JP2008163495A - 産業資材用ネット - Google Patents

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泰一 岡田
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Abstract

【課題】
従来ネットに比べ柔軟性を維持したまま、耐摩耗性、耐衝撃性等の特性に優れ、屋外環境においても長期間その機能を失うことなく好適に使用できる産業資材用ネットを提供する。
【解決手段】
合成繊維が樹脂エラストマーで被覆されてなる産業資材用ネットであって、該樹脂エラストマーの被覆量が繊維重量100重量部に対し1〜6.5重量部であることを特徴とする産業資材用ネット。合成繊維の強度が6〜9cN/dtex、伸度が15〜40%であることが好ましく、合成繊維がポリエステル繊維、またはポリアミド繊維であることがより好ましい。
【選択図】なし

Description

本発明は産業資材用ネットに関する。詳しくは従来ネットに比べ柔軟性を維持したまま、耐摩耗性、耐衝撃性等の特性に優れ、屋外環境においても長期間その機能を失うことなく好適に使用できるネットに関するものである。
安全ネット、養生ネット、河川護岸ネット、海洋護岸ネット、農業用ネット、水産業用ネット、スポーツレジャー用ネットなどに代表される産業資材用ネットは、設置場所、使用形態に応じて適宜塑性変形する必要があり、一般的には柔軟なマルチフィラメントからなる繊維材が使用されている。
そして、これら産業資材用ネットには、高い初期強力・優れた初期タフネスが要求されると同時に屋外環境下において長期間、該特性を維持すべく耐久性が必要になる。例えば、紫外線劣化を抑制するための耐候性や抗酸化性、高温下での物性低下を抑制する耐熱性、また雨、水による物性変動を抑える耐水性、さらには石砂等との摩擦・衝突による破断、損傷を防ぐ耐摩耗性や耐衝撃性などである。このうち耐摩耗性・耐衝撃性は特に重要であり、これら特性を向上させることで産業資材用ネットの大幅な寿命延長が期待できるようになる。これまでにネットの耐摩耗性・耐衝撃性を向上させ得る技術として数多くの提案がなされてきている。そのうちネットを構成する繊維に工夫・改善を施すことでかかるネット特性を向上させ得る技術として特許文献1〜4がある。
特許文献1、2にはネットを構成する繊維の単糸繊度を特定の範囲とすることで、ネットにかかる衝撃や石砂との摩耗を吸収分散させ耐摩耗性、耐衝撃性を向上させる方法が記載されている。しかしながら、この方法による向上効果は僅かであり、屋外環境下で使用するネットに適用した場合には、耐摩耗性、耐衝撃性が全く不十分である。
特許文献3には芯部にポリエステル、鞘部にポリアミドを配し、さらにポリアミド中にはケイ素化合物を添加することで耐候性、耐熱性、耐摩耗性、耐衝撃性等に優れた芯鞘複合繊維に関する技術が記載されている。しかしながら、この複合繊維を使用したネットについても、耐摩耗性、耐衝撃性の点で十分とは言えず、屋外環境下で長期間使用するという要望に応えきれるものではなかった。
特許文献4には繊維の動摩擦係数を0.10以下に抑えることで耐衝撃性、耐摩耗性の向上を図る技術が提案されている。この方法では繊維と石砂等が衝突・接触した際に糸条を構成する単繊維が素早く移動し衝撃圧力を分散させることで繊維自体が受けるダメージが低減できると記載されている。しかし屋外での実使用環境下においては、必ずしも有効ではなく、ネット寿命の延長が認められないケースもあった。また、繊維の動摩擦係数を低く抑えるあまりに取り扱い難く、ネット製造工程において問題が残るものでもあった。
以上述べてきたように繊維材に工夫・改善を施した技術提案では、確かにネット自体は柔軟であり各種ネット形態への適用は可能であるが、肝要の耐摩耗性、耐衝撃性が十分ではなく、さらなる耐摩耗性、耐衝撃性の向上、つまりこれまでの技術レベルを卓越した産業資材用ネットが未だ望まれ続けている状況にあった。
一方で、繊維材に樹脂材を被覆した複合材料に関する技術として特許文献5および特許文献6が提案されている。
特許文献5には繊維ネットにエポキシ樹脂、ポリアミド樹脂および無機充填材を主成分とする樹脂組成物を被覆してなる工事用仮設ネットに関する技術が記載されている。この方法で得られるネットは、繊維材のみからなるネットに比べると耐摩耗性、耐衝撃性の向上効果が認められるものの、本来は振動減衰や騒音消去を狙った技術であり、ネットの使用寿命を延長させるうえで肝要の耐摩耗性、耐衝撃性については考慮されておらず、不十分なものであった。
特許文献6ではある特定の物性を有す繊維ネット上にアクリル系又はシリコン系樹脂を繊維重量に対して7〜70%被覆する技術が提案されている。この方法では繊維ネット材に伸び応力がかかった際、被覆樹脂にクラックが発生するのを防ぐため、比較的硬い樹脂が選択使用されている。つまりこのネット構造体は特許文献5と同じく障害物との衝突・接触による摩耗進行の抑制を十分には考慮できておらず、屋外環境下での長期使用には不安を残すものであった。また、比較的硬い樹脂を7〜70%も塗布することでネット自体が硬くなり、所望のネット形態となすことが困難でもあった。特に袋体をなし、設置場所に応じて形態変化が必要な河川護岸ネットや海洋護岸ネットへの適用は難しいものであった。
特開平11―350293号公報(特許請求の範囲) 特開2001−262452号公報(特許請求の範囲) 特開平7−316927号公報(特許請求の範囲) 特開平11−350289号公報(特許請求の範囲) 実開平2−68045号公報(特許請求の範囲) 特許第3781222号公報(特許請求の範囲)
本発明は上記従来技術では解決できなかった課題を鋭意検討した結果、達成したものである。すなわちは柔軟性を維持したまま、耐摩耗性・耐衝撃性が向上し、屋外使用環境下においても長期間、高い強力・高いタフネスを保持し続けることができる産業資材用ネットを提供することにある。
上記目的を達成するため、本発明は主として次の構成を有する。すなわち、合成繊維が樹脂エラストマーで被覆されてなる産業資材用ネットであって、該樹脂エラストマーの被覆量が繊維重量100重量部に対し1〜6.5重量部であることを特徴とする産業資材用ネットである。
さらに、本発明の産業資材用ネットにおいては、次の(a)〜(d)のいずれか1つまたはその組み合わせを満たすことが好ましい態様であり、さらに優れた効果が期待できるものである。
(a)合成繊維の強度が6〜9cN/dtex、伸度が15〜40%であること。
(b)合成繊維がポリエステル繊維および/またはポリアミド繊維であること。
(c)ネットのデュロメータ硬さがA5〜A50であること。
(d)樹脂エラストマーが天然ゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、ウレタンゴム、レゾルシン−ホルマリンラテックスから選ばれる少なくとも1種のエラストマーであること。
本発明によれば、耐摩耗性・耐衝撃性が大幅に向上した産業資材用ネットが得られ、屋外で使用される全てのネットに適用でき、特に内部に石片やコンクリート片などを充填した袋体をなし、大きな波力が及ぶ河川護岸ネット、海洋護岸ネットに使用した場合においても、長期間その機能を保持し続けることができる産業資材用ネットを得ることができる。
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の産業資材用ネットは繊維材および樹脂エラストマー材から構成される。
繊維材にはポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維、ポリビニルアルコール繊維など多くの合成繊維が使用でき、特に限定されるものではないが、ネット特性として高強度・高タフネスを得るという点においてポリエステル繊維、なかでもポリエチレンテレフタレート繊維、ポリアミド繊維、なかでもポリカプラミド繊維、およびポリヘキサメチレンアジパミド繊維が好適である。また、これらポリマはホモ成分であっても、一部に共重合成分を含むものであってもよい。例えば、ポリエチレンテレフタレート繊維の場合は、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの酸成分、ブタンジオール、ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオールなどのジオール成分を含むものであっても良い。また近年、地球環境保護の観点から利用推奨されているポリエステル、ポリアミドのリサイクル繊維を適用することも十分可能である。
繊維材自体の耐候性、抗酸化性、耐熱性を向上させる目的で各種薬剤を添加することが好ましい。ポリエステル繊維の場合、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系などの紫外線吸収剤、抗酸化剤、ラジカル補足剤、また、酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、クレーなどの無機物などが好適に使用される。ポリアミド繊維の場合は、酢酸銅、沃化銅、臭化銅、塩化第二銅などの銅塩類、沃化カリウム、沃化ナトリウム、臭化カリウム、塩化リチウム、塩化カルシウム等のハロゲン化アルカリ金属およびハロゲン化アルカリ土類金属、ヒンダードフェノール系抗酸化剤、ジフェニルアミン系酸化防止剤、イミダゾール系酸化防止剤、またはリン系化合物等が使用される。
また、ポリマ中に着色剤を含む原着糸とすることで、耐色堅牢度の向上とともに、ネット製造工程において染色工程を省略できるという地球環境面および製造コスト面でのメリットが生じる。着色剤についても特に限定されるものではなく、使用するポリマによって適宜選択すれば良い。ポリエステルの場合は、カーボンブラック、酸化亜鉛、酸化鉄などの無機着色剤、シアニン系、フタロシアニン系、アントラキノン系、アゾ系、ペリノン系、スチレン系、キナクドリン系などの有機着色剤が一般によく用いられる。ポリアミドの場合は、カーボンブラック、亜鉛華、酸化チタン、ベンガラ、チタンイエロー、亜鉛−鉄系ブラウン、チタン−コバルト系グリーン等の無機顔料、および銅フタロシアニンブルー、銅フタロシアニングリーン、臭化銅フタロシアニングリーン、ジアンスラキノンレッド等の有機顔料が一般的である。
高強度・高伸度の繊維材を得るうえで使用するポリマの重合度は高い方が良い。ポリエチレンテレフタレートの場合、固有粘度0.8以上、好ましくは0.9以上、より好ましくは1.0以上である。ポリアミドの場合、硫酸相対粘度が2.8以上、好ましくは3.0以上、より好ましくは3.3以上である。
本発明の産業資材用ネットを構成する合成繊維の強伸度等の物性は特に限定されるものではないが、強度は6〜9cN/dtexであることが好ましく、7〜9cN/dtexであることがより好ましい。また伸度は15〜40%であることが好ましく、20〜35%であることがより好ましい。繊維材の強伸度特性をかかる範囲とすることで、ネット構造体として高強度・高タフネスが発現し、安全ネット、養生ネット、河川護岸ネットや海洋護岸ネットなど産業資材用途に好適に使用できるようになる。
また、合成繊維の乾熱収縮率は3〜15%とすることで形態安定性に優れたネットが高品位で得られやすくなるために好ましく、5〜10%とすることがより好ましい。さらに合成繊維の沸騰水収縮率は3〜15%とすることで形態安定性に優れたネットが高品位で得られやすくなるために好ましく、5〜10%とすることがより好ましい。
本発明の合成繊維の総繊度、単糸繊度についても特に制限はなく、産業資材用ネットの要求特性およびネット製造工程における生産効率、さらには合成繊維の製造工程面をも勘案し適宜設定すればよい。これら物性および生産性を兼備する繊度域としては、総繊度は500〜3000dtexであることが好ましく、1000〜2000dtexであることがより好ましい。また単糸繊度は18〜35dtexであることが好ましく、18〜25dtexであることがより好ましい。
以上述べてきた本発明の産業資材用ネットを構成するポリエステル繊維、ポリアミド繊維に代表される熱可塑性合成繊維は常法により製造することができる。一例としてポリエチレンテレフタレート繊維の溶融紡糸方法を示すが、何らこれに限定されるものではない。
固有粘度が1.0以上のポリエチレンテレフタレートを溶融濾過したのち口金細孔から紡出する。紡出糸条はポリマの融点以上、例えば270〜350℃に加熱せしめた雰囲気を通過したのち80℃以下の冷却風にて冷却固化される。かかる温度履歴を経ることで、高強度・高タフネスの繊維を品位良く製造することができる。冷却後の糸条は油剤を付与され、所定の回転速度で回転する引取ローラに捲回して引き取られる。引き続き、順次高速回転するローラに捲回することで延伸を行う。より高強度・高タフネスの繊維を得るには2〜3段に分けて、トータル3.5〜6.0倍の倍率になるように延伸すればよい。各ローラの表面温度は得られる繊維の品位品質に影響を与えるものであり、適当な温度に設定する必要がある。例えば、引取ローラ、第1延伸供給ローラは60〜100℃、第1延伸ローラは100〜130℃、第2延伸ローラは180〜230℃とするのが好ましい。延伸後には1〜10%程度の弛緩処理することで、形態安定性に優れた繊維を得ることができる。巻き取る直前において、高圧空気を走行糸条に噴射して交絡処理を施すことが好ましい。交絡はできるだけ多くかつ均一にすることが好ましく、交絡数(CF値)は10〜30あれば十分である。かかる範囲の交絡を付与することで巻き取りチーズからの糸条解舒性、および糸条のガイド通過性が良好になり製網工程におけるトラブルを回避することできる。
本発明の産業資材用ネットは、通常上記得られた合成繊維を数本合わせて編網する。合わせ本数は使用用途、ネットの要求特性に応じて適宜設定すればよい。例えば、安全ネットや養生ネットでは1670T程度の高強度ポリエステル繊維またはポリアミド繊維を5〜20本程度合わせて網糸とすることが多く、河川護岸ネット、海洋護岸ネットなどより厳しい環境下で使用するネットでは、50本以上ときとして100本以上を合わせて使用することもある。
ネットの形状についても、使用用途・使用目的に応じて適宜設定すればよい。網目については菱目、亀甲目、角目、千鳥目、六角目などが挙げられる。ネット種としては、蛙又、本目のような結節網、無結節網、ラッセル網、もじ網、織網などを採用することができる。安全ネット、河川護岸ネット、海洋護岸ネット等の場合には菱目、角目の無結節網、ラッセル網が多く用いられる。目合いについては10〜100mmが好ましい。例えば、河川護岸ネット、海洋護岸ネットといった袋体をなし、その内部に石片等を充填するネットの場合は、その充填材が漏出するのを防ぐようにすればよく、比較的大きな目合い50〜100mmが選択される。
本発明の産業資材用ネットは繊維材および樹脂エラストマー材から構成される。
樹脂エラストマーの塗布量は合成繊維材に対し1〜6.5%であり、2〜5%であることが好ましい。ネット表面にかかる範囲の樹脂エラストマーを塗布することで、ネット自体の硬化をともなわず、耐摩耗性・耐衝撃性の向上が可能となる。樹脂エラストマー塗布量が1%未満であると、繊維材のみからなるネットに比べ期待するほどの耐摩耗性、耐衝撃性が得られず、一方、塗布量が6.5%を越えると、ネット自体が硬くなり各種形態ネットへの適用が困難となる。また、樹脂エラストマーの増量は原材料のコストアップになるばかりか、塗布加工工程の通過性悪化を招く恐れがあり好ましくない。さらにネット重量の増加により輸送・現場設置時の取り扱い性に問題が生じるものでもある。
上記の通り本発明の産業資材用ネットでは繊維材に樹脂エラストマーを規定量塗布することが最大の特徴であり、柔軟性を維持したまま、耐摩耗性・耐衝撃性が向上したネットが得られるようになるものである。
樹脂エラストマー材は、特に限定されるものではないが、柔軟であり、耐摩耗性、耐衝撃性に優れたものを選択すべきである。つまり、本発明ではあえて樹脂エラストマーと呼び、通常の樹脂とは区別して用いている。樹脂エラストマーとはいわゆる“ゴム”であり、常温下において軟らかく弾性に富む高分子物質である。そして、該樹脂エラストマーをその表面に配してなる本発明のネット構造体のデュロメータタイプAで測定したデュロメータ硬さはA5〜A50であることが好ましい。ネット硬度をかかる範囲とすることで、無理なく塑性変形できるようになり、あらゆる設置場所、環境下で好適に使用できるようになる。また、かかる範囲の硬さであることは、すなわち、衝撃を吸収緩和することで耐摩耗性・耐衝撃性の向上を示唆するものでもある。
上述の通り、本発明の産業資材用ネットは、その表面に比較的少ない量の樹脂エラストマーを配してなることから、ネット自体の柔軟性を維持したまま、耐摩耗性、耐衝撃性に優れ、屋外環境下においても強伸度等の物性低下がなく、破網・破損が起こりにくく長期間使用できるものである。すなわち従来提案されている樹脂、例えばエポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、シリコン樹脂などを被膜してなるネット構造体では実現できなかった各種特性を兼備したネット構造体であると言える。
本発明の産業資材用ネットに使用する樹脂エラストマー材は、特に限定されるものではないが、柔軟性に富み、耐摩耗性、耐衝撃性に優れたものが好適である。具体的には、天然ゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、ウレタンゴムなどが挙げられる。なかでも物性バランスの点からウレタンゴム、クロロプレンゴムがより好ましい。これら樹脂エラストマーに加硫剤、架橋剤を添加し熱処理することで樹脂エラストマー自身の構造がより安定化・強靱化し、該エラストマーが被覆されてなるネット構造体ではより一層の耐摩耗性、耐衝撃性向上効果が発現する。また、該エラストマーに耐摩耗性、耐衝撃性、さらには耐候性、耐水性等を向上させる目的で各種薬剤を添加してもよい。例えば、高分子ポリエチレンやポリテトラフルオロエチレン等の微粉末を添加することで耐摩耗性の向上が期待でき、カーボン、シリカなどの無機物の添加により被膜強度アップが期待できる。その他、酸化防止剤、PH調整剤、安定剤などを添加することでも樹脂エラストマー特性を向上させることができる。また、本来の耐摩耗性、耐衝撃性、さらには強伸度特性を損なわない範囲において難燃剤や抗菌剤を添加することも可能であり、ネットに所望の機能を付加することができる。
本発明の産業資材用ネットを得るには幾つかの方法が採用できる。例えば、繊維材で編成されたネットを有機溶媒または水などで希釈・エマルジョン化した樹脂エラストマー溶液に浸漬後、マングル、バキューム、コーティングナイフ等を用いて余分な樹脂を除去する方法が挙げられる。該方法によると繊維材への均一かつ薄塗りするという点でより有利である。引き続き、繊維ネット上に残った溶媒を除去すべく、該溶媒の沸点以上に加熱する工程を経た後、樹脂エラストマーを繊維材に固着させ、さらにはエラストマー自体の耐摩耗性・耐衝撃性等の特性を一段と向上させるために、高温熱処理工程に供すことが好ましい。熱処理温度は使用する樹脂エラストマーに特有であり、例えば、ウレタンゴムの場合は、130〜180℃、クロロプレンゴムの場合は100〜150℃程度に設定すればよい。該温度に保持する時間については、樹脂エラストマーの塗布量により適宜設定すべきであるが、20秒〜5分加熱すれば、適当な樹脂エラストマー被膜が形成され、柔軟性を保持したまま、所望の耐摩耗性、耐衝撃性に優れたネット構造体が得られる。
なお、本発明は樹脂エラストマーの塗布量が少なくネット構造体の硬化を伴わないことから、先に樹脂エラストマーを塗布した網糸を作製し、該網糸を編網することで産業資材用ネットを製造することも可能である。該方法は、繊維材を編網する従来ネットの製造方法に比べ、製網性が別段悪化するものではなく、より実用的な方法の1つであると言える。
本発明の産業資材用ネットはその使用目的・形態に応じて吊りロープや口縛りロープなどに取り付けて使用することができる。これらのロープ類はネットを設置・使用するうえで補助的に必要なものであり、必ずしも樹脂エラストマーで被覆する必要はなく、繊維材や針金材のみからなるものであっても何ら問題ない。
かくして得られる本発明の産業資材用ネットは、その表面に柔軟かつ耐摩耗性、耐衝撃性等に優れた樹脂エラストマーを配してなることから、柔軟性を維持したまま、各種特性、特に耐摩耗性、耐衝撃性に極めて優れ、あらゆる屋外環境下において長期間その機能を消失することなく使用することができる。しかも、特異な生産工程を要するものでなく、既知の製網工程、樹脂塗布工程を組み合わせることで、その実現が可能であり、極めて実用的である。
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、各種物性は次に方法により算出した。
[ポリエステルの固有粘度(IV)]:
試料8.0gにオルソクロロフェノール100mlを加えて、160℃×10分間加熱溶解した溶液の相対粘度ηrをオストワルド粘度計を用いて測定し、次の近似式に従い算出した。
IV=0.0242ηr+0.02634
[ポリアミドの硫酸相対粘度(ηr)]:
試料1.0gを98%硫酸100mlに溶解し、25℃の条件下においてオストワルド粘度計を用いて測定した。
[総繊度]:
JIS L−1013(1999)8.3.1正量繊度a)A法に従って、所定荷重5mN/tex×表示テックス数、所定糸長90mで測定した。
[単糸繊度]:
総繊度をフィラメント本数で徐して求めた。
[強度・伸度]:
試料を気温20℃、湿度65%の温調室において、オリエンテック社製“テンシロン”(TENSILON)UCT−100でJIS L−1013(1999)8.5.1標準時試験に示される定速伸長条件で測定した。このときの掴み間隔は25cm、引張速度は30cm/min、試験回数は10回であった。なお、破断伸度はS−S曲線における最大強力を示した点の伸びから求めた。
[乾熱収縮率]:
JIS L−1013(1999)8.18.2乾熱収縮率a)かせ収縮率(A法)に従って、試料採取時の所定荷重5mN/tex×表示テックス数、処理温度150℃、また、かせ長測定時の所定荷重200mN/tex×表示テックス数として測定した。
[沸騰水収縮率]
JIS L−1013(1999)8.18.1熱水収縮率a)かせ収縮率(A法)に従って、試料採取時の所定荷重5mN/tex×表示テックス数、処理温度100℃、また、かせ長測定時の所定荷重を200mN/tex×表示テックス数として測定した。
[エラストマー被覆量]:
エラストマー被覆前の繊維材から1m採取し重量Xを、エラストマー被覆後の繊維材から1m採取し重量Yをそれぞれ測定し以下式に従って算出した。
エラストマー被覆量(重量部)=(Y−X)/X×100
[ネットのデュロメータ硬さ]:
ASKER製デュロメータ硬度計タイプAを用いJIS K−6253(1997)5.デュロメータ硬さ試験に従って測定した。加圧面を試験片側面に密着後1秒以内に目盛りを読みとった。試験回数を5回とし、その平均値を記した。
[ネット強力]:
JIS A−8960(2004)7.2網糸の引張強さ試験に従って、掴み間隔25cm、引張速度20cm/minとしてオリエンテック社製“テンシロン”(TENSILON)UCT−100を用い測定した。試験回数は10回であった。なお、破断伸度はS−S曲線における最大強力を示した点の伸びから求めた。
[ネットの耐摩耗性・耐衝撃性(強力保持率)]:
ネット構造体から30cm×30cmの試験片を採取した。次に50lのコンクリートミキサーに試験片、水およそ30l、割れ石およそ5kg、平均粒径およそ300μmの砂3kgを入れ、50rpmの回転速度で15min攪拌させた。攪拌後試験片を取り出し、乾燥後、ネット構造体の強伸度を測定し、次式に従いネット構造体の耐摩耗性・耐衝撃性(強力保持率)を算出した。
ネット構造体の耐摩耗性・耐衝撃性(強力保持率)(%)
=(摩耗試験後のネット強力/摩耗試験前のネット強力)×100
[ネットの柔軟性(変形性)]:
ネット構造体から30cm×30cmの平面形状の試験片を採取し、ちょうど半分になるように折り畳んだ。その際のネット形状を以下に記す通り ○、△、×で表した。
○:折り畳んだ状態を維持した。
△:折り畳んだ状態から若干反発した。
×:折り畳んだ状態から完全に反発し、もとの平面形状に戻った。もしくは、折り畳むことができなかった。
[実施例1]
高純度テレフタル酸とエチレングリコールにアンチモン系触媒を添加し、減圧下において285℃まで徐々に加熱し所定の攪拌トルクとなった時点で反応系を窒素パージし常圧に戻し重縮合反応を停止した。次いで得られたポリマを冷水中に押し出しカッティングすることでポリエチレンテレフタレートのペレットを作製した。得られたペレットを130℃にて3時間の予備結晶化を行った後、真空下230℃にて10時間の固相重合を行い、固有粘度1.2のポリエチレンテレフタレートを製造した。引き続き固有粘度1.2のポリエチレンテレフタレートをエクストルーダ型紡糸機で溶融し、計量ポンプで計量した後、紡糸パック内で濾過し紡糸口金より紡出した。この際、エクストルーダ、スピンブロック、紡糸パックの各部は溶融ポリマ温度が300℃となるように温度設定した。また、紡糸口金には孔数96、円形孔型のものを使用した。
紡出された糸条は温度320℃、長さ300mmの加熱筒内を通過した後、20℃の冷却風を30m/minの風速で吹き当てられ冷却固化せしめ、油剤ローラに接触させ給油したのち、600m/minの速度で回転する引取ローラに捲回して引き取った。引取られた糸条は一旦巻き取ることなく、順次高速回転する第1延伸供給ローラ、第1延伸ローラ、第2延伸ローラ、および第2延伸ローラより低速回転する弛緩ローラに捲回することで、総倍率5.6倍、弛緩率5%となるように2段延伸・弛緩処理を施した。この際、各ローラ温度は引取ローラ70℃、第1延伸供給ローラ100℃、第1延伸ローラ110℃、第2延伸ローラ220℃、弛緩ローラ50℃に設定した。引き続き弛緩処理後の糸条に交絡ノズルを用い0.5MPaの圧縮空気を噴射し、交絡処理を施した後、巻き取り装置にて巻き取ることで、1850dtex−96フィラメント、強度7.5cN/dtex、伸度20%、乾熱収縮率8.0%のポリエチレンテレフタレート繊維を製造した。
次に得られたポリエチレンテレフタレート繊維を8本合わせ、ラッセル型編網機を使用し目合い50mm×50mmに編網した後、150℃×3分間の熱処理を施しラッセル型ネットを作製した。
引き続き、被覆用の樹脂エラストマーとして第一工業製薬製E2000タイプウレタンゴムを選択し、濃度20%の水系エマルジョンとなした後、上記得られたネットを該ウレタン溶液に20秒間浸漬して塗布し、マングル装置にて余分なウレタン溶液を除去し、第1乾熱槽(100℃、2分間)にて水媒の除去、第2乾熱槽(245℃、2分間)にてウレタン固着させ、本発明の産業資材用ネットを製造した。
得られた産業資材用ネットのエラストマー被覆量、およびデュロメータ硬さ、ネット強力を表1に記す。また、耐摩耗性・耐衝撃性(強力保持率)およびネットの柔軟性を表1に併せて記す。
[実施例2]
樹脂エラストマーとして昭和電工製ショウプレン400タイプのクロロプレンゴム(濃度20%)を用いた以外は実施例1と同様の方法で産業資材用ネットを製造した。得られた産業資材用ネットのエラストマー被覆量、デュロメータ硬さ、ネット強力、および耐摩耗性・耐衝撃性(強力保持率)、柔軟性を表1に記す。
[実施例3]
樹脂エラストマーとしてGolden Hope Plantation Berhad , Malaysia製のHYTEXタイプの天然ゴム(濃度20%)を用いた以外は実施例1と同様の方法で産業資材用ネットを製造した。得られた産業資材用ネットのエラストマー被覆量、デュロメータ硬さ、ネット強力、および耐摩耗性・耐衝撃性(強力保持率)、柔軟性を表1に記す。
[実施例4]
樹脂エラストマーとして住友精化製のCSM450タイプのクロロスルホン化ポリエチレンゴム(濃度10%)を用いた以外は実施例1と同様の方法で産業資材用ネットを製造した。得られた産業資材用ネットのエラストマー被覆量、デュロメータ硬さ、ネット強力、および耐摩耗性・耐衝撃性(強力保持率)、柔軟性を表1に記す。
[実施例5]
樹脂エラストマーとして日本エイアンドエル製ピラテックスレゾルシン−ホルマリンゴム(濃度20%)を用いた以外は実施例1と同様の方法で産業資材用ネットを製造した。得られた産業資材用ネットのエラストマー被覆量、デュロメータ硬さ、ネット強力、および耐摩耗性・耐衝撃性(強力保持率)、柔軟性を表1に記す。
[実施例6]
硫酸相対粘度3.5、酢酸銅を銅として70ppm、沃化カリウムを0.1重量%、臭素化カリウムを0.1重量%含有するポリヘキサメチレンアジパミドをエクストルーダ型紡糸機で溶融し、計量ポンプで計量した後、紡糸パック内で濾過し紡糸口金より紡出した。この際、エクストルーダ、スピンブロック、紡糸パックの各部は溶融ポリマ温度が295℃となるように温度設定した。また、紡糸口金には孔数72、円形孔型のものを使用した。
紡出された糸条は温度300℃、長さ250mmの加熱筒内を通過した後、20℃の冷却風を30m/minの風速で吹き当てられ冷却固化せしめ、油剤ローラに接触させ給油したのち、600m/minの速度で回転する引取ローラに捲回して引き取った。引取られた糸条は一旦巻き取ることなく、順次高速回転する第1延伸供給ローラ、第1延伸ローラ、第2延伸ローラ、および第2延伸ローラより低速回転する弛緩ローラに捲回することで、総倍率4.8倍、弛緩率5%となるように2段延伸・弛緩処理を施した。この際、各ローラ温度は引取ローラ30℃、第1延伸供給ローラ40℃、第1延伸ローラ140℃、第2延伸ローラ230℃、弛緩ローラ150℃に設定した。引き続き弛緩処理後の糸条に交絡ノズルを用い0.5Mpaの圧縮空気を噴射し、交絡処理を施した後、巻き取り装置にて巻き取ることで、1670dtex−72フィラメント、強度7.8cN/dtex、伸度30%、沸騰水収縮率6.0%のポリヘキサメチレンアジパミド繊維を製造した。
次に得られたポリヘキサメチレンアジパミド繊維を8本合わせ、ラッセル型編網機を使用し目合い50mm×50mmに編網した後、150℃×3分間の熱処理を施しラッセル型ネットを作製した。
引き続き、被覆用の樹脂エラストマーとして第一工業製薬製E2000タイプウレタンゴムを選択し、濃度20%の水系エマルジョンとなした後、上記得られたネットを該ウレタン溶液に20秒間浸漬して塗布し、マングル装置にて余分なウレタン溶液を除去し、第1乾熱槽(100℃、2分間)にて水媒の除去、第2乾熱槽(210℃、2分間)にてウレタン固着させ、本発明の産業資材用ネットを製造した。
得られた産業資材用ネットのエラストマー被覆量、およびデュロメータ硬さ、ネット強力を表1に記す。また、耐摩耗性・耐衝撃性(強力保持率)およびネットの柔軟性を表1に併せて記す。
[実施例7]
樹脂エラストマーとして日本エイアンドエル製ピラテックスレゾルシン−ホルマリンゴム(濃度20%)を用いた以外は実施例6と同様の方法で産業資材用ネットを製造した。得られた産業資材用ネットのエラストマー被覆量、デュロメータ硬さ、ネット強力、および耐摩耗性・耐衝撃性(強力保持率)、柔軟性を表1に記す。
Figure 2008163495
[比較例1]
実施例1と同様の方法でポリエチレンテレフタレート繊維、およびラッセル型ネットを作製し、樹脂エラストマー被覆を施さずそのまま産業資材用ネットとした。該産業資材用ネットのデュロメータ硬さ、ネット強力、および耐摩耗性・耐衝撃性(強力保持率)、柔軟性を表2に記す。
[比較例2]
樹脂としてエラストマー特性を有さないアクリル樹脂(大日本インキ製ボーンコート・濃度40%)を用いた以外は実施例1と同様の方法で産業資材用ネットを製造した。得られた産業資材用ネットの樹脂被覆量、デュロメータ硬さ、ネット強力、および耐摩耗性・耐衝撃性(強力保持率)、柔軟性を表2に記す。
[比較例3]
樹脂としてエラストマー特性を有さないアクリル樹脂(大日本インキ製ボーンコート・濃度10%)を用いた以外は実施例1と同様の方法で産業資材用ネットを製造した。得られた産業資材用ネットの樹脂被覆量、デュロメータ硬さ、ネット強力、および耐摩耗性・耐衝撃性(強力保持率)、柔軟性を表2に記す。
[比較例4]
樹脂エラストマーとしてウレタン(濃度5%)を用いた以外は実施例1と同様の方法で産業資材用ネットを製造した。得られた産業資材用ネットのエラストマー被覆量、デュロメータ硬さ、ネット強力、および耐摩耗性・耐衝撃性(強力保持率)、柔軟性を表2に記す
Figure 2008163495
表1、2から明らかなように本発明の産業資材用ネットは、柔軟性に富み、耐摩耗性・耐衝撃性(強力保持率)が高い結果が得られた。つまり、どのような設置場所・使用形態にも適用でき、高強力・高タフネスを保持することで、屋外環境下においても長期間その機能を維持することが十分に期待できるものであった。
一方、エラストマー被覆を施さず、繊維材のみからなる比較例1の従来ネットでは、耐摩耗性・耐衝撃性(強力保持率)が低いことから、屋外使用環境下において容易に破網に至ることが示唆されるものであった。
また、高硬度のアクリル樹脂を被覆した比較例2では耐摩耗性・耐衝撃性(強力保持率)は良好なレベルではあるものの、ネット柔軟性に問題が残り、比較例3では柔軟性は保持しているものの、耐摩耗・耐衝撃性(強力保持率)の面で問題が残るものであった。つまりは、柔軟性と耐久性を兼ね備えたネットを得ることはできなかった。この結果から、屋外環境境下での長期間使用には不適と判断せざるを得ないものであった。ウレタン樹脂の塗布量が本発明の範囲外にある比較例4においても、耐摩耗性・耐衝撃性(強力保持率)が低い結果となってしまった。
本発明の産業資材用ネットは、その表面に耐摩耗性、耐衝撃性に優れた樹脂エラストマーを少量配してなることから、柔軟性に富み、どのような設置場所・使用形態にも適用できるとともに、高強力・高タフネスを保持することで、屋外環境下においても長期間その機能を維持することが可能なものである。また、特異な生産工程を要するものでなく、既知の製網工程、樹脂エラストマー塗布工程を組み合わせることでその実現が可能であり、極めて実用的な方法であると言える。

Claims (5)

  1. 合成繊維が樹脂エラストマーで被覆されてなる産業資材用ネットであって、該樹脂エラストマーの被覆量が繊維重量100重量部に対し1〜6.5重量部であることを特徴とする産業資材用ネット。
  2. 合成繊維の強度が6〜9cN/dtex、伸度が15〜40%であることを特徴とする請求項1に記載の産業資材用ネット。
  3. 合成繊維がポリエステル繊維および/またはポリアミド繊維であることを特徴とする請求項1または2に記載の産業資材用ネット。
  4. ネットのデュロメータ硬さがA5〜A50であることを特徴とする請求項1に記載の産業資材用ネット。
  5. 樹脂エラストマーが天然ゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、ウレタンゴム、レゾルシン−ホルマリンラテックスから選ばれる少なくとも1種のエラストマーであることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の産業資材用ネット。
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