JP2008044546A - 車線逸脱防止装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】車線逸脱防止制御の開始時点から所望のヨーモーメントを自車両に付与する。
【解決手段】車線逸脱防止装置は、車線逸脱傾向判定手段が逸脱傾向にあると判定した場合(ステップS7)、制動力を前後輪に配分しつつ、左右輪で制動力差を前記ブレーキ装置により発生させて、自車両にヨーモーメントを付与し、走行車線に対して自車両が逸脱するのを防止する車線逸脱防止制御を行う(ステップS12)。そして、車線逸脱防止装置は、ブレーキ装置のブレーキ温度を検出し(ステップS4)、検出したブレーキ温度に基づいて、前後輪における制動力の配分(前後輪液圧配分比FRratio)を補正する(ステップS11)。
【選択図】図2

Description

本発明は、自車両が走行車線から逸脱しそうになったときに、その逸脱を防止する車線逸脱防止装置に関する。
車線逸脱防止装置として、自車両が走行車線から逸脱傾向があると判定した場合、左右輪に制動力差を発生させて、自車両にヨーモーメントを付与することで、自車両が走行車線から逸脱してしまうのを防止する装置がある(例えば特許文献1参照)。
特開2003−154910号公報
ところで、一般的にブレーキ装置のブレーキ温度(例えばブレーキパッドやブレーキシューの温度)が非常に低い場合、ブレーキ装置に与えられる制動液圧に対して発生する制動力が小さくなる。そして、ブレーキをかけ続けることによってブレーキ温度が上がってくるので、所望の制動力を得るまでに時間がかかる。すなわち、所望のヨーモーメンが自車両に付与されるまでに時間がかかることになる。このような場合、運転者は、車線逸脱防止制御が遅れていると感じてしまう。
本発明の課題は、ブレーキ温度が低くても、車線逸脱防止制御で所望のヨーモーメントを早期に自車両に付与することである。
前記課題を解決するために、本発明に係る車線逸脱防止装置は、ブレーキ装置のブレーキ温度をブレーキ温度検出手段により検出し、ブレーキ温度検出手段が検出したブレーキ温度に基づいて、前後輪における制動力の配分を制動力配分補正手段により補正する。
本発明によれば、ブレーキ装置のブレーキ温度に基づいて、前後輪における制動力の配分を補正することで、車線逸脱防止制御として自車両にヨーモーメントを付与するのに必要な制動力を確保しつつも、ブレーキ温度が低くなっているブレーキ装置の制動力を大きくすることで、該ブレーキ装置のブレーキ温度を高くして、所望の制動力、すなわち所望のヨーモーメントを得ることができる。
本発明を実施するための最良の形態(以下、実施形態という。)を図面を参照しながら詳細に説明する。
(第1の実施形態)
先ず第1の実施形態を説明する。
(構成)
本発明の第1の実施形態は、本発明に係る車線逸脱防止装置を搭載した後輪駆動車両である。この後輪駆動車両は、自動変速機とコンベンショナルディファレンシャルギヤとを搭載し、前後輪とも左右輪の制動力を独立制御可能な制動装置を搭載している。
図1は、第1の実施形態を示す概略構成図である。
図中の符号1はブレーキペダル、2はブースタ、3はマスタシリンダ、4はリザーバであり、通常は運転者によるブレーキペダル1の踏込み量に応じて、マスタシリンダ3で昇圧された制動流体圧を各車輪5FL〜5RRの各ホイールシリンダ6FL〜6RRに供給する。また、マスタシリンダ3と各ホイールシリンダ6FL〜6RRとの間には制動流体圧制御部7が介装されており、制動流体圧制御部7によって、各ホイールシリンダ6FL〜6RRの制動流体圧を個別に制御することも可能になっている。
制動流体圧制御部7は、例えばアンチスキッド制御(ABS)、トラクション制御(TCS)又はビークルダイナミックスコントロール装置(VDC)に用いられる制動流体圧制御部を利用したものである。制動流体圧制御部7は、単独で各ホイールシリンダ6FL〜6RRの制動流体圧を制御することも可能であるが、後述する制駆動力コントロールユニット8から制動流体圧指令値が入力されたときには、その制動流体圧指令値に応じて制動流体圧を制御するようにもなっている。
例えば、制動流体圧制御部7は、液圧供給系にアクチュエータを含んで構成されている。アクチュエータとしては、各ホイールシリンダ液圧を任意の制動液圧に制御可能な比例ソレノイド弁が挙げられる。
また、この車両には、駆動トルクコントロールユニット12が設けられている。駆動トルクコントロールユニット12は、エンジン9の運転状態、自動変速機10の選択変速比及びスロットルバルブ11のスロットル開度を制御することにより、駆動輪である後輪5RL,5RRへの駆動トルクを制御する。駆動トルクコントロールユニット12は、燃料噴射量や点火時期を制御したり、同時にスロットル開度を制御したりすることで、エンジン9の運転状態を制御する。駆動トルクコントロールユニット12は、制御に使用した駆動トルクTwの値を制駆動力コントロールユニット8に出力する。
なお、この駆動トルクコントロールユニット12は、単独で後輪5RL,5RRの駆動トルクを制御することも可能であるが、制駆動力コントロールユニット8から駆動トルク指令値が入力されたときには、その駆動トルク指令値に応じて駆動輪トルクを制御するようにもなっている。
また、この車両には、画像処理機能付きの撮像部13が設けられている。撮像部13は、自車両の車線逸脱傾向検出用として、走行車線内の自車両の位置を検出するために備えられている。撮像部13は、自車両前方を撮像するように設置されたCCD(ChargeCoupled Device)カメラからなる単眼カメラで撮像するように構成されている。撮像部(フロントカメラ)13は車両前部に設置されている。
撮像部13は、自車両前方の撮像画像から例えば白線(レーンマーカ)等の車線区分線を検出し、その検出した白線に基づいて走行車線を検出している。さらに、撮像部13は、その検出した走行車線に基づいて、自車両の走行車線と自車両の前後方向軸とのなす角(ヨー角)φfront、走行車線に対する横変位Xfront及び走行車線曲率β等を算出する。
このように、撮像部13は、走行車線をなす白線を検出して、その検出した白線に基づいて、ヨー角φfrontを算出している。撮像部13は、算出したこれらヨー角φfront、横変位Xfront及び走行車線曲率β等を制駆動力コントロールユニット8に出力する。
なお、本発明においては画像処理以外の検出手段でレーンマーカを検出するものであっても良い。例えば、車両前方に取り付けられた複数の赤外線センサによりレーンマーカを検出し、その検出結果に基づいて走行車線を検出しても良い。
また、本発明は走行車線を白線に基づいて決定する構成に限定されるものではない。すなわち、走行車線を認識させるための白線(レーンマーカ)が走路上にない場合、画像処理や各種センサによって得られる道路形状や周囲環境等の情報から、自車両が走行に適した走路範囲や、運転者が自車両を走行させるべき走路範囲を推測し、走行車線として決定しても良い。例えば、走路上に白線がなく、道路の両側ががけになっている場合には、走路のアスファルト部分を走行車線として決定する。また、ガードレールや縁石等がある場合は、その情報を考慮して走行車線を決定すれば良い。
また、走行車線曲率βを後述のステアリングホイール21の操舵角δに基づいて算出しても良い。
また、この車両には、ナビゲーション装置14が設けられている。ナビゲーション装置14は、自車両に発生する前後加速度Yg或いは横加速度Xg、又は自車両に発生するヨーレイトφ´を検出する。ナビゲーション装置14は、検出した前後加速度Yg、横加速度Xg及びヨーレイトφ´を、道路情報とともに、制駆動力コントロールユニット8に出力する。
なお、専用のセンサにより各値を検出しても良い。すなわち、加速度センサにより前後加速度Yg及び横加速度Xgを検出し、ヨーレイトセンサによりヨーレイトφ´を検出しても良い。
また、この車両には、マスタシリンダ3の出力圧、すなわちマスタシリンダ液圧Pmを検出するマスタシリンダ圧センサ17、アクセルペダルの踏込み量、すなわちアクセル開度θを検出するアクセル開度センサ18、ステアリングホイール21の操舵角(ステアリング舵角)δを検出する操舵角センサ19、方向指示器による方向指示操作を検出する方向指示スイッチ20、及び各車輪5FL〜5RRの回転速度、所謂車輪速度Vwi(i=fl,fr,rl,rr)を検出する車輪速度センサ22FL〜22RR、各車輪5FL〜5RRのブレーキ装置のブレーキ温度(例えばブレーキシュー24FL〜24RRやブレーキドラムの温度)を検出する温度センサ23FL〜23RRが設けられている。そして、これらセンサ等が検出した検出信号は制駆動力コントロールユニット8に出力される。
次に、制駆動力コントロールユニット8で行う演算処理(処理ルーチン)について説明する。図2は、その演算処理の手順を示すフローチャートである。この演算処理は、例えば10msec.毎の所定サンプリング時間ΔT毎にタイマ割込によって実行される。なお、図2に示す処理内には通信処理を設けていないが、演算処理によって得られた情報は随時記憶装置に更新記憶されると共に、必要な情報は随時記憶装置から読出される。
図2に示すように、処理開始すると、先ずステップS1において、前記各センサやコントローラ、コントロールユニットから各種データを読み込む。具体的には、ナビゲーション装置14が得た前後加速度Yg、横加速度Xg、ヨーレイトφ´及び道路情報、各センサが検出した、各車輪速度Vwi、操舵角δ、アクセル開度θ、マスタシリンダ液圧Pm及び方向スイッチ信号、並びに駆動トルクコントロールユニット12からの駆動トルクTw、撮像部13から横変位Xfront及び走行車線曲率βを読み込む。
続いてステップS2において、車速Vを算出する。具体的には、前記ステップS1で読み込んだ車輪速度Vwiに基づいて、下記(2)式により車速Vを算出する。
前輪駆動の場合
V=(Vwrl+Vwrr)/2
後輪駆動の場合
V=(Vwfl+Vwfr)/2
・・・(1)
ここで、Vwfl,Vwfrは左右前輪それぞれの車輪速度であり、Vwrl,Vwrrは左右後輪それぞれの車輪速度である。すなわち、この(1)式では、従動輪の車輪速の平均値として車速Vを算出している。なお、本実施形態では、後輪駆動の車両であるので、後者の式、すなわち前輪の車輪速度により車速Vを算出する。
また、このように算出した車速Vは好ましくは通常走行時に用いる。例えば、ABS(Anti-lock Brake System)制御等が作動している場合には、そのABS制御内で推定している推定車体速度を前記車速Vとして用いるようにする。
続いてステップS3において、ヨー角φfrontを算出する。具体的には、撮像部13が検出した遠方に延びる白線に対する自車両のヨー角φfrontを算出する。
なお、このように算出したヨー角φfrontは、撮像部13による実測値になるが、実測値を用いる代わりに、撮像部13が撮像した自車両近傍の白線に基づいて、ヨー角φfrontを算出することもできる。すなわち例えば、前記ステップS1で読み込んだ横変位Xfrontを用いて、下記(2)式によりヨー角φfrontを算出する。
φfront=tan−1(V/dX´(=dY/dX)) ・・・(2)
ここで、dXは、横変位Xの単位時間当たりの変化量であり、dYは、単位時間当たりの進行方向の変化量であり、dX´は、前記変化量dXの微分値である。
また、自車両近傍の白線に基づいてヨー角φfrontを算出する場合、前記(2)式のように、横変位Xを用いてヨー角φfrontを算出することに限定されるものではない。例えば、自車両近傍で検出した白線を遠方に延長し、その延長した白線に基づいて、ヨー角φfrontを算出することもできる。また、Vは前記ステップS2で算出した車速である。
続いてステップS4において、前記温度センサ23FL〜23RRによりブレーキ温度TFL〜TRRを検出する。ブレーキ温度は、前述のように、ブレーキ装置を構成するブレーキシュー24FL〜24RRやブレーキドラム等の温度である。
続いてステップS5において、推定横変位を算出する。具体的には、前記ステップS1で得た走行車線曲率β及び現在の車両の横変位Xfront、前記ステップS2で得た車速V、並びに前記ステップS3で得たヨー角φfrontを用いて、下記(3)式により推定横変位Xsを算出する。
Xs=Tt・V・(φfront+Tt・V・β)+Xfront ・・・(3)
ここで、Ttは前方注視距離算出用の車頭時間である。この車頭時間Ttに自車速Vを乗じると前方注視点距離になる。すなわち、車頭時間Tt後の走行車線中央からの横変位推定値が将来の推定横変位Xsになる。この(3)式によれば、ヨー角φfrontが大きくなるほど、推定横変位Xsが大きくなる。
続いてステップS6において、車線逸脱防止制御として自車両に付与するヨーモーメント(以下、基準ヨーモーメントという。)を算出する。車線逸脱防止制御では、走行車線に対して自車両が逸脱傾向にある場合、自車両に所定のヨーモーメント(所定の車線逸脱防止制御量)を付与して、自車両が走行車線から逸脱するのを回避しており、このステップS6では、実際の走行状態に基づいて、該ヨーモーメント(基準ヨーモーメントMs0)を算出する。
具体的には、前記ステップS5で得た推定横変位Xsと横変位限界距離Xとに基づいて下記(4)式により基準ヨーモーメントMs0を算出する。
Ms0=K1・K2・(|Xs|−X) ・・・(4)
ここで、K1は車両諸元から決まる比例ゲインであり、K2は車速Vに応じて変動するゲインである。図3はゲインK2の例を示す。図3に示すように、低速域でゲインK2は小さい値になり、車速Vがある値になると、車速Vの増加とともにゲインK2も増加し、その後ある車速Vに達するとゲインK2は大きい値で一定値となる。
この(4)式によれば、推定横変位Xsと横変位限界距離Xとの差分が大きくなるほど、基準ヨーモーメントMs0は大きくなり、また、推定横変位Xsとヨー角φfrontの関係から(前記(3)式参照)、ヨー角φfrontが大きくなるほど、基準ヨーモーメントMs0は大きくなる。
また、後述のステップS7で設定する逸脱判断フラグFoutがONの場合に基準ヨーモーメントMs0を前記(4)式により算出するものとし、逸脱判断フラグFoutがOFFの場合、基準ヨーモーメントMs0を0に設定する。
続いてステップS7において、走行車線に対する自車両の逸脱傾向を判定する。具体的には、前記ステップS5で得た推定横変位Xsと、前記ステップS6で基準ヨーモーメントMs0の算出に用いた横変位限界距離である逸脱傾向判定用しきい値Xとを比較して、逸脱傾向を判定する。図4には、この処理で用いる値の定義を示す。
逸脱傾向判定用しきい値(横変位限界距離)Xは、一般的に車両が車線逸脱傾向にあると把握できる値であり、経験値、実験値等として得る。例えば、逸脱傾向判定用しきい値Xは、走行車線の境界線の位置を示す値であり、下記(5)式により算出される。
=(L−H)/2 ・・・(5)
ここで、Lは走行車線の車線幅(走行車線をなす白線間の幅)であり、Hは車両の幅である。車線幅Lについては、撮像部13が撮像画像を処理して得ている。
そして、推定横変位Xsが逸脱傾向判定用しきい値X以上の場合(|Xs|≧X)、車線逸脱傾向ありと判定して、逸脱判断フラグFoutをONに設定し、推定横変位Xsが逸脱傾向判定用しきい値X未満の場合(|Xs|<X)、車線逸脱傾向なしと判定して、逸脱判断フラグFoutをOFFに設定する。
なお、車線逸脱傾向の判定を、推定横位置Xsの代わりに実際の横変位Xfront(Tt=0の場合の推定横位置Xs)を用いて行うこともできる。この場合、実際の横変位Xfrontが逸脱傾向判定用しきい値X以上の場合(|Xfront|≧X)、車線逸脱傾向ありと判定して、逸脱判断フラグFoutをONに設定する。
なお、逸脱傾向判定用しきい値Xは、L/2(車線と同じ位置)であっても良いし、L/2よりも大きな値(車線よりも外側)であっても良い。この逸脱傾向判定用しきい値Xを調整することによって車線逸脱防止制御を開始するタイミングを調整できる。具体的には、自車両が車線から逸脱する直前であったり、又は少なくとも1つの車輪が逸脱した後に逸脱判断フラグFoutをONにすることもできる。また、前方注視点における推定横変位Xsの代わりに、現在の自車両の横変位X0(Xfront)と逸脱傾向判定用しきい値Xとを比較して車線逸脱の判断をしても良い。この場合も同様に、逸脱傾向判定用しきい値Xは、L/2(車線と同じ位置)であっても良いし、L/2よりも大きな値(車線よりも外側)であっても良い。
また、逸脱判断フラグFoutをONに設定可能とする条件としては、逸脱判断フラグFoutをOFFに設定した後に車両が逸脱状態でない状態((|Xs|<X)又は(|Xfront|<X))となった場合とする。また、逸脱判断フラグFoutをONに設定可能とする条件として、逸脱判断フラグFoutをOFFに設定した後、所定時間経過した後とするなどの、時間的な条件を加えることもできる。
以上のように逸脱判断フラグFoutを設定した後、横変位Xに基づいて逸脱方向Doutを判定する。具体的には、車線中央から左方向に横変位している場合、その方向を逸脱方向Doutにし(Dout=LEFT)、車線中央から右方向に横変位している場合、その方向を逸脱方向Doutにする(Dout=RIGHT)。
なお、アンチスキッド制御(ABS)、トラクション制御(TCS)又はビークルダイナミックスコントロール(VDC)が作動している場合には、車線逸脱防止制御を作動させないようにするために、逸脱判断フラグFoutをOFFに設定しても良い。
また、運転者の車線変更の意思を考慮して、最終的に逸脱判断フラグFoutを設定しても良い。例えば、方向スイッチ信号が示す方向(ウインカ点灯側)と、前記逸脱方向Doutが示す方向とが同じである場合、運転者が意識的に車線変更していると判定し、逸脱判断フラグFoutをOFFに変更する。すなわち、車線逸脱傾向なしとの判定結果に変更する。また、方向スイッチ信号が示す方向(ウインカ点灯側)と、前記逸脱方向Doutが示す方向とが異なる場合、逸脱判断フラグFoutを維持し、逸脱判断フラグFoutをONのままにする。すなわち、車線逸脱傾向ありとの判定結果を維持する。
また、方向指示スイッチ20が操作されていない場合には、操舵角δに基づいて最終的に逸脱判断フラグFoutを設定する。すなわち、運転者が車線逸脱方向に操舵している場合において、その操舵角δとその操舵角の変化量(単位時間当たりの変化量)Δδとの両方が設定値以上のときには、運転者が意識的に車線変更していると判定し、逸脱判断フラグFoutをOFFに変更する。
続いてステップS8において、車線逸脱防止制御における自車両へのヨーモーメントの出力(付与)の終了タイミングを判定する。
前記ステップS7による逸脱傾向の判定に基づけば、自車両が走行車線に戻ったり、自車両が運転者の意思で車線変更したりすることで、車線逸脱傾向が解消するとされており(Fout=OFF)、これにより、車線逸脱防止制御を終了、すなわち自車両へのヨーモーメントの出力(付与)が終了するようになっている。このステップS8では、このような逸脱傾向の判定とは別に、走行車線における自車両の横変位量が所定量以上になった場合、車線逸脱防止制御の終了タイミングと判定する。具体的には、先ず、ヨーモーメントの出力の終了(終了位置)を判定するための出力終了判定用しきい値Xendを設定する。続いて、実際の横変位Xfrontが出力終了判定用しきい値Xend以上の場合(|Xfront|≧Xend)、車線逸脱防止制御の終了タイミングになったと判定して、逸脱判断フラグFoutをOFFに設定する。
図5は、自車両101の位置と逸脱傾向判定用しきい値X及び出力終了判定用しきい値Xendとの関係を示す。
自車両101が図5に示す逸脱傾向判定用しきい値X(白線102位置又はその白線102近傍)を越えると車線逸脱防止制御が開始されるようになり(自車両101にヨーモーメントが付与されて)、さらに自車両101が図5に示す出力終了判定用しきい値Xendに到達すると、該車線逸脱防止制御が終了するようになる(自車両101へのヨーモーメントの付与を終了する)。よって、出力終了判定用しきい値Xendから逸脱傾向判定用しきい値Xを減算した値ls_w_LMT(=Xend−X)が車線逸脱防止制御の制御範囲になる。
続いてステップS9において、最終的に制御指令値として用いる目標ヨーモーメントを設定する。
本実施形態の車線逸脱防止制御では、車線逸脱回避完了までに車線逸脱防止制御の処理ルーチン(該図2の処理ルーチン)を複数回実行することを前提としており、すなわち、ヨーモーメント(具体的には、目標ヨーモーメントMs)を自車両に連続的に逐次付与することで、自車両の車線逸脱を回避することを前提としており、このようなことから、制御開始から制御終了までに実施する一連の処理ルーチンにより、ヨーモーメント(制御量)は、徐々に増加し、その後、徐々に減少するようになっている。
このステップS9では、このようなヨーモーメントの出力形態にすることを前提として、前記ステップS6で算出した基準ヨーモーメントMs0に対するリミッタ処理をして目標ヨーモーメントMsを算出している。このようなことから、先ず、リミッタ処理するためのリミッタを既定値として設定する。
図6は、基準ヨーモーメントMs0についての経時変化を示す。
図6に示すように、基準ヨーモーメントMs0の増加側(制御始期又は制御前半の値)の増加割合を制限するリミッタとして増加側変化量リミッタLupを設定し、基準ヨーモーメントMs0の最大値(制御中盤の値)を制限するリミッタとして最大値リミッタLmaxを設定し、基準ヨーモーメントMs0の減少側(制御終期又は制御後半の値)の減少割合を制限するリミッタとして減少側変化量リミッタLdownを設定する。
ここで、増加側変化量リミッタLup及び減少側変化量リミッタLdownは、該車線逸脱防止制御の1回の処理ルーチン時間内の変化量相当になる。また、増加側変化量リミッタLup、最大値リミッタLmax、減少側変化量リミッタLdownは、経験値や実験値等に基づいて、自車両が走行車線から逸脱回避するのに最低限必要なヨーモーメントをスムーズに変化させるものとして決定される。
以上のような増加側変化量リミッタLup、最大値リミッタLmax、減少側変化量リミッタLdownを既定値として設定し、その設定した増加側変化量リミッタLup、最大値リミッタLmax、減少側変化量リミッタLdownにより制限した基準ヨーモーメントMs0を目標ヨーモーメントMsとして算出する。
図7は、これらリミッタLup、Lmax、Ldownで基準ヨーモーメントMs0を制限して得た結果、すなわち目標ヨーモーメントMsを示す。
なお、増加側変化量リミッタLupが小さくなると、目標ヨーモーメントMsの増加側の傾き(増加割合)は小さくなり、減少側変化量リミッタLdownが小さくなると、目標ヨーモーメントMsの減少側の傾き(減少割合)は小さくなる。
続いてステップS10において、前記逸脱判断フラグFoutがONの場合、車線逸脱回避のための警報として、音出力又は表示出力をする。
なお、逸脱判断フラグFoutがONの場合、すなわち、目標ヨーモーメントMsの絶対値|Ms|が0よりも大きい場合、車線逸脱防止制御として自車両へのヨーモーメント(目標ヨーモーメントMs)の付与を開始するから、この自車両へのヨーモーメントの付与と同時に該警報出力がされる。しかし、警報の出力タイミングは、これに限定されるものではなく、例えば、前記ヨーモーメント付与の開始タイミングよりも早くても良い。
続いてステップS11において、後述のステップS12で前後輪の制動液圧配分の設定に用いる前後輪液圧配分比FRratioを設定する。ここで、前後輪液圧配分比FRratioは、全体の制動液圧に対する前輪の制動液圧の割合として得た値である。
車線逸脱防止制御では、左右輪のうちの車線逸脱回避側の車輪の制動力を大きくして、車線逸脱回避方向にヨーモーメントを付与しており、ここでは、先ず、該車線逸脱回避側の前後の各輪のブレーキ温度を読み込む。
なお、この説明では、Dout=LEFT、すなわち車線逸脱方向が左側であると仮定して、車線逸脱回避側となる右側の前後輪のブレーキ温度TFR、TRR(前記ステップS4での検出値)を読み込む。
そして、右前輪のブレーキ温度TFR及び右後輪のブレーキ温度TRRそれぞれについて、下限温度しきい値Tと上限温度しきい値Tとを比較する。ここで、下限温度しきい値T及び上限温度しきい値Tはそれぞれ、ブレーキ装置において所望(設計上)の制動力を得ることができるブレーキ温度の範囲(標準温度範囲)の下限値及び上限値となる。この比較結果に基づいて、以下の(1)〜(4)のように前後輪液圧配分比FRratioを設定する。
(1)右前輪のブレーキ温度TFR及び右後輪のブレーキ温度TRRのいずれもが下限温度しきい値T以上で、かつ上限温度しきい値T以下の場合(T≦TFR、TRR≦T
すなわち、右前輪のブレーキ温度TFR及び右後輪のブレーキ温度TRRが標準温度範囲内にある場合である。この場合、前後輪液圧配分比FRratioを0.5に設定する(FRratio=0.5)。
(2)右前輪のブレーキ温度TFR及び右後輪のブレーキ温度TRRのいずれもが下限温度しきい値T未満の場合(TFR、TRR<T
この場合、前後輪のうちでブレーキ装置の熱容量が小さい方の車輪の制動液圧が大きくなるように、前後輪液圧配分比FRratioを設定する。
ここでいうブレーキ装置の熱容量とは、ブレーキ装置の熱くなりやすさや冷えやすさを示す指標をいい、すなわち、ブレーキ装置を構成する材質(例えばブレーキシューの材質)、ブレーキ装置の構造、ブレーキ装置の設置位置等により決定される値である。ここでは、ブレーキ装置が熱くなりやすい場合又は冷えやすい場合、その熱容量は、一般的に定義される熱容量と同様に、小さく、ブレーキ装置が熱くなり難い場合又は冷え難い場合、その熱容量は、一般的に定義される熱容量と同様に、大きい。
ここで、一般の車両を考えると、後輪のブレーキ装置の方が前輪のものよりも熱容量が小さいので、後輪の制動液圧を大きくするために、前後輪液圧配分比FRratio(=前輪の制動液圧/(前輪の制動液圧+後輪の制動液圧))を小さい値に設定する。
図8は、ブレーキ温度と前後輪液圧配分比FRratioとの関係の一例を示す。ここで、ブレーキ温度は、ブレーキ装置の熱容量の小さい方の右後輪のブレーキ温度TRRとなる(TRR<T)。
図8に示すように、ブレーキ温度TRRが低温で前後輪液圧配分比FRratioは小さい値になり、ブレーキ温度TRRがある値になると、ブレーキ温度TRRの増加とともに前後輪液圧配分比FRratioも増加し、その後、ブレーキ温度TRRがある値(T)に達すると前後輪液圧配分比FRratioは大きい値で一定値(FRratio=0.5)となる。このような特性図を参照して、ブレーキ温度TRRに基づいて、前後輪液圧配分比FRratioを設定する。これにより、ブレーキ装置の熱容量の小さい方の車輪(ここでは右後輪)の制動液圧が大きくなる一方で、ブレーキ装置の熱容量の大きい方の車輪(ここでは右前輪)の制動液圧が小さくなる。また、ブレーキ装置の熱容量の小さい方の車輪のブレーキ温度が低くなるほど、前後輪液圧配分比FRratioが小さくなるから、該ブレーキ装置の熱容量の小さい方の車輪の制動液圧はより大きくなる。
(3)右前輪のブレーキ温度TFR及び右後輪のブレーキ温度TRRのうちのいずれか一方が、上限温度しきい値Tよりも大きく、その他方が上限温度しきい値T以下(下限温度しきい値T以下も含む。)の場合
この場合、ブレーキ温度が上限温度しきい値Tよりも大きい方の車輪の制動液圧が小さくなるように、前後輪液圧配分比FRratioを設定する。
また、特に、ブレーキ装置の熱容量が小さい方の車輪のブレーキ温度が上限温度しきい値Tよりも大きく、他方の車輪のブレーキ温度が上限温度しきい値T以下になる場合を設定条件とすることもできる。この場合、ブレーキ装置の熱容量が小さい方の車輪の制動液圧が小さくなるように、前後輪液圧配分比FRratioを設定する。
図9は、その場合における、ブレーキ温度と前後輪液圧配分比FRratioとの関係の一例を示す。ここで、ブレーキ温度は、ブレーキ装置の熱容量の小さい方の右後輪のブレーキ温度TRRとなる(TRR>T)。
図9に示すように、ブレーキ温度TRRが低温で前後輪液圧配分比FRratioは小さい値になり(FRratio=0.5)、ブレーキ温度TRRがある値(T)になると、ブレーキ温度TRRの増加とともに前後輪液圧配分比FRratioも増加し、その後、ブレーキ温度TRRがある値に達すると前後輪液圧配分比FRratioは大きい値で一定値となる。このような特性図を参照して、熱容量の小さい方の車輪のブレーキ温度(ここではTRR)を基準にして、前後輪液圧配分比FRratioを設定する。これにより、ブレーキ装置の熱容量の小さい方の車輪(ここでは右後輪)の制動液圧が小さくなる一方で、ブレーキ装置の熱容量の大きい方の車輪(ここでは右前輪)の制動液圧が大きくなる。さらに、ブレーキ装置の熱容量の小さい方の車輪のブレーキ温度が高くなるほど、前後輪液圧配分比FRratioが大きくなるから、該ブレーキ装置の熱容量の小さい方の車輪の制動液圧はより小さくなる(ブレーキ装置の熱容量の大きい方の車輪の制動液圧はより大きくなる)。
(4)右前輪のブレーキ温度TFR及び右後輪のブレーキ温度TRRのいずれもが上限温度しきい値Tよりも大きい場合(TFR、TRR>T
この場合、前後輪のうちでブレーキ装置の熱容量が小さい方の車輪の制動液圧が小さくなるように、前後輪液圧配分比FRratioを設定する。
ここで、一般の車両を考えると、後輪のブレーキ装置の方が、前輪のものよりも熱容量が小さいので、後輪の制動液圧を小さくするために、前後輪液圧配分比FRratio(=前輪の制動液圧/(前輪の制動液圧+後輪の制動液圧))を大きい値に設定する。
なお、前記説明では、Dout=LEFT、すなわち車線逸脱方向が左側である場合を前提としているが、Dout=RIGHT、すなわち車線逸脱方向が右側になっている場合でも、同様にして、前後輪液圧配分比FRratioを設定できる。この場合、前後輪液圧配分比FRratioの設定に用いるブレーキ温度は、車線逸脱回避側となる左側の前後輪のブレーキ温度TFL、TRL(前記ステップS4での検出値)となる。
続いてステップS12において、各車輪の目標制動液圧を算出する。具体的には次のように算出する。
逸脱判断フラグFoutがOFFの場合、すなわち、目標ヨーモーメントMsが0の場合(車線逸脱防止制御を実施しない場合)、下記(6)式及び(7)式に示すように、各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl,fr,rl,rr)を制動液圧Pmf,Pmrにする。
Psfl=Psfr=Pmf ・・・(6)
Psrl=Psrr=Pmr ・・・(7)
ここで、Pmfは前輪用の制動液圧である。また、Pmrは後輪用の制動液圧であり、前後配分を考慮して前輪用の制動液圧Pmfに基づいて算出した値になる。例えば、運転者がブレーキ操作をしていれば、制動液圧Pmf,Pmrはそのブレーキ操作の操作量(マスタシリンダ液圧Pm)に応じた値になる。
一方、逸脱判断フラグFoutがONの場合、すなわち、目標ヨーモーメントMsの絶対値|Ms|が0よりも大きい場合(車線逸脱傾向があるとの判定結果を得た場合)、前記ステップS9で設定した目標ヨーモーメントMsに基づいて、前輪目標制動液圧差ΔPsf及び後輪目標制動液圧差ΔPsrを算出する。具体的には、下記(8)式及び(9)式により目標制動液圧差ΔPsf,ΔPsrを算出する。
ΔPsf=2・Kbf・(Ms・FRratio)/T ・・・(8)
ΔPsr=2・Kbr・(Ms・(1−FRratio))/T ・・・(9)
ここで、前後輪液圧配分比FRratioは、前記ステップS10で設定した値である。また、Tはトレッドを示す。なお、このトレッドTについては、便宜上前後で同じ値にする。また、Kbf,Kbrは、制動力を制動液圧に換算する場合の前輪及び後輪についての換算係数であり、ブレーキ諸元により定まる。この目標制動液圧差ΔPsr,ΔPsrは、目標ヨーモーメントMsの大きさに応じて各車輪に与える制動力の配分を決定する値であり、前後左右輪で制動力差を発生させるための値になる。
そして、この算出した目標制動液圧差ΔPsf,ΔPsrを用いて、最終的な各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl,fr,rl,rr)を算出する。具体的には、逸脱判断フラグFoutがONで、かつ逸脱方向DoutがLEFTの場合、すなわち左側の白線に対して車線逸脱傾向がある場合、下記(10)式により各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl,fr,rl,rr)を算出する。
Psfl=Pmf
Psfr=Pmf+ΔPsf
Psrl=Pmr
Psrr=Pmr+ΔPsr
・・・(10)
また、逸脱判断フラグFoutがONで、かつ逸脱方向DoutがRIGHTの場合、すなわち右側の白線に対して車線逸脱傾向がある場合、下記(11)式により各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl,fr,rl,rr)を算出する。
Psfl=Pmf+ΔPsf
Psfr=Pmf
Psrl=Pmr+ΔPsr
Psrr=Pmr
・・・(11)
この(10)式及び(11)式によれば、車線逸脱回避側の車輪の制動力が大きくなるように、左右輪の制動力差が発生する。
また、ここでは、(10)式及び(11)式が示すように、運転者によるブレーキ操作、すなわち制動液圧Pmf,Pmrを考慮して各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl,fr,rl,rr)を算出している。そして、制駆動力コントロールユニット8は、このようにして算出した各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl,fr,rl,rr)を制動流体圧指令値として、制動流体圧制御部7に出力する。
(動作)
動作は次のようになる。
車両走行中、各種データを読み込むとともに(前記ステップS1)、ヨー角及び車速Vを算出する(前記ステップS2、ステップS3)。続いて、推定横変位(逸脱推定値)Xsを算出して(前記ステップS4)、算出した推定横変位Xsに基づいて車線逸脱傾向の判定(逸脱判断フラグFoutの設定)を行うとともに、その車線逸脱傾向の判定結果(逸脱判断フラグFout)を、運転者の車線変更の意思に基づいて修正する(前記ステップS6)。
一方、基準ヨーモーメントMs0を算出して(前記ステップS5)、算出した基準ヨーモーメントMs0をリミッタ処理することで、目標ヨーモーメントMsを算出する(前記ステップS8)。さらに、ヨーモーメント出力終了タイミングを判定するための出力終了判定用しきい値Xendを算出する(前記ステップS7)。
そして、車線逸脱傾向の判定結果に基づいて、警報出力を行うとともに(前記ステップS10)、目標ヨーモーメントMsに基づく各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl,fr,rl,rr)の算出を行う(前記ステップS12)。ここで、目標制動液圧Psi(i=fl,fr,rl,rr)を前後輪液圧配分比FRratioに基づいて算出しており、前後輪液圧配分比FRratioを、ブレーキ温度と標準温度範囲(下限温度しきい値T、上限温度しきい値T)との比較結果に基づいて設定している(前記ステップS11)。
そして、算出した各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl,fr,rl,rr)を制動流体圧制御部7に出力する(前記ステップS12)。これにより、自車両の車線逸脱傾向に応じて自車両にヨーモーメントが付与される。そして、ヨーモーメント出力終了タイミングになると(|Xfront|≧Xend)、自車両へのヨーモーメントの付与が終了し、車線逸脱防止制御が終了する。
(作用及び効果)
作用及び効果は次のようになる。
前述のように、車線逸脱防止制御として自車両にヨーモーメントを付与する際の前後輪の制動液圧配分を前後輪液圧配分比FRratioで設定するようにしつつ、その前後輪液圧配分比FRratioをブレーキ温度に基づいて設定している。
具体的には、(1)右前輪のブレーキ温度TFR及び右後輪のブレーキ温度TRRのいずれもが下限温度しきい値T以上で、かつ上限温度しきい値T以下の場合(T≦TFR、TRR≦T)、前後輪液圧配分比FRratioを1に設定し(設定を変更せず)、(2)右前輪のブレーキ温度TFR及び右後輪のブレーキ温度TRRのいずれもが下限温度しきい値T未満の場合(TFR、TRR<T)、前後輪のうちでブレーキ装置の熱容量が小さい方の車輪の制動液圧が大きくなるように、前後輪液圧配分比FRratioを設定し、(3)右前輪のブレーキ温度TFR及び右後輪のブレーキ温度TRRのうちのいずれか一方が、上限温度しきい値Tよりも大きく、その他方が上限温度しきい値T以下の場合、ブレーキ温度が上限温度しきい値Tよりも大きい方の車輪の制動液圧が小さくなるように、前後輪液圧配分比FRratioを設定し、(4)右前輪のブレーキ温度TFR及び右後輪のブレーキ温度TRRのいずれもが上限温度しきい値Tよりも大きい場合(TFR、TRR>T)、前後輪のうちでブレーキ装置の熱容量が小さい方の車輪の制動液圧が小さくなるように、前後輪液圧配分比FRratioを設定する。
これにより、特に、(2)右前輪のブレーキ温度TFR及び右後輪のブレーキ温度TRRのいずれもが下限温度しきい値T未満の場合(TFR、TRR<T)、前後輪のうちでブレーキ装置の熱容量が小さい方の車輪の制動液圧が大きくなるように、前後輪液圧配分比FRratioを設定することで、制動液圧が大きくなった分、該車輪のブレーキ温度の温度上昇割合が増加する。これにより、図10(b)に示すように、該車輪のブレーキ温度(TRR)が標準温度範囲(下限温度しきい値T以上)に達すると、図10(a)に示すように、所望(設計上)の制動力を得られ、所望のヨーモーメントが得られるようになる。
そして、前後輪液圧配分比FRratioを変化させるだけで、すなわち前後輪の制動液圧配分を変化させるだけで、所望のヨーモーメントが得られるようになる。
また、前後輪のうちで熱容量が小さい方の車輪の制動液圧を大きくしているから、その該車輪のブレーキ温度の温度上昇割合は、ブレーキ装置の熱容量が大きい方の車輪の制動液圧を大きくした場合の該車輪のブレーキ温度の温度上昇割合よりも大きいから、より早期にブレーキ温度が標準温度範囲(下限温度しきい値T以上)に至るようになる。
また、ブレーキ装置の熱容量の小さい方の車輪のブレーキ温度が低くなるほど、前後輪液圧配分比FRratioを小さくして、該車輪の制動液圧をより大きくしているから、ブレーキ温度が極端に低くなるような場合でも、ブレーキ温度を標準温度範囲(下限温度しきい値T以上)に早期に到達させることができる。
また、(3)右前輪のブレーキ温度TFR及び右後輪のブレーキ温度TRRのうちのいずれか一方が、上限温度しきい値Tよりも大きく、その他方が上限温度しきい値T以下(下限温度しきい値T以下も含む。)の場合、ブレーキ温度が上限温度しきい値Tよりも大きい方の車輪の制動液圧が小さくなるように、前後輪液圧配分比FRratioを設定することで、制動液圧が小さくなった分、該車輪のブレーキ温度が降下するようになる(ブレーキ温度が上昇し難くなる)。ブレーキ温度が低すぎる場合と同様に、ブレーキ温度が高すぎると、所望(設計上)の制動力を(直ぐには)得られない。このようなことから、ブレーキ温度が上限温度しきい値Tよりも大きい方の車輪の制動液圧が小さくなるようにして、該ブレーキ温度を降下させることで(ブレーキ温度を上昇し難くすることで)、該ブレーキ温度を標準温度範囲(上限温度しきい値T以下)にすることができる。
特に、ブレーキ装置の熱容量が小さい方の車輪についてのブレーキ温度が上限温度しきい値Tよりも大きく、他方の車輪についてのブレーキ温度が上限温度しきい値T以下になることを条件に、前後輪のうちでブレーキ装置の熱容量が小さい方の車輪の制動液圧が小さくなるように、前後輪液圧配分比FRratioを設定している。この場合、前後輪のうちでブレーキ装置の熱容量が小さい方の車輪の制動液圧を小さくしているから、該車輪のブレーキ温度の温度降下割合(温度上昇の抑制度合い)が、ブレーキ装置の熱容量が大きい方の車輪の制動液圧を小さくした場合の該車輪のブレーキ温度の温度降下割合(温度上昇の抑制度合い)よりも大きいことで、すなわちブレーキ装置が冷めやすいことで、より早期にブレーキ温度が標準温度範囲(上限温度しきい値T以下)に至るようになる。
また、ブレーキ装置の熱容量の小さい方の車輪のブレーキ温度が高くなるほど、前後輪液圧配分比FRratioを大きくして、該車輪の制動液圧をより小さくしているから、ブレーキ温度が極端に高くなるような場合でも、ブレーキ温度を標準温度範囲(下限温度しきい値T以下)に早期に到達させることができる。
また、(4)右前輪のブレーキ温度TFR及び右後輪のブレーキ温度TRRのいずれもが上限温度しきい値Tよりも大きい場合(TFR、TRR>T)、前後輪のうちでブレーキ装置の熱容量が小さい方の車輪の制動液圧が小さくなるように、前後輪液圧配分比FRratioを設定することで、制動液圧が小さくなった分、該車輪のブレーキ温度の温度降下割合が増加する(温度上昇割合が減少する)。これにより、該車輪のブレーキ温度が標準温度範囲(上限温度しきい値T以下)になると、所望(設計上)の制動力を得られ、所望のヨーモーメントが得られるようになる。
また、前後輪のうちでブレーキ装置の熱容量が小さい方の車輪の制動液圧を小さくしているから、該車輪のブレーキ温度の温度降下割合(温度上昇の抑制度合い)が、ブレーキ装置の熱容量が大きい方の車輪の制動液圧を小さくした場合の該車輪のブレーキ温度の温度降下割合(温度上昇の抑制度合い)よりも大きいことで、より早期にブレーキ温度が標準温度範囲(上限温度しきい値T以下)に至るようになる。
ここで、前後輪液圧配分比FRratio(又は前後輪の制動力配分)と前後輪のブレーキ温度との関係を、例を挙げて以下に説明する。
ここで、前後輪液圧配分比FRratioを0.5とした場合、前記(8)式及び(9)式より、前後輪の制動力の配分は、下記(12)式のような関係になる。
前輪の制動力:後輪の制動力=Kbf/(Kbf+Kbr):Kbr/(Kbf+Kbr) ・・・(12)
ここで、一般の車両を考えると、後輪側のものよりも前輪側の制動力の方が大きいので(Kbf>Kbr)、例えば、制動力配分は、下記(13)式のような関係になる。
前輪の制動力:後輪の制動力=7:3(FRratio=0.7) ・・・(13)
そして、これにあわせて(制動能力にあわせて)、ブレーキ装置の熱容量も変化する。具体的には、前輪のブレーキ装置の熱容量の方がより大きくなる。
ここで、CbfとCbrとの間に下記(14)式のような関係を有する場合を仮定する。
bf:Cbr=2:1 ・・・(14)
このような仮定の下で、前後輪液圧配分比FRratioが0.5、すなわち前後輪で制動液圧が同じ値の場合、前後輪の制動力配分は、前記(13)式のような関係になるから、前輪のブレーキ温度Tと後輪のブレーキ温度Tとの間には下記(15)式のような関係が成り立つ。
∝前輪の制動力・1/Cbf=7・1/2=3.5
∝後輪の制動力・1/Cbr=3・1/1=3
・・・(15)
また、前後輪液圧配分比FRratioを小さくすると、前輪の制動液圧が小さくなるから(後輪の制動液圧が大きくなるから)、前後輪の制動力配分では、前輪の制動力が小さくなる一方で、後輪の制動力が大きくなる。
例えば、前輪の制動液圧:後輪の制動液圧=3:7(FRratio=0.3)とした場合、前後輪の制動力配分は、前輪の制動力:後輪の制動力=5:5(FRratio=0.5)になるから、前輪のブレーキ温度Tと後輪のブレーキ温度Tとは下記(16)式のような関係が成り立つ。
∝前輪の制動力・1/Cbf=5・1/2=2.5
∝後輪の制動力・1/Cbr=5・1/1=5
・・・(16)
また、前後輪液圧配分比FRratioをさらに小さくして、前後輪の制動力配分を、前輪の制動力:後輪の制動力=3:7にすると、前輪のブレーキ温度Tと後輪のブレーキ温度Tとは下記(17)式のような関係が成り立つ。
∝前輪の制動力・1/Cbf=3・1/2=1.5
∝後輪の制動力・1/Cbr=7・1/1=7
・・・(17)
ここで、後輪のブレーキ温度Tについては、前後輪液圧配分比FRratio=1の場合(前記(15)式)と比較すると、2倍以上の温度になっている。
また、前後輪液圧配分比FRratioをさらに小さくして、前後輪の制動力配分を、前輪の制動力:後輪の制動力=0:10(FRratio=0)にすると、前輪のブレーキ温度Tと後輪のブレーキ温度Tとは下記(17)式のような関係が成り立つ。
∝前輪の制動力・1/Cbf=0・1/2=0
∝後輪の制動力・1/Cbr=10・1/1=10
・・・(18)
ここで、後輪のブレーキ温度Tについては、前後輪液圧配分比FRratio=0.5(前輪の制動力:後輪の制動力=1:1)の場合(前記(15)式)と比較すると、3倍以上の温度になっている。
前後輪液圧配分比FRratio(又は前後輪の制動力配分)と前後輪のブレーキ温度との関係は以上のようになっている。
また、以上のように、ブレーキ温度を変化させるために、前後輪液圧配分比FRratioを変化させることで前後輪の制動液圧配分を変化させているが、前後輪液圧配分比FRratioに応じて単に前後輪の制動力配分が変化するだけで、前後の各左右輪で発生する制動力差(総計値)は維持されているから、所望のヨーモーメントを発生させつつも、前述のようにブレーキ温度を早期に標準温度範囲内のものにすることができる。
なお、前記実施形態を次のような構成により実現することもできる。
すなわち、前記第1の実施形態では、ブレーキ温度を温度センサ23FL〜23RRで検出している。これに対して、次のように、制動液圧(目標制動液圧Psi(i=fl,fr,rl,rr))、外気温度(車外の温度)に基づいて、ブレーキ温度を推定することもできる。
ここで、ブレーキ時(制動力発生時)の単位時間当たりの温度上昇量ΔTUpi(i=fl,fr,rl,rr)と、非ブレーキ時(制動力非発生時)の単位時間当たりの温度降下量ΔTDowni(i=fl,fr,rl,rr)とに基づいて、下記(19)式によりブレーキ温度Tbi(i=fl,fr,rl,rr)を推定する。
bi=Tbi+ΔTUpi−ΔTDowni ・・・(19)
この式によれば、ブレーキ時には、現在のブレーキ温度Tbiに温度上昇量ΔTUpiが加算され、非ブレーキ時には、現在のブレーキ温度Tbiから温度降下量ΔTDowniが減算される。
ここで、ブレーキ時の目標制動液圧Psiに基づいて、温度上昇量ΔTUpiを算出する。図11は、目標制動液圧Psiと温度上昇量ΔTUpiとの関係の一例を示す。図11に示すように、目標制動液圧Psiが大きくなると、温度上昇量ΔTUpiも多くなる。このような特性図を参照して、ブレーキ時の目標制動液圧Psiに対応する温度上昇量ΔTUpiを得る。
ここで、温度上昇量ΔTUpiに外気温度TEXを考慮することもできる。例えば、外気温度TEXに基づいて設定されるゲイン(係数)Kを用いて、下記(20)式により最終的に温度上昇量ΔTUpiを算出する。
ΔTUpi=K・ΔTUpi ・・・(20)
図12は、外気温度TEXとゲインKとの関係の一例を示す。図12に示すように、外気温度TEXが低い領域では、該外気温度TEXの増加に対してゲインKが大きく増加し、外気温度TEXが高い領域では、該外気温度TEXの増加に対するゲインKの増加割合は小さくなっている。このような特性図を参照して、外気温度TEXに基づいてゲインKを算出する(補正する)。これにより、外気温度TEXが低い場合、ゲインKが小さくなるから、温度上昇量ΔTUpiも少なくなる。
一方、温度降下量ΔTDowniについては、外気温度TEXに基づいて算出する。図13は、外気温度TEXと温度降下量ΔTDowniとの関係の一例を示す。図13に示すように、外気温度TEXが高くなるほど、温度降下量ΔTDowniが少なくなる。
以上より、(19)式によれば、ブレーキ時の目標制動液圧Psiが大きくなるほど、または非ブレーキ時の外気温度TEXが高くなるほど、ブレーキ温度Tbiが高くなっていると推定でき、ブレーキ時の目標制動液圧Psiが小さくなるほど、または非ブレーキ時の外気温度TEXが低くなるほど、ブレーキ温度Tbiが低くなっていると推定できる。
また、前記第1の実施形態では、前後輪のブレーキ装置のブレーキ温度と標準温度範囲(下限温度しきい値T、上限温度しきい値T)とを比較して、前後輪液圧配分比FRratioを設定している(前記ステップS11の(1)〜(4))。これに対して、前後輪のうち、ブレーキ装置の熱容量が小さい方の車輪のブレーキ温度だけを基準にして、標準温度範囲(下限温度しきい値T、上限温度しきい値T)と比較して、前後輪液圧配分比FRratioを設定することもできる。
すなわち、ブレーキ装置の熱容量が小さい方の車輪(例えば後輪)のブレーキ温度が下限温度しきい値T未満であれば、ブレーキ装置の熱容量が大きい方の車輪(例えば前輪)のブレーキ温度に関係なく、ブレーキ装置の熱容量が小さい方の車輪のブレーキ温度に基づいて、前後輪液圧配分比FRratioを設定する。具体的には、ブレーキ装置の熱容量が小さい方の車輪の制動液圧が大きくなるように、前後輪液圧配分比FRratioを設定する(図8参照)。
また、ブレーキ装置の熱容量が小さい方の車輪(例えば後輪)のブレーキ温度が上限温度しきい値Tよりも大きければ、ブレーキ装置の熱容量が大きい方の車輪(例えば前輪)のブレーキ温度に関係なく、ブレーキ装置の熱容量が小さい方の車輪のブレーキ温度に基づいて、前後輪液圧配分比FRratioを設定する。具体的には、ブレーキ装置の熱容量が小さい方の車輪の制動液圧が小さくなるように、前後輪液圧配分比FRratioを設定する(図9参照)。
また、前記第1の実施形態では、ブレーキ装置を、いわゆるドラムブレーキとして構成している。これに対して、ブレーキ装置をディスクブレーキにより構成することもできる。この場合、ブレーキ温度は、ブレーキパッドやブレーキディスク等の温度になる。
また、前記第1の実施形態では、右前輪のブレーキ温度TFR及び右後輪のブレーキ温度TRRが標準温度範囲内にある場合(前後輪の液圧配分を補正しない場合)、前後輪液圧配分比FRratioを1に設定している。これに対して、右前輪のブレーキ温度TFR及び右後輪のブレーキ温度TRRが標準温度範囲内にある場合(前後輪の液圧配分を補正しない場合)でも、前後輪の何れか一方側に偏った液圧配分にしておくこともできる(前後輪液圧配分比FRratioを1以外にする)。そして、この場合、この液圧配分(前後輪液圧配分比FRratio)を基準にして、前輪のブレーキ温度及び後輪のブレーキ温度のいずれもが下限温度しきい値T未満の場合等の他の条件における前後輪液圧配分比FRratioを設定する。
なお、前記第1の実施形態の説明において、ホイールシリンダ6FL〜6RR、ブレーキシュー24FL〜24RR、ブレーキドラム等によるブレーキ構造(そのうちの特にブレーキシュー24FL〜24RR及びブレーキドラム)は、各車輪に制動力を発生させるブレーキ装置を実現しており、制駆動力コントロールユニット8のステップS7の処理は、走行車線に対する自車両の逸脱傾向を判定する車線逸脱傾向判定手段を実現しており、制駆動力コントロールユニット8のステップS12の処理は、前記車線逸脱傾向判定手段が逸脱傾向にあると判定した場合、前記制動力を前後輪に配分しつつ、左右輪で制動力差を前記ブレーキ装置により発生させて、自車両にヨーモーメントを付与し、走行車線に対して自車両が逸脱するのを防止する車線逸脱防止制御を行う制御手段を実現しており、温度センサ23FL〜23RR及び制駆動力コントロールユニット8のステップS4の処理は、前記ブレーキ装置のブレーキ温度を検出するブレーキ温度検出手段を実現しており、制駆動力コントロールユニット8のステップS11の処理は、前記ブレーキ温度検出手段が検出したブレーキ温度に基づいて、前後輪における前記制動力の配分を補正する制動力配分補正手段を実現している。
また、前記第1の実施形態の説明において、下限温度しきい値Tは第1のしきい値に対応しており、上限温度しきい値Tは第2のしきい値に対応している。
(第2の実施形態)
次に第2の実施形態を説明する。
(構成)
本発明の第2の実施形態は、前記第1の実施形態と同様、本発明に係る車線逸脱防止装置を搭載した車両である。
第2の実施形態では、車両の旋回挙動を考慮して前後輪液圧配分比FRratioを設定する。
図14は、第2の実施形態における、制駆動力コントロールユニット8による前記ステップS11の処理内容を示す。
図14に示すように、処理を開始すると、ステップS21において、車両の旋回方向を検出する。例えば、前記ステップS1で読み込んだ走行車線曲率βに基づいて旋回方向を検出する。
続いてステップS22において、車線逸脱方向を検出する。例えば、前記ステップS7の判定結果である逸脱方向Doutを読み込む。
続いてステップS23において、前記ステップS21で検出した車両の旋回方向と前記ステップS22で検出した車線逸脱方向とが一致する場合、すなわち、車両の旋回方向に車線逸脱傾向がある場合、ステップS24に進み、そうでない場合、該図14に示す処理を終了する。
ステップS24では、前後輪液圧配分比FRratioを設定(補正)する。第2の実施形態でも、前記第1の実施形態と同様に、先ずブレーキ温度と標準温度範囲(下限温度しきい値T、上限温度しきい値T)との比較結果に基づいて前後輪液圧配分比FRratioを設定しており、特に、第2の実施形態では、その設定した前後輪液圧配分比FRratioを、旋回半径に基づいて補正している。具体的には、下記(21)式により前後輪液圧配分比FRratioを算出する(前後輪液圧配分比FRratioは0〜1の範囲)。
FRratio=K・FRratio ・・・(21)
ここで、Kは、補正用ゲイン(係数)であり、前記ステップS21で検出した旋回路の旋回半径に基づいて設定される。
この(21)式により算出(補正)される前後輪液圧配分比FRratio(左辺)については、ブレーキ温度と標準温度範囲(下限温度しきい値T、上限温度しきい値T)との比較結果から、後輪の制動液圧を大きくするために前後輪液圧配分比FRratioを小さい値に設定している場合には、大きくなる方向に補正される。また、ブレーキ温度と標準温度範囲(下限温度しきい値T、上限温度しきい値T)との比較結果から、後輪の制動液圧を小さくするために前後輪液圧配分比FRratioを大きい値に設定している場合には、該前後輪液圧配分比FRratio(左辺)は小さくなる方向に補正される。
すなわち、(21)式を用いることで、ブレーキ温度と標準温度範囲(下限温度しきい値T、上限温度しきい値T)との比較結果に基づいて前後輪液圧配分比FRratioが算出(補正)されるのを抑制している。
よって、補正用ゲインKは、このような処理を実現する値として設定される。すなわち、補正用ゲインKは、ブレーキ温度と標準温度範囲(下限温度しきい値T、上限温度しきい値T)との比較結果に基づいて前後輪液圧配分比FRratioが算出(補正)されるのを抑制する方向に作用する値として設定されており、さらに、旋回半径が小さくなるほど、該抑制度合いが大きくなるように設定されている。
図15は、ブレーキ温度と標準温度範囲(下限温度しきい値T、上限温度しきい値T)とを比較して、後輪の制動液圧を大きくするために前後輪液圧配分比FRratioを小さい値に設定している場合における、旋回半径R(=1/β)と補正用ゲインKとの関係の一例を示す。
図15に示すように、旋回半径Rが小さい領域で補正用ゲインKは大きい値になり(K>1)、旋回半径Rがある値になると、旋回半径Rの増加に対して補正用ゲインKは減少し、その後、旋回半径Rがある値に達すると補正用ゲインKは小さい値で一定値となる((K=1))。このような特性図を参照して、旋回半径Rに基づいて、補正用ゲインKを設定する。
(動作、作用及び効果)
動作、作用及び効果は次のようになる。
動作については、車両の旋回挙動を考慮して前後輪液圧配分比FRratioを設定する以外、前記第1の実施形態と同様な動作になる。
そして、第2の実施形態では、ブレーキ温度と標準温度範囲(下限温度しきい値T、上限温度しきい値T)との比較結果に基づいて前後輪液圧配分比FRratioが算出(補正)されるのを抑制している。そして、旋回半径が小さくなるほど、該抑制度合いを大きくしている。
例えば、図16は、前記図8のように設定された前後輪液圧配分比FRratioを、図15の特性の補正用ゲインKで補正した補正結果を示す。図16に示すように、補正用ゲインKによる補正により、下限温度しきい値T未満のブレーキ温度TRRに対する前後輪液圧配分比FRratioが大きくなる。すなわち、後輪の制動液圧が大きくなるのが抑制される。
このように、第2の実施形態では、ブレーキ温度と標準温度範囲(下限温度しきい値T、上限温度しきい値T)との比較結果に基づいて前後輪液圧配分比FRratioが算出(補正)されるのを抑制している。
ここで、図17に示すように、車両101が旋回走行している場合、車両101には旋回方向とは反対側(旋回外側)に力(例えば遠心力や同図に示すヨーモーメントM)が働いている。よって、旋回方向に車線逸脱傾向があるときでも、旋回走行している車両101には車線内に戻る方向に力が常に働いているから、車線逸脱防止制御として自車両に付与するヨーモーメントを通常の値よりも小さくしても、車両101は車線内に戻るようになる。言い換えれば、旋回方向に車線逸脱傾向がある場合に、車線逸脱防止制御として車両101に通常値のヨーモーメントをそのまま付与すると、自車両挙動が大きく変化するなどして、車線逸脱防止制御が運転者に違和感を与えてしまう場合がある。
このようなことから、旋回方向に車線逸脱傾向がある場合には、図17に示すように、ブレーキ温度を標準温度範囲内にするための前後輪液圧配分比FRratioの補正を抑制して、制動液圧、すなわち制動力を小さくする(現時点の制動力を維持する、又は制動力が大きくならないようにする)ことで、車線逸脱防止制御として車両に付与するヨーモーメントを抑制している。これにより、旋回方向に車線逸脱傾向を示している場合、それに適合させた車線逸脱防止制御を行うことができる。
また、旋回半径が小さくなるほど、旋回走行している車両に働く力(例えば遠心力や同図に示すヨーモーメントM)は大きくなるので、このようなことから、旋回半径が小さくなるほど、ブレーキ温度を標準温度範囲内にするための前後輪液圧配分比FRratioの補正の抑制度合いを大きくすることで、車線逸脱防止制御として自車両に付与するヨーモーメントを旋回半径に適合させることができる。
なお、前記実施形態を次のような構成により実現することもできる。
すなわち、下記(22)式により旋回半径Rを算出することもできる。
R=2・L/δ ・・・(22)
ここで、Lはホイールベースである。
また、下記(23)式により旋回半径Rを算出することもできる。
R=V/φ´ ・・・(23)
なお、前記第2の実施形態の説明において、走行車線曲率βを得る撮像部13及び制駆動力コントロールユニット8のステップS21の処理は、旋回状態を検出する旋回状態検出手段を実現している。
なお、前述の実施形態においては液圧制御による摩擦ブレーキについて述べているが、本発明はこれに限らず、例えばモータ駆動による摩擦ブレーキであっても良い。また、モータの回転抵抗を制動力として用いる回生ブレーキであっても良い。回生ブレーキの場合、界磁コイルの抵抗に温度依存性があるので、温度が変化すると界磁コイルに流れる電流が変化し、結果的に回生制動力が変化する。したがって、摩擦ブレーキと同様の課題が生じる場合がある。
本発明の第1の実施形態の車両を示す概略構成図である。 車両の車線逸脱防止装置のコントロールユニットの処理内容を示すフローチャートである。 車速VとゲインK2との関係を示す特性図である。 推定横変位Xsや逸脱傾向判定用しきい値Xの説明に使用した図である。 自車両位置と逸脱傾向判定用しきい値X及び出力終了判定用しきい値Xendとの関係を示す図である。 基準ヨーモーメントMs0の経時変化を示す特性図である。 リミッタ処理により得た目標ヨーモーメントMsの経時変化を示す特性図である。 ブレーキ温度と前後輪液圧配分比FRratioとの関係を示す特性図である。 ブレーキ温度と前後輪液圧配分比FRratioとの関係を示す他の特性図である。 第1の実施形態における作用及び効果の説明に使用した図である。 目標制動液圧Psiと温度上昇量ΔTUpiとの関係を示す特性図である。 外気温度TEXとゲインKとの関係を示す特性図である。 外気温度TEXと温度降下量ΔTDowniとの関係を示す特性図である。 第2の実施形態におけるコントロールユニットによる前後輪液圧配分比FRratioの設定の処理内容を示すフローチャートである。 旋回半径Rと補正用ゲインKとの関係を示す特性図である。 前記図8のように設定された前後輪液圧配分比FRratioを図15の特性の補正用ゲインKで補正した補正結果を示す特性図である。 第2の実施形態における作用及び効果の説明に使用した図である。
符号の説明
6FL〜6RR ホイールシリンダ、7 制動流体圧制御部、8 制駆動力コントロールユニット、9 エンジン、12 駆動トルクコントロールユニット、13 撮像部、17 マスタシリンダ圧センサ、18 アクセル開度センサ、19 操舵角センサ、22FL〜22RR 車輪速度センサ、23FL〜23RR 温度センサ、24FL〜24RR ブレーキシュー

Claims (7)

  1. 各車輪に制動力を発生させるブレーキ装置と、
    走行車線に対する自車両の逸脱傾向を判定する車線逸脱傾向判定手段と、
    前記車線逸脱傾向判定手段が逸脱傾向にあると判定した場合、前記制動力を前後輪に配分しつつ、左右輪で制動力差を前記ブレーキ装置により発生させて、自車両にヨーモーメントを付与し、走行車線に対して自車両が逸脱するのを防止する車線逸脱防止制御を行う制御手段と、
    前記ブレーキ装置のブレーキ温度を検出するブレーキ温度検出手段と、
    前記ブレーキ温度検出手段が検出したブレーキ温度に基づいて、前後輪における前記制動力の配分を補正する制動力配分補正手段と、
    を備えることを特徴とする車線逸脱防止装置。
  2. 前記制動力配分補正手段は、前記ブレーキ温度が第1のしきい値未満の場合、前輪及び後輪のブレーキ装置のうち、ブレーキ時におけるブレーキ温度の温度上昇度合いが大きい方のブレーキ装置側に制動力配分を大きくする補正をすることを特徴とする請求項1に記載の車線逸脱防止装置。
  3. 前記制動力配分補正手段は、前記ブレーキ温度と前記第1のしきい値との差分が大きくなるほど、前記ブレーキ時におけるブレーキ温度の温度上昇度合いが大きい方のブレーキ装置側への制動力配分を大きくすることを特徴とする請求項2に記載の車線逸脱防止装置。
  4. 前記制動力配分補正手段は、前記ブレーキ温度が第2のしきい値よりも大きい場合、前輪及び後輪のブレーキ装置のうち、ブレーキ時におけるブレーキ温度の温度上昇度合いが小さい方のブレーキ装置側に制動力配分を大きくする補正をすることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の車線逸脱防止装置。
  5. 前記制動力配分補正手段は、前記ブレーキ温度と前記第2のしきい値との差分が大きくなるほど、前記ブレーキ時におけるブレーキ温度の温度上昇度合いが小さい方のブレーキ装置側への制動力配分を大きくすることを特徴とする請求項4に記載の車線逸脱防止装置。
  6. 旋回状態を検出する旋回状態検出手段を備え、前記制動力配分補正手段は、前記車線逸脱傾向がある方向と、前記旋回状態検出手段が検出した自車両の旋回方向とが一致する場合、前記前後輪における制動力配分の補正を抑制することを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の車線逸脱防止装置。
  7. 前記制動力配分補正手段は、前記旋回状態検出手段が検出した旋回半径が大きくなるほど、前記補正の抑制度合いを大きくすることを特徴とする請求項6に記載の車線逸脱防止装置。
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