JP2008138255A - 複合酸化物膜の製造方法及び水素透過構造体 - Google Patents
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Abstract
【課題】高周波イオンプレーティング法を用い複合酸化物膜を形成する複合酸化物膜の製造方法であって、安定した組成の複合酸化物膜が容易に得られる方法、及びこの製造方法により得られる複合酸化物膜を構成要素とし、安定した性能を有する水素透過構造体を提供する。
【解決手段】9.9×10−4Pa以下の真空度で、複合酸化物の原料元素の固体粉末からなる蒸発源を、固体粉末状態を保ちながら加熱する加熱工程、前記蒸発源をさらに加熱して溶融し、9.9×10−4Pa以下の真空度で蒸発源を5分以上溶融状態に保つ溶かし込み工程、及び、前記溶かし込み工程の終了後に開始する高周波イオンプレーティング法による成膜工程、を有する複合酸化物膜の製造方法、及びこの製造方法により形成された酸化物プロトン導電性膜を有する水素透過構造体。
【選択図】 なし
【解決手段】9.9×10−4Pa以下の真空度で、複合酸化物の原料元素の固体粉末からなる蒸発源を、固体粉末状態を保ちながら加熱する加熱工程、前記蒸発源をさらに加熱して溶融し、9.9×10−4Pa以下の真空度で蒸発源を5分以上溶融状態に保つ溶かし込み工程、及び、前記溶かし込み工程の終了後に開始する高周波イオンプレーティング法による成膜工程、を有する複合酸化物膜の製造方法、及びこの製造方法により形成された酸化物プロトン導電性膜を有する水素透過構造体。
【選択図】 なし
Description
本発明は、水素透過構造体を構成する酸化物プロトン導電性膜等として用いられる複合酸化物膜の製造方法、及びこの方法により製造された酸化物プロトン導電性膜を有する水素透過構造体に関する。
水素透過性能を有する基板の上に固体電解質層を形成した水素透過構造体は、燃料電池、水素センサ、水素ポンプ、排気ガス中のNOxを除去する装置への利用等、いわゆる水素デバイスとしての広範な用途が考えられる。この固体電解質層としては、プロトン伝導性の酸化物からなる酸化物プロトン導電性膜が広く用いられる。
特に、一般式ALO3(式中、Aはアルカリ土類金属を表し、Lは、セリウム(Ce)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)等の4価元素である。)で表される基本組成を有し、4価元素Lの一部を3価元素Mで置換した組成で、ペロブスカイト型結晶構造(以下、「ペロブスカイト構造」とも言う。)を持つ複合酸化物は、耐熱性に優れる等の特性を有するので、種々の材料が開発されている。
このような固体電解質層を含む水素透過構造体は、パラジウム(Pd)やPd合金等からなる基板上に、前記の複合酸化物を構成する原料元素を、スパッタリング法、パルスレーザーディポジション法(PLD法)、イオンプレーティング法等により蒸着してプロトン伝導性の複合酸化物膜を形成することにより製造することができる。これらの成膜方法の中では、成膜レート、成膜コスト、大面積化の観点より、高周波イオンプレーティング法が好ましく採用され、その一例が特開平11−267477号公報(特許文献1)に紹介されている。
この高周波イオンプレーティング法による複合酸化物膜の形成は、具体的には以下の手順に従って行われる。
(1)複合酸化物の原料元素からなる蒸発源(酸化物)を、電子ビーム(EB)により加熱して、原子レベルにまで分解して蒸発させる。
(2)高周波放電により発生したプラズマ中を、蒸発した原子が通過し、正イオン化される。
(3)基板(陽極基材)側に、直流(DC)のマイナスバイアスを印加することにより、正イオン化された蒸発原子が、高エネルギーで基板に蒸着されて膜を形成する。
そして、この高エネルギーにより、結晶性の良い膜が形成され、基板と膜との密着強度が向上する。
特開平11−267477号公報
(1)複合酸化物の原料元素からなる蒸発源(酸化物)を、電子ビーム(EB)により加熱して、原子レベルにまで分解して蒸発させる。
(2)高周波放電により発生したプラズマ中を、蒸発した原子が通過し、正イオン化される。
(3)基板(陽極基材)側に、直流(DC)のマイナスバイアスを印加することにより、正イオン化された蒸発原子が、高エネルギーで基板に蒸着されて膜を形成する。
そして、この高エネルギーにより、結晶性の良い膜が形成され、基板と膜との密着強度が向上する。
しかし、高周波イオンプレーティング法による複合酸化物膜の形成では、蒸発源(酸化物)間での蒸気圧の違い、蒸発源中のガスの影響等により、安定した組成の複合酸化物膜を得ることは難しく、成膜ロット毎に膜の組成が一定せず製品の歩留まりが低下するとの問題があった。特に、蒸発源としてのSrOやBaOを用いる場合はこれらの潮解性(吸湿性)によっても膜の組成の変動を生じる。基板として用いるPd箔は高価であるため、歩留まりが低い場合、生産コストの上昇につながる。
そこで、蒸発源毎に膜厚計を設置し、モニタしながら照射時間比を調整し、組成を合わせ込む方法が考えられている。しかし、1つの蒸発源のみの成膜レートをモニタするためには、他の蒸発源からの元素が混じらないように受光器を筒型にする必要があり、少量の測定となり感度が低い、又、照射位置がずれても正確にモニタ出来ない、等の問題があった。そこで、この方法によっても安定した組成の複合酸化物膜を得ることは困難であった。
本発明は、高周波イオンプレーティング法を用い複合酸化物膜を形成する複合酸化物膜の製造方法であって、安定した組成の複合酸化物膜が容易に得られる方法を提供することを課題とする。
又、本発明は、酸化物プロトン導電性膜を固体電解質とする水素透過構造体であって、前記酸化物プロトン導電性膜が、前記の製造方法により得られる複合酸化物膜であり、従って、安定した性能を有する水素透過構造体を提供することを課題とする。
本発明者は、鋭意検討の結果、高周波イオンプレーティング法により複合酸化物膜を形成するにあたって、成膜の開始前に、高い真空度の中で蒸発源を加熱するとともに、さらに蒸発源を一定時間溶融させることにより、成膜ロット毎の膜の組成の変動を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、
高周波イオンプレーティング法を用いる複合酸化物膜の製造方法であって、
9.9×10−4Pa以下の真空度で、複合酸化物の原料元素の固体粉末からなる蒸発源を、固体粉末状態を保ちながら加熱する加熱工程、
前記加熱工程後、前記蒸発源をさらに加熱して溶融し、9.9×10−4Pa以下の真空度で蒸発源を5分以上溶融状態に保つ溶かし込み工程、及び、
前記溶かし込み工程の終了後に開始する高周波イオンプレーティング法による成膜工程、を有することを特徴とする複合酸化物膜の製造方法(請求項1)を提供する。
高周波イオンプレーティング法を用いる複合酸化物膜の製造方法であって、
9.9×10−4Pa以下の真空度で、複合酸化物の原料元素の固体粉末からなる蒸発源を、固体粉末状態を保ちながら加熱する加熱工程、
前記加熱工程後、前記蒸発源をさらに加熱して溶融し、9.9×10−4Pa以下の真空度で蒸発源を5分以上溶融状態に保つ溶かし込み工程、及び、
前記溶かし込み工程の終了後に開始する高周波イオンプレーティング法による成膜工程、を有することを特徴とする複合酸化物膜の製造方法(請求項1)を提供する。
本発明の製造方法では、高周波イオンプレーティング法により複合酸化物膜を形成するので、結晶性の良い膜が形成され、基板と膜との密着強度が向上するとの効果を得やすい。又、成膜レート、成膜コストの観点からも、優れた方法となりやすく、大面積の複合酸化物膜の形成も容易である。すなわち、PLD法やスパッタ法等より成膜レートが早く、又エキシマレーザを用いたPLD法のように高価なガスの必要がなく、さらに、大面積成膜を行うことが可能であり、量産性に優れている場合が多い。
複合酸化物とは、2種以上の元素の酸化物の混合物である。すなわち、酸素を含めると3以上の元素を含有する。
本発明の製造方法は、高周波イオンプレーティング法による複合酸化物膜の成膜の開始前に行う、加熱工程及び溶かし込み工程を有することを特徴とする。
加熱工程とは、蒸発源と基板が設置された高周波イオンプレーティング装置内において、9.9×10−4Pa以下の高い真空度の中で、蒸発源を、固体粉末のまま加熱する工程である。ここで、蒸発源は、目的とする複合酸化物膜の原料元素の酸化物からなる固体粉末からなる。複合酸化物膜の原料元素の酸化物は2種以上の酸化物からなるが、蒸発源はこれらの酸化物の混合物であってもよいし、それぞれの酸化物からなる2以上の蒸発源であってもよい。
蒸発源が2以上の場合は、高周波イオンプレーティング装置は2以上のハースを有する。又、蒸発源の蒸発に使用する電子銃は、2以上の蒸発源に対応するように2以上設けてもよいし、1の電子銃を2以上の蒸発源の蒸発に使用してもよい。すなわち、本発明の製造方法は、種々の多元系の成膜に適応出来るとともに、ハースの数、電子銃や元素の数が増加しても対応出来る技術である。
加熱工程により、蒸発源中のガスや揮発成分が除去され、その結果、形成される複合酸化物膜の組成の安定性が向上する。すなわち、原料の蒸発源は、酸化物からなる固体粉末の圧粉により製造することができるが、この圧粉中にガスが入り、しかもそのガスの量は毎回異なる。又、蒸発源の準備時間によってもガスの吸着量が変動する。さらに、蒸発源として潮解性(吸湿性)があるSrOやBaOを用いる場合は、蒸発源の準備時間により吸湿量が変動する。これらの原因により蒸発源中に含まれるガスや水等の揮発成分は、蒸発源毎にバラツキを生じている。そしてこのバラツキは、成膜ロット毎に膜の組成のバラツキを生じさせる一因であるが、加熱工程によりガスや揮発成分が除去されるので、膜組成の安定性が向上する。
加熱工程における加熱方法としては、高周波イオンプレーティング装置内に設置されている電子銃から低エネルギーのEBを、蒸発源に照射する方法を例示することができる(請求項2)。加熱工程での加熱は、蒸発源が固体粉末を保つ条件で行われるので、この低エネルギーのEBは、蒸発源の溶融を生じない範囲のエネルギーである。
他の加熱方法としては、蒸着対象の基板を加熱してその輻射熱を利用する方法等を挙げることができる。基板の加熱による輻射熱を利用して蒸発源を加熱した後、さらに、低エネルギーのEBを蒸発源に照射して加熱する方法によれば、ガスや揮発成分の除去をより充分に行うことができるので好ましい。
加熱は、少なくともその終了時点において、9.9×10−4Pa以下の高い真空度で行われる必要がある。すなわち、加熱開始時点や加熱の中途では、9.9×10−4Paを越える圧力下で加熱が行われてもよいが、加熱工程の終了前は9.9×10−4Pa以下の高い真空度とする必要がある。
加熱工程後、前記蒸発源をさらに加熱して溶融し、この溶融状態を9.9×10−4Pa以下の真空度で5分以上保つ工程(溶かし込み工程)が行われる。好ましくは、加熱工程の終了後、蒸発源の雰囲気の真空度を9.9×10−4Pa以下に保った状態で、すなわち9.9×10−4Paを越えることなしに溶かし込み工程が行われる。蒸発源を溶融するための加熱の方法としては、EB照射による方法が代表的な方法として例示される。すなわちEB照射量を、蒸発源を溶融させるために必要な値以上に上げて溶融させる。
高真空下でのEB照射により溶融とともに蒸発源の蒸発(昇華)も生じる。しかし、溶かし込み工程の時点では成膜はまだ開始されないので、通常蒸発源と基板間はシャッター等により遮断する。溶かし込み工程におけるEB照射量が大きすぎると、蒸発量が多量となり、溶かし込み工程終了時において、成膜に必要な量の蒸発源が残存しなくなる。よって、EB照射量はこの問題が生じる値を越えないように注意する必要がある。
高周波イオンプレーティング法により形成される複合酸化物膜の組成は、前記のように蒸発源中のガスや揮発成分により影響されるが、酸化物の粉末の詰め方により変動する蒸発源の密度や、表面状態によっても影響される。しかし、溶かし込み工程により、蒸発源中のガスや揮発成分の除去がさらに行われるとともに、蒸発源の密度や表面状態も均一化され、その結果、形成される複合酸化物膜の組成の安定性がさらに向上する。すなわち、粉末である酸化物を詰めた状態では蒸発源の表面に多少の凸凹があり、その状態はバッチ毎に異なるが、蒸発源を溶解することによりバッチ毎の表面状態の変動が少なくなる。
溶融時間は5分以上である。蒸発源の溶け方、例えば、蒸発初期における蒸発源の最表面の状態は蒸発量に影響を与える。すなわち、最表面に凹凸が多いと、EBの照射面積が大きくなるため、蒸発量は多くなる。そこで、組成の安定性を向上させるためには、この溶け方のバッチ間でのバラツキを抑える必要があるが、ZrO2等のような融点の高い蒸発源の場合、一定の溶け方に達するまでに5分以上の時間を要する。又、蒸発源の粉末の詰め方やガスや揮発成分の含有量により、溶融初期に原料が浮き上がる(盛り上がる)ことがあるが、この浮きが収まり粉末が落ち着きほぼ元の高さに戻るまで、5分以上の時間を要する。(溶融時間3分では浮きを沈めるために不十分である。)
前記溶かし込み工程の終了後に高周波イオンプレーティング法による成膜が開始される(成膜工程)。溶かし込み工程では蒸発源と基板間は遮断されているが、この遮断を解き(シャッターを開き)、EB照射量を、成膜に必要な蒸発量が得られる値以上とすることにより成膜が開始される。
本発明の製造方法で行われる高周波イオンプレーティングは、複合酸化物膜の製造のために、従来行われている高周波イオンプレーティングと同様な方法により行うことができる。すなわち、前記のように、蒸発源(酸化物)を、EB照射により加熱して蒸発させ、原子レベルにまで分解する。そして、高周波放電により発生したプラズマ中を蒸発した原子が通過し、正イオン化され、基板(陽極基材)側に印加されたマイナスバイアス電圧より、正イオン化された蒸発原子が、高エネルギーで基板に蒸着されて膜を形成する。
プラズマ発生のために装置内に流されるガスとしては、アルゴン(Ar)等が挙げられる。又、酸化物形成のために酸素ガスも流される。基板加熱温度、酸素ガスやArガスの流量、高周波出力、DCバイアス電圧、基板と試料間の距離等の条件も、複合酸化物膜の製造のために従来行われている高周波イオンプレーティングと同様な条件を採用することができる。
本発明の製造方法は、複合酸化物膜の中でも、化学式AL1−xMxO3−α(式中、Aは、アルカリ土類金属を表し、Lは、Zr、Ce、Ti及びハフニウム(Hf)から選ばれる1種以上の元素を表し、Mは、3価の元素から選ばれる1種以上の元素を表し、0.05<x≦0.35、0.15<α<1である。)で表されペロブスカイト構造を有する酸化物の膜の形成に好適に用いられる(請求項3)。このペロブスカイト構造を有する酸化物の膜は、水素透過構造体の固体電解質として好適に用いられる。
上記化学式AL1−XMXO3−αにおいて、Aで表されるアルカリ土類金属としては、バリウム(Ba)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、及びストロンチウム(Sr)から選ばれる1種又は2種以上が例示される。
Mは3価元素であり、4価元素Lの一部をMで置換することによりプロトン伝導性を発現する。Mとしては、ネオジム(Nd)、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)、イットリウム(Y)、インジウム(In)、イッテルビウム(Yb)、スカンジウム(Sc)、ガドリウム(Gd)、サマリウム(Sm)、及びプラセオジム(Pr)よりなる群から選ばれる1種又は2種以上が例示される。前記の元素の中から適宜選択することにより、高いプロトン伝導性と電子絶縁性を両立させた酸化物プロトン導電性膜を得ることができる。
xは、Lに対するMの置換比率を表し、0.05以上かつ0.35以下である。xが0.05未満の場合、高いプロトン伝導性を得ることができない。一方、xが0.35を超えると、ペロブスカイト構造が不安定となり水に対する安定性が低下する。
又、αは、ペロブスカイト構造酸化物における酸素欠損の程度を示す指数であり、0.15より大きく1.0より小さい。αが0でないので、このペロブスカイト構造の酸化物は、酸素欠損型ペロブスカイト構造酸化物である。
本発明の製造方法により化学式AL1−xMxO3−αで表されるペロブスカイト構造の酸化物の膜を形成すれば、A/Lモル比のバラツキ幅、およびM/Lモル比のバラツキ幅を、ともに±0.15以下とすることができる。
本発明の製造方法は、特に、前記化学式AL1−xMxO3−αにおけるAがSr、LがZr、MがInである複合酸化物の膜の形成に好適に用いられる(請求項4)。
本発明は、さらに、水素透過性能を有する金属基材、及び、その上に、前記の複合酸化物膜の製造方法により形成された酸化物プロトン導電性膜を有することを特徴とする水素透過構造体を提供する(請求項5)。
ここで、水素透過性能を有する金属基材とは、水素を透過する金属の薄膜であって、Pdの薄膜もしくはPdを主体とする合金の薄膜が好ましく用いられる。Pdを主体とする合金としては、Pdを主成分とし、水素透過性能を損なわない範囲で銀(Ag)、白金(Pt)、銅(Cu)等を含む合金が挙げられる。又、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)若しくはタンタル(Ta)の膜の表面にPdやその合金を被覆したもの、又はV、Nb若しくはTaの合金の膜に、Pdやその合金を被覆したもの、すなわち、V、Nb、Taから選ばれる元素周期律表の5属元素のいずれかを含んだ金属膜の表面上にPdを含んだ膜を成膜したもの等を用いてもよい。V、Nb若しくはTaの合金としては、ニッケル(Ni)、Ti、コバルト(Co)、クロム(Cr)等との合金が例示される。
水素透過性能を有する金属基材が薄すぎる場合は、水素以外のガスも透過しやすくなり、水素のみを選択的に通す性質、すなわちガスタイト性が低下する。一方、厚すぎる場合は、水素透過性能が低下する。優れたガスタイト性及び水素透過性能を得るために、水素透過性能を有する金属基材の厚さは、20μm以上、1mm未満が好ましい。
水素透過性能を有する金属基材上に、前記の方法により形成される酸化物プロトン導電性膜としては、前記の化学式AL1−xMxO3−αで表されペロブスカイト構造を有する酸化物の膜が、高いプロトン伝導性と電子絶縁性を両立させることができるので好ましい。又、酸化物プロトン導電性膜の厚さは、0.02μm〜2μmが好ましい。厚さが0.02μm未満ではピンホール等の膜の欠陥が生じやすい。ピンホール等が存在すると、水素ガスがプロトン化せずに膜を抜けてしまうので電流が出力されない。2μmより厚くなると、プロトン透過抵抗が大きくなりプロトン伝導性が低下する問題があり、水素透過構造体を燃料電池として用いた場合は電流の出力が低下する。
本発明の水素透過構造体では、その酸化物プロトン導電性膜が前記の製造方法により形成されているので、その組成が安定しており、従って水素透過構造体の性能も安定している。例えば、酸化物プロトン導電性膜が、前記の化学式AL1−xMxO3−αで表されペロブスカイト構造を有する酸化物の膜の場合は、A/Lモル比のバラツキ幅、およびM/Lモル比のバラツキ幅が共に±0.15以下である。従って、燃料電池等のいわゆる水素デバイス等として好適に用いられる。
本発明の複合酸化物膜の製造方法によれば、安定した組成(バラツキの小さい)の複合酸化物膜を得ることができる。従って、この複合酸化物膜を有する製品(例えば水素透過構造体)の製造における歩留まりの向上に寄与する。この製造方法により形成された酸化物プロトン導電性膜(複合酸化物膜)を構成要素とする本発明の水素透過構造体は、安定した性能を有するものであり、水素デバイス等として好適に用いられる。
以下、本発明を実施するための最良の形態を実施例に基づいて説明する。なお、本発明の範囲は、以下の実施例に限定されるものではない。
実施例1
以下に示す(1)から(5)の順序で水素透過構造体の製造を行った。
(1)電子銃の数が1で、ハース数が3の高周波イオンプレーティング装置に、15mm角、厚さ0.1mmのPd基板(水素透過性能を有する金属基材)をセットし、かつ3つのハースに、Sr源、Zr源及びIn源(蒸発源)をそれぞれセットし、真空引き後、真空中で基板加熱(600℃)を行う。この時基板と蒸発源間のシャッターは開いておく。その結果、基板の輻射熱で蒸発源が加熱され、脱ガス効果が見られる。なお、蒸発源のSr源、Zr源及びIn源は、それぞれの酸化物粉末を圧粉して得たものである。
以下に示す(1)から(5)の順序で水素透過構造体の製造を行った。
(1)電子銃の数が1で、ハース数が3の高周波イオンプレーティング装置に、15mm角、厚さ0.1mmのPd基板(水素透過性能を有する金属基材)をセットし、かつ3つのハースに、Sr源、Zr源及びIn源(蒸発源)をそれぞれセットし、真空引き後、真空中で基板加熱(600℃)を行う。この時基板と蒸発源間のシャッターは開いておく。その結果、基板の輻射熱で蒸発源が加熱され、脱ガス効果が見られる。なお、蒸発源のSr源、Zr源及びIn源は、それぞれの酸化物粉末を圧粉して得たものである。
(2)基板加熱後、真空引きを、真空度が9.9×10−4Pa以下になるまで行う。
(3)シャッターを閉じ、蒸発源にエミッション電流5mA以下の低エネルギーのEBを照射する。照射により、蒸発源中に含まれていたガス等が装置内に飛散する。そこで、真空引きを、真空度が再び9.9×10−4Pa以下になるまで行う。
(4)酸素ガス1sccm、Arガス1sccm導入後、高周波13.56MHz、出力200Wを印可し、EBのエミッション電流を200mAまで上げ、5分間蒸発源の溶かし込みを行う。EB出力を上げると、原料が浮き始める(盛り上がる)が、5分程度で浮き上がりが静まりほぼ元の高さに戻る。
(3)シャッターを閉じ、蒸発源にエミッション電流5mA以下の低エネルギーのEBを照射する。照射により、蒸発源中に含まれていたガス等が装置内に飛散する。そこで、真空引きを、真空度が再び9.9×10−4Pa以下になるまで行う。
(4)酸素ガス1sccm、Arガス1sccm導入後、高周波13.56MHz、出力200Wを印可し、EBのエミッション電流を200mAまで上げ、5分間蒸発源の溶かし込みを行う。EB出力を上げると、原料が浮き始める(盛り上がる)が、5分程度で浮き上がりが静まりほぼ元の高さに戻る。
(5)溶かし込みにより浮き上がった原料を落ち着かせた後、成膜を開始する。シャッターを開き、基材側にDCバイアス−1000Vを印加しながら、EBのエミッション電流を200mAとしてEB照射を行い、各蒸発源を蒸発させる。EB照射は、酸化物プロトン導電性膜の組成がSr/Zr=1.25、In/Zr=0.25になるように各蒸発源に照射する時間比をコントロールしながら行う。膜厚モニタで膜厚をコントロールしながら、2μmの膜厚の酸化物プロトン導電性膜を形成し水素透過構造体を得た。
得られた酸化物プロトン導電性膜の組成を、X線光電子分光分析(XPS)を用いて測定したところ、ペロブスカイト構造を有し、SrZr0.8In0.2O3−αにおけるαが、0.15<α<1.0であることが確認された。又、酸化物プロトン導電性膜の組成、すなわちSr/Zr(原子比)、In/Zr(原子比)は、ICP分析を用いて測定した。
同様な操作をさらに4回繰り返した。計5回の測定における酸化物プロトン導電性膜の組成(Sr/Zr、In/Zr)のバラツキ幅を求めた。その結果を表1に示す。
比較例1〜3
基板の輻射熱により蒸発源を加熱するとともに9.9×10−4Pa以下へ真空引きする工程(表1中では「輻射加熱工程」と記す。)、低エネルギーのEB照射(表1中では「低EB照射工程」と記す。)、及び溶かし込み(表1中では「溶かし込み工程」と記す。)のいずれかを実施しない以外は実施例1と同様にして、酸化物プロトン導電性膜の組成のバラツキ幅を求めた。その結果を表1に示す。なお表1では、実施した工程は○で示し、実施しない工程は×で示した。
基板の輻射熱により蒸発源を加熱するとともに9.9×10−4Pa以下へ真空引きする工程(表1中では「輻射加熱工程」と記す。)、低エネルギーのEB照射(表1中では「低EB照射工程」と記す。)、及び溶かし込み(表1中では「溶かし込み工程」と記す。)のいずれかを実施しない以外は実施例1と同様にして、酸化物プロトン導電性膜の組成のバラツキ幅を求めた。その結果を表1に示す。なお表1では、実施した工程は○で示し、実施しない工程は×で示した。
表1より明らかなように、全ての工程を行った実施例1では、組成のバラツキ幅が小さく(±0.15以下である。)、安定した組成の酸化物プロトン導電性膜が形成されている。しかし、3工程中の1工程を行わなかった比較例1〜3では、組成のバラツキ幅が大きく(±0.15を越えている。)安定した組成のプロトン伝導性膜が得られていない。
実施例2
(燃料電池用構造体の作成)
実施例1で得られた水素透過構造体の酸化物プロトン導電性膜上に、ステンレスマスクを通して、2mm角、厚さ0.1μmのPt電極を電子ビーム蒸着で形成することにより燃料電池を得ることができる。
(燃料電池用構造体の作成)
実施例1で得られた水素透過構造体の酸化物プロトン導電性膜上に、ステンレスマスクを通して、2mm角、厚さ0.1μmのPt電極を電子ビーム蒸着で形成することにより燃料電池を得ることができる。
Claims (5)
- 高周波イオンプレーティング法を用いる複合酸化物膜の製造方法であって、
9.9×10−4Pa以下の真空度で、複合酸化物の原料元素の固体粉末からなる蒸発源を、固体粉末状態を保ちながら加熱する加熱工程、
前記加熱工程後、前記蒸発源をさらに加熱して溶融し、9.9×10−4Pa以下の真空度で蒸発源を5分以上溶融状態に保つ溶かし込み工程、及び、
前記溶かし込み工程の終了後に開始する高周波イオンプレーティング法による成膜工程、を有することを特徴とする複合酸化物膜の製造方法。 - 前記加熱工程における加熱を、低エネルギーのEBを、蒸発源に照射して行うことを特徴とする請求項1に記載の複合酸化物膜の製造方法。
- 前記複合酸化物が、化学式AL1−xMxO3−α(式中、Aは、アルカリ土類金属を表し、Lは、ジルコニウム、セリウム、チタン及びハフニウムから選ばれる1種以上の元素を表し、Mは、3価の元素から選ばれる1種以上の元素を表し、0.05<x≦0.35、0.15<α<1である。)で表されペロブスカイト構造を有する酸化物であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の複合酸化物膜の製造方法。
- 前記化学式AL1−xMxO3−αにおけるAがストロンチウム、Lがジルコニウム、Mがインジウムであることを特徴とする請求項3に記載の複合酸化物膜の製造方法。
- 水素透過性能を有する金属基材、及び、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の複合酸化物膜の製造方法により前記金属基材上に形成された酸化物プロトン導電性膜を有することを特徴とする水素透過構造体。
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JP2011021265A (ja) * | 2009-07-21 | 2011-02-03 | Mitsubishi Materials Corp | プラズマ蒸着方法及び該方法により形成された蒸着膜 |
KR101779801B1 (ko) | 2011-03-04 | 2017-09-19 | 홍익대학교 산학협력단 | 전극과 전해질에 양성자를 조사하여 제조한 고체 산화물 연료전지 |
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2006
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