本発明は、摩擦係合要素に作用させる油圧を制御して変速機構の変速段を切り換える自動変速機の制御装置に関する発明である。
自動車用の自動変速機は、エンジンの駆動力をトルクコンバータを介して変速歯車機構の入力軸に伝達し、この変速歯車機構で変速して出力軸に伝達し、駆動輪を回転駆動するようにしている。一般に、変速歯車機構は、入力軸と出力軸との間に複数の歯車を配列して、入力軸と出力軸との間に変速比の異なる複数の動力伝達経路を構成し、各動力伝達経路中にクラッチやブレーキ等の摩擦係合要素を設けて、変速段切り換え要求に応じて各摩擦係合要素に作用させる油圧を個別に制御することで、各摩擦係合要素の係合と解放を選択的に切り換えて、入出力軸間の動力伝達経路を切り換えて変速比を切り換えるようにしている。
このような自動変速機では、運転者による手動変速操作やアクセルペダルの急操作等によって、変速歯車機構の変速段を第1の目標変速段に切り換える第1の変速制御の途中で目標変速段が第2の目標変速段に変更された場合に、第1の変速制御を途中で中止して変速歯車機構の変速段を第2の目標変速段に切り換える第2の変速制御を実行するいわゆる多重変速制御を行うようにしたものがある。
この多重変速制御を運転者の変速要求に対して応答良く実行する技術として、特許文献1(特開2002−89692号公報)に記載されているように、第1の変速制御の途中で目標変速段が変更されて第2の変速制御を実行する多重変速制御の際に、摩擦係合要素の作動油圧を第1の変速制御を中止する際の制御油圧から第2の変速制御を開始する際の制御油圧へ瞬時にステップ的に変化させるようにしたものがある。
特開2002−89692号公報(第8頁〜第9頁、第8図等)
しかし、上記特許文献1の技術では、第1の変速制御の途中で目標変速段が変更されて第2の変速制御を実行する多重変速制御の際に、摩擦係合要素の作動油圧を第1の変速制御を中止する際の制御油圧から第2の変速制御を開始する際の制御油圧へ瞬時にステップ的に変化させるため、摩擦係合要素の作動油圧をステップ的に変化させるタイミングが、変速による車両加速度の変化が始まるタイミングに重なると、大きな変速ショックが発生する可能性がある。
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、従って本発明の目的は、多重変速制御の際の変速ショックを低減しながら多重変速制御を速やかに実行することができる自動変速機の制御装置を提供することにある。
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、複数の摩擦係合要素に作用させる油圧を個別に制御することで、各摩擦係合要素の係合と解放を選択的に切り換えて、変速機構の変速段を切り換える自動変速機の制御装置において、変速機構の変速段を第1の目標変速段に切り換える第1の変速制御の途中で新たな変速段切り換え要求が発生して変速機構の変速段を第2の目標変速段に切り換える第2の変速制御を実行する際に、摩擦係合要素の制御油圧を第1の変速制御を中止する際の制御油圧から第2の変速制御を開始する際の制御油圧へ滑らかに変化させる受け渡し制御を受け渡し制御手段により実行するようにしたものである。
この構成では、第1の変速制御の途中で新たな変速段切り換え要求が発生して第2の変速制御を実行する多重変速制御の際に、多重変速制御に関係する摩擦係合要素の制御油圧を第1の変速制御を中止する際の制御油圧から第2の変速制御を開始する際の制御油圧へ滑らかに変化させる受け渡し制御を実行することができるため、多重変速制御の際の変速ショックを低減することができると共に、変速段切り換え要求に対して第2の変速制御を応答良く実行して多重変速制御を速やかに実行することができ、ドライバビリティを向上させることができる。
また、請求項2のように、変速段切り換え要求が発生したときに第1の変速制御の進行度合に応じて受け渡し制御の実施内容を決定するようにしても良い。つまり、第1の変速制御の進行度合によって摩擦係合要素の制御油圧が変化するため、変速段切り換え要求が発生したときの第1の変速制御の進行度合によって第1の変速制御を中止する際の制御油圧が変化して、第1の変速制御を中止する際の制御油圧と第2の変速制御を開始する際の制御油圧との偏差が変化する。従って、第1の変速制御の進行度合に応じて受け渡し制御の実施内容を決定すれば、第1の変速制御を中止する際の制御油圧と第2の変速制御を開始する際の制御油圧との偏差に応じた適正な受け渡し制御を実行することができ、変速段切り換え要求の発生タイミングに左右されずに多重変速制御の際の変速ショックを低減することができる。
この場合、請求項3のように、第1の変速制御の進行度合の情報として、該第1の変速制御が開始されてからの経過時間を用いるようにしても良い。第1の変速制御開始からの経過時間に応じて摩擦係合要素の制御油圧が変化して、第1の変速制御を中止する際の制御油圧と第2の変速制御を開始する際の制御油圧との偏差が変化するため、第1の変速制御開始からの経過時間に応じて受け渡し制御の実施内容を決定すれば、第1の変速制御を中止する際の制御油圧と第2の変速制御を開始する際の制御油圧との偏差に応じた適正な受け渡し制御を実行することができる。
また、請求項4のように、第1の変速制御の進行度合の情報として、該第1の変速制御の進行に伴って変化する制御フェーズ及び/又は該制御フェーズが開始されてからの経過時間を用いるようにしても良い。第1の変速制御の制御フェーズ(例えば、所定の摩擦係合要素の制御フェーズ)やその制御フェーズ開始からの経過時間を用いれば、摩擦係合要素の制御油圧や第1の変速制御の進行状況を精度良く把握することができるため、第1の変速制御の制御フェーズやその制御フェーズ開始からの経過時間に応じて受け渡し制御の実施内容を決定すれば、より適正な受け渡し制御を実行することができ、更に変速ショックを低減することができる。
更に、請求項5のように、第1の変速制御の進行度合の情報として、摩擦係合要素の制御油圧を用いるようにしても良い。このようにしても、第1の変速制御を中止する際の制御油圧と第2の変速制御を開始する際の制御油圧との偏差に応じた適正な受け渡し制御を実行することができる。
また、受け渡し制御の実施内容を決定する際には、例えば、請求項6のように、第1の変速制御の進行度合に応じて、受け渡し制御の実行時間を決定するようにしても良い。このようにすれば、第1の変速制御を中止する際の制御油圧と第2の変速制御を開始する際の制御油圧との偏差に応じて受け渡し制御の実行時間を変化させて、変速ショックを低減できる範囲内で受け渡し制御を速やかに完了できる適度な実行時間を設定することができる。
或は、請求項7のように、第1の変速制御の進行度合に応じて、受け渡し制御によって摩擦係合要素の制御油圧を変化させる際の油圧変化勾配を決定するようにしても良い。このようにすれば、第1の変速制御を中止する際の制御油圧と第2の変速制御を開始する際の制御油圧との偏差に応じて受け渡し制御の際の油圧変化勾配を変化させて、変速ショックを低減できる範囲内で受け渡し制御を速やかに完了できる適度な油圧変化勾配を設定することができる。
また、請求項8のように、受け渡し制御の際に、摩擦係合要素の制御油圧を複数種類の制御フェーズで変化させるようにしても良い。具体的には、請求項9のように、変速機の入力軸回転速度の変化及び/又は車両加速度の変化が発生している場合に摩擦係合要素の制御油圧を緩やかな第1の油圧変化勾配で変化させる処理を実行し、変速機の入力軸回転速度の変化及び/又は車両加速度の変化が発生していない場合に摩擦係合要素の制御油圧を第1の油圧変化勾配よりも急な第2の油圧変化勾配で変化させる処理を実行するようにすると良い。
つまり、変速機の入力軸回転速度の変化や車両加速度の変化が発生している場合に、摩擦係合要素の制御油圧を急変化させると、大きな変速ショックが発生する可能性があるため、変速機の入力軸回転速度の変化や車両加速度の変化が発生している場合に、摩擦係合要素の制御油圧を緩やかな第1の油圧変化勾配で変化させる処理を実行することで、大きな変速ショックが発生することを防止でき、変速機の入力軸回転速度の変化や車両加速度の変化が発生していない場合に、摩擦係合要素の制御油圧を第1の油圧変化勾配よりも急な第2の油圧変化勾配で変化させる処理を実行することで、受け渡し制御を速やかに完了して多重変速制御の応答性を確保することができる。
この場合、請求項10のように、変速機の入力軸回転速度の変化及び/又は車両加速度の変化が発生していない場合、その状態が所定期間継続した後に摩擦係合要素の制御油圧を第2の油圧変化勾配で変化させる処理を実行するようにしても良い。このようにすれば、変速機の入力軸回転速度の変化や車両加速度の変化が発生していない場合でも、その状態が所定期間継続して、変速機の入力軸回転速度や車両加速度が安定していることを確認してから摩擦係合要素の制御油圧を第1の油圧変化勾配よりも急な第2の油圧変化勾配で変化させる処理を実行することができ、大きな変速ショックが発生することを確実に防止できる。
以下、本発明を実施するための最良の形態を具体化した幾つかの実施例を説明する。
本発明の実施例1を図1乃至図7に基づいて説明する。
まず、図1及び図2に基づいて自動変速機11の概略構成を説明する。
図2に示すように、エンジン(図示せず)の出力軸には、トルクコンバータ12の入力軸13が連結され、このトルクコンバータ12の出力軸14に、油圧駆動式の変速歯車機構15(変速機構)が連結されている。トルクコンバータ12の内部には、流体継手を構成するポンプインペラ31とタービンランナ32が対向して設けられ、ポンプインペラ31とタービンランナ32との間には、オイルの流れを整流するステータ33が設けられている。ポンプインペラ31は、トルクコンバータ12の入力軸13に連結され、タービンランナ32は、トルクコンバータ12の出力軸14に連結されている。
また、トルクコンバータ12には、入力軸13側と出力軸14側との間を係合又は切り離しするためのロックアップクラッチ16が設けられている。エンジンの出力トルクは、トルクコンバータ12を介して変速歯車機構15に伝達され、変速歯車機構15の複数のギヤ(遊星歯車等)で変速されて、車両の駆動輪(前輪又は後輪)に伝達される。
変速歯車機構15には、複数の変速段を切り換えるための摩擦係合要素である複数のクラッチC0,C1,C2とブレーキB0,B1が設けられ、図3に示すように、これら各クラッチC0,C1,C2と各ブレーキB0,B1の係合/解放を油圧で切り換えて、動力を伝達するギヤの組み合わせを切り換えることによって変速比を切り換えるようになっている。
尚、図3は4速自動変速機のクラッチC0,C1,C2とブレーキB0,B1の係合の組合せを示すもので、○印はその変速段で係合状態(トルク伝達状態)に保持されるクラッチとブレーキを示し、無印は解放状態を示している。例えば、Dレンジのスロットル踏み込み状態では、車速が上がるにつれて、1速、2速、3速、4速へとアップシフトしていく。1速から2速への変速では、C0及びB0の係合からB0を解放し、新たにB1を係合する。2速から3速への変速では、C0及びB1の係合からB1を解放し、新たにC2を係合する。3速から4速への変速では、C0及びC2の係合からC0を解放し、新たにB1を係合する。
図1に示すように、変速歯車機構15には、エンジン動力で駆動される油圧ポンプ18が設けられ、作動油(オイル)を貯溜するオイルパン(図示せず)内には、油圧制御回路17が設けられている。この油圧制御回路17は、ライン圧制御回路19、自動変速制御回路20、ロックアップ制御回路21、手動切換弁26等から構成され、オイルパンから油圧ポンプ18で汲み上げられた作動油がライン圧制御回路19を介して自動変速制御回路20とロックアップ制御回路21に供給される。ライン圧制御回路19には、油圧ポンプ18からの油圧を所定のライン圧に制御するライン圧制御用の油圧制御弁(図示せず)が設けられ、自動変速制御回路20には、変速歯車機構15の各クラッチC0,C1,C2と各ブレーキB0,B1に供給する油圧を制御する複数の変速用の油圧制御弁(図示せず)が設けられている。また、ロックアップ制御回路21には、ロックアップクラッチ16に供給する油圧を制御するロックアップ制御用の油圧制御弁(図示せず)が設けられている。
また、ライン圧制御回路19と自動変速制御回路20との間には、シフトレバー25の操作に連動して切り換えられる手動切換弁26が設けられている。シフトレバー25がニュートラルレンジ(Nレンジ)又はパーキングレンジ(Pレンジ)に操作されているときには、自動変速制御回路20の油圧制御弁への通電が停止(OFF)された状態になっていても、手動切換弁26によって変速歯車機構15に供給する油圧が変速歯車機構15をニュートラル状態とするように切り換えられる。
一方、エンジンには、エンジン回転速度Neを検出するエンジン回転速度センサ27が設けられ、変速歯車機構15には、変速歯車機構15の入力軸回転速度Nt(トルクコンバータ12の出力軸回転速度)を検出する入力軸回転速度センサ28と、変速歯車機構15の出力軸回転速度Noを検出する出力軸回転速度センサ29が設けられている。
これら各種センサの出力信号は、自動変速機電子制御回路(以下「AT−ECU」と表記する)30に入力される。このAT−ECU30は、マイクロコンピュータを主体として構成され、内蔵されたROM(記憶媒体)に記憶された各プログラムを実行することで、予め設定した変速パターンに従って変速歯車機構15の変速が行われるように、シフトレバー25の操作位置や運転条件(スロットル開度、車速等)に応じて発生する変速段切り換え要求(目標変速段の切り換え要求)に応じて自動変速制御回路20の各油圧制御弁への通電を制御して、変速歯車機構15の各クラッチC0,C1,C2と各ブレーキB0,B1に作用させる油圧を制御することによって、図3に示すように、各クラッチC0,C1,C2と各ブレーキB0,B1の係合/解放を切り換えて、動力を伝達するギヤの組み合わせを切り換えることで、変速歯車機構15の変速比を切り換える。また、変速歯車機構15の変速段切り換え中に新たな変速段切り換え要求が発生して目標変速段が新たな目標変速段に変更された場合には、変速歯車機構15の変速段を新たな目標変速段に切り換える多重変速制御を行う。
以下、図4を用いて変速歯車機構15の変速段を切り換える際の変速制御(油圧制御)を、変速段を2速から3速に切り換える場合を例に挙げて説明する。
図4に示すように、変速段切り換え要求に応じて目標変速段が2速から3速に変更されて変速歯車機構15の変速段を2速から3速へ切り換える場合には、クラッチC2に作動油を充填してクラッチC2を解放状態から係合状態に切り換える油圧制御を実行すると共に、ブレーキB1から作動油を排出してブレーキB1を係合状態から解放状態に切り換える油圧制御を実行する。また、クラッチC0は係合状態に保持する。
図4に実線で示すように、クラッチC2の油圧制御では、目標変速段が2速から3速に変更された時点t0 で、急速充填制御(Phase1)を実行して、クラッチC2の油圧指令値を所定の充填油圧に設定することで、クラッチC2に作動油を充填する。この後、定圧制御(Phase2)を実行して、クラッチC2の油圧指令値を所定の待機油圧まで低下させて一定時間保持することで、クラッチC2に作用する油圧をトルク相開始時期付近で安定的に収束させた後、スイープ制御(Phase3)を実行して、クラッチC2の油圧指令値を徐々に増加させることで、クラッチC2のトルク容量が変速に必要なトルク容量となるまでクラッチC2に作用する油圧を徐々に増加させる。この後、フィードバック制御(Phase4)を実行して、変速中の入力軸回転速度変化を所定値に保持するようにクラッチC2に作用する油圧をフィードバック制御し、変速終期にはショック無く変速を完了させるための終了時制御(Phase5)を実行する。
また、図4に破線で示すように、ブレーキB1の油圧制御では、目標変速段が2速から3速に変更された時点t0 で、ブレーキB1の油圧指令値を初期油圧まで低下させた後、ブレーキB1の油圧指令値を低下させて、ブレーキB1から作動油を排出する。これにより、ブレーキB1の係合力が低下してブレーキB1のトルク伝達容量が低下する。更に、図4に二点鎖線で示すように、クラッチC0の油圧制御では、クラッチC0の油圧指令値を所定の保持油圧に設定して、クラッチC0を係合状態に保持する。
次に、図5に示すように、変速歯車機構15の変速段を2速から3速に切り換える第1の変速制御の途中で新たな変速段切り換え要求が発生して目標変速段が3速(第1の目標変速段)から4速(第2の目標変速段)に変更された場合には、第1の変速制御の途中で中止して変速歯車機構15の変速段を新たな目標変速段である4速へ切り換える第2の変速制御を実行する多重変速制御を行う。
この第2の変速制御では、図5に実線で示すように、第1の変速制御で係合状態に切り換える途中のクラッチC2を引き続き係合状態に切り換える油圧制御を実行するが、その油圧制御を、例えばクラッチC2の油圧指令値を定圧制御(Phase2)の待機油圧に制御する時点から開始する。また、図5に破線で示すように、第1の変速制御で解放状態に切り換える途中のブレーキB1を係合状態に戻す油圧制御を実行するが、その油圧制御を、例えばブレーキB1の油圧指令値を保持油圧に制御する時点から開始する。更に、図5に二点鎖線で示すように、クラッチC0を係合状態から解放状態に切り換える油圧制御を実行するが、その油圧制御を、例えば解放直前の油圧に制御する時点から開始する。
ところで、第1の変速制御の途中で目標変速段が変更されて第2の変速制御を実行する多重変速制御の際に、多重変速制御に関係する各摩擦係合要素(クラッチC2、ブレーキB1、クラッチC0)の油圧指令値を第1の変速制御を中止する際の油圧指令値から第2の変速制御を開始する際の油圧指令値へ瞬時にステップ的に変化させると、大きな変速ショックが発生する可能性がある。
そこで、AT−ECU30は、図5に示すように、第1の変速制御の途中で目標変速段が変更されて第2の変速制御を実行する多重変速制御の際に、多重変速制御に関係する各摩擦係合要素(クラッチC2、ブレーキB1、クラッチC0)の油圧指令値を第1の変速制御を中止する際の油圧指令値から第2の変速制御を開始する際の油圧指令値へ滑らかに変化させて受け渡す受け渡し制御を実行する。
本実施例1では、第1の変速制御中に変速段切り換え要求が発生して目標変速段が変更されたときに、第1の変速制御の進行度合の情報として第1の変速制御が開始されてからの経過時間を検出して、この第1の変速制御開始からの経過時間に応じて受け渡し制御の実行時間を決定し、この実行時間で、多重変速制御に関係する各摩擦係合要素(クラッチC2、ブレーキB1、クラッチC0)の油圧指令値を第1の変速制御を中止する際の油圧指令値から第2の変速制御を開始する際の油圧指令値へ滑らかに変化させるようにしている。
第1の変速制御開始からの経過時間に応じて摩擦係合要素の油圧指令値が変化して、第1の変速制御を中止する際の油圧指令値と第2の変速制御を開始する際の油圧指令値との偏差が変化するため、第1の変速制御開始からの経過時間に応じて受け渡し制御の実行時間を決定すれば、第1の変速制御を中止する際の油圧指令値と第2の変速制御を開始する際の油圧指令値との偏差に応じて受け渡し制御の実行時間を変化させて、変速ショックを低減できる範囲内で受け渡し制御を速やかに完了できる適度な実行時間を設定することができる。
以上説明した本実施例1の変速制御は、AT−ECU30によって図6の変速制御プログラムに従って実行される。以下、図6の変速制御プログラムの処理内容を説明する。
[変速制御プログラム]
図6に示す変速制御プログラムは、AT−ECU30の電源オン中に所定周期で実行される。本プログラムが起動されると、まず、ステップ101で、変速段切り換え要求に応じて目標変速段が変更されて変速指令が出力されているか否かを判定し、変速指令が出力されていないと判定された場合には、ステップ109に進み、定常時油圧制御を実行して、変速歯車機構15の変速段を現在の目標変速段に保持するように各摩擦係合要素の油圧を制御する。
一方、上記ステップ101で、変速指令が出力されていると判定された場合には、ステップ102に進み、受け渡し制御の実行開始条件が成立しているか否かを、例えば、次の(1) 〜(3) の条件を全て満たすか否かによって判定する。
(1) 変速制御の途中で新たな変速段切り換え要求が発生して目標変速段が第1の目標変速段から第2の目標変速段に変更された状態であること
(2) 変速段の切換許可期間内(例えば、アップシフトの場合、変速歯車機構15の入力軸回転速度Ntが変化する前の期間内)であること
(3) 受け渡し制御実施フラグがオフであること
これら(1) 〜(3) の条件を全て満たせば、受け渡し制御の実行開始条件が成立するが、上記(1) 〜(3) の条件のうちのいずれか1つでも満たさない条件があれば、受け渡し制御の実行開始条件が不成立となる。
このステップ102で、受け渡し制御の実行開始条件が成立していると判定されれば、ステップ103に進み、受け渡し制御実施フラグをオンにセットすると共に、変速歯車機構15の変速段を第1の目標変速段に切り換える第1の変速制御の進行度合の情報として、第1の変速制御開始からの経過時間を検出してAT−ECU30のメモリに記憶する。
この後、ステップ104に進み、受け渡し制御実施フラグがオンにセットされているか否かを判定する。まだ受け渡し制御の実行開始条件が成立していない場合には、受け渡し制御実施フラグがオフとなっているため、このステップ104で「No」と判定されて、ステップ110に進み、変速時油圧制御を実行して、変速歯車機構15の変速段を第1の目標変速段に切り換える第1の変速制御を実行するように各摩擦係合要素の油圧を制御する。
その後、受け渡し制御の実行開始条件が成立して、受け渡し制御実施フラグがオンにセットされたときに、上記ステップ104で「Yes」と判定されて、ステップ105に進み、図7に示す受け渡し制御の実行時間のマップを参照して、第1の変速制御開始からの経過時間に応じた受け渡し制御の実行時間を算出する。図7に示す受け渡し制御の実行時間のマップは、受け渡し制御の実行時間が所定の上限値に到達するまでは、第1の変速制御開始からの経過時間が長くなるほど受け渡し制御の実行時間が長くなって、多重変速制御に関係する摩擦係合要素の油圧指令値が緩やかに変化するように設定されている。尚、第1の変速制御開始からの経過時間に応じた受け渡し制御の実行時間を数式により算出するようにしても良い。
この後、ステップ106に進み、上記ステップ105で設定した受け渡し制御の実行時間で、多重変速制御に関係する各摩擦係合要素の油圧指令値を第1の変速制御を中止する際の油圧指令値から第2の変速制御を開始する際の油圧指令値へ滑らかに変化させて受け渡す受け渡し制御を実行する。これらのステップ105、106の処理が特許請求の範囲でいう受け渡し制御手段としての役割を果たす。
この後、ステップ107に進み、受け渡し制御が完了したか否かを、例えば、多重変速制御に関係する各摩擦係合要素の油圧指令値が第2の変速制御を開始する際の油圧指令値まで変化したか否かによって判定し、受け渡し制御が完了したと判定されたときに、ステップ108に進み、受け渡し制御実施フラグをオフにリセットする。
この後、上記ステップ104で「No」と判定されて、ステップ110に進み、変速時油圧制御を実行して、変速歯車機構15の変速段を第2の目標変速段に切り換える第2の変速制御を実行するように各摩擦係合要素の油圧を制御する。
以上説明した本実施例1では、第1の変速制御の途中で新たな変速段切り換え要求が発生して第2の変速制御を実行する多重変速制御の際に、多重変速制御に関係する各摩擦係合要素の油圧指令値を第1の変速制御を中止する際の油圧指令値から第2の変速制御を開始する際の油圧指令値へ滑らかに変化させる受け渡し制御を実行するようにしたので、多重変速制御の際の変速ショックを低減することができると共に、変速段切り換え要求に対して第2の変速制御を応答良く実行して多重変速制御を速やかに実行することができ、ドライバビリティを向上させることができる。
また、本実施例1では、第1の変速制御開始からの経過時間に応じて摩擦係合要素の油圧指令値が変化して、第1の変速制御を中止する際の油圧指令値と第2の変速制御を開始する際の油圧指令値との偏差が変化することに着目して、第1の変速制御中に変速段切り換え要求が発生したときに、第1の変速制御の進行度合の情報として、第1の変速制御開始からの経過時間を検出し、この第1の変速制御開始からの経過時間に応じて受け渡し制御の実行時間を決定するようにしたので、第1の変速制御を中止する際の制御油圧と第2の変速制御を開始する際の制御油圧との偏差に応じて受け渡し制御の実行時間を変化させて、変速ショックを低減できる範囲内で受け渡し制御を速やかに完了できる適度な実行時間を設定することができる。
次に、図8を用いて本発明の実施例2を説明する。
本実施例2では、後述する図8の変速制御プログラムを実行することで、第1の変速制御中に変速段切り換え要求が発生して目標変速段が変更されたときに、第1の変速制御の進行度合の情報として、所定の摩擦係合要素(例えば、第1の変速制御で係合状態に切り換えるクラッチC2)の油圧指令値を検出して、この所定の摩擦係合要素の油圧指令値に応じて受け渡し制御の実行時間を決定し、この実行時間で、多重変速制御に関係する各摩擦係合要素(クラッチC2、ブレーキB1、クラッチC0)の油圧指令値を第1の変速制御を中止する際の油圧指令値から第2の変速制御を開始する際の油圧指令値へ滑らかに変化させる受け渡し制御を実行するようにしている。
図8に示す変速制御プログラムでは、変速指令中に受け渡し制御の実行開始条件が成立しているか否かを判定し(ステップ101、102)、受け渡し制御の実行開始条件が成立していると判定されたときに、ステップ103aに進み、受け渡し制御実施フラグをオンにセットすると共に、第1の変速制御の進行度合の情報として、所定の摩擦係合要素(例えば、第1の変速制御で係合状態に切り換える摩擦係合要素)の油圧指令値を検出してAT−ECU30のメモリに記憶する。
この後、ステップ104で、受け渡し制御実施フラグがオンにセットされていると判定されたときに、ステップ105aに進み、図7に示す受け渡し制御の実行時間のマップを参照して、所定の摩擦係合要素の油圧指令値に応じた受け渡し制御の実行時間を算出する。尚、所定の摩擦係合要素の油圧指令値に応じた受け渡し制御の実行時間を数式により算出するようにしても良い。
この後、ステップ106に進み、上記ステップ105aで設定した受け渡し制御の実行時間で、多重変速制御に関係する各摩擦係合要素の油圧指令値を第1の変速制御を中止する際の油圧指令値から第2の変速制御を開始する際の油圧指令値へ滑らかに変化させて受け渡す受け渡し制御を実行する。この後、受け渡し制御が完了したと判定されたときに、受け渡し制御実施フラグをオフにリセットする(ステップ107、108)。
以上説明した本実施例2においても、前記実施例1とほぼ同様の効果を得ることができる。
次に、図9及び図10を用いて本発明の実施例3を説明する。
本実施例3では、後述する図10の変速制御プログラムを実行することで、図9のタイムチャートに示すように、第1の変速制御中に変速段切り換え要求が発生して目標変速段が変更されたときに、第1の変速制御の進行度合の情報として、所定の摩擦係合要素(例えば、第1の変速制御で係合状態に切り換えるクラッチC2)の制御フェーズ(例えば、急速充填制御、定圧制御、スイープ制御、フィードバック制御、終了時制御)と該制御フェーズが開始されてからの経過時間を検出して、所定の摩擦係合要素の制御フェーズと該制御フェーズ開始からの経過時間に応じて受け渡し制御の実行時間を決定し、この実行時間で、多重変速制御に関係する各摩擦係合要素(クラッチC2、ブレーキB1、クラッチC0)の油圧指令値を第1の変速制御を中止する際の油圧指令値から第2の変速制御を開始する際の油圧指令値へ滑らかに変化させる受け渡し制御を実行するようにしている。
図10に示す変速制御プログラムでは、変速指令中に受け渡し制御の実行開始条件が成立しているか否かを判定し(ステップ101、102)、受け渡し制御の実行開始条件が成立していると判定されたときに、ステップ103bに進み、受け渡し制御実施フラグをオンにセットすると共に、第1の変速制御の進行度合の情報として、所定の摩擦係合要素(例えば、第1の変速制御で係合状態に切り換える摩擦係合要素)の制御フェーズ(例えば、急速充填制御、定圧制御、スイープ制御、フィードバック制御、終了時制御)と、その制御フェーズが開始されてからの経過時間を検出してAT−ECU30のメモリに記憶する。
この後、ステップ104で、受け渡し制御実施フラグがオンにセットされていると判定されたときに、ステップ105bに進み、受け渡し制御の実行時間のマップ(図示せず)を参照して、所定の摩擦係合要素の制御フェーズとその制御フェーズ開始からの経過時間とに応じた受け渡し制御の実行時間を算出する。この場合、受け渡し制御の実行時間のマップは、摩擦係合要素の制御フェーズ毎に該制御フェーズ開始からの経過時間に応じた受け渡し制御の実行時間が設定されている。尚、摩擦係合要素の制御フェーズとその制御フェーズ開始からの経過時間とに応じた受け渡し制御の実行時間を数式により算出するようにしても良い。
この後、ステップ106に進み、上記ステップ105bで設定した受け渡し制御の実行時間で、多重変速制御に関係する各摩擦係合要素の油圧指令値を第1の変速制御を中止する際の油圧指令値から第2の変速制御を開始する際の油圧指令値へ滑らかに変化させて受け渡す受け渡し制御を実行する。この後、受け渡し制御が完了したと判定されたときに、受け渡し制御実施フラグをオフにリセットする(ステップ107、108)。
以上説明した本実施例3では、摩擦係合要素の制御フェーズやその制御フェーズ開始からの経過時間を用いれば、摩擦係合要素の油圧指令値や第1の変速制御の進行状況を精度良く把握することができることに着目して、第1の変速制御の進行度合の情報として、所定の摩擦係合要素の制御フェーズと該制御フェーズ開始からの経過時間を検出し、所定の摩擦係合要素の制御フェーズと該制御フェーズ開始からの経過時間に応じて受け渡し制御の実行時間を決定するようにしたので、より適正な受け渡し制御を実行することができ、更に変速ショックを低減することができる。
尚、上記実施例3では、所定の摩擦係合要素の制御フェーズと該制御フェーズ開始からの経過時間に応じて受け渡し制御の実行時間を決定するようにしたが、所定の摩擦係合要素の制御フェーズと該制御フェーズ開始からの経過時間のうちの一方に応じて受け渡し制御の実行時間を決定するようにしても良い。
次に、図11及び図12を用いて本発明の実施例4を説明する。
本実施例4では、後述する図11の変速制御プログラムを実行することで、第1の変速制御中に変速段切り換え要求が発生して目標変速段が変更されたときに、第1の変速制御の進行度合の情報として、第1の変速制御開始からの経過時間を検出して、この第1の変速制御開始からの経過時間に応じて受け渡し制御の油圧変化勾配を各摩擦係合要素毎に決定し、決定した油圧変化勾配で、各摩擦係合要素の油圧指令値を第1の変速制御を中止する際の油圧指令値から第2の変速制御を開始する際の油圧指令値へ滑らかに変化させる受け渡し制御を実行するようにしている。
図11に示す変速制御プログラムでは、変速指令中に受け渡し制御の実行開始条件が成立しているか否かを判定し(ステップ201、202)、受け渡し制御の実行開始条件が成立していると判定されたときに、ステップ203に進み、受け渡し制御実施フラグをオンにセットすると共に、第1の変速制御の進行度合の情報として、第1の変速制御開始からの経過時間を検出してAT−ECU30のメモリに記憶する。
この後、ステップ204で、受け渡し制御実施フラグがオンにセットされていると判定されたときに、ステップ205に進み、図12に示す受け渡し制御の油圧変化勾配のマップを参照して、第1の変速制御開始からの経過時間に応じた受け渡し制御の油圧変化勾配を算出する。図12に示す受け渡し制御の油圧変化勾配のマップは、第1の変速制御開始からの経過時間が長くなるほど受け渡し制御の油圧変化勾配が小さくなって、多重変速制御に関係する摩擦係合要素の油圧指令値が緩やかに変化するように設定されている。尚、第1の変速制御開始からの経過時間に応じた受け渡し制御の油圧変化勾配を数式により算出するようにしても良い。
この後、ステップ206に進み、上記ステップ205で設定した受け渡し制御の油圧変化勾配で、多重変速制御に関係する各摩擦係合要素の油圧指令値を第1の変速制御を中止する際の油圧指令値から第2の変速制御を開始する際の油圧指令値へ滑らかに変化させて受け渡す受け渡し制御を実行する。この後、受け渡し制御が完了したと判定されたときに、受け渡し制御実施フラグをオフにリセットする(ステップ207、208)。
以上説明した本実施例4では、第1の変速制御の進行度合の情報として、第1の変速制御開始からの経過時間を検出し、第1の変速制御開始からの経過時間に応じて受け渡し制御の油圧変化勾配を決定するようにしたので、第1の変速制御を中止する際の制御油圧と第2の変速制御を開始する際の制御油圧との偏差に応じて受け渡し制御の油圧変化勾配を変化させて、変速ショックを低減できる範囲内で受け渡し制御を速やかに完了できる適度な油圧変化勾配を設定することができる。
次に、図13を用いて本発明の実施例5を説明する。
本実施例5では、後述する図13の変速制御プログラムを実行することで、第1の変速制御中に変速段切り換え要求が発生して目標変速段が変更されたときに、第1の変速制御の進行度合の情報として、所定の摩擦係合要素(例えば、第1の変速制御で係合状態に切り換えるクラッチC2)の油圧指令値を検出して、この所定の摩擦係合要素の油圧指令値に応じて受け渡し制御の油圧変化勾配を各摩擦係合要素毎に決定し、決定した油圧変化勾配で、各摩擦係合要素の油圧指令値を第1の変速制御を中止する際の油圧指令値から第2の変速制御を開始する際の油圧指令値へ滑らかに変化させる受け渡し制御を実行するようにしている。
図13に示す変速制御プログラムでは、変速指令中に受け渡し制御の実行開始条件が成立しているか否かを判定し(ステップ201、202)、受け渡し制御の実行開始条件が成立していると判定されたときに、ステップ203aに進み、受け渡し制御実施フラグをオンにセットすると共に、第1の変速制御の進行度合の情報として、所定の摩擦係合要素(例えば、第1の変速制御で係合状態に切り換える摩擦係合要素)の油圧指令値を検出してAT−ECU30のメモリに記憶する。
この後、ステップ204で、受け渡し制御実施フラグがオンにセットされていると判定されたときに、ステップ205aに進み、図12に示す受け渡し制御の油圧変化勾配のマップを参照して、所定の摩擦係合要素の油圧指令値に応じた受け渡し制御の油圧変化勾配を算出する。尚、所定の摩擦係合要素の油圧指令値に応じた受け渡し制御の油圧変化勾配を数式により算出するようにしても良い。
この後、ステップ206に進み、上記ステップ205aで設定した受け渡し制御の油圧変化勾配で、多重変速制御に関係する各摩擦係合要素の油圧指令値を第1の変速制御を中止する際の油圧指令値から第2の変速制御を開始する際の油圧指令値へ滑らかに変化させて受け渡す受け渡し制御を実行する。この後、受け渡し制御が完了したと判定されたときに、受け渡し制御実施フラグをオフにリセットする(ステップ207、208)。
以上説明した本実施例5においても、前記実施例4とほぼ同様の効果を得ることができる。
次に、図14を用いて本発明の実施例6を説明する。
本実施例6では、後述する図14の変速制御プログラムを実行することで、第1の変速制御中に変速段切り換え要求が発生して目標変速段が変更されたときに、第1の変速制御の進行度合の情報として、所定の摩擦係合要素(例えば、第1の変速制御で係合状態に切り換えるクラッチC2)の制御フェーズ(例えば、急速充填制御、定圧制御、スイープ制御、フィードバック制御、終了時制御)と該制御フェーズが開始されてからの経過時間を検出して、所定の摩擦係合要素の制御フェーズと該制御フェーズ開始からの経過時間に応じて受け渡し制御の油圧変化勾配を各摩擦係合要素毎に決定し、決定した油圧変化勾配で、各摩擦係合要素の油圧指令値を第1の変速制御を中止する際の油圧指令値から第2の変速制御を開始する際の油圧指令値へ滑らかに変化させる受け渡し制御を実行するようにしている。
図14に示す変速制御プログラムでは、変速指令中に受け渡し制御の実行開始条件が成立しているか否かを判定し(ステップ201、202)、受け渡し制御の実行開始条件が成立していると判定されたときに、ステップ203bに進み、受け渡し制御実施フラグをオンにセットすると共に、第1の変速制御の進行度合の情報として、所定の摩擦係合要素(例えば、第1の変速制御で係合状態に切り換える摩擦係合要素)の制御フェーズ(例えば、急速充填制御、定圧制御、スイープ制御、フィードバック制御、終了時制御)と、その制御フェーズが開始されてからの経過時間を検出してAT−ECU30のメモリに記憶する。
この後、ステップ204で、受け渡し制御実施フラグがオンにセットされていると判定されたときに、ステップ205bに進み、受け渡し制御の油圧変化勾配のマップ(図示せず)を参照して、所定の摩擦係合要素の制御フェーズとその制御フェーズ開始からの経過時間とに応じた受け渡し制御の油圧変化勾配を算出する。この場合、受け渡し制御の油圧変化勾配のマップは、摩擦係合要素の制御フェーズ毎に該制御フェーズ開始からの経過時間に応じた受け渡し制御の油圧変化勾配が設定されている。尚、摩擦係合要素の制御フェーズとその制御フェーズ開始からの経過時間とに応じた受け渡し制御の油圧変化勾配を数式により算出するようにしても良い。
この後、ステップ206に進み、上記ステップ205bで設定した受け渡し制御の油圧変化勾配で、多重変速制御に関係する各摩擦係合要素の油圧指令値を第1の変速制御を中止する際の油圧指令値から第2の変速制御を開始する際の油圧指令値へ滑らかに変化させて受け渡す受け渡し制御を実行する。この後、受け渡し制御が完了したと判定されたときに、受け渡し制御実施フラグをオフにリセットする(ステップ207、208)。
以上説明した本実施例6では、第1の変速制御の進行度合の情報として、所定の摩擦係合要素の制御フェーズと該制御フェーズ開始からの経過時間を検出し、所定の摩擦係合要素の制御フェーズと該制御フェーズ開始からの経過時間に応じて受け渡し制御の油圧変化勾配を決定するようにしたので、より適正な受け渡し制御を実行することができ、更に変速ショックを低減することができる。
尚、上記実施例6では、所定の摩擦係合要素の制御フェーズと該制御フェーズ開始からの経過時間に応じて受け渡し制御の油圧変化勾配を決定するようにしたが、所定の摩擦係合要素の制御フェーズと該制御フェーズ開始からの経過時間のうちの一方に応じて受け渡し制御の油圧変化勾配を決定するようにしても良い。
次に、図15及び図16を用いて本発明の実施例7を説明する。
本実施例7では、後述する図16の変速制御プログラムを実行することで、図15のタイムチャートに示すように、第1の変速制御中に変速段切り換え要求が発生して目標変速段が変更されたときに、第1の変速制御開始からの経過時間に応じて受け渡し制御の安定時の油圧変化勾配を各摩擦係合要素毎に決定する。そして、受け渡し制御を実行する際に、変速歯車機構15の入力軸回転速度Ntの変化が発生している場合には、各摩擦係合要素の油圧指令値を安定時の油圧変化勾配よりも緩やかな非安定時の油圧変化勾配で変化させる処理を実行し、その後、入力軸回転速度Ntの変化が発生していない場合には、その状態が所定期間継続した後に、各摩擦係合要素の油圧指令値を非安定時の油圧変化勾配よりも急な安定時の油圧変化勾配で変化させる処理を実行する。この場合、非安定時の油圧変化勾配が第1の油圧変化勾配に相当し、安定時の油圧変化勾配が第2の油圧変化勾配に相当する。
図16に示す変速制御プログラムでは、変速指令中に受け渡し制御の実行開始条件が成立しているか否かを判定し(ステップ301、302)、受け渡し制御の実行開始条件が成立していると判定されたときに、ステップ303に進み、受け渡し制御実施フラグをオンにセットすると共に、第1の変速制御の進行度合の情報として、第1の変速制御開始からの経過時間を検出してAT−ECU30のメモリに記憶する。
この後、ステップ304で、受け渡し制御実施フラグがオンにセットされていると判定されたときに、ステップ305に進み、受け渡し制御の油圧変化勾配のマップ(図示せず)を参照して、第1の変速制御開始からの経過時間に応じた受け渡し制御の安定時の油圧変化勾配を算出する。尚、第1の変速制御開始からの経過時間に応じた受け渡し制御の安定時の油圧変化勾配を数式により算出するようにしても良い。
この後、ステップ306に進み、入力軸回転速度センサ28の出力に基づいて変速歯車機構15の入力軸回転速度Ntの変化が発生しているか否かを判定し、入力軸回転速度Ntの変化が発生していると判定された場合には、ステップ308に進み、上記ステップ305で設定した安定時の油圧変化勾配よりも緩やかな非安定時の油圧変化勾配で、各摩擦係合要素の油圧指令値を変化させる受け渡し制御を実行する。
一方、上記ステップ306で、入力軸回転速度Ntの変化が発生していないと判定された場合には、ステップ307に進み、入力軸回転速度Ntが安定した状態(入力軸回転速度Ntの変化が発生していない状態)が所定時間継続したか否かを判定し、入力軸回転速度Ntが安定した状態が所定時間継続したと判定されたときに、ステップ309に進み、上記ステップ305で設定した安定時の油圧変化勾配で、各摩擦係合要素の油圧指令値を変化させる受け渡し制御を実行する。
この後、受け渡し制御が完了したと判定されたときに、受け渡し制御実施フラグをオフにリセットする(ステップ310、311)。
以上説明した本実施例7では、受け渡し制御の際に、変速歯車機構15の入力軸回転速度Ntの変化が発生している場合に、摩擦係合要素の油圧指令値を急変化させると、大きな変速ショックが発生する可能性があることを考慮して、入力軸回転速度Ntの変化が発生している場合には、摩擦係合要素の油圧指令値を安定時の油圧変化勾配よりも緩やかな非安定時の油圧変化勾配で変化させるようにしたので、大きな変速ショックが発生することを防止でき、その後、入力軸回転速度Ntの変化が発生していない場合には、その状態が所定期間継続して入力軸回転速度が安定していることを確認してから、摩擦係合要素の油圧指令値を非安定時の油圧変化勾配よりも急な安定時の油圧変化勾配で変化させるようにしたので、大きな変速ショックが発生することを確実に防止しながら、受け渡し制御を速やかに完了して多重変速制御の応答性を確保することができる。
次に、図17を用いて本発明の実施例8を説明する。
本実施例8では、後述する図17の変速制御プログラムを実行することで、第1の変速制御中に変速段切り換え要求が発生して目標変速段が変更されたときに、所定の摩擦係合要素(例えば、第1の変速制御で係合状態に切り換えるクラッチC2)の油圧指令値に応じて受け渡し制御の安定時の油圧変化勾配を各摩擦係合要素毎に決定する。そして、受け渡し制御を実行する際に、変速歯車機構15の入力軸回転速度Ntの変化が発生している場合には、各摩擦係合要素の油圧指令値を安定時の油圧変化勾配よりも緩やかな非安定時の油圧変化勾配で変化させ、その後、入力軸回転速度Ntの変化が発生していない場合には、その状態が所定期間継続した後に、各摩擦係合要素の油圧指令値を非安定時の油圧変化勾配よりも急な安定時の油圧変化勾配で変化させるようにしている。
図17に示す変速制御プログラムでは、変速指令中に受け渡し制御の実行開始条件が成立しているか否かを判定し(ステップ301、302)、受け渡し制御の実行開始条件が成立していると判定されたときに、ステップ303aに進み、受け渡し制御実施フラグをオンにセットすると共に、第1の変速制御の進行度合の情報として、所定の摩擦係合要素(例えば、第1の変速制御で係合状態に切り換える摩擦係合要素)の油圧指令値を検出してAT−ECU30のメモリに記憶する。
この後、ステップ304で、受け渡し制御実施フラグがオンにセットされていると判定されたときに、ステップ305aに進み、受け渡し制御の油圧変化勾配のマップ(図示せず)を参照して、所定の摩擦係合要素の油圧指令値に応じた受け渡し制御の安定時の油圧変化勾配を算出する。尚、所定の摩擦係合要素の油圧指令値に応じた受け渡し制御の安定時の油圧変化勾配を数式により算出するようにしても良い。
この後、ステップ306に進み、変速歯車機構15の入力軸回転速度Ntの変化が発生しているか否かを判定し、入力軸回転速度Ntの変化が発生していると判定された場合には、上記ステップ305aで設定した安定時の油圧変化勾配よりも緩やかな非安定時の油圧変化勾配で、各摩擦係合要素の油圧指令値を変化させる受け渡し制御を実行する(ステップ308)。
一方、入力軸回転速度Ntの変化が発生していないと判定された場合には、入力軸回転速度Ntが安定した状態が所定時間継続したと判定された後に、上記ステップ305aで設定した安定時の油圧変化勾配で、各摩擦係合要素の油圧指令値を変化させる受け渡し制御を実行する(ステップ307、309)。
この後、受け渡し制御が完了したと判定されたときに、受け渡し制御実施フラグをオフにリセットする(ステップ310、311)。
以上説明した本実施例8においても、前記実施例7とほぼ同様の効果を得ることができる。
次に、図18を用いて本発明の実施例9を説明する。
本実施例9では、後述する図18の変速制御プログラムを実行することで、第1の変速制御中に変速段切り換え要求が発生して目標変速段が変更されたときに、所定の摩擦係合要素(例えば、第1の変速制御で係合状態に切り換えるクラッチC2)の制御フェーズ(例えば、急速充填制御、定圧制御、スイープ制御、フィードバック制御、終了時制御)と該制御フェーズ開始からの経過時間に応じて受け渡し制御の安定時の油圧変化勾配を各摩擦係合要素毎に決定する。そして、受け渡し制御を実行する際に、変速歯車機構15の入力軸回転速度Ntの変化が発生している場合には、各摩擦係合要素の油圧指令値を安定時の油圧変化勾配よりも緩やかな非安定時の油圧変化勾配で変化させ、その後、入力軸回転速度Ntの変化が発生していない場合には、その状態が所定期間継続した後に、各摩擦係合要素の油圧指令値を非安定時の油圧変化勾配よりも急な安定時の油圧変化勾配で変化させるようにしている。
図18に示す変速制御プログラムでは、変速指令中に受け渡し制御の実行開始条件が成立しているか否かを判定し(ステップ301、302)、受け渡し制御の実行開始条件が成立していると判定されたときに、ステップ303bに進み、受け渡し制御実施フラグをオンにセットすると共に、第1の変速制御の進行度合の情報として、所定の摩擦係合要素(例えば、第1の変速制御で係合状態に切り換える摩擦係合要素)の制御フェーズ(例えば、急速充填制御、定圧制御、スイープ制御、フィードバック制御、終了時制御)と、その制御フェーズが開始されてからの経過時間を検出してAT−ECU30のメモリに記憶する。
この後、ステップ304で、受け渡し制御実施フラグがオンにセットされていると判定されたときに、ステップ305bに進み、受け渡し制御の油圧変化勾配のマップ(図示せず)を参照して、所定の摩擦係合要素の制御フェーズとその制御フェーズ開始からの経過時間とに応じた受け渡し制御の安定時の油圧変化勾配を算出する。尚、摩擦係合要素の制御フェーズとその制御フェーズ開始からの経過時間とに応じた受け渡し制御の安定時の油圧変化勾配を数式により算出するようにしても良い。
この後、ステップ306に進み、変速歯車機構15の入力軸回転速度Ntの変化が発生しているか否かを判定し、入力軸回転速度Ntの変化が発生していると判定された場合には、上記ステップ305bで設定した安定時の油圧変化勾配よりも緩やかな非安定時の油圧変化勾配で、各摩擦係合要素の油圧指令値を変化させる受け渡し制御を実行する(ステップ308)。
一方、入力軸回転速度Ntの変化が発生していないと判定された場合には、入力軸回転速度Ntが安定した状態が所定時間継続したと判定された後に、上記ステップ305bで設定した安定時の油圧変化勾配で、各摩擦係合要素の油圧指令値を変化させる受け渡し制御を実行する(ステップ307、309)。
この後、受け渡し制御が完了したと判定されたときに、受け渡し制御実施フラグをオフにリセットする(ステップ310、311)。
以上説明した本実施例9では、第1の変速制御の進行度合の情報として、所定の摩擦係合要素の制御フェーズと該制御フェーズ開始からの経過時間を検出し、所定の摩擦係合要素の制御フェーズと該制御フェーズ開始からの経過時間に応じて受け渡し制御の安定時の油圧変化勾配を決定するようにしたので、より適正な受け渡し制御を実行することができ、更に変速ショックを低減することができる。
尚、上記実施例9では、所定の摩擦係合要素の制御フェーズと該制御フェーズ開始からの経過時間に応じて受け渡し制御の安定時の油圧変化勾配を決定するようにしたが、所定の摩擦係合要素の制御フェーズと該制御フェーズ開始からの経過時間のうちの一方に応じて受け渡し制御の安定時の油圧変化勾配を決定するようにしても良い。
また、上記各実施例7〜9では、2種類の油圧変化勾配(制御フェーズ)で受け渡し制御を実行するようにしたが、3種類以上の油圧変化勾配で受け渡し制御を実行するようにしても良い。
また、受け渡し制御を実行する際に、車両加速度の変化が発生している場合には、各摩擦係合要素の油圧指令値を安定時の油圧変化勾配よりも緩やかな非安定時の油圧変化勾配で変化させ、その後、車両加速度の変化が発生していない場合には、その状態が所定期間継続した後に、各摩擦係合要素の油圧指令値を非安定時の油圧変化勾配よりも急な安定時の油圧変化勾配で変化させるようにしても良い。
また、受け渡し制御を実行する際に、変速機のギヤ比の変化が発生している場合には、各摩擦係合要素の油圧指令値を安定時の油圧変化勾配よりも緩やかな非安定時の油圧変化勾配で変化させ、その後、変速機のギヤ比の変化が発生していない場合には、その状態が所定期間継続した後に、各摩擦係合要素の油圧指令値を非安定時の油圧勾配よりも急な安定時の油圧変化勾配で変化させるようにしても良い。
なお、実施例7から9では、受け渡す対象となる3つの摩擦係合要素の油圧指令値のすべてを複数の油圧変化勾配(制御フェーズ)で受け渡し制御を実行するようにしたが、例えば、回転数変化前の車両加速度変化を起こしているクラッチC2の指令圧と、第2変速制御用の油圧へ移動するだけで車両加速度の変化に関与しないクラッチC0の指令圧については、受け渡しの際、単一の勾配で受け渡し、第1の変速制御時の車両加速度に関与していながら、第2変速制御の際には、十分高圧とする必要があるブレーキB1の指令油圧のみ複数の油圧変化勾配で受け渡すことで、簡素なロジックとし、演算負荷を低減しても良い。
本発明の実施例1における自動変速機全体の概略構成図である。
自動変速機の機械的構成を模式的に示す図である。
各変速段毎のクラッチC0〜C2とブレーキB0,B1の係合/解放の組み合わせを示す図である。
通常の変速制御を説明するタイムチャートである。
実施例1の受け渡し制御を説明するタイムチャートである。
実施例1の変速制御プログラムの処理の流れを説明するフローチャートである。
受け渡し制御の実行時間のマップの一例を概念的に示す図である。
実施例2の変速制御プログラムの処理の流れを説明するフローチャートである。
実施例3の受け渡し制御を説明するタイムチャートである。
実施例3の変速制御プログラムの処理の流れを説明するフローチャートである。
実施例4の変速制御プログラムの処理の流れを説明するフローチャートである。
受け渡し制御の油圧変化勾配のマップの一例を概念的に示す図である。
実施例5の変速制御プログラムの処理の流れを説明するフローチャートである。
実施例6の変速制御プログラムの処理の流れを説明するフローチャートである。
実施例7の受け渡し制御を説明するタイムチャートである。
実施例7の変速制御プログラムの処理の流れを説明するフローチャートである。
実施例8の変速制御プログラムの処理の流れを説明するフローチャートである。
実施例9の変速制御プログラムの処理の流れを説明するフローチャートである。
符号の説明
11…自動変速機、12…トルクコンバータ、15…変速歯車機構(変速機構)、17…油圧制御回路、18…油圧ポンプ、20…自動変速制御回路、27…エンジン回転速度センサ、28…入力軸回転速度センサ、29…出力軸回転速度センサ、30…AT−ECU(受け渡し制御手段)、C0〜C2…クラッチ(摩擦係合要素)、B0,B1…ブレーキ(摩擦係合要素)