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Description
本発明は、主として走行対象路面としてオンロード(舗装路)とオフロード(荒地)との双方が設定されるオンオフ兼用型の自動二輪車に好適なものであり、より好ましくはトライアル走行も可能とされたオンオフ兼用型の自動二輪車に関するものである。
上述のオンオフ兼用型の自動二輪車(以下、「オンオフ車」と略称する)としては、特許文献1や特許文献2において開示されたものが知られている。特許文献1にて開示されるオンオフ車(「トレール車」とか「デュアルパーポス車」とも呼ばれる)では、シリンダやシリンダヘッドカバーを有するエンジン部がミッションケース前部の上に配置されてピストンが上下方向に往復移動する構造のエンジン、即ち、正立型やほぼ正立型のミッションケース付エンジンを前後輪間に搭載し、リンク機構付の後輪懸架装置をミッションケースと後輪(リヤータイヤ)との前後間に配置して収容する構成が採られている。この場合、後輪懸架装置の主要部品であって巻きバネとダンパとから成る緩衝器(クッション・ユニット)は上下向きの姿勢で配設されている。
特許文献2のオンオフ車は、トライアル走行可能なオンオフ車(以下、「TR車」と略称する)であり、シリンダがミッションケース前部の上に配置されるほぼ正立型のミッションケース付2サイクルエンジンを前後輪間に搭載し、リンク機構付の後輪懸架装置をミッションケースと後輪との前後間に配置して収容する構造に構成されている。この場合には、後輪懸架装置の主要部品である緩衝器は、前上がり傾斜した斜め姿勢(前倒れ姿勢)で後輪とエンジン部との間に配置されており、緩衝器の前端部はシリンダ上端部の後方となる位置において車体フレームに枢支連結されている。
これらのオンオフ車に共通して、前後軸間距離(所謂ホイールベースのことであり、以下「軸距」と略称する)が長くなり易いとか、重心位置が前寄りになり易いといった問題がある。即ち、後輪懸架用の緩衝器及びそのリンク機構を車体中央部であるエンジンと後輪との前後間に装備するためには、スイングアームの長さを相当に長くせざるを得ないからである。スイングアームは、その後端部に後輪を回転自在に支持し、かつ、前端部が車体フレームの枢支部において上下揺動自在に枢支される構成部品である。次に、スイングアーム(以下、「揺動アーム」と略称する)が長くなってしまう理由を説明する。
通常、揺動アームは、後輪の左右夫々に配置される左右一対のアーム部を前端部側(枢支部側)において強度十分に連結して一体化するため、枢支部と後輪前端との間に連結構造部を設けるためのある程度の前後長を確保すること、前後方向の重量バランスを考慮してエンジンと後輪との前後間距離を決めること、後輪の懸架ストローク(クッションストローク)と揺動アームの揺動角度とのバランスを適正に取ること、等の各種設計要素やそれら相互関係等の諸条件から前後長さを設定する。この場合、揺動アームの前後長、即ちアーム長が長くなればなるほど揺動アームの強度や重量の点では不利となるから、上記諸条件を満たす必要最小限的な値の長さにすることが望ましい。
ところが、特許文献1や2に示される従来のオンオフ車のように、エンジンと後輪との前後間にリンク機構付緩衝器を配置する構造では、それらの配置スペース並びに緩衝器やリンク機構の可動スペースを確保するために、揺動アーム長さを前述の求め方によって定まる最小値よりも長くしなければならならず、これが前述した「問題」の理由である。つまり、エンジンと後輪との前後間距離が長くなって軸距に対する割合も大きくなるため、前傾向重(前方バランス)になるとか、軸距が長くなる等の問題が生じていた。
特に、車格の割に前後のタイヤサイズが大きく(前輪:2.75−21相当、後輪:4.00−18相当)、かつ、軸距が比較的短い値(1300〜1350mm)に設定されるTR車において、優れた後輪懸架性能を確保すべくミッションケース付エンジンと後輪との前後間にリンク機構付緩衝器や緩衝器のみ(直付け型と呼ばれることもある)を配置するには、ミッションケース付エンジンを正立型とし、かつ、その正立型エンジンの位置を前後輪間スペースにおいて限界的に前方に寄せて配置する他ない。それ故、車体前部が重くなる前重傾向(前方バランス)になってしまい、ステアリング操作が重いとか、急勾配の下り走行が不安定になり易いといった操向操作が行い難い不利があるとともに、フロントアップやフロントホップが重くてやり難い等の問題が生じていたのである。
特開平10−67375号公報 特開平5−131964号公報
上記実情に鑑みることにより、本発明の第1目的は、前輪と後輪との間にミッションケース付エンジンが配置され、かつ、エンジンの駆動力を後輪に伝達する伝動機構を有する自動二輪車において、良好な後輪懸架性能を得る構成を採るが故に前述した前重傾向となることを是正し、良好な前後重量バランスを実現させてハンドル操作性を向上させる点にある。
ところで、前述の特許文献1等において開示される構造の自動二輪車では、燃料タンク容量の大型化が難しいという問題もあった。つまり、正立型エンジンを有する自動二輪車においては、キャブレタ等の燃料供給装置の位置が比較的高い位置(例:シリンダヘッドと同等の高さレベル)に配置されるので、燃料タンクから重力によって燃料を燃料供給装置に導く一般的な燃料供給構造を採る場合は、車体における比較的高い位置に配置されている燃料供給装置のさらに上方に燃料タンクを配置することになる。燃料タンクを大きなものに設定すると、満タン時等のおける重心位置が高くなるとともに前述の前重傾向がさらに強くなってハンドル操作性の一層の悪化を招くことになってしまう。そのため、燃料タンク容量の大容量化が困難であった。特に、2サイクルエンジンに比べてエンジン高さが高くなる正立型4サイクルエンジン搭載の自動二輪車ではその不都合な傾向が強くなる。また、軽量で軽快なハンドル操作が要求されるTR車においては深刻な問題である。
そこで、本発明の第2目的は、前述の第1目的を達成するとともに、燃料タンクの大容量化を、重心位置が高くなってしまうことや更なる前重傾向を招くことを抑制又は回避しながら可能とする自動二輪車を得る点にある。
請求項1に係る発明は、前輪1と後輪2との間にミッションケースm付のエンジンEが配置され、前記エンジンEの駆動力を前記後輪2に伝達する伝動機構3が装備されている自動二輪車において、前記後輪2を回転自在に支持し、かつ、前端部に設けられる左右向き支点P回りで揺動自在に車体フレームFに枢支される揺動アーム12と前記車体フレームFとに亘って後輪懸架用の緩衝器CUが、前記揺動アーム12に直接連結され、かつ、前記ミッションケースmの直上において前後向き姿勢で配置されるとともに、前記ミッションケースmが前記後輪2の軸心2pに対して上位となる高さ位置に設けられていることを特徴とするものである。
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の自動二輪車において、前記エンジンEは、シリンダ15が前記ミッションケースmより前に位置するとともに、前記シリンダ15におけるピストン移動方向線aが側面視において水平又は略水平、或いは水平に近い前倒れ角度となる倒伏型に構成されていることを特徴とするものである。
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の自動二輪車において、前記緩衝器CUが、側面視で略三角形を呈する揺動アーム12の上頂部に連結されていることを特徴とするものである。
請求項4に係る発明は、請求項1〜3の何れか一項に記載の自動二輪車において、前記車体フレームFは、前記ミッションケースmの後部をボルト連結するための第1懸架ステー54と、前記エンジンEにおけるシリンダ15を有するエンジン部eをボルト連結するための第2懸架ステー55とを有するとともに、前記第1懸架ステー54と前記第2懸架ステー55との少なくとも一方に取付けられるブラケット44に前記緩衝器CUが連結されていることを特徴とするものである。
請求項1の発明によれば、詳しくは実施形態の項にて説明するが、A.後輪懸架性能及びC.操縦性を向上させながらB.前重傾向を改善することが可能になる。まず効果B.の要点を述べると、a.揺動アームと車体フレームとに亘って架設される後輪懸架用緩衝器を揺動アームに直接連結される状態でミッションケースの直上において前後向き姿勢で配置する→揺動アーム支点(左右向き支点)と後輪との間に、リンク機構を配置するため或いは直付け緩衝器の伸縮移動量(ストローク)を稼ぐためのスペースが不要になる→揺動アーム長を短くしてエンジン位置を後方に寄せることが可能になる→前後重量バランスが改善されて前重傾向が解消される、という具合である。次に効果A.の要点を述べると、前記a.→後輪懸架用緩衝器の車体フレームへの作用点が揺動アーム支点に近づく→後輪懸架に起因した車体の揺動アーム支点回りの慣性モーメントが減る→相対的にバネ上質量が重くなる(相対的にバネ下質量が軽くなる)→後輪懸架性能が向上する、という具合である。また、C.の要点は、前記a.→互いに重量物のミッションケースに緩衝器が近接配置される→車体重心付近における質量集中化と低重心化とが図れる→車体重心回りの慣性モーメントが減少して車体の操縦性が向上する、という具合である。その結果、前輪と後輪との間にミッションケース付エンジンが配置され、かつ、エンジンの駆動力を後輪に伝達する伝動機構を有する自動二輪車において、良好な後輪懸架性能を得る構成を採るが故に前述した前重傾向となることが是正され、良好な前後重量バランスを実現させてハンドル操作性が向上する自動二輪車を、後輪懸架性能が優れたものとしながら提供することができる。
請求項2に係る発明によれば、詳しくは実施形態の項にて説明するが、揺動アームの短縮化によって軸距の増大無く水平又は倒伏型エンジンの採用が可能となるものであり、請求項1の発明による前記効果とD.燃料タンク容量の増大化とを得ながら、低重心化の促進による操縦性のさらなる向上、或いは重心位置を高めることなく最低地上高を高くすることが可能となる自動二輪車を提供することができる。効果D.の要点を述べると、水平又は超前傾エンジンの採用→キャブレタ等の燃料供給装置の位置が下がる→燃料タンクの底位置が下がる→燃料タンク容量が増える、という具合である。重心位置が高くなることなく燃料タンク容量を増せるので、無給油での航続距離を増やせて長距離ツーリングも可能となる自動二輪車を提供することができる。特に、2サイクルエンジンに比べてエンジン部長さが長くなる4サイクルエンジンでは顕著な効果が期待できる。
請求項3の発明によれば、請求項1又は2の発明による前記効果を発揮しながら、側面視で略三角形を呈する揺動アームの上頂部に緩衝器を連結する構造が採れる。
請求項4の発明によれば、詳しくは実施形態の項にて説明するが、後輪懸架用の緩衝器を、ミッションケース付きエンジンを車体フレームに懸架するために装備されている第1及び第2懸架ステーの少なくとも一方を用いたブラケット手段に連結させるものであり、請求項1〜3のいずれかの発明による前記効果を奏しながら、構成部材の兼用化による部品点数の削減やコストダウンが可能となる合理的な手段によって緩衝器を車体フレームに連結させることができる効果がある。この場合、ブラケット手段を第1及び第2懸架ステーの双方にボルト止めする構成とすれば、ブラケット手段を後付け装着することが可能となり、現行機種の懸架性能等を改善可能となる利点もある。
以下に、本発明による自動二輪車の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1〜図3は実施例1のTR車、図4は実施例2のTR車、図5,6は実施例3のTR車、図9,8は参考例1のTR車、図10,11は参考例2のTR車、図12〜15は実施例4のTR車、図7,16は参考例3のTR車、図17,18は実施例5のTR車それぞれ示している。図19は従来と本発明とのTR車における前後輪間の有効空間を示す側面図、図20は後輪懸架構造の要部を車体重心に関する三通りのものとして示す模式図、図21は相対ばね上質量とレバー比との関係グラフを示す図である。
実施例1による自動二輪車は、図1〜図3に示すように、前輪1と後輪2との前後間にエンジンEが配置されており、後輪軸心2pを有する後輪2にエンジンEの駆動力を伝達する伝動機構3を有するTR車である。図において、Fは車体フレーム、CUは後輪懸架用の緩衝器(クッションユニット)、4は燃料タンク、5は搭乗用のシート、6は消音器、7はラジエータ、8はキャブレタ(燃料供給装置の一例)、9はフロントフォーク、10は前保安装置、11はハンドル(操縦ハンドル)、12は後輪支承用の揺動アーム、13はリヤフェンダ38の後方側に位置される後保安装置、14は二人乗り用の後部ステップ機構である。尚、56は車体フレームFの下端部に取り付けられるアルミ合金等の金属板や合成樹脂製のアンダーガードであり、シリンダヘッド16や排気管57におけるシリンダヘッド16から取出される直後の部分等を保護するための前部ガード58を設けても良い。また、燃料タンク4の前部下方に、外観部品であってラジエータ7を保護可能な前部カバー59が装備されても良い。
実施例1のTR車に搭載されるエンジンEは、超前傾型でミッションケースm付の4サイクルエンジンであり、ダンパ21とその外周側に配備されるコイルバネ22とを有して成る単一の緩衝器CUは、ミッションケースmの直上においてほぼ水平となる前後向きの横臥姿勢で配設されている。緩衝器CUの前連結部(車体側の枢支連結部)fsは、キャブレタ8を跨ぐ状態に配策される左右のサイドフレーム23,24に設けられており、後連結部(揺動アーム側の枢支連結部)rsは、側面視で略三角形を呈する揺動アーム12の上頂部に設けられている。揺動アーム12は、主アーム部12aと、その後部から前方上方に延出される斜交いアーム部12bと、主アーム部12aの前部に相当する箇所から立設されて斜交いアーム部12bに連結される支持アーム部12cとを有して成るボックス形に構成され、ドライブスプロケット20の直後に設けられる揺動アーム支点(左右向き支点の一例)Pで上下揺動自在に車体フレームFに枢支連結されている。
エンジンEは、ミッションケースm前部に連結されるエンジン部eが水平から15度の傾斜角度で前方突設される超前傾型(倒伏型の一例)の4サイクルエンジンに設定されている。燃焼部であるエンジン部eは、ミッションケースmに螺着されるシリンダ15と、シリンダヘッド16と、ヘッドカバー17とを有して構成されている。ここで傾斜角度とは、シリンダ15におけるピストン18の移動方向線aと水平線とのなす角度のことであり、側面視において水平に近い前傾角度を超前傾と呼ぶものとする。因みに、移動方向線aが水平(又はほぼ水平)である場合には水平型エンジンと呼び、移動方向線aがやや前下がりする角度から前記超前傾を含むやや前上がりする角度までの範囲を「水平又は略水平、或いは水平に近い前倒れ角度」を倒伏型エンジンと定義する。尚、図示は省略するが、ミッションケースmには、クラッチ、4〜6段切換構造のギヤ変速機構、外装キックペダルによるエンジン始動機構、チェンジペダルによる変速操作機構、オイルポンプ、冷却水ポンプ等が装備されている。
キャブレタ8は、屈曲形状の吸気マニホルド19を介してシリンダヘッド16に連結されており、シリンダ15の直上の位置に上下向き姿勢又はやや前傾姿勢で配置される。シリンダヘッド16と吸気マニホールド19との間や、吸気マニホールド19とキャブレタ8との間に、断熱を目的としたインシュレータ(図示省略)を介装しても良い。また、エンジン部eからキャブレタ8への輻射熱を抑制又は減衰させるべく、キャブレタ8の下側に断熱シート(図示省略)を配設しても良い。尚、吸気マニホールド19自体を断熱作用のある材料から形成しても良い。
車体フレームFは、図1〜図3に示すように、フォークブラケット25を操舵自在に支持するヘッドパイプ(フレーム先端部の一例)26と、ヘッドパイプ26から後方下方に延びる単一の主パイプ(主フレーム部材の一例)27、及びエンジン部eを跨いで配備される左右のダウンチューブ28,29と、主パイプ27の後端部に一体化される左右のサイドパイプ23,24とを有する主フレームf、及び主フレームfに着脱自在に装着される後フレームrを有して構成されている。後フレームrは、左右のサイドパイプ23,24にボルト止めされる左右のサイドチューブ30,31、及び左右のシートレール32,33を有して構成されている。エンジンEの車体フレームFへの組付け取外しを容易化すべく、左右のダウンチューブ28,29のうちの一方(例:左側のダウンチューブ28)の下部28bを、その上部28aに対して着脱自在な脱着フレーム部に構成しても良い。即ち、下部28bは、サイドパイプ23,24とを連結一体化する補強部材34との溶着箇所の直下の位置において分離されており、その箇所において上部28aに対して複数のボルトを用いて取り付けられている。尚、53は搭乗者用のフートレスト、60,61は、左右のサイドパイプ23,24を連結一体化する第1及び第2横パイプである。
エンジンEは、ミッションケースmの後部上部と後部下部と左右のサイドパイプ23,24とが第1懸架ステーでもある第1取付部t1及び第3取付部t3として、そして、左右のダウンチューブ28,29とシリンダヘッド16の後部上部とが第2懸架ステーでもある第2取付部t2として夫々ボルト止めされて車体フレームFに搭載固定されている。尚、図示及び符記は省略するが、左右のダウンチューブ28,29とミッションケースmの前部下部とを第4取付部として連結する構成としても良い。これら第1〜第3取付部t1〜t3のうちの一つを省略することは可能である。また、図示は省略するが、緩衝器CUの前連結部fsを形成すべく左右のサイドパイプ23,24に固着されるブラケット35を下方に延長し、そのブラケット延長部分でミッションケースmの上部前部をボルト止め懸架する構成としても良い。
図2に示すように、緩衝器CUの伸縮移動部分の中心線及びその延長線であるベクトル線Xが、側面視において車体重心Gと揺動アーム支点Pとの間を通る状態に構成されている。伸縮移動部分の中心線Xとは、ダンパ21のピストンロッド(符記省略)の中心線である。車体重心Gとは、狭義には、車体における前後の車輪等のバネ下部分を除いた部分、即ちバネ上部分の重心のことであり、以下において車体重心Gとはバネ上車体重心のことであると定義しておく。尚、実施例1によるTR車の車体重心Gは、図2に示すように、一例としてキャブレタ8の下部辺りに位置している。
さて、実線で示すベクトル線Xは装備空車状態のものを示し、一点破線で示すベクトル線Xは、後輪2が最も懸架ストロークした状態、即ち緩衝器CUが最も圧縮された状態のときのものであり、いずれの場合でも車体重心Gと揺動アーム支点Pとの間を通っている。ところで、広義の車体重心は、自動二輪車全体から後輪側のバネ下部分を除いた部分の重心であり、前述の狭義の車体重心Gの位置よりもやや前方下方に寄った位置になる。尚、装備空車状態とは、エンジンオイル(ミッションオイル)、冷却水、燃料等が充填されており(バッテリー付では電解液も含まれる)、かつ、搭乗されていない状態のことを言う。
緩衝器CUの伸縮移動(ストローク)に伴うベクトル線Xの向き(即ち車体を揺動アーム支点P回りに押す力の方向)が、車体重心G付近又は車体重心Gよりも揺動アーム支点Pに寄った置に向くように設定されているので、後輪2が凹凸等を通過する際の揺動アーム12の揺動による緩衝器CUの伸縮移動に起因した車体の揺動アーム支点Pに関する慣性モーメントを極めて小さなものとすることができる。例えば、走行中に後輪2が石等の突起物を乗り越える際のシートを介しての突き上げ感が軽微なものとなって乗り心地が向上するとか、トライアル走行の一つである段差乗り越え(ステアケース)時の後輪グリップが向上してより高さの高い段差越えが可能になる、といった具合に後輪懸架性能が改善されている。本発明による後輪懸架性能は、正立エンジンと後輪間に斜め上下向き姿勢で配置される緩衝器CUを有する従来のTR車〔図19(a)を参照〕に比べても、さらに改善されて性能に優れる後輪懸架装置が実現できている。
図2から分るように、後輪2の懸架ストロークが増大するに従って、緩衝器CUのベクトル線Xの向きは揺動アーム支点Pに近づく(ベクトル線Xと車体重心Gとの間隔が広がる)ように変化する。つまり、ジャンプ等のより強い懸架衝撃が加わるほど、後輪懸架に起因する前記慣性モーメントが小さくなる側に変化するという好ましい特性が得られる。つまり、ベクトル線Xの向きが揺動アーム支点Pに近づけば近づく程、後輪懸架によって圧縮された緩衝器CUが車体を押す力自体は大きくなるが、その作用点即ち前連結部fsの揺動アーム支点Pを中心とする半径は小さくなる。従って、「物体のある軸心に対する慣性モーメントは、その物体の質量とその部分の軸心からの距離の二乗との積である」という慣性モーメントに関する定理により、半径の二乗に比例する慣性モーメントは、ベクトル線Xの向きが揺動アーム支点Pに近づけば近づく程小さくなり、後輪懸架に因って車体を揺動アーム支点P回りに回そうとする影響が小さくなり、換言すれば、相対的にバネ上質量が大きくなり、その結果後輪懸架性能が向上するのである。
尚、「緩衝器CUの伸縮移動部の中心線又はその延長線Xが、側面視において車体重心G又はその近傍を通る状態に構成されている」という文言の解釈として、「少なくとも後輪2の最大懸架ストローク状態におけるベクトル線Xがバネ上部分の車体重心Gと揺動アーム支点Pとの間、又はバネ上部分の車体重心Gの近傍を通る状態に構成されている」でも良く、このような構成であっても十分な効果(後輪懸架性能が向上する効果)を得ることができる。
図1に示すように、シート装置S(破線で示す)が着脱可能に装備される構成を採るTR車とすれば好都合である。シート装置Sは、尾灯(停止灯を含んでも良い)、ウィンカー(方向指示灯)、及びナンバープレート取付用の支持プレートを有する後保安装置13と、十分なクッション厚を有する第1シート5とが一体化されて成るものであり、嵌め込み構造と外れ止めロック装置とを有する取着機構(図示省略)等により、車体フレームFへの装着及び施錠維持、並びに取外しが可能に構成されている。車体フレームFには、クッション厚が小さく扁平で極小さな第2シート36が取付けられており、その第2シート36の上方にシート装置Sが着脱可能に装備される構成が採られている。従って、シート装置Sを取外せば、第2シート36が装備されたトライアル走行に好適となるプレイ仕様に変更可能に構成されている。尚、図1においては、車体フレームFから外された状態のシート装置Sを実線で示し、車体フレームFに装備される状態を破線で示してある。
つまり、シート装置Sが装着された一般仕様として、搭乗に適した着座姿勢及び良好な乗り心地が得られる第1シート5による膝の曲がりの少ない楽な乗車姿勢で、一般公道や林道等を快適に走行することができる。そして、河川敷やオフロード場等の一般公道外の場所にてトライアル遊び等を行う場合には、シート装置Sを取外し、極小で扁平な第2シート36(仮想線で示す)が露出するプレイ仕様に容易に切換えることができる。プレイ仕様に切換えることにより、低いシート高で、かつ、車体後部がスリム軽量化された状態になり、快適にトライアル走行を行うことができる。勿論、一般仕様でも遊びやそれを含んだ林道走行等のトライアル的走行は十分可能であるが、よりトライアル競技的な走行を行うには、上述のようにシート装置Sを除去したプレイ仕様とした方が乗り易い。
〔エンジン周り空間比較〕
図19に、図1に示す超前傾エンジンEとミッションケース直上横臥配置の緩衝器CUとを有する本発明のTR車〔図19(b)〕と、正立エンジンEとミッションケース直後に配置される斜め上下向き緩衝器CUとを有する従来のTR車〔図19(a)〕とのそれぞれにおける前後輪間の有効空間(主にエンジンの上方空間)を、ハッチング付の箇所として示す。各図において、前後輪間における側面視で確保できる最大スペースの外郭を一点破線のラインzで示し、そのうちのエンジンE、キャブレタ8、及び緩衝器CUの上側のスペースにおいて、ラインz等から必要な設計隙間を取った有効空間をハッチング部分として示してある。ラインzの上限部分はTR車としての標準的な形状を描いてある。尚、仮想線で示す前後輪1,2は、最も懸架ストロークした状態(最圧状態)の位置を示す。
図19に、図1に示す超前傾エンジンEとミッションケース直上横臥配置の緩衝器CUとを有する本発明のTR車〔図19(b)〕と、正立エンジンEとミッションケース直後に配置される斜め上下向き緩衝器CUとを有する従来のTR車〔図19(a)〕とのそれぞれにおける前後輪間の有効空間(主にエンジンの上方空間)を、ハッチング付の箇所として示す。各図において、前後輪間における側面視で確保できる最大スペースの外郭を一点破線のラインzで示し、そのうちのエンジンE、キャブレタ8、及び緩衝器CUの上側のスペースにおいて、ラインz等から必要な設計隙間を取った有効空間をハッチング部分として示してある。ラインzの上限部分はTR車としての標準的な形状を描いてある。尚、仮想線で示す前後輪1,2は、最も懸架ストロークした状態(最圧状態)の位置を示す。
従来TR車の軸距Wjと本発明TR車の軸距Wとを互いに同じ(Wj=W)とした場合には、燃料タンクやエアクリーナ等の補機類の配置スペースとして利用できる部分、即ち、ハッチングが付された有効空間は本発明によるTR車の方がまとまって大きく取り易いことが理解できる。図19(a)に示す従来のものでは、斜め上下姿勢の緩衝器CUと上方突起するエンジン部eがラインzで囲まれる空間に大きく食い込んでおり、それに伴ってキャブレタ8も高い位置に装備されている。そのため、ハッチングが付される有効空間が小さくなり、かつ、前後に分断されたようになる。エンジンEの前方部分(ハッチング無し)に有効空間が存在するように思えるが、そこはエンジン冷却風確保上、フレームパイプや排気管以外の部材、即ち、補機類の配置場所としてはまず活用できないことから、有効空間が思いの他小さくなる。
これに対して、図19(b)に示す本発明によるものでは、超前傾又は水平エンジンEがほぼラインzの底部に沿う低い位置に配置され、かつ、その直上にキャブレタ8及び前後向き横臥姿勢の緩衝器CUが配置される「低位置集約構造」になっていてそれらの上方には大きな有効空間が確保できており、補機類の配置場所としての有効空間が実質的に増大するとともに低重心化も図れている。故に、TR車としての高さ(ラインzの上限部分)や最低地上高を変えることなく前後輪間の有効空間を実質的に拡大でき、燃料タンク容量、エアクリーナ容量、マフラー容量等の大容量化、低重心化、或いは質量の集中化等が促進可能なものとなっている。
図19(a)に示す従来のTR車においては、緩衝器CUのベクトル線Xは、車体重心Gよりも後方上方に距離jでもってっ比較的遠く離れた箇所(車体重心Gに関して揺動アーム支点P存在側とは反対の側)に向かう構成となっている。従って、後輪懸架に起因した車体の揺動アーム支点Pに関する慣性モーメントの大きさは、図19(a)に示す従来のTR車よりも、図19(b)に示す本発明によるTR車の方が明確に小さくなっており、上述した有効空間に関する利点だけでなく、後輪懸架性能も本願発明の方が優れていることが見て取れる。尚、有効空間に関する利点は、後述する実施例2,3,6,8の各TR車でも得ることが可能である。
また、図19(a),(b)のそれぞれにおいて、軸距をWj,W、エンジン重心egと後輪中心2pとの前後間隔をDj,D、車体重心の地面からの高さをAj,A、エンジン重心の地面からの高さをBj,B、車体重心Gと後輪中心2pとの前後距離をN,Njと表すものとし、かつ、Wj=Wである場合には、D<Dj、A<Aj、B<Bj、N<Njのそれぞれが成り立つ。つまり、実施例1によるTR車は、エンジン重心eg、車体重心G共に従来のTR車よりも低くできて操縦性に優れるとともに、エンジン重心egの位置を後方に寄せて車体重心Gを従来よりも後方寄りに位置できている。その結果、前重傾向が改善されて、前後重量バランスの最適化がより促進可能なものとなっていることが理解できる。
実施例2による自動二輪車は、図4に示すように、実施例1によるTR車を基本として公道走行可能な準競技仕様に改造されたものである。即ち、燃料タンク4の上限位置を低めるとともにキャブレタ8後方に位置する部分の小型化や、エアクリーナ(図示省略)の小型化等を行い、また後フレームrを変更する等して、緩衝器CU上方の必要スペースを削ることにより、第2シート36の設定高さ位置を図1に示すプレイ仕様よりも低くしたものである。燃料タンク4は、そのタンク容量が小容量(2〜4リットル)の小型のものに変更され、さらに後部保安具37が実施例1の後保安装置13に比べて必要最小限の大きさに小型化されてリヤフェンダ38の後端部に着脱可能に装備する構造とされている。その他の構成は、実施例1のTR車にほぼ準ずる。
この準競技仕様のTR車は、どちらかと言えばトライアル走行が主で公道走行が従となるような乗り方に好適な仕様であり、例えば、一般の公道や林道を走って移動しながら、要所に設けられたセクションを走破して競い合うツーリングトライアルや、険しい林道や登山道を走行するアドベンチャー的走行等に適している。この場合、図示は省略するが、ある程度の乗り心地を考慮して、第2シート36を、図1に示す第2シート36と図1に示す第1シート5との中間程度のクッション厚、並びに前後長さを有する中型のシートに構成しても良い。
実施例3による自動二輪車は、図5,図6に示すように、車体フレームFやその周辺のレイアウト構造、及びエンジン形式(冷却構造)が若干異なる以外は、基本的に実施例1のものと同様にプレイ仕様に切換可能な一般仕様のTR車に構成されている。従って、主に実施例1のものと異なる部分について説明するものとし、実施例1のものと同様な機能、構造の箇所には同一の符号を付すことでその説明が為されたものとする。実施例3によるTR車は、左サイドパイプ23の位置を下げ、かつ、右サイドパイプの位置を上げる左右非対称の車体フレームFとしてキャブレタ8を右に振る(右側に寄せて配置する)ことにより、燃料タンク容量の増大化と更なる低重心化とを図らんとするものである。実施例3のTR車に、実施例1の着脱自在なシート装置Sを採用しても良い。
主パイプ27は、図6に示すように、実施例1のもの(図3参照)に比べて、後方下方に延長され、かつ、平面視において前後中間部から後部がやや左側に屈曲されて偏心されており、その左オフセットされる延長部27eに緩衝器CUの前連結部fsが形成されている。例えば、延長部27eの右壁面に溶着される取付板62と、左サイドパイプ23に貫通溶着支持されるボス部材63とにより、左右方向の車体中心Tから距離αオフセット配置されている緩衝器CUをボルト連結して前連結部fsとする構造である。左サイドパイプ23は、揺動アーム支点P形成がされる下部から小さい曲率で右方に曲げられて延長部27e付近に溶着される上部を有する比較的長さの短いものであり、右サイドパイプ24は、やや上方に迂回する状態で前方延出される長さの長いものであって、キャブレタ8前方のやや離れた箇所において主パイプ27に溶着される。キャブレタ8は、吸気マニホルド19を右方へ捩ることでやや右に偏らせて配置され、平面視では主パイプ27の後部(延長部27e)と右サイドパイプ24との左右間に配置される。主パイプ27の後部を若干左側に偏心させることで、キャブレタの右側(横方向)への偏心量を小さくしてあるが、前後真っ直ぐの主パイプ27と右サイドパイプ24との間にキャブレタ8を配置する構成を採っても良い。
実施例3のTR車においては、空冷型(水冷型でも良い)の4サイクルエンジンを搭載してあり、シリンダ15やシリンダヘッド16に大型の冷却フィン(図示省略)が形成されることから、実施例1に示す水冷型エンジンに比べてエンジン部eの外郭形状は大型化されている。また、実施例1におけるラジエータの配置場所であったシリンダ部eの上方で、かつ、ダウンチューブ28,29の前側の空間部分が空くので、その場所を排気管やエアクリーナ等の補機類の配置場所として利用することが可能である。燃料タンク4の左右形状と、左右の前カバー59,59の形状は左右非対称になっている。以上により、実施例1の構成によるTR車(自動二輪車)に比べた場合の利点(作用、効果)は次のようである。尚、サイドパイプ23,24の構成は左右逆(従って、キャブレタ8の振り方向や燃料タンク4の形状も左右逆)とすることが可能である。尚、64は、主パイプ27の途中部位とヘッドパイプ26の上端部とを連結する補強パイプである。
右サイドパイプ24の位置が高いので、キャブレタ8の右側面部分の露出度が増し、スロースクリューの回し操作等のキャブ操作やメンテナンスが行い易いとともに、排気管をエンジンの右側に取り出す構成を採る場合には、その排気管の後方への取り回しレイアウトの自由度が増す。左サイドパイプ23の前側部分が短くなったことにより、燃料タンク4における主パイプ27に対する左側部分を内方及び後方へより膨出させることができ、右サイドパイプ24が上方に持ち上げられたことに起因するタンク容量減を考慮しても燃料タンク4全体としての容量アップが可能になる。また、主パイプ27後端の延長部27eを緩衝器CUの前連結部fsの構成部材に使えるので、前連結部fsを支持する専用のフレーム部分が不要化(又は小型化)でき、より合理的な構成とすることが可能になる。
〔参考例1〕
参考例1による自動二輪車は、図9,図8に示すように、後輪2の懸架用としてシリンダ構造のダンパ21の周囲にコイルバネ22を配置して成る緩衝器CUが、後輪2に対する左右のそれぞれに計2個配備される構成、所謂2本サス構造を採るTR車である。この参考例1のTR車は、モノサス車である実施例1〜3を二本サス化したような構成であって、後輪懸架構造に要点をおいて説明するものとし、同じ機能部品には同じ符号を付すものとする。簡単のため、図9,8では必要な部分以外を省略して描いてある。尚、仮想線で示す緩衝器CUは、後輪2が最大懸架ストロークしたときの位置を示している。
参考例1による自動二輪車は、図9,図8に示すように、後輪2の懸架用としてシリンダ構造のダンパ21の周囲にコイルバネ22を配置して成る緩衝器CUが、後輪2に対する左右のそれぞれに計2個配備される構成、所謂2本サス構造を採るTR車である。この参考例1のTR車は、モノサス車である実施例1〜3を二本サス化したような構成であって、後輪懸架構造に要点をおいて説明するものとし、同じ機能部品には同じ符号を付すものとする。簡単のため、図9,8では必要な部分以外を省略して描いてある。尚、仮想線で示す緩衝器CUは、後輪2が最大懸架ストロークしたときの位置を示している。
揺動アーム12は、横軸心Pから側面視で直線状に後方下方に延びる左右一対の主アーム部12a,12aと、その後部から上方前方に延出される左右一対の支持アーム部12b,12bと、後輪2の前方を通る平面視形状が略U字状を呈する状態で左右の支持アーム部12bの上部どうしを連結する単一の連結アーム部12d、及び主アーム部12aの前部に相当する箇所から立設されて連結アーム部12dの前部連結される単一又は左右一対の支持アーム部12cとを有して成るボックス形のものに構成されている。各支持アーム部12b,12bの上端部に、緩衝器CUの後連結部rsが設けられ、前連結部fsは、左右のサイドパイプ23,24と主パイプ27の後端部とに跨る状態で設けられている。例えば、図8に示すように、各サイドパイプ23,24に溶着されたステー板65と、主パイプ27の後端部に固着される単一のパイプ材66とを配備し、これら両者65,66に跨ってボルト止めされる状態に緩衝器CUの前連結部fsを構成する。
主パイプ27は単一の角パイプ材から成る直線状のものであり、やや右にオフセットされたエンジンEから右に振られて装備されるキャブレタ8が主パイプ27の右側に配置されている。図9は装備空車状態を示しており、その状態でも緩衝器CUの中心線又はその延長線であるベクトル線Xが、側面視において車体重心Gと揺動アーム支点Pとの間を通るように構成されている。当然ながら、緩衝器CUが最も縮んだ最大懸架ストローク状態におけるベクトル線X(仮想線)は、車体重心Gより遥か下方を通る。この場合でも、「少なくとも後輪2の最圧状態におけるベクトル線Xが車体重心Gと揺動アーム支点Pとの間、又は車体重心Gの近傍を通る状態に構成されている」が有意義な構成である。
〔参考例2〕
参考例2による自動二輪車は、図10,図11に示すように、後輪2の左右それぞれに緩衝器CUを有する二本サス構造のTR車である。例えば、二本サス車として製造・市販された一般公道走行可能なTR車を改造して参考例2による構成の二本サス車とすることも可能である。改造前の元の後輪懸架装置は、図10,11に仮想線で示すように、リヤーフレームrにおけるサイドチューブ30,31とシートレール32,33との結合箇所と、揺動アーム12の後端部とに亘ってやや前倒れする上下向き姿勢の緩衝器CU’を架設する構成である。尚、この参考例2においても、実施例1によるTR車と同じ機能部分には同一の符号を付し、その説明が為されたものとする。
参考例2による自動二輪車は、図10,図11に示すように、後輪2の左右それぞれに緩衝器CUを有する二本サス構造のTR車である。例えば、二本サス車として製造・市販された一般公道走行可能なTR車を改造して参考例2による構成の二本サス車とすることも可能である。改造前の元の後輪懸架装置は、図10,11に仮想線で示すように、リヤーフレームrにおけるサイドチューブ30,31とシートレール32,33との結合箇所と、揺動アーム12の後端部とに亘ってやや前倒れする上下向き姿勢の緩衝器CU’を架設する構成である。尚、この参考例2においても、実施例1によるTR車と同じ機能部分には同一の符号を付し、その説明が為されたものとする。
参考例2のTR車としての後輪懸架装置は、図10,11に実線で示すように、後輪懸架用の緩衝器CUが、主アーム部12aから上方に離れた位置においてほぼ横臥姿勢で配備されている。即ち、元の状態におけるサイドチューブ30,31を、サイドフレーム23,24の下端に連設されて揺動アーム支点Pを有するフットフレーム部40との連結箇所付近から上端部に亘って切除し、代わりにサイドフレーム23,24の途中部位と、サイドチューブ30,31の上端部とに亘って溶着等によって架設一体化される補強フレーム部41,42を設け、かつ、それら補強フレーム部41,42と対応するサイドフレーム23,24とに跨るブラケット35を設ける。そして、揺動アーム12における前後中間部の上側に、ボルトや溶着等の手段によって側面視が三角形状を呈する取付ステー39を取付け、その上端部に形成される後連結部rsとブラケット35に形成される前連結部fsとに亘って緩衝器CUを架設連結する。尚、ダウンチューブ28は1本でも良い。
取付ステー39は、後連結部rsが後輪2駆動用のチェン3との干渉が無いように十分上方に離れた箇所に位置するような大きさに形成されており、かつ、左右の緩衝器CUは、側面視において互いに同じ位置に設定されている(左右の位置が異なっても良い)。取付ステー39の例としては、左右一対の鋼板やアルミ合金板で形成するとか、鋳造や鍛造の一体品(単一部材)で形成する等があるが、パイプ材のその他の構成でも良い。尚、詳細は割愛するが、緩衝器CU及びその取付位置の変更に伴い、元々配置されていた補機類(排気管、エアクリーナ等)は、削り取ったり他の位置に移動したり、或いは別形状に形成されたものを付加する等の処理を適宜に行う。34は補強フレーム材である。
図10,11は装備空車状態を示し、ダンパ21とコイルバネ22とで成る緩衝器CUの伸縮移動部分の中心線又はその延長線であるベクトル線Xが車体重心G(又はその付近)を通っており、かつ、後輪2の最大懸架ストローク状態(フルストローク状態或いは最圧状態とも言う)では、一点破線で示すようにベクトル線Xは車体重心Gと揺動アーム支点Pとの間を通っている。このように、後輪2に対する左右夫々に緩衝器CUを有する二本サス車において、緩衝器CUのベクトル線Xが車体重心G又はその近傍を通る状態に構成(改造)することにより、仮想線で示す元の仕様に比べて後輪懸架性能が飛躍的に向上するようになる。この場合でも、「後輪2の最大懸架ストローク状態におけるベクトル線Xが車体重心Gと揺動アーム支点Pとの間、又は車体重心Gの近傍を通る」という構成で十分に懸架性能の向上効果が発揮できる。そして、後連結部rsの位置を揺動アーム12に対してより高く設定するとか、前連結部fsの位置を揺動アーム支点Pに近づける等して、装備空車状態においてもベクトル線Xが車体重心Gと揺動アーム支点Pとの間を通るように構成すれば後輪懸架性能をさらに向上させることが可能である。
さて、仮想線で示す元の二本サス構造では、緩衝器CU’の中心線であるベクトル線X’は、車体重心Gから後方に距離g、即ち遠く離れた箇所に向く構成になっていることが理解できる。これに対して、本発明による構成(改造後)では、前述したように緩衝器CUのベクトル線Xはほぼ車体重心Gを通っており、相対的なバネ上質量が大きく増して、凸部乗り越え等の後輪懸架に因って車体を揺動アーム支点P回りに前転させようとする作用(後輪懸架に起因する車体の揺動アーム支点Pに関する慣性モーメント)が著しく軽減されるようになる。
つまり、仮想線で示す元の二本サス構造では、後輪の凸部乗り上げに伴って車体が揺動アーム支点P回りに明確に回動移動しようとして、前輪1の接地点を中心にして車体後部が大きく持ち上がる挙動を示す(シートの突き上げ感が強く、懸架性能は芳しくない)が、実線で示す本発明による二本サス構造の自動二輪車では、バネ上質量が相対的に重くなったので、後輪の凸部乗り上げの際には緩衝器CUの圧縮量が大きくなって揺動アーム12の車体に対する揺動移動角度が大きくなることで後輪2の懸架ストロークの大部分が吸収され、車体後部の持ち上がり挙動が極めて小さくなる。
従って、走行路面の起伏や凹凸の影響がバネ上に伝達される割合が大きく減少し、シート5からの突き上げ感が殆ど無くなる等、後輪懸架性能が明確に向上するようになる。また、それによって後輪2の路面グリップが改善され、荒れた急坂の登坂走行や、段差乗り越え等の従来では走破不能となるようなトライアル走行が可能になるという利点も得られる(例:ステアケースの限界高さが高くなる)。尚、元の二本サス仕様における緩衝器CU’と、本発明による仕様における緩衝器CUとは、伸縮移動量、コイルバネ22のバネ定数、ダンパ21の減衰特性等の緒元が異なったものになることは言うまでも無い。
実施例4よる自動二輪車は、図12〜図15に示すように、後輪2の前方に単一の緩衝器CUが前後向き横臥姿勢で配されたモノサス構造のTR車であり、例えば、二本サスTR車として製造された自動二輪車を改造して本発明による構成のモノサス車とすることが可能である。単一の緩衝器CUは、エンジン部eと後輪2との前後間におけるミッションケースmの直上に配備されるように再構成されたものであり、図12〜図15において仮想線で示される改造前の元の後輪懸架装置(緩衝器CU’及びその取付構造等)は、図10,11に示される参考例2場合のものと同じであり、ここでの説明は割愛する。
揺動アーム12は、揺動アーム支点Pから直線状に後方下方に延びる主アーム部12aに、その後部から前方上方に延出される斜交いアーム部12bと、主アーム部12aの前部に相当する箇所から立設されて斜交いアーム部12bの前部に交わる単一又は複数の支持アーム部12cとを追加して構成されており、後輪2の前方において斜交いアーム部12bと支持アーム部12cとの結合箇所又は近くに単一の後連結部rsが形成されている。斜交いアーム部12bの後端部を、元の緩衝器CU’の下端部を螺着すべく主アーム部12a後端の取付板部12eに一体装備されているネジ軸(符記省略)に螺装させる手段を用いても良い。
緩衝器CUの前連結部fsの構造に関しては、サイドフレーム23,24の前側に溶着等によって一体的に装備されるステー23a,24aと、これら23a,24aに螺着される止着部材(ブラケット手段の一例)44とが追加構成される。止着部材44は、ボス部44aを一体的に有する左右一対の三角板材44A,44Aの計2部品で成るが、それら三角板材44A,44Aを一体的に連結する連結部材(図示省略)も有する構成でも良い。三角板材44Aの全端部に位置する左右のボス部44a,44a間に、緩衝器CUのダンパ側支持部(符記省略)を介装してボルト止めすることで前連結部fsが構成されている。正立型又はやや前傾した正立型4サイクルエンジンの場合、シリンダヘッドの後方に配置されるキャブレタ8とミッションケースmとの上下間に空間ができるので、その空間部に緩衝器CUの前部を入り込ませての配置が可能である。その空間部の上下寸法が小さい場合は、キャブレタ8と緩衝器CUとを左右に相対位置ずれさせて配置する。尚、簡単のため、図13では右側の止着部材44を省略してある。
止着部材44は、図12,13に示すように、ステー23a,24aに後部上部をボルト止めし、かつ、エンジンEの後部上部をボルト止め懸架するための第1懸架ステー54との共締めによって後部下部を車体フレームFにボルト止めしてあり、第1取付部t1との共締め装着構造で合理的に着脱可能に装備されているが、溶着等の手段によってサイドフレーム23,24に固着させる手段でも良い。実施例4は、単一の緩衝器CUを車体幅方向の中央又はほぼ中央位置に配置するので、参考例2の場合のようなサイドチューブ30,31の分断、並びにその取り回し変更等の改造を省くことが可能である。尚、詳細は割愛するが、車体中央部への緩衝器CUの新設変更に伴い、元々そこに配置されていた補機類(排気管、エアクリーナ等)は、削り取ったり、形状変更したり、他の位置に移動させるといった処理を適宜に行う。
止着部材44は、図14,15に示すように、エンジン部eのシリンダヘッド16又はヘッドカバー17の後端部を懸架するための第2懸架ステー55に上端部が共締めされ、かつ、第1懸架ステー54に下端部が共締めされる左右一対のブラケット板44A,44Aを有する2部品、又はそれらブラケット板44A,44Aとそれらを一体的に連結する連結部材とから成る単一部品に構成されるものでも良い。つまり、第1及び第2取付部t1,t2を共締めで兼用化させる合理構造である。この場合には、左右のサイドパイプ23,24に溶着されるステー23a,24a(図13参照)が不要となる利点がある。尚、図13や図15では緩衝器CUが左右中央に配置されているが、キャブレタ8の下部に干渉し易い場合には、左右方向でキャブレタ8と干渉しない側に寄せて設けても良い。
〔参考例3〕
参考例3による自動二輪車は、図7,図16に示すように、後輪2の左右それぞれに緩衝器CUを有する二本サス構造のTR車である。例えば、二本サス車として製造・市販された一般公道走行可能なTR車(実施例5,6とは別の機種の自動二輪車)を改造して参考例による構成の二本サス車とすることが可能である。改造前の元の自動二輪車においては、フレーム先端部であるヘッドパイプ26から揺動アーム支点P(エンジンEの後部下部)に亘る単一の主フレーム部27と、ダウンチューブ28の下端部から、従来の後連結部rs’に亘る左右一対のサイドチューブ30,31と、平面視で略U字形状を呈するシートレール32と、主フレーム部27の下端部と各サイドチューブ30,31の途中部位とを繋ぐ横向きパイプ43とを有するフレームFを有している。
参考例3による自動二輪車は、図7,図16に示すように、後輪2の左右それぞれに緩衝器CUを有する二本サス構造のTR車である。例えば、二本サス車として製造・市販された一般公道走行可能なTR車(実施例5,6とは別の機種の自動二輪車)を改造して参考例による構成の二本サス車とすることが可能である。改造前の元の自動二輪車においては、フレーム先端部であるヘッドパイプ26から揺動アーム支点P(エンジンEの後部下部)に亘る単一の主フレーム部27と、ダウンチューブ28の下端部から、従来の後連結部rs’に亘る左右一対のサイドチューブ30,31と、平面視で略U字形状を呈するシートレール32と、主フレーム部27の下端部と各サイドチューブ30,31の途中部位とを繋ぐ横向きパイプ43とを有するフレームFを有している。
まず、サイドチューブ30,31後部の上下向き部分30a,31aの上下中間部分を所定幅でもって切断し、切断後における下側部分の上端と主フレーム部27とを連結一体化するための下部補強フレーム部45,45を新設するとともに、切断後における上側部分の下端部と主フレーム部27とを連結一体化するための上部補強フレーム部46,46を新設する。そして、例えば主フレーム部27の縦フレーム部27Aにおける上下の補強フレーム部46,45の上下間部分に、左右に貫通する頑丈なパイプ材47を設け、このパイプ材47の左右両端にネジ軸(符記省略)を固着して前連結部fsを構成する。仮想線で示す地面(符記省略)は元の緩衝器CU’が装備される従来仕様の場合であり、実線で示す地面(符記省略)は本願発明の場合であり、揺動アーム12の位置を相対的に若干下げて後輪2の懸架ストロークの拡大を図ってある。図16に示すように、緩衝器CUのベクトル線X、及び一点破線で示す最大懸架ストローク状態のベクトル線Xは、共に車体重心Gと揺動アーム支点Pとの間を通る状態に構成されている。
一方、揺動アーム12には、その後部と前後中間部とにおいて連結一体化される左右一対の取付ステー39,39を新設し、それら取付ステー39,39の頂部に後連結部rsを設け、この後連結部rsと前連結部fsとに亘って横臥姿勢の緩衝器CUを架設連結する。取付けステー39は、図16に示すように、元の後連結部rs’に後端部が螺着される斜交いアーム部12bと、主アーム部12aの前後中間部に固着される支持部12fに下端部が螺着される支持アーム部12cとを有して成る着脱可能な構造体でも良いが、図10,11に示すような三角プレートを用いる構造でも良い。また、チェン3と後輪2との間に配置されて、主アーム部12aと前連結部fs又はその近傍部位とを結ぶ支え部材48(仮想線で示す)を設ければ強度上で好都合である。尚、詳細は割愛するが、緩衝器CU及びその取付位置の変更に伴い、元々配置されていた補機類(排気管、エアクリーナ等)は、削り取ったり他の位置に移動させる、或いは別形状に形成されたものを付加する等といった処理を適宜に行う。また、緩衝器CUの取付位置変更等に伴うサイドチューブ30,31の上記改造処理は一例であり、これに限られるものではない。
実施例5による自動二輪車は、図17,図18に示すように、ミッションケースmの直上で後輪2の前方に単一の緩衝器CUが前後向き横臥姿勢で配されたモノサス構造のTR車である。例えば、二本サスTR車として製造された自動二輪車を改造して実施例5のモノサス車としても良い。改造前の元の二本サス仕様の後輪懸架装置は、図7,16に示す参考例3のものと同じに付、ここでの説明は割愛する。実施例5のTR車に関する構成(改造)の要旨は、フレーム先端部26と揺動アーム支点Pとに亘る単一の主フレーム部27の縦部分27Aを通して、単一の緩衝器CUを前後向き横臥姿勢で配設する点にある。尚、単一の緩衝器CUと単一の主フレーム部27とを互いに左右に位置ズレさせ、縦部分27Aを通すことなく、或いは縦部分27Aを若干凹ませて連結させる構成を採ることも可能である。尚、図18の67は、揺動アーム12を縦部分27Aに枢支するための筒ボスである。
前記縦部分27Aにおけるミッションケースmのやや上方部位を、所定の上下寸法分切除し、代わりにその左右に補強フレーム部材49,50を溶着する等してトンネル空間部tsを形成し、そこを通すように単一の緩衝器CUを横臥配置する。左右の補強フレーム部材49,50の夫々から前方に延設される左右一対のブラケット51,51に前連結部fsを設け、斜交いアーム部12bと支持アーム部12cとが付設される揺動アーム12における斜交いアーム部12bと支持アーム部12cとの交点部位に後連結部rsを設ける。例えば、各補強フレーム部材49,50に取付板52を固着し、三角板状のブラケット51の後部下部をエンジン懸架用の第1取付部t1とボルトで共締めし、かつ、後部上部を前記取付板52にボルト止めする構造でも良い。サイドチューブ30,31には変更や改造を加える必要が無いか又は少しで済む。尚、改造に伴い、元々配置されていた補機類(排気管、エアクリーナ等)は、削ったり他の位置に移動させたり、又は別形状に形成されたものを付加する等といった処理を適宜に行う。図17に示すように、緩衝器CUのベクトル線Xは車体重心Gと揺動アーム支点Pとの間を通る状態に構成されている。参考例3や実施例5の自動二輪車においても、参考例2や実施例4の自動二輪車と同等の作用や効果を得ることができる。
〔本発明における後輪懸架に関する効果について〕
ここで、本発明による自動二輪車の後輪懸架構造(後輪懸架装置)の効果について検討する。結論から言えば、緩衝器CUが車体重心Gに向く構成の良さとは、相対ばね上質量を重くしながら緩衝器CUの伸縮量と後輪2の懸架ストローク量とのレバー比を実用上で良好に機能する値に設定できる点である。まず、図20には、緩衝器CUが丁度車体重心Gに向く基準発明構成K、車体重心Gと揺動アーム支点Pとの間における車体重心G側に寄った箇所に緩衝器CUが向く第2発明構成Ki、及び車体重心Gより揺動アーム支点Pから遠ざかる箇所に緩衝器CUが向く従来構成Kuのそれぞれが簡略化して示されている。尚、図20や後述する図21は、懸架性能を理解し易くするために極端に簡単化したサンプル図であり、実際の配置構成や寸法等を基にして忠実に表したものではない。
ここで、本発明による自動二輪車の後輪懸架構造(後輪懸架装置)の効果について検討する。結論から言えば、緩衝器CUが車体重心Gに向く構成の良さとは、相対ばね上質量を重くしながら緩衝器CUの伸縮量と後輪2の懸架ストローク量とのレバー比を実用上で良好に機能する値に設定できる点である。まず、図20には、緩衝器CUが丁度車体重心Gに向く基準発明構成K、車体重心Gと揺動アーム支点Pとの間における車体重心G側に寄った箇所に緩衝器CUが向く第2発明構成Ki、及び車体重心Gより揺動アーム支点Pから遠ざかる箇所に緩衝器CUが向く従来構成Kuのそれぞれが簡略化して示されている。尚、図20や後述する図21は、懸架性能を理解し易くするために極端に簡単化したサンプル図であり、実際の配置構成や寸法等を基にして忠実に表したものではない。
図20において、基準発明構成Kでの前連結部fs、緩衝器CUが車体重心Gを押す力H及びベクトル線Xは、それぞれ第2発明構成Kiではfi,Hi,Xi、従来構成Kuではfu,Hu,Xuと称し、緩衝器CUの押し方向と車体重心Gとの対応するベクトル線に直交する方向での位置ズレ寸法、及び揺動アーム支点Pと車体重心Gとの対応するベクトル線に直交する方向での間隔を、それぞれ第2発明構成Kiではdi,Li、従来構成Kuではdu,Luと称するものとする。そして、基準発明構成Kにおいて、凸部乗り越え等による後輪軸心2pに作用する上向きの力hにより、緩衝器CUが車体フレームを力Hで押すとする。この条件で各構成K,Ki,Kuのレバー比、及び相対バネ上質量の比が次のように求まる。尚、緩衝器CUの力に対する車体重心Gの慣性モーメントを、基準発明構成KではI、第2発明構成KiではIi、従来構成KuではIuとする。
基準発明構成Kでの後輪懸架による緩衝器CUが車体重心Gを押す力をH、慣性モーメントI=Hr2と表す場合、第2発明構成Ki及び従来構成Kuでの押力Hi,Huと慣性モーメントIi,Iuは次のように表される。
Hi=H×(Li−di)÷Li=H×r/Li
Ii=Hi×Li=(H×r/Li)×Li=H×r×Li
Hu=H×(Lu+du)÷Lu=H×r/Lu
Iu=Hu×Lu=(H×r/Lu)×Lu=H×r×Lu
ここで、rに対するLi及びLuの比を、一例として図20の作図上寸法で求めると、
Li=1.25r
Lu=0.69r
となり、これよりIi=1.25I、Iu=0.69Iとなる。この慣性モーメントを「相対バネ上質量」に読み換えるものとし、各構成K,Ki,Kuのそれぞれの相対バネ上質量をM,Mi,Muと表すものとする。
Hi=H×(Li−di)÷Li=H×r/Li
Ii=Hi×Li=(H×r/Li)×Li=H×r×Li
Hu=H×(Lu+du)÷Lu=H×r/Lu
Iu=Hu×Lu=(H×r/Lu)×Lu=H×r×Lu
ここで、rに対するLi及びLuの比を、一例として図20の作図上寸法で求めると、
Li=1.25r
Lu=0.69r
となり、これよりIi=1.25I、Iu=0.69Iとなる。この慣性モーメントを「相対バネ上質量」に読み換えるものとし、各構成K,Ki,Kuのそれぞれの相対バネ上質量をM,Mi,Muと表すものとする。
また、レバー比Qとは、後輪2の設計上の懸架ストローク量(ホイールトラベル量)nに対する緩衝器CUの伸縮ストローク量vの比n/vのことであり、例えば後輪の懸架ストローク量が180mmで緩衝器CUの伸縮ストローク量が54mmであれば、レバー比Q=n/v=54/180=0.3である。このレバー比Qは、良好に機能して所期のクッション作用を得るためには、物理的にあまり小さい値にはできないことが経験的に知られている。即ち、レバー比Qは、懸架ストローク量にもよるが、凡そ0.33(1/3)以上、即ち、Q>0.33に設定するのが好ましい。懸架ストローク量の多い(例:250mm以上)オンオフ車等では、配置スペースやリンク機構特性等の点からレバー比Qを0.25(1/4)程度に設定されることもあり、従って、一般限界的にはQ>0.25とすることは可能である。因みに、図19(a)のようなモノサス構造を採る従来の自動二輪車では、その殆どがリンク機構を有しているが、その主たる存在理由は、緩衝器が実質的に機能するようにその伸縮移動量(ストローク)を増幅させることであり、所謂プログレッシブ効果が出せる(出し易い)という利点は付随的なものである。
ここで、レバー比Qを、図19(b)を参考にして図解説明すると、緩衝器CUの最も長い状態である自由長をYmax、最も縮んだ最圧長をYminとすれば、伸縮ストローク量v=Ymax−Yminであり、後輪2の懸架ストロークnは、緩衝器CUが最圧長であるときの後輪軸心2pの高さ位置から、緩衝器CUが自由長であるときの軸心2pの高さ位置を減じた値である。尚、緩衝器CUの自由長は厳密には図19(b)に示す位置ではない(図示より若干下がった位置になる)が、説明を簡単にする都合上、装備空車状態の位置に置き換えて示すものとする。
さて、緩衝器CUによって車体重心Gに与える慣性モーメントIによる相対バネ上質量Mを縦軸に、そして後輪懸架に関するレバー比Qを横軸にそれぞれ取った関係グラフのイメージ図を図21に示す。この図21に示すように、相対バネ上質量Mとレバー比Qとの関係を示すラインZはほぼ反比例グラフ又はそれに近いものになっており、レバー比Qが大きくなると(緩衝器CUの前連結部frが揺動アーム支点Pより遠ざかっていくと)相対バネ上質量Mは小さく(慣性モーメントIは小さく)なり、レバー比Qが小さくなると(緩衝器CUの前連結部frが揺動アーム支点Pに近づいていくと)相対バネ上質量Mは大きく(慣性モーメントIは大きく)なる関係が成立っている。
前述したように、相対バネ上質量Mが大きいほど後輪懸架性能に優れる関係があるから、懸架性能を向上させるにはラインZにおけるできるだけ相対バネ上質量Mが大きい側に寄った箇所に設定するのが良いが、レバー比Qの点では、レバー比Qが第1所定値(Q=0.33)以上となる斜めハッチング部分に設定するのが望ましい。従って、これら双方の要求を満たすにはラインZ上における第1所定値又はその付近の位置に設定するのが良いことが理解できるが、その位置は、緩衝器CUが車体重心Gに向く構成としたときの条件にほぼ合致することとなる。これが請求項1等において「…緩衝器の伸縮移動部の中心線又はその延長線が、側面視において車体重心又はその近傍を通る状態に構成されている…」と規定することの意であり、それによって有効に機能して優れた性能を発揮する後輪懸架装置を有する自動二輪車が得られるのである。
そして、さらに懸架性能を向上させることが可能となるように、ラインZを図21において第1所定値s1よりも上側(左側)に寄った第2所定値s2をレバー比Qの限界とした構成がより好ましいのであり、それが請求項2等において「…緩衝器の伸縮移動部の中心線又はその延長線が、側面視において前記左右向き支点と車体重心との間を通る状態に構成されている…」と規定することの意である。詳細には、「…緩衝器の伸縮移動部の中心線又はその延長線が、側面視において前記左右向き支点と車体重心との間におけるレバー比が第2所定値以上となる部分を通る状態に構成されている…」という定義になる。第2所定値s2の一例は前述した0.25が挙げられる。
レバー比Qが小さ過ぎることの不都合は、物理的には、緩衝器CUの絶対伸縮移動量が小さくなって懸架構造の機構上の誤差の比率が大きくなること、換言すれば懸架動作上の遊びが多くなり過ぎること、及び、レバー比の過小によって応力が大になって各部の強度を大幅に補強しなければならないことであり、実際上では限界が存在する。そして、性能上で重要なのはダンパ機能が確保できなくなることである。つまり、油等の流体がオリフィスを通る際の抵抗を用いる一般的な緩衝器CUのダンパ21では、ピストンロッドとシリンダとの相対移動によって減衰作用が発生する仕組みであるから、その移動量が余りに小さくなると減衰が実質的に生じなくなってしまうのである。つまり、前記第1所定値s1や第2所定値s2は、ダンパ21とコイルバネ22との組合せによる一般的な緩衝器CUを用いることを前提条件とした場合の規定であると言える。尚、図20における3通りの構成K,Ki,kuの各レバー比Q(n/v)は簡単のために同じとしてあり、実際の状況に近い図21のグラフとは正確には合致していない。
以上のことを踏まえてさらに検討すれば、例えば、コイルバネ等の弾性手段と流体の粘性を用いる等のダンパ手段とを分離させ、ダンパ手段は比較的レバー比Qが大きくなる状態に構成し、懸架動作に伴う主応力を担う弾性手段はレバー比が小さくなる状態に構成する、という複合構造を採ることにより、実質的に前述の第2所定値(0.25)以下のレバー比(例:0.1)を有する後輪懸架装置を構成することが可能になる。つまり、車体フレームと揺動アームとに亘って架設される弾性手段の伸縮移動部の中心線又はその延長線が、揺動アーム支点と車体重心との間における揺動アーム支点に寄った箇所に向く、という構成が可能になるのである。従って、上述のような構造の緩衝器を用いる構成も考慮すれば、「…緩衝器の伸縮移動部の中心線又はその延長線が、側面視において車体重心又はその近傍を通る状態に構成されている…」という定義で良い。
〔まとめ〕
以上述べたように、本発明の要旨は、車体フレームFと揺動アーム12と亘って架設される後輪懸架用の緩衝器CUを、その伸縮移動部分の中心線又はその延長線であるベクトル線Xが車体重心G付近に、好ましくは車体重心Gと揺動アーム支点Pとの間に向くように設ける点にある。これにより、後輪懸架性能を良好なもの、或いは従来よりも優れたものにしながら、後輪と揺動アーム支点との間にリンク機構を設けるためや、緩衝器の伸縮移動量(ストローク)を確保するために揺動アーム長さを長くする必要が無くなり、揺動アーム支点の位置を従来よりも後方に寄せることができる。従って、エンジン位置を従来よりも無理なく後方に寄せることができて前重傾向が解消され、前後重量バランスに優れてハンドル操作も軽快に行える効果を発揮することができる。この効果は、エンジンの正立型や倒伏型の如何に拘らずに得ることができる。
以上述べたように、本発明の要旨は、車体フレームFと揺動アーム12と亘って架設される後輪懸架用の緩衝器CUを、その伸縮移動部分の中心線又はその延長線であるベクトル線Xが車体重心G付近に、好ましくは車体重心Gと揺動アーム支点Pとの間に向くように設ける点にある。これにより、後輪懸架性能を良好なもの、或いは従来よりも優れたものにしながら、後輪と揺動アーム支点との間にリンク機構を設けるためや、緩衝器の伸縮移動量(ストローク)を確保するために揺動アーム長さを長くする必要が無くなり、揺動アーム支点の位置を従来よりも後方に寄せることができる。従って、エンジン位置を従来よりも無理なく後方に寄せることができて前重傾向が解消され、前後重量バランスに優れてハンドル操作も軽快に行える効果を発揮することができる。この効果は、エンジンの正立型や倒伏型の如何に拘らずに得ることができる。
例えば、従来の二本サス構造のTR車を改造する場合(参考例2,3)では、緩衝器の位置をエンジンに近づけて質量の集中化を図ることにより、後輪懸架性能の向上だけでなく、操縦性が向上する利点もある。この付随効果は、緩衝器が1個(モノサス構造)でも2個(二本サス構造)でも得ることができる。また、後輪2の懸架に起因した車体の揺動アーム支点Pに関する相対的な慣性モーメントを大きく減少できることから、二本サス車でありながら従来の二本サス車は勿論、従来のモノサス車よりも後輪懸架性能を向上させることが可能となる利点もある。つまり、緩衝器CUの数ではなく、その設け方に重要性があると言える。
倒伏型や水平型のエンジン、特に排気量の比較的大きい(125〜250cc)4サイクルエンジンを搭載する構成(実施例1〜4)は、揺動アーム支点の位置を従来よりも後方に寄せることで可能になる。軸距が1300〜1350mmで前後タイヤサイズが2.75−21、4.00−18相当に設定されるTR車においては、前後輪間の限られた有効空間に倒伏型又は水平型のミッションケース付エンジンを搭載するには、本発明のように、後輪2の直前に揺動アーム支点Pを設ける程度の構成が必要になるからである。これは、リンク機構の有無に拘らずに単一の緩衝器をある程度の伸縮移動量が確保された状態で後輪の前方に配置すべく、揺動アーム支点を後輪から比較的前方に離れた位置に設ける(揺動アーム長を長くする)ことが必要不可欠である従来の自動二輪車の後輪懸架装置では採ることができない構成である。即ち、50〜90ccといった小排気量の4サイクルエンジン等であれば、従来構成のTR車に倒伏型や水平型エンジンとして搭載することが可能な場合もあるが、一般公道を機敏に走行できる実用性があり、またトライアル競技にも通用するようある程度強力なトルクや馬力を発揮する排気量(125〜250cc又はそれ以上)を有するエンジンを倒伏型や水平型として搭載するには、上述のように揺動アーム支点を後方に寄せて前後輪間の有効空間を前後に増大させる構成が必要になる。
そして、倒伏型や水平型のエンジンの採用により、キャブレタ等の燃料供給装置の位置を正立型エンジンの場合に比べて無理なく下げることができ、重力によってガソリン等の燃料を燃料供給装置に供給する一般的な燃料供給構造を採る場合において、燃料タンクの底の位置を無理なく下げることが可能になる。これにより、倒伏型や水平型エンジンの採用による低重心化や最低地上高の増大に加えて、燃料タンクの位置を高くすることなくタンク容量を増大させることや、それによる低重心化を図ることも可能になる。無給油での航続距離を延ばせる燃料タンク容量の増大は、林道や山岳走行等、給油所の少ない又は無い地域を走る機会の多いTR車やオンオフ車では実用上の利点が大である。
また、本発明による後輪懸架構造を、現行の自動二輪車の構成を改造することで適用させることも可能であり、モノサス構造を採る新車に買い換えることなく後輪懸架性能が飛躍的に向上する仕様を比較的廉価に得ることができる。即ち、参考例2,3や実施例4,5に示されるように、車体フレームや補機類の改造、並びに緩衝器の変更等を行うことにより、従来のTR車やトレール車、オン・オフ車等の二本サス構造の自動二輪車の後輪懸架性能を大幅に改善することができる。
〔別実施例〕
伝動機構3は、チェンの他、シャフトドライブ構造や油圧駆動構造でも良い。エンジンEは、2サイクルエンジンとすることも可能である。ミッションケースmの直上に配される緩衝器CUは、その前後長や径を小さくすべく左右に並べて計2個用いる構成や、左右何れか一方にコイルバネを、かつ、いずれか他方にダンパを設ける構成としても良い。燃料供給装置8は、キャブレタのほか、電子制御式燃料供給装置でも良く、それ以外の手段でも良い。前述の各実施例では発明対象となる自動二輪車が全てTR車として説明されているが、それに限らずオンオフ車、オフロード車、ビジネス車、ロードスポーツ車等、あらゆる自動二輪に適用することが可能である。
伝動機構3は、チェンの他、シャフトドライブ構造や油圧駆動構造でも良い。エンジンEは、2サイクルエンジンとすることも可能である。ミッションケースmの直上に配される緩衝器CUは、その前後長や径を小さくすべく左右に並べて計2個用いる構成や、左右何れか一方にコイルバネを、かつ、いずれか他方にダンパを設ける構成としても良い。燃料供給装置8は、キャブレタのほか、電子制御式燃料供給装置でも良く、それ以外の手段でも良い。前述の各実施例では発明対象となる自動二輪車が全てTR車として説明されているが、それに限らずオンオフ車、オフロード車、ビジネス車、ロードスポーツ車等、あらゆる自動二輪に適用することが可能である。
1 前輪
2 後輪
2p 軸心
3 伝動機構
12 揺動アーム
44 ブラケット手段
54 第1懸架ステー
55 第2懸架ステー
CU 緩衝器
E エンジン
F 車体フレーム
P 左右向き支点
a ピストン移動方向線
e エンジン部
m ミッションケース
2 後輪
2p 軸心
3 伝動機構
12 揺動アーム
44 ブラケット手段
54 第1懸架ステー
55 第2懸架ステー
CU 緩衝器
E エンジン
F 車体フレーム
P 左右向き支点
a ピストン移動方向線
e エンジン部
m ミッションケース
Claims (4)
- 前輪と後輪との間にミッションケース付のエンジンが配置され、前記エンジンの駆動力を前記後輪に伝達する伝動機構が装備されている自動二輪車であって、
前記後輪を回転自在に支持し、かつ、前端部に設けられる左右向き支点回りで揺動自在に車体フレームに枢支される揺動アームと前記車体フレームとに亘って架設される後輪懸架用の緩衝器が、前記揺動アームに直接連結され、かつ、前記ミッションケースの直上において前後向き姿勢で配置されるとともに、前記ミッションケースが前記後輪の軸心に対して上位となる高さ位置に設けられている自動二輪車。 - 前記エンジンは、シリンダが前記ミッションケースより前に位置するとともに、前記シリンダにおけるピストン移動方向線が側面視において水平又は略水平、或いは水平に近い前倒れ角度となる倒伏型に構成されている請求項1に記載の自動二輪車。
- 前記緩衝器が、側面視で略三角形を呈する揺動アームの上頂部に連結されている請求項1又は2に記載の自動二輪車。
- 前記車体フレームは、前記ミッションケースの後部をボルト連結するための第1懸架ステーと、前記エンジンにおけるシリンダを有するエンジン部をボルト連結するための第2懸架ステーとを有するとともに、前記第1懸架ステーと前記第2懸架ステーとの少なくとも一方に取付けられるブラケット手段に前記緩衝器が連結されている請求項1〜3の何れか一項に記載の自動二輪車。
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