JP2008093681A - レーザクラッド加工におけるバルブシートの位置決めシステムと位置決め方法、およびレーザクラッド加工システムと加工方法 - Google Patents

レーザクラッド加工におけるバルブシートの位置決めシステムと位置決め方法、およびレーザクラッド加工システムと加工方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 バルブシート(シリンダヘッド)回転時のバルブ孔位置を精度よく特定することで高い加工精度を実現できるレーザクラッド加工におけるバルブシートの位置決めシステムと位置決め方法、およびレーザクラッド加工システムと加工方法を提供する。
【解決手段】 位置決めシステム10は、シリンダヘッドCを少なくとも1回転させた際のバルブシートVの位置を計測するセンサ1と、回転時のバルブシートVの位置に関する計測データを、少なくともシリンダヘッドの重量やバルブシート位置におけるたわみ量が加味された補正係数に基づいて補正することにより、シリンダヘッド回転時のバルブシートの位置を特定する位置算出装置4と、を備えている。実際のレーザクラッド加工は、位置算出装置4にて算定された座標中心を回転中心とした姿勢で実行される。
【選択図】 図1

Description

本発明は、エンジン用シリンダヘッドのバルブシートに対し例えば粉体状の肉盛り材料を供給しながらレーザを照射し、バルブシートを回転させることで肉盛り層を形成する
レーザクラッド加工システムと加工方法、およびレーザクラッド加工におけるバルブシートの位置決めシステムと位置決め方法に係り、特に、バルブシート(シリンダヘッド)回転時のバルブ孔位置を精度よく特定することで高い加工精度を実現できるレーザクラッド加工におけるバルブシートの位置決めシステムと位置決め方法、およびレーザクラッド加工システムと加工方法に関するものである。
エンジン用シリンダヘッドのバルブシートに対し、例えば粉体(粉末)状の肉盛り材料を供給しながらレーザを照射し、バルブシートとレーザを相対回転させることによって肉盛り層(クラッド層)を形成するレーザ加工が一般におこなわれている。これは、シリンダヘッドの燃焼室に必要な機械加工、例えばバルブ孔形成加工等がおこなわれたシリンダヘッドに対し、そのバルブシートとなるべき領域に銅合金等からなる粉体状の肉盛り材料を供給しつつレーザ照射を実行し、最終的にバルブシートとなるべきリング状の肉盛り層、すなわち肉盛りビード部を形成するというものである。この技術は一般に、レーザクラッド加工と称されている。
上記するバルブシートにおけるレーザ加工においては、加工部位に対して特定の方向からレーザを照射することが肉盛り層の品質安定化の観点から好ましいこと、および肉盛り材料供給機構やレーザ光学機構などの設備レイアウト上種々の制約があること、などの理由から、レーザ光を固定側としてバルブシート部を相対回転させるとともに、シリンダヘッドの回転方向を特定の一方向に規定しながらその加工がおこなわれている。
ところで、本出願人は特許文献1において、かかるレーザクラッド加工にかかる装置と方法に関する技術の開示をおこなっている。この技術は、シリンダヘッドを固定する載置台をX軸スライダとY軸スライダから構成することでXY平面内で連続的かつ自由な位置決めがおこなわれるようにし、バルブ孔の軸心を回転テーブルの回転軸と一致するように移動させ、回転テーブルを回転させながらレーザを照射するというものである。バルブシートには、排気系バルブ用と吸気系バルブ用の2種類のバルブ孔が存在し、通常はそのピッチや孔径が異なっていることから一つのスライダ機構にて吸気系、排気系双方の加工を連続して実行することは、当該特許文献にかかる技術以前には単純に実行できる状況ではなかった。したがって、まず排気系バルブシートの加工を終了させ、その後に吸気系バルブシートの加工がおこなわれるものであり、さらには、吸気系、排気系ごとに別個の加工装置を用意する必要もあって、作業の煩雑性、歩留まりの低下、加工装置の製作コストやその設置スペースの問題等、様々な問題があった。かかる種々の問題が当該特許文献に開示の技術によって解決できるというものである。
特開平10−286687号公報
特許文献1に開示のレーザ加工装置によれば、載置台の回転軸心と加工するバルブシートのバルブ孔軸心とを載置台位置調整機構によって合わせながらレーザビームの照射位置にバルブシートが位置するようにし、この状態で回転駆動手段によって載置台を回転させながらレーザビームを照射することでバルブシート全体にわたって均一な加工をおこなうことが可能となる。そして、従来の載置台位置を位置決めピンを用いて間欠的に位置決めする装置に比べて、2次元平面内で自由に連続的に移動させる機構としているので、載置台位置の調整が速やかで異なる種類のシリンダヘッドの加工の場合でも容易に対応が可能となる。
ところで、シリンダヘッドを回転させながらそのバルブシートにクラッド加工をおこなう場合、シリンダヘッドにはその重量に相応した回転時の慣性力が作用する結果、実際のレーザ加工時におけるバルブシート位置は当初位置決めした位置からずれてしまうことは必然である。また、6気筒、8気筒といったエンジンの仕様の相違によってその重量が異なること、エンジン重量の相異に伴なって相異する慣性力ごとにシリンダヘッドを回転させる回転軸や各種治具の回転時の変位量も異なること、同一エンジンにおいてもバルブ孔位置によって撓みによるバルブシートの実際の位置が異なること、などの原因から、エンジン仕様とバルブ孔位置に固有の加工時の位置ずれが存在する。この位置ずれを原因として、レーザクラッド加工時の従来の加工誤差はせいぜい±0.1mmのオーダーとなっており、これ以下のより高精度のレーザ加工を実現することはできなかった。これは、特許文献1に開示の技術をもってしても解決することは困難な問題である。このような誤差オーダーでレーザクラッド加工がおこなわれた場合、バルブシートには欠肉部が形成されて偏摩耗が齎され、結果としてエンジン性能の低下を早期に引き起こす原因となってしまう。
そこで、仮に慣性力が作用した場合でも変位が生じない程度まで装置の剛性を高めるとともに、シリンダヘッド回転時の位置を高精度にセンシング可能なセンサ機構とそれに付随する制御機構を搭載した加工装置を製作することも不可能ではないが、その製作コストが極めて高価なものとなることは明らかであり、現実的な方策とは言えない。
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、製作コストを高騰させることなく、レーザクラッド加工時の加工精度を従来に比して格段に高めることのできるレーザクラッド加工におけるバルブシートの位置決めシステムと位置決め方法、およびレーザクラッド加工システムと加工方法を提供することを目的とする。
前記目的を達成すべく、本発明によるレーザクラッド加工におけるバルブシートの位置決めシステムは、エンジンのシリンダヘッドを回転させながらそのバルブシートにレーザクラッド加工を施すに際し、該バルブシートの位置を特定する位置決めシステムであって、シリンダヘッドを少なくとも1回転させた際のバルブシートの位置を計測するセンサと、回転時のバルブシートの位置に関する計測データを、少なくともシリンダヘッドの重量やバルブシート位置におけるたわみ量が加味された補正係数に基づいて補正することにより、シリンダヘッド回転時のバルブシートの位置を特定する位置算出装置と、を少なくとも具備することを特徴とするものである。
本発明の位置決めシステムは、特に、エンジンのシリンダヘッドのバルブシートにレーザ肉盛り加工を施すレーザクラッド加工に際し、その加工精度を高めるために、実際にレーザ加工が実行されるべきシリンダヘッド回転時のバルブシート位置、例えば回転軸座標を求めておく装置である。
上述するように、シリンダヘッドにはその重量に応じた慣性力が作用し、さらに、そのバルブ孔の位置ごとに撓みによる位置ずれ量も相異することから、エンジンの仕様と該エンジンに開設されたバルブ孔(バルブシート)ごとにシリンダヘッド回転時の位置を特定しておく必要がある。
そこで、本発明の位置決めシステムでは、レーザクラッド加工に際し、まずシリンダヘッドを予備的に少なくとも1回転させ、この回転時にバルブシートの外周円奇跡上の複数点をレーザ変位計等のセンサにて計測する。この計測ポイントは、例えば、外周円奇跡の90度ピッチの4点で任意に設定された平面XY座標における外周円の最頂部と最下部、それらに対して90度の位置の4点を計測することができる。この4点のX座標、Y座標中心を算出してバルブシート回転時におけるバルブシートの暫定的な中心座標(回転中心座標)を算出する。この暫定的な中心座標は本システムを構成する位置算出装置に適宜送信される。
暫定的な中心座標に対して、上記の位置算出装置では、さらに予め設定されている補正係数を乗じる等することで、レーザ加工装置において実際にシリンダヘッドが回転され、レーザクラッド加工が実行される際のバルブシート位置(バルブシートの回転中心)を特定することができる。ここで、補正係数とは、4気筒、6気筒、8気筒といったエンジン性能にかかる仕様、乗用車用、トラック用といったエンジン規模にかかる仕様、といった各種仕様の相異によって決定される、シリンダヘッド重量、該シリンダヘッドに開設されるバルブ孔位置とその静止時における撓み量、などの種々の要素に基づいて、発明者等がこれまで実験するとともに蓄積してきたデータから算定された補正係数である。なお、レーザクラッド加工されるバルブ孔位置に応じて回転スピードも相異するため、この点からもバルブ孔位置ごとに回転時の位置ずれの程度は相異することとなる。そこで、本システムの位置算出装置を介し、例えば、車名:○○用の4気筒エンジン(型式△△)の第1番の吸気系バルブシートに関しては、計測データに基づく奇跡円の中心座標に補正係数0.8を乗じた値をレーザクラッド加工時の回転軸座標とするといった具合に回転時のバルブシートの位置決めが実行できる。なお、この補正係数は、レーザクラッド加工時に使用される加工装置において、シリンダヘッドを回転駆動する回転軸部材等に固有の補正係数でもあり、装置の構成が変化した場合には、装置固有のデータを再度集積して補正係数が求められることとなる。
上記する位置決めシステムは、シリンダヘッドを仮に回転可能に固定する回転装置を備え、レーザ照射位置に相当する位置に計測センサを備え、計測結果が送信され、格納されるパーソナルコンピュータを備えた構成から構築することができる。このパーソナルコンピュータは上記する位置算出装置を構成するものであり、該コンピュータ内には車種、搭載エンジン、バルブ孔位置ごとに決定された上記補正係数が格納されている。このコンピュータ内に計測データが送信されると、上記例示のごとく暫定的な中心座標が算定され、この値に補正係数が乗じられてシリンダヘッド回転時の回転中心座標が決定されるものである。
また、本発明によるレーザクラッド加工システムは、エンジンのシリンダヘッドを回転させながらそのバルブシートにレーザクラッド加工を施す加工システムであって、シリンダヘッドを保持した姿勢で回転させる載置台と、加工用レーザ照射装置と、前記位置決めシステムと、を少なくとも具備しており、該位置決めシステムにて決定されたバルブシートの中心座標をレーザクラッド加工時の回転軸に一致させながらレーザクラッド加工をおこなうことを特徴とするものである。
本発明の加工システムは、上記する位置決めシステムと実際にレーザクラッド加工をおこなうレーザ加工装置とから構成されるレーザ加工システムである。レーザ加工装置における載置台は、上記するようなXYテーブルや回転軸部材等を備えており、位置決めシステムからの情報に基づいて制御機構によって該XYテーブルが移動しながらシリンダヘッドの対象となるバルブシートの中心位置が回転軸位置にくるように移動制御される。
バルブシートが所定の被加工位置に固定された段階で、バルブシート(シリンダヘッド)が回転駆動され、銅合金等からなる粉体が供給されてレーザビームが照射されることにより、バルブシートにレーザクラッド加工が実行される。
なお、上記レーザ加工システムでは、レーザ加工を実行するレーザ加工装置と、位置決めシステムとが実質的に分離され、双方の装置が制御機構を介して相互関連された形態であるが、レーザ加工用の載置台上に配設された加工用レーザ照射装置に計測用センサが固定され、この載置台上でシリンダヘッドを1回転させて回転時の奇跡を計測するようなシステム形態であってもよい。
上記する本発明のレーザ加工装置によれば、レーザクラッド加工における回転時のあらゆる誤差成分が勘案された中心座標を回転軸とし、この回転軸まわりでレーザクラッド加工が実行されることから、極めて高い精度でのレーザクラッド加工を実現することができる。また、このレーザクラッド加工においては、その位置決めを実現するために加工システムの剛性を高めたり、高精度かつ高価なセンシング機構、リアルタイムな位置制御機構等を必要としないため、システム製作に要するコストが高騰する虞はない。なお、発明者等の実機に基づく検証によれば、従来の誤差精度の1/10に当たる±0.01mmオーダーの加工誤差を実現できることが分かっている。
また、本発明によるレーザクラッド加工におけるバルブシートの位置決め方法は、エンジンのシリンダヘッドを回転させながらそのバルブシートにレーザクラッド加工を施すに際し、該バルブシートの位置を特定する位置決め方法であって、シリンダヘッドを少なくとも1回転させた際のバルブシートの位置を計測する計測ステップと、回転時のバルブシートの位置に関する計測データを、少なくともシリンダヘッドの重量やバルブシート位置におけるたわみ量が加味された補正係数に基づいて補正することにより、シリンダヘッド回転時のバルブシートの回転中心座標を特定する中心座標特定ステップと、からなることを特徴とするものである。
さらに、本発明によるレーザクラッド加工方法は、エンジンのシリンダヘッドを回転させながらそのバルブシートにレーザクラッド加工を施す加工方法であって、シリンダヘッドを少なくとも1回転させた際のバルブシートの位置を計測する計測ステップと、回転時のバルブシートに関する計測データを、少なくともシリンダヘッドの重量やバルブ孔位置におけるたわみ量が加味された補正係数に基づいて補正することにより、シリンダヘッド回転時のバルブシートの中心座標を特定する中心座標特定ステップと、バルブシートの前記中心座標が回転軸に一致するようにシリンダヘッドを移動させ、該回転軸まわりにバルブシートを回転させることによってレーザクラッド加工を施す加工ステップと、からなることを特徴とするものである。
本発明のレーザクラッド加工方法によれば、エンジン重量、バルブシート位置に固有の撓み、回転時における回転軸部材の変位量等、レーザクラッド加工における回転時のあらゆる誤差成分が加味された回転中心まわりでバルブシートが回転しながらレーザクラッド加工がおこなわれるため、極めて高い加工精度を実現することができる。
以上の説明から理解できるように、本発明のレーザクラッド加工におけるバルブシートの位置決めシステムと位置決め方法、およびレーザクラッド加工システムと加工方法によれば、シリンダヘッドを模擬的に回転させて回転奇跡を計測し、これにエンジン、バルブ孔位置等に固有の補正係数を乗じて実際の回転中心座標を求め、この回転中心座標まわりにバルブシートを回転させながらレーザクラッド加工をおこなうことで、加工システムを高価なものとせずに、極めて高い加工精度を実現することができる。
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の位置決めシステムの一実施の形態を示した模式図であり、図2は、位置決めシステムにおける位置決め方法に関するブロック図である。図3は、計測データからXY座標における暫定的回転中心座標が決定されることを説明した図であり、図4は、計測データと補正係数から回転中心座標を算定するデータシートの一実施の形態を示した図である。図5は、本発明の加工システムの一実施の形態を示した模式図であり、図6は、バルブシートに加工されるクラッド層を説明した模式図である。図7は、バルブシートにおけるクラッド加工の断面形状を模式的に示した図であって、図7aは従来の加工システムによる図であり、図7bは本発明の加工システムにおける図である。図8は、本発明の加工システムと従来の加工システムにおける加工精度を検証したグラフである。なお、図示する実施の形態では、位置決めシステム10とレーザ加工装置30とが制御装置20を介してレーザ加工システムを構成する構成となっているが、レーザ加工装置30に位置決めシステム10を構成するレーザセンサ1が設けられ、レーザ加工装置30を構成するXYテーブル上で計測データが得られる構成であってもよいことは勿論のことである。また、図では、4気筒で1気筒あたり4つのバルブ孔、すなわち排気系バルブ孔2個、吸気系バルブ孔2個が形成されたシリンダヘッドが図示されているが、図示以外の仕様のシリンダヘッドに本発明の各装置が適用されることは勿論のことである。
図1に位置決めシステムの一実施の形態を示している。この位置決めシステム10は、不図示の移動機構により、回転テーブル2上に載置固定されたシリンダヘッドCに開設されたバルブシートVの位置が回転軸θ上にくるように該回転テーブル2を移動させ、サーボモータ等からなる回転装置3にて少なくとも該回転軸θまわりに1回転させた際のバルブシートVの回転奇跡上の複数点をレーザセンサ1にて計測し(レーザL)、この計測データを位置算出装置4に送信し、この位置算出装置4にてすべてのバルブシートVに関する計測データを蓄積するようになっている。ここで、回転テーブル2の傾斜角度は実際にレーザクラッド加工を実施するXYテーブルの傾斜角度と同じ状態に設定されている。
位置算出装置4はパーソナルコンピュータから構成されており、位置決めアルゴリズムを確定するソフトウエアが内蔵されている。このアルゴリズムに関するブロック図を図2に示している。
位置決めシステム10によって計測されたバルブシートの回転奇跡上の複数点に関するデータは、I/F回路43を介して計測データ格納部44に送られ、蓄積される。位置決めシステム10では、例えば4気筒エンジンにおいては吸気バルブと排気バルブを合わせて16のバルブ孔が設けられることから、各バルブ孔に対応したバルブシートごとの回転奇跡に関するデータが蓄積されることとなる。
ここで、計測データの一例を図3に基づいて説明する。回転テーブル2上に任意に設定されたXY座標に対し、計測対象のバルブシートを回転軸θまわりに一回転させた際の回転円奇跡上の4点を90度ピッチで計測し、プロットする。図では、円奇跡の最頂部をP1とし、それから時計まわりに90度ピッチでP2、P3,P4の計4点がプロットされている。この4点から、例えば、P1とP3のY座標中心をY1、P2とP4のX座標中心をX1とし、この(X1,Y1)をもって暫定的なバルブシートの回転中心座標とする。図2に戻り、計測データ格納部44には、この各バルブシートごとの暫定的な回転中心座標に関するデータ、または図中のP1〜P4の座標データが送信される。
一方、4気筒、6気筒、8気筒といったエンジン性能にかかる仕様、乗用車用、トラック用といったエンジン規模にかかる仕様、といった各種仕様の相異によって決定される、シリンダヘッド重量、該シリンダヘッドに開設されるバルブ孔位置とその静止時における撓み量など、種々の要素に基づいて補正係数が設定されており、管理者がキーボード入力、フロッピー入力等することで補正係数に関するデータがI/F回路41を介して補正係数格納部42に蓄積される。
計測データ格納部44に蓄積された各バルブシートごとの暫定的な回転中心座標に対し、対応する補正係数を補正係数格納部42から読み出して双方を乗じることにより、レーザ加工装置において実際にレーザクラッド加工が実行される際のバルブシートの回転中心座標が決定される。この演算は、CPU46によって回転中心座標算定部45が実行されることでおこなわれる。
ここで、回転中心座標算定部45にて作成されるデータシートの一例を図4に基づいて説明する。データシートには、車種、エンジンの型式等が入力されており、かかるIDによってバルブ孔の数や大きさ等が規定される。各バルブ孔(バルブシート)ごとに上記する計測データP1〜P4が自動入力されており、これによって暫定的な回転中心座標が決定され、さらに、対応する補正係数が乗じられてレーザ加工時の回転中心座標が決定される。
図2に戻り、算定された各バルブシートごとの回転中心座標は回転中心座標格納部47に蓄積される。実際にレーザクラッド加工が実行される際には、対象のバルブシートに対応した回転中心座標に関するデータがI/F回路48を介してレーザ加工装置30に送信され、レーザ加工装置30を構成するテーブルが回転中心座標データに基づいて移動することにより、所定の加工位置に位置決めされることとなる。
次に、図5に基づいてレーザ加工装置の概要を説明する。機台36には水平面に対して所定角度傾いた面35が設けられており、回転軸がこの面35に垂直になるように回転用サーボモータ34が取付けられている。回転テーブル33はサーボモータ34の回転軸に不図示の減速機を介して連結されており、サーボモータ34が回転することによって回転できるようになっている。
回転テーブル33上には、Y方向にY軸ガイドレール32a,32bが配置され、Y軸ガイドレール32a,32bに係合するY軸スライダ32が該Y軸ガイドレールに案内されて移動できるようになっている。このY軸スライダ32の移動機構として送りネジ機構が適用されている。
Y軸スライダ32上には、X方向にX軸ガイドレール31a,31bが配置され、これに係合するX軸スライダ31が該X軸ガイドレール31a,31bに案内されて移動できるようになっている。X軸スライダ31の移動機構も送りネジ機構が適用されている。
X軸スライダ31は不図示の揺動機構によって揺動自在となっており、このX軸スライダ31上にシリンダヘッドCが固定される。
揺動機構は、シリンダヘッドCの回転軸θ’に対する角度、すなわち排気系か吸気系のバルブ孔の軸心の方向を2つの位置に切り替えるためのものである。これによってシリンダヘッドCに形成された排気系のバルブ孔の軸心、または吸気系のバルブ孔の軸心のいずれかを回転テーブル33の回転軸θ’と平行にすることができる。
上記する回転用サーボモータ34、送りネジ機構を駆動するY軸サーボモータ、X軸サーボモータ、揺動機構を駆動する揺動モータは、不図示の制御装置に接続されており、各アクチュエータが駆動制御されることでシリンダヘッドCをX−Y平面内で任意の位置に、また任意の向きに移動させることが可能である。
機台36の上方には、レーザビーム照射装置37が配置されており、回転するシリンダヘッドCのバルブシートに金属粉体が不図示の供給手段から供給されながらレーザビームLが照射される。このレーザ加工装置30は、位置決めシステム10と共通の制御装置20に接続されており、位置決めシステム10から送られる回転中心座標に基づいて上記するX軸スライダ31やY軸スライダ32等が移動制御される。
次に、図示するレーザ加工装置30を用いたレーザクラッド加工方法について説明する。シリンダヘッドCはX軸スライダ31からなる載置台上に載置され、クランプ機構によって位置決め固定される。それから、不図示の揺動機構によってシリンダヘッドCを例えば吸気系のバルブ孔の軸心が回転テーブル33の回転軸θ’に平行になるように傾ける。そして、最初の加工対象のバルブシートVのバルブ孔軸心が回転テーブル33の回転軸θ’と一致するように不図示のX軸モータとY軸モータを駆動してX軸スライダ31、Y軸スライダ32を移動させる。回転テーブル33の回転軸θ’は上記する回転中心座標を通るように調整されることで、位置決めシステムで設定された回転中心まわりにバルブシートを回転させながらレーザクラッド加工をおこなうことが可能となる。
任意のバルブシートに対して各スライダの移動〜レーザクラッド加工が実行された後に、次のバルブシートの回転中心座標が読み込まれ、この座標データと回転軸θ’が一致するように各スライダが移動した後にレーザクラッド加工が実行される。すべてのバルブシートに対して上記操作が順次おこなわれることで、その回転時における回転軸がバルブシートの座標中心と一致した姿勢でレーザクラッド加工がおこなわれることになる。
図6は、本実施例における4気筒で1気筒あたり排気系バルブ孔2個、吸気系バルブ孔2個の計4個のバルブ孔が形成されたシリンダヘッドCにおける排気系バルブ孔EXと吸気系バルブ孔INの断面視形状が示されている。各バルブ孔先端のバルブシートV1,V2にリング状のレーザクラッド層A1,B1が加工されることになる。
図7は、上記するクラッド層の加工状態を示した模式図であり、図7aは従来のレーザ加工装置によって加工されたクラッド層を、図7bは本発明のレーザ加工システムによって加工されたクラッド層をそれぞれ示している。
従来のレーザ加工装置では、図7aに示したように、クラッド層A1に加工誤差による偏りが生じてしまい、図中のQで示した欠肉部が形成されることが往々にしてあった。この欠肉部が存在することで、バルブシートが偏摩耗され、結果としてエンジン性能の低下を早期に引き起こす原因となってしまう。
上記欠肉部が形成される最大の原因は、上記するように当初設定されたシリンダヘッド回転時の回転座標中心が、実際の回転軸心上に存在しないことによるものである。
そこで、本発明による位置決めシステムによって回転時の回転座標中心を求め、この座標をレーザ加工装置における回転軸上に位置決めすることにより、図7bに示すように欠肉部の存在しないクラッド層A1を形成することができる。
[レーザクラッド加工精度と不良率に関する実験とその結果]
発明者等は、従来のレーザ加工装置と、図1〜図5に示す本発明のレーザ加工システムとを用意し、それぞれの装置にてレーザクラッド加工をおこなった際の加工精度とクラッド加工位置の位置ずれに起因する不良率の関係を求めた。この実験結果を図8に示している。
図8より、従来のレーザ加工装置では、加工精度が±0.05mm以上となり、その値に応じて10%〜30%程度の不良率が齎されてしまう(図中のT2領域)。それに対し、本発明によるレーザ加工システムを適用した場合の加工精度は±0.01mmオーダーとなり、不良率0%を実現することができた(図中のT1領域)。
本実験より、レーザクラッド加工においてはシリンダヘッド回転時の対象バルブシートの回転中心座標を如何に精度よく求めておけるかが、その加工精度を左右する重要なファクターであることが分かる。
また、本発明によるレーザ加工システムでは、高精度の回転中心座標を求めるに際し、特別高価な装置や制御機構を具備する必要は一切なく、実際のレーザ加工装置においては従来の装置をそのまま適用できることから、安価な製作コストで高精度なレーザクラッド加工を実現することができる。
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
本発明の位置決めシステムの一実施の形態を示した模式図である。 位置決めシステムにおける位置決め方法に関するブロック図である。 計測データからXY座標における暫定的回転中心座標が決定されることを説明した図である。 計測データと補正係数から回転中心座標を算定するデータシートの一実施の形態を示した図である。 本発明の加工システムの一実施の形態を示した模式図である。 バルブシートに加工されるクラッド層を説明した模式図である。 クラッド加工の断面形状を模式的に示した図であって、(a)は従来の加工システムによる図であり、(b)は本発明の加工システムにおける図である。 本発明の加工システムと従来の加工システムにおける加工精度を検証したグラフである。
符号の説明
1…レーザセンサ、2…回転テーブル、3…回転装置、4…位置算出装置、10…位置決めシステム、20…制御装置、30…レーザ加工装置

Claims (4)

  1. エンジンのシリンダヘッドを回転させながらそのバルブシートにレーザクラッド加工を施すに際し、該バルブシートの位置を特定する位置決めシステムであって、
    シリンダヘッドを少なくとも1回転させた際のバルブシートの位置を計測するセンサと、回転時のバルブシートの位置に関する計測データを、少なくともシリンダヘッドの重量やバルブシート位置におけるたわみ量が加味された補正係数に基づいて補正することにより、シリンダヘッド回転時のバルブシートの位置を特定する位置算出装置と、を少なくとも具備することを特徴とする、レーザクラッド加工におけるバルブシートの位置決めシステム。
  2. エンジンのシリンダヘッドを回転させながらそのバルブシートにレーザクラッド加工を施す加工システムであって、
    シリンダヘッドを保持した姿勢で回転させる載置台と、加工用レーザ照射装置と、請求項1に記載の位置決めシステムと、を少なくとも具備しており、
    該位置決めシステムにて決定されたバルブシートの中心座標をレーザクラッド加工時の回転軸に一致させながらレーザクラッド加工をおこなうことを特徴とするレーザクラッド加工システム。
  3. エンジンのシリンダヘッドを回転させながらそのバルブシートにレーザクラッド加工を施すに際し、該バルブシートの位置を特定する位置決め方法であって、
    シリンダヘッドを少なくとも1回転させた際のバルブシートの位置を計測する計測ステップと、
    回転時のバルブシートの位置に関する計測データを、少なくともシリンダヘッドの重量やバルブシート位置におけるたわみ量が加味された補正係数に基づいて補正することにより、シリンダヘッド回転時のバルブシートの回転中心座標を特定する中心座標特定ステップと、
    からなることを特徴とするレーザクラッド加工におけるバルブシートの位置決め方法。
  4. エンジンのシリンダヘッドを回転させながらそのバルブシートにレーザクラッド加工を施す加工方法であって、
    シリンダヘッドを少なくとも1回転させた際のバルブシートの位置を計測する計測ステップと、
    回転時のバルブシートに関する計測データを、少なくともシリンダヘッドの重量やバルブ孔位置におけるたわみ量が加味された補正係数に基づいて補正することにより、シリンダヘッド回転時のバルブシートの中心座標を特定する中心座標特定ステップと、
    バルブシートの前記中心座標が回転軸に一致するようにシリンダヘッドを移動させ、該回転軸まわりにバルブシートを回転させることによってレーザクラッド加工を施す加工ステップと、
    からなることを特徴とするレーザクラッド加工方法。
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