図1(a)に示すエスカレータカートは単に4輪の手押し車に後輪後部接触部が取り付いただけもので、使用が上りのエスカレータに限られ下りのエスカレータには乗り入れないエスカレータカートである。上りのエスカレータ内では後輪後部接触部が必ず接地しエスカレータに固定されるので、エスカレータカートとして十分に機能する。1は固定輪で前輪でエスカレータ内に先に進入する。1Aは1の回転軸RAは1の車輪半径を示す。2は自在輪で後輪であり前輪1に後続する。2Aは2の回転軸でRBは2の車輪半径を示す。3は車体、4は取手、4Aは取手支柱、5は摩擦部、5Aは後輪後部接触部、6Aはエスカレータのステップ角部、6Bはエスカレータのステップ踏面、6Cはエスカレータのステップ蹴込み部分である。
実線で示したカートAは前輪の回転軸と後輪後部接触部との間の距離S1をステップの踏面長さL1の整数倍にしている。ステップの踏面長さL1はステップ角部から次のステップ角部までの長さL2に近似している。前輪の回転軸と後輪後部接触部との間の距離をステップの踏面長さL1の整数倍にすると、後輪後部接触部が接地しない位置ではカートがエスカレータに進入したとき前輪が上階側のステップ角部の上昇で後退するので後輪後部接触部は下段に落下する。したがって後輪後部接触部が僅かに後退すると下段に落下するステップ角部に静止することはない。
前輪の下段への落下は図1(a)に示すようにカート下の地形が階段状に出来上がってからではなく、実際は階段状の地形が出来上がる前にカートの移動は完了している。また前輪の車輪の半径RAが後輪の回転軸と後輪後部接触部との間の距離RBより大きく設計しているので、前輪が下段へ落下すると後輪は下段に落下し、後輪後部接触部が下段のステップの上空で宙に浮いた状態になることはない。僅かに後退すると下段に落下するステップ角部付近に後輪がとどまることはないので前輪が後輪の移動によって落段することはない。
前輪Aの前方に点線で示した車輪Bが前輪であるとき、すなわち前輪の回転軸と後輪後部接触部との間の距離S2がステップの踏面長さL1の整数倍より長いとき、車輪径の大きさに関係なく、後輪がステップ角部付近にとどまるとき後輪後部接触部が下段のステップの上空で宙に浮いた状態にある。あるいは後輪が僅かに後退するだけで下段に落下し前輪が落段することになる。この場合、前輪がエスカレータに進入してからある程度の時間が経過し、突如として大きな段差を落段し大きな衝撃を受けることになる。このようなことから前輪の回転軸と後輪後部接触部との間の距離はステップの踏面長さL1の整数倍以下に設計しなければならない。
前輪後方に点線で示した車輪Cの車輪径は実線で示した車輪Aを包含する大きさで、前輪の回転軸と後輪後部接触部との間の距離S3はステップの踏面長さL1の整数倍より短い。前輪が後退するとき後輪は下段に落下しステップ角部付近にとどまることはない。したがって車輪Cが前輪であるカートは後輪後部接触部が下段のステップの上空で宙に浮いた状態になることもなく必ず接地し、前輪が後輪の移動によって落段することもない。
前輪の回転軸と後輪後部接触部との間の距離がステップの踏面長さの整数倍より短い場合で実線で示した車輪Aを包含する車輪Cより前輪が小さいとき、後輪はステップ角部付近にとどまり後輪後部接触部が下段のステップの上空で宙に浮いた状態になることがある。上りのエスカレータ内で後輪後部接触部が必ず接地しエスカレータに固定されるためには、前輪の回転軸と後輪後部接触部との間の距離がステップの踏面長さの整数倍以下であり、前輪の車輪径が実線で示した車輪Aを包含する大きさでなければならない。
図1(b)は図1(a)に実線で示したエスカレータカートが下りのエスカレータ内にある状態をしめすもので、図1(b)に実線で示すエスカレータカートは前輪の回転軸と後輪後部接触部との間の距離S1はステップの踏面長さL1の整数倍である。後輪後部接触部がステップ角部付近にあるとき、カート下の階段状の地形を実線で示す。後輪後部接触部は僅かに下段方向に移動すると下段に落下するが、それより先に前輪が上階側のステップ角部の上昇で前進し後輪後部接触部は下段に移動する。したがって後輪後部接触部が下段に落下するステップ角部付近に来ることはない。
図1(b)に点線でエスカレータの段差の状況を示すように前輪の位置がステップ角部から離れて上段側に移ると、後輪は下段に落下する位置になるが後輪後部接触部はステップ角部に引っ掛かってとどまる。後輪は下段のステップの上空で宙に浮いた状態になるが、カートはエスカレータに固定される。すでに述べたように後輪後部接触部が下段に落下する位置にあるとき前輪は下段に落下することがなく、後輪が下段に落下する位置にあるときも前輪は下段に落下することもなく、そして後輪が下段に落下する位置にないときも前輪は下段に落下することなくステップ上にとどまって静止する。すなわち図1(a)に実線で示したエスカレータカートが下りのエスカレータ内では前輪は下段に落下することなくステップ上にとどまって静止する。下りのエスカレータ内においては前輪の車輪の大きさは関係しない。
図1(b)のエスカレータカートは下りのエスカレータ内において後輪後部接触部がステップ角部に引っ掛かる場合以外は、後輪後部接触部が宙に浮いた状態でカートはエスカレータ内で静止するが固定はされない。すなわち図1のカートは下りのエスカレータ内では使えない。後輪後部接触部に加えて後輪の前部にも接触部が必要になるが、後輪がステップ角部付近にあるとき後輪前部接触部も宙に浮いて効かないため結局前輪にも接触部が必要となる。すべての車輪に接触部が取り付くと、どれかの接触部が接地するようになり車間距離は関係がなくなる。
図2(a)は後輪の移動で前輪が下段に落下しないカートの説明図で、図2(a)は上りのエスカレータにおいて前輪が下段に落下することのないエスカレータカートで図2(b)は下りのエスカレータにおいて前輪が下段に落下することのないエスカレータカートである。5Bは後輪前部接触部、5Cは前輪後部接触部を示す。
図2(a)は図1(a)において前輪が車輪Bのときよりも更に車体の長さを伸ばしたカートを示し、車体の長さを前輪が車輪Bのときよりも更に伸ばすと上りのエスカレータ内で後輪が落下しても前輪が下段に落下しないようになる。また図2(a)のエスカレータカートが図2(b)に示すように下りのエスカレータ内にあるとき、後輪が下段に落下する位置にあるとき、前輪はすでに下段に落下した位置にあるので前輪は後輪によって下段に落下することはない。
前輪と後輪の車間距離をステップの長さの整数倍より長くすると上階側の車輪が先に落段しても下階側の車輪が落段することはなく、下階側の車輪が先に落段しそれによって上階側の車輪が下階側の車輪が落段することもあり、ステップ上に踏みとどまることもある。上りのエスカレータにおいては後輪が前輪を下段に落すことになるが、下りのエスカレータにおいては後輪が前輪を下段に落すことはない。図2の場合は前輪が後輪の落下で落段されない場合を考えるので後輪の車輪の大きさは関係するが、前輪の落下で後輪が落段する場合を考えるのではないので前輪の車輪の大きさは関係しない。
図2(a)に示すように後輪がステップ角部付近にとどまり後輪後部接触部が下段のステップの上空で宙に浮いた状態になるとき、前輪は落段しないがカートはエスカレータに固定されない。したがってカートが常にエスカレータに固定されるようにするには前輪にも後部接触部が必要となる。車輪前後の前部接触部と後部接触部は車輪がステップ角部に位置するとき宙に浮いて接地することはなく役目を果たさない。そのため片方の車輪がステップ角部に位置するとき他方の車輪はステップ角部の位置にないようにしなければならない。ステップ角部の位置にない車輪の前後の接触部のどちらかが接地するようにしなければならない。
下りのエスカレータにカートを固定するには後輪の前部に接触部が必要で、常に後輪前部の接触部が接地するには前輪を点線で示すように車輪形の大きな前輪にして後輪と後輪前部接触部がステップ角部付近にとどまらないようにする。あるいは前輪の車輪径に関係なく前輪の後部に接触部を設けて前輪が下段に落下せず、下段のステップの上空で宙に浮いた状態になるようにする。図2のエスカレータカートが上り下りのエスカレータに固定されるためには、後輪の前後に接触部が必要で前輪にも後部接触部が必要となる。前輪の前部接触部は不要である。
前輪と後輪の車間距離をステップの長さの整数倍より短くすると下階側の車輪が先に落段しても上階側の車輪が落段することはなく、上階側の車輪が先に落段しそれによって下階側の車輪が下階側の車輪が落段することもあり、ステップ上に踏みとどまることもある。下りのエスカレータにおいては上位の後輪が前輪を下段に落すことになるが、上りのエスカレータにおいては下位の後輪が前輪を下段に落すことはない。下りのエスカレータにおいて後輪が下段に落下し前輪がステップ上にのこるためには前輪と後輪の車間距離をステップの長さの整数倍より後輪が下段に落下した時の移動距離より十分に短くする必要がある。図1(a)において前輪が車輪Cのときよりも更に車体の長さを短くすると上りのエスカレータ内でも下りのエスカレータ内でも後輪が落下しても前輪が下段に落下しないようになる。
前輪の回転軸と後輪後部接触部との間の距離がステップの踏面長さの整数倍より十分に短いことはステップの踏面長さの整数倍より十分に長いことでもあり、後輪が前輪を下段に落すことはない。例えば図2においてステップの2枚の長さより十分に長い範囲はステップの3枚の長さより十分に短い範囲でもある。
この場合もエスカレータに固定されるためには後輪の前後に接触部が必要で前輪にも後部接触部が必要となる。ただしステップの踏面長さの整数倍より十分に短い場合、下りのエスカレータ内で後輪がステップ角部の位置にあって接触部が車輪宙に浮いて役目を果たさない場合があるので前輪の前部接触部も必要である。すなわち特許文献5のカートのようにすべての車輪の前後に前部接触部と後部接触部が必要になる。図2の場合も結局のところ図1の場合と同様に、すべての車輪に接触部が取り付き、どれかの接触部が接地するようになるので車間距離は関係がなくなる。前輪が後輪によって落段されるかどうかを問題にするならば、カートのエスカレータに固定する方法がステップとの接触に頼る方法であってはいけない。
特許文献5のカートはすべての車輪の前後に前部接触部と後部接触部が付くカートで、前後輪の車間距離がステップの踏面長さの整数倍でなければ、前輪と後輪が同時にステップ角部の位置にあることはなく必ずどれかの接触部が接地しエスカレータに固定される。また車輪が落段するとき前部接触部あるいは後部接触部のいずれかがステップ角部に引っ掛かり落段を途中で止めるので、前輪がたとえ大きな段差を落下しても落段は途中で止まるので前輪が後輪によって落段されることは問題にしない。
ステップ角部上にある車輪はステップ角部の上昇に伴い車体が傾き車輪の回転中心がステップ角部を通る鉛直線より下階側のステップ上空に位置を移し下段に落下する。車輪が自ら下段に落下するのはこの場合に限られ、車輪はステップ上を移動することがあっても、後輪の落下で下段に落下する場合を除いて自ら下段に落下することはない。エスカレータ内に先に進入する前輪は段差の成長に伴って移動するが段差の成長では下段に落下しない。後続の後輪についても同じことが言え、進入時に移動しても段差を落下しない。
エスカレータ内で車輪がステップの段差を落下するのは、後輪の移動によって前輪が移動し下段に落下する場合だけである。これを防ぐためには後輪の移動がないようにするか、後輪が移動しても前輪が下段に落下しないようにするかである。図1は前輪の移動によって後輪が移動しない位置に移動するようにしたもので、これから説明する図3は後輪が移動しても前輪は初めに載ったステップ上にとどまるようにするものである。カートのエスカレータに固定する方法についても図1はステップとの接触に頼る方法であるが、図3は
ステップとの接触に頼らない方法であり、カートが静止する位置がステップ角部を含めてどこであってもカートをエスカレータに固定する方法である。
図3(a)は後輪の移動で前輪が下段に落下しないカートの説明図で、後輪は固定輪1で前輪は自在輪2である。前輪前方の点線で示す円は自在輪が反対側に旋回した状態を示す。上り入り口でのカート下の階段状の地形を実線で、下り入り口でのカート下の階段状の地形を点線で示す。点線で示す反対側に旋回した自在輪は実線で示す自在輪より、上りのエスカレータにおいてステップ上に留まり、下りのエスカレータにおいてすでに下段に落下した位置にあるので、実線で示す自在輪のカートが後輪の移動で前輪が下段に落下しないとき点線で示す自在輪のカートは後輪の移動で前輪が下段に落下しない。
前後輪の車間距離がステップ踏面の長さL1の整数倍と後輪半径の車輪半径RBの和より長い場合は、上りのエスカレータ内においても下りのエスカレータ内においても後輪が下段に落下しても前輪は下段に落下しない。ステップ踏面の長さL1の整数倍と後輪半径の車輪半径RBの差より短い場合は、上りのエスカレータ内においても下りのエスカレータ内においても後輪が下段に落下しても前輪は下段に落下しない。上りのエスカレータ内においても下りのエスカレータ内においても前後輪の車間距離がステップ踏面の長さL1の整数倍と後輪半径の車輪半径RBの和より長くステップ踏面の長さL1の整数倍と後輪半径の車輪半径RBの差より短い範囲内では、後輪が下段に落下しても前輪は下段に落下しない。すなわち後輪の移動で前輪が下段に落下しないカートの車間距離はステップ踏面の長さの1.5倍、2.5倍、〜であり、例えば通常のエスカレータのステップ踏面の長さが400mmであるのでこの場合、ステップ踏面の長さの整数倍の400mmと800mmとの中間の値の600mmであり、或いは800mmと1200mmとの中間の値の1000mmである。更には1200mmと1600mmとの中間の値の1400mmである。後輪の固定輪1の車輪半径が小さく前輪の自在輪2の旋回半径が小さいほど、後輪が下段に落下しても前輪は下段に落下しない範囲が広くなる。
車間距離がステップ踏面の長さL1の整数倍のときエスカレータ内での荷台の傾斜はエスカレータの勾配にひとしく、ステップ踏面の長さの1.5倍、2.5倍、〜になると荷台の傾斜はエスカレータ内でエスカレータの勾配より緩くなる。エスカレータの勾配が20度で緩い場合、荷台の傾斜は15度程度になるので荷台の水平やエスカレータ内での荷台の水平や荷台の回転は問題にならない。
図3(b)は図3(a)に示したカートと同じカートを、下り入り口から取手側を下階側にして取手側から先に進入した場合の状態図で、図3(a)の前輪が図3(b)の場合後輪になり、図3(a)の後輪が図3(b)の場合前輪になる。図3(b)は下りで上りと同じ向きに使用した場合、前輪が後続の後輪によって落段しないことを示すものである。
上りにおいても下りにおいても取手側から先にエスカレータに進入して取手を下階側にすることは、荷物を下階側にこぼす方向ではなく取手で荷物が倒れるのを止める方向に荷台が回転するので、エスカレータ内で荷台が水平にならないカートでは安全な使用方法と言える。またエスカレータ内ではカートの傾斜によって重心が下階側に移動し、下階側車輪を中心に上階側車輪が浮き上がる方向に回転するので、取手を常に下階側にするカートでは、荷台の先端に荷物を置いても荷物を下階側にこぼすことなく取手より前方の部分はすべて荷台にすることが出来、車体の全長を荷台にすることが出来る。
これに対して下りで上りと反対向きに使用するカートは車体の前方の部分を荷台にすることが出来ず、車体の全長を荷台にすることが出来ない。ただし図1(a)のカートは取手を下位側にして下りのエスカレータに乗り入れることは出来ない。車間距離が短い場合、上位の車輪が先に落段しその後下位の車輪が下段に落下する。上り時先行輪が上位で先に落段し、後続輪に落とされることはないが、下り時先行輪が下位になるので上位の後続輪によって落とされるからである。
エスカレータ内のカートは一度落段すると、動慣性がついて落段し続けて下段まで落下するが、図1図3のカートのように落段することのないカートは、エスカレータ内で静止するので落段を繰り返すことはない。図1図2のカートは、車輪前後の接触部が接地してカートをエスカレータに固定するものであるが、車輪がステップ角部付近にあるとき車輪前後の接触部は宙に浮いて接地しない。すなわち車輪がステップ角部付近にあるときカートは静止状態にあってもエスカレータに固定されない。図2のカートは車輪がステップ角部付近を含めてどの位置にあっても、あらゆる場合にいずれかの接触部が接地するようにすべての車輪に前後の接触部を取り付けるものである。従来エスカレータ内でカートを固定する方法としてカートの傾斜に伴い車輪前後の車体の一部を接地させるものや、車輪にブレーキのかけるテコを接地させるものがあるが、接地するものによってブレーキが機能するのではなく、車輪内部にカートの傾斜によって車輪にブレーキのかかる装置を組み込むようにすれば、カートがエスカレータ内のどの位置にあってもエスカレータに固定される。
図3(a)の下位側の固定輪は車体の傾斜に伴い前後に振幅するもので、車輪が車体に固定した摩擦部に接触して車輪の回転を止めるものであり、図3(b)は車輪前後の摩擦部が車体の傾斜に伴い振り子運動して車輪に接触し、車輪の回転を止めるものである。図3(a)(b)のように上り下りのエスカレータに常に取手を下位側にして乗り入れる場合は、下位側車輪の下位側摩擦部8Bは不要で省略することが出来る。エスカレータ内でカートを固定するには、上りのエスカレータ内ではカートの後退を防ぎ、下りのエスカレータ内ではカートの前進を防がなければならない。下り出口においてカートの前進を止める装置が働き続けると、出口で前進できずエスカレータから脱出することが出来ない。出口付近で車体が水平に戻り装置が平地走行状態に戻るが、摩擦部が車輪に噛みこまれて車輪から離れない場合があり、取手を引くと摩擦部が車輪から離れるようにする必要がある。
図4は上り下りのエスカレータを問わず車輪がステップ角部を含めてステップ上どの位置に静止してもカートを固定するため車輪に坂道用ブレーキ(特許文献6図19参照)を取り付けるものである。坂道用ブレーキの外周が渦巻き曲線である車輪は車輪半径が回転と共に増大する車輪で、車体から吊り下げられる。エスカレータの出口付近を含めて平地走行状態では、坂道用ブレーキは鉛直に吊り下げられ車輪に接触せずブレーキはかからない。エスカレータ内では車体の傾斜に従い車輪に接触し、車輪が回転すると巻き込まれて車輪の回転を止める。
図4(a)において平地走行状態で、渦巻き車輪9の回転軸9Aの位置を後輪である固定輪1の回転軸1Aから鉛直線Yと30度の角度の直線上Y1にする。30度の角度は説明のために例示するもので、30度の角度には特別な意味はなく30度の角度に限定するものではない。平地走行でも渦巻き車輪9は僅かに振り子運動するが、前方への回転は当たり11で止められる。渦巻き車輪9が車輪に触れないよう車体との接続軸9Aは出来るだけ遠くの取手支柱4Aの高い位置とする。
傾斜角30度の直線上Y1に接続軸9Aを設定した場合、図4(b)に示すように車体が30度傾くと渦巻き車輪9が車輪1に接触し、渦巻き車輪の回転軸9Aと車輪の回転軸1Aとを結ぶ直線Y上に双方の車輪の接点9Bがあり、接点9Bにおいて双方の車輪の接線は共通で、共通の接線Xは直線Yに直角である。渦巻き車輪Uは接点9Bにおいて共通の接線Xで接点9Bから離れた渦巻き車輪Uの部分は車輪の回転軸9Aを中心とする円弧Rと共通の接線Xに挟まれる領域内にある。渦巻き車輪9が車輪1に接触した状態で車輪が後退方向に回転すると、渦巻き車輪の回転軸9Aと車輪の回転軸1Aとを結ぶ直線Y上に双方の車輪の接点を持ちながら、接点9Bから離れた渦巻き車輪Uの部分も車輪と密着し、接点9Bから離れた双方の車輪が密着した位置では、双方の車輪半径の和が双方の回転軸9Aと1Aとの間の距離より大きくなる。車輪の回転と共に、接点9Bから離れた双方の車輪が密着した位置が双方の回転軸9Aと1Aとを結ぶ直線Y上に移動すると、渦巻車輪9が車輪外周1Cを押さえつける力は、方向車輪の回転軸1Aに向かい大きさはどんどん大きくなる。また車輪が前進方向の反対方向に回転すると、双方の回転軸9Aと1Aとを結ぶ直線Y上にあった接点9Bが接点9Bから離れた位置に移動し、渦巻車輪9が車輪外周1Cを押さえつける力は、どんどん小さくなる。
車輪のカートの前進方向の回転は阻止せず、後退方向の回転を阻止する。渦巻き車輪と車輪が接触した状態で車輪が後退方向に回転すると、渦巻き車輪9は車輪1に巻き込まれて、渦巻き車輪9と車輪1の接点9Bは渦巻き車輪のより半径の大きな部分に移動し制動力を増す。通常の4輪が付いた手押し車でも、前後輪の車間距離がステップ踏面の1.5倍〜2.5倍に近似するならば、この坂道用ブレーキを取り付けるだけでエスカレータ内に乗り入れることが出来るようになり、坂道でもオートスロープのエスカレータでも効力を発揮する。車輪の前後にこの坂道用ブレーキを取り付けると上り坂でも下り坂でも決して坂道を下がらないようになり、下り坂ではブレーキを解除しながら前進する。
このブレーキの欠点は渦巻き車輪が車輪より離れれば離れるほど平地走行で車輪に触れることはないが、渦巻き車輪が車輪枠外に飛び出し車輪部分が大きいので、カートの後ろからカートを順々に差し込んで複数のカートをひとまとめに収納するとき、カートの重なり部分が少なくひとまとまりになった全長が長くなる欠点がある。また一旦渦巻き車輪が車輪に巻き込まれると、車輪から渦巻き車輪を引き離す力が働かないので、図4(c)に示すように取手を引いて車輪から渦巻き車輪を引き離すようにする。
取手はP1を中心に回転する回転体T1とP2を中心に回転する回転体T2とで構成され取手を下方向(⇒A方向)に押すと連結棒T1が引き上げられ、後述の手を離すと効くブレーキが解除する。取手を後(⇒B方向)に引くと連結棒T2が引き上げられ、渦巻き車輪を車輪から引き離す。
図5は車体が傾くとブレーキがかかる車輪で、図4の坂道用ブレーキとおなじくブレーキの機能は車輪周辺に集約され外部からの作用で起動するものではなく、何物かが接地してそれによって起動するものでもない。車輪枠1Bと車体3に取り付くケース3Bは、回転可能な接続軸3Aで連結され、車輪の回転軸1Aと接続軸3Aを結ぶ直線Y1は、地面7との接地点7Aを通り車体3が傾斜しケース3Bが3Aを中心に回転しても常に地面7と直行する。
図5(a)は平地走行状態を示し、車体3と地面7は平行で、車輪枠1Bの中心線Y1とケース3Bの中心線Y3は地面7に直行し重なった状態である。地面7が水平面ではなく坂道であっても状態は同じで車体3と地面7は平行で、車輪枠1Bの中心線Y1とケース3Bの中心線Y3は地面7に直行し重なった状態になり、車輪1の両側に配置され車体に取り付くブレーキ摩擦部8および9は、車輪1の外周のタイヤ1Cから遠く離れたた状態で接触することはない。図5は図4の坂道用ブレーキと異なり坂道やオートスロープのエスカレータで効かないブレーキである。
図5(b)図5(c)はそれぞれ車輪1が後輪のときの上りと下りのエスカレータ内の状態を示し、車体3が傾斜しても車輪枠1Bは水平なステップ面に対して垂直で動かないので、傾いた車体3に取り付くブレーキ摩擦部8は車輪のタイヤ1Cに接触し、車輪にブレーキがかかる。車体がエスカレータ内で傾いた状態から平地走行状態に戻って車体が水平になったとき、あるいは平地走行状態で何らかの理由で摩擦部と車輪1の外周のタイヤが接触市はなれないとき、図4の坂道用ブレーキは車輪からブレーキを引き離す力が働かないが、図5のブレーキは車輪枠1Bには常に鉛直状態に戻ろうとする力が働くので車輪からブレーキを引き離すようになる。
摩擦部と車輪1の外周のタイヤ1Cとが遠く離れたた状態でもエスカレータの勾配が30度〜35度で急な場合、エスカレータ内で接触し車輪の回転を止める。また平地走行で車輪枠1Bが前後に振れても、タイヤ1Cは摩擦部8或いは9と接触することはなく、車輪枠1Bが前後に大きく振れるほど鉛直に戻る力が大きく働くので、たとえ接触したとしても摩擦部から離れる。エスカレータの勾配が急な場合、車輪前部に取りつく摩擦部は図5のように回転体の渦巻き車輪である必要はなく、車輪後部と同じく固定の摩擦部を取り付ける。
エスカレータの勾配が20度で緩い場合、車輪外周1Cと摩擦部8或いは9との感覚を狭くする必要があり、平地走行で双方が接触しあうようになる。車輪外周とブレーキ摩擦部との間隔が狭いほど、車体の僅かな傾斜で双方1Cと7は接触する。カートの始動時や走行時に車輪が障害物に乗り上げたり溝にはまり込んだりすると、車体が前進しても車輪が後に残り、車輪枠1Bが接続軸3Aを中心に回転し、タイヤ1Cとブレーキ摩擦部8が接触し、車輪1の回転を止める。
車輪前部8Aにとりつく摩擦部はその外周が渦巻き曲線の車輪9で8Aとの接続軸9Aは回転可能な回転軸である。車輪後部8Bに摩擦部8は固定して取り付けられる。車輪前部のブレーキを渦巻き車輪9にすると車輪の前進方向の回転を許し後退方向の回転を阻止する、上りのエスカレータ内で後退を防ぎ、エスカレータ出口で車輪に渦巻き車輪を巻き込んではなれない状態でもカートを押すと両者は離れる。
エスカレータにカートを固定するには、上りのエスカレータ内では車輪前部のブレーキ摩擦9で後退を防ぎ、下りのエスカレータ内では、車輪後部のブレーキ摩擦部8で前進を防がなければならない。図5(d)に示すように車輪前後の摩擦部に、渦巻き車輪9Bと9Cを互いに反対に向き合うように取り付ければエスカレータ内でカートは固定される。エスカレータ出口や平地において車輪に渦巻き車輪を巻き込んで両者が離れない状態を考えると、車輪前部の渦巻き車輪は後退すると渦巻き車輪が車輪に食い込む方向に回転し、両者は離れなくなりカートは後退できなくなる。また車輪後部の渦巻き車輪は前進すると渦巻き車輪が車輪に食い込む方向に回転し、両者は離れなくなりカートは前進できなくなる。
従って平地走行で前進しやすいように、図5(a)(b)(c)に示すように車輪後部の摩擦部を渦巻き車輪にしない。或いは図3のカートのように上り下りともエスカレータ内で取手を下階側にして使用すると車輪後部のブレーキを不要になるのでこれを省略する。車輪前部の渦巻き車輪のブレーキだけ取り付ける場合、図4(c)の取手を採用すれば下り出口で支障がなくなる。
エスカレータ出口ではカートの後輪にブレーキが効けば、カートを押さなくてもステップの流れによってカートはエスカレータ外に排出される。ブレーキが効かなければ、カートを押さなければカートは前輪もエンドプレートを乗り越えることなく、出口の手前で停留し車輪は後ろ向きに回転する。エスカレータカートは手を放すとブレーキが効くようになっているのでエスカレータから出るまで手を放しておくほうがよく、出口の直前でカートを押すとブレーキがはずれ、エスカレータのカートを運び出す力の助けを受けることはなくなる。従ってエスカレータの出口では押しても前進するが、後退しない逆転防止装置が解除されずに働き続けるのが理想的である。
エスカレータの出口でステップ数枚分に段差がなく出口平坦部の長いエスカレータはカートが押し出せなかった場合、押す人は後ずさりせずに単に立っているだけで、カートはエスカレータ外に排出される。これに対して出口で平坦部の短いエスカレータでは、押す人の足元に段差がありカートを押し出す人は後方の低いステップに落とされることになり、カートを押し出すことより自分の足場の確保が先決となり、後ろに向かって歩き体勢を立て直すことが出来なくなる。下り出口ではステップの蹴上げ部分が立ち上がったまま前進するのでカートを押し出すが、上り出口ではステップの蹴上げ部分が沈みながら前進するのでカートを押し出すことはない。上り出口で平坦部の少ないエスカレータにおいては、取手から手を放して効くブレーキではなく、取手を押してもカートの後退を防ぐ装置が働き続ける必要がある。
図5の後輪前方の渦巻き車輪は上りのエスカレータ内でカートの後退を防ぐが、上り出口で車体が水平に戻ると渦巻き車輪は車輪から離れて図5(c)の平地走行状態に戻る。しかしエスカレータ内で車輪に密着した渦巻き車輪は、出口を出るまで離れないほうがカートの後退を防止し、押さなくてもエスカレータがカートを運び出すことになる。また渦巻き車輪はカートを押しても車輪から離れることなく、後退防止装置は解除されない。
図6は上りのエスカレータ内で車輪に密着した渦巻き車輪が、出口を出るまで密着し続けるようにしたもので図6(a)は平地走行状態である。渦巻き車輪9Bの摩擦部8は折れ線で、各折れ線の回転中心9Aまでの距離は渦巻き車輪の回転と共に増加する。回転体Tは車体3の回転軸T1に取り付き、3個の当たりT2、T3、T4が取り付く。当たりT2は渦巻き車輪に取り付く当たり9Cを上から押えて渦巻き車輪9Bの回転を止める。当たり9Cの反対側にはカウンターウェイト9Dが取り付き、図6(b)に示すように上りのエスカレータ内では、回転体T回転して当たり9Cが回転体の当たりT2から離れることで、渦巻き車輪9Bがカウンターウェイト9Dを落下させる方向に回転し、渦巻き車輪9Bが車輪外周1Cに密着する。
車輪枠1Bに取り付く当たり1Dの先端部が回転体Tの上面である当たりT4に接触しながら滑走することで、回転体Tは回転中心T1の周りを←印方向に回転する。図6(a)の平地走行状態では回転体Tの回転中心T1と当たりT2を結ぶ直線は渦巻き車輪の当たり9Cに直角に当たり、渦巻き車輪の回転を押えて摩擦部と車輪外周は密着しないが、図6(b)の上りのエスカレータ内では摩擦部と車輪外周は密着し、渦巻き車輪の当たり9Cは回転体Tの当たりT2を押し上げ、回転体Tの回転を阻止する。回転体Tの回転が阻止された状態は、出口付近で車体3が水平に戻っても継続し、渦巻き車輪の摩擦部8は車輪外周1Cに密着し続ける。
図6(d)は、後輪1がエスカレータのエンドプレート7Bに乗り上げた状態を示し、車輪枠1Bは大きく後転し、車輪枠1Bに取り付けた当たり1Eの先端面を回転体Tの当たりT3が滑走することで、渦巻き車輪9Bをカウンターウェイト9Dが押し上げられる方向に回転させ、カートがエスカレータから出ると同時にカートは図6(a)の平地走行状態に戻る。このように図6の脱出装置は車輪内部ですべてを処理するもので、機能の起動と解除において外部の何物かが接地してそれによるものではない。
エスカレータカートは平地走行において、小さい段差は乗り越える必要がある。図5に示したカートは前方の段差に車輪が当たると車輪が後方に残り、車体が車輪の前に出て車輪外周1Cが車輪後部の摩擦部8に接触し車輪1にブレーキをかける。図6のカートのよう名横方向の車輪枠を取り付けて前方の段差に当てるようにすると、図7(a)に示すように車輪枠1Bは段差に当たって前転し、車輪後部の摩擦部8から遠ざかる。図7(c)に示すように段差に車輪が乗り上げた場合、車輪枠1Bは接続軸3Aを中心に自由に回転し、車輪が後部の摩擦部に当たることになるが、図7(a)に示すように段差に車輪枠1Bが乗り上げた場合は、車輪枠の回転は前進方向に限られ後部の摩擦部から遠ざかることになる。車輪枠1Bの回転は車輪枠1Bに取り付けた当たり11がケース3Bに当たって止められ、段差の角部6Aは回転の止まった車輪枠1Bの外周を滑走する。段差を上りきった場合、車輪が着地して車輪枠1Bが水平に戻り、車輪が車輪後部の摩擦部8Bに当たることはないが、乗り切らない場合、図7(c)に示すように車輪が段差の角部に乗って車輪枠1Bが後転し、車輪後部摩擦部に当たって段差に乗らなくなる。すでに前述したように下りのエスカレータ内に取手側から先に進入するようにするエスカレータカートは、車輪後部の摩擦部8Cは不要となるので、段差に直接車輪が当たっても段差を乗りあがることが出来、問題がなくなる。
図8図9図10図11は取手から手を離すと効くブレーキでエスカレータカートにではなく通常のカートにも取り付けられるもので、カートである以上は取り付けられるべきものである。図8図9は本発明のブレーキの概要を説明するもので図10図11はエスカレータカートに取り付けた実施例を示すものである。図8は摩擦部9が車輪に、図9は地面に接触するものである。地面が半径無限大の車輪と考えれば図8図9も回転する車輪によって巻き込まれ制動力が発生する仕組みにおいて共通している。外周に摩擦部8を取り付けた回転体9において、図8は扇形車輪の両端に摩擦部を取り付けたもので図9は外周の左右の両側が渦巻き曲線である車輪であり、カートの前進と後退にブレーキをかける。
図8図9において(a)は平地走行状態で取手を押すことによって外周に摩擦部を有する回転体9を引き上げて車輪から離れている。(b)は取手から手を離すことによって平地走行状態で引き上げていた回転体9を車輪外周上1Cに落とした状態で、回転体9に取り付いた摩擦部は、車輪外周1Cを押さえつけるのではなく車に車輪外周上に乗っている状態で、摩擦部が車輪外周を押さえつける力は回転体の自重だけである。(c)は車輪1の回転によって回転体9が回転した状態を示し、回転体の回転中心9Aと摩擦部8と車輪外周1Cとの接点7Eとの間の距離が増大して制動力は増加する。制動力が増大するためには回転体の回転中心9Aの位置が動かないことが条件となり、回転中心9Aの円運動の接線方向の動きを当たりで止める。この当たりは図7においてT2であり、図9においてはT6である。制動力が最大になる位置を、回転体の回転中心9Aと接点7Eと車輪の回転軸1Aとが一直線上にある位置に設定して、その位置で回転体の回転を当たり11で止める。
通常ブレーキは車輪の回転軸、或いは外周を押さえつけることで回転をとめるもので、摩擦力によるものである。制動力は強く押さえれば押さえるほど大きくなるので、カートの取手から手を放すと効き押すと解除するブレーキにおいて、始動時にブレーキを解除して走行するにはこの強いバネを引き戻す大きな力が必要である。
本発明のブレーキは車輪に別の回転体がかみ合うもので、別の回転体とは例えば外周が渦巻き曲線である車輪のように回転により半径が増大するものである。この回転体が車輪に接触すると巻き込まれて、双方の回転軸と接触点とが一直線になったとき、双方の車輪半径の和が双方の軸間距離より大きくなって、車輪の回転中心に向かって大きな力が働くようになる。この回転体をアームに取り付け、アームの振り子運動で回転体を車輪に近づけるとき、双方の回転体の軸間距離は車輪が巻き込まれても広がることないようにし、車輪に回転体を近づけるアームは車輪が巻き込まれることにより遠ざかることはなく、むしろより縮まる方向に回転するようにする。本発明のブレーキは摩擦体が回転しながら制動力を高めるので、ブレーキと回転体との間に滑りを伴わず摩擦体の磨耗はなく、通常のブレーキのように効き始める過程において、ブレーキと回転体との間に滑りが生じ摩擦体の磨耗を伴うようなことはない。
図8について説明する。T1は取手の動きと連動して上下する連結棒でT2はP2を中心に回転する回転体で、T1との接続軸P1の反対側に回転体T4に取り付くガイドローラーT3をすくい上げるフックP3がとりつく。図8(a)においてT1を引き上げると回転体T2が回転し、フックP3ガイドローラーT3をすくい上げる。回転体T4が接続軸P4を中心に回転し、回転体9の摩擦部8が車輪1から離れる。図8(b)において取手から手を離すとT1が下がり、フックP3とガイドローラーT3が離れて回転体T4が落下し、摩擦部8が車輪外周1C上に乗る。このとき回転体T2と回転体T4は完全に遊離し、フックP3の底面と回転体T4の上面の間に間隙Gが出来る。図8(c)において車輪1が回転すると回転体9も回転し、摩擦部8が巻き込まれると回転体T4が押し上げられ、間隙GがなくなってフックP3の底面と回転体T4の上面が当たる。直線P2、P3,直線P4、9Aのなす角度は直角となり9Aの上昇を止める。
図9について説明する。取手支柱4Aに車輪4Bが取り付き、取手4を押したり引いたりすると、車輪4Bは回転体T1のV形に折り曲げられたスロープ上を前後し回転軸P3の反対側の接続軸P4を上下させる。その結果取手4を押しても引いても連結棒T2を引き上げることになる。回転体T3とT5は、回転体に連結される連結棒T4の運動方向を直角方向に変えるもので、連結棒T2の上下動は最終的に連結棒T6の上下動になる。回転体T7は連結棒T6の上下によって上下し、回転体T7に接続される回転体8も上下する。引きバネ12Aには連結棒T6に働く張力を軽減させるバランサーである。回転体T8は回転体T7に取り付く当たり11に施された長穴内を貫通し、平地走行状態では長穴の底面に乗った状態で図8(b)に示すように取手から手を離したとき、長穴の底面から離れて浮き上がり、図9(c)に示すようにカートが前後に動いて回転体9が回転し、回転体9の回転に伴う車輪半径の増加ゆえに回転軸9Aが上昇し、回転体T8が長穴11内の上面に当たり、車体後部3を持ち上げる車体の後半分の総重量は、後輪2に代わって回転体9が支持することになり、回転体9は逆回転して高度を下げカートを動く前の位置に戻そうとする。回転体9は前進方向の回転にも後退方向の回転にも、車輪半径が増加する外周が渦巻き曲線の車輪で、前半分の渦巻き曲線は後半分の渦巻き曲線よりも大きい。
そもそもカートの前進は後輪よりも前輪のほうが、後進は前輪よりも後輪のほうがブレーキの効きが良く、例えば前進で前輪ブレーキは効く場合、車体が前のめりになり、後輪ブレーキが効く場合、車体はそのまま後輪を引きずって滑走する。車体は制動された車輪の回転軸を中心にして公転しようとするもので、前進に対して前輪ブレーキが効くとき、車体重心は浮き上がる方向に公転し前輪に大きな車輪圧がかる。後輪ブレーキが効くとき、車体重心は沈む方向に公転し前輪で車体重心の公転が止められ車体重心は前者のように上下方向に大きな仕事をしない。また前進に対してブレーキが効くとき後輪は浮き上がる方向に公転し後輪にかかる車輪圧は減少し後輪にブレーキをかけてもあまり効かない。
図9のように車輪に代わって車体重量を支持する渦巻き車輪のブレーキを車体後部につける場合、カートの後進においては車体重心が浮き上がる方向に公転し大きな車輪圧がかるのでブレーキの効きはよいが、前進方向に効きが悪い欠点を車体を大きく浮き上がらせて渦巻き車輪のブレーキの地面との摩擦面を大きくして補う。またゴムが磨耗して薄くなっても地面に接触し回転し始め、後輪に取り付けるブレーキであっても前進時でも地面とも接触面を大きくすることで後進時に劣らない制動力を発揮する
取手を押す方向とカートの進行方向が一致する場合、車輪が止まっている間はブレーキを解除する力の反力が発生しブレーキを解除できるが、車輪が転がればブレーキを解除する力の反力がなくなるのですぐにブレーキがかかってしまう。このため車軸が転がらない方向すなわち上から下へ取手を押さえる必要があった。カートを押して前進するとき、カートが等速運動になると押さなくても運動し続ける。この状態は取手から手を離してもカートは動き続ける状態である。手を離すと自動的にかかってしまうブレーキが取り付いたカートは、動き出してから軽く押すだけで動くようになったとき突然ブレーキがかかることになる。このため始動時だけでなく運動時にも取手を下に押し下げて前へ押すようにして、ブレーキがかからないようにする必要がある。すなわち運動時には押す力以外にブレーキが外れないように押す方向とは別の方向にも力が必要となる。図9のように前進時に取手を押す場合取手を前に押し倒すまで押し込むようにする。
図10は図8を更に簡素にしたブレーキで、アームT2は車体3に取り付けられ接続軸P2を中心に回転する。また接続軸P1に連結棒T1が接続し、連結棒T1の上下動によってアームT2は接続軸P2を中心に円運動をする。アームT2の接続軸P3にブレーキの半円回転体9が取り付き、半円回転体9は上下に動く。図10(a)は車体3に固定された当たり11に半円回転体9の直線部が当たって静止している状態を示す。半円回転体9はT1の上方向の力によって吊り上げられていて、半円回転体9の半円部は車輪1から離れている。半円回転体の回転軸P3は円の中心から少し離れた位置で、回転軸P3と半円外周との距離は、回転軸から鉛直方向の位置で最小で水平方向に移るに従い増加する。図10(b)はT1によって吊り上げていた力を解放することで半円回転体9が自重により落下し、当たり11から離れて車輪外周1Cの上に乗った状態を示す。図10(c)は車輪1の回転により、半円回転体が回転し半円回転体の円弧の末端が当たり11に当たった状態を示す。図10(d)は図10(a)図10(b)図10(c)に示した取手から手を離すと効くブレーキと図4に示した坂道用ブレーキとを組合したもので、この車輪を取り付けたカートはエスカレータ内に乗り入れることが出来るようになる。
図4において説明したように回転体に車輪の回転が伝わるためには、両者の円運動の接線方向が一致し、両者の回転中心を結ぶ直線上に接触点がある必要がある。回転体が棒状のアームである場合を考えると、回転体の回転軸の位置と車輪の回転軸の位置が固定された位置にあって、双方の回転軸の間の距離が一定である場合、双方の回転軸の間の長さより回転体の回転中心から接触点までの距離と車輪の半径の和が大きくなると、両者の接触点は両者の回転中心を結ぶ直線から離れて両者の円運動の接線方向は平行にならなくなる。この場合接触点において滑りが生じ、回転体は回転しない。回転体がその外周が渦巻き曲線の車輪で回転に伴い回転中心から車輪との接触点までの距離が急激に増加する場合、車輪との接触点は両者の回転中心を結ぶ直線から離れて回転体が車輪に巻き込まれことなく回転体は回転しにくくなる。
回転体を半円にして円の中心から少しずらした位置を回転中心にすると、回転体が静から動へ移る回り始めにおいて半径の増加が少ないので車輪と接触すると同時に回転する。回転体の重みだけでなく押しバネ12Bで軽く押してタイヤを押さえる力を補足すると車輪に回転がより伝わりやすくなり滑ることはない。回転が継続すると回転中心から車輪との接触点までの距離がゆっくりと増加しその増加率は大きくなる。このとき回転体の回転軸と車輪との接点との間の距離が増大するので回転体を取り付けたアームT2が上昇し、回転体9の直線側は固定した当たり11に当たる。回転体はそれまでの回転軸を中心とする回転から当たり11に当たった位置を中心にして直線部全長を回転半径とする大きな円運動に変化し、車輪を押さえつける。
双方が点で接触するのではなく、面と面が接触し接触面に長さがある場合で、双方の回転軸を結ぶ線上に接点を持ちながら接点から離れた位置においても接触する場合、車輪の回転が止められる。回転が続く場合、双方のどちらかが弾性体で変形しなければならない。この変形に伴って力が発生し、この力が双方の回転軸に作用する。この力は回転すればする程大きくなり大きな制動力となる。この大きな制動力は自然発生するもので、通常のブレーキのようにバネに直接力を加えるものではない。車輪に回転体を接触するだけで、車輪を押さえつける力は全く要らないのがこのブレーキの特徴である。この大きな制動力を発生させ車輪の回転を止めるためには、回転体が回転して車輪に巻き込まれた時、回転体の回転軸の位置が動かないことが必要である。図8のブレーキでは回転体の回転軸の位置が動かないようにするためアームT4の円運動の接線方向の動きを回転体T2で止めるものであるが、図10のブレーキでは場合回転中心の位置を固定するため特別な装置の必要はなく、そのための力も必要としない。
図10(d)において渦巻き車輪T3は車体との接続軸P3を中心にして回転し、反対側の爪P4が連結棒T1のフックP2にすくい上げられると車輪1に巻き込まれた渦巻き曲線部分は車輪から引き離される。取手を上から下へ押さえ込むと連結棒T1は上方向に引き上げられ半円回転体を引き離すが、坂道用ブレーキT3は車輪から離れている場合、爪P4とフックP2とは離れたままである。
図11に示す後輪部分は図5に示した後輪部分で、図11はこれにブレーキを取り付けたものである。車輪の回転軸1Aは車体との接続軸3Aとリンク3Bを介して連結され、接続軸3Aを中心に円運動する。リンク3Bは地面に対して常に垂直で、地面X1は平地走行時の水平面を示し、地面X2は車体が角度Zだけ回転して傾いたときの水平面を表す。回転体T3は車体との接続軸P3を中心に回転し、クランクT2は車体との接続軸P2を中心に回転する。回転体T3には長穴10が施され、長穴上面10Aを連結棒T1とクランクT2の接続軸P1に取り付けたガイドローラー1Aが下から支え、 回転体の落下を止める。
図11(a)に実線で示す状態は平地走行状態を示し、回転体T3が取手の動きと連動する連結棒T1によって引き上げられて、回転体の摩擦部S1,S2,S3,は車輪と接触せず離れた状態である。摩擦面S3は車輪が前後に振り子運動しても当たることはないが、摩擦面S2は一点鎖線の円1−2で示すように、平地走行状態でもカートの後退時に車体3より車輪1が前方に移動して当たることもある。摩擦面S1は車体が傾いたとき、リンク3Bが水平面X2に対して垂直になるので、一点鎖線で示す円1−2に接触する。車体が傾いたまま後退すると、車輪1−2は→印の交代方向に回転し、この回転が回転体T3に伝わって回転体T3は接続軸P3を中心に上方向に回転し、回転体T3の上面T11が車体に取り付けた当たり11に当たる。このようにしてエスカレータ内では、取手を押してブレーキを開放した状態でも車体の後退を防ぐことが出来る。
図11(b)の実線で示す状態は、取手から手を離して回転体T3が落下して車輪1−1の上に乗った状態で、摩擦部S2とS3は車輪に接触する。カートが前進するとき車輪の回転軸1A−1は車体より後方1A−3に移り、車輪には摩擦部S3だけが接触する。カートが後退するとき車輪の回転軸1A−1は.車体より前方1A−2に移り、車輪には摩擦部S2だけが接触する。車輪1はアーム3Bに取り付けられ円運動するので、図10の場合のように回転軸が固定した車輪にアームに取り付き円運動する。摩擦部が接触する場合とは逆に、摩擦部が動かなければ車輪側が動けば動くほど制動力が大きくなる。
図11(c)は長穴下面10Bにガイドローラー11Aが当たり、回転体T3の上方向の回転を止める。車輪1とアーム3Bは前進後退を問わず回転体T3を押し上げる方向に運動するので、回転体が上に押し上げられなくなるとカートは前進も後退もできなくなる。図11の場合図10の場合と違い摩擦面の位置的変化が少ないので、図11(a)に示した渦巻き車輪9を取り付ける必要はなく、滑り止めに押しバネ12Bの介助が必要である。
図8〜図11に示したブレーキにおいても従来の摩擦体を回転体に強いバネで押さえつけるブレーキにおいても、摩擦体が回転体に接近し接触するまでと接触してから回転体にブレーキが効くまでの過程においてもブレーキと回転体との間に位置的変化があり、この位置的変化の弾性変形が回転体を押さえつける力となる。
通常のブレーキでは回転体と摩擦体に弾性変形がないので、バネを介して摩擦体を買い天体に押さえつけ、バネの力で制動する。大きく伸び縮みしてやっと力が発生する弱いバネでは、摩擦体が回転体に接触してからバネの力が回転体の回転字句を止める力に達するまでの間に、摩擦体と回転体の間に滑りが生じ摩擦体の磨耗を招く。瞬時に回転を止めるためには、少ない伸びで大きな力が発生する剛性の高いバネが必要となり、ブレーキ作業の全過程において摩擦体と回転体の位置的変化は小さくなる。摩擦体の厚みが磨耗により薄くなるとバネの歪量が小さくなりバネの押さえる力が弱くなってブレーキの効きが悪くなる。また摩擦体が回転体に接近し接触するまでの間に遊びがなければ、ネジの緩みやガタツキとブレーキや回転体の磨耗に対処できないこともあって、ブレーキ作業の全過程において摩擦体と回転体の小さな位置的変化の中で所定の制動力を確保するには、高い寸法精度が要求される。これに対して図8〜図11に示したブレーキは回転体とブレーキとの位置的変化が大きく、両者が互いに回転しながら制動力を徐々に成長させるもので、通常のブレーキのように瞬時に大きな力を発生させるものではない。このため摩擦体の磨耗は少なく、摩擦体が磨耗しても摩擦体と回転体とが離れている始点とブレーキが効く終点の間でどこからブレーキが効き始めても問題はない。
図8〜図11に示したブレーキはブレーキ作業の全過程において摩擦体と回転体の位置的変化が大きく摩擦体が大きく動き回ることが特徴であるが、ブレーキが効く過程において摩擦体の回転中心を固定する必要がある。図10に示したように摩擦体が大きく動き回ることを利用して摩擦体の回転中心を固定される位置までもっていくようにすることが出来る。
図1図2の車輪前後に接触部を持つカートではなく図3に示すように接触部を持たないカートにおいて、前後輪の車間距離をステップの踏面長さの整数倍であるならば前後輪は同時に段差を落下するので前輪が後輪で落とされることはない。しかしエスカレータ内に進入したとき前輪がステップ角部上にあってステップの上昇と共に持ち上げられ前輪の回転軸が後退してステップ角部を通る鉛直線を越えて下段のステップ上に移るとき突如として大きく段差を落下する。前後輪の車間距離がステップの踏面長さの1.5倍前後の長さ、2.5倍前後の長さ、〜の場合、前輪が後輪で落とされることはないが、この場合も同様に前輪がステップの上昇と共に持ち上げられ突如として大きく段差を落下する場合がある。しかしこの場合前輪が落段しても後輪は落段せずステップ上に留まるので前輪の落段を止めることができ、落段したとしても同時に落段する場合よりも落段時の衝撃は少ない。
前後輪の車間距離がステップの踏面長さの1.5倍前後の長さ、2.5倍前後の長さ、〜の場合、前輪が後輪で落とされることはない。正確に言えば前後輪の車間距離がステップの踏面長さの整数倍以下であれば上りのエスカレータ内では前輪が後輪で落とされることはなく、下りのエスカレータ内で前後輪の車間距離がステップの踏面長さの整数倍以下であっても前輪が後輪で落とされないならば、すなわち前後輪の車間距離がステップの踏面長さの整数倍から後輪の車輪半径を差し引いた長さより小さければ、上りのエスカレータ内でも下りのエスカレータ内でも前輪が後輪で落とされることはない。
図12は前後輪の車間距離がステップの踏面長さの整数倍から後輪の車輪半径を差し引いた長さより小さいカートで、図5に示した回転軸が固定されない車輪を前輪に取り付けたカートである。前輪の車輪枠はステップ角部上を含めてステップ上のどこにあっても鉛直を保つので、車体が前後に動いても車輪の位置は動かず車体の傾斜で落段される可能性は少ない。また前輪の車輪枠がステップ上のどこにあっても鉛直を保つことを利用して、下りのエスカレータ内で荷台の前部を車体に固定するフックを外し取手を手前に引き戻して荷台を水平に保つことが出来る。
図12(a)は上り入り口での状態図で、図12(b)は下り入り口での状態図である。下りのエスカレータ内では荷台T4は車体3との接続軸P4を中心に回転可能で、平地走行時と上りのエスカレータ内では、荷台T4の当たり部11を回転体T3のフック部11Bが上から押さえて荷台T4を車体3に固定している。車輪枠T1と回転体T3はヒモT2で繋がれていて、下りのエスカレータ内でだけヒモは回転体T3を引っ張って、荷台の当たりからフック11Bを引き離す。荷物の重心の位置は荷台が車体から離れる方向に回転せず、荷台が車体に当たる方向に回転するような位置にあるものとし取手から手を離すと荷台は前転して車体に固定される。下り時にだけ取手を手前に引き寄せることが可能で、出口で取手を押すと荷台は前転して車体に固定される。
通常のエスカレータカートは前輪が自在輪で後輪が固定輪で、エスカレータから脱出するとき前輪にブレーキをかけることが出来ないので、後輪にブレーキを取り付けやすい固定輪を採用している。エスカレータに進入したとき前輪は段差に敏感に反応して即座に移動する必要があり、前輪が自在輪の場合、自在輪の旋回方向によっては落段する位置にあっても移動せずステップの上昇と共に持ち上げられることになりかねない。エスカレータカートの性能はエスカレータに進入したときから時間の経過を経ずにエスカレータに固定されるかどうかの1点であるので、自在輪の前輪は好ましくない。図12のように前輪が固定輪で後輪が自在輪である場合、取手から手を離すと効くブレーキはエスカレータから脱出時に支障をきたすので前輪に取り付けないが、後輪に図9に示した地面に渦巻き車輪を接地させるブレーキを取り付ける。
カートが前進しながら方向を変える場合、前輪が自在輪で後輪が固定輪のとき前輪は自由に位置を変え後輪は前輪の動きに引きずられながら直進して位置を変える。前輪は後輪を中心にして円を描くが、円運動の中心が大きく動く。これに対して前輪が固定輪で後輪が自在輪のとき、後輪は前輪を中心に円運動をして、前輪は後輪の円運動に押し出されながら直進する。このとき前輪が自在輪で後輪が固定輪のときに比べて位置を変えない。前輪が自在輪で後輪が固定輪のとき前輪は自由に位置を変え後輪は動くので、前輪は動く後輪を中心にして円を描き、なだらかなカーブに沿って方向を変える。前輪が固定輪で後輪が自在輪のとき前輪はほとんど動かない後輪を中心にして円を描き急激なカーブに沿って方向を変える。しかしながら前輪が自在輪のとき前輪の位置を左右に変えることが出来ても、前輪が固定輪のとき左右に変えることが出来ない。狭い通路の出口で方向を変える場合前輪が固定輪の場合、通路内では車体後部が旋回する場所がないので通路を一旦出てから出ないと方向を変えられない。前輪が自在輪の場合、通路をから出ると同時に車体前部が旋回することができる。前輪が自在輪と固定輪のどちらを選ぶかについてはケースバイケースである。
図13は従来技術(特許文献8図4参照)を紹介するもので3段に亘って荷台を支える車椅子運搬車である。荷台の水平を保つために以上のエスカレータカートのように車輪がエスカレータのどの位置に静止してもよいものではなく、最終的に一定の状態でエスカレータに静止する必要がある。点線で示す車椅子は足載せ台を常に上階側にして、上り下りのエスカレータに同じ向きで乗り入れる。構造は車体T2の両側に必ず2段にまたがって定着する段差2輪を配置し、上り下りのエスカレータ内で上階側の段差2輪W1、W2は常に上階側で下階側の段差2輪W3,W4は常に下階である。上階側の段差2輪の下位側の車輪W2と、下階側の段差2輪の上階側の車輪W3は常に同一ステップ上にあって、2段にまたがることのない平行2輪である。平行2輪の下位の車輪W3は車輪半径がステップの踏面の長さより少し小さいので、エスカレータ内では必ずステップ角部付近に静止し、平行2輪の上位輪W2を同一ステップ上に載せ、その他の車輪はそれぞれ上段と下段に乗せるようになる。
車椅子運搬車に車椅子を載せた場合、重心Wは高い位置にあって荷台T4が水平から少し傾くだけで荷物の重心は後ろに大きく移動し、場合によっては車体の後部の支点Q5を越えて後に転倒する。エスカレータ内で荷台をスロープに沿って下方に下ろし、荷台を水平に保つようにすると、荷物の重心は後方に移動するが、荷物の重心が高い場合、荷物が傾いて重心が後ろに移動する場合よりも移動量は少ない。車椅子の足載せを上階にしてエスカレータに乗入れた時、足載せの直下のステップが上昇してくるので、足載せを後方に移動する必要もあるが、エスカレータ内で荷台を後退させて荷台の水平を保つ。車椅子運搬車は平地走行では先頭部T1と平行部T2で、エスカレータ内では平行部T2と後尾部T3で荷台を支持する。
荷台T4は前部に車輪Q1、後部に車輪Q3が取り付き、車輪Q1は上位の段差部T1に施された長穴H1内を移動し、車輪Q3は下位の段差部T3に施された長穴H3内を移動する。上階側段差部T1と下階側段差部T3が平行2輪W2、W3のそれぞれを中心にして回転する際、車輪Qと車輪Q3の上下方向の変位を出来るだけ小さくして荷台をできるだけ水平にするように、2段にまたがる2輪の車間距離は出来るだけ長くする。図13(a)に示すように平地走行では長穴H1は水平で、長穴H3に勾配がつき、図13(b)に示すようにエスカレータ内では長穴H3は水平で長穴H1に勾配がつく。荷台を支える車輪の片方が水平面にあって、他方の車輪が勾配のついたスロープ上にあるとき、荷台の上の荷物の重心Wがどこにあってもスロープ上にある車輪は長穴内を端部に当たるまで下降し、荷台を水平に近い状態に保つ。
エスカレータ内で荷台を下方へ移動させるのは、足載せ台の下のステップが上昇して足載せ台が押し上げられるのを避けるだけでなく、上位の段差部T1の回転時に荷台前部の支点Q1の位置を上下動の小さい位置に移動する効果がある。また平地走行時には荷台前部の支点Q1が出来るだけ前方にある方が荷台は前のめりに傾かない。下りのエスカレータ入り口で下位段差部T3だけが回転するとき、車輪W3の回転軸1Aが段差部T3と車体T2との連結部P2より下位にあるため下位段差部T3は車輪回転軸1Aが蹴込みに寄っていく方向に回転し、双方の長穴H1、H3は共に水平になり、車輪Q2は長穴内を他端に移動するが車輪Q1は長穴内で動かない。荷台後部の支点Q3の同じ上下動に対して支点間距離Q1Q3が出来るだけ長い方が荷台は水平になる。
エスカレータ出口で車椅子運搬車を押し出せない場合、後続のエスカレータ搭乗者の出口がふさがれ事故につながるので下階側段差部T3に車椅子運搬車が出口にさしかかる以前に踏み込んでおく回転体T6を取り付ける。回転体T7は回転軸P7で連結棒T7と連結され回転体T6を踏み込むと接地する。回転体T7は脱出装置で底部には前方に車輪W7が取り付き、その後方に摩擦部Q7が取り付き、回転体T7の後退方向の回転と共に回転体の回転中心P7と接地点との距離を増す。前方の車輪W7はカートを押したとき回転体が前転してカートが車輪W7だけで走行するためのもので、後方の摩擦部は回転体が後転してカートがカートの後退を防止するものである。回転体T7周辺の脱出装置は図13(b)において省略する。後尾に取り付く回転体T5は下階側段差部T3の接続軸P3に取り付き平地走行では接地せず下階側段差部T3に取り付く自在輪W4が接地し下階側段差部T3を支持する。エスカレータ内では自在輪W4は接地せず代わりに回転体T5の摩擦部Q5が接地して下階側段差部T3を支持する。回転体T5の前後に取り付く車輪W5W6はエスカレータ出口でエンドプレートに乗り上げ摩擦部Q5が接地を避ける。