JP2008046001A - センサ用電極体、それを用いたセンサ及びセンシングシステム、並びにセンサ用電極体の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】保護配位子を有するプルシアンブルー型金属錯体超微粒子を含有させた分散液により形成した物質吸着薄膜層を、導電性構造体に設けたセンサ用電極体であって、前記導電性構造体に電圧を印加して前記電極体を電気的に制御し、前記物質吸着薄膜層の表面に目的物質が吸着したときの選択的な電気特性変化を測定することにより、その目的物質を検知しうるセンサ用電極体。
【選択図】図1
Description
医療業界では、グルコースセンサ等の一部として過酸化水素センサが必要とされている。グルコースはグルコース酸化酵素により酸化されるとき、副生成物として過酸化水素を発生する。この過酸化水素を検知することによりグルコースの有無を検知することができる。したがって、過酸化水素のセンシング精度を向上させれば、グルコースの検知精度も向上する。
そのほかにも、プルシアンブルーを用いた過酸化水素センサの利点として、アスコルビン酸には反応しないという分子選択性が挙げられる。医療目的や、食品用途に用いる場合、アスコルビン酸が同時に存在している場合が多く、過酸化水素のみを検知できるセンサが必要であり、プルシアンブルー型錯体はこの点においても有望視されている。
(2)前記目的物質が分子であることを特徴とする(1)記載のセンサ用電極体。
(3)前記目的物質が過酸化水素であることを特徴とする(1)又は(2)記載のセンサ用電極体。
(4)前記物質吸着薄膜層に電気化学特性制御剤を含有させたことを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載のセンサ用電極体。
(5)前記物質吸着薄膜層が、前記分散液により形成した薄膜層と、電気化学特性制御剤を含有させた薄膜層とを少なくとも有する多層薄膜層であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載のセンサ用電極体。
(6)前記超微粒子が、下記金属原子M1と金属原子M2とを有するプルシアンブルー型金属錯体結晶に、ピリジル基もしくはアミノ基を含有する化合物を保護配位子として1種または2種以上配位させた、平均粒子径200nm以下の超微粒子であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項に記載のセンサ用電極体。
[金属原子M1:バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金、ロジウム、オスミウム、イリジウム、パラジウム、および銅から選ばれる少なくとも1つの金属原子。]
[金属原子M2:バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、およびカルシウムから選ばれる少なくとも1つの金属原子。]
(7)前記保護配位子とする化合物の炭素原子数が4以上100以下であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれか1項に記載のセンサ用電極体。
(8)前記保護配位子とする化合物が下記一般式(1)〜(3)のいずれかで表されることを特徴とする(1〜7のいずれか1項に記載のセンサ用電極体。
(9)前記置換基R1〜R4がアルケニル基であることを特徴とする(8)記載のセンサ用電極体。
(10)前記物質吸着薄膜層中に、前記保護配位子化合物を質量比でプルシアンブルー型金属錯体の10倍以下の範囲で含有させ、アルカリ耐性を高めたことを特徴とする(1)〜(9)のいずれか1項に記載のセンサ用電極体。
(11)前記物質吸着薄膜層が、前記分散液を、スピンコート製膜法、ラングミュアブロジェット製膜法、スプレー製膜法、レイヤーバイレイヤー製膜法、及び印刷法のいずれかにより塗布製膜した、高表面積吸着面を有する液体製膜層であることを特徴とする(1)〜(10)のいずれか1項に記載のセンサ用電極体。
(12)前記分散液が撹拌抽出法により調製したプルシアンブルー型金属錯体超微粒子の分散液であることを特徴とする(1)〜(11)のいずれか1項に記載のセンサ用電極体。
(13)前記物質吸着薄膜層の製膜時及び/またはその後、加熱処理及び/又は洗浄処理を施し、前記保護配位子を除去したことを特徴とする(1)〜(12)のいずれか1項に記載のセンサ用電極体。
(14)(1)〜(13)のいずれか1項に記載のセンサ用電極体を備えたセンサ。
(15)(14)に記載のセンサであって、食物中の微量の過酸化水素を検知することを特徴とする食品検査用センサ。
(16)(14)に記載のセンサであって、生体物質を検知することを特徴とするバイオセンサ。
(17)(1)〜(13)のいずれか1項に記載のセンサ用電極体、対極電極、及び参照電極を組み合わせて、液相で目的物質を検知することを特徴とするセンシングシステム。
(18)(1)〜(13)のいずれか1項に記載の電極体を製造するに当り、撹拌抽出法もしくは逆ミセル法により保護配位子を有するプルシアンブルー型金属錯体の超微粒子を分散させた分散液を調製し、導電性構造体の片側に前記分散液により物質吸着薄膜層を形成することを特徴とするセンサ用電極体の製造方法。
(19)前記保護配位子をアミノ基もしくはピリジル基を含有する化合物とし、スピンコート製膜法、ラングミュアブロジェット製膜法、レイヤーバイレイヤーディップ製膜法、及び印刷法から選ばれる製膜法により前記分散液を塗布して物質吸着薄膜層を形成することを特徴とする(18)記載のセンサ用電極体の製造方法。
(20)前記物質吸着薄膜層の製膜時及び/又はその後、洗浄処理及び/又は加熱処理を施して前記保護配位子を除去することを特徴とする(18)又は(19)記載のセンサ用電極体の製造方法。
本発明のセンサ用電極体は、保護配位子を有するプルシアンブルー型金属錯体超微粒子を含有する分散液により薄膜を形成したため、加工時間や工数が著しく低減され、簡便かつ精度よく精密薄膜加工や超微細加工などを施すことができるという優れた効果を奏する。また、本発明のセンサ用電極体においては、前記超微粒子を水や各種有機溶媒にナノサイズでありながら均一かつ安定に分散させた分散液を用いたため、精度の高い高表面積の均質薄膜層が実現され、複雑な微細空間であっても、高性能センサとして適用することができる。
さらにまた、本発明のセンサ用電極体においては、超微粒子に配位させた保護配位子は製膜時及び/又は製膜後に適宜に除去して電気化学応答性等を調節することができるという利点を有する。さらに、製膜時の製造品質とセンサ性能に関する製品品質とを両立して実現することができる。
本発明のセンサ用電極体について、その好ましい態様を図1の断面図に模式的に示す。図1のセンサ用電極体は、導電性構造体2の片側に物質吸着薄膜層1を設けたものである。本発明において導電性構造体とは、基板などの絶縁体に導電性膜を設けたもののみならず、絶縁体を用いず導電性材料のみからなる導電体もしくは導電層のみのものを含む意味に用いる。導電性構造体2に用いられる導電性材料は特に限定されないが、白金、銅、アルミニウム、鉄、グラファイト、酸化インジウム錫(ITO)などの導電性を示す物質を利用することができる。物質吸着薄膜層1はナノ微粒子(ナノメートルオーダーの粒子)を含有する分散液により形成した薄膜層である。このナノ微粒子及び物質吸着薄膜層の詳細については後述する。なお、本発明のセンサ用電極体においては、導電性構造体と物質吸着薄膜層以外にも必要に応じて機能性層を設けてもよく、例えばグルコースを検知するバイオセンサとするとき、グルコース酸化酵素含有層といった層を設けてもよい。本発明のセンサ用電極体はそれ自身をセンサとして用いることができ、必要に応じて対極電極および参照電極と組み合わせてセンシングシステムとしてもよく、また、そのほか通常のセンサの構造に作製加工して用いてもよい。
本発明のセンサ用電極体は微細加工性に優れるため、マイクロ流路等に微細加工して用いる場合には、マイクロ流路の底面や壁面に導電層を付して導電性構造体とし、その上に物質吸着薄膜層を設けて、路面塗布型のセンサとすることができる。このときマイクロ流路の路面自体が導電性を有し、導電性構造体として機能するなら、その上に所望の形状の超微粒子分散液の塗布膜層を設けるだけで本発明のセンサとすることができる。
本発明のセンサ用電極体は図1に示したような片側に物質吸着薄膜層を設けた層状電極体に限られず、平板状導電性構造体の両側に物質吸着薄膜層を設けたものでもよい。そのほか、導電性構造体を針状の構造体として、その外表面全体に物質吸着薄膜層を設けた針状電極体としてもよく、また、針状構造体の先端部に物質吸着薄膜層を設けた電極体であってもよい。
本発明のセンサ用電極体の大きさは特に限定されないが、超微細センサとするときには、例えば、1.0×10−18〜1.0×10−1m2とすることが好ましく、1.0×10−8m2程度とすることが好ましい。また、後述するように物質吸着薄膜層を高表面積の液体製膜層とすることができ、大型センサであっても、超微細化センサであっても、高感度で安定した物質検出を可能なものとすることができる。さらに例えば、上述のように少なくとも物質吸着薄膜層をμ−Tasの微細流路等にあわせて作製し、必要な場所に各種目的に相応した形状の微細加工センサを多数設けることもできる。
本発明のセンサ用電極体に用いることができるプルシアンブルー型金属錯体超微粒子は、図2により模式的に説明することができる。すなわち、この超微粒子20においては、プルシアンブルー型金属錯体微結晶21の表面に配位子L(22)が配位している。ただし同図は、超微粒子の結晶及び配位子について、その大きさの関係を示すものではない。また、配位子は図に示したように結晶表面に直立していても、倒れこんでいても、あるいはその他の状態であってもよい。
超微粒子作製時の配位子Lの配位量は特に限定されず、超微粒子の粒子径や粒子形状にもよるが、例えば、プルシアンブルー型金属錯体の結晶の中の金属原子(金属原子M1及びM2の総量)に対して、モル比で5〜30%程度であることが好ましい(物質吸着薄膜層中の配位子量については後述する。)。このようにすることで、プルシアンブルー型金属錯体のナノ粒子を含有する安定な分散液(液体製膜用インク)とすることができ、液体製膜による精度の高い物質吸着薄膜層を作製することができる。
プルシアンブルー型金属錯体21は、上述のように、その結晶格子中に欠陥・空孔を有していてもよく、例えば鉄原子の位置に空孔が入りその周りのシアノ基が水に置換されていてもよい。このように空孔の量や配置を調節して電気化学特性を制御することも好ましい。
本発明において、粒子径とは、特に断らない限り、保護配位子を含まない一次粒子の直径をいい、その円相当直径(電子顕微鏡観察により得た超微粒子の画像より、各粒子の投影面積に相当する円の直径として算出した値)をいう。平均粒子径については、特に断らない限り、少なくとも30個の超微粒子の粒子径を上記のようにして測定した、その平均値をいう。あるいは、超微粒子の粉体の粉末X線回折(XRD)測定から、そのシグナルの半値幅より算出した平均径より見積もってもよい。
ただし、溶媒に分散させた状態では、複数のナノ粒子が集団で二次粒子として運動し、測定法によってはより大きな平均粒子径が観測される場合もある。分散状態で超微粒子が2次粒子となっているとき、その平均粒径は200nm以下であることが好ましい。なお、超微粒子膜として製膜した後の処理などにより、保護配位子が外れるなどしてさらに大きな凝集粒子となっていてもよく、それにより本発明が限定して解釈されるものではない。
撹拌抽出法は、後述する逆ミセル法に用いられるような特殊な化合物によらずに、多様な保護配位子を表面に配位させた超微粒子を簡便に大量合成できる点で好ましい。その具体的な手順を示すと、例えば、金属原子M1を中心金属とする金属シアノ錯体(陰イオン)の溶液と、金属原子M2を中心金属とする金属陽イオン溶液とを混合し、金属原子M1及び金属原子M2から成るプルシアンブルー型金属錯体の結晶を析出させ、次いで保護配位子Lを溶解させた溶媒に前記プルシアンブルー型錯体結晶を加え、撹拌し、溶媒を除去することにより、例えば粒子径50nm以下の固体粉末超微粒子集合体を得ることができる。
保護配位子としては、ピリジル基もしくはアミノ基を結晶粒子との結合部位としてもつ化合物の1種もしくは2種以上を用いることが好ましく、なかでも炭素原子数4以上100以下の化合物(質量平均分子量でいうと2000以下の化合物が好ましく、50以上1000以下の化合物がより好ましい)を用いることがより好ましく、下記一般式(1)〜(3)のいずれかで表される化合物の1種もしくは2種以上を用いることが特に好ましい。
一般式(1)で表される化合物の中でも、4−ジ−オクタデシルアミノピリジン、4−オクタデシルアミノピリジン等が好ましい。
なお、一般式(1)〜(3)のいずれかで表される化合物は、本発明の効果を妨げなければ置換基を有していてもよい。
ここでアルコール分離後に得られる固体物に水を加えると、プルシアンブルー型金属錯体の超微粒子を水中に分散した水分散液とすることができる。また、配位子Lの水溶液に直接、工程(A)で調製したプルシアンブルー型金属錯体結晶を加え、撹拌することによっても、プルシアンブルー型金属錯体の超微粒子を水中に分散させた分散液を得ることができる。ただし、得られるプルシアンブルー型金属錯体超微粒子の安定性及び収率の点からアルコール溶媒を用いることが好ましい。
このとき工程(A)において目的の金属を含有する原料化合物を、混合比を変えて加えることで、目的の金属組成を有するプルシアンブルー型金属錯体超微粒子を得ることができる。なお、撹拌抽出法については、特願2006−030481号明細書、国際特許出願第PCT/JP2006−302135号明細書などを参考にすることもできる。撹拌抽出法により得られたプルシアンブルー型金属錯体は、各種の溶媒に(本発明において「溶媒」とは「分散媒」を含む意味に用いる。)、優れた分散安定性を示し(例えば、数ヶ月以上経っても安定な分散状態を保つことができる。)、薄膜化に適し、優れたセンサを作製することができる。
逆ミセル法は、アルキル保護剤で覆われた錯体超微粒子を調製する方法であり、以下に示す3工程からなる。
(i)金属原子M1を中心金属とする金属シアノ錯体(陰イオン)を含む第一逆ミセル溶液と、金属原子M2を中心金属とする金属錯陽イオンを含む第二逆ミセル溶液とをそれぞれ調製する工程。
(ii)第一逆ミセル溶液と第二逆ミセル溶液とを混合する工程。
(iii)工程(ii)で得られた混合液に長鎖アルキル保護剤Lを添加し、得られたナノ結晶を単離する工程。
この工程では、金属原子M1を中心金属とする金属錯陰イオンを含む第一逆ミセル溶液と、金属原子M2の陽イオンを含む第二逆ミセル溶液とをそれぞれ調製する。
この工程では、第一逆ミセル溶液と第二逆ミセル溶液とを混合する。この混合によって金属錯体ナノ結晶が形成される。ナノ結晶の生成速度は、上記溶液の濃度、逆ミセル化剤の濃度等によって調節することができる。混合方法は特に限定されず、通常の混合装置を使用できる。両者の混合割合は、モル比で金属錯陰イオン:金属陽イオン=1:0.7〜1.3程度となるようにすることが好ましい。
この工程では、工程(ii)で得られた混合液に保護配位子化合物を添加する。保護配位子については撹拌抽出法において詳しく述べたとおりである。
本発明のセンサ用電極体において、物質吸着薄膜層は上記のような超微粒子を含有するナノ粒子分散液により形成した薄膜層であり、それに加熱処理・洗浄処理等を施してもよい。薄膜内で個別の超微粒子がその形状を維持している必要はなく、配位子Lについては除去されていてもかまわない。また、電気化学特性向上のために別種材料を含有させてもよく、例えば、フェロセン、ナフィオン等の電気化学特性制御剤を含有させても、この電気化学特性制御剤を含有させた層とナノ微粒子を含有させた層とから少なくともなる多層薄膜層としてもよい。なお、物質吸着薄膜層には高分子化合物を含まないことが好ましい。
その他、積層型化学結合製膜法を用いることも好ましい。ここで積層型化学結合製膜法とは、超微粒子を一層もしくは数層ごとに製膜し、これを繰り返し行うに際し、基板と超微粒子とをあるいは超微粒子どうしを配位結合などの化学結合により結合させ、膜構造を強固なものにする製膜法である。
上述したアルカリ耐性を向上させるために所望の保護配位子を含有させるとき、物質吸着薄膜層中の保護配位子の含有量は保護配位子の種類やアルカリ化合物等により適宜調節すればよいが、質量比でプルシアンブルー型金属錯体超微粒子の例えば0.1倍以上10倍以下の保護配位子化合部を含有させることが好ましい。
なお保護配位子Lの含有量に下限は特にないが、例えば上記加熱・洗浄処理等により除去したときに不可避的に(例えば、上記モル比で1/100程度)残留していてもよい。
(A)プルシアンブルーバルク体の合成
(NH4)4[Fe(CN)6] 1.0gを水に溶解した水溶液と、Fe(NO3)3・9H2O 1.4gを水に溶解した水溶液とを混合し、プルシアンブルーの微結晶を析出させた。遠心分離により、水に不溶性のプルシアンブルー微結晶を分離し、これを水で3回、続いてメタノールで2回洗浄し、減圧下で乾燥した。
配位子Lとして、長鎖アルキル基を含む配位子オレイルアミンを溶解させたトルエン溶液5mlに水0.5mlを加えた。(A)で合成したプルシアンブルーのバルク体0.2gを上記の溶液に加えた。一日撹拌するとプルシアンブルーの微結晶がすべてトルエン相に分散した濃青色の分散液が得られた。水とトルエン相を分離し、濃青色のトルエン相を濾過すると、プルシアンブルー微粒子の分散液が得られた(このときのFT−IR測定の結果を図4のチャート43に示す。)。この分散液の紫外可視吸収スペクトル測定結果を図5のスペクトル51に示す。680nm付近のピークはプルシアンブルーのFe−Fe間電荷移動吸収として知られており、この微粒子分散液がプルシアンブルーを含んでいることがわかる。また、この保護配位子としてオレイルアミンを有するプルシアンブルー超微粒子の分散液を透過型電子顕微鏡で観察した結果を図6に示す。これより、平均粒子径10〜15nm程度の超微粒子が合成されていることを確認した。このときプルシアンブルーのバルク体は、水には残らず、ほぼすべてトルエン相に超微粒子として抽出できた。
(B1)で得られた分散液のトルエンを減圧乾固することで、固体粉末をほぼ定量的に得た。得られた固体粉末は、ジクロロメタン、クロロホルム、もしくはトルエンといった有機溶媒に簡単に再分散し、濃青色の透明な分散液となった。
得られたプルシアンブルー超微粒子固体粉末を粉末X線回折装置で解析した結果、標準試料データベースに含まれるプルシアンブルーのピーク位置と一致した(図3のチャート33参照)。なお低角側のピークは過剰に含まれたオレイルアミンによるブロードなバックグラウンドである。
(A)プルシアンブルーバルク体の合成
調製例1と同様にしてプルシアンブルーバルク体を合成した。
(B2)水分散型プルシアンブルー超微粒子の調製
配位子Lとして、2−アミノエタノールを溶解させたメタノール溶液5mlに、(A)で合成したプルシアンブルーのバルク体0.2gを加え3時間程度撹拌してプルシアンブルー型金属錯体超微粒子の分散液を調製した。この超微粒子は、撹拌後もメタノールに溶解することなく固体物として存在していた。このときのFT−IR測定の結果を図4のチャート42に示す。
上記分散液のメタノールを除去して固体粉末αを分離して得た。その固体粉末αに水を加えるとすべて分散し、濃青色透明な分散液βとなった。
フェリシアン酸カリウム、K3[Fe(CN)6] 0.329g(0.999mmol)の水溶液1.5mlにアンモニア水NH3(28.0%、14.8N)0.1mlを加え、そこに硝酸コバルトCo(NO3)2・6H2O 0.437g(1.50mmol)の水溶液1.0mlを加え、3分程度撹拌した。その後、遠心分離によって赤色の沈殿物としてプルシアンブルー型金属錯体結晶を得た。この結晶沈殿物を水で3回、メタノールで1回洗浄した。収量は0.631gであり、収率は105%であった(100%を超えているのは、乾燥が不十分で、水を含んでいるための誤差だと考えられる。)。
オレイルアミン0.443g(1.66mmol、総金属量の100%(モル比))のトルエン溶液3.0mlに、先の合成で得られたプルシアンブルー型金属錯体結晶(コバルト鉄シアノ錯体結晶)の凝集体0.204g(0.340mmol)を加え、1日程度撹拌した。こうしてプルシアンブルー型金属錯体超微粒子を分散液中に得た。このアンモニアを添加した条件で得たものを分散液試料γとした。
上記の分散液試料γに対して、遠心分離を行い、上澄みを一部取り出し、トルエンで希釈してUV−vis光学測定を行った。この試料の可視域における吸収極大値は480nmに存在し(図8参照)、これはアンモニアを添加しないで得たものの極大位置520nmと異なった。この結果より、アンモニアの添加によって、物性の異なるプルシアンブルー型金属錯体超微粒子が得られることが分かる。
((Fe0.2Ni0.8)3[Fe(CN)6]2の合成)
K3[Fe(CN)6](0.658g(2.00×10−3mol))の水溶液(2ml)を、FeSO4・7H2O(0.167g(6.00×10−4mol))の水溶液(0.4ml)とNi(NO3)2・6H2O(0.698g(2.40×10−3mol))の水溶液(1.6ml)の混合溶液に撹拌しながら加えた。沈殿物を蒸留水で3回遠心洗浄し、メタノールで1回遠心洗浄後、風乾させて目的の金属組成を有するプルシアンブルー型金属錯体結晶を得た。
K3[Fe(CN)6](0.658g(2.00×10−3mol))の水溶液(2ml)を、FeSO4・7H2O(0.334g(1.20×10−3mol))の水溶液(0.8ml)とNi(NO3)2・6H2O(0.523g(1.80×10−3mol))の水溶液(1.2ml)の混合溶液に撹拌しながら加えた。沈殿物を蒸留水で3回遠心洗浄し、メタノールで1回遠心洗浄後、風乾させて、目的の金属組成を有するプルシアンブルー型金属錯体結晶を得た。
K3[Fe(CN)6](0.658g(2.00×10−3mol))の水溶液(2ml)を、FeSO4・7H2O(0.500g(1.80×10−3mol))の水溶液(1.2ml)とNi(NO3)2・6H2O(0.349g(1.20×10−3mol))の水溶液(0.8ml)の混合溶液に撹拌しながら加えた。沈殿物を蒸留水で3回遠心洗浄し、メタノールで1回遠心洗浄後、風乾させて、目的の金属組成を有するプルシアンブルー型金属錯体結晶を得た。
K3[Fe(CN)6](0.658g(2.00×10−3mol))の水溶液(2ml)を、FeSO4・7H2O(0.667g(2.40×10−3mol))の水溶液(1.6ml)とNi(NO3)2・6H2O(0.174g(5.98×10−4mol))の水溶液(0.4ml)の混合溶液に撹拌しながら加えた。沈殿物を蒸留水で3回遠心洗浄し、メタノールで1回遠心洗浄後、風乾させて、目的の金属組成を有するプルシアンブルー型金属錯体結晶を得た。
遠心分離を行い、トルエン層を分離して、目的の金属組成を有する超微粒子を分離して得た。得られたプルシアンブルー型金属錯体超微粒子について、それぞれ、その吸収スペクトルを測定した。
図9にその結果を示す。図9中、曲線91は上記化学構造式においてx=0.8のプルシアンブルー型金属錯体超微粒子の結果を示し、曲線92はx=0.6のものの結果を示し、曲線93はx=0.4のものの結果を示し、曲線94はx=0.2のものの結果を示す。
次に金属原子M1、M2、配位子L、分散媒を下表のとおりに代えた以外、試料1〜16については調製例1と同様にして、試料17〜19については調製例2と同様してプルシアンブルー型金属錯体超微粒子を作製し、表中に記載した分散媒に分散させた分散液を得た。なお、試料20は調製例3で得た超微粒子、試料21は調製例4で得た超微粒子、試料22は調製例1のオレイルアミンを酢酸ブチルに代えた以外同様にして調製した超微粒子分散液を示す。この結果が示すとおり、多様なプルシアンブルー型金属錯体超微粒子を製造することができることが分かる。
表1の試料No.6の分散液、詳しくはFeHCF−OA超微粒子(M1=Fe、M2=Fe、L=オレイルアミンからなるプルシアンブルー型金属錯体超微粒子を、以下「FeHCF−OA超微粒子」という。)の粉末104mgをトルエン4mgに分散させた分散液を調製した。その分散液を、スピンコート法を用いてITO被膜したガラス基板(縦25mm、横25mm、厚さ1mmの矩形ガラス基板)上に室温で製膜して物質吸着薄膜層とし、本発明のセンサ用電極体を作製した。このときスピンコートは、基板上に分散液を滴下後、30秒間、回転速度400rpmで回転させ、引き続き10秒間1000rpmで回転させて行った。
触針式膜厚測定機を用いてこの物質吸着薄膜層の膜厚測定を行った。図12の距離d<250μmの部分は物質吸着薄膜層が存在する部分であり、d>250μmの部分が薄膜層を除去した部分である。これより、薄膜層の膜厚は約250nmであり、その膜厚の場所依存性は10〜20nmにとどまっており、良好な薄膜層が得られたことが分かる。
表1の試料14のプルシアンブルー型金属錯体超微粒子(M1=Fe、M2=Co)の粉末10mgをクロロホルム20mlに分散させた分散液(インク)を用い、化学結合製膜法により、室温にてITO被膜したガラス基板(縦10mm、横40mm、厚さ1mmの矩形ガラス基板)上に物質吸着薄膜層を製膜して、本発明のセンサ用電極体を作製した。詳しくは、濃度3質量%の3−(2−アミノエチルアミノプロピル)−トリメトキシシラン/エタノール溶液に上記ITO基板を15分浸漬し、その後エタノールで洗浄し、加熱炉にて110℃で15分加熱し、次いで乾燥した。得られた基板を上記分散液(インク)に6時間浸漬後、クロロホルムにて洗浄した。
図14にそのサイクリックボルタンメトリ測定の結果を示す。化学結合製膜法で製膜したセンサ用電極体のサイクリックボルタンメトリ144では、E0’(FeII/FeIII)=0.44V(1M KCl中)を示し、電極固定種の電気化学反応として、ピーク電流値が掃引速度に比例した。
このセンサ用電極体は、過酸化水素の酸化還元反応に対し電気化学活性を示した(図中のサイクリックボルタンメトリ141)。過酸化水素3mMを加えた場合、ポテンシャル1V時の電流値は過酸化水素未添加時に対して約70倍の増強が観測された。
表1の試料14に代えて、試料6(プルシアンブルー型金属錯体超微粒子(M1=Fe、M2=Fe))を用いた以外、実施例2と同様にして本発明のセンサ用電極体及びセンシングシステムを作製し、電気化学特性の変化を測定した。結果を図15に示す。
このセンサ用電極体は、過酸化水素の酸化還元反応に対し電気化学活性を示した(図中のサイクリックボルタンメトリ151)。過酸化水素3mMを加えた場合、ポテンシャル−0.3V時の電流値は過酸化水素未添加時(図中のサイクリックボルタンメトリ152)に対して約400倍の増強が観測された。
表1の試料No.1の分散液、詳しくはFeHCF−OA超微粒子粉末104mgをトルエン4mgに分散させ分散液を調製した。次いで、直径約8mmの円に内接する程度の大きさのハート形の凸型ゴム製支持体に、上記で調製した分散液を塗布し、ITO被膜したガラス基板上に押下接着した。図16に示すとおり、基板上に支持体と同じ形状の物質吸着薄膜層を作製することができた。これにより、所望の形状の物質吸着薄膜層を有するセンサ用電極体を凸版製膜法により簡便に作製することができることが分かる。
原料として塩化鉄6水和物、フェロシアン化ナトリウム10水和物を用いて、調製例1と同様の撹拌抽出法によりFeHCF−OA超微粒子を合成し、その超微粒子0.0676gをトルエン1mlに分散させて超微粒子分散液を得た。その超微粒子分散液を用いて、実施例1と同様にしてITOガラス基板上にスピンコート(500rpm10秒後、1000rpm30秒)して物質吸着薄膜層を形成し、本発明のセンサ用電極体を作製した。これを10分間アセトン中に静置し洗浄処理を施した。
原料として塩化鉄6水和物、フェロシアン化ナトリウム10水和物を用いて、調製例1と同様の撹拌抽出法によりFeHCF−OA超微粒子を合成し、その超微粒子0.0676gをトルエン1mlに分散させて超微粒子分散液を得た。その超微粒子分散液を用いて、実施例1と同様にしてITOガラス基板にスピンコート(500rpm10秒後、1000rpm30秒)して物質吸着薄膜層を形成し、本発明のセンサ用電極体を作製した。このセンサ用電極体を2時間高温下(50℃、100℃、150℃)に静置し加熱処理を施した。
上記の透明電極側部材を用い、サイクリックボルタンメトリ測定を行った結果を図19に示す。150℃に静置したものについては、電気化学応答性が明確に向上した(図中の実線)。100℃で処理したものにおいても電気化学応答性が向上した(図中の破線)。これに対し、50℃で処理したものでは電気化学応答性は向上しなかった(図中、一点鎖線)。この結果より、所定温度による加熱処理を施すことにより、センサの電気化学的応答性を向上させることができることが分かる。
2 導電性構造体
21 プルシアンブルー型金属錯体(微結晶)
22 配位子L
31 プルシアンブルー結晶のX線回折測定結果
32 水分散型プルシアンブルー超微粒子のX線回折測定結果
33 有機溶媒分散型プルシアンブルー超微粒子のX線回折測定結果
41 プルシアンブルー結晶の赤外線吸収スペクトル
42 水分散型プルシアンブルー超微粒子の赤外線吸収スペクトル
43 有機溶媒分散型プルシアンブルー超微粒子の赤外線吸収スペクトル
51 プルシアンブルー超微粒子(トルエン分散液)の紫外可視吸収スペクトル
52 プルシアンブルー超微粒子(水分散液)の紫外可視吸収スペクトル
220 プルシアンブルー型金属錯体
221 金属原子M1
222 炭素原子
223 窒素原子
224 金属原子M2
Claims (20)
- 保護配位子を有するプルシアンブルー型金属錯体超微粒子を含有させた分散液により形成した物質吸着薄膜層を、導電性構造体に設けたセンサ用電極体であって、前記導電性構造体に電圧を印加して前記電極体を電気的に制御し、前記物質吸着薄膜層の表面に目的物質が吸着したときの選択的な電気特性変化を測定することにより、その目的物質を検知しうることを特徴とするセンサ用電極体。
- 前記目的物質が分子であることを特徴とする請求項1記載のセンサ用電極体。
- 前記目的物質が過酸化水素であることを特徴とする請求項1又は2記載のセンサ用電極体。
- 前記物質吸着薄膜層に電気化学特性制御剤を含有させたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のセンサ用電極体。
- 前記物質吸着薄膜層が、前記分散液により形成した薄膜層と、電気化学特性制御剤を含有させた薄膜層とを少なくとも有する多層薄膜層であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のセンサ用電極体。
- 前記超微粒子が、下記金属原子M1と金属原子M2とを有するプルシアンブルー型金属錯体結晶に、ピリジル基もしくはアミノ基を含有する化合物を保護配位子として1種または2種以上配位させた、平均粒子径200nm以下の超微粒子であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のセンサ用電極体。
[金属原子M1:バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金、ロジウム、オスミウム、イリジウム、パラジウム、および銅から選ばれる少なくとも1つの金属原子。]
[金属原子M2:バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、およびカルシウムから選ばれる少なくとも1つの金属原子。] - 前記保護配位子とする化合物の炭素原子数が4以上100以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のセンサ用電極体。
- 前記保護配位子とする化合物が下記一般式(1)〜(3)のいずれかで表されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のセンサ用電極体。
- 前記置換基R1〜R4がアルケニル基であることを特徴とする請求項8記載のセンサ用電極体。
- 前記物質吸着薄膜層中に、前記保護配位子化合物を質量比でプルシアンブルー型金属錯体の10倍以下の範囲で含有させ、アルカリ耐性を高めたことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のセンサ用電極体。
- 前記物質吸着薄膜層が、前記分散液を、スピンコート製膜法、ラングミュアブロジェット製膜法、スプレー製膜法、レイヤーバイレイヤー製膜法、及び印刷法のいずれかにより塗布製膜した、高表面積吸着面を有する液体製膜層であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載のセンサ用電極体。
- 前記分散液が撹拌抽出法により調製したプルシアンブルー型金属錯体超微粒子の分散液であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載のセンサ用電極体。
- 前記物質吸着薄膜層の製膜時及び/又はその後、加熱処理及び/又は洗浄処理を施すことにより、前記保護配位子を除去したことを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載のセンサ用電極体。
- 請求項1〜13のいずれか1項に記載のセンサ用電極体を備えたセンサ。
- 請求項14に記載のセンサであって、食物中の微量の過酸化水素を検知することを特徴とする食品検査用センサ。
- 請求項14に記載のセンサであって、生体物質を検知することを特徴とするバイオセンサ。
- 請求項1〜13のいずれか1項に記載のセンサ用電極体、対極電極、及び参照電極を組み合わせて、液相で目的物質を検知することを特徴とするセンシングシステム。
- 請求項1〜13のいずれか1項に記載の電極体を製造するに当り、撹拌抽出法もしくは逆ミセル法により保護配位子を有するプルシアンブルー型金属錯体の超微粒子を分散させた分散液を調製し、導電性構造体に前記分散液により物質吸着薄膜層を形成することを特徴とするセンサ用電極体の製造方法。
- 前記保護配位子をアミノ基もしくはピリジル基を含有する化合物とし、スピンコート製膜法、ラングミュアブロジェット製膜法、レイヤーバイレイヤーディップ製膜法、及び印刷法から選ばれる製膜法により前記分散液を塗布して物質吸着薄膜層を形成することを特徴とする請求項18記載のセンサ用電極体の製造方法。
- 前記物質吸着薄膜層の製膜時及び/又はその後、洗浄処理及び/又は加熱処理を施して前記保護配位子を除去することを特徴とする請求項18又は19記載のセンサ用電極体の製造方法。
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