しかしながら、上記従来の技術を用いて、薄板を長期間に渡り連続形成すると、融液5007の融液面と坩堝5006との温度の相関関係が徐々に変化することがわかってきた。もっとも大きな原因は、坩堝5006に設置されている熱電対の位置と融液5007の融液面の高さ位置との位置関係が変化するためである。
融液5007から薄板を凝固させるため、融液5007の量は徐々に減少し、それに伴い融液面が下降する。そのため、熱電対と融液面との相対距離が変わることや、坩堝5006の融液面が下降するために露出する坩堝壁の面積が増大することによって坩堝壁からの熱輻射による熱損失割合が増加するため、多数の薄板を作製すると、従来のように、薄板を成長させる部分(融液面)の温度と、坩堝との温度が、ほぼ相関関係を保つという前提が成立しなくなることがわかってきた。
このため、従来の方法によると、薄板を成長させる融液5007の液表面部分(融液面)の温度を、目的の品質の薄板を形成するための温度状態に安定させることは困難であった。
このように、かかる従来技術においては、薄板の長時間作製もしくは大量高速作製を行なう上で、所望の品質を実現するための融液温度を安定維持する方法が確立されていないため、結果として生産される薄板の品質および生産性が悪化するという問題があった。
本発明の目的は、形成される薄板を成長させる融液5007の液表面部分の温度を、常に目標品質の薄板を形成するための最適温度状態に制御し、形成される薄板の品質および生産性を改善させる薄板製造方法および薄板製造装置を提供することである。
本発明のある局面に係る薄板製造方法は、下地板を融液面に浸漬させた後、引上げることで、前記下地板の表面に融液を凝固させて形成された薄板を前記下地板から取外し薄板を製造する薄板製造方法であって、前記形成された薄板の板厚を特定可能なデータを測定する工程と、前記測定する工程による測定値に基いて前記融液を加熱する加熱手段の出力を制御する工程とを備える。
これによって、形成された薄板の品質のうちもっとも重要な板厚を把握することが可能となる。また、薄板の板厚を決定する上で、もっとも重要な融液の温度は、融液を加熱する加熱手段の出力によって決められているため、この出力を、たとえば、板厚測定結果によって制御することで、薄板の板厚を安定させることが可能となる。
好ましくは、前記測定する工程は、前記形成された薄板が前記下地板に付着した状態の重量を測定する工程である。これによって、薄板を下地板から分離する前に薄板の重量もしくは板厚を把握できることが可能となり、その結果をすばやく薄板製造の条件に反映させることができる。
さらに好ましくは、前記薄板を形成する前の下地板の重量を測定する下地板重量測定工程を、さらに備える。これによって、薄板が付着した状態の下地板の重量と、薄板を形成する前の下地板の重量を測定することが可能となり、さらに高精度な薄板の重量測定が可能となる。
また、さらに好ましくは、前記測定する工程による測定値を用いて前記薄板の板厚を演算する工程と、前記形成された薄板の表面を撮像する工程と、前記撮像する工程により撮像された薄板の表面画像により前記形成された薄板の欠けた部分の欠け面積を測定する欠け面積測定工程とを、さらに備え、前記演算する工程は、前記薄板の板厚を演算するに際して、前記欠け面積測定工程により測定された前記薄板の欠け面積に基いて、前記薄板の板厚を補正演算する。
このように、薄板の欠け面積を計算し、標準の面積から欠け面積を差し引いた、欠け補正後の面積を利用し、欠け補正換算後の重量換算板厚が換算できる。この欠け面積による誤差を補正することで重量換算板厚の精度を向上させることができる。
また、さらに好ましくは、前記測定する工程による測定値を用いて前記薄板の板厚を演算する工程と、前記加熱手段へ加熱エネルギーを供給するエネルギー供給機構とを、さらに備え、前記制御する工程は、前記測定する工程による測定値と前記演算する工程による演算値とのいずれかを該当する目標値に近づけるための制御動作信号を制御対象としての前記エネルギー供給機構に出力するフィードバック制御工程を含む。
このように、形成される薄板の測定板厚が目標板厚に近づくように加熱手段へ加熱エネルギーを供給するエネルギー供給機構の出力がフィードバック制御される。
また、さらに好ましくは、前記融液を貯留している坩堝の温度を測定する坩堝温度測定工程を、さらに備え、前記フィードバック制御工程は、前記測定値または前記演算値のいずれかと該当する目標値との差に基いて、前記エネルギー供給機構をフィードバック制御するために用いられる前記坩堝の目標温度を更新する目標温度更新工程を含み、前記坩堝温度測定工程による測定温度を前記目標温度更新工程により更新された目標温度に近づけるための制御動作信号を制御対象としての前記エネルギー供給機構に出力する。
このように、形成される薄板の測定板厚と目標板厚との差に基いて坩堝温度測定工程の目標温度が更新され、坩堝温度測定工程による測定温度が更新された目標温度に近づくように加熱手段へ加熱エネルギーを供給するエネルギー供給機構の出力がフィードバック制御される。このため、形成される薄板の板厚が目標板厚に近づくことになる。
本発明の他の局面に係る薄板製造装置は、下地板を融液面に浸漬させた後、引上げることで、前記下地板の表面に融液を凝固させて形成された薄板を前記下地板から取外し薄板を製造する薄板製造装置であって、前記形成された薄板の板厚を特定可能なデータを測定する薄板測定手段と、前記薄板測定手段による測定値を用いて前記薄板の板厚を演算する演算手段と、前記薄板測定手段による測定値と前記演算手段による演算値とのうちの少なくとも1つを記憶する記憶手段と、前記融液を加熱する加熱手段と、前記薄板測定手段による測定値と前記演算手段による演算値とのうちの少なくとも1つに基いて前記加熱手段の出力を制御する出力制御手段とを備える。
これによって、形成された薄板の品質のうちもっとも重要な板厚を把握することが可能となる。また、薄板の板厚を決定する上で、もっとも重要な融液の温度は、融液を加熱する加熱手段の出力によって決められているため、この出力を板厚測定結果によって制御することで、薄板の板厚を安定させることが可能となる。
また、薄板測定手段による測定値を演算する演算手段を備えているため、測定値から平均値データに換算することも可能であり、薄板測定手段の測定対象の自由度が大きくなる。たとえば、薄板の重量を直接測定するのではなく、形成された薄板が前記下地板に付着した状態の重量を測定するなどである。このことは、製造工程の都合により測定対象を選択できることで、製造効率の向上に寄与する。
また、記憶手段により、測定値や演算手段による演算結果を記憶することができるため、出力制御手段による加熱手段の出力制御に「移動平均」データを使用できる。さらに、記憶したデータにより重量や板厚の経時変化を確認することが可能となるなど、データを製品品質管理に活用できる。
好ましくは、前記薄板測定手段は、前記形成された薄板が前記下地板に付着した状態の重量を測定する。これによって、薄板を下地板から分離する前に薄板の重量もしくは板厚を把握することが可能となり、その結果をすばやく薄板製造の条件に反映させることができる。
さらに好ましくは、前記薄板を形成する前の下地板の重量を測定する下地板重量測定手段を、さらに備える。これによって、薄板が付着した状態の下地板の重量と、薄板を形成する前の下地板の重量を測定することが可能となり、さらに高精度な薄板の重量測定が可能となる。
また、さらに好ましくは、前記形成された薄板の表面を撮像する撮像手段と、前記撮像手段により撮像された薄板の表面画像により前記形成された薄板の欠けた部分の欠け面積を測定する欠け面積測定手段とを、さらに備え、前記演算手段は、前記薄板の板厚を演算するに際して、前記欠け面積測定手段により測定された前記薄板の欠け面積に基いて、前記薄板の板厚を補正演算する。
このように、薄板の欠け面積を計算し、標準の面積から欠け面積を差し引いた、欠け補正後の面積を利用し、欠け補正換算後の重量換算板厚が換算できる。この欠け面積による誤差を補正することで重量換算板厚の精度を向上させることができる。
また、さらに好ましくは、前記加熱手段へ加熱エネルギーを供給するエネルギー供給機構を、さらに備え、前記出力制御手段は、前記薄板測定手段による測定値と前記演算手段による演算値とのいずれかを該当する目標値に近づけるための制御動作信号を制御対象としての前記エネルギー供給機構に出力するフィードバック制御手段を含む。
このように、形成される薄板の測定板厚が目標板厚に近づくように加熱手段へ加熱エネルギーを供給するエネルギー供給機構の出力がフィードバック制御される。
また、さらに好ましくは、前記融液を貯留している坩堝の温度を測定する坩堝温度測定手段を、さらに備え、前記フィードバック制御手段は、前記測定値または前記演算値のいずれかと該当する目標値との差に基いて、前記エネルギー供給機構をフィードバック制御するために用いられる前記坩堝の目標温度を更新する目標温度更新手段を含み、前記坩堝温度測定手段による測定温度を前記目標温度更新手段により更新された目標温度に近づけるための制御動作信号を制御対象としての前記エネルギー供給機構に出力する。
このように、形成される薄板の測定板厚と目標板厚との差に基いて坩堝温度測定手段の目標温度が更新され、坩堝温度測定手段による測定温度が更新された目標温度に近づくように加熱手段へ加熱エネルギーを供給するエネルギー供給機構の出力がフィードバック制御される。このため、形成される薄板の板厚が目標板厚に近づくことになる。
また、さらに好ましくは、前記フィードバック制御手段は、前記坩堝温度測定手段の目標温度を更新する際に、前記測定値または前記演算値のいずれかとして、そのときまでに形成された所定枚数の薄板の前記測定値または前記演算値のいずれかの平均値を使用し、該平均値をとる期間を徐々に新しい期間にずらして計算する移動平均を採用する。これによって、フィードバック制御するための基礎データとなる形成された薄板の測定(演算)板厚からデータのばらつきや異常値が除去されるとともに、最新データに更新された平均板厚とすることができる。
また、さらに好ましくは、前記加熱手段によって加熱される融液を貯留する坩堝と、前記融液の液面に前記下地板を浸漬させ、引上げる浸漬機構とが設置される主室と、前記下地板を前記主室に装置外部から搬入する前に一時入室させる搬入用副室と、表面に前記薄板を形成した下地板を前記主室から装置外部へ搬出する前に一時入室させる搬出用副室とを、さらに備え、前記薄板を形成する前の下地板の重量を測定する下地板重量測定手段を前記主室と前記搬入用副室とのいずれか一方に、前記薄板が形成された状態の下地板の重量を測定する薄板測定手段を前記主室と前記搬出用副室とのいずれか一方に、それぞれ設置する。
これによって、薄板が形成された状態の下地板の重量を主室と搬出用副室とのいずれか一方に設置された薄板測定手段ですばやく測定可能となり、薄板を形成する前の下地板の重量を主室と搬入用副室とのいずれか一方に設置された下地板重量測定手段ですばやく測定可能となる。このため、薄板が形成された状態の下地板の重量から、薄板を形成する前の下地板の重量を差し引き、薄板の重量測定をすばやく行なえる。薄板の重量から薄板の板厚(重量換算板厚)に換算できる。このように作製された薄板の重量換算板厚を即座に温度制御にフィードバック可能となり、板厚のばらつきが減少した薄板の安定作製が可能となる。
本発明における薄板製造装置によれば、形成される薄板の品質のうちもっとも重要な板厚を把握することが可能となる。また、作製される薄板の板厚を決定する融液の温度を板厚測定結果によって制御することで、薄板の板厚を安定させ、生産性を向上させることが可能となる。
また、演算手段を備えているため、薄板測定手段の測定対象の自由度が大きくなる。たとえば、薄板が形成された状態の下地板の重量を測定して薄板の板厚に換算できる。このことは、製造工程の都合により測定対象を選択できることで、製造効率の向上に寄与する。
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
[実施形態1]
図1は、本実施の形態における薄板製造装置1000の概略構成を示す模式図である。本実施の形態における薄板製造装置1000は、主室1001と、搬入用副室1002と、搬出用副室1003とからなる本体装置と、本体装置外機器とから構成されている。下地板Sを本体装置外部から搬入用副室1002を通して主室1001に送込み、主室1001に設置された浸漬機構1004によって下地板Sの主表面に薄板Pを成長させ、搬出用副室1003を通して薄板Pが形成された下地板Sを本体装置外部へ搬出する薄板製造装置1000の一例である。
主室1001と搬入用副室1002との間および主室1001と搬出用副室1003との間は、ゲートバルブにて開閉可能に仕切られており、搬入用副室1002と本体装置外部との間および搬出用副室1003と本体装置外部との間もゲートバルブにて開閉可能に仕切られている。これによって、本体装置外部と主室1001内の雰囲気が異なる場合においても、主室1001内の雰囲気を汚染することなく、下地板Sを搬入用副室1002を通して主室1001内に搬入したり、薄板Pを主表面に形成した下地板Sを主室1001内から搬出用副室1003を通して本体装置外部に搬出することが可能である。
主室1001内には、搬入用副室1002から下地板Sを主室1001内に連続的に送込む搬入装置と、搬入装置により主室1001内に送込まれた下地板Sの主表面を融液1007に接触させ、下地板Sの主表面に薄板Pを形成させた後、融液1007の融液面から引上げるように下地板Sを移動させ、その移動に際して下地板Sを保持する浸漬機構1004とを備える。さらに、内側に保持された坩堝1006を誘導加熱によって加熱する加熱機構1005が設置されている。坩堝1006が加熱されることにより、坩堝1006内の個体原料1007Aを溶解し、融液状態で保持することが可能になる。なお、加熱機構1005は電源機構1050からの出力を制御し、加熱量を制御可能である。
薄板製造装置1000には、搬出用副室1003を通して本体装置外部に搬出された下地板Sから薄板Pを分離した後に、薄板Pの重量を測定するための薄板重量測定装置1012を備える。また、薄板重量測定装置1012により測定された重量と、薄板Pが下地板Sに形成された面積(以下、「薄板投影面積」と称す)、薄板Pの重量測定温度における材料の密度から、薄板Pの平均板厚(以下、「重量換算板厚」と称す)を計算するための演算器1020を備える。
また、薄板重量測定装置1012により測定された重量や演算器1020により演算された結果を記憶するための記憶装置1030を備える。また、この測定された重量や演算された結果を用いて加熱機構1005へ電力を供給する電源機構1050の出力を制御するための制御機構1040を備えている。薄板重量測定装置1012と、演算器1020と、記憶装置1030と、制御機構1040と、電源機構1050とは、互いに情報を交換可能にするため、有線もしくは無線にて接続された通信手段D12、D13、D14、D16を備えている。
なお、記憶装置1030に記憶するのは、薄板重量測定装置1012により測定された重量や演算器1020により演算された結果のうち、制御機構1040による制御に必要とされるデータ、作製される薄板Pの品質管理に使用される特定のデータだけでよいが、すべてのデータを記憶してもよい。
電源機構1050と、加熱機構1005とは、電力を送るためのケーブルE10によって接続されている。また、坩堝1006の側壁には、図示しない熱電対が設置されており、熱電対による坩堝側壁温度の検出結果が制御機構1040に伝達されるように結線された通信手段D15を備えている。
<薄板製造の工程>
次に、本実施の形態における、薄板Pの製造方法について説明する。まず、坩堝1006に固体原料1007Aを充填し、主室1001内の雰囲気を不活性ガス雰囲気に置換し、加熱機構1005によって坩堝1006を加熱して昇温し、固体原料1007Aの初期溶解を行なう。
固体原料1007Aの溶解完了後、後述の手段によって融液1007の温度を薄板Pの製造に適した温度に調整する。
続いて、下地板Sの搬入を行なう。まず、搬入用副室1002内の雰囲気を大気と等しくし、本体装置外部とを仕切るゲートバルブを開き、下地板Sを本体装置外部より搬入用副室1002内に搬入する(図1にてA11)。図1では、説明をわかり易くするために下地板Sを1枚のみ搬入しているが、実際には時間効率を上げるために複数枚の下地板Sを同時に搬入することにしてもよい。続いて、本体装置外部とを仕切るゲートバルブを閉めて、搬入用副室1002の雰囲気を、主室1001の雰囲気と等しくなるように不活性ガス雰囲気に置換する。具体的には、搬入用副室1002内の雰囲気(大気)を一度真空引きした後に、不活性ガスを主室1001と同じ圧力になるように導入する。続いて、搬入用副室1002と主室1001とを仕切るゲートバルブを開き、搬入用副室1002内の下地板Sをすべて主室1001内に搬入する(図1にてA12)。
次に、下地板Sを融液1007に浸漬させる浸漬動作を開始する。下地板Sを浸漬機構1004にセットし、下地板Sを融液1007に浸漬することで下地板Sの主表面に薄板Pを成長させ、続いて下地板Sを浸漬機構1004から取外す(図1にてA13)。具体的な浸漬機構1004の構造や動作は後述する。
次に、主表面に薄板Pが形成された下地板Sを主室1001から搬出用副室1003へ搬出する。まず、搬出用副室1003の雰囲気を、主室1001の雰囲気と等しくなるように不活性ガス雰囲気に置換する。具体的には、搬出用副室1003の雰囲気を一度真空引きした後に、不活性ガスを主室1001と同じ圧力になるように導入する。続いて、搬出用副室1003と主室1001とを仕切るゲートバルブを開き、主室1001から搬出用副室1003に薄板Pが形成された下地板Sを搬出する(図1にてA14)。図1では、説明をわかり易くするために下地板Sを1枚のみ搬出しているが、実際には時間効率を上げるために複数枚の下地板Sを同時に搬出することにしてもよい。
続いて、本体装置外部とを仕切るゲートバルブを開き、搬出用副室1003の雰囲気を、大気と等しくし、薄板Pが形成された下地板Sを搬出用副室1003から本体装置外部に搬出する(図1にてA15)。最後に、本体装置外部において、薄板Pと下地板Sとを分離することで、薄板Pを得ることができる。
<浸漬機構の説明>
浸漬機構1004には、下地板Sを装着させたり、浸漬機構1004から下地板Sを取外すことが可能である。装着された下地板Sを融液1007に浸漬した後、融液1007から下地板Sを引上げることによって下地板Sの主表面に薄板Pを形成できる機構であれば、浸漬機構1004はどのような機構を用いても構わない。また、浸漬機構1004に、下地板Sを装着させたり、浸漬機構1004から下地板Sを取外すことを自動的に機械が行なう自動装着取外機構を備えていてもよい。
はじめに、浸漬機構1004の一例として、「背景技術」欄の半導体基材製造装置5000(図5)にて説明した旋回析出機構5004を用いた方法について図5を参照しながら説明する。図5にて旋回析出機構5004は、下地板Sを保持できる台座5101を3つ有しているが、台座5101は1つでも構わないし、2つ以上でも構わない。
台座5101が3つの場合は、まず、1つ目の台座5101が頂点に位置した状態で、1枚目の下地板Sを頂点に位置した台座5101に取付ける。その後、旋回析出機構5004を120度回転させると、次の2つ目の台座5101が頂点に位置した状態となるため、そこに2枚目の下地板Sを取付ける。次に、さらに120度回転すると、最初の1つ目の台座5101に取付けた1枚目の下地板Sが融液5007に浸漬され、引上げられる。このとき、1枚目の下地板Sの主表面に薄板Pを成長させることができる。薄板Pの品質は、台座5101に取付けられた下地板Sを回転する速度、下地板Sを融液5007に浸漬するときの最大浸漬深さ、浸漬するときの融液5007の温度で決まる。最大浸漬深さは、坩堝5006の高さを昇降することで調整することが可能である。また、このとき、3つ目の台座5101が頂点に位置するため、この頂点に位置する台座5101に3枚目の下地板Sを取付ける。次に、120度回転させると、2枚目の下地板Sの主表面に薄板Pを成長させることができる。このとき、薄板Pが主表面に成長した1枚目の下地板Sが頂点に位置するため、この1枚目の下地板Sを取外し、1つ目の台座には、4枚目の下地板Sを取付ける。以上の動作を繰返すことによって、連続して下地板Sを融液5007に浸漬し、主表面に薄板Pを成長させた下地板Sを取出すことが可能になる。
次に、浸漬機構1004の別の一例として、下地板Sの水平方向移動・上下方向移動・回転動作を用いた浸漬機構6004について図6を参照しながら説明する。
浸漬機構6004は、水平動作駆動装置により水平動作レール6102に沿って水平直線方向に往復移動するスライド体に取付けられた昇降機構6103を備えている。浸漬機構6004は、昇降機構6103の下方に、懸垂支柱6104と、懸垂支柱6104の所定位置に設置された回転機構6105と、回転機構6105によって回転駆動される回転支柱6106と、回転支柱6106の回転機構6105とは反対側の先端に位置する支点軸Bに一端が回動自在に係合された支持支柱6107と、一端が支持支柱6107の支点軸Bとは反対側の先端に位置する支点軸Cに、他端が懸垂支柱6104の下端の支点軸Dに、それぞれ回動自在に係合された台座6101を懸装している。
台座6101の上面には、断面が台形形状からなる凹型溝状係合部が形成され、この台形形状の凹型溝状係合部に嵌め合わせてスライド挿入させる、逆台形形状の凸型突起状係合部が下地板Sの裏側に形成されている。下地板S裏側の凸型突起状係合部を台座6101上面の凹型溝状係合部にスライド嵌合させることによって下地板Sを台座6101に装着する。このスライド嵌合の挿入方向は、後述する台座6101の回転方向に直交する方向となるように凸型突起状係合部、凹型溝状係合部は形成されている。
次に、台座6101の回転動作について説明する。回転支柱6106が回転機構6105によって、時計まわりに回転駆動されると、支点軸B、支持支柱6107、支点軸Cが下方に下がる。懸垂支柱6104下端の支点軸Dと回転機構6105の回転中心軸Aとの相対的な上下高さ位置は同一であるから、台座6101は回転支柱6106と平行の角度で時計回りに回転する。この様子を図6に下地板Sの動作サイクル6201として図示している。なお、支点軸B、C、Dは自重により回動自在な軸として説明したが、歯車が噛合って強制的に支持支柱6107、台座6101が回転させられる軸構成としてもよい。
下地板Sの水平方向の移送は、水平動作レール6102に沿ってスライド体が移動することにより昇降機構6103と懸垂支柱6104に吊下がって懸装されている機構全体が水平動作することで行なわれる。下地板Sの上下方向の移送は、昇降機構6103が懸垂支柱6104以下に吊下がっている機構全体を昇降することで行なう。下地板Sの回転動作は、回転機構6105によって行なわれる。回転機構6105による回転動作の制御により下地板Sの融液6007への進入角度、脱出角度、浸漬時間を決めることができる。上記の水平・上下・回転動作の設定は、通常は、パソコン等により、水平方向移動指令と昇降動作移動指令、回転動作指令をそれぞれプログラミングし、それをコントローラに送信しておくことで、プログラム通りの任意軌道を実現する。
なお、水平動作する機構、昇降機構、回転機構のすべてが必須ではなく、回転機構だけでも浸漬機構としての機能は果たせるし、さらに昇降機構が加わればより複雑な動作を行なえる浸漬機構となるし、さらに水平動作する機構が加われば、より充実した動作を行なえる浸漬機構となる。
次に、浸漬機構6004による下地板Sの浸漬動作のサイクルを、図6を用いて説明する。下地板Sは、台座6101が下地板交換位置6200(図6参照)に位置しているときに、台座6101に装着される。この際、下地板Sの主表面は天頂方向を向いている。その位置で、図示しないヒータを用いて下地板Sを加熱する温度調整を実施してもよい。その後、下地板Sは動作サイクル6201で図示するように時計回りに回転しながら右方向へ移動する。次いで、左方向に戻りながら、下地板Sの主表面を融液6007に浸漬し、引上げることにより、下地板Sの主表面に薄板Pを形成する。このときの浸漬軌道は、融液6007の液表面の高さ位置によって制御されるべきであるが、薄板Pの作製開始直後は、初期充填した原料(融液6007の固体原料6007A)の重量から融液面(融液6007の液表面)の高さ位置を計算することが可能であり、その後は薄板Pの製造枚数に比例して融液面が低下することを考慮し、浸漬軌道を調整する必要がある。
下地板Sの主表面に薄板Pを形成後、薄板Pが成長した下地板Sは、さらに左方向へ戻りつつ、回転し、下地板Sの主表面が天頂方向に向いた形で、下地板Sの交換位置6200まで戻る。その後、薄板Pが形成された下地板Sをスライドさせて台座6101から押出し、新しい下地板Sを台座6101に装着する。下地板Sを交換するときの、下地板Sの姿勢は、本実施の形態では主表面を天頂方向に向けた姿勢である。また、図6において、浸漬動作サイクル6201を時計回りとしたが、反時計回り、もしくは途中まで時計回りで途中から反時計回り、もしくは途中まで反時計回りで途中から時計回りなどのいずれでも構わない。
例えば、シリコンのような高融点材料の薄板Pを製造する場合、融液は1400〜1500℃の高温であり、またシリコンの蒸着やSiOX粉等の付着もあるので、水平動作レール6102や浸漬機構6004上部を保護するため、断熱性もしくは冷却された遮蔽板(図示せず)を坩堝6006上に、浸漬機構6004や下地板Sの動作と干渉しない位置に配置することが望ましい。
<薄板の重量、板厚測定>
薄板Pを主表面に形成した下地板Sは、主室1001から搬出用副室1003を通して本体装置外部へ搬出される(図1参照)。その後に、薄板Pを下地板Sから分離することで、薄板Pを得ることができる。下地板Sは、検査され、再び本体装置(図1にて、搬入用副室1002を通して主室1001)に搬入される。薄板Pは、この後、周辺部切断等の成形を行ない、製品となる。
製造する薄板Pの板厚を一定幅に制御するためには、作製された薄板Pの板厚を測定し、その結果を即座に作製条件(図1にて、坩堝1006の温度設定)にフィードバックすることが望ましい。
薄板Pの表面は完全に平滑ではなく凹凸を含むため、薄板Pの板厚分布を把握するためには、通常は板厚分布測定を行なう必要がある。具体的には、薄板Pの表裏両面の表面形状を測定できる機器(レーザー測定器、接触測定器、静電容量測定器など)により、薄板Pの表面を走査する必要がある。できる限り、薄板Pの全表面を走査することで、板厚測定精度を高めることが望ましいが、上記方法を用いると、時間がかかり、全数測定を行なうことも困難であるため、即座に薄板作製条件へのフィードバックは難しい。
そのため、本実施の形態においては、下地板Sから分離された薄板Pの重量を測定することで、薄板Pの重量換算板厚を測定する。作製される薄板Pの面積は、下地板Sによってほぼ決まるため、測定重量を面積で割り、薄板の材質の密度で割ることで、重量換算板厚を求める。この方法を用いることによって、凹凸を無視した平均板厚に相当する重量換算板厚を即座に測定することができるため、即座に作製条件(温度設定)にフィードバックすることが可能である。薄板Pの重量測定に用いる機器は、どのような機器でも構わない。例えば、電子天秤等にて測定することが可能である。全数測定することが望ましいが、抜き取りで測定を実施しても構わない。
薄板Pが欠けている場合に、欠けている面積を測定し、重量換算板厚計算に用いる面積に補正をかけるための、薄板形状撮像装置(図示せず)を用いても構わない。CCD等のカメラによって、薄板を撮影し、その画像の薄板領域を、色(コントラスト)によって判別し、その領域の面積を計算することで、より精密な計算が可能となる。本実施の形態における図1では、薄板Pの重量を測定するための薄板重量測定装置1012によって測定された重量は、演算器1020に送信され(図1にてD12)、演算器1020によって重量換算板厚が計算される。薄板形状撮像装置(図示せず)を用いる場合は計算された面積も送信され、計算に用いられる。
<薄板の板厚変化>
作製される薄板Pの目標となる重量換算板厚を500μmとし、融液1007の加熱手段の出力を設定し、以後、坩堝壁に固定した熱電対の温度が設定温度となるように加熱機構1005の出力を制御して、薄板Pを300枚作製した結果について図7〜図10を参照しながら説明する。なお、ここで薄板300枚を作製した際には、融液1007の内容量を規定量としたときに、500μmの薄板Pが得られるための温度を手動で設定し、300枚作製の間、設定温度を変更しなかった。また、薄板Pの作製が進行するとともに、坩堝1006における融液面(融液1007の液表面)の高さが低下していくが、融液面の高さを一定に保つ操作も行なっていない。
本体装置から取り出した、薄板Pが形成された下地板Sから薄板Pを分離し、薄板Pの重量を測定した結果を、図7に示す。図7によれば、薄板Pの重量は、徐々に低下していることがわかる。これは、薄板Pの作製が進行し、融液面の高さが低下していくに従い、坩堝1006の温度を検出するための図示しない熱電対と融液面との距離が異なってくることと、坩堝1006の壁部分からの輻射が増大するために熱電対近傍の温度が低下することを補完するために加熱機構1005に電力を多く供給するためであり、結果として融液1007の温度が上昇し、薄板Pの凝固成長する速度が低下したためであると考えられる。
作製した薄板Pの重量を測定し、薄板Pの欠けによる補正換算を行なわず、薄板Pの面積を一定として換算した重量換算板厚を図8に示す。重量換算板厚は、±100μm程度のばらつきを持ちつつ、作製当初はばらつき中央が約500μm前後だった板厚が、300枚作製時点で300μm近くまで低下している。
次に、各薄板Pの欠けて損失している面積を計算し、標準の面積から損失面積を差し引いた、欠け補正後の面積を利用し、欠け補正換算後の重量換算板厚を図9に示す。傾向は図8と変わらないが、標準偏差は64.3μmであり、欠けによる誤差を補正することで重量換算板厚の精度を向上することができるため、薄板形状撮像装置のように薄板Pの投影面積を測定できる方法を使用することが望ましい。
また、図10は、図9の結果を移動平均(平均枚数M=10枚)したものである。移動平均とは、平均をとる期間を徐々にずらして計算する方法である。具体的には、平均枚数をM枚としたときに、N枚目の薄板重量測定後の平均板厚をN−M+1枚目からN枚目の薄板の平均板厚とし、N+1枚目の薄板重量測定後の平均板厚をN−M+2枚目からN+1枚目の薄板の平均板厚とする平均方法となる。データのばらつきや異常値を除去して全体の板厚推移を知ることができるようにする統計手法である。
図8や図9に示したグラフのように、ばらつきが大きい数字を制御のフィードバックに使用すると、制御が発散する可能性が高いため、移動平均のような演算もしくはPID制御のような演算を用いることが望ましい。なお、PID制御とは、偏差の変化量が大きくなった場合には操作量を大きくし、偏差の変化量が小さい時には、ある時間における差の状態を保持するPI制御に近づける手法である。操作量を目標値と出力の差に比例(P)する項と差の積分(I:累計)値に比例する項と差の微分(D:変化量)値に比例する項で構成するものである。
<融液の温度制御方法>
次に、融液1007の温度を制御する方法について、図1および図15を用いて説明する。図15は融液1007の温度制御フローを説明する図面である。
融液1007の温度を決めるのは、電源機構1050から加熱機構1005にケーブルE10で供給される供給電力量である。電源機構1050からの供給電力量は、制御機構1040によって調整される。薄板Pを作製する場合は、作製される薄板Pの板厚が一定に保たれるように、融液1007の温度を制御する必要がある。そのため、電源機構1050に、制御機構1040が通信手段D16により供給電力量を制御指示する。通常、作製される薄板Pの板厚を一定に保つためには、融液1007の温度を一定に保てばよい。しかし、融液1007の温度を一定に保ったにもかかわらず、万一、他の要因で、薄板Pの板厚が一定にならなかった場合があるとしても、本願の実施の形態では、作製される薄板Pの板厚が一定に保たれるように、融液1007の温度を制御する。すなわち、作製された薄板Pの板厚によって融液1007の温度を制御している。
供給電力量を決定する際、薄板Pを作製する場所の融液1007の温度を直接測定し、その温度を制御するようにフィードバックをかける方法を採用できればよいが、薄板Pを作製する場所に下地板Sが浸漬されるため、熱電対や放射温度計のような温度測定は不可能である。そのため、薄板Pを作製する場所の融液の温度と相関が良い部分の温度を測定し、間接的に融液1007の温度を制御する必要がある。融液1007の液表面に起こる波立ちの影響を受けず、また融液1007に異物を接触させて融液1007を汚染することも無いから、坩堝1006の壁(以下、「坩堝壁」と称す)に熱電対を埋め込み、もしくは接触させて、坩堝壁の温度を測定することが望ましい。放射温度計によって、融液1007もしくは坩堝1006を撮像し、その放射量から温度を測定する方法でも構わない。また、温度測定手段は、複数個でも、複数種類でも構わない。これらの温度測定結果は、制御機構1040に通信手段D15で送信し、融液1007の温度制御に用いる。なお、本願の実施の形態では、融液1007の温度を所定温度に制御するのが目的ではなく、作製される薄板Pの板厚が一定に保たれるように加熱機構1005への供給電力量を制御するのが目的である。
もっとも、簡単な制御は、坩堝壁の温度が一定に保たれるように、PID制御を用いて、電源機構1050の供給電力量を常時指示する方法である。ここでいうPID制御とは、目標設定温度と坩堝壁測定温度との違いを早く小さくするために、比例、積分、微分にそれぞれ適当な重みを配分して供給電力量を決定する方法である。それぞれの重みは、供給電力量の変化と、坩堝壁の温度変化の関係から、最適値が存在するが、坩堝1006の大きさ等によって最適値は異なる。通常は、実際の装置を用いて、比例、積分、微分の比率を実際に変化させながら、目標設定温度を変更し、その際の坩堝壁測定温度の追従が早くオーバーシュートしない値を採用する。これらを自動でチューニングする機能を備えた温度調節器も一般的である。
制御機構1040は、目標設定温度と坩堝壁測定温度の差を0とするように、PID制御による供給電力量設定を行ない、電力機構1050に送信する。また、ここでいう目標設定温度とは所望の品質の薄板Pを得るための坩堝壁の温度である。
<板厚融液測定結果のフィードバック方法>
上記のように、300枚作製中に設定温度を変更しなかった場合、坩堝壁の温度は一定だが、融液1007の温度が変化してしまうため、図7〜図10で説明したように作製する薄板Pの板厚を一定にすることは不可能である。そのため、上記の重量換算板厚を用いて、坩堝壁の目標設定温度を変更する必要がある。本実施の形態では、演算器1020により坩堝壁の設定温度の変更を下記のように計算し、記憶装置1030を経由して、制御機構1040に通信手段D13、D14により送信する。
重量換算板厚を用いて坩堝壁の目標設定温度を変更する方法を、図1および図16を用いて、説明する。図16は重量換算板厚を用いて坩堝壁の目標設定温度を変更制御するフローを説明する図面である。作製する薄板Pの重量換算板厚を用いて坩堝壁の目標設定温度を変更する方法の一つは、作製された薄板Pの重量換算板厚を測定するたびに、毎回、坩堝壁の目標設定温度を変更する方法である。測定(換算)された重量換算板厚と目標板厚(上記の場合は500μm)との差から、坩堝壁の設定温度の変更値を決定する。
変更値と板厚差との関係係数(℃/μm)は、あらかじめ経験値を設定しておいても構わないし、実際に薄板Pを作製しながらその結果をさらにフィードバックしても構わない。変更に用いる薄板Pの重量換算板厚(もしくは重量測定値)は、その薄板Pの重量換算板厚のみでも構わないし、それまでの複数枚の平均値でも構わない。この方法は、図9に示したように、作製された薄板Pの板厚には大きなばらつきがあるため、頻繁に目標設定温度を変更すると設定温度が発散する可能性がある。
発散を防ぐためには、坩堝壁の目標設定温度を決めるに当たってもPID制御を用いる方法が考えられる。この場合、目標板厚と測定板厚(重量換算板厚)の差が速く小さくなるように、制御機構1040の目標設定温度を制御することになり、さらにその目標設定温度を用いて電源機構1050から坩堝1006を加熱するための供給電力量設定をPID制御する。つまり、目標設定温度と供給電力量設定との2段階PID制御による温度制御となる。
他の方法としては、複数枚薄板Pを作製するごとに、作製された薄板Pの板厚平均値による坩堝壁の目標設定温度の設定値変更を行なう方法である。作製された薄板Pの枚数が増えるに従い、発散する恐れは低減するが、複数枚の薄板Pの作製を待って設定値変更するために待ち時間がかかり応答性が悪くなる可能性がある。応答性が悪いということは、板厚のばらつきが大きくなるということであるが、品質のばらつきが許容範囲内ならば、制御の簡易性、安定性から望ましい方法と考えられる。
すなわち、演算器1020は、薄板Pの重量から測定板厚(重量換算板厚)を演算した後、測定板厚と目標板厚との差を0とするように、坩堝壁の目標設定温度を設定するものである。坩堝壁の目標設定温度を設定する設定方法は、上記のように、関係係数やPID制御を採用する。さらに、演算器1020が設定した坩堝壁の目標設定温度は、記憶装置1030を経由し、制御機構1040に送信される。制御機構1040は、坩堝壁の目標設定温度を、演算器1020の演算結果に伴い随時変更しながら、坩堝壁測定温度との差が0となるように、供給電力量設定をPID制御するものである。
[実施形態2]
図2は、本実施の形態における薄板製造装置2000の概略構成を示す模式図である。本実施の形態における薄板製造装置2000は、主室2001と、搬入用副室2002と、搬出用副室2003とからなる本体装置と、本体装置外機器とから構成されている。下地板Sを本体装置外部から搬入用副室2002を通して主室2001に送込み、主室2001に設置された浸漬機構2004によって下地板Sの主表面に薄板Pを成長させ、搬出用副室2003を通して薄板Pが形成された下地板Sを本体装置外部へ搬出する薄板製造装置2000の一例である。
実施形態1では、本体装置外部で薄板Pが形成された下地板Sから薄板Pを分離した後、薄板Pの重量を測定し、加熱機構1005への電力供給量を制御していた。この実施形態2では、下地板Sから薄板Pを分離することなく、薄板Pが形成された下地板Sのままで重量を測定し、加熱機構1005への電力供給量を制御しようとするものである。この重量測定に関する部分以外は、実施形態1と同様である。
このため図2において、実施形態2の薄板製造装置2000のそれぞれの構成をあらためて説明することは割愛するが、図2において各構成に付された符号は、図1における実施形態1の薄板製造装置1000のそれぞれ対応する各構成に付された符号の1000番台を2000番台に、符号の10番台を20番台に、それぞれ対応させて付してある。たとえば薄板製造装置2000における融液2007は薄板製造装置1000における融液1007に相当するものである。
<薄板の板厚測定>
図1では、薄板Pを下地板Sから分離した後に、薄板Pの重量を測定していたが、薄板と下地板を分離するまでにかかる時間が長い場合は、その分フィードバックが遅れることとなる。そのため、本実施の形態における薄板製造装置2000は、図2に示すように下地板Sと薄板Pとを分離する前に、薄板Pが形成された下地板Sごと重量を測定するための薄板重量測定装置2012を有する。
薄板Pの作製に使用される下地板Sの重量は、いずれの下地板Sでもほぼ同等と考えて、薄板Pが形成された下地板Sの全体重量から下地板Sの重量を差し引くことで、薄板Pの重量を換算する。もしくは、薄板Pの作製に使用されるそれぞれの下地板S1〜Snの重量を予め測定して記憶装置2030に記憶しておき、薄板重量測定装置2012もしくは測定された重量から重量換算板厚を演算する演算器2020に必要時に送信することも可能である。
これにより、薄板Pの板厚をすばやく、融液2007の温度と相関が良い坩堝2006の壁(坩堝壁)の温度制御にフィードバックできると共に、薄板製造装置2000の本体装置から搬出された下地板Sから薄板Pを分離する機構を本体装置近傍に設置する必要が無くなり、薄板製造装置2000や搬送、ラインのレイアウトの自由度が増し、また搬出から分離工程の間におけるトラブルによって温度制御へのフィードバックが途切れることを防止できる。本体装置から搬出された下地板Sは高温であるため、下地板Sを冷却する機構もしくは高温でも測定可能な薄板重量測定装置2012を用意することが望ましい。
[実施形態3]
図3は、本実施の形態における薄板製造装置3000の概略構成を示す模式図である。本実施の形態における薄板製造装置3000は、主室3001と、搬入用副室3002と、搬出用副室3003とからなる本体装置と、本体装置外機器とから構成されている。下地板Sを本体装置外部から搬入用副室3002を通して主室3001に送込み、主室3001に設置された浸漬機構3004によって下地板Sの主表面に薄板Pを成長させ、搬出用副室3003を通して薄板Pが形成された下地板Sを本体装置外部へ搬出する薄板製造装置3000の一例である。
実施形態3(図3)では、実施形態2と同じく、下地板Sから薄板Pを分離することなく、薄板Pが形成された下地板Sのままで重量を測定するが、さらに薄板製造直前の下地板Sの重量も合わせて測定し、薄板Pの板厚測定の精度をより向上させるものである。この重量測定に関する部分以外は、実施形態1と同様である。このため図3において各構成に付された符号は、実施形態2(図2)同様、図1における実施形態1の薄板製造装置1000のそれぞれ対応する各構成に付された符号の1000番台を3000番台に、符号の10番台を30番台に、それぞれ対応させて付してある。
<薄板の板厚測定>
図3の薄板製造装置3000は、搬出用副室3003の外側に配置された薄板重量測定装置2012だけでなく、搬入用副室3002の外側にも下地板重量測定装置3011をも備えている。下地板重量測定装置3011は、本体装置へ搬入前の下地板Sの重量を測定し、通信手段D33により演算器3020に測定値を送信する。演算器3020は、通信手段D32により薄板重量測定装置3012から受信する、本体装置から搬出された後の薄板Pが形成された下地板Sの全体重量の測定値から搬入前の下地板Sの重量を差し引くことで、薄板Pの重量を換算する。これにより、薄板Pの重量をより高精度に測定することが可能となる。ひいては薄板Pの重量換算板厚をより高精度に演算できる。下地板Sは高温であるため、下地板Sを冷却する機構もしくは高温でも測定可能な薄板重量測定装置3012を用意することが望ましい。
[実施形態4]
図4は、本実施の形態における薄板製造装置4000の概略構成を示す模式図である。本実施の形態における薄板製造装置4000は、主室4001と、搬入用副室4002と、搬出用副室4003とからなる本体装置と、本体装置外機器とから構成されている。下地板Sを本体装置外部から搬入用副室4002を通して主室4001に送込み、主室4001に設置された浸漬機構4004によって下地板Sの主表面に薄板Pを成長させ、搬出用副室3003を通して薄板Pが形成された下地板Sを本体装置外部へ搬出する薄板製造装置4000の一例である。
実施形態4(図4)では、実施形態3と同じく、薄板Pが形成された下地板Sの重量、薄板製造直前の下地板Sの重量を測定するが、実施形態3が本体装置外部で測定するのに、実施形態3では主室4001内で測定する点が異なる。なお、図4では、薄板製造直前の下地板Sの重量を主室4001内で測定する図となっているが、あるいは、搬入用副室4002で測定することにしてもよい。同様に、図4では、薄板Pが形成された下地板Sの重量を主室4001内で測定する図となっているが、あるいは、搬出用副室4003で測定することにしてもよい。この重量測定に関する部分以外は、実施形態1と同様である。このため図4において各構成に付された符号は、実施形態2(図2)同様、図1における実施形態1の薄板製造装置1000のそれぞれ対応する各構成に付された符号の1000番台を4000番台に、符号の10番台を40番台に、それぞれ対応させて付してある。
<薄板の板厚測定>
実施形態3(図3)のように、本体装置外において、薄板製造直前の下地板Sや薄板Pが形成された下地板Sの重量を測定する場合では、搬出用副室4003に多数枚の下地板を詰めてから、まとめて本体装置外部に搬出するような場合、作製された薄板の板厚を即座にフィードバックできなくなる。
そのため、実施形態4(図4)においては、融液4007に浸漬直前の下地板Sの重量を測定するための下地板重量測定装置4011と、融液4007に浸漬直後の薄板Pを形成させた下地板Sの重量を測定するための薄板重量測定装置4012とを、主室4001内に備えている。
下地板重量測定装置4011は、主室4001内で、浸漬前の下地板Sの重量を測定し、通信手段D43により演算器4020に測定値を送信する。薄板重量測定装置4012は、主室4001内で、薄板Pが形成された浸漬後の下地板Sの全体重量を測定し、通信手段D42により演算器4020に測定値を送信する。演算器4020は、受信した、薄板Pが形成された下地板Sの全体重量の測定値から浸漬前の下地板Sの重量を差し引くことで、薄板Pの重量を換算する。これにより、薄板Pの板厚をより高精度に測定(換算)することが可能となる。さらに、浸漬直後の薄板Pの重量を、即座に温度制御にフィードバックすることが可能となる。
下地板Sは高温であるため、高温でも測定可能な薄板重量測定装置4012を用意することが望ましい。下地板Sを坩堝4006に浸漬する前に下地板Sを予備加熱後に下地板Sの重量を測定するのであれば、下地板重量測定装置4011も高温でも測定可能なものにしておく必要がある。
[実施形態補足]
ここでは、実施形態1〜4に記載されていない点について、まとめて記載しておく。本願は、形成された薄板Pの品質のうちもっとも重要な板厚を安定させるために、形成された薄板の重量もしくは板厚を特定可能なデータを測定し、測定(演算)結果に基いて融液を加熱する加熱手段の出力を制御するものである。たとえば、作製された板厚に基づいて融液温度を制御するために、形成された薄板の板厚を目標の一定値に安定させることができるものである。しかしながら、他のいろんな条件が形成される薄板Pの板厚安定化に影響する。
下地板Sを融液面に浸漬させた後、引上げることで、下地板Sの主表面に融液を凝固させて形成された薄板Pの板厚Tは、当然、下地板Sを融液面に浸漬させる浸漬時間により、影響を受ける。この対策としては、浸漬機構1004の動作制御を安定させることが必要である。即ち、浸漬機構1004による下地板Sの融液面への浸漬時間を一定値に安定させることが必要である。
次に、融液面へ浸漬するときの下地板Sの温度によっても形成される薄板Pの板厚Tは影響を受ける。このため、融液面へ浸漬するときの下地板Sの温度を所定値に予熱しておくことが考えられる。この予熱は下地板Sを浸漬する融液の過冷却状態の温度よりも低い温度程度の所定値に加熱する。なお、過冷却状態とは、融液の凝固温度以下でもなお融液状態にある状態のことである。この下地板Sの予熱は、電磁誘導コイルによる誘導加熱でも、抵抗ヒータの輻射熱による加熱でもよい。
あるいは、実施形態4の図4において、融液4007に浸漬直前の下地板Sの重量を測定するための下地板重量測定装置4011において、さらに、浸漬直前の下地板Sの温度を測定する下地板温度測定装置を備え、融液加熱手段への供給電力制御において、浸漬直前の下地板Sの温度条件を加味させることで、下地板Sの予熱を省くことでもよい。あるいは、下地板Sの予熱とともに、さらに、下地板温度測定装置を備え、融液加熱手段への供給電力制御において、浸漬直前の下地板Sの温度条件を加味させることを採用してもよい。
次に、薄板Pの作製が進行するとともに、坩堝における融液面(融液の液表面)の高さが低下していくが、下地板Sの融液への最大浸漬深さ(下地板Sと融液面との相対高さ)を一定に保つ操作を行なってもよい。たとえば、グリーンレーザを発光器から融液面に照射し、反射光を受光器で受光することにより融液の液面高さ位置を測定する。測定データを制御装置に出力し、坩堝の高さ位置、または、昇降機構における下地板Sの高さ位置を制御すればよい。この場合には、測定された融液の液面高さ位置に応じた制御装置の出力により、坩堝の高さ位置を調節する坩堝昇降装置、または、浸漬機構において、融液に浸漬する下地板Sの融液面との相対高さ位置を調節可能にした昇降機能を備えることが必要になる。なお、前述した浸漬機構6004(図6)には、昇降機構6103を備え、下地板Sを上下方向に昇降可能になっている。また、半導体基材製造装置5000(図5)においては、坩堝5006の高さを昇降することで最大浸漬深さを調整可能になっている。
つぎに、図1を参照して、主な構成部品の具体例を示しておく。シリコンの薄板Pを作成するとして、融液1007はシリコン16の融液であり、坩堝1006は、シリコン16との反応性が小さくて無通気性の材質、たとえばカーボンにより形成されている。下地板Sは、シリコン16よりも熱伝導の優れたもの、たとえば、カーボン基板を使用する。また、下地板Sを浸漬機構1004に装着するにあたっては、断熱性能のよい、たとえば、タンタル製のスペーサなどの部材を介して着脱自在に取付ける。また、主室1001に封入する不活性ガスとしては、アルゴンガスを使用する。融液状(過冷却状態)のシリコン16の温度は1680°K(絶対温度)であり、融液面へ浸漬する前の下地板Sの予熱温度は、例えば1480°K(絶対温度)程度である。
1000 薄板製造装置、1001 主室、1002 搬入用副室、1003 搬出用副室、1004 浸漬機構、1005 加熱機構、1006 坩堝、1007 融液、1012 薄板重量測定装置、1020 演算器、1030 記憶装置、1040 制御機構、1050 電源機構、S 下地板、P 薄板、3011 下地板重量測定装置。