以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この発明を実施するための最良の形態(以下実施形態という)によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。
なお、以下の説明においては、動力発生手段に電動機を用いるが、本発明に適用できる動力発生手段は電動機に限るものではない。また、以下においては、左右の駆動輪に対して駆動力を変化させる場合を説明するが、本発明は、前後の駆動輪に対して駆動力の配分を行う場合や、前後左右の駆動輪に対して駆動力の配分を行う場合等にも適用できる。すなわち、本発明は、複数の駆動手段を備え、かつ、複数の駆動輪に対する駆動力を変化させる場合に適用できる。また、次の説明においては、乗用車、トラック、バスその他の車両に対して本発明を適用した場合を例とするが、本発明の適用対象はこのような車両に限定されるものではない。
(実施形態1)
本実施形態は、第1動力発生手段の発生する動力と、第2の動力発生手段の発生する動力とを、ラビニョ式の遊星歯車装置を介して合成し、前記遊星歯車装置に設けられる第1出力部と第2出力部とから出力する点に特徴がある。
図1は、実施形態1に係る駆動装置を搭載した車両の構成を示す説明図である。この駆動装置100は、車両(例えば、乗用車やバス等)1に搭載される。また、車両1は、駆動装置100の他に、ハイブリッド駆動装置110を搭載する。なお、図1中の矢印X方向は車両1の進行方向を示す。車両1の進行方向は、車両1が前進する方向である。
駆動装置100は車両1の後輪駆動用であり、車両1の左側後輪2RL及び右側後輪2RRを駆動する。一方、ハイブリッド駆動装置110は車両1の前輪駆動用であり、車両1の左側前輪2FL及び右側前輪2FRを駆動する。このように、車両1は、左側後輪2RL、右側後輪2RR、左側前輪2FL及び右側前輪2FRが駆動される、いわゆる4輪駆動の車両である。なお、駆動装置100を車両1の前輪駆動用とし、ハイブリッド駆動装置110を車両1の前輪駆動用として用いてもよい。また、駆動装置100のみを用いて車両1を走行させてもよい。
駆動装置100は、第1動力発生手段としての第1電動機11と、第2動力発生手段としての第2電動機12とを備える。第1電動機11が発生する動力と第2電動機12が発生する動力とは、動力伝達機構13で合成され、第1駆動軸である左側後輪用動力伝達軸14L及び第2駆動軸である右側後輪用動力伝達軸14Rを介して、左側後輪2RL及び右側後輪2RRへ伝達される。駆動装置100は、第1電動機11が発生するトルクと第2電動機12が発生するトルクとを制御することにより、左側後輪2RLの駆動力及び右側後輪2RRの駆動力を異ならせることができる。
第1電動機11及び第2電動機12は、ECU(Engine Control Unit)50によって制御される。ECU60は、第1電動機11に取り付けられる第1レゾルバ41及び第2電動機に取り付けられる第2レゾルバ42からの情報に基づいて、第1電動機11及び第2電動機12の回転数や回転方向を制御する。また、ECU60は、車両1の走行条件に基づき第1電動機11及び第2電動機12の出力を制御する。
第1電動機11及び第2電動機12は、インバータ7に接続されている。インバータ7には、例えばニッケル−水素電池や鉛蓄電池等の車載電源8が接続されている。インバータ7は、ECU60によって制御される。これによって、車載電源8から第1電動機11及び第2電動機12へ供給される電力や周波数が制御される。なお、第1電動機11と第2電動機12とは独立して制御されるため、インバータ7は、第1電動機11用のインバータと第2電動機12用のインバータとが含まれている。
第1電動機11や第2電動機12が駆動装置100の動力発生手段として用いられる場合、車載電源8の電力がインバータ7を介して供給される。また、例えば車両1の減速時には、第1電動機11や第2電動機12が発電機として機能して回生発電を行い、電気エネルギーの形で回収した車両1の運動エネルギーを、車載電源8に蓄える。これは、ブレーキ信号やアクセルオフ等の信号に基づいて、ECU60がインバータ7を制御することにより実現される。このように、第1電動機11及び第2電動機12は、車両1を走行させるための動力を発生する他、エネルギーを生み出すジェネレータ(本実施形態では発電機)としても機能する。次に、ハイブリッド駆動装置110について簡単に説明する。
ハイブリッド駆動装置110は、電動機及び発電機として機能する第3電動機3及び第4電動機4と、内燃機関5と、動力分割/合成機構9とを備える。そして、このハイブリッド駆動装置110は、内燃機関5の出力と第3電動機3の出力とを、例えば遊星歯車装置で構成される動力分割/合成機構9で合成し、左側前輪用動力伝達軸6L及び右側前輪用動力伝達軸6Rを介して、左側前輪2FL及び右側前輪2FRに伝達する。なお、左側前輪2FL及び右側前輪2FRは、車両1の駆動輪であるとともに、操舵輪も兼ねている。
このハイブリッド駆動装置110は、いわゆるシリーズ・パラレルハイブリッドの駆動装置である。ハイブリッド駆動装置110は、ECU60によって制御される。第3電動機3は、インバータ7に接続されている。第3電動機3の回転数及び回転方向は、第3レゾルバ43によって検出されてECU60へ取り込まれ、ハイブリッド駆動装置110の制御に利用される。
第3電動機3は、主としてハイブリッド駆動装置110の駆動源として用いられる。このときには、車載電源8や、第4電動機4によって生み出された電力等がインバータ7を介して第3電動機3へ供給される。また、例えば車両1の減速時には、第3電動機3が発電機として機能して回生発電を行い、これによって回収したエネルギーを車載電源8に蓄える。これは、ブレーキ信号やアクセルオフ等の信号に基づいて、ECU60がインバータ7を制御することにより実現される。
第4電動機4は、主として発電機として機能するが、内燃機関5の始動時には、スタータモータとして機能する。第4電動機4が発電機として機能するときには、第4電動機4が内燃機関5によって駆動される。また、車両1の走行中においては、第4電動機4が内燃機関5の駆動反力を受けることにより、左側前輪2FL及び右側前輪2FRに駆動力を発生させる。第4電動機4で生み出される電力は第3電動機3の駆動に用いられる他、車載電源8の充電にも用いられる。
車両1の左側前輪2FL、右側前輪2FR、左側後輪2RL、右側後輪2RRの回転速度は、それぞれ、左側前輪回転速度センサ45FL、右側前輪回転速度センサ45FR、左側後輪回転速度センサ45RL、右側後輪回転速度センサ45RRによって検出される。そして、左側前輪回転速度センサ45FL、右側前輪回転速度センサ45FR、左側後輪回転速度センサ45RL、右側後輪回転速度センサ45RRの出力は、ECU60に取り込まれ、駆動装置100やハイブリッド駆動装置110の駆動制御に用いられる。また、車両1には、操舵角センサ46、傾斜角センサ47、加速度センサ48が備えられており、ECU60は、これらのセンサからの情報を取得して、駆動装置100やハイブリッド駆動装置110を制御する。次に、本実施形態に係る駆動装置100の構成を説明する。
図2は、実施形態1に係る駆動装置の構成を示す説明図である。本実施形態に係る駆動装置100は、第1電動機11と、第2電動機12と、動力伝達機構13とは、筐体101の内部に組み込まれている。動力伝達機構13は、いわゆるラビニョ式の遊星歯車装置20を含んで構成される。ここで、ラビニョ式の遊星歯車装置20は、遊星歯車列を組み合わせて構成される遊星歯車装置の一種であり、リングギヤとキャリアとを共通とし、2個のサンギヤを有する遊星歯車装置である。
遊星歯車装置20は、リングギヤ23と、第1ピニオンギヤ24Lと、第2ピニオンギヤ24Sと、キャリア22と、第1サンギヤ21Aと、第2サンギヤ21Bとを含んで構成される。リングギヤ23は、内側に歯車を備えるとともに、第1ピニオンギヤ24L、第2ピニオンギヤ24S、キャリア22、第1サンギヤ21A及び第2サンギヤ21Bが内側に配置される。本実施形態において、遊星歯車装置20は、リングギヤ23と、キャリア22と、第1サンギヤ21Aと、第2サンギヤ21Bとが回転要素となる。
第1ピニオンギヤ24Lは、リングギヤ23の内側かつリングギヤ23側に配置されて、リングギヤ23の内側に形成された歯車とかみ合っており、前記歯車とかみ合いながらリングギヤ23の内側を回転する。第2ピニオンギヤ24Sは、リングギヤ23の内側かつリングギヤ23の回転中心(すなわち遊星歯車の回転軸Zp)側に配置される。また、第2ピニオンギヤ24Sは、回転軸と平行な方向の長さが第1ピニオンギヤ24Lよりも短い。
第1ピニオンギヤ24Lと第2ピニオンギヤ24Rとはかみ合った状態で、ともに回転可能にキャリア22に支持される。キャリア22は、第1ピニオンギヤ24Lと第2ピニオンギヤ24Sとともに、リングギヤ23の内側を回転する。第1サンギヤ21Aは第1ピニオンギヤ24Lとかみ合い、また、第2サンギヤ21Bは第2ピニオンギヤ24Sとかみ合う。
遊星歯車装置20は、リングギヤ23、第1ピニオンギヤ24L、第1サンギヤ21Aが、いわゆるシングルピニオン式の遊星歯車装置を構成し、また、リングギヤ23、第1ピニオンギヤ24L、第2ピニオンギヤ24S、第2サンギヤ21Bが、いわゆるダブルピニオン式の遊星歯車装置を構成する。
遊星歯車装置20のリングギヤ23の外側には歯車25が設けられており、この歯車は、第1電動機11の出力軸11Sに取り付けられる第1電動機出力ギヤ11Gとかみ合っている。これによって、第1電動機11が発生する動力は、遊星歯車装置20へ伝達される。このように、リングギヤ23は、遊星歯車装置20に対する第1入力部となる。なお、例えば、チェーンやベルトを介して、第1電動機11の発生する動力をリングギヤ23へ伝達してもよい。また、リングギヤ23には、リングギヤ用動力伝達部材23Cが取り付けられており、動力伝達対象切替手段である駆動態様切替装置26を構成する連結部材26Lによって、第2電動機12の出力軸12Sに取り付けられる第2電動機用動力伝達部材12Cと連結される。これによって、第2電動機12の発生する動力が、直接リングギヤ23へ伝達される。なお、駆動態様切替装置26を備えず、第2電動機12の出力軸12Sと、第1サンギヤ21Aとを直接接続してもよい。
遊星歯車装置20の第1サンギヤ21Aには、第1サンギヤ用動力伝達部材21ACが取り付けられる。そして、前記連結部材26Lが、第1サンギヤ用動力伝達部材21ACと前記第2電動機用動力伝達部材12Cとを連結することにより、第2電動機12の発生する動力が、第1サンギヤ用動力伝達部材21AC及び第1サンギヤ21Aを介して遊星歯車装置20へ伝達される。このように、第1サンギヤ21Aは、遊星歯車装置20に対する第2入力部となる。なお、駆動態様切替装置26については後述する。
遊星歯車装置20のキャリア22には、第1駆動軸である左側後輪用動力伝達軸14Lが取り付けられている。また、遊星歯車装置20の第2サンギヤ21Bには、第2駆動軸である右側後輪用動力伝達軸14Rが取り付けられる。このような構成により、連結部材26Lが、第1サンギヤ用動力伝達部材21ACと第2電動機用動力伝達部材12Cとを連結した場合には、第1電動機11の発生する動力と第2電動機12の発生する動力とが遊星歯車装置20で合成されるとともに、キャリア22と第2サンギヤ21Bとへ所定の割合で配分されて出力される。そして、配分された前記動力は、左側後輪用動力伝達軸14Lと右側後輪用動力伝達軸14Rとへ出力され、これらを駆動する。このように、キャリア22は第1出力部として、第2サンギヤ21Bは第2出力部として機能する。
左側後輪用動力伝達軸14Lには左側後輪2RLが取り付けられ、また、右側後輪用動力伝達軸14Rには右側後輪2RRが取り付けられる。左側後輪2RLと右側後輪2RRとは、駆動装置100や図1に示す車両1の駆動輪となるので、左側後輪用動力伝達軸14Lと右側後輪用動力伝達軸14Rとが駆動されると、左側後輪2RLと右側後輪2RRとが駆動され、車両1が走行する。
ここで、本実施形態においては、遊星歯車装置20の回転軸、及び第2電動機12の回転軸が、左側後輪用動力伝達軸14L及び右側後輪用動力伝達軸14R上に配置される。また、第2電動機12には、オイルポンプ27が取り付けられている。オイルポンプ27は、図1に示す車両1の旋回加速度が大きい場合や登坂時等のように、油の偏りが大きく、遊星歯車装置20等のギヤによる油の掻き上げでは潤滑が不十分になるような場合に駆動される。そして、潤滑が確保できる場合には、オイルポンプ27の運転を停止して、オイルポンプ27の駆動による損失の増加を抑制する。
また、オイルポンプ27は、例えば、第1電動機11が高負荷連続運転によって昇温したときに運転したり、車載電源8の受け入れ制限時に電力が発生した場合に運転したりする。これによって、第1電動機11を効果的に冷却したり潤滑したりでき、また、車載電源8の受け入れが制限されているときに発生した電力を無駄にすることを回避できる。
また、本実施形態に係る駆動装置100では、第2電動機12の出力軸12Sは中空構造となっており、前記出力軸12Sの内部に駆動装置100の駆動軸(具体的には右側後輪用動力伝達軸14R)が配置される。これによって、第2電動機12の出力軸12Sと駆動装置100の駆動軸とを同軸で配置する。このような構成により、前記駆動軸に第2電動機12の発生する熱を伝え、前記駆動軸を放熱手段として用いることによって、第2電動機12のロータやステータの冷却性能を向上させることができる。次に、駆動装置100による、第1出力部であるキャリア22と第2出力部である第2サンギヤ21Bとに対する駆動力の配分を説明する。
図3は、実施形態1に係る駆動装置が備える遊星歯車装置の共線図である。縦軸は、第1サンギヤ21A、第2サンギヤ21B、キャリア22、リングギヤ23の回転数を示す。連結部材26Lによって、第1サンギヤ用動力伝達部材21ACと第2電動機用動力伝達部材12Cとを連結すると、遊星歯車装置20には、第1電動機11及び第2電動機12から動力が伝達される。このとき、第1出力部であるキャリア22へ出力されるトルクTCは式(1)で、第2出力部である第2サンギヤ21Bへ出力されるトルクTS2は、式(2)で求めることができる。ここで、キャリア22には、左側後輪用動力伝達軸14Lを介して左側後輪2RLが取り付けられているので、キャリア22へ出力されるトルクTCは、左側後輪2RLを駆動するトルクTRLに等しい。また、第2サンギヤ21Bには、右側後輪用動力伝達軸14Rを介して右側後輪2RRが取り付けられているので、第2サンギヤ21Bへ出力されるトルクTS2は、右側後輪2RRを駆動するトルクTRRに等しい。
TC=(T_MG1−T_MG2)/2=TRL・・(1)
TS2=(T_MG1−T_MG2)/2−(1+ρ1)×T_MG2=TRR・・(2)
ここで、T_MG1は第1電動機11のトルク、T_MG2は第2電動機12のトルクであり、両者ともに回転方向に応じて正、負の値をとる。また、ρ1は、リングギヤ23と第1ピニオンギヤ24Lと第1サンギヤ21Aとの間の変速比である。リングギヤ23と第1ピニオンギヤ24Lと第2ピニオンギヤ24Sと第1サンギヤ21Aとの間の変速比はρ2であり、本実施形態では0.5としてある。なお、変速比ρ2は0.5以外でもよいが、このようにすると、キャリア22と第2サンギヤ21Bとで駆動力の配分比を等しくする場合、第2電動機12を駆動する必要が生じ、エネルギーの損失を招くので、変速比ρ2は0.5が好ましい。
式(1)、式(2)から、第1電動機11によって駆動装置100を駆動しているときに、第2電動機12に動力(具体的にはトルク)を発生させると、キャリア22のトルクTC、すなわち左側後輪2RLのトルクTRLと、第2サンギヤ21Aのトルク、すなわち右側後輪2RRのトルクTRLとが変化することが分かる。これによって、駆動装置100の左側後輪2RLと右側後輪2RRとの間で、それぞれの駆動力を変更することができるので、例えば、駆動装置100を搭載する、図1に示す車両1の旋回性能を向上させることができる。
図3の共線図は、図2に示す駆動装置100の右側後輪2RRの回転速度が左側後輪2RLの回転速度よりも大きい状態なので、前記駆動装置100を搭載する、図1に示す車両1が左旋回をしているときの状態を示している。この状態において、第1電動機11(MG1)がトルクT_MG1を発生して、図1に示す車両1を走行させている。このときに、第2電動機12(MG2)がトルクT_MG2を発生すると、式(1)、式(2)に基づいて、左側後輪2RLのトルクTRLと、右側後輪2RRのトルクTRRとが変化する。
例えば、T_MG2を増加させると、式(1)、式(2)から、左側後輪2RLのトルクTRLは減少し、右側後輪2RRのトルクTRRは増加する。したがって、左旋回中に、左側後輪2RLの駆動力が右側後輪2RRの駆動力よりも小さくなり、アンダーステアを低減するような旋回モーメントが車両1に発生する。また、T_MG2を減少させると、式(1)、式(2)から、左側後輪2RLのトルクTRLは増加し、右側後輪2RRのトルクTRRは減少する。したがって、左旋回中に、左側後輪2RLの駆動力が右側後輪2RRの駆動力よりも大きくなり、オーバーステアを低減するような旋回モーメントが車両1に発生する。このように、本実施形態に係る駆動装置100は、左側後輪2RLの駆動力と右側後輪2RRの駆動力とを変更することによって、車両1のアンダーステアを抑制したり、車両1のスピンを回避したりすることができる。
なお、第2電動機12に動力を発生させなければ、あるいは図2に示す第1サンギヤ用動力伝達部材21ACと第2電動機用動力伝達部材12Cとを解放することにより、第2電動機12と遊星歯車装置20との接続を切り離せば、図1に示す車両1の旋回中における内外輪の速度差は、遊星歯車装置20によって吸収される。このように、図2に示す駆動装置100が備える遊星歯車装置20は、差動ギヤとしても機能する。ここで、第1電動機11及び第2電動機12は、第1レゾルバ41及び第2レゾルバ42からの情報に基づき、ECU60及び駆動制御装置50によって制御される。次に、駆動装置100の駆動態様及び駆動態様の切り替えを説明する。次の説明においては、適宜図2を参照されたい。
図4−1は、実施形態1に係る駆動装置の駆動態様を切り替える手法を示す概念図である。図4−2〜図4−4は、駆動態様切替装置の一構成例を示す説明図である。本実施形態に係る駆動装置100は、駆動輪、すなわち左側後輪2RLと右側後輪2RRとを駆動する駆動態様を3種類備える。図4−1の上段は第1駆動態様を示し、中段は第2駆動態様を示し、下段は第3駆動態様を示す。
第1駆動態様は、連結部材26Lを操作して、第2電動機用動力伝達部材12Cを、第1サンギヤ用動力伝達部材21AC及びリングギヤ用動力伝達部材23Cから解放することにより、第2電動機12と遊星歯車装置20との接続を切り離す駆動態様である。第1駆動態様では、第1電動機11のみによって駆動装置100の駆動輪、すなわち左側後輪2RL及び右側後輪2RRが駆動される。旋回中における左側後輪2RLと右側後輪2RRとの間の回転速度差は、遊星歯車装置20によって吸収される。第1駆動態様を選択することにより、第2電動機12は、第1電動機11、左側後輪2RL、右側後輪2RRと切り離されるので、第2電動機12のつれ回り等によるエネルギー消費の増加を抑制できる。
第2駆動態様は、連結部材26Lを操作して、第2電動機用動力伝達部材12Cと、第1サンギヤ用動力伝達部材21ACとを連結するとともに、第2電動機用動力伝達部材12Cとリングギヤ用動力伝達部材23Cとは解放される駆動態様である。この駆動態様においては、第2電動機12が第1サンギヤ21Aに接続され、かつ、リングギヤ23からは解放される。すなわち、遊星歯車装置20が備える4個の回転要素のうちの一つに第2電動機12が接続され、かつ、第1電動機11が接続されている4個の回転要素のうちの一つには接続されない状態である。
第2駆動態様では、第1電動機11及び第2電動機12によって駆動装置100の駆動輪、すなわち左側後輪2RL及び右側後輪2RRを駆動する。そして、第2電動機12の発生する動力を調整することにより、左側後輪2RLの駆動力と右側後輪2RRの駆動力とを変更することができる。
第3駆動態様は、連結部材26Lを操作して、第2電動機用動力伝達部材12Cと、リングギヤ用動力伝達部材23Cとを連結する駆動態様である。なお、構造上、第2電動機用動力伝達部材12Cと、第1サンギヤ用動力伝達部材21ACとも連結される。第3駆動態様では、第1電動機11と第2電動機12とがリングギヤ23を介して接続され、第1電動機11及び第2電動機12によって駆動装置100の駆動輪、すなわち左側後輪2RL及び右側後輪2RRを駆動する。第3駆動態様は、第2駆動態様とは異なり、左側後輪2RLの駆動力と右側後輪2RRの駆動力とを変更することはできず、第1電動機11の動力と第2電動機12の動力とを総和した動力で、左側後輪2RLと右側後輪2RRとが駆動される。また、遊星歯車装置20の差動ギヤとしての機能は失われるので、いわゆるデフロックの状態で車両1を走行させることができる。これにより、強力な駆動力が得られるので、例えば、悪路走行や登坂時、あるいは急加速時等、駆動装置100に大きな駆動力が要求される場合に効果的である。
また、第3駆動態様では、第2電動機12によって車両1を走行させることができるので、例えば、何らかの原因で第1電動機11が動作しなくなったり、熱制限によって出力が低下したりした場合には、第2電動機12によって車両1を走行させることができる。これによって、駆動装置100の走行性能を確保でき、図1に示す4輪駆動の車両1では、第1電動機11の出力が不十分な場合でも4輪駆動を実現できる。
また、例えば、悪路走行や登坂時、あるいは急加速時等、駆動装置100に大きな駆動力が要求される場合は、限られた状況であって、常にこのような状況が発生する訳ではない。このため、限定的な場面を想定して、第1電動機11に出力の大きいものを用いることは、駆動装置100の大型化を招き、不経済である。このため、限定的に大きな駆動力が要求される場合には、第3駆動態様を用いて第1電動機11と第2電動機12とで車両1を走行させるようにすれば、第1電動機11には出力の小さいものを用いることができる。これによって、駆動装置100の大型化を抑制し、また、低コスト化を図ることができる。
次に、図4−2〜図4−3を用いて、駆動態様切替装置の一構成例及び駆動態様に切り替えを説明する。本実施形態においては、駆動態様切替装置26によって、上述した第1駆動態様〜第3駆動態様を切り替える。本実施形態において、駆動態様切替装置26は、図2や図4に示す連結部材26Lと、連結部材26Lを動作させる駆動態様切替用アクチュエータ26Aと、連結部材26Lと駆動態様切替用アクチュエータ26Aとを連結する操作部材26Jとを含んで構成される。
図4−2に示すように、連結部材26Lは、リング26Rと、リング26Rに取り付けられ、リング26Rに対して回転可能な連結用スリーブ26Sとで構成される。図4−4に示すように、連結用スリーブ26Sの外周部には、リング26Rが嵌め込まれる溝26Tが形成されており、連結用スリーブ26Sは、リング26Rの内部を回転できるように構成される。
図4−2〜図4−3に示すように、連結用スリーブ26Sは、管状の部材であり、内周部には、複数(本実施形態では2個)の突起部26STが設けられている。また、リングギヤ用動力伝達部材23Cと、第1サンギヤ用動力伝達部材21ACと、第2電動機用動力伝達部材12Cとは円板状の部材であり、外周部には、連結用スリーブ26Sの内周部に形成された突起部26STとかみ合う切り欠き部Kが設けられている。また、連結用スリーブ26Sの内部は断面が円形であり、リングギヤ用動力伝達部材23C、第1サンギヤ用動力伝達部材21AC、第2電動機用動力伝達部材12Cが、連結用スリーブ26Sの内部に嵌り合うように構成される。
図2、図3、図4−2、図4−3に示すように、リングギヤ用動力伝達部材23Cと、第1サンギヤ用動力伝達部材21ACと、第2電動機用動力伝達部材12Cと、連結用スリーブ26Sとは、同一軸(本実施形態では、図2に示す右側後輪用動力伝達軸14Rであり、遊星歯車装置20の回転軸Zp)上に配置されている。連結用スリーブ26Sは、リングギヤ用動力伝達部材23Cと、第1サンギヤ用動力伝達部材21ACと、第2電動機用動力伝達部材12Cと、連結用スリーブ26Sとが配置される軸と平行に動作する。そして、駆動装置100の駆動態様を切り替える場合には、駆動態様切替用アクチュエータ26Aによって連結用スリーブ26Sを動かし、リングギヤ用動力伝達部材23C、第1サンギヤ用動力伝達部材21AC、第2電動機用動力伝達部材12Cのうち連結したいもの同士を連結部材26Lの連結用スリーブ26Sで連結する。
例えば、図4−4に示す例では、図4−1に示す第2駆動態様が選択された状態である。第2駆動態様においては、駆動態様切替用アクチュエータ26Aによって連結用スリーブ26Sを動かし、第1サンギヤ用動力伝達部材21ACと、第2電動機用動力伝達部材12Cとに連結用スリーブ26Sを被せる。すると、第1サンギヤ用動力伝達部材21ACの切り欠き部Kと、第2電動機用動力伝達部材12Cの切り欠き部Kとは、連結用スリーブ26Sの内部に形成された突起部26STとかみ合う。これによって、第1サンギヤ用動力伝達部材21ACと、第2電動機用動力伝達部材12Cとの間で動力を伝達することができる。
第1駆動態様では、リングギヤ用動力伝達部材23C、第1サンギヤ用動力伝達部材21AC、第2電動機用動力伝達部材12Cのいずれからも、連結用スリーブ26Sを取り外した状態にすることで実現できる。第3駆動態様は、連結用スリーブ26Sによって、リングギヤ用動力伝達部材23C、第1サンギヤ用動力伝達部材21AC、第2電動機用動力伝達部材12Cすべてを連結することによって実現できる。
駆動態様を切り替えるにあたっては、リングギヤ用動力伝達部材23C、第1サンギヤ用動力伝達部材21AC、第2電動機用動力伝達部材12Cのうち、連結しようとするもの同士の回転を揃える必要がある。本実施形態に係る駆動装置100では、図2に示す、第1電動機11の第1レゾルバ41、第2電動機12の第2レゾルバ42、左側後輪回転速度センサ45RL、右側後輪回転速度センサ45RRを用いることにより、連結しようとするもの同士の回転速度を推定することができる。
例えば、第1駆動態様から第2駆動態様への切り替えは、第1電動機11の第1レゾルバ41、第2電動機12の第2レゾルバ42、左側後輪回転速度センサ45RL及び右側後輪回転速度センサ45RRを用いることにより、第1サンギヤ用動力伝達部材21AC、第2電動機用動力伝達部材12Cの回転速度を推定することができる。また、第2駆動態様から第3駆動態様の切り替えは、第1電動機11の第1レゾルバ41及び第2電動機12の第2レゾルバ42を用いることにより、リングギヤ用動力伝達部材23C及び第2電動機用動力伝達部材12Cの回転速度を推定できる。このように、本実施形態に係る駆動装置100は、駆動態様を切り替えるためのセンサを追加する必要はないので、製造コストの低減を図ることができる。
このように、図4−2〜図4−4に示すような駆動態様切替装置26を用いることで、駆動装置100の駆動態様を切り替えることができる。なお、上述した駆動態様切替装置26は一例であり、例えば、いわゆるドグクラッチや、いわゆるマニュアルトランスミッションに用いられるシンクロ機構等を用いて、駆動態様切替装置26を構成してもよい。
本実施形態に係る駆動装置100では、リングギヤ用動力伝達部材23Cと、第1サンギヤ用動力伝達部材21ACと、第2電動機用動力伝達部材12Cとが同一軸上に配置される。これによって、駆動態様を切り替えるための構造を簡素化することができるので、駆動装置100を構成する部品の増加を抑制しつつ、複数の駆動態様を実現することができる。次に、本実施形態に係る駆動装置100の配置例について説明する。
図5は、実施形態1に係る駆動装置の配置例を示す説明図である。図5の矢印gは、重力の作用方向を示している。本実施形態に係る駆動装置100は、第1電動機11と第2電動機12とで、相対的に使用頻度の高い方、又は図1に示す車両1の直進時に用いられる方の少なくとも一方を満たすものを、他方よりも高い位置に配置することが好ましい。本実施形態に係る駆動装置100では、第1電動機11が直進時に用いられ、かつ第1電動機11の使用頻度は第2電動機12の使用頻度よりも高いので、第1電動機11を第2電動機12よりも高い位置に配置する。ここで、「高い位置」とは、路面GLからより離れた位置をいう。
駆動装置100は、第1電動機11や第2電動機12を冷却、あるいは潤滑する油が用いられる。第1電動機11や第2電動機12の温度が低い場合、前記油の温度も低くなる結果、前記油の粘度が高くなり、第1電動機11や第2電動機12の駆動損失が大きくなる。このため、相対的に使用頻度の高い方、あるいは図1に示す車両1の直進時に用いられる方の電動機をより高い位置に配置し、油を駆動装置100の下方(重力の作用方向側)へ集める。これによって、使用頻度の高い電動機に送られる粘度の高い油を低減することができるので、電動機の駆動損失を抑制できる。
本実施形態に係る駆動装置100では、電動機の出力を減速して駆動輪へ伝達するが、このような構成では、減速させない場合よりも駆動損失による駆動力低下の影響は大きく、また、減速比が大きいほど前記駆動力低下の影響は大きい。本実施形態に係る上記配置は、駆動損失を低減できるので、駆動損失に起因する駆動力低下を抑制できる。また、本実施形態の上記配置によれば、油の温度が低い場合には、使用頻度の低い電動機を用いて油を早期に昇温させることもできる。
また、本実施形態に係る駆動装置100は、第1電動機11と第2電動機12とで、相対的に使用頻度の高い方、又は図1に示す車両1の直進時に用いられる方の少なくとも一方を満たすものは、図1に示す車両の進行方向前方に配置することが好ましい。このようにすれば、車両1の走行による走行風を利用しやすくなるので、相対的に使用頻度の高い電動機を効果的に冷却できる。これによって、電動機の冷却系を簡素化できるとともに、電動機の性能を安定化させることができる。次に、本実施形態に係る駆動制御を実現するための駆動制御装置について説明する。
図6は、実施形態1に係る駆動制御装置の構成例を示す説明図である。図6に示すように、駆動制御装置50は、ECU60に組み込まれて構成されている。ECU60は、CPU(Central Processing Unit:中央演算装置)60pと、記憶部60mと、入力ポート65及び出力ポート66と、入力インターフェース67及び出力インターフェース68とから構成される。
なお、ECU60とは別個に、この実施形態に係る駆動制御装置50を用意し、これをECU60に接続してもよい。そして、この実施形態に係る駆動制御を実現するにあたっては、ECU60が備える駆動装置100に対する制御機能を、前記駆動制御装置50が利用できるように構成してもよい。
駆動制御装置50は、制御条件判定部51と、駆動態様切替部52と、駆動力決定部53と、駆動力制御部54とを含んで構成される。これらが、この実施形態に係る駆動制御を実行する部分となる。この実施形態において、駆動制御装置50は、ECU60を構成するCPU60pの一部として構成される。
駆動制御装置50の制御条件判定部51と、駆動態様切替部52と、駆動力決定部53と、駆動力制御部54とは、バス641、バス642、及び入力ポート65及び出力ポート66を介して接続される。これにより、駆動制御装置50を構成する制御条件判定部51と駆動態様切替部52と、駆動力決定部53と、駆動力制御部54とは、相互に制御データをやり取りしたり、一方に命令を出したりできるように構成される。また、CPU60pが備える駆動制御装置50と、記憶部60mとは、バス643を介して接続される。これによって、駆動制御装置50は、ECU60が有する駆動装置100の運転制御データを取得し、これを利用することができる。また、駆動制御装置50は、この実施形態に係る駆動制御を、ECU60が予め備えている運転制御ルーチンに割り込ませたりすることができる。
入力ポート65には、入力インターフェース67が接続されている。入力インターフェース67には、第1レゾルバ41、第2レゾルバ42、第3レゾルバ43、第4レゾルバ44、左側前輪回転速度センサ45FL、右側前輪回転速度センサ45FR、左側後輪回転速度センサ45RL、右側後輪回転速度センサ45RR、操舵角センサ46、傾斜角センサ47、三次元加速度センサ48等の、駆動装置100の駆動制御に必要な情報を取得するセンサ類が接続されている。これらのセンサ類から出力される信号は、入力インターフェース67内のA/Dコンバータ67aやディジタル入力バッファ67dにより、CPU60pが利用できる信号に変換されて入力ポート65へ送られる。これにより、CPU60pは、車両1の運転制御や、駆動装置100の駆動制御に必要な情報を取得することができる。
出力ポート66には、出力インターフェース68が接続されている。出力インターフェース68には、本実施形態に係る駆動制御に必要な制御対象が接続されている。この実施形態では、制御対象として、第1電動機11、第2電動機12、第3電動機3、第4電動機4を制御するためのインバータ7、駆動態様切替用アクチュエータ26A、内燃機関5が、出力インターフェース68に接続されている。出力インターフェース68は、制御回路681、682等を備えており、CPU60pで演算された制御信号に基づき、前記制御対象を動作させる。このような構成により、前記センサ類からの出力信号に基づき、ECU60のCPU60pは、第1電動機11や第2電動機12等の駆動力を制御することができる。
記憶部60mには、この実施形態に係る駆動制御の処理手順を含むコンピュータプログラムや制御マップ、あるいはこの実施形態に係る駆動制御に用いるデータ等が格納されている。ここで、記憶部60mは、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、フラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ、あるいはこれらの組み合わせにより構成することができる。
上記コンピュータプログラムは、CPU60pへ既に記録されているコンピュータプログラムと組み合わせによって、この実施形態に係る駆動制御の処理手順を実現できるものであってもよい。また、この駆動制御装置50は、前記コンピュータプログラムの代わりに専用のハードウェアを用いて、制御条件判定部51、駆動態様切替部52、駆動力決定部53及び駆動力制御部54の機能を実現するものであってもよい。次に、この実施形態に係る駆動制御の一例を説明する。次の説明では、適宜図1〜図5を参照されたい。
図7は、実施形態1に係る駆動制御の手順を示すフローチャートである。本実施形態に係る駆動制御を実行するにあたり、ステップS101において、駆動制御装置50の制御条件判定部51は、図1に示す車両1に対する要求駆動力F_Dが大きく、かつ図1に示す車両1が低車速であるか否かを判定する。ステップS101において、例えば、要求駆動力F_Dの判定は、要求駆動力F_Dが所定の閾値F_Dcを超えた場合に駆動力が大きいと判定し、また、車両1の速度(車速)が所定の閾値よりも小さい場合には、低車速であると判定する。
図1に示す車両1は、前輪の駆動にハイブリッド駆動装置110を備えており、例えば、急加速時のように、低車速かつ要求駆動力F_Dが大きい場合には、内燃機関5及び第3電動機3の両方でハイブリッド駆動装置110を駆動する。内燃機関5を用いてハイブリッド駆動装置110を駆動する場合、第4電動機4で発電することによってハイブリッド駆動装置110を変速するが、第4電動機4の発電量が、車載電源8の電力受け入れ量の上限によって制約を受けることがあり、その結果、車両1に対する要求駆動力F_Dを発生できないことがある。これは、内燃機関5の出力が大きい場合や、車両1に対する要求駆動力F_Dが大きい場合に発生しやすい。
本実施形態では、ステップS101で、車両1に対する要求駆動力F_Dが大きく、かつ車両1が低車速である場合は、図2に示す駆動装置100の駆動態様を第3駆動態様として、第1電動機11及び第2電動機12によって駆動装置100を駆動することにより、第4電動機4で発電した電力を消費する。これによって、車載電源8の電力受け入れ量の上限がある場合でも、車両1に対する要求駆動力F_Dを発生させ、車両1の走行性能を確保できる。
ステップS101でYesと判定された場合、すなわち、制御条件判定部51が、車両1に対する要求駆動力F_Dが大きく、かつ車両1が低車速であると判定した場合、ステップS103へ進む。ステップS103においては、駆動制御装置50の駆動態様切替部52が、図2や図4−1に示す駆動態様切替装置26を動作させて、駆動装置100の駆動態様を第3駆動態様に切り替える。第3駆動態様への切り替えは、上述した通りである。そして、駆動制御装置50の駆動力決定部53は、駆動装置100及びハイブリッド駆動装置110の動力発生手段(第1電動機11や第3電動機3等)が発生する動力を演算し、駆動制御装置50の駆動力制御部54は、前記演算の結果に基づいて、前記動力発生手段を制御する。
ステップS101でNoと判定された場合、すなわち、制御条件判定部51が、車両1に対する要求駆動力F_Dが大きくはなく、かつ車両1が低車速ではないと判定した場合、ステップS102へ進む。ステップS102においては、制御条件判定部51は、図1に示す車両1が登坂中であるか否かを判定する。車両1が登坂中であるか否かは、例えば、図1に示す車両1が備える傾斜角センサ47からの情報に基づいて、制御条件判定部51が判定する。
ステップS102においてYesと判定された場合、すなわち、制御条件判定部51が、車両1は登坂中であると判定した場合、車両1には比較的大きな駆動力が要求され、かつ、安定した走行が要求されると考えられる。このため、ステップS103に進み、第3駆動態様を選択して、車両1を4輪駆動で走行させる。ステップS103においては、駆動態様切替部52によって、駆動装置100の駆動態様が第3駆動態様に切り替えられる。そして、駆動力決定部53は、駆動装置100及びハイブリッド駆動装置110の動力発生手段(第1電動機11や第3電動機3等)が発生する動力を演算し、駆動力制御部54は、前記演算の結果に基づいて、前記動力発生手段を制御する。
ステップS102においてNoと判定された場合、すなわち、制御条件判定部51が、車両1は登坂中ではないと判定した場合、ステップS104に進む。ステップS104で、制御条件判定部51は、車両1が旋回中であるか否かを判定する。車両1が旋回中であるか否かは、例えば、図1に示す車両1が備える操舵角センサ46の情報に基づいて判定することができる。ステップS104においてNoと判定された場合、すなわち、制御条件判定部51が、車両1は旋回中ではないと判定した場合、ステップS107へ進む。
車両1が旋回中でない場合、駆動装置100によって左右の駆動輪間で駆動力を変更する必要はない。この場合、ステップS107へ進み、駆動態様切替部52が、図2や図4−1に示す駆動態様切替装置26を動作させて、駆動装置100の駆動態様を第1駆動態様に切り替える。第1駆動態様への切り替えは、上述した通りである。そして、駆動力決定部53は、駆動装置100及びハイブリッド駆動装置110の動力発生手段(第1電動機11や第3電動機3等)が発生する動力を演算し、駆動力制御部54は、前記演算の結果に基づいて、前記動力発生手段を制御する。
ステップS104においてYesと判定された場合、すなわち、制御条件判定部51が、車両1は旋回中であると判定した場合、ステップS105へ進む。ステップS105において、制御条件判定部51は、車両1の走行している路面が低摩擦(低μ)路面であるか否かを判定する。低摩擦路面であるか否かは、例えば、所定時間内において車両1の駆動輪が滑った回数が所定の閾値を超えているか否かで判定する。車両1の駆動輪の滑りは、例えば、左側前輪回転速度センサ45FL、右側前輪回転速度センサ45FR、左側後輪回転速度センサ45RL、右側後輪回転速度センサ45RRによって検出される各駆動輪の実回転速度と、実車速との差が所定の閾値を超えるか否かで判定することができる。
低摩擦路面である場合、車両1の走行性能に対しては、図1に示す車両1の左右における駆動力の配分よりも、車両1の前後における駆動力の配分の方が支配的である。このため、低摩擦路面では、車両1の前後における駆動力の配分範囲を拡大するため、第3駆動態様とする。一方、駆動輪と路面との摩擦が確保されている場合、図1に示す車両1の後輪側で、車両1の左右における駆動輪間で駆動力を調整して、車両1の旋回性能を向上させる。
ステップS105においてYesと判定された場合、すなわち、制御条件判定部51が、車両1は低摩擦路面を走行していると判定した場合、ステップS103へ進み、駆動態様切替部52が駆動装置100の駆動態様を第3駆動態様に切り替える。そして、駆動力決定部53は、駆動装置100及びハイブリッド駆動装置110の動力発生手段(第1電動機11や第3電動機3等)が発生する動力を演算し、駆動力制御部54は、前記演算の結果に基づいて、前記動力発生手段を制御する。
ステップS105においてNoと判定された場合、すなわち、制御条件判定部51が、車両1は低摩擦路面を走行していないと判定した場合、車両1の駆動輪と路面との摩擦が確保されていると判断できる。この場合、ステップS106へ進み、駆動態様切替部52が駆動装置100の駆動態様を第2駆動態様に切り替える。そして、駆動力決定部53は、駆動装置100及びハイブリッド駆動装置110の動力発生手段(第1電動機11や第3電動機3等)が発生する動力を演算する。このとき、駆動力決定部53は、図1に示す車両1のヨーレートや車速等から、駆動装置100によって駆動される左側後輪2RL及び右側後輪2RRの駆動力を演算する。駆動力制御部54は、前記演算の結果に基づいて、前記動力発生手段を制御する。
以上、本実施形態では、第1動力発生手段の発生する動力と、第2の動力発生手段の発生する動力とを、ラビニョ式の遊星歯車装置を介して合成し、前記遊星歯車装置に設けられる第1出力部と第2出力部とから出力する。これによって、駆動装置の大型化を抑制でき、また、動力発生手段と駆動輪との間に所定の減速比を確保できる。なお、実施形態1で開示した構成は、以下においても適用することができる。
(実施形態2)
実施形態2は、実施形態とほぼ同様であるが、駆動装置が備える遊星歯車装置の回転軸に対して直交する方向の同じ側から、第1動力発生手段の動力及び第2動力発生手段の動力を前記遊星歯車装置に伝達する点が異なる。また、第1動力発生手段の動力及び第2動力発生手段の動力は、減速手段を介して遊星歯車装置へ伝達される。他の構成は、実施形態1と同様である。なお、本実施形態に係る駆動装置は、実施形態1に係る駆動装置と同様に、図1に示す車両1に搭載される。
図8は、実施形態2に係る駆動装置を示す説明図である。本実施形態に係る駆動装置100aは、動力伝達機構13が備える遊星歯車装置20の第1入力部であるリングギヤ23に第1電動機11の発生する動力が伝達され、遊星歯車装置20の第2入力部である第1サンギヤ21Aに第2電動機12の発生する動力が伝達される。
リングギヤ23及び第1サンギヤ21Aへは、遊星歯車装置20の回転軸Zpと直交する方向、かつ同じ側から、第1電動機11の発生する動力及び第2電動機12の発生する動力が伝達される。そして、第1電動機11とリングギヤ23との間、及び第2電動機12と第1サンギヤ21Aとの間には、それぞれ減速手段として中間ギヤを設けてある。これによって、第1電動機11及び第2電動機12と、駆動装置100aの第1出力部である遊星歯車装置20のキャリア22及び第2出力部である第2サンギヤ21Bとの間の減速比を大きくすることができる。
また、中間ギヤを設けることにより、第1電動機11及び第2電動機12の配置の自由度が向上する。さらに、本実施形態に係る駆動装置100aは、遊星歯車装置20の回転軸Zpと直交する方向、かつ同じ側から、第1電動機11の発生する動力及び第2電動機12の発生する動力が伝達されるため、第1電動機11及び第2電動機12は、遊星歯車装置20の同じ側に配置されることになる。これによって、本実施形態に係る駆動装置100aは、寸法をコンパクトに構成することができる。
第1電動機11の出力軸11Sに取り付けられる第1電動機出力ギヤ11Gには、第1電動機用第1中間ギヤ31がかみ合っている。第1電動機用第1中間ギヤ31は、連結軸32によって第1電動機用第2中間ギヤ30と連結される。第1電動機用第2中間ギヤ30は、遊星歯車装置20のリングギヤ23の外側に設けられた歯車25とかみ合っている。これによって、第1電動機11の発生する動力は、第1電動機用第1中間ギヤ31及び第1電動機用第2中間ギヤ30を介して遊星歯車装置20のリングギヤ23へ伝達される。
第2電動機12の出力軸12Sに取り付けられる第2電動機用動力伝達部材12Cは、駆動態様切替装置26を構成する連結部材26Lによって第2電動機用第1中間ギヤ34に取り付けられる中間ギヤ用動力伝達部材34Cと連結され、又は解放される。第2電動機用動力伝達部材12Cと中間ギヤ用動力伝達部材34Cとを連結すると、第2電動機12の発生する動力は、中間ギヤ用動力伝達部材34Cを介して第2電動機用第1中間ギヤ34へ伝達される。なお、第2電動機用動力伝達部材12Cと中間ギヤ用動力伝達部材34Cとを連結した状態は、実施形態1で説明した第2駆動態様になる。
第2電動機用第1中間ギヤ34は、第2電動機用第2中間ギヤ33とかみ合っており、また、第2電動機用第2中間ギヤ33は、第1サンギヤ21Aに取り付けられる第1サンギヤ用動力伝達ギヤ28とかみ合う。このような構成により、第2電動機12の発生する動力は、第2電動機用動力伝達部材12C、連結部材26L、中間ギヤ用動力伝達部材34C、第2電動機用第1中間ギヤ34、第2電動機用第2中間ギヤ33及び第1サンギヤ用動力伝達ギヤ28を介して、第1サンギヤ21Aへ伝達される。
第2電動機12の出力軸12S上には、第2電動機用動力伝達部材12Cよりも第2電動機12側に、リングギヤ用動力伝達部材35Cが配置されている。リングギヤ用動力伝達部材35Cは、第1電動機用第1中間ギヤ31とかみ合うリングギヤ用中間ギヤ35に連結されている。第2電動機用動力伝達部材12Cとリングギヤ用動力伝達部材35Cとを、駆動態様切替装置26を構成する連結部材26Lによって連結すると、第2電動機12の発生する動力は、リングギヤ用中間ギヤ35、第1電動機用第1中間ギヤ31及び第1電動機用第2中間ギヤ30を介してリングギヤ23へ伝達される。これによって、第1電動機11と第2電動機12とは、リングギヤ用動力伝達部材35C、リングギヤ用中間ギヤ35、第1電動機用第1中間ギヤ31を介して接続されて、実施形態1で説明した第3駆動態様を実現できる。なお、連結部材26Lが、リングギヤ用動力伝達部材35C及び中間ギヤ用動力伝達部材34Cから解放すると、実施形態1で説明した第1駆動態様が実現できる。
本実施形態に係る駆動装置100aは、第1電動機11及び第2電動機12の発生する動力を、遊星歯車装置20の回転軸Zpと直交する方向、かつ同じ側から、減速手段を介して前記遊星歯車装置20へ伝達する。これによって、第1電動機11及び第2電動機12の配置の自由度が向上するため、同一の筐体に第1電動機11及び第2電動機12を配置することができる。
本実施形態に係る駆動装置100aでは、遊星歯車装置20や第1電動機11等を筐体101a内に格納する。筐体101aは、第1筐体101a1と第2筐体101a2とで構成されており、第1電動機11及び第2電動機12は、第1筐体101a内に格納される。また、遊星歯車装置20や駆動態様切替装置26等の機械部品は、第2筐体101bに格納される。このように、機械部品と、第1電動機11及び第2電動機12のような電機部品とを分割して、異なる筐体内に配置するので、駆動装置100aの製造においては、検査が容易になる。また、第1電動機11及び第2電動機12を共通の第1筐体101a1に格納するので、第1電動機11及び第2電動機12の電力供給部分をまとめて構成することが容易になる。これによって、駆動装置100aの部品点数を削減することができるので、製造や検査が容易になるとともに、製造コストも低減できる。
駆動装置100aでは、第1電動機11の出力軸11Sを中空とし、駆動装置100aの駆動軸(本実施形態では、左側後輪用動力伝達軸14L)を出力軸11S内に配置する。これによって、第1電動機11の出力軸11Sと駆動装置100aの駆動軸とを同軸で配置する。このような構成により、前記駆動軸に第1電動機11の発生する熱を伝え、前記駆動軸を放熱手段として用いることによって、第1電動機11のロータやステータの冷却性能を向上させることができる。
図2に示す、実施形態1に係る駆動装置100と同様に、本実施形態に係る駆動装置100aは、第1電動機11が直進時に用いられ、かつ第1電動機11の使用頻度は第2電動機12の使用頻度よりも高い。したがって、第1電動機11には、より効率的な冷却が求められるため、第1電動機11の出力軸11Sと駆動装置100aの駆動軸とを同軸で配置する構成がより好ましい。また、駆動軸の回転中心に、使用頻度の高い第1電動機11を配置することで、第1電動機11へ伝達される衝撃を緩和することができる。
このように、本実施形態に係る駆動装置100aにおいては、第1電動機11と第2電動機12とでは、相対的に使用頻度の高い方、又は図1に示す車両1の直進時に用いられる方の少なくとも一方を満たす電動機の出力軸を、駆動装置100aの駆動軸と同軸で配置することが好ましい。
ここで、本実施形態に係る駆動装置100aでは、第1電動機11の出力軸11Sの内部に駆動軸を配置しているが、図2に示す、実施形態1に係る駆動装置100では、第2電動機12の出力軸12Sの内部に駆動軸を配置している。このように、第1電動機11又は第2電動機12のうち、少なくとも一方の出力軸の内部に駆動装置の駆動軸を配置することが好ましい。また、第1電動機11の出力軸及び第2電動機12の出力軸の内部に、駆動装置の駆動軸を配置してもよい。
なお、第2電動機12よりも使用頻度の高い第1電動機11は、車両1の進行方向(図8の矢印X方向)の前方に配置することが好ましい。このようにすれば、使用頻度が高く、発熱量の大きい第1電動機11を効率よく冷却することができる。
以上、本実施形態では、駆動装置が備えるラビニョ式の遊星歯車装置の回転軸に対して直交する方向の同じ側から、第1動力発生手段の動力及び第2動力発生手段の動力を前記遊星歯車装置に伝達する。これによって、第1動力発生手段の動力及び第2動力発生手段の配置の自由度が向上するので、駆動装置の大型化をさらに効果的に抑制できる。また、本実施形態では、上記構成に加え、減速手段を介して第1動力発生手段の動力及び第2動力発生手段の動力を遊星歯車装置へ伝達する。これによって、動力発生手段と駆動輪との間の減速比をさらに大きくすることができ、また、減速比の設定の自由度も向上する。これによって、動力発生手段に電動機を用いる場合には、電動機を小型化することができるので、駆動装置の大型化をさらに抑制できる。