JP2008050686A - 強度と磁気特性に優れた無方向性電磁鋼板とその製造方法 - Google Patents

強度と磁気特性に優れた無方向性電磁鋼板とその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】電気自動車用のモータ鉄心材料として、ロータとステータを同一の鋼板から打ち抜いて積層し、更にステータのみを歪取焼鈍するモータコアの工法に使用される高強度かつ低鉄損の無方向性電磁鋼板を低コストで提供する。
【解決手段】無方向性電磁鋼板を、質量%でC:0.0050%以下、Si:2.0%以上4.0%以下、Mn:0.05%以上2.0%以下、Al:0.001%以上3.0%以下、Ti:0.0030%以下、S:0.0030%以下、N:0.0030%以下、V:0.0050%以下、Nb:0.0050%以下、Zr:0.0050%以下、As:0.0050%以下、Ni:0.5%以上3.0%以下、Sn:0.01%以上0.20%以下で残部Fe及び不可避不純物からなり、歪取焼鈍前における鋼板の降伏強度が600MPa以上、歪取焼鈍後の鉄損W10/400が20W/kg以下であるものとする。
【選択図】なし

Description

本発明は電気自動車用モータの鉄心材料として使用される高強度かつ低鉄損の無方向性電磁鋼板に関するものである。
近年、世界的な電気機器の省エネルギー化の高まりにより、回転機の鉄心材料として用いられる無方向性電磁鋼板に対しても、より高性能な特性が要求されてきている。
特に最近では電気自動車用モータ等において小型高出力モータのニーズが強く、モータ回転数を高速化することで、モータトルクを稼ぐ設計がなされるようになってきた。これまで高速回転モータと言えば工作機械や掃除機用に代表されたが、電気自動車用モータはそれらの従来モータよりも外形が大きく、さらにDCブラシレスモータと呼ばれるロータ外周近傍に磁石を埋め込んだ構造のために、ロータ外周部のブリッジ部(ロータ最外周〜磁石間の鋼板幅)が場所によっては1〜2mmと非常に狭いため、従来の無方向性電磁鋼板よりも高強度の鋼板が要求されるようになってきた。
一般に鋼の強度は元素を添加することで高くなり、無方向性電磁鋼板においては、鉄損低減のために添加されるSiやAl等によって副次的にこの効果を享受している。また、鋼板の結晶粒径を細かくすることで高強度が得られることも一般的に知られている。
これらの技術を利用するものとして、例えば、特許文献1では、SiにMnやNiの元素を加えて固溶体強化を図って高強度化する方法が提案されている。この方法は、鉄と原子サイズの異なる置換型元素を固溶させることで鉄格子を歪ませて変形抵抗を大きくするもので、強度は増加するものの、同時に靭性が低下して打抜き加工性や生産性、歩留まりを悪化させるという問題があった。また、特許文献2や3では、Nb,Zr,Ti,Vの炭窒化物を鋼中に分散させ、結晶粒成長を抑止することで高強度を図る方法が提案されている。これらの手法によって鋼板の強度は高まるものの、結晶粒径を微細化させたり、析出物を分散させるため、鉄損はあまり芳しいものではなかった。そのためこれらの手法の適用は強度が必要なロータに限られ、低鉄損を必要とするステータには別の鋼板を使わざるを得なかった。
また、鋼板をT字形状の小分割で打ち抜いて積層し、巻線後に継ぎ合わせて円弧状のステータコアを形成する、いわゆる分割コア工法では、ステータ打抜きの鋼板歩留まりが高く、ロータは別の材料として高強度材を採用することができる。ところがロータとステータを一体丸抜きする一般的なモータ工法では、鋼板歩留まりの観点からステータとロータは同じ材料にせざるを得ず、たとえロータに高強度が必要であったとしても、ステータに要求される低鉄損を犠牲にできなければ、強度をあまり必要としないようなロータ設計を余儀なくされるという問題があった。
特開昭62−256917号公報 特開平06−330255号公報 特開平10−18005号公報
本発明は、ロータに必要とされる高強度とステータに要求される低鉄損を一枚の電磁鋼板で両立できるようにすることにより、ロータとステータを一体丸抜きする一般的なモータコアの工法に使用でき、特に、電気自動車用のモータ鉄心材料として適用できる高強度かつ低鉄損の無方向性電磁鋼板を低コストで提供しようとするものである。
本発明は、上記課題を解決するため、以下を要旨とするものである。
(1)ロータとステータを同一の鋼板から打ち抜いて積層し、更にステータのみを歪取焼鈍するモータコアの工法に使用される板厚が0.15mm以上0.35mm以下の無方向性電磁鋼板であって、該鋼板が、質量%で、C:0.0050%以下、Si:2.0%以上4.0%以下、Mn:0.05%以上2.0%以下、Al:3.0%以下、Ti:0.0030%以下、S:0.0030%以下、N:0.0030%以下、V:0.0050%以下、Nb:0.0050%以下、Zr:0.0050%以下、As:0.0050%以下を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなり、歪取焼鈍前における鋼板の降伏強度が600MPa以上、歪取焼鈍後の鉄損W10/400が20W/kg以下、板厚が0.15mm以上0.35mm以下であることを特徴とする無方向性電磁鋼板。
(2)質量%でNi:3.0%以下をさらに含有することを特徴とする(1)に記載の無方向性電磁鋼板。
(3)質量%でSi−Mn+2Al−Ni≦2.0を満たすことを特徴とする(1)または(2)に記載の無方向性電磁鋼板。
(4)質量%で、C、Ti、Sがそれぞれ0.0015%以下、Alが0.2%以上であり、かつ、歪取焼鈍後の平均結晶粒径が60μm以上であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の無方向性電磁鋼板。
(5)質量%で、C、Ti、Sがそれぞれ0.0015%以下、Alが0.2%以上であり、かつ、Ti、S、V、Nb、Zrの総和が0.0050%以下で、歪取焼鈍後の平均結晶粒径が80μm以上であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の無方向性電磁鋼板。
(6)(1)〜(5)のいずれかに記載の無方向性電磁鋼板を製鋼、熱延、熱延板焼鈍、酸洗、冷延、仕上焼鈍、スキンパス圧延からなる工程で製造するに際し、スキンパス圧下率を3%以上10%未満とすることを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
(7)前記スキンパス圧延前の平均結晶粒径を50μm以下とすることを特徴とする(6)に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
(8)(4)または(5)に記載の無方向性電磁鋼板を製鋼、熱延、熱延板焼鈍、酸洗、冷延、仕上焼鈍、スキンパス圧延からなる工程で製造するに際し、スキンパス圧下率を10%以上30%以下とすることを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
本発明は、鋼板歩留まりや生産性を犠牲にすることなく、電気自動車用モータの鉄心材料として適する強度と磁性に優れた無方向性電磁鋼板を、低コストで提供することができる。
本発明者らは、ロータに必要とされる高強度とステータに要求される低鉄損を両立する方法について鋭意研究を進めてきた。その結果、ロータに要求される高強度を有する無方向性電磁鋼板を製造し、モータコアに打ち抜き加工した後、ステータコアのみに歪取焼鈍を施し、歪取焼鈍時の歪開放と結晶粒成長によってステータを低鉄損化する方法を起案するに至った。
ステータコアの歪取焼鈍そのものはエアコンや冷蔵庫用のコンプレッサーモータなどで従来から実施されている。しかし電気自動車用モータのステータコアに用いられるようなハイグレード材における歪取焼鈍では、打ち抜き加工によって端面およびその近傍に発生した歪を除去するに過ぎず、これまでのロータ用の高強度無方向性電磁鋼板を、歪取焼鈍のみによってステータコア用の低鉄損鋼板に転用することは不可能であった。
そこでさらに研究を進めた結果、本発明者らは、鋼に含まれる特定の不純物元素を極めて低いレベルまで低減することで歪取焼鈍時の結晶粒成長が促進され、ステータに要求される低鉄損が得られることを知見した。また、仕上焼鈍後に、さらにスキンパス圧延を施すことによって歪取焼鈍前の強度をより高められると同時に、歪取焼鈍時にはスキンパスの歪によって結晶粒成長が一層促進され、より低鉄損が得られることも知見した。そして、これらにより本発明を完成させた。
以上の知見に基づきなされた本発明につき、以下で順次説明する。
まず、本発明の無方向性電磁鋼板の成分組成や物性値の限定理由について説明する。なお、元素の含有量の%は質量%を意味する。
Cは磁気時効を起こして鉄損を悪化させるため0.0050%以下に規定した。また、炭化物を形成して結晶粒成長を抑制するため、特に、3〜10%のスキンパス圧延を施さずに歪取焼鈍で60μm以上の粗大粒を得る場合には、0.0015%以下とする必要がある。
Siは固有抵抗を上げるのに有効であると同時に、固溶体強化として有効な元素であるが、過度に添加すると冷延性を著しく悪くするため4.0%を上限とした。また固有抵抗と固溶体強化の観点から下限を2.0%とした。
MnはSi同様に固有抵抗と強度を上げるのに有効な元素であるが、添加量が2.0%を超えると製鋼での操業性が悪化するため、2.0%を上限とした。また硫化物生成の観点から下限を0.05%とした。
AlはSi同様に固有抵抗を増加させるのに有効な元素であるが、添加量が3.0%を超えると鋳造性を悪化させるため、生産性を考慮して3.0%を上限とした。下限については特に定めるものではないが、脱酸の安定化(鋳造中のノズル詰まり防止)の観点から、Al脱酸の場合は0.02%以上、Si脱酸の場合は0.01%未満が好ましい。ただし、スキンパス圧延を施さずに歪取焼鈍で60μm以上の平均結晶粒径を得る場合には、Alを0.2%以上含有させ、AlNを粗大化させてNを無害化する。
本発明では、さらに、鋼の製造過程で含有されるTi、S、N、V、Nb、Zr、Asについてそれぞれ、以下のように含有量を制限する。
Tiは微細な窒化物あるいは炭化物を生成して、歪取焼鈍における結晶粒成長を著しく悪化させるため、0.0030%以下に規定した。さらに、3〜10%のスキンパス圧延を施さずに歪取焼鈍で60μm以上の平均結晶粒径を得る場合には0.0015%以下とする。
Sは硫化物を生成して、歪取焼鈍における結晶粒成長を悪化させるため、0.0030%以下に規定した。さらに、3〜10%のスキンパス圧延を施さずに歪取焼鈍で60μm以上の平均結晶粒径を得る場合には0.0015%以下とする。
Nは窒化物を生成して、歪取焼鈍における結晶粒成長を悪化させるため、0.0030%以下に規定した。さらに、3〜10%のスキンパス圧延を施さずに歪取焼鈍で60μm以上の平均結晶粒径を得る場合は、Alを0.2%以上含有させることによってNを無害化する必要がある。
V、Nb、Zrは微細な窒化物あるいは炭化物を生成して、歪取焼鈍における結晶粒成長を著しく悪化させるため、それぞれ0.0050%以下に規定した。さらに、3〜10%のスキンパス圧延を施さずに歪取焼鈍で80μm以上の平均結晶粒径を得る場合は、Ti+S+V+Nb+Zrの総和として0.0050%以下とする。
Asは一般的には析出物を生成せず、鋼板に固溶している元素であるが、歪取焼鈍時にTi炭化物と一緒に析出して歪取焼鈍による鉄損の改善代を目減りさせてしまうことから、0.0050%以下に規定した。
Niは鋼板をあまり脆化させずに高強度化できる有効な元素である。ただし高価であることから必要強度に応じて添加することとする。添加する場合、その効果が十分得られる添加量としては0.5%以上が好ましい。上限はコストを考慮して3.0%とした。
Si、Mn、Al、Niの含有量の関係については、歪取焼鈍前の結晶粒を微細化する上で重要である。SiやAlを多く含む一般的なハイグレード鋼板にはγ→α相の変態がない、いわゆるα単相鋼であるため、鋳造時の柱状組織が仕上焼鈍後にも残存する。この残存組織の中には非常に再結晶しにくい方位粒が存在し、結晶粒の細粒化を妨げてしまう。鋼板を冷却過程で変態させることでこの問題はなくなることが判ったため、変態が起こる組成にするための指標としてSi−Mn+2Al−Ni≦2.0と規定した。
なお、本発明の無方向性電磁鋼板は、以上の元素のほかに、特定の効果を得るために他の元素を添加することもできる。
例えば、Snを添加することにより集合組織の改善効果および焼鈍時の窒化や酸化防止効果が得られることが知られており、これらの目的のためにSnを0.01〜0.15%程度添加してもよい。
本発明では、以上のような成分組成の無方向性電磁鋼板とすることで、歪取焼鈍前の高強度の鋼板と歪取焼鈍後の低鉄損の鋼板が同時に得られるので、同一の鋼板でロータ用の高強度とステータ用の低鉄損を両立させることができる。そのため、適用するモータコアの工法として、同一の鋼板からのロータとステータを打抜き、かつステータのみ歪取焼鈍する工法とした。
歪取焼鈍前の鋼板強度については、ロータに要求される降伏強度として600MPa以上に規定した。ここで規定した降伏強度とは、圧延方向に引張試験した場合の上降伏点を指し示すものとする。試験片形状および試験条件についてはJISに準拠したものとする。
歪取焼鈍後の鉄損については、電気自動車用モータが高速回転ゆえに高い電源周波数で制御されているため、W10/400(400Hzで磁束密度1.0Tまで励磁した時の鉄損)を用いた。このW10/400が20W/kgを超えるとステータコアの鉄損によって生じる発熱が大きくなってしまうため、20W/kg以下と規定した。なお鉄損の測定方法はJISに準拠したエプスタインにて測定するものとする。
歪取焼鈍後の結晶粒径については、ステータに要求される低い鉄損を得るためには60μm以上が好ましく、より好ましくは80μm以上である。
製品板厚については、渦電流損が板厚の二乗に比例すること、高周波では渦電流損の割合が大きくなる点を鑑み、板厚0.35mm以下に規定した。なお0.15mm未満ではモータコアの製造が困難になるため、下限を0.15mm以上とした。
次に、本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法について説明する。
本発明は、前述のようにC、Ti、S、V、Nb、Zr、V、Asを低減することによって、歪取焼鈍時の結晶粒成長が促進され、ステータに要求される低鉄損が得られるが、さらに仕上焼鈍後にスキンパス圧延を施すことによってロータとしての強度をより高められると同時に、歪取焼鈍時にはスキンパスの歪によって結晶粒成長が一層促進され、より低鉄損のステータを得ることができる。
スキンパス圧延を行う場合の圧下率については強度付与の観点から3%以上必要である。また、圧下率が10%以上になると、その後の歪取焼鈍時に再結晶し、むしろ鉄損を悪化させることがあるから上限を10%未満とした。
スキンパス圧延前の平均結晶粒径は、それが50μmを超えると、歪取焼鈍による結晶粒成長で粗大粒が得られにくくなるため50μm以下に規定した。
スキンパス圧延でさらに強度を付与したい場合は、その圧下率をさらに高める必要があるが、前述のように圧下率を高めると歪取焼鈍時に再結晶するために細粒化してしまう。しかし、C、Ti、S、V、Nb、Zr、Vの不純物元素を極力低減した高純度な鋼板であれば、結晶粒成長に優れるため、スキンパス圧延の圧下率を30%以下の範囲で高めても細粒化が起こらないようにできる。このため、Alを0.2%以上含有させてNを無害化するとともに、C、Ti、Sをいずれも0.0015%以下とするか、あるいは、さらにTi、S、V、Nb、Zrの総和を0.0050%以下とすることにより、圧下率を10%以上30%以下としても、それぞれ60μm以上あるいは80μm以上の結晶粒径が得られ、低鉄損化が可能となる。
本発明の無方向性電磁鋼板は、製鋼、熱延、熱延板焼鈍、酸洗、冷延、仕上焼鈍、及び必要に応じて行われるスキンパス圧延からなる工程で製造されるものであり、前述のスキンパス圧延以外の工程については特に規定するものではないが、各工程において次のような条件が採用できる。
熱延のスラブ加熱温度については1000〜1200℃、仕上温度は800〜1000℃の標準的な条件でよい。ただし巻取り温度については熱延板の靭性の点から600℃以下が好ましく、更に好ましくは550℃以下である。
極力熱延板の厚みについては薄い方が酸洗通板や冷延通板時の割れや破断防止に有利であるため、熱延板の靭性と生産効率等を勘案して適宜調整できるものとする。
熱延板焼鈍については磁性の観点からは900℃以上1100℃以下で30秒以上行ない、冷延前の結晶粒径を50〜300μm程度まで粒成長させることが好ましい。ただし熱延板の延性が低下するため、成分と生産性を考慮した上で条件を決定すればよい。
特に歪取焼鈍後の平均結晶粒径として60μmないし80μm以上を得るためには上述の不純物元素を極力低減することに加え、生成する析出物を極力粗大化することが好ましく、そのためにはスラブ加熱温度は1050〜1150℃、熱延板焼鈍は950〜1050℃程度とすることが好ましい。
冷延後の仕上焼鈍については結晶粒径を通じて強度を制御できることから、所要の強度に応じて焼鈍温度および時間を調整できるものとする。特に600MPa以上の降伏強度を得る場合、スキンパス前の平均結晶粒径として50μm以下を得る場合には、仕上焼鈍時に結晶粒径が粗大化しないように700〜800℃で10〜30秒程度の低温短時間で焼鈍することが好ましい。
打ち抜き加工後にステータのみに実施する歪取焼鈍については、打ち抜き歪を開放するために700℃から800℃の温度範囲で30分以上の焼鈍を施すのが好ましい。特にスキンパス圧延によって歪を付与した場合は特に高温かつ長時間で焼鈍することが好ましい。なおロータについては例えば打ち抜き油を除去したり、酸化皮膜を付与したりするために700℃未満の低温で焼鈍することは差し支えない。このような低温の焼鈍では結晶粒が成長したり、スキンパス圧延で付与した歪が開放したりするという問題がないからである。このような歪取焼鈍を適切に行なうことで、歪取焼鈍後のW10/400が20W/kg以下の良好な鉄損を得ることができる。
適用するモータコアの工法については、本発明の無方向性電磁鋼板がロータ用の高強度とステータ用の低鉄損が両立できることから、同一の鋼板からの打抜き、かつステータのみ歪取焼鈍する工法としたが、分割モータコアの工法におけるロータ用鋼板として適用することも可能である。特に、スキンパス圧延によって得られる強度の向上は、分割モータコア工法におけるロータ用鋼板としても非常に価値の高いものである。
また、一般にロータにはシャフトを通すための内円が打ち抜かれるが、この内円を打ち抜いた後の残材で小型モータを製造すれば鋼板歩留まりを著しく向上させることができる。分割モータコア工法では鉄損をある程度犠牲にした高強度材がロータに使用されるため、ロータを打抜いた後の残材は転用できるのもまたロータに限られており、そのため、打抜き残材を転用した小型モータも分割コアにならざるを得なかった。ところが、本発明では、高強度材でも歪取焼鈍を施すことによって低鉄損が実現できるようになったから、ロータの残材でもステータへの転用、すなわち、残材からもロータとステータを一体打抜きするモータコア工法の適用が可能となった。
以下、実施例を用いて、本発明の実施可能性及び効果についてさらに説明する。
なお、実施例に用いた条件はその確認のための一条件例であり、本発明は、この例に限定されるものではなく、本発明を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて種々の条件を採用し得るものである。
実験室の真空溶解炉にて、表1に示す成分の鋼片を作製し、1100℃で60分の加熱を施した後、直ちに熱延して板厚2.0mmとし、900℃で1分の熱延板焼鈍後に酸洗を施した。そして冷延にて板厚0.15〜0.35mmとし、725℃で30秒間の仕上焼鈍を施した。こうして得られた試料から引張試験片と磁気測定用試片を作製し、そのうち磁気測定用は750℃で2時間の歪取焼鈍を施した。表1に結果を示すが、本発明の条件を満たす試料2〜6,8,9,11,12,14,15,17,18,20,21,23,24において、歪取焼鈍前の降伏強度が600MPa以上でかつ、歪取焼鈍後の鉄損が20W/kg以下の良好な特性が得られた。なお本発明の条件を満たさない試料1では降伏強度600MPa未満、試料7,10,13,16,19,22,25では歪取焼鈍後の鉄損が20W/kg超で基準を満たさなかった。
Figure 2008050686
実験室の真空溶解炉にて、質量%でC:0.0023%、Si:2.9%、Mn:0.18%、Al:0.56%、Ti:0.0015%、S:0.0013%、N:0.0018%、V:0.0034%、Nb:0.0024%、Zr:0.0026%、As:0.0046%、Ni:0.01〜2.79%を含有した鋼片を作製した。これらの鋼片を1120度で60分加熱し、直ちに熱延して板厚1.8mmとした。そして酸洗後に冷延で板厚0.35mmとし、800℃で30秒間の仕上焼鈍を施した。こうして得られた試料から引張試験片と磁気測定用試片を作製し、そのうち磁気測定用は775℃で1時間の歪取焼鈍を施した。表2に示す通り、全ての試料で歪取焼鈍前の降伏強度600MPa以上、歪取焼鈍後の鉄損20W/kg以下と良好であったが、特にNiを0.5%以上添加した試料4〜10においては非常に高い降伏応力が得られた。
Figure 2008050686
実験室の真空溶解炉にて、質量%でC:0.0014%、Si:2.5〜3.0%、Mn:0.1〜1.2%、Al:0.03〜1.3%、Ti:0.0021%、S:0.0013%、N:0.0017%、V:0.0034%、Nb:0.0037%、Zr:0.0032%、As:0.0023%、Ni:0.24〜1.06%を含有した鋼片を作製した。これらの鋼片を1150℃で90分加熱し、直ちに熱延して板厚2.3mmとした。そして1000℃で60秒の熱延板焼鈍し、酸洗後に板厚0.30mmまで冷延し、725℃で30秒間の仕上焼鈍を施した。こうして得られた試料から引張試験片と磁気測定用試片を作製し、そのうち磁気測定用は750℃で2時間の歪取焼鈍を施した。表3に示す通り、すべての試料で歪取焼鈍前の降伏強度600MPa以上、歪取焼鈍後の鉄損20W/kg以下と良好であったが、特に質量%でSi−Mn+2Al−Niが2.0以下の試料3,6,7においては非常に高い降伏強度が得られた。
Figure 2008050686
実験室の真空溶解炉にて、質量%でC:0.0007〜0.0018%、Si:3.51%、Mn:0.08%、Al:0.25%、Ti:0.0003〜0.0024%、S:0.0005〜0.0021%、N:0.0018%、V:0.0002〜0.0024%、Nb:0.0008〜0.0022%、Zr:0.0010〜0.0021%、As:0.0035%を含有した鋼片を作製した。これらの鋼片を1130℃で120分加熱し、直ちに熱延して板厚1.8mmとした。そして900℃で60秒の熱延板焼鈍後に酸洗し、冷延にて板厚0.35mmとし、715℃で30秒間の仕上焼鈍を施した。こうして得られた試料から引張試験片と磁気測定用試片を作製し、そのうち磁気測定用は750℃で2時間の歪取焼鈍を施した。表4に示す通り、何れの試料も歪取焼鈍前の降伏強度600MPa以上、歪取焼鈍後の鉄損20W/kg以下で良好であったが、特に試料3〜6,8,9,11では歪取焼鈍後の平均結晶粒径が60μm以上、試料1,2,7,12では歪取焼鈍後の平均結晶粒径が80μm以上であり、極めて良好な鉄損が得られた。
Figure 2008050686
実験室の真空溶解炉にて、質量%でC:0.0040%、Si:2.1%、Mn:0.2%、Al:2.4%、Ti:0.0021%、S:0.0013%、N:0.0026%、V:0.0047%、Nb:0.0045%、Zr:0.0042%、As:0.0049%を含有した鋼片を作製した。これらの鋼片に対し、1100℃で90分加熱し、直ちに熱延して板厚2.3mmとした。そして1000℃で60秒の熱延板焼鈍後に酸洗し、板厚0.35mmまで冷延し、900℃で30秒間の仕上焼鈍を施した後、一部の試料について3〜15%のスキンパス圧延をした。こうして得られた試料から引張試験片と磁気測定用試片を作製し、そのうち磁気測定用は750℃で2時間の歪取焼鈍を施した。表5に示す通り、何れの試料も歪取焼鈍前の降伏強度600MPa以上、歪取焼鈍後の鉄損20W/kg以下で良好であったが、スキンパス圧下率が高くなるにつれて歪取焼鈍前の降伏強度は高くなった。またスキンパス圧下率3〜9%の試料2〜4では歪取焼鈍後の鉄損W10/400が極めて低かった。
Figure 2008050686
実験室の真空溶解炉にて、質量%でC:0.0032%、Si:2.7%、Mn:0.15%、Al:1.4%、Ti:0.0025%、S:0.0016%、N:0.0029%、V:0.0043%、Nb:0.0041%、Zr:0.0049%、As:0.0043を含有した鋼片を作製した。これらの鋼片を1100度で90分加熱し、直ちに熱延して板厚2.3mmとした。そして1000℃で60秒の熱延板焼鈍後に酸洗し、板厚0.35mmまで冷延し、700〜900℃で30秒間の仕上焼鈍を施した後、3〜9%のスキンパス圧延をした。こうして得られた試料から引張試験片と磁気測定用試片を作製し、そのうち磁気測定用は790℃で30分の歪取焼鈍を施した。表6に示す通り、何れの試料も歪取焼鈍前の降伏強度600MPa以上、歪取焼鈍後の鉄損20W/kg以下で良好であったが、スキンパス前の平均結晶粒径が50μm未満の試料1〜4では歪取焼鈍後の鉄損が極めて低くなった。特に試料4ではスキンパス前の平均粒径が小さく、かつスキンパス圧下率が高いため、歪取焼鈍前の降伏強度、歪取焼鈍後の鉄損ともに最良であった。
Figure 2008050686
実験室の真空溶解炉にて、質量%でC:0.0010%、Si:3.51%、Mn:0.08%、Al:0.25%、Ti:0.0003%、S:0.0005%、N:0.0018%、V:0.0002〜0.0024%、Nb:0.0008〜0.0022%、Zr:0.0010〜0.0021%、As:0.0035%を含有した鋼片を作製した。これらの鋼片を実施例4と同様に熱延し、熱延板焼鈍し、冷延して仕上焼鈍を施した後、圧下率30%のスキンパス圧延を施した。こうして得られた試料から引張試験片と磁気測定用試片を作製し、そのうち磁気測定用は780℃で1時間の歪取焼鈍を施した。表7に示す通り、すべての試料で極めて高い降伏強度が得られたが、特に試料1,2,7,12では歪取焼鈍後の平均結晶粒径が80μm以上であり、鉄損が極めて良好であった。
Figure 2008050686

Claims (8)

  1. ロータとステータを同一の鋼板から打ち抜いて積層し、更にステータのみを歪取焼鈍するモータコアの工法に使用される板厚が0.15mm以上0.35mm以下の無方向性電磁鋼板であって、該鋼板が、質量%で、C:0.0050%以下、Si:2.0%以上4.0%以下、Mn:0.05%以上2.0%以下、Al:3.0%以下、Ti:0.0030%以下、S:0.0030%以下、N:0.0030%以下、V:0.0050%以下、Nb:0.0050%以下、Zr:0.0050%以下、As:0.0050%以下を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなり、歪取焼鈍前における鋼板の降伏強度が600MPa以上、歪取焼鈍後の鉄損W10/400が20W/kg以下であることを特徴とする無方向性電磁鋼板。
  2. 質量%でNi:3.0%以下をさらに含有することを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
  3. 質量%でSi−Mn+2Al−Ni≦2.0を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載の無方向性電磁鋼板。
  4. 質量%で、C、Ti、Sがそれぞれ0.0015%以下、Alが0.2%以上であり、かつ、歪取焼鈍後の平均結晶粒径が60μm以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の無方向性電磁鋼板。
  5. 質量%で、C、Ti、Sがそれぞれ0.0015%以下、Alが0.2%以上であり、かつ、Ti、S、V、Nb、Zrの総和が0.0050%以下で、歪取焼鈍後の平均結晶粒径が80μm以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の無方向性電磁鋼板。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載の無方向性電磁鋼板を製鋼、熱延、熱延板焼鈍、酸洗、冷延、仕上焼鈍、スキンパス圧延からなる工程で製造するに際し、スキンパス圧下率を3%以上10%未満とすることを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
  7. 前記スキンパス圧延前の平均結晶粒径を50μm以下にすることを特徴とする請求項6に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
  8. 請求項4または5に記載の無方向性電磁鋼板を製鋼、熱延、熱延板焼鈍、酸洗、冷延、仕上焼鈍、スキンパス圧延からなる工程で製造するに際し、スキンパス圧下率を10%以上30%以下とすることを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
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