JP2008068843A - 電動パーキングブレーキシステム - Google Patents
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Abstract
【解決手段】ドラムブレーキにおいて、ドラムブレーキの特性により、前進回転方向のトルクが加えられる場合には後退回転方向のトルクが加えられる場合に比較して、ケーブルの張力が同じ大きさに制御されても、得られる制動力が小さくなる。そこで、降坂において車両を停止状態に保つ場合は登坂において停止状態に保つ場合より、目標張力が大きくされる。それによって、降坂においても登坂においても、ケーブルの張力を、車両を停止状態に保つのに適正な大きさに制御することができる。
【選択図】図14
Description
電動パーキングブレーキ機構において、電動モータが作動させられると、電動モータの回転軸の回転が出力部材の直線運動に変換されてケーブルが引っ張られる。ドラムブレーキにおいて、押付機構により摩擦材が摩擦面に押し付けられて、ドラムブレーキが作動させられる。ドラムブレーキにおける摩擦材押付力は、ケーブルの張力の制御により制御されるのであるが、その摩擦材押付力は電動モータに電流が供給されなくても保持機構により保持される。
電動パーキングブレーキシステムにおいて、ケーブルの張力は、車両に作用する移動力に基づき、車両を停止状態に保持し得る大きさに制御される。一方、ドラムブレーキの特性により、車輪に加えられるトルクが、前進回転方向である場合と後退回転方向である場合とでは、ケーブルの張力が同じ大きさであっても、得られる制動トルクが異なる。また、降り勾配の路面においては車両の車輪に前進回転方向のトルクが作用し、登り勾配の路面においては後退回転方向のトルクが作用する。
そこで、ドラムブレーキの特性を考慮して、車両を登坂路において停止状態に保持する場合と降坂路において停止状態に保持する場合とで、車両に駆動力が加えられていなくても、傾斜角度の絶対値が同じであっても、ケーブルの張力が異なる大きさに制御される。例えば、同じ制動トルクが得られるようにする場合に、降坂における場合と登坂における場合とで、ケーブルの張力の目標値が異なる大きさとされるのであり、登坂路においても降坂路においても、ケーブルの張力を、車両を停止状態に保つための適正な大きさに制御することが可能となる。
ドラムブレーキの特性により、ケーブルの張力が同じ大きさに制御された場合であっても、前進回転方向のトルクが加えられる場合は後退回転方向のトルクが加えられる場合より、実際の制動トルクが小さくなる。そこで、車両を降坂路において停止状態に維持する場合には登坂路に停止状態に維持する場合より、ケーブルの張力の目標値が大きな値とされる。
図1において、符号10は電動モータを示し、符号12はクラッチ付き運動変換機構を示す。クラッチ付き運動変換機構12は、電動モータ10の出力軸の回転を出力部材の直線運動に変換するとともに、出力部材に加えられる力によって電動モータ10が回転させられることを防止する。また、符号14,16は左右後輪を示し、符号18,20は車輪14,16にそれぞれ設けられたパーキングブレーキを示す。パーキングブレーキ18,20とクラッチ付き運動変換機構12とは、それぞれ、ケーブル22,24によって連結されている。ケーブル22,24が、電動モータ10の作動により引っ張られると、パーキングブレーキ18,20が作用する状態とされる。本実施例においては、電動モータ10,クラッチ付き運動変換機構12,ケーブル22,24、パーキングブレーキ18,20等により電動パーキングブレーキ機構30が構成されている。
ギヤ列40は、複数のギヤ46,48,50から成る。電動モータ10の出力軸52にはギヤ46が噛合され、ギヤ46の回転が、ギヤ48を経てギヤ50に伝達される。ギヤ50の電動モータ10とは反対側の端面には、軸線方向と平行に突出する駆動伝達部54が設けられている。
クラッチ42は、一方向クラッチであり、図3に示すように、ハウジング60と、そのハウジング60の内周側に設けられたコイルスプリング62と、クラッチ42の出力軸64と一体的に回転可能なロータ66とを含む。コイルスプリング62は、巻径が弾性的に僅かに収縮させられた状態でハウジング60に嵌合されており、それの外周面がハウジング60の内周面に密着し、素線の端部68,70が、それぞれ、内周側に向かって突出させられた状態で設けられている。また、ギヤ50の駆動伝達部54が2つの端部68,70で挟まれた2つの空間の一方に位置し、ロータ66が他方に位置する。
電動モータ10に電流が供給されない状態において、出力軸64にトルクが加わると、ロータ66が端部68,70のいずれか一方に当接し、それによって、コイルスプリング62が拡径させられる。コイルスプリング62の外周面とハウジング60の内周面との間の摩擦力が大きくなり、コイルスプリング62の回転は阻止される。クラッチ42によって、出力軸64のトルクのギヤ50への伝達が阻止され、電動モータ10に電流が供給されない状態において、出力軸64に加えられるトルクによって電動モータ10が回転させられることはないのである。
なお、ハウジング80の内部には、ケーブル24の張力を検出する張力センサ90が設けられている。イコライザ84により、ケーブル22,24に加えられる張力は同じ大きさとされるため、張力センサ90によって検出されたケーブル24に加えられた張力は、ケーブル22に加えられた張力でもある。
また、符号92は異常時解除装置を示す。異常時解除装置92は、電動モータ10の異常時等に、パーキングブレーキ18,20を解除するための装置である。ケーブル93をギヤ95の内部に押し込み、手動で、図示しないグリップ部を回転させると、ギヤ95が回転させられる。そのギヤ95の回転がギヤ46、48を介してギヤ50に伝達され、ギヤ50の回転により、イコライザ84がケーブル22,24を緩める向きに移動させられる。それによって、パーキングブレーキ18,20が解除される。
また、ストラット124において、連結軸126とは反対側の端部に設けられた係合部135にブレーキシュー110bが係合させられている。
なお、係合部130は、図示する状態においては、貫通穴132の(ケーブル22のバッキングプレート100への固定端の)中心線Nより、後退回転方向側に位置する。また、後述するように、押付機構120が円周方向に相対移動させられると、それに伴って係合部130も相対移動させられるが、設計上、中心線Nより前進回転方向側の位置まで相対移動させられることがないようにされている。
しかし、実際には、ドラムブレーキ18においてケーブル22の張力が同じ大きさに制御されても、得られる制動可能トルクは、前進回転方向Pのトルクが加えられる場合は後退回転方向Qのトルクが加えられる場合に比較して、平均的に小さくなる傾向があることが実験等により明らかである。
また、ドラムブレーキ18の作用状態において、トルクが加えられた場合、あるいは、加えられているトルクが変化した場合には、ケーブル22が緩み、制動トルクが小さくなることが知られているが、この場合においても、前進回転方向Pのトルクが加えられる場合は後退回転方向Qのトルクが加えられる場合に比較して、制動トルクの低下量が大きくなる傾向があることが実験等により明らかである。
このように、前進回転方向Pのトルクが加えられる場合と後退回転方向Qのトルクが加えられる場合とで、得られる制動トルクの大きさ、緩みに起因する制動トルクの低下量が異なる理由は、未だ確認されてはいないが、以下のように推測される。
この推測の妥当性は、デュオサーボ効果が生じた状態においてのブレーキライニング116a,116bの外周面とドラム104の内周面102との間の接触状態を厳密に調べることが困難であるため、未だ確認されていないが、「デュオサーボ状態における制動トルク差」が存在することは実験で確認されている。
例えば、ドラム104に回転トルクが作用していない状態で、ブレーキシュー110a,110bがドラム104の内周面に押し付けられ、その後に、ドラム104にトルクが加えられた場合には、ブレーキシュー110a,110bがドラム104と共に回転し、それに伴ってアジャスタ108,押付機構120等のドラムブレーキ18を構成する各構成部材(円周方向に移動可能な構成部材)も円周方向に移動する。ドラム104にトルクが加えられる以前は、ブレーキシュー110a,110bの外周面(ブレーキライニング116a,116b)とドラム104の内周面102とが、全体に渡って完全に密着していないのが普通であり、ドラム104にトルクが加えられ、ブレーキシュー110a,110b,押付機構120等がドラム104と共に回転する際、ブレーキシュー110a,110bの外周面とドラム104の内周面102との隙間が減少し、それに伴ってケーブル22のインナケーブル87に緩みが生じる。ケーブル22の張力が減少し、制動トルクが減少する。この緩みは、ドラム104に前進回転方向Pのトルクが加えられる場合にも後退回転方向Qのトルクが加えられる場合にも生じるが、前述の「デュオサーボ状態における制動トルク差」が生じるのと同じ原因で、インナケーブル87の緩みに差が生じることが理由の1つと考えられる。
ドラム104に加えられるトルクの向きが前進回転方向Pである場合には、ドラム104の回転に伴ってブレーキシュー110a,110b,押付機構120等の全体がバッキングプレート100に対して前進回転方向Pに相対移動させられる。その際、ブレーキレバー122のケーブル係合部130のバッキングプレート100に対する相対位置がXからX′まで移動させられ、バッキングプレート100の貫通孔128の中心点O(バッキングプレート上のインナケーブル87が常に存在する位置を表す点である定点)からケーブル係合部130までの距離が短くなり(OX>OX′)、これによってインナケーブル87の張力が低下する。それに対し、トルクの向きが後退回転方向Qである場合には、全体が後退回転方向Qにバッキングプレート100に対して相対移動させられる。その際、ケーブル係合部130が相対位置Xから位置X″まで移動させられると、中心点Oからの距離が長くなり(OX<OX″)、その分、インナケーブル87が引っ張られて張力が増加する。
そこで、本実施例においては、車両を、その斜面でパーキングブレーキ18の作用により停止状態に保ち得るために必要なケーブル22の張力である目標張力が、降坂で停止状態に保つ場合(前進回転方向Pのトルクが加えられる場合)に、前記「デュオサーボ状態における制動トルク差」に対処するために登坂で停止状態に保つ場合(後退回転方向Qのトルクが加えられた場合)より大きくされる。この場合の、目標張力と傾斜角度との関係を図14に示す。図14に実線で示すように、路面の傾斜角度の絶対値が同じ(加えられるトルクの大きさが同じ)であっても、降坂で停止状態に保つ場合には登坂で停止状態に保つ場合より、目標張力が大きな値に決定されるのである{降坂における傾斜角度に対する目標張力の勾配の絶対値(|γdown|=ΔFrefb/Δθ)は、登坂における傾斜角度に対する目標張力の勾配(γup=ΔFrefb/Δθ)より大きくなる(|γdown|>γup)のである}。なお、斜面の効果により車輪14に加えられるトルクは、車両の駆動装置によって加えられる駆動力とは関係がない。換言すれば、駆動力が加えられていない状態であっても(トランスミッションのシフト位置がニュートラル位置やパーキング位置にあっても)、降坂で停止状態に保つ場合には登坂で停止状態に保つ場合より、目標張力が大きな値に決定される。この目標張力は、前述のように、車両を、その斜面において停止状態に保ち得る大きさとされるのであり、車両に作用する移動力に基づいて決まるため、以下、移動力対応目標張力と称する。移動力対応目標張力は、要求駐車張力、要求維持張力と称することもできる。
ただし、路面の傾斜角度が0であり、かつ、シフト位置がニュートラル位置であっても、車両が移動する可能性があるため、パーキングブレーキ18を作用させる必要があることが判っている。その理由も未だ明らかではないが、サスペンション部材の撓み等に起因して車輪に加えられるトルクが原因ではないかと推測される。このトルクは、路面の傾斜角度が0であり、かつ、シフト位置がニュートラル位置であっても生じるのである。
デュオサーボ状態において、ドラム104に加えられているトルクが変化した場合にも、同様に、ケーブル22の緩みが発生し、それによって、ドラムブレーキ18の制動トルクが低下する。「デュオサーボ状態における制動トルク差」について説明したように、デュオサーボ状態において、ブレーキシュー110a,110bの外周面とドラム104の内周面との間には隙間があるため、この状態において、加えられているトルクが変化した場合にも、「デュオサーボ状態への移行に伴う制動トルク差」について説明した場合と同様に、ケーブル22が緩むと考えられる。例えば、パーキングブレーキ18の作用によって車両が停止している状態において、シフト操作によってシフト位置が変化させられ、それによって、車輪に加えられる駆動トルクが変化した場合等が該当する。
いずれにしても、「デュオサーボ状態への移行に伴う制動トルク差」について説明したように、ケーブル22の緩みに起因して低下する制動トルクの減少量は、ドラム104に加えられるトルクが前進回転方向Pである場合に、後退回転方向Qである場合より大きい。なお、加えられているトルクの変化に起因してドラムブレーキ18に作用するトルク、新たに加えられたトルクを、以下、入力トルクと称する。
図15から、ケーブル22の緩み量は、入力トルクの向きが同じである場合には、入力トルクの大きさが大きい場合は小さい場合より大きくなる。そして、入力トルクの大きさは、路面の傾斜角度の絶対値が大きい場合は小さい場合より大きくなり、駆動装置の回転速度が同じとすれば、ディスクブレーキ99が解除された場合のトランスミッションのシフト位置がドライブ位置、リバース位置にある場合には、ニュートラル位置にある場合より大きくなる。なお、図15において、登坂に停止している場合にシフト位置がドライブ位置である場合と、降坂に停止している場合にリバース位置である場合とでは、傾斜角度と緩み量との関係が、よく似た関係にあり、登坂に停止している場合にリバース位置にある場合と、降坂に停止している場合にドライブ位置にある場合とでは、よく似た関係にあることがわかる。
また、ケーブル22の緩み量は、トルクが加えられた場合に、作用状態にあるドラムブレーキ18における摩擦材押付力(ブレーキシュー110a,110bのドラム内周面102への摩擦材押付力であり、ケーブル22の張力に対応する)が大きい場合は小さい場合より大きくなる。デュオサーボ状態で作用しているドラムブレーキ18におけるケーブル22の張力は、本実施例においては、前記移動力対応目標張力に制御されるため、傾斜角度の絶対値が大きい場合は小さい場合より大きくなる。
電動パーキングブレーキECU200は、CAN214を介して、車両に設けられた他のコンピュータ、例えば、スリップ制御ECU(VSCECU)220,エンジン・トランスミッションECU(ETCECU)222等に接続されるとともに、温度センサ224、イグニッションスイッチ225等に接続される。また、スリップ制御ECU220には前後加速度センサ226、車輪速センサ227が接続され、エンジン・トランスミッションECU222にはシフト位置センサ228が接続されており、車速、前後加速度、シフト位置等の情報がスリップ制御ECU220,エンジン・トランスミッションECU222,CAN214を介して、電動パーキングブレーキECU200に供給される。
シフト位置センサ228は、本実施例においては、トランスミッションの状態(例えば、ソレノイドバルブのソレノイドへの電流供給状態:シフト位置に対応)に基づいてシフト位置を検出するものであるが、シフト操作部材の位置を検出するものとするものであってもよい。車両の停止状態においては、これらは対応すると考えることができるからである。
張力センサ90は、相対移動量検出部242とスプリング244とを含み、ピストンロッド240に対するケーブル24(インナーケーブル)の相対移動量Δsにスプリング244のばね定数Kを掛けた値が引張力Fとして取得される。
F=K・Δs
張力センサ90は、第1部材としてのハウジング250,ハウジング250に相対移動可能に設けられた第2部材としてのピストン252,ハウジング250とピストン252との間に設けられたスプリング244,ピストン252のピストンロッド240に設けられた磁石258,ハウジング250に設けられたホール素子(半導体)260等を含む。
ハウジング250には、ケーブル24が相対移動不能に取り付けられる。また、スプリング244は、ピストン252のピストンロッド側の面とハウジング250の内側面との間に設けられ、ケーブル24をピストンロッド240に接近させる向き(2つの部分ケーブル240,24を互いに接近させる向き)に付勢する。
イコライザ84が図6の左方へ移動させられると、ケーブル24に引張力が加えられる。ピストン252が、ハウジング250に対して、2つの部分ケーブル240,24を互いに離間させる向きに、相対移動させられ、スプリング244が収縮させられる。ハウジング250とピストン252との相対移動に伴って磁石258とホール素子260との間の相対位置関係が変化し、それに伴って磁束密度(磁力線の数)が変化し、ホール素子260からの出力電圧が変化する。出力電圧の変化に伴ってハウジング250とピストン252との相対移動量Δsが取得される。
図7(b)に示すように、張力が増加した後、減少する場合に、張力センサ90の出力値(以下、センサ値と称する)は、一定の値を保持した後、減少する。本実施例における張力センサ90のヒステリシス特性は、図7(a)、(b)に示すように、センサ値Foutが大きい場合は小さい場合よりヒステリシス幅ΔHs{センサ値Foutから実際値(真値)Fcを引いた値(ΔHs=Fout−Fc)}が大きくなる特性であり、これらセンサ値Foutとヒステリシス幅ΔHsとの間の関係は予め取得され、記憶部204に記憶されている。
また、張力センサ90のヒステリシス特性が図7(b)に示す特性である場合には、不感帯の幅ΔHとヒステリシス幅ΔHsとは、センサ値Foutに関係なく同じとなる。このことから、本張力センサ90のヒステリシス特性は、センサ値Foutが大きい場合は小さい場合より不感帯の幅ΔHが大きくなる特性であると考えることもできる。
センサ値Foutと、それに対応するヒステリシス幅ΔHsとに基づけば、実際の張力Fcは、式
Fc=Fout−ΔHs
に従って取得することが可能である。
図8(a)に示すように、車両に加えられる前後方向の力(加速度)に応じて一対の電極板間の距離が変化するコンデンサ280と、電圧差一定の下、そのコンデンサ280において充電、放電を行わせることによって、コンデンサ280に蓄えられた電荷の量を取得し、電荷の量に基づいて電圧を取得し、電圧に基づいて加速度を検出する電気回路282とを含む。電気回路282には、CV変換回路290,フィルタ292,加速度演算回路294,アンプ296等が含まれる。CV変換回路290において、コンデンサ280に蓄えられた電荷の量Qから電圧Vが取得され、フィルタ292によってフィルタ処理される。フィルタ処理された値は、加速度演算回路294に供給され、演算式を利用して加速度が求められる。求められた加速度はアンプ296において増幅されて出力される。
コンデンサ280において、これらの間に蓄えられた電荷の量Qと、これらの間の電圧差Vと、コンデンサ280の静電容量Cとの間には、式
Q=V・C
が成立し、静電容量Cは、電極板間の距離d、電極板の面積S、誘電率ε0とした場合に、式
C=ε0・S/d
で表すことができる。
これら2つの式から、式
Q=V・ε0・S/d
が得られるが、ε0、Sは定数であるため、電圧差Vが一定である場合には、電荷の量Qは、距離dが小さい場合は大きい場合より大きくなることがわかる。すなわち、前後方向の力が大きく距離dが小さい場合は、前後方向の力が小さく距離が大きい場合より、電荷の量Qが大きくなり、CV変換回路290から出力される電圧が大きくなる。この出力電圧と演算式とに基づいて、加速度演算回路294において前後加速度が取得されるのである。
そして、この加速度演算回路294において利用される演算式における定数は、温度が低い場合は、高い場合(常温以上)より大きなバラツキ(誤差の絶対値)を許容する状態で設定される。その結果、温度が高い場合には、低い場合より精度が高く、真の値に近い値が検出されると考えられる。
この前後加速度センサ226の温度誤差特性を、図8(b)に示す。温度誤差特性は、車両の使用環境である−30℃〜80℃の間で作成されており、温度が標準温度Tαより高い場合は誤差の絶対値Δがcで小さく、かつ、一定であるのに対して、設定温度Tα以下である場合には、標準温度Tαより高い場合より、誤差の絶対値Δが大きく、かつ、温度Tが低くなると大きくなる。標準温度Tαは、例えば、20℃〜25℃ぐらいの値である。
Δ=c(T>Tα)・・・(1)
Δ=aT+b(T≦Tα)・・・(2)
図8(c)に示すように、車両の傾斜角度θ、車両の質量M(kg)、車両に斜面に沿って作用する力F(N)、重力加速度g(m/s2)、前後加速度G(m/s2)の間には、式
F=M・g・sinθ
G=g・sinθ
が成立する。
また、前後加速度センサ226は、前述のように、フロアトンネルにに設けられるため、イグニッションスイッチ225がOFFからONに切り換えられ、エンジンが始動させられると、エンジンによって発生させられる熱により暖められる。前後加速度センサ226の温度は、エンジンの作動時間が長い場合は短い場合より、高くなる。
車両が屋外に放置されている場合には、前後加速度センサ226の温度は外気温度と同じであるとみなすことができる。外気温度が、標準温度Tαより高い場合には、前後加速度センサ226の温度も標準温度Tαより高いが、外気温度が標準温度Tαより低い場合には、前後加速度センサ226の温度も標準温度Tαより低い。しかし、図17に示すように、イグニッションスイッチ225がOFF状態からON状態に切り換えられて(エンジン始動時)から設定時間Timeαが経過すると、標準温度Tαに達し、それ以降は、大きく低下することなく、標準温度Tα以上に保たれることが実験等により確かめられている。実験は、外気温度が非常に低い状態で行われ、設定時間Timeαは、イグニッションスイッチ225がON状態に切り換えられてから設定時間Timeαを経過すれば、確実に、前後加速度センサ226の温度が標準温度Tαより高くなる時間である。
なお、前後加速度センサ226は、車室内の温度の影響も受ける。イグニッションスイッチ225がONに切り換えられた時点において、外気温度が非常に低い場合には、前後加速度センサ226は、車室内の熱によっても暖められる。
G=Gout+Δ
G=g・sinθ
また、温度センサは、外気温度を検出するものとしたり、車室内の温度を検出するものとしたり、エンジン水温を検出するものとしたりすることができる。外気温度、車室内の温度、エンジン水温を検出するもの等である場合には、これら温度センサによる検出温度と前後加速度センサ226の温度との関係と、検出温度とに基づいて前後加速度センサ224の温度が推定される。例えば、外気温度を検出するセンサは、ラジエタ前方に設けられ、車室内の温度を検出するセンサは、インストルメントパネルに設けられる。また、エアコンディショナに送風温度を検出するセンサ、車室内の温度を検出するセンサ等が設けられる場合には、それを利用することもできる。
電動パーキングブレーキシステムにおいて、パーキングスイッチ210のロック指示操作が行われると、電動モータ10が作動させられ、ケーブル22,24が引っ張られ、それによって、ドラムブレーキ18,20が作動させられる。リリース指示操作が行われると、電動モータ10が逆向きに回転させられ、ケーブル22,24が緩められる。パーキングブレーキ18,20において、リターンスプリング115により、一対のブレーキシュー110a,110bが縮径させられ、ブレーキが解除される。また、パーキングブレーキ18,20の作用中に、電動モータ10に電流が供給されなくなっても、クラッチ42により摩擦材押付力が保持される。
電動パーキングブレーキ制御プログラムは、予め定められた設定時間毎に実行される。ステップ1(以下、S1と略称する。他のステップについても同様とする)において、パーキングスイッチ210が操作されたか否かが判定される。パーキングスイッチ210の操作が検出された場合には、S2において、ロック指示操作であるか否か(ロック要求であるか否か)が判定される。ロック要求である場合には、S3において、電動モータ10により、パーキングブレーキ18,20が作動させられる。この制御をパーキングブレーキ作動時制御と称する。
それに対して、リリース指示操作である場合、すなわち、リリース要求である場合には、S2の判定がNOとなり、S4においてリリース制御が行われる。本実施例においては、電動モータ10が作動時とは逆方向に回転させられケーブル22,24が緩められる。
パーキングブレーキ作動時制御中でない場合には、S6において、パーキングブレーキ18,20の作用中であるか否かが判定される。パーキングブレーキ18,20の作用中である場合には、S7において、停止状態維持制御が行われる。すなわち、制動トルクが車両を停止状態に保ち得る大きさとなるように、ケーブル22,24の張力が制御されるのであり、必要に応じてケーブル22,24の張力が大きくされる。停止状態維持制御とパーキングブレーキ作動時制御とを合わせてロック制御と称することがある。
なお、本実施例においては、パーキングブレーキ18,20による制動トルクが、ケーブル22,24の張力の制御により制御される。図13に示す、制動可能トルクと張力との関係と、目標制動トルクとから目標張力が取得され、張力センサ90によって検出される張力が目標張力に近づくように、電動モータ10が制御されることになる。
また、パーキングスイッチ210が操作されず、パーキングブレーキ作動時制御中でも、停止状態維持制御中でもない場合には、S8において、本プログラムにおいて利用される各フラグ、カウンタ、パラメータ等が初期化される。
パーキングブレーキ18,20の作動時において、目標張力Fref(目標制動トルクに対応)は、原則として、移動力対応目標張力(停止要求張力、停止維持張力)Frefbと緩み補填量ΔFrefcとの和(緩み対応目標張力と称する)として決定される。
Fref=Frefb+ΔFrefc
移動力対応目標張力Frefbは、前述のように、車両に移動力に抗して、車両を停止状態に保つために必要な張力であり、図14のテーブルに基づいて決定される。移動力対応目標張力Frefbは、傾斜角度、シフト位置に基づいて取得される。
また、降坂に停止している場合に、シフト位置がドライブ位置にある場合には、車両には、駆動装置によって、下向きの移動力(駆動力)が加えられるため、図14の破線に示すように、その分、移動力対応目標張力Frefbが大きくされる。登坂に停止している場合には、逆に、シフト位置がリバース位置にある場合に、下向きの移動力が加えられるため、図14の一点鎖線で表されるように、その分、移動力対応目標張力Frefbが大きくされる。このように、本実施例においては、駆動装置によって下向きの駆動力が加えられる場合に、移動力対応目標張力Frefbが大きくされることになる。また、移動力対応目標張力Frefbには上限値が設けられ、それ以上大きくならないようにされている。
緩み補填量ΔFrefcは、前述のように、パーキングブレーキ18,20の作用状態において、サービスブレーキ99が解除されたこと、シフト位置が変化したこと等に起因してドラム104に加えられているトルクが変化すると、ケーブル22,24が緩み、制動トルクが小さくなるが、その制動トルクの低下を補填するための付加張力量であり、図15のテーブルに基づいて決定される。緩み補填量ΔFrefcは、傾斜角度、シフト位置に基づいて取得される。
なお、前後加速度センサ226が異常であり、傾斜角度θが正確に取得できない場合には、目標張力は、電動パーキングブレーキ機構150において出力可能な最大値に設定される。
図11のフローチャートで表されるように、S51において、センサ値Goutが読み込まれ、S52において、温度センサ224による検出値Tが読み込まれ、S53において、標準温度Tαより高いか否かが判定される。標準温度Tαより高い場合には、S54において、式(1)に従って、誤差の絶対値Δがcとされ、標準温度Tα以下である場合には、S55において、式(2)に従って、誤差の絶対値Δが(aT+b)として取得される。その後、S56において、センサ値Goutに誤差の絶対値Δを加えた値が温度を考慮した前後加速度(G←Gout+Δ)とされ、S57において、温度を考慮した前後加速度Gから傾斜角度θが求められる。
θ=sin-1(G/g)
S33において、このように取得された傾斜角度θと、図14のマップで表されるテーブルとから移動力対応目標張力Frefbが求められる。この場合には、シフト位置も考慮される。
S34において、シフト位置、傾斜角度θおよび図15のマップで表されるテーブルから緩み補填量ΔFrefcが求められる。そして、S35において、今回の目標張力Frefが取得されるのであるが、本実施例においては、移動力対応目標張力Frefbと緩み補填量ΔFrefcとの和(以下、緩み対応目標張力Frefaと称する)と、電動パーキングブレーキ機構30において出力可能な最大値Fmaxとの小さい方とされる。
Fref=MIN{(Frefb+ΔFrefc),Fmax}
たいていの場合には、緩み対応目標張力Frefa(=Frefb+ΔFrefc)の方が小さいため、緩み対応目標張力Frefaが今回の目標張力Fref とされる。この目標張力Fref が暫定目標張力である。
また、図16に示すように、登坂について、緩み対応目標張力Frefaの傾斜角度θに対する勾配rは、移動力対応目標張力Frefbの傾斜角度θに対する勾配sより大きくなり(r>s)、降坂について、緩み対応目標張力Frefaの傾斜角度θに対する勾配r′の絶対値|r′|は、移動力対応目標張力Frefbの傾斜角度θに対する勾配s′の絶対値|s′|より大きくなる(|r′|>|s′|)。緩み補填量ΔFrefcが、図15に示すように、傾斜角度の絶対値が大きくなるのに伴って大きくなるからである(ΔFrefc2>ΔFrefc1:緩み補填量ΔFrefc2は、ΔFrefc1より傾斜角度の絶対値が大きい場合の値である)。
それに対して、前後加速度センサ226が異常である場合には、S36において、今回の暫定目標張力Frefが出力可能な最大値Fmaxとされる。
Fref=Fmax
Fref(n)*←Fref
今回の暫定目標張力Frefが前回の制御用目標張力Fref(n-1)*以下である場合には、S39において前回の制御用目標張力Fref(n-1)*が今回の制御用目標張力Fref(n)*とされる。
Fref(n)*←Fref(n-1)*
換言すれば、今回の暫定目標張力Frefと前回の制御用目標張力Fref(n-1)*との大きい方が今回の制御用目標張力とされることになる。
Fref(n)*=MAX{Fref,Fref(n-1)*}
最初にS37が実行された場合には、nが1(n=1)であるため、n-1が0であるが、制御用目標張力Fref(0)*の初期値は、0である。前述のS8において、制御用目標張力の初期値Fref(0)*が0とされ、nの初期値が1とされるのである。その結果、nが1である場合には、今回の暫定目標張力Frefが制御用目標張力Fref(1)*とされることになる。
このように、パーキングブレーキ18,20の作動時には、制御用目標張力Fref(n)*は、大きくされることはあっても、小さくされることはないのであって、それまでの暫定目標張力Frefの最大値が制御用目標張力Fref(n)*とされるのであり、マックスホールド制御が行われる。
パーキングブレーキ作動時制御中においては、前回の制御用目標張力Fref(n-1)*と今回の暫定目標張力Frefとが同じであることが大部分であり、制御用目標張力Fref(n)*が変化することは少ない。しかし、パーキングブレーキ作動時制御途中で、前後加速度センサ226の異常が検出された場合等には、制御用目標張力Fref(n)*が大きくされるのであり、出力可能な最大値とされることになる。
S40において、張力センサ90によるセンサ値Fcが読み込まれ、S41において、センサ値Fcが制御用目標張力Fref(n)*に達したか否かが判定される。厳密にいえば、制御用目標張力Fref(n)*と不感帯等とで決まる制御終了しきい値に達したか否かが判定されることになるが、制御終了しきい値は、制御用目標張力Fref(n)*と同じ大きさの場合もある。
制御用目標張力Fref(n)*に達しておらず、S41の判定がNOである場合には、S42において、電動モータ10が正方向に回転させられる。S43において、今回の制御用目標張力Fref(n)*が前回の制御用目標張力Fref(n-1)*とされて、nが1増加させられる。
次に、S1において、パーキングスイッチ210が操作されたか否かが判定されるのであるが、操作されていない場合には、S1の判定がNOとなり、S5の判定がYESとなり、S3(S31〜43)が実行されるのであり、S1,5,3が繰り返し実行される。そのうちに、センサ値Fcが制御用目標張力Fref(n)*に達すると、S41の判定がYESとなり、S44において、電動モータ10が停止させられる。センサ値Fcが制御用目標張力Fref(n)*に近づくように、フィードバック制御が行われるのである。
それに対して、パーキングブレーキ作動時制御中にパーキングスイッチ210のリリース指示操作が行われた場合には、S1の判定がYES,S2の判定がNOとなり、S4において、リリース制御が行われる。
また、移動力対応目標張力Frefbが、ドラムブレーキ18,20の特性に基づいて決定される。降坂に停止している場合は登坂に停止している場合より、移動力対応目標張力Frefbが大きくされるのであり、降り坂においても登り坂においても、移動力対応目標張力Frefbを、車両を停止状態に保ち得る適正な大きさに決定することができる。
さらに、前後加速度センサ224のバラツキが、温度および温度特性に基づいて適正な大きさとされる。その結果、常に最大のバラツキを想定して傾斜角度が取得される場合に比較して、温度に応じた適正なバラツキを取得することができ、傾斜角度を適正なバラツキに基づいて取得することが可能となる。本実施例においては、傾斜角度に基づいて、移動力対応目標張力Frefb、緩み補填量ΔFrefcが取得されるのであるが、傾斜角度が無用に大きな値となることに起因して移動力対応目標張力、緩み補填量が無用に大きな値となることを回避し、消費電力が無用に大きくなることを回避することができる。
特に、パーキングブレーキ18,20が作動させられるのは、車両の走行が開始されてからかなり長い時間が経過しているのが普通であり、温度は、標準温度Tα以上になっているのが普通である。そのため、パーキングブレーキ18,20が作動させられる場合には、バラツキΔはcとされることが多い。温度とは関係なく、バラツキΔが最大値dであるとされる場合に比較して、多くの場合、バラツキΔを小さくすることができるのであり、その分、取得される傾斜角度も、小さい値とすることができる。その結果、移動力対応目標張力Frefb、緩み補填量ΔFrefcが、無用に大きな値とされることが回避されるのであり、大きな消費電力低減効果が得られる。
Δ=d(T≦Tα)
Δ=c(T>Tα)
この場合においても標準温度Tαより高い場合に、バラツキΔを、従来より小さく、かつ、適正な大きさcとすることができる。その結果、緩み対応目標張力Frefaが無用に大きな値となり、無用に大きな電力が消費されることを回避することができる。
その場合の一例を図20(a)のフローチャートで表す。S51、52において、前後加速度Gout、温度Tが読み込まれ、S53において、温度Tが標準温度Tαより高いか否かが判定される。標準温度Tαより高い場合には、S54′において、誤差の絶対値Δがcとされ、標準温度Tα以下である場合には、S55′において、誤差の絶対値Δがdとされる。その後、S56,57において、上記実施例における場合と同様に、傾斜角度θが取得される。
このように、本実施例においては、誤差の絶対値Δが2段階で取得されるのであり、常にdとされる場合に比較して、温度が標準温度Tαより高い場合に、小さくすることができ、消費電力の低減を図ることができる。
本実施例は、温度センサ224が、外気温度を検出するもの、車室内の温度を検出するもの、エンジンの水温を検出するもの等であり、それらの検出値に基づいて前後加速度センサ226の温度が推定される場合に適用することが有効である。これらの場合には、センサ226の温度を精度よく取得することができないからである。
なお、誤差の絶対値Δは3段階以上で取得されるようにすることもできる。
図21のフローチャートで表される温度推定プログラムは、予め定められた設定時間毎に実行される。S61において、イグニッションスイッチ225がON状態であるか否かが判定される。ON状態である場合には、前回OFF状態であったか否かが判定される。イグニッションスイッチ225がOFF状態からON状態に今回切り換えられたか否かが判定されるのである。今回、イグニッションスイッチ225の操作が行われて、OFF状態からON状態に切り換えられた場合には、S63において、タイマがスタートされる。
次に本プログラムが実行される場合には、イグニッションスイッチ225はON状態にあるが、前回もON状態であったため、S62の判定はNOとなり、S64において、タイマの計測が続けられる(タイマカウントが増加させられる)。S65において、経過時間(エンジン作動時間)が設定時間Timeαより長いか否かが判定され、設定時間Timeαを経過する以前においては、S66において、温度Tは標準温度Tα以下であるとされ、設定時間Timeαを経過した場合には、S67において、温度が標準温度Tαより高いとされる。このように推定された温度は、図21のフローチャートで表される傾斜角度取得ルーチンのS52において、読み込まれて使用される。
イグニッションスイッチ225がOFFである場合には、S68において、タイマがリセットされる。
このように、本実施例においては、温度センサ224を設けなくても、前後加速度センサ226の温度を推定することができるのであり、それによって、誤差の絶対値Δを取得することが可能となる。
本実施例においては、電動パーキングブレーキECU200の図21のフローチャートで表される傾斜角センサ温度推定プログラムを記憶する部分、実行する部分等によりセンサ温度推定部が構成される。
また、制御用目標張力Fref(n)*は、パーキングブレーキ18,20の作動開始時に1回求められ、作動途中には、求められないようにすることもできる。パーキングスイッチ210のロック指示操作が行われた場合に制御用目標張力Fref(1)*が決定されると、張力センサ90による検出値Fcが制御用目標張力Fref(1)*に達するまで、電動モータ10が正方向に回転させられることになる。
その場合の一例を図22に示す。本実施例においては、S30において、制御用目標張力Fref(1)*が既に決定されているか否かが判定される。決定されていない場合には、上記実施例における場合と同様に、S31〜36、38が実行される。今回の暫定目標張力Frefが制御用目標張力Fref(1)*とされる。既に決定されている場合には、判定がS30の判定がYESとなり、S40以降が上記実施例における場合と同様に実行される。S1,5,S3(S30,S40〜42)が繰り返し実行され、実際の張力Fcが制御用目標張力Fref(1)*に達すると、S44において、電動モータ10の回転が停止させられることになる。
S7は、S3において、パーキングブレーキ18,20が作動させられ、電動モータ10が停止させられた後に、実行される。
停止状態維持制御において、原則として、移動力対応目標張力Frefbが制御用目標張力Fref(m)*とされ、ケーブル22,24の張力が、原則として、移動力対応目標張力Frefbに維持される。そのため、張力が、移動力対応目標張力Frefbに対して不足すると、ケーブル22,24の張力を大きくするいわゆる増し引きが行われる。
また、停止状態維持制御においては、張力が制御用目標張力Fref(m)*に対して小さくなった場合に増し引きが行われるのであるが、制御用目標張力Fref(m)*に対して大きくても、張力が小さくされることはない。車両が停止状態に保たれていれば、張力を小さくする必要性は低いのであり、張力を小さくするために電動モータ10を作動させると、かえって、消費電力が多くなるからである。
さらに、停止状態維持制御においては、制御用目標張力Fref(m)*が大きくされることがあっても小さくされることがない。パーキングブレーキ18,20の作用中に、例えば、乗員の乗り降り、荷物の上げ下ろし等が行われると、車体の姿勢が変化し、傾斜角度θが変化する。また、サービスブレーキ99が解除されると、サスペンションの撓み等により車輪にトルクが加わり、それによって、車体姿勢が変化し、車両の傾斜角度が変化することがある。さらに、前後加速度センサ226の検出バラツキによっても傾斜角度が変化する。一方、シフト位置がニュートラル位置、ドライブ位置、リバース位置の間で切り換えられることがある。このように、傾斜角度θやシフト位置が変化すると、移動力対応目標張力Frefbが変化するが、これらの場合には、車両に作用する移動力が実際に変化する場合と、変化しない場合とがある。いずれにしても、移動力対応目標張力Frefbは、大きくなったり、小さくなったりするのであるが、移動力対応目標張力Frefbが大きくなった場合には、車両の移動力が真に大きくなった可能性もあり、張力を、その大きくなった移動力対応目標張力Frefbに近づけることが望ましい。そこで、制御用目標張力Fref(m)*は大きくされることがあっても小さくされることがないのであり、マックスホールド制御が行われるのである。
さらに、ケーブル22,24の張力が制御用目標張力Fref(m)*と不感帯等とで決まる増引き開始しきい値より小さくなると、電動モータ10が正方向に回転させられ、ケーブル22,24の張力が大きくされる。また、張力が制御用目標張力Fref(m)*と不感帯とで決まる増引き終了しきい値に達すると、電動モータ10の作動が停止させられる。この制御が前述の増し引きである。増引き開始しきい値は、制御用目標張力Fref(m)*より設定値αだけ小さい値とし、増引き終了しきい値は制御用目標張力Fref(m)*より設定値βだけ大きな値とすることができる。また、増引き開始しきい値と増引き終了しきい値との少なくとも一方は、制御用目標張力Fref(m)*と同じ値とすることもできる。以下、本実施例においては、増引き開始しきい値を制御用目標張力Fref(m)*とし、増引き終了しきい値を制御用目標張力Fref(m)*より設定値だけ大きな値とする。
それに対して、増し引きが設定回数(例えば、2回)行われた場合には、ケーブル22,24の張力が充分に大きくされたのであり、その後、増し引きを行う必要が生じる可能性は低い。また、ヒステリシス特性を考慮すると、かえって、ハンチングが生じるおそれもある。そこで、本実施例においては、増し引きが設定回数行われた場合には、その後、ヒステリシス特性を考慮しないで、センサ値Foutが制御用目標張力Fref(m)*より小さくなった場合に増し引きが開始されるようにされている。
増し引き回数が設定回数K0以下である場合には、S102において、センサ値Foutが読み込まれ、ヒステリシス幅ΔHsが取得され、S103において、実張力値Fcが取得される。
Fc=Fout−ΔHs
ヒステリシス幅(検出値Foutと実張力Fcとの差)ΔHsは、センサ値Foutとヒステリシス幅ΔHsとの関係を表すテーブルと、センサ値Foutとから求められる。
それに対して、増し引き回数が設定回数K0を超えた場合には、S104、105において、センサ値Foutが読み込まれ、その値が実張力値Fcとされる。
Fc=Fout
Fref=MIN(Frefb、Fmax)
それに対して、前後加速度センサ226が異常である場合には、S109において、今回の暫定目標張力Frefが最大張力Fmaxとされる。
Fref =Fmax
そして、S110〜112において、パーキングブレーキ作動時制御におけるS37〜39と同様に、前回の制御用目標張力Fref(m-1)*と今回の暫定目標張力Frefとが比較されて、大きい方が今回の制御用目標張力Fref(m)*とされる。
Fref(m)*=MAX{Fref、Fref(m-1)*}
S113において、現在、増し引き制御中であるか否かが判定され、増し引き制御中でない場合には、S114において、実張力Fcが制御用目標張力Fref(m)*より小さいか否かが判定される。すなわち、増し引き制御の開始条件が満たされるか否かが判定されるのである。開始条件が満たされない場合、すなわち、実張力Fcが制御用目標張力Fref(n
)*以上である場合には、判定がNOとなり、S115において、今回の制御用目標張力Fref(m)*が前回の制御用目標張力Fref(m-1)*とされ、mが1増加させられる。その後、S1の実行に戻される。なお、S8において、制御用目標張力Fref(0)*の初期値は0とされ、mの初期値は1とされる。
S1において、パーキングスイッチ210が操作されたか否かが判定され、操作されていない場合には、S1の判定がNOとなるが、この場合には、パーキングブレーキ作動時制御中でないが、パーキングブレーキ18,20の作用中であるため、S5の判定がNO、S6の判定がYESとなり、S7において、停止状態維持制御が行われる。S1,5,6,7(S101〜113,114,115)が繰り返し実行されるが、実張力Fcが制御用目標張力Fref(m) *以上であり、S114の判定がNOである間、電動モータ10が作動させられることはなく、クラッチ42により張力が保持された状態が保たれる。
次にS7が実行された場合には、増し引き制御中であるため、S113の判定がYESとなり、S117において、実張力Fcが増引き終了しきい値に達したか否かが判定される。増引き終了しきい値に達する以前においては、S116において、電動モータ10が正方向に回転させられる。実張力Fcが増引き終了しきい値に達する以前においては、電動モータ10は継続して回転させられるのであるが、終了しきい値に達した場合には、終了条件が満たされたとされて、S117の判定がYESとなり、S118において、電動モータ10が停止させられ、S119において、増し引き回数カウンタのカウント値kが1増加させられる。
また、停止状態維持制御においては、S114において、実張力Fcと制御用目標張力Fref(m)*とが比較され、S117においては、実張力Fcと増引き終了しきい値とが比較されるが、制御用目標張力Fref(m)*は、常に一定の大きさであるとは限らない。そして、制御用目標張力Fref(m)*が変わると、増引き終了しきい値も変わる。しかし、制御用目標張力Fref(m)*は、大きくなることはあっても小さくなることはないため、増引き終了しきい値も大きくなることがあっても小さくならないようにされている。
なお、S1,5,6,7が繰り返し実行されるのであるが、パーキングスイッチ210のリリース指示操作が行われると、S1の判定がYES、S2の判定がNOとなり、S4において、リリース制御が行われる。
パーキングブレーキ18,20の作動時には、ケーブル22,24の張力が、通常、緩み対応目標張力Frefaに至るまで増加させられ、電動モータ10が停止させられる。
その後、停止状態維持制御が行われる。
電動モータ10の停止後、張力は、電動モータ10,ギヤ列40のバックラッシ等により緩められる。その後、ドラム104に加えられるトルクが一定であれば、張力も一定に保たれるが、例えば、サービスブレーキ99が解除されてドラム104にトルクが入力されると、ケーブル22,24の緩みにより張力が低下して、制動トルクが低下する。
しかし、パーキングブレーキの作動時制御において、張力が緩み対応目標張力Frefaに至るまで増加させられるため、ケーブル22,24の緩みによって、直ちに、張力が移動力対応目標張力Frefbより小さくなることはなく、その分、増し引き開始時期を遅らせることができる。
また、停止状態維持制御において、張力センサ90のヒステリシス特性を考慮して実張力値Fcが取得され、実張力値Fcと制御用目標張力Fref(m)*とが比較される。その結果、図18に示すように、ヒステリシス特性を考慮しない場合に比較して、増し引き開始タイミングを早くすることができる。適切なタイミングで増し引きを開始することが可能となり、制動トルクを車両を停止状態に維持し得る適正な大きさに制御することができる。また、増し引き回数が設定回数を超えると、ヒステリシス特性が考慮されることがない。ケーブル22,24の張力が充分に大きくされているため、増し引きを行う必要性は低い。また、ヒステリシス特性が考慮されると、かえって、ハンチングが起きるおそれがある。そこで、増し引き回数が設定回数を越えると、ヒステリシス特性が考慮されないようにしたのである。
さらに、停止状態維持制御中においては、マックスホールドが行われる。破線で表すように暫定目標張力Frefが減少しても二点鎖線で表されるように制御用目標張力Fref(m)*は減少することがないが、目標張力が増加した場合には、制御用目標張力Fref(m)*も増加させられる。そのため、制御用目標張力Fref(m)*が小さくされた場合には、時点Aにおいて、増し引きが行われることはないが、制御用目標張力Fref(m)*が小さくされないため、増し引きが行われることになる。その結果、制動トルクを、車両を停止状態に維持し得る大きさに良好に維持することが可能となる。
また、押付力制御装置のうちのS33〜35、S40〜44を記憶する部分、実行する部分、図14,15のテーブルを記憶する部分等により緩み対応張力制御部が構成される。
さらに、押付力制御装置のうちのS32,S33を記憶する部分、実行する部分等により温度依拠目標値決定部が構成される。そのうちの、S53〜55を記憶する部分、実行する部分等により誤差取得部が構成され、S33を記憶する部分、実行する部分等により誤差対応目標値決定部が構成される。
また、電動パーキングブレーキシステム200のS106〜109を記憶する部分、実行する部分等により暫定目標値決定部が構成され、S110〜112を記憶する部分、実行する部分等により、本目標値決定部が構成される。暫定目標値決定部は、傾斜角度対応目標値決定部でもある。さらに、傾斜角度対応目標値決定部のうち、S106,109を記憶する部分、実行する部分等により異常時決定部が構成される。
Fref′=Fref+ΔHs
その一例を図23のフローチャートで表す。S150において、張力センサ90のセンサ値Foutが読み込まれ、実張力値Fcとされる(Fc←Fout)。また、センサ値Foutからヒステリシス幅ΔHsが取得される。上記実施例における場合と同様に、S106において、前後加速度センサ226が正常であるか否かが判定され、正常である場合には、S107において、移動力対応目標張力Frefbが求められる。
S151において、増し引き回数が設定回数K0を越えたか否かが判定され、設定回数K0以下である場合には、S152において、移動力対応目標張力Frefbにヒステリシス幅ΔHsを加えた値をヒステリシス対応移動力対応目標張力Frefb
Frefb=Frefb+ΔHs
とし、S153において、最大張力Fmaxとヒステリシス対応移動力対応目標張力Frefbとの小さい方が、今回の暫定目標張力Frefとされる。たいていの場合には、ヒステリシス対応移動力対応目標張力Frefbが今回の暫定目標張力Frefとされる。そして、S110〜112において、上記実施例における場合と同様に、前回の制御用目標張力Fref(m)*と今回の暫定目標張力Frefとが比較されて、大きい方が今回の制御用目標張力Fref(m)*とされる。
Fref(m)*=MAX{Fref,Fref(m-1)*}
以下、S113〜119において、上記実施例における場合と同様に、増し引き制御が行われる。この場合には、検出値Foutである張力Fcと制御用目標張力Fref(m)*とが比較されることになる。
また、増し引き回数が設定回数K0を超えると、S151の判定がYESとなり、S152が実行されないため、ヒステリシス特性が考慮されないことになる。
本実施例においても、増し引き制御回数が設定回数を超えた場合には、制御用目標張力にヒステリシス幅が加えられることなく、そのままの値とされる。
本実施例において、電動パーキングブレーキECU200のうちのS150〜153,106〜109,S113〜119を記憶する部分、実行する部分等によりヒステリシス対応制御部が構成される。ヒステリシス対応制御部は第2ヒステリシス対応制御部であり、そのうちの、S150,152,153,106,107,S113〜119を記憶する部分、実行する部分等により第2前期張力制御部が構成され、S150,151,153,106,107,113〜119等により第2後期張力制御部が構成される。
本実施例において、電動パーキングブレーキ機構30全体のヒステリシス幅は、張力センサ90のセンサ値に基づいて決まるようにしても、摩擦材押付力あるいは制動トルクに基づいて決まるようにしてもよい。いずれにしても、電動パーキングブレーキ機構20全体のヒステリシス幅と、張力センサ90のセンサ値、あるいは、制動トルク(摩擦材押付力)との関係は、予め取得して、記憶しておくことが望ましい。アンカ部材106に力センサ(例えば、歪みゲージ)等を設ければ、制動トルク(摩擦材押付力に対応)を取得することが可能となる。ヒステリシス幅は、張力センサ90のセンサ値や制動トルク等の大小に関係なく一定の値とすることもできる。
また、張力センサ90は、半導体の抵抗の変化を利用して変位を検出する相対移動量検出部(磁気抵抗素子センサ部)を含むものとすることができる。
さらに、張力センサ90は、上記実施例においては、半導体の電気的特性の変化に基づいて変位を検出し、変位とスプリングのばね定数とを掛けた値を張力として取得するものであったが、歪みに基づいて張力を取得するものとすることができる。その場合には、検出値が温度の影響を受けることがあり、張力センサの温度特性を考慮して、張力の制御が行われるようにすることもできる。
また、上記実施例において、前後加速度センサ226が静電容量型のものとされたが、歪みゲージ型のものとすることができる。その場合においても、誤差の絶対値を考慮する必要がある場合もある。
さらに、上記実施例においては、前後加速度センサ226の温度特性が、温度と誤差の絶対値との関係で表される特性であったが、温度と0点シフト量との関係で表される特性とすることもできる。前後加速度センサ各々において、温度と0点シフト量との関係を取得できれば、0点シフト量とセンサ値Goutとに基づいて真の前後加速度G(温度を考慮した前後加速度の一態様である)を取得することができる。
また、停止状態維持制御において、緩め制御も行われるようにすることができるのであり、目標値追従制御が行われるようにすることもできる。
さらに、パーキングブレーキ18,20の作動時に、緩み補填量ΔFrefcを加えることは不可欠ではない。また、緩み補填量ΔFrefcを、シフト位置と傾斜角度との両方に基づいて決めることは不可欠ではない。シフト位置と傾斜角度とのいずれか一方に基づいて決まる値としたり、移動力対応目標張力Frefbに基づいて決まる値としたり、入力トルクの大きさに基づいて決まる値としたりすること等ができる。
さらに、上記各実施例においては、パーキングブレーキ18,20の作動時の目標張力が、移動力対応目標張力Frefbと緩み補填量ΔFrefcとの和(緩み対応目標張力)とされたが、緩み対応目標張力Frefaにさらに、バックラッシに起因する緩みに応じた初期緩み補填量を加えた値とすることもできる。
また、車両が登坂に停止している場合と降坂に停止している場合とで、移動力対応目標張力Frefbを異ならせることは不可欠ではない。登坂に停止している場合も降坂に停止している場合も、傾斜角度の絶対値が同じ場合に、移動力対応目標張力Frefbが同じ大きさとなるようにすることもできる。
さらに、パーキングブレーキは、ディスクブレーキとすることができる。
また、電動パーキングブレーキ機構の構造は、上記実施例におけるそれに限らない。例えば、運動変換機構は、電動モータ10の出力軸に設けられたギヤに、ケーブル22,24を直接巻き付けた構造を成したものとすることもできる。ケーブル22,24は、ギヤの接線方向に延び、電動モータ10の回転により直線的に移動させられる(引っ張られたり、緩められたりする)ことになる。また、ドラムブレーキは、ユニサーボ型のものとすることもできる。さらに、運動変換機構は、ウォームとウォームホイールとを含むものとすることができる。この場合には、クラッチは不要となる。また、電動モータ10は超音波モータとすることもでき、その場合には、クラッチは不可欠ではない。
本発明は、上述に記載の態様の他、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
Claims (2)
- (a)車両の車輪と共に回転し、内周面を摩擦面とするドラムと、非回転体であるバッキングプレートに相対移動可能に取り付けられ、外周面に摩擦材を有するシューと、そのシューを、前記摩擦面に押し付けてドラムの回転を抑制する押付機構とを含むドラムブレーキと、(b)電動モータと、(c)その電動モータの回転軸の回転を出力部材の直線移動に変換する運動変換装置と、(d)一端部において前記運動変換装置の出力部材に連結され、他端部において前記押付機構に連結されたケーブルと、(e)前記電動モータに電流が供給されない状態で、前記電動ドラムブレーキにおける前記摩擦材の前記摩擦面への押付力である摩擦材押付力を保持する保持機構とを備えた電動パーキングブレーキ機構と、
前記電動モータの制御により、前記ケーブルの張力を制御することにより、前記ドラムブレーキにおける摩擦材押付力を制御する張力制御装置と
を含む電動パーキングブレーキシステムにおいて、
前記張力制御装置が、前記ケーブルの張力を、登り勾配の路面において車両を停止状態に保つ場合と降り勾配の路面において停止状態に保つ場合とで、前記路面の傾斜角度の絶対値が同じで、かつ、前記車両に駆動力が加えられていなくても、異なる大きさに制御する勾配対応張力制御部を含むことを特徴とする電動パーキングブレーキシステム。 - 前記勾配対応張力制御部が、前記車両を降り勾配の路面において停止状態に保つ場合に、登り勾配の路面において停止状態に保つ場合より、前記張力の目標値を大きな値として決定する勾配対応目標値決定部を含む請求項1に記載の電動パーキングブレーキシステム。
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