JP2008148689A - パン類の製造方法、練り込み油脂、パン類およびパン類の製造装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】 健康への悪影響が懸念されるトランス脂肪酸や飽和脂肪酸を低減させることができ、パン工場などでの機械化大量生産によるパン類の製造に適しているパン類の製造方法、練り込み油脂、パン類およびパン類の製造装置を提供する。
【解決手段】 パン生地を自動で混捏する混捏工程と混捏されたパン生地を所定重量に自動で分割する分割工程を含む機械化大量生産によるパン類の製造方法であって、混捏工程において、液状油脂とレシチンを主成分とする練り込み油脂をパン生地に混合させる。この結果、健康への影響が懸念される飽和脂肪酸やトランス脂肪酸が低減されたパン類が、機械化された自動製造ラインで大量に製造できる。
【選択図】 図1
【解決手段】 パン生地を自動で混捏する混捏工程と混捏されたパン生地を所定重量に自動で分割する分割工程を含む機械化大量生産によるパン類の製造方法であって、混捏工程において、液状油脂とレシチンを主成分とする練り込み油脂をパン生地に混合させる。この結果、健康への影響が懸念される飽和脂肪酸やトランス脂肪酸が低減されたパン類が、機械化された自動製造ラインで大量に製造できる。
【選択図】 図1
Description
本発明は、パン工場などで一度に大量のパン類を製造する機械化大量生産によるパン類の製造方法、練り込み油脂、パン類およびパン類の製造装置に関するものである。
パン類の製造には、小規模な個人商店での手作りによる製造と、パン工場などでの多種の製造機械を用いた大量生産による製造(以下、「機械化大量生産によるパン類の製造」という)との大きく二つがある。
前者においては、材料の混合、パン生地の混捏や製造、パン生地の分割や成形から焼成に至るまでほぼ手作業で行われる。このため多様な材料や製造方法を用いることができるが、職人芸に依存する部分もあり、少量生産しかできず、均一の製品を大量に生産することには向いていない。
後者は、工場において製造機械を用いるため、均一の製品を大量に低コストで生産することができる。しかしながら、手作業ではないので、材料や製造方法の選択には、一定の制限がある。
従来においては、パン工場での機械化大量生産によるパン類の製造においてパン生地の混捏には、常温(25℃程度)で固体である練り込み油脂が用いられていた。常温で固体である練り込み油脂とはバター、マーガリン、ショートニングやファットスプレッドなどである。このような固体の練り込み油脂を用いることで、油脂がパン生地のグルテン膜に沿って広がってパン生地の進展性を増加させ、パン類の製造効率が向上する。このため、常温で液状である油脂の場合には、水素添加を行って融点を調整し、固体化された練り込み油脂として利用されていた。
しかしながら、バターやマーガリンなどの常温で固体である油脂や水素添加された油脂は、トランス脂肪酸という脂肪酸を多く含む。特に水素添加が行われる際に、このトランス脂肪酸が発生する。このトランス脂肪酸は、動脈硬化や心臓疾患のリスクを高めるおそれがあり、米国においては食品への表示義務があるほどである。
一方、トランス脂肪酸を減少させるためには極度硬化油を併用したり、液状油脂とパームの分別油を併用したりすることが知られているが、これらによる練り込み油脂は、飽和脂肪酸を10重量%以下にできない。この飽和脂肪酸も、動脈硬化や心臓疾患のリスクを高めることが知られており、近年の健康ブームや、厚生労働省の指導などにより、トランス脂肪酸に加えて飽和脂肪酸の摂取量が低減されることが好ましいとされている。このため、トランス脂肪酸や飽和脂肪酸を低減させる油脂の開発が進められている(例えば、特許文献1参照)。
このようなトランス脂肪酸や飽和脂肪酸を減少させるには、常温で液状である油脂を使用することが(水素添加を行わないこともあるので)効果的である。
また、液状油脂を使うことで焼きあがったパンの食味などが損なわれる問題もあり、液状油脂へ種々の添加物を加えることも提案されている(例えば特許文献2、3参照)。
しかしながら、常温で液状である油脂を、パン生地の混捏工程における練り込み油脂として使用する場合には、パン生地の粘着度が高まり、機械による自動製造工程では問題が生じる。
例えば、混捏工程においては、練り込み油脂が常温で液状であるためにパン生地そのものの粘着度が高くなってしまう問題がある。
加えて、パン生地の粘着度が高いうえ、液状である油脂が、パン生地と十分に混ざり合わない状態となるために、混捏されたパン生地の生地密度や空気密度、あるいは成分分布が均一でない問題も生じる。
このような粘着度が高く、液状油脂が不均一に混合された状態であるパン生地が、製造ラインにおける自動生産での分割工程(パン生地を所定重量に切り離して、一個当たりのパンになるようにする工程)においては、分割に使用するカッター刃、成形機、コンベア、投入機などに、付着する問題が発生する。
このように、分割工程においてパン生地がカッター刃に付着すると、重量が不均一になり、次の成形工程に悪影響を与えるばかりか、分割工程に用いられる機械の故障や劣化の原因ともなる。更には、最終的に焼きあがるパンの品質は不均一となり、均一の商品を大量に供給するという、パン類を機械化大量生産するという目的に適わない。
もちろん、パン生地が機械やコンベアに付着すると、その都度製造ラインを止める必要があり、大量生産に適わない結果になる。
このような問題を回避するには、製造ラインの速度を遅くして、パン生地が不均一となったり、分割時に付着したりすることを防止する必要がある。しかしながら、製造ラインの速度を遅くするということは、コスト高にもなり、やはりパン類を機械化大量生産する目的を達成できなくなってしまう。
また、特許文献2、3などに開示されている液状油脂に種々の添加物を加えることで、焼きあがったパンの食味を良くする技術は、上記の機械化大量生産における製造上の問題を解決することにはならない。特に、特許文献1〜3のいずれも、機械化大量生産におけるパン類の製造を検討しておらず、上記の課題や解決についての開示はない。すなわち、上記問題を生じさせることに変わりは無い。
特開2002−161294号公報
特開平11−56235号公報
特開平6−217693号公報
そこで本発明は、健康への悪影響が懸念されるトランス脂肪酸や飽和脂肪酸を低減させることができ、パン工場などでの機械化大量生産によるパン類の製造に適しているパン類の製造方法、練り込み油脂、パン類およびパン類の製造装置を提供することを目的とする。
パン生地を自動で混捏する混捏工程と混捏されたパン生地を所定重量に自動で分割する分割工程を含む機械化大量生産によるパン類の製造方法であって、混捏工程において、液状油脂とレシチンを主成分とする練り込み油脂をパン生地に混合させる。
本発明によれば、機械化大量生産により製造されるパン類において、健康への悪影響が懸念されるトランス脂肪酸や飽和脂肪酸を低減させることができる。
また、健康への影響が懸念されるトランス脂肪酸や飽和脂肪酸を低減できる液状の練り込み油脂を用いるにもかかわらず、機械化大量生産においても、分割機の刃へのパン生地の付着が防止され、分割工程で分割されるパン生地の大きさや重量の均一化の精度が高まる。結果として、均一の商品を消費者に大量に届けるという、機械化大量生産によるパン類の製造が実現される。
また、固形油脂を使用することがなくなるので、人力による計量が自動化されるメリットがある。
また、健康へ配慮した練り込み油脂が使われつつも、分割工程などでの不具合がないことで、出来上がったパン類は、食感、食味、外観の全てにおいてよくなり、健康への配慮、大量生産による低コスト、味の全てでバランスよい商品を製造できる。
第1の発明に係るパン類の製造方法は、パン生地を自動で混捏する混捏工程と混捏されたパン生地を所定重量に自動で分割する分割工程を含む機械化大量生産によるパン類の製造方法であって、混捏工程において、液状油脂とレシチンを主成分とする練り込み油脂をパン生地に混合させる
この構成により、パン生地の一部が製造ラインの機器やコンベアに付着する問題が生じない。結果として、健康への影響が留意される飽和脂肪酸やトランス脂肪酸を低減でき、かつ均一の品質を有するパン類を大量に製造することができる。
この構成により、パン生地の一部が製造ラインの機器やコンベアに付着する問題が生じない。結果として、健康への影響が留意される飽和脂肪酸やトランス脂肪酸を低減でき、かつ均一の品質を有するパン類を大量に製造することができる。
第2の発明に係るパン類の製造方法では、第1の発明に加えて、液状油脂は、飽和脂肪酸が10重量%未満である。
この構成により、健康への影響が留意される飽和脂肪酸を低減させたパン類が、自動製造工程により大量に製造できる。
第3の発明に係るパン類の製造方法では、第1から第2のいずれかの発明に加えて、レシチンは、大豆由来もしくは卵黄由来である。
この構成により、健康への配慮がなされた添加物が用いられる。
第4の発明に係るパン類の製造方法では、第1から第3のいずれかの発明に加えて、練り込み油脂は、液状油脂と練り込み油脂に対して3〜10重量%のレシチンと不可避混合物を含み、さらに好ましくは、液状油脂と練り込み油脂に対して3〜6重量%のレシチンと不可避混合物を含む。
この構成により、液状油脂を使用するにもかかわらず、パン生地の粘着度が低下でき、製造ライン機器やコンベアにパン生地の一部が付着する問題が生じない。加えて、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸の少ない液状油脂を、大量生産において用いることができるようになるので、健康へ配慮されたパン類が大量生産できる。
第5の発明に係るパン類の製造方法では、第1から第4のいずれかの発明に加えて、混捏工程はパン生地の発酵過程を含み、練り込み油脂は、発酵過程の前に混合されることを特徴とする
この構成により、練り込み油脂のパン生地内部への分散が十分に行われる。
この構成により、練り込み油脂のパン生地内部への分散が十分に行われる。
第6の発明に係るパン類の製造方法では、第1から第5のいずれかの発明に加えて、分割工程で所定重量に分割されたパン生地を成形する成形工程と、成形工程で成形されたパン生地を焼く焼成工程を更に備える。
この構成により、健康への配慮がなされたパン類が、自動工程により大量に製造される。
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の実施の形態におけるパン類の製造工程図である。
図1では、機械化大量生産によるパン類の製造工程の代表的な例を示している。なお、図1に示される製造工程は、一例に過ぎず、必要に応じて各工程の順序や内容が変更されても良く、他の工程が追加されても良い。
製造工程における各工程について説明する。
(混捏工程)
混捏機1は、主原料である小麦粉と各種の原材料を混捏してパン生地10を作る。
混捏機1は、主原料である小麦粉と各種の原材料を混捏してパン生地10を作る。
混捏機1は、小麦粉などの粉類を投入する投入部と、牛乳や練り込み油脂などの液体添加物を投入する投入パイプと、投入された原材料を受ける容器と、この容器の中身を攪拌する攪拌棒などを備えている。
例えば、パン生地の主原料たる小麦粉に、発酵のためのイースト菌、水などを加え、更にここで、練り込み油脂を加える。練り込み油脂は、液状油脂とレシチンを主成分とする油脂であって、パン生地に程よい粘りと味を与え、食感を向上させる役割を持つ。練り込み油脂については後で詳細を述べる。
混捏工程では、パン生地10が作られるが、製造されるパンの種類に応じて、種々の材料が用いられればよい。
混捏機1は、攪拌棒などを用いてパン生地の材料を混捏して、適度な粘着度を有するパン生地10を作り出し、パン生地10は、コンベアに乗って次の工程である分割機2に送られる。
練り込み油脂は、この混捏工程において原材料に投入されるので、パン生地の発酵前の過程において混合される。発酵前の工程において混合されることで、パン生地の膨張前に練り込み油脂が生地全体に拡散して広がる効果が高まる。後述するように、本実施の形態1における練り込み油脂は、液状油脂にレシチンが加えられることで、練り込み油脂がパン生地全体に拡散して浸透する特徴がある。このため、パン生地の発酵過程の前段階で、パン生地に練り込み油脂が混合されることが好ましい。
なお、練り込み油脂の混合は、混捏工程で使用される原材料と共に投入されても良く、小麦などの主要な原材料が一定以上混捏されたところで投入されても良い。いずれにしても、混捏工程で作られるパン生地10は、練り込み油脂が混合されたパン生地となればよい。
(分割工程)
分割機2は、コンベアで送られてきた大容量のパン生地10を所定重量に分割する。
分割機2は、コンベアで送られてきた大容量のパン生地10を所定重量に分割する。
大容量のパン生地10は、コンベアで送られた後、分割機2が備える大型の投入口であるホッパーなどを経由して分割機2の内部に投入される。
分割機2は、カッターの刃などを用いて、大きなサイズを有するパン生地10を所定間隔で裁断することで、パン生地10を所定重量に分割する。分割されたパン生地11は、分割機2からコンベアで成形工程に送られる。分割するパン生地10は、「液状油脂とレシチンを主成分とする練り込み油脂」が用いられているので、裁断の際に、カッターの刃にパン生地10の一部が付着することはきわめて少ない。
(成形工程)
成形機3は、コンベアで送られてきた分割されたパン生地11を、パンの種類に応じて所定の形状に成形する。成形機3は、分割されたパン生地11を、コッペパンであれば楕円形にしたり、クリームパンであれば扇形にしたり、ツイストパンであればねじった棒状にしたりする。成形機3は、成形されたパン生地12を、焼成機4に搬送する。
成形機3は、コンベアで送られてきた分割されたパン生地11を、パンの種類に応じて所定の形状に成形する。成形機3は、分割されたパン生地11を、コッペパンであれば楕円形にしたり、クリームパンであれば扇形にしたり、ツイストパンであればねじった棒状にしたりする。成形機3は、成形されたパン生地12を、焼成機4に搬送する。
成形機3は、分割されたパン生地11のそれぞれを受ける受け皿を有し、この受け皿を回転させることによる遠心力で分割されたパン生地11を円形や楕円形に成形する。あるいは、コンベア上で転がすことで、棒状に成形する。
成形工程においても、分割されたパン生地11の粘着度にばらつきが生じると、うまく成形できず、特に成形されたパン生地12の外縁部がささくれだったような状態になってしまう。このため、焼成後の出来上がったパン類は当然ながら見た目、食味、食感のいずれでも消費者に提供できるものではなかった。
(焼成工程)
成形工程を終えた成形されたパン生地12は、焼成工程に送られて、焼成される。
成形工程を終えた成形されたパン生地12は、焼成工程に送られて、焼成される。
焼成機4は、例えばオーブンなどが用いられ、成形されたパン生地12を焼成して、商品としてのパン類が製造される。大量生産の製造工程においては、焼成工程において均一に熱が浸透して焼きあがることが好ましい。
焼成機4は、パンの種類に応じた加熱温度と加熱時間により、成形されたパン生地12を焼成する。このとき、加熱温度や加熱時間はコンピュータプログラムで管理されており、焼成機4での焼成工程はオートメーション化されている。
焼成されたパン13は、袋詰めなどがされて、小売店に配送されて流通される。
(従来問題の解決)
従来の技術における液状油脂を用いたパン生地では、このような機械により自動化された製造工程において、分割機2のカッターの刃、パン生地を搬送するコンベア、成形機3の器具などに、パン生地の一部が付着しやすい。パン生地の一部が付着すると、製造ラインを止めて掃除やメンテナンスをする必要があり、生産効率に著しい障害が生じる。勿論、コストや鮮度の要請の厳しい大量生産においては、著しい問題である。
従来の技術における液状油脂を用いたパン生地では、このような機械により自動化された製造工程において、分割機2のカッターの刃、パン生地を搬送するコンベア、成形機3の器具などに、パン生地の一部が付着しやすい。パン生地の一部が付着すると、製造ラインを止めて掃除やメンテナンスをする必要があり、生産効率に著しい障害が生じる。勿論、コストや鮮度の要請の厳しい大量生産においては、著しい問題である。
製造工程においては、特に分割機2と成形機3は、いずれもその工程において金属製の機器を用いる。金属製の機器は、粘着度の高いパン生地が付着しやすい。このため、分割機2や成形機3を使用する大量生産工程では、これらの機器へのパン生地の付着は、製造工程への大きな支障であった。
発明者は、この問題点に着目して、自動化された機械による製造ラインにおいて、パン生地の一部が機器に付着することを防止できる製造方法やこれに類する研究を行い、「液状油脂とレシチンを主成分とする練り込み油脂」を、混捏工程において原材料に投入してパン生地を製造することに想到したものである。
本発明においては、パン生地10には、本発明における「液状油脂とレシチンを主成分とする練り込み油脂」が用いられているので、分割工程においてパン生地の一部がカッターの刃に付着することが少ない。あるいは、パン生地10の一部が、コンベアや成形機3の器具に付着することも少ない。このため、パン生地10の付着による製造ラインの停止が発生せず、大量生産への障害がきわめて発生しにくい。
また、分割されたパン生地11の各々の重量は、非常に高い精度で均一になる。勿論、成形工程においても、成形されたパンの形状や重量も高い精度で均一になる。すなわち、焼成後の商品であるパン類は、均一の商品となる。
また、カッターの刃やコンベアの表面にパン生地の一部が付着することが無いので、カッターやコンベアが、運転中に汚損することも少なくなる。このため、機械の掃除やメンテナンスの必要性も少なくなり、運転効率を向上できる。
加えて、本発明によれば、パン生地への吸水を減らすことなく、製造機器に付着することのないような粘着度の高すぎないパン生地を製造でき、製造機器の運転効率と製造効率が向上できる。例えば、パン生地の一部が製造機器に付着しないために、パン生地の粘着度を低下させたい場合には、パン生地への吸水量(含水量)を減らせばよい。しかしながら、吸水を減らしてしまうと、焼成後のパンはばさばさに固くなってしまい、食味、食感の点で商品としては不適当なパンになってしまう。
すなわち、本発明によれば、食味、食感に影響を与える吸水量を変えることなく、製造機器に付着しないような粘着度をもつパン生地を製造できる。
(メカニズム)
発明者は、混捏工程において「液状油脂とレシチンを主成分とする練り込み油脂」を投入してパン生地を製造することにより、上記のようなパン生地の一部が付着する問題が解決されるメカニズムを次のように考える。
発明者は、混捏工程において「液状油脂とレシチンを主成分とする練り込み油脂」を投入してパン生地を製造することにより、上記のようなパン生地の一部が付着する問題が解決されるメカニズムを次のように考える。
小麦粉、塩、砂糖といった原材料に練り込み油脂が混合されて混捏される場合には、下記のような状態が発生する。
水、小麦粉などの原材料からパン生地が作られる過程で、練り込み油脂はパン生地の内部に分散する。このとき、マーガリンやバターなどの常温で固体の油脂は、パン生地内部に均一的に分散しやすい。
これに対して、キャノーラ油、コーン油や大豆油などの常温で液体である液状油脂は、パン生地内部に均一に分散しにくい。液状であるために、パン生地内部で油脂の層を作ってしまい、油分の高い部分と低い部分が生じてしまう。場合によっては、パン生地内部で油溜まりを作ってしまうこともある。このような油分の不均一や油脂の層の存在により、パン生地の粘着度も不均一になる。
これに対して、液状油脂にレシチンを加えると、レシチンが、液状油脂をパン生地全体に分散させる働きを発生する。この結果、パン生地に混合されてもパン生地の中で均一に分散しにくい液状油脂が、パン生地内部で均一に分散する。このため、パン生地内部では、練り込み油脂が不均一の分散状態となったり、練り込み油脂の層が生じたりしない。
このように、「液状油脂とレシチンを主成分とする練り込み油脂」がパン生地に混合されることで、粘着度の不均一なパン生地の製造が防止できる。
図4は、本発明の実施の形態におけるパン生地に練り込み油脂が混合される場合を示す模式図であり、上述のメカニズムを示している。
図4(a)は、本発明の練り込み油脂(液状油脂とレシチンを主成分とする)がパン生地に混合された状態を示しており、図4(b)は、液状油脂のみの練り込み油脂がパン生地に混合された状態を示している。図4(a)に示されるように、液状油脂とレシチンを主成分とする練り込み油脂は、混捏工程においてパン生地の内部に均一に分散すると考えられる。これに対して、図4(b)に示されるように、液状油脂のみの練り込み油脂の場合には、混捏工程において、パン生地の内部に不均一に分散してしまうと考えられる。不均一に分散した場合には、液状油脂のみからなる練り込み油脂の層ができるなどの問題があるので、粘着度が高まったり、粘着度の不均一が生じたりする。すなわち、機器にパン生地の一部が付着する問題が発生する。
これに対して、図4(a)に示されるように、液状油脂とレシチンを主成分とする練り込み油脂であれば、パン生地内部に均一に分散するので、油脂の層ができたりせず、粘着度も均一且つ低くなる。
このようなメカニズムにより、機器にパン生地の一部が付着するなどの問題が発生しにくくなると考えられる。
なお、練り込み油脂が、最終混捏工程において混合される場合に、発酵過程の前に混合されることが好適である。練り込み油脂はレシチンの働きで、パン生地内部に均一に分散して浸透する。このため発酵過程の後であると、生地の膨張が練り込み油脂の浸透を阻害しうることもある。発酵前であれば、このような問題は生じない。
以上より、練り込み油脂の混合は、パン生地の発酵前に行われることが好ましい。無論、程度問題であるので、発酵過程と重複した時間において練り込み油脂の混合が行われてもかまわない。あるいは、予備的な発酵が行われた生地に対する最終混捏工程において練り込み油脂が混合されることでもよい。これは、パンの種類によっては、練り込み油脂をはじめ種々の調味料を予備発酵の後で混合させる場合があるからである。
発明者は、以上のメカニズムの推測に基づき、複数の練り込み油脂を基にしたパン生地の製造を行い、種々の実験を行った。
(練り込み油脂)
まず、練り込み油脂について説明する。
まず、練り込み油脂について説明する。
(液状油脂)
液状油脂として、キャノーラ油、コーン油や大豆油などが使用される。液状の油脂であれば限定されるものではないが、飽和脂肪酸の含有量が少ないものが好ましい。発明者は、飽和脂肪酸の含有量が10重量%以下の液状油脂を選択した。無論、この10重量%は目安であって、特に限定されるものではない。
液状油脂として、キャノーラ油、コーン油や大豆油などが使用される。液状の油脂であれば限定されるものではないが、飽和脂肪酸の含有量が少ないものが好ましい。発明者は、飽和脂肪酸の含有量が10重量%以下の液状油脂を選択した。無論、この10重量%は目安であって、特に限定されるものではない。
図2は、発明者が選択した液状油脂と既存の固形油脂との比較図である。それぞれの油脂が含む、脂肪酸の割合をグラフとしたものである。
図2から判るとおり、発明者が選択した液状油脂の飽和脂肪酸量は、7重量%であり、従来の固形油脂の飽和脂肪酸量は38.8重量%である。このように、練り込み油脂に液状油脂が選択された場合には、製造されたパン類の飽和脂肪酸量を低減できる。結果として、健康へ配慮されたパン類が製造される。
(レシチン)
レシチンとしては、大豆由来のレシチンや、卵黄由来のレシチンが用いられる。
レシチンとしては、大豆由来のレシチンや、卵黄由来のレシチンが用いられる。
一般的な乳化剤など、レシチンとしての働きをするものであれば特に限定されるものではない。
(練り込み油脂の製造)
練り込み油脂は、液状油脂にレシチンが混合されることで製造される。
練り込み油脂は、液状油脂にレシチンが混合されることで製造される。
まず液状油脂にレシチンを添加して、室温状態で泡だて器などを用いて攪拌する。軽く攪拌される程度で十分である。
ここで、レシチンの添加量は、練り込み油脂全体に対して3%から6%程度であることが好ましい。
このように製造された練り込み油脂は、液体であると共に、健康への影響が懸念される飽和脂肪酸量およびトランス脂肪酸量が、非常に少ない。
図3は、トランス脂肪酸の比較を示す比較図である。
製造された練り込み油脂は、図3に示すとおり、従来の固形油脂の例である市販のマーガリンに比較して、トランス脂肪酸量が非常に少ない。
このように、本実施の形態における練り込み油脂は、健康への影響が懸念される飽和脂肪酸やトランス脂肪酸が少ない。すなわち、健康へ適切に配慮された練り込み油脂となっており、この練り込み油脂が使用されたパン類も、健康への配慮がなされていることになる。
(実施例と比較例)
次に、発明者が行った実験結果について説明する。
次に、発明者が行った実験結果について説明する。
本実施の形態における「液状油脂とレシチンを主成分とする練り込み油脂」を実施例として、従来の固形油脂のみの練り込み油脂と液状油脂のみの練り込み油脂を比較例として、実験を行った。
なお、実施例においては、練り込み油脂に対するレシチンの添加量の異なる複数の例を用いて実験を行い、発明者の考えるメカニズムにより従来技術での問題の生じないパン類の製造方法を確認した。
(表1)は、実施例と比較例との、練り込み油脂をはじめとした原材料の配合表を示している。
(表1)に示される配合比率は、小麦粉(表1においては強力粉)の量を100重量%とした所謂「ベーカーズ・パーセント(以下、「ベーカーズ%」と表記する)」と呼ばれる表記により表されている。なお、練り込み油脂以外の原材料の配合については、比較例、実施例ともに共通するようにしている。
練り込み油脂以外の主原料については、(表1)から明らかな通り、強力粉が100ベーカーズ%、上白糖が15ベーカーズ%、塩が0.8ベーカーズ%、卵が15ベーカーズ%、イーストが6ベーカーズ%、改良剤が1.3ベーカーズ%、脱脂粉乳が3ベーカーズ%、水が48ベーカーズ%である。
比較例1〜実施例4のそれぞれは、この主原料に異なる成分や配合比の練り込み油脂を加えたものである。
以下に、各例の練り込み油脂の配合について説明する。
(比較例1)
比較例1は、従来の固形油脂を用いている。(表1)から明らかな通り、固形油脂が10ベーカーズ%である。
比較例1は、従来の固形油脂を用いている。(表1)から明らかな通り、固形油脂が10ベーカーズ%である。
固形油脂は、バター、マーガリン、ショートニングやファットスプレッドなどである。
(比較例2)
比較例2は、液状油脂のみを主成分とする練り込み油脂を用いている。(表1)から明らかな通り、液状油脂を8ベーカーズ%配合している。
比較例2は、液状油脂のみを主成分とする練り込み油脂を用いている。(表1)から明らかな通り、液状油脂を8ベーカーズ%配合している。
液状油脂は、キャノーラ油、コーン油、大豆油、べにばな油、菜種油などいずれが用いられてもよい。
(実施例1)
実施例1〜4は、「液状油脂とレシチンを主成分とする練り込み油脂」が用いられた例である。実施例毎に、レシチンの配合比を変えている。
実施例1〜4は、「液状油脂とレシチンを主成分とする練り込み油脂」が用いられた例である。実施例毎に、レシチンの配合比を変えている。
実施例1では、練り込み油脂に対して2重量%のレシチンが添加されている。
(実施例2)
実施例2では、練り込み油脂に対して3重量%のレシチンが添加されている。
実施例2では、練り込み油脂に対して3重量%のレシチンが添加されている。
(実施例3)
実施例3では、練り込み油脂に対して6重量%のレシチンが添加されている。
実施例3では、練り込み油脂に対して6重量%のレシチンが添加されている。
(実施例4)
実施例4では、練り込み油脂に対して10重量%のレシチンが添加されている。
実施例4では、練り込み油脂に対して10重量%のレシチンが添加されている。
以上の原材料の配合により、パン生地を製造し、更に焼成を行って、それぞれの比較を行った。
比較結果は、(表2)に示されるとおりである。
各例の比較は次の項目をそれぞれ比較した。
(粘着度の比較)
発明者は、比較例1〜実施例4のそれぞれにおいて、パン生地の粘着度を測定した。
発明者は、比較例1〜実施例4のそれぞれにおいて、パン生地の粘着度を測定した。
粘着度は、レオメータ(株式会社サン科学社製「CR−500DX」)を用いて測定された。容器に入れたパン生地に対して、レオメータのアダプターを2ニュートン(N)の力で押し付けて、アダプターに付着したパン生地が、アダプターを引っ張る力を測定することで、粘着度は測定された。このとき、アダプターがパン生地に3秒間押し当てられている。
粘着度は、ニュートン(N)を単位として示されている。
この値が大きいほど、粘着度が高いことを示す。粘着度が高すぎると、従来技術の通り、製造工程での器具やコンベアにパン生地の一部が付着して、製造ラインを止めるなどの問題を生じさせる。
製造工程の経験から、粘着度が値「1N」程度を超えると上述の問題が生じやすくなる。
(焼成後のパンの柔らかさの比較)
発明者は、比較例1〜実施例4のそれぞれにおいて、焼成後のパンの柔らかさを測定した。柔らかさは、食感において非常に重要な要素であり、柔らかさ度合いが高いパンが、消費者に好まれる傾向がある。
発明者は、比較例1〜実施例4のそれぞれにおいて、焼成後のパンの柔らかさを測定した。柔らかさは、食感において非常に重要な要素であり、柔らかさ度合いが高いパンが、消費者に好まれる傾向がある。
発明者は、レオメータと呼ばれる器具を用いて、柔らかさを測定した。焼成されたパンに対して、所定の圧力をもって、器具を押し込み、押し込まれた長さにより、柔らかさが測定される。このため、柔らかさは、器具が押し込まれた長さである「mm(ミリメートル)」を単位として表される。このため、(表2)において、押し込まれた長さの大きいパンが、押し込まれた長さの小さいパンよりも柔らかいことを示している。(表2)においては、押し込まれた長さが、それぞれ柔らかさを表す結果として表示されている。例えば、比較例1の1日目の柔らかさは、13.6mmと示されている。
なお、大量生産されるパンは、店頭に数日間並ぶことも考慮される。数日間に渡って、店頭に並べられたとしても、品質や食感が維持されることが好ましい。
このため、製造後1日目の柔らかさと、製造後3日目の柔らかさの両方を測定した。
(焼成後のパンの体積の比較)
発明者は、比較例1〜実施例4のそれぞれにおいて、焼成後のパンの体積を測定した。
発明者は、比較例1〜実施例4のそれぞれにおいて、焼成後のパンの体積を測定した。
体積が大きい方が、ふっくらと焼きあがっており、食感、食味ともに高いと考えられる。
体積は、決まった大きさの箱に焼成後のパンと小物体(菜種など)を、すりきりまで入れておき、この小物体の量を測定することで、パンの体積が測定される。
(表2)では、パンの体積は、ml(ミリリットル)を単位として示されており、値が大きければ、そのパンの体積が大きいことを示している。
(焼成後のパンのL値の比較)
発明者は、比較例1〜実施例4のそれぞれにおいて、焼成後のパンのL値を測定した。
発明者は、比較例1〜実施例4のそれぞれにおいて、焼成後のパンのL値を測定した。
L値は、焼きあがったパンの内層の色味を示したもので、特に、内層の色の白さを示す基準を示している。L値の大きさが大きいほど、内層の色が白いことを示しており、内層の色が白いほど、パンの出来が良いとされている。このため、L値が大きいということは、パンの出来が良いことを示している。
(官能評価)
最後に、発明者は、比較例1〜実施例4のそれぞれにおいて、焼成後のパンの官能評価を行った。官能評価とは、複数の実験者が、焼成後のパンを食した上で、主観的にその食味や食感を評価して測定される。
最後に、発明者は、比較例1〜実施例4のそれぞれにおいて、焼成後のパンの官能評価を行った。官能評価とは、複数の実験者が、焼成後のパンを食した上で、主観的にその食味や食感を評価して測定される。
(表2)においては、官能評価の結果が、良い方から「非常に良い」、「良い」、「よくない」の順序で表されている。なお、官能評価は、比較例1のパンの食味や食感を基準として、他の例の評価を行っている。
以上の測定作業に基づいて、比較例1〜実施例4までの結果について下記に述べる。
(比較例1)
比較例1は、固形油脂を用いた従来技術どおりの配合で製造されたパン生地およびパンであり、(表2)に、上述の通りの測定結果が示されている。
比較例1は、固形油脂を用いた従来技術どおりの配合で製造されたパン生地およびパンであり、(表2)に、上述の通りの測定結果が示されている。
(表2)から明らかな通り、固形油脂を用いた比較例1では、粘着度は値「0.843N」と、通常の値が示されている。製造工程での経験上から、この程度の粘着度であれば、製造工程で用いられる器具やコンベアにパン生地の一部が付着することはない。
また、柔らかさについても、比較例1のパンは、1日目、3日目のいずれでも十分な柔らかさを維持している。L値についても、比較例2〜実施例4と大差はない。但し、体積は若干小さい。
マーガリンやバター(あるいはショートニング、ファットスプレッドなど)といった固形油脂を使用しているため、食味もくどい感じが残っている。なお、官能評価については、この比較例1を基準とするので、「良い」という結果としている。他の例での官能評価は、この比較例1を基準として判定されている。
比較例1は、従来の固形油脂を用いているので、自動化された製造ラインにおいて、パン生地が付着するなどの問題を有していないが、健康への配慮が不十分である問題を有している。また、固形油脂の場合には、計量において、人力でカッティング作業を行う必要があり、製造ラインの自動化、計量の正確性において弊害を有している問題もある。
(比較例2)
比較例2は、レシチンを含有していない液状油脂を用いて製造されたパン生地およびパンであり、(表2)に、上述の通りの測定結果が示されている。
比較例2は、レシチンを含有していない液状油脂を用いて製造されたパン生地およびパンであり、(表2)に、上述の通りの測定結果が示されている。
(表2)から明らかな通り、パン生地の粘着度は、値「1.156N」と、非常に大きな値を示している。この大きな値から明らかな通り、レシチンを含有していない液状油脂は、パン生地中に油脂の層を作り、粘着度を高めてしまう。このため、自動化された製造工程において、機器やコンベアに、パン生地の一部が付着する問題が生じる。
また、粘着度が高いこともあり、焼成後のパンの体積も、他の例に比べて小さい。これらもあいまって、官能評価においても、食味、食感の点で不十分で、比較例2に対しては、最低ランクの「よくない」との評価である。
但し、比較例1で使用された固形油脂と異なり、液状油脂は図2、図3に示されるように、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸が少なく、健康への配慮が十分であることは分かる。しかしながら、機械化大量生産によるパン類の製造工程においては、機器やコンベアにパン生地が付着して、製造ラインを停止するなどの問題も生じる。加えて、なるべく均一の食味や食感を提供する必要がある大量生産において、食味や食感が不十分であることは、大量供給において致命的である(個人商店であれば、捏ね加減や焼き加減を、職人的工夫により都度ごと工夫することができるが、均一商品を大量生産するべきパン工場ではできない)。
このため、固形油脂を液状油脂に変えた比較例2は、健康への配慮がなされたパンであるが、自動工程を主とする機械化大量生産におけるパン類の製造には向かない。
(実施例1)
実施例1は、練り込み油脂に対して2重量%のレシチンを、液状油脂に添加した練り込み油脂を用いて製造されたパン生地およびパンであり、(表2)に上述の測定結果が示されている。
実施例1は、練り込み油脂に対して2重量%のレシチンを、液状油脂に添加した練り込み油脂を用いて製造されたパン生地およびパンであり、(表2)に上述の測定結果が示されている。
(表2)から明らかな通り、パン生地の粘着度は、値「1.088N」と、比較例2よりは小さいが、大きな値を示している。レシチンを液状油脂に添加することにより、液状油脂がパン生地の内部に分散される効果が生じるため、液状油脂だけの場合よりも粘着度は下がっている。これは、実施例2〜4に示されるように、レシチンの含有率を上げるごとに、粘着度が低くなることからも明らかである。しかしながら、2重量%のレシチンの混合では、粘着度を下げる効果としては不十分であると考えられる。
焼成後のパンの柔らかさ(1日目、3日目の双方)は、他の例と比較して大差はないが、1日目の柔らかさに比べて、3日目の柔らかさが大きく低減している。これも粘着度が高いことなどの影響を受けていると考えられ、商品としてはデメリットとなる。
L値については、他の例と大差がない。
粘着度の高さや、柔らかさの減少の激しさなどを要因として、官能評価は、食味や食感の点で、最低ランクの「よくない」との評価である。
比較例2と実施例1を考慮すると、液状油脂にレシチンを添加することで、パン生地の粘着度を低くする効果があることが分かる。特に、発明者が考えた、レシチンが持つ液状油脂をパン生地内部に分散させる効果により、パン生地の粘着度が低くなるというメカニズムの立証をサポートしていると考えられる。
しかしながら、レシチンの含有量が不十分であるパン生地は、粘着度の低減が不十分で、機械化大量生産によるパン類の製造には、不向きであることが分かる。
比較例2と同じく、職人的工夫の余地の高い個人商店と異なり、均一商品を大量生産すべきパン工場では、最適なパン作りへの対応が難しい。
(実施例2)
実施例2は、練り込み油脂に対して3重量%のレシチンを、液状油脂に添加した練り込み油脂を用いて製造されたパン生地およびパンであり、(表2)に上述の測定結果が示されている。
実施例2は、練り込み油脂に対して3重量%のレシチンを、液状油脂に添加した練り込み油脂を用いて製造されたパン生地およびパンであり、(表2)に上述の測定結果が示されている。
(表2)から明らかな通り、パン生地の粘着度は、値「0.953N」と、比較例2、実施例1より十分に低く、この粘着度は、機械化された製造ラインによる製造でも問題を生じさせない。すなわち、発明者の考えたメカニズムに従い、レシチンは液状油脂を、パン生地の中に分散させる役割を有しており、レシチンの含有量が3重量%であることは、この役割が、機械化大量生産による製造ラインに対して十分であることを示している。
柔らかさに関しては、1日目から3日目にかけての、柔らかさの減少度合いが、実施例1に比べて小さい。このため、柔らかい食感が、長期間維持される。
体積は、比較例2に比べて十分な大きさを有しており、焼成後のパンのふっくら感が高いことを示している。L値については、他の例と大差がない。
粘着度が低いことで、柔らかさ、体積、L値のいずれにおいても良好な結果となり、官能評価も最高位の「非常に良い」との評価が得られた。
実施例2による練り込み油脂が用いられたパン生地であれば、粘着度が低く、機械化大量生産において問題を生じさせない。加えて、焼成後のパンの品質も高い。以上のことから、実施例2の練り込み油脂は、職人芸を個々のパンに反映させにくい機械化大量生産による、均一品質のパン類の製造に非常に適している。すなわち、実施例2の練り込み油脂を用いた製造方法は、機械化大量生産によるパン類の製造に適している。
(実施例3)
実施例3は、練り込み油脂に対して6重量%のレシチンを、液状油脂に添加した練り込み油脂を用いて製造されたパン生地およびパンであり、(表2)に上述の測定結果が示されている。
実施例3は、練り込み油脂に対して6重量%のレシチンを、液状油脂に添加した練り込み油脂を用いて製造されたパン生地およびパンであり、(表2)に上述の測定結果が示されている。
(表2)から明らかな通り、パン生地の粘着度は、値「0.859N」と、比較例2、実施例1より十分に低く、この粘着度は、機械化された製造ラインによる製造でも問題を生じさせない。すなわち、発明者の考えたメカニズムに従い、レシチンは液状油脂を、パン生地の中に分散させる役割を有しており、レシチンの含有量が6重量%であることは、この役割が、機械化大量生産による製造ラインに対して十分であることを示している。
柔らかさに関しては、1日目から3日目にかけての、柔らかさの減少度合いが、実施例1に比べて小さい。このため、柔らかい食感が、長期間維持される。
体積は、比較例2に比べて十分な大きさを有しており、焼成後のパンのふっくら感が高いことを示している。L値については、他の例と大差がない。
粘着度が低いことで、柔らかさ、体積、L値のいずれにおいても良好な結果となり、これに呼応して、官能評価も最高位の「非常に良い」との評価が得られた。
実施例3による練り込み油脂が用いられたパン生地であれば、粘着度が低く、機械化大量生産において問題を生じさせない。加えて、焼成後のパンの品質も高い。以上のことから、実施例3の練り込み油脂は、職人芸を個々のパンに反映させにくい機械化大量生産による、均一品質のパン類の製造に非常に適している。すなわち、実施例3の練り込み油脂を用いた製造方法は、機械化大量生産によるパン類の製造に適している。
なお、実施例3については、実施例2とほぼ同様の測定結果を示しており、ほぼ同様の効果を有しているものと考えられる。このため、後述するように、実施例2から実施例3の範囲に含まれる液状油脂を用いることが、機械化大量生産によるパン類の製造に好適であると考えられる。
(実施例4)
実施例4は、練り込み油脂に対して10重量%のレシチンを、液状油脂に添加した練り込み油脂を用いて製造されたパン生地およびパンであり、(表2)に上述の測定結果が示されている。
実施例4は、練り込み油脂に対して10重量%のレシチンを、液状油脂に添加した練り込み油脂を用いて製造されたパン生地およびパンであり、(表2)に上述の測定結果が示されている。
(表2)から明らかな通り、パン生地の粘着度は、値「0.830N」と、比較例1〜実施例4の中で最も低い。この粘着度は、機械化された製造ラインによる製造でも問題を生じさせない。すなわち、発明者の考えたメカニズムに従い、レシチンは液状油脂を、パン生地の中に分散させる役割を有しており、レシチンの含有量が10重量%であることは、この役割が、機械化大量生産による製造ラインに対して十分であることを示している。
柔らかさに関しては、他の実施例と大差が無く、体積およびL値についても他の実施例と大差がない。
しかしながら、官能評価では、最低ランクの「よくない」と評価されている。これは、レシチンの含有量が増加したために、レシチンの有する「えぐみ」が強まったためと考えられる。このため、レシチンの含有量をあまりに増加させすぎると、食味や食感に悪影響を与える結果となってしまう。
比較例1〜実施例4をはじめとする発明者の実験においては、粘着度の点から、レシチンの含有量を、練り込み油脂に対して3〜10重量%とすることが好ましい。さらには、粘着度をはじめとして、焼成後のパンの食味や食感も含めて、レシチンの含有量を、練り込み油脂に対して3〜6重量%とすることが好ましい。
これは、発明者が考えたメカニズムを客観的にサポートする結果であり、レシチンが含有されることで、液状油脂がパン生地全体に分散して配合され、パン生地の粘着度を低く抑える。この結果、健康への影響が懸念される飽和脂肪酸やトランス脂肪酸が少ない液状油脂を、製造時間、コスト、均一的な品質の要求の厳しい機械化大量生産によるパン類においても抑えることができる。
この範囲における液状油脂とレシチンを主成分とする練り込み油脂が用いられることで、自動化を妨げることがないと共に健康への配慮もなされた、機械化大量生産によるパン類の製造が実現できる。
なお、練り込み油脂には、不可避混合物が含まれることを妨げない。また、液状油脂とレシチン以外に、香りや食味に必要となる種々の成分を添加することを妨げない。
なお、本発明は、機械化大量生産によるパン類の製造方法として具現化されてもよく、機械化大量生産によるパン類の製造装置として具現化されてもよい。更には、液状油脂とレシチンを主成分とする練り込み油脂、および機械化大量生産によるパン類の製造装置により製造されたパン類により具現化されても良い。
(練り込み油脂の変形例)
また、本発明に用いられる練り込み油脂においては、レシチンの代わりにジグリセリン脂肪酸エステルを用いても同様の効果が得られる。このような変形例に基づく練り込み油脂は、液状油脂とジグリセリン脂肪酸エステルを主成分とする。
また、本発明に用いられる練り込み油脂においては、レシチンの代わりにジグリセリン脂肪酸エステルを用いても同様の効果が得られる。このような変形例に基づく練り込み油脂は、液状油脂とジグリセリン脂肪酸エステルを主成分とする。
ジグリセリン脂肪酸エステルは、乳化剤の一つである。液状油脂とジグリセリン脂肪酸エステルを主成分とする練り込み油脂を、パン生地に混合させることで、健康への影響が懸念されるトランス脂肪酸や飽和脂肪酸を低減できる。加えて、機械化大量生産においても、分割機の刃へのパン生地の付着が防止される。
このような液状油脂とジグリセリン脂肪酸エステルを主成分とする練り込み油脂について、発明者は実験を行った。以下に、発明者が行った実験結果を説明する。
本発明の変形例である、「液状油脂とジグリセリン脂肪酸エステルを主成分とする練り込み油脂」を実施例とし、ジグリセリン脂肪酸エステルと同様の乳化剤であって文献などで知られていた「プロピレングリコール脂肪酸エステル」および「ジアセチル酒石酸モノグリセリド」のそれぞれを使用した練り込み油脂を比較例として実験が行われた。
実施例は、ジグリセリン脂肪酸エステルの含有割合によって実施例5〜8の4つである。比較例は、プロピレングリコール脂肪酸エステルを使用した比較例3と、ジアセチル酒石酸モノグリセリドを使用した比較例4の2つである。
(表3)は、実施例5〜8および比較例3〜4における、練り込み油脂をはじめとしたパン生地の原材料の配合比率を示している。(表3)に示される配合比率は、(表1)と同じく、小麦粉(表3では強力粉)の重量を100重量%とした所謂「ベーカーズ%」により表されている。
実施例5〜8および比較例3,4のいずれにおいても、練り込み油脂以外の主原料については、(表3)から明らかな通り(表1と同じく)強力粉が100ベーカーズ%、上白糖が15ベーカーズ%、塩が0.8ベーカーズ%、卵が15ベーカーズ%、イーストが6ベーカーズ%、改良剤が1.3ベーカーズ%、脱脂粉乳が3ベーカーズ%、水が48ベーカーズ%である。
実施例5〜8および比較例3,4のそれぞれは、この主原料に異なる成分や配合比の練り込み油脂を加えたものである。
以下に、各例の練り込み油脂の配合について説明する。
(比較例3)
比較例3は、8ベーカーズ%の練り込み油脂を含有している。更に、比較例3の練り込み油脂は、練り込み油脂に対して6重量%のプロピレングリコール脂肪酸エステルを含有している。
比較例3は、8ベーカーズ%の練り込み油脂を含有している。更に、比較例3の練り込み油脂は、練り込み油脂に対して6重量%のプロピレングリコール脂肪酸エステルを含有している。
液状油脂は、キャノーラ油、コーン油、大豆油、べにばな油、菜種油などいずれが用いられてもよい。
(比較例4)
比較例4は、8ベーカーズ%の練り込み油脂を含有している。更に、比較例4の練り込み油脂は、練り込み油脂に対して6重量%のジアセチル酒石酸モノグリセリドを含有している。
比較例4は、8ベーカーズ%の練り込み油脂を含有している。更に、比較例4の練り込み油脂は、練り込み油脂に対して6重量%のジアセチル酒石酸モノグリセリドを含有している。
次に実施例について説明する。
(実施例5)
実施例5は、8ベーカーズ%の練り込み油脂を含有している。更に、実施例5の練り込み油脂は、練り込み油脂に対して0.5重量%のジグリセリン脂肪酸エステルを含有している。
実施例5は、8ベーカーズ%の練り込み油脂を含有している。更に、実施例5の練り込み油脂は、練り込み油脂に対して0.5重量%のジグリセリン脂肪酸エステルを含有している。
(実施例6)
実施例6は、8ベーカーズ%の練り込み油脂を含有している。更に、実施例6の練り込み油脂は、練り込み油脂に対して2重量%のジグリセリン脂肪酸エステルを含有している。
実施例6は、8ベーカーズ%の練り込み油脂を含有している。更に、実施例6の練り込み油脂は、練り込み油脂に対して2重量%のジグリセリン脂肪酸エステルを含有している。
(実施例7)
実施例7は、8ベーカーズ%の練り込み油脂を含有している。更に、実施例7の練り込み油脂は、練り込み油脂に対して6重量%のジグリセリン脂肪酸エステルを含有している。
実施例7は、8ベーカーズ%の練り込み油脂を含有している。更に、実施例7の練り込み油脂は、練り込み油脂に対して6重量%のジグリセリン脂肪酸エステルを含有している。
(実施例8)
実施例8は、8ベーカーズ%の練り込み油脂を含有している。更に、実施例8の練り込み油脂は、練り込み油脂に対して10重量%のジグリセリン脂肪酸エステルを含有している。
実施例8は、8ベーカーズ%の練り込み油脂を含有している。更に、実施例8の練り込み油脂は、練り込み油脂に対して10重量%のジグリセリン脂肪酸エステルを含有している。
以上の原材料の配合により、パン生地を製造して焼成し、出来上がったパンについての比較を行った。
比較結果は(表4)に示すとおりである。
各例の比較では、次の項目がそれぞれ比較された。
(粘着度の比較)
発明者は、実施例5〜8、比較例3、4のそれぞれにおいて、パン生地の粘着度を測定した。
発明者は、実施例5〜8、比較例3、4のそれぞれにおいて、パン生地の粘着度を測定した。
粘着度は、レオメータ(株式会社サン科学社製「CR−500DX」)を用いて測定された。容器に入れたパン生地に対して、レオメータのアダプターを2ニュートン(N)の力で押し付けて、アダプターに付着したパン生地が、アダプターを引っ張る力を測定することで、粘着度は測定された。このとき、アダプターがパン生地に3秒間押し当てられている。
粘着度は、ニュートン(N)を単位として示されている。
この値が大きいほど、粘着度が高いことを示す。粘着度が高すぎると、従来技術の通り、製造工程での器具やコンベアにパン生地の一部が付着して、製造ラインを止めるなどの問題を生じさせる。
製造工程の経験から、粘着度が値「1N」程度を超えると上述の問題が生じやすくなる。
(焼成後のパンの柔らかさの比較)
発明者は、実施例5〜8、比較例3、4のそれぞれにおいて、焼成後のパンの柔らかさを測定した。柔らかさは、食感において非常に重要な要素であり、柔らかさ度合いの高いパンが、消費者に好まれる傾向がある。
発明者は、実施例5〜8、比較例3、4のそれぞれにおいて、焼成後のパンの柔らかさを測定した。柔らかさは、食感において非常に重要な要素であり、柔らかさ度合いの高いパンが、消費者に好まれる傾向がある。
発明者は、レオメータと呼ばれる器具を用いて、柔らかさを測定した。焼成されたパンに対して、所定の圧力をもって、器具を押し込み、押し込まれた量により柔らかさは測定される。このため、柔らかさは、器具が押し込まれた長さである「mm(ミリメートル)」を単位として表される。このため、(表4)において、押し込まれた長さの大きいパンが、押し込まれた長さの小さいパンよりも柔らかいことを示している。(表4)においては、押し込まれた長さが、それぞれ柔らかさを表す結果として表示されている。例えば、比較例3の1日目の柔らかさは、13.1mmと示されている。
なお、大量生産されるパンは、店頭に数日間並ぶことも考慮される。数日間に渡って、店頭に並べられたとしても、品質や食感が維持されることが好ましい。
このため、製造後1日目の柔らかさと、製造後3日目の柔らかさの両方を測定した。
(焼成後のパンの体積の比較)
発明者は、実施例5〜8、比較例3、4のそれぞれにおいて、焼成後のパンの体積を測定した。
発明者は、実施例5〜8、比較例3、4のそれぞれにおいて、焼成後のパンの体積を測定した。
体積が大きい方が、ふっくらと焼きあがっており、食感、食味ともに高いと考えられる。
体積は、決まった大きさの箱に焼成後のパンと小物体(菜種など)を、すりきりまで入れておき、この小物体の量を測定することで、パンの体積が測定される。
(表4)では、パンの体積は、ml(ミリリットル)を単位として示されており、値が大きければ、そのパンの体積が大きいことを示している。
(焼成後のパンのL値の比較)
発明者は、実施例5〜8、比較例3、4のそれぞれにおいて、焼成後のパンのL値を測定した。
発明者は、実施例5〜8、比較例3、4のそれぞれにおいて、焼成後のパンのL値を測定した。
L値は、焼きあがったパンの内層の色味を示したもので、特に、内層の色の白さを示す基準を示している。L値の大きさが大きいほど、内層の色が白いことを示しており、内層の色が白いほど、パンの出来が良いとされている。このため、L値が大きいということは、パンの出来が良いことを示している。
(官能評価)
最後に、発明者は、実施例5〜8、比較例3、4のそれぞれにおいて、焼成後のパンの官能評価を行った。官能評価とは、複数の実験者が、焼成後のパンを食した上で、主観的にその食味や食感を評価して測定される。
最後に、発明者は、実施例5〜8、比較例3、4のそれぞれにおいて、焼成後のパンの官能評価を行った。官能評価とは、複数の実験者が、焼成後のパンを食した上で、主観的にその食味や食感を評価して測定される。
(表4)においては、官能評価の結果が、良い方から「非常に良い」、「良い」、「よくない」の順序で表されている。なお、官能評価は、比較例3のパンの食味や食感を基準として、他の例の評価を行っている。
以上の測定作業に基づいて、実施例5〜8、比較例3、4までの結果について下記に述べる。
(比較例3)
比較例3は、液状油脂とプロピレングリコール脂肪酸エステルを主成分とする練り込み油脂を用いて製造されたパン生地およびパンであり、(表4)に測定結果が示されている。
比較例3は、液状油脂とプロピレングリコール脂肪酸エステルを主成分とする練り込み油脂を用いて製造されたパン生地およびパンであり、(表4)に測定結果が示されている。
(表4)から明らかな通り、プロピレングリコール脂肪酸エステルを用いた比較例3では、粘着度は値「0.89N」である。製造工程での経験上から、この程度の粘着度であれば、製造工程で用いられる器具やコンベアにパン生地の一部が付着することはない。これは、乳化剤の一つであるプロピレングリコール脂肪酸エステルであっても、粘着度が高くなりすぎることが無いことを示している。
しかし柔らかさについては、比較例3のパンは、1日目、3日目のいずれでも実施例6〜8に比較すると見劣りがする。官能評価の結果も不十分である。L値と体積については、実施例5〜8と大差はない。
このように、従来より使用されている乳化剤「プロピレングリコール脂肪酸エステル」は、大量生産時に機械へのパン生地の付着という問題点は解決できるが、出来上がったパンの美味しさの点で不十分である問題を残す。
(比較例4)
比較例4は、液状油脂とジアセチル酒石酸モノグリセリドを主成分とする練り込み油脂を用いて製造されたパン生地およびパンであり、(表4)に、測定結果が示されている。
比較例4は、液状油脂とジアセチル酒石酸モノグリセリドを主成分とする練り込み油脂を用いて製造されたパン生地およびパンであり、(表4)に、測定結果が示されている。
(表4)から明らかな通り、パン生地の粘着度は、値「0.91N」である。比較例3と同じく、この粘着度のパン生地であれば大量生産時に機械へのパン生地の付着は生じない。
体積やL値についても、実施例5〜8と遜色はない。しかし、柔らかさの点では比較例4のパンは実施例6〜8のパンに比べて見劣りがする。加えて、官能評価の点でも実施例6〜8に比較すると見劣りがする。
このように、従来より使用されている乳化剤「ジアセチル酒石酸モノグリセリド」は、大量生産時に機械へのパン生地の付着という問題点は解決できるが、出来上がったパンの美味しさの点で不十分である問題を残す。
(実施例5)
実施例5は、ジグリセリン脂肪酸エステルを練り込み油脂に対して0.5重量%添加した練り込み油脂を用いて製造されたパン生地およびパンであり、(表4)に結果が示されている。
実施例5は、ジグリセリン脂肪酸エステルを練り込み油脂に対して0.5重量%添加した練り込み油脂を用いて製造されたパン生地およびパンであり、(表4)に結果が示されている。
(表4)から明らかな通り、実施例5のパン生地の粘着度は、値「0.88N」であり、あまり高すぎず十分な値を示している。この程度の粘着度であれば、大量生産時に機械へのパン生地の付着は生じない。
実施例5のパンの体積とL値も十分である。
一方、実施例5のパンの柔らかさと官能評価の結果は、実施例6〜8に比較して不十分である。
ジグリセリン脂肪酸エステルを乳化剤として液状油脂と共に練り込み油脂に使用した場合には、大量生産時にパン生地が付着するという問題は生じさせないが、添加量が練り込み油脂の0.5重量%程度では、出来上がったパンの美味しさの点で不十分である。
(実施例6)
実施例6は、ジグリセリン脂肪酸エステルを練り込み油脂に対して2重量%添加した練り込み油脂を用いて製造されたパン生地およびパンであり、(表4)に結果が示されている。
実施例6は、ジグリセリン脂肪酸エステルを練り込み油脂に対して2重量%添加した練り込み油脂を用いて製造されたパン生地およびパンであり、(表4)に結果が示されている。
(表4)から明らかな通り、パン生地の粘着度は、値「0.81N」である。この程度の粘着度であれば、大量生産時にパン生地が機械に付着する問題は生じない。このため、大量生産に適した練り込み油脂である。また、液状油脂を主成分としているので、健康への影響が懸念される飽和脂肪酸やトランス脂肪酸が少ない。
また、(表4)より明らかな通り、実施例6のパンは柔らかさ、L値、官能評価のいずれの面でも優れており、出来上がったパンが非常に美味しいことを示している。柔らかさの面では、1日目および3日目のいずれでも十分であり、商品としての価値が高いことも分かる。官能評価も最高位の「非常に良い」である。
このように、ジグリセリン脂肪酸エステルを練り込み油脂に対して2重量%添加した練り込み油脂を用いて製造されたパン生地およびパンは、健康への配慮、美味しさ、大量生産の容易性のいずれをも実現できる。
以上のことから、実施例6の練り込み油脂は、職人芸を個々のパンに反映させにくい機械化大量生産による、均一品質のパン類の製造に非常に適している。すなわち、実施例6の練り込み油脂を用いた製造方法は、機械化大量生産によるパン類の製造に適している。
(実施例7)
実施例7は、ジグリセリン脂肪酸エステルを練り込み油脂に対して6重量%添加した練り込み油脂を用いて製造されたパン生地およびパンであり、(表4)に上述の測定結果が示されている。
実施例7は、ジグリセリン脂肪酸エステルを練り込み油脂に対して6重量%添加した練り込み油脂を用いて製造されたパン生地およびパンであり、(表4)に上述の測定結果が示されている。
(表4)から明らかな通り、パン生地の粘着度は、値「0.78N」である。この程度の粘着度であれば、大量生産時にパン生地が機械に付着する問題は生じない。このため、大量生産に適した練り込み油脂である。また、液状油脂を主成分としているので、健康への影響が懸念される飽和脂肪酸やトランス脂肪酸が少ない。
また、(表4)より明らかな通り、実施例7のパンは柔らかさ、L値、官能評価のいずれの面でも優れており、出来上がったパンが非常に美味しいことを示している。柔らかさの面では、1日目および3日目のいずれでも十分であり、商品としての価値が高いことも分かる。官能評価も最高位の「非常に良い」である。
このように、ジグリセリン脂肪酸エステルを練り込み油脂に対して6重量%添加した練り込み油脂を用いて製造されたパン生地およびパンは、健康への配慮、美味しさ、大量生産の容易性のいずれをも実現できる。
以上のことから、実施例7の練り込み油脂は、職人芸を個々のパンに反映させにくい機械化大量生産による、均一品質のパン類の製造に非常に適している。すなわち、実施例7の練り込み油脂を用いた製造方法は、機械化大量生産によるパン類の製造に適している。
(実施例8)
実施例8は、ジグリセリン脂肪酸エステルを練り込み油脂に対して10重量%添加した練り込み油脂を用いて製造されたパン生地およびパンであり、(表4)に上述の測定結果が示されている。
実施例8は、ジグリセリン脂肪酸エステルを練り込み油脂に対して10重量%添加した練り込み油脂を用いて製造されたパン生地およびパンであり、(表4)に上述の測定結果が示されている。
(表4)から明らかな通り、パン生地の粘着度は、値「0.76N」である。この程度の粘着度であれば、大量生産時にパン生地が機械に付着する問題は生じない。このため、大量生産に適した練り込み油脂である。また、液状油脂を主成分としているので、健康への影響が懸念される飽和脂肪酸やトランス脂肪酸が少ない。
また、(表4)より明らかな通り、実施例8のパンは柔らかさ、L値、官能評価のいずれの面でも優れており、出来上がったパンが非常に美味しいことを示している。柔らかさの面では、1日目および3日目のいずれでも十分であり、商品としての価値が高いことも分かる。官能評価も最高位の「非常に良い」である。
このように、ジグリセリン脂肪酸エステルを練り込み油脂に対して10重量%添加した練り込み油脂を用いて製造されたパン生地およびパンは、健康への配慮、美味しさ、大量生産の容易性のいずれをも実現できる。
以上のことから、実施例8の練り込み油脂は、職人芸を個々のパンに反映させにくい機械化大量生産による、均一品質のパン類の製造に非常に適している。すなわち、実施例8の練り込み油脂を用いた製造方法は、機械化大量生産によるパン類の製造に適している。
実施例5〜8から明らかな通り、ジグリセリン脂肪酸エステルを液状油脂に添加した練り込み油脂は、機械化されたパン類の大量生産に向いている。これは、液状油脂にレシチンを添加した場合と同様である。また、実施例5〜8の結果から分かるとおり、ジグリセリン脂肪酸エステルは、練り込み油脂に対して2〜10重量%を添加するのが好適である。2重量%未満では、実施例5から分かるとおり、美味しさの点で不十分である。
このように、液状油脂にレシチンを添加した練り込み油脂と同様に、液状油脂にジグリセリン脂肪酸エステルを添加した練り込み油脂も、機械化大量生産によるパン類の製造方法、製造装置に適している。加えて、液状油脂にジグリセリン脂肪酸エステルを添加した練り込み油脂は、機械化大量生産により製造されたパン類にも適している。
なお、練り込み油脂には、不可避混合物が含まれることを妨げない。また、液状油脂とジグリセリン脂肪酸エステル以外に、香りや食味に必要となる種々の成分を添加することを妨げない。
なお、本発明は、機械化大量生産によるパン類の製造方法として具現化されてもよく、機械化大量生産によるパン類の製造装置として具現化されてもよい。更には、液状油脂とジグリセリン脂肪酸エステルを主成分とする練り込み油脂、および機械化大量生産によるパン類の製造装置により製造されたパン類により具現化されても良い。
また、製造方法および製造装置においては、製造現場の必要に応じて他の要素が追加されても良く、混捏機や分割機の具体的な構造や実施態様は、製造ラインの仕様に応じて適宜選択されれば良い。
また、練り込み油脂においては、不可避な不純物および、食感や食味、製造の容易性を改善するために含有される他の成分が含まれていても本発明の効果を損なうものではない。
また、製造ラインの構成、製造ラインで用いられる装置や機械類の特性によっては、練り込み油脂は、若干量の固形油脂を含有してもよい。若干量の固形油脂を含んだ練り込み油脂によって、混捏されたパン生地の付着が、更に低減される場合もある。
更に、比較例や実施例において示された原材料の配合比や配合物は一例であり、製造されるパン類の違いに応じて、適宜変えられて良いものである。
また、パン類は、パンだけでなく菓子やケーキなどの食品も含む。
本発明は、例えば、健康へ配慮したパン類の製造であって、機械化大量生産によるパン類の製造分野等において好適に利用できる。
1 混捏機
2 分割機
3 成形機
4 焼成機
2 分割機
3 成形機
4 焼成機
Claims (18)
- パン生地を自動で混捏する混捏工程と混捏されたパン生地を所定重量に自動で分割する分割工程を含む機械化大量生産によるパン類の製造方法であって、
前記混捏工程において、液状油脂とレシチンを主成分とする練り込み油脂を前記パン生地に混合させることを特徴とする機械化大量によるパン類の製造方法。 - 前記液状油脂は、飽和脂肪酸が10重量%未満であることを特徴とする請求項1記載の機械化大量生産によるパン類の製造方法。
- 前記レシチンは、大豆由来もしくは卵黄由来であることを特徴とする請求項1から2のいずれか記載の機械化大量生産によるパン類の製造方法。
- 前記練り込み油脂は、前記液状油脂と、前記練り込み油脂に対して3〜10重量%のレシチンと、不可避混合物とを含み、さらに好ましくは、前記液状油脂と、前記練り込み油脂に対して3〜6重量%のレシチンと、不可避混合物とを含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか記載の機械化大量生産によるパン類の製造方法。
- 前記混捏工程は前記パン生地の発酵過程を含み、前記練り込み油脂は、前記発酵過程の前に混合されることを特徴とする請求項1から4のいずれか記載の機械化大量生産によるパン類の製造方法。
- 前記分割工程で所定重量に分割されたパン生地を成形する成形工程と、前記成形工程で成形されたパン生地を焼く焼成工程を更に備える請求項1から5のいずれか記載の機械化大量生産によるパン類の製造方法。
- 機械化大量生産によるパン類の製造に供されるパン生地に練りこまれる練り込み油脂であって、前記練り込み油脂は、液状油脂とレシチンを主成分とする練り込み油脂。
- 前記液状油脂は、飽和脂肪酸が10重量%未満であって、前記レシチンは大豆由来もしくは卵黄由来である請求項7記載の練り込み油脂。
- 前記練り込み油脂は、前記液状油脂と、前記練り込み油脂に対して3〜10重量%のレシチンと、不可避混合物とを含み、さらに好ましくは、前記液状油脂と、前記練り込み油脂に対して3〜6重量%のレシチンと、不可避混合物とを含むことを特徴とする請求項8記載の練り込み油脂。
- パン生地を自動で混捏する混捏機と混捏されたパン生地を所定重量に自動で分割する分割機を含む機械化大量生産によるパン類の製造装置であって、
前記混捏機は、液状油脂とレシチンを主成分とする練り込み油脂を前記パン生地に供給する供給部を備える機械化大量生産によるパン類の製造装置。 - 前記液状油脂は、飽和脂肪酸が10重量%未満であって、前記レシチンは大豆由来もしくは卵黄由来であって、前記練り込み油脂は、前記液状油脂と、前記練り込み油脂に対して3〜10重量%のレシチンと、不可避混合物とを含み、さらに好ましくは、前記液状油脂と、前記練り込み油脂に対して3〜6重量%のレシチンと、不可避混合物とを含むことを特徴とする請求項10記載の機械化大量生産によるパン類の製造装置。
- 前記分割機で所定重量に分割されたパン生地を成形する成形機と、前記成形機で成形されたパン生地を焼く焼成機を更に備える請求項10から11のいずれか記載の機械化大量生産によるパン類の製造装置。
- 請求項10から12のいずれかの機械化大量生産によるパン類の製造装置により製造されたパン類。
- パン生地を自動で混捏する混捏工程と混捏されたパン生地を所定重量に自動で分割する分割工程を含む機械化大量生産によるパン類の製造方法であって、
前記混捏工程において、液状油脂とジグリセリン脂肪酸エステルを主成分とする練り込み油脂を前記パン生地に混合させることを特徴とする機械化大量生産によるパン類の製造方法。 - 前記練り込み油脂は、前記液状油脂と、前記練り込み油脂に対して2〜10重量%のジグリセリン脂肪酸エステルと、不可避混合物とを含むことを特徴とする請求項14記載の機械化大量生産によるパン類の製造方法。
- 機械化大量生産によるパン類の製造に供されるパン生地に練りこまれる練り込み油脂であって、前記練り込み油脂は、液状油脂とジグリセリン脂肪酸エステルを主成分とする練り込み油脂。
- 前記練り込み油脂は、前記液状油脂と、前記練り込み油脂に対して2〜10重量%のジグリセリン脂肪酸エステルと、不可避混合物とを含むことを特徴とする請求項16記載の練り込み油脂。
- パン生地を自動で混捏する混捏機と混捏されたパン生地を所定重量に自動で分割する分割機を含む機械化大量生産によるパン類の製造装置であって、
前記混捏機は、液状油脂とジグリセリン脂肪酸エステルを主成分とする練り込み油脂を前記パン生地に供給する供給部を備える機械化大量生産によるパン類の製造装置。
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JP2010239892A (ja) * | 2009-04-04 | 2010-10-28 | Ito En Ltd | 食感の改善された焼き菓子 |
-
2007
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