JP2011052238A - 摺動部品 - Google Patents

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Abstract

【課題】潤滑油中で使用され、機械摩耗および化学摩耗の両方に対して耐久性を有する摺動部品を提供することにある。
【解決手段】基材と基材上に形成された硬質皮膜とを備えた摺動部品であって、前記硬質皮膜の最表面層(表層)に窒素と金属元素とを添加した非晶質炭素被膜を設けたことにある。前記表層は、金属の炭化物,窒化物,炭窒化物よりなる結晶体と、非晶質炭素相との複合体よりなる。硬質皮膜の膜厚は0.5〜8μmであり、表層の表面硬度はビッカース硬度で1800以上とすることが好ましい。
【選択図】 図1

Description

本発明は、潤滑油を使用した摺動環境下で使用される摺動部品に関する。
自動車部品を中心に非晶質炭素皮膜を摺動面に形成した摺動部品が開発されている。非晶質炭素は、DLC(ダイヤモンドライクカーボン),i−C(アイカーボン),硬質炭素などと呼称される薄膜状の材料であり、低摩擦,高硬度および高靭性を有する。非晶質炭素皮膜を摺動面に形成した摺動部品は、燃費の低減や部品の長寿命化に寄与する。
非晶質炭素皮膜は、一般的に炭素と水素で構成される硬質皮膜であるが、第三元素を添加した非晶質炭素皮膜も複数提案されている。珪素や窒素が炭素を置換した構造により、高靭性を保持し、かつ炭素同士の結合が相対的に減少することで化学反応に対する抑止力を持ちうる。
特開2007−23356号公報(特許文献1)には、30〜50at%の水素と1.5〜20at%の珪素とを含有し、大気中で低摩擦特性を持つ非晶質炭素皮膜について記載されている。WO2003−029685(特許文献2)には、〜50at%の範囲で珪素または窒素の少なくともいずれかを含有し、潤滑油中で高い摩擦係数を持つ非晶質炭素皮膜について記載されている。“Friction, wear and N2-lubrication of carbon nitride coatings: a review”(非特許文献1)には、炭素と窒素からなる非晶質膜であるcarbon n
itride coatingsに関して記載しており、窒素雰囲気中で低摩擦特性を持つことが開示されている。非晶質中で珪素や窒素が炭素を置換した構造を形成して高靭性を保持し、かつ
炭素同士の結合が相対的に減少することで化学反応に対する抑止力を持ちうる。
また、特開2005−60416号公報(特許文献3)には、潤滑油を使用した摺動環境下で低摩擦特性を持つ非晶質炭素皮膜が提案されている。水素を含有しない非晶質炭素皮膜を、エステル系無灰油性剤を添加した潤滑油環境下で使用するため、高硬度特性および高靭性を有するとともに、低摩擦特性を有する。潤滑油中での低摩擦特性,ダイヤモンドに近い高硬度特性および高靭性を有する。
特開2001−316686号公報(特許文献4)には、5〜70at%の元素周期律表の第IIb,III,IV,Va,VIa,VIIaおよびVIII族のうちから選ばれる金属元素を添加した非晶炭素皮膜がMo−DTCおよびZn−DTPを添加した潤滑油環境下で低摩擦特
性を有することが開示されている。特開2006−2221号公報(特許文献5)には、5〜16at%のクロムを添加した非晶質炭素皮膜が、劣潤滑下で油性剤のなじみ性を向上させて低摩擦特性を有するとしている。これらの構成によれば、潤滑油中で低摩擦を有し、かつ金属炭化物を生成した構造を持つために化学反応に対する抑止力を持ちうる。
非晶質炭素皮膜は、結晶欠陥や粒界を持たないアモルファス構造であるために、高硬度と高靭性を両立し、かつ低摩擦特性を有する。従って、TiNやCrNなどの結晶性の硬質皮膜と比較して機械摩耗に対する耐久性が優れている。そのため上記に示すような非晶質炭素を母体とした様々な形態の硬質皮膜が開発されている。しかし一方で、非晶質炭素皮膜は、化学反応が発生する摺動環境において、化学摩耗を起こす。
T.Shinyoshi et al.: “Wear analysis of DLC coating in oil containing Mo-DTC”, SAE Tech. Pap. Ser., SAE 2007-01-1969(非特許文献2)、Z.Jia et.al: ” Tribolog
ical behaviors of diamond-like carbon coatings on plasma nitrided steel using three BN-containing lubricants”, Applied Surface Science, 255, 13-14(2009), pp666
6-6674(非特許文献3)は、Mo−DTCを含有する潤滑油中において発生する非晶質炭素皮膜の化学摩耗に関して記載している。Mo−DTCは摺動環境下で熱分解し、二硫化モリブデンと酸化モリブデンを生成することが知られているが、これらの文献では三酸化モリブデンが非晶質炭素皮膜の化学摩耗に寄与しているとしている。なお、摩耗メカニズムは検討段階であり、非特許文献2では三酸化モリブデンと非晶質炭素皮膜との間で酸化還元反応が起こり、非晶質炭素皮膜は炭酸ガスなどに変化するとしているのに対し、非特許文献3では、硬質で鋭利形状を持つ三酸化モリブデンによって非晶質炭素皮膜が機械摩耗するとしている。
特開2008−195903号公報(特許文献6)には、Mo−DTCなどの有機モリブデン化合物を含有する潤滑油中において発生する非晶質炭素皮膜の化学摩耗を抑制する摺動構造を記載している。また、三酸化モリブデンよりも高反応性を有する粉末を潤滑油に混入し、犠牲反応によって化学摩耗を抑制できること、硫黄,マグネシウム,チタン、またはカルシウムのうちの少なくとも1種類の元素を添加した非晶質炭素膜を作製し、摺動中に摩耗粉を排出することで粉末を投入する方法が開示されている。
特開2007−23356号公報 WO2003/029685号公報 特開2005−60416号公報 特開2001−316686号公報 特開2006−2221号公報 特開2008−195903号公報
K.Koto, et al.: "Friction, wear and N2-lubrication of carbon nitride coatings: a review", Wear, 254 (2003), pp.1062-1069 T.Shinyoshi et al.: "Wear analysis of DLC coating in oil containing Mo-DTC", SAE Tech. Pap. Ser., SAE 2007-01-1969 Z.Jia et.al: " Tribological behaviors of diamond-like carbon coatings on plasma nitrided steel using three BN-containing lubricants", Applied Surface Science, 255, 13-14(2009), pp6666-6674
特許文献1,2および非特許文献1に記載された硬質被膜は、潤滑油中での摩擦係数が高い。特許文献3に記載された硬質被膜は、化学摩耗に対する抑止力が無い。特許文献4,5に記載されたような硬質皮膜では、摺動環境の負荷が大きい場合に金属添加量の制御で機械摩耗と化学摩耗を両立することはできない。過剰な金属添加で金属炭化物の体積が増大して非晶質の体積が減少すると、非晶質特有の高靭性が損なわれて機械摩耗が発生する可能性がある。また、特許文献6では、膜硬度を500Hv以下に低下させて、皮膜の摩耗粉の排出を生じさせるため、機械摩耗が進行する。
そこで本発明の課題は、潤滑油中で使用される摺動部品であって、摺動環境下において低摩擦特性を有し、機械摩耗および化学摩耗の両方に対して耐久性を有するものを提供することにある。
上記課題を解決する本願発明の特徴は、基材と基材上に形成された硬質皮膜とを備えた摺動部品であって、前記硬質皮膜の最表面層(表層)に窒素と金属元素を添加した非晶質炭素被膜を設けたことにある。添加された窒素は、金属との窒化物として、もしくは炭素被膜中で一部の炭素と置換されて混在する。添加された金属は、窒化物,炭化物もしくは炭窒化物となり、結晶体を形成する。したがって、前記表層は、金属の炭化物,窒化物,炭窒化物よりなる結晶体と、非晶質炭素相との複合体よりなる。
基材には種々の材料が使用できるが、内燃機関用の摺動部品では一般的に鉄鋼が使用される。硬質皮膜の膜厚は0.5〜8μmであり、表層の表面硬度はビッカース硬度で1800以上とすることが好ましい。
硬質炭素被膜は、中間層を設けた構造としてもよい。中間層は、基材側で金属成分とし、表層まで成分が傾斜的に変化することが密着性向上等のために好ましい。したがって、最内部分では金属、その上層で金属と金属炭化物よりなる。次に、炭素の比率が増えることにより金属炭化物と非晶質炭素になる。
金属元素としては、炭化物,窒化物を形成するCr,TiおよびWのいずれか、もしくは複数であることが好ましい。表層に含まれる金属元素,窒素の含有量は、金属,窒素,炭素の合計量を100at%とした場合に、炭素元素が59at%以上であり、残部に金属元素が0.5〜38at%、窒素が元素0.1〜35at%の範囲で含まれることが好ましい。表層には他の成分として水素,酸素,アルゴンなどを含んでもよいが、水素25at%以下,酸素18at%以下,アルゴン5at%以下とする。
表層に含まれる結晶体は、微粒子状態もしくは積層状態で含まれる。微粒子形状の場合は、体積率が0.8〜76vol%であり、数密度が102〜1012個・μm-3であり、粒径は0.1〜50nmであることが好ましい。積層状態で含まれる場合には、体積率は30〜76vol%であり、結晶体の層幅は1〜50nm、非晶質炭素部分の層幅は0.3〜117nmであることが好ましい。これらミクロ構造は透過型電子顕微鏡による膜断面観察、X線回折法およびX線光電子分光法による膜表面分析によって解析することができる。
本発明の摺動部品は、内燃機関の摺動部、特に潤滑油を使用した摺動環境下で使用されるものに好適である。摺動部を有する部品として、バルブリフタ,アジャスティングシム,カム,カムシャフト,ロッカーアーム,タペット,ピストン,ピストンピン,ピストンリング,タイミングギア,タイミングチェーン,オイルポンプのドライブギア,ドリブンギアまたはロータなどがある。
他の本発明の特徴は、摺動部品の製造方法であって、基材に反応性スパッタ法を用いて、炭化水素ガス,窒素ガスを適宜調整して供給し、グラファイトターゲット,金属ターゲットを組み合わせて硬質皮膜を形成することを特徴とする。
本発明によれば、低摩擦特性に優れ、耐機械摩耗性と耐化学摩耗性を両立した摺動部品を提供することが可能となる。
表層に結晶体を微粒子状に分布した摺動部品の断面の構造。 表層に結晶体を層状に分布した摺動部品の断面の構造。 透過型電子顕微鏡による表層断面の明視野像。 透過型電子顕微鏡による表層断面の高分解能像。 表層のX線光電子分光スペクトル。 往復摺動試験の試験装置の模式図。 摺動試験後の硬質皮膜の表面の観察像。 摩滅による摩耗幅(相対値)。 Mo−DTC添加エンジンオイル中摺動試験における摩擦係数。 ロックウェル圧痕周囲の観察像。
本発明者らは、Mo−DTCを添加したエンジンオイル環境下で、摺動部品の摺動試験を行い、化学摩耗を起こす本質的要因を把握した。非晶質炭素皮膜の化学摩耗メカニズムは、(1)摩擦熱による膜表面の脆弱化、(2)化学反応による脆弱化の加速、および(3)脆弱化箇所の機械摩耗、によって説明できる。
非晶質炭素は350℃以上の温度で熱処理した場合、ラマンスペクトルでD−Peak強度が大きくなる構造変化が確認され、熱力学的に安定で機械的に脆弱なミクロ構造へ変化する。摺動中の膜表面は摩擦熱によって加熱されて脆弱化するが、(2)の化学反応を含まない摺動環境下では、ごく最表の箇所に限られて著しい機械摩耗は確認されない。しかし、酸化反応などの化学反応が発生する摺動環境下では、原子の相互移動が大きくなり、安定な脆弱構造への構造変化が加速され、著しい機械摩耗が発生する(なお、この摩耗現象は熱化学反応と機械摩耗とが複合的に介在した現象であるが、本報告では「化学摩耗」と称することにする。)。
自動車部品などが置かれる潤滑油を使用した摺動構造において、低燃費性能や部品寿命を十分に確保するためには、潤滑油中での低摩擦特性と、高硬度特性と、高靭性と、前記の熱化学反応に対する抑止力とを併せ持つ硬質皮膜を開発し、これを摺動面に形成した摺動部品を提供することが望まれる。
本発明者らは、前記の通り、非晶質炭素皮膜の化学摩耗を引き起こす本質的要因を把握したことで、該化学摩耗を抑止できるミクロ構造を見出した。非晶質炭素皮膜固有の化学摩耗を抑止するミクロ構造は、金属炭化物,金属窒化物および金属炭窒化物のいずれか1種類以上からなる結晶体を有した構造と窒素原子によって炭素原子を置換した非晶質構造とを併せ持つ構造であり、特に金属窒化物および金属炭窒化物は熱化学反応に対する安定性に優れるため、化学摩耗の抑止効果が大きい。
そこで、本発明は、潤滑油中で低摩擦特性と、機械摩耗および化学摩耗の両方に耐久性を有する硬質皮膜2を鉄鋼基材3の摺動面に形成した摺動部品1を特徴とする。硬質皮膜は、本来高硬度かつ高靭性を有する非晶質炭素を主体とし、脆弱化を抑止する前記ミクロ構造を付加した複合体である。これにより機械摩耗および化学摩耗の両方に対して耐久性を持ち、同時に金属元素を適量添加することによって、油性添加剤,極圧添加剤および摩擦低減剤などの反応を活発化し、これらの添加剤を含む潤滑油中での使用においても低摩擦特性を維持できる。
硬質皮膜2の表層20は、金属炭化物,金属窒化物および金属炭窒化物のいずれか1種類以上の結晶体5と、窒素を含有する非晶質炭素4との複合体である。膜硬度はビッカース硬度で1800以上であることが好ましい。これに満たない場合は、摺動中の鉄鋼基材の変形量が増大し、硬質皮膜が追随できずに界面剥離を引き起こす。表層20は、クロム,チタン、およびタングステンから選ばれる1種類以上の金属元素,窒素および炭素と、膜形成時に混入する25at%以下の水素と、5at%以下のアルゴンと、膜形成後に混入する18at%以下の酸素とから構成され、水素,酸素およびアルゴンを除く全組成中で、炭素元素が59at%以上であり、残部に金属元素が0.5〜38at%、窒素が元素0.1〜35at%の範囲で含有される。
表層に含まれる結晶体を構成する金属元素は、硬質の炭化物または窒化物を形成するクロム,チタンおよびタングステンとする。表層はこれらの金属元素と窒素と炭素と、その他の不純物で構成される。例えば、膜形成中に混入する水素は25at%以下、アルゴンは5at%以下、酸素は18at%以下の範囲とすることが好ましい。水素が混入しても、60at%以下に制御すれば皮膜を形成することが可能であるが、25〜60at%の高水素濃度領域では高分子性の結合を多く含む脆弱な膜になり、機械摩耗が深刻である。アルゴンは本来不活性元素であるが、成膜装置内で励起することにより5at%以下の範囲で混入することがある。この範囲であれば、皮膜の特性に大きく寄与しない。摺動部品を大気中に曝露すると、酸素は酸化膜や表面汚染物を形成すると同時に硬質皮膜内にも侵入して膜最表面では18at%以下の範囲で混入することがあるが、膜表面から深さ0.1μmの位置では2at%以下である。この範囲であれば、皮膜の特性に大きく寄与しない。
本発明の硬質皮膜は単層膜でも良いが、上記の表層に加え、組成が傾斜的に変化している中間層を設けた多層膜にするとさらに優れた特性を発現する。硬質皮膜2は、金属からなる中間層21と、金属と金属炭化物からなる中間層22と、金属炭化物と非晶質炭素からなる中間層23と、前記の表層20とからなる多層膜であることが望ましく、特に、多層膜の深さ方向の組成プロフィールを鉄鋼基材3との界面から最表面まで連続的に変化させた構造を持つ多層膜であることが望ましい。中間層は上部ほど表層に近い組成を有する。その結果、この多層膜で応力が緩和され、鉄鋼基材との密着性向上により界面剥離を抑止して高密着性を得ることができ、機械摩耗を防止する。
図1,図2に中間層を設けた例を図示する。図1は鉄鋼基材3と中間層21と中間層22と中間層23と表層20とからなる摺動部品であり、3層の中間層の組成は傾斜構造を有しており、表層20は炭素を含む非晶質4内に結晶体5aの微粒子が分散した構造を有する。図2は鉄鋼基材3と中間層21と中間層22と中間層23と表層20とからなる摺動部品であり、3層の中間層の組成は傾斜構造を有しており、表層20は炭素を含む非晶質4と結晶体5bとが積層した構造を有する。
硬質皮膜2の膜厚は単層膜/多層膜の区別に関わらず0.5〜8μmであることが好ましい。これより小さい場合は、十分に耐摩耗性を確保することができず、これより大きい場合は、内部応力の増大によって密着性の確保が困難になる。
硬質皮膜の作製方法には、スパッタ法,プラズマCVD法およびイオンプレーティング法などが存在する。特に、硬質皮膜2は、硬質かつ平滑な皮膜を作製できる反応性スパッタ法を用いて作製することが望ましい。スパッタ法は、膜表面を平滑に作製でき、かつ金属元素,窒素および炭素を複合した硬質皮膜を作製しやすい成膜方法である。またイオン化し難い炭素を供給するために炭化水素ガスを用いて反応性スパッタ法を実施することにより、より硬質の皮膜を作製することができる。スパッタ装置に鉄鋼基材3とグラファイトターゲットと金属元素が含まれるターゲットとを配し、炭化水素ガスと窒素ガスとアルゴンガスを流入させて作製する。なお、硬質皮膜の表面には、直径が10μm以上のクレータが存在しない平滑面とすることが望ましい。直径が10μm以上の大きいクレータが存在する場合、摺動中にクレータを起点として界面剥離が発生し、機械摩耗が深刻化する。
非晶質体と結晶体との複合体である表層において、非晶質体は粒形状をとることが困難であり、結晶体が非晶質体中で微粒子状または層状のいずれかのミクロ構造を有して分布する。ミクロ構造は、結晶体と非晶質体の体積が同程度のときに層状組織を形成しやすいが、成膜中における鉄鋼基材の移動速度,真空度,ターゲット電力,基材バイアス電圧などのプロセスパラメータによっても制御できる。
結晶体5は、微粒子状または層状に分布するいずれのミクロ構造でも良特性を有する。微粒子状の場合は、最表面に結晶体・非晶質体の両方を有し、化学摩耗と機械摩耗の両方に耐久性を持つ。層状の場合は、耐化学摩耗性効果の大きい結晶体と耐機械摩耗性効果の大きい非晶質体とが順次表面に現れて摩耗速度を遅くすることができ、これも化学摩耗と機械摩耗の両方に耐久性を持つ。
結晶体が微粒子状に分布した場合は、結晶体が占める体積率が0.8〜76vol%、粒径が0.1〜50nm、数密度が102〜1012個・μm-3の範囲にある結晶体5aを有する。微粒子の直径は、金属結晶学で知られるHall-Petchの式に類似の強化機構により、小さいほど高靭性が得られ、非晶質炭素中に結晶粒を作製する場合は0.1nmまで小さくすることが可能であるが、50nm以下であれば十分に機械摩耗を防止できる。このとき微粒子の数密度は102〜1012個・μm-3の範囲に制御される。層状に分布する場合は、体積率が30〜76vol%,層幅1〜50nm,層間隔(非晶質炭素の層幅)0.3〜117nmの範囲にある結晶体5bを有する。結晶体の体積率がこれに満たない場合は、層状のミクロ構造を形成できない。結晶体の層幅は、小さいほど基材変形に対する追随性が増して界面剥離を抑止でき、1nmまで小さくすることが可能であるが、膜厚に対して1/10より小さい50nm以下の範囲であれば十分に機械摩耗を防止できる。このとき層間隔(非晶質炭素の層幅)は0.3〜117nmの範囲にある。
上述のように、表層に含まれる結晶体の体積率は、0.8〜76vol%の範囲に制御する必要がある。これより大きい場合は、靭性の低下により機械摩耗が深刻化し、これより小さい場合は、化学摩耗が発生する。結晶体の化学両論組成における金属元素の組成は、例えば窒化チタンTiNであれば50at%、炭化クロムCr32であれば60at%であり、50〜60at%の範囲にある。従って、結晶体の体積率が0.8〜76vol%で指定される時、金属元素濃度は0.5〜38at%に制御される。窒素濃度は0.1〜35at%の範囲に制御する必要があり、これより大きい場合は、低硬度化による機械摩耗が深刻化し、これより小さい場合は、化学摩耗が発生する。
摺動部品1は内燃機関内に配される部品であって、エンジンオイルを使用する内燃機関に配される摺動部品に最適である。内燃機関に配される摺動部品には、バルブリフタ,アジャスティングシム,カム,カムシャフト,ロッカーアーム,タペット,ピストン,ピストンピン,ピストンリング,タイミングギアおよびタイミングチェーンや、オイルポンプ内の部品であるドライブギア,ドリブンギアまたはロータなどが例示される。
自動車の内燃機関などでは、潤滑油と硬質皮膜とが併用される摺動構造が多く存在する。潤滑油には、摩擦摩耗低減に効果的な添加剤として、脂肪酸・アルコールおよびエステルなどの油性添加剤,硫黄系およびりん系などの極圧添加剤,ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン(Mo−DTC)などの摩擦低減添加剤や、複合的な効能を持つジアルキルジチオりん酸亜鉛(Zn−DTP)などの複合添加剤が広く普及している。これら添加剤の反応を活性にすることでも低摩擦特性が得られる。
なお、金属元素のみを添加した非晶質炭素皮膜は、熱化学反応を抑止するために添加量を大きくする必要があり、結晶体の増大により非晶質特有の靭性が損なわれて機械摩耗が発生すると同時に、低摩擦特性も損なわれる。また、窒素や珪素のみを添加した非晶質炭素皮膜は、非晶質中の炭素原子を窒素や珪素が置換構造を持つために高靭性を保つが、潤滑油中での摩擦係数は高い。
本発明のように、金属および窒素を複合添加した非晶質炭素皮膜は、金属炭化物の生成と窒素の置換構造とに加え、より大きな熱化学反応抑止効果を持つ金属窒化物または金属炭窒化物の生成が可能であり、金属元素の添加量を制限することで、潤滑油中での低摩擦特性と、高硬度特性と、高靭性と、熱化学反応に対する抑止力とを同時に満たすことができる。
以下、実施例により具体例を詳細に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限るものではない。
[実施例]
反応性スパッタ法では、炉内異物の付着や異常放電によって硬質皮膜にクレータが発生することがある。まず、同スパッタ装置にて直径10μm以上のクレータを有する硬質皮膜を作製し、Mo−DTC非含有のエンジンオイル(粘度指標:5W−30)を用いた往復摺動試験に供したところ、クレータを起点とする界面剥離が発生・拡大し、鉄鋼基材が大きく露出した。この結果を鑑みて、後述の表1に記載された摺動部材のサンプル(実施例1〜11および比較例1〜9)は全てクレータが発生しない条件で作製した。
[実施例1]
実施例1の摺動部材サンプルの作製方法は下記のとおりである。マグネトロンスパッタ装置内に、鉄鋼基材と、金属ターゲットおよびグラファイトターゲットと、アルゴンガス,炭化水素ガスおよび窒素ガスを流入する導入管を配し、反応性スパッタ法により、鉄鋼基材表面に硬質皮膜を形成した。
まず、アルゴンガスを流入させて金属ターゲットに電源を投入し、金属のみの中間層21を形成した。次にアルゴンガスおよび炭化水素ガスを流入させて金属ターゲットおよびグラファイトターゲットの投入電力を連続的に変化させ、金属および金属炭化物からなる中間層22と金属炭化物および非晶質炭素からなる中間層23を形成した。最後に、アルゴンガス,炭化水素ガスおよび窒素ガスを流入させ、金属ターゲットおよびグラファイトターゲットに電源を投入し、表層を形成した。
実施例1では、純度99.9wt%以上のTiターゲットと、純度99.9wt%以上の炭素を含むグラファイトターゲットと、純度99.999wt%以上のアルゴンガスと、純度99.999wt%以上の窒素ガスと、純度99.999wt%以上のメタンガスとを用い、グラファイト対Tiのターゲット投入電力比率を100対3とし、アルゴン対窒素対メタンのガス流量比率を100対40対5とし、膜厚1.9μmとなるように成膜時間を調整した。表層の成分は元素比で17:18:65とした。
[実施例2〜11,比較例1〜9]
実施例1と同様に、実施例2〜11および比較例1〜9のサンプルも、それぞれの組成をとるようにターゲット投入電力とガス流量を調整し、それぞれの膜厚となるように成膜時間を調整した。
実施例2,実施例3および実施例4は膜厚を変化させて作製した例である。実施例5はTi濃度を減少させて作製した。金属ターゲットにTiを用いた実施例1に対し、実施例6では、金属ターゲットにCrを用いた。また、実施例7は窒素濃度を減少させ、実施例8,実施例9および実施例10はCr濃度を減少させて作製しした。実施例11では、金属ターゲットにWを用いた。
また、比較例1は金属および窒素を含有させず作製した例である。比較例2および比較例3は、Tiを添加し、窒素を含有させずに作製した。比較例4および比較例5はCrを添加し、窒素を含有させずに作製した。比較例6はWを添加し、窒素を含有させずに作製した。比較例7は金属ターゲットにAlを用いて作製した。比較例8はCrおよび窒素濃度を共に減少させて作製し、比較例9はCrおよび窒素濃度を共に増大させて硬度をHv1600として作製した。
[比較例10]
比較例10は、アークイオンプレーティング装置内に、グラファイトターゲットを配し、鉄鋼基材表面に硬質皮膜を作製した例である。まず、グラファイトターゲットをカソードとして電力を投入してアーク放電を起こし、非晶質の単層膜を作製した。次に、成膜中に膜表面に付着したドロップレット(ターゲットから発生する炭素塊)を取り除くために、炉から取り出した試験片をラッピング処理した。硬質皮膜は、水素およびアルゴンを含まず、炭素が100at%であり、膜硬度が8000Hvであった。
[サンプルの観察結果]
上記実施例1〜11,比較例1〜10で作製したサンプルの硬質皮膜の組成,ミクロ構造,膜硬度および膜厚を観察した。表1は実施例および比較例を比較説明する表であり、硬質皮膜の表層組成,結晶体の有無,置換構造の有無,膜硬度および膜厚と、Mo−DTCを添加したエンジンオイル(粘度指標:0W−20)中での往復摺動試験結果を示す。結果は表1の通りである。比較例1〜9では耐摩耗性が不足であるのに対し、実施例1〜11は耐摩耗性を有すると共に低い摩擦係数を示した。また、いずれの膜表面もクレータが存在しない平滑面であったが、比較例10のサンプルの膜表面には直径1μm以上のクレータが数密度〜106個・mm2で存在し、直径10μm以上の大きいクレータが数密度〜103個・mm2で存在した。比較例10はアークイオンプレーティング法で作製したため、ドロップレットを取り除いた痕である多数のクレータを有する。
サンプルのミクロ構造,化学結合形態および組成は透過型電子顕微鏡,X線回折法およびX線光電子分光法により分析した。図3に透過型電子顕微鏡で観察した表層断面の明視野像、図4に高分解能像を示す。実施例1の高分解能像を見ると、非晶質を示す不明瞭なコントラストの中に結晶質を示すモアレ縞が観察でき、X線回折法から算出した実施例1の結晶体の平均直径は3nmであった。実施例1は非晶質中に数密度107個・μm3で結晶体が粒状に分布した組織であり、結晶体の体積率が約35vol%である。また実施例8は層幅2.0nmの結晶体と層幅2.3nmの非晶質体が積層した組織が観察され、結晶体の体積率は46.5vol%である。一方、元素添加をしなかった比較例1およびAlを添加した比較例7は均質な非晶質のみが形成されている。図5は実施例5のX線光電子分光スペクトルを示す。X線光電子分光法によって原子の結合形態を分析した結果、窒素を添加せず各種金属を添加した比較例2〜7の内、チタン,クロムおよびタングステンをそれぞれ添加した比較例2〜6はいずれも硬質の炭化物を形成するのに対し、アルミニウムを添加した比較例7は炭化物を形成せずに非晶質炭素の原子間に侵入してクラスター構造を形成することが分かった。また、窒素と金属とを複合添加した実施例1〜11および比較例8〜9は炭化物以外に窒化物(または炭窒化物)の形成が確認され、このうち金属濃度の低い実施例2〜5,実施例9〜10および比較例8では、図5に示すとおり、炭化物の形成が確認されなかった。このことからTiやCrは炭化物よりも窒化物を生成しやすいことがわかる。
Figure 2011052238
[往復摺動試験]
往復摺動試験は下記の方法で実施した。図6は往復摺動試験の模式図を示す。往復摺動試験は、円筒状試験片6(材質:鋳鉄,形状:4mmφ×11mm)の側面と短冊状試験片1(材質:Cr−Mo合金鋼,形状:50mm×15mm×5mmt)の表面とを線接触させ、接触面にエンジンオイルを1.0ml・sec-1の速度で金属管7から滴下し、短冊状試験片1を往復可動させて実施した。硬質皮膜2は表面粗さがRa=0.02μmである短冊状試験片の鉄鋼基材3の表面に形成した。摺動条件として、面圧は822MPa(荷重784N)、速度は0〜1.6m/sec、摺動開始温度は110℃、摺動幅は30mmとした。短冊状
試験片の温度は試験前に加熱して初期温度を110℃となるように設定し、摺動中は摩擦熱によって100〜150℃であった。往復回数を1.8×106回とした本摺動試験を実施し、膜表面に0.1mm以上の大きさの剥離箇所が確認されない場合は、実際の製品でも十分の耐久性を有すると判断した。
図7は摺動試験後の硬質皮膜の表面観察像を示す。Mo−DTC添加エンジンオイル中摩耗現象には、膜厚が徐々に減少する摩滅(図7中の比較例1)と、界面剥離の領域が摺動方向に沿って線状に拡張する機械摩耗(図7中の比較例5および9)とが存在した。摩滅は化学反応の抑制できていない場合に、界面剥離は機械的強度である高硬度および高靭性が不足している場合に発生した。
図8は摩滅によって鉄鋼基材が露出した長さ(摩滅幅)を比較する図である。比較例1を基準(100)とする相対値で他の実施例、比較例と比較した結果である。反応性スパッタ法を用いて作製した非晶質炭素皮膜(比較例1)は摩滅により基材が大きく露出する。これに対し、クロムを添加した比較例4および5は、摩滅幅が減少し、クロム濃度が高い比較例5の摩滅幅は0である。非晶質炭素にチタン,クロム,タングステンおよびアルミニウムの4種類の金属をそれぞれ添加した比較例2〜7の結果を見ると、アルミニウムを添加した比較例7のみは摩滅幅が増大し、それ以外は摩滅幅が減少した。アルミニウムは酸化物生成自由エネルギーが低く、犠牲酸化反応の効果を持つ元素であるが、非晶質炭素皮膜の化学摩耗に対しては犠牲反応の効果を持たず、皮膜が低硬度化するために摩滅幅が増大すると考えられる。一方、チタン,クロムおよびタングステンをそれぞれ添加した非晶質炭素皮膜(比較例2〜6)は、摩滅幅を減少させる効果がある。
また、アークイオンプレーティング法により作製した水素を含まない非晶質炭素皮膜(比較例10)ではダイヤモンドに近い高硬度特性を有し、摩滅幅は比較例1の1/10程度であった。しかし、比較例10のサンプルの表面にはドロップレットを取り除いた痕であるクレータが存在するため、図7に示すように、クレータを起点とした界面剥離が斑点状に発生した。
図9はMo−DTC添加エンジンオイル(粘度指標:0W−20)中摺動試験で、往復回数0から6×105回までの各サンプルの摩擦係数の変化を示す図である。各種金属を添加した実施例1,実施例9,比較例3,比較例5および比較例7は、無添加の比較例1および比較例10と比べて摩擦係数が低い。特に、モリブデンと同属元素であるクロムを添加した実施例7および比較例4は最も低い摩擦係数を示し、チタンを添加した実施例1および比較例3はそれに準じる低い摩擦係数を示している。これらの金属元素はモリブデン化合物を吸着して二硫化モリブデン自己潤滑膜の形成を活発化させる効果を持つと考えられる。
[ロックウェル圧痕試験]
図10は硬質皮膜を成膜した鉄鋼基材表面にロックウェル圧子を押込んだときのロックウェル圧痕周囲の観察像を示す。密着性の悪い皮膜を観察した場合、圧痕周囲に界面剥離が確認される。実施例1〜11および比較例1〜10は剥離が確認されない。ただし、圧痕周囲に剥離の起点となるクラックが確認されるものがあり、これは靭性が低いと判断できる。金属,窒素を含まない無添加の例(比較例1)および炭化物を持たないアルミニウム添加の例(比較例7)の非晶質炭素皮膜は高硬度でありながら高靭性を有しているため、クラックの発生が見られない。これに対し、チタン,クロムおよびタングステンを過剰に添加した非晶質炭素皮膜(図10中の比較例5および6)は、結晶体の体積が大きくなることで靭性を損ね、クラックの発生が確認できる。これらの皮膜は往復摺動試験にて界面剥離が発生し、機械摩耗が深刻化する。したがって、比較例2〜6では、摩滅幅を減少させることが可能であるものの、界面剥離が発生し、これらを両立した皮膜を作製することはできない。
一方、比較例10のサンプルでは、ロックウェル圧痕周囲にクラックを発生させない高靭性を有していた。しかし、ドロップレットを取り除いた痕であるクレータが界面剥離の起点となり、往復摺動試験において斑点状の摩耗を引起し(図7中の比較例10)、鉄鋼基材が大きく露出した。
[金属元素及び窒素の添加量の検討]
反応性スパッタ法を用いて、添加元素の添加量を変え比較例8,9のサンプルを作製した。金属と窒素を複合添加した非晶質炭素皮膜(実施例1〜11および比較例8,9)を比較検討すると、実施例1〜11は優れた耐摩耗性を有するが、金属および窒素添加量が少ない比較例8では摩滅に対する耐久性が不足し、金属添加量が多い比較例9では硬度が低く界面剥離に対する耐久性が不足した。従って、添加元素の添加量および皮膜硬度を適正に保持し、炭素濃度が59at%以上,金属濃度が0.5〜38at%、窒素濃度が0.1〜35at%、膜硬度がHv1800以上の範囲とすることで、低摩擦特性と耐久性を両立させることが可能である。結晶体の化学両論組成における金属濃度は、例えばTiNで50at%Ti、Cr32で60at%Crであり、50〜60at%の範囲にあると考えてよい。結晶体と非晶質体とは原子密度に差が無く、かつ結晶体は化学両論組成を持つと仮定すると、金属濃度の測定値から結晶体と非晶質体との体積比が概算できる。金属濃度が0.5〜38at%であるとき、膜中で結晶体が占める体積率は0.8〜76vol%である。ただし結晶体と非晶質体が積層した構造を持つときは結晶体と非晶質体が同程度の体積を持つ必要があり、膜中で結晶体が占める体積率は30〜76vol%である。
また、膜厚を8.1μmに制御した実施例3および0.4μmに制御した実施例4で優れた耐久性を有したことから、膜厚が0.5〜8μmの範囲にあれば十分に耐摩耗性を有する。
1 摺動部品
2 硬質皮膜
3 鉄鋼基材
4 窒素含有非晶質炭素
5 炭化物,窒化物および炭窒化物のいずれか1種類以上からなる結晶体
5a 微粒子状の結晶体
5b 層状の結晶体
6 摺動相手材(円筒状試験片)
7 エンジンオイル滴下用の金属管
20 表層
21,22,23 中間層

Claims (10)

  1. 基材と、前記基材の表面に形成された硬質皮膜を備えた摺動部品であって、
    前記硬質皮膜は、最表面部に金属元素,窒素および炭素を主成分とし、かつ結晶体と非晶質炭素との複合体よりなる表層を備え、前記結晶体は金属炭化物,金属窒化物および金属炭窒化物のいずれかまたは複数よりなり、前記非晶質炭素は窒素を含有し、
    前記表層の表面硬度はビッカース硬度で1800以上であり、
    前記硬質皮膜の膜厚は0.5〜8μmであることを特徴とする摺動部品。
  2. 請求項1に記載された摺動部品であって、
    前記硬質皮膜は前記表層と、前記表層の内側に形成された複数の中間層を有し、
    前記中間層は基材側より金属からなる第一の中間層と、金属と金属炭化物からなる第二の中間層と、金属炭化物と非晶質炭素からなる第三の中間層とを備えることを特徴とする摺動部品。
  3. 請求項1または2に記載された摺動部品であって、
    前記表層に含まれる金属元素はCr,TiおよびWの少なくともいずれかであり、前記表層は25at%以下の水素、18at%以下の酸素、5at%以下のアルゴンを含むことを特徴とする摺動部品。
  4. 請求項1ないし3のいずれかに記載された摺動部品であって、
    前記表層は、金属元素,窒素および炭素の合計を100at%とした場合の比で、炭素元素が59at%以上であり,金属元素が0.5〜38at%、窒素が元素0.1〜35at%の範囲で含まれることを特徴とする摺動部品。
  5. 請求項1ないし4のいずれかに記載された摺動部品であって、
    前記結晶体は、微粒子形状であって、表層中の体積率が0.8〜76vol%であり、前記結晶体の粒径は0.1〜50nmであり、前記結晶体の数密度が102〜1012個・μm-3であることを特徴とする摺動部品。
  6. 請求項1ないし4のいずれかに記載された摺動部品であって、
    前記表層は、前記結晶体と前記非晶質炭素が積層された形状であり、前記表層中に含まれる前記結晶体の体積率は30〜76vol%であり、前記積層された結晶体の層幅は1〜50nmであり、前記非晶質炭素の層幅は0.3〜117nmであることを特徴とする摺動部品。
  7. 請求項1ないし6のいずれかに記載された摺動部品であって、内燃機関内に配されるバルブリフタ,アジャスティングシム,カム,カムシャフト,ロッカーアーム,タペット,ピストン,ピストンピン,ピストンリング,タイミングギア,タイミングチェーン、およびオイルポンプのドライブギア,ドリブンギアまたはロータのいずれかを構成する部品であることを特徴とする摺動部品。
  8. 請求項1ないし6のいずれかに記載された摺動部品であって、
    内燃機関内で、潤滑油を使用した摺動環境下で使用されることを特徴とする摺動部品。
  9. 請求項8において、前記潤滑油はジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンを含有することを特徴とする摺動部品。
  10. 鉄鋼からなる基材と、前記基材の表面に形成された硬質皮膜を備えた摺動部品の製造方法であって、前記硬質皮膜は、グラファイトターゲットと、Cr,TiおよびWから選ばれる1種類以上の金属元素を含むターゲットと、炭化水素ガスと窒素ガスを用い、反応性スパッタ法を用いて作製されていることを特徴とする摺動部品の製造方法。
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