JP2011052238A - 摺動部品 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】基材と基材上に形成された硬質皮膜とを備えた摺動部品であって、前記硬質皮膜の最表面層(表層)に窒素と金属元素とを添加した非晶質炭素被膜を設けたことにある。前記表層は、金属の炭化物,窒化物,炭窒化物よりなる結晶体と、非晶質炭素相との複合体よりなる。硬質皮膜の膜厚は0.5〜8μmであり、表層の表面硬度はビッカース硬度で1800以上とすることが好ましい。
【選択図】 図1
Description
itride coatingsに関して記載しており、窒素雰囲気中で低摩擦特性を持つことが開示されている。非晶質中で珪素や窒素が炭素を置換した構造を形成して高靭性を保持し、かつ
炭素同士の結合が相対的に減少することで化学反応に対する抑止力を持ちうる。
性を有することが開示されている。特開2006−2221号公報(特許文献5)には、5〜16at%のクロムを添加した非晶質炭素皮膜が、劣潤滑下で油性剤のなじみ性を向上させて低摩擦特性を有するとしている。これらの構成によれば、潤滑油中で低摩擦を有し、かつ金属炭化物を生成した構造を持つために化学反応に対する抑止力を持ちうる。
ical behaviors of diamond-like carbon coatings on plasma nitrided steel using three BN-containing lubricants”, Applied Surface Science, 255, 13-14(2009), pp666
6-6674(非特許文献3)は、Mo−DTCを含有する潤滑油中において発生する非晶質炭素皮膜の化学摩耗に関して記載している。Mo−DTCは摺動環境下で熱分解し、二硫化モリブデンと酸化モリブデンを生成することが知られているが、これらの文献では三酸化モリブデンが非晶質炭素皮膜の化学摩耗に寄与しているとしている。なお、摩耗メカニズムは検討段階であり、非特許文献2では三酸化モリブデンと非晶質炭素皮膜との間で酸化還元反応が起こり、非晶質炭素皮膜は炭酸ガスなどに変化するとしているのに対し、非特許文献3では、硬質で鋭利形状を持つ三酸化モリブデンによって非晶質炭素皮膜が機械摩耗するとしている。
反応性スパッタ法では、炉内異物の付着や異常放電によって硬質皮膜にクレータが発生することがある。まず、同スパッタ装置にて直径10μm以上のクレータを有する硬質皮膜を作製し、Mo−DTC非含有のエンジンオイル(粘度指標:5W−30)を用いた往復摺動試験に供したところ、クレータを起点とする界面剥離が発生・拡大し、鉄鋼基材が大きく露出した。この結果を鑑みて、後述の表1に記載された摺動部材のサンプル(実施例1〜11および比較例1〜9)は全てクレータが発生しない条件で作製した。
実施例1の摺動部材サンプルの作製方法は下記のとおりである。マグネトロンスパッタ装置内に、鉄鋼基材と、金属ターゲットおよびグラファイトターゲットと、アルゴンガス,炭化水素ガスおよび窒素ガスを流入する導入管を配し、反応性スパッタ法により、鉄鋼基材表面に硬質皮膜を形成した。
実施例1と同様に、実施例2〜11および比較例1〜9のサンプルも、それぞれの組成をとるようにターゲット投入電力とガス流量を調整し、それぞれの膜厚となるように成膜時間を調整した。
比較例10は、アークイオンプレーティング装置内に、グラファイトターゲットを配し、鉄鋼基材表面に硬質皮膜を作製した例である。まず、グラファイトターゲットをカソードとして電力を投入してアーク放電を起こし、非晶質の単層膜を作製した。次に、成膜中に膜表面に付着したドロップレット(ターゲットから発生する炭素塊)を取り除くために、炉から取り出した試験片をラッピング処理した。硬質皮膜は、水素およびアルゴンを含まず、炭素が100at%であり、膜硬度が8000Hvであった。
上記実施例1〜11,比較例1〜10で作製したサンプルの硬質皮膜の組成,ミクロ構造,膜硬度および膜厚を観察した。表1は実施例および比較例を比較説明する表であり、硬質皮膜の表層組成,結晶体の有無,置換構造の有無,膜硬度および膜厚と、Mo−DTCを添加したエンジンオイル(粘度指標:0W−20)中での往復摺動試験結果を示す。結果は表1の通りである。比較例1〜9では耐摩耗性が不足であるのに対し、実施例1〜11は耐摩耗性を有すると共に低い摩擦係数を示した。また、いずれの膜表面もクレータが存在しない平滑面であったが、比較例10のサンプルの膜表面には直径1μm以上のクレータが数密度〜106個・mm2で存在し、直径10μm以上の大きいクレータが数密度〜103個・mm2で存在した。比較例10はアークイオンプレーティング法で作製したため、ドロップレットを取り除いた痕である多数のクレータを有する。
往復摺動試験は下記の方法で実施した。図6は往復摺動試験の模式図を示す。往復摺動試験は、円筒状試験片6(材質:鋳鉄,形状:4mmφ×11mm)の側面と短冊状試験片1(材質:Cr−Mo合金鋼,形状:50mm×15mm×5mmt)の表面とを線接触させ、接触面にエンジンオイルを1.0ml・sec-1の速度で金属管7から滴下し、短冊状試験片1を往復可動させて実施した。硬質皮膜2は表面粗さがRa=0.02μmである短冊状試験片の鉄鋼基材3の表面に形成した。摺動条件として、面圧は822MPa(荷重784N)、速度は0〜1.6m/sec、摺動開始温度は110℃、摺動幅は30mmとした。短冊状
試験片の温度は試験前に加熱して初期温度を110℃となるように設定し、摺動中は摩擦熱によって100〜150℃であった。往復回数を1.8×106回とした本摺動試験を実施し、膜表面に0.1mm以上の大きさの剥離箇所が確認されない場合は、実際の製品でも十分の耐久性を有すると判断した。
図10は硬質皮膜を成膜した鉄鋼基材表面にロックウェル圧子を押込んだときのロックウェル圧痕周囲の観察像を示す。密着性の悪い皮膜を観察した場合、圧痕周囲に界面剥離が確認される。実施例1〜11および比較例1〜10は剥離が確認されない。ただし、圧痕周囲に剥離の起点となるクラックが確認されるものがあり、これは靭性が低いと判断できる。金属,窒素を含まない無添加の例(比較例1)および炭化物を持たないアルミニウム添加の例(比較例7)の非晶質炭素皮膜は高硬度でありながら高靭性を有しているため、クラックの発生が見られない。これに対し、チタン,クロムおよびタングステンを過剰に添加した非晶質炭素皮膜(図10中の比較例5および6)は、結晶体の体積が大きくなることで靭性を損ね、クラックの発生が確認できる。これらの皮膜は往復摺動試験にて界面剥離が発生し、機械摩耗が深刻化する。したがって、比較例2〜6では、摩滅幅を減少させることが可能であるものの、界面剥離が発生し、これらを両立した皮膜を作製することはできない。
反応性スパッタ法を用いて、添加元素の添加量を変え比較例8,9のサンプルを作製した。金属と窒素を複合添加した非晶質炭素皮膜(実施例1〜11および比較例8,9)を比較検討すると、実施例1〜11は優れた耐摩耗性を有するが、金属および窒素添加量が少ない比較例8では摩滅に対する耐久性が不足し、金属添加量が多い比較例9では硬度が低く界面剥離に対する耐久性が不足した。従って、添加元素の添加量および皮膜硬度を適正に保持し、炭素濃度が59at%以上,金属濃度が0.5〜38at%、窒素濃度が0.1〜35at%、膜硬度がHv1800以上の範囲とすることで、低摩擦特性と耐久性を両立させることが可能である。結晶体の化学両論組成における金属濃度は、例えばTiNで50at%Ti、Cr3C2で60at%Crであり、50〜60at%の範囲にあると考えてよい。結晶体と非晶質体とは原子密度に差が無く、かつ結晶体は化学両論組成を持つと仮定すると、金属濃度の測定値から結晶体と非晶質体との体積比が概算できる。金属濃度が0.5〜38at%であるとき、膜中で結晶体が占める体積率は0.8〜76vol%である。ただし結晶体と非晶質体が積層した構造を持つときは結晶体と非晶質体が同程度の体積を持つ必要があり、膜中で結晶体が占める体積率は30〜76vol%である。
2 硬質皮膜
3 鉄鋼基材
4 窒素含有非晶質炭素
5 炭化物,窒化物および炭窒化物のいずれか1種類以上からなる結晶体
5a 微粒子状の結晶体
5b 層状の結晶体
6 摺動相手材(円筒状試験片)
7 エンジンオイル滴下用の金属管
20 表層
21,22,23 中間層
Claims (10)
- 基材と、前記基材の表面に形成された硬質皮膜を備えた摺動部品であって、
前記硬質皮膜は、最表面部に金属元素,窒素および炭素を主成分とし、かつ結晶体と非晶質炭素との複合体よりなる表層を備え、前記結晶体は金属炭化物,金属窒化物および金属炭窒化物のいずれかまたは複数よりなり、前記非晶質炭素は窒素を含有し、
前記表層の表面硬度はビッカース硬度で1800以上であり、
前記硬質皮膜の膜厚は0.5〜8μmであることを特徴とする摺動部品。 - 請求項1に記載された摺動部品であって、
前記硬質皮膜は前記表層と、前記表層の内側に形成された複数の中間層を有し、
前記中間層は基材側より金属からなる第一の中間層と、金属と金属炭化物からなる第二の中間層と、金属炭化物と非晶質炭素からなる第三の中間層とを備えることを特徴とする摺動部品。 - 請求項1または2に記載された摺動部品であって、
前記表層に含まれる金属元素はCr,TiおよびWの少なくともいずれかであり、前記表層は25at%以下の水素、18at%以下の酸素、5at%以下のアルゴンを含むことを特徴とする摺動部品。 - 請求項1ないし3のいずれかに記載された摺動部品であって、
前記表層は、金属元素,窒素および炭素の合計を100at%とした場合の比で、炭素元素が59at%以上であり,金属元素が0.5〜38at%、窒素が元素0.1〜35at%の範囲で含まれることを特徴とする摺動部品。 - 請求項1ないし4のいずれかに記載された摺動部品であって、
前記結晶体は、微粒子形状であって、表層中の体積率が0.8〜76vol%であり、前記結晶体の粒径は0.1〜50nmであり、前記結晶体の数密度が102〜1012個・μm-3であることを特徴とする摺動部品。 - 請求項1ないし4のいずれかに記載された摺動部品であって、
前記表層は、前記結晶体と前記非晶質炭素が積層された形状であり、前記表層中に含まれる前記結晶体の体積率は30〜76vol%であり、前記積層された結晶体の層幅は1〜50nmであり、前記非晶質炭素の層幅は0.3〜117nmであることを特徴とする摺動部品。 - 請求項1ないし6のいずれかに記載された摺動部品であって、内燃機関内に配されるバルブリフタ,アジャスティングシム,カム,カムシャフト,ロッカーアーム,タペット,ピストン,ピストンピン,ピストンリング,タイミングギア,タイミングチェーン、およびオイルポンプのドライブギア,ドリブンギアまたはロータのいずれかを構成する部品であることを特徴とする摺動部品。
- 請求項1ないし6のいずれかに記載された摺動部品であって、
内燃機関内で、潤滑油を使用した摺動環境下で使用されることを特徴とする摺動部品。 - 請求項8において、前記潤滑油はジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンを含有することを特徴とする摺動部品。
- 鉄鋼からなる基材と、前記基材の表面に形成された硬質皮膜を備えた摺動部品の製造方法であって、前記硬質皮膜は、グラファイトターゲットと、Cr,TiおよびWから選ばれる1種類以上の金属元素を含むターゲットと、炭化水素ガスと窒素ガスを用い、反応性スパッタ法を用いて作製されていることを特徴とする摺動部品の製造方法。
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