JP2008122345A - 高強度鋼溶接部のクリープ伸びによる寿命評価方法及び高強度鋼溶接部の寿命評価方法 - Google Patents

高強度鋼溶接部のクリープ伸びによる寿命評価方法及び高強度鋼溶接部の寿命評価方法 Download PDF

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Abstract

【課題】高強度フェライト鋼の溶接部の余寿命の判断を適切にできる高強度鋼溶接部の寿命評価方法を提供する。
【解決手段】高強度鋼溶接部のクリープ伸びによる寿命評価方法の判定手法は、検査対象の高強度鋼溶接部の所定範囲の熱影響を受けた箇所のクリープ伸びの測定を行う溶接部のクリープ伸び測定工程(S101)と、前記クリープ伸び測定工程で得られた測定結果と、運転初期の前記高強度鋼溶接部の所定範囲の長さとを比較してクリープ歪みを求めるクリープ歪み計測工程(S102)と、予め求めた運転時間又はクリープ寿命消費率とクリープ歪みとの関係を示すクリープ歪み特性曲線に、前記得られたクリープ歪みの値を当てはめて、前記検査対象の寿命消費率を求める寿命消費率計測工程(S103)と、前記寿命消費率計測工程で得られた寿命消費率から前記溶接部の余寿命推測する余寿命推測工程(S104)とからなる。
【選択図】 図1

Description

本発明は高強度鋼溶接部のクリープ伸びによる寿命評価方法及び高強度鋼溶接部の寿命評価方法に関し、特に火力プラント等の高温・高圧機器に使用される高強度フェライト系鋼の継手部の溶接部分におけるクリープ損傷の評価に用いて有用なものである。
火力プラントを構成する、例えばボイラ等は、高温・高圧環境で運転されるので、これを構成する材料である耐熱鋼には、長期に亘る運転によりクリープ等による損傷が蓄積されることがある。そこで、この種のプラントの運用に当たっては、前記耐熱鋼の精度の高い寿命評価を行って耐圧部の信頼性を維持することが、長期に亘る安定的な運用を確保する上で肝要である。
ボイラ等の耐熱鋼がクリープ損傷を受けると、この耐熱鋼中にクリープボイドが発生することが知られている。このクリープボイドはクリープ損傷の進行に伴い増加するので、観察面の単位面積当たりのクリープボイドの個数密度やクリープボイドの面積率を実測することにより当該耐熱鋼の余寿命を推測することが行われている。また、以前に検出したボイド個数密度に対する今回検出したボイド個数密度の増加程度であるボイド個数密度変化率を求め、このボイド個数密度変化率に基づき前記耐熱鋼の余寿命を評価することが提案されている(特許文献1)。
特開2004−85347号公報
クリープボイド以外に着目した余寿命評価手法として、クリープに伴う伸び計測などが考えられるが、一般的に耐熱鋼等の継手部の熱影響部(HAZ)は、クリープ破断に至るまでに伸びの絶対値が小さく、熱影響部における伸びを実測することにより当該耐熱鋼の余寿命を推測することができないとされていた。
9〜12Cr鋼等の高強度フェライト鋼溶接部はタイプIV損傷と呼ばれるクリープ破壊モードを示すことが判っているが、損傷末期まで内部でのき裂発生がなく、また、形状などによって、損傷挙動が大きく変化することがある。
よって、寿命評価を行う際に以下のような問題点がある。
1)従来用いられていた2Cr鋼に代表されるフェライト鋼等の低合金鋼は,損傷を受けた場合の組織変化が大きく、目視でも損傷の程度を確認し易かった。しかしながら、9〜12Cr鋼等の高強度フェライト鋼は組織が安定であり、クリープ損傷に伴う組織変化が小さいため、組織の変化を目視で判断し難く、損傷の程度を判断し難い、という問題がある。
2)また、外表面のクリープ損傷と板厚内部のクリープ損傷の対比が困難である、という問題がある。表面でクリープ損傷が小さいと思われても、内部のクリープ損傷が大きいことがあるからである。従来から使用されている2Cr鋼に代表されるクロムモリブデン鋼では、母材と溶接金属との熱影響部(HAZ)の外表面と内部のクリープ損傷量は、相間関係があり、クリープボイドの分布も比較的均一であったが、近年多用されている改良9Cr−1Mo高強度フェライト鋼は、外表面と内部のクリープ損傷量のばらつきが多く、外表面でクリープ損傷が小さくても,内部で損傷が大きい場合が報告されている。
また、クリ―プボイドは通常外表面直下で最も多いが、非破壊的な検査ではその深さまで研削が許されない場合がある。また、研削可能であっても適切な研削量がその場で分からない場合がある。
特に長い配管先の屈曲部においては、板厚方向の応力分布が複雑で、上記の問題が顕著となることが多いと考えられる。
3)また、微視き裂発生の時期が寿命末期であり、き裂を超音波探傷検査などで検出しても、それ以降の寿命が非常に小さく、適切な処置ができない可能性が高い、という問題がある。
このように、従来のような外表面のみを検査しても内部の損傷が判断できないこととなり、従来用いられていた低合金鋼の非破壊検査手法では高強度フェライト鋼の溶接部の余寿命の判断の評価方法としては用いることができなかった。
よって、高強度フェライト鋼の溶接部の余寿命の判断を適切にできる評価法の出現が望まれている。
本発明は、前記問題に鑑み、高強度フェライト鋼の溶接部の余寿命の判断を適切にできる高強度鋼溶接部のクリープ伸びによる寿命評価方法及び高強度鋼溶接部の寿命評価方法を提供することを課題とする。
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、検査対象の高強度鋼溶接部の所定範囲又は該高強度鋼溶接部を含む所定範囲の熱影響を受けた箇所のクリープ伸びの測定を行う溶接部のクリープ伸び測定工程と、前記クリープ伸び測定工程で得られた測定結果と、運転初期の前記高強度鋼溶接部の所定範囲又は該高強度鋼溶接部を含む所定範囲の長さとを比較してクリープ歪みを求める溶接部のクリープ歪み計測工程と、予め求めた運転時間又はクリープ寿命消費率とクリープ歪みとの関係を示すクリープ歪み特性曲線に、前記得られたクリープ歪みの値を当てはめて、前記検査対象の寿命消費率を求める第一の寿命消費率計測工程とからなることを特徴とする高強度鋼溶接部のクリープ伸びによる寿命評価方法にある。
第2の発明は、検査対象の高強度鋼溶接部の所定範囲又は該高強度鋼溶接部を含む所定範囲の熱影響を受けた箇所のクリープ伸びの測定を行う溶接部のクリープ伸び測定工程と、前記クリープ伸び測定工程で得られた測定結果と、運転初期の前記高強度鋼溶接部の所定範囲又は該高強度鋼溶接部を含む所定範囲の長さとを比較してクリープ歪みを求める溶接部のクリープ歪み計測工程と、前記クリープ歪み計測工程において得られたクリープ歪みの値から所定期間におけるクリープ歪み速度を算出する溶接部のクリープ歪み速度算出工程と、予め求めた運転時間又はクリープ寿命消費率とクリープ歪み速度との関係を示すクリープ歪み速度特性曲線に、前記得られたクリープ歪み速度の値を当てはめて、前記検査対象の寿命消費率を求める第二の寿命消費率計測工程とからなることを特徴とする高強度鋼溶接部のクリープ伸びによる寿命評価方法にある。
第3の発明は、検査対象の高強度鋼母材部の所定範囲又は該高強度鋼母材部を含む所定範囲の熱影響を受けた箇所のクリープ伸びの測定を行う母材部のクリープ伸び測定工程と、前記母材部のクリープ伸び測定工程で得られた測定結果と、運転初期の前記高強度鋼母材部の所定範囲又は該高強度鋼母材部を含む所定範囲の長さとを比較して前記高強度鋼母材部の所定範囲又は該高強度鋼母材部を含む所定範囲のクリープ歪みを求める母材部のクリープ歪み計測工程と、前記母材部のクリープ歪み計測工程で得られた結果を高強度鋼溶接部の所定範囲又は該高強度鋼溶接部を含む所定範囲のクリープ歪みに換算する溶接部のクリープ歪み換算工程と、予め求めた運転時間又はクリープ寿命消費率に対するクリープ歪みとの関係を示すクリープ歪み特性曲線に、前記得られた高強度鋼溶接部の所定範囲又は該高強度鋼溶接部を含む所定範囲のクリープ歪みの値を当てはめて、前記検査対象の寿命消費率を求める第三の寿命消費率計測工程とからなることを特徴とする高強度鋼溶接部のクリープ伸びによる寿命評価方法にある。
第4の発明は、検査対象の高強度鋼母材部の所定範囲又は該高強度鋼母材部を含む所定範囲の熱影響を受けた箇所のクリープ伸びの測定を行う母材部のクリープ伸び測定工程と、前記母材部のクリープ伸び測定工程で得られた測定結果と、運転初期の前記高強度鋼母材部の所定範囲又は該高強度鋼母材部を含む所定範囲の長さとを比較して前記高強度鋼母材部の所定範囲又は該高強度鋼母材部を含む所定範囲のクリープ歪みを求める母材部のクリープ歪み計測工程と、前記母材部のクリープ歪み計測工程において得られたクリープ歪みの値から所定期間におけるクリープ歪み速度を算出する母材部のクリープ歪み速度算出工程と、前記母材部のクリープ歪み速度算出工程で得られた結果を高強度鋼溶接部の所定範囲又は該高強度鋼溶接部を含む所定範囲のクリープ歪み速度に換算する溶接部のクリープ歪み速度換算工程と、予め求めた運転時間又はクリープ寿命消費率に対するクリープ歪み速度との関係を示すクリープ歪み速度特性曲線に、前記得られた高強度鋼溶接部の所定範囲又は該高強度鋼溶接部を含む所定範囲のクリープ歪み速度の値を当てはめて、前記検査対象の寿命消費率を求める第四の寿命消費率計測工程とからなることを特徴とする高強度鋼溶接部のクリープ伸びによる寿命評価方法にある。
第5の発明は、第1乃至第4の発明の何れか一つの高強度鋼溶接部のクリープ伸びによる寿命評価方法と、検査対象である高強度鋼溶接部の外表面に生成したクリープボイドの高強度鋼溶接部のクリープボイド計測による寿命評価方法とを併用してなることを特徴とする高強度鋼溶接部の寿命評価方法にある。
第6の発明は、第5の発明において、前記高強度鋼溶接部のクリープボイド計測による寿命評価方法が、検査対象である耐熱鋼に生成したクリープボイドの単位面積当たりの数であるボイド個数密度の検出を行うボイド個数密度検出工程と、前記ボイド個数密度検出工程により以前に検出したボイド個数密度に対する今回検出したボイド個数密度の増加程度であるボイド個数密度変化率を求めるボイド個数密度変化率工程と、予め求めたクリープ寿命消費率とボイド個数密度変化率との関係を示すボイド個数密度変化率に基づく評価曲線に、前記得られたボイド個数密度変化率の値を当てはめて、前記検査対象の寿命消費率を求める寿命消費率計測工程とからなることを特徴とする高強度鋼溶接部の寿命評価方法にある。
第7の発明は、第5の発明において、前記高強度鋼溶接部のクリープボイド計測による寿命評価方法が、検査対象の高強度鋼溶接部の外表面のクリープボイドのボイド個数密度又はボイド面積率を計測する表面ボイド計測工程と、前記表面ボイド計測工程の計測結果より、所定の閾値以上か否かを判定するボイド個数密度又はボイド面積率の判定工程と、 前記判定工程において、所定の閾値以下の場合に、溶接部の余寿命を計測する余寿命計測工程と、前記判定工程において、所定の閾値以上の場合に、内部の超音波探傷検査(UT検査)を行う探傷検査工程と、前記探傷検査工程において、内部欠陥の有無を判定する欠陥判定工程とからなることを特徴とする高強度鋼溶接部の寿命評価方法にある。
第8の発明は、第1又は第2の発明において、前記高強度鋼溶接部を含む所定範囲が、熱影響部(HAZ)を少なくとも一箇所を含むものであることを特徴とする高強度鋼溶接部のクリープ伸びによる寿命評価方法にある。
第9の発明は、第5乃至第7の発明の何れか一つにおいて、前記高強度鋼溶接部を含む所定範囲が、熱影響部(HAZ)を少なくとも一箇所を含むものであることを特徴とする高強度鋼溶接部の寿命評価方法にある。
本発明の高強度鋼溶接部のクリープ伸びによる寿命評価方法及び高強度鋼溶接部の寿命評価方法によれば、検査対象の高強度鋼溶接部の熱影響を受けた箇所のクリープ伸びを測ることにより低コスト、かつ確実に耐熱鋼の余寿命を正確に予測することができ、必要に応じて適切な処置を施すことができるものとなる。
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
[第一の実施形態]
本発明による第一の実施形態に係る高強度鋼溶接部のクリープ伸びによる寿命評価方法について、図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る高強度鋼溶接部のクリープ伸びによる寿命評価方法の判定手法を示すフローチャートである。
図1に示すように、高強度鋼溶接部のクリープ伸びによる寿命評価方法の判定手法は、検査対象の高強度鋼溶接部の所定範囲の熱影響を受けた箇所のクリープ伸びの測定を行う溶接部のクリープ伸び測定工程(S101)と、前記クリープ伸び測定工程で得られた測定結果と、運転初期の前記高強度鋼溶接部の所定範囲の長さとを比較してクリープ歪みを求める溶接部のクリープ歪み計測工程(S102)と、予め求めた運転時間又はクリープ寿命消費率とクリープ歪みとの関係を示すクリープ歪み特性曲線に、前記得られたクリープ歪みの値を当てはめて、前記検査対象の寿命消費率を求める第一の寿命消費率計測工程(S103)と、前記寿命消費率計測工程で得られた寿命消費率から前記溶接部の余寿命を推測する余寿命推測工程(S104)とからなるものである。
ここで、本発明で、前記高強度鋼溶接部は、例えば高強度フェライト系鋼の継手部の溶接部分である。また、前記高強度鋼溶接部の所定範囲とは、検査対象の継手部の熱影響部(HAZ)を少なくとも一箇所を含むものである。
また、本発明でクリープ伸びとは、前記高強度鋼溶接部の測定時における所定範囲の距離を予め計測しておき、運転開始前又は測定前における前記高強度鋼溶接部の所定範囲の距離を引いた伸び分の距離である。
次に、図2を用いて本発明のクリープ伸びについて説明する。検査対象の運転開始前又は測定前の時(T0)の前記高強度鋼溶接部の所定範囲A−Bの距離をX0とする。検査対象の運転開始から所定期間経過した時(T1)の前記高強度鋼溶接部の所定範囲A−Bの距離をX1とする。更に、検査対象の運転開始から所定期間経過した時(T2)の前記高強度鋼溶接部の所定範囲A−Bの距離をX2とする。このとき、運転開始から所定期間経過した時(T1)の前記高強度鋼溶接部の所定範囲A−Bのクリープ伸びは、α1=X1−X0となる。そして、転開始から所定期間経過した時(T2)の前記高強度鋼溶接部の所定範囲A−Bのクリープ伸びは、α2=X2−X0となる。これを順次繰り返す。
また、クリープ歪み(ε)とは、前記高強度鋼溶接部の測定時における所定範囲の距離が運転開始前の前記高強度鋼溶接部の所定範囲の距離に対してどれだけ伸びたかを示すものである。
例えば、図3は、後述する試験片14を用いたクリープ伸びの測定の一例を示すものである。図3に示すように、この試験片14においては予め決定した所定範囲の距離をd−eとする。そして、前記d−e間が試験開始前に測定した距離が3.97mmとし、試験開始から所定時間経過後に測定したときの距離が4.02mmであるとする。この場合、クリープ歪み(ε)は、((4.02−3.97)/3.97)×100=1.26%となる。
本発明は、検査対象の前記高強度鋼溶接部の所定範囲を検査開始から所定時間におけるクリープ伸びを測定する。そして、予め求めた時間又はクリープ寿命消費率とクリープ歪みとの関係を示すクリープ歪み特性曲線に、前記得られたクリープ歪みの値を当てはめて、前記検査対象の寿命消費率を求め、余寿命を予測するものである。
また、余寿命とは、測定時点のクリープ歪みから過去の使用時間を考慮して今後破断に至るまでに要する時間をいう。
次に、本発明における前記クリープ伸び測定工程(S101)におけるクリープ伸びの測定について図3を用いて説明する。
図3に示すように、前記検査対象の高強度鋼溶接部の所定範囲の熱影響を受けた箇所のクリープ伸びの測定方法は、例えば試験片14の母材10及び熱影響部(HAZ)12の所定位置に、例えばa〜fの6箇所の印をつけておく。
ここで、本試験例では、前記印a〜fは溶接金属11部分を中心として、aとf、bとe,cとdとは各々対称関係にある。
本実施形態では、前記高強度鋼溶接部の所定範囲に印をつける方法としては、例えば、圧痕をつける方法、酸化処理する方法、酸化しないインクで印をつける方法、突起を設ける方法等がある。
図3においては、印を付けたa−b間とe−f間とが前記母材10の測定距離となる。そして、b−c間とd−e間とが前記熱影響部(HAZ)12の測定距離となる。
そして、印をつけたa−b間及びe−f間の前記母材10の測定距離と、b−c間及びd−e間の前記熱影響部(HAZ)12の測定距離は、ノギス等を用いて測定することができる。
また、本試験例では、前記母材10及び前記熱影響部(HAZ)12の距離は、a−b間とe−f間との測定距離の合計の半分とし、a−b間とe−f間との測定距離の平均としている。また、前記熱影響部(HAZ)12のクリープ伸びは、b−c間とd−e間との測定距離の合計の半分とし、b−c間とd−e間との測定距離の平均としている。
また、本実施形態においては、検査対象である前記高強度鋼溶接部の前記母材10及び前記熱影響部(HAZ)12の熱影響によるクリープ伸びの測定にはノギスを用いているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、市販の高温歪みゲージを用いて前記母材10及び前記熱影響部(HAZ)12の距離を測定するようにしても良い。
更に、レプリカ法を用いてより正確に計測するようにしても良い。前記レプリカ法とは、所定の処理を施した耐熱鋼の表面の組織を転写し、これに基づき目視又は画像処理により事前に設けた所定の圧痕間の距離を測定することにより、所定期間のクリープ伸びの距離を計測できる。
また、計測したクリープ伸びはそれぞれの計測時の物温に温度補正をして所定期間のクリープ伸びの距離を精度良く測定するようにしても良い。
本実施形態は、クリープ伸びの長さを測る範囲として検査対象の高強度鋼溶接部の前記母材10及び前記熱影響部(HAZ)12の処置範囲としているが、前記高強度鋼溶接部を含む所定範囲のクリープ伸びの長さを測るようにしても良い。
例えば、図3に示す試験片14の熱影響部(HAZ)12の両側を挟むb−e間、又は熱影響部(HAZ)12と母材10全体の両側を挟んでa−f間の距離を測定し、測定した距離の半分を熱影響部(HAZ)12の距離として所定期間のクリープ伸びを計測するようにしてもよい。
また、図4は、熱影響部(HAZ)であるd−e間の距離の測定法の一つを示す。図4に示すように、例えば前記熱影響部(HAZ)12であるd−e間の斜めの距離であるD−e間の距離を計測する。d−e間の距離をYとし、D−e間の距離をZとする。このとき、下記数式(I)によりd−e間の距離に補正して求めるようにしてもよい。これにより精度誤差を小さくすることができる。
Y=cosZ・・・(I)
また、本実施形態では、前記母材10及び前記熱影響部(HAZ)12の距離はノギス等を用いて簡単に測ることができるため、前記母材10及び前記熱影響部(HAZ)12の距離を容易かつ迅速に測定することができる。
ここで、前記熱影響部(HAZ)12及び前記母材10の熱影響によるクリープ伸びと時間(t)との相関関係について説明する。
図5は、熱影響部(HAZ)及び母材の熱影響によるクリープ伸びと時間(0時間、1000時間、2500時間)の経過との関係を示す図である。
図5に示すように、前記母材10に前記溶接金属11を設けたものの熱影響部(HAZ)12に、予め所定距離(d−e間)の印をつけた。そして、運転初期(0時間)の段階では、前記熱影響部(HAZ)12の距離であるd−e間の所定距離X0が、例えばX0=3.97mmであった。この状態で例えば650℃に保持し、66MPaの荷重を加えて試験を行った。試験開始から例えば1000時間経過後の段階では、前記熱影響部(HAZ)12のd−e間の所定距離X1は、例えばX1=4.00mmであった。更に、運転開始から例えば2500時間経過後の段階では、前記熱影響部(HAZ)12のd−e間の所定距離X2は、例えばX2=4.02mmであった。このときd−e間でクリープ破断した時間は、例えば2678時間であった。また、時間経過にしたがって記熱影響部(HAZ)12にはクリープボイド13が発生した。
ここで、クリープ破断とは、ある温度環境下で一定応力をかけて放置し続けた場合に、材料の引張強度以下の応力でも変形が進んで破断してしまう現象をいう。
この試験結果に示すように、時間が経過するにしたがって熱影響により前記熱影響部(HAZ)12の距離が広がることが確認できた。よって、試験片を用いて熱影響によるクリープ伸びと時間との関係を予め求めておくことにより、検査対象のクリープ破断する時期を予測することができることになる。
尚、検査対象の材料、温度、比重等の条件が変化する際には、その都度試験を行うようにすれば良い。
次に、前記クリープ歪み計測工程(S102)では、前記クリープ伸び測定工程(S101)で得られた測定結果と運転初期の前記高強度鋼溶接部の所定範囲の長さとを比較してクリープ歪み(ε)を求める。
次に、前記寿命消費率計測工程(S103)では、予め求めた運転時間(t)又はクリープ寿命消費率(t/tr)とクリープ歪み(ε)との関係を示す第一又は第二のクリープ歪み特性曲線に、前記クリープ歪み計測工程(S102)において得られたクリープ歪みの値を当てはめて、前記検査対象の寿命消費率(t/tr)を求める。
ここで、クリープ歪み特性曲線のうち、第一のクリープ歪み特性曲線とはクリープ時間(t)とクリープ歪み(ε)との関係を示す曲線(後述する図6)であり、第二のクリープ歪み特性曲線とはクリープ寿命消費率(t/tr)とクリープ歪み(ε)との関係を示す曲線(後述する図7)である。
次に、前記第一及び第二のクリープ歪み特性曲線の試験方法について説明する。
図3は、本試験に用いる大型試験片としては、前述した図3に示す前記溶接金属11を溶接した試験片14を用いた。
なお、本試験例では、実機ボイラ溶接部のクリープ損傷を模擬した損傷材を製作するために、市販の改良9Cr−1Mo鋼である「火SCMV28」(厚さ:32mm鋼板)を用いた。そして、被覆アーク溶接で継手を製作し、そこから、溶接部を含む大型クリープ試験片(32×40mm断面)を採取した。
表1に供試鋼の化学成分を示す。表1に示すように、供試鋼の化学成分は、Wt%であり、Cが0.09%、Siが0.36%、Mnが0.46%、Pが0.009%、Sが0.001%、Crが8.49%、Moが0.98%、Niが0.26%、Vが0.2%、Sol.Alが0.01%、Nが0.005%であった。
次にクリープ伸びの測定法について説明する。
図3に示すように、前記試験片14にa〜fの6箇所の印をつけた。a−b間及びe−f間が前記母材10における測定距離とした。b−c間及びd−e間が前記熱影響部(HAZ)12における測定距離とした。
まず、試験開始前に予め前記試験片14の前記熱影響部(HAZ)12のb−c間及びd−e間の所定距離と、前記母材10のa−b間及びe−f間の所定距離を測定した。また、本試験例では、予め印として圧痕を設け,それにより行った。そして、この圧痕間の所定距離はノギスにて測定した。
そして、前記試験片14を650℃に保持し、66MPaの荷重を加えて複数回中途止めを実施し、前記試験片14の前記母材10のa−b間及びe−f間の所定距離と、前記熱影響部(HAZ)12のb−c間及びd−e間の所定距離を測った。
また、本試験例では、前記母材10の所定距離は、a−b間とe−f間との所定距離の合計の半分として前記母材10のクリープ伸びの平均値とした。また、前記熱影響部(HAZ)12の所定距離は、b−c間及びd−e間の所定距離の合計の半分として前記熱影響部(HAZ)12のクリープ伸びの平均値とした。
前記試験片14を実機溶接部と見立てて、図1に示す寿命評価判定フローに従って、寿命評価した。
本試験の前記熱影響部(HAZ)12のクリープ伸び、前記熱影響部(HAZ)12のクリープ歪み(ε)、前記熱影響部(HAZ)12のクリープ寿命消費率(t/tr)を表2に示す。
尚、本試験では、最終的に2678時間(tr)でクリープ破断したので、クリープ寿命消費率(t/tr)は、クリープ破断した2678時間(tr)に対する測定時間(t)の値とした。
また、本試験の前記母材10のクリープ伸び、前記母材10のクリープ歪み(ε)、前記母材10のクリープ寿命消費率(t/tr)を表3に示す。
また、クリープ寿命消費率(t/tr)は、前述のようにクリープ破断した2678時間(tr)に対する測定時間(t)の値とした。
(1)クリープ時間(t)が0時間(試験前)の時、前記熱影響部(HAZ)12及び前記母材10のクリープ伸びは0.00mmであった。
このときの前記熱影響部(HAZ)12及び前記母材10のクリープ歪み(ε)は0.00%であった。
また、前記熱影響部(HAZ)12及び前記母材10のクリープ寿命消費率(t/tr)は0.0%であった。
(2)クリープ時間(t)が1037.0時間の時、前記熱影響部(HAZ)12のクリープ伸びは0.03mmであり、前記母材10のクリープ伸びは0.62mmであった。 このときの前記熱影響部(HAZ)12のクリープ歪み(ε)は0.40%であり、前記母材10のクリープ歪み(ε)は0.32%であった。
また、前記熱影響部(HAZ)12及び前記母材10のクリープ寿命消費率(t/tr)は37.4%であった。
(3)クリープ時間(t)が1507.5時間の時、前記熱影響部(HAZ)12のクリープ伸びは0.05mmであり、前記母材10のクリープ伸びは0.64mmであった。 このときの前記熱影響部(HAZ)12のクリープ歪み(ε)は0.66%であり、前記母材10のクリープ歪み(ε)は0.33%であった。
また、前記熱影響部(HAZ)12及び前記母材10のクリープ寿命消費率(t/tr)は54.3%であった。
(4)クリープ時間(t)が2004.4時間の時、前記熱影響部(HAZ)12のクリープ伸びは0.16mmであり、前記母材10のクリープ伸びは0.99mmであった。
このときの前記熱影響部(HAZ)12のクリープ歪み(ε)は2.12%であり、前記母材10のクリープ歪み(ε)は0.51%であった。
また、前記熱影響部(HAZ)12及び前記母材10のクリープ寿命消費率(t/tr)は72.2%であった。
(5)クリープ時間(t)が2500.0時間の時、前記熱影響部(HAZ)12のクリープ伸びは0.16mmであり、前記母材10のクリープ伸びは1.22mmであった。 このときの前記熱影響部(HAZ)12のクリープ歪み(ε)は2.12%であり、前記母材10のクリープ歪み(ε)は0.63%であった。
また、前記熱影響部(HAZ)12及び前記母材10のクリープ寿命消費率(t/tr)は90.0%であった。
(6)クリープ時間(t)が2678.0時間(クリープ破断)の時、前記熱影響部(HAZ)12のクリープ伸びは2.02mmであり、前記母材10のクリープ伸びは1.91mmであった。
このときの前記熱影響部(HAZ)12のクリープ歪み(ε)は26.72%であり、前記母材10のクリープ歪み(ε)は0.98%であった。
また、前記熱影響部(HAZ)12及び前記母材10のクリープ寿命消費率(t/tr)は100%であった。
以下に、本試験結果の前記熱影響部(HAZ)12及び前記母材10の熱影響によるクリープ歪み(ε)とクリープ時間(t)又はクリープ歪み速度(ε/t)との相関関係を表した図を示す。
図6は、前記試験結果のクリープ時間(t)とクリープ歪み(ε)との関係を示す図である。
また、図中の曲線は、クリープ時間(t)とクリープ歪み(ε)との関係を示す第一のクリープ歪み特性曲線である。
図6に示すように、クリープ歪み(ε)は運転開始から熱影響部(HAZ)12のクリープ歪み(ε)の方が母材10のクリープ歪み(ε)よりも高かった。そして、熱影響部(HAZ)12のクリープ歪み(ε)は運転開始から約2004.4時間までは穏やかに上昇した。そして、運転開始から約2500.0時間経過後からクリープ破断する2678.0時間までに熱影響部(HAZ)12のクリープ歪み(ε)が急激に上昇した。一方、前記母材10のクリープ歪み(ε)は運転開始から2678.0時間までは緩やかに上昇した。
よって、クリープ時間(t)が0.0時間から2004.4時間までの間は、熱影響による前記熱影響部(HAZ)12のクリープ歪み(ε)は緩やかでありそれほど変化が無いことが確認された。そして、クリープ破断に近くなる2500.0時間からクリープ破断する2678.0時間までの間に前記熱影響部(HAZ)12のクリープ歪み(ε)が急激に上昇して、クリープ破断することが確認された。
このように、耐熱鋼が破断に至るまで多数回繰り返して図6に示すようなクリープ時間(t)とクリープ歪み(ε)との関係を示す第一のクリープ歪み特性曲線を予め得ておく。そして、上記手法により検出したクリープ歪み(ε)を図6に示す前記第一のクリープ歪み特性曲線に当てはめることにより、耐熱鋼熱影響部(HAZ)の余寿命を予測することができる。
また、図7は、試験結果のクリープ寿命消費率(t/tr)とクリープ歪み(ε)との関係を示す図である。
また、図中の曲線は、クリープ寿命消費率(t/tr)とクリープ歪み(ε)との関係を示す第二のクリープ歪み特性曲線である。
尚、クリープ寿命消費率(t/tr)は、クリープ破断した2678.0時間を100%とした。
図7に示すように、クリープ寿命消費率(t/tr)とクリープ歪み(ε)との関係は、図6に示すクリープ時間(t)とクリープ歪み(ε)との関係と同様の挙動を示した。この結果より、時間(t)とクリープ歪み速度(ε/t)との関係は、クリープ寿命消費率(t/tr)とクリープ歪み(ε)との関係に置換することができることが確認された。
よって、クリープ歪み(ε)から耐熱鋼熱影響部(HAZ)のクリープ寿命消費率(t/tr)を予測することができることが確認された。
このように、耐熱鋼が破壊に至るまで多数回繰り返して図7に示すようなクリープ寿命消費率(t/tr)とクリープ歪み(ε)との関係を示す第二のクリープ歪み特性曲線を予め得ておく。そして、上記手法により検出したクリープ歪み(ε)を図7に示す前記第二のクリープ歪み特性曲線に当てはめることにより、前記耐熱鋼熱影響部(HAZ)のクリープ寿命消費率(t/tr)を求め、前記耐熱鋼熱影響部(HAZ)の余寿命を予測することができる。
また、本実施形態は、前記検査対象の高強度鋼溶接部が高強度フェライト系鋼等、特に、改良9Cr−1Mo鋼に限定されるものではなく、本発明は、他の耐熱鋼においても前記方法によりクリープ寿命評価率を求めることにより、他の耐熱鋼の溶接部の余寿命を予測することができる。
そして、余寿命推測工程(S104)では、前記寿命消費率計測工程(S103)において求めた前記検査対象のクリープ寿命消費率から前記検査対象の前記溶接部の余寿命を推測する。
次に、余寿命判定工程(S105)では、前記余寿命推測工程(S104)から求めた余寿命値から余寿命の判定を行なう。
余寿命の判定の結果において、前記検査対象の余寿命が所定時間(例えば2年間、約1.7万時間)以上である場合には、所定期間経過後に再検査するようにすればよい(S106)。
また、前記余寿命の判定結果において、所定時間(例えば2年間、約1.7万時間)以下である場合には、次回の検査までに破断する可能性が高いので、要処置を行う(S107)。
これにより、従来適切なクリープ損傷評価法の無かった高強度フェライト鋼の溶接部のクリープ評価法が提案でき、耐熱鋼の信頼性の確保および噴破事故などの未然防止が可能となる。
[第二の実施形態]
本発明による第二の実施形態に係る高強度鋼溶接部のクリープ伸びによる寿命評価方法について、図面を参照して説明する。
図8は、本実施形態に係る高強度鋼溶接部のクリープ伸びによる寿命評価方法の判定手法を示すフローチャートである。
図8に示すように、高強度鋼溶接部のクリープ伸びによる寿命評価方法の判定手法は、検査対象の高強度鋼溶接部の所定範囲の熱影響を受けた箇所のクリープ伸びの測定を行う溶接部のクリープ伸び測定工程(S201)と、前記クリープ伸び測定工程で得られた測定結果と、運転初期の前記高強度鋼溶接部の所定範囲の長さとを比較してクリープ歪みを求める溶接部のクリープ歪み計測工程(S202)と、前記クリープ歪み計測工程(S202)において得られたクリープ歪みの値から所定期間におけるクリープ歪み速度を算出する溶接部のクリープ歪み速度算出工程(S203)と、予め求めた運転時間又はクリープ寿命消費率とクリープ歪み速度との関係を示すクリープ歪み速度特性曲線に、前記得られたクリープ歪み速度の値を当てはめて、前記検査対象の寿命消費率を求める第二の寿命消費率計測工程(S204)と、前記寿命消費率計測工程で得られた寿命消費率から前記溶接部の余寿命を推測する余寿命推測工程(S205)からなるものである。
本実施形態では、前記クリープ伸び測定工程(S201)と、前記クリープ歪み計測工程(S202)とは、第一の実施形態で説明した検査対象の高強度鋼溶接部の所定範囲の熱影響を受けた箇所のクリープ伸びの測定を行う溶接部のクリープ伸び測定工程(S101)と、前記クリープ伸び測定工程で得られた測定結果と、運転初期の前記高強度鋼溶接部の所定範囲の長さとを比較してクリープ歪みを求めるクリープ歪み計測工程(S102)とそれぞれ同様の工程であるため、説明は省略する。
前記溶接部のクリープ歪み速度算出工程(S203)では、前記クリープ歪み計測工程(S202)において得られたクリープ歪みの値と所定時間(ここでは単位はtを用いる)からクリープ歪み速度(ε/t)を算出する。
尚、クリープ歪み速度(ε/t)とは、クリープ歪み(ε)の値を所定時間で微分した値をいう。
次に、前記第二の寿命消費率計測工程(S204)では、予め求めた運転時間又はクリープ寿命消費率とクリープ歪み速度との関係を示す第一又は第二のクリープ歪み速度特性曲線に、前記得られたクリープ歪み速度(ε/t)の値を当てはめて、前記検査対象のクリープ寿命消費率(t/tr)を求める。
ここで、クリープ歪み速度特性曲線のうち、第一のクリープ歪み速度特性曲線とはクリープ時間(t)とクリープ歪み速度(ε/t)との関係を示す曲線(後述する図9)であり、第二のクリープ歪み速度特性曲線とはクリープ寿命消費率(t/tr)とクリープ歪み速度(ε/t)との関係を示す曲線(後述する図10)である。
次に、前記熱影響部(HAZ)12及び前記母材10の熱影響によるクリープ歪み速度(ε/t)と時間(t)又はクリープ寿命消費率(t/tr)との相関関係を示す第一及び第二のクリープ歪み速度特性曲線の試験方法について説明する。
本試験例では、前記第一の実施形態で検討した試験例を用いた。
また、クリープ歪み速度(ε/t)は、前記第一の実施形態において検討した試験例で求めたクリープ歪み(ε)を所定時間(t)で微分した値を用いた。
尚、試験条件、測定方法については、前記第一の実施形態で検討した試験例と同一であるため、ここでは説明は省略する。
以下に、本試験結果の前記熱影響部(HAZ)12及び前記母材10の熱影響によるクリープ歪み速度(ε/t)と時間(t)又はクリープ寿命消費率(t/tr)との相関関係を示す。
図9は、クリープ時間(t)とクリープ歪み速度(ε/t)との関係を示す図である。
また、図中の曲線は、クリープ時間(t)とクリープ歪み速度(ε/t)との関係を示す第一のクリープ歪み速度特性曲線である。
図9に示すように、クリープ歪み速度(ε/t)は、熱影響部(HAZ)12の方が前記母材10よりも高かった。前記熱影響部(HAZ)12及び前記母材10のクリープ歪み速度(ε/t)は運転開始直後は減少した。そして、クリープ歪み速度(ε/t)が最も小さくなる最小クリープ歪み速度となる時点を経過した後、前記熱影響部(HAZ)12及び前記母材10のクリープ歪み速度(ε/t)は上昇した。
また、前記熱影響部(HAZ)12のクリープ歪み速度(ε/t)の方が、前記母材10のクリープ歪み速度(ε/t)よりも早く最小クリープ歪み速度になった。このとき、熱影響部(HAZ)12の最小クリープ歪み速度(ε/t)は、約800時間前後の時に2.0×10-4%/hであった。また、前記母材10の最小クリープ歪み速度(ε/t)は約1050時間前後の時に4.6×10-5%/hであった。
また、前記熱影響部(HAZ)12のクリープ歪み速度(ε/t)が時間経過に従って低下する場合には、前記熱影響部(HAZ)12のクリープ歪み速度(ε/t)が最も小さくなる最小クリープ歪み速度となる時点を通過していないと判断できるため、試験時間は約800時間経過前であると判断できる。
また、前記母材10のクリープ歪み速度(ε/t)が時間経過に従って低下する場合には、前記母材10の最小クリープ歪み速度となる時点を通過していないと判断できるため、試験時間は約1050時間経過前であると判断できる。
よって、測定した値が前回の測定値よりも低くなる場合には、検査対象となる部分が第一のクリープ歪み速度特性曲線の変曲点をまだ通過していないことになる。このとき、検査対象となる部分の耐久時間は十分にあり、検査対象となる部分の寿命はまだ十分にあると判断できる。
また、前記熱影響部(HAZ)12のクリープ歪み速度(ε/t)が時間経過に従って上昇する場合には、前記熱影響部(HAZ)12のクリープ歪み速度(ε/t)が最も小さくなる最小クリープ歪み速度となる時点をすでに通過していると判断できるため、前記熱影響部(HAZ)12の試験時間は約800時間経過していると判断できる。
また、前記母材10のクリープ歪み速度(ε/t)が時間経過に従って上昇する場合には、前記母材10の最小クリープ歪み速度となる時点をすでに通過していると判断できるため、試験時間は約1050時間経過していると判断できる。
よって、測定した値が前回の測定値よりも大きくなる場合には、検査対象となる部分が第一のクリープ歪み速度特性曲線の変曲点を既に通過していることになる。このとき、検査対象となる部分の耐久時間は短く、検査対象となる部分の交換時期が近いと判断できる。
このように、耐熱鋼が破壊に至るまで多数回繰り返して図9に示すようなクリープ時間(t)とクリープ歪み速度(ε/t)の第一のクリープ歪み速度特性曲線を予め得ておく。そして、上記手法により検出したクリープ歪み速度(ε/t)を図9に示す第一のクリープ歪み特性曲線に当てはめ、時間経過と共にクリープ歪み速度(ε/t)の値が上昇するか低下するかの有無を確認することにより、検査対象の余寿命を予測することができる。
また、図10は、クリープ寿命消費率(t/tr)とクリープ歪み速度(ε/t)との関係を示す図である。
また、図中の曲線は、クリープ寿命消費率(t/tr)とクリープ歪み速度(ε/t)との関係を示す第二のクリープ歪み速度特性曲線である。
図10に示すように、クリープ寿命消費率(t/tr)とクリープ歪み速度(ε/t)との関係は、図9に示すクリープ時間(t)とクリープ歪み(ε)との関係と同様の挙動を示した。
図10の結果より、クリープ時間(t)とクリープ歪み速度(ε/t)との関係は、クリープ寿命消費率(t/tr)とクリープ歪み速度(ε/t)との関係に置換することができることが確認された。よって、クリープ歪み速度(ε/t)からクリープ寿命消費率(t/tr)を予測することができることが確認された。
また、前記熱影響部(HAZ)12のクリープ歪み速度(ε/t)が最小クリープ歪み速度になった時点におけるクリープ寿命消費率(t/tr)が約30%前後であった。
また、前記母材10のクリープ歪み速度(ε/t)が最小クリープ歪み速度になった時点におけるクリープ寿命消費率(t/tr)が約38%前後であった。
また、前記熱影響部(HAZ)12のクリープ歪み速度(ε/t)が時間経過に従って低下する場合には、前記熱影響部(HAZ)12のクリープ歪み速度(ε/t)が最も小さくなる最小クリープ歪み速度となる時点を通過していないと判断できるため、前記熱影響部(HAZ)12のクリープ寿命消費率(t/tr)は約30%以下であると判断できる。
また、前記母材10のクリープ寿命消費率(t/tr)が時間経過に従って低下する場合には、前記母材10の最小クリープ歪み速度となる時点を通過していないと判断できるため、前記母材10のクリープ寿命消費率(t/tr)は約38以下であると判断できる。
よって、測定した値が前回の測定値よりも低くなる場合には、検査対象となる部分が第二のクリープ歪み速度特性曲線の変曲点をまだ通過していないことになる。このとき、検査対象となる部分の耐久時間は十分にあり、検査対象となる部分の寿命はまだ十分にあると判断できる。
また、前記熱影響部(HAZ)12のクリープ歪み速度(ε/t)が時間経過に従って上昇する場合には、前記熱影響部(HAZ)12のクリープ歪み速度(ε/t)が最も小さくなる最小クリープ歪み速度となる時点をすでに通過していると判断できるため、前記熱影響部(HAZ)12のクリープ寿命消費率(t/tr)は約30%以上であると判断できる。
また、前記母材10のクリープ歪み速度(ε/t)が時間経過に従って上昇する場合には、前記母材10の最小クリープ歪み速度となる時点をすでに通過していると判断できるため、前記母材10のクリープ寿命消費率(t/tr)は約38%以上であると判断できる。
よって、測定した値が前回の測定値よりも大きくなる場合には、検査対象となる部分が第二のクリープ歪み速度特性曲線の変曲点を既に通過していることになる。このとき、検査対象となる部分の耐久時間は短く、検査対象となる部分の交換時期が近いと判断できる。
このように、耐熱鋼が破断に至るまで多数回繰り返して図10に示すようなクリープ寿命消費率(t/tr)とクリープ歪み速度(ε/t)の第二のクリープ歪み速度特性曲線を予め得ておく。そして、上記手法により検出したクリープ歪み速度(ε/t)を図10に示す前記第二のクリープ歪み速度特性曲線に当てはめ、時間経過と共にクリープ歪み速度(ε/t)の値が上昇するか低下するかの有無を確認することにより、検査対象の余寿命を予測することができる。
次に、余寿命推測工程(S205)では、前記寿命消費率計測工程(S204)において求めた前記検査対象のクリープ寿命消費率から前記検査対象の前記溶接部の余寿命を推測する。
そして、余寿命判定工程(S206)では、前記余寿命推測工程(S205)から求めた余寿命値から余寿命の判定を行なう。
前記余寿命判定工程(S206)での余寿命の判定の結果に基づいて行うその後の処理方法は、第一の実施形態と同様であるため、説明は省略する。
これにより、従来適切なクリープ損傷評価法の無かった高強度フェライト鋼の溶接部のクリープ評価法が提案でき、耐熱鋼の信頼性の確保および噴破事故などの未然防止が可能となる。
[第三の実施形態]
本発明による第三の実施形態に係る高強度鋼溶接部の寿命評価方法について、図面を参照して説明する。
図11は、本実施形態に係る高強度鋼溶接部の寿命評価方法の判定手法を示すフローチャートである。
図11に示すように、本実施形態に係る高強度鋼溶接部の熱寿命評価方法は、高強度鋼溶接部のクリープ伸びによる寿命評価方法と、検査対象である高強度鋼溶接部の外表面に生成したクリープボイドの高強度鋼溶接部のクリープボイド計測による寿命評価方法とを併用してなるものである。
本実施形態の高強度鋼溶接部のクリープ伸びによる熱寿命評価方法は、図1に示す前記第一の実施形態の高強度鋼溶接部のクリープ伸びによる寿命評価方法を用いる。
本実施形態におけるクリープ伸び測定工程(S301)と、クリープ歪み計測工程(S302)と、寿命消費率計測工程(S303)と、第一の余寿命推測工程(S304)とは、第一の実施形態の検査対象の高強度鋼溶接部の所定範囲の熱影響を受けた箇所のクリープ伸びの測定を行う溶接部のクリープ伸び測定工程(S101)と、前記クリープ伸び測定工程で得られた測定結果と、運転初期の前記高強度鋼溶接部の所定範囲の長さとを比較してクリープ歪みを求める溶接部のクリープ歪み計測工程(S102)と、予め求めた運転時間又はクリープ寿命消費率とクリープ歪みとの関係を示すクリープ歪み特性曲線に、前記得られたクリープ歪みの値を当てはめて、前記検査対象の寿命消費率を求める第一の寿命消費率計測工程(S103)と、前記寿命消費率計測工程で得られた寿命消費率から前記溶接部の余寿命を推測する余寿命推測工程(S104)とそれぞれ同様の工程であるため、説明は省略する。
また、本実施形態の高強度鋼溶接部のクリープ伸びによる熱寿命評価方法は、図8に示す前記第二の実施形態の高強度鋼溶接部のクリープ伸びによる寿命評価方法を用いても良い。
即ち、本実施形態の高強度鋼溶接部のクリープ伸びによる熱寿命評価方法は、前記検査対象の余寿命を推測する判定の閾値を検討するパラメータとして得られたクリープ歪み(ε)の値から所定期間におけるクリープ歪み速度(ε/t)を算出する工程を加える。そして、得られたクリープ歪み速度(ε/t)の値で検査対象の余寿命の判定をするようにしてもよい。
次に、前記余寿命判定工程(S305)では、前記第一の余寿命推測工程(S304)から求めた余寿命値から余寿命の判定を行なう。
高強度鋼溶接部の熱寿命評価方法による余寿命の判定の結果において、所定時間(例えば2年間、約1.7万時間)以上である場合には、所定期間経過後に再検査する(S306)。
また、前記余寿命の判定結果において、所定時間(例えば2年間、約1.7万時間)以下である場合には、クリープボイド計測による寿命評価方法を用いる(S307)。そして、クリープボイド計測による判定工程(S308)で前記クリープボイド計測工程(S307)から求めた余寿命値から余寿命の判定を行なう。
余寿命の判定の結果において、前記検査対象の余寿命が所定時間(例えば2年間、約1.7万時間)以上である場合には、所定期間経過後に再検査するようにすればよい。
また、前記余寿命の判定結果において、所定時間(例えば2年間、約1.7万時間)以下である場合には、次回の検査までに破断する可能性が高いので、要処置を行う(S309)。これにより、より正確に検査対象である耐熱鋼の余寿命を評価するようにする。
以下に、本実施形態に係る高強度鋼溶接部の寿命評価方法のクリープボイド計測による判定手法について説明する。
図12は、本実施形態に係る高強度鋼溶接部の寿命評価方法のクリープボイド計測による判定手法の一例を示すフローチャートである。
図12に示すように、前記高強度鋼溶接部のクリープボイド計測による寿命評価方法は、図11に示す余寿命判定工程(S305)での前記余寿命の判定結果において、所定時間(例えば2年間、約1.7万時間)以下である場合、検査対象である耐熱鋼に生成したクリープボイドの単位面積当たりの数であるボイド個数密度の検出を行うボイド個数密度検出工程(S401)と、前記ボイド個数密度検出工程により以前に検出したボイド個数密度に対する今回検出したボイド個数密度の増加程度であるボイド個数密度変化率を求めるボイド個数密度変化率工程(S402)と、予め求めたクリープ寿命消費率とボイド個数密度変化率との関係を示すボイド個数密度変化率に基づく評価曲線に、前記ボイド個数密度変化率工程(S402)において得られたボイド個数密度変化率の値を当てはめて、前記検査対象の寿命消費率を求める寿命消費率計測工程(S403)とからなるものである。この寿命消費率から前記溶接部の余寿命を推測する(S404)。
前記ボイド個数密度検出工程(S401)では、検査対象である耐熱鋼に生成したクリープボイドの単位面積当たりの数であるボイド個数密度を求める。
次に、前記ボイド個数密度変化率工程(S402)では、以前に検出したボイド個数密度に対する今回検出したボイド個数密度の増加程度であるボイド個数密度変化率を求める。
次に、前記寿命消費率計測工程(S403)では、予め求めたクリープ寿命消費率とボイド個数密度変化率との関係を示すボイド個数密度変化率に基づくボイド個数密度評価曲線に、前記ボイド個数密度変化率工程(S402)において得られたボイド個数密度変化率の値を当てはめて、前記検査対象のクリープ寿命消費率(t/tr)を求める。
次に、前記寿命消費率計測工程(S403)において得られたクリープ寿命消費率(t/tr)に基づき前記耐熱鋼の余寿命を評価する(S404)。
そして、クリープボイド計測による判定工程(S405)で0前記余寿命推測工程(S404)から求めた余寿命値から余寿命の判定を行なう。
余寿命の判定の結果において、前記検査対象の余寿命が所定時間(例えば2年間、約1.7万時間)以上である場合には、所定期間経過後に再検査するようにすればよい(S406)。
また、前記余寿命の判定結果において、所定時間(例えば2年間、約1.7万時間)以下である場合には、次回の検査までに破断する可能性が高いので、要処置を行う(S407)。
このように、このボイド個数密度変化率に基づくボイド個数密度評価曲線を用いることで検査対象の余寿命を精確に予測することができる。
次に、本実施形態に係る高強度鋼溶接部の寿命評価方法のクリープボイド計測による判定手法を示す他の方法について説明する。
図13は、本実施形態に係る高強度鋼溶接部の寿命評価方法のクリープボイド計測による判定手法の他の例を示すフローチャートである。
図13に示すように、高強度鋼溶接部の寿命評価方法の判定手法は、図11に示す余寿命判定工程(S305)での前記余寿命の判定結果において、所定時間(例えば2年間、約1.7万時間)以下である場合、検査対象の高強度鋼溶接部の外表面のクリープボイドのボイド個数密度(個/mm2)を計測する表面ボイド計測工程(S501)と、前記表面ボイド計測工程(S501)の計測結果より、所定の閾値以上か否かを判定するボイド個数密度判定工程(S502)と、前記ボイド個数密度判定工程(S502)において、所定の閾値以下の場合に、溶接部の余寿命を計測する余寿命推測工程(S503)と、前記ボイド個数密度判定工程(S502)において、所定の閾値以上の場合に、内部の超音波探傷検査(UT検査)を行う探傷検査工程(S504)と、前記探傷検査工程(S504)において、内部欠陥の有無を判定する欠陥判定工程(S505)とからなるものである。
前記表面ボイド計測工程(S501)では、検査対象の高強度鋼溶接部の外表面のクリープボイドの単位面積当りの数であるボイド個数密度(個/mm2)を計測する検査を行なう(S501)。
前記ボイド個数密度判定工程(S502)では、前記表面ボイド計測工程(S501)の計測結果より、所定の閾値以上か否かを判定する。図13においては、所定の閾値を120個/mm2として、ボイド個数判定する。
なお、ボイド個数密度とボイド面積率との間には、図14に示す相間関係を有するので、ボイド個数密度が120個/mm2はボイド面積率の0.047%と等価であり、以降も同様の相間関係を用いて換算することが可能である。
前記ボイド個数密度判定工程(S502)において、所定の閾値(120個/mm2)以下の場合に、溶接部の余寿命を図13で示すようにき裂が内在していることを仮定し、余寿命の推測を行なう(S503)。
なお、閾値(120個/mm2)は近年多用されている改良9Cr−1Mo高強度フェライト鋼の場合であり、他の材料の場合には、上述するような前記クリープ寿命消費率から求めるようにすればよい。
また、本実施形態では、判定の閾値を検討するパラメータとしてボイド個数密度を計測して判定しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、ボイド面積率を計測して判定するようにしてもよい。
ここで、ボイド個数密度を計測するボイド個数密度法は、例えば倍率が300倍の光学顕微鏡の4視野(写真サイズ:120mm×80mm)において、面積中に占めるボイドの個数密度を計測するものである。なお、倍率500倍の場合(例えばSEM等)には、10視野としている。
一方、ボイド面積率法は、例えば倍率が300倍の光学顕微鏡の4視野(写真サイズ:120mm×80mm)において、面積中に占めるボイドの面積率を計測するものである。なお、倍率500倍の場合には、10視野としている。
ボイド面積率法の場合には、最適エッチング処理を行なうことにより、面積率にバラツキが生じることがない。また、デジタル画像処理システムを用いることで、計測時間の短縮化を図ることができる。
尚、図14にボイド個数密度とボイド面積率との相間関係図の一例を示す。
本実施形態では、ボイド個数密度のパラメータを用いた判定手法について説明する。
前記ボイド個数密度判定工程(S502)において、所定の閾値(120個/mm2)以上の場合に、内部の超音波探傷検査(UT検査)を行う(S504)。これは、所定の閾値以上の場合には、内部に欠陥が存在している確率が高いので、非破壊検査であるUT検査を行なう必要があるからである。
この非破壊検査において、内部欠陥の有無を判定する(S505)。
内部欠陥が無い場合には、所定時間経過後に再検査を行なう(S506)。
この検査の結果、内部結果が有る場合には、要処置を施す(S507)。
ここで、更に余寿命時間の判定を行なう(S508)。
余寿命の判定の結果において、所定時間(例えば2年間、約1.7万時間)以上である場合には、所定期間経過後に再検査するようにすればよい(S506)。
また、前記余寿命の判定結果において、所定時間(例えば2年間、約1.7万時間)以下である場合には、次回の検査までに破断する可能性が高いので、要処置を行う。
さらに、前記余寿命判定結果において、所定時間(例えば2年間、約1.7万時間)以下である場合には、内部の超音波探傷検査(UT検査)を行う(S504)。
これは、内部にき裂が発生している可能性が高いので,それを確認するためである。
き裂が検出されれば,クリープ損傷によって生じたき裂の可能性が高いので、要処置を行う(S507)。
また、欠陥が無い場合には、所定期間経過後に再検査する(S506)。
これにより、外表面のクリープボイドから余寿命を判断すると共に、超音波探傷検査を行い、欠陥の有無を判断することで、内部の損傷の有無を判断し、必要に応じて適切な処置を施すことができる。
このように、第一又は第二の実施形態の手法により溶接部のクリープ伸びを測ることにより耐熱材の余寿命を予測した結果、耐熱材の余寿命が短い場合には、クリープボイド計測による高強度鋼溶接部の寿命評価方法を併用することにより、余寿命を的確に予測することができる。
[第四の実施形態]
本発明による第四の実施形態に係る高強度鋼溶接部のクリープ伸びによる寿命評価方法について、図面を参照して説明する。
図15は、本実施形態に係る高強度鋼溶接部のクリープ伸びによる寿命評価方法の判定手法を示すフローチャートである。
図15に示すように、本実施形態に係る高強度鋼溶接部のクリープ伸びによる寿命評価方法は、検査対象の高強度鋼母材部の所定範囲又は該高強度鋼母材部を含む所定範囲の熱影響を受けた箇所のクリープ伸びの測定を行う母材部のクリープ伸び測定工程(S601)と、前記母材部のクリープ伸び測定工程(S601)で得られた測定結果と、運転初期の前記高強度鋼母材部の所定範囲又は該高強度鋼母材部を含む所定範囲の長さとを比較して前記高強度鋼母材部の所定範囲又は該高強度鋼母材部を含む所定範囲のクリープ歪みを求める母材部のクリープ歪み計測工程(S602)と、前記母材部のクリープ歪み計測工程(S602)において得られたクリープ歪みの値から所定期間におけるクリープ歪み速度を算出する母材部のクリープ歪み速度算出工程(S603)と、前記母材部のクリープ歪み速度算出工程(S603)で得られた結果を高強度鋼溶接部の所定範囲又は該高強度鋼溶接部を含む所定範囲のクリープ歪み速度に換算する溶接部のクリープ歪み速度換算工程(S604)と、予め求めた運転時間又はクリープ寿命消費率に対するクリープ歪み速度との関係を示すクリープ歪み速度特性曲線に、前記得られた高強度鋼溶接部の所定範囲又は該高強度鋼溶接部を含む所定範囲のクリープ歪み速度の値を当てはめて、前記検査対象の寿命消費率を求める第四の寿命消費率計測工程(S605)と、前記第四の寿命消費率計測工程(S605)で得られた寿命消費率から前記溶接部の余寿命を推測する余寿命推測工程(S606)とからなるものである。
前記母材部のクリープ伸び測定工程(S601)では、前記母材10のクリープ歪み(ε)を測定する。
本実施形態では、前記母材部のクリープ伸び測定工程(S601)における前記母材10のクリープ伸びの測定方法は、第一の実施形態で説明した検査対象の高強度鋼溶接部の所定範囲の熱影響を受けた箇所のクリープ伸びの測定を行う溶接部のクリープ伸び測定工程(S101)と同様にして行なう。よって、前記母材部のクリープ伸び測定工程(S601)における説明は省略する。
本実施形態は、クリープ伸びの長さを測る範囲として検査対象の高強度鋼母材部の所定範囲としているが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、前記高強度鋼溶接部と母材部との両方を含むような前記高強度鋼母材部を含む所定範囲のクリープ伸びの長さを測るようにしても良い。
前記母材部のクリープ歪み計測工程(S602)では、前記母材部のクリープ伸び測定工程(S601)で得られた測定結果と運転初期の前記高強度鋼母材部の所定範囲の長さとを比較して前記母材10のクリープ歪み(ε)を求める。
前記母材部のクリープ歪み速度算出工程(S603)では、前記母材部のクリープ歪み計測工程(S602)において得られた前記母材10のクリープ歪み(ε)の値から所定期間(ここでは単位はtを用いる)における前記母材10のクリープ歪み速度(ε/t)を算出する。
次に、前記溶接部のクリープ歪み速度換算工程(S604)では、前記母材部のクリープ歪み速度算出工程(S603)において得られた前記母材10のクリープ歪み速度(ε/t)の値から前記熱影響部(HAZ)12のクリープ歪み速度(ε/t)の値に換算する。
ここで、前記母材10のクリープ歪み速度(ε/t)から前記熱影響部(HAZ)12のクリープ歪み速度(ε/t)に換算する工程について具体的に説明する。
まず、前記母材部のクリープ歪み速度算出工程(S603)において得られた前記母材10のクリープ歪み速度(ε/t)を図9、10に示すような前記第一又は第二のクリープ歪み速度特性曲線に当てはめ、前記母材10の最小クリープ歪み速度(ε/t)の値を求める。
そして、図16に示すような予め求めた前記母材10及び前記熱影響部(HAZ)12の作用応力と最小クリープ歪み速度(ε/t)との関係を示す前記母材10及び前記熱影響部(HAZ)12の最小クリープ歪み速度特性曲線に、前記得られた母材10の最小クリープ歪み速度(ε/t)の値を当てはめて、前記熱影響部(HAZ)12の最小クリープ歪み速度(ε/t)の値を求める。
例えば、図16に示すように、作用応力が66MPaであって、前記母材10の最小クリープ歪み速度(ε/t)の値が4.6×10-5%/hの場合、前記熱影響部(HAZ)12の最小クリープ歪み速度(ε/t)の値が2.2×10-4%/hとなる。
図10で示した通り、最小クリープ歪み速度は、Monkman−Grant則の関係として知られているように、クリープ寿命を決定するパラメータであり、最近では、Ω法やθ投影法などで、パラメータからクリープ歪み速度特性曲線を推定する方法が多数提案ンされている。例えば、『鉄と鋼』(「改良9Cr-1Mo鋼のクリープ挙動を推定するためのΩ法の改良」;朴奎侠ほか著、日本鉄鋼協会、1999年、vol.85、No.6、p492)、『静的時効させた改良9Cr-1Mo鋼のクリープ曲線を記述する構成方程式』(朴奎侠ほか著、日本金属学会、1999年、vol.63、No.5、p597−600)等参照。
このような知見にて、前記得られた前記熱影響部(HAZ)12の最小クリープ歪み速度(ε/t)の値から、対応する図9、10に示すような予め求めた前記母材部10及び前記熱影響部(HAZ)12の運転時間(t)又はクリープ寿命消費率(t/tr)とクリープ歪み速度(ε/t)との関係を示す前記第一又は第二のクリープ歪み速度特性曲線を推定する。
そして、この推定された前記母材10及び前記熱影響部(HAZ)12の前記第一又は第二のクリープ歪み速度特性曲線から前記熱影響部(HAZ)12のクリープ歪み速度(ε/t)の値を算出する。
このように、実際に検査対象の寿命評価を行う部位によって、温度及び作用応力が様々に異なる場合でも、前記母材10のクリープ歪み速度(ε/t)を前記母材10の前記第一又は第二のクリープ歪み速度特性曲線に当てはめ、前記母材10の最小クリープ歪み速度(ε/t)の値を求める。そして、作用応力と最小クリープ歪み速度(ε/t)との関係を示す前記母材10の最小クリープ歪み速度特性曲線に、前記母材10の最小クリープ歪み速度(ε/t)の値を当てはめ、前記熱影響部(HAZ)12の最小クリープ歪み速度特性曲線から前記熱影響部(HAZ)12の最小クリープ歪み速度(ε/t)の値を求める。そして、前記熱影響部(HAZ)12の最小クリープ歪み速度(ε/t)の値から前記熱影響部(HAZ)12の前記第一又は第二のクリープ歪み速度特性曲線を特定し、前記熱影響部(HAZ)12のクリープ歪み速度(ε/t)を算出することができる。
また、第三の寿命消費率計測工程(S605)では、予め求めた運転時間(t)又はクリープ寿命消費率(t/tr)とクリープ歪み速度(ε/t)との関係を示す第一又は第二のクリープ歪み速度特性曲線に、前記得られた前記熱影響部(HAZ)12のクリープ歪み速度(ε/t)の値を当てはめて、前記検査対象のクリープ寿命消費率(t/tr)を求める。
次に、余寿命推測工程(S606)では、前記寿命消費率計測工程(S605)において求めた前記検査対象のクリープ寿命消費率(t/tr)から前記検査対象の前記溶接部の余寿命を推測する。
そして、余寿命判定工程(S607)では、前記余寿命推測工程(S606)から求めた余寿命値から余寿命の判定を行なう。
前記余寿命判定工程(S607)での余寿命の判定の結果に基づいて行うその後の処理方法は、第一の実施形態又は第二の実施形態と同様であるため、説明は省略する。
これにより、従来適切なクリープ損傷評価法の無かった高強度フェライト鋼の溶接部のクリープ評価法が提案でき、耐熱鋼の信頼性の確保および噴破事故などの未然防止が可能となる。
また、本実施形態では、前記母材10のクリープ歪み速度(ε/t)の値から前記熱影響部(HAZ)12のクリープ歪み速度(ε/t)に換算して、前記検査対象の寿命消費率を求めるようにしているが、本発明はこれに限定されるものでなく、前記母材10のクリープ歪み(ε)の値から前記熱影響部(HAZ)12のクリープ歪み(ε)の値に換算して、前記検査対象の寿命消費率を求めるようにしてもよい。
以上のように、本発明に係る高強度鋼溶接部のクリープ伸びによる寿命評価方法及び高強度鋼溶接部の寿命評価方法は、予め求めたクリープ時間(t)又はクリープ寿命消費率(t/tr)とクリープ歪み(ε)との関係を示すクリープ歪み特性曲線、又はクリープ時間(t)又はクリープ寿命消費率(t/tr)とクリープ歪み速度(ε/t)との関係を示すクリープ歪み速度特性曲線に、検査対象の得られたクリープ歪み(ε)の値又はクリープ歪み速度(ε/t)の値を前記クリープ歪み特性曲線又はクリープ歪み速度特性曲線に当てはめることにより、前記検査対象の余寿命を正確に予測することができる。特に火力プラント等の高温・高圧機器に使用される高強度フェライト系鋼の継手部の溶接部分におけるクリープ損傷の評価に用いて適している。
本発明の第一の実施形態に係る高強度鋼溶接部のクリープ伸びによる寿命評価方法の判定手法を示すフローチャートである。 時間とクリープ伸びとの関係の説明図である。 予備試験に用いる試験片を示した図である。 熱影響部(HAZ)であるd−e間の距離の測定法の一つを示す図である。 熱影響部(HAZ)及び母材の熱影響によるクリープ伸びと時間との関係を示す図である。 試験結果のクリープ時間(t)とクリープ歪み(ε)との関係を示す図である。 試験結果のクリープ寿命消費率(t/tr)とクリープ歪み(ε)との関係を示す図である。 本発明の第二の実施形態に係る高強度鋼溶接部のクリープ伸びによる寿命評価方法の判定手法を示すフローチャートである。 クリープ時間(t)とクリープ歪み速度(ε/t)との関係を示す図である。 クリープ寿命消費率(t/tr)とクリープ歪み速度(ε/t)との関係を示す図である。 本発明の第三の実施形態に係る高強度鋼溶接部の寿命評価方法の判定手法を示すフローチャートである。 本発明の第三の実施形態に係る高強度鋼溶接部のクリープボイド計測による寿命評価方法の判定手法の一例を示すフローチャートである。 第三の実施形態に係る高強度鋼溶接部のクリープボイド計測による寿命評価方法の判定手法の他の例を示すフローチャートである。 ボイド個数密度とボイド面積率との相間関係図の一例を示す図である。 本発明の第四の実施形態に係る高強度鋼溶接部のクリープ伸びによる寿命評価方法の判定手法を示すフローチャートである。 作用応力と最小クリープ歪み速度(ε/t)との関係を示す図である。
符号の説明
10 母材
11 溶接金属
12 熱影響部(HAZ)
13 クリープボイド
14 試験片

Claims (9)

  1. 検査対象の高強度鋼溶接部の所定範囲又は該高強度鋼溶接部を含む所定範囲の熱影響を受けた箇所のクリープ伸びの測定を行う溶接部のクリープ伸び測定工程と、
    前記クリープ伸び測定工程で得られた測定結果と、運転初期の前記高強度鋼溶接部の所定範囲又は該高強度鋼溶接部を含む所定範囲の長さとを比較してクリープ歪みを求める溶接部のクリープ歪み計測工程と、
    予め求めた運転時間又はクリープ寿命消費率とクリープ歪みとの関係を示すクリープ歪み特性曲線に、前記得られたクリープ歪みの値を当てはめて、前記検査対象の寿命消費率を求める第一の寿命消費率計測工程とからなることを特徴とする高強度鋼溶接部のクリープ伸びによる寿命評価方法。
  2. 検査対象の高強度鋼溶接部の所定範囲又は該高強度鋼溶接部を含む所定範囲の熱影響を受けた箇所のクリープ伸びの測定を行う溶接部のクリープ伸び測定工程と、
    前記クリープ伸び測定工程で得られた測定結果と、運転初期の前記高強度鋼溶接部の所定範囲又は該高強度鋼溶接部を含む所定範囲の長さとを比較してクリープ歪みを求める溶接部のクリープ歪み計測工程と、
    前記クリープ歪み計測工程において得られたクリープ歪みの値から所定期間におけるクリープ歪み速度を算出する溶接部のクリープ歪み速度算出工程と、
    予め求めた運転時間又はクリープ寿命消費率とクリープ歪み速度との関係を示すクリープ歪み速度特性曲線に、前記得られたクリープ歪み速度の値を当てはめて、前記検査対象の寿命消費率を求める第二の寿命消費率計測工程とからなることを特徴とする高強度鋼溶接部のクリープ伸びによる寿命評価方法。
  3. 検査対象の高強度鋼母材部の所定範囲又は該高強度鋼母材部を含む所定範囲の熱影響を受けた箇所のクリープ伸びの測定を行う母材部のクリープ伸び測定工程と、
    前記母材部のクリープ伸び測定工程で得られた測定結果と、運転初期の前記高強度鋼母材部の所定範囲又は該高強度鋼母材部を含む所定範囲の長さとを比較して前記高強度鋼母材部の所定範囲又は該高強度鋼母材部を含む所定範囲のクリープ歪みを求める母材部のクリープ歪み計測工程と、
    前記母材部のクリープ歪み計測工程で得られた結果を高強度鋼溶接部の所定範囲又は該高強度鋼溶接部を含む所定範囲のクリープ歪みに換算する溶接部のクリープ歪み換算工程と、
    予め求めた運転時間又はクリープ寿命消費率に対するクリープ歪みとの関係を示すクリープ歪み特性曲線に、前記得られた高強度鋼溶接部の所定範囲又は該高強度鋼溶接部を含む所定範囲のクリープ歪みの値を当てはめて、前記検査対象の寿命消費率を求める第三の寿命消費率計測工程とからなることを特徴とする高強度鋼溶接部のクリープ伸びによる寿命評価方法。
  4. 検査対象の高強度鋼母材部の所定範囲又は該高強度鋼母材部を含む所定範囲の熱影響を受けた箇所のクリープ伸びの測定を行う母材部のクリープ伸び測定工程と、
    前記母材部のクリープ伸び測定工程で得られた測定結果と、運転初期の前記高強度鋼母材部の所定範囲又は該高強度鋼母材部を含む所定範囲の長さとを比較して前記高強度鋼母材部の所定範囲又は該高強度鋼母材部を含む所定範囲のクリープ歪みを求める母材部のクリープ歪み計測工程と、
    前記母材部のクリープ歪み計測工程において得られたクリープ歪みの値から所定期間におけるクリープ歪み速度を算出する母材部のクリープ歪み速度算出工程と、
    前記母材部のクリープ歪み速度算出工程で得られた結果を高強度鋼溶接部の所定範囲又は該高強度鋼溶接部を含む所定範囲のクリープ歪み速度に換算する溶接部のクリープ歪み速度換算工程と、
    予め求めた運転時間又はクリープ寿命消費率に対するクリープ歪み速度との関係を示すクリープ歪み速度特性曲線に、前記得られた高強度鋼溶接部の所定範囲又は該高強度鋼溶接部を含む所定範囲のクリープ歪み速度の値を当てはめて、前記検査対象の寿命消費率を求める第四の寿命消費率計測工程とからなることを特徴とする高強度鋼溶接部のクリープ伸びによる寿命評価方法。
  5. 請求項1乃至4の何れか一つの高強度鋼溶接部のクリープ伸びによる寿命評価方法と、
    検査対象である高強度鋼溶接部の外表面に生成したクリープボイドの高強度鋼溶接部のクリープボイド計測による寿命評価方法とを併用してなることを特徴とする高強度鋼溶接部の寿命評価方法。
  6. 請求項5において、
    前記高強度鋼溶接部のクリープボイド計測による寿命評価方法が、
    検査対象である耐熱鋼に生成したクリープボイドの単位面積当たりの数であるボイド個数密度の検出を行うボイド個数密度検出工程と、
    前記ボイド個数密度検出工程により以前に検出したボイド個数密度に対する今回検出したボイド個数密度の増加程度であるボイド個数密度変化率を求めるボイド個数密度変化率工程と、
    予め求めたクリープ寿命消費率とボイド個数密度変化率との関係を示すボイド個数密度変化率に基づく評価曲線に、前記得られたボイド個数密度変化率の値を当てはめて、前記検査対象の寿命消費率を求める寿命消費率計測工程とからなることを特徴とする高強度鋼溶接部の寿命評価方法。
  7. 請求項5において、
    前記高強度鋼溶接部のクリープボイド計測による寿命評価方法が、
    検査対象の高強度鋼溶接部の外表面のクリープボイドのボイド個数密度又はボイド面積率を計測する表面ボイド計測工程と、
    前記表面ボイド計測工程の計測結果より、所定の閾値以上か否かを判定するボイド個数
    密度又はボイド面積率の判定工程と、
    前記判定工程において、所定の閾値以下の場合に、溶接部の余寿命を計測する余寿命計測工程と、
    前記判定工程において、所定の閾値以上の場合に、内部の超音波探傷検査(UT検査)を行う探傷検査工程と、
    前記探傷検査工程において、内部欠陥の有無を判定する欠陥判定工程とからなることを特徴とする高強度鋼溶接部の寿命評価方法。
  8. 請求項1又は2において、
    前記高強度鋼溶接部を含む所定範囲が、熱影響部(HAZ)を少なくとも一箇所を含むものであることを特徴とする高強度鋼溶接部のクリープ伸びによる寿命評価方法。
  9. 請求項5乃至7の何れか一つにおいて、
    前記高強度鋼溶接部を含む所定範囲が、熱影響部(HAZ)を少なくとも一箇所を含むものであることを特徴とする高強度鋼溶接部の寿命評価方法。
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