を説明するための図。 実施例1−1の摩擦摩耗試験を説明するための図。 実施例1−1〜1−4、実施例2−1〜2−3、比較例1ー1,1−2、及び比較例2−1〜2−4の摩耗試験結果を示した図。 図4に示す結果に基づいて炭素粉末の面積強度比と摩耗深さの関係を示した図。 実施例2−2及び比較例3の三酸化モリブデンの生成量を測定した結果を示した図。 実施例3、比較例4、及び比較例5の摩耗試験結果を示した図。 実施例4の摺動構造を説明するための図。 実施例4及び比較例6の摩耗試験結果を示した図。 実施例5の摺動構造を説明するための図。 実施例5の摩擦摩耗試験を説明するための図。 実施例5及び比較例7の摩耗試験結果を示した図。 実施例6及び比較例8の摩耗試験結果を示した図。 非晶質炭素被膜の化学的な反応による摩耗発生のメカニズムを説明するための図。
符号の説明
10A:ブロック試験片(一方の摺動部材),11B:プレート試験片(一方の摺動部材),11:非晶質炭素被膜,12:基材,20A,20B:リング試験片,20C:円筒試験片,21:基材,22:浸硫窒化処理皮膜,30A:(炭素粉末を含む)潤滑油,30B:(炭素粉末を含まない)潤滑油,31:ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン(有機モリブデン)を含む潤滑油,32:炭素粉末,40:油浴層

Claims (10)

  1. 少なくとも一方の摺動面に水素元素を含む非晶質炭素被膜が形成されている一対の摺動部材と、該一対の摺動部材の間に存在し、有機モリブデン化合物を少なくとも含む潤滑油と、を少なくとも備えた摺動構造であって、
    前記潤滑油は、摺動時に前記有機モリブデン化合物から生成される三酸化モリブデンに対して、前記非晶質炭素被膜よりも反応性の高い粉末を含有していることを特徴とする摺動構造。
  2. 前記粉末は、非晶質炭素材料からなる炭素粉末であり、
    該炭素粉末のラマン分光スペクトルにおけるGバンドに対するDバンドの面積強度比は、非晶質炭素被膜の面積強度比よりも、大きいことを特徴とする請求項1に記載の摺動構造。
  3. 前記非晶質炭素被膜の面積強度比が1.0〜2.0の範囲にあり、前記炭素粉末の面積強度比が2.0〜3.0の範囲にあることを特徴とする請求項2に記載の摺動構造。
  4. 前記炭素粉末は、潤滑油に500ppm〜1000ppm含まれていることを特徴とする請求項2または3に記載の摺動構造。
  5. 一方の摺動部材の摺動面に水素元素を含む非晶質炭素被膜が形成された一対の摺動部材と、該一対の摺動部材の間に存在する有機モリブデン化合物を少なくとも含む潤滑油と、を少なくとも備えた、摺動構造であって、
    前記一対の摺動部材のうち少なくとも一方の摺動面は、前記有機モリブデン化合物からの三酸化モリブデンの生成を抑制するための抑制元素を含むことを特徴とする摺動構造。
  6. 前記抑制元素は、硫黄、マグネシウム、チタン、又はカルシウムのうち少なくとも一種の元素であることを特徴とする請求項5に記載の摺動構造。
  7. 前記他方の摺動部材は、鉄系材料からなる摺動部材であり、該摺動部材には、前記抑制元素を含有した皮膜が形成されており、該皮膜の厚みは、1〜4μmの範囲にあることを特徴とする請求項5又は6に記載の摺動構造。
  8. 前記一方の摺動部材の前記非晶質炭素被膜の表層には、前記抑制元素を5〜20原子%添加した添加層が形成されていることを特徴とする請求項5又は6に記載の摺動構造。
  9. 前記添加層の厚みは、1〜3μmの範囲にあることを特徴とする請求項8に記載の摺動構造。
  10. 前記有機モリブデン化合物は、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン(Mo−DTC)またはジチオリン酸モリブデン(Mo−DTP)であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の摺動構造。
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