JP2008112669A - 被覆ワイヤーおよびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性、柔軟性、成形加工性が均衡して優れた電線ケーブルを提供する。
【解決手段】鋼線の表面にポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物が被覆された被覆ワイヤーであって、該被覆ワイヤーを150℃で240時間処理後に、鋼線を引き抜いたポリフェニレンスルフィド中空体の引張伸びが50%以上で、かつ被覆ワイヤー20cmあたり0.1mm以上の突起が5個以下であることを特徴とする被覆ワイヤー。
【選択図】図1

Description

本発明は鋼線に熱可塑性樹脂を被覆した耐薬品性、耐熱性、耐摩耗性、難燃性、成形性に優れた電線やケーブル成形品に関する。
従来の電線は絶縁および電線保護のためポリ塩化ビニル樹脂(PVC)が多く利用されていたが、廃棄焼却する際ハロゲン化水素やダイオキシンの発生等の問題を有している。
近年では環境汚染防止の目的から、PVC代替としてノンハロゲン系の難燃材を使用した被覆電線が開発されており、例えば特許文献1から4のような水酸化マグネシウムなどの無機難燃剤を配合した難燃性樹脂組成物が提案されている。
しかしながら、水酸化マグネシウムを難燃剤として用いた樹脂組成物は耐熱性に劣り、高耐熱性を要求される電線には使用できない欠点を有している。
一方、耐熱性、耐薬品性を有するケーブルとしては熱可塑性フッ素樹脂をコーティングしたケーブルが知られているが、熱可塑性フッ素樹脂は非常に高価であること、耐腐食性の成形装置が必要であることから、広く使用されていない状況にある。
ポリフェニレンスルフィド樹脂(以下PPS樹脂)は難燃性および電機特性などが優れており、電気、電子部品、自動車部品などの用途に対し、その需要が高まりつつある。また、最近ではこのPPS樹脂の特徴を活かし柔軟化,高靭性化する手法として特許文献5から6などにより提案されている。
しかし、PPS樹脂の改質に用いられるエラストマー系材料は耐熱性が低く、PPS樹脂の加工温度において粘度変化による成形性の低下や、ゲル化による外観不良を生じる可能性があった。
特開昭61−231040号公報 特開昭61−254646号公報 特開昭61−255950号公報 特開平1−141929号公報 特開昭64−26671号公報 特開平10−182969号公報
本発明は上述した無機難燃剤を配合した難燃樹脂組成物や、熱可塑性フッ素樹脂、従来の高靭性PPSを被覆した電線ケーブルが有する問題点の改良を課題として検討した結果、達成されたものであり、その目的とするところは、ハロゲン系難燃剤を使用することなく難燃化が可能であり、耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性、柔軟性、成形加工性が均衡して優れた電線ケーブルを提供するものである。
本発明者らの検討により、PPS樹脂と特定の架橋された熱可塑性エラストマーおよび相溶化剤を特定量配合した樹脂組成物を鋼線に被覆した電線ケーブルが上記目的を効果的に達成できることを見出した。
上記課題を解決するための手段は下記の通りである。
1.鋼線の表面にポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物が被覆された被覆ワイヤーであって、該被覆ワイヤーを150℃で240時間処理後に、鋼線を引き抜いたポリフェニレンスルフィド中空体の引張伸びが50%以上で、かつ被覆ワイヤー20cmあたり0.1mm以上の突起が5個以下であることを特徴とする被覆ワイヤー、
2.鋼線の直径に対しポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物の被覆厚が1〜50%であることを特徴とする請求項1記載の被覆ワイヤー、
3.ポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物が(a)、(b)および(c)の合計量を100重量%として、(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂50〜96重量%(b)架橋エラストマー系樹脂3〜40重量%および(c)エポキシ基含有αーオレフィン系共重合体1〜30重量%を配合してなることを特徴とする請求項1または2記載の被覆ワイヤー。、4.(b)架橋エラストマー系樹脂中の架橋ゴムの分散粒子径が5μ以下であることを特徴とする請求項3記載の被覆ワイヤー、
5.(a)、(b)および(c)の合計量を100重量%として、(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂50〜96重量%(b)架橋エラストマー系樹脂3〜40重量%(c)エポキシ基含有αーオレフィン系共重合体1〜30重量%を配合してなるポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物を鋼線の表面に被覆することを特徴とする被覆ワイヤーの製造方法、
6.(a)、(b’)および(c)の合計量を100重量%として、(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂50〜96重量%、(b’)未架橋エラストマー系樹脂3〜40重量%および(c)エポキシ基含有αーオレフィン系共重合体1〜30重量%を配合してなるポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物を電子線架橋した後、鋼線の表面に被覆することを特徴とする被覆ワイヤーの製造方法、および
7.鋼線が銅線であり、被覆ワイヤーが電線用ケーブルである請求項1〜4のいずれか記載の被覆ワイヤー。
本発明の被覆用樹脂組成物は成形安定性に優れ、耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性、難燃性に優れ、該組成物を被覆した電線ケーブルは耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性、難燃性、柔軟性、経済性を併せて有しており、特に各種油剤、塩化カルシウム、燃料油と直接接触して高温条件下でまたは長年月使用される自動車用の電線ケーブルや、コントロールケーブルワイヤー、産業機器、家電用の耐熱電線ケーブルとして有用である。
鋼線の表面にポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物が被覆された被覆ワイヤーであって、該被覆ワイヤーを150℃で240時間処理後に、鋼線を引き抜いたポリフェニレンスルフィド中空体の引張伸びが50%以上で、且つ被覆ワイヤー20cmあたり0.1mm以上の突起が5個以下であることを特徴とする被覆ワイヤーを提供するものである。
熱処理後に50%以上の伸びを有さない材料では、被覆ワイヤーを配線した後に被覆層に割れが生じ、鋼線の錆びや、漏電の原因となるため好ましくない。また、被覆鋼線表面に突起が多いと耐摩耗性の低下や、商品価値の低下を招き好ましくない。
ここで、引張伸びは、300℃に温調した30mm押出機にポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物を投入し、直径0.9mmの銅線に0.2mmの肉厚で押出被覆を実施し、得られた被覆ワイヤーを150℃×240時間空気中でアニール後切断し、銅線を引き抜いた後のポリフェニレンスルフィド系樹脂組からなる中空成形体を100mm長に切断し、チャック間距離50mm、引張速度5mm/minで引張り、破断時のクロスヘッドの移動量から下記式にて引張伸びを算出した。
引張伸び(%)=破断時のクロスヘッド移動量/チャック間距離×100
また、突起の数は、300℃に温調した30mm押出機にポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物を投入し、直径0.9mmの銅線に0.2mmの肉厚で押出被覆を実施し、得られた被覆ワイヤーを20cm長に切断し、ワイヤー表面に生じた面積が0.1mm以上の突起の数を評価し、3本の平均を突起数とした。突起の面積は大蔵省印刷局製造の塵埃計測圖表を用い肉眼で直接比較計測した。
以下具体的に本発明のポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物の構成成分および構造について述べる。
本発明で使用するPPS樹脂は、下記構造式で示される繰り返し単位を70モル%以上、好ましくは90モル%以上含む重合体であり、下記繰り返し単位が70モル%未満では、耐熱性が損なわれるため好ましくない。
Figure 2008112669
PPS樹脂は、一般に特公昭45ー3368号公報で代表される製造法により得られる比較的分子量の小さい重合体と、特公昭52ー12240号公報で代表される製造法により得られる本質的に線状で比較的に高分子量の重合体などがあり、前記特公昭45ー3368号公報記載の方法で得られた重合体においては、重合後酸素雰囲気下において加熱することにより、あるいは過酸化物などの架橋剤を添加して加熱することにより高重合化して用いることも可能である。
本発明においては、いかなる方法により得られたPPS樹脂を用いることも可能であるが、本質的に線状で比較的高分子量の重合体が好ましく使用される。
また、PPS樹脂はその繰り返し単位の30モル%未満を、下記の構造式を有する繰り返し単位などで構成することも可能である。
Figure 2008112669
本発明で用いる(A)PPS樹脂は、上記工程をへて生成した後、酸水溶液洗浄処理または有機溶剤洗浄処理により、脱イオン化処理を施されたものであることが望ましい。
上記の酸水溶液洗浄処理を行なう場合は次のとおりである。
すなわち、本発明でPPS樹脂の酸水溶液洗浄処理に用いる酸としては、PPS樹脂を分解する作用を有しないものであれば特に制限はなく、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、珪酸、炭酸およびプロピル酸などが挙げられ、なかでも酢酸および塩酸がより好ましく用いられ得るが、硝酸のようなPPS樹脂を分解、劣化させるものは好ましくない。
酸水溶液洗浄処理の方法は、酸の水溶液にPPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。たとえば、酢酸を用いる場合、pH4の水溶液を80〜90℃に加熱した中に、PPS樹脂粉末を浸漬し、30分間撹拌することにより十分な効果が得られる。酸処理を施されたPPS樹脂は残留している酸または塩などを物理的に除去するため、水または温水で数回洗浄することが必要である。
洗浄に用いる水は、酸処理によるPPS樹脂の好ましい科学的変性の効果を損なわない意味で、蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。
また、熱水洗浄処理を行なう場合は次のとおりである。
すなわち、本発明において使用するPPS樹脂を熱水処理するにあたり、熱水の温度を100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは150℃以上、特に好ましくは170℃以上にすることが重要であり、100℃未満ではPPS樹脂の好ましい科学的変性効果が小さいため好ましくない。
本発明の熱水洗浄処理によるPPS樹脂の好ましい科学的変性の効果を発現するため使用する水は、蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。熱水処理の操作は、通常、所定量のPPS樹脂を投入し、圧力容器内で加熱、撹拌することにより行なわれる。PPS樹脂と水の割合は、水が多い方が好ましいが、通常、水1リットルに対し、PPS樹脂200g以下の浴比が選択される。
また、熱水処理の雰囲気は末端基の分解は好ましくないので、これを回避するため不活性雰囲気下とすることが好ましい。さらに、この熱水処理操作を終えたPPS樹脂を、残留している成分を物理的に除去するために温水で数回洗浄するのが好ましい。
さらに、有機溶媒洗浄処理の場合は次のとおりである。
すなわち、本発明でPPS樹脂の洗浄に用いる有機溶媒としてはPPS樹脂を分解する作用などを有しないものであれば特に制限はなく、例えばNーメチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセドアミド、1,3ージメチルイミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホラスアミド、ピベラジノン類などの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホランなどのスルホキシド、スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、パークロルエチレン、モノクロルエタン、ジクロルエタン、テトラクロルエタン、パークロルエタン、クロルベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのアルコール、フェノール系溶媒およびベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などが挙げられる。これらの有機溶媒のうちでも、Nーメチルピロリドンアセトン、ジメチルホルムアミドおよびクロロホルムなどの使用が特に好ましい。また、これらの有機溶媒は、1種類または2種類以上の混合系で使用される。
有機溶媒による洗浄方法としては、有機溶媒中にPPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。
有機溶媒でPPS樹脂を洗浄する際の洗浄温度については特に制限はなく、常温〜300℃程度の任意の温度が選択できる。ここで、洗浄温度が高くなるほど洗浄効率が高くなる傾向があるが、通常は常温〜150℃の洗浄温度で十分効果が得られる。
また、圧力容器中で、有機溶媒の沸点以上の温度で加圧下に洗浄することも可能である。また、洗浄時間についても特に制限はない。洗浄条件にもよるが、バッチ式洗浄の場合、通常5分以上洗浄することにより十分な効果が得られる。また、連続式で洗浄することも可能である。
重合により生成したPPS樹脂を有機溶媒で洗浄するのみで十分であるが、本発明の効果をさらに発揮させるために水洗浄または温水洗浄と組み合せるのが好ましい。また、Nーメチルピロリドンなどの高沸点水溶性有機溶媒を用いた場合は、有機溶媒洗浄後、水または温水で洗浄することにより、残存有機溶媒の除去が容易に行なえて好ましい。これらの洗浄に用いる水は蒸留水、脱イオン水であることが好ましい。
本発明で用いられるPPS樹脂の溶融粘度は特に制限なく、配合する(b)架橋したエラストマーおよび(c)エポキシ基含有α−オレフィン系共重合体と混練が可能であれば、いかなる溶融粘度のものでも用いることができるが、通常は320℃、せん断速度10sec−1における溶融粘度が100〜10,000ポイズのものが用いられる。
本発明で鋼線を被覆するPPS系樹脂組成物は、(b)架橋エラストマーおよび(c)エポキシ基含有α−オレフィン系共重合体を含むものであることが好ましい。本発明に用いる(b)架橋エラストマー樹脂は架橋しない熱可塑性樹脂10〜40重量%と架橋ゴム60〜90重量%からなり、架橋しない熱可塑性樹脂がマトリックス、架橋ゴムがドメインの海島構造となっている熱可塑性の架橋エラストマーである。更に好ましくは(b−1)架橋しない熱可塑性樹脂15〜30重量%と(b−2)架橋ゴム70〜85重量%である。(b−2)架橋ゴムの架橋度は動的架橋エラストマー系樹脂を冷凍粉砕し、80℃トルエンで8hr抽出後の未溶融残渣量から下記式で算出された量が50%以上であり、好ましくは70%以上である。
架橋度=(抽出残渣量−架橋しない熱可塑性樹脂量)/動的架橋エラストマー系樹脂量×100
架橋しない熱可塑性樹脂は例えばポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、PPS等が挙げられ、特にポリプロピレンが加工性、ゴムとの相溶性の点で好ましい。
架橋ゴムのゴム成分は化学的に合成された合成ゴムで且つ架橋可能であれば何れでも使用可能であるが、例えばスチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンブテンゴム、エチレンオクテンゴム、ブチルゴム、アクリルゴムが挙げられ、これら単独でも2種以上のブレンドでも良い。特にエチレンプロピレンゴム、エチレンブテンゴム、エチレンオクテンゴムがエポキシ基含有αーオレフィン系共重合体との相性の点で好ましい。
これらの合成ゴムを架橋する方法は、2軸押出機で架橋しない熱可塑性樹脂と合成ゴムを架橋剤と開始剤とともに押出機ホパーに投入し、押出機内で動的に架橋せしめる方法や、架橋しない熱可塑性樹脂と合成ゴムを押出機で溶融混練しペレット化した後、電子線照射して加橋せしめても良い。特に工業的に有利な動的に架橋せしめる方法が好ましい。
(b)架橋エラストマー樹脂は、a,b、cの合計量100重量%に対し3.0〜40重量%が好ましい。3.0重量%未満では靭性と柔軟性の改良効果が小さく、40重量%を超えると、PPS樹脂がマトリックスを形成しなくなり、耐熱性、耐薬品性、難燃性が発現しなくなる可能性があり好ましくない。更に5.0〜30重量%が靭性と耐熱性のバランス性に優れ好ましい。
本発明に使用する(c)エポキシ基含有α−オレフィン系共重合体は、α−オレフィン50.0〜99.5重量%、α、β−不飽和酸グリシジルエステルが0.5〜50.0重量%であり、a,b、cの合計量100重量%に対し、1〜30重量%が好ましい。1.0重量%未満では(b)架橋エラストマー樹脂の分散性が低く5μ以下とすることが出来ず、その結果良好な靭性が発現しない。一方30重量%を越えると(a)PPS樹脂との溶融混練時にゲルが生じ、押出安定性、成形性、機械的強度、耐熱性などに悪影響を及ぼすため好ましくない。更に3.0〜20重量%とすることにより架橋エラストマー樹脂の分散径を3μ以下とすることが可能であり、良好な低温衝撃性と安定した成形性が得られ好ましい。
ここで、(b)架橋エラストマーの平均分散径は、(b)架橋エラストマーを含む樹脂組成物を射出成形によりASTM1号ダンベルを成形し、この平行部の中心部から、ミクロトームの凍結カット法で厚さ0.1μにカットしたサンプルの電子顕微境写真(8000倍)を画像処理してドメイン100個の面積から球体としての直径をドメインの平均粒径とした。
本発明で使用するPPS系樹脂組成物は、かかる(c)エポキシ基含有αーオレフィン系共重合体のほかに、酸無水物基、カルボキシル基およびその塩、カルボン酸エステルから選ばれる少なくとも1種の官能基を有する熱可塑性樹脂を1種以上併用しても良い。
本発明のPPS系樹脂組成物の好ましい製造方法は、公知の押出機を用い溶融混練する方法であればいずれでも使用可能であるが、混練性の良好な2軸押出機を用いる方法が好ましい。2軸押出機のサイズは混練性と樹脂劣化の関係からL/D=20〜45が好ましい。ここでLはスクリュー長、Dはスクリュー直径である。
また本発明で用いられるポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物の被覆層の厚みは鋼線の直径の1〜50%とすることが好ましい。1%未満では径の細いワイヤーの場合、被覆層が薄くなりすぎ、鋼線を補強する効果が発現しなくなること、また成形が非常に困難となることから好ましくない。一方50%を超えると太い径の鋼線の場合、被覆層が厚くなりすぎ経済的に不利となるため好ましくない。更に被覆層の厚みを鋼線の直径の5〜30%とすることにより補強効果と成形性・経済性のバランスに優れ好ましい。
鋼線の好ましい材質は電線用途の場合銅線が好ましく、鋼線の直径は0.5〜5mmが好ましい。ワイヤー用途の場合ステンレス鋼線や炭素鋼線が好ましく、鋼線の直径は1.0〜10mmが好ましい。
本発明の被覆ワイヤーの製造方法としては、押出機と被服ダイおよび引き取り機からなり、充填方式やチューブ方式等の公知の成形方法であればいずれでも使用でき以下具体的に説明する。
被覆成形はPPS系樹脂組成物からなるペレットを溶融混練する押出機と溶融した樹脂組成物を円筒状に押出し、鋼線に被覆する為のクロスヘッドダイ、引き取り機からなる。
本発明のポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物を成形するための押出機サイズは特に制限は無いが好ましくは口径が30mm〜50mmでL/Dが20〜45が好ましい。口径30mm未満では吐出量が少なく押出機内での滞留時間が長くなり樹脂の劣化が生じ好ましくない。一方50mm押出機以上では吐出量が多すぎ被覆成形速度が速すぎ、被覆層厚みにばらつきが生じるため好ましくない。L/Dが20以下では吐出量が安定せず45以上では押出機内での滞留時間が長くなり樹脂の劣化が生じ好ましくない。L/Dに関しては吐出安定性と樹脂劣化の観点から20〜36の範囲が更に好ましい。
本押出機に使用する押出機のスクリューはフルフライトタイプの圧縮比が2.0〜4.0が好ましく、スクリュー全体のフライト数に対し各部のフライト数の比が計量部:圧縮部:搬送部=0.3〜0.4:0.1〜0.3:0.3〜0.6が好ましい。圧縮比が2.0未満では未溶融のペレットが吐出される可能性あり、圧縮比が4.0以上ではスクリュー負荷が大きくなり好ましくない。計量部フライト数の比が0.3未満では吐出量が安定せずチューブの肉厚が変動し、搬送部のフライト数の比が0.3未満ではペレットの可塑化が不十分となりスクリュー負荷が大きくなりスクリュー停止の恐れがあり好ましくない。スクリュー圧縮比は混練性と負荷のバランスから2.5〜3.5が更に好ましい。
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂の成形温度は290℃〜330℃で、成形機内での滞留時間が10分以内とする吐出量で成形することが望ましい。成形温度が290℃未満ではPPSの可塑化が不十分となり、330℃以上ではエラストマーが熱劣化する為好ましくない。
また押出機内での滞留時間が10分以上となるとエラストマーが劣化し成形品表面に突起が生じ外観不良となり好ましくない。
本発明の被覆ダイは充填方式やチューブ方式のいずれでもよいが、良好な艶を必要とする場合はダイ内で鋼線に樹脂を被覆する充填方式、鋼線と樹脂の密着を必要とする場合にはダイ外で鋼線に樹脂を被覆し、ダイ後方から真空引きするチューブ方式が望ましい。
本発明に用いる鋼線は温調しなくても成形可能であるが、樹脂の収縮痕除去と鋼線との密着性のため、ダイ内に供給するまえに加熱温調することが望ましい。鋼線の温度は被覆する樹脂の融点(PPSの場合280℃)からガラス転移温度(PPSの場合90℃)程度が好ましい。
上記した被覆ワイヤーの製造方法は、1例にすぎずこれに限定されるものではない。
このようにして得られた本発明の被覆ワイヤーは耐熱性、耐薬品性、柔軟性、難燃性、成形性、外観性に優れ、特に自動車用の電線ケーブルやコントロールワイヤーに有効である。
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。
なお、以下に述べる実施例および比較例に記された、ポリフェニレンスルフィド系樹脂の引張強さおよび引張伸び、被覆ワイヤーの引張伸び、表面外観性、難燃性、耐摩耗性は、以下の方法により測定した。
(樹脂組成物の物性)
2軸押出機を用い所定の温度で溶融混練した後ペレット化し、130℃で3時間熱風乾燥で乾燥後、シリンダー温度300℃、金型温度130℃に温調した射出成形機でASTM1号型ダンベルを得た。
上記方法で得られたASTM1号型ダンベルをASTM D638に従い、引張試験を実施し、引張降伏強さおよび引張破断伸びを測定した。
(被覆電線の評価)
(1)引張伸び
300℃に温調した30mm押出機にポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物を投入し、直径0.9mmの銅線に0.2mmの肉厚で押出被覆を実施した。得られた被覆ワイヤーを150℃×240時間アニール後切断し銅線を引き抜いた後のポリフェニレンスルフィド系樹脂組からなる中空成形体を100mm長に切断し、チャック間距離50mm、引張速度5mm/minで引張り、破断時のクロスヘッドの移動量から下記式にて引張伸びを算出した。
引張伸び(%)=破断時のクロスヘッド移動量/チャック間距離×100
(2)表面外観
300℃に温調した30mm押出機にポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物を投入し、直径0.9mmの銅線に0.2mmの肉厚で押出被覆を実施した。得られた被覆ワイヤーを20cm長に切断し、ワイヤー表面に生じた面積が0.1mm以上の突起の数を評価した。
突起の数が1以下を優、2〜5良、6個以上を可とした。
(3)難燃性
300℃に温調した30mm押出機にポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物を投入し、直径0.9mmの銅線に0.2mmの肉厚で押出被覆を実施した。得られた被覆ワイヤーを水平に保持し、バーナーを30sec接炎しした後バーナーを取り去り、30sec以内に消炎すれば合格、30sec以上燃焼するものは不合格と判定した。
(4)耐摩耗性
スクレープ試験(図1参照)によりポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物の摩耗により鋼線とブレード間で導通するまでのブレード往復回数(60回/分)を耐摩耗性とした。
参考例1(PPSの重合)
オートクレーブに硫化ナトリウム3.25kg(25モル、結晶水40%を含む)、水酸化ナトリウム40g(1.0モル)、酢酸ナトリウム三水和物1.36kg(約10モル)およびNーメチルー2ーピロリドン(以下NMPと略称する)7.9kgを仕込み、撹拌しながら徐々に205℃まで昇温し、1.30kgを含む留出水約1.5リットルを除去した。残留混合物に1、4ージクロルベンゼン3.75kg(25.5モル)およびNMP2kgを加え、窒素ガス等の不活性ガス下に密閉し、270℃で3時間加熱した。反応生成物を70℃の温水で5回洗浄し、80℃で24時間減圧乾燥して、溶融粘度約2500ポイズ(320℃、剪断速度10secー1)の粉末状PPS樹脂(Pー1)約2kgを得た。得られたPPS樹脂粉末約2kgを、90℃に加熱されたpH4の酢酸水溶液20リットル中に投入し、約30分間撹拌し続けた後ろ過し、ろ液のpHが7になるまで約90℃の脱イオン水で洗浄し、120℃で24時間減圧乾燥して粉末状とし、酸溶液洗浄処理PPS樹脂を得た。
同様な操作を繰り返し、以下に記載の実施例に供した。
参考例2(ポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物の製造)
表1に示す配合材料を表1に示す割合でドライブレンドし、タンブラーにて2分間予備混合した後、シリンダー温度300℃に設定した2軸押出機で溶融混練し、ストランドカッターによりペレット化し、120℃で1晩乾燥しPPS1〜5を得た。得られたペレットのMFR保持率は表1に示す通りであった。
さらにPPS−4ペレットをNHVコーポレーション社製800kV電子線照射装置を用い、20cm×30cm×5cmのトレイにペレットを重ねないように敷き詰め、60kGyの照射をエアー中で2回行い、架橋ペレットPPS−6を得た。
Figure 2008112669
実施例1
参考例2で得られたPPS1を310℃に温調したL/D=25の30mm押出機のホッパーに供給し、吐出量2kg/時間で溶融樹脂を押出し、100℃に温調した直径0.9mmの銅線を約4m/minでクロスヘッドダイに供給して、真空引きするチューブ方式で被覆電線を得た。得られた被覆電線の被覆層厚みは0.2mmであった。被覆ワイヤーの評価結果を表2に示す。
実施例2〜3、比較例1〜2
PPS樹脂組成物を表2に示す通りとした以外は実施例1と同様とした。
架橋TPEを使用したPPS組成物の被覆ワイヤーは突起が少なく、表面外観と耐摩耗性に優れるものであった。
実施例4
本実施例の電子線架橋したPPS樹脂組成物の被服ワイヤーは、実施例1〜3同様突起が少なく表面外観と耐摩耗性に優れるものであった。
Figure 2008112669
実施例における耐摩耗性を評価するためのスクレープ試験の概要を示す図である。

Claims (7)

  1. 鋼線の表面にポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物が被覆された被覆ワイヤーであって、該被覆ワイヤーを150℃で240時間処理後に、鋼線を引き抜いたポリフェニレンスルフィド中空体の引張伸びが50%以上で、かつ被覆ワイヤー20cmあたり0.1mm以上の突起が5個以下であることを特徴とする被覆ワイヤー。
  2. 鋼線の直径に対しポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物の被覆厚が1〜50%であることを特徴とする請求項1記載の被覆ワイヤー。
  3. ポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物が(a)、(b)および(c)の合計量を100重量%として、(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂50〜96重量%(b)架橋エラストマー系樹脂3〜40重量%および(c)エポキシ基含有αーオレフィン系共重合体1〜30重量%を配合してなることを特徴とする請求項1または2記載の被覆ワイヤー。
  4. (b)架橋エラストマー系樹脂中の架橋ゴムの分散粒子径が5μ以下であることを特徴とする請求項3記載の被覆ワイヤー。
  5. (a)、(b)および(c)の合計量を100重量%として、(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂50〜96重量%(b)架橋エラストマー系樹脂3〜40重量%(c)エポキシ基含有αーオレフィン系共重合体1〜30重量%を配合してなるポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物を鋼線の表面に被覆することを特徴とする被覆ワイヤーの製造方法。
  6. (a)、(b’)および(c)の合計量を100重量%として、(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂50〜96重量%、(b’)未架橋エラストマー系樹脂3〜40重量%および(c)エポキシ基含有αーオレフィン系共重合体1〜30重量%を配合してなるポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物を電子線架橋した後、鋼線の表面に被覆することを特徴とする被覆ワイヤーの製造方法。
  7. 鋼線が銅線であり、被覆ワイヤーが電線用ケーブルである請求項1〜4のいずれか記載の被覆ワイヤー。
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