JP2008115470A - 疲労特性に優れた高強度オーステナイト系ステンレス鋼帯 - Google Patents

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郁也 黒崎
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Abstract

【課題】 疲労特性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼帯を提供する。
【解決手段】 750℃にて300秒間焼鈍した場合の平均結晶粒径が3μm以下、かつその標準偏差が2μm以下である、疲労特性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼帯。また、最終圧延後、および最終圧延後に歪取り焼鈍を施したオーステナイト系ステンレスについて、材料表層の引張残留応力が50MPa以下となる、疲労特性に優れたメタルドーム型スイッチ用オーステナイト系ステンレス鋼帯。
【選択図】 なし

Description

本発明は、各種電子機器部品、特に繰り返し荷重のかかる部位に使用されるコネクタ、及び接点に使用される部品等のばね性が必要な部品に好適なステンレス鋼帯に関する。
各種電子機器部品に使用されるコネクタ、及び接点に使用される部品等の基本的な特性として高強度でばね性が要求されており、その中でも、各種機器の押しボタンやスイッチ等のばねでは、繰り返し動作に対する耐久性が良好な材料が望まれている。メタルドーム型スイッチは携帯電話の押しボタン等に用いられるものである。
材料の耐久性を向上させることとして、その材料の疲労特性が改善することが重要であるがその手段のいくつかとしては、結晶粒径を微細化すること(例えば、非特許文献1参照。)、表層に圧縮残留応力を付与することなどがあげられる。圧縮残留応力を付与する方法として、最終圧延後にテンションアニール処理やストレスリリーフ処理等の熱処理を行う方法、ショットピーニングを施して表層に圧縮残留応力を付与する方法(例えば、特許文献1参照。)がある。
横堀武夫監訳、「金属の疲労破壊」、丸善株式会社、1970年6月30日、p.32−39 特願平11−222517号公報
従来の方法による結晶粒の微細化は、大きさが十分に小さくなっていない、あるいは、結晶粒の平均が小さくなってはいても、個々の結晶粒は大小が混在する場合が認められた。結晶粒の微細化により疲労特性が改善されるものの、その大きさ、および結晶粒のばらつきにより、効果が不十分な場合があり、また、疲労特性改善に必要な結晶粒の大きさの指標が不明であった。
材料に圧縮の残留応力を付与することは、疲労特性の改善に有効であることが知られているが、その手段としてのテンションアニール処理、ストレスリリーフ処理は、材料に熱を加えるため、圧延後に熱処理工程を追加することとなり、材料製造時のリードタイムとコストがかかる上、熱処理により耐力は圧延終了時の値より低下する。さらに熱処理温度が溶体化熱処理温度よりも低いため、特にステンレス鋼では鋭敏化の危険性がある。
一方、ショットピーニング等を施して材料表面に圧縮残留応力を付与する方法では、板厚が厚い材料においては有効な手段として工業的に利用されているが、箔の場合には、板厚が薄いために、本手法の適用は困難である。
本発明の目的は、各種ボタンやスイッチばね等において、繰り返し動作による耐久性が良好な箔の金属材料を提供することである。
本発明者らは、オーステナイト系ステンレス鋼帯の疲労特性向上の方法を鋭意研究した結果、以下の方法で高強度化、および疲労特性が向上することを見出した。
(a)750℃において300秒間焼鈍した場合の平均結晶粒径が3μm以下、かつその標準偏差が2μm以下である。
(b)最終圧延を施した、あるいは最終歪取り焼鈍を施した材料表面の引張残留応力が50MPa以下又は圧縮残留応力である。
すなわち、本発明は、
(1)750℃にて300秒間焼鈍した場合の平均結晶粒径が3μm以下、かつその標準偏差が2μm以下であることを特徴とする疲労特性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼帯、
(2)最終圧延を施した又は最終圧延後に歪取り焼鈍を施したオーステナイト系ステンレス鋼について、材料表層の残留応力が50MPa以下の引張残留応力または圧縮残留応力となることを特徴とする疲労特性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼帯、
(3)上記(1)及び(2)に記載の疲労特性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼帯、
(4)上記(1)〜(3)に記載の疲労特性に優れたコネクタ、あるいはスイッチなどの接点部品用オーステナイト系ステンレス鋼帯、
(5)上記(4)に記載の疲労特性に優れたメタルドーム型スイッチ用オーステナイト系ステンレス鋼帯、
である。
本発明は、各種電子機器部品、特に繰り返し荷重のかかる部位に使用されるコネクタ、及び接点に使用される部品等のばね性が必要な部品に好適な、ばね用ステンレス鋼帯について疲労特性の優れた材料である。
以下に限定の理由を説明する。
(1)再結晶焼鈍後の結晶
疲労特性を改善するためには、最終の再結晶焼鈍で結晶粒径を微細化した後に、最終圧延を行うと有効である。ただし、最終の再結晶焼鈍における結晶粒径、および、その後の最終圧延の組み合わせが疲労特性に影響するため、これらを制御する必要がある。これら最終の再結晶焼鈍と最終圧延の組み合わせについて、種々検討した。その結果、圧延、焼鈍の回数及びそれらの条件を最適化することにより、最終圧延後の材料を再結晶焼鈍した場合の平均結晶粒径、およびその標準偏差と疲労特性の間に相関が見られることを見出した。すなわち、疲労特性に顕著な改善が見られたのは、材料を750℃にて300秒間再結晶焼鈍した場合の平均結晶粒径3μm以下、かつその標準偏差が2μmの場合である。
(2)残留応力
材料表層の残留応力についてできるかぎり小さい引張残留応力、又は圧縮残留応力にすることにより、疲労特性を改善でき、従来さまざまな方法がとられてきた。
しかしながら、本発明の対象はステンレス鋼帯であり、ステンレス鋼かつ、箔にあった方法を見出す必要がある。また、材料表層の残留応力は、加工工程やその条件によって変動する。これら残留応力と疲労特性の関連を調査した結果、疲労特性は、材料表層の残留応力が引張の残留応力の場合、その値が一定値を超えた場合とそれ以下となった場合に顕著な差異が見られることを見出した。すなわち、材料表層の残留応力が50MPa以下の引張残留応力又は、圧縮残留応力となる場合に疲労特性に顕著な改善が見られる。
(1)実施例1
SUS301ステンレス鋼(板厚1.5mm)を購入し、加工度50%以上で冷間圧延した後、連続焼鈍炉を用いて、炉温度1200℃以下、材料の炉内停留時間120秒以下として、平均の結晶粒径が5μm以下となるよう調整する。さらに、この材料を加工度50%以上に冷間圧延し、上記と同様に、平均結晶粒径が3μm以下となるように炉温度と材料の炉内停留時間を調整する。さらに、再結晶焼鈍後に板厚60μmまで加工する。これを供試材として、引張り試験、および薄板ベルト寿命試験機を用いて、1280MPaの最大負荷応力下で、破断までの繰返し回数を測定した。
また、比較例として、上記の供試鋼を用い、加工度50%以上で冷間圧延した後、連続焼鈍炉を用いて、炉温度1200〜1250℃、材料の炉内停留時間120秒以下として、平均の結晶粒径が10μm以上となるよう調整する。さらに、この材料を加工度50%以上に冷間圧延し、上記と同様に、平均結晶粒径が10μm以上となるように炉温度と材料の炉内停留時間を調整する。さらに、再結晶焼鈍後に板厚60μmまで加工する。
供試材の化学成分を表1に、供試材を750℃にて300秒間熱処理した場合の平均結晶粒径とその標準偏差、および疲労特性を測定した結果を表2に示す。
Figure 2008115470
Figure 2008115470
表2より、同じ強度であっても、疲労特性が異なることがわかる。例えば、発明例No.1と比較例4は、引張り強さがほぼ同じであるが、750℃で300秒熱処理後の結晶粒径の標準偏差は、前者が2μm以下であるのに対し、後者は2μmを超えており、前者と比較して、後者の疲労特性は劣化している。
次に、発明例No.2、3は、比較例No.5と強度がほぼ同じであるが、750℃で300秒熱処理後の平均結晶粒径は、前者が3μm以下であるのに対し、後者は3μmを超えており、前者と比較して、後者の疲労特性は劣化している。
また、比較例No.6は、750℃で300秒熱処理後の平均結晶粒径が3μmを超え、さらにその標準偏差が2μmを超えており、これらが規定範囲である発明例No.1〜3と比較して、疲労特性が劣化している。
(2)実施例2
実施例1と同じ組成の素条を用い、実施例1の比較例と同じ工程・条件で60μmまで加工した後に、連続焼鈍炉にて、炉温度600℃で歪取り焼鈍、および板厚変化量が1μm未満としたスキンパス圧延により材料表層の残留応力を調整し、引張り試験、材料表層の残留応力測定、および1280MPaの最大負荷応力下で破断までの繰返し回数を測定した。
また、比較例として、実施例1と同じ組成の素条を用い、実施例1の比較例と同じ工程・条件で60μmまで加工した後に、連続焼鈍炉にて、炉温度600℃で歪取り焼鈍し、引張り試験、材料表層の残留応力測定、および1280MPaの最大負荷応力下で破断までの繰返し回数を測定した。
材料表層の残留応力と疲労特性の測定結果を表3に示す。
Figure 2008115470
表3より、発明例No.7と比較例No.10、発明例No.8と比較例No.11、および発明例No.9と比較例No.12は、それぞれ、引張り強さはほぼ同じ値であるが、材料表層の残留応力について、前者は50MPa未満又は圧縮応力であり、後者は50MPaを超えている。また、前者と後者について、それぞれ、疲労特性を比較すると、前者と比較して後者の疲労特性が劣化している。なお、表3において残留応力は+(符号なし)は引張残留応力を、−は圧縮残留応力を示す。
(3)実施例3
実施例1と同じ組成の素条を用い、実施例1の発明例と同じ工程・条件で60μmまで加工した後に、連続焼鈍炉にて、炉温度600℃で歪取り焼鈍、および板厚変化量が1μm未満としたスキンパス圧延により材料表層の残留応力を調整し、引張り試験、材料表層の残留応力測定、および1280MPaの最大負荷応力下で破断までの繰返し回数を測定した。
また、比較例として、実施例1と同じ組成の素条を用い、実施例1の発明例と同じ工程・条件で60μmまで加工した後に、連続焼鈍炉にて、炉温度600℃で歪取り焼鈍し、引張り試験、材料表層の残留応力測定、および1280MPaの最大負荷応力下で破断までの繰返し回数を測定した。
材料表層の残留応力と疲労特性の測定結果を表4に示す。
Figure 2008115470
実施例3は請求項3に対応する例であるので、実施例3における比較例は請求項1における発明例である。
表4より、発明例No.13と比較例No.16、発明例No.14と比較例No.17、および発明例No.15と比較例No.18は、それぞれ、引張り強さはほぼ同じ値であるが、材料表層の残留応力について、前者は50MPa未満又は圧縮応力であり、後者は50MPaを超えており、前者と比較して後者の疲労特性が劣化している。なお、表4において残留応力は+(符号なし)は引張残留応力を、−は圧縮残留応力を示す。

Claims (5)

  1. 750℃にて300秒間焼鈍した場合の平均結晶粒径が3μm以下、かつその標準偏差が2μm以下であることを特徴とする疲労特性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼帯。
  2. 最終圧延を施した又は最終圧延後に歪取り焼鈍を施したオーステナイト系ステンレス鋼について、材料表層の残留応力が50MPa以下の引張残留応力または圧縮残留応力となることを特徴とする疲労特性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼帯。
  3. 請求項1及び請求項2に記載の疲労特性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼帯。
  4. 請求項1〜請求項3に記載の疲労特性に優れたコネクタ、あるいはスイッチなどの接点部品用オーステナイト系ステンレス鋼帯。
  5. 請求項4に記載の疲労特性に優れたメタルドーム型スイッチ用オーステナイト系ステンレス鋼帯。
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