JP2008098379A - 2次元フォトニック結晶面発光レーザおよびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】閾値電流が小さく小型化できる2次元フォトニック結晶面発光レーザおよびその製造方法を提供すること。
【解決手段】基板と、前記基板上に積層した下部クラッド層と、前記下部クラッド層上に積層しキャリアの注入により発光する活性層と、前記活性層上に積層した上部クラッド層と、を備え、前記上部クラッド層から前記活性層を貫いて前記下部クラッド層に達する深さを有する空孔を前記活性層の主面方向に周期的に配列した2次元フォトニック結晶が形成される。
【選択図】 図3
【解決手段】基板と、前記基板上に積層した下部クラッド層と、前記下部クラッド層上に積層しキャリアの注入により発光する活性層と、前記活性層上に積層した上部クラッド層と、を備え、前記上部クラッド層から前記活性層を貫いて前記下部クラッド層に達する深さを有する空孔を前記活性層の主面方向に周期的に配列した2次元フォトニック結晶が形成される。
【選択図】 図3
Description
本発明は、2次元フォトニック結晶を有し、面発光する2次元フォトニック結晶面発光レーザおよびその製造方法に関するものである。
フォトニック結晶は、半導体などに屈折率が該半導体とは異なる媒質を光の波長程度の周期で配列させることにより周期構造を形成したものであり、様々な光デバイスへの応用が検討されている。
フォトニック結晶を応用した光デバイスのひとつとして、2次元フォトニック結晶を利用した面発光レーザが開示されている。図11は、特許文献1に開示されたものと同様の構造を有する従来の2次元フォトニック結晶面発光レーザを模式的に表した斜視分解図である。この2次元フォトニック結晶面発光レーザ500は、n−InP半導体からなる基板501上に2次元フォトニック結晶層514、下部クラッド層502、活性層504、上部クラッド層506が積層されたものである。2次元フォトニック結晶層514はn−InP半導体からなり、空孔513が2次元の所定の周期で正方格子状に配置されている。したがって、空孔513はn−InP半導体とは屈折率が異なる空孔が周期的に配列された2次元フォトニック結晶を形成する。また、活性層504は、GaInAsP系の半導体材料を用いた多重量子井戸構造からなるものであり、キャリアを注入することにより発光する。また、下部クラッド層502はn−InP半導体からなる。また、上部クラッド層506はp−InP半導体からなる。そして、下部クラッド層502及び上部クラッド層506により活性層504を挟んでダブルへテロ接合を形成してキャリアを閉じこめることで、発光に寄与するキャリアを活性層504に集中させる構造としている。なお、上部クラッド層506の上面及び基板501の底面には金からなる電極509、510が形成されている。
ここで、電極509、510間に電圧を印加することにより活性層504が発光し、発光した光は活性層504をコアとして伝搬するが、この伝搬光のうち活性層504からエバネセント波としてしみ出た光が2次元フォトニック結晶層514に形成された2次元フォトニック結晶に分布する。2次元フォトニック結晶は光共振器を形成して2次元的な分布帰還効果をもつため、一般的な1次元のグレーティングを用いた分布帰還型レーザと同様、レーザ発振を起こす。しかも2次元フォトニック結晶の分布帰還効果は2次元的であるから、2次元平面の大面積にわたるコヒーレント単一モード発振が起こる。さらに、2次元フォトニック結晶はグレーティングカップル効果によって2次元フォトニック結晶層に垂直な方向に光を結合させる働きを有している。その結果、単一モードレーザ光の面発光が得られる。なお、以下では、2次元フォトニック結晶の効果と記載した場合は、分布帰還効果とグレーティングカップル効果の両方を含めた効果のことを意味することとする。
一方、非特許文献1には、2次元フォトニック結晶層を活性層に近づけることによって、活性層をコアとして伝搬する伝搬光のうち活性層からしみ出て2次元フォトニック結晶層に分布する光の割合であるΓの値を大きくして、2次元フォトニック結晶の効果を高め、駆動電流の発振閾値、すなわち閾値電流を小さくする技術が開示されている。
しかしながら、従来の2次元フォトニック結晶面発光レーザでは、伝搬光のうち活性層からしみ出て2次元フォトニック結晶層に分布する光にしか2次元フォトニック結晶の効果がおよばないので、分布帰還効果は弱い。その結果、2次元フォトニック結晶の形成する光共振器の損失が大きくなり、レーザ発振のためにはその損失を補う光利得を得るだけの電流を注入しなければならないので、閾値電流を小さくすることが難しいという問題があった。
一方、2次元フォトニック結晶が形成する光共振器の面積を大きくし、長い距離で分布帰還を起こして光共振器の損失を小さくする方法も考えられるが、この場合は素子の大きさが大きくなる。その上、この方法を用いたとしても閾値電流密度が小さくなるだけであって面発光領域の面積は大きくなるため、総和の閾値電流は小さくならないという問題があった。
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、閾値電流が小さく小型化できる2次元フォトニック結晶面発光レーザおよびその製造方法を提供することを目的とする。
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザは、基板と、前記基板上に積層した下部クラッド層と、前記下部クラッド層上に積層しキャリアの注入により発光する活性層と、前記活性層上に積層した上部クラッド層と、を備え、前記上部クラッド層から前記活性層を貫いて前記下部クラッド層に達する深さを有する空孔を前記活性層の主面方向に周期的に配列した2次元フォトニック結晶が形成されたことを特徴とする。
また、本発明に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザは、上記の発明において、少なくとも前記活性層内における前記空孔の内表面が、前記活性層よりも大きなバンドギャップエネルギーを有する半導体によって被覆されていることを特徴とする。
また、本発明に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザは、上記の発明において、少なくとも前記活性層内における前記空孔の内表面が、コアとなる部分を伝搬する光の波長において透明である誘電体によって被覆されていることを特徴とする。
また、本発明に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザは、上記の発明において、前記2次元フォトニック結晶は、前記活性層を伝搬する光が前記活性層の主面方向で2次元的に分布帰還し、かつ前記活性層に垂直な方向に放射されないように構成された分布帰還制御フォトニック結晶と、前記伝搬光が前記活性層に垂直な方向に放射されるように構成された面発光制御フォトニック結晶とが重畳されたものであることを特徴とする。
また、本発明に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザは、上記の発明において、前記基板はInPからなることを特徴とする。
また、本発明に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザの製造方法は、基板上に下部クラッド層とキャリアの注入により発光する活性層と上部クラッド層とを順次積層形成する積層形成工程と、前記上部クラッド層から前記活性層を貫いて前記下部クラッド層に達する深さを有する空孔を前記活性層の主面方向に周期的に配列した2次元フォトニック結晶を形成する2次元フォトニック結晶形成工程と、を含むことを特徴とする。
本発明に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザは、上部クラッド層から活性層を貫いて下部クラッド層に達する深さを有する空孔を活性層の主面方向に周期的に配列した2次元フォトニック結晶が形成されたことによって、活性層を中心として上部クラッド層および下部クラッド層に分布する光のほぼ全てが2次元フォトニック結晶の効果を受けるため、2次元フォトニック結晶が形成する光共振器の損失がその面積を大きくしなくても小さくなる。その結果、素子を小型化しても小さい駆動電流でレーザ発振するので、小型で閾値電流が小さい2次元フォトニック結晶面発光レーザが実現できるという効果を奏する。
以下に、図面を参照して本発明に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザの実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
(実施の形態1)
まず、本発明の実施の形態1に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザについて説明する。図1は、本実施の形態1に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザを表面側から見た斜視図である。また、図2は、図1に示した2次元フォトニック結晶面発光レーザを裏面側から見た場合の斜視図である。また、図3は、図1に示した2次元フォトニック結晶面発光レーザのX−X線断面図である。また、図4は、図3に示した2次元フォトニック結晶面発光レーザのY−Y線断面図である。まず、図1、2に示すように、本実施の形態1に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザ100は、n−InP半導体からなる基板101上にn−InP半導体からなる下部クラッド層102、GaInAsP半導体からなる下部分離閉じ込め層103、GaInAsP半導体からなる多重量子井戸活性層104、GaInAsP半導体からなる上部分離閉じ込め層105、p−InP半導体からなる上部クラッド層106、p+−GaInAs半導体からなるコンタクト層107が積層されている。なお、基板101および下部クラッド層102の合計の厚さは100μm以上、下部分離閉じ込め層103から上部分離閉じ込め層105までの合計の厚さは0.4μm、上部クラッド層106の厚さは1.5μm、コンタクト層107の厚さは0.25μmである。また、多重量子井戸活性層104の発光スペクトルのピーク波長は1.55μmである。
まず、本発明の実施の形態1に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザについて説明する。図1は、本実施の形態1に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザを表面側から見た斜視図である。また、図2は、図1に示した2次元フォトニック結晶面発光レーザを裏面側から見た場合の斜視図である。また、図3は、図1に示した2次元フォトニック結晶面発光レーザのX−X線断面図である。また、図4は、図3に示した2次元フォトニック結晶面発光レーザのY−Y線断面図である。まず、図1、2に示すように、本実施の形態1に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザ100は、n−InP半導体からなる基板101上にn−InP半導体からなる下部クラッド層102、GaInAsP半導体からなる下部分離閉じ込め層103、GaInAsP半導体からなる多重量子井戸活性層104、GaInAsP半導体からなる上部分離閉じ込め層105、p−InP半導体からなる上部クラッド層106、p+−GaInAs半導体からなるコンタクト層107が積層されている。なお、基板101および下部クラッド層102の合計の厚さは100μm以上、下部分離閉じ込め層103から上部分離閉じ込め層105までの合計の厚さは0.4μm、上部クラッド層106の厚さは1.5μm、コンタクト層107の厚さは0.25μmである。また、多重量子井戸活性層104の発光スペクトルのピーク波長は1.55μmである。
そして、コンタクト層107の上面の一部にはAu/AuZnからなる円形の上部電極109が形成されている。またコンタクト層107の上面であって上部電極109の周囲にはSiNxからなる絶縁膜108が形成されている。一方、基板101の底面にはAuGeNiからなる下部電極110が形成されている。下部電極110は円形の開口部111を有し、基板101の底面の開口部111の部分には誘電体からなる低反射コート膜112が形成されている。なお、上部電極109の半径は4.0μm、下部電極110が有する開口部111の半径は10.0μmである。また、上部電極109は、その上部にTuPtAu、Auなどからなる金属層を形成して多層化してもよい。
さらに、図3、4に示すように、2次元フォトニック結晶面発光レーザ100には、コンタクト層107から上部クラッド層106、上部分離閉じ込め層105、多重量子井戸活性層104、下部分離閉じ込め層103を貫いて下部クラッド層102に達する深さを有する円状の空孔113を多重量子井戸活性層104の主面方向に正方格子状に周期的に配列した2次元フォトニック結晶が形成されている。なお、空孔113の半径は0.14μm、中心間の距離は0.56μm、深さは3.50μmであり、2次元フォトニック結晶面発光レーザ100が波長1.55μmのレーザ光を面発光するように設計されている。
2次元フォトニック結晶面発光レーザ100の上部および下部電極109、110に電圧を印加して多重量子井戸活性層104にキャリアを注入すると、多重量子井戸活性層104は発光する。発光した光は上部分離閉じ込め層105から下部分離閉じ込め層103までの部分をコアとして伝搬する。このとき、上部クラッド層106から上部分離閉じ込め層105、多重量子井戸活性層104、下部分離閉じ込め層103を貫いて下部クラッド層102に達する深さを有する空孔113を多重量子井戸活性層104の主面方向に周期的に配列した2次元フォトニック結晶を形成したことによって、多重量子井戸活性層104を中心として下部および上部分離閉じ込め層103、105、下部および上部クラッド層102、106に分布する光のほぼ全てが2次元フォトニック結晶の分布帰還効果を受ける。その結果、2次元フォトニック結晶が形成する光共振器の損失が小さくなり、より小さい駆動電流でレーザ発振が起こる。その結果、閾値電流が小さい2次元フォトニック結晶面発光レーザが実現できる。なお、レーザ発振した光は2次元フォトニック結晶のグレーティングカップル効果によって面発光し、開口部111から外部に取り出される。基板101の底面の開口部111の部分には低反射コート膜112が形成されており、面発光した光が効率よく取り出される。なお、低反射コート膜112は従来の半導体レーザに用いられているものと同様の光学特性を持つように設計されている。
つぎに、2次元フォトニック結晶面発光レーザ100の動作についてより具体的に説明する。図5は、2次元フォトニック結晶面発光レーザ100の積層方向における光の強度分布と2次元フォトニック結晶の効果との関係を説明する説明図である。2次元フォトニック結晶面発光レーザ100において、多重量子井戸活性層104で発生した光は上部分離閉じ込め層105から下部分離閉じ込め層103までの部分をコアとして伝搬するが、この伝搬光は積層方向において曲線I1で示される光強度分布を有する。一方、空孔113によって形成される2次元フォトニック結晶は上部クラッド層106から上部分離閉じ込め層105、多重量子井戸活性層104、下部分離閉じ込め層103を貫いて下部クラッド層102に達する深さまで形成されている。したがって、図中斜線で示す、伝搬光の光強度分布のうち2次元フォトニック結晶と重なる部分の面積S1は伝搬光の光強度分布全体にわたり、Γはほぼ100%に達する。その結果、伝搬光に対する2次元フォトニック結晶の効果はきわめて高くなるので、2次元フォトニック結晶が形成する光共振器の損失が小さくなり、閾値電流が小さくなる。
一方、図6は、図11に示す従来の2次元フォトニック結晶面発光レーザ500の積層方向における光の強度分布と2次元フォトニック結晶の効果との関係を説明する説明図である。2次元フォトニック結晶面発光レーザ500において、活性層504で発生した光は下部および上部クラッド層502、506で挟まれた活性層504をコアとして伝搬するが、この伝搬光は積層方向において曲線I2で示される光強度分布を有する。一方、空孔513によって形成される2次元フォトニック結晶はフォトニック結晶層514にしか形成されていない。その結果、伝搬光の光強度分布のうち2次元フォトニック結晶と重なる部分の面積S2は伝搬光の光強度分布全体に対して極めて小さく、従来技術ではΓは高々7.4%程度にしかならない(非特許文献1参照)。その結果、伝搬光に対する2次元フォトニック結晶の効果は低いので、2次元フォトニック結晶が形成する光共振器の損失が大きくなり、電流閾値が大きくなる。
また、図7は本発明の実施の形態1に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザ100と従来例の2次元フォトニック結晶面発光レーザ500との面発光領域について説明する説明図である。従来の2次元フォトニック結晶面発光レーザ500においてはΓが小さいため、空孔513が形成する2次元フォトニック結晶の効果が小さいので、閾値電流を小さくするだけの大きい分布帰還効果を得るためには光共振器の面積を大きくする必要があるため、それに応じて面発光領域A2の直径がたとえば50μm程度に大きくなる。
一方、本実施の形態1に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザ100においては、Γを100%と極めて大きくできるため、2次元フォトニック結晶の効果を極めて大きくできるので、光共振器の面積も小さくてよい。その結果、面発光領域A1を極めて小さくできるので、閾値電流が低いままで素子を小型化できる。その結果、2次元フォトニック結晶面発光レーザ100は、たとえば面発光領域A1の直径を10μm程度に小さくできるので、通常の光ファイバ通信に用いられるシングルモード光ファイバに、レンズを介さず効率的に面発光した光を結合することができる。
なお、2次元フォトニック結晶面発光レーザ100は、以下に説明する方法で製造できる。まずn−InP半導体からなる基板101上に、通常の半導体結晶成長に用いられる技術であるMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)やMBE(Molecular Beam Epitaxy)を用いて、下部クラッド層102、下部分離閉じ込め層103、多重量子井戸活性層104、上部分離閉じ込め層105、上部クラッド層106、コンタクト層107を成長し、積層構造体を作製する。
次に、作製した積層構造体に所定の半径の空孔113を所定の間隔で所定の深さまで形成する。空孔はリソグラフィーとエッチングとを組み合わせることで形成できる。すなわち、リソグラフィーによって形成したレジストパターン、あるいはエッチングによってこのレジストパターンを誘電体に転写したものをマスクとして、積層構造のエッチングを行う。エッチングにはRIE(Reactive Ion Etching)やICP−RIE(Inductivity Coupled Plasma Reactive Ion Etching)などの方法を用いることができる。
つぎに、空孔113を形成した積層構造体のコンタクト層107上に、PCVD(Plasma Chemical Vapor Deposition)などの方法を用いてSiNxからなる絶縁膜108を成膜する。そして、成膜した絶縁膜108の上にフォトリソグラフィーを用いてパターニングをおこない、RIE法で転写することによって上部電極109を形成する部分の絶縁膜のみを取り除く。そして、電子線蒸着や抵抗加熱蒸着などの方法を用いて上部電極109を形成する。つぎに同様の方法で下部電極110および低反射コート112を形成し、所定の大きさの素子に切断することで、本実施の形態1に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザ100が完成する。
以上説明したように、本実施の形態1に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザ100は、上部クラッド層106から上部分離閉じ込め層105、多重量子井戸活性層104、下部分離閉じ込め層103を貫いて下部クラッド層102に達する深さを有する空孔113を多重量子井戸活性層104の主面方向に周期的に配列した2次元フォトニック結晶を形成したことによって、小型で閾値電流が小さいものとなる。
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザについて説明する。本実施の形態2に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザは、図1に示すような実施の形態1に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザと同様の構造を有するが、活性層内における空孔の内表面が、活性層よりも大きなバンドギャップエネルギーを有する半導体によって被覆されている点で異なる。
次に、本発明の実施の形態2に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザについて説明する。本実施の形態2に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザは、図1に示すような実施の形態1に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザと同様の構造を有するが、活性層内における空孔の内表面が、活性層よりも大きなバンドギャップエネルギーを有する半導体によって被覆されている点で異なる。
図8は、本実施の形態2に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザ200の縦断面の一部を示す図である。2次元フォトニック結晶面発光レーザ200は、2次元フォトニック結晶面発光レーザ100と同様に、n−InP半導体からなる基板上にn−InP半導体からなる下部クラッド層202、GaInAlP半導体からなる下部分離閉じ込め層203、GaInAlP半導体からなる多重量子井戸活性層204、GaInAlP半導体からなる上部分離閉じ込め層205、p−InP半導体からなる上部クラッド層206、p+−GaInAs半導体からなるコンタクト層207が積層された構造を有する。なお、コンタクト層107上にはSiNxからなる絶縁膜208が形成されるとともに、2次元フォトニック結晶面発光レーザ100と同様に、上部および下部電極、低反射コートが形成されている。
そして、コンタクト層207から上部クラッド層206、上部分離閉じ込め層205、多重量子井戸活性層204、下部分離閉じ込め層203を貫いて下部クラッド層202に達する深さを有する空孔213を多重量子井戸活性層204の主面方向に正方格子状に周期的に配列した2次元フォトニック結晶が形成されているので、2次元フォトニック結晶面発光レーザ100と同様に、小型で閾値電流が小さいものとなる。
さらに、2次元フォトニック結晶面発光レーザ200は、空孔213の内表面が、多重量子井戸活性層204よりも大きなバンドギャップエネルギーを有する半導体であるノンドープのInP層215によって被覆されている。GaInAlPのバンドギャップエネルギーは波長1.55μmで0.8eVであるのに対して、InPのバンドギャップエネルギーは1.35eVであり、550meV程度大きい。したがって、このノンドープのInP層215によって被覆されていることにより、多重量子井戸活性層204内における空孔213の内表面においてキャリアの非発光の表面再結合が抑制され、かつノンドープのInP層215は波長1.55μmの光を吸収しないので光吸収による損失が発生しない。したがって、2次元フォトニック結晶面発光レーザ200は、閾値電流が一層小さい2次元フォトニック結晶面発光レーザとなる。
つぎに、本実施の形態2に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザ200の製造方法について説明する。まず、実施の形態1に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザ100の製造方法と同様の方法で、基板上に下部クラッド層202、下部分離閉じ込め層203、多重量子井戸活性層204、上部分離閉じ込め層205、上部クラッド層206、コンタクト層207を成長し、積層構造体を作製する。
次に、実施の形態1に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザ100の製造方法と同様の方法で、作製した積層構造体に所定の半径の空孔213を所定の間隔で所定の深さまで形成する。
次に、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法により、コンタクト層207の表面と空孔213の内表面とにノンドープのInP層を20nmの厚さで形成する。その後、希塩酸を用いてコンタクト層207の表面に形成されたノンドープのInP層を除去し、コンタクト層207を露出させる。このとき、空孔213の内表面に形成されたノンドープのInP層215は残存する。
その後、実施の形態1に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザ100の製造方法と同様の方法で、SiNx絶縁膜、上部電極、下部電極、低反射コートを形成し、所定の大きさの素子に切断することで、本実施の形態2に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザ200が完成する。
以上説明したように、本実施の形態2に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザ200は、GaInAlPからなる多重量子井戸活性層204内における空孔213の内表面が、多重量子井戸活性層204よりも大きなバンドギャップエネルギーを有するInP層215によって被覆されているので、閾値電流が一層小さいものとなる。
なお、本実施の形態2に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザ200は、空孔213の内表面がノンドープのInP層215によって被覆されているが、GaInAlPからなる多重量子井戸活性層204よりも大きなバンドギャップエネルギーを有するものであれば、他の化合物半導体、たとえばInP、GaAs、GaP、GaInP、GaInAsPなどからなる層で被覆してもよい。また、活性層の材料によっては、AlGaInP、AlGaAs、AlGaN、ZnSeなどを被覆に用いてもよい。
また、被覆に用いる化合物半導体は、活性層の材料と結晶の格子定数が近いものであることが好ましいが、その厚さが薄いことから、格子定数にある程度差があってもよい。
なお、本実施の形態2の変形例として、活性層内における空孔の内表面が、コアとなる部分を伝搬する光の波長において透明である誘電体であるSiNxによって被覆されていてもよい。
すなわち、ノンドープのInP層215の代わりに、下部分離閉じ込め層203から上部分離閉じ込め層205の部分をコアとして伝搬する光の波長である1.55μmにおいて透明であるSiNx層を被覆として用いることにより、多重量子井戸活性層204内における空孔213の内表面においてキャリアの非発光の表面再結合が抑制され、かつSiNxは波長1.55μmの光を吸収しないので光の吸収による損失が発生しない。したがって、閾値電流が一層小さい2次元フォトニック結晶面発光レーザとなる。
本実施の形態2の変形例に係るフォトニック結晶半導体レーザ素子の製造方法については、実施の形態2に係るフォトニック結晶半導体レーザ素子200の製造方法と同様であるが、プラズマCVD法により、コンタクト層207の表面と空孔の内表面とにSiNx層を20nmの厚さで形成し、その後、CF4ガスを用いたRIE法によりコンタクト層207の表面に形成されたSiNx層を除去し、コンタクト層207を露出させる点が異なる。
なお、上記の誘電体としては、波長1.55μmにおいて透明であれば、他の誘電体、たとえばSiOx、AlNx、AlOx、TiOxなどによって被覆されていてもよい。これらの誘電体膜の形成には、PCVD法などの方法が使用可能であるが、たとえば、活性層の材料がAlGaAsで構成されている場合には、酸化により空孔の内表面にAlOx層を形成してもよい。
また、空孔の内表面を被覆する層の厚さは、半導体の場合は5〜20nm、誘電体の場合は5〜50nmの範囲であれば、閾値の効果が得られ、かつフォトニック結晶の機能が良好に保たれる。なお、誘電体の場合は、屈折率が半導体に比べて十分に低いため、誘電体を上記の範囲よりもさらに厚くして、空孔が誘電体によって完全にふさがれる構造としても、フォトニック結晶の機能は維持できる。
また、被覆する層は、単一の層からなるのもの限られず、二以上の層からなるものとしてもよい。また、この二以上の層が、半導体と誘電体とを組み合わせたものであってもよい。たとえば、空孔の内表面において、活性層の部分と被覆する誘電体との間にSiなどの層を介在させるものとすると、誘電体から活性層への酸素の拡散が防止される。
(実施の形態3)
つぎに、本実施の形態3に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザについて説明する。本実施の形態3に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザは、図1に示す実施の形態1に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザ100と同様の製造方法によって製造できるが、波長980nmの光を面発光する点や、2次元フォトニック結晶が、活性層を伝搬する光が活性層の主面方向で2次元的に分布帰還し、かつ活性層に垂直な方向に放射されないように構成された分布帰還制御フォトニック結晶と、伝搬光が活性層に垂直な方向に放射されるように構成された面発光制御フォトニック結晶とが重畳されたものである点などが異なる。
つぎに、本実施の形態3に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザについて説明する。本実施の形態3に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザは、図1に示す実施の形態1に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザ100と同様の製造方法によって製造できるが、波長980nmの光を面発光する点や、2次元フォトニック結晶が、活性層を伝搬する光が活性層の主面方向で2次元的に分布帰還し、かつ活性層に垂直な方向に放射されないように構成された分布帰還制御フォトニック結晶と、伝搬光が活性層に垂直な方向に放射されるように構成された面発光制御フォトニック結晶とが重畳されたものである点などが異なる。
本実施の形態3に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザは、図1に示す実施の形態1に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザ100とは構成する半導体材料が異なるが、同様の構造を有する。すなわち、n−GaAs半導体からなる基板上にAlGaAs半導体からなる下部クラッド層、GaAs半導体からなる下部分離閉じ込め層、InGaAs/GaAsP半導体からなる多重量子井戸活性層、GaAs半導体からなる上部分離閉じ込め層、AlGaAs半導体からなる上部クラッド層、GaAs半導体からなるコンタクト層が積層されている。なお、下部クラッド層の厚さは4μm、下部分離閉じ込め層から上部分離閉じ込め層までの合計の厚さは0.2μm、上部クラッド層の厚さは2μm、コンタクト層の厚さは4μmである。また、多重量子井戸活性層の発光スペクトルのピーク波長は980nmである。
そして、コンタクト層の上面の一部にはAu/AuZnからなる円形の上部電極が形成されている。またコンタクト層の上面であって上部電極の周囲にはSiNxからなる絶縁膜が形成されている。一方、基板の底面にはAuGeNiからなる下部電極が形成されている。下部電極は円形の開口部を有し、基板の底面の開口部の部分には誘電体からなる低反射コート膜が形成されている。なお、上部電極の半径は4.0μm、下部電極が有する開口部の半径は10.0μmである。さらに、コンタクト層から上部クラッド層、上部分離閉じ込め層、多重量子井戸活性層、下部分離閉じ込め層を貫いて下部クラッド層に達する深さを有する円状の空孔を多重量子井戸活性層の主面方向に正方格子状に周期的に配列した2次元フォトニック結晶が形成されている。
図9は、本実施の形態3に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザにおいて空孔が形成する2次元フォトニック結晶の一部を示す平面図である。空孔313aは格子L1を基本格子とする分布帰還制御フォトニック結晶を構成し、空孔313bは格子L2を基本格子とする面発光制御フォトニック結晶を構成する。なお、空孔313a、313bは、コンタクト層から上部クラッド層、上部分離閉じ込め層、多重量子井戸活性層、下部分離閉じ込め層を貫いて下部クラッド層に達する深さまで形成されている。
ここで、格子L1の格子定数a1は205nmである。空孔313aの半径はa1の0.24倍すなわち49.2nmである。また、上部分離閉じ込め層から下部分離閉じ込め層までの部分をコアとして伝搬する伝搬光のモード屈折率は3.37である。すなわち、伝搬光の実効的な波長をモード波長とすると、真空中の波長が980nmの光のモード波長は290nmである。つまり、格子L1の格子定数a1は、真空中の波長が980nmの光のモード波長の1/√2倍に相当する値である。
一方、格子L2は格子L1に対して結晶方位が45°の角度をなしており、格子定数a2は290nmであり、真空中の波長が980nmの光のモード波長と同じ値である。空孔313bの半径はa1の0.15倍すなわち30.8nmである。また、空孔313bは所定の2つの空孔313aの中間に位置している。
本実施の形態3に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザにおいては、多重量子井戸活性層を含むコアとなる部分を伝搬する波長1.55μmの伝搬光が、空孔313aが構成する分布帰還制御フォトニック結晶によって高い分布帰還効果を受け、レーザ発振する。しかしながら、分布帰還制御フォトニック結晶によっては面発光は起こらない。
一方、上記の伝搬光は、空孔313bが構成する面発光制御フォトニック結晶の高いグレーティングカップル効果による効果的な回折によってフォトニック結晶が形成された面に垂直な方向に進行し、面発光を起こす。すなわち、分布帰還制御フォトニック結晶によって分布帰還してレーザ発振した光は、面発光制御フォトニック結晶によって面発光する。
すなわち、本実施の形態3に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザは、小型で閾値電流が小さいとともに、2次元分布帰還と面発光が異なるフォトニック結晶格子によって実現されているため、各フォトニック結晶格子の構造を独立に設計して、2次元分布帰還効果と面発光特性を独立に最適化することができる。
以下、本実施の形態3におけるフォトニック結晶の2次元分布帰還と面発光の原理について詳細に説明する。まず、2次元正方格子フォトニック結晶で分布帰還動作が可能な光はフォトニック結晶の逆格子空間(波数空間)における対称点のうち、X点、M点、Γ点において動作する。Γ点とは、大きさが最小になるように選んだ正方格子の逆格子基本ベクトルをb1、b2とすると、波数ベクトルがk=pb1+qb2(p、qは任意の整数)と表される点である。ベクトルb1、b2は互いに直交しており、ベクトルの大きさはどちらもフォトニック結晶の格子定数をaとすると2π/aである。同様に、X点は波数ベクトルがk=(p+1/2)b1+qb2またはk=pb1+(q+1/2)b2と表される点であり、M点は波数ベクトルがk=(p+1/2)b1+(q+1/2)b2と表される点である。
ここで、上記のように、分布帰還制御フォトニック結晶の格子L1の格子定数a1は、真空中の波長が980nmの光のモード波長の1/√2倍に相当する値である。すなわち、光のモード波長は√2a1であるからこのときの波数の大きさは2π/(√2a1)である。一方、格子L1の逆格子基本ベクトルはb1=(2π/a1、0)、b2=(0、2π/a1)である。ここで、分布帰還制御フォトニック結晶の波数空間上のM点は波数ベクトルであるkが上記のように表されるが、p=q=0のときはk=1/2b1+1/2b2=(π/a1、π/a1)であるから、波数ベクトルであるkの大きさは2π/(√2a1)である。すなわち、光のモード波長の波数の大きさとM点の波数ベクトルの大きさが等しいので、真空中の波長が980nmの光は、分布帰還制御フォトニック結晶との関係では、M点で動作することになる。
つぎに、M点の波数ベクトルk=1/2b1+1/2b2に対応する波数ベクトルの光が分布帰還制御フォトニック結晶の結晶格子によって回折を受けると、その波数ベクトルはk´=(p´+1/2)b1+(q´+1/2)b2(p´、q´は任意の整数)に変化する。ここで、p´=−1かつq´=−1となる回折を受けるときにはk´=−kとなるから、M点の波数ベクトルに対応する光は、回折する前の光とは逆方向に進行する波と結合する。また、p´=0かつq´=−1の場合にはk´=1/2b1−1/2b2となるから、回折する前の光に対する角度が90°をなす方向に進行する波と結合し、p´=−1かつq´=0の場合にはk´=−1/2b1+1/2b2となるから、回折する前の光に対する角度が−90°をなす方向に進行する波と結合する。よって、波数空間におけるM点に対応する波数ベクトルを有する真空中の波長980nmの光は、分布帰還制御フォトニック結晶により2次元的な分布帰還を受け、レーザ発振する。
しかしながら、回折を受けた後の光の波数ベクトルであるk´については、どのように整数p´およびq´を選んでもk´=0となることはないため、分布帰還制御フォトニック結晶によっては面発光は起こらない。
次に、面発光の原理について説明する。面発光制御フォトニック結晶の格子L2の結晶方位は、分布帰還制御フォトニック結晶の格子L1の結晶方位に対して45°の角度をなし、格子L2の格子定数は格子L1の格子定数の√2倍であるから、大きさが最小になるように選んだ面発光制御フォトニック結晶の逆格子単位ベクトルをb1´およびb2´とすると、b1´およびb2´は、分布帰還フォトニック結晶の逆格子単位ベクトルであるb1およびb2とは次の関係がある。すなわち、b1´=1/2b1+1/2b2およびb2´=−1/2b1+1/2b2である。このとき、分布帰還制御フォトニック結晶によって分布帰還してレーザ発振する光の代表的な波数ベクトルであるk=1/2b1+1/2b2は、b1´を用いてk=b1´と表される。これは、面発光制御フォトニック結晶の逆格子空間のΓ点の波数ベクトルを表すk=pb1´+qb2´において、p=1かつq=0とした場合に相当する。すなわち、分布帰還制御フォトニック結晶によって分布帰還してレーザ発振した光は、面発光制御フォトニック結晶との関係では、Γ点で動作することになる。
ここで、Γ点に対応する波数ベクトルを有する光は、フォトニック結晶格子による回折によってフォトニック結晶が形成された面に垂直な方向に進行し、面発光を起こす。すなわち、分布帰還制御フォトニック結晶によって分布帰還してレーザ発振した光は、面発光制御フォトニック結晶によって面発光する。
以上説明したように、本実施の形態3に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザは、小型で閾値電流が小さいとともに、各フォトニック結晶格子の構造を独立に設計して、2次元分布帰還効果と面発光特性を独立に最適化することができる。たとえば、分布帰還制御フォトニック結晶は分布帰還効果が一層強くなるように構造が設計されるとともに、面発光制御フォトニック結晶は、空孔の大きさを調整して面発光強度が強くなるように構造が設計される。
(実施の形態4)
次に、本発明の実施の形態4に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザについて説明する。本実施の形態4に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザは、実施の形態3に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザと同様の構造を有し、同様の半導体材料からなり、同様の波長980nmの光を面発光し、同様の製造方法によって製造できるが、異なる格子定数を有する2種類の三角格子状のフォトニック結晶が重畳されたフォトニック結晶が形成されている点が異なる。
次に、本発明の実施の形態4に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザについて説明する。本実施の形態4に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザは、実施の形態3に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザと同様の構造を有し、同様の半導体材料からなり、同様の波長980nmの光を面発光し、同様の製造方法によって製造できるが、異なる格子定数を有する2種類の三角格子状のフォトニック結晶が重畳されたフォトニック結晶が形成されている点が異なる。
図10は、本実施の形態4に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザにおいて空孔が形成する2次元フォトニック結晶の一部を示す平面図である。空孔413aは格子L3を基本格子とする三角格子状の分布帰還制御フォトニック結晶を構成し、空孔413bは格子L4を基本格子とする三角格子状の面発光制御フォトニック結晶を構成する。格子L3の格子定数a1は194nmである。空孔413aの半径はa1の0.22倍すなわち42.7nmである。また、上部分離閉じ込め層から下部分離閉じ込め層までの部分をコアとして伝搬する伝搬光のモード屈折率は3.37である。すなわち、真空中の波長が980nmの伝搬光のモード波長は290nmである。つまり、格子L3の格子定数a1は、真空中の波長が980nmの光のモード波長の2/3倍に相当する値である。
一方、格子L4は格子L3に対して結晶方位が30°の角度をなしており、格子定数a2は336nmであり、真空中の波長が980nmの光のモード波長の2√3/3倍に相当する値である。空孔413bの半径はa1の0.15倍すなわち29.1nmである。また、空孔413bは所定の2つの空孔413aの中間に位置しているが、中間の位置からずれていてもよい。
本実施の形態4に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザは、実施の形態3と同様に、2次元分布帰還と面発光が異なるフォトニック結晶格子によって実現されているため、各フォトニック結晶格子の構造を独立に設計して、2次元分布帰還効果と面発光特性を独立に最適化することができる。
以下、本実施の形態4におけるフォトニック結晶の2次元分布帰還と面発光の原理について詳細に説明する。まず、2次元三角格子フォトニック結晶で分布帰還動作が可能な光はフォトニック結晶の波数空間における対称点のうち、M点、K点、Γ点において動作する。Γ点は、大きさが最小になるように選んだ三角格子の逆格子基本ベクトルをb1、b2とすると、波数ベクトルがk=pb1+qb2(p、qは任意の整数)と表される点である。上記の正方格子の場合とは異なり、ベクトルb1、b2は60度の角度をなしており、ベクトルの大きさはどちらもフォトニック結晶の格子定数をaとして4π/(√3a)である。同様に、M点は波数ベクトルがk=(p+1/2)b1+qb2またはk=pb1+(q+1/2)b2またはk=(p−1/2)b1+(q+1/2)b2と表される点であり、K点は波数ベクトルがk=(p+1/3)b1+(q+1/3)b2またはk=(p−1/3)b1+(q+2/3)b2で表される点である。
ここで、上記のように、分布帰還制御フォトニック結晶の格子L3の格子定数a1は、真空中の波長が980nmの光のモード波長の2/3倍に相当する値である。すなわち、光のモード波長は3a1/2であるからこのときの波数の大きさは4π/(3a1)である。一方、格子L3の逆格子基本ベクトルはb1=(4π/(√3a1)、0)、b2=(2π/(√3a1)、2π/a1)である。ここで、前述のように波数空間上の対称点であるK点は波数ベクトルであるkが上記のように表されるが、p=q=0のときはk=1/3b1+1/3b2=(2π/(√3a1)、2π/(3a1))であるから、波数ベクトルkの大きさは4π/(3a1)である。すなわち、光のモード波長の波数の大きさとK点の波数ベクトルの大きさが等しいので、真空中の波長が980nmの光は、分布帰還制御フォトニック結晶との関係では、K点で動作することになる。
K点の波数ベクトルk=1/3b1+1/3b2に対応する波数ベクトルを有する光が分布帰還制御フォトニック結晶によって回折を受けると、その波数ベクトルはk´=(p´+1/3)b1+(q´+1/3)b2(p´、q´は任意の整数)に変化する。ここで、p´=−1かつq´=0となる回折を受けるときにはk´=−2/3b1+1/3b2となり、回折する前の光の波数ベクトルkとは120°の角度をなすから、K点の波数ベクトルに対応する光は、回折によって回折する前の光に対する角度が120°をなす方向に進行する光と結合する。また、p´=0かつq´=−1の場合にはk´=1/3b1−2/3b2となり、回折する前の光に対する角度が120°をなす方向に進行する光と結合する。よって、K点に対応する真空中の波長980nmの光は、分布帰還制御フォトニック結晶により2次元的な分布帰還を受け、レーザ発振する。
しかしながら、回折を受けた後の光の波数ベクトルであるk´については、どのように整数p´およびq´を選んでもk´=0となることはないため、分布帰還制御フォトニック結晶によっては面発光は起こらない。
次に、面発光の原理について考える。面発光制御フォトニック結晶の格子L4の結晶方位は、分布帰還制御フォトニック結晶の格子L3の結晶方位に対して30°の角度をなし、格子L4の格子定数は格子L3の格子定数の√3倍であるから、大きさが最小になるように選んだ面発光制御フォトニック結晶の逆格子単位ベクトルをb1´およびb2´とすると、b1´およびb2´は、分布帰還フォトニック結晶の逆格子単位ベクトルであるb1およびb2とは次の関係がある。すなわち、b1´=1/3b1+1/3b2およびb2´=1/3b1−2/3b2である。このとき、分布帰還制御フォトニック結晶によって分布帰還してレーザ発振した光の代表的な波数ベクトルであるk=1/3b1+1/3b2は、b1´を用いてk=b1´と表される。これは、面発光制御フォトニック結晶の逆格子空間のΓ点の波数ベクトルを表すk=pb1´+qb2´において、p=1かつq=0とした場合に相当する。すなわち、分布帰還制御フォトニック結晶によって分布帰還してレーザ発振した光は、面発光制御フォトニック結晶との関係では、Γ点で動作することになる。
その結果、本実施の形態4に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザにおいては、実施の形態3に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザと同様に、分布帰還制御フォトニック結晶によって分布帰還してレーザ発振した光は、面発光制御フォトニック結晶によって面発光する。そして、本実施の形態4に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザは、各フォトニック結晶格子の構造を独立に設計して、2次元分布帰還効果と面発光特性を独立に最適化することができる。
なお、上記の実施の形態3、4において、面発光制御フォトニック結晶を形成する空孔が面方向の位置に応じて異なる大きさを有するように該空孔を形成してもよい。具体的には、空孔の半径は、中心部から周辺部に向かって面内の距離にしたがって指数関数的に減少させる。面発光制御フォトニック結晶を形成する空孔の半径を層の面内の中心部では大きく、周辺部では小さくすることにより、グレーティングカップル効果による面発光制御フォトニック結晶の面発光の効果を中心部では大きく、周辺部では小さくすることができる。その結果、面発光の面内での光強度分布がガウス型に近い形状を有するガウシアンビームを出力させることができる。また、面内での光強度分布がガウシアンビームに近い出力光を得るため空孔の半径を中心部からの距離に応じて指数関数的に変化させたが、所望の形状のビームに応じて任意に空孔の大きさを調整することができる。
また、上記の実施の形態において、空孔は下部クラッド層に達する深さを有すればよいので、それ以上の深さ、すなわち基板まで達する深さを有していてもよい。また、上記の実施の形態では、下部分離閉じ込め層、多重量子井戸活性層、上部分離閉じ込め層をコア部としているが、コア部がバルク半導体からなるスラブ導波路であってもよい。また、活性層をはじめとする各層の材料やレーザ発振する光の波長は上記実施の形態に示したものに限らず、化合物半導体全般を各層として用いることができ、レーザ発振する光の波長も材料の選択によって任意に設計することが可能である。
ところで、上記の実施の形態1に係る2次元フォトニック結晶面発光レーザにおいて、多重量子井戸活性層において発光した光は上部分離閉じ込め層から下部分離閉じ込め層までの部分をコアとして伝搬する。これは、上部分離閉じ込め層から下部分離閉じ込め層までの部分が、クラッドとなる上部クラッド層および下部クラッド層よりも屈折率が高いため、コアとクラッドとの間に屈折率差が生じているからである。上記の実施の形態においては、上部分離閉じ込め層から下部分離閉じ込め層までのコアとなる部分に屈折率が低い空孔が多数形成されているため、コアとなる部分の平均屈折率は空孔が形成されない場合よりも低下する。しかし、上記の実施の形態においては、クラッドとなる上部クラッド層および下部クラッド層にも同数の空孔が形成されているので、クラッドとなる部分も等価的に屈折率が低下する。その結果、コアとクラッドとの間の屈折率差は空孔がない場合とほぼ等価となるから、空孔が形成されていても、光は上部分離閉じ込め層から下部分離閉じ込め層までの部分をコアとして伝搬する。
また、非特許文献1のように、2次元フォトニック結晶層を活性層に近づける方法は、InP半導体からなるInP基板上に形成する発振波長の長い2次元フォトニック結晶面発光レーザの場合には次のような問題がある。すなわち、InP基板上のレーザでは,GaAs基板上のレーザに比べて材料間の屈折率差を大きくすることが難しいので、活性層を含むコアとクラッドとの屈折率差を大きくすることが難しい。この場合に、2次元フォトニック結晶層を活性層に近づけると、2次元フォトニック結晶層は空孔を含むために層内の平均屈折率は非常に小さいから、光はその層を避けてしまい活性層を挟んで2次元フォトニック結晶層がある側とは反対側のクラッド層に偏った分布を示すことになる。このような状態になると、光がフォトニック結晶層を避けるために、結果としてΓは十分に大きくはならない。したがって、2次元フォトニック結晶層を活性層に近づける方法は、特にInP基板上の2次元フォトニック結晶面発光レーザでは閾値電流を下げることが難しく、小型化も難しい。このため、InP基板上の2次元フォトニック結晶面発光レーザでは、本発明はより顕著な効果を奏する。なお、クラッド層の屈折率が十分に小さい場合は、クラッド層を避ける効果とフォトニック結晶層を避ける効果が釣り合うためにこのような現象は緩和される。
100、200 2次元フォトニック結晶面発光レーザ
101、201 基板
102、202 下部クラッド層
103、203 下部分離閉じ込め層
104、204 多重量子井戸活性層
105、205 上部分離閉じ込め層
106、206 上部クラッド層
107、207 コンタクト層
108、208 絶縁膜
109 上部電極
110 下部電極
111 開口部
112 低反射コート膜
113、213、313a、313b、413a、413b 空孔
215 InP層
L1〜L4 格子
101、201 基板
102、202 下部クラッド層
103、203 下部分離閉じ込め層
104、204 多重量子井戸活性層
105、205 上部分離閉じ込め層
106、206 上部クラッド層
107、207 コンタクト層
108、208 絶縁膜
109 上部電極
110 下部電極
111 開口部
112 低反射コート膜
113、213、313a、313b、413a、413b 空孔
215 InP層
L1〜L4 格子
Claims (6)
- 基板と、
前記基板上に積層した下部クラッド層と、
前記下部クラッド層上に積層しキャリアの注入により発光する活性層と、
前記活性層上に積層した上部クラッド層と、
を備え、前記上部クラッド層から前記活性層を貫いて前記下部クラッド層に達する深さを有する空孔を前記活性層の主面方向に周期的に配列した2次元フォトニック結晶が形成されたことを特徴とする2次元フォトニック結晶面発光レーザ。 - 少なくとも前記活性層内における前記空孔の内表面が、前記活性層よりも大きなバンドギャップエネルギーを有する半導体によって被覆されていることを特徴とする請求項1に記載の2次元フォトニック結晶面発光レーザ。
- 少なくとも前記活性層内における前記空孔の内表面が、コアとなる部分を伝搬する光の波長において透明である誘電体によって被覆されていることを特徴とする請求項1に記載の2次元フォトニック結晶面発光レーザ。
- 前記2次元フォトニック結晶は、前記活性層を伝搬する光が前記活性層の主面方向で2次元的に分布帰還し、かつ前記活性層に垂直な方向に放射されないように構成された分布帰還制御フォトニック結晶と、前記伝搬光が前記活性層に垂直な方向に放射されるように構成された面発光制御フォトニック結晶とが重畳されたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の2次元フォトニック結晶面発光レーザ。
- 前記基板はInPからなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の2次元フォトニック結晶面発光レーザ。
- 基板上に下部クラッド層とキャリアの注入により発光する活性層と上部クラッド層とを順次積層形成する積層形成工程と、
前記上部クラッド層から前記活性層を貫いて前記下部クラッド層に達する深さを有する空孔を前記活性層の主面方向に周期的に配列した2次元フォトニック結晶を形成する2次元フォトニック結晶形成工程と、
を含むことを特徴とする2次元フォトニック結晶面発光レーザの製造方法。
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