静圧軸受は、供給する流体(油や空気)により発生する静圧軸支持圧により、円筒研削盤の回転軸等、静圧軸を支持する。現行の静圧軸受は、ダイアフラムを用いた自動調整絞りが広く利用されている(特許文献1及び特許文献2)。このダイアフラムを用いた自動調整絞りを備えた静圧軸受は、「ダイアフラム式静圧軸受」と呼ぶことができる。ダイアフラム式静圧軸受の自動調整絞りは、ダイアフラムを挟んで上方のポケットに対応する上方の供給口と下方のポケットに対応する下方の供給口を対向させて構成される。前記自動調整絞りを備えたダイアフラム式静圧軸受は、例えば静圧軸が上方に振れて、上方のポケットが狭く、下方のポケットが広くなった場合、瞬間的に上方のポケットの静圧軸支持圧が供給圧を上回り、ダイアフラムを下方の供給口側に膨らませて、ダイアフラムが遠ざかった上方の供給口から供給される流体を増加させて上方のポケットに対する供給圧を高め、逆に下方の供給口から供給される流体を減少させて下方のポケットに対する供給圧を低めて、前記各供給圧に従う上方のポケットの静圧軸支持圧と下方のポケットの静圧軸支持圧との間で静圧軸を下方に押し返す圧力差を形成し、静圧軸を下方に押し返す。こうして、ダイアフラム式静圧軸受は、静圧軸の振れを抑制し、軸受剛性を高めている。
ダイアフラム式静圧軸受の自動調整絞りは、例えば上方のポケット及び下方のポケットを組として1基割り当てられる。これから、静圧軸の前後方向に上方のポケット、下方のポケット、左方のポケット及び右方のポケットが設けられるダイアフラム式静圧軸受であれば、計4基の自動調整絞りが必要になる。ここで、ダイアフラム式静圧軸受の自動調整絞りは、内蔵したダイアフラムを挟んで流体の供給経路を有することから一定の大きさにならざるを得ず、通常ダイアフラム式静圧軸受に内蔵されず外付けとなり、前記自動調整絞りと各ポケットとはそれぞれ個別の供給配管により接続される。このため、ダイアフラム式静圧軸受の自動調整絞りは、取り付けるスペースの確保が必要になるほか、ダイアフラムを物理的に変形させたり、静圧軸支持圧の変化が供給配管を介して伝達するため、絞り応答(ポケットの容積変化に基づく静圧軸支持圧の変化に応じて流体の供給量を増減するまでの応答)が遅くなる短所がある。
ダイアフラム式静圧軸受の自動調整絞りに対し、可動リングを用いた自動調整絞りは絞り応答が早いとされている。この可動リングを用いた自動調整絞りを内蔵した静圧軸受は、「可動リング式静圧軸受」と呼ぶことができる。可動リング式静圧軸受の自動調整絞りは、半径方向内向きのリング支持圧に支持された可動リングと軸受筒との隙間であるリング形成経路を通じてポケットに流体を供給して発生する静圧軸支持圧により静圧軸を支持する構成である。リング支持圧は、半径方向内向きの付勢手段(コイルバネ等)の付勢力を用いてもよいが、通常、可動リングに対して設けた外ポケットに供給する流体により発生させる圧力を利用する。前記圧力を利用する可動リング式静圧軸受は、軸受筒に内蔵された可動リングに対する外ポケットと、静圧軸に対する内ポケットとを設け、外ポケットに流体を供給して発生するリング支持圧により可動リングを支持し、可動リングと軸受筒との隙間であるリング形成経路を通じて内ポケットに流体を供給して発生する静圧軸支持圧により静圧軸を支持する(特許文献3及び特許文献4)。具体的には、軸受筒は軸受外筒及び軸受内筒に分かれ、通常軸受外筒に設けられたリング溝に可動リングが嵌め込まれ、外ポケットが軸受外筒の上下方向及び左右方向に2ヶ所ずつ、内ポケットが軸受内筒の上下方向及び左右方向に2ヶ所ずつ設けられる。
圧力を利用する可動リング式静圧軸受の自動調整絞りは、例えば静圧軸が上方に振れて、上方の内ポケットが狭く、下方の内ポケットが広くなった場合、瞬間的に上方の内ポケットの静圧軸支持圧が供給圧を上回り、前記静圧軸支持圧が上方の内ポケットに対応する上方のリング形成経路を押し拡げることにより可動リングを上方に変位させ、押し拡げられた上方のリング形成経路から供給される流体を増加させて上方の内ポケットに対する供給圧を高め、可動リングの変位により相対的に狭められた下方の内ポケットに対応する下方のリング形成経路から供給される流体を減少させて前記下方の内ポケットに対する供給圧を低めて、前記各供給圧に従う上方のポケットの静圧軸支持圧と下方の内ポケットの静圧軸支持圧との間で静圧軸を下方に押し返す圧力差を形成し、静圧軸を下方に押し返す。こうして、可動リング式静圧軸受は、静圧軸の振れを抑制し、軸受剛性を高めている。可動リングは、上方へ変位した際、上方の外ポケットを狭くしてリング支持圧を高め、逆に下方の外ポケットを広くしてリング支持圧を低くしているので、静圧軸が押し返されて上方の内ポケット及び下方の内ポケットの静圧軸支持圧が定常状態に復帰すると共に、前記上方の外ポケットのリング支持圧と下方の外ポケットのリング支持圧との圧力差により下方へと押し返され、定常位置に復帰する。
登録実用新案第3036368号公報
特許第3561892号公報
特公平06-008651号公報
特開2002-286037号公報
可動リング式静圧軸受は、軸受剛性を高める観点から、ダイアフラム式静圧軸受より好ましいが、未だ製品化が見られない。例えば圧力を利用する可動リング式静圧軸受の場合、外ポケット及びリング形成経路に流れる流体中に浮いた状態にある可動リングの前記リング形成経路を通じて内ポケットに流体を供給し、前記流体の供給により内ポケットに発生する静圧軸支持圧により静圧軸を支持するため、静圧軸芯を軸受軸芯に一致させることが難しくなるからである。具体的に言えば、前記可動リング式静圧軸受における静圧軸芯は、内ポケットに発生する静圧軸支持圧により位置決定されるが、静圧軸支持圧はリング支持圧と前記静圧軸支持圧との平衡によって形成されるリング形成経路を通じて供給される流体により発生することから、リング形成経路が少しでも設計からずれると、静圧軸支持圧まで設計からずれてしまい、もはや静圧軸芯を軸受軸芯に一致させることができなかったのである。
特許文献3及び特許文献4に見られる可動リング式静圧軸受は、静圧軸支持圧及びリング支持圧が平衡して形成されるリング形成経路が設計通りであり、静圧軸支持圧も設計通りに発生することを前提にしているが、上述の通り、実際には前記前提を実現できないため、製品化に至っていないと考えられる。すなわち、静圧軸芯を軸受軸芯に一致させることができなければ、静圧軸が振れてしまって軸受剛性が低下してしまい、可動リング式静圧軸受の自動調整絞りが有する早い絞り応答を有効に利用できないため、可動リング式静圧軸受を実用化できなかったのである。そこで、絞り応答の早い可動リング式静圧軸受の実用化を図るため、可動リング式静圧軸受の静圧軸芯を軸受軸芯に一致させる軸合わせ方法と、前記軸合わせ方法を用いた可動リング式静圧軸受について検討した。
検討の結果、半径方向内向きのリング支持圧に支持された可動リングと軸受筒との隙間であるリング形成経路を通じてポケットに流体を供給して発生する静圧軸支持圧により静圧軸を支持する可動リング式静圧軸受において、可動リングを半径方向に位置調整することにより静圧軸芯を軸受軸芯に一致させる可動リング式静圧軸受の軸合わせ方法を開発した。本発明の軸合わせ方法は、可動リングを半径方向に位置調整することにより、前記可動リングと軸受筒との隙間であるリング形成経路を変化させ、前記リング形成経路に依存して変化する静圧軸支持圧を間接的に調整して、前記静圧軸支持圧により支持される静圧軸の静圧軸芯を軸受軸芯に一致させる。半径方向内向きの付勢手段の付勢力をリング支持圧に用いた場合、可動リングは前記付勢手段の付勢力を増減して半径方向に位置調整する(機械力による可動リングの位置調整)。また、可動リングに対して設けた外ポケットに供給する流体により発生させる圧力をリング支持圧に用いた場合、可動リングは前記流体の供給圧を増減して半径方向に位置調整する(圧力による可動リングの位置調整)。機械力による可動リングの位置調整及び圧力による可動リングの位置調整は、それぞれ個別に又は併用できる。
圧力により可動リングを位置調整する場合、可動リング式静圧軸受は、軸受筒に内蔵された可動リングに対する外ポケットと、静圧軸に対する内ポケットとを設け、外ポケットに流体を供給して発生するリング支持圧により可動リングを支持し、可動リングと軸受筒との隙間であるリング形成経路を通じて内ポケットに流体を供給して発生する静圧軸支持圧により静圧軸を支持する構成となる。流体の供給圧は、流体の供給源で加減できる。また、外ポケットに流体を供給する外供給経路に流体の供給圧を調整する供給絞りを設け、前記供給圧に応じて外ポケットに発生するリング支持圧を供給圧以下の範囲で調整し、可動リングを変位させる可動リング式静圧軸受により実現してもよい。ここで、供給絞りで調整された供給圧は、供給絞りの下流、外ポケットに近い側の圧力を意味し、リング支持圧に比例する。外ポケットに供給される流体は、従来の静圧軸受に用いられる各種流体(油や空気)を用いることができる。供給源で設定された供給圧は、供給絞りにより前記供給圧以下の範囲で調整できるため、例えば予め高く設定した供給圧を供給絞りにより低くして外ポケットに流体を供給する状態を標準とすれば、供給絞りを開くと供給圧を高め、逆に供給絞りを絞ると供給圧を低くする調整ができる。
圧力により可動リングを位置調整する場合、外ポケットから流体を排出する外排出経路に流体の排出圧を調整する排出絞りを設け、前記排出圧に応じて外ポケットに発生するリング支持圧を前記リング支持圧未満の範囲で調整し、可動リングを変位させる可動リング式静圧軸受としてもよい。ここで、供給絞りで調整された排出圧は、排出絞りの上流、外ポケットに近い側の圧力を意味し、リング支持圧に比例する。このため、排出圧はリング支持圧以上にすることができない(仮に排出圧がリング支持圧以上であると、流体が排出されない)が、上述の供給圧同様、予め排出絞りにより排出圧を調整しておいた状態を標準とすれば、排出絞りを開くと供給圧を低め、逆に供給絞りを絞ると供給圧を高くする調整ができる。このほか、機械的な接触を伴う付勢手段を用いる方法は、例えば各外ポケットに可動リングの半径方向内向きに働くコイルスプリングを設け、外ポケットに対する流体の供給圧又は排出圧を一定としながら、前記コイルスプリングを可動リングの半径方向に進退させて可動リングを半径方向に位置調整する構成を示すことができる。
静圧軸芯と軸受軸芯とは、可動リング式静圧軸受を組み立てた後に一度一致させれば、その後不具合があったり、経年劣化がなければ、再び軸合わせをする必要はない。すなわち、付勢手段による付勢力や供給絞り又は排出絞りによる供給圧又は排出圧は、一度調整すれば以後前記調整状態を維持できればよい。これは、例えば本発明の可動リング式静圧軸受を用いた円筒研削盤は、部品組み付け後、出荷前調整として一度だけ静圧軸芯を軸受軸芯に軸合わせすればよいことを意味する。これから、付勢手段、供給絞り又は排出絞りは、付勢力や供給圧又は排出圧を調整できる限度に簡素な構成でよいが、静圧軸芯を軸受軸芯に軸合わせした後は、前記調整又は進退した状態を維持する保持機能又は保持手段を有することが好ましい。
ここで、供給絞り又は排出絞りによりリング支持圧を加減する可動リング式静圧軸受を構成した場合、可動リングは、軸受筒に形成されたリング凹溝に嵌め込み、前記リング凹溝の溝前面に対向する前リングポケットを前面に、同じくリング凹溝の溝後面に対向する後リングポケットを後面に設けて、リング形成経路を通じて内ポケットに供給する流体を前記前リングポケット及び後リングポケットにも供給するとよい。上述したように、軸受筒は軸受外筒及び軸受内筒に分けることができ、通常リング凹溝は軸受外筒に形成されるが、軸受内筒にリング凹溝を形成しても構わない。前リングポケット及び後リングポケットは、共通に供給される流体により等価な前ポケット圧及び後ポケット圧を可動リングの前後に発生させ、前記可動リングがリング凹溝の溝前面及び溝後面に接触することを防止することにより、可動リングを流体中に浮かんだ状態で安定させ、可動リング式静圧軸受の自動調整絞りにおける早い絞り応答を確保する。
前リングポケット及び後リングポケットは、発生する前ポケット圧及び後ポケット圧が外ポケットに発生するリング支持圧に加わらないように、可動リングの外周面に達しない凹面として形成することが望ましいが、前記前リングポケット及び後リングポケットに流入する流体は、可動リングの外周面に回り込み、外ポケットに向かって流れることを完全に防止できない。これから、例えば外ポケットに供給した流体が排出経路に至る途中に排出ポケットを形成し、前記外ポケットの前後に前記排出ポケットを配して、前リングポケット及び後リングポケットから外ポケットに向かって流れる流体は排出ポケットにのみ流れ込むようにするとよい。しかし、内ポケットへの供給経路を外ポケットへの供給経路と共通にし、前記外ポケットへ前リングポケット及び後リングポケットを通じて流体を供給する構成にした場合、前記前リングポケット及び後リングポケットから外ポケットへ流体が流れ込むことの問題はない。
本発明は、可動リング式静圧軸受における静圧軸芯を軸受軸芯に一致させ、絞り応答の早い前記可動リング式静圧軸受を実用化する。ここで、静圧軸芯を軸受軸芯に一致させる本発明の効果は、可動リングを半径方向に位置調整する、具体的には供給絞りにより外ポケットに供給される流体の供給圧を調整したり、排出絞りにより外ポケットから排出される流体の排出圧を調整して、外ポケットに発生するリング支持圧を加減し、可動リングを半径方向に位置調整することにより得られる。供給絞りや排出絞りは、それぞれ供給経路又は排出経路に設けるだけなので設置が容易であり、また供給圧又は排出圧を装置外で容易に調整できる利点を有する。しかも、前記供給圧又は排出圧の調整は、例えば可動リング式静圧軸受の組立後、出荷前に一度だけ実施すればよいため、静圧軸芯を軸受軸芯に一致させるために要する労力、手間及びコストは極めて低廉である。このように、本発明は高い費用対効果を有しながら、可動リング式静圧軸受を実用化する。
以下、本発明の実施形態について図を参照しながら説明する。図1は外供給経路43に供給絞り431を設けた可動リング式静圧軸受の部分破断断面図、図2は図1中A−A拡大断面図であり、図3は外排出経路44に排出絞り441を設けた可動リング式静圧軸受の図1相当部分破断断面図である。図1及び図2に示される本例、そして図3に示される別例は、いずれも円筒研削盤の静圧軸(回転軸)3に本発明の可動リング式静圧軸受を適用した例である。図1及び図3では、図面右方を前方、図面左方を後方とする。この円筒研削盤は、圧力により可動リング4を位置調整する構成で、可動リング4に対する外ポケット11や静圧軸3に対する内ポケット21に流体である油を供給し、静圧軸支持圧PI及びリング支持圧POを油圧として発生させる。
本例の円筒研削盤は、図1及び図2に見られるように、軸受筒が外軸受筒1及び内軸受筒2に分かれ、リング凹溝12を外軸受筒1の内周面に形成し、前記リング凹溝12に可動リング4を嵌め込み、内軸受筒2の内周面に設けた内ポケット21に発生する静圧軸支持圧PIにより静圧軸3を支持する可動リング式静圧軸受を構成している。外ポケット11は、リング凹溝12の周面に上下方向及び左右方向に一対ずつ4ヶ所に設けられ、また内ポケット21は、内軸受筒2の内周面に上下方向及び左右方向に一対ずつ4ヶ所に設けられている。各外ポケット11及び各内ポケット21の周方向の位置関係は同じである。可動リング4は、リング凹溝12の溝前面121に対して前リングポケット41を、リング凹溝12の溝後面122に対して後リングポケット42を設けている。
リング支持圧POは、外軸受筒1の外周面から半径方向内向きに延びる外供給経路43を通じて供給される油の供給圧POinと、外ポケット11の前後に設けられた排出ポケット442から外排出経路44を通じて外部に排出される油の排出圧POoutとの差分として、外ポケット11に発生させる。本例の外排出経路44は、図1中下方に延びる管路により油を外部に排出する。可動リング4は、上下方向及び左右方向に設けられた4ヶ所の各外ポケット11に発生するリング支持圧POにより半径方向に支持される。本例は、前記外供給経路43に油の供給圧POinを調整する供給絞り431を設けている。すなわち、円筒研削盤の外部に設けられた供給源(図示略)から延びる供給配管(図示略)は供給絞り431に接続され、前記供給絞り431により調整された供給圧POinの油が外供給経路43から外ポケット11に流し込まれる。
静圧軸支持圧PIは、外軸受筒1の外周面から半径方向内向きに延びる内供給経路45、前リングポケット41及び後リングポケット42、可動リング4と内軸受筒2の外周面との隙間であるリング形成経路47、そして内軸受筒2の外周面から半径方向内向きに延びる接続経路211を通じて供給される油の供給圧PIinと、内ポケット21の前後に設けられた内排出経路46を通じて外部に排出される油の排出圧PIoutとの差分として、内ポケット21に発生する。内供給経路45は、前リングポケット41及び後リングポケット42に対応して前後2ヶ所あるが、各内供給経路45は供給源(図示略)から延びる供給配管(図示略)を分岐して接続されるため、それぞれの供給圧PIin及び供給量は等しい。静圧軸3は、上下方向及び左右方向に設けられた4ヶ所の各内ポケット21に発生する静圧軸支持圧PIにより半径方向に支持される。
内ポケット21に供給される油の一部は、前リングポケット41に供給されて前ポケット圧PIfrontを、同じく後リングポケット42に供給されて後ポケット圧PIbackをそれぞれ発生させる。前ポケット圧PIfront及び後ポケット圧PIbackは、既述したように、供給圧PIin及び供給量の等しい前後の内供給経路45から油が供給されるため、等価である。これにより、可動リング4は、前ポケット圧PIfront及び後ポケット圧PIbackにより前後方向(静圧軸方向)に支持される。前ポケット圧PIfront及び後ポケット圧PIbackは、可動リング4を前後方向に支持するほか、リング凹溝12の溝前面121及び溝後面122のいずれにも接触しないように可動リング4を支持し、可動リング4が半径方向に位置変位して実現される早い絞り応答を確保する働きも有する。
可動リング式静圧軸受は、静圧軸3の半径方向の位置変位により断面積を変化させるリング形成経路47を自動調整絞りとし、次のように静圧軸3の軸振れを防止する。例えば静圧軸3が上方に振れて、上方の内ポケット21が狭く、下方の内ポケット21が広くなった場合、瞬間的に上方の内ポケット21の静圧軸支持圧PIが供給圧PIinを上回り、前記静圧軸支持圧PIが可動リング4を上方に変位させることにより、上方の内ポケット21に対応する上方のリング形成経路47を押し拡げる。これにより、押し拡げられた上方のリング形成経路47から供給される油を増加させて上方の内ポケット21に対する供給圧PIinを高め、可動リング4の変位により相対的に狭められた下方の内ポケット21に対応する下方のリング形成経路47から供給される油を減少させて前記下方の内ポケット21に対する供給圧PIinを低めて、前記各供給圧PIinに従う上方の内ポケット21の静圧軸支持圧PIと下方の内ポケット21の静圧軸支持圧PIとの間で圧力差を形成し、前記圧力差により静圧軸3を下方に押し返す。
リング形成経路47を自動調整絞りとして働かせる際、上方へ変位した可動リング4は、上方の外ポケット11を狭くしてリング支持圧POを高め、逆に下方の外ポケット11を広くしてリング支持圧POを低くしているので、静圧軸3が押し返されて上方の内ポケット21及び下方の内ポケット21の静圧軸支持圧PIが定常状態に復帰すると共に、前記上方の外ポケット21のリング支持圧POと下方の外ポケット21のリング支持圧POとの圧力差により下方へと押し返され、定常位置に復帰する。ここで、静圧軸3の軸振れから可動リング4の復帰までの変化を見れば、可動リング4を介して、静圧軸3の半径方向の位置変位とリング支持圧POとに相関のあることが理解される。本例は、外ポケット21に対する供給圧POin(図1及び図2参照)又は排出圧POout(後掲図3参照)を調整することによりリング支持圧POを加減し、前記リング支持圧POに応じて静圧軸3を半径方向に位置調整して、静圧軸芯を軸受軸芯に一致させる。
本例は、上下方向及び左右方向それぞれの各外ポケット11に個別接続される各外供給経路43に供給絞り431を設け、前記各ポケット11に供給する供給圧POinを各外ポケット11毎に調整自在としている。このとき、供給絞り431は通常圧力を低下させる方向にしか働かないため、前記供給圧POinを増加する方向に調整したい場合、基準となる供給圧POinを予め供給絞り431により圧力を低下させた大きさとし、前記基準となる供給圧POinから供給絞り431を開いて供給圧POinを増加させ、また供給絞り431を閉じて供給圧POinを減少させる。このため、供給源(図示略)から供給される油圧を高くして、基準となる供給圧POinは予め大きくしておく。
例えば静圧軸3を上方に位置変位させたい場合、上方の外ポケット11に対する供給絞り431を開いて供給圧POinを増加させ、上方のリング支持圧POを下方のリング支持圧POより相対的に大きくし、可動リング4を下方に位置変位させる。前記可動リング4は、下方の外ポケットに対する供給絞り431を閉じて供給圧POinを減少させ、下方のリング支持圧POを小さくしても位置調整できる。こうして、可動リング4の内周面と内軸受筒2の外周面との間に形成されるリング形成経路47は、上方の内ポケット21に対応する側が狭く、逆に下方の内ポケット21に対応する側が広く形成される。これにより、上方のリング形成経路47から供給される油を減少させて上方の内ポケット21に対する供給圧PIinを低め、下方の内ポケット21に対応する下方のリング形成経路47から供給される油を増加させて前記下方の内ポケット21に対する供給圧PIinを高めて、前記各供給圧PIinに従う上方の内ポケット21の静圧軸支持圧PIと下方の内ポケット21の静圧軸支持圧PIとの間で圧力差を形成し、前記圧力差により静圧軸3を上方に位置変位させる。
外ポケット11は、上下方向及び左右方向に4ヶ所設けられるから、各外ポケット11への油の供給圧POinを個別に調整すれば、上下方向及び左右方向それぞれに発生するリング支持圧POを個別に加減でき、各リング支持圧POの相対的な大きさの関係により、静圧軸3は任意の半径方向に位置調整できる。このとき、上述したように、基準となる供給圧POinを予め高くしておけば、各供給絞り431は開いて各供給圧POinを増加させたり、逆に各供給絞り431を閉じて各供給圧POinを減少させることができ、前記各供給圧POinの加減範囲で静圧軸3を任意の半径方向に位置調整できる。こうして静圧軸3を半径方向に位置調整し、静圧軸芯を軸受軸芯に一致させた後は、各供給絞り431の開度を固定し、静圧軸3を半径方向に位置拘束する。本例の可動リング式静圧軸受は、こうして静圧軸芯を軸受軸芯に一致させた状態を基準として、機能する。
既述したように、外ポケット21に対する排出圧POout(後掲図3参照)を調整することによりリング支持圧POを加減し、前記リング支持圧POに応じて静圧軸3を半径方向に位置調整して、静圧軸芯を軸受軸芯に一致させることもできる。別例の可動リング式静圧軸受は、図3に見られるように、上記本例(図1及び図2参照)同様、リング凹溝12を外軸受筒1の内周面に形成し、前記リング凹溝12に可動リング4を嵌め込み、内軸受筒2の内周面に設けた内ポケット21に発生する静圧軸支持圧PIにより静圧軸3を支持する構成である。外ポケット11は、リング凹溝12の周面に上下方向及び左右方向に4ヶ所、内ポケット21は、内軸受筒2の内周面に上下方向及び左右方向に4ヶ所で、それぞれ周方向の位置関係を同じにして設けてある。また、可動リング4は、リング凹溝12の溝前面121に対して前リングポケット41を、リング凹溝12の溝後面122に対して後リングポケット42を設けている。
リング支持圧POは、内供給経路45を外供給経路43として兼用し(図3中符号を括弧書きにて表示)、前記内供給経路45、前リングポケット41及び後リングポケット42を通じて供給される油の供給圧POinと、外軸受筒1の外周面から半径方向内向きに延びる外排出経路44を通じて外部に排出される油の排出圧POoutとの差分として、外ポケット11に発生させる。可動リング4は、上下方向及び左右方向に設けられた4ヶ所の各外ポケット11に発生するリング支持圧POにより半径方向に支持される。別例は、前記外排出経路44に油の排出圧POoutを調整する排出絞り441を設けている。すなわち、外ポケット11に供給された油は、前記排出絞り441により調整された排出圧POoutの油として、円筒研削盤外に流れ出る。
静圧軸支持圧PIは、上記内供給経路45、前リングポケット41及び後リングポケット42、リング形成経路47、そして接続経路211を通じて供給される油の供給圧PIinと、内排出経路46を通じて外部に排出される油の排出圧PIoutとの差分として、内ポケット21に発生する。内供給経路45それぞれの供給圧PIin及び供給量は等しい。静圧軸3は、上下方向及び左右方向に設けられた4ヶ所の各内ポケット21に発生する静圧軸支持圧PIにより半径方向に支持される。このほか、内ポケット21に供給される油の一部は、前リングポケット41に前ポケット圧PIfrontを、後リングポケット42に後ポケット圧PIbackをそれぞれ発生させ、前記前ポケット圧PIfront及び後ポケット圧PIbackにより可動リング4を前後方向に支持し、また早い絞り応答を確保させている。
例えば静圧軸3を上方に位置変位させたい場合、上方の外ポケット11に対する排出絞り441を閉じて排出圧POoutを増加させ、上方のリング支持圧POを下方のリング支持圧POより相対的に大きくし、可動リング4を下方に位置変位させる。こうして、リング形成経路47は、上方の内ポケット21に対応する側が狭く、逆に下方の内ポケット21に対応する側が広く形成される。これにより、上方のリング形成経路47から供給される油を減少させて上方の内ポケット21に対する供給圧PIinを低め、下方の内ポケット21に対応する下方のリング形成経路47から供給される油を増加させて前記下方の内ポケット21に対する供給圧PIinを高めて、前記各供給圧PIinに従う上方の内ポケット21の静圧軸支持圧PIと下方の内ポケット21の静圧軸支持圧PIとの間で圧力差を形成し、前記圧力差により静圧軸3を上方に位置変位させる。
別例においても、外ポケット11は上下方向及び左右方向に4ヶ所設けられるから、各外ポケット11からの油の排出圧POoutを個別に調整して、静圧軸3を任意の半径方向に位置調整できる。このとき、上述同様に、基準となる排出圧POoutを予め高くしておけば、各排出絞り441は開いて各排出圧POoutを増加させたり、逆に各排出絞り441を閉じて各排出圧POoutを減少させることができ、前記各排出圧POoutの加減範囲で静圧軸3を任意の半径方向に位置調整できる。そして、静圧軸3を半径方向に位置調整し、静圧軸芯を軸受軸芯に一致させた後は、各排出絞り441の開度を固定し、静圧軸3を半径方向に位置拘束する。別例の可動リング式静圧軸受は、こうして静圧軸芯を軸受軸芯に一致させた状態を基準として、機能する。